以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態であるD級増幅器の構成を示す回路図である。このD級増幅器は、入力端101pおよび101nに与えられる正逆2相のアナログ入力信号VIpおよびVInのレベルに応じてパルス幅変調された正逆2相のデジタル信号VOpおよびVOnを生成し、出力端102pおよび102nから各々出力する回路である。ここで、出力端102pおよび102n間には、フィルタおよびスピーカコイル等の負荷200が介挿されている。また、入力端101pおよび出力端102n間には、抵抗R11、R12、R13、R14およびR15が直列に介挿され、入力端101nおよび出力端102p間には、抵抗R21、R22、R23、R24およびR25が直列に介挿されている。これらの各抵抗の抵抗値は、R11=R21、R12=R22、R13=R23、R14=R24、R15=R25となっている。
誤差積分器110の正相入力端111pには、抵抗R11、R12およびR13を介して正相の入力アナログ信号VIpが与えられ、誤差積分器110の逆相入力端111nには抵抗R21、R22およびR23を介して逆相の入力アナログ信号VInが与えられる。また、誤差積分器110の正相入力端111pには、抵抗R15およびR14を介して逆相デジタル信号VOnが帰還され、誤差積分器110の逆相入力端111nには、抵抗R25およびR24を介して正相デジタル信号VOpが帰還される。そして、誤差積分器110は、このようにして与えられる入力アナログ信号VIpおよびVInとデジタル信号VOpおよびVOnとの誤差を積分して、積分結果を示す正逆2相の積分値信号VDpおよびVDnを正相出力端112pおよび逆相出力端112nから各々出力する。
誤差積分器110に対する入力アナログ信号VIpおよびVInの入力経路において、抵抗R12およびR13の共通接続点と抵抗R22およびR23の共通接続点の間にはキャパシタC10が介挿されている。このキャパシタC10が設けられた入力経路は、誤差積分器110に入力アナログ信号VIpおよびVInが入力される過程において入力信号から高域の雑音を除去するローパスフィルタとして機能する。
また、誤差積分器110に対する入力アナログ信号VIpおよびVInの入力経路において、抵抗R11およびR12の共通接続点と抵抗R21およびR22の共通接続点の間には減衰器160が介挿されている。この減衰器160は、誤差積分器110に対する入力信号のレベルを減衰させる手段である。本実施形態における減衰器160は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor構造の電界効果トランジスタ;以下、単にトランジスタという。)などによるスイッチである。この減衰器160は、減衰指令パルスSWがアクティブレベル(減衰指令パルスSWについてはHレベル)である期間のみON状態となり、入力アナログ信号を断続的に減衰させる減衰手段として機能する。なお、減衰指令パルスSWを発生する手段については後述する。
誤差積分器110としては各種のものが考えられるが、図示の例では、差動増幅器113と、4個のキャパシタC1〜C4と2個の抵抗R1およびR2により構成された2次の誤差積分器110が用いられている。ここで、差動増幅器113の正相入力端(+入力端)および逆相入力端(−入力端)は、各々誤差積分器110の正相入力端111pおよび逆相入力端111nとなっており、差動増幅器113の正相出力端(+出力端)と逆相出力端(−出力端)は、各々誤差積分器110の正相出力端112pおよび逆相出力端112nとなっている。そして、差動増幅器113の正相入力端と逆相出力端との間には、誤差を積分するためのキャパシタC1およびC2が直列に介挿されており、これらのキャパシタの共通接続点は抵抗R1を介して接地されている。また、差動増幅器113の逆相入力端と正相出力端との間にも、誤差を積分するためのキャパシタC3およびC4が直列に介挿されており、これらのキャパシタの共通接続点は抵抗R2を介して接地されている。
パルス幅変調回路130は、誤差積分器110から与えられる積分値信号VDpおよびVDnのレベルに応じたパルス幅を持った2相のパルスVOp’およびVOn’を発生する回路である。さらに詳述すると、パルス幅変調回路130は、VDp>VDnの場合には、レベル差VDp−VDnに応じたパルス幅を持った負のパルスVOp’を出力し、VDn>VDpの場合には、レベル差VDn−VDpに応じたパルス幅を持った負のパルスVOn’を出力する。なお、パルス幅変調回路130の詳細な構成例については後述する。
プリドライバ140は、パルス幅変調回路130が出力するパルスVOp’およびVOn’を出力バッファ150に伝達する回路であり、例えばノンインバーティングバッファである。出力バッファ150は、インバータ151とインバータ152とを有する。図示の通り、インバータ151および152は、PチャネルトランジスタおよびNチャネルトランジスタを電源+VBおよび接地間に直列に介挿してなる周知のインバータである。ここで、インバータ151は、パルス幅変調回路130からプリドライバ140を介して与えられるパルスVOn’をレベル反転し、上述したデジタル信号VOnとして出力端102nから出力する。また、インバータ152は、パルス幅変調回路130からプリドライバ140を介して与えられるパルスVOp’をレベル反転し、上述したデジタル信号VOpとして出力端102pから出力する。
出力バッファ150から誤差積分器110へのデジタル信号VOpおよびVOnの帰還経路において、抵抗R15およびR14の共通接続点と抵抗R25およびR24の共通接続点の間にはキャパシタC20が介挿されている。このキャパシタC20が介挿された帰還経路は、デジタル信号VOpおよびVOnが誤差積分器110へ帰還される際に帰還信号から高域の雑音を除去するローパスフィルタとして機能する。
次にパルス幅変調回路130の構成例について説明する。図1に示す例では、パルス幅変調回路130は、三角波発生器131と、コンパレータ132および133と、インバータ134および135と、NANDゲート136および137により構成されている。図2は、三角波発生器131が発生する三角波信号TRp、TRnの波形を示す図である。また、図3(a)および(b)はパルス幅変調回路130の各部の信号波形を示す図であり、図3(a)はVDp>VDnの場合における信号波形を、図3(b)はVDn>VDpの場合における信号波形を示すものである。
