JP2010007121A - BiFeO3膜形成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】Pt膜の上に、高い生産性を有する製造方法により、結晶性のよいBiFeO3膜を形成する。
【解決手段】例えば単結晶シリコンからなり、主表面が清浄化された基板101を用意する。次いで、基板101の表面に熱酸化法により酸化シリコン層102を形成し、この上に白金(Pt)層103を形成する。Pt層103は、例えば層厚200nm程度に形成する。次に、Bi1.1FeO3ターゲットを用いたECRプラズマスパッタ法により、基板温度を420〜460℃の範囲とし、酸素分圧を4×10-3Pa以上とした条件でBiFeO3を堆積することで、Pt層103の上に(001)方向へ配向した結晶状態のBiFeO3結晶膜104を形成する。
【選択図】 図1B
【解決手段】例えば単結晶シリコンからなり、主表面が清浄化された基板101を用意する。次いで、基板101の表面に熱酸化法により酸化シリコン層102を形成し、この上に白金(Pt)層103を形成する。Pt層103は、例えば層厚200nm程度に形成する。次に、Bi1.1FeO3ターゲットを用いたECRプラズマスパッタ法により、基板温度を420〜460℃の範囲とし、酸素分圧を4×10-3Pa以上とした条件でBiFeO3を堆積することで、Pt層103の上に(001)方向へ配向した結晶状態のBiFeO3結晶膜104を形成する。
【選択図】 図1B
Description
本発明は、薄膜の状態にすることで大きな分極が得られることが知られているBiFeO3の結晶膜を形成するBiFeO3膜形成方法に関するものである。
強誘電体メモリの分極保持材料としては、既にPb(Ti,Zr)O3が実用化され、この材料が用いられた強誘電体メモリによるメモリーカードが使用されている。しかしながらこの材料は、鉛を構成要素に含んでいるため、特に欧州においては敬遠される傾向にある。これに対し、鉛を含まずRoHS指令の要求を満足する強誘電体メモリ用の分極保持材料として、Bi4Ti3O12およびSrBi2Ta2O9などのBi系層状強誘電体がある。しかしながらBi系層状強誘電体は、分極量が10μC/cm2と小さいため、メモリ素子への適用に難点がある。
上述した各材料に対し、RoHS指令の要求を満足したうえで大きな分極が得られる材料としてBiFeO3が期待されている(非特許文献1参照)。BiFeO3の単結晶は、三方晶系に属し、本来小さな分極しか持たない。しかしながら、BiFeO3の単結晶を異種基板の上に薄膜として形成し、格子を正方晶系へと歪ませると、70μC/cm2あるいはこれ以上の分極が実現することが示されている。
しかしながら、良質なBiFeO3の結晶が形成しにくいという問題がある。より良好な配向性および結晶性を有するBiFeO3の単一相薄膜の形成は、これまで主にパルスレーザー堆積(PLD)法によって、小数の研究機関において成功している(非特許文献1,2参照)。しかしながら、PDL法は成膜面積が小さく、現実的なデバイス製造プロセスに適用するには不向きである。
一方、一般的には、生産性に優れた強誘電体膜の形成方法としては、スパッタ法がある。例えば、Pb(Ti,Zr)O3を使用する強誘電体メモリは、スパッタ法を用いて生産されている。
ここで、BiFeO3膜の成膜における問題点には、パイロクロア相(Bi2Fe4O9)やBi2O4が析出しやすいことが挙げられる(非特許文献3参照)。Bi2Fe4O9は強誘電性を有せず、このような相分離が起きるとリーク電流が大きくなるので、BiFeO3単一相からなる膜の形成が重要となる。しかし、これまでは、スパッタ法による良好な結晶性のBiFeO3膜の形成条件は知られていない。
