JP6217234B2 - 厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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板厚の1/4厚におけるミクロ組織が軟質組織と硬質組織の複合組織であって、該軟質組織の面積率が70%未満、かつ、平均粒径が10μm未満であり、該硬質組織の短軸方向の平均長さが5μm未満、かつ、平均アスペクト比が10未満である厚鋼板。
CeqL=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、鋼板中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
該鋼板を1℃/s以上10℃/s未満の平均冷却速度で冷却を行う第1冷却工程と、
その後、10℃/s以上の平均冷却速度で、600℃以上の開始温度から550℃以下の終了温度まで冷却を行う第2冷却工程とを備える厚鋼板の製造方法。
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
Cは、鋼の強度を高めるために必要な元素である。Cの含有量が0.03%未満では所望の強度が得られない。一方、0.18%を超えると伸びおよび靭性が劣化する。したがって、C含有量を0.03〜0.18%とする必要がある。C含有量は0.05%以上とすることが望ましい。また、C含有量は0.15%以下とすることが望ましく、0.12%以下とすることがより望ましく、0.09%以下とすることがさらに望ましい。
Siは、製鋼における脱酸元素として有効であると共に、強度を高める効果を有する元素である。その効果を得るためには、Siを0.01%以上含有させる必要がある。しかし、Siを過剰に含有させると靱性が劣化するため、1.0%以下に限定する。Si含有量は0.05%以上とすることが望ましい。また、Si含有量は0.7%以下とすることが望ましく、0.4%以下とすることがより望ましい。
Mnは、鋼の強度を高める作用を有する元素である。その含有量が0.5%未満ではその効果が十分ではない。一方、2.0%を超えて含有させると、伸びおよび靭性が劣化する。したがって、Mn含有量を0.5〜2.0%とする必要がある。Mn含有量は1.0%以上とすることが望ましく、1.8%以下とすることが望ましい。
Alは、Siと同様に脱酸に有効な元素である。そのため、sol.Al(「酸可溶Al」)として0.001%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が0.1%を超えると靱性を劣化させるため、上限を0.1%とする。sol.Al含有量は0.01%以上とすることが望ましく、0.06%以下とすることが望ましい。
Cuは、強度上昇に有効な元素であるので、必要に応じて含有させても良い。しかし、Cuを過剰に含有させると、靭性を劣化させる可能性がある。したがって、含有させる場合のCu含有量は1.0%以下とする。一方、上記の効果を得るためには、Cu含有量は0.1%以上であるのが望ましい。
Niは、強度上昇に有効であると共に、靱性を改善する効果を有する元素である。そのため、必要に応じてNiを含有させても良い。しかし、Niを過剰に含有させると、伸びが低下する場合がある。したがって、含有させる場合のNi含有量は1.0%以下とする。一方、上記の効果を得るためには、Ni含有量は0.1%以上であるのが望ましい。
Crは、強度上昇に有効な元素であるので、必要に応じて含有させても良い。しかし、Crを過剰に含有させると、靭性を劣化させる可能性がある。したがって、含有させる場合のCr含有量は1.0%以下とする。一方、上記の効果を得るためには、Cr含有量は0.1%以上であるのが望ましい。
Moは、強度上昇に有効な元素であるので、必要に応じて含有させても良い。しかし、Moを過剰に含有させると、靭性を劣化させる可能性がある。したがって、含有させる場合のMo含有量は1.0%以下とする。一方、上記の効果を得るためには、Mo含有量は0.05%以上であるのが望ましい。
Vは、強度上昇に有効な元素であるので、必要に応じて含有させても良い。しかし、Vを過剰に含有させると、靭性を劣化させる可能性がある。したがって、含有させる場合のV含有量は0.1%以下とする。一方、上記の効果を得るためには、V含有量は0.01%以上であるのが望ましい。
Nbは、強度上昇に有効であると共に、靱性を改善する効果を有する元素である。そのため、必要に応じてNbを含有させても良い。しかし、Nbを過剰に含有させると、かえって靭性を劣化させる場合がある。したがって、含有させる場合のNb含有量は0.1%以下とする。一方、上記の効果を得るためには、Nb含有量は0.005%以上であるのが望ましい。
