JP2010024260A - 芳香族ポリアミドフィルムおよびそれを用いた磁気記録媒体 - Google Patents

芳香族ポリアミドフィルムおよびそれを用いた磁気記録媒体 Download PDF

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Abstract

【課題】 寸法安定性、機械特性、耐熱性、表面特性、そして経済性に優れた芳香族ポリアミドフィルムを提供すること。
【解決手段】 芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し20〜150質量部であり、幅方向の熱膨張係数αTD (×10−6/℃)が−2〜10であり、かつ幅方向の湿度膨張係数βTD(×10−6/%RH)が−5〜5である芳香族ポリアミドフィルムとする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、芳香族ポリアミドフィルムおよびそれを用いた磁気記録媒体に関するものである。
近年、パソコンネットワークの規模増大、データ管理のセキュリティー面の重要性などから、データのバックアップ媒体である磁気テープに対して大容量化の要求が高まっている。それに伴い、ベースフィルムの薄膜化によりテープ長を長くすることに加えて、狭トラック化、短波長化による面記録密度のさらなる向上が求められている。その結果、幅方向のわずかな寸法変化でも磁気ヘッドと信号記録位置とが正確に対応せず、データ欠落の原因となりうるため、幅方向に対するより高度な寸法安定性が要求されている。
芳香族ポリアミドは優れた剛性、耐熱性、寸法安定性を持つことから高密度磁気記録媒体に適しており、例えば特許文献1には上記のような温度、湿度による寸法変化を制御した例が開示されている。
しかし芳香族ポリアミドは湿度特性に劣るといった欠点がある。また一般的に芳香族ポリアミドのような剛直な分子鎖からなるポリマーは磁気テープの使用環境における熱膨張係数が負の値をとる傾向があり、磁気ヘッドの熱膨張係数と整合させることが困難である。さらに使用するモノマーのコストが高く、かつ重合、製膜工程が複雑であるためにコストを低く抑えることができないといった問題があった。
一方、芳香族ポリアミドの湿度特性、経済性の欠点を補う方法として、芳香族ポリアミドとポリスチレン(PSt)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)などの比較的安価で湿度特性が良好である熱可塑性ポリマーとをアロイ化することが提案されており、例えば特許文献2〜4にその方法が記載されている。しかしこれら文献に記載される製膜条件では、剛性、表面性などを良好に保ちつつ、温度、湿度変化に対する寸法安定性、特に可逆的変化による寸法変化率を制御することは困難であった。
国際公開第2005/046968号パンフレット 特開平3−237135号公報 特開平4−27110号公報 特開2000−273215号公報
本発明は芳香族ポリアミドに、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーをアロイ化し、特定の条件にて製膜することで、寸法安定性、機械特性、耐熱性、表面特性、および経済性に優れ、磁気記録媒体として好適に用いることのできる芳香族ポリアミドフィルムおよび同フィルムを用いた磁気記録媒体を提供することを目的とするものである。
上記目的を達成するための本発明は、以下の特徴を有する。
(1)芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し20〜150質量部であり、幅方向の熱膨張係数αTD (×10−6/℃)が−2〜10であり、かつ幅方向の湿度膨張係数βTD(×10−6/%RH)が−5〜5である芳香族ポリアミドフィルム。
(2)幅方向の200℃における熱収縮率が0.0〜0.7%であり、表面粗さRaが1〜15nmである、上記(1)に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
(3)上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミドフィルムの少なくとも片面に磁性層を設けた磁気記録媒体。
本発明は芳香族ポリアミドに熱可塑性ポリマーをアロイ化し適切な条件により製膜を行うことで、芳香族ポリアミドが持つ剛性、耐熱性を保持しつつ、表面性と温度および湿度変化に対する寸法変化率を高度に制御できる。この結果、磁気記録媒体としたとき記録密度が向上しても必要なデータを正確に読み出すことが可能となる。また本発明は安価な熱可塑性ポリマーを用いることができるため、芳香族ポリアミド単体のフィルムに対して製造コストを下げることが可能となる。
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとのアロイフィルムであり(以下、本発明の芳香族ポリアミドフィルムをアロイフィルムということがある)、芳香族ポリアミド100質量部に対し熱可塑性ポリマーを20〜150質量部含有している。
湿度特性に優れ、柔軟な熱可塑性ポリマーを芳香族ポリアミドにアロイ化し、適切な乾燥条件および延伸条件により製膜することで表面性と寸法変化を高度に制御でき、高記録密度の磁気記録媒体としたときのデータ読み取りの欠落を抑制することが可能となる。
本発明において用いる芳香族ポリアミドは、次の化学式(1)および/または化学式(2)の構造単位を50モル%以上含有しているものが好ましく、70モル%以上から成るものがより好ましい。
