特許文献1に係る従来例のように、凝縮部(放熱部に相当)の内部空間の容積を一定にしている場合、次のような点で改良の余地がある。
まず、凝縮部による加熱対象との熱交換能力を高めるために凝縮部の内部空間の容積を大きく設定すると、例えば内燃機関を冷間始動した場合、蒸発部(受熱部に相当)での流体の蒸発量が少ないので、蒸発部から凝縮部へ十分な量の蒸気を送れなくなり、凝縮部の熱交換能力の立ち上がりに時間がかかる。そこで、蒸発部から凝縮部への流体移送路の断面積を大きくして蒸気の移送量を多くさせようとすると、この蒸気が前記流体移送路の内壁面に摩擦して当該蒸気の熱が奪われることになるために、逆に蒸発部から凝縮部への熱輸送能力が低下しやすくなって、加熱対象を昇温させるのに時間がかかる結果となる。
これに対し、前記凝縮部の容積を小さく設定すると、例えば内燃機関を冷間始動した場合、蒸発部(受熱部に相当)での流体の蒸発量が少ないものの、凝縮部で凝縮されずに蒸発部に通過する量が多くなるので、蒸発部と凝縮部との間の熱循環経路内に蒸気が溜まりやすくなり、蒸発部による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げることが可能になる。しかしながら、当然ながら、凝縮部の容積が小さいことに起因して凝縮部による熱交換能力が不足するために、加熱対象を昇温させるのに時間がかかる。このように、凝縮部の容積の設定が困難であった。
特許文献2に係る従来例では、凝縮部(放熱部に相当)110Bから蒸発部(受熱部に相当)110Aへの凝縮水の還流を許容する状態や阻止する状態に切り替えることで、加熱対象となる冷却水の加熱を実行可能にしたり停止したりするようになっているが、凝縮部110Bの熱交換能力を調整するという技術思想は伺えない。
特許文献3に係る従来例には、排気ガスの温度に応じて蒸発部(受熱部に相当)110A内の媒体の収容量を変更することで、蒸発部110Aから凝縮部110Bへの熱輸送能力を変更させるようにしている。しかしながら、この従来例には、本発明のように、熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げてから放熱部による熱交換能力を高める状態に移行させるという技術思想についての開示や示唆はない。そのため、当然ながら、この従来例には、前記技術思想を具現化するために凝縮部の内部空間の容積を変更可能にするという構成についての記載もない。
このような事情に鑑み、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられかつ内部の流体を排気熱で蒸発させるための受熱部と、この受熱部で蒸発された流体を受け入れて当該流体と加熱対象との間で熱交換させるための放熱部とを含むループ式ヒートパイプ構造の排熱回収装置において、受熱部による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げてから放熱部による熱交換能力を高める状態に移行させることにより、加熱対象を速やかに昇温可能とすることを目的としている。
本発明は、内燃機関の排気通路に設けられかつ内部の流体を排気熱で蒸発させるための受熱部と、この受熱部で蒸発された流体を受け入れて当該流体と加熱対象との間で熱交換させるための放熱部とを含むループ式ヒートパイプ構造の排熱回収装置であって、この放熱部には、導入される流体の流れを制御することにより当該流体と加熱対象との有効熱交換面積を調整するための調整機構が設けられている、ことを特徴としている。
この構成では、例えば受熱部による熱回収の開始時に前記調整機構で有効熱交換面積を小さくすれば、放熱部内の気相状流体が凝縮されずに受熱部へ通過する量が多くなる。これにより、受熱部内で蒸発された気相状流体を、受熱部と放熱部との熱循環経路内に速やかに満たすことが可能になるので、受熱部による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げることが可能になる。
このように熱循環経路内に気相状流体を満たした後で、前記調整機構で有効熱交換面積を大きくすれば、加熱対象の昇温が促進されるようになる。しかも、この段階では、熱循環経路内に多量の気相状流体が存在する状態になっているから、受熱部から放熱部への気相状流体の移動が緩やかになり、流体の移送経路の内壁面に対する流体の摩擦に伴う熱の損失が抑制されることになる。このことによっても、熱輸送が効率良く行えるようになる。
このように、受熱部による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げてから、放熱部による熱交換能力を高める状態に移行させることが可能になり、それによって、加熱対象を速やかに昇温させることが可能になる。
好ましくは、前記排熱回収装置は、前記受熱部から前記放熱部へ流体を移送するための移送路と、前記放熱部から前記受熱部へ流体を戻すための還流路とをさらに含み、前記放熱部は、前記加熱対象に熱交換可能な状態で設けられかつ前記移送路および前記還流路が接続されるケースを有し、前記調整機構は、前記ケース内に変位可能に収納されかつその配置位置に応じて前記ケース内に導入される流体の流れを制御するための流れ制御部材と、この流れ制御部材を変位させるための駆動部とを含む、構成とすることができる。
この構成では、受熱部で蒸発された気相状流体が移送路を経て放熱部のケース内に導入されることになる。その際、ケース内に収納される流れ制御部材の配置位置を駆動部で適宜に変更することにより、前記ケース内に導入された流体の流れが制御されるようになる。この流体の流れ方によって流体と加熱対象との有効熱交換面積が調整されるようになる。
そして、ケース内での流れ制御部材の配置位置によって、前記移送路からケース内への流体導入位置を前記ケースに対する還流路の接続部側へ近づけたり、あるいは遠ざけたりすることが可能になり、ケース内での流体の流れが変わる。
例えば、前記移送路からケース内への流体導入位置を前記ケースに対する還流路の接続部側へ近づけると、流体がケース内の比較的短い領域にしか流れなくなるので、ケース内において流体と加熱対象とが熱交換可能となる面積が小さくなる。また、前記移送路からケース内への流体導入位置をケースに対する還流路の接続部側から遠ざけると、流体がケース内の比較的長い領域に流れるようになるので、ケース内において流体と加熱対象とが熱交換可能となる面積が大きくなる。
