JP2012046728A - 銀インク組成物及び基材 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた光沢度及び鏡面性を有する金属銀層の形成に好適な銀インク組成物、及び該銀インク組成物を使用して表面に金属銀層を形成させた基材の提供。
【解決手段】イソブチリル酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、アセト酢酸銀、α−メチルアセト酢酸銀及びα−エチルアセト酢酸銀からなる群から選択される一種以上のβ−ケトカルボン酸銀、及び炭素数が1〜10の脂肪族第一級アミン又は第二級アミンが配合されてなることを特徴とする銀インク組成物;かかる銀インク組成物を加熱して形成させた金属銀層を表面に供えたことを特徴とする基材。
【選択図】なし

Description

本発明は、優れた光沢度及び鏡面性を有する金属銀層の形成に好適な銀インク組成物、及び該銀インク組成物を使用して表面に金属銀層を形成させた基材に関する。
光沢インクは、装飾用や鏡面用等の種々の用途で使用されており、従来は、銀粒子又はアルミペーストをフィラーとして使用した金属含有インク組成物が知られている。これらインク組成物を基材上に塗布して加熱等の操作を行うことにより、表面に金属層が形成された基材が得られる。
しかし、これらインク組成物から形成された金属層は、実際の金属のような光沢度が乏しく、鏡面性が低いという問題点があった。これは、形成された金属層において、金属原子同士の接触が不十分であることが原因の一つであると考えられる。このように、所望の金属を含むインク組成物を使用しても、所望の光沢度や鏡面性を有する金属層を形成できることはまれであり、所望の高品質な金属層を形成できるインク組成物の開発が強く望まれている。
ところで、各種金属のなかでも金属銀は、記録メディアや印刷刷版の材料として、また、導電性に優れることから高導電性材料として、それぞれ汎用されている。従来の金属銀の一般的な製造方法としては、無機物である酸化銀を還元剤の存在下で加熱する方法が例示できる。より具体的には、例えば、粒子状の酸化銀をバインダーに分散させ、これに還元剤を添加してペーストを調製し、このペーストを基材等に塗布して加熱すれば良い。このように、還元剤の存在下で加熱することによって、酸化銀が還元され、還元により生成された金属銀が相互に融着し、金属銀を含む被膜が形成される。
しかし、金属銀の形成材料として酸化銀を使用する場合には、還元剤が必要であり、また、その処理温度が約300℃程度と極めて高温であるという問題点がある。さらに、金属銀を導電性材料として使用する場合には、形成される被膜の抵抗を低減するために、より微細な酸化銀粒子を使用する必要がある。
これに対して、近年では、酸化銀のような無機物に代えて有機酸銀を用いた金属銀の形成方法も報告されている。前記有機酸銀としては、例えば、ベヘン酸銀が報告されており(特許文献1)、また、ステアリン酸銀やα−ケトカルボン酸銀が新たな金属銀の形成材料として報告されている(特許文献2〜3)。
しかし、ベヘン酸銀を使用する場合にも、金属銀を形成させるためには還元剤存在下での加熱を必要とする。また、ステアリン酸銀やα−ケトカルボン酸銀を使用する場合でも、無機物の場合よりは低いものの、速やかに分解させるために約210℃以上の加熱が必要である。
そこで、これら酸化銀や有機酸銀に代わり、還元剤が不要で且つ低温でも速やかに金属銀を形成できる材料として、β−ケトカルボン酸銀を使用する方法が開示されている(特許文献4及び5参照)。この方法では、β−ケトカルボン酸銀を、アミン化合物、チオール化合物、リン化合物等の孤立電子対を有する化合物と併用することで、これらが配合された銀インク組成物の安定性を向上させており、さらに、従来よりも低温で導電性に優れた金属銀を形成できることが開示されている。
特開2003−191646号公報 特開平10−183207号公報 特開2004−315374号公報 特開2009−114232号公報 特開2009−197133号公報
しかし、特許文献4及び5に記載の方法では、β−ケトカルボン酸銀と孤立電子対を有する化合物との組み合わせによっては、所望の効果が得られないことが記載されており、これら配合成分の選択が重要となっている。そして、これら特許文献では、金属銀が低温で速やかに形成できることが記載されているものの、金属銀の光沢度や鏡面性等の外観に関しては、全く評価がなされておらず、装飾用や鏡面用等の用途に適した配合成分の組み合わせについては、何ら開示されていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた光沢度及び鏡面性を有する金属銀層の形成に好適な銀インク組成物、及び該銀インク組成物を使用して表面に金属銀層を形成させた基材を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、
本発明は、イソブチリル酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、アセト酢酸銀、α−メチルアセト酢酸銀及びα−エチルアセト酢酸銀からなる群から選択される一種以上のβ−ケトカルボン酸銀、及び炭素数が1〜10の脂肪族第一級アミン又は第二級アミンが配合されてなることを特徴とする銀インク組成物を提供する。
本発明の銀インク組成物においては、さらに、前記第一級アミン及び第二級アミンに該当しない溶媒が配合されていても良い。
本発明の銀インク組成物においては、前記第一級アミン又は第二級アミンの窒素原子に結合している脂肪族炭化水素基が、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。
本発明の銀インク組成物においては、前記溶媒が炭素数2〜5の一価アルコールを含むことが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の銀インク組成物を加熱して形成させた金属銀層を表面に供えたことを特徴とする基材を提供する。
