JP2009286657A - リサイクルジルコニア粉末の製造方法、リサイクルジルコニア粉末、およびそれを用いたジルコニア焼結体の製造方法 - Google Patents

リサイクルジルコニア粉末の製造方法、リサイクルジルコニア粉末、およびそれを用いたジルコニア焼結体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、粉砕用ジルコニア焼結体を一旦粉砕・溶解して得られるリサイクルジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を得ることで、資源を有効に利用できるとともに、ジルコニア焼結体の強度、靭性を向上させることにある。
【解決手段】本発明は、粉砕用ジルコニア焼結体を用いてリサイクルジルコニア粉末を製造する方法において、
(1)粉砕用ジルコニア焼結体を、粉砕してジルコニア粒子とする工程
(2)粉砕工程で得られたジルコニア粒子を、酸で溶解する工程
(3)溶解工程で得られた溶解液を、水で希釈する工程
(4)希釈工程で得られた希釈液を、共沈法、加水分解法、水熱合成法または噴霧乾燥法によりジルコニア粉末前駆体を調製する工程
(5)前駆体調製工程で得られた前駆体を、乾燥・仮焼してリサイクルジルコニア粉末とする工程
を用いることを特徴とするリサイクルジルコニア粉末の製造方法である。
【選択図】なし

Description

本発明は、リサイクルジルコニア粉末の製造方法、リサイクルジルコニア粉末、およびそれを用いたジルコニア焼結体の製造方法に関する。粉砕用ジルコニア焼結体、好ましくはジルコニア焼結体シートの製造後に生じるジルコニア焼結体シートを再利用し、粉砕・溶解等により新たなリサイクルジルコニア粉末、当該リサイクルジルコニア粉末を利用したジルコニア焼結体シート、およびそれらの製造方法に関するものである。さらには、当該ジルコニア焼結体シートを用いた固体酸化物形燃料電池用電解質ならびに固体酸化物形燃料電池にも関する。
従来からジルコニア粉末を用いたジルコニア焼結体に関する技術は多く提案されているが(特許文献1、特許文献2、非特許文献1他)、粉砕用ジルコニア焼結体はその前駆体を焼成したセラミックスであり、焼成時の焼成収縮により寸法が大きく変化するため寸法精度を保つことが難しく、その結果焼結体の製造歩留まりが低くなる傾向がある。特に、平面性を有する薄膜ジルコニアシートにあってはサブミクロン級の微細なジルコニア粉末を原料として使用するため成形に多量のバインダーを必要とし、その焼成収縮率は大きく焼成後に高度な平面性や平坦性を保つことが難しく、歩留まりの低さは著しいものである。
また薄膜であるがゆえにハンドリング強度は十分とは言えず、製造時や取扱い時に破損するシートが多く生じることがある。これらの上記の焼結後に生じた不良のジルコニア焼結体シートやその不良品の断片、破片が蓄積するので廃棄上の問題と資源の有効活用が望まれる。一方、ジルコニア焼結体は一旦焼結した後は、化学的に安定で耐薬品性が有り、また、他のセラミックスより高硬度・高強度・高靭性であり、通常の方法により再利用することは非常に困難である。
その中で、ジルコニアのリサイクル使用に関して、ジルコニア焼結体を加熱処理により特定結晶系のジルコニア粒子であってかつ平均粒子径が0.5μmから1.5μmの粒子とし、これを再度焼結体の原料とする技術が開示されている(特許文献3)。しかし、この技術に関するジルコニア焼結体は、その結晶系が実質は正方晶ジルコニアであり、正方晶ジルコニアの水熱劣化特性を利用してオートクレーブ中で加熱処理後、さらに粉砕する必要があり、原料と同程度の粒子径のジルコニア粒子とするにはコストが高くなり、リサイクル粉体を使用する利点は少ないものである。
特開昭58−55373号 特開昭60−191056号 特開平10−218662号 Journal of Materials Science 第20巻 p.1407−1418(1985)
本発明は、粉砕用ジルコニア焼結体を原料として再利用することによってリサイクルジルコニア粉末を得るとともに、そのリサイクルジルコニア粉末を再利用してジルコニア焼結体、特に、ジルコニア焼結体シートを高品質に得ることができる技術を提供するものである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果下記手段を見出することで、発明を完成するに至ったものである。以下に本発明を特定するものである。
本発明の第一発明は、粉砕用ジルコニア焼結体を用いてリサイクルジルコニア粉末を製造する方法において、
(1)粉砕用ジルコニア焼結体を粉砕してジルコニア粗粉末とする工程(粉砕工程)
(2)粉砕工程で得られたジルコニア粗粉末を酸で溶解する工程(溶解工程)
(3)溶解工程で得られた溶解液を水で希釈する工程(希釈工程)
(4)希釈工程で得られた希釈液を、共沈法、加水分解法、水熱合成法または噴霧乾燥法によりジルコニア粉末前駆体を調製する工程(前駆体調製工程)
(5)前駆体調製工程で得られた前駆体を乾燥・仮焼してリサイクルジルコニア粉末とする工程(仮焼工程)
を用いることを特徴とするリサイクルジルコニア粉末の製造方法である。
本発明の第二発明は、第一発明にかかる製造方法によって得られることを特徴とするリサイクルジルコニア粉末である。当該のリサイクルジルコニア粉末の平均粒子径が0.01〜1μm、比表面積が3〜20m/gであることが好ましい。
本発明の第三発明は、第二発明により得られるリサイクルジルコニア粉末を原料ジルコニア粉末として、あるいは当該リサイクルジルコニア粉末と未使用ジルコニア粉末とからなる粉末を原料ジルコニア粉末として成形し、焼成して得られることを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法である。特に、ドクターブレード法または押出成形法でシートに成形した後、焼成することによってジルコニア焼結体シートが好適に製造される。
本発明の第四発明は、第三発明にかかる製造方法によって得られることを特徴とするジルコニア焼結体である。特に、当該の焼結体がジルコニア焼結体シートである場合は、その厚さが0.03〜0.5mmであることが好ましい。
本発明の第五発明は、第四発明により得られるジルコニア焼結体を用いたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質である。
本発明の第六発明は、第四発明にかかるジルコニア焼結体または第五発明にかかる固体酸化物形燃料電池用電解質を用いることを特徴とする固体酸化物形燃料電池である。