Tiは、Nと結合してTiNを形成することで靱性を改善する効果を有する元素である。そのため、必要に応じてTiを含有させても良い。しかし、Tiを過剰に含有させると、TiCの析出物が多量に生成し、靱性が大幅に劣化する可能性がある。したがって、含有させる場合のTi含有量は0.1%以下とする。Ti含有量は0.03%以下であるのが望ましい。一方、上記の効果を得るためには、Ti含有量は0.001%以上であるのが望ましい。
Bは、焼入れ性を向上させて強度を高める作用を有する元素である。そのため、必要に応じてBを含有させても良い。しかし、Bを過剰に含有させると、靭性を劣化させる可能性がある。したがって、含有させる場合のB含有量は0.01%以下とする。一方、上記の効果を得るためには、B含有量は0.0003%以上であるのが望ましい。
Caは、硫化物(特にMnS)の形態を制御し、靱性を向上させるのに有効な元素である。そのため、必要に応じてCaを含有させても良い。しかし、Caを過剰に含有させると、靱性に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、含有させる場合のCa含有量は0.01%以下とする。Ca含有量は0.005%以下であるのが望ましい。一方、上記の効果を得るためには、Ca含有量は0.0005%以上であるのが望ましい。
REMは、硫化物(特にMnS)の形態を制御し、靱性を向上させるのに有効な元素である。そのため、必要に応じてREMを含有させても良い。しかし、REMを過剰に含有させると、靱性に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、含有させる場合のREM含有量は0.02%以下とする。REM含有量は0.01%以下であるのが望ましい。一方、上記の効果を得るためには、REM含有量は0.001%以上であるのが望ましい。なお、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、これらの元素から選択される1種以上を含有させることができる。REMの含有量は上記元素の合計量を意味する。
Mgは、微細に分散した酸化物を形成し、特に溶接熱影響部のオーステナイト粒径の粗大化を抑制して靭性を向上させるのに有効な元素である。そのため、必要に応じてMgを含有させても良い。しかし、Mgを過剰に含有させると、靱性に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、含有させる場合のMg含有量は0.01%以下とする。Mg含有量は0.005%以下であるのが望ましい。一方、上記の効果を得るためには、Mg含有量は0.0005%以上であるのが望ましい。
Zrは酸化物や窒化物を形成し、溶接熱影響部のオーステナイト粒の粗大化を抑制し、靭性を改善する効果を有する元素である。そのため、必要に応じてZrを含有させても良い。しかし、Zrを過剰に含有させると、析出物が多くなりすぎて靭性低下を招くおそれがある。したがって、含有させる場合のZr含有量は0.1%以下とする。一方、上記の効果を得るためには、Zr含有量は0.005%以上であるのが望ましい。
Pは、不純物元素であり、その含有量が0.02%を超えると靭性を著しく劣化させるため、0.02%以下に限定する。P含有量はできるだけ少ない方が望ましく、0.01%以下であることが望ましい。
Sは、Pと同様に不純物元素であり、その含有量が0.01%を超えると靭性を著しく劣化させるため、0.01%以下に限定する。S含有量はできるだけ少ない方が望ましく、0.005%以下であることが望ましい。
Nも、PおよびSと同様に不純物元素であり、その含有量が0.01%を超えると靭性を著しく劣化させるため、0.01%以下に限定する。N含有量はできるだけ少ない方が望ましく、0.006%以下であることが望ましい。
Oも、P、SおよびNと同様に不純物元素であり、その含有量が過剰であると靱性を悪化させる。そのため、O含有量は0.005%以下に限定する。O含有量は0.003%以下であるのが望ましく、0.002%以下であるのがより望ましい。
CeqLは炭素当量を意味し、下記(i)式で定義される。CeqLの値を大きくすることは強度上昇に寄与する。したがって、CeqLの値は0.37超とすることが望ましい。一方、CeqLの値が過剰であると靭性を劣化させる可能性があるため、0.50以下とすることが望ましく、0.44以下とすることがより望ましい。
CeqL=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、鋼板中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
