<ポリプロピレンフィルム>
本発明のポリプロピレンフィルムは、アイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂からなるフィルムであり、一方の面が、減衰全反射法[Attenuated Total Reflection(ATR)法]による赤外分光スペクトル測定によって得られる表面のアイソタクチック結晶化度が60%以下である表面からなることを特徴とする。このような表面を有する本発明のポリプロピレンフィルムは、その表面が接着剤層に対向するように、接着剤層を介して偏光フィルム上に積層したときの接着性に優れており、したがって、本発明のポリプロピレンフィルムを偏光板保護フィルムとして用いることにより、偏光フィルムと保護フィルムとの接着強度に優れ、耐久性の高い偏光板を得ることができる。ポリプロピレンフィルム表面のアイソタクチック結晶化度は、好ましくは55%以下である。アイソタクチック結晶化度が60%を超える場合、接着剤層との密着性が低下し、偏光フィルムと保護フィルムとの間の十分な接着強度が得られにくい。
アイソタクチック結晶化度の下限値は特に制限されないが、ポリプロピレンフィルムの機械的強度および耐熱性を考慮すると、好ましくは5%以上であり、より好ましくは20%以上である。
ここで、「ポリプロピレンフィルム表面のアイソタクチック結晶化度」とは、アイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂から構成されるポリプロピレンフィルム表面に占めるアイソタクチックの結晶領域の割合を意味し、ポリプロピレンフィルムがアイソタクチックポリプロピレン系樹脂のみからなる場合には、実質的にポリプロピレンフィルム表面に占める結晶化領域の割合を意味する。ポリプロピレンフィルム表面のアイソタクチック結晶化度は、次の方法により測定、算出される。すなわち、まず、赤外分光光度計を用いて、減衰全反射法(ATR法)によりポリプロピレンフィルム表面の赤外分光スペクトルを測定する。ここでいうATR法とは、ゲルマニウム結晶プリズムにポリプロピレンフィルムの測定面を直接密着させて測定する方法であり、フィルム極表面の約数μmの層についての赤外分光スペクトルを得ることができる。ポリプロピレンフィルム表面のアイソタクチック結晶化度Xは、得られた赤外分光スペクトルに基づき、下記式:
アイソタクチック結晶化度X(%)=109×(A998−A920)/(A974−A920)−31.4
によって求められる。上記式中、A998、A974およびA920はそれぞれ、波数998、974および920cm-1における吸光度である。上記算出式は、たとえば、J.Appl.Polym.Sci.,2,166(1959);赤外法による材料分析―基礎と応用―(講談社サイエンティフィック);および、[化学の領域増刊]赤外吸収スペクトル 第17集(南江堂)などの文献に記載された、一般的に知られた算出式である。
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、上記アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面は、接着剤層との密着性の点で有利であることから、さらに以下に示す(I)または(II)、もしくは(I)および(II)の双方の特性を具備していることが好ましい。
(I)薄膜X線回折法により得られる上記アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面の回折プロファイルにおいて、強度が最も高いピークの2θが14.6度であり、強度が2番目に高いピークの2θが21.2度である。
(II)上記アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面の表面軟化温度が100℃以上120℃以下である。
上記特性(I)について説明する。アイソタクチックポリプロピレンの結晶形態としては、主にα晶、β晶、γ晶、スメクチック晶があり、これらはX線回折法により識別することができる。たとえば、α晶に由来する回折プロファイルは、回折角(2θ)が10〜30度の範囲での広角X線回折測定において、14.2度付近、16.7度付近、18.5度付近および21.4度付近に明瞭な回折ピークが観測される。β晶やγ晶の回折ピークの多くはα晶と重複するが、β晶は15.9度付近に、γ晶は20.0度付近に、α晶とは重複しないピークが観測されることから、α晶と区別して識別することができる。また、スメクチック晶においては、14.6度付近と21.2度付近に2つのブロードなピークが観測される。
したがって、上記特性(I)は、薄膜X線回折法により得られるアイソタクチック結晶化度が60%以下である表面の回折プロファイルが実質的にスメクチック晶に由来する回折プロファイルであることを意味し、該表面の大部分がスメクチック晶によって占められていることを意味する。アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面が上記特性(I)を具備することにより、ポリプロピレンフィルムの該表面と接着剤層との密着性をより向上させることができる。
次に、上記特性(II)について説明すると、アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面の「表面軟化温度」とは、局所熱解析(Nanoscale Thermal Analysis)システムを用いて測定され、表面の局所に、常温から徐々に熱を加えていったとき、該表面が軟化をし始める温度である。ポリプロピレンフィルムの該表面の表面軟化温度が100℃以上120℃以下であると、ポリプロピレンフィルムの該表面と接着剤層との密着性をより向上させることができる。
また、後述するように、本発明のポリプロピレンフィルムと偏光フィルムとを接着剤を用いて貼合する際、接着性のさらなる改善のためにポリプロピレンフィルムの上記アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面にあらかじめコロナ処理を施すことができるが、この場合、コロナ放電のエネルギーによりエッチングされて、ポリプロピレンフィルムの該表面(コロナ処理面)に微細な突起が発生する。コロナ処理後に該コロナ処理面に存在する微細突起の平均直径が10nm以上115nm以下であり、かつ、該微細突起の1平方μmあたりの個数が30個以上100個以下であると、コロナ処理による接着性向上効果をさらに改善できるため好ましい。これは、接着剤が微細突起の間に入り込み、これにより、ポリプロピレンフィルムと接着剤層との密着面積が増大することが一因であると考えられる。
ここで、コロナ処理面に存在する微細突起とは、コロナ処理後におけるアイソタクチック結晶化度が60%以下である表面(コロナ処理面)に存在する突起を意味しており、微細突起の「平均直径」とは、コロナ処理面から任意で抽出された5μm×5μmの領域に含まれる各微細突起の底面積を画像解析によって算出し、微細突起の底面がこの算出された底面積と同面積の円であると仮定したときに算出される各直径の平均値である。また、該微細突起の1平方μmあたりの個数とは、上記のコロナ処理面から任意で抽出された5μm×5μmの領域に含まれる微細突起の数を1平方μmあたりに換算した値(すなわち、25μm2で割った値)である。また、微細突起の平均直径および1平方μmあたりの個数を測定するためになされるコロナ処理は、出力280W、ラインスピード1.0m/minおよびアイソタクチック結晶化度が60%以下である表面とコロナ処理装置の電極との距離3mmの条件で、3回連続して行なわれる。
本発明のポリプロピレンフィルムは、その両面が平坦面であることができ、この場合、片面のみがアイソタクチック結晶化度が60%以下である表面からなる。また、本発明のポリプロピレンフィルムは、一方の面が平坦面からなり、他方の面が、規則的な凹凸形状を有していてもよい。この場合、通常、平坦面が、アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面となる。
規則的な凹凸形状としては、プリズム形状およびレンズ形状を好適なものとして挙げることができる。図1〜5は、ポリプロピレンフィルムが有する表面凹凸形状の好ましい例を示す概略斜視図である。ここで、プリズム形状とは、略三角形形状などの直線(一部に曲線を含んでいてもよい)から構成される形状を平行移動させた軌跡で示される平面を一方向に配列した一次元アレイを意味し、たとえば、図1に示される形状を挙げることができる。
図1に示される断面三角形形状の複数の突起から構成されるプリズム形状において、断面三角形形状における頂点の角度は、たとえば、30〜100°とすることができ、突起のピッチ(隣り合う突起の稜線間の距離)は、たとえば5〜300μmとすることができる。また、断面三角形形状の突起の高さは、たとえば10〜200μmとすることができる。
断面三角形形状における二辺は、同じ長さであってもよいし、異なる長さを有していてもよい。また、プリズム形状が有する断面三角形形状の複数の突起の高さは、すべて同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、突起間に形成される溝の形状は、直線であっても、曲線であってもよい。プリズムの断面は、三角形形状のほか、一部に曲線を含む略三角形状、鋸歯形状などであってもよい。
また、レンズ形状とは、主として曲面から形成される凹凸構造を有する形状を意味し、たとえば図2に示されるレンチキュラーレンズのような、略半円弧形状などの曲線(一部に直線を含んでいてもよい)から構成される形状を平行移動させた軌跡で示される曲面を一方向に配列した一次元レンズアレイ;真円、楕円等の円形形状(たとえば図3)、正方形、長方形等の方形形状(たとえば図4)、三角形、六角形等の多角形形状などの底面をもち、ドーム状の曲面を有する突起を縦横に配列した2次元レンズアレイを挙げることができる。また、その他のレンズ形状としては、図5に示されるような、種々の角度をもつ平面が組み合わされた多角形形状を有する突起(たとえば四角錘形状の突起)を縦横に配列した2次元レンズアレイやフレネルレンズなどを挙げることができる。
図2に示されるレンチキュラーレンズにおいて、突起のピッチおよび高さは、それぞれ10〜200μm、5〜100μmとすることができる。レンチキュラーレンズを構成する複数の突起のピッチおよび高さはそれぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、突起間に形成される溝の形状は、直線であっても、曲線であってもよい。
また、レンチキュラーレンズ以外のレンズ形状においても、複数の突起は、同じ高さであってもよく、異なる高さを有していてもよい。また、突起間に形成される溝の形状は、直線であっても、曲線であってもよい。なお、上記以外の規則的な凹凸形状として、その断面が正弦波のような波状である凹凸形状を挙げることができる。
本発明のポリプロピレンフィルムの厚みは、20μm以上200μm以下が好ましく、30μm以上150μm以下がより好ましい。20μmより薄いと、機械的強度が著しく弱くなったり、一方の面が規則的な凹凸形状を有する場合、部分的に製膜が困難な部分ができてしまう可能性がある。一方、200μmより厚いと、透過率が低下する場合があり、また、これを用いた偏光板の薄型化の観点から好ましくない。
