本発明が対象とする従来の一般的なエンドミルは、外周刃に波形状やニックを有し、この波形状外周刃やニック付き外周刃は、各刃で削り残しが出ないように工具軸方向に等間隔で位相がずれているものが主流である。このような従来の波形状やニック付きの外周刃を有するエンドミルの用途は、普通刃エンドミルと比較して、切り屑を細かく分断しやすく切削抵抗を低減して加工ができるため、工具径方向の切り込み量を大きくでき、高能率加工が可能である。その反面、加工面は通常の外周刃を有するエンドミルより粗くなるため、荒切削で用いることが多い。
荒切削においても加工能率を上げるために、切り込み量をさらに大きくして高能率加工を行う要望があるが、切り込み量を大きくするとびびり振動の問題が生じることが多い。特にエンドミルの各外周刃のねじれ角が等しい通常のエンドミルは、製造が極めて容易であるメリットがあるが、加工中に共振が起こり、びびり振動が生じやすい。この対策として、製造上は費用と時間がかかるが、各外周刃のねじれ角を異なるようにして、切削力の周期を一定にしないことで振動の共鳴を防止し、工具本体のびびり振動を防止しようとする不等リードエンドミルが特許文献1で提案されている。
ねじれ角が異なる不等リードエンドミルは、切り屑排出溝の溝幅が変化するため、切り屑の排出で問題となり、切り屑詰まりに起因する折損や破損が生じる。そこで、切り屑排出溝の形状を最適化し、エンドミル先端から後端まで切削性能が変化することが無くなる不等リードエンドミルが特許文献2のように提案されている。
また、エンドミルによる荒切削においても加工能率を上げるために、切り込み量を大きくして高速切削による高能率加工を行う。しかし、切り込み量を大きくした場合、切り屑の排出性が良好でなければ欠損や折損が生じる可能性が高くなる。切り屑の排出性を改善する目的ではいくつかの提案がなされている。
特許文献3では、ギャッシュノッチ角が後端側に向かうに従い段階的に大きくなる複数段のギャッシュ面を構成したエンドミルが提案されている。縦送り時に大きな負荷が作用するエンドミル本体中心の先端側のギャッシュ面は強度を確保し、欠損等を防止でき、後端側のギャッシュ面は切り屑排出のための空間を確保するというものである。
特許文献4では、エンドミル回転中心側とエンドミル外周側にギャッシュ面を設け外周側のギャッシュ角は回転中心側のギャッシュ角より大きく設けたエンドミルが提案されている。これにより、高硬度材の横送り加工時に、切り屑の排出性を向上させ、高速切削による高能率加工が可能であるとするものである。
近年、金型加工や部品加工の高能率化への要求は一段と強く、荒切削加工においても高速機の普及と共に高速切削による高送り加工が注目されている。高速切削は切削速度を大きくすること、すなわち回転数を高く設定し、高能率加工を行う方法である。特に、荒切削加工においては、波形状外周刃またはニック付き外周刃を持つエンドミルを用いて切り込み量を大きくし、さらに、回転数も高く設定し、高速切削を行うことがあるが、従来のエンドミルでは、びびり振動が発生し、異常摩耗やチッピングの発生により寿命を短くするだけでなく、欠損や折損を引き起こす原因となっていた。
特許文献1では、少なくとも一のねじれ角が他のねじれ角と異なるように形成し、ねじれ角の差を3°〜12°としたエンドミルが記載されている。これは通常の切り込み量での切削加工においてはびびり振動を抑制する効果はあるが、本発明が対象とする切り込み量を大きくした高能率加工を行う場合には、びびり振動を抑制する効果は小さく、また切り屑排出溝の溝幅が場所により変化するため、切り屑排出溝の溝幅が狭くなる場所では、切り屑の排出で問題となり、切り屑詰まりに起因する折損や破損が生じる。
エンドミルにおけるびびり振動を抑制する技術として、従来技術で説明したように各外周刃のねじれ角が異なる不等リードエンドミルが提案されている。不等リードを適用したエンドミルは適切な形状設計をすれば、一定のびびり振動を抑制する効果があるが、各外周刃が不均一に並んでいることとなり、各刃の溝の大きさが異なるため、切り屑の排出性で問題になることがあった。特に、本発明が対象とする外周刃に波形状やニックを設けたエンドミルにおいては、切り込みを大きくできるため、1刃で切削する量は大きく、刃溝に滞留する切り屑の量も極めて多い。ここで、刃溝の大きさが異なる不等リードエンドミルでは、通常の等分割エンドミルより小さくなる刃溝があるため、切り屑詰まりによる異常摩耗や欠けなどの問題があった。この問題は高速切削に伴って多量に排出される切り屑の処理には特に重要な問題になる。