本発明によれば、優れた光沢度及び鏡面性を有する金属銀層の形成に好適な銀インク組成物、及び該銀インク組成物を使用して表面に金属銀層を形成させた基材を提供できる。
製造例1で得られたα−メチルアセト酢酸銀の赤外線吸収スペクトル(IR)を示す図である。 製造例2で得られたイソブチリル酢酸銀の赤外線吸収スペクトル(IR)を示す図である。 製造例3で得られたベンゾイル酢酸銀の赤外線吸収スペクトル(IR)を示す図である。 製造例4で得られたアセト酢酸銀の赤外線吸収スペクトル(IR)を示す図である。
<銀インク組成物>
本発明の銀インク組成物は、イソブチリル酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、アセト酢酸銀、α−メチルアセト酢酸銀(2−メチルアセト酢酸銀)及びα−エチルアセト酢酸銀(2−エチルアセト酢酸銀)からなる群から選択される一種以上のβ−ケトカルボン酸銀、及び炭素数が1〜10の脂肪族第一級アミン又は第二級アミンが配合されてなることを特徴とする。
以下、各配合成分について説明する。
(β−ケトカルボン酸銀)
前記β−ケトカルボン酸銀は、加熱によって分解し、金属銀を形成するものである。そして、金属銀形成時に残存する原料や不純物の濃度が極めて低く、形成された金属銀の表面は、くすみやむらが抑制されて優れた鏡面性を有するなど、外観が良好である。さらに、形成された金属銀は、銀原子同士の接触が良好で、導通性に優れ、抵抗率が低いという優れた性質を有する。
前記β−ケトカルボン酸銀の熱重量分析(TGA)の結果から求めた分解温度及び分解後の残存質量、並びにβ−ケトカルボン酸銀の銀含有量(理論値)を表1に示す。なお、前記β−ケトカルボン酸銀の残存質量は下記式(1)から、銀含有量(理論値)は下記式(2)から、それぞれ算出している。
残存質量(%)=(A/B)×100
[Aはβ−ケトカルボン酸銀の熱分解後の質量(mg)、BはTGAでのβ−ケトカルボン酸銀の使用量(mg)を表す。] ・・・・(1)
銀含有量(%)=(銀の原子量/β−ケトカルボン酸銀の分子量)×100 ・・・・(2)
Figure 2012046728
表1に示すように、β−ケトカルボン酸銀は、分解温度が145℃以下と従来の金属銀形成材料よりも極めて低く、急激に分解して速やかに金属銀を形成する。また、β−ケトカルボン酸銀の熱分解後の残存質量(%)が銀含有量(%、理論値)に近い値を示すことから、前記β−ケトカルボン酸銀は、分解温度で十分に分解され、金属銀が形成されることが判る。
前記β−ケトカルボン酸銀は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
配合成分の総量に占める前記β−ケトカルボン酸銀の配合量の比率は、5〜50質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることがより好ましい。
β−ケトカルボン酸銀は、例えば、β−ケトカルボン酸と銀化合物とを、水の含有量が好ましくは55質量%以下である反応液中で反応させることにより、β−ケトカルボン酸銀を生成させる工程を含む方法で製造できる。より具体的には、以下の通りである。
まず、β−ケトカルボン酸エステルを加水分解することによって、β−ケトカルボン酸塩を調製する。エステルの加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等の塩基を使用して行うことが好ましい。前記塩基は、水溶液として使用することが好ましく、この時の濃度は、1mol/L以上であることが好ましく、2〜5mol/Lであることがより好ましい。
前記塩基の使用量は特に限定されないが、β−ケトカルボン酸エステル1モルに対して0.8〜2モルであることが好ましく、0.9〜1.2モルであることがより好ましい。
反応液中におけるβ−ケトカルボン酸エステルの濃度は、0.5〜6.25mol/Lであることが好ましく、1〜5.6mol/Lであることがより好ましい。
反応温度は、特に限定されないが、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、20〜40℃であることが特に好ましい。
反応時間は、0.5〜48時間であることが好ましく、1〜4時間であることがより好ましい。
なお、この工程において、反応終了後の反応液における前記塩基の残存量を十分に低減させるためには、前記塩基の使用量をβ−ケトカルボン酸エステル使用量よりも少なく設定することが好ましく、β−ケトカルボン酸エステル1モルに対して0.8〜1モルとすることが好ましく、0.8〜0.9モルとすることがより好ましい。この条件は、β−ケトカルボン酸塩を一度単離してから次工程で使用する場合に好ましい。他方、この工程で生成したβ−ケトカルボン酸塩を単離することなく、そのまま次工程で使用する場合には、前記塩基の使用量を、β−ケトカルボン酸エステル1モルに対して、1〜1.3モルとすることが好ましく、1.1〜1.2モルとすることがより好ましい。そして、次工程において、使用した塩基と当量の酸(後述する硫酸等)を添加すれば良い。
β−ケトカルボン酸エステルは、所望のβ−ケトカルボン酸銀の構造に応じて適宜選択できる。例えば、エステルを構成するアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ベンジル基等が例示できる。具体的な化合物としては、イソブチリル酢酸メチル、イソブチリル酢酸ベンジル、イソブチリル酢酸イソプロピル、ベンゾイル酢酸エチル、プロピオニル酢酸メチル、アセト酢酸メチル、2−メチルアセト酢酸エチル、2−エチルアセト酢酸エチル等が例示できる。
また、原料は、β−ケトカルボン酸エステルに限定されず、例えば、開環によって前記エステルとなる環状化合物も使用できる。