Figure 2010024260
Figure 2010024260
ここで、Ar、Ar、Arの基としては、例えば、
Figure 2010024260
などが挙げられる。
X、Yは−O−、−CH−、−CO−、−CO−、−S−、−SO−、−C(CH−などから選ばれるが、これらに限定されるものではない。さらに、これら芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素などのハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基(特にメチル基)、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基などの置換基で置換されていてもよく、また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。
また、本発明に用いる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有している重合体が全芳香環の50モル%以上、より好ましくは70モル%以上であるとフィルムの剛性が高く、耐熱性も良好となるため好ましい。ここでパラ配向性とは、芳香環上の主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が50モル%未満の場合、フィルムの剛性および耐熱性が不十分となる場合がある。
また、本発明に用いる芳香族ポリアミドには、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、無機または有機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核生成剤などが添加されていてもよい。
本発明のフィルムは前述の芳香族ポリアミド100質量部に対して熱可塑性ポリマーを20〜150質量部含有している。熱可塑性ポリマーの量が20質量部より少ない場合は吸湿特性の改善、熱膨張係数の制御性および経済的メリットが小さくなり、また150質量部を超えると剛性および耐熱性が低下することがある。物性向上とコストダウンをより高いレベルで両立できることから、芳香族ポリアミドに対する熱可塑性ポリマーの含有量は40〜130質量%であることがより好ましい。ここで本発明に用いる熱可塑性ポリマーとしては、後述するアミド系極性溶媒に溶解する非晶性ポリマーを用いることが好ましく、ASTM D570−98(2005)に従って測定した吸水率(23℃、水中24時間浸漬)が3%以下の非晶性ポリマーを用いることがより好ましい。上記のポリマーとして例えばポリカーボネート(吸水率:約0.2%)、ポリメチルメタクリレート(吸水率:約0.3%)、ポリスチレン(吸水率:<0.1%)などが挙げられる。
本発明のアロイフィルムの幅方向の熱膨張係数αTD (×10−6/℃)は−2〜10であることが好ましい。αTDを上記範囲内とすることで熱膨張による寸法変化を抑えることができ、また磁気記録媒体としたとき磁気ヘッドの熱膨張率と整合するため、温度変化により記録したデータが読みとれなくなることを防ぐことができる。より好ましくは、0〜5である。
本発明のアロイフィルムの幅方向の湿度膨張係数βTD(×10−6/%RH)は−5〜5であることが、湿度膨張による寸法変化が小さくなることから好ましく、−4〜1であることがより好ましい。
またαTDおよびβTDは用途に応じて、上記範囲内で適宜調整できることが好ましい。例えば磁気記録媒体とするとき、フィルム加工条件や使用する磁気ヘッドなどに応じて、寸法変化率が最小となるよう調整できることが、良好な電磁変換特性を得られることから好ましい。
本発明のアロイフィルムの幅方向のヤング率は8GPa以上であることが薄膜化しても取り扱いが容易となることから好ましく、10GPa以上であることがより好ましい。また長手方向のヤング率は4GPa以上であることが好ましく、5GPa以上であることがより好ましい。ヤング率は特に上限はないが、通常は20GPa以下とするのが他のフィルム物性を損なうことが無いため好ましい。
本発明のアロイフィルムの幅方向の200℃における熱収縮率は0.0〜0.7%であることが、磁気テープ加工時の高温工程における寸法変化を抑えられるため好ましい。より好ましくは0.0〜0.5%である。
本発明のアロイフィルムの表面粗さRaは1〜15nmであることが、磁気記録媒体としたときの電磁変換特性が良好となるため好ましい。Raが15nmを超えると磁気記録媒体としたときにドロップアウトの原因となり電磁変換特性が悪化することがあり、また1nm未満の場合は表面の摩擦が大きくなり、テープ加工時のハンドリング性および走行性が悪化することがある。より好ましくは1〜10nmである。
本発明のアロイフィルムは、テープに加工した際の走行性を改善する目的で無機粒子や有機粒子を含有することが好ましい。無機粒子としては、例えば、SiO、TiO、Al、CaSO、BaSO、CaCO、カーボンブラック、ゼオライト、その他の金属微粉末などが挙げられる。また、有機粒子としては、例えば、架橋ポリビニルベンゼン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、ポリアミド粒子、フッ素樹脂粒子などの有機高分子からなる粒子、あるいは表面に上記有機高分子で被覆などの処理を施した無機粒子が挙げられる。
本発明において用いる芳香族ポリアミドは、例えば、次のような方法で重合されるが、これに限定されるものではない。