本発明は、粉砕用ジルコニア焼結体を一旦粉砕・溶解して得られるリサイクルジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を得ることで、資源を有効に利用できるとともに、ジルコニア焼結体の強度、靭性を向上させることができるものである。特に、リサイクルジルコニア粉末と未使用ジルコニア粉末とを原料ジルコニア粉末として用いることで、ジルコニア焼結体、特にジルコニア焼結体シートの場合に前記効果はより一層向上するものである。
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り以下のものに限定されるものではない。
本発明にかかる第一発明は、リサイクルジルコニア粉末の製造方法であり、その製造方法は、粉砕工程、溶解工程、希釈工程、前駆体調製工程、仮焼工程からなる。以下、各工程を詳細に説明する。
(粉砕工程)
本発明のリサイクルジルコニア粉末を製造するために粉砕用ジルコニア焼結体を粉砕する工程である。粉砕用ジルコニア焼結体とは、その形状が平板状、ディンプル付平板状、円筒状、平板円筒状、リング状、ブロック状、球状等、あるいはそれらの破損品や一部破損品等を挙げることができる。しかしながら、大きさや厚さが1mm以上の三次元形状の粉砕用ジルコニア焼結体は粉砕に多大のエネルギーを消費して粉砕効率が悪くなると共に、粉砕に伴う不純物の混入が問題となる。したがって、粉砕用ジルコニア焼結体としては、厚さが1mm未満、特に厚さが0.5mm以下の平板状、シート状ジルコニア焼結体が好ましい。具体的には、寸法等の規格外ジルコニア焼結体シート、破損したジルコニア焼結体シートの破片等を挙げることができる。
粉砕用ジルコニア焼結体の材料は、ジルコニアであれば何れのものであってもよいが、MgO、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物;Y、La、CeO、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb等の希土類金属酸化物;Sc、Bi、In等その他の金属酸化物など安定化剤として加えたジルコニアが好ましい。これらから1種または2種以上を選択した単独または混合物であってもよい。これらの中でも、燃料電池用の固体電解質として使用する場合の組成は、例えば、3〜10モル%のYで安定化された90〜97モル%ジルコニア、4〜12モル%のScで安定化された88〜96モル%ジルコニア、または4〜15モル%のYbで安定化された85〜96モル%ジルコニアが好ましく、特に、8〜10モル%のY、8〜12モル%のScまたは8〜15モル%のYbで安定化された立方晶系ジルコニアが好適である。さらに上記安定化剤とジルコニアの合計質量に対して0.01〜5質量%程度のAl、Ga、SiO、Bi、TiO、CeO等の添加剤が添加されたジルコニアを例示することができる。さらに、粉砕用ジルコニア焼結体に最初から含まれて不純物としては、酸化物表記でAl、SiO、TiO、Fe、NaO、KO、SO等の成分があるが、いずれも、0.3質量%未満、好ましくは0.1質量%未満、特に好ましくは0.01質量%未満である。また、粉砕用ジルコニア焼結体にジルコンサンドおよび/またはバデライトを加えてともに粉砕することも可能である。
その粉砕方法としては、当該粉砕用ジルコニア焼成体をジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、シュレッダ、ロールクラッシャ、ハンマーミル、カッティングミル、ロッドミル、ローラミル、ローターミル、衝撃式粉砕機、ジェット粉砕機、ボールミル、乳鉢等の乾式粉砕機を1種または複数を組み合わせた通常の手段により粉砕して得ることができる。この粉砕では、後に続く溶解工程をスムーズに進行させるために、粗大粒子割合が少なくてなるべく微小な粉砕ジルコニア粉末を効率的に得ることが必要である。具体的には、当該粉砕用ジルコニア焼結体を粉砕して得られる粉砕ジルコニア粉末の平均粒子径は2.0〜2000μm、より好ましくは3.0〜1000μm、更に好ましくは3.0〜500μm、特に好ましくは5.0〜100μmであり、95体積%粒子径は4.0〜4000μmであることが好ましく、より好ましくは5.0〜3000μm、更に好ましくは5.0〜2000μm、特に好ましくは6.0〜300μmである。さらに、最大粒子径は3.0〜5000μmであることが好ましく、より好ましくは3.0〜4000μm、更に好ましくは3.0〜3000μm、特に好ましくは3.0〜500μmである。当該粉砕ジルコニア粉末の平均粒子径が2.0μm未満、95体積%粒子径が4.0μm未満、最大粒子径が3.0μm未満の場合は、後に続く溶解工程において粉砕ジルコニア粉末の溶解が促進され簡便で効率的に進めることが出来るが、その粉砕のために多大なエネルギー、労力、時間が必要になり実用的でなくなる。また、平均粒子径が2000μmを上回り、95体積%粒子径が4000μmを上回り、最大粒子径が5000μmを上回る場合は、後の溶解工程において溶解に時間を要し、完全に溶解するためには高圧加熱のような厳しい溶解条件が必要になるので多大なエネルギー、労力、時間が必要になり実用的でなくなる。
なお、当該平均粒子径、最大粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、商品名「LA−920」)により測定し、各々粒子径が小さいほうから粒子体積を積算して全粒子体積に対して50体積%となる粒子径、粒子径が小さいほうから粒子体積を積算して100体積%となる粒子径の値である。また、95%体積径は、粒子径が小さいほうから粒子体積を積算して全粒子体積に対して95体積%となる粒子径である。
実際の測定は、蒸留水中の分散剤として0.2質量%のメタリン酸ナトリウムを添加した水溶液を分散媒とし、該分散媒約100cm中に当該粉砕ジルコニア粉末を0.01〜1質量%加え、5分間超音波処理して分散させて測定する。なお、前記方法で当該粉砕ジルコニア粉末が分散されずに沈降してしまう場合には、超深度カラー3D形状測定レーザー光顕微鏡(キーエンス製、商品名「VK−9500」)を用いて粒子画像を取り込み、これを印刷して印刷された粒子をノギスで計測し、その平均値を算出して平均粒子径とし、計測された粒子のうち最大の値を最大粒子径とする。
上記粉砕は、水、アルコール等の分散媒を使用しないで上記のような乾式粉砕機をもちいた通常の粉砕手段を用いることができる。前記のように粉砕用ジルコニア焼結体シートは高硬度・高強度・高靭性であるので、上記乾式粉砕機の回転刃(粉砕刃)や回転ローター(粉砕ローター)等を高速で回転させて効率的に短時間で粉砕する必要がある。そのためには、回転数が2000〜30000rpmの範囲、好ましくは3000〜20000rpmの範囲で回転できる装置を選択することが好ましい。
