JP2011529862A - 1,2−エポキシドの製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、触媒酸化が有機相および水性反応媒体を含む2相系で実施され、水溶性マンガン錯体が酸化触媒として用いられ、末端オレフィンが20℃における水1リットル当たり少なくとも0.01から100gの溶解性で用いられ、末端オレフィン対過酸化水素のモル比が1:0.1から1:2までの範囲内である、過酸化水素を用いた末端オレフィンの触媒酸化による1,2−エポキシドの製造方法に関する。

Description

本発明は、過酸化水素およびマンガン錯体を用いた対応する末端オレフィンの触媒酸化により1,2−エポキシドを製造する方法に関する。
1,2−エポキシドは、特に分子が第2の官能基を含む場合、有益な中間体である。したがって、エポキシド全体はポリマーの出発物質としておよび有機合成の中間体として、非常に重要な化合物クラスである。通常は、これらのエポキシドはエピクロロヒドリンを用いて調製される。
過酸化水素を用いたオレフィンの触媒酸化は、特許活動が活発になり、かなり高い学術的な関心を引き出して来たが、これらの酸化反応の実際の利用については、商業的な実現はなかった。
例えば、WO2004/048353におけるエピクロロヒドリン(「ECH」)の製造方法は、少なくとも75%wの有機物質を含む反応媒体で実施されるが、重大な分離の問題が生じる。
上述のように、マンガン触媒により触媒し、過酸化水素を用いる、末端オレフィンすなわち電子不足オレフィンのエポキシ化は、公知の技術において広範に記載されてきたが、一般に反応媒体としてアセトニトリルが使用されていた。このような論文の例は、転換量が860までのTetrahedron Letters 43(2002年)2619−2622頁である。Journal of Molecular Catalyst A:Chemical 185(2002年)71−80頁のエチルベンゼンの酸化において、アセトニトリルおよび水の混合物が使用される。Journal of Oganometallic Chemistry 520(1996年)195−200頁では、様々な溶媒を使用して、一連のマンガン錯体の触媒挙動が研究されている。水は研究されなかった。不均一化したMn触媒は、Angew.Chem.Int.Ed.、1999年、38頁、7番に記載されており、溶媒としてアセトンおよびアセトニトリルが使用されていた。Bull.Korean Chem.Soc.、2003年、24巻、12番、1835頁には、過酸化水素を用いた、tmtacnを有するマンガン錯体により触媒されるアルカンの酸化が記載されており、溶媒としてアセトンが使用される。飽和炭化水素の酸化については、Russian Chemical Bulletin、47巻、12番、1998年12月、2379頁に記載されており、溶媒としてアセトニトリルが使用される。アルカンの酸化は、Inorg.Chem.、2007年、46、1315−1331頁において、溶媒として水性アセトニトリル(50%)またはアセトンを使用して実施されていた。2相系で実施された二核のマンガン誘導体の存在下における過酸化水素を用いたデカ−1−エンのエポキシ化は、エポキシドをもたらさなかったが、少量のアセトニトリルの存在下では、373トンのエポキシドを生じた。Journal of Organometallic Chemistry 690(2005年)4498−4504頁参照。Adv.Synth.Catal.2002年、344、899−905頁では、過酸化水素を用いて有機化合物を酸化するための触媒としてMn−TACN誘導体を基にした反応系に関する表が提供されている。一般に溶媒はアセトンまたはアセトニトリルであり、染みの漂白またはフェノール類の酸化において水に言及されたが、水は広範な生成物を作り出すがエポキシドはほとんどまたはまったく作り出さないと考えられている。やはり、この論文の結論は、溶媒としてアセトニトリルは必要であるということのようである。同じ著者であるG.B.Shul’pin等による、溶媒としてのアセトニトリルに関して同じ結論を有する多くの論文がある(Journal of Molecular Catalysis A:Chemical 222(2004年)103−119頁)。Inorg.Chem.1996年、35、6461−6465頁の論文において、過酸化水素を用いたオレフィンの酸化における新規のマンガン触媒の活性について記載された。興味深いことに、オレフィンの酸化に関する研究において、水溶性オレフィンの水溶液中で行われる酸化反応によって、必ずしも対応するエポキシドがもたらされるわけではないということが示された。例えば、対応するエポキシドが反応条件下で十分に安定でなかった場合、ジオールが生成された。しかし、この反応の目的が、これらの溶解性を増大させることにより、染みを漂白することである場合、ならびに布地の汚染物を変色させることおよび/または除去することのいずれかである場合、これはまったく問題にならない。漂白の機序は、実際にJournal of Molecular Catalysis A:Chemical 251(2006年)150−158頁で、さらに研究された。したがって、一般に界面活性剤で利用されているアルカリ性水溶液中で触媒として二核の種を用いると、リグニンの酸化がもたらされる。繰り返すが、この方法は、実際のエポキシド生成に適していないと考えられることに留意すべきである。
