JP2009209443A - ラインパイプ用鋼板、その製造方法およびラインパイプ - Google Patents

ラインパイプ用鋼板、その製造方法およびラインパイプ Download PDF

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Abstract

【課題】延性に優れた高強度高靱性ラインパイプ用鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.05〜0.9%、Mn:0.50〜2.50%、P≦0.02%、S≦0.005%、sol.Al:0.005〜0.100%、N≦0.009%およびO≦0.005%を含有するとともに、「C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B」の値が0.15〜0.22を満たし、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有し、ミクロ組織がビッカース硬さで190以下のフェライトと硬質組織との混合組織からなり、引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板。更に、Cu、Ni、Mo、V、Nb、B、Cr及びTiを含んでもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、天然ガスや原油の輸送用パイプラインなどに使用される大径の高強度高靱性ラインパイプの素材として好適な鋼板およびその製造方法、ならびに前記鋼板を素材として製造されたラインパイプに関する。詳しくは、特に、引張強度が590MPa以上で延性にも優れる高強度高靱性ラインパイプ用鋼板およびその製造方法、ならびに前記鋼板を素材として製造された高強度高靱性ラインパイプに関する。
天然ガスや原油を大量に輸送するパイプラインなどに使用される大径の高強度高靱性ラインパイプの素材となる鋼板に対して、特に近年、高強度および高靱性に加えて、良好な延性をも備えていることが要求されている。
これは、近年、高い圧力で輸送して輸送効率を向上させることやラインパイプの厚みを減少させて敷設コストを削減することなどを目的に、高強度高靱性ラインパイプの開発が進められているが、一般に、鋼板を始めとして鋼材は、高強度化するに伴ってその延性が低下してしまうため、素材となる鋼板の延性が十分でなければ、ラインパイプに加工することが困難になるためである。
こうした要求に対して、化学組成やミクロ組織を制御して鋼板の特性を高める技術が開示されている。
例えば、特許文献1に、「変形性能に優れた高強度鋼板、高強度鋼管および製造方法」が、具体的には、ベイナイト相を主体とした低温変態組織中にフェライトが微細分散して面積率で5〜40%存在し、かつその殆どのフェライト相の粒径が前記ベイナイト相の平均粒径より小さい変形性能に優れた高強度鋼板、また、パイプ状に成形された大径鋼管においては、前述の組織を有し、かつ降伏強度(YS)と引張強度(TS)の比である〔YS/TS〕が0.95以下で、しかも、降伏強度(YS)と一様伸び(uEl)の積である〔YS×uEl〕が5000以上である特性を有する変形性能に優れた高強度鋼管、およびそれらの製造方法に関する技術が開示されている。
また、特許文献2には、質量%で、C:0.02〜0.08%を含有し、金属組織が実質的にフェライト相とベイナイト相との2相組織であり、前記フェライト相と前記ベイナイト相との硬度差をビッカース硬さで70以下とする「耐HIC特性(耐水素誘起割れ特性)に優れた高強度鋼材」が開示されている。
特開2003−293089号公報 特開2003−301236号公報
特許文献1で開示された技術は、良好な一様伸びに関するものではあるが、高強度鋼板を得るために、300℃以下の温度まで冷却して製造する必要、具体的には、Ar3点以上の温度から500〜600℃の温度まで冷却速度が5〜20℃/秒の弱加速冷却を行った後、直ちに冷却速度が15℃/秒以上で、且つ前段の冷却速度よりも速い強加速冷却で300℃以下の温度まで冷却する必要があり、このため、必ずしも十分な伸びが得られるとは限らない。
特許文献2で開示された技術は、ミクロ組織を構成するフェライト相とベイナイト相との硬度差をビッカース硬さで単に70以下とするだけであって、フェライト相の硬さについて制限を設けるものではない。このため、特許文献2で開示された技術によって製造された高強度鋼板の場合、フェライトの延性が十分でなく、必ずしも十分な伸びが得られるとは限らない。
そこで、本発明は、高強度高靱性ラインパイプの素材として好適な、延性としての全伸びに優れ、しかも、引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板を提供することを目的とする。さらに、上記ラインパイプ用鋼板の製造方法を提供することおよびその鋼板を素材として製造されたラインパイプを提供することも本発明の目的とするところである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、種々の検討と実験を行った。その結果、先ず、(a)に示す知見を得た。
(a)鋼の化学組成を適正化することに加えてミクロ組織をフェライトと硬質組織との混合組織からなるものとすれば、590MPa以上という高い引張強度と大きな全伸びを兼備させることが可能である。
そこでさらに検討を行った結果、次の(b)〜(f)に示す知見を得た。
(b)上記フェライトとともに混合組織を形成する硬質組織は、特に限定されるものではなく、パーライト、ベイナイトやマルテンサイトの各単一組織やその混合組織でよい。なお、ベイナイトには、いわゆる「M−A相(Martensite−Austenite constituent)」も含む。
