以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
図1は、この発明の一実施形態であるD級増幅器の構成を示す回路図である。このD級増幅器は、入力端101pおよび101nに与えられる正逆2相のアナログ入力信号VIpおよびVInのレベルに応じてパルス幅変調された正逆2相のデジタル信号VOpおよびVOnを生成し、出力端102pおよび102nから各々出力する回路である。ここで、出力端102pおよび102n間には、フィルタおよびスピーカコイル等の負荷200が介挿されている。また、入力端101pおよび出力端102n間には、抵抗R11、R12、R13、R14およびR15が直列に介挿され、入力端101nおよび出力端102p間には、抵抗R21、R22、R23、R24およびR25が直列に介挿されている。これらの各抵抗の抵抗値は、R11=R21、R12=R22、R13=R23、R14=R24、R15=R25となっている。
誤差積分器110の正相入力端111pには、抵抗R11、R12およびR13を介して正相の入力アナログ信号VIpが与えられ、誤差積分器110の逆相入力端111nには抵抗R21、R22およびR23を介して逆相の入力アナログ信号VInが与えられる。また、誤差積分器110の正相入力端111pには、抵抗R15およびR14を介して逆相デジタル信号VOnが帰還され、誤差積分器110の逆相入力端111nには、抵抗R25およびR24を介して正相デジタル信号VOpが帰還される。そして、誤差積分器110は、このようにして与えられる入力アナログ信号VIpおよびVInとデジタル信号VOpおよびVOnとの誤差を積分して、積分結果を示す正逆2相の積分値信号VDpおよびVDnを正相出力端112pおよび逆相出力端112nから各々出力する。
誤差積分器110に対する入力アナログ信号VIpおよびVInの入力経路において、抵抗R12およびR13の共通接続点と抵抗R22およびR23の共通接続点の間にはキャパシタC10が介挿されている。このキャパシタC10が設けられた入力経路は、誤差積分器110に入力アナログ信号VIpおよびVInが入力される過程において入力信号から高域の雑音を除去するローパスフィルタとして機能する。
また、誤差積分器110に対する入力アナログ信号VIpおよびVInの入力経路において、抵抗R11およびR12の共通接続点と抵抗R21およびR22の共通接続点の間には減衰器160が介挿されている。この減衰器160は、誤差積分器110に対する入力信号のレベルを減衰させる手段である。本実施形態における減衰器160は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor構造の電界効果トランジスタ。以下、単にトランジスタという。)などによるスイッチである。この減衰器160は、減衰指令パルスSWが与えられることによってON状態となり、入力アナログ信号を断続的に減衰させる減衰手段として機能する。なお、減衰指令パルスSWを発生する手段については後述する。
誤差積分器110としては各種のものが考えられるが、図示の例では、差動増幅器113と、4個のキャパシタC1〜C4と2個の抵抗R1およびR2により構成された2次の誤差積分器110が用いられている。ここで、差動増幅器113の正相入力端(+入力端)および逆相入力端(−入力端)は、各々誤差積分器110の正相入力端111pおよび逆相入力端111nとなっており、差動増幅器113の正相出力端(+出力端)と逆相出力端(−出力端)は、各々誤差積分器110の正相出力端112pおよび逆相出力端112nとなっている。そして、差動増幅器113の正相入力端と逆相出力端との間には、誤差を積分するためのキャパシタC1およびC2が直列に介挿されており、これらのキャパシタの共通接続点は抵抗R1を介して接地されている。また、差動増幅器113の逆相入力端と正相出力端との間にも、誤差を積分するためのキャパシタC3およびC4が直列に介挿されており、これらのキャパシタの共通接続点は抵抗R2を介して接地されている。
パルス幅変調回路130は、誤差積分器110から与えられる積分値信号VDpおよびVDnのレベルに応じたパルス幅を持った2相のパルスVOp’およびVOn’を発生する回路である。さらに詳述すると、パルス幅変調回路130は、VDp>VDnの場合には、レベル差VDp−VDnに応じたパルス幅を持った負のパルスVOp’を出力し、VDn>VDpの場合には、レベル差VDn−VDpに応じたパルス幅を持った負のパルスVOn’を出力する。なお、パルス幅変調回路130の詳細な構成例については後述する。
プリドライバ140は、パルス幅変調回路130が出力するパルスVOp’およびVOn’を出力バッファ150に伝達する回路であり、例えばノンインバーティングバッファである。出力バッファ150は、インバータ151とインバータ152とを有する。図示の通り、インバータ151および152は、PチャネルトランジスタおよびNチャネルトランジスタを電源+VBおよび接地間に直列に介挿してなる周知のインバータである。ここで、インバータ151は、パルス幅変調回路130からプリドライバ140を介して与えられるパルスVOn’をレベル反転し、上述したデジタル信号VOnとして出力端102nから出力する。また、インバータ152は、パルス幅変調回路130からプリドライバ140を介して与えられるパルスVOp’をレベル反転し、上述したデジタル信号VOpとして出力端102pから出力する。
出力バッファ150から誤差積分器110へのデジタル信号VOpおよびVOnの帰還経路において、抵抗R15およびR14の共通接続点と抵抗R25およびR24の共通接続点の間にはキャパシタC20が介挿されている。このキャパシタC20が介挿された帰還経路は、デジタル信号VOpおよびVOnが誤差積分器110へ帰還される際に帰還信号から高域の雑音を除去するローパスフィルタとして機能する。