三角波発生器131は、図2に示すように、電圧0Vから所定の電圧+VPまで一定の勾配で立ち上がり、電圧+VPから電圧0Vまで一定の勾配で立ち下がる一定周期の三角波信号TRpを発生するとともに、この三角波信号TRpと逆相関係にある三角波信号TRnを発生する。なお、電圧+VPは、電源電圧+VBと同じ電圧でもよく、異なる電圧でもよい。
図3(a)および(b)に示すように、コンパレータ132は、三角波信号TRpと積分値信号VDnとを比較し、三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えている期間はLレベル、それ以外の期間はHレベルとなる信号VEnを出力する。コンパレータ133は、三角波信号TRpと積分値信号VDpとを比較し、三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えている期間はLレベル、それ以外の期間はHレベルとなる信号VEpを出力する。インバータ134は、信号VEpをレベル反転した信号を出力する。インバータ135は、信号VEnをレベル反転した信号を出力する。
NANDゲート136は、信号VEnとインバータ134の出力信号との論理積をとることにより、上述したパルスVOn’を出力する。ここで、信号VEnは三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えていない期間にHレベルとなり、インバータ134の出力信号は三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えている期間にHレベルとなる。従って、NANDゲート136は、図3(b)に示すように、VDn>VDpである場合において、三角波信号TRpの信号値がVDnとVDpとの間にある期間だけLレベルとなる負のパルスVOn’を出力する。すなわち、NANDゲート136は、VDn>VDpである場合において、レベル差VDn−VDpに比例したパルス幅のパルスVOn’を出力する。
また、NANDゲート137は、信号VEpとインバータ135の出力信号との論理積をとることにより、上述したパルスVOp’を出力する。ここで、信号VEpは三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えていない期間にHレベルとなり、インバータ135の出力信号は三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えている期間にHレベルとなる。従って、NANDゲート137は、図3(a)に示すように、VDp>VDnである場合において、三角波信号TRpの信号値がVDnとVDpとの間にある期間だけLレベルとなる負のパルスVOp’を出力する。すなわち、NANDゲート137は、VDp>VDnである場合において、レベル差VDp−VDnに比例したパルス幅のパルスVOp’を出力する。
以上がパルス幅変調回路130の詳細である。
次に減衰制御部300の構成を説明する。減衰制御部300は、出力制限指令発生部310と、減衰指令パルス発生部320と、ミュート制御部330とを有する。出力制限指令発生部310は、デジタル信号VOpおよびVOnがある制限範囲を越えたことを検出して、出力制限指令信号Cdetを出力する。具体的には、本実施形態における出力制限指令発生部310は、デジタル信号VOpおよびVOnがクリップまたはそれに近い状態になったことを検出する。
出力制限指令発生部310において、コンパレータ311は、誤差積分器110の出力信号VDpを基準レベルVLEVと比較し、出力信号VDpが基準レベルVLEVを越えている場合に、Hレベルの信号を出力する。また、コンパレータ312は、誤差積分器110の出力信号VDnを基準レベルVLEVと比較し、出力信号VDnが基準レベルVLEVを越えている場合に、Hレベルの信号を出力する。ここで、基準レベルVLEVは、三角波信号TRの上側のピーク電圧と同じか、それより僅かに低い電圧に設定されている。ORゲート322は、コンパレータ311の出力信号またはコンパレータ312の出力信号がHレベルであるとき、出力制限指令信号CdetをアクティブレベルであるHレベルとする。
減衰指令パルス発生部320は、出力制限指令信号Cdetを積分する積分器を有し、この積分器の積分値に応じたパルス幅を持った周期的な減衰指令パルスSWを出力する手段である。この減衰指令パルス発生部320は、電源+VBおよび接地間に直列に介挿された定電流源321、スイッチ322および積分器としての役割を果たすキャパシタC30と、キャパシタC30に並列接続された抵抗R30と、コンパレータ323および324と、ローアクティブORゲート325とにより構成されている。
スイッチ322には、出力制限指令信号Cdetが与えられる。ここで、出力制限指令信号CdetがHレベルのときには、スイッチ322がONとなり、定電流源321の出力電流によりキャパシタC30の充電が行われる。また、抵抗R30は、キャパシタC30に充電された電荷を放電させる。コンパレータ323は、正相入力端に三角波信号TRpが、逆相入力端にキャパシタC30の電圧VC1が与えられ、三角波信号TRpがキャパシタC30の電圧VC1を下回っている期間、Lレベルの信号をローアクティブORゲート325に出力する。また、コンパレータ324は、正相入力端に三角波信号TRnが、逆相入力端にキャパシタC30の電圧VC1が与えられ、三角波信号TRnがキャパシタC30の電圧VC1を下回っている期間、Lレベルの信号をローアクティブORゲート325に出力する。従って、ローアクティブORゲート325は、三角波信号TRpがキャパシタC30の電圧VC1を下回っている期間および三角波信号TRnがキャパシタC30の電圧VC1を下回っている期間の各期間において、Hレベルとなる減衰指令パルスSWを発生し、この減衰指令パルスSWを減衰器160に与え、スイッチである減衰器160をONにする。