(c)フェライトの硬さをビッカース硬さ(以下、「Hv硬さ」ともいう。)で190以下に抑えることによって「局部伸び」が大きくなり、これによって、「一様伸び」と「局部伸び」の和で表される「全伸び」を大きくすることができる。
(d)590MPa以上という高い引張強度と大きな全伸びを確保し、しかも、良好な「強度−伸びバランス」を安定して得るためには、前記混合組織を形成する硬質組織のHv硬さとフェライトのHv硬さの差が75以上あることが好ましい。
(e)硬質組織の硬さが大きすぎると「局部伸び」に対する悪影響が顕著になる。このため、「局部伸び」への悪影響を抑えて「全伸び」を大きくするために、硬質組織の硬さも抑えることが好ましい。
(f)スラブを加熱した後の圧延および冷却の条件を適正化することによって、鋼板のミクロ組織を比較的容易に、ビッカース硬さで190以下のフェライトと硬質組織との混合組織からなるものとすることができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(4)に示す引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板、(5)に示す引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上のラインパイプ用鋼板の製造方法および(6)に示すラインパイプにある。
(1)質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.05〜0.9%、Mn:0.50〜2.50%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、sol.Al:0.005〜0.100%、N:0.009%以下およびO:0.005%以下を含有するとともに、下記の(1)式で示されるPcmの値が0.15〜0.22を満たし、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有し、ミクロ組織がビッカース硬さで190以下のフェライトと硬質組織との混合組織からなり、引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板。
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(1)
ただし、(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。
(2)質量%で、さらに、Cu:1%以下、Ni:1%以下、Mo:1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下およびB:0.003%以下のうちの1種以上を含有する上記(1)に記載のラインパイプ用鋼板。
(3)質量%で、さらに、Cr:1%以下を含有する上記(1)または(2)に記載のラインパイプ用鋼板。
(4)質量%で、さらに、Ti:0.05%以下を含有する上記(1)〜(3)に記載のラインパイプ用鋼板。
(5)上記(1)〜(4)に記載の化学組成を有するスラブを加熱した後、下記の工程1および2によって、圧延および冷却を行うことを特徴とする引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上のラインパイプ用鋼板の製造方法。
[工程1]1000℃以上の温度域における合計圧下率が10%以上、900℃以下の温度域における合計圧下率が50%以上で、しかも、圧延終了温度が850〜700℃を満足するように圧延する工程。
[工程2]冷却開始温度が850〜700℃、冷却停止温度が650〜400℃で、しかも冷却速度が10℃/s以上を満足するように冷却を行う工程。
(6)上記(1)〜(4)に記載のラインパイプ用鋼板により製造されたラインパイプ。
なお、「硬質組織」とは、パーライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの各単一組織あるいはそれらの混合組織を指し、ベイナイトには、いわゆる「M−A」も含む。
また、上述の各温度は、被圧延材の表面部における温度を指し、「冷却速度」は、冷却の開始時と停止時における当該材の表面部の温度差を加速冷却時間で除した値を指す。ここで、冷却停止時における温度とは、復熱後の最大到達温度を意味する。また、加速冷却時間とは、例えば水槽で冷却を行う場合は、浸漬時間を意味する。
以下、上記(1)〜(4)に示す引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板に係る発明、(5)に示す引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上のラインパイプ用鋼板の製造方法に係る発明および(6)に示すラインパイプに係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(6)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板は、強度と靱性に加えて延性に優れるので、天然ガスや原油を大量に輸送するパイプラインなどに使用される大径の高強度高靱性ラインパイプの素材として用いることができる。そして、この引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上のラインパイプ用鋼板は、例えば、本発明の方法によって製造することができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学組成における各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)化学組成について:
C:0.03〜0.12%
