JP2010070646A - 光学材料用樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、透明性、耐熱性及び機械特性に優れ、光弾性係数の絶対値が小さく、負の複屈折を示す光学フィルムを製造できる、光学材料を提供することを目的とする。
【解決手段】屈折率が1.51〜1.54のゴム状重合体と、前記ゴム状重合体にグラフトしている芳香族ビニル化合物、不飽和ニトリル化合物及びこれらと共重合可能な化合物を重合体単位として含む共重合体とを含むグラフト共重合体(A)、芳香族ビニル化合物、不飽和ニトリル化合物及びこれらと共重合可能な化合物を重合体単位として含む不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)を含む樹脂組成物であって、ガラス転移温度が110℃以上であり、JIS K7136に基づき測定された50μm厚みのフィルムのヘーズが2.0以下である光学材料用樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、光学素子を製造するための材料、すなわち光学材料として用いるのに適した樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる光学フィルムに関する。
特に、各種ディスプレイ用途に用いられる位相差フィルム等の光学フィルムの製造に適した樹脂組成物及び該樹脂組成物に関する。
近年、ディスプレイ市場の拡大に伴い、消費者からより鮮明な画像を見たいという要求が高まっている。そのため、ディスプレイに用いられる光学材料は、単なる透明材料ではなく、より高度な光学特性が付与された光学材料であることを求められている。
このような高度な光学特性の一つに複屈折がある。一般に、高分子を含む光学材料では、高分子の分子鎖が配向すると分子鎖軸方向と分子鎖軸方向に直交する方向とで屈折率が異なるために複屈折を生じる。この分子鎖を配向させる方法として延伸等の方法が用いられている。用途によっては、上述の各方向間の屈折率差である複屈折率を厳密にコントロールすることが求められている。例えば、液晶の偏光板に用いられる保護フィルムの場合、全光線透過率が同じであると、複屈折率のより小さな高分子材料の成形体であるフィルムが好ましく用いられる。そのようなフィルムの代表的なものとしては、トリアセチルセルロースからなるフィルムが挙げられる。一方、この複屈折を利用することにより、直線偏光を円偏光に変えること(1/4波長板等)や、液晶が有する複屈折を補償する(位相差フィルムなどの光学補償フィルム等)ことが可能となる。このような位相差フィルム等の複屈折を有する光学素子を製造するための材料としてはポリカーボネートや非晶性の環状ポリオレフィンがよく知られている。
また、最近では液晶ディスプレイが大型化し、それに伴い位相差フィルムなどの高分子光学素子の大型化も必要である。しかし、光学素子を大型化すると、外力の偏りが生じるため、位相差フィルム等の複屈折性光学素子が外力による複屈折変化の生じやすい材料からなる場合、複屈折の分布が生じ、コントラストが不均一となるという問題点がある。
外力による複屈折変化の生じやすさは光弾性係数によって表されるが、前述のポリカーボネートは、光弾性係数が大きいため、これらに代わる光弾性係数の小さい複屈折性光学材料が切望されている。
さらに最近では、液晶画面に更なる高画質を与えるべく、位相差フィルムの面内方向のレタデーション(Re)だけでなく、厚み方向のレタデーション(Rth)も制御したいという要求がある。例えば、近年注目されている水平電界(IPS)モード液晶表示装置用の位相差フィルムの場合、厚み方向のレタデーション(Rth)を制御するために、負の固有複屈折を有するポリマーを延伸して得られる位相差フィルムが好ましい。また、IPSモード液晶表示装置以外の用途でも、負の固有複屈折を有するポリマーを延伸して得られる位相差フィルムを用いることが有効である場合がある。
負の固有複屈折を有するポリマーを延伸して得られる位相差フィルムとしては、例えば特許文献1、2、3に記載されたフィルムが挙げられる。
特開平5−257014号公報 特開平6−67021号公報 特願2007−072641号公報
負の固有複屈折を有するポリマーを延伸して得られる位相差フィルムに要求される特性としては、一般に透明性、耐熱性、延伸による複屈折の発現の容易さ、光弾性係数の絶対値が小さいこと、フィルムの製造工程(製膜、延伸、運搬、巻取り)でフィルムが損傷しない程度の十分な機械特性などが挙げられる。しかしながら、負の固有複屈折を有するポリメチルメタクリレートやポリスチレンからなるフィルムは、ガラス転移温度(Tg)が100℃付近にあり、耐熱性が不十分なこと、脆いことなどからその用途に制限を受けている。特許文献1では、耐熱性及び脆さを改善したスチレン−アクリロニトリル系共重合体からなる位相差フィルムも報告されているが、依然として必要とされる耐熱性や機械特性が十分満足するものではない。
また、耐熱性を向上させるため、特許文献2ではスチレン系単量体とN−置換マレイミド単量体との共重合ポリマーからなる位相差フィルムが報告されている。しかし、光弾性係数の絶対値が高いことや、機械特性が十分満足するものではない。特許文献3に記載の光学材料は、透明性、耐熱性に優れ、光弾性係数の絶対値が小さい、負の固有複屈折を有する位相差フィルムを製造することができる。特許文献2に記載の位相差フィルムで高い機械特性を得るためには分子量を高くする必要がある。しかしながら、上記共重合ポリマーについて十分に高い機械強度を得るまで分子量を高くすると、その流動性が低下するため、未延伸フィルムを得るのが困難となり、生産性が十分ではない。
このようなことから、生産性及び歩留り、さらには高温で保存した時のレタデーションの安定性において十分に満足できる負の固有複屈折を有するポリマーを延伸して得られる位相差フィルムがないのが現状である。
本発明は、透明性、耐熱性及び機械特性に優れ、光弾性係数の絶対値が小さく、負の複屈折を示す光学フィルムを製造できる、光学材料を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、屈折率が1.51〜1.54のゴム状重合体と、前記ゴム状重合体にグラフトしている芳香族ビニル化合物及び不飽和ニトリル化合物を重合体単位として含む共重合体とを含むグラフト共重合体(A)、芳香族ビニル化合物、不飽和ニトリル化合物及びこれらと共重合可能な化合物を単量体成分として含む不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)から得られる光学材料樹脂組成物が透明性、耐熱性及び機械特性のバランスに優れ、光弾性係数の絶対値が小さく、負の複屈折を示す光学フィルムを製造できることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)屈折率が1.51〜1.54のゴム状重合体と、前記ゴム状重合体にグラフトしている芳香族ビニル化合物及び不飽和ニトリル化合物を重合体単位として含む共重合体とを含むグラフト共重合体(A)、芳香族ビニル化合物及び不飽和ニトリル化合物を重合体単位として含む不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)を含む光学材料用樹脂組成物であって、ガラス転移温度が110℃以上であり、JIS K7136に基づき測定された50μm厚みのフィルムのヘーズが2.0以下である前記樹脂組成物。
(2)グラフト共重合体(A)のゴム状重合体を除いた成分、不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)から構成されるマトリックスの屈折率とグラフト共重合体(A)に使用されるゴム状重合体の屈折率差の絶対値が0.01以下である(1)に記載の光学材料用樹脂組成物。
(3)グラフト共重合体(A)と不飽和ニトリル系共重合体(B)のそれぞれにおけるアセトン可溶成分中の不飽和ニトリル単量体の割合が15〜30重量%である(1)又は(2)に記載の光学材料用樹脂組成物。
(4)グラフト共重合体(A)のゴム状重合体が共役ジエン系ゴム、芳香族ビニル化合物がスチレン、不飽和ニトリル化合物がアクリロニトリルであり、不飽和ニトリル系共重合体(B)の芳香族ビニル化合物がスチレン、不飽和ニトリル化合物がアクリロニトリルである、(1)〜(3)のいずれかに記載の光学材料用樹脂組成物。
(5)前記耐熱アクリル系樹脂(C)が、メタクリル酸エステル単位及び/又はアクリル酸エステル単位40質量%以上90質量%以下と、芳香族ビニル化合物単位5質量%以上40質量%以下と、下記一般式[1]で表される化合物単位5質量%以上20質量%以下とを含み、下記一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル化合物単位の共重合割合の比(芳香族ビニル化合物単位の共重合割合/一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合)が1以上3以下である耐熱アクリル系樹脂(C−1)である(1)〜(4)のいずれかに記載の光学材料用樹脂組成物。
Figure 2010070646

(式中、Xは、O又はN−Rを表す。なおOは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルカン基である。)
(6)前記樹脂組成物100質量部に対して、前記ゴム状重合体の量が0.5〜15質量部である(1)〜(5)のいずれかに記載の光学材料用樹脂組成物。
(7)前記ゴム状重合体の重量平均粒子径が0.05〜0.35μmである(1)〜(6)のいずれかに記載の光学材料用樹脂組成物。
(8)前記ゴム状重合体の重量平均粒子径が0.05〜0.15μmである(1)〜(6)のいずれかに記載の光学材料用樹脂組成物。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の光学材料用樹脂組成物を含む光学フィルム。
(10)(1)〜(8)のいずれかに記載の光学材料用樹脂組成物を含む偏光板保護フィルム。
(11)(1)〜(8)のいずれかに記載の光学材料用樹脂組成物を含む位相差フィルム。
(12)面内レタデーション(Re)が40〜1100nmで、かつ、ny<nx=nzを満足する(11)に記載の位相差フィルム:
ただし、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率である。
(13)面内レタデーション(Re)が40nm未満であり、厚み方向レタデーション(Rth)が−20nm以下である(11)に記載の位相差フィルム。
(14)面内レタデーション(Re)が40nm未満で、かつ、nx=ny<nzを満足する(11)に記載の位相差フィルム:
ただし、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率である。
(15)偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも一方が、(11)〜(14)のいずれかに記載の位相差フィルムである偏光板。
