JP5782827B2 - 高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管及びその製造方法 - Google Patents

高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管及びその製造方法 Download PDF

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本発明は、石油や天然ガス輸送用の耐サワー性能に優れたAPI−X70グレード以上のラインパイプに関するものであり、特に、高い耐コラプス性能が要求される深海用パイプラインへの使用に適した、高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管に関する。
近年のエネルギー需要の増大に伴って、石油や天然ガスパイプラインの開発が盛んになっており、ガス田や油田の遠隔地化や輸送ルートの多様化のため、海洋を渡るパイプラインも数多く開発されている。海底パイプラインに使用されるラインパイプには水圧によるコラプス(圧潰)を防止するため、陸上パイプラインよりも管厚が厚いものが用いられ、また高い真円度が要求されるが、ラインパイプの材質としては外圧によって管周方向に生じる圧縮応力に対抗するため高い圧縮強度が必要となる。
一方、海底パイプラインに用いられる鋼管の強度グレードは一般的にAPI−X65グレードまでが広く用いられているが、パイプライン建設コストの削減のため、X70グレード以上の高強度鋼管の適用が広がっており、さらに、硫化水素を含むガス田開発も活発であり、上述の高圧縮強度に加え、X70グレード以上の高強度とさらに耐サワー性能を両立するラインパイプ用鋼管に対する要求が高まっている。
海底パイプラインの設計にはDNV規格(OS F−101)が適用される場合が多いが、本規格では外圧によるコラプス圧力を決定する因子として、パイプの管径D及び管厚t、真円度f、そして材料の引張降伏強度fyを用いてコラプス圧力が求められる。しかし、パイプのサイズと強度が同じであっても、パイプの製造方法によってコラプス圧力が変化することから、降伏強度には製造方法によって異なる係数(αfab)が掛けられることになる。この係数はシームレスパイプの場合は1.0すなわち引張降伏強度がそのまま適用できるが、UOEプロセスで製造されたパイプの場合は係数として0.85が与えられている。これは、UOEプロセスで製造されたパイプの圧縮強度が引張強度よりも低下するためであるが、UOE鋼管は造管の最終工程で拡管プロセスがあり管周方向に引張変形が与えられた後に圧縮を受けることになるため、バウシンガー効果によって降伏強度が低下することがその要因となっている。よって、耐コラプス性能を高めるためには、パイプの圧縮強度を高めることが必要であるが、冷間成形で拡管プロセスを経て製造される鋼管の場合は、バウシンガー効果による強度低下が問題となっていた。
UOE鋼管の耐コラプス性向上に関しては多くの検討がなされており、特許文献1には通電加熱で鋼管を加熱し拡管を行った後に一定時間以上温度を保持する方法が開示されている。この方法では、拡管によって導入された転位が回復し降伏強度が上昇するが、拡管後に5分以上通電加熱を続ける必要があるため、生産性が劣る。
また、同様に拡管後に加熱を行いバウシンガー効果による降伏強度低下を回復させる方法として、特許文献2では鋼管外表面を内表面より高い温度に加熱することで、外面側の引張変形を受けた部分のバウシンガー効果を回復し内面側の圧縮の加工硬化を維持する方法が、また、特許文献3にはNb、Tiを添加した鋼の鋼板製造工程で熱間圧延後の加速冷却をAr温度以上から300℃以下まで行い、UOEプロセスで鋼管とした後に加熱を行う方法がそれぞれ提案されている。
しかしながら、特許文献2の方法では鋼管の外表面と内表面の加熱温度と加熱時間を別々に管理することは実製造上、特に大量生産工程において品質を管理することは極めて困難であり、また、特許文献3の方法は鋼板製造における加速冷却停止温度を300℃以下の低い温度にする必要があるため、鋼板の歪が大きくなりUOEプロセスで鋼管とした場合の真円度が低下し、さらにはAr温度以上から加速冷却を行うために比較的高い温度で圧延を行う必要があり靱性が劣化するという問題があった。
一方、拡管後に加熱を行わずに鋼管の成形方法によって圧縮強度を高める方法としては、特許文献4にO成型時の圧縮率をその後の拡管率よりも大きくする方法が開示されている。この方法によれば実質的に管周方向の引張予歪が無いためバウシンガー効果が発現されず高い圧縮強度が得られる。しかしながら、拡管率が低いと鋼管の真円度を維持することが困難となり、鋼管の耐コラプス性能が劣化するという問題がある。
また、特許文献5には、圧縮強度の低い溶接部近傍と溶接部から180°の位置の直径が鋼管の最大径となるようにすることで耐コラプス性能を高める方法が開示されている。しかし、実際のパイプラインの敷設時においてコラプスが問題になるのは海底に到達したパイプが曲げ変形を受ける部分(サグベンド部)であり、鋼管の溶接部の位置とは無関係に円周溶接され海底に敷設されるため、仮に、特許文献5に記載のように、鋼管断面の最大径の部分がシーム溶接部となるように造管加工および溶接を実施して鋼管を製造しても、実際のパイプライン敷設時におけるシーム溶接部の位置が特定できないことから、実際上は何ら効果を発揮しない。
さらに、特許文献6には加速冷却後に再加熱を行い鋼板表層部の硬質第2相分率を低減することによりバウシンガー効果による降伏応力低下が小さい鋼板が提案されている。
