以下、この発明の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明にかかるクリップ検出回路を適用した自励式D級増幅器の構成例の概要を示すブロック図である。図1において、D級増幅器は、入力段増幅器1と、コンパレータ2と、スイッチ回路3と、ローパスフィルタ4と、該ローパスフィルタ4の出力をコンパレータ2へ負帰還する第1帰還回路5と、ローパスフィルタ4の出力を入力段増幅器1へ負帰還する第2帰還回路6と、クリップ検出部7と、コンプレッサ8とを含んで構成される。
クリップ検出部7は、自励式D級増幅器のクリップを検出するためのクリップ検出回路である。クリップ検出部7は、スイッチ回路3の後段から取り出したパルス幅変調信号がハイサイド及びローサイドの少なくともいずれか一方から他方に反転するまでの時間を計測し、該計測された時間が所定の閾値を超えたときに、クリップの発生を示すクリップ検出パルス信号を出力する。この発明は、詳しくは後述する通り、クリップ検出部7を充電時定数や電圧比較など簡単な回路により構成したことに特徴があり、また、該クリップ検出部7におけるクリップ発生の判断基準となる閾値の設定に特徴がある。
符号1〜6の部分が自励式D級増幅器の主たる構成要素である。D級増幅器の動作の要点は、入力端子10から入力されたアナログ音響信号(入力信号)をコンパレータ2でパルス幅変調信号に変換し、該パルス幅変調信号によりスイッチ回路3をオン/オフ制御し、スイッチ回路3から出力されたPWM信号をローパスフィルタ4でアナログ音響信号に復調し、該ローパスフィルタ4から出力されるアナログ音響信号(出力信号)を、例えばスピーカ等の負荷へ出力することにある。
入力段増幅器1は、差動アンプ9と、差動アンプ9の出力端子と負入力端子の間に挿入されたコンデンサC1により構成される。差動アンプ9の正入力端子には、入力段増幅器1の前段に挿入されたコンプレッサ8の出力端子が接続され、差動アンプ9の負入力端子は、第2帰還回路6を介してローパスフィルタ4の出力端子に接続される。
入力段増幅器1から出力される入力段出力信号(入力信号)は、コンパレータ2の正入力端子に入力される。また、コンパレータ2の負入力端子には、第1の帰還回路5を介して、ローパスフィルタ4の出力から取り出した帰還信号が入力される。コンパレータ2は、正入力端子から入力された入力段増幅器1の入力段出力信号と、負入力端子から入力された帰還信号を比較して、比較結果に基づくパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する。コンパレータ2は、入力段出力信号が帰還信号より大きい期間ではハイサイド(正の電圧値)のパルスを出力し、入力段出力信号が帰還信号より小さい期間ではローサイド(負の電圧値)のパルスを出力する。コンパレータ2により入力信号をPWM信号に変換することで、入力信号の振幅が表すレベル情報は、PWM信号のパルス幅が表す時間情報に変換される。
なお、コンパレータ2は、出力端子の信号を正入力端子に帰還する(正帰還をかける)ことにより、ヒステリシス特性を有するヒステリシスコンパレータとして構成される。したがって、コンパレータ2から出力されるPWM信号のパルスが正から負へ反転する場合の電圧値と、同パルスが負から正へ反転する場合の電圧値とに、オフセットΔだけ電圧差が生じる。具体的には、例えば、コンパレータ2からハイサイドのパルス(正の電圧値)が出力されている状態を仮定すると、その状態では入力信号>帰還信号である。その状態から、負入力端子の帰還信号の電圧値が徐々に増加すると、負入力端子の帰還信号の電圧値が或る値を超えた時点で、コンパレータ2から出力されるPWM信号は、ローサイドのパルスに反転する。その後、負入力端子の帰還信号の電圧値が徐々に減少すると、負入力端子の帰還信号の電圧値が或る値よりも下がった時点で、このコンパレータ2の出力がハイサイドのパルスに反転する。この時点で(PWM信号がローサイドからハイサイドに反転した時)の帰還信号の電圧値は、先に、PWM信号がハイサイドからローサイドに反転した時点での電圧値よりも、オフセットΔだけ下がった値となる。このことにより、ノイズなどのわずかの電圧差によってコンパレータ2の出力信号が反転してしまうことによって出力が不安定になることを防ぐことができるのは、周知の通りである。
コンパレータ2から出力されたPWM信号はスイッチ回路3に入力される。出力段のスイッチ回路3は、プッシュプル構成の2つのスイッチング素子と、この段に電源電圧を供給する図示外の正電源及び負電源を含んで構成される。スイッチング素子は、一般的にトランジスタ又はFETにより構成される。スイッチ回路3は、入力されたPWM信号のパルス幅に応じたインターバルで2つのスイッチング素子を交互にオン・オフすることで、電源が供給する電力を用いて電力増幅されたPWM信号を出力する。
