JP5741303B2 - ペロブスカイト型酸化物膜形成用水溶液 - Google Patents

ペロブスカイト型酸化物膜形成用水溶液 Download PDF

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Description

本発明は、ペロブスカイト型チタン酸化物の膜形成が可能なチタン錯体を含む水溶液に関する。
一般式ABOで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する複合酸化物の中でも、Aサイトにカルシウム、ストロンチウム、バリウム、および鉛から選ばれる一種を含み、さらにBサイトにチタンを含むペロブスカイト型の結晶構造を有する複合酸化物は、半導体性、誘電性、圧電性や焦電性などの電気特性に優れており、様々な電子部品に応用されている。
例えば、高誘電率材料であるチタン酸バリウム(BaTiO)は、セラミックコンデンサとして実用化されており、Ca、Sr、Ba、Pbなどのシフターと呼ばれる金属元素でAサイトを一部置換することで温度依存性を制御可能であることが知られている。
チタン酸ストロンチウム(SrTiO)も、高誘電率材料として知られており、キュリー点を持たないために誘電率の温度変化が小さいことからセラミックコンデンサの材料に用いられる。ニオブなどをドーピングすることで容易に電子伝導率を制御可能であるため、バリスタや熱電変換素子などへの応用も期待されている。
また、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)は紫外線を吸収可能なn型半導体として機能することも知られており、高活性な光触媒材料として注目されている。光触媒材料とは、バンド間遷移によって発生する電子及び正孔によって酸化分解現象や親水化現象を生じる材料であり、セルフクリーニング膜としての低環境負荷な美観維持や、太陽光による水の完全分解反応に基づく水素エネルギー生産が期待されている。
しかしながら、SrTiOを光触媒材料として使用するには、以下のような課題があった。
通常、最も簡便にSrTiO膜を製膜する手段としては、固相反応法により作成したSrTiO粒子を溶媒に分散させて、基材にコーティングするコロイド塗布法がある。しかしながら、固相反応法で作成されたSrTiOは一次粒子径で数百nmという粗大な粒子形状であることから、製膜後の膜は不透明で多孔質なものとなってしまう。
また、チタン及びストロンチウムのアルコキシドや塩化物からなるモノマーを溶解した有機溶剤を基材に塗布した後に加熱して結晶化するゾル−ゲル法もSrTiO膜を製膜する手段として用いられている。しかしながら、有機溶剤を用いるために環境負荷が大きく、また水分の侵入による前駆体の加水分解反応により、溶液の経時劣化が起こり、性能のバラツキが大きくなることがある。
この加水分解による加水分解反応を抑制する目的で、アルコキシ基が2つ結合し、更にβ−ジケトンが2つ配位したビスアセチルアセトナトチタン錯体と、Aサイトの金属元素を含む化合物とを含む溶液を用いて、基材にコーティングした後、焼き付けて結晶化させるゾル-ゲル法がある。この方法で作成されるSrTiO3膜は、緻密で透明〜半透明なものとなることが開示されている(特開2008−143760(特許文献1))。しかしながら、ここで用いられるビスアセチルアセトナトチタン錯体は、水溶性が極めて低く、長期保管による水の侵入により、溶解度が低下する恐れがある。
更に、光触媒膜が抱える別の課題として、アモルファスガラス層が表面に含まれる基材(例えば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、釉薬処理した陶器等のセラミックス基材)に対して、酸化チタンやチタン酸ストロンチウムを含む膜を焼き付ける際に、400℃以上の温度で焼成した場合、基材のガラス層中の無機イオン成分(Na、K、Si4+等)が膜中に拡散してしまい、不純物相の生成や結晶成長の促進により、光触媒活性が顕著に低下することが知られている(「The Journal of Physical Chemistry」、2004年、108巻、8254〜8259ページ(非特許文献1))。
そのため、アモルファスガラス層が表面に含まれる基材への膜の焼き付けには、膜中への無機イオン成分の拡散を抑制するため、シリカ等の酸化物層からなるバリア層を基材と光触媒膜に挿入する等の方法が用いられる(特許2756474号(特許文献2))。