エポキシ化を主題としたかなり以前の論文において、溶媒として水の使用が提案されている[Tetrahedron Letter 39(1998年)、3221−3224頁参照]が、すべての反応は、実際にはアセトニトリル中で行われている。
したがって、エポキシドを、溶媒として水を使用して製造することができるか否か、さらには高い転換率で製造することができるか否かは、不明確なままである。
EP0618202には、ある種のマンガン錯体を用いたオレフィンのエポキシ化が記載されている。この方法は、エポキシ化されたオレフィンを回収する段階を含むとされている。この文献によると、エポキシ化は液体溶媒中で、特に水性系中で実施するのが最善である。エポキシ化を水性媒体中で実施する場合、最善の結果は、完全に水に溶ける安息香酸ビニル、酢酸スチリルおよびヘキセン酸等のカルボン酸基およびヒドロキシル基等の水溶性基を有するオレフィンを用いて得られるとされている。これらの水溶性オレフィンに加え、アリルアルコールも反応媒体として水を使用してエポキシ化される。アリルアルコールは水との完全な混和性を有する。適切なオレフィンのさらなるリストが提供されているものの、これらは水性媒体中で用いられるオレフィンではない。実施例において、触媒:オレフィン:過酸化水素比は、一般に1:100:10,000であり、500:1から20:1までの(好ましい)酸化剤対オレフィン比と対応している。興味深いことに、エポキシドの収率に関するデータは提供されていないが、これは、本明細書のはじめの方で報告した学術研究に基づいて推察されることだが、おそらくオレフィンが対応するエポキシドに転換するだけでなく、(またはそれ以上に)対応するジオールにも転換していることを示唆している。
国際公開第2004/048353号 欧州特許出願公開第0618202号明細書
Tetrahedron Letters 43(2002年)2619−2622頁 Journal of Molecular Catalyst A:Chemical 185(2002年)71−80頁 Journal of Oganometallic Chemistry 520(1996年)195−200頁 Angew.Chem.Int.Ed.、1999年、38頁、7番 Bull.Korean Chem.Soc.、2003年、24巻、12番、1835頁 Russian Chemical Bulletin、47巻、12番、1998年12月、2379頁 Inorg.Chem.、2007年、46、1315−1331頁 Journal of Organometallic Chemistry 690(2005年)4498−4504頁 Adv.Synth.Catal.2002年、344、899−905頁 G.B.Shul’pin等、Journal of Molecular Catalysis A:Chemical 222(2004年)103−119頁 Inorg.Chem.1996年、35、6461−6465頁 Journal of Molecular Catalysis A:Chemical 251(2006年)150−158頁 Tetrahedron Letter 39(1998年)、3221−3224頁
上記のように、産業界は今でもターンオーバー数が高く選択性が高い、つまりジオール等の副生成物を実質的に生じない、商業的に実現可能な1,2−エポキシドの製造方法を探していることは明らかである。また、この方法では、アセトニトリルおよび類似の有機溶媒に関する環境問題ならびに他の問題を避けるために、反応媒体として水性溶媒を使用できるようにすべきである。本発明は、これらの不利点を克服する。
(発明の開示)
したがって、本発明は、触媒酸化が有機相および水性反応媒体を含む2相系で実施され、水溶性マンガン錯体が酸化触媒として用いられ、末端オレフィンが20℃における水1リットル当たり少なくとも0.01から100gの限られた溶解性で用いられ、末端オレフィン対過酸化水素のモル比が1:0.1から1:2までの範囲内である、過酸化水素を用いた末端オレフィンの触媒酸化による1,2−エポキシドの製造方法を提供する。