得られるβ−ケトカルボン酸塩は、例えば、使用する塩基の種類によって決定され、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が例示できる。具体的な化合物としては、イソブチリル酢酸ナトリウム、イソブチリル酢酸カリウム、イソブチリル酢酸アンモニウム、ベンゾイル酢酸ナトリウム、ベンゾイル酢酸カリウム、ベンゾイル酢酸アンモニウム、プロピオニル酢酸ナトリウム、プロピオニル酢酸カリウム、プロピオニル酢酸アンモニウム、アセト酢酸ナトリウム、アセト酢酸カリウム、アセト酢酸アンモニウム、2−メチルアセト酢酸ナトリウム、2−メチルアセト酢酸カリウム、2−メチルアセト酢酸アンモニウム、2−エチルアセト酢酸ナトリウム、2−エチルアセト酢酸カリウム、2−エチルアセト酢酸アンモニウム等が例示できる
前記β−ケトカルボン酸塩は、例えば、β−ケトカルボン酸エステルの加水分解によって調製できるが、得られたβ−ケトカルボン酸塩は、常法により単離しても良いし、後述する次工程における銀化合物使用時に、単離せずにそのまま使用しても良い。
次いで、β−ケトカルボン酸塩と銀化合物とを使用して、β−ケトカルボン酸銀を生成させる。このような方法として、第一及び第二の方法を以下に示す。
第一の方法は以下の通りである。
まず、β−ケトカルボン酸塩に酸を添加し、生成したβ−ケトカルボン酸を有機溶媒で抽出する。前記酸は特に限定されないが、好ましいものとして、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、酢酸等が例示できる。酸の使用量は特に限定されず、例えば、β−ケトカルボン酸塩の塩を構成するカチオン部の量に相当する量のプロトン(H)を供給できれば良い。また、β−ケトカルボン酸塩を前工程で単離せずにそのまま使用した場合には、前工程での塩基使用量に相当する量のプロトン(H)を供給できれば良い。
生成したβ−ケトカルボン酸を有機溶媒で抽出することにより、β−ケトカルボン酸銀の純度をさらに向上させることができる。
本工程で得られるβ−ケトカルボン酸は、例えば、生成後、速やかに氷冷等により冷却して、次工程で使用することが好ましい。
次いで、β−ケトカルボン酸に銀化合物を添加することによって、β−ケトカルボン酸銀を生成させる。
この時の反応は、通常、溶媒中で行われるが、β−ケトカルボン酸銀を効率良く生成させるためには、反応液における水の量を低減することが好ましい。すなわち、反応液における水の量が少ない程、β−ケトカルボン酸銀の生成率が相対的に向上する。具体的には、反応液中の水の含有量(質量%)は、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、44質量%以下であることが特に好ましい。反応液中の水の含有量の下限値は、特に限定されないが、35質量%程度であることが好ましく、検出限界値以下であることがより好ましい。
反応液における溶媒としては、エーテル等の有機溶媒、水、これらの混合液が例示できる。
β−ケトカルボン酸と銀化合物との混合比は、特に限定されないが、銀化合物1モルに対してβ−ケトカルボン酸が1〜1.5モルであることが好ましく、1〜1.2モルであることがより好ましい。
β−ケトカルボン酸及び銀化合物は、それぞれ一種を使用しても良く、いずれか一方又は双方を二種以上使用しても良い。
β−ケトカルボン酸は、通常、有機溶媒に溶解又は分散したβ−ケトカルボン酸液として使用される。前記有機溶媒は特に限定されず、好ましいものとしては、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル等のエーテル類が例示できる。
前記β−ケトカルボン酸液の濃度は、特に限定されないが、0.2mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L以上であることがより好ましい。
銀化合物は、通常、銀化合物溶液(例えば、銀化合物水溶液)として使用されるが、上記のように反応液中の水の含有量を低減する目的から、その濃度は、1mol/L以上であることが好ましく、2mol/L以上であることがより好ましく、3mol/L以上であることが特に好ましい。また、上限値は特に限定されないが、13mol/L以下であることが好ましい。また、生成するβ−ケトカルボン酸銀が、α位の炭素原子に結合している水素原子が未置換の場合、銀化合物溶液の濃度は、1mol/L以上であることが好ましく、1.5mol/L以上であることがより好ましく、2mol/L以上であることが特に好ましい。一方、α位の炭素原子に結合している水素原子が置換基で置換されている場合、銀化合物溶液の濃度は、3mol/L以上であることが好ましく、4mol/L以上であることがより好ましく、5mol/L以上であることが特に好ましい。
前記銀化合物は特に限定されないが、硝酸銀、塩化銀、炭酸銀、臭化銀、ヨウ化銀等が例示でき、なかでも水溶性、安定性及び安全性に比較的優れる点から、硝酸銀が特に好ましい。
β−ケトカルボン酸と銀化合物との反応においては、β−ケトカルボン酸中のカルボキシル基(−COOH)をカルボキシラート(−COO)へと解離させるために、例えば、ジエタノールアミン、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン等のアミンを添加しても良い。
前記アミンの添加量は特に限定されないが、例えば、銀化合物1モルに対して1〜1.5モルであることが好ましく、1〜1.1モルであることがより好ましい。
前記アミンの添加によって、β−ケトカルボン酸は有機層から水層へ移動する。このため、前記アミンを添加する場合には、例えば、β−ケトカルボン酸液(例えば、有機溶媒溶液)におけるβ−ケトカルボン酸濃度は、特に考慮しなくても良い。また、β−ケトカルボン酸を有機層から水層へ移動させ、この段階で水層のみを分取して、β−ケトカルボン酸水溶液(水層)と銀化合物溶液(例えば、銀化合物水溶液)とを混合し、β−ケトカルボン酸銀を生成させても良い。