次に、本発明のポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン系樹脂について説明する。本発明において用いられるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、ならびに、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体を挙げることができる。また、これらの中から選択される2種以上のポリマー混合物を用いてもよい。エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
上記の炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、たとえば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、1−オクテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタダセン、1−オクタテセン、1−ノナデセンなどが挙げられる。なかでも、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく、たとえば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、1−オクテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等が挙げられる。特に共重合性の観点から、好ましくは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンであり、より好ましくは、1−ブテン、1−ヘキセンである。
上記したポリプロピレン系樹脂のなかでも、プロピレンの単独重合体、または、共重合体の場合、共重合性の観点から、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−オクテン共重合体、プロピレン・1−ヘキセン共重合体またはプロピレン・エチレン・1−ヘキセン共重合体を用いることが好ましい。
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂が共重合体である場合、該共重合体におけるコモノマー(プロピレン以外のモノマー)由来の構成単位の含量(コモノマーが2種以上である場合はその合計含量)は、透明性と耐熱性のバランスの観点から、40重量%以下が好ましく、30重量%がより好ましい。
ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、公知の重合用触媒を用いてプロピレンを単独重合する方法や、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとを共重合する方法が挙げられる。公知の重合触媒としては、たとえば、(1)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分等からなるTi−Mg系触媒、(2)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第3成分とを組み合わせた触媒系、(3)メタロセン系触媒等が挙げられる。なかでも、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子性供与性化合物とを組み合わせた触媒系が最も一般的に使用できる。
有機アルミニウム化合物の好適な具体例としては、たとえば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物およびテトラエチルジアルモキサンが挙げられる。電子供与性化合物の好適な具体例としては、たとえば、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが挙げられる。マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載された触媒系が挙げられる。また、メタロセン触媒としては、たとえば、特許第2587251号、特許第2627669号、特許第2668732号に記載された触媒系が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂の重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶剤重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマー中で行なう気相重合法等が挙げられ、好ましくは後処理等が容易な塊状重合法または気相重合法である。これらの重合法は、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。
得られるポリプロピレンフィルムの機械特性が良好となること、および汎用性の観点から、本発明において用いられるポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのうち、アイソタクチックの割合が多いほど好ましく、実質的にアイソタクチックプロピレン系樹脂のみからなることが特に好ましい。
ポリプロピレン系樹脂は、分子量やプロピレン由来の構成単位の割合などが異なる2種類以上のポリプロピレン系樹脂のブレンドでもよいし、ポリプロピレン系樹脂以外のポリマーや添加剤を適宜含有してもよい。添加剤としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収材、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤等が挙げられ、これらのうち複数種を併用してもよい。
上記の酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤(HALS)や、1分子中にたとえばフェノール系とリン系の酸化防止機構を有するユニットを含む複合型の酸化防止剤などが挙げられる。
上記の紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ヒドロキシトリアゾール系などの紫外線吸収剤や、ベンゾエート系など紫外線遮断剤などが挙げられる。
上記の帯電防止剤としては、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型などが挙げられる。
上記の滑剤としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドや、ステアリン酸などの高級脂肪酸、およびその金属塩などが挙げられる。
上記の造核剤としては、たとえば、ソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ロジン系造核剤、ポリビニルシクロアルカンなどの高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状、あるいはそれに近い形状の微粒子を無機系、有機系に関わらず使用できる。
本発明において用いられるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に従い測定される値(試験温度、公称荷重は、JIS K 7210の附属書B表1による)で、通常0.1g/10分〜50g/10分程度であり、0.5g/10分〜20g/10分程度であることが好ましい。MFRがこのような範囲のポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、均一なフィルムに成形することができる。
本発明において用いられるポリプロピレン系樹脂の分子量分布は、通常1〜20である。分子量分布は、溶媒に140℃のo−ジクロロベンゼンを用い、標準サンプルにポリスチレンを用いて測定および計算される、MnとMwとの比(=Mw/Mn)である。
<ポリプロピレンフィルムの製造方法>
本発明のポリプロピレンフィルムは、上記アイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂を溶融混練してTダイからフィルム状に吐出し、これを弾性ロールと、金属ロールとによって挟圧し、冷却固化することによって得られる。このような製造方法によれば、アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面を有し、さらに好ましくは、上記特性(I)および(II)を具備し、コロナ処理後の微細突起の直径および個数が上記範囲内となるポリプロピレンフィルムを生産性良く製造することが可能となる。
図6〜8は、本発明のポリプロピレンフィルムの製造に好適に用いることができるフィルム製造装置の例を示す概略図である。以下、図6〜8を参照しながら、本発明のポリプロピレンフィルムの製造に好適に用いることができるフィルム製造装置の構成およびこれを用いたポリプロピレンフィルムの製造方法について説明する。
(押出機)
図6に示されるフィルム製造装置100(図7および8に示されるフィルム製造装置200、300についても同様)を用いたポリプロピレンフィルムの製造においては、まず、ホッパー(図示せず)から押出機1に上記のポリプロピレン系樹脂を投入する。このとき、混練中のポリプロピレン樹脂の劣化・分解等を抑制するために、押出機1に樹脂を供給する前に、窒素ガス中で40℃以上かつ(Tm−20℃)以下の温度にて1時間〜10時間程度予備乾燥をすることが好ましい(Tm[℃]は、JIS K 7121で規定される示差走査熱量測定におけるポリプロピレン系樹脂の融解ピーク温度である。)また、押出機1内も、20℃〜120℃の窒素ガスまたはアルゴンガスなどの不活性ガスでガス置換することが好ましい。押出機1は、投入されたポリプロピレン系樹脂を溶融混練しつつ押出して、溶融ポリプロピレン系樹脂をTダイ2へと搬送するものである。
ポリプロピレン系樹脂を押出機1中で溶融混練する際には、スクリューを用いるが、該スクリューとしては、押出機1が単軸押出機の場合、L/D=24〜36で圧縮比1.5〜4のフルフライトタイプ、バリアタイプまたはマドック型の混練部分を有するタイプを用いることができる。ポリプロピレン系樹脂の劣化・分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点から、L/D=28〜36、圧縮比2.5〜3.5のバリアタイプのスクリューを用いることが好ましい。
また、ポリプロピレン系樹脂が劣化・分解した場合に発生する揮発ガスを取り除くため、押出機1の先端に1mm以上5mmφ以下のオリフィスを設け、押出機1の先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。押出機1の先端部分の樹脂圧力を高めることは、先端での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定を向上させることができる。使用するオリフィスは、より好ましくは2mmφ以上4mmφ以下である。なお、ポリプロピレン系樹脂の押出変動を抑制する観点から、押出機1とTダイ2との間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂中にある異物を取り除くため、リーフディスクフィルター(図示せず)を取り付けることが好ましい。
(Tダイ)