(16)偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの一方が(11)〜(14)のいずれかに記載の位相差フィルムであり、他方がアクリル系樹脂を含み、スチレン系樹脂を含まない樹脂組成物を成形して得られるフィルムである偏光板。
(17)偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの両方が、(11)〜(14)のいずれかに記載の位相差フィルムである偏光板。
本発明の光学材料を用いることで、透明性、耐熱性及び機械特性に優れ、光弾性係数の絶対値が小さく、負の複屈折を示す光学フィルムを提供することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本明細書において、「化合物」とは、用語「化合物」の直前に表記される物質とその誘導体とを含むものとする。例えば「スチレン化合物」とは、スチレンとスチレン誘導体とを含むものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
(1)グラフト共重合体
グラフト共重合体(A)は、屈折率が1.51〜1.54のゴム状重合体と、前記ゴム状重合体にグラフトしている、芳香族ビニル化合物と不飽和ニトリル化合物とを重合体単位として含む共重合体とを含むグラフト共重合体である。上記重合体単位には、必要に応じて重合可能な他の化合物を含んでもよい。一般に、これらのグラフト共重合体(A)は乳化重合、塊状重合あるいは塊状・懸濁重合により製造されるが、これらに限定されるものではない。
本発明におけるグラフト共重合体(A)に用いられるゴム状重合体には特に制限はないが、共役ジエン系ゴムが、特に耐衝撃性の観点から好ましく用いられる。これらゴム状重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体などが挙げられる。これらのゴム状重合体のうちでは、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体及びアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が、特に耐衝撃性の観点から好ましく用いられる。
また共役ジエンゴムの他にアクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが使用できる。これらのゴム状重合体の具体例としては、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。
ゴム状重合体の重量平均粒子径は、0.05〜0.35μmが好ましく、0.05〜0.15がより好ましい。重量平均粒子径は耐折強度の改良効果の観点から0.05μm以上である。なお、重量平均粒子径を0.35μm以下を好ましいとするのは成形品の透明性の観点からである。なお、本実施形態において、重量平均粒子径は、成形品からミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、電子顕微鏡写真を用いて観察した。
グラフト共重合体(A)の単量体成分である芳香族ビニル化合物は、分子内に芳香環とビニル基とを有するものであれば特に限定されず、例えばスチレン化合物が挙げられる。グラフト共重合体(A)は、重合体単位としてスチレン化合物を含むスチレン系樹脂であることが好ましい。スチレン化合物の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのアルキルスチレン、特に炭素数1〜4のアルキル基で置換されたスチレン誘導体が挙げられる。これらの中でもスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
グラフト共重合体(A)の単量体成分である不飽和ニトリル化合物は、分子内にニトリル基と炭素間不飽和結合とを有するものであれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でもアクリロニトリルが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
重合可能な他の化合物としては、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸エステル化合物、N−フェニルマレイミド、無水マレイン酸などが挙げられる。これらの中でもブチルアクリレートが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
上記単量体成分は後述の不飽和ニトリル系共重合体(B)、耐熱アクリル系樹脂(C)との相溶性を高める観点から、芳香族ビニル化合物としてスチレンと、不飽和ニトリル化合物としてアクリロニトリルとを含有するものが好ましい。すなわち、重合体単位が、スチレンと、アクリロニトリルと、重合可能な他の化合物とすることが好ましく、この場合、上記と同様の観点から、重合体単位中の重合可能な他の化合物の含有割合は15質量%以下であることが好ましい。さらには、上記と同様の観点から、重合体単位がスチレンとアクリロニトリルとすることも好ましい。本実施形態に係るグラフト共重合体(A)は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体であると好ましい。ここで、本明細書において、「アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体」には、共役ジエン系ゴムにスチレンとアクリロニトリルとを重合体単位として含むグラフト共重合体のみならず、スチレンとアクリロニトリルと15質量%以下の重合可能な他の化合物を重合体単位として含むグラフト共重合体も含まれるものとする。
グラフト共重合体(A)において、アセトン可溶成分中の不飽和ニトリル化合物の含有量は相溶性の観点から15〜30質量%であり、好ましくは18〜27質量%である。なお、アセトン可溶成分は、樹脂1gにアセトン20mlを加え、振とう機にて可溶成分が完全に溶解するまで2時間振とうし、この溶液を20000rpmで40分間延伸分離後、可溶成分のみを濾別した後、80℃で4時間乾燥しアセトンを除き、さらに100℃で1時間減圧乾燥することにより得られる。アセトン可溶成分中の不飽和ニトリル化合物等の各単量体成分(各重合体単位)の含有量は、アセトン可溶成分をIR測定して不飽和ニトリル化合物等の各単量体成分に起因する結合を定量することで求められる。
グラフト共重合体(A)において、アセトン可溶成分中の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で50000〜500000の範囲が好ましい。なお、本実施形態において、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(例えば、東ソー社製、商品名「HLC8220GPC」)、カラム(例えば、東ソー社製、商品名「TSK−GEL」のG6000HXL−G5000HXL−G5000HXL−G4000HXL−G3000HXLを直列に連結したもの)を用いて測定される。得られる樹脂組成物から作製した光学フィルムの機械強度を高めるため、この重量平均分子量は50000以上であることが好ましい。また、生産性の観点から、この重量平均分子量は500000以下であることが好ましい。
重合の過程で未反応のモノマーや低分子のオリゴマーが多量に残存すると、光学フィルムの耐熱性が低下し、加熱により樹脂の分子鎖の配向が緩和し、複屈折率の低下を招きやすくなる。そこで、グラフト共重合体(A)中に残存する単量体は、その樹脂100質量部に対して1.0質量部以下であると好ましく、より好ましくは0.1質量部以下である。
グラフト共重合体(A)は、1種類を単独で、又は、ゴム状重合体の種類、単量体成分の種類、組成、重量平均分子量などが異なる2種類以上のものを混合して用いることができる。
(2)不飽和ニトリル系共重合体
本実施形態に係る不飽和ニトリル系共重合体(B)は、芳香族ビニル化合物と不飽和ニトリル化合物とを重合体単位として含む共重合体である。上記重合体単位には、必要に応じて重合可能な他の化合物を含んでもよい。
不飽和ニトリル系共重合体(B)の単量体成分である芳香族ビニル化合物は、分子内に芳香環とビニル基とを有するものであれば特に限定されず、例えばスチレン化合物が挙げられる。不飽和ニトリル系共重合体(B)は重合体単位としてスチレン化合物を含むスチレン系樹脂であると好ましい。スチレン化合物の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのアルキルスチレン、特に炭素数1〜4のアルキル基で置換されたスチレン誘導体が挙げられる。これらの中でもスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
不飽和ニトリル系共重合体(B)の単量体成分である不飽和ニトリル化合物は、分子内にニトリル基と炭素間不飽和結合とを有するものであれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でもアクリロニトリルが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
重合可能な他の化合物としては、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸エステル化合物、N−フェニルマレイミド、無水マレイン酸などが挙げられる。これらの中でもブチルアクリレートが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
グラフト共重合体(A)及び後述の耐熱アクリル系樹脂(C)との相溶性を高める観点から、芳香族ビニル化合物としてスチレン、不飽和ニトリル化合物としてアクリロニトリルとするのが好ましい。すなわち、上記重合体単位が、スチレンと、アクリロニトリルと、重合可能な他の化合物とすることが好ましく、この場合、上記と同様の観点から、重合体単位中の重合可能な他の化合物の含有割合は15質量%以下であることが好ましい。さらには、上記と同様の観点から、重合体単位がスチレンとアクリロニトリルとすることも好ましい。本実施形態に係る不飽和ニトリル系共重合体(B)は、スチレン−アクリロニトリル共重合体とすることが好ましい。ここで、本明細書において、「スチレン−アクリロニトリル共重合体」には、重合体単位としてスチレンとアクリロニトリルを有するもののみならず、スチレンとアクリロニトリルと15質量%以下の重合可能な他の化合物とからなる重合体単位を有するものも含まれるものとする。
不飽和ニトリル系共重合体(B)において、アセトン可溶成分中の不飽和ニトリル化合物の含有量は相溶性の観点から、通常、15〜30質量%であり、好ましくは18〜27質量%である。
またグラフト共重合体(A)と不飽和ニトリル系共重合体(B)におけるアセトン可溶成分中の不飽和ニトリル化合物の含有量差は、相溶性の観点から、通常10質量%以内であり、好ましくは5質量%である。