好ましくは、前記駆動部は、前記加熱対象の温度が最終目標温度より低く設定された第1目標温度未満であるときに、前記移送路からケース内への流体導入位置を前記ケースに対する還流路の接続部側へ近づける第1位置に前記流れ制御部材を配置させ、前記加熱対象の温度が前記第1目標温度以上、最終目標温度未満であるときに、前記移送路からケース内への流体導入位置をケースに対する還流路の接続部側から遠ざける第2位置に前記流れ制御部材を配置させ、前記加熱対象の温度が最終目標温度以上であるときに、前記ケースへの流体導入あるいはケースからの流体排出を止める第3位置に前記流れ制御部材を配置させる、構成とすることができる。
この構成では、状況に応じて流れ制御部材を第1〜第3位置に配置させることによって、流体の流れ方を変えるようにし、それによって有効熱交換面積を変えたり、放熱部への流体導入あるいは放熱部からの流体排出を止めて排熱回収装置の熱循環を停止させるようにしたりしている。
例えば、流れ制御部材を第1位置に配置させると、前記移送路からケース内への流体導入位置が前記ケースに対する還流路の接続部側へ近づくので、流体がケース内の比較的短い領域にしか流れなくなって、ケース内において流体と加熱対象とが熱交換可能となる面積が小さくなる。
また、流れ制御部材を第2位置に配置させると、前記移送路からケース内への流体導入位置がケースに対する還流路の接続部側から遠ざかるので、流体がケース内の比較的長い領域に流れるようになって、ケース内において流体と加熱対象とが熱交換可能となる面積が大きくなる。
さらに、流れ制御部材を第3位置に変位させると、ケースに対する移送路の接続部からケースに対する還流路の接続部へ流体を流せなくなるので、排熱回収装置の熱循環が停止される。そのため、加熱対象の加熱を停止させることができるので、加熱対象が必要以上に昇温せずに済むようになる。
好ましくは、前記ケースは円筒形に形成され、その中心孔において軸方向の略半分領域の内径寸法が残り略半分領域に比べて大径に設定され、前記大径部の開口に前記移送路が、また前記小径部の開口に前記還流路がそれぞれ接続され、前記加熱対象は、前記ケースの外周に熱交換可能な状態で配置され、前記流れ制御部材は、有底の円筒形部材とされているとともに、その底部において外周寄りの円周数ヶ所に貫通孔が設けられ、前記底部において各貫通孔の内接円の内径寸法が前記小径部の内径寸法より大きく設定され、この流れ制御部材は、その開口を前記大径部に対する移送路の接続部に向けた状態で前記大径部内に当該大径部の軸方向に沿って直線的に変位可能に収納される。
ここでは、ケースや流れ制御部材の構成を特定することによって、ケース内における流れ制御部材の配置位置によって放熱部内における流体の流れ方を変更するための構成を明確にしている。
そして、流れ制御部材を、その開口がケースの大径部の開口に合致する第1位置に変位させると、前記移送路から導入されるすべての流体が前記流れ制御部材の円筒部内に入ることになるので、この流れ制御部材の底部の貫通孔のみから排出されるようになって、比較的速やかに小径部に流入することになる。この場合、前記移送路からケース内への流体導入位置が前記ケースに対する還流路の接続部側へ近づいたことになる。これにより、流体がケースの中心孔における小径部を経てケース外周の加熱対象と熱交換が行われるようになるので、流体と加熱対象とが熱交換可能となる面積が小さくなる。言い換えると、放熱部による有効熱交換面積が小さくなる。
また、流れ制御部材を、ケースの大径部における軸方向途中の第2位置に変位させると、前記移送路から導入される流体が前記流れ制御部材の円筒部内に入って前記底部の貫通孔から排出されるようになる他、前記円筒部の開口から流体が溢れ出て当該円筒部とケースの大径部との対向間を通って小径部へ向けて流れるようになる。この場合、前記移送路からケース内への流体導入位置がケースに対する還流路の接続部側から遠ざけられたことになる。これにより、流体がケースの中心孔の略全域を経て加熱対象と熱交換が行われるようになるので、流体と加熱対象とが熱交換可能となる面積が大きくなる。言い換えると、放熱部による有効熱交換面積が大きくなる。
さらに、流れ制御部材を、その底部がケースの大径部と小径部との段壁面に当接する第3位置に変位させると、前記流れ制御部材の底部において各貫通孔の内接円の内径側領域で前記大径部と小径部との連通部分が塞がれるようになる。この場合、大径部側に導入される流体が小径部へ流れなくなるので、排熱回収装置の熱循環が停止される。そのため、加熱対象の加熱を停止させることができるので、加熱対象が必要以上に昇温せずに済むようになる。
好ましくは、前記加熱対象は、内燃機関から一旦取り出されてから戻される冷却水とされ、この冷却水の外部流路の途中が分断され、その冷却水流通方向の上流側端部と下流側端部とが前記ケースの外周壁内に設けられる内部流路に接続される。
この構成では、加熱対象を内燃機関の外部に取り出された冷却水に特定したうえで、ケースに対する加熱対象の設置状態を特定している。ここでは、加熱対象としての冷却水を流通する外部流路の一部をケースの外周壁内に内部流路として設けるようにしている。このように特定した場合、ケースの内部流路の冷却水とケースの中心孔内に導入される流体との熱交換が比較的効率良く行えるようになる。
好ましくは、前記内部流路は、前記ケースの外周壁内に設けられる中空部と、この中空部の円周方向1箇所に設けられる仕切り壁とで構成され、前記中空部において前記仕切り壁の一側に前記外部流路の前記上流側端部が、また、前記中空部において前記仕切り壁の他側に前記外部流路の前記下流側端部がそれぞれ接続される。
この構成では、ケースの内部流路の構成を特定しており、このように特定した場合、ケースの外周壁内に前記冷却水の外部流路の一部を組み入れる場合に比べて、ケースの内部流路に外部流路を接続するときの作業が簡単になる。
好ましくは、前記駆動部は、前記加熱対象の温度が最終目標温度より低く設定された第1目標温度未満であるときに、前記流れ制御部材をその開口がケースの大径部の開口に合致する第1位置に配置させ、前記加熱対象の温度が前記第1目標温度以上、最終目標温度未満であるときに、前記流れ制御部材をケースの大径部における軸方向途中の第2位置に配置させ、前記加熱対象の温度が最終目標温度以上であるときに、前記流れ制御部材をその底部がケースの大径部と小径部との段壁面に当接する第3位置に配置させる、構成とすることができる。
この構成では、状況に応じて流れ制御部材を第1〜第3位置に配置させることによって、流体の流れ方を変えるようにし、それによって有効熱交換面積を変えたり、放熱部で流体の流れを止めて排熱回収装置の熱循環を停止させたりするようにしている。
