JP2012056947A - チタン錯体及びそれを含む水系コーティング液 - Google Patents
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Abstract
本発明は、上記の課題を解決する水溶性チタン錯体を含む安定な水系コーティング液に関するものであり、製膜後の高温焼成により、ガラスを含むアモルファス基材にも適用可能な緻密な高活性光触媒膜を提供しようとするものである。
【解決手段】
本発明者らは、ケトン化合物及び有機カルボン酸イオンがチタンイオンに対して結合し、かつチタンイオンに対するケトンのモル比率が1以下である水溶性チタン化合物を含む水系コーティング液が安定に溶解した状態を維持し、さらに製膜後に高温焼成することで、高い光触媒活性を示す緻密な膜となることを見出した。
【選択図】 図1
Description
従って、本発明は、水溶性でかつ水溶液中で安定なチタン錯体の提供をその目的としている。
また、本発明は、水溶性のチタン錯体を含んだ水系コーティング液、特に表面にアルカリイオンを含むアモルファスなガラス基材に対しても緻密な高活性光触媒膜が形成できるチタン錯体を含んだ水系コーティング液の提供をその目的としている。
下記一般式(1)で表され、二座配位子として機能する第1の配位子と、
Z1−CO−CH2−CO−Z2 (1)
(式中、Z1およびZ2は、独立して、アルキル基またはアルコキシ基である。)
カルボキシラートである第2の配位子と、
アルコキシドおよび水酸化物イオンからなる群から、独立してそれぞれ選択される第3の配位子および第4の配位子と、
H2Oである第5の配位子と
がチタンイオンに配位してなることを特徴とするものである。
また、本発明によるチタン錯体を含んでなる水系コーティング液は、上記本発明によるチタン錯体と、主溶媒としての水とを少なくとも含んでなるものである。
さらに、本発明によれば、酸化チタン被膜の製造方法が提供され、その方法は基材上に、上記のチタン錯体を含む水系コーティング液を塗布し、該基材を焼成して被膜を形成させる工程を含んでなる。
本発明の一つの態様によれば、上記の酸化チタン被膜の製造方法において、前記基材が、アモルファスガラス層を少なくともその表面に有し、該アモルファスガラス層にチタン錯体分散液が塗布される。
さらに本発明によれば、ガラス基材上に酸化チタンからなる被膜が直接形成されている部材であって、前記ガラス基材は少なくとも被膜が形成される表面近傍にアルカリイオンを含有してなるものであり、前記酸化チタンからなる被膜は、酸化チタンの一次粒子径が50nm以下であり、かつ、酸化チタンがアナターゼ型の結晶構造を有し、かつ、緻密な被膜であることを特徴とする部材が提供される。
本発明によるチタン錯体は、チタンイオンに対する配位数が6であるチタン錯体であって、5つの配位子がチタンイオンに配位してなることを特徴する。そして、その第1の配位子は、下記一般式(1)で表され、二座配位子として機能するものである。
Z1−CO−CH2−CO−Z2 (1)
(式中、Z1およびZ2は、独立して、アルキル基またはアルコキシ基であり、好ましくはC1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基である。)
従って、本発明に用いられる水溶性チタン錯体を調製する方法としては、チタン前駆体を原料として、逐次的に式(1)で表わされるジケトン化合物及びカルボキシラートをチタンイオンに結合させる方法が好適に用いられる。
上記の様にして得た、本発明によるチタン錯体を含む水溶液は、そのまままたは他の成分を添加して、チタン被膜を製造するための水系コーティング液として用いることができる。本発明による水系コーティング液に含まれるチタン錯体の濃度は、好ましくは0.01M以上10M以下であり、より好ましくは0.1M以上1M以下である。とりわけこの濃度範囲において水系コーティング液は、沈殿の形成がなく、長期間室温で安定であるからである。本発明の水系コーティング剤は、汎用のコーティング方法を用いることで、種々の基材上での薄膜形成が加工であり、さらに膜形成後に焼成することで、高活性な光触媒膜とすることが可能となる。コーティング方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、フローコート法、バーコート法等のコーティング方法を用いることができる。また、基材との濡れ性を向上させるために、界面活性剤を添加することも可能である。さらに、基材としては、400℃以上の焼き付けが可能なものであれば、特に限定されないが、ガラス、石英、セラミックス、タイル、施釉タイル、陶器、磁器等を用いることができる。
実施例1
水溶性チタン錯体を含む水系コーティング液の作製
