以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
〔ポリアミド樹脂組成物〕
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、(B)0.01質量部以上5質量部以下の亜硫酸及び/又は亜硫酸誘導体、を含有する。このように、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分とを所望の割合で含有しているため、成形などの溶融加工の際に生じる水分率による分子量変動の幅が低減される。その結果、十分な色調ないし機械特性を確保しつつ、高分子量化することができる。
((A)成分:ポリアミド樹脂)
本実施形態において、「ポリアミド樹脂」とは、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であるポリアミド樹脂を意味する。ポリアミド樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ジアミン及びジカルボン酸の縮合重合で得られるポリアミド樹脂、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド樹脂、アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド樹脂、及びこれらのポリアミド樹脂を構成する2種類以上の単量体の共重合で得られる共重合物が挙げられる。これらのポリアミド樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
以下、ポリアミド樹脂の原料について説明する。
上記ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、芳香族ジアミン等が挙げられる。
上記脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等の炭素数2〜20の直鎖飽和脂肪族ジアミン;例えば、2−メチルペンタメチレンジアミン(2−メチル−1,5−ジアミノペンタンとも記される。)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルオクタメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン等の炭素数3〜20の分岐状飽和脂肪族ジアミン;等が挙げられる。この分岐状飽和脂肪族ジアミンとしては、主鎖から分岐した置換基を持つジアミンが挙げられる。
上記脂環族ジアミン(脂環式ジアミンとも記される。)としては、特に限定されないが、例えば、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロペンタンジアミン等が挙げられる。
上記芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、オルトフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン等が挙げられる。
上記ジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
上記脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルグルタル酸、2,2−ジエチルコハク酸、2,3−ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等の、炭素数3〜20の直鎖又は分岐状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
上記脂環族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸等の脂環族カルボン酸が挙げられる。脂環族カルボン酸の脂環構造の炭素数は、特に限定されないが、得られるポリアミド樹脂の吸水性と結晶化度のバランスの観点から、好ましくは3〜10であり、より好ましくは5〜10である。これらの中でも、機械特性の観点から、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。
上記脂環族ジカルボン酸は、無置換でもよいし、置換基を有していてもよい。置換基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられる。
上記芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、無置換又は置換基で置換された炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜20のアリールアルキル基、クロロ基及びブロモ基等のハロゲン基、炭素数3〜10のアルキルシリル基、スルホン酸基、及びナトリウム塩などのその塩である基などが挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。
上記ジカルボン酸として、本実施形態の目的を損なわない範囲で、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸をさらに含んでもよい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記ラクタムとしては、特に限定されないが、例えば、ブチロラクタム、ピバロラクタム、ε−カプロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、及びラウロラクタム(ドデカノラクタム)等が挙げられる。これらの中でも、靭性の観点から、ε−カプロラクタム、ラウロラクタム等が好ましく、ε−カプロラクタムがより好ましい。
上記アミノカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、上記したラクタムが開環した化合物(ω−アミノカルボン酸、α,ω−アミノカルボン酸等)等が挙げられる。
上記アミノカルボン酸としては、結晶化度を高める観点から、ω位がアミノ基で置換された、炭素数4〜14の直鎖又は分岐状の飽和脂肪族カルボン酸であることが好ましい。具体例としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。アミノカルボン酸としては、パラアミノメチル安息香酸等も挙げられる。これらの中でも、低吸水性の観点から、12−アミノドデカン酸が好ましい。