好ましくは、前記ケースは、その内部空間に加熱対象の外周における一部領域が入り込むように、前記加熱対象に取り付けられ、このケースの内部空間には、加熱対象の前記一部領域を略2分する位置で2つの部屋に区画するための隔壁が設けられ、この隔壁には、前記2つの部屋を連通するための連通孔が設けられ、前記第1部屋に前記移送路が、また、前記第2部屋に還流路がそれぞれ接続され、前記流れ制御部材は、有底の円筒形部材とされているとともに、その底部において外周寄りの円周数ヶ所に貫通孔が設けられ、前記底部において各貫通孔の内接円の内径寸法が前記小径部の内径寸法より大きく設定され、この流れ制御部材は、その開口部を前記第1部屋に対する移送路の接続部に向けた状態で前記接続部と前記隔壁との間で直線的に変位可能に収納される。
ここでは、ケースや流れ制御部材の構成を特定することによって、ケース内における流れ制御部材の配置位置によって放熱部内における流体の流れ方を変更するための構成を明確にしている。
そして、流れ制御部材を、その開口が第1部屋に対する移送路の接続部に合致する第1位置に変位させると、前記移送路から導入されるすべての流体が前記流れ制御部材の円筒部内に入ることになるので、この流れ制御部材の底部の貫通孔のみから排出されるようになって、比較的速やかに隔壁の連通孔を経て第2部屋内に流入することになる。この場合、前記移送路からケース内への流体導入位置が前記第1部屋内で隔壁の連通孔側へ近づいたことになる。これにより、第2部屋内で流体と加熱対象との熱交換が行われるようになるので、ケース内において流体と加熱対象とが熱交換可能となる面積が小さくなる。言い換えると、放熱部による有効熱交換面積が小さくなる。
また、流れ制御部材を、第1部屋において変位方向途中の第2位置に変位させると、前記移送路から導入される流体が前記流れ制御部材の円筒部内に入って前記底部の貫通孔から排出されるようになって流体が比較的速やかに隔壁の連通孔を経て第2部屋内に流入する他、前記円筒部の開口から流体が溢れ出て第1部屋において移送路との接続部側に排出されて隔壁の連通孔側へ向けて流れるようになる。この場合、前記移送路からケース内への流体導入位置がケースに対する還流路の接続部側から遠ざけられたことになる。これにより、流体がケースの第1、第2部屋の両方を経て加熱対象と熱交換が行われるようになるので、ケース内において流体と加熱対象とが熱交換可能となる面積が大きくなる。言い換えると、放熱部による有効熱交換面積が大きくなる。
さらに、流れ制御部材を、その底部が前記隔壁の外周縁に当接する第3位置に変位させると、前記流れ制御部材の底部において各貫通孔の内接円の内径側領域で前記隔壁の連通孔が塞がれるようになる。この場合、第1部屋側に導入される流体が第2部屋へ流れなくなるので、排熱回収装置の熱循環が停止される。そのため、加熱対象の加熱を停止させることができるので、加熱対象が必要以上に昇温せずに済むようになる。
好ましくは、前記加熱対象は、内燃機関の排気系に設置される触媒とされ、この触媒は、外形が円柱形とされ、この触媒の外周における略半円領域が前記ケースの内部空間に入り込む状態とされ、この触媒の外周における略1/4の領域が前記2つの部屋にそれぞれ存在する状態とされる。
この構成では、加熱対象を内燃機関の排気系の触媒に特定したうえで、ケースに対する加熱対象の設置状態を特定している。ここでは、加熱対象としての触媒の一部をケース内に露呈させるように特定している。このように特定した場合、触媒とケース内に導入される流体との熱交換が比較的効率良く行えるようになる。
好ましくは、前記駆動部は、前記加熱対象の温度が最終目標温度より低く設定された第1目標温度未満であるときに、前記流れ制御部材をその開口が第1部屋に対する移送路の接続部に合致する第1位置に配置させ、前記加熱対象の温度が前記第1目標温度以上、最終目標温度未満であるときに、前記流れ制御部材を第1部屋において変位方向途中の第2位置に配置させ、前記加熱対象の温度が最終目標温度以上であるときに、前記流れ制御部材をその底部が前記隔壁の外周縁に当接する第3位置に配置させる、構成とすることができる。
この構成では、状況に応じて流れ制御部材を第1〜第3位置に配置させることによって、流体の流れ方を変えるようにし、それによって有効熱交換面積を変えたり、放熱部で流体の流れを止めて排熱回収装置の熱循環を停止させたりするようにしている。
好ましくは、前記駆動部は、予め設定される作動条件に従い自動的に前記流れ制御部材を変位させる構成とされる。
なお、前記作動条件としては、例えば適宜の判定基準値に対する前記移送路の内圧の大小関係、あるいは適宜の判定基準値に対する前記加熱対象の温度の大小関係とされ、これらの関係を前記駆動部が感知するようになっている。
このように特定した場合、流れ制御部材の変位動作を電気的に制御するための装置を用いる場合に比べて構成簡素化、低コスト化を図るうえで有利となる。
好ましくは、前記駆動部は、予め設定される作動条件に従いアクチュエータや制御装置を用いて前記流れ制御部材を変位させる構成とされる。
なお、前記作動条件としては、例えば適宜の判定基準値に対する前記移送路の内圧の大小関係、あるいは適宜の判定基準値に対する前記加熱対象の温度の大小関係とされ、これらの関係を制御装置が判定するようになっている。
このように特定した場合、流れ制御部材の変位動作の判定基準を比較的簡単に設定することが可能になり、汎用性を高めるうえで有利となる。
本発明に係る排熱回収装置によれば、受熱部による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げてから放熱部による熱交換能力を高める状態に移行させることにより、加熱対象を速やかに昇温させることが可能になる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1から図6に本発明の一実施形態を示している。この実施形態では、車両に搭載される内燃機関に適用される排熱回収装置を例に挙げている。図1を参照して、排熱回収装置の概略構成を説明する。図中、1は水冷式の内燃機関である。
この内燃機関1は、吸気系から供給される空気と燃料供給系から供給される燃料とを適宜の空燃比で混合してなる混合気を内燃機関1の燃焼室に供給して燃焼させた後、燃焼室内の排気ガスを排気系から大気放出させるようになっている。
排気系は、内燃機関1に取り付けられるエキゾーストマニホールド2と、このエキゾーストマニホールド2に球面継手3を介して接続される排気管4とを少なくとも有する構成である。エキゾーストマニホールド2と排気管4とが、排気通路を構成している。
球面継手3は、エキゾーストマニホールド2と排気管4との適度な揺動を許容するとともに、内燃機関1の振動や動きを排気管4に伝達させないか、あるいは減衰して伝達するように機能する。