そこで、特許文献2では、切り屑排出溝の形状を最適化し、外周刃から排出される切り屑の詰まりを防止し、工具寿命を延長できるエンドミルが提案されているが、外周刃から排出される切り屑は横送り時に発生する切り屑である。近年の高能率加工は工具を交換することなく一本のエンドミルで多方向を向いた被削材の加工を一度に行いたいという要望も強い。金型などの形状が複雑化すると、縦送り加工、横送り加工及び傾斜切削などが組み合わされた複合加工となる。このような場合には、従来は縦送りや横送りなど、それぞれの切削加工方向に適した複数の切削工具を選択し工具の交換をして加工していたが、すべての加工を一本のエンドミルで行い飛躍的な高能率加工を実現したいという要望がある。
縦送り加工や横送り加工にそれぞれ特化したエンドミルは提案されている。例えば特許文献3に記載のエンドミルは、縦送り加工用として、縦送り時に大きな負荷が作用するエンドミル本体中心の先端側のギャッシュ面は強度を確保し、後端側のギャッシュ面は切り屑排出のための空間を確保したエンドミルである。特許文献4に記載のエンドミルは、高硬度材の高速横送り加工に適した複数段のギャッシュ面を構成するエンドミルである。しかし、これらの提案のエンドミルは、縦送り加工、横送り加工及び傾斜切削が複合した高能率加工にはエンドミル一本では使いづらい。
たとえば、凹形状等の縦送りや傾斜切削を含む加工を行う場合、最初に縦送りに持化したエンドミルやドリルなどを用い、その後に横送りに特化したエンドミルで繰り広げることが多い。横送りの高速切削を行うには、工具剛性を考慮し、心厚の大きいもので、刃数の多いものを使用することが多い。しかし、エンドミルで縦送り加工を行うには、切り屑排出の問題で、高能率な加工が困難である。従来のエンドミルで縦送り加工を行うと、軸中心付近の底刃によって生成される切り屑排出が悪く、切り屑つまりによる折損が生じやすくなる。また、切り屑排出を良好にするため、底刃のチップポケットを大きくすると、切り屑排出は良好となるが、横送り加工の際に底刃の剛性不足から欠損が発生しやすくなるという問題がある。
本発明者の検討によると、超硬合金を母材とするエンドミルで、さらなる多機能な加工を高能率で行う場合、先端側のギャッシュ面と後端側のギャッシュ面のつなぎ部の長さの適正化は、工具剛性と切り屑排出を両立させるために重要であることが分かってきた。特許文献2及3のエンドミルでは、回転軸中心から前記つなぎ部の位置までの長さが長くなるため切り屑つまりによる欠損などの問題となることが多いことが確認された。
従来の技術としては、不等リードエンドミルは存在するが、高速切削の場合には不等リードエンドミルでは刃溝が狭い部分が切り屑詰まりの問題が生じること、不等リードエンドミルで、ギャッシュを含みどのような刃底の形状にすれば良いかという問題認識は無かった。これは、従来の切り屑の処理は特許文献2乃至4のように、エンドミルの加工方向に適した個々のエンドミル形状にすれば良いという認識にとどまり、縦送り加工、横送り加工、および傾斜切削を含む複合加工であっても、一本のエンドミルで荒切削加工を高速で行うという本発明のような認識が無かったか、その手段が知られていなかったからである。
本発明は、このような背景と課題認識の下に、外周刃に波形状やニックを有し、切り込み量を大きくすることが出来、高速切削においてもびびり振動を抑制する不等リードを採用し、ギャッシュ面の最適な形状を採用することによって、各刃溝の不均一による切り屑詰まりによる異常摩耗や刃欠けを防止するとともに、縦送り加工、横送り加工、および傾斜切削を含む複合加工であっても、一本のエンドミルで許容回転数を高速に設定できる長寿命の超硬合金製エンドミルを提供することを目的とする。
本発明の超硬合金製エンドミル(以下、本発明のエンドミルともいう)の特徴は、工具の材質が超硬合金製であり不等リードを採用していること、一本のエンドミルで多方向に切削が可能な新規な形状のギャッシュ面を採用していること、及び外周刃には波形状やニックを有し、特定の硬質皮膜が被覆されていることであり、重要なことはこれらの本発明の要件による複合作用で、従来成しえなかった程の高能率荒加工を達成できることである。