また、特許文献7には加速冷却後の再加熱処理において鋼板中心部の温度上昇を抑制しつつ鋼板表層部を加熱する、板厚が30mm以上の高強度耐サワーラインパイプ用鋼板の製造方法が提案されている。これによれば、DWTT(Drop Weight Tear Test:落重引裂試験)性能の低下を抑制しつつ鋼板表層部の硬質第2相分率が低減されるため、鋼板表層部の硬度が低減し材質バラツキの小さな鋼板が得られるだけでなく、硬質第2相低減によるバウシンガー効果の低下も期待される。
また、X70グレード以上の耐サワーラインパイプに関して、特許文献8にはミクロ組織が、割れ感受性の高いブロック状ベイナイトやマルテンサイトを含まない耐HIC(水素誘起割れ)性能に優れた高強度鋼として、フェライト−ベイナイト2相組織である、API X80グレードの耐HIC性能に優れた高強度鋼材が開示されている。
特許文献9には、ミクロ組織をフェライト単相組織とすることで耐SSC(硫化物応力腐食割れ)性能や耐HIC性能を改善し、強度は、MoまたはTiの多量添加によって得られる炭化物の析出強化で確保する高強度鋼が開示されている。
さらに、特許文献10には、Mo、Ti、及びNb、Vの一種または二種を複合添加し、炭化物による析出強化を活用するとともに、硬質な島状マルテンサイト(MA)の生成を抑制した、API−X70グレード以上のラインパイプ用鋼板が開示されている。
特開平9−49025号公報 特開2003−342639号公報 特開2004−35925号公報 特開2002−102931号公報 特開2003−340519号公報 特開2008−56962号公報 特開2009−52137号公報 特開昭61−227129号公報 特開平7−216500号公報 特開2008−101242号公報
しかし、特許文献6及び7に記載の技術はX70グレード以上の強度を安定的に得ることは困難であり、またバウシンガー効果は結晶粒径や固溶炭素量等、様々な組織因子の影響を受けるため、単に硬質第2相の低減のみでは圧縮強度の高い鋼管は得られない。
また、特許文献8、9及び10に記載の技術では合金元素添加による強度確保を図っておりコストが上昇する。特許文献8では、フェライト単相とすることで耐HIC性能や耐SSC性能は改善されるが、フェライト単相では強度が低いため、Mo炭化物による析出強化を利用しているが、Mo炭化物による強度上昇効果は低いため、C及びMoの含有量を高める必要があり、母材及び溶接HAZ(熱影響部)の靱性が劣化する。
特許文献9では、割れ感受性の高いブロック状ベイナイトやマルテンサイトの生成を抑制するために冷却速度を制限する必要があり、加速冷却による合金コスト削減の恩恵を十分に得られないだけでなく、圧延・冷却方法を用いてフェライト−ベイナイト2相組織を安定的に得ることは難しい。
また、特許文献10ではMo、Ti、NbさらにはVを含有する複合炭化物の析出強化によってX70グレード以上の強度を得ることができるが、鋳造時に生成した複合炭化物が熱間圧延前のスラブ加熱によって十分に溶解しないため、圧延後の再加熱による炭化物の析出量が十分に得られず、添加元素量に応じた強度が得られていたとは言い難く、合金元素の増加によって溶接HAZの靱性劣化の懸念がある。
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、API−X70グレード以上の海底パイプラインへ適用するために必要な高強度と優れた靱性を有するラインパイプであり、鋼管成形での特殊な成形条件や、造管後の熱処理を必要とせず、鋼板の化学成分と金属組織を最適化することでバウシンガー効果による降伏応力低下を抑制し、圧縮強度が高くかつ溶接HAZの靱性に優れた耐サワーラインパイプ用鋼管を提供することを目的とする。
本発明者らは、始めにバウシンガー効果抑制による圧縮強度向上と、強度、靱性及び耐サワー性能とを両立させるために種々の実験を試みた結果、以下の知見を得るに至った。
i)バウシンガー効果による強度低下は異相界面や硬質第2相での転位集積による逆応力の発生が原因であり、その防止には、第一に転位の集積場所となる島状マルテンサイト(MA)等の硬質相を低減することが最も効果的である。また、硬質なベイナイト相と軟質なフェライト相の混合組織は、その異相界面で不均一変形が生じ転位の集積を生じるが、加速冷却後の再加熱処理によって硬質なベイナイト相を焼戻し、軟質なフェライト相中に微細炭化物を析出させることで、ベイナイトとフェライトの硬度差が低減できる。すなわち、ベイナイトと析出強化したフェライト組織とし、さらに硬質なMAを低減することによって、バウシンガー効果による強度低下を抑制できる。
ii)加速冷却によって製造される高強度鋼、特にAPI−X70以上の鋼板は、必要な強度を得るために合金元素を多く含有するために焼入れ性が高く、MAの生成を完全に抑制することは困難である。しかし、ベイナイト組織を微細化し生成するMAを微細に分散させ、さらに、加速冷却後の再加熱などによってMAをセメンタイトに分解することで、第2相によるバウシンガー効果を低減できる。
iii)鋼材のC量とNb等の炭化物形成元素の添加量を適正化し、固溶Cを十分に確保し、転位と固溶Cの相互作用による歪時効を促進することで、荷重反転時の転位の移動を阻害し逆応力による強度低下が抑制される。また、鋼中の固溶Nも固溶Cと同様に歪時効を促進する効果がある。
iv)厚肉の高強度鋼では合金元素の添加量が多いため、中心偏析部の硬さも高くなり、耐HIC性能が劣化する。その防止のためには、中心偏析部への合金元素の濃化挙動を考慮して、中心偏析部の硬さが一定レベルを超えないように合金元素を選択し添加することが必要である。