上記ポリアミド樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド4(ポリα−ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド116(ポリウンデカメチレンアジパミド)、ポリアミドTMHT(トリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド2Me−5T(ポリ2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナメチレンテレフタルアミド)、2Me−8T(ポリ2−メチルオクタメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド6C(ポリヘキサメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミド2Me−5C(ポリ2−メチルペンタメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミド9C(ポリノナメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、2Me−8C(ポリ2−メチルオクタメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミドPACM12(ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド)、ポリアミドジメチルPACM12(ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ポリアミド10T(ポリデカメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド11T(ポリウンデカメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド12T(ポリドデカメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド10C(ポリデカメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミド11C(ポリウンデカメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミド12C(ポリドデカメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)等のポリアミド樹脂が挙げられる。
本実施形態におけるポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド2Me−5T(ポリ2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナメチレンテレフタルアミド)、2Me−8T(ポリ2−メチルオクタメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド6C(ポリヘキサメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミド2Me−5C(ポリ2−メチルペンタメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミド9C(ポリノナメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、2Me−8C(ポリ2−メチルオクタメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、及びポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)を挙げることができる。これらのポリアミド樹脂は、靱性、強度及び成形性の観点から好ましい。同様の観点から、本実施形態における(A)成分は、ポリアミド66を含むことがより好ましい。
なお、ポリアミド樹脂としては、上記したポリアミドを構成する単位を2種以上共重合させて得られる、ポリアミド共重合体であってもよい。
上記ポリアミド共重合体としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミド66/6I、PA66/6T、PA6T/2Me−5T、PA9T/2Me−8T、PA6C/2Me−5C、PA9C/2Me−8C等の共重合体が挙げられる。
これらの中でも、ポリアミド成分として、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド66/6、ポリアミド66/6I、ポリアミド6C/2Me−5C、ポリアミド2Me−5Cが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド66/6、ポリアミド66/6Iがより好ましく、強度・靱性と結晶性のバランスから、ポリアミド66が最も好ましい。
本実施形態において、ポリアミド樹脂のモノマーを重合させる際に、分子量調節のために末端封止剤をさらに添加することができる。この末端封止剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。
上記末端封止剤としては、特に限定されないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸などの酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。これらの中でも、ポリアミド樹脂の熱安定性の観点から、モノカルボン酸及びモノアミンが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば、特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、及びフェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば、特に限定されず、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミ等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環族モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
