JP5834534B2 - 高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼、その製造方法、および高強度低降伏比溶接鋼管 - Google Patents

高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼、その製造方法、および高強度低降伏比溶接鋼管 Download PDF

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Description

本発明は、引張強度550MPa以上で、降伏比が80%以下かつ引張強度と一様伸びとの積が7500MPa・%以上となる低降伏比かつ高一様伸びを有する鋼、その製造方法、および前記鋼を母材とする高強度低降伏比溶接鋼管に関し、高強度ラインパイプ用として好適なものに関する。
近年、天然ガスや原油の輸送用ラインパイプは、高圧化による輸送効率の向上や薄肉化による現地溶接施工効率の向上のため、高強度化され、さらに、大地震や凍土地帯における地盤変動により、ラインパイプに大変形が生じても、亀裂を発生しない高変形能の要求もなされるようになってきた。
鋼材の変形能の指標である、降伏比(YR):引張強度に対する降伏強度の比は、小さくなるほどパイプ座屈発生の限界歪が向上する。
座屈発生後さらにパイプの変形が進む場合、パイプには局部的な歪集中が生じ、延性破壊発生限界歪に到達すると延性破壊が生じる。延性破壊発生限界歪は、鋼材の一様伸びと相関すると考えられている。
鋼材のミクロ組織を軟質なフェライト相と、硬質なベイナイトやマルテンサイトなどが適度に分散した硬質相とを備えた2相組織とすることで、低YRとなることが知られており、例えば特許文献1には、軟質相中に硬質相が適度に分散した組織を得る製造方法として、焼入れ(Q)と焼戻し(T)の中間に、フェライトとオーステナイトの2相域からの焼入れ(Q´)を施す熱処理方法が開示されている。
特許文献2には、軟質相である加工フェライトとベイナイトやマルテンサイトの硬質相を混在させた組織により低YR化が達成されることが開示されている。
また、特許文献3には、ベイナイト中に硬質なMA(島状マルテンサイト)組織を分散させた場合、低YR化が達成されることが開示されている。
特許文献4および5には、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトの3相組織であり、体積分率が3〜15%の島状マルテンサイトと体積分率が2%以上の残留オーステナイトを含む組織である鋼板あるいは鋼管とその製造方法が開示されている。
また、特許文献6には、母材の粒径20μm以下のフェライトを面積分率で5〜50%含有する金属組織を母材とした、変形能に優れた鋼管とその製造方法が開示されている。
特開昭55−97425号公報 特開平08―209291号公報 特開2006―265577号公報 特開2008―248328号公報 特開2008―248330号公報 特開2003―293078号公報
上述したように、現在、引張強度550MPa以上の高強度ラインパイプの実用化が進展している。しかしながら、引張強度が550MPa以上の高強度鋼において一様伸びを向上させる製造方法については不明な点が多く、特許文献1〜3にも十分な記載がない。
特許文献4および5の明細書の実施例には、引張強度の最大値がそれぞれ611MPa、621MPaの「本発明鋼」の例が記載されているが、さらに高強度でも高い一様伸びを確保したいとの要求には応えられていない。
特に、一様伸びは鋼の引張強度上昇に伴い低下するため、例えば1000MPaを超える高強度化を行った場合、7%以上の一様伸びを確保することは非常に困難とされている。
特許文献6の技術は、API5L X100級以上の強度を対象として、変形能の向上を図った技術であるが、さらに高い一様伸びが要求される至近の用途には対応できておらず、また、80%以下という低降伏比を安定して確保することができていないため、変形能の観点からは十分ではなかった。
そこで、本発明は、製管後、地震等の地盤変動に伴う曲げ変形を受けた際の座屈防止に必要なYRと、パイプ座屈後の延性破壊を防止するために必要な一様伸びを有する、高一様伸び特性を備えた、引張強度が550MPa以上の高強度低降伏比鋼およびその製造方法を提供することを目的とする。また、この鋼を母材とした低降伏比高強度溶接鋼管を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題を解決するため、ミクロ組織を軟質相と硬質相との2相組織として引張特性を低YR化(低降伏比化)したとき、硬質相分率が低くても高強度化に有効とされる島状マルテンサイト(Martensite−Austenite constituents、以降MAと略す)組織に着目して鋭意検討し、MAの形態および母相(第1相)中における分散状態が一様伸びに大きく影響することを見出した。
本発明は得られた知見をもとにさらに検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は
1.鋼組成が質量%で、
C:0.03%超、0.14%以下、
Si:0.01〜0.5%、
Mn:1.0〜4.0%、
Al:0.003〜0.08%、
Nb:0.01〜0.08%、
Ti:0.005〜0.025%
を含有し、さらに
Cu:0.1〜2.0%、
Ni:0.1〜3.0%、
Mo:0.1〜1.0%、
Cr:0.1〜1.0%、
V:0.003〜0.10%、
B:0.0005〜0.0030%
の1種または2種以上を含有し