スイッチ回路3の後段には、インダクタL1及びコンデンサC2からなるローパスフィルタ(LCフィルタ)4が接続されており、スイッチ回路3から出力されたPWM信号は該ローパスフィルタ4に入力される。ローパスフィルタ4は、スイッチ回路3から出力された電力増幅後のPWM信号の高域成分を除去して、該PWM信号からアナログ音響信号を復調する。増幅器の入力信号のレベルがゼロのときには、PWM信号のデューティー比(1周期に対するパルス幅の比)が50%となり、ローパスフィルタ4の出力信号のレベルもゼロである。増幅器に音響信号が入力されると、入力された音響信号のレベルに応じてPWM信号のパルス幅が変化し、その結果、ローパスフィルタ4の出力信号のレベルも該パルス幅の時間に比例して変化する。PWM信号の1周期に対してハイサイドのパルス幅が長ければローパスフィルタ4の出力信号は正側に振幅し、また、PWM信号の1周期に対してローサイドのパルス幅が長ければ、ローパスフィルタ4の出力信号は負側に振幅する。ローパスフィルタ4の出力信号(アナログ音響信号)は、出力端子11に接続された例えばスピーカ等の負荷へ出力される。
ローパスフィルタ4の出力信号は、第1帰還回路5を介して、コンパレータ2の負入力端子に入力される。第1帰還回路5は、抵抗R1及びコンデンサC3からなる遅延回路により構成される。第1帰還回路5は、コンパレータ2において自励発振方式でPWM変調を行うための負帰還として機能する。第1帰還回路5が持つ時間遅れによりPWM信号の自励発振周波数が決定される。
また、ローパスフィルタ4の出力信号は、第2帰還回路6を介して、差動アンプ9の負入力端子に入力される。第2帰還回路6は、抵抗R2,R3により構成される。すなわち、差動アンプ9の負入力端子には、スピーカ出力信号(ローパスフィルタ4の出力信号)とアースを抵抗R2,R3で分圧した電圧が入力される。第2帰還回路6により、入力段増幅器1から帰還回路5,6を含めたD級増幅器全体のゲインと周波数特性とが決定される。この第2帰還回路6は、スピーカへの出力電圧を、差動アンプ9の正入力端子への入力電圧に比例させるための負帰還として機能する。
なお、上記の入力段増幅器1、コンパレータ2、スイッチ回路3、ローパスフィルタ4、第1帰還回路5及び第2帰還回路6からなる自励式D級増幅器の構成は、従来から知られる構成であって、例えば、前記特許文献1等に開示されたものである。
図1の自励式D級増幅器において、入力段増幅器1の前段にはコンプレッサ8が挿入されている。コンプレッサ8は、入力された音響信号のダイナミックレンジを抑制する回路であって、入力された音響信号のレベルを、動的に変化するカレントゲインに基づいて、調整する効果(ゲイン減衰効果)を果たす。
コンプレッサ8は、一例として、ゲインパラメータ、スレッショルドパラメータ、レシオパラメータ、アタックパラメータ、およびリリースパラメータの5種類のパラメータを持つ。ゲインパラメータは、コンプレッサ8から出力される信号レベルのゲイン減衰効果が行われていない場合のコンプレッサ8のゲイン値を示すパラメータである。スレッショルドパラメータは、コンプレッサ8によるゲイン減衰効果を掛け始める閾値となるレベルを示すパラメータである。レシオパラメータは、前記閾値を超えた入力信号のレベルに対して施すゲイン減衰の割合を示すパラメータである。アタックパラメータは、入力信号のレベルが前記閾値を越えてからどのくらいの時間遅れでゲイン減衰効果を開始するかを示すパラメータである。また、リリースパラメータは、入力信号のレベルが前記閾値よりも小さくなった時点からどのくらいの時間遅れでゲイン減衰効果を終了させるかを示すパラメータである。
コンプレッサ8は、通常時(ゲイン減衰効果をかけていないとき)には、入力された音響信号のレベルを、ゲインパラメータの設定値に応じたカレントゲインで増幅する。入力信号のレベルがスレッショルドパラメータの値(閾値)を越えた場合には、該レベルが該閾値を越えた量にレシオパラメータの設定値を乗じた分だけカレントゲインの値が減衰されることにより、コンプレッサ8の出力信号のレベルが抑制される。入力信号のレベルが閾値を越えてから、カレントゲインにその超えた量に応じたゲイン減衰効果が生じるまでの反応速度はアタックパラメータの設定値に応じる。また、入力信号のレベルが前記閾値よりも小さくなったら、ゲイン減衰効果を終了して、上記通常時の動作に復帰する。レベルが閾値以下に下がってから、カレントゲインのゲイン減衰効果を終了する(ゲインパラメータに応じた通常のゲインに復帰する)までの反応速度はリリースパラメータの設定値に応じる。なお、一般的な、コンプレッサ8のパラメータ設定によれば、アタックパラメータの設定値はリリースパラメータの設定値よりも大きい値に設定される。