排気管4には、2つの触媒5,6が直列に設置されており、この2つの触媒5,6により排気ガスが浄化される。
これらの触媒5,6のうち、排気管4において排気ガスの流れ方向の上流側に設置される触媒5は、いわゆるスタートキャタリスタ(S/C)と呼ばれるもので、上流側触媒と言うことにし、一方、排気管4において排気ガスの流れ方向の下流側に設置される触媒6は、いわゆるメインキャタリスト(M/C)またはアンダーフロアキャタリスタ(U/F)と呼ばれるもので、下流側触媒と言うことにする。
これらの触媒5,6は、共に、例えば三元触媒と呼ばれるものとすることができる。この三元触媒は、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)を一括して化学反応により無害な成分に変化させる、浄化作用を発揮するものである。
内燃機関1には、その内部に封入されるロングライフクーラント(LLC)と呼ばれる冷媒(以下、単に冷却水と言う)が冷却水取り出し路8から一旦取り出されてラジエータ7に供給され、このラジエータ7から冷却水還流路9を経て内燃機関1に戻される。ラジエータ7は、ウォータポンプ10によって循環される冷却水を外気との熱交換により冷却するものである。
そして、サーモスタット11によってラジエータ7を流通する冷却水量とバイパス路12を流通する冷却水量とが調節されるようになっている。例えば暖機時においてはバイパス路12側の冷却水量が増加されて暖機が促進され、ラジエータ7による冷却水の過冷却が防止される。
冷却水取り出し路8から分岐されて冷却水還流路9においてウォータポンプ10の上流側に接続されるヒータ流路13の途中には、ヒータコア14が設けられている。このヒータコア14は、前記の冷却水の熱を利用して車室内の暖房を行うための熱源である。このヒータコア14によって暖められた空気は、ブロアファン15によって車室内に導入されるようになっている。なお、前記のヒータコア14とブロアファン15とでヒータユニット16が構成されている。ヒータ流路13においてヒータコア14より下流側領域を流れる冷却水の温度は、ヒータコア14からの放熱により低温になる。
このような構成の内燃機関1の排気系には、排熱回収装置20が付設されている。
この排熱回収装置20は、内燃機関1から排出される排気ガスの熱を回収して例えば内燃機関1の冷却水の昇温を促進させる形態としたもので、主として、受熱部21、放熱部22、移送路23、還流路24を含んだループ式ヒートパイプ構造になっている。
なお、ループ式ヒートパイプ構造の排熱回収装置20とは、受熱部21と放熱部22との間で流体を相転移させながら循環させることによって、排気熱の回収と放熱とを繰り返すようなもののことである。
図示例の排熱回収装置20は、受熱部21と放熱部22とを離隔して配置したセパレートタイプとされている。
この排熱回収装置20の内部は、真空状態とされていて、そこに適量の流体が封入されている。流体は、例えば純水等とされる。水の沸点は、1気圧で100℃であるが、排気熱回収装置1内を減圧(例えば0.01気圧)しているため、沸点は、例えば5〜10℃となる。なお、流体は、純水の他に、例えばアルコール、フロロカーボン、フロン等とすることが可能である。また、排熱回収装置20の主要構成要素は、例えば高耐食性を備えるステンレス材で形成されている。
受熱部21は、排気管4において下流側触媒6より下流側に設置されており、内部に密封される液相状の流体が排気熱を受けて蒸発することにより気化熱として熱を回収するように構成されている。
具体的に、受熱部21は、排気管4に対してその排気ガス通過方向と直交する方向に設置されるものであって、例えば図4に示すように、上部タンク21aと下部タンク21bとを複数の流体通路21c・・・で連通させて、隣り合う各流体通路21cの対向間の排気通路21dに、多数のフィン21e・・・を設けた構成になっている。このフィン21eは、熱交換面積を拡大するように、コルゲートタイプとされている。このコルゲートタイプのフィン21eとは、例えば薄肉の帯板材をローラ加工によって円周方向に波形に成形したものである。
なお、上部タンク21aは、主に蒸発された気相状の流体が集められるので、高温側タンクとなる。下部タンク21bは、主に凝縮された液相状の流体が集められるので、低温側タンクとなる。
放熱部22は、加熱対象となるヒータ流路13に付設されており、受熱部21で蒸気とされた流体を受け取って、この流体の熱をヒータ流路13内の冷却水に伝達させるものであり、流体は熱伝達に伴い凝縮されて受熱部21に戻される。この放熱部22の構成は後で詳細に説明する。
移送路23は、受熱部21の上部タンク21aと放熱部22の内部空間とを接続するための配管で、受熱部21で蒸発された気相状の流体を放熱部22へ移送するものである。
還流路24は、放熱部22の内部空間と受熱部21の下部タンク21bとを接続するための配管で、放熱部22で凝縮された液相状の流体を受熱部21へ戻すものである。この還流路24は、放熱部22で凝縮された液相状の流体を受熱部21へ戻しやすくするために適宜の下り勾配がつけられている。
次に、内燃機関1の冷間始動時の基本的な動作について説明する。要するに、内燃機関1を冷間始動する場合、上流側触媒5および下流側触媒6、内燃機関1の冷却水のすべてが低温になっている。そこで、内燃機関1の始動に伴い内燃機関1からエキゾーストマニホールド2を経て排気管4に例えば300〜400℃の排気ガスが排出されることになり、2つの触媒5,6が内部から排気ガスで昇温されることになる一方、冷却水がラジエータ7を通らずにバイパス流路12を経て内燃機関1へ戻されることによって暖機運転されることになる。
この暖機運転中に排熱回収装置20でさらに内燃機関1の冷却水を加熱することにより暖機運転を促進させるようにする。
この排熱回収装置20の基本的な動作について説明する。内燃機関1からエキゾーストマニホールド2を経て排気管4に排出された排気ガスが受熱部21に到達すると、この受熱部21内の液相状の流体が排気ガスの熱により加熱されて、蒸発されることになる。
この蒸発された気相状の流体が、移送路23を経て放熱部22に移送される。この放熱部22に送り込まれた気相状の流体の熱は、ヒータ流路13内の冷却水に伝達される。これにより、加熱された冷却水が内燃機関1に戻されることになって内燃機関1の暖機が促進されることになる。
この放熱部22内に導入された高温の気相状の流体とヒータ流路13内の冷却水との間の熱交換に伴い、放熱部22内の気相状の流体が凝縮されて液相状となる。この液相状の流体は、還流路24から受熱部21に戻される。以降、受熱部21と放熱部22との間を流体が相転移しながら循環されることによって、ヒータ流路13内の冷却水が加熱される。