20mLサンプル瓶に、アセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を約5分かけて約0.2gずつ添加した。添加後、5分間撹拌を行うことで、チタン‐アセチルアセトン錯体を含む黄色溶液を作製した。このチタン‐アセチルアセトン黄色溶液を、0.32mol/Lの酢酸水溶液50mLに、室温で攪拌しながら、約0.2mLずつ、約5分かけて添加した。添加後、室温で約1時間攪拌を行い、更に60℃で約1時間撹拌を行うことで、水溶性チタン錯体を含む黄色透明な水系コーティング液を作製した。この水系コーティング液は、室温で1年間静置した後も、凝集することなく安定な性状を維持していた。
前記のように作製した水溶性チタン錯体を含む水系コーティング液を用いて、施釉タイル(6cm×4cm×1cm厚)を基板として、スピンコート法による製膜を行った。作製条件としては、水系コーティング液を約1mL分取して、基板に展開し、5000rpmで10秒間スピンすることで水溶性チタン錯体の製膜を行った。室温で約1時間、更に60℃で1時間乾燥した後、800℃で1時間焼成することで、酸化チタン膜を作製した。こうして得られた酸化チタン膜をサンプルNo.1とした。
実施例1で作成したコーティング液から得られる酸化チタンの構造特定を以下の通り行った。すなわち、実施例1で作成したコーティング液10gを室温で15時間乾燥させ、60度で1時間さらに乾燥させた。その後乳鉢で粉砕してチタン錯体を粉末として回収した。この粉末のFT−IRスペクトル(Varian製、“660/610−IR”)を測定した。その結果は、図6に示される通りであった。1022及び1290cm−1に、=C−O(C−O−C伸縮振動)に帰属されるピークが観測され、1533cm−1に、C=O(C−O伸縮振動)に帰属されるピークが観測された。これは、チタンに錯化したアセチルアセトンのケト‐エノール構造にそれぞれ対応すると考えられる。さらに、1384cm−1にはC−H伸縮振動に帰属されるピークが強く観測されている。アセチルアセトンのみのスペクトルでは、このピークは前述の2つのピークに比べて、同等の強度で観測されることが分かっており、他のC−Hを持つ分子がチタン錯体に含まれることが推測され、イソプロポキシ基あるいは酢酸に含まれるメチル基が結合していることが考えられた。さらに、1630と3292cm−1に、OH基に由来するピークが観測されていることから、錯体分子内の一部がOHで置換されていることも示唆された。
実施例1と同様の水系コーティング液を用い、基板をホウケイ酸ガラスであるパイレックス(登録商標)基板(5cm×5cm×1mm厚)または石英基板(5cm×5cm×1mm厚)に変え、さらに焼成条件を下記の表1に記載の通りに変えた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン膜を得た。こうして得られた酸化チタン膜をサンプルNo.2および3とした。
実施例1と同様の水系コーティング液10gに、1wt%PVA水溶液を1g添加して、水系コーティング液を得た。得られた水系コーティング液は均一で安定していた。この水系コーティング液を用いて、基板を実施例3と同様の石英基板に、焼成条件を下記の表1に記載の通りに変えた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン膜を得た。こうして得られた酸化チタン膜をサンプルNo.4〜6とした。
実施例1の水系コーティング液において、酸(酢酸)または錯化剤(アセチルアセトンを、プロピオン酸(和光純薬製)またはアセト酢酸エチル(和光純薬製)に変えた以外は実施例1と同様にして、水系コーティング液を得た。得られた水系コーティング液は均一で安定していた。この水系コーティング液を用いて、基板を実施例3と同様の石英基板に、焼成条件を下記の表1に記載の通りに変えた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン膜を得た。こうして得られた酸化チタン膜をサンプルNo.7および8とした。
走査型電子顕微鏡(日立製作所製、“S−800”)により、サンプルNo.1の酸化チタン膜表面の構造観察を行った。低倍率での電子顕微鏡写真を図1に示す。この膜表面には、目立ったクラックがなく、非常に平滑な表面を有することが分かる。また高倍率での観察写真を図2に示すが、30nm程度の一次粒子が非常に緻密にパッキングされていることが分かる。また、図3はサンプルNo.3の膜の電子顕微鏡写真であり、この写真から、900℃で5時間焼成した膜は約30nmの微粒子からなる緻密膜であることが分かった。また、X線回折測定(XRD:パナリティカル製、“X−pert Pro”)により、膜の結晶構造を調べた。その結果は図4に示されるとおりであり、図4に示す結果から、サンプルNo.1の酸化チタン膜は、アナターゼの単相膜からなることが明らかとなった。また、図5はサンプルNo.3〜6のXRD結果を示し、この結果からこれらサンプルもすべてアナターゼの単相膜からなることが明らかとなった。XRDの結果として、サンプルNo.1〜6はすべてアナターゼの単相膜であった。