特に、上記乾式粉砕機のうち1種だけを用いて粉砕用ジルコニア焼結体を粉砕するよりも、回転数の異なる2種以上の乾式粉砕機を用いて1次粉砕、2次粉砕することが、更により粗大粒子割合が少ない粉砕ジルコニア粉末を効率的に短時間で得るために好ましい。具体的には、1次粉砕としてカッティングミルで回転刃を2000〜5000rpmの範囲で回転させて1次粉砕し、平均粒子径が100〜3000μmの1次粉砕ジルコニア粉末を得る。このときに、粗大粒子の混入をさけるための粒度調整用スクリーンとして、たとえば、0.05〜1.5mmの篩、好ましくは0.08〜0.2mmの篩で通過するものを分取することが好ましい。そのときの篩形状は丸孔形、梯子形、ヘリングボーン形等が選択できる。
次いで、当該1次粉砕ジルコニア粉末を、ローターミル等を用いて1次粉砕のときよりも高い5000〜30000rpmの範囲でローターを回転させて粉砕し、平均粒子径2.0〜2000μmの粉末の2次粉砕ジルコニア粉末を得る。このときにも、粗大粒子の混入をさけるための粒度調整用スクリーンとして、たとえば、0.05〜1.5mmの篩で通過するものを分取することが、粉砕効率を高める上で好ましい。また、これら粉砕では、特に2次粉砕では回転刃や回転ローターが高速回転するので、粉砕ジルコニア粉末によって磨耗され、粉砕ジルコニア粉末中に回転刃や回転ローター材質の鉄、クロム等のコンタミネーションを起こすことがある。これを避けるためにはジルコニア製の回転刃や回転ローターを使用することが好ましい。コンタミネーションにより乾式粉砕ジルコニア粉末が灰色等に着色した場合は、磁石や酸洗浄によりコンタミネーション成分を除去する。
また、次の溶解工程においてジルコニアの溶解をさらに促進させるために、上記のようにして得た粉砕ジルコニア粉末をさらに湿式粉砕して粗大粒子を微小化することも可能である。
湿式粉砕とは、水、アルコール等の分散媒を使用した通常の湿式粉砕として用いられる手段を用いることがでる。そのための装置としてはボールミル、ビーズミル、遊星ミル、湿式ジェットミル、コロイドミル、ホモジナイザー等が例示される。具体的には、上記乾式粉砕機で得られた粉砕ジルコニア粉末を、水、アルコール等の分散媒、ジルコニア製のボールやビーズ等の粉砕媒体とともに攪拌回転させて粉砕し、次いで、分散媒を除去、乾燥して本発明に使用される溶解に好適な粉砕ジルコニア粉末を得る。このときの粉砕ジルコニア粉末の平均粒子径は2.0〜1000μmの範囲、最大粒子径は3〜3000μmの範囲であり、上記乾式粉砕機のみを使用した場合に比べて得られる粉砕ジルコニア粉末の平均粒子径の上限値や最大粒子径の上限値が1/2〜3/5になって、粗大粒子の微小化が図られる。
なお、当該粉砕ジルコニア粉末は、粉末自体がすでに焼き締まったジルコニア焼結体を粉砕して得られるものであるので、得られる粉体中には気孔等がほとんどなく、また比表面積も非常に小さく、さらに凝集も少なく単分散に近い状態で存在しており、市販のジルコニア粉末のような未使用粉末とは大きく異なるものである。従って、当該粉砕ジルコニア粉末はその粒子径が小さければ小さいほど後に続く溶解工程が容易になる。
(溶解工程)
上記粉砕工程で得られた粉砕ジルコニア粉末を酸で溶解する工程であり、酸分解法、加圧分解法、融解法等の公知の方法によりジルコニア溶解液やペースト状のジルコニア融解物を得ることができる。
酸分解法とは、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸、リン酸、フッ化水素酸およびこれらの混酸酸を当該粉砕ジルコニア粉末ともに開放容器に入れ、100〜400℃に加熱して溶解する方法である。加圧分解法とは、これら酸と粉砕ジルコニア粉末をポリテトラフルオロエチレン樹脂製の加圧分解容器に入れ、この容器をさらに金属製の耐圧容器に入れて加熱・加圧下でジルコニア粉末を溶解する方法である。融解法とは、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、ピロ硫酸カリウム、炭酸ナトリウム+ホウ酸、炭酸リチウム+ホウ酸、硫酸アンモニウム+硫酸等を融剤として当該粉砕ジルコニア粉末とよく混合し、電気炉等で200〜1200℃1〜10時間加熱して強熱融解して得られる融成物を上記の塩酸、硝酸、硫酸などの溶解させる方法である。
本発明では、より溶解を簡便かつ効率的に行うために、当該粉砕ジルコニア粉末に酸と融剤を加え、常圧下150〜350℃、好ましくは200〜300℃で分解させる酸分解法と融解法を組み合せた方法が好適である。そのときの当該酸の濃度は10〜98%好ましくは30〜97%であり、当該粉砕ジルコニア粉末1kgに対して、酸を1〜20L、好ましくは1〜10L加え、融剤を1〜10kg、好ましくは2〜8kg加え、これらの混合物を20〜180分間、好ましくは30〜120分間、溶解させることが好ましい。温度が150℃を下回る場合や使用する酸の濃度が10%を下回る場合は、粉砕ジルコニア粉末が完全に溶解できず未溶解の粉砕ジルコニア粉末として残渣になり、回収率が低下することになる。一方、温度が350℃を上回る場合や酸濃度が98%を上回る場合は、設定条件が非常に厳しくなる割には溶解効率が格段によくなるものではなく過剰条件となる。また、使用する酸の量が1Lを下回り、融剤の量が1kgを下回り、溶解時間が20分を下回る場合には、同様に、粉砕ジルコニア粉末が完全に溶解できず未溶解の粉砕ジルコニア粉末として残渣になり、回収率が低下することになる。一方、酸の量が20Lを上回り、融剤の量が10kgを上回り、溶解時間が180分を上回る場合にも、同様に、溶解効率が格段によくなるものではなく過剰条件となる。使用する酸の中で好ましいものは硫酸、融剤の中で好ましいものは硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、特に好ましいものは硫酸アンモニウムである。なお、本溶解工程で未溶解のまま残った粉砕ジルコニア粉末は、ろ過等で除去する。
(希釈工程)
上記溶解工程で得られた溶解液を水で希釈する工程である。得られた溶解液や融解物はpHが2以下、多くの場合pHが1以下の強酸であるので、当該希釈により次の前駆体調製工程で扱いやすいようにpHが4.0〜7.0の希釈液とするものである。希釈液の好ましいpHは5.0〜7.0、より好ましくは6.0〜7.0である。希釈に際しては、希釈による急激な発熱を避けるために、水中に当該溶解液を攪拌させながら徐々に滴下することが好ましい。