不飽和ニトリル系共重合体(B)は公知の溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の一般的な重合方法を用いて合成される。ただし、本発明の樹脂組成物より得られるフィルムは光学用途であるため、樹脂中の微小な異物の混入はできるだけ避けるのが好ましい。この観点から、懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が望ましい。溶液重合により不飽和ニトリル系共重合体(B)を合成する場合、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した溶液を用いてもよい。塊状重合により不飽和ニトリル系共重合体(B)を合成する場合、通常と同様に加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
重合の過程で未反応のモノマーや低分子のオリゴマーが多量に残存すると、光学フィルムの耐熱性が低下し、加熱により樹脂の分子鎖の配向が緩和し、複屈折率の低下を招きやすくなる。そこで、不飽和ニトリル系共重合体(B)中に残存する単量体は、その樹脂100質量部に対して1.0質量部以下であると好ましく、より好ましくは0.1質量部以下である。
不飽和ニトリル系共重合体(B)の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で50000〜500000の範囲が好ましい。得られる樹脂組成物から作製した光学フィルムの機械強度を高めるため、この重量平均分子量は50000以上であると好ましい。また、生産性の観点から、この重量平均分子量は500000以下であると好ましい。
不飽和ニトリル系共重合体(B)は、1種類を単独で、又は、単量体成分の種類、組成、重量平均分子量などが異なる2種類以上のものを混合して用いることができる。
不飽和ニトリル系共重合体(B)の23℃における未延伸時の光弾性係数は、30.0×10−12/Pa以下であると好ましく、15.0×10−12/Pa以下であるとより好ましく、10.0×10−12/Pa以下であると更に好ましい。
ここで、本実施形態における光弾性係数(C)とは、外力による複屈折率の変化の生じやすさを表す係数であり、下記式(1)により定義されるものである。
[単位:/Pa]=Δn/σ、Δn=n1−n2 (1)
なお、式(1)中、Cは光弾性係数を示し、σは伸張応力[単位:Pa]を示し、Δnは応力付与時の複屈折率を示す。また、n1は伸張方向に平行な方向の屈折率を示し、n2は伸張方向に垂直な方向の屈折率を示す。これらの各特性は、市販の複屈折測定装置を用いて、樹脂のフィルムに所定の伸張応力を与えながら屈折率を測定することで導出される。
上記光弾性係数の値がゼロに近いほど外力による複屈折率の変化が小さいことを示しており、各用途において、複屈折率の設計値からの変化が小さいことを意味する。
不飽和ニトリル系共重合体(B)の光弾性係数がこの範囲にあると、光弾性係数が小さく、かつ、所望のRthを有する光学フィルムが得られるため好ましい。
(3)耐熱アクリル系樹脂
本実施形態に係る耐熱アクリル系樹脂(C)は、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリル化合物を重合体単位として含む重合体である。必要に応じて重合体単位として重合可能な他の化合物を含むことができる。(メタ)アクリル化合物の共重合割合は40質量%以上であることが好ましい。
耐熱アクリル系樹脂(C)の単量体成分である(メタ)アクリル化合物は、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体をいう。(メタ)アクリル化合物の具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルが挙げられる。なかでも、メタクリル酸メチルが好ましい。
耐熱アクリル系樹脂(C)の単量体成分である芳香族ビニル化合物は、分子内に芳香環とビニル基とを有するものであれば特に限定されず、例えばスチレン化合物が挙げられる。スチレン化合物の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレン、などが挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明において、耐熱アクリル系樹脂(C)は、メタクリル酸エステル単位及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位及び下記一般式[1]で表される化合物単位を含む共重合体(C−1)であることが好ましい。
Figure 2010070646

(式中、XはO又は、N−Rを示す。なお、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルカン基である。)
耐熱アクリル系樹脂(C−1)の第一の重合体単位であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルが挙げられる。なかでも、メタクリル酸メチルが好ましい。
耐熱アクリル系樹脂(C−1)の第二の重合体単位である芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレン、などが挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。
耐熱アクリル系樹脂(C−1)の第三の重合体単位である一般式[1]で表される単位のうち、XがOであるものとしては、無水マレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位が挙げられる。また、XがN−Rであるものとしては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体が挙げられる。
耐熱アクリル系樹脂(C−1)を構成する重合体単位の共重合割合は、耐熱性、光弾性係数の点から、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が40質量%以上90質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が5質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
より好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が42質量%以上83質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が12質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位が5質量%以上18質量%以下である。
さらに好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が45質量%以上78質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が16質量%以上40質量%以下、上記一般式[1]で表される化合物単位が6質量%以上15質量%以下である。
また、上記一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル化合物単位の割合(芳香族ビニル化合物単位の共重合割合/一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合)が1以上3以下であることが好ましい。
耐熱アクリル系樹脂(C−1)には、上記した必須の共重合単位に加え、必要に応じ共重合可能な他の単量体を重合体単位として含む耐熱アクリル樹脂も包含される。
ここで用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン等が挙げられ、これらの2種以上を共重合することも可能である。
耐熱アクリル系樹脂(C−1)を製造する方法としては、ラジカル開始剤を使用した塊状重合が適した方法であるが、溶液重合、乳化重合を用いることも可能である。
水系懸濁重合は、無水マレイン酸を単量体成分として用いる場合には、その水溶性が高いため、終始安定な懸濁系を保つことが困難であり、推奨されない。
ラジカル開始剤としては一般に使用されているものを用いることができるが、アゾ系開始剤であるアゾビスイソブチロニトリルや2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化系開始剤であるベンゾイルパーオキサイドを該耐熱アクリル系樹脂の重合に使用した場合、得られるポリマーが着色することがある。
過酸化系開始剤として、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用すると、耐熱アクリル樹脂(B−1)の着色はないが、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを使用したポリマーは、耐水性が低く、熱水に浸漬した場合の重量増加が大きく、表面が白化することがある。
したがって、耐熱アクリル系樹脂(C−1)の重合には、ラウロイルパーオキサイドのようなジアシルパーオキサイドを使用することが好ましい。
耐熱アクリル系樹脂(C−1)の好ましい重合方法としては、特公昭63−1964号公報に記載の方法が挙げられる。
耐熱アクリル系樹脂(C−1)のメルトインデックス(ASTM D1238;I条件)は、本発明の光学材料用樹脂組成物を成形して得られる成形品の強度の観点から10g/10分以下であることが好ましい。より好ましくは6g/10分以下、さらに好ましくは3g/10分以下である。
耐熱アクリル系樹脂(C−1)の23℃における未延伸時の光弾性係数は、−60×10−12Pa−1以上であることが好ましく、−30×10−12Pa−1以上であることがより好ましく、−6×10−12Pa−1以上であることがさらに好ましい。耐熱アクリル系樹脂(C−1)の光弾性係数がこの範囲にあると、光弾性係数が小さく、かつ、所望のRthを有する光学フィルムが得られるため好ましい。
また、耐熱アクリル系樹脂(C)の別の好適な例として、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位、及び6員環構造の酸無水物単位を含む3元以上の共重合体(C−2)が挙げられる。この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(C−2)は、耐熱性に優れると共に、これから得られる成形体のレタデーション設計が容易であることから、光学材料に適している。
この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(C−2)の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル、第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例としては、前述の耐熱アクリル系樹脂(C−1)において例示したものを用いることができる。