本発明に係る厚鋼板は、板厚の1/4厚におけるミクロ組織が、軟質組織と硬質組織との複合組織からなるものである。なお、軟質組織はフェライトからなる組織であることが望ましく、硬質組織はパーライト、ベイナイト、マルテンサイトおよびMA(Martensite-Austenite constituent)から選択される1種以上からなる組織であることが望ましい。
本発明において、625MPa以上の引張強度を有する厚鋼板を得るためには、軟質組織の面積率を70%未満とすることが必要である。軟質組織の面積率は50%未満であるのが望ましい。
良好な靭性を有する厚鋼板を得るためには、軟質組織の平均粒径を10μm未満とする必要がある。軟質組織の平均粒径は5μm未満であるのが望ましい。ここで平均粒径とは、ASTM−E112に準拠して求めたASTM公称粒径を意味する。なお、ASTM公称粒径は、平均粒切片を1.13倍することにより算出することができる。
良好な靭性を有する厚鋼板を得るためには、軟質組織の最大切片を20μm未満とすることが望ましい。軟質組織の最大切片は10μm未満であるのがより望ましい。
上述のように、鋼板のミクロ組織を硬質組織微細分散型の複合組織とすることで、強度、延性および靱性のバランスを向上させることが可能となる。微細分散化された硬質組織を有する鋼板は、特に局部伸びが向上すると共に全伸びも向上する。そのためには、硬質組織の短軸方向の平均長さを5μm未満とする必要がある。硬質組織の短軸方向の平均長さは3μm未満であるのが望ましい。
鋼板のミクロ組織を硬質組織微細分散型の複合ミクロ組織として、強度、延性および靱性のバランスを向上させ、特に局部伸びを向上させるためには、硬質組織の平均アスペクト比を10未満とする必要がある。硬質組織の平均アスペクト比は5未満であるのが望ましく、3未満であるのがより望ましい。
本発明に係る厚鋼板の板厚については特に制限はされないが、強度、延性および靱性のバランスを向上させるという作用効果は、特に板厚が6mm以上の厚鋼板に適用することで発揮される。一方、熱間圧延後の鋼板の板厚が大きすぎる場合には、水冷を行っても鋼材の平均冷却速度を高めることが困難となるため、上記の強度、延性および靱性のバランスを向上させるという作用効果が十分に得られなくなるおそれがある。したがって、板厚は40mm以下であることが望ましい。
上記で説明した化学組成を有する鋼を用いて、以下に示す熱間圧延工程、第1冷却工程および第2冷却工程を備えた製造方法を用いることにより、本発明の厚鋼板を比較的効率良く製造することができる。それぞれの工程について、以下に詳しく説明する。なお、温度は鋼片または鋼板の表面で測温するが、圧延ロール等との接触または水冷の影響で一時的に大きく表面温度が下がり、その後に表面温度が上昇する場合には、復熱後の表面温度を意味する。
加熱温度:900℃以上
圧延前の加熱温度は、熱間圧延を容易に行うため、900℃以上とすることが望ましい。加熱温度は950℃以上とするのがより望ましく、1050℃以上とするのがさらに望ましい。しかし、加熱温度が高すぎると、オーステナイト結晶粒が粗大化して靱性が劣化し易くなる。したがって、加熱温度は1250℃以下とするのが望ましく、1200℃以下とするのがより望ましい。
圧延終了温度が低すぎると強度および靱性の確保が困難になる。このため、圧延終了温度を700℃以上とすることが望ましい。圧延終了温度は750℃以上とすることがより望ましい。
平均冷却速度:1℃/s以上10℃/s未満
圧延終了後の第1冷却工程における平均冷却速度が小さすぎると、軟質組織の粒径が大きくなり過ぎて強度や靭性が劣化したり、製造能率が低下したりするなどの問題が生じる。そのため、平均冷却速度は1℃/s以上とすることが望ましい。しかし、この第1冷却工程における平均冷却速度が大きすぎると、十分な伸びが得られない場合または靭性が低下する場合がある。そのため、平均冷却速度は10℃/s未満とすることが望ましく、3℃/s未満とするのがより望ましい。
平均冷却速度:10℃/s以上
第2冷却工程における平均冷却速度が小さすぎると引張強度の確保が困難になるため、平均冷却速度を10℃/s以上とすることが望ましい。上記の冷却速度の条件を満たすためには、水冷を行うことが望ましい。水冷方法については特に制限はないが、例えば、以下の方法を用いることができる。
第2冷却の開始温度が低すぎると良好な引張強度と伸びの両立が困難になる。そのため、開始温度を600℃以上とすることが望ましく、650℃以上とすることがより望ましい。
第2冷却の終了温度が高すぎると引張強度の確保が困難になる。そのため、終了温度を550℃以下とすることが望ましく、450℃以下とすることがより望ましい。