サンプルNo.1の酸化チタン膜表面に紫外線を照射することで、水接触角が低下する光誘起親水性の評価を行った。光源としては、ブラックライト(東芝ライテック製)を用い、紫外線照度を1mW/cm2とした。初期の水接触角は、35.3°であったが、紫外線照射8時間後には、13.3°まで低下し、親水化反応が起こることを確認した。
20mLサンプル瓶に、アセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を約5分かけて約0.2gずつ添加した。添加後、5分間撹拌を行うことで、チタン‐アセチルアセトン錯体を含む黄色溶液を作製した。このチタン‐アセチルアセトン黄色溶液を、蒸留水50mLに、室温で攪拌しながら、約0.2mLずつ、約5分かけて添加した。添加後、室温で約1時間攪拌を行ったが、加水分解反応が進行したため、黄白色の沈殿がすぐに生成し、コーティング液としては不適な性状となった。このコーティング液を用いて、基板を実施例3と同様の石英基板に、焼成条件を下記の表1に記載の通りに変えた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン膜の調製を試みたが、製膜は出来なかった。
Claims (14)
- チタンイオンに対する配位数が6であるチタン錯体であって、
下記一般式(1)で表され、二座配位子として機能する第1の配位子と、
Z1−CO−CH2−CO−Z2 (1)
(式中、Z1およびZ2は、独立して、アルキル基またはアルコキシ基である。)
カルボキシラートである第2の配位子と、
アルコキシドおよび水酸化物イオンからなる群から、独立してそれぞれ選択される第3の配位子および第4の配位子と、
H2Oである第5の配位子と
がチタンイオンに配位してなることを特徴とする、チタン錯体。 - 前記Z1およびZ2が、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基である、請求項1に記載のチタン錯体。
- 前記第2の配位子であるカルボキシラートが、式R1−COO−(式中、R1はC1−4アルキル基である)で表わされる基であるか、または炭素数1〜6のヒドロキシ酸またはジカルボン酸の共役塩基である、請求項1または2に記載のチタン錯体。
- 前記第3または第4の配位子であるアルコキシドが、式R2−O−(式中、R2はC1−6アルキル基である)で表わされる基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のチタン錯体。
- 前記第1の配位子が、アセチルアセトナトまたはアセト酢酸エチルである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のチタン錯体。
- 前記第2の配位子が、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、およびクエン酸から選ばれるカルボン酸の共役塩基である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のチタン錯体。
- 前記第2の配位子が、酢酸の共役塩基である酢酸イオンである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のチタン錯体。
- 前記第3の配位子および第4の配位子が、イソプロポキシ基である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のチタン錯体。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載のチタン錯体と、主溶媒としての水とを少なくとも含んでなる、チタン錯体水溶液。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載のチタン錯体の製造方法であって、
チタン前駆体と、一般式(1)で表される化合物とを混合し、チタン‐アセチルアセトン錯体を得て、この溶液とカルボン酸イオンを含む水溶液とを混合することを少なくとも含んでなる、製造方法。 - 前記チタン前駆体が、チタンアルコキシドまたは四塩化チタンである、請求項10に記載の製造方法。
- 酸化チタン被膜の製造方法であって、
基材上に、請求項9に記載のチタン錯体分散液を塗布し、
該基材を焼成して被膜を形成させる工程を含んでなる、製造方法。 - 前記基材が、アモルファスガラス層を少なくともその表面に有し、該アモルファスガラス層にチタン錯体分散液が塗布される、請求項12に記載の製造方法。
- ガラス基材上に酸化チタンからなる被膜が直接形成されている部材であって、
前記ガラス基材は少なくとも被膜が形成される表面近傍にアルカリイオンを含有してなるものであり、
前記酸化チタンからなる被膜は、酸化チタンの一次粒子径が50nm以下であり、かつ、酸化チタンがアナターゼ型の結晶構造を有し、かつ、緻密な被膜であることを特徴とする、部材。
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