<偏光板>
図1は、本発明の偏光板の好ましい一例を示す概略断面図である。本発明の偏光板は、図1に示される偏光板1のように、偏光フィルム2と、偏光フィルム2の一方の面に積層されるプリズム形状またはレンズ形状を表面に有するシート部材3と、光拡散性を有する粘着剤層7とを備え、好ましくは、偏光フィルム2の他方の面に積層される光学補償フィルムまたは保護フィルム5をさらに備える。シート部材3および光学補償フィルムまたは保護フィルム5は、接着剤層(図1における接着剤層4,6)を介して偏光フィルムに積層することができる。
(偏光フィルム)
本発明の偏光板に用いられる偏光フィルム(図1における偏光フィルム2)は、具体的には、一軸延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものである。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、たとえば不飽和カルボン酸類、上記したエチレンをはじめとするオレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常、85〜100モル%程度であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、たとえば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常、1000〜10000程度であり、好ましくは1500〜5000程度である。
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の適宜の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムの膜厚は特に限定されるものではないが、たとえば10〜150μm程度である。
偏光フィルムは、通常、上記したようなポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを二色性色素で染色してその二色性色素を吸着させる工程(染色処理工程)、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程(ホウ酸処理工程)、および、このホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程(水洗処理工程)を経て、製造される。
偏光フィルムの製造に際し、通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは一軸延伸されるが、この一軸延伸は、染色処理工程の前に行なってもよいし、染色処理工程中に行なってもよいし、染色処理工程の後に行なってもよい。一軸延伸を染色処理工程の後に行なう場合において、この一軸延伸は、ホウ酸処理工程の前に行なってもよいし、ホウ酸処理工程中に行なってもよい。勿論、これらの複数の段階で一軸延伸を行なうことも可能である。一軸延伸は、周速の異なるロール間で一軸に延伸するようにしてもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸するようにしてもよい。また、大気中で延伸を行なう乾式延伸であってもよいし、溶剤にて膨潤させた状態で延伸を行なう湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
染色処理工程におけるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬することによって行なわれる。二色性色素としては、たとえばヨウ素、二色性染料などが用いられる。二色性染料には、たとえば、C.I.DIRECT RED 39などのジスアゾ化合物からなる二色性直接染料、トリスアゾ、テトラキスアゾ化合物などからなる二色性直接染料が包含される。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、通常、水100重量部あたり0.01〜1重量部であり、ヨウ化カリウムの含有量は、通常、水100重量部あたり0.5〜20重量部である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1800秒である。
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は、通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は、通常、水100重量部あたり1×10-4〜10重量部、好ましくは1×10-3〜1重量部であり、特に好ましくは1×10-3〜1×10-2重量部である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を染色助剤として含有していてもよい。二色性色素として二色性染料を用いる場合、染色に用いる染料水溶液の温度は、通常20〜80℃であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1800秒である。
ホウ酸処理工程は、二色性色素により染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬することにより行なわれる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部、好ましくは5〜12重量部である。上述した染色処理工程における二色性色素としてヨウ素を用いた場合には、このホウ酸処理工程に用いるホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。この場合、ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの量は、水100重量部あたり、通常0.1〜15重量部、好ましくは5〜12重量部である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常、60〜1200秒、好ましくは150〜600秒、さらに好ましくは200〜400秒である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃、より好ましくは60〜80℃である。
続く水洗処理工程では、上述したホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、たとえば水に浸漬することによって水洗処理する。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃であり、浸漬時間は、通常1〜120秒である。水洗処理後は、通常、乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。乾燥処理は、たとえば熱風乾燥機、遠赤外線ヒータなどを用いて行なうことができる。乾燥処理の温度は、通常、30〜100℃、好ましくは50〜80℃である。乾燥処理の時間は、通常60〜600秒、好ましくは120〜600秒である。
こうして、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、ホウ酸処理および水洗処理を施して、偏光フィルムが得られる。この偏光フィルムの厚みは、通常、5〜40μmの範囲内である。
(シート部材)
本発明の偏光板に用いられるシート部材(図1におけるシート部材3)は、プリズム形状またはレンズ形状を一方の表面に有する。このようにシート部材3の表面形状をプリズム状またはレンズ状とすることで、その表面、もしくは、内部に、光の向きを意図的に変える(偏向させる)機能を付与することができる。またシート部材は保護フィルムとしての役割を果たす。
ここで、「プリズム形状」とは、三角形状の直線(曲線を含んでいてもよい)からなる形状を平行移動させた軌跡で示される平面または曲面を一方向に配列した形状を主として指す。このようなプリズム形状の例として、たとえば図2に示すような、二等辺三角形を平行移動させた軌跡で示される平面を一方向に配列した形状が挙げられる。また、プリズム形状における断面三角形状は、上述したように曲線を含んでいてもよく、たとえば鋸刃状のような形状や、断面三角形状の頂点付近が丸く形成された形状などもプリズム状に包含される。さらには、本発明でいう「プリズム形状」には、上述した定義には厳密には含まれないが、その断面が正弦波のような波状のものも包含されるものとする。
シート部材の表面形状がプリズム形状である場合、互いに隣り合う断面三角形状であるプリズムの頂点の角度(頂角)は、プリズムに入射する光を集光するために、30〜100°の範囲内であることが好ましく、より好ましくは40〜75°の範囲内である。プリズムの高さ(プリズム底面と頂点との間の垂直方向に沿った直線距離)は、シート部材の取り扱いの容易さのために、10〜200μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは、15μm以上100μm以下である。また、プリズム形状の稜線のピッチ間隔(隣り合うプリズムの稜線間の最短距離)は、前記の頂角および高さを満たすために、5〜300μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは、10μm以上100μm以下である。