また、当該希釈工程において、希釈によるジルコニア濃度の低下を防ぎリサイクルジルコニア粉末の生産性を高めることを目的に、水の代わりにジルコニウム塩水溶液、ジルコニアゾル、ジルコニア分散液を用いて希釈することも可能である。さらには、水で希釈した後さらに、下記のように定義される未使用ジルコニア粉末、ジルコニア水酸化物、ジルコニア含水物を添加することも可能である。このとき、粉砕用ジルコニア材料の組成と同じになるように、当該ジルコニウム塩、ジルコニアゾル、未使用ジルコニア粉末の組成に前記のようなSc、Yb、Yを安定化剤として加えられているもの、あるいは安定化剤を別途単独で加えることが好ましい。
(前駆体調製工程)
上記希釈工程で得られた希釈液を、中和法、均一沈殿法、共沈法、加水分解法、水熱合成法または噴霧乾燥法等の公知の方法によりジルコニア粉末前駆体を調製する工程である。中和法とは、水酸化物が生成するpH領域に酸またはアルカリ溶液(本発明ではアルカリ溶液)を添加して水酸化物として沈殿させることにより粉体を合成する方法である。均一沈殿法とは、沈殿剤を溶液内で徐々に生成させ、沈殿剤の局所的不均一性をなくして沈殿物を生成させることにより粉体を合成する方法である。共沈法とは、2種の生成物を同時に液相中で生成・沈殿させることにより粉体を合成する方法であり、加水分解法とは、金属塩、金属イオンや金属アルコキシドを含む溶液に水を加えて、水酸化物や、HまたはOHとの配位化合物を合成する方法である。水熱合成法とは、気密容器または加圧装置の内部において、熱水、高圧水蒸気の雰囲気中で、酸化物を溶解した溶解液の反応性を利用して粉体合成する方法であり、噴霧乾燥法とは、粉体原料を含む溶液を高温中に噴霧し、瞬間的に熱分解反応をさせて粉体を得る方法である。
本発明では、希釈液が酸性であることから、アンモニア水等のアルカリ性溶液による中和法や共沈法や尿素等による均一沈殿法等が好適に選択され、特に、特許公報1613619号に開示されているようなアンモニア水による沈殿生成物を流通式反応方法で反応時中のpHを一定に保ちつつ連続的に行うことにより沈殿を形成させる方法が好ましい。これら方法によってジルコニア水酸化物等の沈殿物を生成し、該沈殿物を通常のろ過や限外ろ過によって沈殿物をフィルタープレス等で脱水しながら分離回収し、これをさらに60〜100℃で乾燥してリサイクルジルコニア粉末前駆体を得る。該沈殿物には溶解工程で使用された酸のCl、NO 、SO 2−、融剤のNa、K、NH 等のイオンが不純物として含まれているので、それらを十分に洗浄、除去するために限外ろ過することが好ましい。
(仮焼工程)
上記前駆体調製工程で得られた前駆体を仮焼する工程である。仮焼の条件、特にその温度は求めるリサイクルジルコニア粉末の比表面積によって決定されるが、一般的に500〜1100℃、ハンドリングに適した比表面積である3〜30m/gに調整するためには好ましくは600〜1000℃である。また、仮焼時間は、1〜20時間であり、好ましくは2〜10時間である。仮焼の雰囲気は、酸素濃度が1〜21%の酸化性ガス雰囲気であり、好ましくは空気雰囲気である。
以上の工程を順に行うことにより当該リサイクルジルコニア粉体を得ることができるが、適宜各工程の間に他の工程を加えてもよい。例えば、仮焼後のリサイクルジルコニア粉末を、その後の取扱いをさらに容易にするために、噴霧乾燥して球状に弱く凝集した粉末にすることが好ましい。
本発明の第二発明は、上記第一発明の方法で製造される平均粒子径が0.01〜1μm、比表面積が3〜30m/gであることを特徴とするリサイクルジルコニア粉末である。当該リサイクルジルコニア粉末の平均粒子径は0.1〜0.8μmがさらに好ましく、0.2〜0.7μmが特に好ましい。また、当該リサイクルジルコニア粉末の比表面積は公知のBET法により測定したものであり、5〜20m/gがさらに好ましく、7〜15m/gが特に好ましい。
当該リサイクルジルコニア粉末の組成・組成比は、その原料となる粉砕用ジルコニア焼結体と同組成・同組成比であることが好ましく、その場合には上記に記載したように、MgO、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物;Y、La、CeO、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb等の希土類金属酸化物;Sc、Bi、In等その他の金属酸化物など安定化剤として加えたジルコニアが好ましい。これらから1種または2種以上を選択した単独または混合物であってもよい。これらの中でも、燃料電池用の固体電解質として使用する場合の組成は、例えば、3〜10モル%のY、4〜12モル%のScまたは4〜15モル%のYbで安定化されたジルコニアが好ましく、特に、8〜10モル%のY、8〜12モル%のScまたは8〜15モル%のYbで安定化された立方晶系ジルコニアが好適である。さらに0.01〜5質量%程度のAl、Ga、SiO、Bi、TiO、CeO等が添加されたジルコニアを例示することができる。なお、本発明のリサイクルジルコニア中に含まれる不純物には、粉砕用ジルコニア焼結体に最初から含まれている酸化物表記でAl、SiO、TiO、Fe、NaO等の成分や、前記粉砕工程で混入するSO、Cl、WO、CoO、Fe、Cr、NaO、KO等の成分があるが、いずれも、0.3質量%未満、好ましくは0.1質量%未満、特に好ましくは0.01質量%未満である。
また、希釈工程において、ジルコニウム塩水溶液、ジルコニアゾル、ジルコニア分散液を添加して得た希釈液の場合や、水で希釈した後さらに、未使用ジルコニア粉末、ジルコニア水酸化物、ジルコニア含水物を添加した場合、得られたリサイクルジルコニア粉末の組成比は、粉砕用ジルコニア焼結体の組成比から外れることがある。リサイクルジルコニア粉末としての使用目的に合えば、粉砕用ジルコニア焼結体の組成比から外れても格段問題はないが、粉砕用ジルコニア焼結体が固体酸化物形燃料電池用の電解質として使用されたもので有り、これを再利用して得たリサイクルジルコニア粉末を固体酸化物形燃料電池用の電解質の原料粉末として使用する場合には、粉砕用ジルコニア焼結体の組成比に会うように調整する必要がある。この場合、前記のようなSc、Yb、Yを安定化剤として別途単独で加えたり、これらの塩の水溶液、ゾル、分散液を上記ジルコニウム塩水溶液、ジルコニアゾル、ジルコニア分散液に添加することが好ましい。
本発明の第三発明は、第二発明により得られるリサイクルジルコニア粉末を原料ジルコニア粉末として、あるいは当該リサイクルジルコニア粉末と未使用ジルコニア粉末とからなる粉末を原料ジルコニア粉末としてジルコニア焼結体を製造するものである。好ましくは、原料ジルコニア粉末をドクターブレード法または押出成形法でシート状に成形したジルコニア焼結体シートの製造方法である。