前記反応で使用するアミンは、通常、アミン溶液(例えば、アミン水溶液)として添加されるが、上記のように反応液中の水の含有量を低減する目的から、前記アミン溶液の濃度は、2mol/L以上であることが好ましく、4mol/L以上であることがより好ましく、6mol/Lであることが特に好ましい。また、上限値は特に限定されないが、8mol/L以下であることが好ましい。
前記反応液中のβ−ケトカルボン酸の濃度は、0.1〜5mol/Lであることが好ましく、0.3〜3mol/Lであることがより好ましい。
また、前記反応液中のアミンの濃度は、0.1〜5mol/Lであることが好ましく、0.3〜3mol/Lであることがより好ましい。
また、前記反応液中の前記銀化合物の濃度は、生成するβ−ケトカルボン酸銀が、α位の炭素原子に結合している水素原子が未置換の場合、0.1mol/L以上であることが好ましく、0.3mol/L以上であることがより好ましく、0.5mol/L以上であることが特に好ましい。一方、α位の炭素原子に結合している水素原子が置換基で置換されている場合、前記反応液中の前記銀化合物の濃度は、0.1mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L以上であることがより好ましく、2mol/L以上であることが特に好ましい。
β−ケトカルボン酸と銀化合物との反応時の条件は、特に限定されないが、反応時間は0.1〜0.5時間であることが好ましく、反応温度は0〜25℃であることが好ましい。
生成したβ−ケトカルボン酸銀は、例えば、反応後、速やかに分取して乾燥させれば良いが、水やエタノール等のアルコールで洗浄することにより、精製することが好ましい。
一方、第二の方法としては、β−ケトカルボン酸塩に銀化合物を直接添加して、β−ケトカルボン酸銀を生成させる方法が例示できる。この場合、銀化合物溶液(例えば、銀化合物水溶液)に、β−ケトカルボン酸塩溶液(例えば、β−ケトカルボン酸塩水溶液)を添加することが好ましい。また、β−ケトカルボン酸塩溶液に銀化合物を添加しても良い。
また、上記の方法以外にも、例えば、β−ケトカルボン酸塩を生成させた後、これを含む水溶液と硝酸とを混合して、水溶液を酸性にし、副生成物を抽出除去することなく、そのままこの酸性水溶液と硝酸銀とを混合してβ−ケトカルボン酸銀を生成させる方法でも、β−ケトカルボン酸銀を製造できる。
(炭素数が1〜10の脂肪族第一級アミン又は第二級アミン)
配合成分である前記アミンは、第一級又は第二級の脂肪族系アミンで炭素原子の総数が1〜10であれば特に限定されないが、好ましいものとして、窒素原子に結合している脂肪族炭化水素基がアルキル基であるもの(アルキルアミン、ジアルキルアミン)が例示できる。そして、前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。
前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等が例示できる。
前記環状のアルキル基は、単環状及び多環状のいずれでも良く、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基等が例示できる。
なかでも、前記アミンとしては、窒素原子に結合しているアルキル基が、直鎖状又は分岐鎖状であるものが好ましい。そして、前記アミンは、炭素数が2〜9であるものが好ましく、炭素数が3〜8であるものがより好ましく、具体的には、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−オクチルアミン、N−メチルヘキシルアミン、N−エチルヘキシルアミン等が例示できる。
前記アミンは、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
配合成分の総量に占める前記アミンの配合量の比率は、10〜70質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。
(溶媒)
本発明の銀インク組成物は、さらに、前記第一級アミン及び第二級アミンに該当しない溶媒が配合されていても良い。前記溶媒を配合することで、例えば、銀インク組成物の粘度を調節できる。そして、後述する銀インク組成物の塗布方法に適した粘度に調節することで、銀インク組成物を一層安定して塗布できる。
前記溶媒は、各配合成分と反応しないものであれば良く、特に限定されないが、後述する銀インク組成物の加熱温度よりも沸点が低いものが好ましい。
好ましい前記溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類が例示できる。
前記アルコール類は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良いが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。そして、炭素数が1〜7であることが好ましく、2〜5であることがより好ましい。前記アルコール類が環状である場合、単環状及び多環状のいずれでも良い。
また、前記アルコール類は、一価アルコール及び多価アルコールのいずれでも良い。
好ましい前記アルコール類としては、炭素数2〜5の一価アルコール又は多価アルコールが例示でき、具体例としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール等の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコールが挙げられる。