まずジアミンと酸クロリドから芳香族ポリアミドを得る場合には、N−メチル−2−ピロリドンや、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系極性溶媒中で、溶液重合により合成される。
このような溶液重合では低分子量物の生成を抑制するため、反応を阻害するような水やその他の物質の混入は避けるべきであり、効率的な攪拌手段をとることが好ましい。またモノマーの当量性は重要であるが、製膜性を損なう恐れのあるときは適当に調整することができる。また溶解助剤として塩化カルシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどを添加してもよい。
モノマーとして芳香族ジアミンと芳香族ジ酸クロリドを用いると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウムなどの周期律表I族かII族のカチオンと水酸化物イオン、炭酸イオンなどのアニオンとからなる塩に代表される無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤を使用すればよい。
このとき中和剤として無機の炭酸塩を用いる場合には、塩化水素に対して93〜99モル%、特に94〜98.5モル%の中和剤で中和することが好ましく、また、中和時間は2時間以上が好ましく、特に3時間以上が好ましく、上限は10時間程度が適切である。塩化水素のモル濃度に対して過剰の炭酸塩で中和を行った場合は、過剰分の炭酸塩がポリマー溶液中に残存し、これが異物となって芳香族ポリアミドフィルムの機械特性や熱寸法安定性を低下させることがあり、逆に少な過ぎると塩化水素の中和が不充分でポリマー溶液の酸性度が強く製膜装置などを腐食させることがある。また塩化水素のモル濃度に対して等当量モル濃度の炭酸塩で中和を行った場合には、中和反応が完了するまでに長時間を要し、あまり長時間の中和を行っても期待したほどの効果が得られず、逆に生産性が悪くなる傾向がある。炭酸塩などによる塩化水素の中和は、それぞれ適切に決めるべきであるが、さらに残存する塩化水素を中和する場合には、有機の中和剤を用いることが好ましい。
またフィルムの湿度特性を改善する目的で、塩化ベンゾイル、無水フタル酸、酢酸クロリド、アニリンなどを重合の完了したポリマー溶液に添加し、ポリマーの末端官能基を封鎖してもよい。
本発明に用いる芳香族ポリアミドは、ポリマーの固有粘度(ポリマー0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5以上であることが好ましい。このようなポリマーの固有粘度の上限は特に限定されないが、製膜加工性の観点から5以下であることが好ましい。
本発明に用いる芳香族ポリアミドの溶液としては、中和後のポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦単離したポリマーを再溶解したものを用いてもよい。
上記の芳香族ポリアミドを溶解する溶媒としてはN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチレンホスホルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノンなどのアミド系極性溶媒を用いることが好ましい。
次に製膜溶液の調製方法について説明する。
熱可塑性ポリマーの添加は、芳香族ポリアミドの重合前にモノマーとともに溶媒に溶解させても、重合後のポリマー溶液に混合させても、単離した芳香族ポリアミドとともに再溶解しても、製膜直前にスタティックミキサーなどを利用して混合させてもよい。また、粉末状やペレットとして添加しても、重合溶媒などの有機溶媒に溶解後、ポリマー溶液と混合してもよい。
また、粒子を添加する場合はフィルム中で均一な分散とするため、添加前に好ましくは1Pa・s、より好ましくは0.1Pa・s以下の粘度の溶媒に分散させておくことが好ましい。粒子をあらかじめ分散させずにそのまま製膜溶液に添加した場合、平均粒径および粒径分布が大きくなることがあり、フィルムの表面が荒れることがある。用いる溶媒としては製膜原液と同じものが好ましいが、製膜性に特に悪影響を与えなければ他の溶媒を使用してもよい。分散方法としては、上記溶媒に粒子を入れ、撹拌式分散機、ボールミル、サンドミル、超音波分散機などで分散させる。このように分散させた粒子はポリマー溶液中へ添加混合されるが、重合前の溶媒中へ添加、あるいはポリマー溶液の調整工程で添加してもよい。またキャスト直前に添加してもよい。
次に、本発明の芳香族ポリアミドフィルムの製膜方法について説明する。
上記ポリマー溶液(製膜原液)を口金からドラムやエンドレスベルトなどの支持体上にキャストして、熱風乾燥によりキャスト薄膜中の有機溶媒を飛散させて乾燥を行う。
このとき熱風温度を160〜220℃とすることが好ましい。熱風温度が160℃未満では表面付近の溶媒乾燥速度が遅く、乾燥過程で相分離が進みすぎて、表面が荒れることがある。熱風温度が220℃を超えると急激な溶媒蒸発で表面が荒れることがある。相分離を抑制し、良好なフィルム表面が得られることから、熱風温度は180〜200℃であることがより好ましい。
一方、溶液キャスト時の支持体温度は20〜90℃とすることが好ましく、30〜70℃がより好ましい。支持体温度が90℃を超えるとフィルム内部の相分離が進まず熱可塑性ポリマーのドメインが成長しないため、熱膨張係数を目的の値に制御できないことがある。