末端封止剤として使用できる酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水安息香酸、無水酢酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
末端封止剤として使用できるモノイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
末端封止剤として使用できるモノ酸ハロゲン化物としては、特に限定されないが、例えば、安息香酸、ジフェニルメタンカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、ジフェニルスルホキシドカルボン酸、ジフェニルスルフィドカルボン酸、ジフェニルエーテルカルボン酸、ベンゾフェノンカルボン酸、ビフェニルカルボン酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸等のモノカルボン酸等のハロゲン置換モノカルボン酸が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
末端封止剤として使用できるモノエステルとしては、特に限定されないが、例えば、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノモンタネート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールモノベヘネート、ペンタエリスリトールモノモンタネート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ソルビタンモノモンタネート、ソルビタンジモンタネート、ソルビタントリモンタネート、ソルビトールモノパルミテート、ソルビトールモノステアレート、ソルビトールモノベヘネート、ソルビトールトリベヘネート、ソルビトールモノモンタネート、ソルビトールジモンタネート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
末端封止剤として使用できるモノアルコールとしては、特に限定されないが、例えば、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、トリアコンタノール(以上、直鎖状、分岐状)、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、フェノール、クレゾール(o−、m−、p−体)、ビフェノール(o−、m−、p−体)、1−ナフトール、2−ナフトール等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態において、(A)成分の融点は、特に限定されないが、好ましくは200℃以上340℃以下であり、より好ましくは210℃以上335℃以下であり、更に好ましくは240℃以上330℃以下である。ポリアミド樹脂の融点を、上記した下限値以上とすることにより、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性が向上する傾向にある。ポリアミド樹脂の融点を上記した上限値以下とすることにより、ポリアミド樹脂組成物の溶融加工中の熱分解や劣化をより効果的に抑制できる傾向にある。
上記ポリアミド樹脂の融点は、JIS−K7121に準じて測定することができる。測定装置としては、例えば、PERKIN−ELMER社製、Diamond DSC等を用いることができる。
本実施形態において、(A)成分の示差走査熱量測定(DSC)で測定した降温結晶化温度のピーク温度は、特に限定されないが、220℃以上であることが好ましい。ポリアミド樹脂の降温結晶化温度のピーク温度を、220℃以上とすることにより、成形性が一層向上する傾向にある。なお、示差走査熱量測定(DSC)は、JIS−K7121に準じて、昇温速度20℃/分の条件で行うことができる。
本実施形態におけるポリアミド樹脂組成物のギ酸相対粘度(RV)は、60以上400以下である。ポリアミド樹脂組成物のギ酸相対粘度(RV)は、ポリアミド樹脂組成物のギ酸溶液の相対粘度であり、ポリアミド樹脂組成物のギ酸溶液が有する粘度とギ酸自身が有する粘度とを比較した相対粘度ということができる。本明細書では、上記RVをポリアミド樹脂の分子量の指標としており、RVの数値が高いほど高分子量であるものと評価される。RVを測定する際は、ASTM−D789に準拠して実施する。具体的には、90質量%ギ酸(水10質量%)にポリアミド樹脂組成物を8.4質量%になるように溶解させた溶液を用いて、25℃で測定した値をRV値として採用することができる。また、原料としての(A)成分のギ酸相対粘度(RV)については、RV60未満でもRV60以上でも構わない。ポリアミド樹脂組成物の製造方法にて再度記載するが、例えば、(1)RV60以上の(A)成分を原料に(B)成分と押出機にて溶融混練して、RV60以上の目的組成物を得ても構わないし、(2)RV60未満の(A)成分を原料に(B)成分と押出機にて溶融混練と同時に高分子量化して、RV60以上の目的組成物を得ても構わないし、(3)RV60未満の(A)成分を原料に(B)成分と押出機にて溶融混練して、固相重合などの後工程で高分子量化して、RV60以上の目的組成物を得ても構わない。
なお、一般的な射出成形材料のRVは50程度であり、このようなRV60未満に相当する分子量のポリアミド樹脂樹脂組成物については、当該ポリアミド樹脂組成物に含まれる水分により、溶融加工時の分子量(RV)の変動はあまり大きくないといえるが、色調、機械特性が十分でない。すなわち、RV60未満に相当する分子量のポリアミド樹脂組成物は、高分子量化されたポリアミド樹脂組成物に特有の物性(例えば、フィルム製膜性など)を示さない。RVが60以上の高分子量化したポリアミド樹脂組成物では、一般に靱性等の機械特性は高いが、ポリアミド樹脂組成物の水分により、溶融加工時の分子量(RV)の変動がより大きくなる。また、RVが400以下であることにより、製造上の容易性を損ねることなく所望の高分子量を有するポリアミド樹脂組成物を得ることができる。一方で、RV400を超えるものは、分子量が高いため、非常に製造が困難である。上記の観点より、本実施形態におけるポリアミド樹脂組成物のRVは60以上400以下である。より好ましくは65以上350以下であり、さらに好ましくは70以上300以下であり、もっとも好ましくは、80以上250以下である。