また、抵抗R15およびR14の共通接続点と抵抗R25およびR24の共通接続点の間には、D級増幅器全体のゲインを調整するゲイン調整回路170が介挿されている。このゲイン調整回路170は、抵抗R15およびR14の共通接続点と抵抗R25およびR24の共通接続点の間に直列に介挿された抵抗R31、R32、Nチャネルトランジスタ171、抵抗R33およびR34を有し、さらに抵抗R31およびR32の共通接続点と抵抗R33およびR34の共通接続点との間に介挿されたNチャネルトランジスタ172とを有する。
Nチャネルトランジスタ171および172の各ゲートには、ゲイン調整信号G1およびG2が各々与えられる。このゲイン調整信号G1およびG2は、外部からD級増幅器に与えられる信号であり、例えばこのD級増幅器が搭載されるオーディオ機器のホストCPUが図示しない操作部の操作等に基づいて発生する。ここで、ゲイン調整信号G1およびG2の両方がLレベルの場合、Nチャネルトランジスタ171および172の両方がOFFとなる。この場合、抵抗R15およびR14の共通接続点と抵抗R25およびR24の共通接続点の間は開放され、D級増幅器では本来のデフォルトゲイン(抵抗R11+R12+R13と抵抗R14+R15の比により定まるゲイン)GAIN0での増幅が行われる。
ゲイン調整信号G1がHレベル、ゲイン調整信号G2がLレベルの場合、Nチャネルトランジスタ171がON、Nチャネルトランジスタ172がOFFとなる。この結果、抵抗R15およびR14の共通接続点と抵抗R25およびR24の共通接続点の間が、抵抗R31、R32、R33およびR34を直列に介して接続された状態となる。この場合、出力デジタル信号VOpおよびVOnに対する誤差積分器110に帰還される信号の割合が減るため、D級増幅器のゲインはデフォルトゲインよりも大きなゲインGAIN1(>GAIN0)となる。
また、ゲイン調整信号G2がHレベルの場合には、Nチャネルトランジスタ172がONとなる。この結果、抵抗R15およびR14の共通接続点と抵抗R25およびR24の共通接続点の間が、抵抗R31およびR34を直列に介して接続された状態となる。この場合、出力デジタル信号VOpおよびVOnに対する誤差積分器110に帰還される信号の割合がさらに減るため、D級増幅器のゲインはゲインGAIN1よりも大きなゲインGAIN2(>GAIN1>GAIN0)となる。
次にパルス幅変調回路130の構成例について説明する。図1に示す例では、パルス幅変調回路130は、三角波発生器131と、コンパレータ132および133と、インバータ134および135と、NANDゲート136および137により構成されている。図2は、三角波発生器131が発生する三角波信号TRp、TRnの波形を示す図である。また、図3(a)および(b)はパルス幅変調回路130の各部の信号波形を示す図であり、図3(a)はVDp>VDnの場合における信号波形を、図3(b)はVDn>VDpの場合における信号波形を示すものである。
三角波発生器131は、図2に示すように、電圧0Vから所定の電圧+VPまで一定の勾配で立ち上がり、電圧+VPから電圧0Vまで一定の勾配で立ち下がる一定周期の三角波信号TRpを発生するとともに、この三角波信号TRpと逆相関係にある三角波信号TRnを発生する。なお、電圧+VPは、電源電圧+VBと同じ電圧でもよく、異なる電圧でもよい。
図3(a)および(b)に示すように、コンパレータ132は、三角波信号TRpと積分値信号VDnとを比較し、三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えている期間はLレベル、それ以外の期間はHレベルとなる信号VEnを出力する。コンパレータ133は、三角波信号TRpと積分値信号VDpとを比較し、三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えている期間はLレベル、それ以外の期間はHレベルとなる信号VEpを出力する。インバータ134は、信号VEpをレベル反転した信号を出力する。インバータ135は、信号VEnをレベル反転した信号を出力する。
NANDゲート136は、信号VEnとインバータ134の出力信号との論理積をとることにより、上述したパルスVOn’を出力する。ここで、信号VEnは三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えていない期間にHレベルとなり、インバータ134の出力信号は三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えている期間にHレベルとなる。従って、NANDゲート136は、図3(b)に示すように、VDn>VDpである場合において、三角波信号TRpの信号値がVDnとVDpとの間にある期間だけLレベルとなる負のパルスVOn’を出力する。すなわち、NANDゲート136は、VDn>VDpである場合において、レベル差VDn−VDpに比例したパルス幅のパルスVOn’を出力する。
また、NANDゲート137は、信号VEpとインバータ135の出力信号との論理積をとることにより、上述したパルスVOp’を出力する。ここで、信号VEpは三角波信号TRpが積分値信号VDpを越えていない期間にHレベルとなり、インバータ135の出力信号は三角波信号TRpが積分値信号VDnを越えている期間にHレベルとなる。従って、NANDゲート137は、図3(a)に示すように、VDp>VDnである場合において、三角波信号TRpの信号値がVDnとVDpとの間にある期間だけLレベルとなる負のパルスVOp’を出力する。すなわち、NANDゲート137は、VDp>VDnである場合において、レベル差VDp−VDnに比例したパルス幅のパルスVOp’を出力する。