また、単一配向のBiFeO3膜を得るためには、SrRuO3およびNb:SrTiO3電極基板などの、BiFeO3と格子整合する基板を用いる必要がある(非特許文献1,4参照)。しかしながら、強誘電体メモリの実現においては、一般的な半導体装置に用いられているシリコン基板の上に、単一配向のBiFeO3膜を形成することが重要となる。一般には、シリコン基板の上に形成した白金(Pt)電極の上に、強誘電体膜を形成している。従って、完全には格子整合していないPt膜の上に、高い生産性を有する製造方法により、結晶性のよいBiFeO3膜を形成することが求められている。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、Pt膜の上に、高い生産性を有する製造方法により、結晶性のよいBiFeO3膜を形成することを目的とする。
本発明に係るBiFeO3膜形成方法は、ビスマスと鉄との酸化物からなる焼結体のターゲットを用いたスパッタ法により、基板温度を420〜460℃の範囲とし、酸素分圧を4×10-3Pa以上とした条件で、基板の上に形成された白金層の上にBiFeO3を堆積することで、白金層に接して(001)方向へ配向した結晶状態のBiFeO3からなる膜を形成するようにした方法である。
上記BiFeO3膜形成方法において、スパッタ法は、電子サイクロトロン共鳴プラズマスパッタ法であるとよい。また、ビスマスと鉄との酸化物からなる焼結体のターゲットによる電子サイクロトロン共鳴プラズマスパッタと、ビスマスと酸素とからなる焼結体のターゲットによるスパッタとを同時に行うことで、上述したBiFeO3からなる膜を形成してもよい。
以上説明したように、本発明によれば、基板温度を420〜460℃の範囲とし、酸素分圧を4×10-3Pa以上とした条件のスパッタ法により、基板の上に形成された白金層の上にBiFeO3を堆積するようにしたので、高い生産性を有する製造方法で、Pt膜の上に結晶性のよいBiFeO3膜が形成できるようになるという優れた効果が得られる。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1A,図1Bは、本発明の実施の形態におけるBiFeO3膜形成方法を説明するための工程図である。まず、図1Aに示すように、例えば単結晶シリコンからなり、主表面が清浄化された基板101を用意する。次いで、基板101の表面に熱酸化法により酸化シリコン層102を形成し、この上に白金(Pt)層103を形成する。Pt層103は、例えば層厚200nm程度に形成する。なお、図示していないが、Pt層103と酸化シリコン層102との間に、層厚5nm程度のチタン層もしくは酸化チタン層が、接着層として形成されている。
次に、Bi1.1FeO3ターゲットを用いたECR(電子サイクロトロン共鳴)プラズマスパッタ法により、基板温度を420〜460℃の範囲とし、酸素分圧を4×10-3Pa以上とした条件でBiFeO3を堆積することで、図1Bに示すように、Pt層103の上に(001)方向へ配向した結晶状態のBiFeO3結晶膜104を形成する。
ここで、ECRプラズマスパッタ法では、よく知られているようにプラズマ流が成長中の膜に照射され、形成される薄膜は、電子励起下における成長になる。このため、ECRプラズマスパッタ法により形成される薄膜は、再安定な表面で終端された構造が形成されやすいものとなり、基板を加熱した状態で成膜すれば、順次結晶層が形成されるようになる。このように、ECRプラズマスパッタ法によれば、CSD(Chemical solution deposition)法やRFスパッタ法などの他のスパッタ法に比較して、配向膜がより形成しやすい方法である。また、ECRプラズマスパッタ法では、円筒型のターゲットを用いるため、対向型スパッタと同様な成膜環境になり、低損傷なプロセスを実現できる。