Cは、鋼の強度を高めるために必要な元素であり、590MPa以上という所定の引張強度を得るために、0.03%以上の含有量とする必要がある。一方、その含有量が0.12%を超えると、前記本発明(5)の製造方法で得られるラインパイプ用鋼板や本発明(6)のラインパイプにおいて溶接割れが起こりやすくなる。したがって、Cの含有量を0.03〜0.12%とした。Cの含有量は下限を0.05%とし、上限を0.09%とすることがより好ましい。
Si:0.05〜0.9%
Siは、脱酸作用を有する元素であり、この効果を得るために0.05%以上含有させる必要がある。しかしながら、Siの含有量が高くなると靱性を悪化させ、特に0.9%を超えると、靱性の悪化が著しくなる。したがって、Siの含有量を0.05〜0.9%とした。Siの含有量は下限を0.2%とし、上限を0.5%とすることがより好ましい。
Mn:0.50〜2.50%
Mnは、鋼の強度を高める作用を有する。この効果を得るためにMnを0.50%以上含有させる。一方、その含有量が2.50%を超えると全伸びが低下し、また、本発明(5)の製造方法で得られるラインパイプ用鋼板や本発明(6)のラインパイプにおいて溶接割れが起こりやすくなる。したがって、Mnの含有量を0.50〜2.50%とした。Mnの含有量は下限を1.00%とし、上限を1.80%とすることがより好ましい。
P:0.02%以下
Pは、靱性悪化の原因となる元素で、その含有量が多くなり、特に、0.02%を超えると、靱性の悪化が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.02%以下とした。なお、Pの含有量は少ないほうがよく、0.015%以下とすることが望ましい。
S:0.005%以下
Sは、含有量が多くなると延性や靱性に有害な介在物を多く生成し、特に、0.005%を超えると、介在物が多くなって延性の低下や靱性の悪化が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.005%以下とした。なお、Sの含有量は少ないほうがよく、0.003%以下とすることが望ましい。
sol.Al:0.005〜0.100%
Alは、脱酸作用を有する元素であり、この効果を得るためにsol.Al(「酸可溶Al」)として0.005%以上含有させる。しかしながら、sol.AlとしてのAlの含有量が0.100%を超えると全伸びの低下をきたし、また、溶接熱影響部(以下、「HAZ」という。)の靱性を悪化させる。したがって、sol.Alの含有量を0.005〜0.100%とした。なお、sol.Alの含有量は下限を0.010%とし、上限を0.060%とすることがより好ましい。
N:0.009%以下
Nは、含有量が多くなるとHAZの靱性を悪化させ、特に、0.009%を超えるとHAZの靱性悪化が著しくなる。したがって、Nの含有量を0.009%以下とした。なお、Nの含有量は0.005%以下とすることがより好ましい。
O:0.005%以下
O(酸素)は、含有量が微量であればフェライト生成核となる酸化物の生成に有効である場合があるものの、含有量が多くなると母材靱性ならびに全伸びおよび絞りといった延性に悪影響を及ぼし、特に、0.005%を超えると、母材靱性の悪化および延性の低下が著しくなる。したがって、Oの含有量を0.005%以下とした。なお、Oの含有量は0.002%以下とすることがより好ましい。
本発明(1)の残部の主成分はFeで構成されるが、製造工程の種々の要因により他の不純物が含まれる。
ここで、化学組成が上述したC:0.03〜0.12%、Si:0.05〜0.9%、Mn:0.50〜2.50%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、sol.Al:0.005〜0.100%、N:0.009%以下およびO:0.005%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなるものであっても、強度確保ができない場合や、全伸びの低下あるいは溶接割れが起こる場合がある。したがって、下記(1)式で示されるPcmの値が0.15〜0.22を満たす必要がある。
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(1)
ただし、上記(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。
すなわち、Pcmの値が0.15を下回る場合には、590MPa以上という所定の引張強度を得ることが難しくなる。一方、Pcmの値が大きくなって、特に0.22を超えると、全伸びの低下あるいは溶接割れが起こりやすくなる。なお、(1)式で示されるPcmの値は、より高い強度を得るためには下限を0.18%とすることが好ましい。また、上限は、全伸びのさらなる向上あるいは溶接割れの低減のためには、0.20とすることが好ましい。
上記の理由から、本発明(1)に係る引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板の化学組成について、C:0.03〜0.12%、Si:0.05〜0.9%、Mn:0.50〜2.50%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、sol.Al:0.005〜0.100%、N:0.009%以下およびO:0.005%以下を含有するとともに、前記の(1)式で示されるPcmの値が0.15〜0.22を満たし、残部はFeおよび不純物からなることと規定した。
なお、本発明の引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板には、必要に応じてさらに、下記第1群から第3群までの中から選ばれた1種以上の元素を含有させることができる。