以上がパルス幅変調回路130の詳細である。
次に減衰制御部300について説明する。減衰制御部300は、上述した減衰指令パルスSWを発生して減衰器160に供給し、誤差積分器110に対する入力信号を減衰させる制御を行う回路である。この減衰制御部300は、歪検出部310と、圧縮特性制御部330と、減衰指令発生部380とにより構成されている。ここで、歪検出部310は、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度が100%に到達してクリップし、D級増幅器からフィルタおよび負荷200への出力波形(以下、負荷駆動波形という)に一定量の歪みが発生したか否かを誤差積分器110の正相入力端111pの入力レベルV1と逆相入力端111nの入力レベルV2とに基づいて検出する回路である。この歪検出部310による歪検出の原理は次の通りである。
まず、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度が100%未満であってクリップが発生していない状態では、誤差積分器110に対する入力信号に見合ったレベルの帰還信号が出力端102nおよび102p側から誤差積分器110の入力側に帰還されるため、誤差積分器110は正相入力端111pの入力レベルV1と逆相入力端111nの入力レベルV2を同一の電圧に維持した状態で動作する。さらに詳述すると、入力信号VIpおよびVInが誤差積分器110の動作点である基準レベルVREFにあるとき、誤差積分器110は正相入力端111pの入力レベルV1は、電圧VIp(=VREF)と接地状態である電圧VOn(=0V)との差電圧(=VREF)を抵抗R11、R12およびR13と抵抗R14およびR15とにより分圧した電圧{(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREFとなる。同様に、誤差積分器110の逆相入力端111nの入力レベルV2は、電圧VIn(=VREF)と接地状態である電圧VOp(=0V)との差電圧(=VREF)を抵抗R21、R22およびR23と抵抗R24およびR25とにより分圧した電圧{(R24+R25)/(R21+R22+R23+R24+R25)}VREF={(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREF=V1となる。そして、入力信号VIpおよびVInが基準レベルVREFを中心に互いに逆相となるように振動し、かつ、入力信号VIpおよびVInの振幅が小さくて出力デジタル信号VOpおよびVOnがクリップしない状態では、誤差積分器110の入力レベルV1およびV2は、図4に示すように、互いに同じレベルを維持しながら、電圧{(R14+R15)/(R11+R12+R13+R14+R15)}VREFから高電位方向に負荷駆動波形のレベル(=出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度)に応じた電圧だけ振動する。
しかし、出力デジタル信号VOpまたはVOnのパルス幅変調度が100%に到達してクリップすると、誤差積分器110に対する入力信号に見合ったレベルの帰還信号が誤差積分器110の入力側に帰還されず、帰還信号に対して入力信号のレベルが過剰になる。このため、出力デジタル信号VOpまたはVOnがクリップする度に、図4に示すように、入力レベルV1と入力レベルV2との間にクリップにより生じる負荷駆動波形の歪量に応じたレベル差が発生する。
歪検出部310は、このような入力レベルV1およびV2の挙動に基づき、図4に示すように、負荷駆動波形に一定量の歪が生じた旨の歪検出信号を出力するのである。この歪検出信号の発生方法の具体例として次の2つがある。
方法(1):入力レベルV1またはV2が基準レベルVREFよりも所定量ΔVだけ大きい閾値VREF+ΔVを越えたとき歪検出信号をアクティブレベルとする。
方法(2):入力レベルV1およびV2の差分|V1−V2|が閾値2ΔVを越えたとき歪検出信号をアクティブレベルとする。
圧縮特性制御部330は、D級増幅器に対する入力信号VIpおよびVInのピークに対して、指定された圧縮比に対応したゲインを乗じ、かつ、指定されたスレッショルドを加算した圧縮特性制御信号を発生するとともに、出力デジタル信号VOpおよびVOnのレベル(負荷駆動波形のレベル)が圧縮特性制御信号のレベルを越えるのに応じて出力制限指令信号を出力する回路である。上述したように、誤差積分器110に対する入力レベルV1およびV2は、出力デジタル信号VOpおよびVOnのレベル(負荷駆動波形のレベル)の増減と連動する。そこで、本実施形態において圧縮特性制御部330は、入力レベルV1またはV2が圧縮特性制御信号のレベルを越えるか否かにより出力制限指令信号をアクティブレベルとするか否かの切り換えを行う。
減衰指令発生部380は、歪検出部310が出力する歪検出信号または圧縮特性制御部330が出力する出力制限指令信号に応じて、上述した減衰指令パルスSWを発生して減衰器160に供給する回路である。
さらに詳述すると、減衰指令発生部380は、歪検出信号および出力制限指令信号を積分する積分器を有しており、この積分器の積分値に応じたパルス幅を有する減衰指令パルスSWを一定の周期で出力する。ここで、入力信号VIpおよびVInのレベルが小さく、出力デジタル信号VOpおよびVOnのクリップが生じない領域では、出力デジタル信号VOpおよびVOnのレベル(負荷駆動波形のレベル)が圧縮特性制御信号のレベルを越えると、圧縮特性制御部330から減衰指令発生部380にアクティブレベルの出力制限指令信号が出力される。そして、減衰指令発生部380では、この出力制限指令信号の積分が行われ、その積分値に応じたパルス幅を持った減衰指令パルスSWが出力され、減衰器160による入力信号VIpおよびVInの減衰が行われる。このようにして、出力デジタル信号VOpおよびVOnのレベル(より正確には負荷駆動波形のレベル)を圧縮特性制御信号のレベルに一致させる負帰還制御が働く。