ミュート制御部330は、ミュート指令が与えられることにより上記積分器の積分値、すなわち、キャパシタC30の電圧VC1を所定のミュート電圧Vmuteに向けて漸次増加させるとともに、このミュート指令が与えられた後、ミュート解除指令が与えられることによりキャパシタC30の電圧VC1を漸次減少させる手段である。ここで、ミュート電圧Vmuteは、減衰指令パルスSWのパルス幅が最大となるキャパシタC30の電圧VC1(すなわち、減衰指令パルスSWが常時Hレベルとなる電圧VC1)である。ミュート指令は、例えばこのD級増幅器がパワーダウン状態に移行して電源電圧VBが低下するとき、あるいはこのD級増幅器が搭載されたオーディオ装置に設けられた操作子の操作によりミュートが指示されたときに発生される。また、ミュート解除指令は、例えばD級増幅器がパワーダウン状態から通常の状態に移行して電源電圧VBが元に戻って所定時間が経過したとき、あるいはこのD級増幅器が搭載されたオーディオ装置に設けられた操作子の操作によりミュート解除が指示されたときに発生される。
図4は、ミュート制御部330の構成例を示すブロック図である。このミュート制御部330は、ミュート波形発生部331とこのミュート波形発生部331とキャパシタC30との間に介挿されたスイッチ332とを有する。ミュート制御部330は、ミュート指令が与えられると、スイッチ332をONにする。そして、ミュート波形発生部331は、スイッチ332を介して接続されたキャパシタC30の電圧VC1を0Vからミュート電圧Vmuteまで一定時間を掛けて緩やかに立ち上げる。また、ミュート解除指令が与えられると、ミュート波形発生部331は、スイッチ332を介して接続されたキャパシタC30の電圧VC1をその時点における電圧値から0Vまで一定時間を掛けて緩やかに立ち下げる。また、ミュート制御部330は、ミュート波形発生部331が電圧VC1を0Vに立ち下げた後、スイッチ332をOFFにする。
以上が本実施形態によるD級増幅器の構成の詳細である。
次に本実施形態の動作を説明する。本実施形態において、三角波信号TRpおよびTRnは0V〜+VPの範囲内で変化する。そして、クリップを生じさせずに出力デジタル信号VOpおよびVOnをパルス列として得るためには、誤差積分器110の出力信号VDpおよびVDnの両方がこの三角波信号TRpおよびTRnと交差する範囲(0V〜+VPの範囲)内に収まっている必要がある。ここで、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅がある適正範囲内にある場合には、誤差積分器110の出力信号VDpおよびVDnは三角波信号TRの振幅の範囲内に収まる。しかし、そのような適正範囲から外れる大きな振幅の入力アナログ信号VIpおよびVInがこのD級増幅器に与えられる場合には、何ら策を講じないと、誤差積分器110の出力信号VDpまたはVDnが三角波信号TRの振幅の範囲(0V〜+VPの範囲)外に出て、出力デジタル信号VOpまたはVOnが連続的にHレベルとなるクリップ状態となる。しかしながら、本実施形態では、減衰制御部300によりこのようなクリップの発生が防止される。以下、図5(a)および(b)を参照し、この動作について説明する。なお、本説明において、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅の適正範囲とは、出力デジタル信号VOpおよびVOnにクリップを発生させない範囲であり、D級増幅器の出力バッファ150の電源電圧の1/2をD級増幅器の増幅率で除した値より小さな範囲である。
まず、図5(a)に示すように、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が適正範囲内にあり、誤差積分器110の出力信号VDpおよびVDnの最高値が基準レベルVLEVに満たない場合には、出力制限指令発生部310は、出力制限指令信号CdetをLレベルとする。このため、減衰指令パルス発生部320では、スイッチ322がOFFとなり、積分器であるキャパシタC30の電圧VC1は0Vとなる。このため、三角波信号TRpおよびTRnは、電圧VC1と交差せず、減衰指令パルスSWは継続的に非アクティブレベルであるLレベルとなる。従って、減衰器160は継続的にOFFとなり、この減衰器160の両端におけるアナログ信号VIp’およびVIn’の波形は、図示のように、入力アナログ信号VIpおよびVInに対して相似形の波形となる。
これに対し、図5(b)に示すように、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が大きくなり、誤差積分器110の出力信号VDpおよびVDnの少なくとも一方が基準レベルVLEVを越えると、出力制限指令発生部310は、この信号VDpまたはVDnが基準レベルVLEVを越えている間、出力制限指令信号CdetをHレベルとし、スイッチ322をONにする。この結果、定電流源321は、スイッチ322を介してキャパシタC30を充電する。このキャパシタC30の充電は、信号VDpまたはVDnが基準レベルVLEVを越える度に行われる。このため、キャパシタC30の電圧VC1は、信号VDpまたはVDnが基準レベルを越えたときに上昇し、それ以後、次に信号VDpまたはVDnが基準レベルを越えるまでの間、キャパシタC20の蓄積電荷が抵抗R30を介して放電されるのに従って低下する、という脈動を繰り返す。そして、三角波信号TRpおよびTRnが電圧VC1と交差し、三角波信号TRpが電圧VC1よりも低い期間および三角波信号TRnが電圧VC1よりも低い期間にHレベル(アクティブレベル)となる減衰指令パルスSWがローアクティブORゲート325から出力される。
ここで、スイッチ160は、この減衰指令パルスSWがLレベルの期間はOFF、Hレベルの期間はONとなる。このため、スイッチ160の両端におけるアナログ信号VIp’およびVIn’は、減衰指令パルスSWがLレベルの期間は、元の入力アナログ信号VIpおよびVInに対応した信号値、減衰指令パルスSWがHレベルの期間は0Vとなり、図示のように、一定時間間隔で間引きを行った波形となる。従って、誤差積分器110に対して実質的に入力されるアナログ信号が減衰し、誤差積分器110の出力信号のレベルが適正範囲である0V〜+VPの範囲内に戻され、出力デジタル信号VOpおよびVOnにおけるクリップの発生が防止される。