v)過剰な合金元素の添加をすることなくX70グレード以上(引張強度570MPa以上)の高強度を得るためにはNbC等の微細炭化物による析出強化を活用することが効果的である。しかし、従来技術では熱間圧延の前のスラブ加熱において十分な量の析出元素の溶解が得られず、析出強化が十分ではなかった。本発明者らは、従来では強度上昇に有効とされるCを、Nb添加量との関係を得ながらあえて低減することで、スラブ加熱時の固溶Nb量が増大し、その後の再加熱によって析出強化量が大幅に増大することを見いだした。さらに、低C化することでMAの生成も抑制されるため、バウシンガー効果による圧縮強度の低下もさらに低減でき、溶接HAZの靱性向上にも大きく寄与するものである。
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、
第1の発明は、質量%で、C:0.02〜0.06%、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.8〜1.6%、P:0.012%以下、S:0.0015%以下、Al:0.01〜0.08%、Nb:0.030〜0.08%、Ti:0.010〜0.04%、Ca:0.0005〜0.0035%、N:0.0020〜0.0060%、を含有し、C(%)−0.065Nb(%)が0.025以上、C(%)+0.67Nb(%)が0.08以下であり、下記(1)式で表されるCP値が0.98以下、下記(2)式で表されるPCM値が0.170以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼管であり、金属組織がベイナイトとフェライトの面積分率の合計が95%以上で、フェライト中にNbとTiを含有する平均粒径20nm以下の微細析出物が分散析出しており、島状マルテンサイト(MA)の面積分率が3%以下であることを特徴とする、引張強度570MPa以上の高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管。
CP=4.46C(%)+2.37Mn(%)/6+{1.74Cu(%)+1.7Ni(%)}/15+{1.18Cr(%)+1.95Mo(%)+1.74V(%)}/5+22.36P(%) ・・・(1)式
CM=C(%)+Si(%)/30+Mn(%)/20+Cu(%)/20+Ni(%)/60+Cr(%)/20+Mo(%)/15+V(%)/10+5B(%)・・・(2)式
ただし、各元素記号は含有量(質量%)であり、含有しない元素は0とする。
第2の発明は、さらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.07%以下の中から選ばれる1種以上を含有し、C(%)−0.065Nb(%)−0.025Mo(%)−0.057V(%)が0.025以上であることを特徴とする第1の発明に記載の引張強度570MPa以上の高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管。
第3の発明は、鋼スラブを、1000〜1200℃に加熱し、未再結晶温度域の累積圧下率が60%以上、圧延終了温度がAr以上の熱間圧延を行い、引き続き、(Ar−30℃)以上の温度から10℃/秒以上の冷却速度で、鋼板平均温度が300〜600℃まで加速冷却を行い、引き続いて鋼板平均温度が550〜700℃となる再加熱を行うことにより製造した鋼板を、冷間成形により鋼管形状とし、突き合せ部をシーム溶接し、次いで拡管率が0.4%〜1.2%の拡管を施すことを特徴とする、第1の発明または第2の発明に記載の引張強度570MPa以上の高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管の製造方法。
本発明によれば、海底パイプラインへ適用するために必要な高強度と優れた靱性を有し、高圧縮強度でさらに耐サワー性能に優れたラインパイプ用鋼管が得られる。
本発明を実施するための形態を、以下説明する。
まず、本発明の各構成要件の限定理由について説明する。
1.化学成分について
はじめに、本発明の高強度高靱性鋼板が含有する化学成分の限定理由を説明する。なお、成分%は全て質量%を意味する。
C:0.02〜0.06%
Cは、加速冷却によって製造される鋼板の強度を高めるために最も有効な元素である。しかし、0.02%未満では十分な強度を確保できないだけでなく、固溶C量が不足するため特に溶接HAZで粒界強度低下による靱性劣化を招く。0.06%を超えるとHAZ靱性および耐HIC性能を劣化させ、またスラブ加熱時のNbCの固溶を阻害するため、析出強化に必要な固溶Nb量が低下し、十分な強度が得られない。従って、C量を0.02〜0.06%の範囲内とする。安定した析出強化を得るためには、好ましくは0.02〜0.05%とする。
Si:0.01〜0.30%
Siは脱酸のために添加するが、この効果は0.01%以上で発揮されるが、0.30%を超えると靱性や溶接性を劣化させ、さらに、MAの生成が促進されるため圧縮強度が低下する。従ってSi量は0.01〜0.30%の範囲とする。
Mn:0.8〜1.6%
Mnは鋼の強度および靱性の向上のため添加するが、0.8%未満ではその効果が十分ではなく、1.6%を超えると溶接性と耐HIC性能が劣化する。従って、Mn量は0.8〜1.6%の範囲とする。
P:0.012%以下
Pは不可避不純物元素であり、中心偏析部の硬さを上昇させることで耐HIC性能を劣化させる。この傾向は0.012%を超えると顕著となる。従って、P量を0.012%以下とする。好ましくは、0.008%以下とする。
S:0.0015%以下