シート部材の表面に存在するプリズム形状は、前述した範囲内であるかぎり、異なる複数の頂角、ピッチ間隔または高さを有するプリズムを含んでいてもよい。また、シート部材が有する複数のプリズムは、連続して配置されていてもよく、一定の間隔を設けて配置されてもよい。プリズム間に形成される溝(隣り合うプリズム間に形成される谷部の底辺または平坦部(底面)を意味する)の形状は、図2に示したような直線状であってもよいし、少なくとも一部に曲線状の領域を含んでいてもよい。
また、本発明でいう「レンズ形状」とは、円弧状の曲線(直線を含んでいてもよい)からなる形状を平行移動させた軌跡で示される曲面または平面を一方向に配列した形状、あるいは、円状(真円状、楕円状のいずれであってもよい)、方形状(正方形状、矩形状のいずれであってもよい)、三角形状、六角形状などの底面を有するドーム状の曲面を縦横に配列した形状などを主として指す。このようなレンズ形状の例として、たとえば図3に示すような円弧状を平行移動させた軌跡で示される曲面を一方向に配列した形状(いわゆるレンチキュラーレンズ)、図4に示すような円状の底面を有するドーム状(すなわち凸レンズ状)の曲面を縦横に配列した形状や図5に示すような方形状の底面を有するドーム状の曲面を縦横に配列した形状(いわゆる二次元レンズアレイ)などが挙げられる。また、本発明でいうレンズ形状には、前述した定義には厳密には含まれないが、図6に示すような種々の角度を有する平面が組み合わされた多面体形状(図6に示す例では、四角錘状のピラミッド構造を並べた構造)や、いわゆるフレネルレンズまたはその変形の形状をしたものを多数配置した形状も包含される。
シート部材の表面形状がレンズ形状である場合、レンズ形状の稜線のピッチ間隔(隣り合うレンズの稜線間の最短距離)は、10〜200μmの範囲内であることが好ましい。レンズの高さ(レンズ底面と頂点との間の垂直方向に沿った直線距離)は、5〜100μmの範囲内であることが好ましい。
シート部材の表面に存在するレンズ形状は、前述した範囲内であるかぎり、異なる複数のピッチ間隔または高さを有するレンズを含んでいてもよい。また、シート部材が有する複数のレンズは、連続して配置されていてもよく、一定の間隔を設けて配置されてもよい。シート部材の表面形状が、たとえばレンチキュラーレンズ状である場合、レンズ間に形成される溝の形状は、図3に示したような直線状であってもよいし、少なくとも一部に曲線状の領域を含んでいてもよい。
先にも述べたとおり、シート部材が有するプリズム形状またはレンズ形状は、稜線に直交する方向に隙間なく連続して形成されてもよいし、一定の間隔を置いて形成されてもよい。図7は、プリズム形状を表面に有するシート部材を例に、稜線に直交する方向の断面が取りうる二つの形態を拡大して示す概略図である。図7の(A)に示す形態は、シート部材3の稜線に直交する断面において、プリズム形状が隙間なく連続して形成されているものである。図7の(B)に示す形態は、シート部材3の稜線に直交する断面において、隣り合うプリズム形状の間に形成される谷部56に平坦部57を有するものである。
図7においては、プリズム形状を構成する断面三角形が同じ形状であるとして、一つのプリズム50の頂部(三次元形状で表すと図2に示される稜線となる部分)51から、隣り合う次のプリズム53の頂部54までの間隔、すなわち稜線のピッチ間隔を符号Pで表している。その他、先に説明した頂角は符号θで、プリズムの高さは符号hで、そしてシート部材3の一方の面を構成する平坦面59からプリズムの頂部51,54までの距離を意味する厚みは符号Tでそれぞれ表している。
図7の(B)に示すような、隣り合うプリズム形状の間に形成される谷部56に平坦部57を有する場合は、その平坦部57を挟んで、一つのプリズム50の頂部51から隣り合う次のプリズム53の頂部54までの距離が、稜線のピッチ間隔Pとなる。このように谷部56に平坦部57を有する場合でも、一つのプリズム50の斜面50aの終点52(斜面50aと平坦部57との接点に相当する)から隣り合う次のプリズム53の斜面53aの立ち上がり位置に相当する斜面の始点55(斜面53aと平坦部57との接点に相当する)までの距離d(平坦部57の幅に相当する)は、プリズム形状の稜線のピッチ間隔Pに対して30%以下となるようにするのが好ましく、さらには10%となるようにするのがより好ましい。これは、たとえばプリズム形状の稜線のピッチ間隔Pが50μmであれば、平坦部57の幅dが、15μm以下、さらには5μm以下であるのが好ましいことを意味する。一つのプリズム50の斜面の終点52から隣り合う次のプリズム53の斜面の始点55までの距離d(平坦部57の幅)が、プリズム形状の稜線のピッチ間隔Pに対して30%以下であれば、良好な離型性を維持しながらシート部材3を製造することができ、得られるシート部材の光学特性にも大きな影響を与えない。一方、この距離(幅)dがプリズム形状の稜線のピッチ間隔Pに対して30%を超えると、得られるシート部材を偏光フィルムに貼り合わせて偏光板とし、それを液晶表示装置に適用したとき、輝度などの光学特性に悪影響を与えることがある。
ここでは図7を参照し、シート部材3がプリズム形状を有する場合を例にして説明したが、図3に示すようなレンズ形状を有する場合も同様であり、そのレンズ形状は谷部に平坦部を有していてもよいが、一つのレンズの斜面の終点から、隣り合う次のレンズの斜面の始点までの距離(平坦部の幅)が、レンズ形状の稜線のピッチ間隔に対して30%以下、さらには10%となるようにするのが好ましい。レンズ形状が谷部に平坦部を有する形態は、図7の(B)を参照して、そのプリズム形状をレンズ形状に変えるだけで、容易に理解できるであろう。
シート部材の材質は、公知の各種材料を用いることができる。たとえば、ポリエチレンやポリプロピレン等の鎖状ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、メタクリル酸メチル系樹脂等のアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体、アクリロニトリル−スチレン系共重合体などの合成高分子、二酢酸セルロース樹脂、三酢酸セルロース樹脂などの天然高分子が使用できる。中でも、透明性、透湿性および生産性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体、アクリロニトリル−スチレン系共重合体のいずれかの熱可塑性樹脂が好適である。シート部材は、これらの熱可塑性樹脂から選択される1種のみからなっていてもよく、2種以上の熱可塑性樹脂からなっていてもよい。またこれらの熱可塑性樹脂は、必要に応じて、紫外線吸収剤や酸化防止剤、可塑剤などの添加剤を含有することができる。
シート部材は、これらの透明熱可塑性樹脂を基材として、フォトポリマープロセス法、異形押出法、プレス成形法、射出成形法、ロール転写法、レーザーアブレーション法、機械切削法、機械研削法などの公知の方法で製造することができ、これらの方法をそれぞれ単独で使用するか、あるいは2種以上の方法を組み合わせて使用することができる。
シート部材の厚みは特に限定されないが、偏光板の薄肉化の観点から、20〜200μmの範囲内であることが好ましく、さらには30〜100μmの範囲内であることがより好ましい。ここでいうシート部材の厚みとは、そのシート部材の一方の面を構成する平坦面(プリズムまたはレンズ形成面とは反対側の面)から、プリズム形状やレンズ形状における頂部までの最短距離を意味する。
(光学補償フィルム、保護フィルム)
図1に示される例のように、偏光フィルム2におけるシート部材3が積層される面とは反対側の面には、接着剤層6を介して、光学補償フィルムまたは保護フィルム5を積層してもよい。
光学補償フィルムまたは保護フィルム5(後述する図8に示される光学補償フィルムまたは保護フィルム15についても同様)は、偏光板の分野で保護フィルムまたは光学補償フィルムとして知られている各種の樹脂で構成することができる。そのような樹脂の例として、メタクリル酸メチル系樹脂等のアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂やポリブチレンテレフタレート系樹脂等のポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体、アクリロニトリル−スチレン系共重合体、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、透明性や偏光フィルムとの接着性を阻害しない範囲で、添加物を含有することができる。