次に、図2から図4を参照して、放熱部22の構成を詳細に説明する。放熱部22は、ケース25を有している。このケース25は、円筒形のケース本体26と、ジョイントカバー27とを含む2ピース構造になっている。
ケース本体26の中心孔は、軸方向の半分領域26aの内径寸法が残り半分領域26bに比べて大径に設定されている。以下では、大径の半分領域26aを大径部とし、小径の半分領域26bを小径部とする。この大径部26aと小径部26bとの段差部分の径方向に沿う壁面、つまり段壁面には、符号26cを付している。
また、ケース本体26の外周壁内において軸方向一端側から軸方向他端の手前までの領域には、中空部26dが形成されている。この中空部26dの円周方向1箇所には、仕切り壁26eが設けられている。
ジョイントカバー27は、ケース本体26の中心孔における大径部26aの開口端に、当該開口端および中空部26dの開口を塞ぐように取り付けられている。このジョイントカバー27は、円形の板とされ、その中央には軸方向一側へ突出する小径筒部27aが設けられている。このジョイントカバー27の小径筒部27aには、移送路23が接続されており、これによって移送路23がケース本体26の中心孔の大径部26aに接続されるようになる。また、ケース本体26の中心孔の小径部26bには、還流路24が接続されている。
さらに、ケース本体26の中空部26dにおいて仕切り壁26eの一側には、外部流通としてのヒータ流路13の途中を分断した冷却水流通方向の上流側端部13aが接続され、中空部26dにおいて仕切り壁26eの他側には、ヒータ流路13の途中を分断した冷却水流通方向下流側端部13bが接続されている。これにより、内燃機関1からヒータ流路13に取り出される冷却水は、図3の矢印で示すように、ケース本体26の中空部26d内に導入されてから、この中空部26dを円周方向一方へ流されるようになり、その後、ヒータ流路13に戻されるようになる。このように、ケース本体26の中空部26dと仕切り壁26eとが外部流路の一部を構成している。そして、このような構成の放熱部22の場合、移送路23からケース本体26の中心孔内に送られてくる高温の気相状流体の熱が、ケース本体26の中心孔の内周面を経て、ケース本体26の中空部26d内の冷却水に伝達されるようになる。
このような放熱部22には、流体と内燃機関1の冷却水との有効熱交換面積つまり加熱能力を調整可能とするための調整機構が設けられている。この調整機構は、主として、流れ制御部材31と、駆動部32とを含んで構成されている。
流れ制御部材31は、要するに、ケース本体26内に変位可能に収納され、かつその配置位置に応じてケース本体26内に導入された流体の流れを制御するものである。詳しくは、流れ制御部材31は、図2に示すように、有底の円筒形部材、つまりカップ形状とされている。この流れ制御部材31の開口には、径方向外向きに突出する鍔部31aが設けられ、また、流れ制御部材31の底部において外周寄りの円周数ヶ所には、貫通孔31bが設けられている。さらに、流れ制御部材31の底部の中心には、棒状の動力伝達部材33の一端が連結されている。
この流れ制御部材31は、その開口をケース本体26の大径部26aの開口に向けた状態で、ケース本体26の中心孔における大径部26a内に当該大径部26aの軸方向に沿って直線的に変位可能に収納されている。
なお、流れ制御部材31の底部において各貫通孔31bに内接する内接円の内径寸法は、ケース本体26の小径部26bの内径寸法より大きく設定されている。これにより、流れ制御部材31の底部において前記内接円の内径側領域は、ケース本体26の中心孔の段壁面26cの外周縁に当接した状態において、ケース本体26の小径部26bを塞ぐことが可能になっている。
駆動部32は、予め設定される作動条件に従い自動的に流れ制御部材31を3段階に変位させる自己作動タイプとされる。この自己作動タイプの駆動部32は、図示していないが、ダイアフラムスプリングを用いる公知の構成とされている。このダイアフラムスプリングには、流れ制御部材31に連結している前記棒状の動力伝達部材33の他端が連結される。
この駆動部32の動作としては、移送路23の内圧によってダイアフラムスプリングが自然姿勢から弾性変形され、このダイアフラムスプリングの姿勢変化に応じて、動力伝達部材33が直線的に押し引きされ、それに伴い、流れ制御部材31を変位させるようになっている。
例えば、流れ制御部材31は、内燃機関1の冷間始動時等、移送路23に蒸気が存在していない場合に、図4に示す第1位置、つまり流れ制御部材31の鍔部31aがジョイントカバー27の内面に当接する位置に配置される。これにより、内燃機関1の冷却水が徐々に温度上昇するが、移送路23の内圧が第1判定基準値以上、第2判定基準値未満である場合には、流れ制御部材31が図5に示す第2位置に配置されることになり、さらに内燃機関1の冷却水温度が暖機温度以上になって、移送路23の内圧が第2判定基準値以上になると、流れ制御部材31が図6に示す第3位置に配置される。
次に、前記した構成の調整機構の動作について説明する。
まず、内燃機関1の冷間始動時には、2つの触媒5,6の温度が低く、排熱回収装置20の閉ループ内に蒸気が存在していないものとする。このとき、駆動部32は、調整機構の流れ制御部材31の鍔部33を、ジョイントカバー27の内面に当接する位置(図4に示す第1位置)に配置させているものとする。
ここで、下流側触媒6を通過した排気ガスの熱を受熱部21が回収することにより、受熱部21内に存在する液相状の流体が蒸発されることになって、この蒸発されて高温となった気相状の流体が移送路23を経て放熱部22に順次導入されるようになる。
この熱回収の初期には、受熱部21内に存在している流体の温度が低く、かつ受熱部21と放熱部22との熱循環経路内に存在する蒸気の量が少ない。そのため、内燃機関1の冷却水の温度が第1目標温度未満、つまり移送路23の内圧が第1判定基準値未満である間は、駆動部32が流れ制御部材31を図4に示す第1位置のまま不動とする。なお、第1目標温度は、例えば15℃に基づいて適宜のマージンを見込んだ値に設定され、第1判定基準値は、前記第1目標温度に適宜の相関関係を持つように設定される。
このとき、移送路23から送られてくる流体は、そのすべてが流れ制御部材31の円筒部内に入ってから、この流れ制御部材31の底部における複数の貫通孔31bから排出されることになる。この排出された流体は、比較的速やかに小径部26bを通り、還流路24から受熱部21へ戻されるようになる。