Sは不可避不純物元素であり、鋼中においては一般にMnS系の介在物となるが、Ca添加によりMnS系からCaS系介在物に形態制御される。しかしSの含有量が多いとCaS系介在物の量も多くなり、高強度材では割れの起点となり得る。この傾向は、S量が0.0015%を超えると顕著となる。従って、S量を0.0015%以下とする。より厳しい耐HIC性能が要求される場合は、S量をさらに低下することが有効であり、好ましくは0.0008%以下とする。
Al:0.01〜0.08%
Alは脱酸剤として添加されるが、この効果は0.01%以上で発揮されるが、0.08%を超えると清浄度の低下により延性を劣化させる。従って、Al量は0.01〜0.08%とする。
Nb:0.030〜0.08%
Nbは本発明において重要な元素である。Nbは、NbCとして析出し強度上昇に極めて有効な元素であり、また、圧延時の粒成長を抑制し、微細粒化により靱性も向上させる。しかし、Nb量が0.030%未満ではその効果が小さく、0.08%を超えて添加しても析出強化に必要なスラブ加熱時の固溶Nb量は増加せず、強度上昇が飽和し、さらに中心偏析部に粗大な未固溶NbCを生成させ耐HIC性能を劣化させる。
従って、Nb量は0.030〜0.08%の範囲とする。より厳しい耐HIC性能が必要とされる場合は、0.030〜0.06%とすることが好ましい。
Ti:0.010〜0.04%
Tiは本発明において重要な元素である。Tiは、Nb、V、Moと共に微細な複合炭化物を形成するが、一定量以上の添加によってNbCを主体とした複合炭化物がさらに微細化され、強度上昇に大きく寄与する。しかし、0.010%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.04%を超える添加は溶接熱影響部の靱性を劣化させるので、0.010〜0.04%とする。
析出強化を十分に活用し、かつ溶接熱影響部の靱性劣化を抑制するという観点から、Ti量は0.015〜0.035%とすることがより好ましい。
Ca:0.0005〜0.0035%
Caは硫化物系介在物の形態を制御し、延性を改善するために有効な元素であるが、0.0005%未満ではその効果がなく、0.0035%を超えて添加しても効果が飽和し、むしろ清浄度の低下により靱性を劣化させる。従って、Ca量は0.0005〜0.0035%の範囲とする。
N:0.0020〜0.0060%
Nは鋼中に不純物として含有されるがCと同様に鋼中に固溶元素として存在すると歪時効を促進し、バウシンガー効果による圧縮強度低下の防止に寄与する。しかし、0.0020%未満ではその効果が小さく、また、0.0060%を超えて含有すると、靱性が劣化する。よって、N量は0.0020〜0.0060%の範囲とする。
C(%)−0.065Nb(%):0.025以上
本発明は固溶Cと転位との相互作用により逆応力発生を抑制することでバウシンガー効果を低減し、鋼管の圧縮強度を高めるものであり、有効な固溶Cを確保することが重要となる。一般に、鋼中のCはセメンタイトやMAとして析出するほか、Nb等の炭化物形成元素と結合し炭化物として析出し、固溶C量が減少する。このとき、C含有量に対してNb含有量が多すぎるとNb炭化物の析出量が多く十分な固溶Cが得られない。しかし、C(%)−0.065Nb(%)が0.025以上であれば十分な固溶Cが得られるため、C含有量とNb含有量の関係式である、C(%)−0.065Nb(%)を0.25以上に規定する。
C(%)+0.67Nb(%):0.080以下
本要件は本発明で重要な構成要件である。種々のNb及びC量の鋼を、実験室で加熱・熱間圧延し、加速冷却後に再加熱処理を行った鋼板について引張強度を調査した結果、C(%)+0.67Nb(%)が0.08以下の範囲で高い強度が得られることが判明した。これは、CとNbの量に応じてNbCの溶解温度が変化し、あるNb量に対してC量が低いとNbCの溶解温度が低下し、所定の加熱温度では固溶Nb量が増加するためである。C、Nb添加量が多い場合はNbCの溶解温度が上昇するため、さらに高い温度に加熱しなければ十分な固溶Nb量が得られない。一般的なスラブ加熱温度の範囲では、C(%)+0.67Nb(%)が0.08を超えると、NbCの溶解温度が高くなり、固溶Nb量の不足による強度不足を生じるとともに、粗大な未固溶炭化物によって耐HIC性能が劣化する虞があるため、本発明においては、C(%)+0.67Nb(%)を0.080以下に規定する。スラブ加熱温度のバラツキを考慮して、より確実に固溶Nb量を得るためには、C(%)+0.67Nb(%)を0.075以下とすることが好ましい。
下式で表されるCP値が0.98以下
CP=4.46C(%)+2.37Mn(%)/6+{1.18Cr(%)+1.95Mo(%)+1.74V(%)}/5+{1.74Cu(%)+1.7Ni(%)}/15+22.36P(%) ・・・(1)式
ただし、各元素記号は含有量(質量%)であり、含有しない元素は0とする。
CPは各合金元素の含有量から中心偏析部の材質を推定するために考案された式であり、CPの値が高いほど、中心偏析部の濃度が高くなり、中心偏析部の硬さが上昇する。このCP値を0.98以下とすることで中心偏析部の硬さ低くし、HIC試験での割れを抑制することが可能となる。CP値が低いほど中心偏析部の硬さが低くなるため、さらに高い耐HIC性能が必要な場合はその上限を0.95とすることが望ましい。
下式で表されるP CM 値が0.170以下
CM=C(%)+Si(%)/30+Mn(%)/20+Cu(%)/20+Ni(%)/60+Cr(%)/20+Mo(%)/15+V(%)/10+5B(%)・・・(2)式
ただし、各元素記号は含有量(質量%)であり、含有しない元素は0とする。