また、6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(C−2)の第三の単量体成分である6員環構造の酸無水物単位は、不飽和カルボン酸単量体及び、必要に応じて不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他の単量体成分と重合させ、共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行わせることにより生成することができる。この場合、典型的には共重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の6員環構造の酸無水物単位が生成される。
6員環構造の酸無水物単位を生成するための不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体(C−2)は、特公平02−26641号、特開2006−266543号、特開2006−274069号、特開2006−274071号、特開2006−283013公報、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。
本発明においては、組成、分子量など異なる複数種類の耐熱アクリル系樹脂(C)を併用することができる。
耐熱アクリル系樹脂(C)のTgは、光学フィルムを位相差フィルムとして用いた場合の高い複屈折率を保持する点で重要である。このTgは、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは130℃以上である。耐熱アクリル系樹脂(C)のTgが120℃以上であることにより、液晶表示装置の製造工程又は画像表示中における昇温により、耐熱アクリル系樹脂(C)の分子鎖の配向が緩和するのを防ぎ、複屈折率が低下することを抑制できる。
耐熱アクリル系樹脂(C)のTgは、例えば無水マレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物重合体単位の含有量を増大することによって高くすることができ、120℃以上に制御することができる。なお、本実施形態において、耐熱アクリル系樹脂(C)が2種類以上である場合、耐熱アクリル系樹脂(C)のTgは、2種類以上の耐熱アクリル系樹脂(C)全体でのTgを示す。
(4)光学材料用樹脂組成物の説明
本実施形態の光学材料において、グラフト共重合体(A)の含有割合は、樹脂組成物の全量を100質量部として1〜40質量部であることが好ましく、8〜24質量部であることがより好ましい。また、上記光学フィルムにおいて、耐熱アクリル系樹脂(C)の含有割合は、樹脂組成物の全量を100質量部として20〜95質量部であることが好ましく、60〜80質量部であるとより好ましい。
本発明に用いる組成物を構成するゴム状重合体の量は、樹脂組成物の全量を100質量部として0.5〜15質量部であることが好ましく、4〜12質量部であるとより好ましい。機械強度及び透明性の観点から、ゴム状弾性体0.5質量部以上15質量部以下である。
なおグラフト共重合体(A)のゴム状重合体を除いた成分、不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)から構成されるマトリックスの屈折率とグラフト共重合体(A)に使用されるゴム状重合体の屈折率差の絶対値が0.01以下であると好ましく、0.005以下であるとより好ましい。屈折率差の絶対値が小さいほど透明性の観点から好ましい。本発明の光学材料用樹脂組成物においては、グラフト共重合体(A)と不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)の含有量や質量比を調整することにより、屈折率を制御することができる。このようなグラフト重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)は複数種類用いることもできる。
また、本発明の目的をより有効かつ確実に達成する観点から、本実施形態の光学材料(樹脂組成物)における上記グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)の合計の含有割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
本実施形態の光学フィルムを構成する樹脂組成物はより透明性の高いものであることが好ましい。したがってグラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)は、互いに相分離せず相溶(missible)することが好ましい。高い相溶性は、グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)の組成(共重合組成を含む。)、それらの配合比率、混練温度、混練圧力、冷却温度、冷却速度などを調整することにより実現できる。相溶については、『高性能ポリマーアロイ』(高分子学会編集、平成3年丸善株式会社発行)に詳しく記載されている。グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)の相溶性が高いと、グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)を含有する樹脂組成物からなる光学材料の透明性及び機械強度を同時に高めることが可能となるので好ましい。
本実施形態の光学材料において、樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)以外の重合体を、本発明の目的を達成できる範囲内で含有することができる。上記樹脂組成物に含有することのできる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。本実施形態に係る樹脂組成物には、上記重合体の少なくとも1種以上を更に含有することができる。
また本発明においては、光学材料用樹脂組成物に、本発明の目的を損なわない範囲で紫外線吸収剤を添加することができる。
混合することができる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、ラクトン系化合物は、これを添加した樹脂組成物の光弾性係数の絶対値を小さくする効果があり好ましい。最も好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。これらは単独で用いても、2種以上併用して用いることができる。
以下に、本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤であるベンゾトリアゾール系化合物の具体例として、一般式[2]と[3]で示される化合物を、ベンゾトリアジン系化合物の具体例として一般式[4]で示される化合物を示す。
Figure 2010070646
Figure 2010070646
Figure 2010070646

一般式[2]中、Xは水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜5のアルキル基もしくはアルコキシ基を表し、R〜Rは各々水素原子又は炭素数1〜20の置換、無置換のアルキル基を表す。一般式[3]中、X,Xは各々水素原子又はハロゲン原子を表し、R,Rは各々水素原子又は炭素数1〜20の置換、無置換のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。一般式[4]中、Rは炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシ基を表し、R,R10は各々水素原子、又は炭素数1〜20の置換、無置換のアルキル基を表す。
紫外線吸収剤が、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10−4Pa以下である場合に成形加工性に優れ好ましい。より好ましい範囲は蒸気圧(P)が1.0×10−6Pa以下であり、更に好ましい範囲は蒸気圧(P)が1.0×10−8Pa以下である。成型加工性に優れるとは、例えばフィルム成形時に、紫外線吸収剤のロールへの付着が少ないことなどを示す。ロールへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるため、光学用材料として好ましくないものとなる。
紫外線吸収剤が、融点(Tm)が80℃以上である場合に成形加工性に優れ好ましい。さらに好ましい範囲は融点(Tm)が130℃以上であり、とりわけ好ましい範囲は融点(Tm)が160℃以上である。
紫外線吸収剤が、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の紫外線吸収剤の重量減少率が50%以下である場合に成形加工性に優れ好ましい。さらに好ましい範囲は重量減少率が15%以下であり、とりわけ好ましい範囲は重量減少率が2%以下である。
本発明の光学材料用樹脂組成物を成形した光学フィルムは、380nmにおける分光透過率が5%以下かつ400nmにおける分光透過率が65%以上であることが好ましい。紫外領域である380nmの分光透過率が低いほど偏光子や液晶素子の劣化を防ぎ、可視領域である400nm分光透過率が高いほど色再現性に優れるため、光学フィルムとして好ましく用いることができる。光学フィルムの380nmにおける分光透過率をこの範囲内に設計するには、紫外線吸収剤の量が、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。0.1質量部より多いと、光学フィルムの380nmにおける分光透過率を小さくすることができ、10質量部より少ないと、光学フィルムの光弾性係数の増加が小さく、成型加工性、機械強度も向上するため好ましい。紫外線吸収剤の量のより好ましい範囲は、0.3質量部以上8質量部以下、さらに好ましい範囲は0.5質量部以上5質量部以下である。
紫外線吸収剤の量は、核磁気共鳴装置(NMR)によりプロトンNMRを測定し、ピークシグナルの積分値の比から求める方法や、又は良溶媒を用い樹脂から抽出後、ガスクロマトグラフ(GC)で測定する方法等により定量できる。
本実施形態の光学フィルムを構成する樹脂組成物は、本発明の目的を達成できる範囲内で、必要に応じて任意の添加剤を配合してもよい。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に限定されない。添加剤としては、例えば、二酸化珪素等の無機充填剤、酸化鉄等の顔料、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤、離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤及び可塑剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、色剤、その他添加剤又はこれらの混合物等が挙げられる。