本実施形態において、上記RV値に関し、含有水分率を0.03質量%未満のほぼ絶乾状態でのポリアミド樹脂ペレットを成形した乾燥時成形体におけるRV保持率(%)と含有水分率0.1質量%に調湿されたポリアミド樹脂ペレットを成形した調湿時成形体におけるRV保持率(%)との差(水分によるRV保持率差)が小さいほど、ペレットの水分状態に関わらず、水分による成形体分子量の幅が小さく、安定した分子量の成形体が得られる傾向にあるため好ましい。上記の観点から、水分によるRV保持率差は、14未満であることが好ましく、12未満であることがより好ましく、10未満がさらに好ましい。なお、上記の水分率やRV保持率については後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
また、ギ酸に溶解しないポリアミド樹脂については、JIS−K6920、JIS−K6933(ISO307)に準じて硫酸溶液での相対粘度を測定し、それをポリアミド66のギ酸相対粘度及び硫酸相対粘度の関係に基づいて換算し、上記RVを求めることができる。具体的には、上記硫酸相対粘度は、98質量%硫酸を用いて、1質量%の濃度の溶解液((ポリアミド樹脂1g)/(98質量%硫酸100mL)の割合)を作製し、25℃の温度条件下で測定することができる。ポリアミド66のギ酸相対粘度と硫酸相対粘度との相互換算については、例えば、JIS−K6933(ISO307)に記載されている換算表などを適宜用いればよい。
((A)成分の製造方法)
本実施形態における(A)成分の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、以下に記載するように種々の方法を採用できる。
1)ジカルボン酸及びジアミンの水溶液又は水の懸濁液、又はジカルボン酸及びジアミン塩とラクタム及び/又はアミノカルボン酸などの他の成分との混合物(以下、これらを、「その混合物」と略称する場合がある。)の水溶液又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」ともいう。);
2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(「熱溶融重合・固相重合法」);
3)ジカルボン酸及びジアミン又はその混合物の水溶液又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダーなどの押出機で再び溶融して、その重合度を上昇させる方法(「プレポリマー・押出重合法」);
4)ジカルボン酸及びジアミン又はその混合物の水溶液又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにポリアミドの融点以下の温度で固体状態を維持して、その重合度を上昇させる方法(「プレポリマー・固相重合法」);
5)ジカルボン酸及びジアミン又はその混合物を、固体状態を維持したまま重合させる方法(「モノマー・固相重合法」);
6)「ジカルボン酸及びジアミンの塩」又はその混合物を、固体状態を維持したまま重合させる方法(「塩・固相重合法」);
7)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド及びジアミンを用いて重合させる方法(「溶液法」)。
上記ポリアミド樹脂の製造方法において、靱性、フィルム製膜性及び紡糸性の観点から、ポリアミドの重合度を上昇させる工程をさらに含むことが好ましい。ポリアミドの重合度を上昇させる工程としては、特に限定されないが、例えば、押出での高分子量化や固相重合での高分子量化が挙げられる。
上記ポリアミド樹脂の製造方法における重合形態は、特に限定されず、例えば、バッチ式でもよいし、連続式でもよい。重合装置としては、特に限定されず、公知の装置(例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等)を用いることもできる。
((B)成分:(A)成分100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下の亜硫酸及び/又は亜硫酸誘導体)
本実施形態において、「亜硫酸及び/又は亜硫酸誘導体」とは、亜硫酸やその誘導体を示す。亜硫酸とは、H2SO3で表される硫黄のオキソ酸であり、二酸化硫黄の水溶液として存在する。亜硫酸誘導体とは、亜硫酸H2SO3の1つ以上のHが有機置換基(特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ステアリル基、及びオレイル基などの脂肪族基、フェニル基及びビフェニル基などの芳香族基が挙げられる。)によって置換された亜硫酸エステルや、亜硫酸アンモニウム塩や亜硫酸金属塩(金属としては、特に限定されないが、例えば、元素周期律表の1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13族元素及びスズ、鉛などの金属が挙げられる。)を例示することができる。上記亜硫酸及び/又は亜硫酸誘導体は、1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリアミド樹脂の水分による溶融加工時の分子量変動幅をより効果的に抑制する観点から、本実施形態における(B)成分は、亜硫酸金属塩を含むことが好ましい。
上記亜硫酸金属塩としては、特に限定されないが、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸鉄が挙げられる。また、これらの金属塩は、無水物でも水和物でもよい。高分子量化能力の高さや取扱いの容易さの観点から、これらの中で好ましくは亜硫酸ナトリウムや亜硫酸カリウムであり、より好ましくは亜硫酸ナトリウムである。上記亜硫酸ナトリウムについては、無水物(Na2SO3)であっても、水和物(Na2SO3・7H2O)であってもよい。
本実施形態における亜硫酸及び/又は亜硫酸誘導体の含有量としては、(A)成分100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下である。(B)成分が上記の範囲で含有されていることで、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、成形などの溶融加工の際に生じる水分率による分子量変動の幅を低減することができる。その結果、十分な色調ないし機械特性を確保しつつ、高分子量化することができる。なお、上記(B)成分の含有量が0.01質量部未満となる場合、ポリアミド樹脂の水分による溶融加工時の分子量変動幅抑制の効果が著しく低くなる。一方で、上記含有量が5質量部を超える場合、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の調製上、種々の不都合が生ずる。具体的には、添加する際に非常に困難を伴うか、あるいは、溶融加工の際に困難を伴う。好ましくは0.02質量部以上3質量部以下であり、より好ましくは0.03質量部以上1質量部以下であり、よりさらに好ましくは0.05質量部以上0.6質量部以下であり、もっとも好ましくは0.1質量部以上0.3質量部以下である。