本発明で言う未使用ジルコニア粉末とは、当該ジルコニア焼結体の製造用の粉末として用いていないものであり、ジルコニアを含むものであれば何れのものであっても良く、ジルコニアのみならず、含水物や水酸化物等を乾燥または焼成しジルコニア粉末となるものであっても良いが、好ましくはジルコニア粉末である。未使用ジルコニア粉末の組成・組成比は、粉砕用ジルコニア焼結体と同一であることが好ましい。これらジルコニア粉末、ジルコニア含水物、ジルコニア水酸化物等は市販のものを使用することができる。未使用のジルコニア粉末は、平均粒子径が0.01〜2μm、好ましくは0.1〜1μmであり、比表面積は、3〜30m/g、好ましくは5〜20m/gである。原料ジルコニア粉末が、当該リサイクルジルコニア粉末と未使用ジルコニア粉末とからなる場合、その割合は特に限定されないが、原料粉末中のリサイクルジルコニア粉末が2〜98質量%、未使用ジルコニア粉末が98〜2質量%、好ましくはリサイクルジルコニア粉末が5〜50質量%、未使用ジルコニア粉末が95〜50質量%、特に好ましくはリサイクルジルコニア粉末が10〜30質量%、未使用ジルコニア粉末が90〜70質量%である。
以下、ジルコニア焼結体として、ジルコニアシートの製造方法についてその工程を詳細に説明する。
(1)原料スラリーまたは原料混練物の調製
先ず、当該原料ジルコニア粉末、溶媒、バインダー、可塑剤等を混合し、原料スラリーまたは原料混練物を調製する。原料スラリーまたは原料混練物に用いられるバインダーの種類にも格別の制限はなく、従来から知られた有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系およびメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース類等が例示される。これらの中でも、ジルコニアグリーンシートの成形性や打抜き加工性、強度、焼成時の収縮率バラツキを抑制する観点から、熱可塑性で、且つ数平均分子量が20,000〜250,000、より好ましくは50,000〜200,000の(メタ)アクリレート系共重合体が好ましいものとして推奨される。
原料ジルコニア粉末とバインダーの使用比率は、前者100質量部に対して後者5〜30質量部が好ましく、より好ましくは後者10〜20質量部の範囲である。バインダーの使用量が不足する場合は、ジルコニアグリーンシートの成形性が低下し、また、強度や柔軟性が不十分となる。逆に多過ぎる場合はスラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、脱脂・焼結時のバインダー成分の分解放出が多く且つ激しくなって収縮率のバラツキも大きくなり、寸法バラツキの小さなシートが得られ難くなり、また、バインダーの熱分解が不十分となり、バインダー成分の一部が残留カーボンとして残留し易くなる。
使用される溶媒としては、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が挙げられ、これらから適宜選択して使用する。これらの溶媒も単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用することができる。これら溶媒の使用量は、ジルコニアグリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して適当に調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が1〜50Pa・s、より好ましくは2〜20Pa・sの範囲となる様に調整するのがよい。
原料スラリーまたは原料混練物の調製に当たっては、ジルコニア原料粉末の解膠や分散を促進するため、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質;クエン酸、酒石酸等の有機酸;イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩等からなる分散剤;セラミックグリーンシートに柔軟性を付与するためのフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類;プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステル等のポリエステル系からなる可塑剤など;さらには界面活性剤や消泡剤などを必要に応じて添加することができる。
原料スラリーまたは原料混練物は、上記成分を適量混合することにより調製する。その際、各粒子の微細化や粒子径を均一化するために、ボールミル等により粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
(2)ジルコニアグリーンシートの製造
次に、上記のようにして得られた原料スラリーまたは原料混練物を成形する。成形方法は特に制限されないが、ドクターブレード法や押出成形法を用いて、適切な厚さのシートとすることが好ましい。その後、乾燥することによりジルコニアグリーンシートとする。乾燥条件は特に制限されず、例えば室温〜150℃の一定温度で乾燥してもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
得られたジルコニアグリーンシートは、任意の方法で適当な大きさに打抜き若しくは切断加工してもよい。このグリーンシートの形状としては、円形、楕円形、角形、R(アール)を持った角形など何れでもよく、これらのシート内に同様の円形、楕円形、角形、Rを持った角形などの穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。また、グリーンシート厚も特に制限されるものではないが、例えば35〜1000μm程度とすることがきる。
なお、ジルコニアグリーンシートの表面粗さは、使用する原料ジルコニア粉末や原料スラリー、原料混練物等の粒度分布に依存するが、ドクターブレード法によるテープキャスティングの場合、必要に応じて比較的容易に調整することができる。例えば、粗化したPETフィルム上にキャスティング等や、キャスティング後に表面を粗くした粗化用シートあるいは金型をグリーンシートに押圧すればよい。押出成形法によりセラミックグリーンシートを得た場合でも同様である。なお、セラミックグリーンシートの表面粗さとしては、一般的には、Raで0.01〜6μmの範囲が好適である。
(3)グリーンシートの焼成
ジルコニアグリーンシートを焼成する際には、1枚づつ棚板に当該グリーンシートを載置して焼成することも可能であるが、量産化のために当該ジルコニアグリーンシートと多孔質スペーサーシートとを交互に積み重ねた積層体として焼成することが好ましい。通常は再下段にスペーサーシートを置き、その上にジルコニアグリーンシートとスペーサーシートを交互に積み重ね、再上段にはスペーサーシートを載せる。再下段のスペーサーシートはジルコニアグリーンシートと棚板との接合を防ぎ、再上段のスペーサーシートは重しとなりジルコニアグリーンシートの反りやうねりの発生を低減する。