図1の自励式D級増幅器に備わるコンプレッサ8は、上記の一般的な動作に加えて、クリップ検出部7からクリップ検出パルス信号が入力されたときに、該クリップ検出パルス信号のパルス幅が表す時間長に応じてカレントゲインの値を減衰させる制御を行う。すなわち、コンプレッサ8は、クリップ検出部7によりクリップ発生が検出されたときに、入力段で信号のレベルを低減させることで出力段に発生するクリップを抑制する機能を果たす。具体的には、クリップ検出パルス信号がクリップの発生を示している間、所定の第1レートでコンプレッサのカレントゲインを減衰させ、クリップの発生なしを示している間、第1レートより遅い所定の第2レートでカレントゲインを通常のゲイン(ゲインパラメータの値)に復帰させる。この第1レートは、上述したアタックレートと同じであってよく、また、第2レートは、上述したリリースレートと同じであってよい。
図2はクリップ検出部7の詳細な構成の一例を示すブロック図である。クリップ検出部7は、大別して、正側パルス幅計測部20と、該正側パルス幅計測部20の計測結果に基づきクリップの発生を検出して正側クリップ検出信号を出力する正側クリップ検出信号発生部21と、負側パルス幅計測部30と、該負側パルス幅計測部30の計測結果に基づきクリップの発生を検出して負側クリップ検出信号を出力する負側クリップ検出信号発生部31とを含む。
前記図1に示す通り、この実施例では、クリップ検出部7に入力する信号の取り出しポイントはスイッチ回路3の出力点(ローパスフィルタ4の直前)である。クリップ検出部7の入力端子40には、スイッチ回路3から出力されたPWM信号が入力される。自励式D級増幅器では、クリップ検出部7に入力する信号の取り出しポイントによっては、信号を取り出すことによってその箇所での遅延時間に影響を与えてしまい、そのことにより自励発振周波数が変化してしまう恐れがある。この実施例のように、ローパスフィルタ4の直前から信号を取り出す構成は、自励発振周波数に与える悪影響が少ないという点で好ましい。
正側パルス幅計測部20は、第1ダイオード22と、第1トランジスタ23と、第1コンデンサ24と、プルアップ抵抗R7を介して接続された負電源25を含んで構成され、クリップ検出部7に入力されたPWM信号(スイッチ回路3の出力信号)のハイサイドのパルス(正の電圧値)のパルス幅を計測する。PWM信号の入力端子40は、抵抗R4を介して第1ダイオード22のアノード端子に接続されており、該第1ダイオード22のカソード端子は基準電圧(0V)となるグラウンドに接続される。この第1ダイオード22はPWM信号のローサイドのパルス(負の電圧値)を抽出する回路を構成する。
第1トランジスタ23はPNP型トランジスタで構成されている。第1トランジスタ23のベース端子はベース抵抗R5を介して前記ダイオード22のアノード端子に接続されており、該ベース端子からPWM信号のローサイドのパルスが入力される。また、第1トランジスタ23のコレクタ端子は負電源25の電源ラインに接続されており、トランジスタ23のエミッタ端子はグラウンドに接続される。第1トランジスタ23は、PWM信号に応じてオン・オフが切り替わるスイッチ素子であって、第1ダイオード22で抽出されたローサイドパルスがベース端子に入力されているときにオン状態となり、PWM信号がハイサイドのパルスのときにはオフ状態である。
第1コンデンサ24は、第1トランジスタ23のコレクタ‐エミッタ間に挿入されており、一方の端子はグラウンドに接続され、もう一方の端子は負電源25の電源ラインに接続される。この第1コンデンサ24に並列に抵抗R6が接続される。負電源25は第1コンデンサ24に対する充電電圧を供給している。第1コンデンサ24の端子間電圧Vpは、第1コンデンサ24が負電源25によって充電される時間の長さに応じて、グラウンドレベル(0V)から負電源25が供給する所定の負電圧値の範囲で変化する。この端子間電圧Vpは、正側パルス幅計測部20の出力電圧(抵抗R6の端子間電圧)に相当する。