さらに詳述すると、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が大きく、このような間引きが行われる状況では、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が大きくなり、誤差積分器110の出力信号VDpおよびVDnの振幅が大きくなろうとすると、間引き率を高めて、D級増幅器全体としての利得を低下させる、いわば負帰還制御が行われる。このような負帰還制御が働く結果、歪を発生させることなく入力アナログ信号VIpおよびVInの増幅が行われ、かつ、入力アナログ信号VIpおよびVInがピークレベルに達したときに、出力デジタル信号VOpまたはVOnのパルス幅変調度が一定の上限値に達するように、D級増幅器全体としての利得が最適値に調整される。従って、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が大きくて適正範囲を外れる領域では、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が増加したとしても、負荷に与えられる出力信号波形(出力デジタル信号VOpおよびVOnを積分した波形となる)は歪まず、かつ、その出力信号波形のピークレベルは一定値を維持する。
出力デジタル信号VOpまたはVOnのパルス幅変調度の上限値は、基準レベルVLEVに依存する。何故ならば、本実施形態によるD級増幅器では、誤差積分器110の出力信号VDpおよびVDnのレベルに応じて出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度が決定される一方、この誤差積分器110の出力信号VDpおよびVDnが基準レベルVLEVを越えたときに三角波信号TRpおよびTRnと交差するレベルの電圧VC1が発生して間引きのための減衰指令パルスSWが発生し、誤差積分器110の出力信号VDpおよびVDnのレベルの増加並びにこれに伴うパルス幅変調度の増加が抑えられるからである。
本実施形態においてクリップに対する応答特性は、キャパシタC30の容量値および抵抗R30の抵抗値の調整により調整可能である。クリップの発生に対し、短い時間で減衰指令信号SWを発生させる必要があるときは、キャパシタC30の容量値を小さくすればよい。また、クリップ状態でなくなった後、減衰指令パルスSWが停止されるまでの時間を長くする必要があるときは、抵抗R30の抵抗値を大きくすればよい。
次に本実施形態におけるミュート時およびミュート解除時の動作について説明する。図6はミュート時における各部の波形を示す図である。ミュート指令が与えられると、ミュート制御部330では、スイッチ332がONとなり、ミュート制御部330のミュート波形発生部331は、図6に示すように、キャパシタC30の電圧VC1を0Vからミュート電圧Vmuteまで一定の時間勾配で立ち上げる。ここで、ミュート電圧Vmuteは、三角波信号TRpおよびTRnの上下の各ピーク間の中央のレベルまたはそれ以上のレベルである。このように電圧VC1を立ち上げると、三角波信号TRpおよびTRnの各ピークタイミングに同期して減衰指令パルスSWが発生する。そして、減衰指令パルスSWのパルス幅は、電圧VC1の上昇に応じて広くなる。ここで、減衰器160は、減衰指令パルスSWがHレベルである期間だけONとなり、誤差積分器110に対する入力電圧を間引く。従って、電圧VC1の上昇に応じて、入力電圧の間引きの時間幅が広がってゆく。このため、D級増幅器の出力電圧(フィルタおよび負荷200に与えられる実効電圧)も電圧VC1の上昇に応じて減衰してゆく。そして、電圧VC1がミュート電圧Vmuteに到達すると、それ以降、減衰指令パルスSWは、継続的にHレベルとなる。このため、誤差積分器110に対する入力電圧は0Vとなり、D級増幅器の出力電圧も0Vとなる。
その後、ミュート解除指令が与えられると、ミュート制御部330のミュート波形発生部331は、キャパシタC30の電圧VC1を上記ミュート電圧Vmuteから0Vまで一定時間を掛けて緩やかに立ち下げる。これにより図6に示すものと逆の動作が行われる。すなわち、電圧VC1の低下に応じて、減衰指令パルスSWのパルス幅が徐々に狭くなり、入力電圧の間引きの時間幅が狭くなってゆく。このため、D級増幅器の出力電圧も電圧VC1の低下に応じて上昇してゆく。そして、電圧VC1が0Vに到達すると、それ以降、減衰指令パルスSWは、継続的に0レベルとなる。これにより、D級増幅器は、入力信号VIpおよびVInに応じた電圧を出力する。そして、電圧VC1が0Vに低下した後、ミュート制御部330ではスイッチ332がOFFとされる。
以上が本実施形態におけるミュートおよびミュート解除の動作である。
以上説明したように、本実施形態によれば、クリップ防止のための減衰指令パルス発生部320を使用してミュート機能が実現される。従って、本実施形態によれば、回路規模を大きくすることなく、かつ、制御を複雑にすることなくミュート機能を実現することができる。
<第2実施形態>
図7はこの発明の第2実施形態であるD級増幅器の構成を示す回路図である。なお、この図において前掲図1に示す部分と対応する部分には同一の符号を使用し、その説明を省略する。本実施形態におけるD級増幅器は、負荷であるスピーカの音量調整等のために、出力パワーを所望の範囲内に制限するパワーリミットコントロール機能を実現する回路が設けられている。具体的には、本実施形態によるD級増幅器では、誤差積分器110とパルス幅変調回路130との間にクランプ回路120が介挿されている。
このクランプ回路120は、誤差積分器110によって出力される積分値信号VDpおよびVDnの各々が予め設定された上限クランプレベルULを上回り、または予め設定された下限クランプレベルLLを下回ることがないように、積分値信号VDpおよびVDnのクランプを行って出力デジタル信号VOpおよびVOnのパワーを制限する回路である。ここで、上限クランプレベルULおよび下限クランプレベルLLは、例えばこのD級増幅器が収容された筐体に設けられた操作子(図示略)の操作により発生される外部設定信号あるいはD級増幅器の外部の装置から与えられる外部設定信号に基づいて設定される。
減衰制御部300Aは、上記第1実施形態における減衰制御部300において、出力制限指令発生部310を出力制限指令発生部310Aに置き換えた構成となっている。上記第1実施形態における出力制限指令発生部310が出力デジタル信号VOpおよびVOnのクリップを検出して出力制限指令信号Cdetを出力したのに対し、この出力制限指令発生部310Aは、クランプ回路120によって積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われたのを検出して出力制限指令信号Cdetを出力する。すなわち、本実施形態において、「デジタル信号がある制限範囲を越えた」とは、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパワーが外部から指定されたパワーの上限値を越えた状態を意味する。