第1群:Cu:1%以下、Ni:1%以下、Mo:1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下およびB:0.003%以下のうちの1種以上、
第2群:Cr:1%以下、
第3群:Ti:0.05%以下。
すなわち、前記第1群から第3群のグループのうちの元素の1種以上を任意元素として含有させてもよい。
以下、上記の任意元素に関して説明する。
第1群:Cu:1%以下、Ni:1%以下、Mo:1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下およびB:0.003%以下のうちの1種以上
Cu、Ni、Mo、V、NbおよびBは、強度を高める作用を有するので、この効果を得るために上記の元素を含有させてもよい。以下、上記のCu、Ni、Mo、V、NbおよびBについて詳しく説明する。
Cu:1%以下
Cuを含有させると、鋼板の強度を向上させることができる。しかしながら、その含有量が1%を超えると、靱性が悪化する。このため、含有させる場合のCuの含有量を1%以下とした。なお、Cuによる強度向上効果を得るためには、Cuを0.01%以上含有させることが好ましい。したがって、含有させる場合のCuの好ましい含有量は0.01〜1%である。なお、含有させる場合のCu含有量のより好ましい下限は0.2%である。また、より好ましい上限は0.5%である。
Ni:1%以下
Niを含有させると、鋼板の強度を向上させることができる。Niには、靱性およびアレスト性を改善する作用もある。しかしながら、Niを1%を超えて含有させてもコストアップに見合うだけの効果が得られないことが多い。このため、含有させる場合のNiの含有量を1%以下とした。なお、Niによる強度向上効果ならびに靱性およびアレスト性の改善効果を得るためには、Niを0.01%以上含有させることが好ましい。したがって、含有させる場合のNiの好ましい含有量は0.01〜1%である。なお、含有させる場合のNi含有量のより好ましい下限は0.1%である。また、より好ましい上限は0.4%である。
Mo:1%以下
Moを含有させると、鋼板の強度を向上させることができる。しかしながら、その含有量が多くなり、特に、1%を超えると、溶接割れが発生しやすくなる。したがって、含有させる場合のMoの含有量を1%以下とした。なお、Moによる強度向上効果を得るためには、Moを0.01%以上含有させることが好ましい。このため、含有させる場合のMoの好ましい含有量は0.01〜1%である。なお、含有させる場合のMo含有量のより好ましい下限は0.1%である。また、より好ましい上限は0.4%である。
V:0.1%以下
Vを含有させると、鋼板の強度を向上させることができる。しかしながら、その含有量が多くなり、特に、0.1%を超えると、靱性の著しい悪化をきたす。このため、含有させる場合のVの含有量を0.1%以下とした。なお、Vによる強度向上効果を得るためには、Vを0.001%以上含有させることが好ましい。したがって、含有させる場合のVの好ましい含有量は0.001〜0.1%である。なお、含有させる場合のV含有量のより好ましい下限は0.02%である。また、より好ましい上限は0.06%である。
Nb:0.1%以下
Nbを含有させると、鋼板の強度を向上させることができる。Nbには、靱性を高める作用もある。しかしながら、その含有量が0.1%を超えると、Nbの炭窒化物が過剰に析出し、却って靱性が悪化する。したがって、含有させる場合のNbの含有量を0.1%以下とした。なお、Nbによる強度向上効果および靱性を高める効果を得るためには、Nbを0.001%以上含有させることが好ましい。このため、含有させる場合のNbの好ましい含有量は0.001〜0.1%である。なお、含有させる場合のNb含有量のより好ましい下限は0.02%である。また、より好ましい上限は0.06%である。
B:0.003%以下
Bを含有させると、鋼板の強度を向上させることができる。すなわち、Bには、焼入れ性を高めて強度を向上させる作用がある。しかしながら、その含有量が0.003%を超えると、焼入れ性上昇に基づく強度向上効果が飽和するばかりか、靱性悪化の傾向が著しくなる。したがって、含有させる場合のBの含有量を0.003%以下とした。なお、Bの焼入れ性上昇に基づく強度向上効果を得るためには、Bを0.0001%以上含有させることが好ましい。このため、含有させる場合のBの好ましい含有量は0.0001〜0.003%である。なお、含有させる場合のB含有量のより好ましい下限は0.0005%である。また、より好ましい上限は0.0020%である。
なお、上記のCu、Ni、Mo、V、NbおよびBは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができるが、Cu、Ni、Mo、VおよびBを含有させる場合においても、上述の範囲において、前記(1)式で示されるPcmの値が0.15〜0.22を満たすようにする必要がある。
これは、既に述べたように、Pcmの値が0.15を下回る場合には、590MPa以上という所定の引張強度を得ることが難しくなり、一方、Pcmの値が大きくなって、特に0.22を超える場合には、全伸びの低下あるいは溶接割れが起こりやすくなるからである。
第2群:Cr:1%以下
Crを含有させると、耐炭酸ガス腐食性を高めることができる。Crには、強度を高める作用もある。しかしながら、その含有量が多くなって1%を超えると、溶接割れが起こりやすくなる。したがって、含有させる場合のCrの含有量を1%以下とした。なお、Crによる耐炭酸ガス腐食性向上効果および強度を高める効果を得るためには、Crを0.01%以上含有させることが好ましい。このため、含有させる場合のCrの好ましい含有量は0.01〜1%である。なお、含有させる場合のCr含有量のより好ましい下限は0.1%である。また、より好ましい上限は0.3%である。