正側クリップ検出信号発生部21は、第1コンデンサ24の後段に接続されたコンパレータにより構成される。コンパレータ21の負入力端子は接続点Pで第1コンデンサ24と接続され、該負入力端子には接続点Pから取り出された出力電圧Vpが入力される。また、コンパレータ21の正入力端子には所定の閾値電圧Vtpが入力される。閾値電圧Vtpは、図示外の負電源から与えられる所定のレベルの負電圧であって、クリップ発生を判断する基準となる閾値を決める1要素である。コンパレータ21は、負入力端子から入力された出力電圧Vpと、正入力端子から入力された閾値電圧Vtpを比較して、比較結果に応じたパルス信号を出力する。すなわち、出力電圧Vpが閾値電圧Vtpよりも低いとき(絶対値Vpが絶対値Vtpよりも大きいとき)には、PWM信号のハイサイドのパルスにおけるクリップの発生を検出したものと判断して、正側クリップ検出信号に相当するハイサイドのパルス(2進数で表現すると「1」)を出力する。一方、出力電圧Vpが閾値電圧Vtpよりも高いとき(絶対値Vpが絶対値Vtpよりも小さいとき)には、ローサイドのパルス(2進数で表現すると「0」)を出力する。
負側パルス幅計測部30は、第2ダイオード32と、第2トランジスタ33と、第2コンデンサ34と、プルアップ抵抗R11を介して接続された正電源35を含んで構成され、クリップ検出部7に入力されたPWM信号(スイッチ回路3の出力信号)のローサイドのパルス(負の電圧値)のパルス幅を計測する。PWM信号の入力端子40は、抵抗R8を介して第2ダイオード32のカソード端子に接続され、該第2ダイオード32のアノード端子はグラウンドに接続される。第2ダイオード32はPWM信号のハイサイドのパルス(正の電圧値)を抽出する回路を構成する。
第2トランジスタ33はNPN型トランジスタで構成されている。第1トランジスタ23のベース端子はベース抵抗R9を介して前記ダイオード22のカソード端子に接続されており、該ベース端子からPWM信号のハイサイドのパルスが入力される。また、第2トランジスタ33のコレクタ端子は正電源35の電源ラインに接続されており、第2トランジスタ33のエミッタ端子はグラウンドに接続される。第2トランジスタ33は、PWM信号に応じてオン・オフが切り替わるスイッチ素子であって、第2ダイオード32で抽出されたハイサイドパルスがベース端子に入力されているときにオン状態となり、PWM信号がローサイドのパルスの状態ではオフ状態である。
第2コンデンサ34は、第2トランジスタ33のコレクタ‐エミッタ間に挿入されており、一方の端子はラウンドに接続され、もう一方の端子は正電源35の電源ラインに接続される。この第2コンデンサ34に並列に抵抗R10が接続される。正電源35は第2コンデンサ34に対する充電電圧を供給している。第2コンデンサ34の端子間電圧Vmは、第2コンデンサ34が正電源35によって充電される時間の長さに応じて、グラウンドレベル(0V)から正電源35が供給する所定の正電圧値の範囲で変化する。この端子間電圧Vmは、負側パルス幅計測部30の出力電圧(抵抗R10の端子間電圧)に相当する。
負側クリップ検出信号発生部31は、第2コンデンサ34の後段に接続されたコンパレータにより構成される。コンパレータ31の正入力端子は接続点Mで第2コンデンサ33と接続され、該正入力端子には接続点Mから取り出された出力電圧Vmが入力される。また、コンパレータ31の負入力端子には所定の閾値電圧Vtmが入力される。閾値電圧Vtmは、図示外の正電源から与えられる所定のレベルの正電圧であって、クリップ発生を判断する基準となる閾値を決める1要素である。コンパレータ31は、正入力端子から入力された出力電圧Vmと、負入力端子から入力された閾値電圧Vtmを比較して、比較結果に応じたパルス信号を出力する。すなわち、出力電圧Vmが閾値電圧Vtmよりも高いとき(絶対値Vmが絶対値Vtmよりも大きいとき)には、PWM信号のローサイドのパルスにおけるクリップの発生を検出したものと判断して、負側クリップ検出信号に相当するハイサイドのパルス(2進数で表現すると「1」)を出力する。一方、出力電圧Vmが閾値電圧Vtmよりも低いとき(絶対値Vmが絶対値Vtmよりも小さいとき)には、ローサイドのパルス(2進数で表現すると「0」)を出力する。
コンパレータ21及びコンパレータ31の各出力端子は、オア回路41の2つの入力端子のそれぞれに接続される。オア回路41は、コンパレータ21又はコンパレータ31のいずれか一方の出力が「1」である期間、クリップ検出パルス信号に該当する電圧値(2進数で表現すると「1」)をコンプレッサ8(図1参照)に出力し、それ以外の場合は2進数で表現すると「0」に該当する電圧値を出力する。