特開2008−143760号公報 特許2756474号
「The Journal of Physical Chemistry」、2004年、108巻、8254〜8259ページ
本発明者らは、今般、アセチルアセトンのようはジケトン構造を有する配位子がチタンイオンに対して1個配位したチタン錯体と、ペロブスカイト型チタン酸化物のAサイトを占めうる金属化合物を含む水溶液が、長期に安定して存在し得るとの知見を得た。さらに、このような含水系組成物によれば、表面にアルカリイオンを含むアモルファスなガラス基材に対しても緻密な高活性光触媒膜が形成できるとの知見を得た。本発明はこれら知見に基づくものである。
従って、本発明は、安定なチタン錯体と金属元素を含む水溶液の提供をその目的としている。
また、本発明は、特に表面にアルカリイオンを含むアモルファスなガラス基材に対しても、緻密で高い光触媒活性を示すペロブスカイトチタン酸化物膜が形成できるチタン水溶液の提供をその目的としている。
そして、本発明によるチタン水溶液は、 チタンイオンに対する配位数が6であり、下記一般式(1)で表され、二座配位子として機能する第1の配位子と、
−CO−CH−CO−Z (1)
(式中、ZおよびZは、独立して、アルキル基またはアルコキシ基である。)
カルボキシラートである第2の配位子と、アルコキシドおよび水酸化物イオンからなる群から、独立してそれぞれ選択される第3の配位子および第4の配位子と、HOである第5の配位子と、がチタンイオンに配位してなるチタン錯体と、
ペロブスカイト型チタン酸化物におけるAサイトを占め得る金属のイオンと、
溶媒としての水と、
を少なくとも含んでなることを特徴とするものである。
また、上記本発明によるチタン水溶液は、ペロブスカイト型チタン酸化物被膜を製造するため用いることができる。
さらに、本発明によれば、ペロブスカイト型チタン酸化物被膜の製造方法が提供され、その方法は基材上に、上記のチタン水溶液を塗布し、該基材を焼成して被膜を形成させる工程を含んでなる。
本発明の一つの態様によれば、上記のペロブスカイト型チタン酸化物被膜の製造方法において、前記基材が、アモルファスガラス層を少なくともその表面に有し、該アモルファスガラス層にチタン錯体及び二価のアルカリ土類金属化合物を含む溶液が塗布される。
さらに本発明によれば、ガラス基材上にペロブスカイト型チタン酸化物なる被膜が直接形成されている部材であって、前記ガラス基材は少なくとも被膜が形成される表面近傍にアルカリイオンを含有してなるものであり、前記ペロブスカイト型チタン酸化物からなる被膜は、一次粒子径が50nm以下であり、かつ、緻密な被膜であることを特徴とする部材が提供される。
本発明によるチタン錯体を含むペロブスカイト型酸化物の膜形成用チタン水溶液は、長期保存下でも安定である。また、本発明によるチタン水溶液によれば、ガラスを含むアモルファス基材にも適用可能な緻密な高活性光触媒膜を実現できる。さらに、本発明によるチタン錯体を含むペロブスカイト型酸化物の膜形成用チタン水溶液にあっては、異種元素のドーピングも可能なことから、高活性な可視光応答性光触媒膜も作製可能であり、その結果、有機物および水を分解可能な膜を形成できる。
本発明による含水系コーティング液によって得られた実施例1のSrTiO膜表面の電子顕微鏡写真(倍率 30,000倍)である。この写真より、膜表面には、目立ったクラックがなく、非常に平滑な表面を有することが分かる。 本発明による含水系コーティング液によって得られた実施例1のSrTiO膜表面の電子顕微鏡写真(倍率 100,000倍)である。この写真より、30nm程度の一次粒子が非常に緻密にパッキングされていることが分かる。 本発明による含水系コーティング液によって得られた実施例2のSrTiO膜表面の電子顕微鏡写真(倍率 100,000倍)である。 本発明による含水系コーティング液によって得られた実施例4のSrTiO膜表面の電子顕微鏡写真(倍率 100,000倍)である。 本発明による含水系コーティング液によって得られた実施例2のSrTiO膜表面のX線回折パターンである。 本発明による含水系コーティング液によって得られた実施例4のSrTiO膜表面のX線回折パターンである。
チタン錯体
本発明に用いられるチタン錯体は、チタンイオンに対する配位数が6であるチタン錯体であって、5つの配位子がチタンイオンに配位してなることを特徴する。そして、その第1の配位子は、下記一般式(1)で表され、二座配位子として機能するものである。