紫外線吸収剤とその他の添加剤の総添加量は、光学フィルムを構成する重合体の合計100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下である。
本発明における光学材料用樹脂組成物に酸化防止剤を配合する場合、フィルムを構成する樹脂組成物に対して0.01質量部以上、2質量部以下の範囲で配合することが好ましく、0.05質量部以上、2質量部以下の範囲で配合することがより好ましく、0.1質量部以上、2.0質量部以下であることが更に好ましい。
酸化防止剤の配合量が0.01質量部未満である場合には、得られるフィルムの高温加工時における熱安定性が乏しくなり、異物の発生を十分に抑制できない場合がある。一方、配合量が2質量部を超える場合には、揮発分が多く出てしまいフィルムの加工性を低下させる場合がある。
また、本発明においては、フェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。フェノール系酸化防止剤の中でも、特に、分子内にアクリレート基を有するものが好ましい。フェノール系酸化防止剤、とりわけ分子内にアクリレート基を有するフェノール系酸化防止剤は、樹脂組成物中の高分子量の樹脂が成形加工時の加熱によりゲル化して成形体中に異物を発生させることを防止し、しかも、樹脂組成物中に多く添加しても、その光弾性係数を大きく変化させることがない。
分子中にアクリレート基を有するフェノール系酸化防止剤としては、例えば下記の一般式[5]で表される化合物が好ましい。
Figure 2010070646

一般式[5]中、R11は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、R12及びR13は、それぞれ独立して炭素数1〜8にアルキル基を表す。
一般式[5]におけるR11の炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖構造、分岐構造又は環構造を有しているものでもよい。また、R12及びR13は、好ましくは、4級炭素を含む「*−(CH−R’」で表される構造(*は芳香環への連結部位を表し、R’は炭素数1〜5のアルキル基を表す)である。
12は、より好ましくはt−ブチル基、t−アミル基又はt−オクチル基である。R13は、より好ましくはt−ブチル基、t−アミル基である。
上記一般式[5]で表される化合物として、市販のものではSumilizer GM(式[6])、Sumilizer GS(式[7])(共に商品名、住友化学(株)製等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上併用することもできる。
Figure 2010070646
Figure 2010070646
酸化防止剤の融点(Tm)が50℃以上であると耐熱性に優れ好ましい。酸化防止剤の融点は、さらに好ましくは、80℃以上であり、特に好ましくは100℃以上である。
酸化防止剤の量は、核磁気共鳴装置(NMR)によりプロトンNMRを測定し、ピークシグナルの積分値の比から求める方法や、又は良溶媒を用い樹脂から抽出後、ガスクロマトグラフ(GC)で測定する方法等により定量できる。
本実施形態の光学フィルムを構成する樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)を始めとする上記各種成分を所望の割合で配合、混合し、更に混練することにより得られる。各種成分を混合するのに用いられる機器としては、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ドラムタンブラー等が挙げられる。また、混練するのに用いられる装置としては、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、二軸ローター付の連続混練機、多軸スクリュー押出機、オープンローラ、バンバリーミキサー等が挙げられる。
(5)光学フィルムの説明
本発明における光学材料用樹脂組成物は、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、押し出し成形、発泡成形等、公知の方法で成形することが可能であり、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。
本発明の光学材料用樹脂組成物は、透明性に優れるので、光学フィルムを製造するのに適している。
本実施形態の光学フィルムを得るには、まず、例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、上記樹脂組成物を押し出し成形して未延伸フィルムを得る。押し出し成形により成形品を得る場合は、予めグラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)、その他の重合体、紫外線吸収剤等の添加剤を含む樹脂組成物を溶融混錬したものを用いることができるが、押し出し成形時に溶融混錬をして成形することもできる。また、グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)とに共通な良溶媒、例えば、クロロホルム、二塩化メチレン等の溶媒を用いてキャスト成形し未延伸フィルムを得ることも可能である。
好ましいフィルム製膜方法は、金型にTダイを用いる溶融押出法である。Tダイから吐出されたフィルムは金属ロール、ゴムロール、金属ベルト等により片面又は両面を冷却しつつ引取りながら製膜する。
次いで、上述のようにして得られた未延伸フィルムを延伸加工し、更に樹脂の分子鎖を配向させると、分子鎖の軸方向の屈折率が分子鎖の軸方向に直交する方向の屈折率よりも小さくなり負の複屈折を示す。このように分子鎖を配向させる方法としては、上記延伸の他に、公知の分子鎖を配向できるいかなる方法を使用することができ、圧延、引取り等の各種方法を用いることができる。その中でも、特に延伸により分子鎖を配向させる方法が生産効率の面で好ましい。なお、一度の延伸加工で未延伸フィルムの延伸及び分子鎖の配向を同時に施してもよい。
延伸加工としては、例えば、上述のようにして得られた未延伸フィルムを機械的流れ方向(MD)に縦一軸延伸する方法、機械的流れ方向に直行する方向(TD)に横一軸延伸する方法が挙げられる。工業的には、ロール延伸又はテンター延伸による一軸延伸法、ロール延伸とテンター延伸との組み合わせによる逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって延伸フィルムを製造することができる。延伸加工によりフィルムの機械強度を向上させることができる。延伸倍率は、未延伸フィルムを基準として、少なくともどちらか一方向に10%以上300%以下であることが好ましく、15%以上200%以下であることがより好ましく、20%以上150%以下であることが更に好ましい。延伸倍率をこの範囲に設定することにより、複屈折、機械強度の両方の観点で一層好ましい光学フィルムが得られる。
延伸倍率は、得られた延伸フィルムをガラス転移温度よりも20℃以上高い温度で収縮させ以下の関係式から延伸倍率を決定できる。また、ガラス転移温度はDSC法や粘弾性法により求めることができる。
延伸倍率(%)=[(収縮前の長さ/収縮後の長さ)−1]×100
未延伸フィルムを延伸する際の延伸温度は、未延伸フィルムのガラス転移温度をTgとすると、Tg−10℃〜Tg+40℃であると好ましい。延伸した光学フィルムのレタデーションの制御及び延伸ムラの抑制の観点から、Tg〜Tg+30℃であることがより好ましく、Tg+5℃〜Tg+25℃であることが更に好ましい。
ただし、延伸の際の延伸条件は、上記延伸温度の他、延伸速度、変形率などを本発明の目的を達成できる限りにおいて調整することができる。
本実施形態の光学フィルムに対して、更に必要に応じて、反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能処理を施してもよい。
本実施形態の光学フィルムの厚みは、フィルム製造時における取り扱いの容易性の観点及び効果的なレタデーションを得る観点から、10〜200μmが好ましく、20〜100μmがより好ましく、40〜80μmが更に好ましい。光学フィルムの厚みは、マイクロメーターによって測定される。
本実施形態の光学フィルムは、全光線透過率が70%以上で無彩色であると好ましく、80%以上であるとより好ましく、90%以上であると更に好ましい。本実施形態の光学フィルムのヘーズは好ましくは2.0以下であり、1.0以下であるとより好ましく、0.5以下であると更に好ましい。光学フィルムの全光線透過率は、JIS K7361−1に準拠して測定される。
本実施形態の光学フィルムはフィルムの製造工程(製膜、延伸、運搬、巻取り)等でフィルムが損傷しない程度の十分な機械強度が必要となる。フィルムの強度を測定する方法として、MIT耐折回数がある。MIT耐折回数とは規定寸法の試験片に張力を与えながら左右に135度の角度に折り曲げ、試験片が破断するまでの往復折曲げ回数である。本実施形態の光学フィルムのMIT耐折回数は、10回以上であると好ましく、100回以上であるとより好ましく、1000回以上であると更に好ましい。
本実施形態の光学フィルムの、23℃における光弾性係数の絶対値が、0〜5×10−12Pa−1であることが好ましい。光弾性係数の絶対値の値は0〜4×10−12Pa−1であることがより好ましく、0〜3.5×10−12Pa−1であることが更に好ましく、0〜3.0×10−12Pa−1以下であることがとりわけ好ましい。光学フィルムの光弾性係数は、市販の複屈折測定装置を用いて、光学フィルムに所定の伸張応力を与えながら屈折率を測定することで導出された各特性の値から、上記式(1)によって算出される。
本発明の光学材料用樹脂組成物においては、グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)の含有量や質量比を調整することにより、その光弾性係数を制御することができる。
光学フィルムの光弾性係数がこの範囲内であれば、外力による複屈折の変化が少ないため、これを大型の液晶表示装置等に使用した場合にコントラストや画面の均一性に優れる。
(6)位相差フィルムについて
本実施形態の光学フィルムは、グラフト共重合体(A)、不飽和ニトリル系共重合体(B)及び耐熱アクリル系樹脂(C)の配合比、フィルムの厚み、及び延伸倍率等を例えば上記好ましい範囲内に調整することにより、面内方向のレタデーション(Re)と厚み方向のレタデーション(Rth)、Nz係数を所望の値に制御され得る。したがって、本実施形態の光学フィルムは位相差フィルムとして用いるのに適している。
特に、本実施形態の光学フィルムは、厚み方向のレタデーション(Rth)の値を負とすることができるので、IPSモードの液晶表示装置をはじめとする各種ディスプレイ用の位相差フィルムとして好ましく用いられる。
面内レタデーション(Re)、厚み方向レタデーション(Rth)は下記式(2a)、(2b)によりそれぞれ定義される。