上記構成からなるクリップ検出部7において、入力されたPWM信号がハイサイドのときには、第2トランジスタ33がオンになり、第1トランジスタ23はオフになる。この状態で、正側パルス幅計測部20の第1コンデンサ24は、負電源25が供給する負電源電圧により充電される。第1コンデンサ24は、PWM信号のハイサイドのパルスが立ち上がってから該パルスがローサイドに反転するまでの期間、負電源25により充電される。よって、PWM信号のハイサイドのパルスが持続する期間は、第1コンデンサ24の端子間電圧である出力電圧Vpのレベルは負側に低下する(出力電圧Vpの絶対値が上昇する)。PWM信号のハイサイドのパルスが持続する期間が或る一定時間以上続くと、出力電圧Vpは閾値電圧Vtpよりも低くなる(絶対値Vpが絶対値Vtpを越える)。したがって、閾値電圧Vtpに対応する或る一定時間以上、PWM信号のハイサイドのパルスが継続すると、コンパレータ21(正側クリップ検出信号発生部)は、ハイサイドのパルス(2進数で表現すると「1」)を出力する。一方、この状態では、第2コンデンサ34の電位はグラウンドと等しいので、接続点Mの出力電圧Vmはグラウンドのレベル(0V)である。
また、入力されたPWM信号がローサイドのときには、第1トランジスタ23がオンになり、第2のトランジスタ33はオフになる。この状態では、負側パルス幅計測部30の第2コンデンサ34は、正電源35が供給する正電源電圧により充電される。第2コンデンサ34は、PWM信号のローサイドのパルスが立り下がってから該パルスがハイサイドに反転するまでの期間、正電源35により充電される。よって、PWM信号のローサイドのパルスが持続する期間は、第2コンデンサ34の端子間電圧である出力電圧Vmのレベルは正側に上昇する(出力電圧Vmの絶対値が上昇する)。PWM信号のローサイドのパルスが持続する期間が或る一定時間以上続くと、出力電圧Vmは閾値電圧Vtmよりも高くなる(絶対値Vmが絶対値Vtpを越える)。したがって、閾値電圧Vtmに対応する或る一定時間以上、PWM信号のローサイドのパルスが継続すると、コンパレータ31(負側クリップ検出信号発生部)は、ハイサイドの電圧値(2進数で表現すると「1」)を出力する。一方、この状態では、第1コンデンサ24の電位はグラウンドと等しいので、出力点pの出力電圧Vpはグラウンドのレベル(0V)である。
スイッチ回路3から出力されるPWM信号のハイ又はローのパルスが「一定時間」以上継続している間、正側クリップ検出信号発生部(コンパレータ)21又は負側クリップ検出信号発生部(コンパレータ)31が「1」を出力するので、オア回路41は前記PWM信号のハイ又はローのパルスが「一定時間」以上継続している間は、クリップ検出パルス信号(2進数で表現すると「1」)をコンプレッサ8に出力する。コンプレッサ8は、クリップ検出部7からクリップ検出パルス信号が入力されている間、カレントゲインを減衰させる制御を行うことで、入力信号のレベルを減少させる。クリップ検出パルス信号のパルス幅が表す時間が長いほど(つまり、スピーカ出力信号のレベルが大きいほど)、コンプレッサ8はカレントゲインを大きく減衰させる。
また、PWM信号にクリップが発生しない通常の状態では、正側クリップ検出信号発生部(コンパレータ)21に入力される出力電圧Vpが閾値Vtpよりも低下する前に、PWM信号のパルスがハイサイドからローサイドに反転し、また、負側クリップ検出信号発生部(コンパレータ)31に入力される出力電圧Vmの絶対値が閾値Vtmを越える前にローサイドからハイサイドに反転するので、正側クリップ検出信号発生部(コンパレータ)21又は負側クリップ検出信号発生部(コンパレータ)31のいずれの出力もローサイドのままである。したがって、オア回路41は「0」を出力する。
このクリップ検出部7において、クリップ発生を検出する判断基準となる「一定時間」は、コンデンサ24,34が持つ充電時定数と、電源25,35の供給する充電電圧と、閾値電圧Vtp,Vtmの組み合わせで決まる。クリップ発生判断基準の「一定時間」は、スイッチ回路3から出力されるPWM信号のハイサイド、及びローサイドの少なくとも一方がどのくらいの時間持続した場合に、クリップ又はそれに近い状態が発生するのかを判断する指標である。
図1の自励式D級増幅器では、自励発振周波数はスピーカ出力信号(音響信号)の電圧値に依存している。すなわち、自励式D級増幅器に入力された音響信号のレベルの変化によってスイッチ回路3から出力されるPWM信号のデューティーサイクルが変化すると、自励発振周波数も変化する。スピーカ出力信号のレベルが上昇すると自励発振周波数が低下してしまい、該スピーカ出力信号にクリップが発生する状態では、発振周波数はゼロ(直流)に近づいてしまう。つまり、クリップが発生する状態(音響信号のレベルが過大な状態)とは、自励式D級増幅器の入力信号のダイナミックレンジの上限であり、また、別の観点からすれば、自励発振周波数が許容される変動範囲の下限にまで低下している状態である。また、自励式D級増幅器において、入力信号のレベルがゼロのときの自励発振周波数は、数百kHz〜数MHzという高い周波数である。上記より、自励発振周波数の変動範囲が、自励式D級増幅器の入力信号のダイナミックレンジに対応していることが理解できる。