前記のように小径部26b内を流体が通る過程において、当該流体の熱が小径部26bの内周面全域からケース本体26の中空部26d内の冷却水に伝達される。この場合、ケース本体26の小径部26bの内周面全域が熱交換領域となるが、この熱交換領域はケース本体26の中心孔の軸方向略半分であるので、有効熱交換面積は小さいと言える。
これにより、放熱部22内の気相状流体が凝縮されずに受熱部21へ通過する量が多くなる。言い換えれば、放熱部22から受熱部21への液相状流体の還流量が少なくなるので、高温の気相状流体が受熱部21と放熱部22との熱循環経路内に速やかに満たされることになって、受熱部21内の雰囲気温度が高温になるので、この受熱部21による熱回収が効率良く行えるようになる。
こうして、受熱部21による熱回収量つまり受熱部21内での液相状流体の蒸発量が徐々に増加することに伴い、受熱部21から移送路23を経て放熱部22に導入される流体が増加し、内燃機関1の冷却水の温度が徐々に上昇する。そこで、内燃機関1の冷却水の温度が第1目標温度以上、つまり移送路23の内圧が第1判定基準値以上になると、それを駆動部32が検知し、流れ制御部材31をケース本体26の大径部26aの軸方向中程へ押し込んで、図5に示す第2位置に配置させる。すると、移送路23からケース本体26内に導入される流体が流れ制御部材31の円筒部内に入って流れ制御部材31の底部に設けられている複数の貫通孔31bから排出される他、流れ制御部材31の円筒部内に入った流体の一部が前記円筒部の開口から溢れ出て当該円筒部とケース本体26の大径部26aとの対向間隙を通って、小径部26b側へ向けて流れるようになる。
この場合、流体がケース本体26の中心孔全域、つまり大径部26aの内周面と小径部26bの内周面との両方に触れるようにして流れるようになるから、流体の熱が大径部26aの内周壁および小径部26bの内周壁を経てケース本体26の中空部26d内の冷却水に伝達される。つまり、ケース本体26の中心孔全域の内周面が熱交換領域となるので、有効熱交換面積が大きいと言える。
これにより、ヒータ流路13内の冷却水の昇温が促進されることになる。しかも、この段階では、受熱部21と放熱部22との熱循環経路内に多量の気相状流体が存在する状態になっているから、受熱部21から放熱部22への気相状流体の移動が緩やかになり、移送路23の内壁面に対する流体の摩擦に伴う熱の損失が抑制されることになる。このことによっても、熱輸送が効率良く行えるようになる。
このように、受熱部21による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げてから放熱部22による熱交換能力を高める状態に移行させているので、ヒータ流路13内の冷却水を昇温を促進して内燃機関1の暖機を速やかに完了することが可能になる。
ところで、例えば内燃機関1の冷却水の暖機が完了すると、つまり冷却水温度が最終目標温度以上、つまり移送路23の内圧が第2判定基準値以上になると、それを駆動部32が検知し、流れ制御部材31をケース本体26の大径部26aの奥底へ押し込んで、図6に示す第3位置に配置させる。なお、最終目標温度は、内燃機関1の暖機完了後の定常温度(例えば60〜80℃)に基づいて適宜のマージンを見込んだ値に設定され、第2判定基準値は、前記最終目標温度に適宜の相関関係を持つように設定される。
このように流れ制御部材31を第3位置に配置した状態では、流れ制御部材31の底部において各貫通孔31bの内接円の内径側領域がケース本体26の中心孔における段壁面26cに当接されることにより、小径部26bを閉塞される。
これにより、大径部26aに導入された流体は小径部26bへ流入できなくなるので、還流路24から受熱部21へ流体が戻されなくなって、排熱回収装置20の熱循環が停止されることになる。そのため、内燃機関1の冷却水を過剰に加熱せずに済むようになる。
ところで、ケース本体26内において、流体から冷却水への熱伝達量あるいは熱移動量Qは、公知のように、次式により求められる。
Q=UA(T1−T2)
なお、上記式において、Uは総括伝熱係数〔W/(m2/K)〕、Aは伝熱面積(m2)、T1は流体の温度(K)、T2は加熱対象(冷却水)の温度(K)である。前記伝熱面積が、前記している有効熱交換面積に相当する。
この式から、熱伝達量あるいは熱移動量Qは、伝熱面積Aの変化に比例して変化することが分かる。したがって、前記のように有効熱交換面積を大小調整することにより、加熱対象(例えば内燃機関1の冷却水)の加熱能力を制御できるようになることが明らかである。
以上説明したように、本発明を適用した実施形態では、ループ式ヒートパイプ構造の排熱回収装置20において、受熱部21による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げてから放熱部22による熱交換能力を高める状態に移行させることが可能になる。これにより、加熱対象としての内燃機関1の暖機を速やかに完了することが可能になって、内燃機関1の冷間始動時におけるエミッション低減を図るうえで有利となる。さらに、内燃機関1の冷却水の暖機後には排熱回収装置20による熱循環を停止してラジエータ7の負担を軽減することが可能になる。
次に、図7から図10を参照して、本発明の他の実施形態を説明する。この実施形態では、排熱回収装置20による加熱対象を排気系に設置される上流側触媒5とし、それに合わせて調整機構を上記実施形態と相違した構成にしている。
ここでの排熱回収装置20は、内燃機関1から排出される排気ガスの熱を回収して例えば上流側触媒5に伝達することにより上流側触媒5の昇温を促進させる形態としたものである。
この実施形態での放熱部22は、図8に示すように、内部が空間となったケース25を有している。上流側触媒5の外形は、円柱形になっている。このケース25は、その内部空間に加熱対象としての上流側触媒5の外周における略半円領域が入り込むように、上流側触媒5に取り付けられている。
このケース25の内部空間には、上流側触媒5が入り込む略半円領域を円周方向に略2分する位置で2つの部屋41,42に区画するための隔壁43が設けられている。これにより、2つの部屋41,42の容積は略同じとなり、また、上流側触媒5の外周の略1/4の領域が2つの部屋41,42にそれぞれ存在する状態になる。この隔壁43には、2つの部屋41,42を連通するための連通孔43aが設けられている。
そして、ケース25の天板44の所定位置には、流体の導入口44aが設けられており、この導入口44aに移送路23が接続されている。また、ケース25の底板45の所定位置には、流体の排出口45aが設けられており、この排出口45aに還流路24が接続されている。