CM値は溶接性を代表する指標であり、PCM値が高いほど溶接HAZの靱性が劣化する。特にAPI−X70グレード以上の高強度鋼では、その影響が顕著となるため、PCM値を厳しく制限する必要がある。
しかし、PCM値が0.170以下であれば、良好な溶接HAZの靱性が確保できるため、その上限を0.170とする。DNV規格などの厳しいHAZ靱性要求がある場合は、その上限を0.160にすることが望ましい。
なお、本発明の鋼の残部はFeおよび不可避不純物であるが、上記以外の元素及び不可避不純物については、本発明の効果を損なわない限り含有することができる。
また、本発明では上記の化学成分の他に、以下の元素を選択元素として添加することができる。
Cu:0.5%以下
Cuは、靱性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接部のHAZ靱性が劣化する。従って、Cuを添加する場合は0.5%以下とすることが好ましい。
Ni:1.0%以下
Niは、靱性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、1.0%を超えて添加すると溶接部のHAZ靱性が劣化する。従って、Niを添加する場合は1.0%以下とすることが好ましい。
Cr:1.0%以下
Crは、焼き入れ性を高めることで強度の上昇に有効な元素であるが、1.0%を超えて添加すると溶接部のHAZ靱性を劣化させる。従って、Crを添加する場合は1.0%以下とすることが好ましい。
Mo:0.5%以下
Moは、NbやTiと同様に複合炭化物を生成し、析出強化による強度上昇に極めて有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接部のHAZ靱性が劣化する。従って、Moを添加する場合は0.5%以下とすることが好ましい。
V:0.07%以下
Vは、NbやTiと同様に複合炭化物を生成し、析出強化による強度上昇に極めて有効な元素であるが、0.07%を超えて添加すると溶接部のHAZ靱性が劣化する。従って、Vを添加する場合は0.07%以下とすることが好ましい。また、溶接部の会合部HAZ等、複数サイクルの溶接による熱履歴を受ける部分では、VCとして析出しHAZ部を硬化させ著しい靱性劣化を生じるため、DNV規格などの厳しいHAZ靱性要求がある場合は、Vの添加量を0.04%未満にすることがさらに好ましい。
C(%)−0.065Nb(%)−0.025Mo(%)−0.057V(%):0.025以上
本発明の選択元素であるMo及びVもNbと同様に炭化物を形成する元素であり、これらの元素も十分な固溶Cが得られる範囲で添加することが好ましい。しかし、C(%)−0.065Nb(%)−0.025Mo(%)−0.057V(%)で表される関係式の値が0.025未満では固溶Cが不足することがあるため、C(%)−0.065Nb(%)−0.025Mo(%)−0.057V(%)を0.025以上にすることが好ましい。
2.金属組織について
本発明における金属組織の限定理由を以下に示す。
ベイナイトとフェライトの面積分率の合計が95%以上
本発明は、加速冷却後の再加熱によってベイナイトとフェライトからなる金属組織とすることを特徴としている。このような組織は次のような方法で得ることができる。まず、制御圧延によって微細化したオーステナイト相が、加速冷却によってベイナイト組織に変態するが、ベイナイト変態終了温度よりも高い温度で加速冷却を停止することで、未変態のオーステナイトを残し、その後の再加熱によって、未変態オーステナイトをフェライトに変態させ、ベイナイトとフェライトからなる金属組織を得る。
また、再加熱によって、ベイナイト相は焼戻されて軟化し、フェライト相中には炭化物の微細析出が生じる。この析出強化効果により、フェライト相の強度が向上する。これにより、強度差または硬度差の少ないベイナイトとフェライト組織となる。ベイナイトとフェライトの面積分率の合計が95%未満では、それ以外の組織との界面が転位の集積場所となるため、バウシンガー効果による圧縮強度が低下する。よって、ベイナイトとフェライトの面積分率の合計を95%以上に規定する。
本発明では、ベイナイト相とフェライト相の面積分率の割合は特に規定されないが、未変態オーステナイトから変態するフェライト相の粗大化を抑制するためには、ベイナイトの面積分率を50%以上にすることが好ましい。
フェライト中にNbとTiを含有する微細析出物の平均粒径が20nm以下
本発明は、ベイナイトとフェライトの強度差を低減するために、フェライト中にNbとTiを含有する平均粒径20nm以下の微細析出物を分散析出していることが特徴であるが、その理由を以下に述べる。
単独の添加のNbは、鋼中でNbCとなって、フェライト中に分散析出し強度上昇に大きく寄与するが、Tiを添加すると、炭化物はNbとTiを含む複合炭化物となる。この複合炭化物は通常のNbCに比べ粒径が微細であり、さらに大きな析出強化が得られる。微細析出物の粒径が小さいほど大きな析出強化が得られるが、NbとTiを含む複合炭化物とすることで平均粒径を20nm以下にすることが可能である。析出物の平均粒径が20nmを超えると、析出強化量が低減し、十分な強度が得られないか、また、強度を得るために合金元素量が必要となるため、溶接部のHAZ靱性の劣化を生じる。
よって、フェライト中にNbとTiを含有する微細析出物の平均粒径は20nm以下に規定する。高強度化と高靭性化の観点から、フェライト中にNbとTiを含有する微細析出物の平均粒径は10nm以下がさらに好ましい。
島状マルテンサイト(MA)の面積分率:3%以下