Re=(nx−ny)×d (2a)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d (2b)
ここで、nxはフィルムの面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内で遅相軸に直交する方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚み(単位:nm)をそれぞれ示す。
本実施形態の光学フィルムのTgは、光学フィルムが位相差フィルムである場合の複屈折率を保持する観点から重要であり、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは125℃以上である。このTgが120℃以上であることにより、液晶表示装置の製造工程又は画像表示中における昇温により、光学フィルムに含まれる樹脂の分子鎖の配向が緩和するのを防ぎ、複屈折率が低下することを抑制できる。また、商品価値を高める観点からも、本実施形態の光学フィルムのTgが120℃以上であることが好ましい。
また、液晶表示装置用位相差フィルムには、液晶セルの光学補償のみならず、偏光板、その他の部材の光学補償を行うことにより、画質をさらに高めることが要求される。このため、そのレタデーションは、広い範囲でコントロールできることが望まれる。
本発明の光学フィルムは、延伸条件等を調整することにより、面内レタデーションRe、厚み方向レタデーションRthを幅広くコントロールすることができるから、液晶表示装置用位相差フィルムにも適している。
本実施形態の光学フィルムは、屈折率分布が下記式(3)で表される条件を満足する負の位相差フィルムであることが好ましい。
ny<nx=nz (3)
理想的には、屈折率分布が上記式(3)で表される条件を満足する負の位相差フィルムは、面内の一方向に光軸を有する。なお、上記式(3)において、「nx=nz」とは、nxとnzとが完全に同一である場合だけでなく、nxとnzとが実質的に同一である場合も包含する。ここで、「nxとnzとが実質的に同一である場合」とは、nx−nzの絶対値が1.0×10−3以下であることをいう。このような関係を満足する位相差フィルムはネガティブAプレートと呼ばれ、偏光板又は偏光板と液晶セルとの間に配置される構成部材の位相差値に起因して生じる液晶パネルの黒表示における斜め方向の光漏れを小さくするために用いられる。屈折率分布が上記式(3)で表される条件を満足する位相差フィルムは、本実施形態に係る樹脂組成物を一軸延伸することにより製造することができる。
本実施形態に係る位相差フィルムをネガティブAプレートとして用いる場合、面内方向のレタデーション(Re)は40nm〜1100nmであると好ましく、40nm〜500nmであるとより好ましく、50nm〜300nmであると更に好ましい。このレタデーション(Re)を上記の範囲にすることにより、各光学素子の有する機能が相乗効果的に発揮され、液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比を更に高め、斜め方向のカラーシフト量をより小さくすることができる。
本発明の位相差フィルムをネガティブAプレートとして用いる場合、好ましいNz係数は、−0.5以上0以下であり、より好ましくは−0.4以上0以下であり、更に好ましくは−0.3以上0以下である。理想のネガティブAプレートのNz係数は0であり、Nz係数が0に近いほどより液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比を高め、斜め方向のカラーシフト量を小さくすることができる。
ネガティブAプレートは一軸延伸することにより製造することができるため、二軸延伸品に比べフィルムの厚み、複屈折の均一性という面で精度の高いものを生産することができる。またコストの面でも二軸延伸品より安く生産することができる。しかし従来は二軸延伸品に比べ、機械特性に劣るという欠点があった。
また本実施形態の光学フィルムは、屈折率分布が下記式(4)で表される条件を満足する正の位相差フィルムであることも好ましい。
nx=ny<nz (4)
理想的には、屈折率分布が上記式(4)で表される条件を満足する正の位相差フィルムは、面内の一方向に光軸を有する。なお、上記式(4)において、「nx=ny」とは、nxとnyとが完全に同一である場合だけでなく、nxとnyとが実質的に同一である場合も包含する。ここで、「nxとnyとが実質的に同一である場合」とは、nx−nyの絶対値が1.0×10−3以下であることをいう。このような関係を満足する位相差フィルムはポジティブCプレートと呼ばれる。屈折率分布が上記式(4)で表される条件を満足する位相差フィルムは、本実施形態に係る樹脂組成物を二軸延伸することにより製造することができる。
本実施形態に係る位相差フィルムをポジティブCプレートとして用いる場合、面内方向のレタデーション(Re)は40nm以下であると好ましく、20nm以下であるとより好ましく、10nm以下であると更に好ましい。なお、ポジティブCプレートの面内レタデーション(Re)の理論上の下限値は0nmである。
本発明の位相差フィルムをポジティブCプレートとして用いる場合、好ましい厚み方向レタデーション(Rth)は、−20nm以下であり、より好ましくは−60nm以下であり、更に好ましくは−90nm以下である。上記の範囲にすることにより、位相差フィルムの持つ機能が相乗効果的に発揮され、液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比を高め、斜め方向のカラーシフト量を小さくすることができる。
また、本実施形態の光学フィルムは、屈折率分布が下記式(5)で表される条件を満足する位相差フィルムであることも好ましい。
ny<nx<nz (5)
ここで、上記式(5)において、「ny<nx」とは、nx−nyが1.0×10−3を超える場合をいい、「nx<nz」とは、nz−nxが1.0×10−3を超える場合をいう。屈折率分布が上記式(5)で表される条件を満足する位相差フィルムは、本実施形態に係る樹脂組成物を二軸延伸することにより製造することができる。
以上説明した本実施形態によると、透明性、耐熱性及び機械特性に優れた複屈折を示す光学フィルムを得ることができる。この光学フィルムは、各種ディスプレイ用途に用いられる位相差フィルムとして好適に用いられる。また、本実施形態に係る樹脂組成物は、優れた透明性、耐熱性及び機械特性を維持した状態で、良好な流動性を示すため、その加工性にも優れており、この樹脂組成物を用いることで光学フィルムを生産性よく製造することができる。これらにより、生産性及び歩留り、さらには高温で保存した時のレタデーションの安定性において十分に満足できる負の固有複屈折を有するポリマーを延伸して得られる位相差フィルムを得ることができる。
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の表中の各物性は、次に示す方法により求めた。
<評価方法>
(1)フィルムの膜厚(厚み)の測定
マイクロメーター((株)ミツトヨ製)を用いて原反フィルムの中央部を測定した。
(2)フィルムの全光線透過率、ヘーズの測定
フィルムの全光線透過率をJIS K7361−1に準拠して測定した。フィルムのヘーズをJIS K7136に準拠して測定した。
(3)ガラス転移温度(Tg)測定
示差走査熱量測定装置(パーキン・エルマー社製、商品名「DSC−7」)を用い、室温から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温することにより、原反(未延伸)フィルム試料(質量8.0〜10mg)のTgを測定した。
(4)レタデーションの測定
光学材料検査装置(大塚電子(株)製、商品名「RETS−100」)を用いて、23℃、50%RHの条件下で、回転検光子法により入射角θ=0°でフィルム試料のレタデーションを測定した(Re(0))。レタデーションの値は550nmでの値である。複屈折率の絶対値(|Δn|)とレタデーション(Re)は下記式(6)で表される関係にある。
Re=|Δn|×d (6)
ここで、式中、|Δn|は複屈折率の絶対値、Reはレタデーション、dはサンプルの厚み(単位:nm)をそれぞれ示す。
また、複屈折率の絶対値(|Δn|)は下記式(7)で表される値である。
|Δn|=|nx−ny| (7)
ここで、式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の遅相軸と直交する方向の屈折率をそれぞれ示す。
(5)厚み方向レタデーション(Rth)、Nzの測定
Metricon社製レーザー屈折計Model2010を用いて、23℃で光学フィルムの平均屈折率nを測定した。そして、平均屈折率nとフィルム厚さd(nm)を大塚電子(株)社製複屈折測定装置RETS−100に入力し、23℃で厚み方向レタデーション(Rth)、Nz係数を測定・算出した。
(6)光弾性係数の測定
Macromolecules,2004,37,1062−1066に詳細に記載されている複屈折測定装置を用いた。レーザー光の経路にフィルムの引張装置を配置し、23℃でフィルム試料に伸張応力をかけながら複屈折率を測定した。伸張時の歪速度は20%/分(チャック間:30mm、チャック移動速度:6mm/分)、7mm幅のフィルム試料を用いて複屈折率を測定した。複屈折率(Δn)をy軸、伸張応力(σ)をx軸としてプロットし、その関係から、最小二乗近似により線形領域の直線の傾きを求め、光弾性係数(C)を上記式(1)により算出した。計算には伸張応力が2.5MPa≦σ≦10MPaの間のデータを用いた。
この傾きの絶対値が小さいほど光弾性係数が0に近いことを示し、好ましい光学特性であることを示す。
(7)固有複屈折の正負の判断
ガラス転移温度以上、ガラス転移温度+50℃以下の範囲内で試料フィルムに伸張応力をかけながら延伸して、急冷固化し、23℃におけるnpr−nvtを測定した。ここで、npr−nvtは配向複屈折であり、配向に依存した複屈折の大きさを表す値である。また、本明細書における固有複屈折とは、完全配向(高分子の主鎖が完全に延びて理想状態まで配向)した時の複屈折の大きさを表す値である。固有複屈折は配向複屈折と正負の符号が一致するため、npr−nvtが負の場合、固有複屈折が負、npr−nvtが正の場合、固有複屈折が正と判断した。
ここで、nprは、一軸性の秩序をもって配向した高分子の配向方向に平行な方向の屈折率、nvtはその配向方向に垂直な方向の屈折率である。
すなわち、固有複屈折が負である樹脂とは、樹脂を構成する高分子が一軸性の秩序をもって配向して形成された層に光が入射したとき、上記配向方向の光の屈折率が、その配向方向に垂直な方向の屈折率よりも小さくなる樹脂をいう。
(8)MIT耐折回数