このように熱風温度と支持体温度に差をつけ、フィルム内部と表面で熱可塑性ポリマードメインの大きさを変化させることで、熱膨張係数の制御と表面の平滑性を両立することが可能となる。ここで熱風温度と支持体温度の差は70〜180℃であることが好ましい。熱風温度と支持体温度の差が180℃を超えるとフィルム内部の溶媒拡散速度が表面からの蒸発速度に追いつけず、フィルム最表層のみ乾燥が進み、フィルム内部の乾燥がそれ以上進まないことがある。
次に乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて、湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行なわれる。ここで湿式工程の溶媒は一般的に水系であるが、水の他に少量の無機や有機溶媒あるいは無機塩などを含んでいてもよい。なお溶媒温度は通常0〜100℃で使用される。さらに必要に応じて湿式工程中でフィルムを長手方向に延伸してもよいが、幅方向の延伸効果を十分に得るために長手方向の延伸倍率は1.0〜1.1倍とすることが好ましい。
湿式工程を経たフィルムは水分を乾燥後、フィルムの幅方向に延伸が行われる。
延伸温度は熱可塑性ポリマーのガラス転移点(以下Tgと略記)より90〜130℃高い温度で行うことが好ましく、より好ましくは100〜110℃高い温度である。延伸温度がこの範囲より低いと延伸時にフィルムが破れやすく、高すぎると分子が配向しにくくなり延伸の効果が十分に得られないことがある。
幅方向の延伸倍率は延伸温度に応じて適宜調整することが好ましいが、1.3〜1.5倍の範囲内とすることが好ましい。幅方向の延伸倍率が1.3倍に満たないと、分子の配向が十分に進まず、熱膨張係数および湿度膨張係数が大きくなり過ぎることがある。延伸倍率が1.5倍を超えると、分子の配向が進みすぎて、熱膨張係数および湿度膨張係数が小さくなり過ぎたり、フィルムの靱性が低下したりすることがある。また熱収縮率が大きくなり高温での寸法安定性が低下することがある。なお延伸倍率とは、延伸後のフィルム幅を延伸前のフィルム幅で除した値で定義する。
また、フィルムの延伸中あるいは延伸後に熱処理が行なわれるが、熱処理温度は240〜280℃の範囲内にあることがフィルムの寸法安定性を向上させる点で好ましい。
本発明のアロイフィルムはフレキシブルプリント基板、コンデンサー、離形フィルム、プリンターリボン、音響振動板などの種々の用途に好ましく用いられるが、少なくとも片面に磁性層を設けた磁気記録媒体として用いられると、寸法安定性、剛性、表面平滑性などを兼ね備えた本発明のアロイフィルムの効果が十分に発揮されるため、特に好ましい。
磁気記録媒体として使用する場合のベースフィルムの厚みは6.5μm以下とすることが、本発明のアロイフィルムの高剛性を活かした、しわ発生や巻きずれの抑制効果をよりいっそう発揮することができるため好ましい。ベースフィルムの厚みは5.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以下であることがより好ましい。厚みは特に下限はないが、フィルムの取り扱い性の観点から、通常は2μm以上とするのが好ましい。
本発明のアロイフィルムが適用される磁気記録媒体、特に高密度磁気記録媒体の磁性層は、特に限定されず、種々の強磁性金属薄膜層を用いることができる。強磁性金属薄膜層の形成手段としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法や塗布法などが挙げられる。強磁性金属材料としては、Co、Ni、Cr、Feなどの金属やこれらを主成分とする合金などを用いることができる。
磁性層を形成後、ダイヤモンドライクコーティングの付与あるいは潤滑保護層の付与を施したり、または両者を併用することは磁気記録媒体の耐久性向上の点で好ましい。さらにより走行性を向上させるために、磁性層と反対側の面にバックコート層を設けてもよい。
本発明のアロイフィルムは、コアなどに巻き上げフィルムロールとすることができる。コアの材質は特に限定されず、紙、プラスチックなど種々のものを使用できる。また外径が1〜10インチ、特に2〜8インチのものが好ましく用いられる。コア長は150〜2,000mm、特に500〜1,500mmのものが好ましく用いられる。
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
(1)熱膨張係数α
幅4mm、長さ15mmに切断したフィルムを真空理工社製 熱機械試験機TM-9400を用いて、負荷荷重5mNで以下の条件で測定し、下式を用いて算出した。2回測定し、平均値を求めた。
条件:昇温・降温速度:1℃/分
温度条件:室温→50℃、5分保持→20℃→50℃
算出:再昇温時の30℃→40℃の変位量から算出
算出式:α=(L−L)/(L×ΔT) (1/℃)
:測定前の試長15mm
:低温側での試長(mm)
:高温側での試長(mm)
ΔT:温度差
(2)湿度膨張係数β
幅10mm、長さ200mmに切断したフィルムを、恒温恒湿槽に入れた大倉インダストリー社製 テープ伸び量試験機 1TTM1を用いて、負荷荷重0.1Nで以下の条件で変化量を測定し、下式を用いて計算した。
条件:A:25℃-25%RHで24時間放置
B:25℃-25%RHから25℃-85%RHに150分かけて加湿
C:25℃-85%RHで24時間放置
算出式:β=(L−L)/(L×Δ%RH) (%RH−1
:測定前の試長200mm
:25℃-25%RHで24時間放置後の試長(mm)
:25℃-85%RHで24時間放置後の試長(mm)
Δ%RH:相対湿度差60%RH
(3)幅方向の寸法変化(TDS)