なお、前記(1)式で示されるPcmの値が0.15を下回る場合には、590MPa以上という所定の引張強度を得ることが難しくなり、一方、Pcmの値が大きくなって、特に0.22を超えると、全伸びの低下あるいは溶接割れが起こりやすくなるため、Crを含有させる場合においても、上記の範囲において、前記(1)式で示されるPcmの値が0.15〜0.22を満たすようにする必要がある。
第3群:Ti:0.05%以下
Tiを含有させると、NとともにTiNを形成してHAZの靱性を改善することができる。しかしながら、その含有量が多くなって0.05%を超えると、TiCが多量に析出して靱性の悪化が顕著になり、さらに、溶接割れも起こりやすくなる。したがって、含有させる場合のTiの含有量を0.05%以下とした。なお、TiによるHAZ靱性改善効果を得るためには、Tiを0.001%以上含有させることが好ましい。このため、含有させる場合のTiの好ましい含有量は0.001〜0.05%である。なお、含有させる場合のTi含有量のより好ましい下限は0.005%である。また、より好ましい上限は0.02%である。
上記の理由から、本発明(2)に係るラインパイプ用鋼板の化学組成については、本発明(1)の引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板に、さらに、Cu:1%以下、Ni:1%以下、Mo:1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下およびB:0.003%以下のうちの1種以上を含有するものと規定した。
同様に、本発明(3)に係るラインパイプ用鋼板の化学組成については、本発明(1)または(2)のラインパイプ用鋼板に、さらに、Cr:1%以下を含有するものと規定した。
また、本発明(4)に係るラインパイプ用鋼板の化学組成については、本発明(1)から(3)までのいずれかのラインパイプ用鋼板に、さらに、Ti:0.05%以下を含有するものと規定した。
そして、本発明(5)に係る引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上のラインパイプ用鋼板の製造方法においては、前述の本発明(1)から本発明(4)までのいずれかに記載の化学組成を有するスラブを用いることとした。
(B)ミクロ組織について:
鋼の化学組成を前記(A)項で述べたものとしたうえで、ミクロ組織をHv硬さで190以下のフェライトと硬質組織との混合組織からなるものとすれば、590MPa以上という高い引張強度と大きな全伸びを兼備させることができる。
すなわち、フェライト単一組織の場合、590MPa以上という所定の高い引張強度を確保することができないので、前記の強度を確保させるためには、ミクロ組織をフェライトと硬質組織との混合組織にする必要がある。
なお、延性としての大きな「全伸び」は、「局部伸び」を大きくすることで確保することができる。すなわち、軟質組織であるフェライトの変形で「局部伸び」を稼ぐことによって、「一様伸び」と「局部伸び」の和で表される「全伸び」を大きくすることが可能となる。しかしながら、フェライトのHv硬さが大きくなって、特に190を超えると、十分な「局部伸び」向上効果が得られないので、大きな全伸びを確保することができない。したがって、ミクロ組織におけるフェライトのHv硬さは190以下とする必要がある。
上記の理由で、本発明の引張強度が590MPa以上のラインパイプ用鋼板におけるミクロ組織は、ビッカース硬さで190以下のフェライトと硬質組織との混合組織からなるものとした。
なお、フェライトのHv硬さが180以下であれば、より安定かつ確実に「局部伸び」の向上効果が得られる。このため、前記混合組織におけるフェライトのHv硬さは180以下であることが好ましい。
また、「局部伸び」向上のためにはフェライトのHv硬さは小さければ小さいほど好ましいが、上記のように各種元素を含有するため、それらの元素による強化作用が生じるため、フェライトのHv硬さの下限は、120程度となる。さらに、各種元素の含有量を好ましい範囲にした場合には、フェライトのHv硬さの下限は、140程度となる。
既に述べたように、前記混合組織における「硬質組織」とは、パーライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの各単一組織あるいはそれらの混合組織を指し、ベイナイトには、いわゆる「M−A」も含む。
なお、硬質組織のHv硬さが大きすぎて、特に340を超える場合には、局部伸びに対する悪影響が顕著になる。このため、硬質組織のHv硬さは340以下であることが好ましく、310以下であれば一層好ましい。
また、いわゆる「強度−伸びバランス」を良好にするために、フェライトと硬質組織とのHv硬さの差は75以上あることが望ましい。
なお、上記硬質組織におけるHv硬さの値は、引張強度を確保するため、180以上であることが好ましく、230以上であることがさらに好ましい。
さらに、前記した590MPa以上という所定の高い引張強度を確保するためには、前記混合組織における硬質組織の面積率は5%以上であることが望ましく、30%以上であればさらに望ましい。そして、良好な全伸びと衝撃特性を確保するためには、前記混合組織におけるフェライトの面積率は10%以上であることが望ましく、20%以上であればさらに望ましい。
なお、前記した本発明(1)〜(4)に係るラインパイプ用鋼板は、例えば、本発明(5)の製造方法によって製造することができる。
(C)製造条件について:
以下に詳述する製造条件は、前述の引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板を経済的に要領よく実現するための方法の一つであり、ラインパイプ用鋼板自体の技術的範囲はこの製造条件によって規定されるものではない。