これらの樹脂をフィルム状に製膜して保護フィルムとすることができるほか、製膜された熱可塑性樹脂フィルムにさらに延伸処理を施すこともできる。延伸処理が施されたフィルムは、樹脂の種類に応じて、光学補償を目的としない保護フィルムとして用いられることもあるし、所定の位相差が付与され、光学補償フィルムとして用いられることもある。延伸は、MD(流れ方向)またはTD(流れ方向に直交する方向)に延伸する一軸延伸、MDおよびTDの双方に延伸する二軸延伸、MDでもTDでもない方向に延伸する斜め延伸など、いずれの方法で行なってもよい。光学補償フィルムは、このような熱可塑性樹脂フィルムの延伸によって形成することができるほか、基材フィルムに位相差調整機能を有する化合物(たとえば液晶性化合物)を塗布することによって形成することもできる。
光学補償フィルムまたは保護フィルム5をアクリル系樹脂で構成する場合、このアクリル系樹脂は、一般にメタクリル酸メチルを主な構成モノマーとする樹脂であるが、必要に応じてゴム粒子が配合されたものであってもよい。ゴム粒子が配合されたアクリル系樹脂は、靭性が高くなり、フィルムの薄肉化を可能にする。
光学補償フィルムまたは保護フィルム5をポリエチレンテレフタレート系樹脂で構成する場合、このポリエチレンテレフタレート系樹脂は、繰返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートで構成される樹脂であり、他の共重合成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。他の共重合成分としては、イソフタル酸、4,4’−ジカルボキシジフェニール、4,4’−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス(4−カルボキシフェニル)エタン、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、1,4−ジカルボキシシクロヘキサン等のジカルボン酸成分;プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオール成分が挙げられる。これらのジカルボン酸成分やジオール成分は、必要により2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、上記カルボン酸成分やジオール成分とともに、p−ヒドロキシ安息香酸やp−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸を併用することも可能である。他の共重合成分として、少量のアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合等を含有するジカルボン酸成分および/またはジオール成分が用いられてもよい。
ポリエチレンテレフタレート系樹脂をフィルム化した後、延伸処理を施したものを保護フィルムとして用いることにより、機械的性質、耐溶剤性、耐スクラッチ性、コストなどに優れるとともに、厚みが低減された偏光板を得ることができる。
光学補償フィルムまたは保護フィルム5をセルロース系樹脂で構成する場合、このセルロース系樹脂は、セルロースの部分エステル化物または完全エステル化物であることができ、たとえば、セルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、およびそれらの混合エステルなどを挙げることができる。より具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが挙げられる。このようなセルロース系樹脂を製膜してフィルムとする際には、溶剤キャスト法、溶融押出法などの公知の方法が適宜用いられる。セルロースエステル系樹脂フィルムの市販品としては、たとえば、富士フイルム(株)から販売されている「フジタックTD80」、「フジタックTD80UF」および「フジタックTD80UZ」、コニカミノルタオプト(株)から販売されている「KC8UX2M」および「KC8UY」などがある。
また、セルロース系樹脂フィルムからなる光学補償フィルムとしては、たとえば、上記セルロース系樹脂フィルムに位相差調整機能を有する化合物を含有させたフィルム;セルロース系樹脂フィルム表面に位相差調整機能を有する化合物を塗布したフィルム;セルロース系樹脂フィルムを一軸延伸または二軸延伸して得られるフィルムなどが挙げられる。市販のセルロース系樹脂フィルムからなる光学補償フィルムとしては、たとえば、富士フイルム(株)から販売されている「WV BZ 438」および「WV EA」、新日本石油(株)から販売されている「NHフィルム」および「LCフィルム」、コニカミノルタオプト(株)から販売されている「KC4FR−1」および「KC4HR−1」などがある。
セルロース系樹脂フィルムからなる保護フィルムまたは光学補償フィルムの厚みは特に制限されないが、20〜90μmの範囲内であることが好ましく、30〜90μmの範囲内であることがより好ましい。厚みが20μm未満である場合には、フィルムの取扱いが難しく、一方、厚みが90μmを超える場合には、加工性に劣るものとなり、また、得られる偏光板の薄肉化および軽量化において不利である。
光学補償フィルムまたは保護フィルム5をポリオレフィン系樹脂で構成する場合、このポリオレフィン系樹脂は、ノルボルネンや他のシクロペンタジエン誘導体等の環状オレフィンモノマーの重合によって得られる環状オレフィン系樹脂、またはエチレンやプロピレン等の鎖状オレフィンモノマーの重合によって得られる鎖状オレフィン系樹脂であることができる。
ここでいう環状オレフィン系樹脂には、たとえば、シクロペンタジエンとオレフィン類からディールス・アルダー反応によって得られるノルボルネンまたはその誘導体をモノマーとして開環メタセシス重合を行ない、それに続く水添によって得られる樹脂;ジシクロペンタジエンとオレフィン類または(メタ)アクリル酸エステル類からディールス・アルダー反応によって得られるテトラシクロドデセンまたはその誘導体をモノマーとして開環メタセシス重合を行ない、それに続く水添によって得られる樹脂;ノルボルネン、テトラシクロドデセン、それらの誘導体類、またはその他の環状オレフィンモノマーを2種以上用いて同様に開環メタセシス共重合を行ない、それに続く水添によって得られる樹脂;前記のノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはそれらの誘導体に、ビニル基を有する芳香族化合物および/または脂肪族不飽和化合物を付加共重合させて得られる樹脂などが包含される。
市販の熱可塑性環状オレフィン系樹脂としては、ドイツのTOPAS ADVANCED POLYMERS GmbH社から販売されている「Topas」、JSR(株)から販売されている「アートン」、日本ゼオン(株)から販売されている「ゼオノア(ZEONOR)」および「ゼオネックス(ZEONEX)」、三井化学(株)から販売されている「アペル」(いずれも商品名)などがあり、これらを好適に用いることができる。このような環状オレフィン系樹脂を製膜して、フィルムを得ることができる。製膜方法としては、溶剤キャスト法、溶融押出法など、公知の方法が適宜用いられる。また、たとえば、積水化学工業(株)から販売されている「エスシーナ」および「SCA40」、日本ゼオン(株)から販売されている「ゼオノアフィルム」、JSR(株)から販売されている「アートンフィルム」(いずれも商品名)などの製膜された環状オレフィン系樹脂フィルムも市販されており、これらも好適に使用することができる。
環状オレフィン系樹脂フィルムからなる光学補償フィルムまたは保護フィルムの厚みは、厚すぎると、加工性に劣るものとなり、また、透明性が低下したり、偏光板の薄肉化および軽量化において不利になったりすることから、10〜100μm程度の範囲にあるのが好ましく、さらには20〜80μmの範囲にあるのがより好ましい。
一方、鎖状オレフィン系樹脂を光学補償フィルムまたは保護フィルムとすることもできる。なかでもポリプロピレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂を保護フィルムまたは光学補償フィルムとして選択すれば、以下のような優位点がある。すなわち、ポリプロピレン系樹脂は、光弾性係数が2×10-13cm2/dyne前後と小さいため、液晶表示装置としたときに、表示域の光抜けが小さく、透湿度も低い。また、ポリプロピレン系樹脂フィルムの偏光フィルムに対する接着性は、トリアセチルセルロースフィルムほどではないにしても良好であり、公知の各種接着剤を用いた場合に、ポリプロピレン系樹脂フィルムが十分な強度でポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに接着する。
ポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって、製造することができる。公知の重合用触媒としては、たとえば、次のようなものを挙げることができる。
(1)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒など。
これら触媒系の中でも、偏光板の光学補償フィルムまたは保護フィルムとして用いるポリプロピレン系樹脂の製造においては、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子供与性化合物とを組み合わせたものが、最も一般的に使用できる。より具体的には、有機アルミニウム化合物として好ましくは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物、テトラエチルジアルモキサンなどが挙げられ、電子供与性化合物として好ましくは、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランなどが挙げられる。
一方、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報などに記載の触媒系が挙げられ、メタロセン系触媒としては、たとえば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報などに記載の触媒系が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂は、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンの如き炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法などによって、製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのいずれであってもよい。樹脂フィルムの耐熱性の観点からは、シンジオタクチックまたはアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体で構成することができるほか、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーを少量、たとえば20重量%以下、好ましくは10重量%以下の割合で共重合させたものであってもよい。共重合体とする場合、コモノマーの量は、好ましくは1重量%以上である。
プロピレンに共重合されるコモノマーは、たとえば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンであることができる。この場合のα−オレフィンとして具体的には、次のようなものを挙げることができる。
1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C4);
1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C5);
1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C6);
1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C7);
1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C8);
1−ノネン(C9);1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);
1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);
1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);
1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)など。
α−オレフィンの中で好ましいものは、炭素原子数4〜12のα−オレフィンであり、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテンおよび1−ヘキセンがより好ましい。
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体を挙げることができる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含量や1−ブテンユニットの含量は、たとえば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行ない、求めることができる。
ポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210 に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレイト(MFR)が0.1〜200g/10分、とりわけ0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく均一なフィルム状物を得ることができる。
ポリプロピレン系樹脂には、公知の添加物が配合されていてもよい。添加物としてはたとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。酸化防止剤には、たとえば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤などがあり、また、1分子中にたとえば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、たとえば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系などの化合物が挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミドの如き高級脂肪酸アミド、ステアリン酸の如き高級脂肪酸およびその塩などが挙げられる。造核剤としては、たとえば、ソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンの如き高分子系造核剤などが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状あるいはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。これらの添加物は、複数種が併用されてもよい。
ポリプロピレン系樹脂は、任意の方法で製膜し、保護フィルムとすることができる。この保護フィルムは、透明で実質的に面内位相差のないものである。たとえば、溶融樹脂からの押出成形法、有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法などによって、面内位相差が実質的にないポリプロピレン系樹脂からなる保護フィルムを得ることができる。
押出成形により保護フィルムを製造する方法について、詳しく説明する。ポリプロピレン系樹脂は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融状シートの温度は、180〜300℃程度である。このときの溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られるフィルムの厚みが不均一になり、位相差ムラのあるフィルムとなる可能性がある。また、その温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすく、シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりすることがある。
押出機は、単軸押出機であっても2軸押出機であってもよい。たとえば単軸押出機の場合は、スクリューの長さLと直径Dの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積との比(前者/後者)である圧縮比が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプまたはマドック型の混練部分を有するタイプなどのスクリューを用いることができる。ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点からは、L/Dが28〜36で、圧縮比が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気または真空にすることが好ましい。さらに、ポリプロピレン系樹脂が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1mmφ以上5mmφ以下のオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの押出機先端部分の樹脂圧力を高めるとは、先端での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2mmφ以上4mmφ以下である。