−CO−CH−CO−Z (1)
(式中、ZおよびZは、独立して、アルキル基またはアルコキシ基であり、好ましくはC1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基である。)
本発明の好ましい態様によれば、この第1の配位子はより好ましくはアセチルアセトナトまたはアセト酢酸エチルである。
本発明によるチタン錯体の第2の配位子はカルボキシラートであり、好ましくは式R−COO(式中、RはC1−4アルキル基である)で表わされる基であるか、または炭素数1〜6のヒドロキシ酸またはジカルボン酸の共役塩基である。第2の配位子の好ましい具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、およびクエン酸から選ばれるカルボン酸の共役塩基であり、焼成後の膜中に残さが少ないことから最も好ましいのは酢酸の共役塩基である酢酸イオンである。
本発明に用いるチタン錯体の第3の配位子および第4の配位子は、アルコキシドおよび水酸化物イオンからなる群から、独立してそれぞれ選択されるものであり、好ましくは式R−O(式中、RはC1−6アルキル基である)で表わされるアルコキシドであり、最も好ましくはイソプロポキシ基である。
本発明に用いるチタン錯体は水溶性であり、かつ水中で安定して存在する。以下の理論に拘束されることを意図するものではないが、その理由は、以下のように考えられる。通常6配位構造が安定なチタンイオンでは、2つの空の軌道に配位した水分子が、チタンイオンに求核攻撃することで加水分解反応が進み、やがて不溶性のアモルファス凝集体を形成して沈殿するに至る。しかし、本発明によるチタン錯体では、式(1)で表わされるジケトン化合物及び有機カルボン酸イオン(カルボキシラート)がチタンイオンに結合することで配位数が増加し、水の求核攻撃に対して安定性が高くなることで、安定に水溶液で存在可能となると考えられる。
ペロブスカイト型チタン酸化物におけるAサイトを占め得る金属のイオン
本発明によるチタン水溶液は、ペロブスカイト型チタン酸化物におけるAサイトをしめ得る金属イオンを含む。この金属イオンは、好ましくはCa、Sr、BaおよびPbからなる群から選択される金属元素のイオンである。
溶媒
本発明によるチタン水溶液は、溶媒として水を含んでなる。さらに本発明の好ましい態様によれば、溶媒として、水よりも比誘電率が低く、水と相溶性があり、かつ非アルカリ性の第二溶媒を含んでなることが、上記チタン錯体の溶解度を高めることができることから好ましい。第二溶媒の好ましい具体例としては、一価アルコール、ジオールグリコール系溶媒、エチレングリコール系溶媒、グリセリン系溶媒、セロソルブ系溶媒、およびカルビトール系溶媒が挙げられる。
第二溶媒の具体例としては、一価アルコール、好ましくは低級一価アルコールとして、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール(n−ブタノール)、2−ブタノール(sec−ブタノール)、2−メチル−1−プロパノール(イソブタノール)、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブタノール)などが挙げられる。
また、グリコール系溶媒としては、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールなどが挙げられ、またエチレングリコール系溶剤としては、2,2‘−オキシジエタノール(ジエチレングリコール)、トリエチレングリコールなどが挙げられる。
また、グリセリン系溶剤としては、1,2,3−プロパントリオールなどが、セロソルブ系溶剤としては、エチレングリコールのモノエステルが、より具体的にはエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ・セロソルブ)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(プロピルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)などが挙げられる。