ラインパイプ用鋼板の素材であるスラブの圧延前の加熱条件は特に規定されるものではない。しかしながら、スラブの化学組成にNbあるいはVが含まれる場合、スラブの加熱によってマトリックス中で固溶Nbあるいは固溶Vとして存在させておけば、炭窒化物による強度向上効果を安定かつ確実に得ることができるので、この場合には、例えば、1050℃以上に加熱することが望ましい。
なお、スラブの加熱温度が高すぎるとオーステナイト結晶粒が粗大化して低温靱性が劣化することがあるので、加熱温度は1200℃以下であることが望ましい。
ここで、上記「スラブの加熱温度」とは加熱のためにスラブを装入する炉の設定温度を指す。
スラブを加熱した後の圧延工程は、1000℃以上の温度域における合計圧下率が10%以上、900℃以下の温度域における合計圧下率が50%以上で、しかも、圧延終了温度が850〜700℃を満足するように行う。
すなわち、1000℃以上の温度域における合計圧下率が10%以上である圧延によって、再結晶によるオーステナイト粒の微細化効果が安定して得られ、良好な靱性を確保することが容易になる。1000℃以上の温度域における合計圧下率は30%以上であればより好ましく、50%以上であればさらに一層好ましい。
なお、上記の1000℃以上の温度域における合計圧下率は、圧延に供するスラブの厚さを抑制して圧延能率を良くするため、70%以下とすることが好ましい。
また、900℃以下の温度域における合計圧下率が50%以上である圧延によって、オーステナイトに残留ひずみを確実かつ安定して与えることができ、良好な靱性を確保することが容易になる。900℃以下の温度域における合計圧下率は75%以上であればより好ましい。
なお、上記の900℃以下の温度域における合計圧下率は、圧延能率を良くするため、90%以下とすることが好ましい。
さらに、圧延終了温度が850〜700℃である圧延によって、容易に、鋼板の異方性、つまり、圧延方向と幅方向との機械的性質の差が小さく抑えられ、また、良好な靱性が付与される。すなわち、圧延終了温度が700℃未満の場合には、鋼板の異方性が大きくなりすぎることがあり、一方、850℃を超える場合には良好な靱性の確保が難しくなることがある。なお、オーステナイトとフェライトとの2相域での圧延によるフェライトの加工硬化を抑制して特に伸びを良くするために、圧延終了温度は730℃以上であることがより望ましい。また、良好な靱性を確保するために、圧延終了温度は800℃以下であることがより望ましい。
圧延後の冷却工程は、冷却開始温度が850〜700℃、冷却停止温度が650〜400℃で、しかも冷却速度が10℃/s以上を満足するように行う。
すなわち、590MPa以上という所定の引張強度を得るために、圧延後に冷却(加速冷却)を行うが、冷却開始温度が低すぎると効果が小さくなることがあるので、冷却開始温度は850〜700℃とする。なお、良好な「強度−伸びバランス」を得るために、冷却開始温度は770℃以下であることがより望ましい。
また、650〜400℃の冷却停止温度によって、強度確保とともに大きな局部伸び、したがって大きな全伸びの確保が容易になる。これは、冷却停止温度が高く650℃を超える場合には強度増加の効果が小さくなることがあり、また、冷却停止温度が低くなって400℃を下回ると特に局部伸びが小さくなることがあるためである。なお、良好な「強度−伸びバランス」を得るために、冷却停止温度は550〜470℃であることがより望ましい。
冷却速度が10℃/sを下回ると、590MPa以上という所定の引張強度の確保が難しい場合があるので、強度確保のために10℃/s以上の冷却速度で冷却する。なお、590MPa以上という所定の引張強度をより安定して確実に得るために、冷却速度は15℃/s以上であることがより望ましい。
なお、上記の冷却速度は、鋼板の良好な全伸びを確保するため、70℃/s以下とすることが好ましく、50℃/s以下とすることがより好ましい。
なお、前記850〜700℃の温度域から10℃/s以上の冷却速度で冷却を開始し、前記650〜400℃の温度域で冷却を停止した後については、その冷却停止温度から少なくとも200℃に温度降下するまでは、脱水素を効率よく行って水素割れが発生することを抑止するために、放冷することが好ましい。
既に述べたように、上述の各温度は、被圧延材の表面部における温度を指し、「冷却速度」は、冷却の開始時と停止時における当該材の表面部の温度差を加速冷却時間で除した値を指す。ここで、冷却停止時における温度とは、復熱後の最大到達温度を意味する。また、加速冷却時間とは、例えば水槽で冷却を行う場合は、浸漬時間を意味する。
上記の理由から、本発明(5)に係る引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上のラインパイプ用鋼板の製造方法は、前記(A)項に記載の本発明(1)から(4)までのいずれかに記載の化学組成を有するスラブを、下記の工程1および2によって、圧延および冷却を行うことと規定した。
[工程1]1000℃以上の温度域における合計圧下率が10%以上、900℃以下の温度域における合計圧下率が50%以上で、しかも、圧延終了温度が850〜700℃を満足するように圧延する工程。
[工程2]冷却開始温度が850〜700℃、冷却停止温度が650〜400℃で、しかも冷却速度が10℃/s以上を満足するように冷却を行う工程。
なお、圧延終了後に温度降下させない手段として、誘導加熱やガスバーナーによる加熱を用いることによって、圧延終了温度と同じ温度から冷却を開始、すなわち圧延終了後に温度降下させることなく冷却することができる。
前記した本発明(1)〜(4)に係るラインパイプ用鋼板は、これを管状に成形し、突合せ部を接合することによって、ラインパイプを製造することができる。