磁気記録媒体として使用される領域(図1 5角形の内部)において寸法変化が大きくなる下記の条件1〜3について計算し、その最大値から求めた。ただし磁気テープ加工時にαが+5ppm、βが+3ppm変化する、またヘッドのαを7ppm、βを0ppmとして計算した。
条件1 10℃、10%RH→29℃、80%RH
条件2 10℃、10%RH→45℃、24%RH
条件3 45℃、10%RH→10℃、80%RH
(4)ヤング率
幅10mm、長さ150mmに切断したフィルムを、オリエンテック社製ロボットテンシロンAMF/RTA-100を用いてチャック間距離50mm、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重−伸び曲線の立ち上がり部の接線から引張りヤング率を求めた。
(5)200℃における熱収縮率
フィルムを幅10mm、長さ250mmに切断し、両端から25mmの位置に印をつけ、200℃に設定したオーブン中で10分間加熱後、室温に戻して寸法を測り、下記の計算式より算出した。
熱収縮率=((L−L)/L)×100(%)
:処理前の長さ 200mm
L:処理後の長さ(mm)
(6)寸法安定性の評価
TDSと熱収縮率から以下の基準で判定した。○または△が実用範囲内である。
○:熱収縮率が0.70%以下で、TDSが200ppm未満
△:熱収縮率が0.70%以下で、TDSが200ppm以上400ppm以下
×:熱収縮率が0.70%を超過か、あるいはTDSが400ppmを超過
(7)表面粗さRa
Digital Instruments社製原子間力顕微鏡NanoScopeIIIを用いて、以下の条件でガラス板または流延ベルト(支持体)に接触していない表面について測定した。
探針:ナノセンサーズ社製SPMプローブNCH−W型、単結晶シリコン
走査モ−ド:タッピングモ−ド
走査範囲:30μm×30μm
走査速度:0.5Hz
測定環境:温度23℃、相対湿度65%、大気中
(8)総合評価
寸法安定性および表面性から高記録密度の磁気記録媒体に用いたときの総合評価を以下の基準で行った。△、○、および◎が実用範囲内である。
◎:寸法安定性の評価が○でRaが10nm未満
○:寸法安定性の評価が○でRaが10nm以上15nm以下
△:寸法安定性の評価が△でRaが15nm以下
×:寸法安定性の評価が×あるいはRaが15nmを超過
(実施例1)
脱水したN−メチル−2−ピロリドンに、85モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを溶解させ、これに98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加して、30℃以下で約2時間の撹拌を行い、芳香族ポリアミドを重合させた。この重合ポリマーを炭酸リチウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンにより中和することでポリマー溶液を得た。このポリマー溶液にポリカーボネート(出光タフロンA2200、吸水率:0.23%、Tg:150℃)を芳香族ポリアミド100質量部に対し40質量部となるように添加し、60℃で4時間攪拌することで製膜溶液を得た。
次いで、アプリケーターでポリマー溶液をガラス板上にキャストして、熱風温度180℃、支持体温度30℃でフィルムが自己支持性を持つまで乾燥させた後、ゲルフィルムをガラス板から剥離した。次に、ゲルフィルムを金属枠に固定して、水槽内で残存溶媒や中和で生じた無機塩、有機アミンの水抽出を行った。水抽出後、含水フィルム両面の水分をガーゼで拭き取り、金枠に固定したまま250℃のオーブンで熱処理した。このフィルムをストレッチャーを用いて250℃でフィルムの幅方向に1.3倍、長手方向に1.1倍延伸することでアロイフィルムを得た。
得られたアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。
(実施例2)
幅方向の延伸倍率を1.4倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。
(実施例3)
幅方向の延伸倍率を1.5倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。
(実施例4)
延伸温度を280℃、幅方向の延伸倍率を1.5倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。
(実施例5)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とし、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。
(実施例6)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とし、幅方向の延伸倍率を1.5倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。
(実施例7)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とし、延伸温度を280℃、幅方向の延伸倍率を1.4倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。
(実施例8)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とし、延伸温度を280℃、幅方向の延伸倍率を1.5倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。