島状マルテンサイト(MA)は非常に硬質な相であり、変形時に局所的な転位の集積を促進し、バウシンガー効果により圧縮強度の低下を招くため、その面積分率を厳しく制限する必要がある。しかし、MAの面積分率が3%以下ではその影響が小さく圧縮強度の低下も生じないため、島状マルテンサイト(MA)の面積分率を3%以下に規定する。
本発明では、上記の金属組織の特徴を有することで、バウシンガー効果による圧縮強度の低下が抑制され、高い圧縮強度が達成されるが、より大きな効果を得るためにはMAのサイズは微細であることが望ましい。MAの平均粒径が小さいほど、局所的な歪み集中が分散されるため、歪み集中量も少なくなりバウシンガー効果の発生がさらに抑制される。そのためには、MAの平均粒径を2μm以下とすることが好ましい。また、熱間圧延後の加速冷却で生成するベイナイト相は、特に鋼板表層部では、冷却停止温度が低下し、MAを含む組織となるが、ベイナイトの粒径が小さい場合はMAも微細となり、その後の再加熱でセメンタイトに分解されやすくなるため、ベイナイトの平均粒径は5μm以下にすることが好ましい。
上記以外の金属組織として、セメンタイトやマルテンサイトなどの組織も含まれる場合があるが、それらの組織の合計が面積分率で5%未満であれば、特にバウシンガー特性やその他の性能に影響を与えない。よって、フェライト、ベイナイト及びMA以外の組織の面積分率の合計を5%未満とすることが好ましい。
一般に、加速冷却を適用して製造された鋼板の金属組織は、鋼板の板厚方向で異なり均一でない場合がある。外圧を受ける鋼管のコラプスは、周長の小さな鋼管内面側の塑性変形が先に生じることで起こるため、圧縮強度としては鋼管の内面側の特性が重要となり、一般に圧縮試験片は鋼管の内面側より採取する。よって、上記の金属組織は鋼管内面側の組織を規定するものであり、鋼管の性能を代表する位置として、内面側の板厚1/4の位置の組織とする。
3.製造条件について
本発明の第3発明は、上述した化学成分を含有する鋼スラブを、加熱し熱間圧延を行った後、加速冷却を施し、引き続いて誘導加熱による焼戻しを行う製造方法である。以下に、鋼板の製造条件の限定理由について説明する。
鋼スラブ加熱温度:1000〜1200℃
鋼スラブ加熱温度は、1000℃未満ではNbCの固溶が不十分でその後の析出による強化が得られないとともに、粗大な未固溶炭化物によって耐HIC性能が劣化し、1200℃を超えると、靱性やDWTT性能が劣化する。従って、鋼スラブ加熱温度は1000〜1200℃の範囲とする。さらに優れたDWTT性能が要求される場合は、鋼スラブ加熱温度の上限を1150℃にすることが好ましい。
未再結晶温度域の圧下率:60%以上
バウシンガー効果を低減するための微細なベイナイト組織と高い母材靱性を得るためには、熱間圧延工程において未再結晶温度以下で十分な圧下を行う必要がある。しかし、圧下率が60%未満では効果が不十分であるため、未再結晶域で圧下率を60%以上とする。好ましくは70%以上とする。なお、圧下率は複数の圧延パスで圧延を行う場合はその累積の圧下率とする。また、未再結晶温度域はNb、Ti等の合金元素の添加量によって変化するが、本発明のNb及びTi添加量では、未再結晶温度域の上限温度を950℃とすればよい。
圧延終了温度:Ar 以上
圧延終了温度がAr温度を下回ると、加工フェライト組織が生成し、耐HIC性能を劣化させるため、圧延終了温度をAr温度以上とすることが必要である。なお、Ar温度は鋼の合金成分によって変化するため、それぞれの鋼で事前の実験によって変態温度を測定して求めることができるが、鋼の含有成分から下式(3)を用いて簡略的に求めることもできる。
Ar(℃)=910−310C(%)−80Mn(%)−20Cu(%)−15Cr(%)−55Ni(%)−80Mo(%)・・・・・(3)式
ここで、式中、各元素記号は含有量(質量%)、含有しない場合は0とする。
熱間圧延に引き続いて加速冷却を行う。加速冷却の条件は以下の通りである。
冷却開始温度:(Ar −30℃)以上
本発明では、熱間圧延後の加速冷却とその後の再加熱によって金属組織をベイナイトとフェライトからなる組織とする。このため、加速冷却を行なわない場合、冷却開始温度がフェライト生成温度であるAr温度を下回ると、ベイナイト変態に先立って析出物のない軟質なフェライトが生成し、バウシンガー効果による強度低下が大きく圧縮強度が低下するので好ましくない。
しかし、加速冷却方法を採用する場合には、冷却開始温度が(Ar−30℃)以上であれば、ベイナイト変態に先立って生成する軟質なフェライトの面積分率が低くバウシンガー効果による強度低下も小さい。よって、冷却開始温度を(Ar−30℃)以上とする加速冷却を実施する。
冷却速度:10℃/秒以上
冷却速度を10℃/秒以上で行なう加速冷却方法は、高強度で高靱性の鋼板を得るために不可欠なプロセスであり、高い冷却速度で冷却することで変態強化による強度上昇効果が得られる。しかし、冷却速度が10℃/秒未満では十分な強度が得られないだけでなく、Cの拡散が生じるため未変態オーステナイトへCの濃化が起こり、MAの生成量が多くなる。前述のように、MA等の硬質第2相の存在によって、バウシンガー効果が促進されるため、圧縮強度の低下を招く。しかし、冷却速度が10℃/秒以上であれば冷却中のCの拡散が少なく、MAの生成も抑制される。よって加速冷却時の冷却速度の下限を10℃/秒とする。
冷却停止温度:300〜600℃
圧延終了後の加速冷却でベイナイト変態域である300〜600℃まで急冷することにより、ベイナイト相を生成させ、かつ再加熱時のフェライト変態の駆動力を大きくする。駆動力が大きくなることで、再加熱過程でのフェライト変態を促進し、短時間の再加熱でフェライト変態を完了させることが可能となる。冷却停止温度が300℃未満では、ベイナイトやマルテンサイト単相組織となるか、フェライトとベイナイト組織の2相組織となっても島状マルテンサイト(MA)が過剰に生成するために圧縮強度や耐HIC性能が劣化する。