すなわち、上記のラインパイプ用鋼板は異方性が小さいものではあるが、特に、圧延方向に対して垂直な方向、つまり「板幅方向」の全伸びに優れているので、プレスベンドなどで容易に管状に成形することができる。しかも、上記の鋼板は溶接性にも優れているので、サブマージアーク溶接などによって容易に接合することもできる。
上記の理由から、本発明(6)に係るラインパイプは、本発明(1)から(4)までのいずれかに記載のラインパイプ用鋼板によって製造されたものと規定した。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す化学組成を有する厚さが140mmのスラブを炉温を1120℃に設定した炉中に装入して加熱し、表2に示す製造条件で圧延と冷却を行い、厚さ22mmの鋼板を得た。
なお、表1に示した鋼No.0は、化学組成が本発明で規定する範囲内にあるスラブである。また、表2に示した各温度は、放射温度計を用いて測定した被圧延材の表面温度である。
Figure 2009209443
Figure 2009209443
得られた各鋼板について、ミクロ組織、Hv硬さ、引張特性および衝撃特性を調査した。
ミクロ組織観察用の試料は、圧延方向と板厚方向を含む面を鏡面研磨し、ナイタールで腐食した後、光学顕微鏡を用いて、板厚方向中央部を倍率を500倍として5視野観察した。
また、上記のミクロ組織観察用の試料を用いて、フェライトと硬質組織のそれぞれについて、0.09807Nの試験力でHv硬さを5箇所測定し、算術平均して各相のHv硬さとした。なお、硬質組織が複数の種類からなることがあるが、それぞれの硬質組織は交じり合い、硬度測定の圧痕内に複数の硬質組織が含まれる。このため、硬質組織のHv硬さ測定は、特に複数の種類の硬質組織があることを意識せず測定が可能である。
引張特性は、平行部の厚さが7.4mm、平行部の幅が10.3mmで標点距離が50.0mmの板状引張試験片を、板厚中央部から圧延方向に対して垂直な方向つまり「板幅方向」に採取し、室温で引張試験を実施して調査した。具体的には、0.5%耐力、引張強度、一様伸びおよび局部伸びを求め、また、これらの結果から、降伏比(0.5%耐力/引張強度)および全伸び(一様伸+局部伸び)を算出した。
なお、引張特性のうち伸びについては、8%以上の局部伸びおよび18%以上の全伸びを有することを目標とした。
衝撃特性は、JIS Z 2242(2005)に記載のVノッチ試験片を板厚中央部から圧延方向に対して垂直に採取して、シャルピー衝撃試験を行い、−20℃での吸収エネルギー(以下、「vE-20」という。)を求めた。
表3に、上記の各試験結果をまとめて示す。なお、表3における「ΔHv」はフェライトと硬質組織とのHv硬さの差を意味する。
Figure 2009209443
表3から、製造条件番号1〜4の方法で製造した鋼板は、本発明で規定する条件を満たすため、8%以上という目標を超える12.7〜13.6%の大きな局部伸びおよび18%以上という目標を超える21.6〜29.2%の全伸びを有しており、延性に優れていることが明らかである。
しかも、これらの鋼板は613〜678MPaの引張強度および167〜258JのvE-20を有しており、強度と靱性に優れていることが明らかである。
なお、表2における製造条件番号4と5は、冷却工程における冷却停止温度のみが異なるものであるが、冷却停止温度が372℃である製造条件番号5の方法で製造した鋼板は、フェライトのHv硬さが192と大きく、本発明で規定する条件から外れている。このため、局部伸びおよび全伸びはそれぞれ、5.9%および14.0%であって、延性が低い。しかも、本発明で規定する基本特性を衝撃特性の点で得られていない。
(実施例2)
表4に示す化学組成を有する厚さが300mmのスラブを炉温を1120℃に設定した炉中に装入して加熱し、表5に示す製造条件で圧延と冷却を行い、厚さ26mmの鋼板を得た。
なお、表4に示した鋼No.1〜30は、化学組成が本発明で規定する範囲内にあるスラブであり、鋼No.31〜35は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例のスラブである。
また、表5に示した各温度は、放射温度計を用いて測定した被圧延材の表面温度である。
得られた各鋼板について、前記実施例1の場合と同様の方法で、ミクロ組織、Hv硬さ、引張特性および衝撃特性を調査した。
なお、引張特性のうち伸びについて、前記実施例1の場合と同様に、8%以上の局部伸びおよび18%以上の全伸びを有することを目標とした。
表6および表7に、上記の各試験結果をまとめて示す。表6および表7における「ΔHv」もフェライトと硬質組織とのHv硬さの差を意味する。
なお、試験番号28の鋼板の場合には、ミクロ組織がベイナイトの単一組織でフェライトが存在しなかったので、表7のHv硬さ欄の「フェライト」と「ΔHv」の項はいずれも「−」と表記した。
Figure 2009209443
Figure 2009209443
Figure 2009209443
Figure 2009209443
表6および表7から、本発明で規定する条件を満たす本発明例の試験番号1〜25の鋼板は、8%以上という目標を達成する8.1〜14.2%の局部伸びおよび18%以上という目標を達成する18.6〜26.2%の全伸びを有しており、延性に優れていることが明らかである。
しかも、これらの鋼板のvE-20は193〜267Jであり、本発明の100J以上という規定を達成しており、靱性にも優れていることが明らかである。
これに対して、化学組成が本発明で規定する範囲内にあるスラブを用いた場合であっても、圧延または冷却の条件から外れた比較例の試験番号26〜30の鋼板の場合、その特性は劣っている。