本明細書において、エポキシ化および酸化という語句は、同じ反応、つまり炭素−炭素二重結合をオキシラン環に転換する反応を意味する。酸化およびエポキシ化は、例えば漂白の場合において、ジオールおよびその他の誘導体の調製をもたらすこともできるが、これらは本発明においては望ましくないものとみなす。
この後に、本発明をより詳細に論じる。
酸化触媒として用いることのできる水溶性マンガン錯体については、多くの適切な錯体が知られている。
一般に、触媒は、1つまたは複数の配位子と配位している1つまたはいくつかのマンガン原子を含む。(1つまたは複数の)マンガン原子は、II、IIIまたはIVの酸化状態でよく、反応中に活性化することができる。特に興味深いのは、本特許出願の導入部に記載した公開特許文献に記載されているような二核のマンガン錯体である。したがって、適切なマンガン錯体には、一般式(I)の一核の種:
[LMnX]Y (I)
および一般式(II)の二核の種:
[LMn(μ−X)MnL]Y (II)
を含む。
式中、Mnはマンガンであり;Lまたは各Lは独立に多座配位子であり、好ましくは3個の窒素原子を有する環式または非環式の化合物であり;各Xは独立に配位種であり、各μ−Xは独立に架橋配位種であり、前記配位種および前記架橋配位種は、それぞれ独立にRO、Cl、Br、I、F、NCS、N 、I 、NH、NR、RCOO、RSO 、RSO 、OH、O 2−、HOO、HO、SH、CN、OCNおよびS 2−ならびにそれらの組合せ(Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジルおよびそれらの組合せからなる群から選択されるC−C20の基である。)からなる群から選択され;Yは酸化的に安定した対イオンである。対イオンであるYは、例えば、RO、Cl、Br、I、F、SO 2−、RCOO、PF 、酢酸、トシレート、トリフレート(CFSO )およびそれらの組合せ(Rは、前述と同様に、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジルおよびそれらの組合せからなる群から選択されるCからC20の基である。)からなる群から選択される陰イオンとすることができる。いくつかの陰イオンは他の陰イオンより好ましいが、陰イオンの種類はあまり重要ではない。好ましい対イオンは、PF である。
本発明に適切な配位子は、骨格に少なくとも7個の原子を含む非環式化合物、または環に少なくとも9個の原子を含む環式化合物であり、各非環式化合物または環式化合物は、少なくとも2個の炭素原子で分離された窒素原子を含む。配位子の好ましいクラスは、(置換された)トリアザシクロノナン(「Tacn」)に基づくものである。好ましい配位子は、例えばAldrich社から市販されている、1,4,7−トリメチル−1,4,7,−トリアザシクロノナン(「TmTacn」)である。この点について、マンガン触媒の水溶性は、すべての前述の触媒成分に依存することに留意することが大切である。例えば、MnSOおよびTmTacnから調製された一核のマンガン錯体は、十分に溶けないことがわかった。
活性および水溶性がより高いことから、二核のマンガン錯体が好ましい。好ましい二核のマンガン錯体は、式[MnIV (μ−O)]Y(式中、LおよびYは上記で定義した意味を有する。)のものであり、好ましくは配位子がTmTacn、対イオンがPF または酢酸(CHCO 、以下OAc)のものである。
本発明によれば、マンガン錯体は、直接、または溶媒である不溶性の担体表面に吸着された形で使用されてよい。限定するものではなく説明するためのこれらの基質の例は、構造アルミノケイ酸(例えば、ゼオライトA、フォージャス沸石および方ソーダ石)、無定形アルミノケイ酸、無水ケイ酸、アルミナ、木炭、微孔性のポリマー樹脂(例えば、高い内部相乳化技術により形成されたポリスチレンビーズ)および粘土(特にヘクトライトおよびヒドロタルサイト等の層状粘土)である。マンガン錯体対担体の相対重量比は、約10:1から約1:10,000の範囲のいずれでもよい。
マンガン錯体は、触媒として有効な量を用いる。一般に、触媒は、触媒(Mn)対末端オレフィンのモル比が1:10から1:100,000で用い、好ましくは1:20から1:10,000で用い、最も好ましくは1:50から1:1000で用いる。便宜的に、触媒の量は、水性媒体の体積に留意した場合、濃度で表わしてもよい。例えば、(Mnを基準として)0.01から10mmol/Lのモル濃度で用いることができ、好ましくは0.1から7mmol/Lのモル濃度で用いることができ、最も好ましくは0.7から2mmol/Lのモル濃度で用いることができる。この点について、エポキシ化は、触媒の濃度が第一であり、触媒の量に比例することに留意することも大切である。触媒の量の増大に伴い、活性も増大する。しかし、量が増大すればするほど、より高額の費用でバランスを取らなければならない。