Tダイ2は、押出機1と接続されており、押出機1から搬送された溶融ポリプロピレン系樹脂を横方向に広げるためのマニホールド2bをその内部に有している。また、Tダイ2には、マニホールド2bと連通すると共にマニホールド2bによって横方向に広げられた溶融ポリプロピレン系樹脂を吐出する吐出口2aがその下部に設けられている。そのため、Tダイ2の吐出口2aから吐出された溶融ポリプロピレン系樹脂は、シート状に成形されることとなる(以下、このシート状に成形された溶融ポリプロピレン系樹脂を「溶融状シート」とも称する)。
吐出される溶融状シートの温度は、180℃以上300℃以下であることが好ましい。この溶融樹脂の温度は、Tダイ2の吐出口2a部分において樹脂温度計を用いて測定される。溶融状シートの温度が180℃未満の場合には、延展性に劣るため、エアギャップ内での伸びの不均一により厚みムラが発生してしまう傾向にある。一方、溶融状シートの温度が300℃を超えると、樹脂が劣化し、分解ガスを生じるなどの理由で吐出口2a部分が汚れてしまい、ダイライン等が発生し、ポリプロピレンフィルムの外観不良が生じてしまう傾向にある。
Tダイ2はまた、溶融ポリプロピレン系樹脂の流路の壁面に微小な段差や傷のないものが好ましい。Tダイ2の吐出口2a部分(リップ部分)は、溶融ポリプロピレン系樹脂との摩擦係数が小さい材料であり、かつ、硬い材料でめっき、コーティング等(たとえば、タングステンカーバイド系、フッ素系の特殊めっき)がされていると、吐出口2aの先端部分の曲率半径を小さくすること(吐出口2aの先端部分をいわゆるシャープエッジと呼ばれる形状とすること)が可能であるため、好ましい。
Tダイ2の吐出口2aの先端部分は、溶融ポリプロピレン系樹脂の流路の壁面の、吐出口における曲率半径が0.1mm以下とされたシャープエッジと呼ばれる形状のものであると好ましく、当該曲率半径が0.05mm以下であるとより好ましく、当該曲率半径が0.03mm以下であるとより一層好ましい。このようなTダイ2を用いることで、吐出口2aにおける「目やに」の発生を抑制することができ、同時にダイラインを抑制することも可能になることから、製造されるポリプロピレンフィルムの外観の均一性をより向上せることができる。ただし、当該曲率半径が0.01mm以下になると、これらの効果は向上するものの、吐出口2aの先端部分における強度が低下してしまい、吐出口2aの破損が見られ、これにより大きなダイライン等が生じる場合がある。
Tダイ2における溶融樹脂の吐出口2aから、その下部に設置された弾性ロール3および金属ロール4によって溶融状シートが挟圧されるまでの間の長さ(エアギャップの長さ)Hは、アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面を有し、さらに好ましくは、上記特性(I)および(II)を具備し、コロナ処理後の微細突起の直径および個数が上記範囲内となるポリプロピレンフィルムが得られやすいことから、50mm〜250mm程度であることが好ましく、50mm〜180mm程度であることがより好ましい。エアギャップの長さHが250mmを超えると、長時間空気に晒されることにより冷却効率が下がり、表面のアイソタクチック結晶化度が高くなる傾向にあるとともに、エアギャップにおいて配向が発生し、製造されるポリプロピレンフィルムに大きな位相差が生じる傾向にある。エアギャップの長さHの下限に関しては、Tダイのサイズや弾性ロール3および金属ロール4の径などに依存し、必然的に50mm程度となる。
(弾性ロール)
本発明において弾性ロールとは、弾性変形可能な金属ロールまたはゴムロールを意味する。弾性変形可能な金属ロールとしては、図6に示される構成の弾性ロール3を好適に用いることができる。図6に示されるフィルム製造装置100が備える弾性ロール3は、特許第3422798号公報に記載されている成形ロールと同等のものであり、具体的には、筒状とされた金属製の帯状体(無端ベルトともいう)3aと、帯状体3aの内部に配置されたゴム製ロール3b(図6の例においては1本)と、帯状体3aとゴム製ロール3bとの間の空間を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する弾性変形可能な金属ロールである。
帯状体3aは、ばね鋼、ステンレス鋼、ニッケル鋼等の弾性変形が可能な金属薄膜によって筒状に形成されており、その表面に継ぎ目が存在していない。帯状体3aの両側は、図示しない閉塞部材によって閉塞されている。帯状体3aとしては、その厚みが100μm〜1500μm程度で、その直径が200mm〜600mm程度で、表面粗度が0.5S以下のものを用いることができ、好ましくは表面粗度が0.2S以下である。なお、帯状体3aの直径は、ポリプロピレンフィルムの加工速度に応じて適切な大きさに設定されるが、帯状体3aの直径が上記の範囲である場合、ポリプロピレンフィルムの加工速度として数m/min〜100数十m/minの範囲で対応可能である。
ゴム製ロール3bは、円柱形状を有しており、帯状体3aの内部において弾性変形および回転可能とされている。ゴム製ロール3bは、硬度が30〜90程度のEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、ネオプレンまたはシリコーンによって形成することができる。ゴム製ロール3bの直径は、100mm〜250mm程度とすることができる。
液体Lとしては、たとえば、水、エチレングリコール、油などを用いることができる。図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に帯状体3aの表面温度が調節される。
本発明においては、帯状体3aの厚さが350μm〜500μm程度であり、ゴム製ロール3bの硬度が60〜75程度であることが好ましい。帯状体3aの厚さが350μm未満であり、ゴム製ロール3bの硬度が60未満であると、弾性ロール3としての弾性が低くなりすぎ、弾性ロール3の幅方向において均一に挟圧することが困難となる傾向にある。また、帯状体3aの厚さが500μmを超え、ゴム製ロール3bの硬度が75を超えると、弾性ロール3としての剛性が高くなりすぎ、柔らかく挟圧する効果が弱くなる傾向にある。
また、弾性ロールとして、図7に示される構成の弾性ロール6を用いることも好ましい。図7に示されるフィルム製造装置200が備える弾性ロール6は、特開平7−040370号公報に記載されている成形ベルト手段と同等のものであり、具体的には、筒状とされた金属製の帯状体(無端ベルトともいう)6aと、帯状体6aの内部において、金属ロール4の外周面に沿って並ぶと共に長手方向が平行となるように配置された2本のロール6b,6cと、帯状体6aの表面温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する弾性変形可能な金属ロールである。ロール6bはゴム製ロールであり、ロール6cは金属製ロールである。ロール6cの表面温度を温度調節手段で調節することにより帯状体6aの表面温度が調節される。
帯状体6aは、ばね鋼、ステンレス鋼、ニッケル鋼等の弾性変形が可能な金属薄膜によって筒状に形成されており、その表面に継ぎ目が存在していない。帯状体6aは、ゴム製のロール6bおよび金属製のロール6cに掛け渡されており、ロール6b,6cの距離を近接または離間することにより帯状体6aの張力(テンション)を調節することができるようになっている。帯状体6aとしては、その厚みが300μm〜800μm程度で、円筒状としたときの直径が200mm〜600mm程度のものを用いることができ、好ましくは表面粗度が0.2S以下である。
ロール6b,6cは、円柱形状を有しており、帯状体6aの内部において回転可能とされている。ゴム製のロール6bは、硬度が30〜90程度のEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、ネオプレンまたはシリコーンによって形成することができる。また、ロール6b,6cとしては、その直径が80mm〜200mm程度のものを用いることができる。
弾性ロール6を用いた場合、Tダイ2の吐出口2aから吐出された溶融状シートが帯状体6aと金属ロール4とによって最初に挟まれる位置が挟圧の開始点となり、挟圧された樹脂が帯状体6aと金属ロール4とから離れる位置が挟圧の終点となる。
本発明においては、帯状体6aの厚さが350μm〜600μm程度であり、ゴム製のロール6bの硬度が60〜80程度であることが好ましい。帯状体6aの厚さが350μm未満であり、ゴム製のロール6bの硬度が60未満であると、弾性ロール6としての弾性が低くなりすぎ、弾性ロール6の幅方向において均一に挟圧することが困難となる傾向にある。また、帯状体6aの厚さが600μmを超え、ゴム製のロール6bの硬度が80を超えると、弾性ロール6としての剛性が高くなりすぎ、ともすればバンク成形となって、アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面を有し、さらに好ましくは、上記特性(I)および(II)を具備し、コロナ処理後の微細突起の直径および個数が上記範囲内となるポリプロピレンフィルムが得られにくいとともに、得られるポリプロピレンフィルムに位相差が発生してしまう可能性が高くなる傾向にあるため好ましくない。
さらに、弾性ロールとして、図8に示される構成の弾性ロール7を用いることも好ましい。図8に示されるフィルム製造装置300が備える弾性ロール7は、特開平11−235747号公報に記載されている押さえロールと同等のものであり、具体的には、高剛性の金属内筒7aと、金属内筒7aの外側に配置された薄肉金属外筒7bと、金属内筒7aの内側に配置された流体軸筒7cと、金属内筒7aと薄肉金属外筒7bとの間の空間および流体軸筒7c内を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する弾性変形可能な金属ロールである。
金属内筒7a、薄肉金属外筒7bおよび流体軸筒7cは、同軸となるように配設されている。金属内筒7aには、その周方向に沿って複数の貫通孔7dが設けられている。そのため、液体Lは、流体軸筒7c、貫通孔7d、金属内筒7aと薄肉金属外筒7bとの間の空間の順に弾性ロール7の内部を循環するようになっている。
薄肉金属外筒7bは、ステンレス鋼等によって形成されており、その表面に継ぎ目が存在しておらず、可撓性を有している。薄肉金属外筒7bは、ゴム弾性に近い柔軟性と可撓性、復元性をもたせるために、弾性力学の薄肉円筒理論が適用できる範囲内で薄肉化が図られている。薄肉金属外筒7bとしては、その厚みが2000μm〜5000μm程度で、その直径が200mm〜500mm程度で、表面粗度が0.5S以下のものを用いることができ、好ましくは表面粗度が0.2S以下である。薄肉金属外筒7bの厚みが2000μm未満であると、弾性ロール7と金属ロール4とによって溶融状シートを挟圧する際の圧力が不均一となる傾向にあり、5000μmを超えると、薄肉金属外筒7b(弾性ロール7)の弾性が大きくなり、Tダイ2の吐出口2aから吐出された溶融状シートの厚みによっては当該溶融状シートを挟圧する際に樹脂溜まり(バンク)が発生してしまう傾向にある。
液体Lは、たとえば、水、エチレングリコール、油などを用いることができる。図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に薄肉金属外筒7bの表面温度が調節される。