前記ケトン類は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良いが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。そして、炭素数が3〜12であることが好ましい。前記ケトン類が環状である場合、単環状及び多環状のいずれでも良い。
好ましい前記ケトン類としては、ペンタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、ウンデカノン等が例示できる。
前記エステル類は、炭素数が3〜10であることが好ましい。また、エステル結合(−C(=O)−O−)を形成している、カルボニル基(−C(=O)−)に隣接する酸素原子(−O−)に結合している基は、アルキル基又はアルコキシアルキル基であることが好ましく、アルコキシアルキル基であることがより好ましい。
好ましい前記エステル類としては、酢酸エステル類が例示でき、具体例としては、酢酸2−エトキシエチル、酢酸2−ブトキシエチルが挙げられる。
前記エーテル類は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、炭素数が2〜8であることが好ましい。
好ましい前記エーテル類としては、ジエチルエーテル、ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン(THF)等の環状エーテル類が例示できる。
前記溶媒は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
配合成分の総量に占める前記溶媒の配合量の比率は、5〜50質量%であることが好ましく、10〜35質量%であることがより好ましい。
(その他の成分)
本発明の銀インク組成物は、前記β−ケトカルボン酸銀、前記アミン及び前記溶媒以外に、これらに該当しないその他の成分が配合されていても良い。
好ましいその他の成分としては、アセチレンアルコール類が例示できる。ここで、「アセチレンアルコール類」とは、エチニル基(−C≡CH)と水酸基(−OH)を共に有する化合物を指し、例えば、水酸基を有するが、前記溶媒とは区別する。
前記アセチレンアルコール類は、下記一般式(II)で表わされるのが好ましい。
Figure 2012046728
(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基又は置換基を有していても良いフェニル基である。)
式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基又は置換基を有していても良いフェニル基である。
前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。
フェニル基が有していても良い前記置換基としては、炭素数が1〜16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、該脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合した一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、シアノ基、フェノキシ基等が例示できる。
置換基としての前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が例示できる。前記脂肪族炭化水素基が環状である場合、単環状及び多環状のいずれでも良い。
前記脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合した一価の基の好ましいものとしては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基等が例示できる。
フェニル基が置換基を有する場合、該置換基の数及び位置は特に限定されない。
R’及びR’’は、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましい。
前記その他の成分が液状である場合、その沸点は、後述する銀インク組成物の加熱温度よりも低いことが好ましい。
前記その他の成分は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
前記その他の成分の配合量は、その種類に応じて適宜調節すれば良く、特に限定されない。
本発明の銀インク組成物において、必須成分である前記β−ケトカルボン酸銀及び前記アミン、並びに任意成分である前記溶媒のそれぞれの配合量の比率は、上述の通りであるが、配合成分の総量に占めるこれら成分の総配合量の比率は、70質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、100質量%であっても良い。
本発明の銀インク組成物は、β−ケトカルボン酸銀及びアミンとして、特定の限定された組み合わせを選択することで、金属銀層を単に低温で速やかに形成させるだけでなく、表面の光沢度及び鏡面性に優れる金属銀層を提供するものである。例えば、上述のように、特開2009−114232号公報、特開2009−197133号公報では、β−ケトカルボン酸銀と孤立電子対を有する化合物が配合されたインク組成物によって、低温で導電性及び安定性に優れた金属銀を形成できることが開示されている。しかし、これら特許文献には、所望の効果を得るために、β−ケトカルボン酸銀と孤立電子対を有する化合物として、ある程度限定された組み合わせを選択する必要性のあることが記載されている。加えて、金属銀層表面の光沢度及び鏡面性を向上させる手段については、何ら開示されていない。金属銀層の導電性及び安定性を向上させるためには、銀原子同士を十分に接触させることが必要であると考えられるが、光沢度及び鏡面性を向上させるためには、それだけでは不十分であると考えられる。そして今回、本発明者らは、配合成分としてβ−ケトカルボン酸銀及びアミンのさらに限定された組み合わせを選択することで、金属銀層の光沢度及び鏡面性の向上を達成している。そして、さらに溶媒を組み合わせることにより、この組み合わせの効果をさらに向上させることが可能であると考えられる。本発明におけるこれら配合成分の組み合わせは、本発明の課題が開示されていない上記特許文献の膨大な配合成分の例示を参照しても、容易に選択し得るものではない。