(ポリアミド樹脂組成物に含まれうる他の成分)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物においては、必要に応じ、本実施形態の目的を損なわない範囲で、(A)、(B)成分以外の成分を含有することができる。本実施形態のポリアミド樹脂組成物に含まれうる他の成分としては、他のポリマーやポリアミド樹脂に用いられる通常の添加剤、例えば、無機充填材、成形性改良剤、着色剤、難燃剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤等として使用されているものも用いることができる。
上記他のポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリエステル、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリベンズイミダゾール等が挙げられる。
上記無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、ウォラストナイト、タルク、マイカ、カオリン、窒化珪素、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アパタイト、リン酸ナトリウム、蛍石、及び二硫化モリブデン等が挙げられる。これらの中でも、物性、安全性及び経済性の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、タルク、マイカ、カオリン、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、アパタイトが好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
上記成形性改良剤としては、特に限定されないが、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
上記高級脂肪酸としては、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、及びモンタン酸等の炭素数8〜40の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐状の脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、溶融加工時のガス発生抑制や成形加工時の金型へのモールドデポジット抑制の観点からステアリン酸、モンタン酸が好ましい。
上記高級脂肪酸金属塩とは、高級脂肪酸の金属塩である。金属塩の金属元素としては、元素周期律表の第1、第2、第3族元素、亜鉛、及びアルミニウム等が好ましく、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等がより好ましい。高級脂肪酸金属塩としては、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、パルミチン酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、溶融加工時のガス発生抑制や成形加工時の金型へのモールドデポジット抑制の観点から、モンタン酸の金属塩及びステアリン酸の金属塩が好ましい。
上記高級脂肪酸エステルとは、高級脂肪酸とアルコールとのエステル化物である。これらの中でも、溶融加工時のガス発生抑制や成形加工時の金型へのモールドデポジット抑制の観点から、炭素数8〜40の脂肪族カルボン酸と、炭素数8〜40の脂肪族アルコールと、のエステルが好ましい。ここで、高級脂肪酸としては、上述したものを使用できる。脂肪族アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール等が挙げられる。高級脂肪酸エステルの具体例としては、特に限定されないが、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等が挙げられる。
上記高級脂肪酸アミドとは、高級脂肪酸のアミド化合物である。高級脂肪酸アミドとしては、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、N−ステアリルステアリルアミド、N−ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。これらの中でも、溶融加工時のガス発生抑制や成形加工時の金型へのモールドデポジット抑制の観点から、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、N−ステアリルエルカ酸アミドが好ましく、エチレンビスステアリルアミド、N−ステアリルエルカ酸アミドがより好ましい。
これらの高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、及び高級脂肪酸アミドは、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記着色剤としては、特に限定されないが、例えば、ニグロシン等の染料、酸化チタン及びカーボンブラック等の顔料;アルミニウム、着色アルミニウム、ニッケル、スズ、銅、金、銀、白金、酸化鉄、ステンレス、及びチタン等の金属粒子;マイカ製パール顔料、カラーグラファイト、カラーガラス繊維、及びカラーガラスフレーク等のメタリック顔料等が挙げられる。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、難燃剤を含有するものとすることもできる。難燃剤としては、溶融加工時のガス発生抑制や成形加工時の金型へのモールドデポジット抑制の観点から、非ハロゲン系難燃剤、臭素系難燃剤が好ましい。
上記非ハロゲン系難燃剤は、特に限定されないが、例えば、赤リン、リン酸アンモニウム、あるいはポリリン酸アンモニウム等のリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズ、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛等の金属水酸化物あるいは無機金属化合物の水和物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム等のホウ酸化合物等の無機化合物系難燃剤、メラミン、メラム、メレム、メロン(300℃以上でメレム3分子から3分子の脱アンモニアによる生成物)、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、メチルグルタログアナミン、メラミン樹脂等のトリアジン系難燃剤、シリコーン樹脂、シリコーンオイル、シリカ等のシリコーン系難燃剤から選ばれる少なくとも1種の難燃剤である。