本発明者は、従来よりも大きい単位時間当たりの切り屑排出量を達成するために、不等リードで高速切削用の波型形状またはニック付きの外周刃を有する超硬合金製エンドミルで底刃の形状を種々検討した。その結果、本発明の超硬合金製エンドミルは、刃溝が不均一になるために生じる切り屑詰まりを抑制できる新規の底刃形状として、底刃から排出される切り屑処理と、エンドミル先端付近の強度を中心から外周まで確保できる最適なギャッシュ形状を確認した。本発明は前記本発明の構成要件の相乗効果によって、一本の工具で縦送り加工、横送り加工、傾斜切削を含む多機能な加工ができる波形状又はニック付き外周刃を有する超硬合金製エンドミルを提供するものである。
すなわち、第1の本発明のエンドミルは、複数の底刃と、複数の波形状外周刃またはニック付き外周刃と、複数のギャッシュ面からなるギャッシュとを有する超硬合金製エンドミルであって、前記複数のギャッシュ面は、底刃のすくい面である第1ギャッシュ面、エンドミルの工具軸の回転中心側に設けられた第2ギャッシュ面、及びエンドミルの外周側に設けられた第3ギャッシュ面を設け、前記第1ギャッシュ面と第2ギャッシュ面の交差部と工具軸線に直交する平面とのなす角度を第1ギャッシュ角、前記第1ギャッシュ面と第3ギャッシュ面の交差部と工具軸線に直交する平面とのなす角度を第2ギャッシュ角としたとき、第1ギャッシュ角は15°〜35°、第2ギャッシュ角は40°〜60°に設けられ、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さは、工具回転軸から工具径の5%以上20%未満とし、ある外周刃を基準としたとき、少なくとも1枚の他の外周刃が、ねじれ角が異なるように形成された超硬合金製エンドミルである。
また、第2の本発明のエンドミルは、第1の本発明において、外周刃のねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差が2°〜10°の範囲にある超硬合金製エンドミルである。
また、本発明は、特定の硬質皮膜が被覆されていることにより、さらに特性が向上し、寿命も安定する。すなわち、第3の本発明のエンドミルは、少なくとも複数の底刃と外周刃には(TiAl)N系にSiを含有させた硬質皮膜が被覆されていることを特徴とする第1または第2の本発明に記載の超硬合金製エンドミルである。
本発明の超硬合金製エンドミルによれば、不等リードを採用しているので、高速切削においてもびびり振動が抑制され、従来よりも大きい単位時間当たりの切り屑排出量を達成できる高切り込み高速切削が可能となる。不等リードエンドミルの欠点である刃溝の大きさの不均一性と、小さい刃溝で起こる切り屑詰まりの問題に対しては、切削時に生じる切り屑の流れに着目して底刃のギャッシュ形状の最適化によりチップポケットを大きくしているので、切り屑詰まりを抑制することができる。
本発明の超硬合金製エンドミルは、切り屑の詰まりがなく、工具軸中心が剛性の大きいギャッシュの形状なので、縦送り加工、横送り加工及び傾斜切削など多機能で高能率な加工を、切削方向が変化しても工具の交換をすることなく一本のエンドミルで達成できる。
本発明のエンドミルのうち、少なくとも底刃と外周刃に硬質皮膜を被覆したものは、高速切削による高能率荒加工から高能率中仕上げ加工が安定して可能となり、硬質皮膜のないものと比較して、さらに長寿命に加工が行える超硬合金製エンドミルを提供することができる。
本発明のエンドミルは、上記で述べた効果の相乗効果により、すべての外周刃のねじれ角が等しい従来のエンドミルと比較して、横送り加工時には、本発明の超硬合金製エンドミルは切削速度を1.5倍以上の高能率加工を達成できる。さらに、ギャッシュの形状を最適化しているため、傾斜切削時には、従来のエンドミルと比較して、本発明の超硬合金製エンドミルは1.5倍以上の送り速度の高能率加工が達成できる。
具体的には、すべての外周刃のねじれ角が等しい従来のエンドミルと比較して、本発明エンドミルの切削速度を周速150m/minを超える条件も可能である。このような高能率加工の本発明の効果は、主に不等リードと新規なギャッシュの形状の相乗効果であり、さらに硬質皮膜を被覆すれば、その効果が追加付与される。
本発明によれば、従来の高速度工具鋼製のエンドミルと比較して、工具の寿命延長は期待できるが脆性材料のために欠損の危険性の高い超硬合金製エンドミルの切れ刃のチッピングや折損が防止でき、長寿命に加工が行える超硬合金製エンドミルを提供することができる。