また、カルビトール系溶媒としては、ジエチレングリコールのモノエステルが、より具体的にはジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール・カルビトール)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル(プロピルカルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)などが挙げられる。
チタン錯体の調製
本発明に用いられる水溶性チタン錯体は、チタン前駆体を原料として、逐次的に式(1)で表わされるジケトン化合物及びカルボキシラートをチタンイオンに結合させることにより得ることが出来る。
具体的には、チタンアルコキシドまたは四塩化チタン等の前駆体化合物と、式(1)で表わされるジケトン化合物を混合し撹拌することで、チタン‐アセチルアセトン錯体を得て、このチタン‐アセチルアセトン錯体を、有機カルボン酸を含む水溶液に徐々に撹拌しながら添加することで、本発明によるチタン錯体を含む、安定な水溶液を得ることができる。反応は、0℃以上の温度、好ましくは室温付近の温度(約20℃)で行うことができるが、より好ましくは、ケトン化合物及び酢酸とチタンイオンとの結合形成を促進するために、40〜90℃の温度で加熱しながら撹拌することで、より安定なチタン錯体を含む水溶液を調製可能となる。このような方法で得られたチタン錯体の含む水溶液は、1年以上の室温での保管後も沈殿物の形成がなく、優れた安定性を有する。
チタン水溶液の製造およびペロブスカイト型チタン酸化物被膜の製造
上記の様にして得た、本発明によるチタン錯体を含む含水溶液に対して、二価の金属イオン化合物を添加して、本発明によるチタン水溶液を得る。この水溶液は、ペロブスカイト型チタン酸化物被膜を製造するために用いることができる。
本発明による水溶液に添加されるペロブスカイト型チタン酸化物におけるAサイトを占めうる金属イオンは、この金属イオンをカチオンとして含む水溶性化合物として添加されればよく、そのアニオン成分としては、硝酸、塩化物、臭化物、酢酸、硫酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、アセチルアセトンから選ばれる少なくとも一種を含むものが好適に用いられる。
本発明によるチタン水溶液を、ペロブスカイト型チタン酸化物被膜を製造するためのコーティング液として提供する場合、その水と上述の第二溶媒とを組み合わせて溶媒とすることが好ましく、この態様においてコーティング液に含まれる水の含有濃度としては1〜50wt%が好ましい。この範囲内で水を含有することにより、加水分解反応に対して安定で、しかも良好な製膜が可能となる。
本発明によるチタン水溶液を、ペロブスカイト型チタン酸化物被膜を製造するためのコーティング液として提供する場合、チタン錯体及びペロブスカイト型チタン酸化物におけるAサイトを占めうる金属の濃度は、好ましくは0.01M以上10M以下であり、より好ましくは0.1M以上1M以下である。とりわけこの濃度範囲においてコーティング液は、沈殿の形成がなく、長期間室温で安定である。
本発明によるコーティング液は、汎用のコーティング方法を用いることで、種々の基材上での薄膜形成が可能であり、さらに膜形成後に焼成することで、ペロブスカイト型チタン酸化物被膜を製造することができる。すなわち、一般式ABOで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する複合酸化物であって、Aサイトにカルシウム、ストロンチウム、バリウム、および鉛から選ばれる一種を含み、さらにBサイトにチタンを含むペロブスカイト型の結晶構造を有する複合酸化物は、半導体性、誘電性、圧電性や焦電性などの電気特性に優れており、様々な電子部品に応用される。本発明によれば、高活性な誘電体あるいは光触媒膜とすることができる。
コーティング方法は特に限定されないが、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、フローコート法、バーコート法等のコーティング方法を用いることができる。また、基材との濡れ性を向上させるために、コーティング液に界面活性剤を添加することも可能である。さらに、基材としては、400℃以上の焼き付けが可能なものであれば、特に限定されないが、ガラス、石英、セラミックス、タイル、施釉タイル、陶器、磁器等を用いることができる。