具体的な焼成の条件は特に制限されず、常法によればよい。例えば、当該ジルコニアグリーンシートからバインダーや可塑剤等の有機成分を除去するために150〜600℃、好ましくは250〜500℃で5〜80時間程度処理する。次いで、1000〜1600℃、好ましくは1200〜1500℃で2〜10時間保持焼成することによりジルコニア粉末を焼結し、本発明の厚さが0.03〜0.5mmのジルコニア焼結体シートを得る。その全面積は5〜2000cm、好ましくは50〜1000cm、さらに好ましくは100〜500cmである。
かくして得られる本発明のジルコニア焼結体シートは、厚さが0.03〜0.5mmであり、理論密度に対するアルキメデス法で測定した密度の相対密度が93%以上、好ましくは95%以上であり、3点曲げ強度も、ジルコニアの結晶構造が正方晶系のものは、800MPa以上、好ましくは900MPa以上、特に好ましくは1000MPa以上であり、立方晶系のものは、300MPa以上、好ましくは350MPa以上、特に好ましくは400MPa以上であり、未使用ジルコニア粉末を用いて製造したジルコニア焼結体シートと同等の強度を有するものである。
本発明の第五発明は、第四発明で得られたジルコニア焼結体を、固体酸化物形燃料電池用電解質として用いたものである。固体酸化物形燃料電池用電解質は、シート状である場合にはその厚さが0.03〜0.5mmであり、その全面積は5〜2000cm、好ましくは50〜1000cm、さらに好ましくは100〜500cmである。固体酸化物形燃料電池用電解質として使用されるときには、当該電解質の一方の面に燃料極、他方の面に空気極が形成され、また、必要に応じて、電解質材料と燃料極材料または電解質材料と空気極材料との反応を防止するために、電解質の一方の面あるいは両方の面に中間層が形成されるのが一般的である。そこで、電解質と燃料極、空気極、中間層との接合力を高めそれらの電解質からの剥離を防止するために、当該固体酸化物形燃料電池用電解質表面にアンカー効果を付与する表面粗さをもたせることが好ましく、その粗さはRaで0.1〜3μm、好ましくは0.3〜2μm、さらに好ましくは0.5〜1.5μmである。
本発明の第六発明は、第四発明にかかるジルコニア焼結体または第五発明にかかる固体酸化物形燃料電池用電解質を用いた固体酸化物形燃料電池である。当該ジルコニア焼結体または固体酸化物形燃料電池用電解質を用いて燃料電池とする一般的な手段を用いることができるが、好ましくは、ジルコニア焼結体シートまたは当該固体酸化物形燃料電池用電解質の一面に、燃料極材料となるNi、Co、Ru等と上記の安定化ジルコニアおよび/またはイットリア、サマリア、ガドリア等でドープされたセリア系酸化物のサーメットが好適に使用される。特に好ましくは、Niと9〜12モル%Sc安定化ジルコニアからなるサーメットである。これら燃料極材料をエチルセルロース等のバインダー、α−テルピネオール等の溶剤とともに混練して燃料極ペーストを、あるいはミリングして燃料極スラリーを調製し、これをスクリーン印刷法、コーティング法などで被覆・乾燥・焼成することで燃料極を得ることができる。次いで、ジルコニア焼結体または当該固体酸化物形燃料電池用電解質の燃料極と反対の面に、空気極材料となるランタンマンガナイト、ランタンコバルタイトやランタンフェライトのランタンの一部が、セリウム、サマリウム、プラセオジウムなどの他の希土類元素やストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウムなどのアルカリ土類元素などで置換された、および/またはマンガン、コバルト、鉄の一部が銅、ニッケルなどで置換されたペロブスカイト構造酸化物、さらには、これらペロブスカイト型酸化物に、Gd、YおよびSmから選択される少なくとも1種の酸化物を10〜35モル%含むセリア系酸化物、または、8〜10モル%のYを含むイットリア安定化ジルコニアもしくは9〜12モル%のScを含むスカンジア安定化ジルコニア加えた混合物が好適に使用される。上記燃料極の場合と同様に、空気極ペーストあるいは空気極スラリーを調製し、これをスクリーン印刷法、コーティング法などで被覆・乾燥・焼成することで空気極を得ることができる。当該ジルコニア焼結体または固体酸化物形燃料電池用電解質と空気極と燃料極とにより固体酸化物形燃料電池が形成される。なお、燃料極、空気極の製造の順は特には限定されるものではない。また、固体電解質と空気極との間に、これらの固相反応防止のために、上記セリア系酸化物がそれらの中間層として存在していてもよい。さらには、燃料極とセパレータとの間に生じる隙間を埋めて両者間の密着度を向上させ、これにより接触抵抗を減じ、集電効率を向上させるなどの目的で、Ni粉体、Ni合金粉体、Pt粉体、Pt合金粉体、Ag粉体、Ag合金粉体、Au粉体、Au合金粉体などからなる燃料極コンタクト層や、同じく空気極とセパレータとの間に生じる隙間を埋めて両者間の密着度を向上させ、これにより接触抵抗を減じ、集電効率を向上させるなどの目的で、Ag粉体もしくはAg合金粉体および/または上記ぺロブスカイト型酸化物などからなる空気極コンタクト層や形成されていてもよい。
上記のように当該ジルコニア焼結体シートまたは固体酸化物形燃料電池用電解質と空気極と燃料極とにより固体酸化物形燃料電池が形成される。なお、燃料極、空気極の製造の順は特には限定されるものではない。
以下に本発明を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
<参考例1>
粉砕用ジルコニア焼結体シートの製造
市販の8モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(東ソー株式会社製、商品名「TZ−8YS」、平均粒子径:0.52μm、比表面積:8.5m2/g、以下8YSZと記す)100質量部、溶媒であるトルエン/イソプロパノール混合液(トルエン/イソプロパノール質量比=3/2)50質量部、および分散剤であるソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤2質量部との混合物を、ボールミルを用いて粉砕しつつ混合した。当該混合物へ、バインダーとしてメタクリレート系共重合体(数平均分子量:100,000、ガラス転位温度:−8℃、固形分濃度:50%)を固形分換算で15質量部と、可塑剤であるジブチルフタレート3質量部を添加し、さらにボールミルにより混合してスラリーとした。得られたスラリーを濃縮脱泡し、25℃での粘度を3Pa・sに調整し、塗工用スラリーとした。