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図5に基づいて説明する。図1は本発明の一実施例を示す超硬合金製エンドミルの全体概観図である。図1は工具径Dで外周側に切り屑排出用の刃溝16と、刃数が4枚でねじれ角の異なる外周刃1を有する例である。前記外周刃には工具先端側2から工具シャンク側3に向かって波形状の外周刃が設けられている。前記刃数は必要に応じて変え得る。例えば、アルミニウムなどの切削は切り屑の排出が多いため刃数は2枚程度とし、切り屑排出用のチップポケットを大きめに設定し、また、被削材が高硬度材の切削は刃数を8枚まで増やし、高送りに対応することができる。
図2は、図1の底刃近傍の拡大図である。図2のギャッシュには、底刃のすくい面である第1ギャッシュ面21、エンドミルの工具軸の回転中心側に第2ギャッシュ面22、エンドミルの外周側に第3ギャッシュ面23が設けられている。
図3は第1ギャッシュ面と平行な平面で切断したギャッシュ形状を表す図2のD−D´部分断面図である。なお、図3の斜線部は断面を示す。図3において第1ギャッシュ面と第2ギャッシュ面の交差部24と軸線に直交する平面とのなす角度を第1ギャッシュ角25、第1ギャッシュ面と第3ギャッシュ面の交差部26と軸線に直交する平面とのなす角度を第2ギャッシュ角27とする。
本発明における第1ギャッシュ角25は15°〜35°、第2ギャッシュ角27は40°〜60°に設けられ、第2ギャッシュ面22と第3ギャッシュ面23のつなぎ部の長さ28は工具回転軸から工具径Dの5%以上20%未満である。さらに望ましいつなぎ部の長さ28は9%乃至15%である。この条件を満足することにより、工具回転軸中心付近は剛性が確保でき、外周側は大きなチップポケットで十分な空間ができ、切り屑つまりによる欠損が防止出来る。ここで、つなぎ部の長さ28とは、回転軸中心から直角方向にみた第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部までの長さをいう。
第1ギャッシュ角25を15°〜35°とすると、工具回転軸付近の剛性が確保でき、切り屑の排出性が良好になるので望ましい。第1ギャッシュ角が15°未満の場合は、工具回転軸中心部付近のチップポケットが狭くなるため、切り屑つまりによる異常摩耗が生じることがある。また、第1ギャッシュ角25が35°を超える場合、工具径が小さくなると底刃の中心付近の剛性不足により欠損が生じることがある。
さらに第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さ28は工具回転軸から工具径の5%以上20%未満とすることにより、底刃の工具回転軸付近の剛性を確保し、外周の溝への切り屑の排出が良好になる。第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さ28が工具回転軸から工具径の5%未満の場合、第3ギャッシュ面23が工具回転軸付近より近く設けられることになり、底刃の工具回転軸付近の剛性が低くなり、底刃の工具回転軸付近での欠損が生じやすくなる。また、前記つなぎ部の長さ28が工具回転軸から20%以上の場合、底刃によって生成された切り屑が第2ギャッシュ面22に押し付けられる時間が長くなり、高速切削の場合、第2ギャッシュ面22に滞留して切り屑排出性が悪くなり、切り屑つまりが生じやすく底刃の欠損につながりやすくなる。
次に、第2ギャッシュ角27を40°〜60°としたのは、縦送り加工及び傾斜切削の際に、底刃で生成された切り屑の排出性を検討した結果である。第2ギャッシュ角27が40°未満の場合、第2ギャッシュ面22に押し付けられた切り屑は、第3ギャッシュ面23によって外周の刃溝に流れにくく、工具の外側に飛ばされる。特に、縦送り加工においては、工具の外側はすべて加工穴の壁面であり、また、傾斜切削でも一部に加工済みの壁面があり、切り屑を工具外側へ排出することが困難となりやすい。よって、第2ギャッシュ角27が40°未満の場合は、底刃から排出された切り屑は外周の溝への流れが悪くなり、切り屑つまりが生じやすくなる。また、第2ギャッシュ角27が60°を超えた場合、切り屑排出用のチップポケットは大きくなり、底刃によって生成された切り屑は外周の刃溝へ流れやすくなり、切り屑の排出は問題ないが、工具径が小さい場合には工具先端付近の剛性が弱くなるため、欠損が生じやすくなる。
前記のように第1ギャッシュ角25と第2ギャッシュ角27を適正な範囲に設定することで、縦送り加工及び傾斜切削を行った際の、底刃で生成された切り屑の排出性が良好となる。このとき、底刃で生成された切り屑の排出性は、外周刃の形状に影響を受けないため、外周刃がニック付き外周刃であるエンドミルを用いた場合においても、同様の効果が得られる。