一般に、水性反応媒体は溶解したエポキシドおよび/または末端オレフィン、ならびに含まれるのであれば、25体積%未満の、好ましくはごく少量の他の有機化合物を含有する水相である。好ましくはないが、反応媒体は、メタノールおよびアセトン等の少量の共溶媒を含んでもよい。エポキシドおよび/または末端オレフィンの存在を除けば、水性反応媒体は、少なくとも90体積%、好ましくは95%v、より好ましくは99%v、さらにより好ましくは99.9%vの水を適切に含む。しかし、最も好ましくは、水性反応媒体は本質的に100%の水相である。
水性反応媒体は、pHを安定させるために緩衝系を含んでもよい。例えば、水性反応媒体は、pHの範囲が2.5から8の間、好ましいpHの範囲は3から7の間、最も好ましくは3.5から6.5の間で適切に安定することがわかった。したがって、pHは、一般によりアルカリ性の条件で行うオレフィンの漂白時(例えば、pHをNaHCOを用いて9.0に調整する。)に使用するpHより(十分に)低い。適切なまたは好ましい範囲は、いくつかの既知の酸−塩の組合せにより達成することができ、好ましい組合せはシュウ酸−シュウ酸塩を基にした組合せである。シュウ酸とシュウ酸ナトリウムを使用した場合、pH比は3.7から4.2の間で変化し得る。一般に、この緩衝剤は、触媒に対するモル比約10:1で使用できるが、量は、例えば1:1から100:1の範囲で大幅に変化し得る。
また、水性反応媒体は、特に末端オレフィンが低い溶解性で(例えば、水中に0.1g/L未満)用いられる場合、相移動剤および/または界面活性剤を含んでもよい。本発明の方法で使用できる既知の相移動剤には、第四級アルキルアンモニウム塩が含まれる。本発明の方法で使用できる既知の界面活性剤には、Union Carbide社が市販するTriton X100(商標)等の非イオン界面活性剤が含まれる。
触媒酸化の反応条件は、当業者には即座に特定できるものである。圧力は特段の関連性はない。反応は発熱を伴い、反応媒体の冷却が必要となることがある。好ましくは、反応は−5℃から30℃まで、好ましくは0℃から20℃まで、最も好ましくは0℃から10℃までの範囲のいずれかの温度で実施する。
本発明の方法において特に重要なのは、本方法が2相系で実施されることである。この定義には、1,2−エポキシドおよび末端オレフィンが分離相を形成する場合における多相系が含まれる。反応が、2相系で、この後に定義する溶解性が限られた末端オレフィンを用いて、さらには過酸化水素対末端オレフィンの適切なモル比で実施されるという理由により、本発明者らは、高い転換率で、1,2−エポキシドに対する高い選択性で、さらに生成された1,2−エポキシドの分離がより容易な方法で、対応する1,2−エポキシドを生成することに成功した。2相系は、反応媒体に溶解する量より多い量の(反応剤としての)末端オレフィンを添加することにより生じさせた。また、2相系は、末端オレフィンを対応する1,2−エポキシドに転換し、次いで反応媒体から分離して有機相を形成することにより生じさせることもできる。最適の結果を確実にもたらすために、反応剤の添加は水性媒体に行わなければならず、可能であれば、撹拌の際に生成された1,2−エポキシドを逆撹拌することは、好ましくは避けるべきである。
実施例として、この後に塩化アリル(「AC」)のエピクロロヒドリンへの転換について論じるが、実際には、下部にECHが豊富だと考えられている有機相を有する一方で、上部に出発物質である塩化アリルが豊富である有機相も有する3層系がもたらされる。この場合、反応系の混合または撹拌は、好ましくは下層を実質的には撹乱しないままにするように行うべきである。
繰り返すが、反応を2相系で実施するために、末端オレフィンの水性反応媒体中の溶解性は限られたものでなくてはならない。したがって、前述のEP0618202で用いられた4−安息香酸ビニル、酢酸スチリル、トランス−3−ヘキセン酸、トランス−2−ヘキセン酸またはアリルアルコールはすべて水に可溶であるため、本発明の範囲から外れる。かなり驚くべきことだが、塩化アリルまたは酢酸アリルの溶解性は限られたものでしかない一方で、アリルアルコールは水との十分な混和性を有しているにもかかわらず、本発明者らは、実際にアリルアルコールを用いた場合と比較して、塩化アリルまたは酢酸アリルを用いた場合に、より高い転換率で、より大量の1,2−エポキシドが生成されることを発見した。一方で、いくらかの溶解性は必要である;非置換α−オレフィン(1−オクテン等)の転換は、本発明の方法では成功できない。したがって、適切な末端オレフィンは、0.01から100g/Lまで、より好ましくは0.1から50g/Lまで、最も好ましくは0.5から20g/Lまでの範囲の溶解性(20℃における水1リットル当たりのグラム数で表示)を有する。