押出に使用されるTダイは、樹脂の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融したポリプロピレン系樹脂との摩擦係数の小さい材料でめっきまたはコーティングされ、さらにリップ先端が0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料としては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっきなどが挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れる樹脂フィルムが得られる。このTダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)または(2)を満たすことが好ましく、さらには条件(3)または(4)を満たすことがより好ましい。
Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの厚み方向長さ>180mm
……(1)
Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの厚み方向長さ>220mm
……(2)
Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの高さ方向長さ>250mm
……(3)
Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの高さ方向長さ>280mm
……(4)。
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状ポリプロピレン系樹脂の流れを整えることができ、かつ、リップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、位相差のより均一な保護フィルムを得ることができる。
ポリプロピレン系樹脂の押出変動を抑制する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂中にある異物を取り除くため、リーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。
Tダイから押出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロールまたはキャスティングロールともいう)と、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間に、挟圧させて冷却固化することで、所望のフィルムを得ることができる。この際、タッチロールは、ゴムなどの弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合は通常、金属製冷却ロールとタッチロールの間に、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとタッチロールの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを、前記のような冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるにあたり、冷却ロールとタッチロールは、いずれもその表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷させることが好ましい。具体的には、両ロールの表面温度を0℃以上30℃以下の範囲に調整することが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、ポリプロピレン系樹脂中の結晶成分が成長してしまい、得られるフィルムは透明性に劣るものとなる。ロールの表面温度は、より好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃未満である。一方、ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面に結露して水滴が付着し、フィルムの外観を悪化させる傾向が出てくる。
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態がポリプロピレン系樹脂の保護フィルムの表面に転写されるため、その表面に凹凸がある場合には、得られるポリプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度を低下させる可能性がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は可能な限り鏡面状態であることが好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.4S以下であることが好ましく、さらには0.05S〜0.2Sであることがより好ましい。
金属製冷却ロールとニップ部分を形成するタッチロールは、その弾性体における表面硬度が、JIS K 6301 に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であることが好ましく、さらには70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のゴムロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)を作ることなくフィルムに成形することが容易となる。
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50N/cm以上300N/cm以下とするのが好ましく、さらには100N/cm以上250N/cm以下とするのがより好ましい。線圧を前記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながらポリプロピレン系樹脂からなる保護フィルムを製造することが容易となる。
金属製冷却ロールとタッチロールの間で、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。これらの中でも、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。この場合の二軸延伸フィルムの厚さは、通常5〜50μm程度であり、好ましくは10〜30μmである。
この方法において、Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)を200mm以下とすることが好ましく、さらには160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融状シートは、リップからロールまでの間引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを前記の如く短くすることで、配向のより小さいフィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、および使用するリップの先端形状により決定され、通常50mm以上である。
この方法でポリプロピレン系樹脂からなる保護フィルムを製造するときの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧された溶融状シートは、ロールとの接触により冷却固化する。そして、必要に応じて端部をスリットした後、巻取り機に巻き取られてフィルムとなる。この際、フィルムを使用するまでの間その表面を保護するために、その片面または両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼合した状態で巻き取ってもよい。ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧した場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
(接着剤層)
偏光フィルムとシート部材との貼合は、接着剤を用いて行なうことができる。偏光フィルムの他方の面(シート部材が貼合される面とは反対側の面)に光学補償フィルムまたは保護フィルムを積層する場合、偏光フィルムと光学補償フィルムまたは保護フィルムとの貼合は、同様に接着剤を用いて行なうことができる。偏光フィルムに光学補償フィルムまたは保護フィルムが貼合される場合、シート部材の貼合に用いられる接着剤と光学補償フィルムまたは保護フィルムの貼合に用いられる接着剤とは、同種の接着剤であってもよく、異種の接着剤であってもよい。これらのフィルムの貼合に用いられる接着剤としては、水系接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解または分散させた接着剤、および活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなる接着剤を挙げることができる。