この発明のクリップ検出部7は、上記のような特性を持つ自励式D級増幅器において、自励式D級増幅器の入力信号のダイナミックレンジを十分確保できるようクリップ検出部7にクリップ発生判断基準となる閾値(「一定時間」)を設定することを1つの特徴としている。実験の結果、この入力信号のダイナミックレンジを十分確保するという要求を満たすクリップ発生判断基準の閾値には、増幅器に入力された音響信号のレベルがゼロのときの自励発振周波数の周期の10〜30倍程度の時間が適しているということがわかった。ここで、上記条件により規定される自励発振周波数の変動範囲は、前述の通り、自励式D級増幅器の入力信号のダイナミックレンジに対応しており、この条件ならば入力信号のダイナミックレンジを十分確保できる。この条件に従う閾値は25μ秒〜75μ秒である。ダイナミックレンジを大きく取るという観点からすれば、音響信号のレベルがゼロのときの自励発振周波数の周期に対する倍率を上記条件よりも更に大きくとり、前記自励発振周波数の周期の50倍程度の時間をクリップ発生判断基準の閾値として設定することが可能であろう。すなわち、クリップ検出部7においてクリップ発生判断基準となる閾値が、音響信号のレベルがゼロのときの自励発振周波数の周期の10〜50倍の範囲内の所定時間になるように、クリップ検出部7の充電時定数、充電電圧、および閾値電圧の組み合わせが決定される。
ところで、クリップ発生判断基準の閾値を50μ秒より長く設定すると、図1の自励式D級増幅器においては、自励発振周波数の下限が人間の可聴帯域(可聴帯域の上限は概ね15kHz〜20kHz程度)内に降りてきてしまう危険性が生じるという問題がある。この点に鑑みて、よりこの好ましくは、クリップ発生判断基準の閾値は、入力信号のレベルがゼロのときの自励発振周波数の周期の10倍以上、且つ、50μ秒以下の範囲内のいずれかの時間に設定するのがよいといえる。より安全性を高めるには、可聴帯域の上限との間にマージンを確保して、25μ秒〜30μ秒の範囲内の時間を、閾値に設定するのがよい。「一定時間」を30μ秒に設定した場合、自励発振周波数の変動範囲の下限は33kHzとなるので、自励発振周波数の下限が人間の可聴帯域に下がってくる危険性はない。また、この条件であれば、入力信号のレベルがゼロのときの自励発振周波数の周期の10倍以上を確保しているので、入力信号のダイナミックレンジも確保できている。
図3はクリップ検出部7の動作とコンプレッサ8の動作を説明するための波形図である。同図において、aは増幅器から出力される出力信号(アナログ音響信号)、bはスイッチ回路3から出力されるPWM信号、cは第1コンデンサ24の端子間電圧(出力電圧)Vp、dは第2コンデンサ34の端子間電圧(出力電圧)Vm、eはクリップ検出パルス信号(クリップ検出部7の出力信号)である。また、fは増幅器に入力される入力信号(アナログ音響信号)である。bで示すPWM信号は、音響信号(符号a及びf)のレベルが正又は負に大きいほどパルス幅が広くなり、音響信号のレベルがゼロに近いほどパルス幅が密になる。また、図3の波形では、eで示すクリップ検出パルス信号は、ローサイドの立下りパルス(負の電圧値)が、クリップ発生を示す信号(2進数で表現すると「1」)であり、ハイサイドのパルス(正の電圧値)が2進数で表現すると「0」に相当するものである。
図3において、例えば、スピーカ出力信号aの正側のレベルにクリップが生じている箇所(符号42で示す箇所)がある。PWM信号bのハイサイドのパルス幅が広がるにつれて、符号cで示す出力電圧Vpが負側に増加する様子が見て取れる。PWM信号bのハイサイドのパルス幅が前記クリップ発生判断の閾値(「一定時間」)を越えると、出力電圧Vpは閾値電圧Vtpを越えて、eで示すクリップ検出パルス信号の立下りパルス(2進数で表現すると「1」)が出力する。PWM信号bのハイサイドのパルス幅が前記閾値を越えている期間は、クリップ検出パルス信号のローサイドのパルスの出力が持続するので、コンプレッサ8は入力信号fに対するカレントゲインを減衰する制御を行う。この状態からPWM信号bの立ち下りパルスが入ると、出力電圧Vpはゼロになるので、クリップ検出パルス信号eはハイサイドのパルスに反転する。このとき、コンプレッサ8は、該クリップ検出パルス信号eに基づくカレントゲインの減衰制御を停止して、通常のゲイン(ゲインパラメータの値に応じたカレントゲイン)に復帰する制御を行う。