一方、冷却停止温度が600℃を超えると、再加熱時のフェライト変態が完了せずパーライトが生成して同様に圧縮強度や耐HIC性能が劣化するとともに、ベイナイト変態による変態強化の効果が十分ではなく強度が低下する。再加熱時のフェライト変態の駆動力を大きくし、フェライト変態時の析出物による析出強化の効果を十分に得るという観点から、冷却停止温度は400〜600℃とすることがさらに好ましい。
つぎに、再加熱の製造条件の限定理由を述べる。
再加熱時の鋼板平均温度:550〜700℃
上述した加速冷却後、冷却停止温度以上であって、かつ550〜700℃の温度まで再加熱を行う。このプロセスは本発明における重要な製造条件である。
フェライト相の強化に寄与する微細析出物は、再加熱時のフェライト変態時と同時に析出する。微細析出物によるフェライト相の強化とベイナイト相の軟化を同時に行い、フェライト相とベイナイト相の強度差の小さい組織を得るためには、加速冷却後、冷却停止温度以上であって、かつ550〜700℃の温度まで再加熱することが必要である。
再加熱温度が550℃未満では微細析出物による十分な析出強化が図れず、またフェライト変態が完了せずにその後の冷却時に未変態オーステナイトがパーライトに変態するため、圧縮強度や耐HIC性能が劣化する。一方、再加熱温度が700℃を超えると、析出物が粗大化して十分な強度が得られない。ここで、加速冷却停止後、直ちに再加熱する、すなわち、加速冷却停止後、120秒以内に再加熱を開始することが好ましい。再加熱温度において、特に温度保持時間を設定する必要はない。したがって、再加熱温度に到達後、直ちに冷却してもよい。冷却速度は、微細析出物が継続して析出するように適宜選定するが、特に空冷が好ましい。再加熱温度に保持する場合は、30分を超えて温度保持を行うと析出物の粗大化を生じ、強度低下を招く場合があるので、30分以内とすることが好ましい。
NbとTiを含む複合炭化物の析出強化を最大限活用するためには、最も析出しやすい温度範囲として、再加熱温度を600〜680℃にすることが好ましい。また、この再加熱の際には、冷却停止温度よりも50℃以上高い温度に昇温することがさらに好ましい。
再加熱の手段は特に限定しないが、熱間圧延及び加速冷却装置と同一のライン上に設置された誘導加熱装置を利用することで、生産性を落とすことなく急速な加熱が可能である。また、再加熱開始温度がベイナイト変態停止温度以上に保つことが可能なら、ガス燃焼炉などのオフラインの熱処理設備を利用することもできる。
また、再加熱時の昇温速度は、0.5℃/sec未満では、目的の再加熱温度に達するまでに長時間を要するため、析出物の粗大化により十分な強度を得ることができないだけでなく、製造効率が悪化する。また、靱性の劣化を抑制するためには、昇温中での析出物の粗大化を抑制して微細かつ均一に分散析出させることが有効であり、この観点からは昇温速度は3℃/sec以上とすることが好ましい。
なお、上記の製造条件における温度はいずれも鋼板平均温度とする。鋼板平均温度は、板厚、表面温度および冷却条件等から、シミュレーション計算等により求められる。例えば、差分法を用い、板厚方向の温度分布を計算することにより、鋼板平均温度が求められる。また、空冷程度の遅い冷却速度の場合は、鋼板表面と鋼板中心部の温度差がほとんど無いため、鋼板表面温度を鋼板平均温度とすることができる。しかし、加速冷却や誘導加熱による再加熱直後など、急冷または急速加熱される場合は、鋼板表面と鋼板中心で温度差を生じる。このような場合は、冷却停止後または加熱後の空冷によって鋼板内部の温度差がほとんど無くなるため、そのときの鋼板表面温度としてもよい。
本発明は上述の方法によって製造された鋼板を用いて鋼管となすが、鋼管の成形方法は、UOEプロセスやプレスベンド等の冷間成形によって鋼管形状に成形する。その後、溶接するが、このときの溶接方法は十分な継手強度及び継手靱性が得られる方法ならいずれの方法でもよいが、優れた溶接品質と製造能率の点からサブマージアーク溶接を用いることが好ましい。
拡管率:0.4%〜1.2%
突き合せ部の溶接を行った後に、溶接残留応力の除去と鋼管真円度の向上のため、拡管を行う。このときの拡管率は、0.4%以上とする。所定の鋼管真円度が得られ、残留応力が除去されるためである。また、拡管率が高すぎるとバウシンガー効果による圧縮強度の低下が大きくなるため、拡管率の上限を1.2%とする。
引張強度:570MPa以上
本発明の鋼管は、API−X70グレード以上の高強度の鋼管への適用を目的としており、引張強度は570MPa以上に規定する。これは、引張強度が570MPa未満の比較的強度が低い鋼管なら、本発明のような析出強化を適用しなくても、溶接部のHAZ靱性を劣化するほどの合金元素の添加なしで、十分な強度が得られるためである。
表1に示す化学成分の鋼(鋼種A〜N)を連続鋳造法によりスラブとし、これを用いて板厚20mm及び25mmの厚鋼板(No.1〜24)を製造した。鋼板製造条件ならびに鋼管製造条件、金属組織および機械的性質等をそれぞれ表2および表3に示す。
鋼板製造時の再加熱処理は、加速冷却設備と同一ライン上に設置した誘導加熱炉を用いて再加熱を行った。再加熱時の鋼板平均温度は加熱後の表層温度と中心温度がほぼ等しくなった時点での鋼板表面温度とした。これらの鋼板を用いて、UOEプロセスにより外径610mmまたは762mmの鋼管を製造した。