(銀インク組成物の製造方法)
本発明の銀インク組成物は、前記β−ケトカルボン酸銀及び前記アミン、並びに必要に応じて、前記溶媒、前記その他の成分を配合することで、製造できる。
各成分の配合時には、すべての成分を添加してからこれらを混合しても良いし、一部の成分を順次添加しながら混合しても良く、すべての成分を順次添加しながら混合しても良い。
混合方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法、ミキサーを使用して混合する方法、超音波を印加して混合する方法等、公知の方法から適宜選択すれば良い。
配合成分は、銀インク組成物中ですべて溶解していても良いし、一部又はすべての成分が溶解せずに分散した状態であっても良い。
配合時の温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、−5〜30℃であることが好ましい。
<基材>
本発明の基材は、上記本発明の銀インク組成物を加熱して形成させた金属銀層を表面に供えたことを特徴とする。
銀インク組成物中の前記β−ケトカルボン酸銀は、加熱により分解して金属銀を形成する。そして、基材上に形成された金属銀層は、光沢度、色彩度に優れ、くすみやむらが抑制されて優れた鏡面性を有するなど、外観が良好である。
前記基材の材質は、目的に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されない。具体的には、セラミック、石英ガラス等の無機化合物;各種樹脂等の有機化合物;紙類が例示できる。
前記樹脂としては、合成樹脂が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等が例示できる。
前記紙類としては、原紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、レジンコート紙、グラシン紙、光沢紙、合成紙等が例示できる。
前記β−ケトカルボン酸銀は、分解温度が低いので、高温処理が必要な従来の方法では使用できない耐熱性の低い基材も使用できる。
前記基材は、単層構造でも良いし、複数層構造でも良い。複数層構造の場合、これら複数の基材の材質はすべて同じでも良いし、一部が異なっていても良く、すべて異なっていても良い。材質が異なる複数の基材を使用する場合、その材質の組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
前記基材の厚さは、材質や目的に応じて任意に設定でき、特に限定されないが、通常は10〜15000μmであることが好ましい。
前記金属銀層は、基材上に銀インク組成物を塗布して加熱することで形成できる。
銀インク組成物の塗布方法は、特に限定されず、スクリーン印刷;オフセット印刷;ディップ方式;インクジェット方式;ディスペンサー方式;エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、スピンコーター等の各種コーターを使用する方法;ワイヤーバー等の装置を使用する方法等の公知の方法で良い。塗布方法は、例えば、銀インク組成物の粘度に応じて選択すると、銀インク組成物を一層安定して塗布できる。
銀インク組成物の塗布量は、特に限定されず、例えば、銀インク組成物中のβ−ケトカルボン酸銀の配合比率、目的とする金属銀層の厚さ等に応じて、適宜調節すれば良い。
金属銀層の厚さも、目的に応じて任意に設定できるが、通常は0.1〜1μmであることが好ましい。
銀インク組成物の加熱は、銀インク組成物の塗布後、該組成物の組成や性状が変化する前に開始することが好ましい。このようにすることで、表面が一層光沢度に優れた金属銀層を形成できる。ここで「組成の変化」とは、例えば、アミン、溶媒等の揮発成分の揮発等により成分の一部が消失したり、吸湿等により新たな成分が加わったりすることで、含有される成分の種類又は比率が明確に変化することを指す。また、「性状の変化」とは、例えば、溶解していた成分の一部が析出したり、析出することなく分離したりすることで、外観が明確に変化することを指す。
銀インク組成物の塗布終了から加熱開始までの時間は、銀インク組成物の配合成分の組み合わせに応じて調節すれば良い。
銀インク組成物の加熱温度は、前記β−ケトカルボン酸銀の分解温度に応じて、適宜調節すれば良い。例えば、前記β−ケトカルボン酸銀の分解温度と同じでも良いし、分解温度より高くても良く、低くても良い。ここで、「β−ケトカルボン酸銀の分解温度」とは、β−ケトカルボン酸銀が単独で存在する場合の分解温度を指す。したがって、銀インク組成物中に、前記β−ケトカルボン酸銀の加熱時における分解を促進する促進成分が配合されている場合には、前記β−ケトカルボン酸銀は前記分解温度よりも低い温度で分解する。前記促進成分には、例えば、配合成分である前記アミンのいずれか又はすべてが該当すると考えられる。
銀インク組成物の加熱温度は、通常は、前記β−ケトカルボン酸銀の分解温度に対して+0〜+60℃であることが好ましい。そして、前記促進成分が銀インク組成物中に配合されている場合には、銀インク組成物の加熱温度の下限値は、前記β−ケトカルボン酸銀の分解温度に対して−30℃程度であっても良い。加熱温度をこのように設定することで、β−ケトカルボン酸銀の分解を一層確実に進行させることができる。
前記β−ケトカルボン酸銀は、低い温度で十分に熱分解するため、例えば、酸化銀を還元剤の存在下で加熱する従来の金属銀の形成方法とは異なり、還元剤が不要である。したがって、銀インク組成物の配合成分の種類を低減できる。しかも、必要とされる加熱温度も、上記のように十分低い。