適切な末端オレフィンの例には、分子に3個から8個の炭素原子を有するハロゲン化オレフィン、分子に4個から6個の炭素原子を有するヒドロキシル置換オレフィン、分子に3個から6個の炭素原子を有するカルボニル置換オレフィン、分子に3個から8個の炭素原子を有するアルコキシ置換オレフィン、7個から8個の炭素原子を有するアルケン酸および合計で4個から8個の炭素原子を有するアルケン酸エステル、3個から8個の炭素原子を有するアルカン酸アリルエステル等が含まれる。特に(商業上の)妥当性があるものは、臭化アリル(4g/Lの溶解性)、塩化アリル(3.6g/Lの溶解性)および酢酸アリル(約10g/Lの溶解性)である。また、適切で、ほぼ同等の溶解性を有するものは、プロピオン酸アリル、ブタン酸アリル、ヘキサン酸アリル、オクタン酸アリル、デカン酸アリル、ステアリン酸アリル、パルミチン酸アリル、サリチル酸アリル、乳酸アリルおよびコハク酸アリルである。好ましい末端オレフィンは、塩化アリル(この後論じるように、商業上の利点および生成物の分離し易さという理由により)および酢酸アリルである。上述のオレフィン単量体に加えて、例えばグルタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、ピメリン酸ジアリル、シュウ酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリルおよびイソフタル酸ジアリル等のオレフィン二量体も用いることができる。
本発明の触媒酸化は、酸化剤として過酸化水素を用いて実施する。他の酸化剤も、すなわち過酸化水素の前駆体として用いることができるが、入手の可能性に鑑みて、また環境に対する影響を軽減するために、過酸化水素が好ましい酸化剤である。過酸化水素は強い酸化特性を有する。これは漂白剤として主に紙の漂白に使用される。これは一般に水溶液中で使用される。過酸化水素の濃度は、15%(例えば、毛髪脱色用の消費者用等級)から98%(推進剤用等級)まで異なり得るものであり、工業用等級に好適な20から60%まで、好ましくは30から50%まで異なり得る。
末端オレフィン対過酸化水素のモル比は、本発明の方法において非常に重要である。過剰な量の過酸化水素が用いられた場合、望ましくない副生成物が生成されるために、1,2−エポキシドの選択性は減少する。十分な量の過酸化水素が用いられなかった場合、転換率は不十分になる。したがって、この点は、過剰な量の過酸化水素が用いられている従来技術に記載されている漂白条件とは大きく異なる。末端オレフィン対過酸化水素のモル比は、1:0.1から1:2までの範囲内であり、より好ましくは0.5:1から1.2:1までの範囲内であり、最も好ましくは約1:1である。最適な過酸化物の効率を確保するために、過酸化水素は、好ましくは触媒酸化の反応速度とほぼ同じ速度で水性反応媒体に添加する。
触媒酸化はバッチ法、連続法または半連続法で実施することができる。実際には、方法は、本発明の主旨から逸脱することなく様々な点を修正することができる。
一般の実施例として、塩化アリルの触媒酸化を、以下に説明する。
触媒酸化は、例えば上部経路から下部まで幅広く撹拌する手段を備えた一般的な連続撹拌槽型反応器で実施することができるが、ECHが豊富な有機相を含有している下部はほとんど撹乱しないままとする。例えば、これは、バッチ反応器で約250rpmの撹拌速度で動作する、翼を上昇させた一般的な翼付きの撹拌器でよい。触媒、水性反応媒体および反応剤はバッチに投入してもよく、または反応剤は反応時間中に投入してもよい。本発明の方法の結果、ECHは分離した下層として形成され、(浴)反応の終了時に取り出すことも容易であるし、継続的に取り出すことも容易である。過酸化水素を反応中に添加する場合は、これを塩化アリルを含む(撹拌中の)有機相、または(撹拌中の)水性反応媒体のいずれかに添加する。
(半)連続動作では、反応条件を制御し(−5℃から10℃の間に温度を維持する。)、生成率を最適化するために、様々な再利用の流れを使用することができる。
方法の設計に関しては、ECHの重力分離を最適化するために沈降促進剤を添加することができる。同様に、触媒の損失を減らした水性反応媒体を再利用するために膜分離装置を使用することができる。
本発明における反応方法の物質収支の一例は以下の通りである。
ECH 約11000kg/h
AC 約9100kg/h
(35%) 約6457kg/h
O 約2140kg/h
この物質収支の結果によると、ECH/cat比は約8000mol/molである。
以下の実施例は、本発明の選択した実施形態をより十分に説明するものである。本明細書および添付の特許請求の範囲に記載のすべての部、百分率および割合は、別段の指示がない限り、重量によるものである。