出力制限指令発生部310Aは、誤差積分器110の正相入力端111pの入力レベルV1と逆相入力端111nの入力レベルV2とに基づき、クランプ回路120によって積分値信号VDpまたはVDnのクランプが行われたことにより一定量の歪みがD級増幅器からフィルタおよび負荷200への出力波形(以下、負荷駆動波形という)に発生したか否かを検出する回路である。この出力制限指令発生部310Aによる歪検出の原理は次の通りである。
まず、クランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われていない状態では、誤差積分器110に対する入力信号に見合ったレベルの帰還信号が出力端102nおよび102p側から誤差積分器110の入力側に帰還されるため、誤差積分器110は正相入力端111pの入力レベルV1と逆相入力端111nの入力レベルV2を同一の電圧に維持した状態で動作する。さらに詳述すると、入力信号VIpおよびVInが誤差積分器110の動作点である基準レベルVREFにあるとき、誤差積分器110は正相入力端111pの入力レベルV1は、電圧VIp(=VREF)と接地状態である電圧VOn(=0V)との差電圧(=VREF)を抵抗R11、R12およびR13と抵抗R14およびR15とにより分圧した電圧{(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREFとなる。同様に、誤差積分器110の逆相入力端111nの入力レベルV2は、電圧VIn(=VREF)と接地状態である電圧VOp(=0V)との差電圧(=VREF)を抵抗R21、R22およびR23と抵抗R24およびR25とにより分圧した電圧{(R24+R25)/(R21+R22+R23+R24+R25)}VREF={(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREF=V1となる。そして、入力信号VIpおよびVInが基準レベルVREFを中心に互いに逆相となるように振動し、かつ、入力信号VIpおよびVInの振幅が小さくて積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われない状態では、誤差積分器110の入力レベルV1およびV2は、図8に示すように、互いに同じレベルを維持しながら、電圧{(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREFから高電位方向に入力信号VIpおよびVInの振幅に応じた電圧だけ振動する。
しかし、クランプ回路120により積分値信号VDpまたはVDnのクランプが行われると、誤差積分器110に対する入力信号に見合ったレベルの帰還信号が誤差積分器110の入力側に帰還されず、帰還信号に対して入力信号のレベルが過剰になる。このため、クランプ回路120によるクランプが行われる度に、図8に示すように、入力レベルV1と入力レベルV2との間にクランプにより生じる負荷駆動波形の歪量に応じたレベル差が発生する。
そこで、出力制限指令発生部310Aは、クランプ回路120によるクランプが行われて負荷駆動波形に一定量の歪が生じ、入力レベルV1と入力レベルV2との間のレベル差が一定の閾値を越えた場合に出力制限指令信号Cdetを出力するのである。
本実施形態において、出力制限指令発生部310Aは、上記第1実施形態における出力制限指令発生部310のコンパレータ311および312をコンパレータ311Aおよび312Aに置き換えた構成となっている。ここで、コンパレータ311および312は、正相入力端と逆相入力端との間に上記閾値に相当するオフセット電圧Vofsを有している。そして、コンパレータ311は、正相入力端に電圧V1が逆相入力端に電圧V2が与えられており、正相入力端の電圧V1が逆相入力端の電圧V2よりもオフセット電圧Vofs以上高いときにHレベルの信号を出力する。また、コンパレータ312は、正相入力端に電圧V2が逆相入力端に電圧V1が与えられており、正相入力端の電圧V2が逆相入力端の電圧V1よりもオフセット電圧Vofs以上高いときにHレベルの信号を出力する。そして、ORゲート313は、コンパレータ311の出力信号またはコンパレータ312の出力信号がHレベルのとき、すなわち、クランプ回路120による積分値信号VDpまたはVDnのクランプが行われて負荷駆動波形に一定量の歪が生じて、図8に示すように、|V1−V2|がオフセット電圧Vofsを越えたときに、出力制限指令信号CdetをHレベル(アクティブレベル)とする。
減衰指令パルス発生部320およびミュート制御部330は、上記第1実施形態のものと同様である。以上が本実施形態によるD級増幅器の構成の詳細である。
本実施形態において、クランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われない状態では、入力アナログ信号VIpおよびVInのレベルに応じたパルス幅のデジタル信号VOpおよびVOnが得られるため、誤差積分器110では、入力信号と帰還信号との釣り合いが保たれ、誤差積分器110は、正相入力端のレベルV1および逆相入力端のレベルV2を同一レベルに維持して動作する。この状態では、出力制限指令信号CdetがLレベルとなり、減衰指令パルス発生部320では、キャパシタC30の電圧VC1が0Vとなるため、減衰指令パルスSWは発生されない。このため、減衰器160の両端に現れるアナログ信号VIp’およびVIn’の波形は、入力アナログ信号VIpおよびVInに対して所定の係数を乗算した相似波形となる。