すなわち、試験番号26の鋼板は、圧延工程における1000℃以上での圧下率が8%と低く、再結晶によるオーステナイト粒の微細化効果が安定して得られないので、本発明で規定する基本特性を衝撃特性の点で得られない。
試験番号27の鋼板は、圧延工程における900℃以下での圧下率が41%と低く、オーステナイトの残留ひずみが比較的小さいので、本発明で規定する基本特性を衝撃特性の点で得られない。
試験番号28の鋼板は、圧延工程における圧延終了温度が860℃と高く、ミクロ組織はベイナイト単一組織であってフェライトを含んでいないので本発明で規定する条件から外れる。このため、全伸びと衝撃特性で劣っている。
試験番号29の鋼板は、冷却工程における冷却開始温度が670℃と低く、本発明で規定する基本特性を引張強度の点で得られない。
試験番号30の鋼板は、冷却工程における冷却速度が8℃/sと遅く、本発明で規定する基本特性を引張強度の点で得られない。
なお、化学組成が本発明で規定する条件から外れたスラブを用いた場合には、鋼板がビッカース硬さで190以下のフェライトと硬質組織との混合組織からなるという本発明のミクロ組織規定を満たしていても、その特性は劣っている。
すなわち、試験番号31の鋼板は、Cの含有量が0.02%で、しかも、Pcmの値が0.122の本発明で規定する条件から外れた鋼No.31のスラブを用いているので、引張強度は556MPaと低く、強度特性に劣っている。
試験番号32の鋼板は、Siの含有量が1.01%の本発明で規定する条件から外れた鋼No.32のスラブを用いているので、衝撃特性で劣っている。
試験番号33の鋼板は、Mnの含有量が2.53%で、しかも、Pcmの値が0.229の本発明で規定する条件から外れた鋼No.33のスラブを用いているので、局部伸びと全伸びはそれぞれ、6.8%および14.2%と低く、延性に劣り、また、衝撃特性にも劣っている。
試験番号34の鋼板は、sol.Alの含有量が0.105%の本発明で規定する条件から外れた鋼No.34のスラブを用いているので、局部伸びと全伸びはそれぞれ、7.2%および15.6%と低く、延性に劣り、また、衝撃特性にも劣っている。
試験番号35の鋼板は、Vの含有量が0.351%の本発明で規定する条件から外れた鋼No.35のスラブを用いているので、全伸びや衝撃特性に劣っている。
以上のとおり、本発明の引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるラインパイプ用鋼板は、工業的な規模での生産が容易であり、強度および靱性に優れ、しかも延性にも優れるので、天然ガスや原油を大量に輸送するパイプラインなどに使用される大径の高強度高靱性ラインパイプの素材として用いることができる。そして、この引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上のラインパイプ用鋼板は、本発明の方法によって製造することができる。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.05〜0.9%、Mn:0.50〜2.50%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、sol.Al:0.005〜0.100%、N:0.009%以下およびO:0.005%以下を含有するとともに、下記の(1)式で示されるPcmの値が0.15〜0.22を満たし、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有し、ミクロ組織がビッカース硬さで190以下のフェライトと硬質組織との混合組織からなり、引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であることを特徴とするラインパイプ用鋼板。
    Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(1)
    ただし、(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。
  2. 質量%で、さらに、Cu:1%以下、Ni:1%以下、Mo:1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下およびB:0.003%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のラインパイプ用鋼板。
  3. 質量%で、さらに、Cr:1%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のラインパイプ用鋼板。
  4. 質量%で、さらに、Ti:0.05%以下を含有することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載のラインパイプ用鋼板。
  5. 請求項1から4までのいずれかに記載の化学組成を有するスラブを加熱した後、下記の工程1および2によって、圧延および冷却を行うことを特徴とする引張強度が590MPa以上、−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上のラインパイプ用鋼板の製造方法。
    [工程1]1000℃以上の温度域における合計圧下率が10%以上、900℃以下の温度域における合計圧下率が50%以上で、しかも、圧延終了温度が850〜700℃を満足するように圧延する工程。
    [工程2]冷却開始温度が850〜700℃、冷却停止温度が650〜400℃で、しかも冷却速度が10℃/s以上を満足するように冷却を行う工程。
  6. 請求項1から4までのいずれかに記載のラインパイプ用鋼板により製造されたラインパイプ。
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