(実施例)
以下の式の触媒を用いて、触媒酸化を実施した。
Figure 2011529862
また、酸化剤としての35%水性Hおよび水性反応媒体としての水と共に、シュウ酸塩/シュウ酸の緩衝剤も使用する。実験は末端オレフィンとして塩化アリルを用いて実施する。
実験
一般的なエポキシ化の反応において、水50mL中の触媒0.0093mmol、HO7.5mL中のシュウ酸ナトリウム112.5μmolおよびHO7.5mL中のシュウ酸112.5μmolを、機械式撹拌器を備えた三つ口丸底フラスコに取り入れた。オレフィン(150mmol)および希H(200mmol)を添加して、4℃で反応を開始した。
追加の水10mLを反応の溶媒として添加した。酸化剤を反応溶液中に8.8mL/hrの流入条件で添加した。反応溶液のpHは3.5から3.6であり、撹拌速度は機械式撹拌器を用いて実験の多くで210rpmを維持した。
結果および考察
マンガン錯体は、溶媒として水を用いて効率的にECHを生成した。溶媒として水を用いたエポキシ化の間、反応初期に、ACは水性触媒溶液の上部に分離層として存在する。エポキシ化が進むにつれ、いくらかのACが分離相に溶解するのに伴い、ECH(より高密度を有する。)が下部に分離した。したがって反応系は上相から下相まで3相、有機(主にAC)相、水相およびもう1つの有機(主にECH)相を形成した。反応の終了時に、上相および下相の両方の有機断片は多量のECHおよびACを構成した。微量のACおよびECHは、水断片にも認められた。
この実施例は、オレフィンを基に50%の収率でエポキシドを供給し、40%の過酸化水素の選択性で7800トンを生成した。顕著な量のジオールまたは他の副産物は生成されなかった。
実施例1の方式で様々な実験を実施した。様々な撹拌速度でACのエポキシ化を行った結果を表1に示す。
Figure 2011529862
この実施例は、エポキシドの収率が、下層が撹乱するまで撹拌速度に伴って増大することを示している。
様々なオレフィンのエポキシ化
上記のマンガン錯体を用いて実施した様々なオレフィンのエポキシ化反応を、実施例1に記載の方式で実施した。この結果を表2に示す。
Figure 2011529862
この実施例は、溶解性が限られたままである場合、エポキシドの収率およびターンオーバー数は溶解性の結果に伴って増大することを説明するものである。この実施例の1番および4番は対照例である。
触媒の量の変化
酢酸アリルのエポキシ化を、実施例1の方式を用いるが触媒の量を変化させて実施した。この実施例は、触媒の量を増加することによりエポキシドの生成量が増大し、それゆえ時間を短縮することができることを説明している。最善の実験において、酢酸アリルは92%の収率で、0.5時間で、95%の効率で酢酸グリシジル(GLAc)に転換された。結果は以下の表に含まれる。
Figure 2011529862
pHの効果
前の実験では、エポキシ化の反応を約3.5から3.6の低いpHで実施した。以下に、本発明者らは、触媒は、シュウ酸のみが存在するpH=2.6の酸性条件、およびシュウ酸ナトリウムのみが存在するpH=8の塩基性条件の両条件において活性であったことを示す。これらの結果は、触媒系はACのエポキシ化において幅広いpH範囲で活性であることを立証する。
Figure 2011529862
対イオンの効果
上述の実験では、エポキシ化の反応を、対イオンとしてPF6を有する触媒を用いて実施した。この実験では、対応する[Mn(μ−O)TmTacn](OAc)を用いた。触媒は非常に活性であったが、PF塩を用いた場合と同様の活性を生じさせるためには、2倍の量のシュウ酸塩/シュウ酸の緩衝剤を必要とすることが認められた。この触媒を用いた暫定的な結果を表5に示す。
Figure 2011529862

Claims (17)

  1. 触媒酸化は有機相および水性反応媒体を含む2相系で実施され、水溶性マンガン錯体は酸化触媒として用いられ、末端オレフィンは20℃における水1リットル当たり少なくとも0.01から100gの溶解性で用いられ、末端オレフィン対過酸化水素のモル比は1:0.1から1:2までの範囲内である、過酸化水素を用いた末端オレフィンの触媒酸化による1,2−エポキシドの製造方法。
  2. 触媒が一般式(I)の一核のマンガン錯体:
    [LMnX]Y (I)
    または一般式(II)の二核のマンガン錯体:
    [LMn(μ−X)MnL]Y (II)
    を含む、請求項1に記載の方法