しかし、入力アナログ信号VIpおよびVInのレベルが高くなると、誤差積分器110が出力する積分値信号VDpおよびVDnは、やがてクランプレベルLLおよびULに到達し、クランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われる。このクランプ回路120による積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われると、誤差積分器110では、帰還信号に対して入力信号が過剰な状態となり、正相入力端のレベルV1および逆相入力端のレベルV2との間にレベル差が発生する。そして、クランプ回路120によるクランプが行われてレベル差|V1−V2|がオフセット電圧Vofsを越える度に、出力制限指令信号CdetがHレベルとなり、減衰指令パルス発生部320では、キャパシタC30の電圧VC1が上昇し、三角波信号TRpおよびTRnの各ピーク点に同期して減衰指令パルスSWが発生される。この結果、減衰器160の両端におけるアナログ信号VIp’およびVIn’は、減衰指令パルスSWがLレベルの期間は、元の入力アナログ信号VIpおよびVInに対応した信号値、減衰指令信号SWがHレベルの期間は0Vとなり、一定時間間隔で間引きを行った波形となる。従って、誤差積分器110に対して実質的に入力されるアナログ信号が減衰し、一定の歪量になるように積分値信号VDpおよびVDnが縮小される。
さらに詳述すると、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が大きくなり、積分値信号VDpおよびVDnの振幅を下限クランプレベルLLから上限クランプレベルULまでの範囲内に制限するクランプ動作が行われる状況では、入力アナログ信号VIpおよびVInの振幅が大きくなる程、減衰指令パルスSWのパルス幅を大きくして間引き率を大きくし、D級増幅器全体としての利得を低下させる、いわば負帰還制御が行われる。このような負帰還制御が働く結果、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度がある上限値以内に収まるように、D級増幅器全体としての利得が最適値に調整される。この出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度の上限値は、下限クランプレベルLLおよび上限クランプレベルULに依存する。何故ならば、本実施形態によるD級増幅器では、誤差積分器110が出力する積分値信号VDpおよびVDnのレベルに応じて出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度が決定される一方、この積分値信号VDpおよびVDnが下限クランプレベルLLから上限クランプレベルULまでの範囲を越えようとするときに積分値信号VDpおよびVDnのクランプが行われ、間引きのための減衰指令パルスSWが発生され、積分値信号VDpおよびVDnのレベルの増加並びにこれに伴うパルス幅変調度の増加が抑えられるからである。
ミュート制御部330の動作は上記第1実施形態と同様である。従って、本実施形態においても上記第1実施形態と同様な効果が得られる。
<第3実施形態>
D級増幅器において、前段からの入力信号の供給がない無信号時は、前段が発生するノイズ(主にホワイトノイズ)がD級増幅器により増幅されて負荷であるスピーカに与えられるため、耳障りな音がスピーカから放音される。本実施形態は、このような無信号時に前段からのノイズがD級増幅器によって増幅されるのを防止することを目的とするものである。本実施形態によるD級増幅器は、この目的を達成するために、上記第1実施形態または第2実施形態によるD級増幅器のミュート制御部330に対し、図9に示す無信号検出部400を追加した構成となっている。
この図9に示す無信号検出部400は、入力信号VIpの振幅、より具体的には入力信号VIpの正のピークと負のピークとのピーク間電圧を検出し、このピーク間電圧が所定の閾値Vsilよりも小さくなったとき、減衰指令パルス発生部320のキャパシタC30(図1、図7参照)の電圧VC1を減衰指令パルスSWのパルス幅が最大となるミュート電圧Vmuteに増加させる制御を行う回路である。
図9において、入力増幅部410は、入力信号VIpを増幅する回路であり、差動増幅器411と、可変抵抗412とにより構成されている。差動増幅器411の正相入力端子には、入力信号VIpが入力される。差動増幅器411の出力端子と基準レベルVREFの電源との間には可変抵抗412が介挿されている。D級増幅器に対する入力信号VIpおよびVInは、この基準レベルVREFを中心として対称な波形を有する平衡2相信号である。入力増幅部410では、可変抵抗412の中間タップの電圧が差動増幅器411の逆相入力端子に負帰還される。本実施形態では、図示しない操作子の操作により可変抵抗412の中間タップ位置を調整し、入力増幅部410のゲインを調整することが可能である。
入力増幅部410の出力信号VIpaは、ピークホールド回路420および430に入力される。ここで、ピークホールド回路420は、入力増幅部410の出力信号VIpaに現れる正のピーク電圧を保持する回路であり、ピークホールド回路430は、入力増幅部410の出力信号VIpaに現れる負のピーク電圧を保持する回路である。
まず、ピークホールド回路420について説明する。差動増幅器421は、ソース同士が接続されて差動トランジスタペアを構成するNチャネルトランジスタ423および424と、この差動トランジスタペアの共通ソースと接地線との間に介挿された定電流源422と、Nチャネルトランジスタ423および424の各ドレインと電源+VBとの間に各々介挿されたPチャネルトランジスタ425および426とにより構成されている。ここで、Pチャネルトランジスタ425および426の各ゲートは、Pチャネルトランジスタ426のドレインとNチャネルトランジスタ424のドレインとの接続点に接続されている。
差動トランジスタペアにおいて、Nチャネルトランジスタ423のゲートには入力増幅部410の出力信号VIpaが与えられ、Nチャネルトランジスタ424のゲートにはピークホールド用のキャパシタC41の一方の電極が接続されている。そして、キャパシタC41の他方の電極は基準レベルVREFに固定されている。そして、差動増幅器421では、入力増幅部410の出力信号VIpaがNチャネルトランジスタ424のゲートに接続されたキャパシタC41の電極の電圧VC41よりも高い場合にNチャネルトランジスタ423がON、Nチャネルトランジスタ424がOFFとなり、逆に入力増幅部410の出力信号VIpaが電圧VC41よりも低い場合にNチャネルトランジスタ423がOFF、Nチャネルトランジスタ424がONとなる。