銀インク組成物の加熱方法は特に限定されず、電気炉による加熱、感熱方式の熱ヘッドによる加熱等を例示でき、大気下で行っても良いし、不活性ガス雰囲気下で行っても良い。そして、常圧下及び減圧下のいずれで行っても良い。
加熱時間は、加熱温度や加熱方法に応じて適宜設定すれば良く、特に限定されない。
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
[製造例1]
(α−メチルアセト酢酸銀の合成)
水酸化ナトリウム(1.92g)を水(8ml)に溶解させ、これを室温で撹拌しながら、2−メチルアセト酢酸エチル(和光純薬社製、5.77g)を滴下し、さらに30分間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターによってエタノールを除去し、残留した水層をエーテルで洗浄した。これにエーテル(20ml)を添加し、さらに、氷冷下で撹拌しながら、水8mlに濃硫酸2.35gを溶解させたものを滴下した。エーテル層を分取し、水層を塩析した後にエーテルで抽出した。エーテル層を集め、α−メチルアセト酢酸のエーテル溶液を得た。
ジエタノールアミン(4.4g)を水(5ml)に溶解させ、この溶液を、氷冷下でα−メチルアセト酢酸のエーテル溶液に添加した。続いて、水(8ml)に硝酸銀(6.8g)を溶解させたものを滴下した。そして、析出した白色沈殿物を濾取し、氷水、続いてイソプロパノールで洗浄し、乾燥させることによって、α−メチルアセト酢酸銀を白色沈殿物として得た(収量4.78g)。
得られたα−メチルアセト酢酸銀の赤外線吸収スペクトル(IR)を図1に示す。
IR:1692cm−1、1523cm−1
また、得られたα−メチルアセト酢酸銀の元素分析値、NMR(使用溶媒:重DMSO)スペクトルのデータを以下に示す。
元素分析値:C=26.49%、H=3.11%、Ag=48.91%(理論値:C=26.93%、H=3.16%、Ag=48.36%)
NMR:1.25ppm 3H d, 2.25ppm 3H s, 3.55ppm 1H q, J=7Hz
[製造例2]
(イソブチリル酢酸銀の合成)
水酸化ナトリウム(0.4g)を水(10ml)に溶解させ、これにメチルイソブチリルアセテート(フルカ社製、1.44g)を加え、室温で6時間撹拌した。反応生成物をエーテルで洗浄し、10%希硫酸(4.9g)を加えてエーテルで抽出した。エーテル抽出液に過剰の無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥させ、濾過によって無水硫酸ナトリウムを除去した。そして、ロータリーエバポレーターによってエーテルを除去し、イソブチリル酢酸を得た(収量1g)。
ジエタノールアミン(0.33g)を水(5ml)に溶解させ、これにイソブチリル酢酸(0.43g)を含むエーテル溶液(10ml)を加えた。続いて、得られた混合液を15℃で撹拌しながら、これに硝酸銀(0.51g)を含む水溶液(5ml)を滴下し、さらに15分間撹拌した。そして、析出した白色沈殿物を濾取し、イソブチリル酢酸銀を得た(収量0.37g)。
得られたイソブチリル酢酸銀の赤外線吸収スペクトル(IR)を図2に示す。
IR:1709cm−1、1505cm−1
また、得られたイソブチリル酢酸銀の元素分析値、NMR(使用溶媒:重DMSO)スペクトルのデータを以下に示す。
元素分析値:C 30.33, H 3.65, N 0.00, Ag 45.42(計算値:C 30.41, H 3.84, Ag 45.51)
NMR:1.00ppm 6H d, 2.83ppm 1H 5重線, 3.30ppm 2H s, J=7Hz
[製造例3]
(ベンゾイル酢酸銀の合成)
水酸化ナトリウム(0.4g)を水(10ml)に溶解させ、これにエチルベンゾイルアセテート(アルドリッチ社製、2.14g:純度90%)を加えて室温で終夜撹拌した。反応生成物をエーテルで洗浄し、10%希硫酸(4.9g)を加え、エーテルで抽出した。エーテル抽出液に過剰の無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥させ、濾過によって無水硫酸ナトリウムを除去した。そして、ロータリーエバポレーターによってエーテルを除去し、ベンゾイル酢酸を得た(収量1.05g)。
ジエタノールアミン(0.33g)を水(5ml)に溶解させ、これにベンゾイル酢酸(0.54g)を含むエーテル溶液(20ml)を加えた。続いて、得られた混合液を15℃で撹拌しながら、これに硝酸銀(0.51g)を含む水溶液(5ml)を滴下し、さらに15分間撹拌した。そして、析出した淡黄色沈殿物を濾取し、ベンゾイル酢酸銀を得た(収量0.79g)。
得られたベンゾイル酢酸銀の赤外線吸収スペクトル(IR)を図3に示す。
IR:1687cm−1、1540cm−1
また、得られたベンゾイル酢酸銀のNMR(使用溶媒:重DMSO)スペクトルのデータを以下に示す。
NMR:3.55ppm 2H s, 7.45〜8.00ppm 5H m
[製造例4]
(アセト酢酸銀の合成)
水冷下、水酸化ナトリウム(NaOH)(15.8g)を水(213.8g)に溶解させ、得られた水酸化ナトリウム水溶液の温度を室温に調節し、これを20℃のアセト酢酸エチル(井上香料製造所社製、51.5g)に20分間かけて全量滴下して、さらに引き続き20℃で一晩撹拌し、加水分解を行った。
次いで、得られたアセト酢酸ナトリウムを含む溶液を5〜10℃に冷却しながら、ここに69%硝酸(HNO)水溶液(1.73g)を5分間かけて滴下して、さらに約10分間撹拌した。この時、得られた反応液のpHは5であった。
次いで、硝酸銀(AgNO)(47.8g)を水(47.8g)に溶解させ、これを5〜10℃に冷却しながら、ここに上記のpH5の反応液を15分間かけて全量滴下して、さらに約10分間撹拌することにより、アセト酢酸銀を生成させた。