一方、入力信号VIpおよびVInのレベルが大きく、出力デジタル信号VOpおよびVOnのクリップが生じる領域では、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度が100%に達してクリップしたとき、歪検出部310から減衰指令発生部380にアクティブレベルの歪検出信号が出力される。そして、減衰指令発生部380では、この歪検出信号の積分が行われ、その積分値に応じたパルス幅を持った減衰指令パルスSWが出力され、減衰器160による入力信号の減衰が行われる。このようにして、D級増幅器のゲインを下げて、出力デジタル信号VOpおよびVOnのレベル(負荷駆動波形のレベル)をクリップレベルに一致させる負帰還制御が働く。
図5は、本実施形態における減衰制御部300の具体的構成例を示す回路図である。この例において、歪検出部310は、上述した方法(1)に従って歪検出信号V11およびV12を出力する回路である。この歪検出部310は、抵抗R41〜R45と、キャパシタC41およびC42と、オペアンプ311および312と、コンパレータ313および314とにより構成されている。オペアンプ311の正相入力端には、抵抗R41を介して誤差積分器110に対する入力信号V1が与えられる。そして、オペアンプ311の正相入力端と接地線との間にはキャパシタC41が介挿されている。また、オペアンプ312の正相入力端には、抵抗R42を介して誤差積分器110に対する入力信号V2が与えられる。そして、オペアンプ312の正相入力端と接地線との間にはキャパシタC42が介挿されている。ここで、抵抗R41およびキャパシタC41は、信号V1に含まれる高域ノイズを除去するローパスフィルタを構成しており、抵抗R42およびキャパシタC42は、信号V2に含まれる高域ノイズを除去するローパスフィルタを構成している。オペアンプ311の出力端とオペアンプ312の出力端との間には同一の抵抗値を有する抵抗R43、R44およびR45が直列に介挿されている。そして、抵抗R43およびR44の共通接続点はオペアンプ311の逆相入力端に、抵抗R44およびR45の共通接続点はオペアンプ312の逆相入力端に各々接続されている。コンパレータ313および314の各正相入力端にはオペアンプ311および312の各出力信号が各々与えられる。また、コンパレータ313および314の各逆相入力端には閾値電圧VREF+ΔVが各々与えられる。そして、コンパレータ313は、オペアンプ311の出力信号と閾値電圧VREF+ΔVとの比較結果を示す歪検出信号V11を出力し、コンパレータ314は、オペアンプ312の出力信号と閾値電圧VREF+ΔVとの比較結果を示す歪検出信号V12を出力する。
このような構成において、入力信号VIpおよびVInのレベルが小さく、出力デジタル信号VOpおよびVOnがクリップしない領域では、上述したように、誤差積分器110に対する入力信号V1およびV2は互いに同一のレベルとなって変動する。この場合、オペアンプ311からは信号V1がそのまま出力され、オペアンプ312からは信号V2(=V1)がそのまま出力される。そして、この場合のオペアンプ311および312の各出力信号のレベルは基準レベルVREFよりも低くなる(図4参照)。従って、コンパレータ313および314が各々出力する歪検出信号V11およびV12は、いずれも非アクティブレベルとなる。
一方、入力信号VIpおよびVInのレベルが大きく、出力デジタル信号VOpおよびVOnがクリップする領域では、出力デジタル信号VOpまたはVOnがクリップする都度、誤差積分器110に対する入力信号V1およびV2が、図4に示すように基準レベルVREFを中心として高電位側および低電位側に離れる。そして、例えばV1=VREF+Va、V2=VREF−Vaとすると、歪検出部310では、抵抗R44の中点の電位が基準レベルVREFとなり、抵抗R43およびR44の接続点の電位がV1=VREF+Va、抵抗R44およびR45の接続点の電位がV2=VREF−Vaとなるようにオペアンプ311および312の増幅動作が行われる。この場合、抵抗R44の中点とその端部との間の抵抗(抵抗R44の半分の抵抗)では電圧降下Vaが発生するが、抵抗R43およびR44の各々では、その2倍の電圧降下2Vaが発生する。このため、オペアンプ311の出力信号の電圧値はVREF+3Va、オペアンプ312の出力信号の電圧値はVREF−3Vaとなる。逆にV1=VREF−Va、V2=VREF+Vaとなる場合には、オペアンプ311の出力信号の電圧値はVREF−3Va、オペアンプ312の出力信号の電圧値はVREF+3Vaとなる。このようにオペアンプ311および312は、信号V1およびV2の基準レベルVREFに対する変化分Vaをゲイン3で増幅して出力する。
そして、オペアンプ311の出力信号が例えばVREF+3Vaとなって閾値電圧VREF+ΔVを越える場合、コンパレータ313は歪検出信号V11をアクティブレベルとする。また、オペアンプ312の出力信号が例えばVREF+3Vaとなって閾値電圧VREF+ΔVを越える場合、コンパレータ314は歪検出信号V12をアクティブレベルとする。なお、歪検出信号V11は、前掲図4では、V1>VREF+ΔVの期間にアクティブレベル(Hレベル)となる信号成分に相当し、歪検出信号V12は、V2>VREF+ΔVの期間にアクティブレベル(Hレベル)となる信号成分に相当する。