延伸フィルムの延伸方向に垂直な方向(TD)に試験片を切り出し、MIT耐折疲労試験機(株式会社東洋精機製作所社製)を用いてMIT耐折回数を測定した。MIT耐折回数とは規定寸法の試験片に張力を与えながら左右に135度の角度に折り曲げ、試験片が破断するまでの往復折曲げ回数である。荷重は250g、折り曲げ速度は175cpmに設定した。厚みが50μmである資料をMD方向に15mm、TD方向に150mmに切り出し、測定に供した。耐折回数が10回未満のものを×、10回以上100回未満のものを△、100回以上1000回未満のものを○、1000回以上のものを◎と判定した。
(9)分子量の測定
樹脂の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製、商品名「HLC8220GPC」)、カラム(東ソー社製、商品名「TSK−GEL」、G6000HXL−G5000HXL−G5000HXL−G4000HXL−G3000HXLを直列に連結したもの)を用いた。樹脂試料20mg±0.5mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解した後、その溶液を0.45μmのフィルターで濾過した。濾過後の溶液を40℃のカラムに100μL注入し、検出器RI温度を40℃に設定して測定し、市販の標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
<各樹脂の合成>
(1)グラフト共重合体(A)
(1.1)グラフト共重合体(A−1)
重量平均粒子径が0.08μmであるポリブタジエンゴムのラテックス50重量部(固形分換算)及び脱イオン水100重量部を還流冷却器付き重合槽に入れ、気相部を窒素置換しながら70℃に昇温した。次いで、これにスチレン48重量部、アクリロニトリル12重量部、t−ドデシルメルカプタン0.7重量部、クメンハイドロパーオキシド0.12重量部から成る混合液、及び、脱イオン水50重量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2重量部、硫酸第一鉄0.012重量部、エチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム塩0.08重量部から成る水溶液を、5時間要して連続追添加して反応させた。この間、重合温度を70℃に調節し、追添加終了後、さらに1時間その状態を維持して重合を完結させた。得られた共重合ラテックスは、凝集塩析した後、洗浄乾燥して、白色固体を得た。
(1.2)グラフト共重合体(A−2)
重量平均粒子径が0.25μmであるポリブタジエンゴムのラテックス50重量部(固形分換算)及び脱イオン水100重量部を還流冷却器付き重合槽に入れ、気相部を窒素置換しながら70℃に昇温した。次いで、これにスチレン48重量部、アクリロニトリル12重量部、t−ドデシルメルカプタン0.7重量部、クメンハイドロパーオキシド0.12重量部から成る混合液、及び、脱イオン水50重量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2重量部、硫酸第一鉄0.012重量部、エチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム塩0.08重量部から成る水溶液を、5時間要して連続追添加して反応させた。この間、重合温度を70℃に調節し、追添加終了後、さらに1時間その状態を維持して重合を完結させた。得られた共重合ラテックスは、凝集塩析した後、洗浄乾燥して、白色固体を得た。
(1.3)グラフト共重合体(A−3)
重量平均粒子径が0.08μmであるポリブタジエンゴムのラテックス50重量部(固形分換算)及び脱イオン水100重量部を還流冷却器付き重合槽に入れ、気相部を窒素置換しながら70℃に昇温した。次いで、これにスチレン45重量部、アクリロニトリル15重量部、t−ドデシルメルカプタン0.7重量部、クメンハイドロパーオキシド0.12重量部から成る混合液、及び、脱イオン水50重量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2重量部、硫酸第一鉄0.012重量部、エチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム塩0.08重量部から成る水溶液を、5時間要して連続追添加して反応させた。この間、重合温度を70℃に調節し、追添加終了後、さらに1時間その状態を維持して重合を完結させた。得られた共重合ラテックスは、凝集塩析した後、洗浄乾燥して、白色固体を得た。
(2)不飽和ニトリル系共重合体(B)
(2.1)スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−1)
攪拌機付き完全混合型連続反応機に、所定の配合比のスチレンとアクリロニトリルとからなる単量体混合物を溶媒であるエチルベンゼンに混合したものを一定速度で連続的に添加しつつ、反応率を一定に保ち、150℃、滞留時間2時間で重合反応を行った。
得られた重合溶液を押出機に連続的に供給して押し出し成形を行い、押出機で未反応単量体、溶媒を回収し、スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−1)のペレットを得た。
得られた共重合体(B−1)は無色透明であり、FT−IRによる組成分析の結果、スチレン単位の含有量が80質量%、アクリロニトリル単位の含有量が20質量%であった。また、ASTM−D1238に準拠して測定した220℃、10kg荷重のメルトフローレート値は13g/10分であった。重量平均分子量は226000であり、ガラス転移温度(Tg)は105.7℃であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、5.2×10−12/Paであり、固有複屈折は負であった。
(2.2)スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−2)
スチレン及びアクリロニトリルの配合比を変更した以外は共重合体(B−1)と同様にして重合反応、押し出し成形を行い、スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−2)のペレットを得た。
得られた共重合体(B−2)は無色透明で、FT−IRによる組成分析の結果、スチレン単位の含有量が75質量%、アクリロニトリル単位の含有量が25質量%であった。また、ASTM−D1238に準拠して測定した220℃、10kg荷重のメルトフローレート値は13.0g/10分であった。重量平均分子量は210000であり、ガラス転移温度(Tg)は108.2℃であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.8×10−12/Paであり、固有複屈折は負であった。
(2.3)スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−3)
スチレン及びアクリロニトリルの配合比を変更した以外は共重合体(B−1)と同様にして重合反応、押し出し成形を行い、スチレン−アクリロニトリル共重合体(B−3)のペレットを得た。
得られた共重合体(B−3)は無色透明で、FT−IRによる組成分析の結果、スチレン単位の含有量が66質量%、アクリロニトリル単位の含有量が34質量%であった。また、ASTM−D1238に準拠して測定した220℃、10kg荷重のメルトフローレート値は2.5g/10分であった。重量平均分子量は209000であり、ガラス転移温度(Tg)は114.6℃であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.4×10−12/Paであり、固有複屈折は負であった。
(3)耐熱アクリル系樹脂(C)
(3.1)耐熱アクリル系樹脂(C−1)
特公昭63−1964号公報に記載の方法で、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体を得た。
得られたメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(C−1)の組成は、メタクリル酸メチル単位が74質量%、無水マレイン酸単位が10質量%、スチレン単位が16質量%であった。なお、この比率は、試料となるメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体を重クロロホルムに溶解し、日本電子製1H−NMR(JNM ECA−500)を用い、周波数500MHz、室温にてNMR測定により得られるスチレン単位中のベンゼン環のプロトンピーク(7ppm付近)と無水マレイン酸単位中のアルキル基のプロトンピーク(1〜3ppm付近)とメタクリル酸メチル単位中のメチル基のプロトンピーク(0.5〜1ppm付近)の面積比から、試料中のスチレン単位と無水マレイン酸単位とメタクリル酸メチル単位のモル比を求め、さらに得られたモル比とそれぞれのモノマー単位の質量比(スチレン単位:無水マレイン酸単位:メタクリル酸メチル=104:86:100)から、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体中のそれぞれの共重合割合を算出することにより求めた。また、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフローレート値は1.6g/10分であった。重量平均分子量は121000であり、ガラス転移温度(Tg)は130.7℃であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、−2.9×10−12/Paであり、固有複屈折は負であった。
(4)アクリル系樹脂(D)
メタクリル酸メチル89.2重量部、アクリル酸メチル5.8重量部、及びキシレン5重量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.0294重量部、及びn−オクチルメルカプタン0.115重量部を添加し、均一に混合する。この溶液を内容積10リットルの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)共重合体ペレットを得た。得られた共重合体のアクリル酸メチル含量は6.0質量%であった。またASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフロー値は1.0g/分であった。重量平均分子量は145,000であり、ガラス転移温度(Tg)は115.9℃であった。
また、その光弾性係数(未延伸)は、−5.2×10−12/Paであり、固有複屈折は負であった。
<実施例1〜11、比較例1〜5>
上述のようにして得られた各共重合体を表1、表2に示す組成(単位:質量部)で混合、混練して樹脂組成物を調製した。次いで、得られた樹脂組成物を押し出し成形することにより、実施例1〜11、比較例1〜5に係る未延伸フィルムを得た。押し出し成形は、テクノベル製Tダイ装着押出機(商品名「KZW15TW−25MG−NH」、幅150mmのTダイを装着、リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数を120rpm、押し出し機のシリンダー内樹脂温度を250℃、Tダイの温度を250℃に調整して行った。なお、フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に直交する方向をTD方向とした。未延伸フィルムのガラス転移温度(Tg)を測定した。