Pチャネルトランジスタ427は、ソースが電源+VBに接続され、ゲートがNチャネルトランジスタ423のドレインに接続され、ドレインがNチャネルトランジスタ424のゲートとキャパシタC41との接続点に接続されている。そして、ピークホールド回路420では、入力増幅部410の出力信号VIpaがキャパシタC41の電圧VC41よりも高く、Nチャネルトランジスタ423がONになっているときにPチャネルトランジスタ427がONとなり、キャパシタC41の電圧VC41を入力増幅部410の出力信号VIpaの電圧値に向けて上昇させるアタック動作が行われる。このアタック動作により、入力増幅部410の出力信号VIpaの正のピーク電圧がキャパシタC41に保持されることとなる。
定電流源428およびNチャネルトランジスタ429は、Nチャネルトランジスタ424のゲートおよびキャパシタC41の接続点と接地線との間に介挿されている。ここで、Nチャネルトランジスタ429のゲートには、リリースクロックPGpが与えられる。そして、ピークホールド回路420では、上述したアタック動作が行われるのと並行し、リリースクロックPGpがHレベルになるのに応じてNチャネルトランジスタ429がONとなって定電流源428をキャパシタC41に接続し、キャパシタC41の蓄積電荷(正の電荷)を放電し、キャパシタC41の電圧VC41を基準レベルVREFに向けて低下させるリリース動作が行われる。
次にピークホールド回路430について説明する。差動増幅器431は、ソース同士が接続されて差動トランジスタペアを構成するPチャネルトランジスタ433および434と、この差動トランジスタペアの共通ソースと電源+VBとの間に介挿された定電流源432と、Pチャネルトランジスタ433および434の各ドレインと接地線との間に各々介挿されたNチャネルトランジスタ435および436とにより構成されている。ここで、Nチャネルトランジスタ435および436の各ゲートは、Nチャネルトランジスタ436のドレインとPチャネルトランジスタ434のドレインとの接続点に接続されている。
差動トランジスタペアにおいて、Pチャネルトランジスタ433のゲートには入力増幅部410の出力信号VIpaが与えられ、Pチャネルトランジスタ434のゲートにはピークホールド用のキャパシタC42の一方の電極が接続されている。そして、キャパシタC42の他方の電極は、基準レベルVREFに固定されている。このキャパシタC42は、キャパシタC41と同じ容量値を有している。そして、差動増幅器431では、入力増幅部410の出力信号VIpaがPチャネルトランジスタ434のゲートに接続されたキャパシタC42の電極の電圧VC42よりも低い場合にPチャネルトランジスタ433がON、Pチャネルトランジスタ434がOFFとなり、逆に入力増幅部410の出力信号VIpaが電圧VC42よりも高い場合にPチャネルトランジスタ433がOFF、Pチャネルトランジスタ434がONとなる。
Nチャネルトランジスタ437は、ソースが接地され、ゲートがPチャネルトランジスタ433のドレインに接続され、ドレインがPチャネルトランジスタ434のゲートとキャパシタC42との接続点に接続されている。そして、ピークホールド回路430では、入力増幅部410の出力信号VIpaの電圧がキャパシタC42の電圧VC42よりも低く、Pチャネルトランジスタ433がONになっているときにNチャネルトランジスタ437がONとなり、キャパシタC42の電圧VC42を入力増幅部410の出力信号VIpaの電圧値に向けて低下させるアタック動作が行われる。このアタック動作により、入力増幅部410の出力信号VIpaの負のピーク電圧がキャパシタC42に保持されることとなる。
定電流源438およびPチャネルトランジスタ439は、Pチャネルトランジスタ434のゲートおよびキャパシタC42の接続点と電源+VBとの間に介挿されている。ここで、Pチャネルトランジスタ439のゲートには、周期的なリリースクロックPGnが与えられる。このリリースクロックPGnおよび上述したリリースクロックPGpは、図示しないクロック発生回路が発生する周期的なリリースクロックPGに基づいて発生されるクロックである。さらに詳述すると、本実施形態では、インバータ461がリリースクロックPGをレベル反転してリリースクロックPGnを出力し、インバータ462がこのリリースクロックPGnをレベル反転してリリースクロックPGpを出力する。そして、ピークホールド回路430では、上述したアタック動作が行われるのと並行し、リリースクロックPGnがLレベルになるのに応じてPチャネルトランジスタ439がONとなって定電流源438をキャパシタC42に接続し、キャパシタC42の蓄積電荷(負の電荷)を放電し、キャパシタC42の電圧VC42を基準レベルVREFに向けて上昇させるリリース動作が行われる。
図10は、以上説明したアタック動作およびリリース動作の様子を示す波形図である。図10に示すように、入力増幅部410の出力信号VIpaが上昇して正のピークに至るまでの過程では、キャパシタVC41の電圧VC41を信号VIpaに追従させるアタック動作が行なわれ、入力増幅部410の出力信号VIpaが低下して負のピークに至るまでの過程では、キャパシタVC42の電圧VC42を信号VIpaに追従させるアタック動作が行なわれる。そして、入力増幅部410の出力信号VIpaが正のピークに到達し、その後、低下する過程では、キャパシタVC41の電圧VC41が、キャパシタC41の容量値と、リリースクロックPGpの周波数およびパルス幅と、定電流源428の電流値とにより定まる時定数に従い、基準レベルVREFに向けて低下するリリース動作が行なわれる。また、入力増幅部410の出力信号VIpaが負のピークに到達し、その後、上昇する過程では、キャパシタVC42の電圧VC42が、キャパシタC42の容量値と、リリースクロックPGnの周波数およびパルス幅と、定電流源438の電流値とにより定まる時定数に従い、基準レベルVREFに向けて上昇するリリース動作が行なわれる。
電圧加算転送部440は、Nチャネルトランジスタ424のゲートに接続されたキャパシタC41の電極の電圧VC41とPチャネルトランジスタ434のゲートに接続されたキャパシタC42の電極の電圧VC42との差(あるいはキャパシタC41の両電極間電圧とキャパシタC42の両電極間電圧の和)に相当する電圧を発生し、レベル比較部450に転送する回路であり、Nチャネルトランジスタ441〜444と、キャパシタC43およびC44とにより構成されている。
