JP2010201303A - 複合半透膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】 高い耐塩素性を有する複合半透膜を提供する。
【解決手段】 微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、微多孔性支持膜のガラス転移温度より30℃以上低いガラス転移温度を持つポリマーのモノマーを重合開始剤と界面活性剤との存在下、溶媒中で重合させて得られるエマルション溶液に、複合半透膜を接触させた後、ポリマーのガラス転移温度以上に加熱乾燥させる処理を行うことによって得られる複合半透膜。
【選択図】 なし

Description

本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜に関する。本発明によって得られる複合半透膜は、例えば海水やかん水の淡水化に好適に用いることができる。
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあり、これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は複合半透膜であり、多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。なかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い分離膜として広く用いられている。
さらに、複合半透膜を後処理する方法も種々開示されている。例えば、保護層として有機重合体を用いる例も開示されている。
特許文献1には、半透過性複合膜の保護層としてポリビニルアルコールを被膜させることで、塩除去率を維持しつつ、耐引っ掻き性または耐磨耗性を得る方法が開示され、特許文献2にはポリオールで皮膜させることにより、高い塩除去性能を有するポリマー半透膜が開示されている。しかし、これらの技術において保護層として用いられているポリマーは、水またはアルコールに可溶なポリビニルアルコール等のポリマーであったため、膜の耐塩素性が低いという問題点があった。
特許文献3には、結晶構造を有するポリビニルアルコールを逆浸透膜の表面に形成させることで、高耐塩素殺菌剤性を有する逆浸透複合膜が開示されており、従前の技術と比較すると、高い耐塩素性を実現することが可能となったが、特許文献3の技術においても、保護層として用いられているポリマーはポリビニルアルコールであったため、実用的に十分満足できるレベルでの耐塩素性を有する複合半透膜は、依然として実現されなかった。
特表平8−500279号公報 特表平8−506052号公報 特開平11−28344号公報
本発明は、高い耐塩素性を有する複合半透膜を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成をとる。
(1)微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、微多孔性支持膜のガラス転移温度より30℃以上低いガラス転移温度を持つポリマーのエマルション溶液に、複合半透膜を接触させた後、ポリマーのガラス転移温度以上に加熱乾燥させる処理を行うことによって得られる複合半透膜。
(2)微多孔性支持膜がポリスルホンからなり、エマルション溶液の溶媒が水であることを特徴とする(1)に記載の複合半透膜。
(3)ポリマーがポリビニルアセタートである、(2)に記載の複合半透膜の製造方法。
(4)エマルション溶液が、重合開始剤と界面活性剤とを含む水中でモノマーを重合して得られることを特徴とする(2)または(3)に記載の複合半透膜。
本発明によれば、高い耐塩素性を有する複合半透膜を得ることができる。
本発明は、ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜に関し、微多孔性支持膜上に多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合によってポリアミド分離機能層を形成する工程、および前記ポリアミド分離機能層にポリマーのエマルション溶液を接触させ、その後加熱乾燥処理を行うことでポリマー層を形成させる工程を有する。
本発明において微多孔性支持膜は、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような支持膜が好ましい。
微多孔性支持膜に使用する材料やその形状は特に限定されないが、例えばポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛である基材により強化された多孔性支持体が用いられる。多孔性支持体の素材としては、ポリスルホンや酢酸セルロースやポリ塩化ビニル、あるいはそれらを混合したものが好ましく使用され、化学的、機械的、熱的に安定性の高いポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
Figure 2010201303
例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以降、DMFと記載)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有する微多孔性支持膜を得ることができる。
上記の微多孔性支持膜の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、50〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは100〜250μmの範囲内である。また、多孔性支持体の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜100μmの範囲内である。
微多孔性支持膜の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から微多孔質支持体を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真から多孔性支持体の膜厚や表面孔径を決定する。なお、本発明における厚みや孔径は平均値を意味するものである。
本発明において、分離機能層を構成するポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過水量を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。
ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の一級および/または二級アミノ基を有するアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸などの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン、4−アミノメチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の一級および/または二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAと記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
次に、本発明の複合半透膜の製造方法について説明する。
複合半透膜における分離機能層は、例えば、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する、水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、微多孔性支持膜の表面で界面重縮合を行うことによりその骨格を形成できる。
ここで、多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1〜20重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5〜15重量%の範囲内である。この範囲であると十分な塩除去性能および透水性を得ることができる。多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、微多孔性支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重宿合反応を効率よく行える場合がある。
界面重縮合を微多孔性支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させる。接触は、微多孔性支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜にコーティングする方法や微多孔性支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。微多孔性支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、1〜10分間の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。
多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、特開平2−78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
次いで、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜に、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層の骨格を形成させる。
有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01〜10重量%の範囲内であると好ましく、0.02〜2.0重量%の範囲内であるとさらに好ましい。0.01重量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができるためである。さらに、この有機溶媒溶液にDMFのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し、微多孔性支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液の多官能アミン化合物水溶液相への接触の方法は、多官能アミン水溶液の微多孔性支持膜への被覆方法と同様に行えばよい。
上述したように、多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させて界面重縮合を行い、微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成したあとは、余剰の溶媒を液切りするとよい。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1〜5分の間にあることが好ましく、1〜3分間であるとより好ましい。短すぎると分離機能層が完全に形成せず、長すぎると有機溶媒が過乾燥となり欠点が発生しやすく、性能低下を起こしやすい。
上述の方法により得られた複合半透膜は、40〜100℃の範囲内、好ましくは60〜100℃の範囲内で1〜10分間、より好ましくは2〜8分間熱水処理する工程などを付加することで、複合半透膜の溶質阻止性能や透水性をより一層向上させることができる。
次にポリマーのエマルション溶液を複合半透膜に接触させる。接触は、複合半透膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、エマルション溶液を複合半透膜にコーティングする方法や複合半透膜をエマルション溶液に浸漬する方法を挙げることができる。複合半透膜とエマルション溶液との接触時間は、10秒〜10分間の範囲内であることが好ましく、30秒〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。
エマルション溶液に用いるポリマーは、微多孔性支持膜のガラス転移温度(以下、Tgと記す)より30℃以上低いTgを持つものである必要がある。本発明では、複合半透膜をエマルション溶液と接触させた後、均一な保護膜を得るためポリマーのTg以上に加熱する必要がある。そのため、ポリマーのTgが微多孔性支持膜のTgより30℃以上低くないと、加熱時に微多孔性支持膜が変質するおそれがある。
ポリマーのエマルション溶液は、界面活性剤を含むポリマー溶液に、ポリマーの貧溶媒を加える方法や、モノマー、重合開始剤、界面活性剤を溶媒中で反応させる方法によって得ることができる。なかでも、モノマー、重合開始剤、界面活性剤を溶媒中で反応させる方法が好ましい。この場合のモノマーは、上述の理由により、重合して得られるポリマーが微多孔性支持膜のTgより30℃以上低いTgを持つものである必要がある。
ここで、モノマーとしてはビニルアセタート、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、フッ化ビニリデン等が挙げられ、それらの混合物であってもよい。なかでも、高い耐塩素性を得るためにビニルアセタートが好ましい。