また、上述のように、弾性ロールとしてゴムロールを使用することもできる。弾性ロールとしてゴムロールを使用する場合、その表面硬度は65〜80であることが好ましく、70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のゴムロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属ロール4とゴムロールとの間にバンク(樹脂溜り)を生じさせることなく、溶融状シートを成形することが容易となる。バンクが形成されると、アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面を有し、さらに好ましくは、上記特性(I)および(II)を具備し、コロナ処理後の微細突起の直径および個数が上記範囲内となるポリプロピレンフィルムが得られにくいとともに、得られるポリプロピレンフィルムの位相差が大きくなる傾向があり、液晶表示装置に配置した場合に視認性を悪くする可能性があるため、好ましくない。
弾性ロールとしてゴムロールを使用する場合は、溶融状シートをゴムロールと、金属ロールとによって挟圧する際に、溶融状シートとゴムロールとの間隙に支持体を挿入するのが好ましい。支持体としては、たとえば熱可塑性樹脂製二軸延伸フィルムを用いることができる。
支持体は平滑性に優れるものを用いることが好ましい。溶融状シートにおける金属ロールと接する面とは反対側の面は支持体と接した状態で、ロール間で挟圧されるため、得られるポリプロピレンフィルム表面には、支持体の表面状態が転写される。したがって、使用する支持体の表面粗度が小さく、平滑であればあるほど、得られる面の平滑性は良好となる。使用する支持体の表面粗度は0.01μm以上1.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上1.0μm以下である。また使用する支持体の厚みは、5μm以上50μm未満であることが必要であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。使用する支持体が5μmより薄い場合、皺になりやすくなるなど、ハンドリング上の問題を生じるため好ましくなく、一方、50μm以上である場合は、溶融状シートの冷却効率が悪くなり、アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面を有し、さらに好ましくは、上記特性(I)および(II)を具備し、コロナ処理後の微細突起の直径および個数が上記範囲内となるポリプロピレンフィルムが得られにくいとともに、得られるポリプロピレンフィルムの透明性が悪化するため好ましくない。支持体を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂と強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的にはポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルなどである。これらの内、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。
ゴムロールと、金属ロールとの間で支持体とともに挟圧された溶融状シートは、冷却固化された後、支持体と積層された状態で、必要に応じて端部をスリットした後、巻取機にて巻き取られ、ポリプロピレンフィルムと支持体との積層体を得ることができる。支持体を巻取機の前で剥離し、ポリプロピレンフィルムのみを巻き取ることも可能である。ロール間で挟圧した支持体をポリプロピレンフィルムから剥離する場合には、該ポリプロピレンフィルムの温度が、60℃以下、好ましくは40℃以下まで冷却された後に剥離除去することが好ましい。ポリプロピレンフィルムの温度が高い状態で支持体を剥離すると、フィルムが変形して配向を生じ、位相差が大きくなることがある。
上記した弾性ロールのなかでも、弾性ロールに接触する面の平滑性により優れることから、弾性変形可能な金属ロールを用いることが好ましい。弾性変形可能な金属ロールの表面は鏡面状態であることが好ましい。
(金属ロール)
図6に示されるフィルム製造装置100(図7および8に示されるフィルム製造装置200、300についても同様)が備える金属ロール4は、高剛性の金属外筒4aと、金属外筒4aの内側に配置された流体軸筒4bと、金属外筒4aと流体軸筒4bとの間の空間および流体軸筒4b内を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する。流体軸筒4bには、その周方向に沿って複数の貫通孔4cが設けられている。金属ロール4の直径は、200mm〜600mm程度とすることができる。金属ロール4においては、弾性ロールと同様、図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に金属外筒4aの表面温度が調節され、弾性ロールと共にTダイ2の吐出口2aから吐出された溶融状シートを冷却して固化させる。
ここで、一方の面がプリズム形状またはレンズ形状等の規則的な凹凸表面からなるポリプロピレンフィルムを製造する場合には、上記弾性ロールまたは金属ロールのいずれか一方が転写型を備えるが、転写型の形状をより正確に転写するためには、金属ロールの表面に転写型を備える方が好ましい。以下、表面に転写型を備えた金属ロールを「転写ロール」ともいう。
上記転写型は、転写ロール表面に備えられ、溶融状シートの表面に押し当てられ、その表面形状を逆型として溶融状シートに転写するものである。転写型は、転写ロール表面に設けられた複数の凹部からなる。凹部の形状、溝深さ、ピッチ間隔等は、所望するポリプロピレンフィルムの表面凹凸形状に応じて決定される。転写型の溝は、転写ロールの周方向に平行であってもよく、転写ロールの幅方向に平行であってもよく、周方向と一定の角度をなしていてもよい。
上記転写型の作製方法としては、公知の方法を採用することができ、ステンレス鋼、鉄鋼などからなる転写ロールの表面に、たとえばクロムメッキ、銅メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル−リンメッキなどのメッキ処理を施した後に、そのメッキ面に対してダイヤモンドバイトや金属砥石等を用いた除去加工や、レーザー加工や、またはケミカルエッチングを行ない、形状を加工する方法が例示される。
また、転写ロールの表面は、上記転写型を形成した後に、たとえば表面形状の精度を損なわないレベルで、クロムメッキ、銅メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル−リンメッキなどのメッキ処理を施してもよい。
(冷却ロール)
冷却ロールは、弾性ロールと金属ロールとによって挟圧された溶融状シートをさらに冷却するためのロールである。図6に示されるフィルム製造装置100(図7および8に示されるフィルム製造装置200、300についても同様)が備える冷却ロール5は、上記金属ロール4と同様の構成を有しており、具体的には、高剛性の金属外筒5aと、金属外筒5aの内側に配置された流体軸筒5bと、金属外筒5aと流体軸筒5bとの間の空間および流体軸筒5b内を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する。流体軸筒5bには、その周方向に沿って複数の貫通孔5cが設けられている。冷却ロール5としては、その直径が200mm〜600mm程度で、表面粗度が0.2S以下の鏡面のものを用いることができる。冷却ロール5においても同様に、図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に金属外筒5aの表面温度が調節される。
Tダイ2の吐出口2aから吐出された溶融状シートを、上記弾性ロールと上記金属ロール(転写ロールを含む)とによって挟圧し、冷却固化させることにより、ポリプロピレンフィルムが製造される。挟圧する圧力(線圧)は、弾性ロールを金属ロールに押し付ける圧力により決まり、1〜300N/mmであるのが好ましく、より好ましくは1〜200N/mmである。線圧が1N/mm未満であると、溶融状シートに対する線圧を均一に制御することが困難となり、金属ロールが転写ロールである場合には、転写型を精度よく転写しにくくなる傾向にある。また、線圧が300N/mmを超えると、溶融状シートが強く挟圧されすぎることとなるので、溶融状シートが、挟圧された部分にたまりながら成形されるバンク成形となり、アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面を有し、さらに好ましくは、上記特性(I)および(II)を具備し、コロナ処理後の微細突起の直径および個数が上記範囲内となるポリプロピレンフィルムが得られにくく、また、得られるポリプロピレンフィルムに大きな位相差が発現してしまう傾向にある。
挟圧する圧力(線圧)を制御する方法としては、(1)挟圧する部分にコッターと呼ばれる三角形の楔形の「つめもの」を設置し、このコッターを調整することによりロール間隔を調整する方法、(2)弾性ロールおよび金属ロールの双方を、油圧、エア等を用いて所定の圧力で調整したコッターに当接するまで押し付ける方法、が一般的である。その他、コッターを用いず、ねじの回転数を制御し、機械的に所定の位置まで無段階で圧着する方法や油圧系にサーボモーターを用いる方法も挙げられる。
また、弾性ロールと金属ロールとによって挟圧する距離は1〜30mmであり、好ましくは1〜15mmである。挟圧する距離がこの範囲内であると、金属ロールが転写ロールである場合、転写型を精度よく転写することができる。挟圧する距離を制御する方法としては(1)挟圧する部分にコッターと呼ばれる三角形の楔形の「つめもの」を設置し、このコッターを調整することによりロール間隔を調整する方法、(2)弾性ロールの弾性を調整する方法、が一般的である。
溶融状シートを挟圧する際における弾性ロールおよび金属ロールの表面温度は特に制限されないが、急速に溶融状シートを冷却することができ、これによりアイソタクチック結晶化度が60%以下である表面を有し、さらに好ましくは、上記特性(I)および(II)を具備し、コロナ処理後の微細突起の直径および個数が上記範囲内となるポリプロピレンフィルムが得られやすいとともに、高い透明性を有するポリプロピレンフィルムが得られやすいことから、弾性ロールまたは金属ロールの少なくとも一方のロールの表面温度が0〜60℃であることが好ましく、より好ましくは少なくとも一方のロールの表面温度が0〜40℃であり、さらに好ましくは少なくとも一方のロールの表面温度が0〜30℃である。
なお、ポリプロピレンフィルムの加工速度は、転写ロール等の金属ロールの径が大きいほど速くなる。たとえば、金属ロールの直径が600mmである場合、ポリプロピレンフィルムの加工速度を、最大で50m/min程度、通常30m/min程度に設定することができる。
弾性ロールおよび金属ロールは、Tダイ2の下方において、一般的には一列に並ぶように配列されている。弾性ロールと金属ロールとは、所定間隔をもって配置されており、この弾性ロールと金属ロールとの間隔や、弾性ロール、金属ロールおよび冷却ロールの回転速度、Tダイ2の吐出口2aから吐出される溶融状シートの吐出量等によってポリプロピレンフィルムの厚みが規定される。
冷却ロールによってさらに冷却されたポリプロピレンフィルムは、必要に応じて耳部がスリット(切断)され、巻取機にて巻き取られるか、または、枚葉に切断される。ポリプロピレンフィルムの耳部をスリット(切断)する前、またはスリット(切断)した後に、ポリプロピレンフィルムの片面または両面に、使用に供されるまでの間表面を保護しておくための一時的な保護フィルムを積層してもよい。