また、スピーカ出力信号aの負側のレベルにクリップが生じている箇所(例えば、符号43で示す箇所)では、PWM信号bのローサイドのパルス幅が広がるにつれて、符号dで示す出力電圧Vmが正側に増加する。PWM信号bのローサイドのパルス幅が前記「一定時間」を越えると、出力電圧Vmが閾値電圧Vtmを越えて、eで示すクリップ検出パルス信号の立下りパルスが出力する。PWM信号bのローサイドのパルス幅が前記「一定時間」を越えている期間は、クリップ検出パルス信号のローサイドのパルスの出力が持続するので、コンプレッサ8は入力信号fに対するカレントゲインを減衰する制御を行う。この状態からPWM信号bの立ち上がりパルスが入ると、出力電圧Vmはゼロになるので、クリップ検出パルス信号eはハイサイドのパルスに反転する。このとき、コンプレッサ8は、該クリップ検出パルス信号eに基づくカレントゲインの減衰制御を停止して、通常のゲインに復帰する制御を行う。
上記のクリップ検出に応じたコンプレッサ8によるカレントゲインの減衰制御の結果、入力信号fのレベルが抑制され、出力段のスピーカ出力信号aのクリップが是正された様子が図3の符号44,45の箇所に現れている。スピーカ出力信号aにクリップが発生しない状態(通常の状態)では、出力電圧Vtp,Vtmのいずれもが閾値電圧Vtp,Vtmを越えないうちに、PWM信号bのパルスが反転するので、クリップ検出パルス信号eはハイサイド(2進数で表現すると「1」)である。
以上説明したとおり、この実施例のクリップ検出部7によれば、コンデンサ24,34が持つ充電時定数や、電圧比較を行うコンパレータ21,31などからなる簡単な回路構成により、自励式D級増幅器が扱う音響信号のレベルが過大に上昇することによって発生するクリップを検出することができる。クリップ検出部7がクリップ発生を判断するために用いる閾値を、入力信号のレベルがゼロのときの自励発振周波数の周期の10〜50倍の範囲内のいずれかの所定時間に設定することにより、自励式D級増幅器が扱う音響信号のダイナミックレンジを充分に確保することができる。更に、クリップ発生を判断するための閾値を、入力信号のレベルがゼロのときの自励発振周波数の周期の10〜50倍の範囲内のうちの50μ秒以下の値、つまり、自励発振周波数の周期の10倍以上かつ50μ秒以下の値に設定することにより、上記の効果に加えて、音響信号のレベルが過大に上昇したときに、自励発振周波数が可聴帯域にまで下りて来ることを防止することができる。また、図1の自励式D級増幅器の構成によれば、クリップ検出部7に入力するPWM信号の取り出しポイントはスイッチ回路3の出力点(ローパスフィルタ4の直前)である。このように、クリップ検出部7への入力信号を自励式D級増幅器の出力段から取り出す構成は、PWM信号を取り出すことによる自励発振周波数に対する悪影響が少ないという点で好ましい。
上記図2においては、クリップ検出部7の正側パルス幅計測部20が負電源25で構成される例を示したが、正側パルス幅計測部20は正電源で構成することもできる。図4は、正側パルス幅計測部20を正電源で構成した場合の構成例である。図4に示す通り、PWM信号の入力端子40とNPN型トランジスタ51のベース端子の間に、ダイオード50が挿入され、該ダイオード50のカソード端子に入力端子40が接続され、また該ダイオード50のアノード端子はグラウンドに接続されるので、トランジスタ51のベース端子にはPWM信号のハイサイドのパルスが入力される。また、トランジスタ51のコレクタ端子は正電源52の電源ラインに接続されており、トランジスタ51のエミッタ端子はグラウンドに接続される。トランジスタ51のコレクタ端子には別のNPN型トランジスタ53のベース端子が接続される。トランジスタ53のコレクタ端子は正電源54の電源ラインに接続され、そのエミッタ端子はグラウンドに接続される。トランジスタ53のコレクタ‐エミッタ間にはコンデンサ55が挿入されており、該コンデンサ55に並列に抵抗R12が接続される。コンパレータ56の正入力端子にはコンデンサ55の端子間電圧に対応する出力電圧Vpが入力され、コンパレータ56の負入力端子には閾値電圧Vtpが入力される。閾値電圧Vtpは所定の正電圧値である。