上述のようにして得られる未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機社製)を用いて一軸延伸し、実施例1〜5、比較例1〜9の光学フィルムを得た。延伸温度はTg+20℃とし、延伸速度100mm/minの条件でMD方向に100%延伸した(未延伸フィルム基準)。
得られた光学フィルムの製造に用いられる樹脂組成物の組成、光学フィルムの全光線透過率、ヘーズ、ガラス転移温度、レタデーション、光弾性係数、MIT耐折回数を表1、表2に示す。
Figure 2010070646
Figure 2010070646

実施例1〜11、比較例1〜5の光学フィルムは、全て分子鎖が配向すると分子鎖軸方向の屈折率が分子鎖軸方向に対して垂直方向の屈折率より小さくなり、負の複屈折を示した。
実施例1〜11の光学フィルムは、透明性、耐熱性、光弾性係数、機械強度(MIT耐折回数)のバランスに優れ、負の複屈折を示すため、IPSモードを利用した液晶表示装置等の各種ディスプレイ用の位相差フィルムに適していることが確認できた。
実施例1、実施例5のようにゴム状重合体を少量添加したものもMIT耐折回数の改善の効果が見られた。また実施例1〜4のように、グラフト共重合体として、重量平均粒子径の小さなゴム状重合体を用いても、粒子径が大きなゴム状重合体と同様にMIT耐折回数の向上が見られた。強度を示す指標の一つであるシャルピー衝撃強度では、一般に、重量平均粒子径の小さなゴム状重合体を用いた場合や、ゴム量が少ない場合は強度の改善が見られないことが知られているが、本実施例では予想される以上の改善の効果が見られた。
実施例1〜4のように重量平均粒子径の小さなゴム状重合体を用いた場合の方が重量平均粒子径の大きなゴム状重合体を用いた場合より、透明性と機械強度のバランスに優れた光学フィルムが得られ、位相差フィルムにより適していることが確認できた。
実施例10では重量平均粒子径の異なる2種類のグラフト共重合体を併用することで透明性とMIT耐折回数のバランスのよい光学フィルムを作製することができた。
比較例1の光学フィルムは、透明性、耐熱性、レタデーション、光弾性係数のバランスに優れるが、機械強度(MIT耐折回数)が十分満足するものではなかった。
比較例2は透明性とMIT耐折回数のバランスには優れるが、耐熱性が十分満足するものではなかった。また樹脂組成中のスチレン含有量が少ないため、レタデーションがつきにくく、位相差フィルムの用途に適したものではなかった。
実施例11、比較例3では、グラフト共重合体(A)のゴム状重合体を除いた成分、不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)から構成されるマトリックスの屈折率とグラフト共重合体(A)に使用されるゴム状重合体の屈折率差の絶対値が0.03と大きいが、実施例11ではゴム状重合体の重量平均粒子径が光の半波長に対して十分に小さいため、高い透明性を達成することができた。一方で比較例3では重量平均粒子径が大きいため、ヘーズの値が十分満足するものではなかった。
比較例4のように、グラフト共重合体(A)と不飽和ニトリル系共重合体(B)におけるアセトン可溶成分中の不飽和ニトリル化合物の含有量差が大きいと相溶性が低下し、ヘーズが十分満足するものではなく、光学フィルムに適するものではなかった。
本発明の光学材料用樹脂組成物は、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、タッチパネル、太陽電池に用いられる透明基盤等や、その他、光通信システム、光交換システム、光計測システム等の分野における、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなど様々な光学素子を製造するたに使用できる。
特に、本発明の光学材料用樹脂組成物は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイの用いられる光学フィルムに好適に用いられる。
例えば、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板等の位相差フィルム、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム等に好適に用いられる。
とりわけ、本発明の負の固有複屈折を有するポリマーを延伸して得られる光学フィルムは、厚み方向のレタデーション(Rth)を制御することができるため、水平電界(IPS)モード液晶ディスプレイ用の位相差フィルムとして好適に用いられる。
また、本発明の位相差フィルムは、テレビ、パソコン、携帯電話、カーナビゲーション、医療機器、産業機器等の各種ディスプレイとして用いられるIPSモードの液晶表示装置の画質向上のために特に好適に用いることができるである。
本発明の光学フィルムは、単独での使用以外に、同種光学フィルム及び/又は異種光学フィルムなどの光学材料と積層して用いられることにより、さらに光学特性を良好に制御される。この際に積層される光学材料としては、ポリビニルアルコール/色素/アセチルセルロースなどの組み合わせからなる偏光板、ポリカーボネート製延伸配向フィルム、環状ポリオレフィン延伸配向フィルム等の位相差フィルムなどが挙げられる。ただし、光学材料はこれらに制限されるものではない。
また、本発明の応用としての用途はこれらに制限されるものではなく、固有複屈折が負であることを利用できる用途で幅広く用いられる。

Claims (17)

  1. 屈折率が1.51〜1.54のゴム状重合体と、前記ゴム状重合体にグラフトしている芳香族ビニル化合物及び不飽和ニトリル化合物を重合体単位として含む共重合体とを含むグラフト共重合体(A)、芳香族ビニル化合物及び不飽和ニトリル化合物を重合体単位として含む不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)を含む光学材料用樹脂組成物であって、ガラス転移温度が110℃以上であり、JIS K7136に基づき測定された50μm厚みのフィルムのヘーズが2.0以下である前記樹脂組成物。
  2. グラフト共重合体(A)のゴム状重合体を除いた成分、不飽和ニトリル系共重合体(B)、及び耐熱アクリル系樹脂(C)から構成されるマトリックスの屈折率とグラフト共重合体(A)に使用されるゴム状重合体の屈折率差の絶対値が0.01以下である請求項1に記載の光学材料用樹脂組成物。
  3. グラフト共重合体(A)と不飽和ニトリル系共重合体(B)のそれぞれにおけるアセトン可溶成分中の不飽和ニトリル化合物の含有量が15〜30質量%である請求項1又は2に記載の光学材料用樹脂組成物。
  4. グラフト共重合体(A)のゴム状重合体が共役ジエン系ゴム、芳香族ビニル化合物がスチレン、不飽和ニトリル化合物がアクリロニトリルであり、不飽和ニトリル系共重合体(B)の芳香族ビニル化合物がスチレン、不飽和ニトリル化合物がアクリロニトリルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物。
  5. 前記耐熱アクリル系樹脂(C)が、メタクリル酸エステル単位及び/又はアクリル酸エステル単位40質量%以上90質量%以下と、芳香族ビニル化合物単位5質量%以上40質量%以下と、下記一般式[1]で表される化合物単位5質量%以上20質量%以下とを含み、下記一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル化合物単位の共重合割合の比(芳香族ビニル化合物単位の共重合割合/一般式[1]で表される化合物単位の共重合割合)が1以上3以下である耐熱アクリル系樹脂(C−1)である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物。
    Figure 2010070646

    (式中、Xは、O又はN−Rを表す。なおOは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルカン基である。)
  6. 前記樹脂組成物100質量部に対して、前記ゴム状重合体の量が0.5〜15質量部である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物。
  7. 前記ゴム状重合体の重量平均粒子径が0.05〜0.35μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物。
  8. 前記ゴム状重合体の重量平均粒子径が0.05〜0.15μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物を含む光学フィルム。
  10. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物を含む偏光板保護フィルム。
  11. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学材料用樹脂組成物を含む位相差フィルム。
  12. 面内レタデーション(Re)が40〜1100nmで、かつ、ny<nx=nzを満足する請求項11に記載の位相差フィルム:
    ただし、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率である。
  13. 面内レタデーション(Re)が40nm未満であり、厚み方向レタデーション(Rth)が−20nm以下である請求項11に記載の位相差フィルム。
  14. 面内レタデーション(Re)が40nm未満で、かつ、nx=ny<nzを満足する請求項11に記載の位相差フィルム:
    ただし、nx:フィルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フィルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フィルム厚み方向の主屈折率である。
  15. 偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも一方が、請求項11〜14のいずれか1項に記載の位相差フィルムである偏光板。
  16. 偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの一方が請求項11〜14のいずれか1項に記載の位相差フィルムであり、他方がアクリル系樹脂を含み、スチレン系樹脂を含まない樹脂組成物を成形して得られるフィルムである偏光板。
  17. 偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの両方が、請求項11〜14のいずれか1項に記載の位相差フィルムである偏光板。
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