<偏光板>
図9および図10は、本発明の偏光板の好ましい例を示す概略断面図である。本発明の偏光板は、図9および図10に示される偏光板10,11のように、偏光フィルム101と、偏光フィルム101の一方の面に接着剤層103を介して積層された保護フィルムとしてのポリプロピレンフィルムとを少なくとも備える。このポリプロピレンフィルムは、上記したアイソタクチック結晶化度が60%以下の表面を有する本発明のポリプロピレンフィルムであり、該表面が接着剤層103に接するように偏光フィルム101上に積層されている。このポリプロピレンフィルムは、図9に示される偏光板10のように、接着剤層103側とは反対側の面が平坦なポリプロピレンフィルム102aであってもよく、あるいは、図10に示される偏光板11のように、接着剤層103側とは反対側の面がプリズム形状やレンズ形状等の規則的な凹凸形状からなるポリプロピレンフィルム102bであってもよい。
本発明の偏光板は、図9および図10に示されるように、好ましくは、偏光フィルム101の他方の面に接着剤層105を介して積層された保護フィルムまたは光学補償フィルム等の樹脂フィルム104をさらに備える。
本発明の偏光板は、本発明のポリプロピレンフィルムを用いているため、偏光フィルムと保護フィルムとの接着強度に優れており、高い耐久性を有する。
本発明の偏光板は、液晶セルの視認側に配置される視認側偏光板として用いることもできるし、液晶セルの背面側に配置される(液晶セルと面光源素子との間に配置される)背面側偏光板として用いることもできるが、特に、表面に規則的な凹凸形状を有する図10に示される偏光板11は、背面側偏光板として好適である。以下、本発明の偏光板について詳細に説明する。
(偏光フィルム)
本発明の偏光板に用いられる偏光フィルム(図9および図10における偏光フィルム101)は、具体的には、一軸延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものである。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、たとえば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常、85〜100モル%程度であり、98モル%以上が好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、たとえば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、およびポリビニルブチラール等も用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常、1000〜10000程度であり、1500〜5000程度が好ましい。
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の適宜の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムの膜厚は特に限定されるものではないが、たとえば10〜150μm程度である。
偏光フィルムは、通常、上記したようなポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを二色性色素で染色してその二色性色素を吸着させる工程(染色処理工程)、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程(ホウ酸処理工程)、ならびに、このホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程(水洗処理工程)を経て、製造される。
また、偏光フィルムの製造に際し、通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは一軸延伸されるが、この一軸延伸は、染色処理工程の前に行なってもよいし、染色処理工程中に行なってもよいし、染色処理工程の後に行なってもよい。一軸延伸を染色処理工程の後に行なう場合において、この一軸延伸は、ホウ酸処理工程の前に行なってもよいし、ホウ酸処理工程中に行なってもよい。勿論、これらの複数の段階で一軸延伸を行なうことも可能である。一軸延伸は、周速の異なるロール間で一軸に延伸するようにしてもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸するようにしてもよい。また、大気中で延伸を行なう乾式延伸であってもよいし、溶剤にて膨潤させた状態で延伸を行なう湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
染色処理工程におけるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬することによって行なわれる。二色性色素としては、たとえばヨウ素、二色性染料などが用いられる。二色性染料には、たとえば、C.I.DIRECT RED 39などのジスアゾ化合物からなる二色性直接染料、トリスアゾ、テトラキスアゾ化合物などからなる二色性直接染料が包含される。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、通常、水100重量部あたり0.01〜1重量部であり、ヨウ化カリウムの含有量は、通常、水100重量部あたり0.5〜20重量部である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1800秒である。
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は、通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は、通常、水100重量部あたり1×10-4〜10重量部、好ましくは1×10-3〜1重量部であり、特に好ましくは1×10-3〜1×10-2重量部である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を染色助剤として含有していてもよい。二色性色素として二色性染料を用いる場合、染色に用いる染料水溶液の温度は、通常20〜80℃であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1800秒である。
ホウ酸処理工程は、二色性色素により染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬することにより行なわれる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部、好ましくは5〜12重量部である。上述した染色処理工程における二色性色素としてヨウ素を用いた場合には、このホウ酸処理工程に用いるホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。この場合、ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの量は、水100重量部あたり、通常0.1〜15重量部、好ましくは5〜12重量部である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常、60〜1200秒、好ましくは150〜600秒、さらに好ましくは200〜400秒である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃、より好ましくは60〜80℃である。
続く水洗処理工程では、上述したホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、たとえば水に浸漬することによって水洗処理する。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃であり、浸漬時間は、通常1〜120秒である。水洗処理後は、通常、乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。乾燥処理は、たとえば熱風乾燥機、遠赤外線ヒータなどを用いて行なうことができる。乾燥処理の温度は、通常、30〜100℃、好ましくは50〜80℃である。乾燥処理の時間は、通常60〜600秒、好ましくは120〜600秒である。
こうして、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、ホウ酸処理および水洗処理を施して、偏光フィルムが得られる。偏光フィルムの厚みは、通常、5〜40μmの範囲内である。
(樹脂フィルム)
図9および図10に示される例のように、偏光フィルム101におけるポリプロピレンフィルム102a,102bが積層される面とは反対側の面には、接着剤層105を介して、保護フィルムや光学補償フィルムなどの樹脂フィルム104を積層してもよい。
樹脂フィルム104としては、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)などのセルロース系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂フィルムなどが挙げられる。
上記セルロース系樹脂フィルムを構成するセルロース系樹脂としては、セルロースの部分エステル化物または完全エステル化物を挙げることができ、たとえば、セルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、および、それらの混合エステルなどを挙げることができる。より具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが挙げられる。このようなセルロース系樹脂を製膜してフィルムとする際には、溶剤キャスト法、溶融押出法などの公知の方法が適宜用いられる。保護フィルムとして使用することのできるセルロースエステル系樹脂フィルムの市販品としては、たとえば「フジタックTD80」、「フジタックTD80UF」、「フジタックTD80UZ」(以上、富士フイルム(株)製)、「KC8UX2M」、「KC8UY」(以上、コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。
また、セルロース系樹脂フィルムからなる光学補償フィルムとしては、たとえば、上記セルロース系樹脂フィルムに位相差調整機能を有する化合物を含有させたフィルム;セルロース系樹脂フィルム表面に位相差調整機能を有する化合物を塗布したフィルム;セルロース系樹脂フィルムを一軸延伸または二軸延伸して得られるフィルムなどが挙げられる。市販のセルロース系樹脂フィルムからなる光学補償フィルムとしては、たとえば、「WV BZ 438」、「WV EA」(以上、富士フイルム(株)製)、「KC4FR−1」、「KC4HR−1」(以上、コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。
セルロース系樹脂フィルムからなる保護フィルムまたは光学補償フィルムの厚みは特に制限されないが、20〜90μmの範囲内であることが好ましく、30〜90μmの範囲内であることがより好ましい。厚みが20μm未満である場合には、フィルムの取扱いが難しく、一方、厚みが90μmを超える場合には、加工性に劣るものとなり、また、得られる偏光板の薄肉化および軽量化において不利である。