次いで、得られた反応液を遠心濾過して結晶をろ別し、この結晶を水(40mL)で1回洗浄した後、適量のエタノールで3回洗浄した。これを乾燥させることにより、目的物であるアセト酢酸銀の結晶(白色結晶)を得た(収量41.2g、収率70%)。
得られたアセト酢酸銀の赤外線吸収スペクトル(IR)を図4に示す。
IR:1705cm−1、1538cm−1
また、得られたアセト酢酸銀のNMR(使用溶媒:重DMSO)スペクトルのデータを以下に示す。
NMR:2.17ppm 3H s, 3.25ppm 2H s
[実施例1]
(銀インク組成物の製造)
100mlビーカーにn−プロピルアミン40g、エタノール20gを加え、氷水浴下で冷却しながら撹拌した。そして、さらにα−メチルアセト酢酸銀20gを加え、すべての配合成分が溶解するまで撹拌することで、銀インク組成物を製造した。配合成分を表2に示す。
(金属銀層が形成された基材の製造)
得られた銀インク組成物を、縦50mm、横50mm、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート製の基材(東山フィルム製、HK31WF)表面にほぼ等間隔をあけて12滴滴下した後、これを回転させるスピンコーター法により、基材表面に均一に塗布した。
次いで、直ちに(塗布終了から約15秒後に)、基材を約150℃で5分間加熱することで、基材表面に金属銀層を形成した。
(金属銀層の特性評価)
得られた金属銀層について、下記方法により(1)外観、(2)光沢度、(3)色彩度をそれぞれ評価した。
(1)外観
肉眼観察により、下記評価基準に従って(a)鏡面性、(b)くすみ、(c)ムラの程度をそれぞれ評価した。評価結果を表2に示す。
◎:極めて優れている
○:優れている
△:標準的で実用上問題ない
×:実用上問題がある
(2)光沢度
micro−TRI−gloss geometry 85°(BYK−Gardner GmbH製)を使用して、常法により評価した。
(3)色彩度
SPECTROPHOTOMETER(X−Rite Inc.製)を使用して、常法により評価した。
[実施例2〜14、比較例1〜3]
β−ケトカルボン酸銀、アミン、溶媒として、それぞれ表2に示すものを使用したこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造した。そして、実施例1と同様に金属銀層が形成された基材を製造し、金属銀層の特性を評価した。評価結果を表3に示す。
なお、比較例3における「デュオミンCD」とは、N−ヤシアルキル−1,3−ジアミノプロパンを指す。また、実施例10では、エタノール(20g)に代えてエタノール(10g)/テトラヒドロフラン(10g)の混合溶媒を使用した。実施例14では、エタノール(20g)に代えてエタノール(14g)/2,6−ジメチル−4−ヘプタノン(6g)の混合溶媒を使用した。
Figure 2012046728
Figure 2012046728
表2及び3に示すように、実施例1〜14の銀インク組成物を使用した金属銀層は、外観、光沢度、色彩度のすべてが良好であった。
これに対して、アミンとして2−フェニルエチルアミンを使用した比較例1の銀インク組成物、アミンとして脂肪族第三級アミンを使用した比較例2の銀インク組成物の場合、金属銀層は、いずれも光沢度が低く、外観も実用上許容できるものではなかった。
また、アミンとしてデュオミンCDを使用した比較例3の銀インク組成物の場合、金属銀層にデュオミンCDが残留し、光沢度及び色彩度は測定できなかった。
[実施例15〜21、比較例4〜5]
β−ケトカルボン酸銀としてアセト酢酸銀を、アミンとして表4に示すものを、それぞれ使用したこと以外は、実施例1と同様に銀インク組成物を製造した。そして、実施例1と同様に金属銀層が形成された基材を製造し、金属銀層の特性を評価した。評価結果を表5に示す。
Figure 2012046728
Figure 2012046728
表4及び5に示すように、実施例15〜21の銀インク組成物を使用した金属銀層は、外観、光沢度、色彩度のすべてが良好であった。
これに対して、アミンとして2−フェニルエチルアミンを使用した比較例4の銀インク組成物、アミンとして脂肪族第三級アミンを使用した比較例5の銀インク組成物の場合、金属銀層は、いずれも光沢度が低く、外観も実用上許容できるものではなかった。
このように、さらに異なる種類のβ−ケトカルボン酸銀を使用した場合でも、実施例1〜14及び比較例1〜2と同様の結果が得られた。
本発明は、金属銀層を設けた装飾用及び鏡面用の基材の分野で利用可能である。

Claims (5)

  1. イソブチリル酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、アセト酢酸銀、α−メチルアセト酢酸銀及びα−エチルアセト酢酸銀からなる群から選択される一種以上のβ−ケトカルボン酸銀、及び炭素数が1〜10の脂肪族第一級アミン又は第二級アミンが配合されてなることを特徴とする銀インク組成物。
  2. さらに、前記第一級アミン及び第二級アミンに該当しない溶媒が配合されてなることを特徴とする請求項1に記載の銀インク組成物。
  3. 前記第一級アミン又は第二級アミンの窒素原子に結合している脂肪族炭化水素基が、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀インク組成物。
  4. 前記溶媒が炭素数2〜5の一価アルコールを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の銀インク組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の銀インク組成物を加熱して形成させた金属銀層を表面に供えたことを特徴とする基材。
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