本発明によるコーティング液によるペロブスカイト型チタン酸化物被膜を生成するための焼成は、400℃以上900℃以下の広い温度域で行うことが可能であり、焼成により、強固な密着性による高い耐摺動性と、優れた誘電特性あるいは光触媒活性を両立可能となる。また本発明によるコーティング液によれば、ソーダライムガラスや施釉タイル等のアモルファスな表面構造をもった基材においても、800℃までの焼成温度において、ペロブスカイト型酸化物の結晶化が可能であり、得られた膜は優れた誘電特性あるいは光触媒活性を発揮する。アモルファスガラス層が表面に含まれる基材(例えば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、釉薬処理した陶器等のセラミックス基材)に対して、ペロブスカイト型酸化物として膜を焼き付ける際、400℃以上の温度で焼成した場合、基材のガラス層中の無機イオン成分(Na+、K+、Si4+等)が膜中に拡散してしまうおそれがある。しかしながら、本発明にあっては、コーティング後の膜が、基板上で乾燥する段階でチタン錯体と金属が一部架橋した緻密な組織構造を形成可能であることから、焼成時に膜内部へ無機イオン成分が拡散するための主な経路である空孔や粒界がごく少ない。よって、無機イオン成分の膜内部への拡散が抑えられることにより、例えば400℃という比較的低温領域でも結晶化が起こり、不純物も少ないことから、高い光触媒活性を発揮することができる。
本発明によるコーティング液により得られた膜は、微粒子構造でかつ緻密であり、好ましくは50nm以下の一次粒子径の微粒子からなる。例えば、800℃・1時間で、施釉タイル上に焼き付けた場合でも、50nm以下の非常に小さい一次粒子径の微粒子からなる緻密な膜を得ることができる。一次粒子径が小さく、かつ緻密であることで、高い耐摺動性と優れた光触媒活性を両立可能であると考えられる。
また本発明の水系コーティング剤による製膜と焼成を行った膜の膜厚は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の高分子バインダーを添加することで、クラックの発生なしに増加させることが可能である。よって、膜厚は特に限定されないが、好ましくは、5nm以上10μm以下である。
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
チタン錯体及びストロンチウムを含む含水溶液の作製
20mLサンプル瓶に、アセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を約5分かけて約0.2gずつ添加した。添加後、5分間撹拌を行うことで、チタン‐アセチルアセトン錯体を含む黄色溶液を作製した。このチタン‐アセチルアセトン黄色溶液を、0.32mol/Lの酢酸水溶液50mLに、室温で攪拌しながら、約0.2mLずつ、約5分かけて添加した。添加後、室温で約1時間攪拌を行い、更に60℃で約1時間撹拌を行うことで、水溶性チタン錯体を含む黄色透明な水溶液を作製した。次いで、硝酸ストロンチウム(和光純薬製)0.02mol(4.236g)を蒸留水に50mLに溶解したものを、チタン錯体を含む水溶液に添加し、室温で1時間、50℃で3時間撹拌を行い、黄色懸濁液を作製した。この懸濁液を遠心分離機にて4000rpmで5分処理することで、黄白色ゲルを沈殿として回収した(含水量:5.0g)。この黄白色ゲルにエタノール45mLを添加して、30分撹拌することで、黄色透明な水溶液を得た。このコーティング液は、室温で半年間静置した後も、凝集することなく安定な性状を維持していた。
含水系コーティング液によるペロブスカイト型SrTiO 膜の作製
前記のように作製した含水系コーティング液を用いて、施釉タイル(6cm×4cm×1cm厚)を基板として、スピンコート法による製膜を行った。作製条件としては、含水系コーティング液を約1mL分取して、基板に展開し、5000rpmで10秒間スピンすることで製膜を行った。室温で約1時間、更に60℃で1時間乾燥した後、800℃で1時間焼成することで、SrTiO膜を作製した。
実施例2
チタン錯体及びストロンチウムを含む含水溶液の作製