上記臭素系難燃剤は、特に限定されないが、例えば、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノール型エポキシ系重合体及び臭素系架橋芳香族重合体からなる化合物類から選ばれる少なくとも1種の難燃剤である。三酸化アンチモンなどの難燃助剤も併用できる。
上記可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素化合物、ポリエチレンワックス、p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等が挙げられる。
上記安定剤としては、熱劣化、熱時の変色防止、耐熱エージング性、耐候性の向上等を目的に、劣化抑制剤を含んでもよい。上記劣化抑制剤としては、特に限定されないが、例えば、酢酸銅やヨウ化銅等の銅化合物やヒンダードフェノール化合物等のフェノール系安定剤;ホスファイト系安定剤:ヒンダードアミン系安定剤;トリアジン系安定剤;イオウ系安定剤等が挙げられる。
上記酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルフェノール、アルキレンビスフェノール、アルキルフェノールチオエーテル等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、サリチル酸エステル、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
上記結晶核剤としては、特に限定されないが、例えば、窒化ホウ素やタルクなどが挙げられる。
(ポリアミド樹脂組成物の製造方法)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を製造する方法としては、(A)成分に(B)成分を添加する方法であれば特に限定されず、例えば、溶融混練にて(A)成分に(B)成分を添加する方法や、ポリアミドモノマー水溶液の段階の(A)成分前駆体に対して(B)成分を加えた状態から重合させる方法が挙げられる。
例えば、溶融混練で製造する場合、ポリアミド樹脂組成物でのギ酸相対粘度(RV)を60以上400以下にするために、次の方法を採用することができる。すなわち、以下に限定されないが、(1)あらかじめ固相重合などにて高分子量化したRV60以上の(A)成分を原料に(B)成分と押出機にて溶融混練して、RV60以上の目的組成物を得る方法;(2)RV60未満(例えば、RV50程度の一般的な分子量)の(A)成分を原料に(B)成分と押出機にて溶融混練と同時に高分子量化して、RV60以上の目的組成物を得る方法;(3)RV60未満(例えば、RV50程度の一般的な分子量)の(A)成分を原料に(B)成分と押出機にて溶融混練して、一旦、RV60未満の組成物を得た後に、固相重合などの後工程で高分子量化して、RV60以上の目的組成物を得る方法などを挙げることができる。
工程数や組成物の色調の観点より、上記(2)RV60未満の(A)成分を原料に(B)成分と押出機にて溶融混練と同時に高分子量化させる方法を採用することが好ましい。この際に原料(A)成分のRVとしては、入手のしやすさ、溶融混練での押出性(混練後のストランドのカットしやすさや押出機モーターへの負荷(トルク)の面で、好ましくはRV10以上60未満である。RV10以上にすることで、押出機の混練後のストランドをより安定してカットしやすくなる傾向にあり、RV60未満にすることで、押出機内の上流側のポリアミドを溶融させるゾーンの負荷を低減できる傾向にあるため、吐出量(生産量)を上げることができる傾向にある。上記同様の観点から、より好ましくは、RV20以上60未満であり、さらに好ましくはRV30以上60未満であり、よりさらに好ましくはRV40以上60未満であり、よりさらに一層好ましくはRV40以上55以下であり、最も好ましくは、RV45以上54以下である。
ポリアミドモノマー水溶液の段階の(A)成分前駆体に対して(B)成分を加えた状態から重合させる方法で製造する場合、(A)成分のギ酸相対粘度(RV)を60以上400以下にするために、重合工程の後期に、減圧処理や工程時間を延長するなど高分子量化させる操作をして重合を完了させてもよいし、RV60未満の低分子量の状態で重合を完了した後、固相重合などで別途高分子量化をさせてもよい。
溶融混練を行う装置としては、公知の装置を用いることができる。例えば、単軸又は二軸押出機、バンバリーミキサー、ミキシングロールなどの溶融混練機などが好ましく用いられる。この中でも脱揮機構(ベント)装置及びサイドフィーダー設備を装備した多軸押出機が好ましく、より好ましくは二軸押出機が用いられる。
中でもRV50程度の一般的な分子量のポリアミド原料を用いて溶融混練の際に高分子量化させる方法においては、(B)成分の高分子量化作用を利用して、高分子量化させることができる。
押出機で溶融混練する工程において、押出での樹脂温度、減圧度、平均滞留時間などの混練条件を適宜設定することでポリアミド樹脂組成物のギ酸相対粘度(RV)を60以上400以下の範囲に調節し、高分子量化できる。
溶融混練時の樹脂温度としては、例えば、融点260℃のポリアミド66の場合は、260℃以上400℃以下とすることが好ましい。260℃以上にすることで、ポリアミドの溶融が十分になり押出機モーターへの負荷を低減できる傾向にある。また、400℃以下にすることでポリアミド自体の分解を抑制できる傾向にある。上記した観点から、より好ましくは、265℃以上380℃以下であり、さらに好ましくは、270℃以上370℃以下であり、よりさらに好ましくは、275℃以上365℃以下であり、もっとも好ましくは280℃以上360℃以下である。他のポリアミドを使用する場合でも、その融点に応じて適宜調整することができる。
上記樹脂温度は、例えば、押出機の吐出口(紡口)に出てきた溶融状態のポリアミド樹脂組成物に熱電対などの温度計を直接接触させて測定することができる。樹脂温度の調整は押出機のシリンダーのヒーター温度による調整や、押出機の回転数、吐出量を変更することによる樹脂の剪断発熱量を適宜調整することで可能である。