上記水系接着剤は、接着剤層を薄くできる点において好ましく用いられる。水系接着剤としては、たとえば、接着剤成分としてポリビニルアルコール系樹脂またはウレタン樹脂を用いた水系接着剤が挙げられる。
接着剤成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、当該ポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールなどの変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。通常、ポリビニルアルコール系樹脂を接着剤成分とする水系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液として調製される。接着剤中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、水100重量部に対して、通常1〜10重量部程度、好ましくは1〜5重量部程度である。
ポリビニルアルコール系樹脂を接着剤成分とする接着剤には、接着性を向上させるために、グリオキザール、水溶性エポキシ樹脂などの硬化性成分または架橋剤を添加することが好ましい。水溶性エポキシ樹脂としては、たとえばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸などのジカルボン酸との反応により得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂を好適に用いることができる。かかるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン 650」および「スミレーズレジン 675」、日本PMC(株)から販売されている「WS−525」などが挙げられる。これら硬化性成分または架橋剤の添加量(共に添加する場合にはその合計量)は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部である。上記硬化性成分または架橋剤の添加量がポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して1重量部未満である場合には、接着性向上の効果が小さくなる傾向にあり、また、上記硬化性成分または架橋剤の添加量がポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して100重量部を超える場合には、接着剤層が脆くなる傾向にある。
接着剤成分としてウレタン樹脂を用いる場合、適当な接着剤組成物の例として、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を挙げることができる。ここで、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その骨格内に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂それ自体は公知であり、たとえば特開平7−97504号公報には、フェノール系樹脂を水性媒体中に分散させるための高分子分散剤の例として記載されており、また特開2005−070140号公報および特開2005−181817号公報には、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を接着剤として、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに環状オレフィン系樹脂フィルムを貼合することが示されている。
偏光フィルムおよび/またはこれに貼合される部材(シート部材や光学補償フィルムまたは保護フィルム)の表面に接着剤を塗布する方法は、一般に知られている方法でよく、たとえば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクターブレード法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などを挙げることができる。流延法とは、被塗布物であるフィルムを、概ね垂直方向、概ね水平方向、または両者の間の斜め方向に移動させながら、その表面に接着剤を流下して拡布させる方法である。接着剤を塗布した後、偏光フィルムおよびこれに貼合される部材を重ね合わせ、一本または複数本のニップロールなどにより挟んでフィルムの貼合を行なう。ニップロールを用いたフィルムの貼合は、たとえば、接着剤を塗布した後、ロールなどで加圧して均一に押し広げる方法、接着剤を塗布した後、ロールとロールとの間に通し、加圧して押し広げる方法などを採用することができる。前者の場合において、ニップロールの材質としては金属やゴムなどを用いることが可能である。また、後者の複数のロールを用いる場合、それらは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
上記貼合後、乾燥して接着剤層を硬化させる。この乾燥処理は、たとえば熱風を吹き付けることにより行なわれ、その温度は、通常40〜100℃の範囲内であり、好ましくは60〜100℃の範囲内である。また、乾燥時間は通常、20〜1200秒である。
乾燥後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μmであり、好ましくは0.01〜2μm、さらに好ましくは0.01〜1μmである。乾燥後の接着剤層の厚みが0.001μm未満である場合には、接着が不十分となる虞があり、また、乾燥後の接着剤層の厚みが5μmを超えると、偏光板の外観不良が生じる虞がある。なお、乾燥、硬化前における、上記ニップロール等を用いて貼り合わされた後の接着剤層の厚さは、5μm以下であることが好ましく、また0.01μm以上であることが好ましい。
乾燥処理の後、室温以上の温度で少なくとも半日、通常は1日間以上の養生を施して十分な接着強度が得られるようにしてもよい。かかる養生は、典型的には、ロール状に巻き取られた状態で行なわれる。好ましい養生温度は30〜50℃の範囲であり、さらに好ましくは35〜45℃である。養生温度が50℃を超えると、ロール巻き状態において、いわゆる「巻き締まり」が起こりやすくなる。なお、養生時の湿度は特に限定されないが、相対湿度が0%〜70%程度の範囲となるように選択されることが好ましい。養生時間は、通常1日〜10日程度、好ましくは2日〜7日程度である。
一方、上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなる接着剤としては、たとえば、光硬化性エポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤との混合物からなる光硬化性接着剤などが挙げられる。光硬化性エポキシ樹脂としては、たとえば、脂環式エポキシ樹脂、脂環式構造を有しないエポキシ樹脂、およびそれらの混合物などが挙げられる。光硬化性接着剤は、光硬化性エポキシ樹脂のほか、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを含んでいてもよく、また、光カチオン重合開始剤とともに、または光カチオン重合開始剤の代わりに、光ラジカル重合開始剤を含んでいてもよい。
光硬化性接着剤を用いる場合には、偏光フィルムおよび/またはこれに貼合される部材(シート部材や光学補償フィルムまたは保護フィルム)に光硬化性接着剤を塗布し、これらのフィルムを貼合した後、活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる。光硬化性接着剤の塗布方法およびフィルムの貼合方法は、水系接着剤と同様とすることができる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する紫外線を発生するものが好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好ましく用いられる。