このような放熱部22には、有効熱交換面積つまり加熱能力を調整可能とするための調整機構が設けられている。この調整機構は、主として、流れ制御部材31と、駆動部32とを含んで構成されている。
流れ制御部材31は、要するに、ケース本体26内に変位可能に収納され、かつその配置位置に応じてケース本体26内に導入された流体の流れを制御するものである。詳しくは、流れ制御部材31は、図8に示すように、有底の円筒形部材、つまりカップ形状とされている。この流れ制御部材31の開口には、径方向外向きに突出する鍔部31aが設けられ、また、流れ制御部材31の底部において外周寄りの円周数ヶ所には、貫通孔31bが設けられている。さらに、流れ制御部材31の底部の中心には、棒状の動力伝達部材33の一端が連結されている。
この流れ制御部材31は、その開口がケース25の上側の第1部屋41内において天板44と隔壁43との間で直線的に変位可能に収納されている。
なお、流れ制御部材31の底部において複数の貫通孔31bに内接する内接円の内径寸法は、隔壁43の連通孔43aの内径寸法より大きく設定されている。これにより、流れ制御部材31の底部において前記内接円よりも内径側領域は、隔壁43の連通孔43aの外周縁に当接した状態において、連通孔43aを塞ぐことが可能になっている。
駆動部32は、予め設定される作動条件に従い自動的に流れ制御部材31を3段階に変位させる自己作動タイプとされる。この自己作動タイプの駆動部32は、図示していないが、ダイアフラムスプリングを用いる公知の構成とされている。このダイアフラムスプリングには、流れ制御部材31に連結している前記棒状の動力伝達部材33の他端が連結される。
この駆動部32の動作としては、移送路23の内圧によってダイアフラムスプリングが自然姿勢から弾性変形され、このダイアフラムスプリングの姿勢変化に応じて、動力伝達部材33が直線的に押し引きされ、それに伴い、流れ制御部材31を変位させるようになっている。
例えば、流れ制御部材31は、内燃機関1の冷間始動時等、移送路23に蒸気が存在していない場合に、図8に示す第1位置、つまり流れ制御部材31の鍔部31aがケース25の天板44の内面に当接する位置に配置される。これにより、上流側触媒5が徐々に温度上昇するが、移送路23の内圧が第1判定基準値以上、第2判定基準値未満である場合には、流れ制御部材31が図9に示す第2位置に配置されることになり、さらに上流側触媒5の温度が活性化温度以上になって、移送路23の内圧が第2判定基準値以上になると、流れ制御部材31が図10に示す第3位置に配置される。
ここで、内燃機関1の冷間始動時の基本的な動作を説明する。要するに、内燃機関1を冷間始動する場合、上流側触媒5および下流側触媒6、内燃機関1の冷却水のすべてが低温になっている。そこで、内燃機関1の始動に伴い内燃機関1からエキゾーストマニホールド2を経て排気管4に例えば300〜400℃の排気ガスが排出されることになり、2つの触媒5,6が内部から排気ガスで昇温されることになる一方、冷却水がラジエータ7を通らずにバイパス流路12を経て内燃機関1へ戻されることによって暖機運転されることになる。
この暖機運転中に排熱回収装置20でさらに上流側触媒5を加熱することにより上流側触媒5の活性化を促進させるようにする。
この排熱回収装置20の基本的な動作について説明する。つまり、内燃機関1からエキゾーストマニホールド2を経て排気管4に排出された排気ガスが受熱部21に到達すると、この受熱部21内の液相状の流体が排気ガスの熱により加熱されて、蒸発されることになる。
この蒸発された気相状の流体が、移送路23を経て放熱部22に移送される。この放熱部22に送り込まれた気相状の流体の熱は、上流側触媒5に伝達される。これにより、上流側触媒5が排気ガスで内側から加熱されるうえ、前記気相状の流体で外側から加熱されるので、上流側触媒5の昇温が促進される。なお、下流側触媒6は、上流側触媒5で浄化されることに伴い高温化する排気ガスによって昇温するようになる。
この放熱部22内に導入された高温の気相状の流体と上流側触媒5との間の熱交換に伴い、放熱部22内の気相状の流体が凝縮されて液相状となる。この液相状の流体は、還流路24から受熱部21に戻される。以降、受熱部21と放熱部22との間を流体が相転移しながら循環されることによって、上流側触媒5が加熱される。
次に、前記した構成の調整機構の動作について説明する。
まず、内燃機関1の冷間始動時には、2つの触媒5,6の温度が低く、排熱回収装置20の閉ループ内に蒸気が存在していないものとする。このとき、駆動部32は、調整機構の流れ制御部材31の鍔部33をケース25の天板44に当接させた位置(図8に示す第1位置)に配置させているものとする。
ここで、下流側触媒6を通過した排気ガスの熱を受熱部21が回収することにより、受熱部21内に存在する液相状の流体が蒸発されることになって、この蒸発されて高温となった気相状の流体が移送路23を経て放熱部22に順次導入されるようになる。
この熱回収の初期には、受熱部21内に存在している流体の温度が低く、かつ受熱部21と放熱部22との熱循環経路内に存在する蒸気の量が少ない。そのため、上流側触媒5の温度が第1目標温度未満、つまり移送路23の内圧が第1判定基準値未満である間は、駆動部32が流れ制御部材31を図8に示す第1位置のまま不動とする。なお、第1目標温度は、例えば15℃に基づいて適宜のマージンを見込んだ値に設定され、第1判定基準値は、前記第1目標温度に適宜の相関関係を持つように設定される。
このとき、移送路23から送られてくる流体は、そのすべてが流れ制御部材31の円筒部内に入ってから、この流れ制御部材31の底部における複数の貫通孔31bから排出されることになる。この排出された流体は、比較的速やかに隔壁43の連通孔43aを通って下側の第2部屋42に入り、還流路24から受熱部21へ戻されるようになる。
前記のように第2部屋42内を流体が通る過程において、当該流体の熱が第2部屋42内に露呈している上流側触媒5に伝達される。この場合、上流側触媒5においてケース25の第2部屋42内に露呈している領域が熱交換領域となるが、この熱交換領域は、上流側触媒5の外周における略1/4の領域のみであるので、有効熱交換面積は小さいと言える。
これにより、放熱部22内の気相状流体が凝縮されずに受熱部21へ通過する量が多くなる。言い換えれば、放熱部22から受熱部21への液相状流体の還流量が少なくなるので、高温の気相状流体が受熱部21と放熱部22との熱循環経路内に速やかに満たされることになって、受熱部21内の雰囲気温度が高温になるので、この受熱部21による熱回収が効率良く行えるようになる。