以上のようにして製造した鋼管の引張特性は、管周方向の全厚試験片を引張試験片として引張試験を行い、引張強度を測定した。圧縮試験は鋼管の鋼管内面側の位置より管周方向に直径20mm、長さ60mmの試験片を採取し、圧縮試験を行い圧縮の降伏強度を測定した。また、鋼管の管周方向より採取したDWTT試験片により延性破面率が85%となる温度を85%SATTとして求めた。
耐HIC性能は、pHが約3の硫化水素を飽和させた5%NaCl+0.5%CHCOOH水溶液(通常のNACE溶液)を用いた浸漬時間96時間のHIC試験を行い、超音波探傷により試験片全面の割れの有無を調査し、割れが認められない場合を耐HIC性能が良好と判断して“○”、割れが発生した場合を“×”として評価した。
金属組織は鋼管の内面側の板厚1/4の位置からサンプルを採取し、研磨後ナイタールによるエッチングを行い光学顕微鏡で観察を行った。そして、200倍で撮影した写真5枚を用いて画像解析によりベイナイトとフェライトの合計の面積分率を求めた。ベイナイトの平均粒径は同じ顕微鏡写真を用いて線分法によって求めた。
析出物の観察は、透過型電子顕微鏡(TEM)で行い、10000〜100000倍で撮影した写真5枚から析出物の平均粒径(円相当径)を求めた。
MAの観察は、ナイタールエッチング後に電解エッチング(2段エッチング)を行い、その後走査電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。そして、1000倍で撮影した写真5枚から画像解析によってMAの面積分率と平均粒径を求めた。ここで、MAの平均粒径は、画像解析により円相当径として求めた。
表2および表3において、No.1〜9はいずれも、化学成分および製造方法及びミクロ組織が本発明の範囲内であり、引張強度が570MPa以上、圧縮降伏強度が460MPa以上の高圧縮強度であり、DWTT性能は85%SATTが−20℃以下、耐HIC性能は割れが発生せずと、いずれも良好であった。
一方、No.10〜16は、化学成分が本発明の範囲内であるが、製造方法が本発明の範囲外であるため、引張強度、圧縮強度、DWTT性能または耐HIC性能のいずれかが劣っている。No.17〜24は化学成分が本発明外であるため、引張強度または圧縮強度が不足しているか、DWTT性能または耐HIC性能が劣っている。
本発明によれば、高い圧縮強度を有し、さらに優れたDWTT性能と耐HIC性能を有するAPI−X70グレード以上の鋼管が得られるので、高い耐コラプス性能が要求される深海用ラインパイプ、特にサワーガスを輸送するラインパイプへ適用することができる。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.02〜0.06%、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.8〜1.6%、P:0.012%以下、S:0.0015%以下、Al:0.01〜0.08%、Nb:0.030〜0.08%、Ti:0.010〜0.04%、Ca:0.0005〜0.0035%、N:0.0020〜0.0060%、を含有し、C(%)−0.065Nb(%)が0.025以上、C(%)+0.67Nb(%)が0.080以下であり、下記(1)式で表されるCP値が0.98以下,下記(2)式で表されるPCM値が0.170以下であり、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼管であり、金属組織がベイナイトとフェライトの面積分率の合計が95%以上で、ベイナイトの平均粒径が5μm以下であり、フェライト中にNbとTiを含有する平均粒径20nm以下の微細析出物が分散析出しており、島状マルテンサイト(MA)の面積分率が3%以下であることを特徴とする、引張強度570MPa以上、圧縮降伏強度460MPa以上の高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管。
    CP=4.46C(%)+2.37Mn(%)/6+{1.74Cu(%)+1.7Ni(%)}/15+{1.18Cr(%)+1.95Mo(%)+1.74V(%)}/5+22.36P(%) ・・・(1)式
    CM=C(%)+Si(%)/30+Mn(%)/20+Cu(%)/20+Ni(%)/60+Cr(%)/20+Mo(%)/15+V(%)/10+5B(%)・・・(2)式
    ただし、各元素記号は含有量(質量%)であり、含有しない元素は0とする。
  2. さらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下、V:0.04%未満の中から選ばれる1種以上を含有し、C(%)−0.065Nb(%)−0.025Mo(%)−0.057V(%)が0.025以上であることを特徴とする請求項1に記載の引張強度570MPa以上、圧縮降伏強度460MPa以上の高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管。
  3. 鋼スラブを、1000〜1200℃に加熱し、未再結晶温度域の累積圧下率が60%以上、圧延終了温度がAr以上の熱間圧延を行い、引き続き、(Ar−30℃)以上の温度から10℃/秒以上の冷却速度で、鋼板平均温度が300〜600℃まで加速冷却を行い、引き続いて鋼板平均温度が550〜700℃となる再加熱を行うことにより製造した鋼板を、冷間成形により鋼管形状とし、突き合せ部をシーム溶接し、次いで拡管率が0.4%〜1.2%の拡管を施すことを特徴とする、請求項1または2に記載の引張強度570MPa以上、圧縮降伏強度460MPa以上の高圧縮強度耐サワーラインパイプ用鋼管の製造方法。
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