上記ポリオレフィン系樹脂フィルムからなる光学補償フィルムとしては、たとえば一軸延伸または二軸延伸されたシクロオレフィン系樹脂フィルムを挙げることができる。大型液晶テレビ用液晶パネル、特に垂直配向(VA)モードの液晶セルを備える液晶パネルに適用する場合には、上記光学補償フィルムとしては、シクロオレフィン系樹脂フィルムの延伸品が、光学特性および耐久性の点からも好適である。ここで、シクロオレフィン系樹脂フィルムとは、たとえば、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーなどの環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する熱可塑性の樹脂からなるフィルムである。シクロオレフィン系樹脂フィルムは、単一のシクロオレフィンを用いた開環重合体の水素添加物や2種以上のシクロオレフィンを用いた開環共重合体の水素添加物であってもよく、シクロオレフィンと鎖状オレフィンおよび/またはビニル基を有する芳香族化合物などとの付加共重合体であってもよい。また、主鎖あるいは側鎖に極性基が導入されているものも有効である。
市販の熱可塑性シクロオレフィン系樹脂としては、ドイツのTOPAS ADVANCED POLYMERS GmbH社から販売されている「Topas」、JSR(株)から販売されている「アートン」、日本ゼオン(株)から販売されている「ゼオノア(ZEONOR)」および「ゼオネックス(ZEONEX)」、三井化学(株)から販売されている「アペル」(いずれも商品名)などがあり、これらを好適に用いることができる。このようなシクロオレフィン系樹脂を製膜して、シクロオレフィン系樹脂フィルムを得ることができる。製膜方法としては、溶剤キャスト法、溶融押出法など、公知の方法が適宜用いられる。また、たとえば、積水化学工業(株)から販売されている「エスシーナ」および「SCA40」、日本ゼオン(株)から販売されている「ゼオノアフィルム」、JSR(株)から販売されている「アートンフィルム」(いずれも商品名)などの製膜されたシクロオレフィン系樹脂フィルムも市販されており、これらも好適に使用することができる。
延伸されたシクロオレフィン系樹脂フィルムからなる光学補償フィルムの厚みは、厚すぎると、加工性に劣るものとなり、また、透明性が低下したり、偏光板の薄肉化および軽量化において不利であることなどから、20〜80μm程度であるのが好ましい。
(接着剤層)
本発明の偏光板は、上述した偏光フィルムの一方の表面に接着剤を用いて上記ポリプロピレンフィルムを貼合することにより得ることができる。これにより、図9および図10を参照して、偏光フィルム101の表面に接着剤層103を介してポリプロピレンフィルム102a,102bが積層された偏光板が得られる。偏光フィルム101の他方の面に樹脂フィルム104を積層する場合、偏光フィルム101と樹脂フィルム104との貼合は、同様に接着剤を用いて行なわれる。この接着剤は、接着剤層105を形成するものである。偏光フィルム101に樹脂フィルム104が貼合される場合、ポリプロピレンフィルム102a,102bの貼合に用いられる接着剤と樹脂フィルム104の貼合に用いられる接着剤とは、同種の接着剤であってもよく、異種の接着剤であってもよい。これらのフィルムの貼合に用いられる接着剤としては、水系接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解または分散させた接着剤、および活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなる接着剤を挙げることができる。
上記水系接着剤としては、たとえば、接着剤成分としてポリビニルアルコール系樹脂またはウレタン樹脂を用いた水系接着剤が挙げられる。
接着剤成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、当該ポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールなどの変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。通常、ポリビニルアルコール系樹脂を接着剤成分とする水系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液として調製される。接着剤中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、水100重量部に対して、通常1〜10重量部程度、好ましくは1〜5重量部程度である。
ポリビニルアルコール系樹脂を接着剤成分とする接着剤には、接着性を向上させるために、グリオキザール、水溶性エポキシ樹脂などの硬化性成分または架橋剤を添加することが好ましい。水溶性エポキシ樹脂としては、たとえばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸などのジカルボン酸との反応により得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂を好適に用いることができる。かかるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン 650」および「スミレーズレジン 675」、日本PMC(株)から販売されている「WS−525」などが挙げられる。これら硬化性成分または架橋剤の添加量(共に添加する場合にはその合計量)は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部である。上記硬化性成分、架橋剤の添加量がポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して1重量部未満である場合には、接着性向上の効果が小さくなる傾向にあり、また、上記硬化性成分、架橋剤の添加量がポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して100重量部を超える場合には、接着剤層が脆くなる傾向にある。
また、接着剤成分としてウレタン樹脂を用いる場合、適当な接着剤組成物の例として、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を挙げることができる。ここで、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その骨格内に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂それ自体は公知であり、たとえば特開平7−97504号公報には、フェノール系樹脂を水性媒体中に分散させるための高分子分散剤の例として記載されており、また特開2005−070140号公報および特開2005−181817号公報には、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を接着剤として、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムにシクロオレフィン系樹脂フィルムを貼合することが示されている。
偏光フィルムおよび/またはこれに貼合されるフィルム(ポリプロピレンフィルムや樹脂フィルム)の表面に接着剤を塗布する方法としては、一般に知られている方法でよく、たとえば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクターブレード法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などを挙げることができる。流延法とは、被塗布物であるフィルムを、概ね垂直方向、概ね水平方向、または両者の間の斜め方向に移動させながら、その表面に接着剤を流下して拡布させる方法である。接着剤を塗布した後、偏光フィルムおよびこれに貼合されるフィルムを重ね合わせ、一本または複数本のニップロールなどにより挟んでフィルムの貼合を行なう。この場合において、ニップロールの材質としては金属やゴムなどを用いることが可能である。複数本のロールを用いる場合、その材質は同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
上記貼合後、乾燥して接着剤層を硬化させることにより偏光板を得ることができる。この乾燥処理は、たとえば熱風を吹き付けることにより行なわれ、その温度は、通常40〜100℃の範囲内であり、好ましくは60〜100℃の範囲内である。また、乾燥時間は通常、20〜1200秒である。
乾燥後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μmであり、好ましくは0.01〜2μm、さらに好ましくは0.01〜1μmである。乾燥後の接着剤層の厚みが0.001μm未満である場合には、接着が不十分となる虞があり、また、乾燥後の接着剤層の厚みが5μmを超えると、偏光板の外観不良が生じる虞がある。なお、乾燥、硬化前における、上記ニップロール等を用いて貼り合わされた後の接着剤層の厚さは、5μm以下であることが好ましく、また0.01μm以上であることが好ましい。
乾燥処理の後、室温以上の温度で少なくとも半日、通常は1日間以上の養生を施して十分な接着強度を得てもよい。かかる養生は、典型的には、ロール状に巻き取られた状態で行なわれる。好ましい養生温度は30〜50℃の範囲であり、さらに好ましくは35〜45℃である。養生温度が50℃を超えると、ロール巻き状態において、いわゆる「巻き締まり」が起こりやすくなる。なお、養生時の湿度は、特に限定されないが、相対湿度が0%RH〜70%RH程度の範囲となるように選択されることが好ましい。養生時間は、通常1日〜10日程度、好ましくは2日〜7日程度である。
また、上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなる接着剤としては、たとえば、光硬化性エポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤との混合物からなる光硬化性接着剤などが挙げられる。光硬化性エポキシ樹脂としては、たとえば、脂環式エポキシ樹脂、脂環式構造を有しないエポキシ樹脂、およびそれらの混合物などが挙げられる。光硬化性接着剤は、光硬化性エポキシ樹脂のほか、アクリル樹脂、オキタセン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを含んでいてもよく、また、光カチオン重合開始剤とともに、または光カチオン重合開始剤の代わりに、光ラジカル重合開始剤を含んでいてもよい。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなる接着剤を用いた場合、得られる接着剤層は、該組成物の硬化物層からなる。
光硬化性接着剤を用いる場合には、偏光フィルムおよび/またはこれに貼合されるフィルム(ポリプロピレンフィルムや樹脂フィルム)に光硬化性接着剤を塗布し、これらのフィルムを貼合した後、活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる。光硬化性接着剤の塗布方法およびフィルムの貼合方法は、水系接着剤と同様とすることができる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好ましく用いられる。