上記減圧度とは、大気圧を基準とし、脱揮領域の圧力と大気圧との差を意味する。例えば、減圧度0.02MPaとは、大気圧が0.1013MPaのとき、0.1013−0.02=0.0813MPaの絶対圧を示す。
本実施の形態において、脱揮領域とは、溶融混練装置内で減圧装置に接続されて減圧装置と同程度の減圧度となる領域であり、装置壁、撹拌装置や充満樹脂などにより密閉状態となる領域である。
減圧処理は、ポリアミド高分子量化反応(脱水縮合反応)の際に生成する水をポリアミド系中から効率的に除去する上で好ましい。このようにして水を除去することで、ポリアミドの重合・解重合の平衡反応を一層重合方向へ傾けることができ、(B)成分の高分子量化作用との相乗効果により、高分子量化がさらに一層促進される傾向にある。
溶融混練時の減圧度としては、0.02MPa以上が好ましい。0.02MPa以上にすることで、水の除去速度(除去能力)を高められる傾向にある。そのため、十分な高分子量化を実現できる傾向にある。また、減圧装置(真空ポンプなど)の最大限(減圧度0.1013MPa)まで減圧することができる。長期間安定した減圧度を優先する際には、減圧度0.1MPa以下が好ましい。好ましくは、0.02MPa以上0.1MPa以下であり、さらに好ましくは、0.04MPa以上0.097MPa以下であり、よりさらに好ましくは、0.05MPa以上0.095MPa以下であり、もっとも好ましくは、0.06MPa以上0.093MPa以下である。
上記減圧度は、減圧装置(真空ポンプなど)から押出機の脱揮領域に接続される部位までのどこかに減圧度計(差圧計)や真空計などを取り付けることで測定、管理することができる。
減圧度を測定する際は、例えば減圧装置(真空ポンプなど)から押出機の脱揮領域に接続される部位までのいずれかの位置に弁又は弁付空気吸引ノズルを設置するのが好ましい。この場合、この弁の開閉操作を行うことにより減圧度の調整を行うことができる。
減圧装置(真空ポンプなど)から溶融混練部の間に、ベントガス中のドレンを貯めるドレンポットを設置することができる。ベントポットを設置している場合、空気吸引ノズルをベントポットに取り付けることが好ましい。
溶融混練時の平均滞留時間は、10秒以上120秒以下が好ましい。10秒以上であれば、本実施形態の所望のポリアミド樹脂がより効率的に得られる傾向にある。また、120秒以下にすることで、押出の吐出速度(生産速度)がある程度上がる傾向にある。その結果、生産性も良好になる傾向にある。上記の観点から、より好ましくは20秒以上100秒以下であり、さらに好ましくは25秒以上90秒以下であり、よりさらに好ましくは、30秒以上80秒以下であり、もっとも好ましくは、35秒以上70秒以下である。
平均滞留時間とは、溶融混練装置内での滞留時間が一定の場合はその滞留時間を意味し、滞留時間が不均一な場合は最も短い滞留時間と最も長い滞留時間の平均値を意味する。溶融混練中の着色剤マスターバッチなど本実施形態のポリアミド樹脂とは色の異なる樹脂など、本実施形態のポリアミド樹脂とは区別できる樹脂など(以下、Xと略記する)を溶融混練装置に添加し、Xの排出開始時間と排出終了時間を計測し、排出開始時間と排出終了時間を平均することにより、平均滞留時間を測定することができる。
なお、上記平均滞留時間は、押出機の吐出量(吐出速度)や回転数によって適宜調整できる。
上述した観点から、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、(A)成分と(B)成分とを、樹脂温度260℃以上400℃以下、減圧度0.02MPa以上0.1MPa以下及び平均滞留時間20秒以上100秒以下の条件下で溶融混練する工程を有するものであることが好ましい。このような製造方法とすることで、本実施形態において所望のポリアミド樹脂組成物を効率よく得ることができる傾向にある。なお、上記した製造方法で用いる上記(A)成分のギ酸相対粘度(RV)としては、押出機の混練後のストランドをより安定してカットしやすくし、押出機内の上流側のポリアミドを溶融させるゾーンの負荷を低減する(吐出量(生産量)を上げる)観点から、30以上60未満のものを用いることが好ましい。
本実施形態において、ポリアミド樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分とを、樹脂温度260℃以上400℃以下、減圧度0.02MPa以上0.1MPa以下及び平均滞留時間20秒以上100秒以下の条件下で溶融混練する工程により得られるものであることが好ましい。上記工程で製造される場合、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、成形加工性に優れる傾向にある。そのため、公知の成形方法、例えば、プレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多層成形、発泡成形、溶融紡糸など、一般に知られているプラスチック成形方法を用いて良好に成形加工することができる傾向にある。
[ポリアミド樹脂組成物の成形体]
本実施形態の成形体は、上記実施形態のポリアミド樹脂組成物を含むものである。このような成形体は、従来のポリアミド樹脂から得られる成形体に比べ、色調、表面外観、耐熱変色、耐候性、耐熱エージング性、耐光性、耐薬品性などに優れる。そのため、自動車部品、電子電気部品、工業機械部品、各種ギア、押出用途などの各種部品への応用が期待される。
以下、本実施の形態を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる評価方法は、以下のとおりである。
1.ポリアミド樹脂の特性
(1−1)ギ酸相対粘度(RV)
ギ酸相対粘度(RV)は、重合体をギ酸に加えた溶液の粘度とギ酸自身の粘度とを比較することによって得た。具体的な測定方法については、ASTM−D789に準拠して実施するものとした。より詳細には、90質量%ギ酸(水10質量%)にポリアミドを8.4質量%になるように溶解させた溶液を用いて、25℃で測定したRV値を採用した。
(1−2)色調(b値)
日本電色社製色差計ND−300Aを用いて、各例で得られたペレットのb値を測定した。なお、b値が小さいものほど色調が良好である。
(1−3)水分測定
各例で得られたペレットをISO 15512に準拠した方法でカールフィッシャー水分計(三菱化学アナリテック社製 電量滴定方式微量水分測定装置CA−200型)を用いて水分率(質量%)を測定した。
2.成形体の作製及び特性
(2−1)乾燥と水分調整