次に圧縮特性制御部330について説明する。この圧縮特性制御部330は、ピークホールド回路340と、電圧変換回路360と、コンパレータ370とにより構成されている。ここで、ピークホールド回路340は、D級増幅器に対する入力信号VIpおよびVInのピーク電圧VPを検出して保持する回路である。このピークホールド回路340の構成は次の通りである。
差動増幅器341は、ソース同士が接続されたNチャネルトランジスタ342、343および344と、これらのトランジスタの各ソースの共通接続点と接地線との間に介挿された定電流源345と、Nチャネルトランジスタ342および343のドレイン同士の接続点と電源+VBとの間に介挿されたPチャネルトランジスタ346と、Nチャネルトランジスタ344のドレインと電源+VBとの間に介挿されたPチャネルトランジスタ347とにより構成されている。ここで、Pチャネルトランジスタ346および347の各ゲートは、Pチャネルトランジスタ347のドレインとNチャネルトランジスタ344のドレインとの共通接続点に接続されている。
差動増幅器341において、Nチャネルトランジスタ342および343の各ゲートにはD級増幅器に対する入力信号VIpおよびVInが各々与えられ、Nチャネルトランジスタ344のゲートにはピークホールド用のキャパシタC51の一方の電極が接続されている。そして、キャパシタC51の他方の電極は接地されている。そして、差動増幅器341では、入力信号VIpまたはVInの少なくとも一方がNチャネルトランジスタ344のゲートに接続されたキャパシタC51の電極の電圧VPよりも高い場合にNチャネルトランジスタ342または343がON、Nチャネルトランジスタ344がOFFとなり、逆に入力信号VIpおよびVInのいずれもが電圧VPよりも低い場合にNチャネルトランジスタ342および343がOFF、Nチャネルトランジスタ344がONとなる。
Pチャネルトランジスタ348は、ソースが電源+VBに接続され、ゲートがNチャネルトランジスタ342および343のドレイン同士の共通接続点に接続され、ドレインがNチャネルトランジスタ344のゲートとキャパシタC51との共通接続点に接続されている。そして、ピークホールド回路340では、入力信号VIpまたはVInがキャパシタC51の電圧VPよりも高く、Nチャネルトランジスタ342または343がONになっているときにPチャネルトランジスタ348がONとなり、キャパシタC51の電圧VPを入力信号VIpまたはVInのうち大きい方の電圧値に向けて上昇させるアタック動作が行われる。このアタック動作により、入力信号VIpまたはVInのうち大きい方のピーク電圧VPがキャパシタC51に保持されることとなる。
定電流源349およびNチャネルトランジスタ350は、Nチャネルトランジスタ344のゲートおよびキャパシタC51の共通接続点と接地線との間に介挿されている。ここで、Nチャネルトランジスタ350のゲートには、リリースクロックPGpが与えられる。そして、ピークホールド回路340では、上述したアタック動作が行われるのと並行し、リリースクロックPGpがHレベルになるのに応じてNチャネルトランジスタ350がONとなって定電流源349をキャパシタC51に接続し、キャパシタC51の蓄積電荷(正の電荷)を放電し、キャパシタC51のピーク電圧VPを低下させるリリース動作が行われる。図6は、入力信号VIpおよびVInとキャパシタC51の電圧VPの各波形を例示する波形図である。この図6に示すように、キャパシタC51のピーク電圧VPは入力信号VIp(VIn)が立ち上がるのに追従して立ち上がり、入力信号VIp(VIn)がピークを過ぎて立ち下がる期間は、緩やかに立ち下がる。そして、入力信号VIn(VIp)が立ち上がり中のピーク電圧VPに到達すると、その後、キャパシタC51のピーク電圧VPは、その入力信号VIn(VIp)に追従して立ち上がる。キャパシタC51のピーク電圧VPは、このような挙動を繰り返す。その際、入力信号VIp(VIn)がピークを過ぎた後、緩やかに立ち下がる際の時間勾配は、リリースクロックPGpの周期に依存し、リリースクロックPGpの周期を大きくする程、時間勾配は緩やかになる。リリースクロックPGpは、D級増幅器の外部から与えられるものであってもよいし、D級増幅器内部において発生されるものであってもよい。後者の場合、D級増幅器の外部から与えられる制御信号に応じて、D級増幅器内で発生するリリースクロックPGpの周波数を制御するようにしてもよい。
次に電圧変換回路360について説明する。この電圧変換回路360において、オペアンプ361は、出力端と逆相入力端とが短絡されており、正相入力端に与えられるピーク電圧VPと同一の電圧を出力するボルテージフォロワを構成している。そして、このオペアンプ361の出力端と閾値電圧Vxを発生する電源との間には抵抗R51、R52およびR53が直列に介挿されている。これらの抵抗R51、R52およびR53は、ピーク電圧VPと閾値電圧Vxとを内分して分圧を発生する分圧回路を構成している。Nチャネルトランジスタ362、363および364は、この分圧回路が出力する複数種類の分圧のうち1つを選択して圧縮特性制御信号Vyとして出力する選択回路を構成している。
さらに詳述すると、Nチャネルトランジスタ362のソースは抵抗R51およびR52の接続点に、Nチャネルトランジスタ363のソースは抵抗R52およびR53の接続点に、Nチャネルトランジスタ364のソースは閾値電圧Vxを出力する電源に各々接続されている。また、Nチャネルトランジスタ362、363および364の各ドレインはコンパレータ370の逆相入力端に接続されている。また、Nチャネルトランジスタ362、363および364の各ゲートには、選択信号SEL1〜SEL3が各々与えられる。これらの選択信号SEL1〜SEL3は、いずれか1つがアクティブレベル、他の2つが非アクティブレベルとなるように切り換え制御が行われる。選択信号SEL1〜SEL3はD級増幅器の外部から供給される信号であり、例えばD級増幅器が搭載されるオーディオ機器のホストCPUが図示しない操作部の操作等に基づいて発生する。