ミクロ組織観察は、圧延方向と板厚方向を含む面を鏡面研磨し、ナイタールで腐食して試料を作製し、光学顕微鏡を用いて、板厚方向1/4位置にて倍率を500倍として10視野ずつ観察した。得られた組織については、画像処理により組織を解析した。
板状試験片を、板厚中央位置で、試験片の軸が圧延方向に対して垂直になるように採取した。試験片形状は、厚さ7.7mm、平行部幅10.0mm、標点間距離50.0mmとした。引張試験は室温で実施し、引張強度(TS)および伸び(El)の測定を行った。
Vノッチ試験片(JIS Z 2242)を、試験片の中心が板厚方向1/4位置になるように、試験片の長辺が圧延方向に対して垂直になるように採取した。シャルピー試験は各鋼板について試験片3本ずつ実施し、−80℃での吸収エネルギーの平均値(vE−80)を求めた。
Claims (10)
- 化学組成が、質量%で、C:0.03〜0.18%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.5〜2.0%、sol.Al:0.001〜0.1%、Cu:0〜1.0%、Ni:0〜1.0%、Cr:0〜1.0%、Mo:0〜1.0%、V:0〜0.1%、Nb:0〜0.1%、Ti:0〜0.1%、B:0〜0.01%、Ca:0〜0.01%、REM:0〜0.02%、Mg:0〜0.01%、Zr:0〜0.1%、残部Feおよび不純物であり、不純物中のP、S、NおよびOは、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下およびO:0.005%以下であり、
板厚の1/4厚におけるミクロ組織が軟質組織と硬質組織の複合組織であって、
該軟質組織はフェライトからなる組織であり、該硬質組織はパーライト、ベイナイト、マルテンサイトおよびMA(Martensite-Austenite constituent)から選択される1種以上からなる組織であり、
該軟質組織の面積率が70%未満、かつ、平均粒径が10μm未満であり、該硬質組織の短軸方向の平均長さが5μm未満、かつ、平均アスペクト比が10未満である厚鋼板。 - 前記化学組成が、質量%で、Cu:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、V:0.01〜0.1%およびNb:0.005〜0.1%から選択される1種以上を含有する請求項1に記載の厚鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、Ti:0.001〜0.1%を含有する請求項1または請求項2に記載の厚鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、B:0.0003〜0.01%を含有する請求項1から請求項3までのいずれかに記載の厚鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、Ca:0.0005〜0.01%、REM:0.001〜0.02%およびMg:0.0005〜0.01%から選択される1種以上を含有する請求項1から請求項4までのいずれかに記載の厚鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、Zr:0.005〜0.1%を含有する請求項1から請求項5までのいずれかに記載の厚鋼板。
- 前記化学組成において、下記(i)式で定義されるCeqLの値が0.37超である請求項1から請求項6までのいずれかに記載の厚鋼板。
CeqL=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、鋼板中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。 - 熱間圧延後の鋼板の板厚が6〜40mmである請求項1から請求項7までのいずれかに記載の厚鋼板。
- 701MPa以上の引張強度を有する請求項1から請求項8までのいずれかに記載の厚鋼板。
- 請求項1から請求項9までのいずれかに記載の厚鋼板の製造方法であって、
請求項1から請求項7までのいずれかに記載される化学組成を有する鋼を加熱し、熱間圧延を行って鋼板に成形する熱間圧延工程と、
該鋼板を1℃/s以上3℃/s未満の平均冷却速度で冷却を行う第1冷却工程と、
その後、10℃/s以上の平均冷却速度で、600℃以上の開始温度から550℃以下の終了温度まで冷却を行う第2冷却工程とを備える厚鋼板の製造方法。
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