図4は図1の外周刃A−A´断面の拡大図である。なお、図4(a)、(b)の斜線部は断面を示す。図4(a)は波形状外周刃の拡大図を示す。通常波形状刃形は図4のように波ピッチ4ごとに波高さ5の山部6と谷部7を繰り返した刃形であり、切り屑を細かく分断できる刃形となる。図4(b)はニック付き外周刃としたときのニック付き外周刃の拡大図を示す。ニック付き刃形においても外周刃とニックの交点20の間隔であるニックのピッチ8ごとにニックの深さ9の溝が入った形状を繰り返し、切り屑を分断出来る刃形となる。この刃形は、切り屑を分断することにより切削抵抗を抑制出来る効果がある。
図5(a)、(b)は図1におけるB−B´断面及びC−C´断面の拡大図を示す。図5(a)は刃数が4枚であり、対となる外周刃のねじれ角が等しい不等リードエンドミルであるため、極端に刃溝11の大きい外周刃と小さい刃溝11が混在することとなる。よって、切削の周期をずらすことで共振を防ぎ、びびり振動を抑制する効果がある。対となる外周刃のねじれ角が異なっていても同様にびびり振動は抑制することができる。図5(b)は(a)と同一のエンドミルでも、隣り合う外周刃のねじれ角が異なるため、(a)の断面図とは異なり、刃溝11の大きい外周刃と小さい刃溝11の差が小さくなるため、切り屑排出には問題とならない。
本発明では、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差が2°〜10°の範囲にあることが望ましい。前記範囲内の5°となる例としては、例えば、刃数が4枚刃のときに、それぞれのねじれ角を40°、45°、40°、45°とすると、最大のねじれ角は45°で最小のねじれ角は40°のため、その差は5°となる。
ここで、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差が2°未満とすると、共振によるびびり振動の抑制効果はほとんど無く、また前記ねじれ角の差が10°より大きくなると、刃溝が小さくなる外周刃は底刃を改善しても、刃元付近の切り屑排出性が悪く、欠損等に繋がる。このように、本発明においては、単純に外周刃のねじれ角を不等にするだけではなく、工具の共振に起因するびびり振動の大幅な抑制と、不等リードと新規なギュッシュの形状との組合せにより、切り屑排出性をも最大限に発揮するには不等リードとなる外周刃のねじれ角を制限することが望ましい。
ここで、高能率な加工を行うために、回転数を高く設定した高速切削や切り込みを大きく設定した切削をすることが可能となるが、このような高能率加工を行うと刃先温度が800℃以上に上昇する。そのため、酸化開始温度が高い(TiAl)N系にSiを含有させた硬質皮膜を外周刃に被覆することが望ましい。このことにより、より安定した長寿命な切削が可能となる。
以下、本発明を下記の実施例により詳細に説明するが、それらにより本発明が限定されるものではない。
以下の表中にある各実施例では、本発明、従来例、比較例を区分として示し、試料番号は本発明例、従来例、比較例ごとに、連続の通し番号で記載した。各表の中のねじれ角の差とはねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差のことである。
(実施例1)
実施例1は、第1ギャッシュ面以外に本発明の特徴である第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面を有する超硬合金製エンドミルで、ギャッシュの最適な形状を確認するために行った実施例である。また、従来例1として、従来の超硬合金製エンドミルである第3ギャッシュ面の無いもの、従来例2として、従来の超硬合金製エンドミルである第3ギャッシュ面が無く、不等リード刃型を採用したもの、従来例3として、特許文献3に記載の超硬合金製エンドミルであるギャッシュノッチ角を規定したもの、及び従来例4として、特許文献4に記載の超硬合金製エンドミルである外周側のギャッシュ角を回転中心側のギャッシュ角より大きく設けたものを製造し、本発明のエンドミルと比較した。
本発明例1〜12、比較例1〜6及び従来例1〜4においては、母材はCo含有量が8質量パーセント、WC平均粒径が0.8μmの超硬合金で、工具径8mm、刃長16mm、全長70mm、シャンク径8mmで刃数は4枚とした。外周刃の形状は波形状外周刃とし、波ピッチを1mmとし、用いた試料はすべて(TiAl)N系にSiを含有させた硬質皮膜を底刃と外周刃に施した。