Nチャネルトランジスタ362は、選択信号SEL1がアクティブレベルのときにONとなり、抵抗R51およびR52の接続点に発生する電圧Vy1を圧縮特性制御信号Vyとしてコンパレータ370の逆相入力端に出力する。この場合の電圧Vy1は、次式に示すものとなる。
Vy1=((R52+R53)・VP+R51・Vx)/(R51+R52+R53) ……(1)
Nチャネルトランジスタ363は、選択信号SEL2がアクティブレベルのときにONとなり、抵抗R52およびR53の接続点に発生する電圧Vy2を圧縮特性制御信号Vyとしてコンパレータ370の逆相入力端に出力する。この場合の電圧Vy2は、次式に示すものとなる。
Vy2=(R53・VP+(R51+R52)・Vx)/(R51+R52+R53) ……(2)
そして、Nチャネルトランジスタ364は、選択信号SEL3がアクティブレベルのときにONとなり、閾値電圧Vxを圧縮特性制御信号Vyとしてコンパレータ370の逆相入力端に出力する。
以上が電圧変換回路360の構成である。
コンパレータ370の正相入力端子には、上述した歪検出部310のオペアンプ312の出力信号が与えられる。上述した通り、出力デジタル信号VOpおよびVOnがクリップしていない状態では、このオペアンプ312の出力信号の電圧値は、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度(負荷駆動波形)と連動する。コンパレータ370は、このオペアンプ312の出力信号と逆相入力端に与えられる圧縮特性制御信号Vyとを比較し、オペアンプ312の出力信号(すなわち、負荷駆動波形)が圧縮特性制御信号Vyを越えたときにアクティブレベルとなる出力制限指令信号V20を出力する。
次に減衰指令発生部380について説明する。減衰指令発生部380は、ORゲート381と、電源+VBおよび接地線間に直列に介挿された定電流源382、スイッチ383およびキャパシタC61と、キャパシタC61に並列接続された抵抗R61と、コンパレータ384および385と、ローアクティブORゲート386とにより構成されている。スイッチ383には、ORゲート381を介して歪検出信号V11、V12または出力制限指令信号V20が与えられる。ここで、歪検出信号V11、V12または出力制限指令信号V20のいずれかがアクティブレベルのときには、スイッチ383がONとなり、定電流源382の出力電流によりキャパシタC61の充電が行われ、キャパシタC61の電圧VC61が上昇する。また、抵抗R61は、キャパシタC61に充電された電荷を放電させる。従って、歪検出信号V11、V12または出力制限指令信号V20が間欠的にアクティブレベルとなる状況では、電圧VC61は、歪検出信号V11、V12または出力制限指令信号V20がアクティブレベルである期間に上昇し、非アクティブレベルである期間に低下する、という脈動を繰り返す。
コンパレータ384は、正相入力端に三角波信号TRpが、逆相入力端にキャパシタC61の電圧VC61が与えられ、三角波信号TRpがキャパシタC61の電圧VC61を下回っている期間、Lレベルの信号をローアクティブORゲート386に出力する。また、コンパレータ385は、正相入力端に三角波信号TRnが、逆相入力端にキャパシタC61の電圧VC61が与えられ、三角波信号TRnがキャパシタC61の電圧VC61を下回っている期間、Lレベルの信号をローアクティブORゲート386に出力する。従って、ローアクティブORゲート386は、三角波信号TRpがキャパシタC61の電圧VC61を下回っている期間および三角波信号TRnがキャパシタC61の電圧VC61を下回っている期間の各期間において、Hレベルとなる減衰指令パルスSWを発生し、この減衰指令パルスSWを減衰器160に与え、スイッチである減衰器160をONにする。
図7(a)および(b)は各々減衰指令パルスSWが発生しない場合および減衰指令パルスSWが発生する場合におけるD級増幅器の各部の信号波形を示す図である。上述した通り、誤差積分器110は、入力アナログ信号と出力デジタル信号との誤差を積分する。このため、誤差積分器110から得られる積分値信号VDpおよびVDnは、入力アナログ信号VIpおよびVInの波形に対して出力デジタル信号に相当するリップルが重畳したような波形となる。
図7(a)に示す例では、入力アナログ信号VIpおよびVInのレベルが低く、歪検出信号V11およびV12はいずれも非アクティブレベルである。また、図示は省略したが、この例では出力制限指令信号V20も非アクティブレベルである。この状態では、減衰指令発生部380では、キャパシタC61の電圧VC61が0Vとなるため、減衰指令パルスSWは発生されない。このため、減衰器160の両端に現れるアナログ信号VIp’およびVIn’の波形は、入力アナログ信号VIpおよびVInに対して所定の係数を乗算した相似波形となる。
しかし、例えば入力アナログ信号VIpおよびVInのレベルが高くなって、出力デジタル信号VOpおよびVOnがクリップすると、誤差積分器110に対する入力信号V1およびV2が基準レベルVREFを中心として高電位側および低電位側に離れ、歪検出信号V11およびV12が交互にアクティブレベルとなる。そして、減衰指令発生部380では、図7(b)に示すように、キャパシタC61の電圧VC61が上昇し、三角波信号TRpおよびTRnの各ピーク点に同期して減衰指令パルスSWが発生される。この結果、減衰器160の両端におけるアナログ信号VIp’およびVIn’は、減衰指令パルスSWがLレベルの期間は、元の入力アナログ信号VIpおよびVInに対応した信号値、減衰指令信号SWがHレベルの期間は0Vとなり、図7(b)に示すように、一定時間間隔で間引きを行った波形となる。従って、誤差積分器110に対して実質的に入力されるアナログ信号が減衰する。