こうして、受熱部21による熱回収量つまり受熱部21内での液相状流体の蒸発量が徐々に増加することに伴い、受熱部21から移送路23を経て放熱部22に導入される流体が増加し、上流側触媒5の温度が徐々に上昇する。そこで、上流側触媒5の温度が第1目標温度以上、つまり移送路23の内圧が第1判定基準値以上になると、それを駆動部32が検知し、流れ制御部材31をケース25の第1部屋41の中程へ押し込んで、図9に示す第2位置に配置させる。すると、前記流体が流れ制御部材31の円筒部内に入って流れ制御部材31の底部に設けられている複数の貫通孔31bから排出される他、流れ制御部材31の円筒部内に入った流体の一部が前記円筒部の開口から溢れ出て第1部屋41へ流入することになって、隔壁43の連通孔43a側へ向けて流れるようになる。
この場合、流体がケース25の第1部屋41と第2部屋42との両方に入って両部屋41,42に露呈している上流側触媒に触れるようにして流れるようになるから、流体の熱が上流側触媒5の略半円領域に伝達されることになる。つまり、上流側触媒5の外周における略半分の領域が熱交換領域となるので、有効熱交換面積が大きいと言える。
これにより、上流側触媒5の昇温が促進されることになる。しかも、この段階では、受熱部21と放熱部22との熱循環経路内に多量の気相状流体が存在する状態になっているから、受熱部21から放熱部22への気相状流体の移動が緩やかになり、移送路23の内壁面に対する流体の摩擦に伴う熱の損失が抑制されることになる。このことによっても、熱輸送が効率良く行えるようになる。
このように、受熱部21による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げてから放熱部22による熱交換能力を高める状態に移行させているので、上流側触媒5の活性化を速やかに完了することが可能になる。
ところで、例えば上流側触媒5の活性化完了条件が成立すると、つまり上流側触媒5の温度が最終目標温度以上、つまり移送路23の内圧が第2判定基準値以上になると、それを駆動部32が検知し、流れ制御部材31をケース本体26の第1部屋41の奥底へ押し込んで、図10に示す第3位置に配置させる。なお、最終目標温度は、上流側触媒5の活性化温度(例えば400℃)に基づいて適宜のマージンを見込んだ値に設定され、第2判定基準値は、前記最終目標温度に適宜の相関関係を持つように設定される。
このように流れ制御部材31を第3位置に配置した状態では、流れ制御部材31の底部において各貫通孔31bの内接円の内径側領域が隔壁43の連通孔43aにおける外周縁に当接されることにより、連通孔43aが閉塞される。
これにより、第1部屋41に導入された流体は第2部屋42へ流入できなくなるので、還流路24から受熱部21へ流体が戻されなくなって、排熱回収装置20の熱循環が停止されることになる。そのため、上流側触媒5を過剰に加熱せずに済むようになる。
ところで、ケース25内において、流体から冷却水への熱伝達量あるいは熱移動量Qは、公知のように、次式により求められる。
Q=UA(T1−T2)
なお、上記式において、Uは総括伝熱係数〔W/(m2/K)〕、Aは伝熱面積(m2)、T1は流体の温度(K)、T2は加熱対象(上流側触媒5)の温度(K)である。前記伝熱面積が、前記している有効熱交換面積に相当する。
この式から、熱伝達量あるいは熱移動量Qは、伝熱面積Aの変化に比例して変化することが分かる。したがって、前記のように有効熱交換面積を大小調整することにより、加熱対象(例えば上流側触媒5)の加熱能力を制御できるようになることが明らかである。
以上説明したように、本発明を適用した実施形態では、ループ式ヒートパイプ構造の排熱回収装置20において、受熱部21による熱回収を効率良く行える状態に早期に立ち上げてから放熱部22による熱交換能力を高める状態に移行させることが可能になる。これにより、加熱対象としての上流側触媒5を速やかに活性化することが可能になって、内燃機関1の冷間始動時におけるエミッション低減を図るうえで有利となる。さらに、上流側触媒5の活性化後には排熱回収装置20による熱循環を停止して上流側触媒5の過剰加熱による浄化性能の低下を回避することが可能になる。
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下で例を挙げる。
(1)上記各実施形態において、流れ制御部材31を変位させるための駆動部32としてダイアフラムスプリングを用いる構成とした例を挙げているが、本発明はこれに限定されない。
前記駆動部32は、例えばサーモスタットを駆動源として用いる公知の構成とすることが可能であり、また、適宜のアクチュエータと制御装置とを用いて作動させる形態とすることができる。
前記アクチュエータとしては、例えば直線駆動力を直接発生する直動シリンダとすることができる他、例えば回転動力を発生するモータと、前記回転動力を直線駆動力に変換する変換機構とを組み合わせた構成等とすることができる。前記制御装置は、一般的に公知のECU(Electronic Control Unit)とされる。
この制御装置は、内燃機関1の冷間始動時に流れ制御部材31を図4や図8に示す第1位置に配置することにより受熱部21による熱回収を早期に立ち上げ、加熱対象(内燃機関1の冷却水や上流側触媒5の温度)が最終目標温度より低い第1目標温度に到達すると、流れ制御部材31を図5や図9に示す第2位置に配置することにより放熱部22による熱交換能力を最大にし、さらに加熱対象の温度が最終目標温度に到達すると流れ制御部材31を図6や図10に示す第3位置に配置することにより、加熱対象の過剰な加熱を停止させるようにすることができる。
(2)上記各実施形態において、内燃機関1はガソリンエンジンやディーゼルエンジン、その他のエンジンに限定されるものではない。ディーゼルエンジンとする場合には、触媒5,6を例えばDPF(Diesel Particulate Filter)やDPNR(Diesel Particulate -NOx Reduction system)等とすることができる。
なお、ディーゼルエンジンの場合において、上流側触媒5をNOx吸蔵還元触媒(NSR:NOx storage reduction)として、下流側触媒6をNOx選択還元触媒(SCR:Selective Catalytic Reduction)とすることも可能である。
(3)上記各実施形態では、2つの触媒5,6を備える場合の例を挙げているが、触媒の数は限定されるものではなく、例えば1個、あるいは3個以上であってもよい。