また、ECRプラズマスパッタ法によれば、ガス分子の励起効率が高いため、酸素ガスを導入した場合には高密度の酸素ラジカルが生成する。BiFeO3は酸素原子の層と金属原子の層が交互に積層した構造を形成している。ECRプラズマスパッタ法においては酸素の原子層を完成するのに十分な数の酸素原子が成長表面へ供給されるので、このような酸化物膜の形成に適した手法であると言える。基板を加熱した状態で成膜すれば、順次結晶層が形成できる。
また、ビスマスと鉄との酸化物からなる焼結体のターゲットとしては、Bi2O3:Fe2O3=1.1:1の割合で原料を混合して焼結したBi1.1FeO3ターゲットを用いるとよい。このようなBi過剰のターゲットを用いるのは、Feに比べてBiの方が抜け易く、パイロクロア相が形成されやすい点を緩和するためである。上記ターゲットを用い、スパッタリングガスとしてキセノンを用い、かつ、酸素分圧4×10-3Pa以上で酸素を導入し、基板加熱温度420℃〜460℃とした条件で、BiFeO3結晶膜104のスパッタ成膜を行えばよい。なお、スパッタリングガスとしては一般にアルゴンが用いられることが多いが、ターゲット組成からのずれが顕著な場合が多い。これに対し、スパッタリングガスとしてキセノンを用いると、元素間のスパッタ速度の差が緩和されてターゲット組成に近い組成の膜が得られるようになる。
以上に示した本実施の形態におけるBiFeO3膜形成方法によれば、大面積成膜が可能で、生産性にも優れるスパッタ法を用い、PLD(パルスレーザー堆積)法と同様に単一相のBiFeO3膜を容易に得られるようになる。この結果、本実施の形態の方法によれば、強誘電体メモリの製造の上において非常に有利である。また、上述した本実施の形態における方法によれば、ゾルゲル法のような溶媒プロセスを用いることなくドライプロセスにより成膜できるため、膜の厚さや形成するパタンの幅などの制御がより容易であり、デザインルール面からもメリットが大きい。
ところで、複数の基板に対する上述したような成膜を繰り返すと、BiとFeのスパッタ速度の違いからくるターゲット組成の変化、あるいはエロージョンの形成などにより、成膜環境が大きく変化する場合がある。このような場合にも対応できるために、上述した組成のBi1.1FeO3ターゲットによるECRプラズマスパッタ源に加え、Bi2O3ターゲットによるRFスパッタ源を用いることで、形成される結晶膜におけるBi原子の不足をより効果的に補い、最適な組成を実現することができる。この2つのターゲットを用いたスパッタによるBiFeO3結晶膜104の形成は、例えば、図2に概略構成を示す成膜装置を用いることで、同一の装置内で連続して行うことが可能である(特許文献1参照)。
図2に示す成膜装置について簡単に説明すると、図示しない真空排気装置が連通した真空処理室201と、真空処理室201の内部に設けられたECRプラズマ源202と、ECRプラズマ源202より生成されたECRプラズマによるスパッタを行うためのビスマスと鉄との酸化物からなる焼結体のターゲット(Bi1.1FeO3ターゲット)203とを備える。ECRプラズマ源202を動作させ、キセノンガスやアルゴンガスなどの希ガスを用いてECRプラズマを生成し、円筒型のBi1.1FeO3ターゲット203にRFを印加することでBi,Fe,およびO原子がスパッタされ、これらが下流に位置する基板Wの表面に付着する。
また、図2に構成を示す成膜装置は、マグネトロンプラズマ発生部204と、マグネトロンプラズマ発生部204により生成されたプラズマによりスパッタを行うためのビスマスと酸素とからなる焼結体のターゲット(Bi2O3)ターゲット205とを備え、これらが、導入部206により真空処理室201に接続されている。マグネトロンプラズマ発生部204によりアルゴンガスのプラズマを生成し、円板状のBi2O3ターゲット205にRFを印加することで、Bi2O3ターゲット205のBiおよびO原子がスパッタされ(RFマグネトロンスパッタ)、これらが下流に位置する基板Wの表面に付着する。