重合開始剤としては、上記モノマーの重合反応を開始させる化合物であり、かつ該モノマーの沸点以下で重合反応を開始する化合物であれば特に制限されず、クメンヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシドのようなジアルキルペルオキシド類、ペルオキシ安息香酸のようなペルオキシ酸およびそのエステル類、過酸化ベンゾイルのようなジアシルおよびジアロイルペルオキシド類、2,2−アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ化合物、ジフェニルジスルフィドのような二硫化物、ペルオキソ二硫酸ナトリウムのような過酸化物が挙げられる。なかでもエマルション溶液に用いる溶媒に可溶な化合物が好ましく、特に水に可溶な化合物が好ましい。
界面活性剤は、モノマーの重合反応によって、エマルション溶媒を得るために必要であり、その種類は特に制限されないが、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
溶媒は複合半透膜を破壊しないものが望ましく、水、有機溶媒が挙げられ、それらの混合溶媒であってもよい。なかでも水が好ましい。また、ポリマーのエマルション溶液とするために、溶媒はポリマーの良溶媒でなく、ポリマーの貧溶媒である必要がある。このことから、本発明では複合半透膜を破壊しない溶媒には溶解しにくいポリマーを複合半透膜の接触処理に用いることができる。エマルション溶液中のポリマーの濃度は、0.01〜50重量%の範囲内であると好ましく、0.02〜20重量%の範囲内であるとさらに好ましい。
Tgの測定法としては、試料の温度をゆっくりと上昇または下降させながら力学的物性の変化を測定する熱機械分析や、試料の温度をゆっくりと上昇または下降させながら吸熱や発熱を測定する示差走査熱量測定、示差熱分析や、試料に加える周期的力の周波数を変えながらその応答を測定する動的粘弾性測定が挙げられるが、簡便さ、再現性の高さ等の点から示差走査熱量測定が望ましく、本発明においてTgは示差走査熱量測定によって測定された値を採用するものとする。
なお、本発明において、エマルション溶液に含まれるポリマーのTgは、エマルション溶液の一部を濃縮乾燥し、Tgを測定するなどの方法で算出することができる。
得られたエマルション溶液の粒子径は動的光散乱法、レーザー回折法、遠心沈降法などにより求めることができる。
エマルション溶液を複合半透膜に接触させた後は、余剰の溶媒を液切りするとよい。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1〜5分の間にあることが好ましく、1〜3分間であるとより好ましい。液切りした後は、ポリマーのTg以上、微多孔性支持膜のTg以下の温度で加熱乾燥させる。ポリマーのTg未満の温度では、ポリマーが均一な膜とならず、欠点が発生しやすい。
さらに、上述の方法により得られた膜を、40〜100℃の範囲内、好ましくは60〜100℃の範囲内で1〜10分間、より好ましくは2〜8分間熱水処理させることで、複合半透膜の溶質阻止性能や透水性をより一層向上させることができる。
このように形成される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、1.0MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
本発明に係る複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/LのTDSを含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5〜40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
耐塩素性の指標については、次亜塩素酸溶液への耐性を指標とするのが適当である。
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
実施例におけるTgはJIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」を参考に示差走査熱量測定(以下、DSCと記す)により求めた。測定サンプルをガラス転移温度より少なくとも30℃高い温度まで加熱し、その温度に10分間保った後、ガラス転移温度より約50℃低い温度まで急冷する。その後、加熱速度毎分20℃でガラス転移温度よりも約30℃高い温度まで加熱してDSC曲線を求め、Tgを算出した。
実施例におけるエマルション溶液の粒子径は、エマルション溶液をRO水で約1%に調製し、動的光散乱解析装置(堀場製作所(株)製 LB-500)により測定した。
比較例、実施例における膜の特性は、複合半透膜に、温度25℃、pH10、塩化ナトリウム濃度1500ppm、ホウ素濃度5.0ppmに調整した評価水を操作圧力1.03MPaで供給して膜ろ過処理を行ない、透過水、供給水の水質を測定することにより求めた。
(NaCl除去率)
NaCl除去率(%)=100×{1−(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
(膜透過流束)
供給水(海水)の膜透過水量を、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m/m/日)を表した。
次亜塩素酸溶液浸漬前後の膜の特性比は、以下の式により求めた。
NaCl SP比=(100−浸漬後のNaCl除去率)/(100−浸漬前のNaCl除去率)
膜透過流束比=浸漬後の膜透過流束/浸漬前の膜透過流束
(調製例1)
ビニルアセタート10g、ペルオキソ二硫酸ナトリウム0.6g、ドデシル硫酸ナトリウム0.4g、水90gを混合し、70℃で8時間加熱攪拌した。室温まで冷却後、凝集物をろ別して除き、ポリビニルアセタートのエマルション溶液を得た。得られたエマルション溶液の粒子径を測定したところ、24.4nmであった。また、エマルション溶液の一部を濃縮乾燥し、Tgを測定したところ30℃であった。
(比較例1)
ポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm/sec)上にポリスルホン(Tg:190℃)の15.3重量%DMF溶液を200μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。