以上が本実施形態によるD級増幅器の構成の詳細である。
次に本実施形態の動作について説明する。図8(a)および(b)は本実施形態によるD級増幅器のダイナミックレンジ圧縮特性を例示する図である。これらの図において、横軸はD級増幅器の入力レベル、より具体的には入力信号VIpおよびVInのピーク電圧VPである。また、縦軸はD級増幅器の出力レベル、より具体的には出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度あるいはフィルタおよび負荷200に与えられる負荷駆動波形のピーク電圧である。また、図8(a)および(b)において、Vy1は選択信号SEL1がアクティブレベルである場合の圧縮特性制御信号Vyの入力レベルVPに対する依存性(前掲式(1)参照)、Vy2は選択信号SEL2がアクティブレベルである場合の圧縮特性制御信号Vyの入力レベルVPに対する依存性(前掲式(2)参照)、Vy3は選択信号SEL3がアクティブレベルである場合の圧縮特性制御信号Vy=Vxを示す。図示の通り、圧縮特性制御信号Vy1〜Vy3の入力レベルVPに対する依存性は、いずれも(Vx、Vx)点を通過する直線となる。このことは、前掲式(1)および(2)においてVPにVxを代入した場合のVyがVxとなることからも明らかである。
図8(a)に示す例では、ゲイン調整信号G1およびG2の両方がLレベルであり、D級増幅器のゲインはデフォルトゲインGAIN0となっている。また、デフォルトゲインGAIN0の値は1となっている。このようにGAIN0=1である場合、出力レベルの入力レベルに対する依存性を示す直線は、原点と(Vx、Vx)点を通過する直線となる。また、この例では、選択信号SEL2がアクティブレベルとなっており、圧縮特性制御信号Vyとして電圧Vy2がNチャネルトランジスタ363により選択されてコンパレータ370の逆相入力端に供給される(図5参照)。
この例において、入力レベルが閾値電圧Vxよりも小さい領域Iaでは、デフォルトゲインGAIN0での増幅結果である出力レベルは圧縮特性制御信号Vy2よりも低い。このため、圧縮特性制御部330では、出力制限指令信号V20は非アクティブレベルを維持する。また、この領域Iaでは、入力レベルが十分に低く、出力デジタル信号VOpおよびVOnのクリップも発生しない。このため、歪検出信号V11およびV12も非アクティブレベルを維持する。従って、減衰指令パルスSWは出力されず、D級増幅器のゲインはデフォルトゲインGAIN0となる。
入力レベルが閾値電圧Vxよりも大きく、かつ、出力レベルがクリップレベル未満となる領域Ibでは、デフォルトゲインGAIN0での増幅結果である出力レベルは圧縮特性制御信号Vy2の電圧値よりも高くなる。このため、圧縮特性制御部330では、D級増幅器の負荷駆動波形を示すオペアンプ312の出力信号が圧縮特性制御信号Vy2を越える都度、出力制限指令信号V20がアクティブレベルとなる。そして、減衰指令発生部380では、出力制限指令信号V20がアクティブレベルとなることによりキャパシタC61の電圧VC61が上昇し、三角波信号TRpおよびTRnの各ピークに同期した減衰指令パルスSWが出力される。この減衰指令パルスSWによりスイッチである減衰器160がONとされ、誤差積分器110に対する入力信号のレベルが減衰される。
ここで、オペアンプ312の出力信号が圧縮特性制御信号Vy2を越えている期間は、出力制限指令信号V20が継続的にアクティブレベルとされ、キャパシタC61の電圧VC61が上昇して減衰指令パルスSWのパルス幅が増加し、誤差積分器110に対する入力信号のレベルの減衰量が増加する。さらに詳述すると、オペアンプ312の出力信号が圧縮特性制御信号Vy2を越えている期間は、減衰指令パルスSWのパルス幅を大きくして間引き率を大きくし、D級増幅器全体としての利得を低下させる、いわば負帰還制御が行われる。このような負帰還制御が働く結果、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度がある上限値以内に収まるように、D級増幅器全体としての利得が最適値に調整される。この出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度の上限値は、圧縮特性制御信号Vy2に依存する。
何故ならば、本実施形態によるD級増幅器では、誤差積分器110が出力する積分値信号VDpおよびVDnのレベルに応じて出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度が決定される一方、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度が圧縮特性制御信号Vy2に対応した値を越えようとするときに誤差積分器110に対する入力信号を間引きする減衰指令パルスSWが発生され、積分値信号VDpおよびVDnのレベルの増加並びにこれに伴うパルス幅変調度の増加が抑えられるからである。このため、領域Ibでは、D級増幅器の出力レベル(パルス幅変調度)が圧縮特性制御信号Vy2に対応した出力レベルに維持される。