これらの構成により、Bi1.1FeO3ターゲット203よりスパッタされて飛び出た粒子と、Bi2O3ターゲット205よりスパッタされて飛び出た粒子とが、真空処理室201の内部に配置された処理対象の基板Wの膜形成面に堆積することが可能となる。Bi2O3は、減圧された真空処理室201(成膜雰囲気)に蒸発しやすく、形成されているBiFeO3膜におけるBi(Bi2O3)不足を招くことになる。この不足が、Bi2O3ターゲット205を用いたRFスパッタにより補うことができる。また、真空処理室201には、酸素などの酸化ガスを導入するガス導入口207を備えている。なお、図2では、アルゴンなどのスパッタガスの導入については省略している。加えて、図2に構成を示す成膜装置は、基板Wを加熱する加熱機構208を備えている。
上述した構成の成膜装置によれば、ECRプラズマ源202およびBi1.1FeO3ターゲット203とマグネトロンプラズマ発生部204およびBi2O3ターゲット205とを用い、加えて加熱機構208による加熱を行うことで、基板の上にBiFeO3結晶膜104を形成することができる。例えば、酸素分圧4×10-3Pa以上、ECRプラズマ生成のためのマイクロ波のパワーは500W、Bi1.1FeO3ターゲット203に印加するRFパワーは500W、Bi2O3ターゲット205に印加するRFパワーは80W、基板温度条件420℃〜460℃の条件で、膜厚200nm程度にBiFeO3結晶膜104を形成(堆積)すればよい。また、この成膜において基板Wを回転させることにより、得られる薄膜の膜厚の均一性を確保することができる。
なお、Bi1.1FeO3結晶膜104の形成では、一定流量の酸素ガスをガス導入口207より真空処理室201の内部に導入し、導入した酸素を生成されているプラズマで励起し、励起された酸素が形成されている膜に取り込まれるようにする。BiFeO3などの酸化物の膜をスパッタ法で形成する場合、薄膜へ取り込まれる酸素原子が不足気味になるため、上述したように酸素を導入して膜中の酸素含有量を調節する。
ここで、一般にECRプラズマスパッタ法を用いる方が、RFマグネトロンスパッタ法よりも低ダメージで、高品質な薄膜を得ることができる。従って、ECRプラズマスパッタ源を2基搭載し、Bi1.1FeO3ターゲットとBi2O3ターゲットとの2つのターゲットを用いることができれば理想的である。しかしながら、2つのECRプラズマスパッタ源を隣接配置して同時に動作させると、磁場が相互に干渉するため、2基のスパッタ源について同時にECR条件を満足させることが容易ではない。このため、前述したように、Bi2O3ターゲットの方は、RFマグネトロンスパッタ法を適用するとよい。また、Bi2O3ターゲットからのスパッタは、正確な組成の合わせ込みを目的としており、大きなスパッタ速度を必要としない。このため、RFマグネトロンスパッタ法を用いても、可能な範囲で小さな出力(プラズマパワー)とした状態で、Bi2O3ターゲットをスパッタすれば、高品位なBiFeO3膜の形成が可能である。
次に、上述したBiFeO3膜の形成についてより詳細に説明する。なお、以下では、最表面にPt層を備える基板をPt基板と称する。
まず、図3に、ヒーター加熱したPt基板上に成膜したBiFeO3膜からのω−2θスキャンX線回折スペクトルの測定結果を示す。成膜時間は60分、酸素流量は10sccmに固定する。なお、sccmは流量の単位であり、0℃・1気圧の流体が1分間に1cm3流れることを示す。
図3に示されているように、基板温度380℃では、結晶化に十分な温度に到達していないために、回折ピークは出現してはいるものの弱い。また、基板温度400℃では、2θ=28.0°の位置にBi2O3からの(310)回折、またはBi2Fe4O9(パイロクロア層)からの(121)回折と思われる比較的強いピークが出現している。両者のピーク位置は重なるため、どちらに該当するかは決められない。2θ=29.6°のピークは、Bi2Fe4O9からの(002)回折と同定できる。2θ=31.8°にはBiFeO3からの(110)回折ピークも見られるが、パイロクロア相からのピークよりも弱い。BiFeO3が、反応式「3BiFeO3→Bi2Fe4O9+Bi2O3」に従って相分離すれば、Bi2O3とBi2Fe4O9が形成されることになる。