この塗工用スラリーをドクターブレード法によりPETフィルム上に塗工し、塗工部に続く乾燥機(50℃、80℃、110℃の3ゾーン)中を0.2m/分の速度で通過させて乾燥し、スリッターで切断して幅150mm、長さ200m、厚さ320μmの長尺ジルコニアグリーンシートを得た。この長尺グリーンシートを120mm角づつに切断して、120mm角のジルコニアグリーンシート1800枚を得た。
次いで、アルミナ多孔質シート(気孔率:45%、厚さ:0.2mm、寸法:15cm角)を2枚重ねて載置した焼成用棚板上に、上記で得たジルコニアグリーンシートを1枚重ね、その上にスペーサーとして多孔質シートを重ね、同様にしてさらに交互に9枚ずつジルコニアグリーンシートと多孔質シートを重ね合わせ、最後に最上層のスペーサーの上にムライト・アルミナ製の重し用治具(気孔率60%、嵩比重:1.3)を載置した。このようにしてジルコニアグリーンシートを9枚重ね合わせたものを合計1800枚大気雰囲気下で、1425℃で3時間焼成し、約90mm角、厚さ270μmの8YSZ焼結体シートを得た。
参考に、当該8YSZ焼結体シートの物性を測定すると、シート理論密度に対するアルキメデス法による密度から求めた気孔率は97.2%、JIS−1601に準拠した焼結体シートの3点曲げ強度試験による強度の20枚の平均値は348MPaであった。
<実施例1>
a)粉砕工程
上記参考例1で得られた8YSZ焼結体シートを、カッティングミル(フリッチュ社製、型式「P−25」、篩目:0.75mm梯形目)に順次投入し、回転数2800rpmで回転刃付きローターを回転させて1次粉砕し、受け皿にジルコニア粉末を回収した。この時の回収率は98%であった。得られた1次粉砕ジルコニア粉末の平均粒子径、95体積%粒子径、最大粒子径をレーザー回折/散乱粒度分布測定装置(堀場製作所製:型式「LA―920」)を用いて測定した。
次いで、1次粉砕ジルコニア粉末を、振動式試料供給装置から連続的に高速ローターミル(フリッチュ社製、型式「P−14」、篩目:0.12mm梯形目)に投入し、回転数20000rpmで12枚刃のローターを回転させて粉砕し、ジルコニア粉末を回収した。この時の回収率は96%であった。得られた2次粉砕ジルコニア粉末の平均粒子径は 6.9μm、95体積%粒子径は15.7μm、最大粒子径は30μmであった。
b)溶解工程
上記粉砕工程で得られた粉砕ジルコニア粉末100gを平底白金皿に入れ、次いで、市販の硫酸(98%)500mLと市販の硫酸アンモニウムを200g入れた。これに上蓋をして250℃で1時間加熱してペースト状の融解物を得た。これを10%硫酸で洗い流して溶解液を得た。この溶解液中のジルコニア固形分濃度は10%、そのpHは1以下であった。
c)希釈工程
攪拌機付き反応槽に蒸留水を入れ、シールレスポンプによりオーバーフロー管を通し循環させた。この反応層に上記溶解工程で得られた溶解液を徐々に滴下してジルコニアとしての濃度が0.5モル/Lまで希釈した。
d)前駆体調製工程
希釈工程で使用した反応槽とは別の攪拌機付き反応槽に蒸留水を入れ、シールレスポンプによりオーバーフロー管を通し循環させた。これに硫酸を加えてpH5.5とした。上記希釈工程で得られた希釈液を毎分50mLの割合で、またアンモニア水(28質量%水溶液)を毎分40mLの割合でそれぞれ攪拌中の反応槽に定量ポンプで注入しながらオーバーフロー管より反応液の一部を流出させる流通方式によって反応槽内のpHは5.5±0.5に保ちつつ中和沈殿生成反応を行った。流出液中の水酸化物を限外ろ過機でろ過分離し水洗することによって硫酸アンモニウム等を除去した後、ロータリーフィルタープレス機で水分を除去して、120℃で20時間乾燥してジルコニア前駆体を調製した。
e)仮焼工程
上記前駆体調製工程で得られたジルコニア前駆体を800℃で5時間仮焼することにより比表面積が12m2/g、平均粒子径が0.3μm、95体積%径が1.0μm、最大粒子径が1.5μmの8YSZリサイクルジルコニア粉末を得た。
<参考例2>
粉砕用ジルコニア焼結体シートの製造
市販のスカンジア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学工業製、商品名「10Sc1CeSZ」、平均粒子径:0.60μm、比表面積:10.8m/g、以下10Sc1CeSZと記す)を用い、バインダー量を16質量部とした以外は実施例1と同様にして、約90mm角、厚さ約240μmの10Sc1CeSZ焼結体シートを1800枚製造した。
参考に、当該10Sc1CeSZ焼結体シートの物性を測定すると、シート理論密度に対するアルキメデス法による密度から求めた気孔率は97.9%、JIS−1601に準拠した焼結体シートの3点曲げ強度試験による強度の20枚の平均値は381MPaであった。
<実施例2>
a)粉砕工程
得られたシートを、カッティングミル(フリッチュ社製、型式「P−25」、篩目:0.75mm梯形目)に順次投入し、回転数2800rpmで回転刃付きローターを回転させて粉砕し、受け皿に1次粉砕ジルコニア粉末を回収した。この時の回収率は94%であった。このジルコニア粉末の平均粒子径、95体積%粒子径、最大粒子径を測定した。
さらに、回収した1次粉砕ジルコニア粉末を振動式試料供給装置から連続的に高速ローターミル(フリッチュ社製、型式「P−14」、篩目:0.12mm梯形目)に投入し、回転数20000rpmで12枚刃のローターを回転させて粉砕し、ジルコニア粉末を回収した。この時の回収率は93%であった。得られた2次粉砕ジルコニア粉末の平均粒子径、95体積%粒子径、最大粒子径を同様に測定した。
次いで、2次粉砕ジルコニア粉末を、5mmφジルコニアビーズが入った500mLのジルコニア製ポットに100g入れ、さらに蒸留水150gを入れて、遊星ミル(フリッチュ社製、型式「P−5」)に装着し、300rpmで30分間回転させて、1次湿式粉砕した。さらに、5mmφジルコニアビーズを1mmφジルコニアビーズに取り替えて同様に300rpmで30分間回転させて2次湿式粉砕を行った。粉砕後、ガラスフィルターを通して粉砕ジルコニア粉末を分離・回収し、さらに、80℃で5時間乾燥させてリサイクルジルコニア粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は0.9μm、95体積%粒子径は6.1μm、最大粒子径は10μm、比表面積は2.3m/gであった。
b)溶解工程
上記粉砕工程で得られた粉砕ジルコニア粉末200gを平底白金皿に入れ、次いで、市販の硫酸(98%)500mLと市販の硫酸アンモニウムを200g入れた。これに上蓋をして250℃で1時間加熱してペースト状の融解物を得た。これを10%硫酸で洗い流して溶解液を得た。この溶解液中のジルコニア固形分濃度は10%、そのpHは1以下であった。