このようにして得られた微多孔性支持膜(厚さ210〜215μm)を、m−PDAの3.1重量%、ε‐カプロラクタム3.5重量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.08重量%を含むn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りした。その後、90℃の熱水で2分間洗浄して複合半透膜を得た。このようにして得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
さらに、複合半透膜の耐塩素性を評価するため、得られた複合半透膜をリン酸カリウムによりpH7に調製した次亜塩素酸800ppmの水溶液に6.25時間浸漬した。浸漬後、RO水でよく洗浄した。
得られた複合半透膜を評価したところ、次亜塩素酸浸漬後の膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、NaCl SP比、膜透過流束比も同じく表1に示す。
(比較例2)
比較例1と同様に、複合半透膜を作製した後、複合半透膜をけんか度99%のポリビニルアルコール0.25重量%の水と2−プロパノールの7:3溶液に1分間浸漬した後、垂直に保持して液切りし、130℃で加熱乾燥した。
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
さらに、複合半透膜の耐塩素性を評価するため、得られた複合半透膜をリン酸カリウムによりpH7に調製した次亜塩素酸800ppmの水溶液に6.25時間浸漬した。浸漬後、RO水でよく洗浄した。
得られた複合半透膜を評価したところ、次亜塩素酸浸漬後の膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、NaCl SP比、膜透過流束比も同じく表1に示す。
(実施例1)
比較例1と同様に、複合半透膜を作製した後、調製例1で調製したポリビニルアセタートのエマルション水溶液を純水で希釈し0.5重量%としたエマルション水溶液に複合半透膜を1分間浸漬した後、垂直に保持して液切りし、60℃で加熱乾燥した。さらに90℃の熱水で2分間洗浄した。
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
さらに、複合半透膜の耐塩素性を評価するため、得られた複合半透膜をリン酸カリウムによりpH7に調製した次亜塩素酸800ppmの水溶液に6.25時間浸漬した。浸漬後、RO水でよく洗浄した。
得られた複合半透膜を評価したところ、次亜塩素酸浸漬後の膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、NaCl SP比、膜透過流束比も同じく表1に示す。
(実施例2)
エマルション溶液としてポリビニルアセタート1.0重量%のエマルション水溶液を用いた以外は実施例1と同様の工程により膜を作製した。
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
さらに、複合半透膜の耐塩素性を評価するため、得られた複合半透膜をリン酸カリウムによりpH7に調製した次亜塩素酸800ppmの水溶液に6.25時間浸漬した。浸漬後、RO水でよく洗浄した。
得られた複合半透膜を評価したところ、次亜塩素酸浸漬後の膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、NaCl SP比、膜透過流束比も同じく表1に示す。
(実施例3)
エマルション溶液としてポリビニルアセタート2.0重量%のエマルション水溶液を用いた以外は実施例1と同様の工程により膜を作製した。
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
さらに、複合半透膜の耐塩素性を評価するため、得られた複合半透膜をリン酸カリウムによりpH7に調製した次亜塩素酸800ppmの水溶液に6.25時間浸漬した。浸漬後、RO水でよく洗浄した。
得られた複合半透膜を評価したところ、次亜塩素酸浸漬後の膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、NaCl SP比、膜透過流束比も同じく表1に示す。
(実施例4)
エマルション溶液としてポリビニルアセタート5.0重量%のエマルション水溶液を用いた以外は実施例1と同様の工程により膜を作製した。
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
さらに、複合半透膜の耐塩素性を評価するため、得られた複合半透膜をリン酸カリウムによりpH7に調製した次亜塩素酸800ppmの水溶液に6.25時間浸漬した。浸漬後、RO水でよく洗浄した。
得られた複合半透膜を評価したところ、次亜塩素酸浸漬後の膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、NaCl SP比、膜透過流束比も同じく表1に示す。
(実施例5)
エマルション溶液としてポリビニルアセタート10重量%のエマルション水溶液を用いた以外は実施例1と同様の工程により膜を作製した。
得られた複合半透膜を評価したところ、膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
さらに、複合半透膜の耐塩素性を評価するため、得られた複合半透膜をリン酸カリウムによりpH7に調製した次亜塩素酸800ppmの水溶液に6.25時間浸漬した。浸漬後、RO水でよく洗浄した。
得られた複合半透膜を評価したところ、次亜塩素酸浸漬後の膜透過流束、NaCl除去率はそれぞれ表1に示す値であった。また、NaCl SP比、膜透過流束比も同じく表1に示す。
Figure 2010201303
以上のように、本発明により得られる複合半透膜は、高い耐塩素性を有している。
本発明の複合半透膜は、特に、かん水や海水の脱塩に好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. 微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、微多孔性支持膜のガラス転移温度より30℃以上低いガラス転移温度を持つポリマーのエマルション溶液に、複合半透膜を接触させた後、ポリマーのガラス転移温度以上に加熱乾燥させる処理を行うことによって得られる複合半透膜。
  2. 微多孔性支持膜がポリスルホンからなり、エマルション溶液の溶媒が水であることを特徴とする請求項1に記載の複合半透膜。
  3. ポリマーがポリビニルアセタートである、請求項2に記載の複合半透膜。
  4. エマルション溶液が、重合開始剤と界面活性剤とを含む水中でモノマーを重合して得られることを特徴とする請求項2または3に記載の複合半透膜。
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