ところが、基板温度を420℃に上げただけで一転して上述したピークは抑えられ、BiFeO3からの(001)回折ピークが2θ=225°に、(002)回折ピークが45.9°に強く観測されるようになる。さらに、基板温度を440℃に上げても、同様なX線回折パタンが得られているが、460℃では、(001)回折ピークの強度は弱まっている。また、510℃においては、完全に結晶からのピークが消失している。これは、460℃を超えると、Bi原子の揮発が始まり、510℃では膜中にBiが取り込まれなくなり、酸化鉄だけが堆積する状態になっていることを示している。加えて、510℃では、まだ酸化鉄の結晶化温度に至っていないことを意味している。
以上の結果から、良好に(001)へ優先配向したBiFeO3膜を得るには、基板温度に関しては、420℃から460℃の間の非常に狭い範囲に設定すればよいことが分かる。BiFeO3の分極軸はc軸方向と一致するので、(001)方向へ強く配向した膜は強誘電体メモリへの応用にとって望ましいものである。
次に、図4に、(001)ピークのωスキャンによるロッキングカーブを比較した結果を示す。すべてのロッキングカーブにおいて、釣鐘型の分布が得られている。基板加熱温度420℃および440℃においてピーク強度が最大になり、このときの半値幅も3°と下層のPt層がエピタキシャル層でない割には、十分に小さい値となっている。
下層がシリコン基板では、このようにBiFeO3相だけからなり、しかも単一方向へ配向したBiFeO3膜を得るのが難しい。これに対し、単一方向へ配向したBiFeO3膜の形成が、Pt層の上では可能となることにはいくつか理由が考えられる。まず、膜の組成比がBi:Fe=1:1からずれていたとしても、過剰な元素がPt層へ拡散し、安定な(001)配向BiFeO3ドメインだけが残ることが考えられる。実際、Bi原子がPt中を拡散し、容易にPt−Bi合金が形成されることはよく知られている。あるいはPt(111)の原子配列が、BiFeO3の(001)面と局所的に格子整合するために、(001)面が優先的に形成されるものとも考えられる。
次に、基板温度を420℃に固定したときの各酸素流量に対するX線回折パタンの測定結果を図5に示す。成膜時間はすべて60分である。なお、図中の1sccmは、酸素分圧1.3×10-3Paに対応している。いずれの回折パタンも、(001)配向が趨勢である点で共通しているが、酸素流量3sccmにおいては、(001)回折ピーク強度が最大になっている。酸素流量1sccmで(001)回折ピーク強度が小さいのは、膜中に取り込まれる酸素が不足しているからである。
3sccmから酸素流量を増やすに従って、(001)回折ピーク強度が小さくなるのは、酸素分圧が高い程、ターゲット表面を覆う酸素原子の量が増えて、スパッタ過程がより不活性化され、結果として成膜速度が落ちるからである。これは、スパッタ速度だけの問題であるため、酸素流量に関しての条件は3sccm以上、則ち酸素分圧にして4×10-3Pa以上が望ましい成膜条件になる。
また、図6に、各酸素流量に対応する(001)回折ピークのωスキャンによるロッキングカーブを示す。いずれも釣鐘型の分布を示しており、違いはピーク強度だけである。
以上の結果から、(001)へ優先配向したBiFeO3単一層からなる膜を得るためには、基板温度420℃以上460℃以下、酸素分圧4×10-3Pa以上の条件でスパッタ成膜すればよいことがわかる。また、ECRプラズマスパッタ法などのように、基板表面にプラズマやイオンが照射された状態で成膜と同時に結晶化が進行するような環境下において、このような(001)配向が選択的に得られるものと考えられる。