c)希釈工程〜e)仮焼工程
希釈工程〜前駆体調製工程は実施例1と同様に行った。仮焼工程は上記前駆体調製工程で得られたジルコニア前駆体を950℃で2時間仮焼し、その仮焼粉体をスプレードライ機で噴霧乾燥して弱く凝集したほぼ球状で、比表面積が8.8m/g、平均粒子径が0.6μm、95体積%径が1.1μm、最大粒子径が1.4μmの10Sc1CeSZリサイクルジルコニア粉末を得た。
<実施例3>
実施例1で得た8YSZリサイクルジルコニア粉末を原料ジルコニア粉末として用いた以外は、参考例1の粉砕用ジルコニア焼結体シートの製法と全く同様にして8YSZ焼結体シート200枚を製造した。当該8YSZ焼結体シートの物性を測定すると、シート理論密度に対するアルキメデス法による密度から求めた気孔率は96.6%、JIS−1601に準拠した焼結体シートの3点曲げ強度試験による強度の20枚の平均値は335MPaであり、参考例1の未使用ジルコニア粉末を原料粉末とした焼結体シートとほぼ同性能であった。
<実施例4>
原料ジルコニア粉末として、実施例2で得た10Sc1CeSZリサイクルジルコニア粉末を用いた以外は参考例2の粉砕用ジルコニア焼結体シートの製法と全く同様にして10Sc1CeSZ焼結体シート200枚を製造した。当該10Sc1CeSZ焼結体シートの物性を測定すると、シート理論密度に対するアルキメデス法による密度から求めた気孔率は98.2%、JIS−1601に準拠した焼結体シートの3点曲げ強度試験によ強度の20枚の平均値は401MPaであり、参考例2の未使用ジルコニア粉末を原料粉末とした焼結体シートとほぼ同性能であった。
<実施例5>
実施例1で得たリサイクルジルコニア粉末50質量%と、参考例1の粉砕用ジルコニア焼結体シートの製造に用いた未使用の8YSZ粉末50質量%とを原料ジルコニア粉末とした以外は、参考例1と全く同様にして8YSZ焼結体シート200枚を製造した。シート理論密度に対するアルキメデス法による密度から求めた気孔率は97.1%、JIS−1601に準拠した焼結体シートの3点曲げ強度試験による強度の20枚の平均値は347MPaであった。
<実施例6>
原料ジルコニア粉末として、実施例2のリサイクルジルコニア粉末10質量%と、参考例2の粉砕用ジルコニア焼結体シートの製造に用いた未使用の10Sc1CeSZ粉末90質量%を原料ジルコニア粉末とした以外は、参考例2と全く同様にして10Sc1CeSZ焼結体シート200枚を製造した。シート理論密度に対するアルキメデス法による密度から求めた相対密度は98.4%、JIS−1601に準拠した焼結体シートの3点曲げ強度試験による強度の20枚の平均値は410MPaであった。
本発明は、ジルコニア焼結体の製造後に生じるジルコニア焼結体の再利用し、ジルコニア焼結体の製造に関するものである。

Claims (14)

  1. 粉砕用ジルコニア焼結体を用いてリサイクルジルコニア粉末を製造する方法において、
    (1)粉砕用ジルコニア焼結体を、粉砕してジルコニア粒子とする工程(粉砕工程)
    (2)粉砕工程で得られたジルコニア粒子を、酸で溶解する工程(溶解工程)
    (3)溶解工程で得られた溶解液を、水で希釈する工程(希釈工程)
    (4)希釈工程で得られた希釈液を、共沈法、加水分解法、水熱合成法または噴霧乾燥法によりジルコニア粉末前駆体を調製する工程(前駆体調製工程)
    (5)前駆体調製工程で得られた前駆体を、乾燥・仮焼してリサイクルジルコニア粉末とする工程(仮焼工程)
    を用いることを特徴とするリサイクルジルコニア粉末の製造方法。
  2. 当該粉砕工程において、粉砕用ジルコニア焼結体を粉砕してその最大粒子径が3〜5000μmの範囲の粉砕ジルコニア粉末とする請求項1記載のリサイクルジルコニア粉末の製造方法。
  3. 当該粉砕工程において、粉砕用ジルコニア焼結体は、Sc、Y、Ybから選択される少なくとも1種の酸化物で安定化されたジルコニアからなる請求項1または2に記載のリサイクルジルコニア粉末の製造方法。
  4. 当該粉砕工程において、粉砕用ジルコニア焼結体にジルコンサンドおよび/またはバデライトを加えてともに粉砕する請求項1〜3に記載のリサイクルジルコニア粉末の製造方法。
  5. 当該希釈工程において、当該溶解工程で得られた溶解液をpHが4.0〜7.0になるように希釈する請求項1に記載のリサイクルジルコニア粉末の製造方法。
  6. 当該希釈工程において、ジルコニウム塩、ジルコニアゾルおよびジルコニアからなる群から選択される少なくとも1種以上が希釈液に含まれる請求項1または5に記載のリサイクルジルコニア粉末の製造方法。
  7. 当該仮焼工程において、得られたジルコニア粉末前駆体を500〜1100℃で1〜20時間熱処理する請求項1に記載のリサイクルジルコニア粉末の製造方法。
  8. 請求項1〜7に記載のリサイクルジルコニア粉末が、Sc、Y、Ybから選択される少なくとも1種の酸化物で安定化されたジルコニアからなる粉末である請求項1〜7に記載のリサイクルジルコニア粉末の製造方法。
  9. 請求項1〜8に記載の方法を用いて得られるリサイクルジルコニア粉末の平均粒子径が0.01〜1μm、比表面積が3〜20m/gであることを特徴とするリサイクルジルコニア粉末。
  10. 請求項9に記載のリサイクルジルコニア粉末を原料ジルコニア粉末とし、または当該リサイクルジルコニア粉末と未使用ジルコニア粉末とからなる原料ジルコニア粉末として成形し、焼成して得られることを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
  11. 請求項9に記載のリサイクルジルコニア粉末を原料ジルコニア粉末とし、または当該リサイクルジルコニア粉末と未使用ジルコニア粉末とからなる原料ジルコニア粉末として、ドクターブレード法または押出成形法によってシートに成形した後、焼成して得られることを特徴とする厚さが0.03〜0.5mmのジルコニア焼結体シートの製造方法。
  12. 請求項10に記載の方法を用いて得られることを特徴とするジルコニア焼結体。
  13. 請求項12に記載のジルコニア焼結体を用いたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質。
  14. 請求項12に記載のジルコニア焼結体または請求項13に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質を用いたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
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