20mLサンプル瓶に、アセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を約5分かけて約0.2gずつ添加した。添加後、5分間撹拌を行うことで、チタン‐アセチルアセトン錯体を含む黄色溶液を作製した。このチタン‐アセチルアセトン黄色溶液を、0.32mol/Lの酢酸水溶液50mLに、室温で攪拌しながら、約0.2mLずつ、約5分かけて添加した。添加後、室温で約1時間攪拌を行い、更に60℃で約1時間撹拌を行うことで、水溶性チタン錯体を含む黄色透明な水溶液を作製した。次いで、酢酸ストロンチウム0.5水和物(和光純薬製)0.02molを蒸留水に10mLに溶解したものを、チタン錯体を含む水溶液に添加し、室温で1時間、50℃で3時間撹拌を行い、黄色懸濁液を作製した。この懸濁液に、エタノール10mLを添加して、30分撹拌することで、黄色透明な水溶液を得た。このコーティング液は、室温で半年間静置した後も、凝集することなく安定な性状を維持していた。
含水系コーティング液によるペロブスカイト型SrTiO 膜の作製
前記のように作製した含水系コーティング液を用いて、石英基板(5cm×5cm×1mm厚)を基板として用いた以外は、実施例1と同様の方法で製膜した。乾燥後、900℃で5時間焼成を行い、SrTiO膜を作製した。
実施例3
各種アルコールを添加した含水溶液の作製
実施例2で使用した共溶媒であるエタノールに変えて、それぞれメタノール(和光純薬製)、1−プロパノール(和光純薬製)、1−ブタノール(和光純薬製)、またはエチレングリコール(和光純薬製)を添加した以外は、実施例2と同様の方法で各種含水溶液を作製した。これらの含水溶液は、すべて黄色透明な水溶液であり、このコーティング液は、室温で1カ月間静置した後も、凝集することなく安定な性状を維持していた。
実施例4
実施例2で作製した含水溶液に、塩化ロジウム(III)三水和物のブタノール溶液(9.38重量%[Rh])を徐々に添加し、室温で30分撹拌することで、黄色透明な水溶液を作製した。これを、実施例1と同様の方法で製膜した。乾燥後、900℃で5時間焼成を行い、SrTiO膜を作製した。
SrTiO 膜の膜特性評価
走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−800)により、実施例1のSrTiO膜表面の構造観察を行った。低倍率(倍率 30,000倍)での電子顕微鏡写真を図1に示す。この膜表面には、目立ったクラックがなく、非常に平滑な表面を有することが分かる。また高倍率(倍率 100,000倍)での観察写真を図2に示す。この写真から20nm程度の一次粒子が非常に緻密にパッキングされていることが分かる。また、実施例2および実施例4の高倍率での観察写真を図3および図4として示す。この写真から、900℃という高温で焼成後も、約30nmの微粒子が緻密にパッキングされた膜であることが確認できた。また、X線回折測定(XRD:パナリティカル製、“X−pert Pro”)により、膜の結晶構造を調べた。その結果、実施例1のSrTiO膜は、ペロブスカイト型SrTiOの単相膜からなることが明らかとなった。さらに、実施例2および実施例4の結晶構造を同様に調べた。その結果、図5および図6にそれぞれ示されるXRD回折パターンから、実施例1と同様のペロブスカイト型SrTiOの単相膜であることが確認された。
SrTiO 膜の光誘起親水性評価
SrTiO膜表面に紫外線を照射することで、水接触角が低下する光誘起親水性の評価を行った。光源としては、ブラックライト(東芝ライテック製)を用い、紫外線照度を1mW/cmとした。初期の水接触角は、19.4°であったが、紫外線照射8時間後には、4.0°まで低下し、親水化反応が起こることを確認した。
比較例1
20mLサンプル瓶に、アセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を約5分かけて約0.2gずつ添加した。次いで、溶媒としてエタノールを50mL添加して、室温で30分撹拌を行った。このチタン−アセチルアセトン−エタノール溶液に、硝酸ストロンチウムを0.02mol(4.236g)添加した。添加後、室温で約1時間攪拌を行ったが、加水分解反応が進行したため、黄白色の沈殿がすぐに生成し、コーティング液としては不適な性状となった。

Claims (17)

  1. チタンと金属元素とを含んでなるチタン水溶液であって、
    チタンイオンに対する配位数が6であり、下記一般式(1)で表され、二座配位子として機能する第1の配位子と、
    −CO−CH−CO−Z (1)
    (式中、ZおよびZは、独立して、アルキル基またはアルコキシ基である。)
    カルボキシラートである第2の配位子と、アルコキシドおよび水酸化物イオンからなる群から、独立してそれぞれ選択される第3の配位子および第4の配位子と、HOである第5の配位子と、がチタンイオンに配位してなるチタン錯体と、