    [式中、Mnはマンガンであり;Lまたは各Lは独立に多座配位子であり、好ましくは3個の窒素原子を有する環式または非環式の化合物であり;各Xは独立に配位種であり、各μ−Xは独立に架橋配位種であり、前記配位種および前記架橋配位種は、RO、Cl、Br、I、F、NCS、N 、I 、NH、NR、RCOO、RSO 、RSO 、OH、O 2−、HOO、HO、SH、CN、OCNおよびS 2−ならびにそれらの組合せ(Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジルおよびそれらの組合せからなる群から選択されるC−C20の基である。)からなる群から選択され;Yは酸化的に安定した対イオンである。]。
  3. 1つまたは複数の配位子が、骨格に少なくとも7個の原子を含む非環式化合物、または環に少なくとも9個の原子を含む環式化合物(各非環式化合物または環式化合物は、少なくとも2個の炭素原子で分離された窒素原子を含む。)から選択される、請求項2に記載の方法。
  4. 二核の水溶性マンガン錯体が触媒として用いられる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 触媒が、触媒(Mn)対末端オレフィンのモル比が1:10から1:100,000、好ましくは1:20から1:10,000、最も好ましくは1:50から1:1000で用いられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 水性反応媒体が水相である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 水性反応媒体が、好ましくは2.5から8.0の範囲内にpHを安定させるために緩衝系を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 反応が−5℃から30℃の範囲内の温度で実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 2相系が、反応媒体に溶解する量より多い量の末端オレフィンを添加することにより、および/または末端オレフィンが対応する1,2−エポキシドに転換し、次いで反応媒体から分離して有機相を形成することにより生じる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 末端オレフィンが、0.01から100g/Lまで、より好ましくは0.1から50g/Lまで、最も好ましくは0.5から20g/Lまでの範囲の溶解性(20℃における水1リットル当たりのグラム数で表示)を有するオレフィンから選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 末端オレフィンが、分子に3個から8個の炭素原子を有するハロゲン化オレフィン、分子に4個から6個の炭素原子を有するヒドロキシル置換オレフィン、分子に3個から6個の炭素原子を有するカルボニル置換オレフィン、分子に3個から8個の炭素原子を有するアルコキシ置換オレフィン、7個から8個の炭素原子を有するアルケン酸および合計で4個から8個の炭素原子を有するアルケン酸エステル、3個から8個の炭素原子を有するアルカン酸アリルエステルから選択される、請求項10に記載の方法。
  12. 末端オレフィンが、臭化アリル、塩化アリル、プロピオン酸アリルおよび酢酸アリルから選択される、請求項10に記載の方法。
  13. 過酸化水素が15%から98%の濃度の水溶液、好ましくは20から60%の濃度の水溶液、より好ましくは30から50%の水溶液として用いられる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
  14. 末端オレフィン対過酸化水素のモル比が1:0.1から1:2の範囲内、より好ましくは0.5:1から1.2:1の範囲内、最も好ましくは約1:1の範囲内である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 過酸化水素が触媒酸化の反応速度とほぼ等しい速度で水性反応媒体に添加される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 触媒酸化がバッチ法、連続法または半連続法で実施される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
  17. 触媒酸化が以下の物質収支に基づいて、反応物として塩化アリル(「AC」)および生成物としてエピクロロヒドリン(「ECH」)で実施される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法
    ECH 約11000kg/h
    AC 約9100kg/h
    (35%) 約6457kg/h
    O 約2140kg/h。
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