また、本発明例1〜12、比較例1〜6及び従来例2は外周刃に不等リードを採用し、それぞれの外周刃のねじれ角は45°、40°、45°、40°とした。よって、この場合のねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は5°となる。従来例1、3、4は外周刃のねじれ角は4枚とも全て45°とした。
本発明例1〜5は、第2ギャッシュ角を50°、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さが工具回転軸からの距離で工具径の9%とした0.72mmとし、第1ギャッシュ角をそれぞれ、15°、20°、25°、30°、35°、とした。
本発明例6〜9は、第1ギャッシュ角を25°、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さが工具回転軸からの距離で工具径の9%とした0.72mmの長さとし、第2ギャッシュ角をそれぞれ、40°、45°、55°、60°、とした。
本発明例10〜12は、第1ギャッシュ角を25°、第2ギャッシュ角を50°とし、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さはそれぞれ工具回転軸からの直角方向での距離で工具径の5%、10%、15%、の長さとした。
比較例1、2は、第2ギャッシュ角を50°、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さが工具回転軸からの距離で工具径の9%とした0.72mmとし、第1ギャッシュ角をそれぞれ、10°、40°とした。
比較例3、4は、第1ギャッシュ角を25°、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さが工具回転軸からの距離で工具径の9%とした0.72mmの長さとし、第2ギャッシュ角をそれぞれ、35°、65°とした。
比較例5、6は、第1ギャッシュ角を25°、第2ギャッシュ角を50°とし、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さ28はそれぞれ工具回転軸からの直角方向での距離で工具径の3%、20%の長さとした。
従来例1として、第1ギャッシュ角が25°で第3ギャッシュ面がないものとし、従来例2として、従来例1と同仕様で不等リード刃型を採用した。従来例3は、特許文献3に記載のものと同仕様とし、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さ28が工具回転軸からの距離で工具径の20%とした1.6mmで、第1ギャッシュ角が25°、第2ギャッシュ角が50°とした。
従来例4として、特許文献4の図1に記載のものと同仕様とし、第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さ28が工具回転軸からの距離で工具径の23、5%とした1.76mmで、第1ギャッシュ角が25°、第2ギャッシュ角が50°のものを作製した。
実施例1の切削条件と評価方法は、前記24種類のエンドミルで、硬さHRC42のプリハードン鋼を被加工材として幅50mm、長さ50mm、深さ24mmの凹形状を加工した。テストは、傾斜切削で深さ8mmまで切削し、次に横送りで繰り広げて幅50mm、長さ50mmまでの切削を3回繰り返し、深さ24mmまで加工する方法で比較した。すなわち、本テストは縦送り加工、横送り加工、及び傾斜切削が複合した形状での切削テストである。従来HRC42の被加工材を切削する場合は切削速度は100m/minでも高速であるが、切削条件は回転数を6000回転/min(切削速度150m/min)、送り速度を1920mm/min(1刃送り量0.08mm)とし、軸方向切り込みを8mm、径方向切り込みを2mm、傾斜切削時の送り速度は1200mm/minとし、傾斜角10°とした。
評価として、前記形状が1個加工できたものを良好とし、加工終了後に欠損及び加工途中で折損が確認されたものはその結果を記録した。その結果を表1に示す。
結果として、本発明例1〜12はびびり振動もなく、切り屑つまりもなかったため、傾斜切削・横送り加工共に安定した加工が行え、良好な結果が得られた。これに対し、比較例1〜6ではテスト開始時からびびり振動が生じ、加工終了後に工具を確認したところ、外周刃に欠損が確認された。