後述する各例で得られたペレットを80℃で24時間減圧乾燥し、含有水分率を0.03質量%未満のほぼ絶乾状態とした。このサンプルで乾燥時水分測定、成形を実施し、乾燥時成形体のRVの測定を実施し、引張強度、引張伸度の測定も併せて実施した。一方、調湿サンプルは、上記絶乾状態のペレットを23℃、50RH%の状態の部屋で、厚みが2cmほどとなるように広げて、水分率が0.1質量%になるまで吸湿させた。具体的には、30分、1時間と経時的に水分を測定し、0.1質量%になる時間を予測して、その時間になってからペレットを回収した。このような調湿サンプルの水分を測定すると同時に、アルミ袋に入れ、大気中の水分を吸湿しないようにして保存することとした。
(2−2)成形体(ダンベル)の成形
各例で得られたペレットから、射出成形機を用いて、ISO 3167に準拠し、多目的試験片(4mm厚)を作製した。射出成形装置として日精樹脂工業(株)社製PS40Eを用い、上記試験片2個取りの金型を取り付けた。なお、シリンダー温度は融点+約20℃でPA66では285℃、金型温度80℃に設定した。さらに、射出25秒、冷却15秒、可塑化量90mm(クッション量約10mm)の射出成形条件で、ポリアミド樹脂ペレットからダンベル状の成形体を得た。
(2−3)引張強度(MPa)及び引張伸度(%)
ISO527に準じて、(2−2)で得られた成形体の引張強度及び引張伸度を測定した。ここで、チャック間距離115mm、引張速度50mm/分の条件で、ダンベルの引張強度と引張伸度を測定した。なお、引張伸度については、チャック間の距離に対しての破断時の伸度(変位)の割合で算出することとし、20%を超える場合は「>20」と表記した。
(2−4)成形体RV(ギ酸相対粘度)
上記(2−2)で成形した成形体の一部を切り出し、(1−1)ギ酸相対粘度(RV)同様にギ酸相対粘度を測定した。
(2−5)RV保持率(%)
成形前のペレットのRVに対する各ペレット条件(乾燥時、調湿時)での成形後の成形体でのRVの割合をそれぞれ算出した。すなわち、RV保持率(%)=100×成形後のペレット/成形前のペレットにより算出した。例えば、成形前のペレットのRVが85であり、成形後の成形体のRVが88である場合は、RV保持率(%):100×88/85=104%と算出した。
(2−6)水分でのRV保持率差
乾燥品ペレットを成形した乾燥時成形体でのRV保持率(%)と調湿品ペレットを成形した調湿時成形体でのRV保持率(%)の差を水分でのRV保持率差として表記した。
[ポリアミド樹脂(PA66)の製造]
40Lのオートクレーブ内で、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の当量塩の50質量%水溶液を用いて、公知の方法でポリアミドを溶融重合した。また、溶融ポリアミドをオートクレーブ下部ノズルからストランド状に取り出し、水で冷却固化して、ストランドカッターでペレット化した。このペレットのRVは47であり、水分率は0.08質量%であった。
[実施例1]
ポリアミド66(上記のとおり重合したポリアミド66:25℃のギ酸相対粘度(RV)47、水分率0.08質量%、本実施例中では、「PA66」とも略記する)100質量部に、亜硫酸Na(和光純薬工業(株)社製亜硫酸ナトリウム無水物)0.13質量部を配合した。次いで、二軸押出機(COPERION社製ZSK25)を用いて溶融混練を行った。この際、スクリュー回転数300rpm、シリンダー温度330℃とし、先端ノズル付近の樹脂温度は337℃であった。押出レートは20kg/hrであり、平均滞留時間は45秒であった。以上の条件下、減圧度0.09MPaで押出を行った。先端ノズルからストランド状にポリアミド樹脂を排出し、水冷・カッティングを行って、ペレットを得た。押出時の樹脂温度、乾燥後のペレット水分、乾燥後のペレットを成形した成形体のRV、そのRV保持率、引張強度、引張伸度、調湿後のペレット水分、調湿後のペレットを成形した成形体のRV、そのRV保持率を測定した。これらの評価結果を表1に示す。
[実施例2]
表1に記載の亜硫酸Na量に変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例2のペレットないし成形体を得た。評価結果を表1に示す。
[実施例3]
表1に記載の亜硫酸Na量に変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例3のペレットないし成形体を得た。評価結果を表1に示す。
[参考例4]
表1に記載の亜硫酸Na量に変更し、押出機のシリンダー温度を280℃、減圧度を0.01MPaに変更した以外は、実施例1と同様の方法でペレットを得た。この段階では、RVが低かったため、窒素気流下で、210℃に加熱したタンブラー型固相重合装置で約4時間固相重合して参考例4のペレットないし成形体を得た。評価結果を表1に示す。
[実施例5]
亜硫酸Naの代わりに亜硫酸K(和光純薬工業(株)社製亜硫酸カリウム)を、表1の添加量に変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例5のペレットないし成形体を得た。評価結果を表1に示す。
[比較例1]
亜硫酸Naの代わりに次亜リン酸Na(太平化学産業株式会社製 次亜リン酸ナトリウム)0.13質量部を配合した以外は実施例1と同様の方法で比較例1のペレットないし成形体を得た。評価結果を表1に示す。
[比較例2]
上記で作成したRV47のポリアミド66を、窒素気流下で、210℃に加熱したタンブラー型固相重合装置を用いて約5時間固相重合を行い、比較例2のペレットないし成形体を得た。評価結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例4の調整の途中段階(押出のみで固相重合なし)でのRVが低い比較例3のペレットないし成形体を得た。評価結果を表1に示す。
[比較例4]
亜硫酸Naの代わりにジフェニルスルフィド(和光純薬工業(株)社製 ジフェニルスルフィド、表中では「Ph2S」と表記)0.13質量部を配合した以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。この例では、RVが低かったため、窒素気流下で、210℃に加熱したタンブラー型固相重合装置を用いて約5時間固相重合を行い、比較例4のペレットないし成形体を得た。評価結果を表1に示す。
[比較例5]
表1に記載の亜硫酸Na量に変更した以外は、実施例1と同様に比較例5の樹脂組成物を調製した。なお、本例の樹脂組成物を実施例1と同様の方法で押出に供したところ、紡口でのストランド切れが頻繁に発生し、安定して押出を継続することができなかった。そのため、本例の樹脂組成物について各種の評価を行うことはできなかった。結果を表1に示す。