光硬化性接着剤への光照射強度は、該光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜6000mW/cm2であることが好ましい。該照射強度が0.1mW/cm2以上である場合、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cm2以下である場合、光源から輻射される熱および光硬化性接着剤の硬化時の発熱によるエポキシ樹脂の黄変や偏光フィルムの劣化を生じる虞が少ない。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化させる光硬化性接着剤ごとに制御されるものであって特に制限されないが、上記照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/m2となるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が10mJ/m2以上である場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、また、10000mJ/m2以下である場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。
活性エネルギー線の照射によって光硬化性接着剤を硬化させる場合、偏光フィルムの偏光度、透過率および色相、ならびにシート部材、光学補償フィルムおよび保護フィルムの透明性などの偏光板の諸機能が低下しない条件で硬化を行なうことが好ましい。
活性エネルギー線照射後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μmであり、好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは1〜5μmである。
なお、シート部材および光学補償フィルムまたは保護フィルムの偏光フィルムへの貼合に先立ち、偏光フィルムおよび/またはこれに貼合される部材の接着表面に、接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を施してもよい。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
(光拡散性を有する粘着剤層)
本発明の偏光板は、そのいずれかの位置に積層された1または2以上の光拡散性を有する粘着剤層(以下、拡散粘着剤層という)を備える。この拡散粘着剤層は、好ましくは偏光板を液晶セルに貼合するための粘着剤層であることができる。この場合、拡散粘着剤層は、たとえば図1に示される例のように、光学補償フィルムまたは保護フィルム5上に積層されるか、または、偏光フィルム2におけるシート部材3が積層される側とは反対側の面上に直接積層される。また、偏光フィルム2とシート部材3との貼合や偏光フィルム2と光学補償フィルムまたは保護フィルム5との貼合に用いられる接着剤層4および/または接着剤層6の代わりに、拡散粘着剤層を用いることもできる。
偏光板が拡散粘着剤層を備えることにより、シート部材が有するプリズム状またはレンズ状の表面形状に由来する規則的形状と、液晶セルのカラーフィルターが有するマトリックス構造等に由来する規則的形状との干渉により生じるモアレ様の表示ムラが、拡散粘着剤層の光拡散機能によって緩和される。すなわち、拡散粘着剤層によって、シート部材が有するプリズム状またはレンズ状の表面形状に由来する規則性が拡散により緩和されることにより、液晶セルのカラーフィルターが有するマトリックス構造等に由来する規則的形状との干渉が大幅に緩和されるため、モアレ様の表示ムラの低減された、表示品位に優れた画像を得ることができる。
拡散粘着剤層は、光散乱能を有する微粒子が分散された粘着剤層であることが好ましい。使用する微粒子は、光を散乱するものであれば特に限定されず、有機粒子、無機粒子のいずれも使用できる。有機粒子としては、たとえば、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂などの高分子化合物からなる粒子が挙げられ、架橋された高分子であってもよい。さらに、エチレン、プロピレン、スチレン、メタクリル酸メチル、ベンゾグアナミン、ホルムアルデヒド、メラミン、ブタジエンなどから選ばれる2種以上のモノマーが共重合されてなる共重合体を使用することもできる。無機粒子としては、たとえば、シリカ、シリコーン、酸化チタンなどの粒子が挙げられ、またガラスビーズであってもよい。これらの微粒子は、無色または白色であるのが好ましい。微粒子の形状も特に限定されないが、好ましいものとして、球状、紡錘状または立方体に近い形状のものが挙げられる。粒径は、小さすぎると光散乱能が発現されず、また、大きすぎると偏光板を液晶表示装置に適用した際に表示品位を低下させることから、0.5μm以上20μm以下であるのが好適であり、1μm以上、また10μm以下であるのがより好ましい。微粒子の添加量は、所望する光散乱能の大小に応じて適宜設定できる。通常は、被分散体である粘着剤100重量部に対して、0.01重量部以上100重量部以下であり、好適には1重量部以上50重量部以下の割合で配合される。
拡散粘着剤層に用いられる粘着剤としては、従来公知の適宜の粘着剤を用いることができ、たとえばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。中でも、透明性、粘着力、信頼性、リワーク性などの観点から、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。拡散粘着剤層は、このような粘着剤および微粒子を含有する塗布液(たとえば有機溶剤を含む塗布液)を基材フィルム(たとえば光学補償フィルムや保護フィルム等)上にダイコータやグラビアコータなどによって塗布し、乾燥させる方法によって設けることができる。また、離型処理が施されたプラスチックフィルム(セパレートフィルムと呼ばれる)上に上記と同様にして拡散粘着剤層を形成し、形成されたシート状の拡散粘着剤層を基材フィルムに転写する方法によっても設けることができる。拡散粘着剤層の厚みは、特に制限されないが、2〜40μmの範囲内であることが好ましい。
本発明の偏光板は、液晶表示装置が備える液晶セルとバックライトとの間に配置される背面側偏光板として好適に用いることができる。
<液晶パネルおよび液晶表示装置>
図8は、本発明の液晶表示装置の好ましい一例を示す概略断面図であり、本発明の液晶パネルを用いた液晶表示装置の一例を示すものである。図8を参照して、本発明の液晶パネル11は、液晶セル13と液晶セル13上に積層される本発明の偏光板である偏光板1とを備えるものである。偏光板1は背面側偏光板として用いられている。液晶セル13と偏光板1とは、偏光フィルム2におけるシート部材3が積層される面とは反対側の面が液晶セル13に対向するように(すなわち、シート部材3が液晶パネル11の外面を形成するように)、拡散粘着剤層7を介して貼合される。このような本発明の液晶パネルは、通常、そのシート部材3がバックライト12側となるように(偏光板1が液晶セル13とバックライト12との間に配置されるように)液晶表示装置10に適用される。この場合、シート部材3のプリズム状またはレンズ状の表面形状を有する面は、バックライト12に対向することとなる。
図8に示されるように、本発明の液晶パネルにおいて、液晶セル13の前面側(液晶表示装置に適用した際の視認側であり、本発明の偏光板が積層される側とは反対側)にも偏光板を設けるが、この液晶セルの前面側に設ける偏光板については特に制限されず、従来公知の適宜の偏光板を用いることができる。たとえば、防眩処理、ハードコート処理または反射防止処理が施された偏光板などを用いることができる。また、偏光フィルムの片面にポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルムなどからなる保護フィルムまたは光学補償フィルムが積層された偏光板でもよい。図8に示される例において、液晶パネル11は、前面側偏光板として、偏光フィルム14の両面に接着剤層17を介して光学補償フィルムまたは保護フィルム15を貼合してなる偏光板を備える。この前面側偏光板は、粘着剤層16を介して液晶セル13に積層されている。
図8を参照して、本発明の液晶表示装置である液晶表示装置10は、バックライト12と、シート部材3がバックライト12側となるように配置された液晶パネル11とを備えるものである。このような本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板が液晶セルの背面側に貼合された液晶パネルを備えることにより、薄肉化に対応しつつ十分な機械的強度を有するとともに、モアレの発生が十分に抑制され、優れた視認性を示す。また、液晶パネルの背面側にシート部材を配置していることから、液晶パネルとバックライトシステムとの密着が防止されており、これにより、さらなる視認性の改善が達成されている。
(液晶セル)