光硬化性接着剤への光照射強度は、該光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜6000mW/cm2であることが好ましい。該照射強度が0.1mW/cm2以上である場合、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cm2以下である場合、光源から輻射される熱および光硬化性接着剤の硬化時の発熱によるエポキシ樹脂の黄変や偏光フィルムの劣化を生じる虞が少ない。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化させる光硬化性接着剤ごとに制御されるものであって特に制限されないが、上記照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/m2となるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が10mJ/m2以上である場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、また、10000mJ/m2以下である場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。
活性エネルギー線の照射によって光硬化性接着剤を硬化させる場合、偏光フィルムの偏光度、透過率および色相、ならびにポリプロピレンフィルムおよび樹脂フィルムの透明性などの偏光板の諸機能が低下しない条件で硬化を行なうことが好ましい。
活性エネルギー線照射後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μmであり、好ましくは0.01〜2μm、さらに好ましくは0.01〜1μmである。
接着剤層を形成する接着剤は、上記水系接着剤、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなる接着剤のいずれであってもよいが、生産性の観点からは、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなる接着剤を用いることが好ましい。
なお、ポリプロピレンフィルムおよび樹脂フィルムの偏光フィルムへの貼合に先立ち、偏光フィルムおよび/またはこれに貼合されるフィルムの接着表面に、接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を施してもよい。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ水溶液に浸漬する方法が挙げられる。特に、ポリプロピレンフィルムの接着表面(アイソタクチック結晶化度が60%以下である表面)には、コロナ処理を施しておくことが好ましい。
コロナ処理とは、電極間に高電圧をかけて放電し、電極間に配置されたフィルムの表面を活性化する処理である。コロナ処理の効果は、電極の種類、電極間隔、電圧、湿度、貼合されるフィルムの材質などによっても異なるが、本発明においては、偏光フィルムとポリプロピレンフィルムとの接着性を向上させるために、たとえば、電極間隔を1〜5mm、移動速度を3〜20m/分程度に設定するのが好ましい。コロナ処理は、同じ面に対して複数回行なわれてもよい。コロナ処理時の周囲温度、周囲相対湿度は、たとえば、それぞれ0〜40℃程度、17〜70%RH程度とすることができる。ただし、コロナ処理時における周囲相対湿度は、コロナ処理面に結露が生じないように調整されることが好ましい。
(粘着剤層)
偏光フィルムにおけるポリプロピレンフィルムが積層される面とは反対側の面には、液晶セルと偏光板とを貼合するための粘着剤層が形成されてもよい。偏光フィルムにおけるポリプロピレンフィルムが積層される面とは反対側の面に、保護フィルムや光学補償フィルムなどの樹脂フィルムを積層する場合には、該樹脂フィルム上に液晶セルと偏光板とを貼合するための粘着剤層を形成することができる。
粘着剤層に用いられる粘着剤としては、従来公知の適宜の粘着剤を用いることができ、たとえばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。中でも、透明性、粘着力、信頼性、リワーク性などの観点から、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。粘着剤層は、このような粘着剤を、たとえば有機溶剤溶液とし、これを基材フィルム(たとえば偏光フィルム等)上にダイコータやグラビアコータなどによって塗布し、乾燥させる方法によって設けることができる。また、離型処理が施されたプラスチックフィルム(セパレートフィルムと呼ばれる)上に形成されたシート状粘着剤を基材フィルムに転写する方法によっても設けることができる。粘着剤層の厚みは、特に制限されないが、2〜40μmの範囲内であることが好ましい。
<液晶パネルおよび液晶表示装置>
図11は、本発明の液晶パネルおよびこれを用いた液晶表示装置の好ましい一例を示す概略断面図である。本発明に係る図11に示される液晶表示装置は、導光板32および導光板32の側方であって、導光板32の一辺に沿うように配置された光源装置31を備える面光源素子30と、面光源素子30上に配置された液晶パネル20とから構成されている。液晶パネル20は、液晶セル13と、液晶セル13の一方の面(面光源素子30側の面)に積層された背面側偏光板である偏光板11と、液晶セル13の他方の面(視認側の面)に積層された視認側偏光板である偏光板12とからなる。図11に示される例において、偏光板11は、図10に示されるプリズム形状の表面を有するポリプロピレンフィルム102bを備えた偏光板である。偏光板11,12は、それぞれ粘着剤層106a,106bを介して液晶セル13に貼合されている。
背面側偏光板である偏光板11は、その樹脂フィルム104側で液晶セル13に貼合されており、より具体的には、液晶セル13と偏光板11とは、偏光フィルム101におけるポリプロピレンフィルム102bが積層される面とは反対側の面が液晶セル13に対向するように、すなわち、ポリプロピレンフィルム102bのプリズム形状面が液晶パネル20の面光源素子側表面を形成し、該プリズム形状面が面光源素子30に対向するように貼合されている。
上記構成を備える液晶パネル20およびこれを用いた液晶表示装置は、背面側偏光板として本発明の偏光板を用いたものであるため、耐久性に優れている。また、ポリプロピレンフィルム102bが、偏光板保護フィルムとしての機能とともに、面光源素子30からの光を偏向する機能をも兼ねるため、従来用いられてきた光偏向機能を有するフィルムを省略することが可能となり、これにより液晶表示装置の薄型化が達成されている。なお、液晶パネルの背面側偏光板は、必ずしも本発明に係る偏光板でなくてもよく、従来公知の偏光板であってもよい。
本発明の液晶表示装置において、視認側偏光板である偏光板12は、本発明の偏光板であってもよく、あるいは従来公知の偏光板であってもよい。
液晶セル13のタイプは特に限定されず、垂直配向(VA)モード、ねじれ複屈折(TN)モード、超ねじれ複屈折(STN)モード、横電界(IPS)モードなどの従来公知の液晶セルであってよい。
本発明の液晶表示装置において、面光源素子としては、拡散板を用いた直下型光源、導光板を用いたエッジ型光源などを用いることができるが、図11に示されるような、導光板32と導光板32の側方に配置された光源装置31とを備えるエッジ型光源(面光源素子30)を用いることが好ましい。導光板32としては、たとえば、アクリル樹脂等の透明樹脂からなる平板状またはくさび形状部材を用いることができる。導光板の裏面または両面には、インクを使用したスクリーン印刷またはエッチング、ブラストの加工により、パターンが付加される。また、導光板の裏面または両面に、反射機能を有する微小反射素子、微小屈折素子などを構成することもある。
光源装置31としては、LED等の点状光源を線状に並べた光源装置や、冷陰極管等の棒状光源からなる光源装置を用いることができる。本発明の液晶表示装置において、面光源は、導光板の一辺に配置される1つの光源装置を有していてもよいし、または導光板の向かいあう二辺に配置される2つの光源装置を有していてもよい。
本発明の液晶表示装置において、上記で説明した以外の構成については、従来公知の適宜の構成を採用することができる。たとえば、本発明の液晶表示装置は、光拡散板、光拡散シート、反射板などをさらに備えていてもよい。
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって規定されるものではない。なお、下記の例において作製したポリプロピレンフィルムの表面のアイソタクチック結晶化度、薄膜X線回折法による回折プロファイル、表面軟化温度、コロナ処理後の表面形状、厚み、ヘイズおよび面内位相差値Re、ならびに、ポリプロピレンフィルムの作製に用いたアイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)および融点は、以下の装置および測定条件にて測定した。
(1)表面のアイソタクチック結晶化度
次の装置および測定手順で、減衰全反射法[Attenuated Total Reflection(ATR)法]による赤外分光スペクトル測定を行なった。
・装置: 赤外分光光度計 DIGILAB FTS7000、顕微鏡システムUMA600 Stingray(いずれもバリアンテクノロジーズジャパン社製)、
・測定モード: ATR法(Ge 30°)、
・分解能: 4cm-1、
・積算回数: 64回、
・ATR−IR測定手順: ポリプロピレンフィルム表面をGe(ゲルマニウム)結晶プリズムに直接押しつけてIRスペクトルを測定した。
ついで、得られた赤外分光スペクトルに基づき、下記式:
アイソタクチック結晶化度X(%)=109×(A998−A920)/(A974−A920)−31.4
によってアイソタクチック結晶化度Xを求めた。上記式中、A998、A974およびA920はそれぞれ、波数998、974および920cm-1における吸光度である。
(2)表面の回折プロファイル
次の装置および測定条件にて、薄膜X線回折法による表面の回折プロファイルを取得した。
・装置: 表面構造評価用多機能X線回折装置(理学電機(株)製)、
・X線源: CuKα線、
・管電圧−管電流: 50kV−300mA、
・入射光学系(I): 人工多層膜放物面ミラー(半価幅0.057°)
第1スリット(幅1.0mm、高さ10mm)、
・入射光学系(II): ソーラースリット(鉛直発散抑制,0.48°)
第2スリット(幅0.2mm、高さ10mm)、
・受光光学系(検出部): ソーラースリット(鉛直発散抑制,0.41°)、
・走査軸: 2θχ/φ(In−Plane回折法)、
・入射角度(ω): 0.13°±0.01°、
・測定間隔: 0.02°、
・測定速度: 5°/min。
ついで、得られた回折プロファイルから、強度が最も高いピーク(以下、第1のピークという)および強度が2番目に高いピーク(以下、第2のピークという)の位置(2θ)を抽出した。
(3)表面軟化温度