(比較例1)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し10質量部とし、幅方向の延伸倍率を1.4倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。ポリカーボネートの含有量が不十分で、熱膨張係数が大きく負の値となった。
(比較例2)
幅方向の延伸倍率を1.2倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。延伸による配向が不十分で、寸法変化の大きいフィルムとなった。
(比較例3)
幅方向の延伸倍率を1.6倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。延伸倍率が大きく、熱収縮率の大きいフィルムとなった。
(比較例4)
延伸温度を280℃、幅方向の延伸倍率を1.6倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。延伸倍率が大きく、熱収縮率の大きいフィルムとなった。
(比較例5)
延伸温度を300℃、幅方向の延伸倍率を1.6倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。延伸温度が高いため配向緩和が生じ、寸法変化の大きいフィルムとなった。
(比較例6)
熱風温度を150℃、幅方向の延伸倍率を1.4倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。熱風温度が低いため乾燥過程でフィルム表面付近の相分離が進み、表面の荒れたフィルムとなった。
(比較例7)
支持体温度を100℃、幅方向の延伸倍率を1.3倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。乾燥過程でポリカーボネートドメインが成長せず熱膨張係数が小さくなったため、寸法変化を制御できなかった。
(比較例8)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とし、幅方向の延伸倍率を1.2倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。延伸による配向が不十分で、寸法変化の大きいフィルムとなった。
(比較例9)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とし、幅方向の延伸倍率を1.6倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。延伸倍率が大きく、熱収縮率の大きいフィルムとなった。
(比較例10)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とし、延伸温度を280℃、幅方向の延伸倍率を1.4倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。延伸による配向が不十分で、寸法変化の大きいフィルムとなった。
(比較例11)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とし、延伸温度を280℃、幅方向の延伸倍率を1.6倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。延伸倍率が大きく、熱収縮率の大きいフィルムとなった。
(比較例12)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し160質量部とし、幅方向の延伸倍率を1.6倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。ポリカーボネートの含有量が過剰で、熱膨張係数および表面粗さが大きくなった。
(比較例13)
熱可塑性ポリマーをポリビニルピロリドン(PVP、ISP K−15、吸水率:17%、Tg:175℃)とし、延伸温度を280℃、幅方向の延伸倍率を1.4倍、長手方向の延伸倍率を1.0倍とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表2に示す。湿度膨張係数が大きく、寸法変化の大きいフィルムとなった。
Figure 2010024260
Figure 2010024260
幅方向の寸法変化(TDS)を測定する際に使用する、磁気記録媒体として使用される温湿度領域を示す図である。

Claims (3)

  1. 芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し20〜150質量部であり、幅方向の熱膨張係数αTD (×10−6/℃)が−2〜10であり、かつ幅方向の湿度膨張係数βTD(×10−6/%RH)が−5〜5である芳香族ポリアミドフィルム。
  2. 幅方向の200℃における熱収縮率が0.0〜0.7%であり、表面粗さRaが1〜15nmである、請求項1に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
  3. 請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドフィルムの少なくとも片面に磁性層を設けた磁気記録媒体。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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