液晶セル13のタイプは特に限定されず、垂直配向(VA)モード、ねじれ複屈折(TN)モード、超ねじれ複屈折(STN)モード、横電界(IPS)モード、ブルー相の液晶を用いた液晶駆動モードなどの従来公知の液晶セルであってよい。液晶セルは、通常、R(赤)、G(緑)、B(青)の3原色からなる四角形状のカラー画素を規則的に配列したマトリックス構造を有するカラーフィルターを備える。本発明の液晶パネルにおいて、液晶セル13と偏光板1とは、たとえば図9に示されるように、シート部材3が有するプリズム形状またはレンズ形状の稜線が、カラーフィルター13aが有するマトリックス構造のいずれかの辺に略平行となるように配置することができる。このような配置関係においても本発明によれば、モアレを十分に抑制することができる。ここでいうカラーフィルターが有するマトリックス構造のいずれかの辺とは、カラー画素の縦または横の配列方向を意味し、「略平行」とは、平行であることが好ましいが、それを中心に±10°程度までのズレは許容されることを意味する。図2に示されるプリズム形状および図3に示されるレンチキュラーレンズにおいて、稜線とは、突起(凸部)の頂点によって形成される線をいう。また、図4〜6などに示される2次元レンズアレイにおいて、稜線とは、縦または横方向に配列された突起の頂点を結ぶ線である。
液晶セル13のタイプが垂直配向(VA)モードである場合、偏光フィルム2における液晶セル13に対向する面に光学補償フィルムを積層すること、および/または、偏光フィルム14における液晶セル13に対向する面に光学補償フィルムを積層することが好ましい。特に偏光フィルム2および偏光フィルム14の両方に、光学補償フィルムを積層することが好ましい。これらの光学補償フィルムはそれぞれ、面内位相差値が20〜200nmの範囲にあり、厚み方向位相差値が50〜200nmの範囲にあることが好ましい。これらの光学補償フィルムの面内および厚み方向の位相差値は、上記した範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて、適宜選択すればよい。面内位相差値は、好ましくは100nm以下であり、厚み方向位相差値は、好ましくは、80nm以上、また200nm以下である。
VAモードの液晶セルを備える液晶パネルにおいて、偏光板1が光学補償フィルムを有し、その面内位相差値が20〜200nmの範囲にあり、厚み方向位相差値が50〜350nmの範囲にある場合は、前面側偏光板を構成する液晶セル13側の光学補償フィルムまたは保護フィルム15として、面内位相差値が10nm未満のものを用いることも好ましい。偏光板1の光学補償フィルムおよび光学補償フィルムまたは保護フィルム15の面内および厚み方向の位相差値は上記した範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて、適宜選択すればよい。この場合、偏光板1を構成する光学補償フィルムは、面内位相差値が好ましくは100nm以下であり、厚み方向位相差値が好ましくは80nm以上、また200nm以下である。この場合の前面側偏光板を構成する液晶セル13側の光学補償フィルムまたは保護フィルム15は、面内位相差値が好ましく7nm以下、より好ましくは5nm以下である。この場合は、前面側偏光板の液晶セル13側に光学補償フィルムまたは保護フィルム15を配置しない構成も有効である。
液晶セル13のタイプがねじれ複屈折(TN)モードである場合も、偏光フィルム2における液晶セル13に対向する面に光学補償フィルムを積層すること、および/または、偏光フィルム14における液晶セル13に対向する面に光学補償フィルムを積層することが好ましい。特に偏光フィルム2および偏光フィルム14の両方に、光学補償フィルムを積層することが好ましい。これらの光学補償フィルムはそれぞれ、面内位相差値が20〜200nmの範囲にあり、厚み方向位相差値が50〜200nmの範囲にあることが好ましい。これらの光学補償フィルムの面内および厚み方向の位相差値は、上記した範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて、適宜選択すればよい。面内位相差値は、好ましくは100nm以下であり、厚み方向位相差値は、好ましくは80nm以上、また200nm以下である。
TNモードの液晶セルを備える液晶パネルにおいては、偏光板1が光学補償フィルムまたは保護フィルム5を有し、前面側偏光板も光学補償フィルムまたは保護フィルム15を有する場合、それぞれの光学補償フィルムまたは保護フィルム5,15の面内位相差値を10nm未満とする構成も有効である。この場合、光学補償フィルムまたは保護フィルム5,15の面内位相差値は、好ましく7nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。そこで、TNモードの液晶セルを備える液晶パネルにおいては、偏光板1に光学補償フィルムまたは保護フィルム5を配置せず、前面側偏光板にも光学補償フィルムまたは保護フィルム15を配置しない構成も有効である。
また、TNモードの液晶セルを備える液晶パネルにおいて、偏光板1を構成する光学補償フィルムまたは保護フィルム5に、液晶分子の傾斜配向を利用したセルロース系樹脂フィルムからなる光学補償フィルム(たとえば、富士フイルム(株)から販売されている「WVフィルム」や新日本石油(株)から販売されている「NHフィルム」、いずれも商品名)を用いた場合は、前面側偏光板を構成する光学補償フィルムまたは保護フィルム15にも同様に、液晶分子の傾斜配向を利用したセルロース系樹脂フィルムからなる光学補償フィルムを用いることが好ましい。
液晶セル13のタイプが横電界(IPS)モード、またはブルー相の液晶を用いた液晶駆動モードであって、偏光フィルム2における液晶セル13に対向する面に光学補償フィルムまたは保護フィルム5を積層する場合、この光学補償フィルムまたは保護フィルム5は、面内位相差値が10nm未満であり、厚み方向位相差値が−25〜25nmの範囲であることが好ましい。偏光フィルム14における液晶セル13に対向する面に光学補償フィルムまたは保護フィルム15を積層する場合も、この光学補償フィルムまたは保護フィルム15は、面内位相差値が10nm未満であり、厚み方向位相差値が−25〜25nmの範囲にあることが好ましい。光学補償フィルムまたは保護フィルム5,15の面内および厚み方向の位相差値は、上記した範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて、適宜選択すればよい。光学補償フィルムまたは保護フィルム5,15の厚み方向位相差値は、−10〜10nmの範囲にあることがより好ましい。そこで、横電界(IPS)モードまたはブルー相の液晶を用いた液晶駆動モードにおいては、偏光板1に光学補償フィルムまたは保護フィルム5を配置しない構成、および/または、前面側偏光板に光学補償フィルムまたは保護フィルム15を配置しない構成も有効である。
ここで、面内位相差値と厚み方向位相差値について説明する。フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、そして厚みをdとしたときに、面内位相差値R0および厚み方向位相差値Rthは、それぞれ下式(I)および(II)で定義される。
R0=(nx−ny)×d (I)
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (II)。
本発明によれば、偏光板のシート部材が有するプリズム形状またはレンズ形状の稜線が、カラーフィルターが有するマトリックス構造のいずれかの辺に略平行となるように配置する場合においても、拡散粘着剤層によって、シート部材が有するプリズム状またはレンズ状の表面形状に由来する規則性が拡散により緩和されることにより、液晶セルのカラーフィルターが有するマトリックス構造等に由来する規則的形状との干渉が大幅に緩和されるため、モアレ様の表示ムラの低減された、表示品位に優れた画像を得ることができる。
(バックライト)
バックライト12としては、拡散板を用いた直下型バックライト、導光板を用いたサイドライト方式のバックライトなどを用いることができるが、なかでもサイドライト方式のバックライトを用いた場合には特に、プリズム形状またはレンズ形状を表面に有するシート部材を配置する効果が有効に発現される。サイドライト方式のバックライトは、導光板と導光板の側方に配置された光源装置とを少なくとも備えるものである。導光板としては、たとえば、アクリル樹脂等の透明樹脂からなる平板状またはくさび形状部材を用いることができる。導光板の裏面または両面には、インクを使用したスクリーン印刷またはエッチング、ブラストの加工により、パターンが付加される。また、導光板の裏面または両面に、反射機能を有する微小反射素子、微小屈折素子などを構成することもある。
光源装置としては、LED等の点状光源を線状に並べた光源装置や、冷陰極管等の棒状光源からなる光源装置を用いることができる。本発明の液晶表示装置において、バックライトは、導光板の一辺に配置される1つの光源装置を有していてもよいし、または導光板の向かいあう二辺に配置される2つの光源装置を有していてもよい。
本発明の液晶表示装置において、上記液晶パネル以外の構成については、従来公知の液晶表示装置の適宜の構成を採用することができる。たとえば、本発明の液晶表示装置は、光拡散板、光拡散シート、反射板などをさらに備えていてもよい。