下記の測定装置を用いて、常温から15℃/sの昇温速度でフィルムに熱を加え、表面が軟化し始める温度を測定した。試料の正確な表面軟化温度を計測するために、まずキャリブレーション曲線の作成を行ない、その後試料の測定を行なった。キャリブレーション用サンプルとしては、ポリカプロラクトン(表面軟化温度:55℃)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA、表面軟化温度:131.5℃)、ポリエチレンテレフタレート(PET、表面軟化温度:235℃)の3つを用いた。測定位置を変えて2回または3回測定し、その平均値を表面軟化温度とした。
・装置: 局所熱解析(Nanoscale Thermal Analysis)システム nano−TA2(機種名および型番、アナシス・インスツルメンツ(Anasys Instruments)社製)、
・測定モード: クロースコンタクトモード(5μm角、スキャン速度;1Hz)、
・カンチレバー: AN2−200(アナシス・インスツルメンツ社製)。
(4)コロナ処理後の表面形状
下記の条件にてポリプロピレンフィルム表面に対してコロナ処理を行なった後、コロナ処理面の表面形状を下記の装置および測定条件にて測定し、下記画像解析により、コロナ処理面に存在する微細突起の平均直径および1平方μmあたりの微細突起の個数を求めた。
(コロナ処理条件)
コロナ処理装置(高周波電源;春日電機社製 CT−0212、発信機本体;春日電機社製 CT−0212、高圧トランス;春日電機社製 CT−T022)を用い、ポリプロピレンフィルム表面とコロナ処理装置の電極との距離が3mmとなるように調整し、出力280W、ラインスピード1.0m/min、周囲温度23℃、周囲相対湿度55%RHの条件で、連続して3回コロナ処理を行なった。
(表面形状観察)
・装置: 局所熱解析(Nanoscale Thermal Analysis)システム nano−TA2(機種名および型番、アナシス・インスツルメンツ(Anasys Instruments)社製)、
・測定モード: クロースコンタクトモード(5μm角、解像度(スキャニング1列あたりの測定点数);512、スキャン速度;1Hz)、
・カンチレバー: P−MAN−SICC−0(PACIFIC NANOTECHNOLOGY社製)、
・測定温度: 室温。
(画像解析)
・ソフトウェア: 画像解析ソフトウェアSPIP(イメージメトロロジー社製)、
・解析条件:まず、取り込んだ5μm角の画像を、上記ソフトウェアの傾き補正ダイアグラムにて傾き補正し、つづいて50ピクセル×50ピクセルでフィルタをかけて、大きなうねりを補正した。ついで、得られた補正画像について、上記ソフトウェアの「グレイン解析」のツールを用いて、セグメントタイプ;粒子、検出方法;分岐線として、隣り合う微細突起間の分岐線を検出し、5μm角の画像に含まれる各微細突起の底面積を算出し、微細突起の底面がこの算出された底面積と同面積の円であると仮定して、各微細突起の直径を求め、これらの平均値を算出するとともに、1平方μmあたりの微細突起の個数を求めた。
(5)ポリプロピレンフィルムの厚み
接触式厚み計(NIKON社製 MS−5C)を用いて5点の厚みを測定し、その平均値をポリプロピレンフィルムの厚みとした。
(6)ポリプロピレンフィルムのヘイズ
JIS K 7136に準拠した(株)村上色彩技術研究所製のヘイズメーター「HM−150」型を用いて測定した。
(7)ポリプロピレンフィルムの面内位相差値Re
位相差測定装置(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)を用いて測定した。
(8)アイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)
JIS K7210に従い、温度230℃、荷重21.18Nで測定した。
(9)アイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂の融点Tm
アイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂を熱プレス成形して、厚さ0.5mmのシートを作製した。この熱プレス成形では、熱プレス機内でアイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂を230℃で5分間予熱後、3分間かけて50kgf/cm2まで昇圧し2分間保圧した後、30℃、30kgf/cm2で5分間冷却するようにプレスした。作製したプレスシートの切片10mgについて、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下で下記[1]〜[5]の熱履歴を加えた後、50℃から180℃まで昇温速度5℃/分で加熱して融解曲線を作成した。この融解曲線において、最高吸熱ピークを示す温度(℃)を求め、これをアイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂の融点Tmとした。
[1]220℃で5分間加熱する、
[2]降温速度300℃/分で220℃から150℃まで冷却する、
[3]150℃において1分間保温する、
[4]降温速度5℃/分で150℃から50℃まで冷却する、
[5]50℃において1分間保温する。
<実施例1(参考):ポリプロピレンフィルム1の作製>
図7に示されるフィルム製造装置200を用い、次の手順でポリプロピレンフィルム1を作製した。まず、アイソタクチックを含むポリプロピレン系樹脂A(プロピレン単独重合体、MFR=7g/10分、Tm=164℃)を、270℃に加熱した50mmφ押出機1(スクリュー:L/D=32、フルフライトスクリュー)にて溶融混練し、押出機1から、押出機1に続いて設置されるギヤポンプ、アダプタおよびTダイ2(すべて270℃に設定)へと、この順にフィードし、Tダイ2の吐出口2a(リップ口)から溶融状態とされたポリプロピレン系樹脂シート(溶融樹脂)を吐出した。Tダイ2の吐出口部分における溶融樹脂の温度は270℃であった。そして、当該溶融樹脂を、表1に示す製造条件にて弾性ロール6(転写型なし)と金属ロール4(転写型なし)とによって挟圧し、さらに金属ロール5によって冷却してポリプロピレンフィルム1を作製した。得られたフィルムは、膜厚が107.1μm、ヘイズが1.3%、面内位相差値Reが20.6nmであった。
なお、表1に示す「挟圧距離」は、弾性ロール6と金属ロール4との間で溶融樹脂が挟圧される長さを示しており、弾性ロール6と金属ロール4との間に感圧紙(富士フィルムビジネスサプライ(株)製プレスケールLLW)を挟み、感圧紙の発色部分のMD方向の距離を測定し、挟圧距離とした。また、用いた弾性ロール6、金属ロール4および冷却ロール5は以下の構成を有する。
(弾性ロール6)
帯状体6a:金属製、表面粗度0.2S、厚さ300μm、
ロール6b:シリコーン製、直径160mm、硬度60、
ロール6c:金属製、直径160mm、
(金属ロール4)
金属外筒4a:金属製、直径300mm、
(冷却ロール5)
金属外筒5a:金属製、直径300mm、表面粗度0.1S(鏡面)。
<実施例2〜6および比較例1〜2:ポリプロピレンフィルム2〜8の作製>
(ただし、実施例2および3は参考)
フィルムの製造条件(金属ロール4および弾性ロール6の表面温度、挟圧距離、線圧ならびにラインスピード)を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリプロピレンフィルム2〜8を作製した。得られたポリプロピレンフィルムの厚み、ヘイズおよび面内位相差値Reを表1に併せて示す。
また、得られたポリプロピレンフィルム1〜8の第1の表面(金属ロール4によって冷却固化された表面)および第2の表面(弾性ロール6によって冷却固化された表面)のアイソタクチック結晶化度、回折プロファイルから抽出した第1および第2のピークの位置(2θ)、表面軟化温度、ならびにコロナ処理面に存在する微細突起の直径および1平方μmあたりの微細突起の個数を表2にまとめた。また、図12〜15は、それぞれ実施例1で得られたポリプロピレンフィルム1の第1の表面、第2の表面、比較例2で得られたポリプロピレンフィルム8の第1の表面、第2の表面の回折プロファイルである。
<実施例7:偏光板の作製>
(1)偏光フィルムの作製
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上で厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き8℃の純水で洗浄した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は、主に、ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行ない、トータル延伸倍率は5.3倍であった。
(2)紫外線硬化型接着剤の調製
ジャパンエポキシレジン(株)製の水素化エポキシ樹脂である商品名「エピコート YX8000」(核水添ビスフェノールAのジグリシジルエーテルであって、約205g/当量のエポキシ当量を有する)10.0g、日本曹達(株)製の光カチオン重合開始剤である商品名「CI5102」4.0g、および、日本曹達(株)製の光増感剤である商品名「CS7001」1.0gを、100mlのディスポカップに量り取り、混合・脱泡することにより、紫外線硬化型接着剤を調製した。
(3)偏光板の作製
上記偏光フィルムの一方の面に、実施例1〜6、比較例1〜2で得られたポリプロピレンフィルム1〜8のいずれかの第1の表面(金属ロール4によって冷却固化された表面)または第2の表面(弾性ロール6によって冷却固化された表面)を貼合面として、上記紫外線硬化型接着剤を用いて貼合するとともに、他方の面には、シクロオレフィンフィルム(ZEONOR 75μm、日本ゼオン(株)製)を、上記紫外線硬化型接着剤を用いて貼合した。なお、ポリプロピレンフィルムおよびシクロオレフィンフィルムの貼合面には、あらかじめコロナ処理装置(高周波電源;春日電機社製 CT−0212、発信機本体;春日電機社製 CT−0212、高圧トランス;春日電機社製 CT−T022)を用い、ポリプロピレンフィルム表面とコロナ処理装置の電極との距離が3mmとなるように調整し、出力280W、ラインスピード1.0m/min、周囲温度23℃、周囲相対湿度55%RHの条件で、連続して3回コロナ処理を行なった。次に、日本電池(株)製の紫外線照射装置(紫外線ランプは“HAL400NL”を80Wで使用し、照射距離は50cmとした)の中にライン速度1.0m/minで1回通過させることにより上記紫外線硬化型接着剤を硬化させて、偏光板を得た。
(偏光フィルムとポリプロピレンフィルムとの間の接着性の評価)
上記実施例7で得られた16個の偏光板について、偏光フィルムとポリプロピレンフィルムとの間の接着性を、次の方法で評価した。まず、ポリプロピレンフィルム側にカッターを用いて切り込みを入れ剥れが生じないか確認した。次に、ポリプロピレンフィルムと偏光フィルムとの間にカッターの刃を入れて押し進め、カッターの刃の進入のし易さを確認した。上記評価試験を行ない、次の評価基準に従い、接着性を評価した。評価結果を表2に示す。
A:カッターの刃がまったく進まず、接着性が高い。
B:カッターの刃が少し進むがすぐ止まり、接着性が比較的高い。
C:切り込みを入れた時点で剥がれはないが、カッターの刃が押し進んで2枚のフィルムが離れていき、接着性が比較的低い。
D:切り込みを入れた時点で剥がれが生じ、接着性が低い。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。