Nチャネルトランジスタ441は、キャパシタC41およびNチャネルトランジスタ424の接続点とキャパシタC43の一端との間に介挿されている。また、Nチャネルトランジスタ442は、キャパシタC42およびPチャネルトランジスタ434の接続点とキャパシタC43の他端との間に介挿されている。ここで、Nチャネルトランジスタ441および442の各ゲートには、周期的な転送クロックCKpが与えられる。
Nチャネルトランジスタ443は、キャパシタC43の一端とキャパシタC44の一端との間に介挿されている。また、Nチャネルトランジスタ444は、キャパシタC43の他端とキャパシタC44の他端との間に介挿されており、キャパシタC44の他端は接地されている。ここで、Nチャネルトランジスタ443および444の各ゲートには、周期的な転送クロックCKnが与えられる。
この転送クロックCKnおよび上述した転送クロックCKpは、図示しないクロック発生回路が発生する周期的な転送クロックCKに基づいて発生されるクロックである。さらに詳述すると、本実施形態では、インバータ463が転送クロックCKをレベル反転して転送クロックCKnを出力し、インバータ464がこの転送クロックCKnをレベル反転して転送クロックCKpを出力する。
転送クロックCKpがHレベル、転送クロックCKnがLレベルになると、電圧加算転送部440では、Nチャネルトランジスタ441および442がON、Nチャネルトランジスタ443および444がOFFとなり、キャパシタC41、C42およびC43が閉ループを構成する。この結果、キャパシタC43の電圧値が、閉ループ構成前におけるキャパシタC41の両電極間電圧VC41−VREFとキャパシタC42の両電極間電圧VREF−VC42との加算値VC41−VREF+VREF−VC42=VC41−VC42に応じた値、すなわち、入力信号VIpの正のピークと負のピークのピーク間電圧に応じた値となる。
次に転送クロックCKpがLレベル、転送クロックCKnがHレベルになると、電圧加算転送部440では、Nチャネルトランジスタ441および442がOFF、Nチャネルトランジスタ443および444がONとなり、キャパシタC43の電圧がキャパシタC44に転送される。このようにして、入力信号VIpの正のピークと負のピークのピーク間電圧に応じた電圧であって、接地レベルを基準とした電圧がキャパシタC44に発生する。
図11は、リリースクロックPGpおよびPGnと転送クロックCKpおよびCKnの波形を示す図である。図示の通り、リリースクロックPGpおよびPGnと転送クロックCKpおよびCKnは同じ周波数のクロックである。リリースクロックPGpおよびPGnは、転送クロックCKpがLレベルとなり、Nチャネルトランジスタ441および442がOFFとなる期間内に各々HレベルおよびLレベルとなり、Pチャネルトランジスタ429およびNチャネルトランジスタ439をON状態とする。
レベル比較部450は、コンパレータ451とスイッチ452とにより構成されている。ここで、スイッチ452は、ミュート電圧Vmuteを発生する電源と減衰指令パルス発生部320のキャパシタC30との間に介挿されている。コンパレータ451は、電圧加算転送部440のキャパシタC44の電圧と所定の閾値電圧Vsilとを比較し、キャパシタC44の電圧が閾値電圧Vsilよりも低くなったとき、スイッチ452をONとし、ミュート電圧VmuteをキャパシタC30に与える。ここで、閾値電圧Vsilの電圧値は、無信号とみなしてよい入力信号VIpのレベル範囲の上限値に基づいて決定される。
本実施形態によれば、入力信号VIpのピーク間電圧が無信号とみなしてよい範囲内に低下すると、ミュート電圧Vmuteが減衰指令パルス発生部320のキャパシタC30に与えられ、スイッチである減衰器160が定常的にON状態となり、誤差積分器110に対する入力信号がなくなる。従って、本実施形態によれば、前段からの入力信号の供給がない無信号時に、D級増幅器のゲインを自動的に最低値に下げ、前段が発生するノイズが耳障りな音となってスピーカから放音されるのを防止することができる。また、本実施形態によれば、入力信号VIpの正のピークと負のピークのピーク間電圧を検出し、このピーク間電圧に基づいて入力信号VIpが無信号とみなしてよい範囲内に低下したか否かを判定している。従って、入力信号VIpの基準レベルVREFからのドリフトの影響を受けることなく、入力信号VIpの振幅を示す情報を正確に取得することができ、適切なミュート制御を行うことができる。
<他の実施形態>
以上、この発明の実施形態を説明したが、この発明には、他にも各種の実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
(1)上記第2実施形態では、誤差積分器10が出力する積分値信号VDpおよびVDnのレベルを制限することにより、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパワーを制限したが、パルス幅変調回路130からプリドライバ140に供給されるパルスVOp’およびVOn’のパルス幅を制限することにより出力デジタル信号VOpおよびVOnのパワーを制限してもよい。この場合も、パルスVOp’およびVOn’のパルス幅が制限されたときには、積分値信号VDpまたはVDnのクランプが行われたときと同様に、負荷駆動波形に歪が生じ、誤差積分器110の入力レベルV1と入力レベルV2との間に負荷駆動波形の歪量に応じたレベル差が発生する。従って、上記第2実施形態のものと同様な出力制限指令発生部310Aにより出力制限指令信号Cdetを発生し、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパワーを制限することができる。
(2)上記第1および第2実施形態では、ミュート指令の発生に応じて積分器であるキャパシタC30の電圧VC1を増加させ、ミュート解除指令の発生に応じて電圧V30を減少させたが、電圧VC1の制御の態様は他にも考えられる。例えばD級増幅器の電源投入時、キャパシタC30の電圧V30を三角波信号TRpおよびTRnの上下のピーク間の中央の電圧またはそれ以上の電圧として、最大のパルス幅の減衰指令パルスSW(すなわち、常時Hレベルのパルス)を発生させ、所定時間経過したときから、電圧VC1を徐々に0Vまで低下させてもよい。この態様によれば、D級増幅器の電源投入時にポップ音が発生するのを防止することができる。
(3)上記各実施形態では、この発明を差動構成の平衡型のD級増幅器に適用した例を挙げたが、この発明は差動構成でない非平衡型のD級増幅器にも勿論適用可能である。