図4の構成によれば、PWM信号のハイサイドのパルスが入力されたとき、トランジスタ51がオン状態となる。このとき、正電源52の電流は、トランジスタ51のコレクタ‐エミッタ間に流れ、トランジスタ53のベース端子には流れない。よって、後段のトランジスタ53はオフ状態になる。したがって、トランジスタ53がオフ状態のとき(つまりPWM信号のパルスがハイサイドの期間)、コンデンサ55は正電源54が供給する正電圧により充電され、PWM信号のハイサイドのパルスが閾値電圧Vtpに対応する一定時間以上継続した場合に、コンパレータ56は、正側クリップ発生を検出したことを表すクリップ検出信号に相当するハイサイドの電圧値を出力する。
また、上記実施例においては、PWM信号の正負両側(ハイサイドとローサイド)でパルス幅を計測し、正負両側でクリップを検出する構成を示したが、音響信号は定常状態ではハイサイドとローサイドとが対称になっている場合が多いので、ハイサイド、およびローサイドのいずれか一方側だけで、パルス幅を計測してクリップを検出するよう構成してもよい。
また、上記実施例においては、クリップ検出部7から出力されるクリップ検出パルス信号の1つの利用例として、クリップ検出パルス信号をコンプレッサ8に入力し、該クリップ検出パルス信号に応じてコンプレッサ8が音響信号のレベルを減衰する例を説明したが、クリップ検出パルス信号の利用形態は、上記に限らない。例えば、クリップ検出パルス信号に応じてユーザに対してクリップ発生を知らせるLEDランプをクリップ検出パルス信号に応じて点灯するように構成してもよいし、或いは、別の例としては、自励式D級増幅器をマイコン制御するよう構成し、クリップ検出パルス信号によって通知されたクリップ発生状況を、マイコンが動作ログに記録するよう構成してもよい。
また、この発明のクリップ検出部7を適用する自励式D級増幅器の構成は図1に示す構成に限らず、従来から知られる適宜の構成であってよい。クリップ検出部7を適用する自励式D級増幅器の別の構成例としては、例えば、特開2003−101357に示された構成や、あるいは 特開2003−115730に示された構成や,あるいは特開2005−123949に示された構成などがある。自励式D級増幅器は、基本的には、積分器、コンパレータ、出力段(スイッチ回路)、およびローパスフィルタで構成され、ここに自励するための帰還回路を有するものである。上記実施例に示す自励式D級増幅器の構成では、スイッチ回路3及びローパスフィルタ4が第1帰還回路5に含まれる構成を示したが、自励式D級増幅器の構成は、ローパスフィルタ4、又は出力段(スイッチ回路3)が帰還回路に含まれない場合もある。
なお、上記実施例においては、この発明に係るクリップ検出部7を利用して自励式D級増幅器のクリップ状態の検出を行うことに主眼を置いて説明した。つまり、クリップ検出部7に設定するクリップ発生判断の閾値となる「一定時間」(充電時定数、充電電圧、および閾値電圧)は、増幅器のクリップ又はそれに近い状態を検出すること、及び増幅器の入力信号のダイナミックレンジを確保することを目的として、設定された。しかし、この発明に係るクリップ検出部7は、上記自励式D級増幅器のクリップ状態又はそれに近い状態を検出するために利用されることに限らず、閾値となる「一定時間」を可変することにより、或る出力レベルを閾値(スレッショルド)として動作するリミッター又はコンプレッサ(レベル抑制機能を持つエフェクタ)のスレッショルド検出として使用することもできる。
なお、上記実施例では、クリップ検出パルス信号が出力されたときにコンプレッサ8においてゲイン値を減衰させる制御は、クリップ検出パルス信号に応じてカレントゲインを直接制御するように構成されていたが、カレントゲインを直接制御する代わりに、クリップ検出パルス信号に応じてコンプレッサ8の閾値を制御するように構成してもよい。具体的には、クリップ検出パルス信号がクリップの発生を示している間、所定の第1レートでコンプレッサ8の閾値をスレッショルドパラメータに応じた値から低い値に移動させ、クリップの発生なしを示している間、第1レートより遅い所定の第2レートで閾値をスレッショルドパラメータに応じた値に復帰させるとよい。この閾値の制御でも、クリップを抑制する機能を果たすことができる。
1 積分器、2 コンパレータ、3 スイッチ回路、4 ローパスフィルタ、5 第1帰還回路、6 第2帰還回路、7 クリップ検出部、8 コンプレッサ、9 差動アンプ、10 出力端子、20 正側パルス幅計測部、21 正側クリップ検出信号発生部(コンパレータ)、22 ダイオード、23 トランジスタ、24 コンデンサ、25 負電源、30 負側パルス幅計測部、31 負側クリップ検出信号発生部(コンパレータ)、32 ダイオード、33 トランジスタ、34 コンデンサ、35 正電源
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