    ペロブスカイト型チタン酸化物におけるAサイトを占め得る金属のイオンと、
    溶媒としての水と、
    を少なくとも含んでなることを特徴とする、チタン水溶液。
  2. 前記ペロブスカイト型チタン酸化物におけるAサイトを占めうる金属のイオンが、Ca、Sr、BaおよびPbからなる群から選択される金属元素のイオンである、請求項1に記載のチタン水溶液。
  3. ペロブスカイト型チタン酸化物被膜を製造するため用いられる、請求項1または2に記載のチタン水溶液。
  4. 前記ZおよびZが、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のチタン水溶液。
  5. 前記第2の配位子であるカルボキシラートが、式R−COO(式中、RはC1−4アルキル基である)で表わされる基であるか、または炭素数1〜6のヒドロキシ酸またはジカルボン酸の共役塩基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のチタン水溶液。
  6. 前記第3または第4の配位子であるアルコキシドが、式R−O(式中、RはC1−6アルキル基である)で表わされる基である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のチタン水溶液。
  7. 前記第1の配位子が、アセチルアセトナトまたはアセト酢酸エチルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のチタン水溶液。
  8. 前記第2の配位子が、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、およびクエン酸から選ばれるカルボン酸の共役塩基である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のチタン水溶液。
  9. 前記第2の配位子が、酢酸の共役塩基である酢酸イオンである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のチタン水溶液。
  10. 前記第3の配位子および第4の配位子が、イソプロポキシ基である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のチタン水溶液。
  11. 溶媒としてさらに、水よりも比誘電率が低く、水と相溶性があり、かつ非アルカリ性の第二溶媒を含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載のチタン水溶液。
  12. 前記第二溶媒が、一価アルコール、グリコール系溶媒、エチレングリコール系溶媒、グリセリン系溶媒、セロソルブ系溶媒、およびカルビトール系溶媒からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項11に記載のチタン水溶液。
  13. 前記第二溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールからなる群から選択されるものである、請求項12に記載のチタン水溶液。
  14. 請求項1〜13のいずれか一項に記載のチタン水溶液の製造方法であって、
    チタン前駆体と、一般式(1)で表される化合物とを混合し、チタン‐アセチルアセトン錯体を得て、この溶液とカルボン酸イオンを含む水溶液とを混合し、さらに、得られた溶液とアルカリ土類金属イオンを含む水溶液とを混合した後に、場合によって水よりも比誘電率が低く、水と相溶性があり、かつ非アルカリ性の第二溶媒を混合することを少なくとも含んでなることを特徴とする、製造方法。
  15. 前記チタン前駆体が、チタンアルコキシドまたは四塩化チタンである、請求項14に記載の製造方法。
  16. チタン及びアルカリ土類金属を含むペロブスカイト型酸化物被膜の製造方法であって、
    基材上に、請求項1〜13に記載のチタン水溶液を塗布し、
    該基材を焼成して被膜を形成させる工程を含んでなる、製造方法。
  17. 前記基材が、アモルファスガラス層を少なくともその表面に有するものであり、該アモルファスガラス層にチタン水溶液が塗布され、該層上にペロブスカイト型チタン酸化物被膜が形成される、請求項16に記載の製造方法。
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