従来例1及び2は、加工開始直後の傾斜切削時に折損した。この原因は、第3ギャッシュ面が無いため、刃溝の小さくなる外周刃で切り屑詰まりが生じたためと考えられる。従来例3及び4は凹形状を1個加工できたが、切り屑つまりにより底刃の工具回転軸付近から大きく欠損していた。これらの従来例は第2ギャッシュ面と第3ギャッシュ面のつなぎ部の長さが適正値より長いためと考えられる。
(実施例2)
実施例2は不等リードの最適なねじれ角の検討を行った実施例である。本発明例13〜20、従来例5は第1ギャッシュ角を25°、第2ギャッシュ角を50°、中心からのつなぎ部の長さ28が工具回転軸から工具径の9%の0.72mmとして仕様を統一した。
本発明例13は、それぞれの外周刃のねじれ角を40°、41°、40°、41°とし、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は1°としたものを作製した。
本発明例14は、それぞれの外周刃のねじれ角を40°、42°、40°、42°とし、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は2°としたものを作製した。
本発明例15は、それぞれの外周刃のねじれ角を40°、45°、40°、45°とし、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は5°としたものを作製した。
本発明例16は、それぞれの外周刃のねじれ角を40°、47°、40°、47°とし、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は7°としたものを作製した。
本発明例17は、それぞれの外周刃のねじれ角を40°、50°、40°、50°とし、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は10°としたものを作製した。
本発明例18は、それぞれの外周刃のねじれ角を40°、51°、40°、51°とし、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は10°としたものを作製した。
本発明例19は、それぞれの外周刃のねじれ角を45°、42°、38°、42°とし、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は7°としたものを作製した。
本発明例20は、それぞれの外周刃のねじれ角を45°、40°、38°、42°とし、ねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差は7°としたものを作製した。
従来例5は、従来例1と同仕様の各外周刃のねじれ角が45°である従来のエンドミルを作製した。
本発明例13〜20、従来例5においては母材はCo含有量が8質量パーセント、WC平均粒径が0.8μmの超硬合金とした。仕様としては全てのエンドミルで工具径8mm、刃長16mm、全長70mm、シャンク径8mmで刃数は4枚とした。また、外周刃の形状は波形状とし、波ピッチを1mmで、ねじれ角は45°とし、用いた試料はすべて(TiAl)N系にSiを含有させた硬質皮膜を底刃と外周刃に施した。
テストは、硬さHRC40の熱間ダイス鋼SKD61を被加工材として切削を行った。従来では切削速度は100m/minでも高速であるが、1.5倍である150m/min(回転数6000回転/min)に設定し、送り速度を1600mm/min(1刃送り量0.06mm)とした。軸方向切り込みを4mm、径方向切り込みを4mmとして、寿命テストを行った。評価として、5m毎に外周刃を観察し、50mまで切削を行い欠損及びチッピングの無いものを良好として、その時の摩耗幅を測定した。また、50mまでに外周刃を観察し欠損及びチッピングが生じたものはその時点で終了し、切削長を記録した。その結果を表2に示す。
結果として、本発明例13〜20は安定した加工ができ、50m切削が可能であった。また、外周刃のねじれ角が最大となる外周刃と、ねじれ角が最小となる外周刃のねじれ角の差が2°〜10°の範囲にある本発明例14〜17、19、20においては50m切削後の磨耗幅が0.10mm以下であり、さらに良好な結果が得られた。これに対し従来例5はびびり振動が大きく、切削長20mの時に欠損が生じる結果となった。