次に、室温(23℃程度)においてPt基板の上に非晶質のBiFeO3膜を堆積した後、いわゆる真空中でアニールして固相結晶化した場合の、アニール温度を変えたときのX線回折パタンの測定結果を図7に示す。堆積時間は60分、酸素流量は10sccmである。アニール温度260℃では、ほぼ非晶質状態であるが、380℃以上では結晶化していることがわかる。
図7に示すように、BiFeO3からの(001),(110),および(002)以外に、2θ=28.0°の位置にBi2O3からの(310)回折あるいはBi2Fe4O9からの(121)回折ピーク、また、2θ=33.0°の位置にBi2O3からの(321)回折ピークが見られる。
このように単一方向への配向が得られないばかりでなく、パイロクロア相や異種結晶の析出も生じるため、固相結晶化によりBiFeO3膜を形成するのは得策でないことが分かる。
次に、アニール時の雰囲気を真空中と101325Pa(1気圧)の酸素中とについて比較した結果を図8に示す。酸素雰囲気下アニールの方がBi2O3やBi2Fe4O9の析出が軽減されてはいるものの、ある有限の強さでピークが出現しており、BiFeO3からの回折ピークも(001)と(110)とが混在している。
以上の結果を総合すると、まず、非晶質固相からの結晶化では、良好な結晶が得られていない。これに対し、420℃〜460℃の範囲で加熱してスパッタすることで、スパッタ中に結晶化してBiFeO3膜を形成すれば、単一成分からなる(001)方向へ強配向したBiFeO3膜が得られることが明らかである。
ところで、様々な構造の異なるスパッタ装置ごとに最適な基板温度を設定することは容易でない。例えば、基板の裏面側からの加熱、基板の表面からの加熱、あるいは輻射熱方式の加熱、また、ランプ加熱などの加熱の方式によっても条件は様々である。このような状況において、現実的な方法で最適な成膜条件を得るには、形成している膜内に十分な酸素が取り込まれると思われる適当な酸素流量の条件のもとで、基板温度を少しずつ変えながら成膜することが確実である。
また、基板の場所に応じて温度が一様でない場合には、通常では、中央部が最も高温であり、周辺部へ行くほど低温になる。このような場合には、形成された膜の色合いにより最適な条件を決定すればよい。例えば、図3に示した510℃の回折パタンと460℃の回折パタンの領域、あるいは420℃の回折パタンと440℃の回折パタンの領域は、明確に異なった色合いで観察されるので容易に目視で区別することができる。この目視による観察の結果をもとに、成長領域の基板表面温度が420℃以上460℃以下となるように、基板加熱のヒーターやランプのパワーを調節すればよい。
101…基板、102…酸化シリコン層、103…白金(Pt)層、104…BiFeO3結晶膜。
Claims (3)
- ビスマスと鉄との酸化物からなる焼結体のターゲットを用いたスパッタ法により、基板温度を420〜460℃の範囲とし、酸素分圧を4×10-3Pa以上とした条件で、前記基板の上に形成された白金層の上にBiFeO3を堆積することで、前記白金層に接して(001)方向へ配向した結晶状態のBiFeO3からなる膜を形成する成膜工程を少なくとも備えることを特徴とするBiFeO3膜形成方法。
- 請求項1記載のBiFeO3膜形成方法において、
前記スパッタ法は、電子サイクロトロン共鳴プラズマスパッタ法であることを特徴とするBiFeO3膜形成方法。 - 請求項2記載のBiFeO3膜形成方法において、
前記成膜工程では、ビスマスと鉄との酸化物からなる焼結体のターゲットによる電子サイクロトロン共鳴プラズマスパッタと、ビスマスと酸素とからなる焼結体のターゲットによるスパッタとを同時に行うことで、前記BiFeO3からなる膜を形成する
ことを特徴とするBiFeO3膜形成方法。
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