入力レベルが大きく、出力デジタル信号VOpおよびVOnがクリップする領域Icでは、出力デジタル信号VOpおよびVOnがクリップして負荷駆動波形に一定量の歪が発生する都度、歪検出部310からアクティブレベルの歪検出信号V11およびV12が出力される。そして、減衰指令発生部380では、歪検出信号V11またはV12がアクティブレベルとなることによりキャパシタC61の電圧VC61が上昇し、三角波信号TRpおよびTRnの各ピークに同期した減衰指令パルスSWが出力される。これによりD級増幅器では、負荷駆動波形の歪量を一定に保つようにゲイン制御が行われる。
図8(b)に示す例では、ゲイン調整信号G1がHレベル、ゲイン調整信号G2がLレベルであり、D級増幅器のゲインはGAIN1(>1)となっている。また、この例では、図8(a)の場合と同様、選択信号SEL2がアクティブレベルとなっており、圧縮特性制御信号Vy2がNチャネルトランジスタ363により選択されてコンパレータ370の逆相入力端に供給される(図5参照)。
D級増幅器のゲインがGAIN1>1である場合、ゲインGAIN1における出力レベルの入力レベルに対する依存性を示す直線と、圧縮特性制御信号Vy2の入力レベルに対する依存性を示す直線は、Vxよりも低い入力レベルにおいて交差する。このため、図8(a)に示す場合に比べて、領域Iaの範囲が狭くなり、その分だけ領域Ibの範囲が広くなる。他の点については、図8(a)に示す例と同様の動作となる。
図示は省略したが、選択信号SEL3がアクティブレベルとなる場合には、領域Icは発生しない。領域Iaにおいて、ゲインGAIN0、GAIN1またはGAIN2のうち選択されたゲインでの増幅が行われる。そして、選択されたゲインでの増幅を行うと、増幅結果である出力レベルが圧縮特性制御信号Vy3=Vxを越える領域Ibでは、出力レベルを閾値電圧Vxとするゲイン制御が行われる。すなわち、本実施形態では、選択信号SEL3がアクティブレベルとすることによりD級増幅器の最大パワーを閾値電圧Vxに対応したパワーに制限するパワーリミットコントロール機能を実現することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、選択されたゲインでの増幅結果が圧縮特性制御信号Vyを越える領域では、D級増幅器の出力レベルを圧縮特性制御信号Vyに一致させるように、入力レベルに応じて減衰指令パルスSWを発生し、誤差積分器に対する入力信号を減衰させる負帰還制御が行われる。従って、本実施形態によれば、外付けのボリューム等を設けることなく、D級増幅器にダイナミックレンジ圧縮を行わせることができる。また、本実施形態によれば、操作部の操作等によって圧縮特性制御信号Vyの入力レベルに対する依存性を所望の特性とし、所望のダイナミックレンジ圧縮特性を実現することができる。また、本実施形態によれば、圧縮特性制御信号Vyを入力レベルに依存しない一定値とすることにより、パワーリミットコントロール機能を実現することができる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
(1)前掲図5の減衰制御部300では、上記方法(1)により歪検出信号を発生する歪検出部310を設けたが、上記方法(2)により歪検出信号を発生する歪検出部を設けてもよい。図9はそのような歪検出部の一例である歪検出部310Aの構成を示す回路図である。この歪検出部310Aは、コンパレータ321および322と、ORゲート323とにより構成されている。ここで、コンパレータ321および322は、正相入力端と逆相入力端との間にオフセット電圧2ΔVを有している。そして、コンパレータ321は、正相入力端に電圧V1が逆相入力端に電圧V2が与えられており、正相入力端の電圧V1が逆相入力端の電圧V2よりもオフセット電圧2ΔV以上高いときにHレベルの信号を出力する。また、コンパレータ322は、正相入力端に電圧V2が逆相入力端に電圧V1が与えられており、正相入力端の電圧V2が逆相入力端の電圧V1よりもオフセット電圧2ΔV以上高いときにHレベルの信号を出力する。そして、ORゲート323は、コンパレータ321の出力信号またはコンパレータ322の出力信号がHレベルのとき、すなわち、出力デジタル信号VOpまたはVOnがクリップし、負荷駆動波形に一定量の歪が生じて、|V1−V2|がオフセット電圧2ΔVを越えたときに、減衰指令発生部380のORゲート381に与える歪検出信号V10をHレベル(アクティブレベル)とする。この態様においても、上記実施形態と同様な効果が得られる。
(2)図10に示すように、誤差積分器110とパルス幅変調回路130との間に、パルス幅変調回路130に供給する積分値信号VDnおよびVDpを操作部の操作等により指定された上限レベルULおよび下限レベルLLにクランプするクランプ回路400を設けてもよい。この構成によれば、入力信号VIpおよびVInの振幅がある限度を越えて大きくなると、積分値信号VDnおよびVDpがクランプ回路400によりクランプされる。この場合、出力デジタル信号VOpおよびVOnがクリップする場合と同様、入力信号VIpおよびVInの振幅に見合った帰還信号がD級増幅器の出力側から誤差積分器110の入力側に帰還されなくなるため、誤差積分器110に対する入力信号V1およびV2が基準レベルVREFを中心として高電位側および低電位側に離れる。この結果、歪検出信号V11およびV12がアクティブレベルとされ、減衰指令パルスSWが発生され、誤差積分器110に対する入力信号のレベルが減衰される。このような負帰還制御により、出力デジタル信号VOpおよびVOnのパルス幅変調度をクランプ回路400の上限レベルULおよび下限レベルLLに対応した値以内に制限するパワーリミットコントロール機能が実現される。
(3)上記実施形態では、この発明を差動構成の平衡型のD級増幅器に適用した例を挙げたが、この発明は差動構成でない非平衡型のD級増幅器にも勿論適用可能である。