残部Feおよび不可避的不純物からなり、ミクロ組織が、フェライト主体あるいはベイナイト主体の母相と、前記母相中に分散して存在する第2相とを有し、該第2相は平均アスペクト比が2.0以下の島状マルテンサイトであり、前記第2相の島状マルテンサイトの面積率が5〜20%であり、さらに、前記島状マルテンサイトの90%以上は、母相がフェライト主体である場合にはフェライト粒界に、あるいは、母相がベイナイト主体である場合には旧オーステナイト粒界に存在していることを特徴とする、高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼。
2.鋼組成が、
さらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.01%、
REM:0.0005〜0.02%、
Zr:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする1記載の高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼。
3.鋼組成が、
質量%で、
C:0.03%超、0.14%以下、
Si:0.01〜0.5%、
Mn:1.0〜4.0%、
Al:0.003〜0.08%、
Nb:0.01〜0.08%、
Ti:0.005〜0.025%
を含有し、さらに
Cu:0.1〜2.0%、
Ni:0.1〜3.0%、
Mo:0.1〜1.0%、
Cr:0.1〜1.0%、
V:0.003〜0.10%、
B:0.0005〜0.0030%
の1種または2種以上を含有し
残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼片を、
Ac以上の温度に加熱し、仕上げ圧延温度Ar以上の熱間圧延を行った後、冷却停止温度500℃未満の空冷あるいは加速冷却を行い、その後、ただちにAc以上Ac以下の温度に再加熱することを特徴とする、高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼の製造方法。
4.鋼組成が、
さらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.01%、
REM:0.0005〜0.02%、
Zr:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする3記載の高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼の製造方法。
5.ミクロ組織が、フェライト主体あるいはベイナイト主体の母相と、前記母相中に分散して存在する第2相とを有し、該第2相は平均アスペクト比が2.0以下の島状マルテンサイトであり、前記第2相の島状マルテンサイトの面積率が5〜20%であり、さらに、前記島状マルテンサイトの90%以上は、母相がフェライト主体である場合にはフェライト粒界に、あるいは、母相がベイナイト主体である場合には旧オーステナイト粒界に存在していることを特徴とする、3または4記載の、高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼の製造方法。
6.1または2記載の鋼が母材部で、溶接金属部の組成が、
質量%で、
C:0.06〜0.10%、
Si:0.2〜0.5%、
Mn:1.6〜2.0%、
Al:0.03%以下、
B:0.001〜0.003%、
Nb:0.005〜0.020%、
Ti:0.015〜0.040%、
O:0.015〜0.04%、
N:0.01%以下、
を含有し、さらに
Cu:0.1〜0.3%、
Ni:0.1〜3.5%、
Mo:0.05〜1.5%、
Cr:0.1〜0.4%、
V:0.025〜0.1%、
の1種または2種以上を含有し、
残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度低降伏比溶接鋼管。
本発明によれば、製管後、地震等の地盤変動によりパイプの座屈やその後の延性破壊が生じにくい、降伏比が80%以下かつ引張強度と一様伸びの積が7500MPa・%以上となる高一様伸び特性を備えた引張強度550MPa以上の高強度低降伏比鋼およびその製造方法、さらに低降伏比高強度溶接鋼管を提供することが可能で、産業上極めて有用である。
本発明では、成分組成とミクロ組織を規定する。
[成分組成]以下の説明において%は質量%とする。
C:0.03%超、0.14%以下
Cは十分なMA面積率を確保するために0.03%を超える添加が必要である。一方、0.14%を超えて添加すると、セメンタイト、あるいは合金炭化物が生成しやすくなり、一様伸びに悪影響を及ぼすため上限を0.14%とする。
Si:0.01〜0.5%
Siは脱酸元素であり0.01%以上の添加でその効果が得られる。一方、0.5%以上の添加をしてもその効果が飽和するため、上限を0.5%とする。
Mn:1.0〜4.0%
Mnは焼入性向上元素として作用する。さらに、多量に添加することで、フェライト相に固溶できるC量を低減する効果があり、未変態オーステナイト領域へのC濃化を大きくするので、MAの生成量を増加させる。
後述するようにミクロ組織において、MAの面積率を5%以上とするためには、少なくとも1.0%以上の添加が必要である。一方、4.0%を超える添加を行うと、ミクロ組織がマルテンサイト主体となりやすく、低YRが得られ難くなるため、上限を4.0%とする。
Al:0.003〜0.08%
Alは脱酸元素として作用する。Siと同時添加で十分な脱酸効果を得るためには0.003%以上の添加で十分な脱酸効果が得られる。一方、0.08%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し、一様伸び低下の原因となるため、上限を0.08%とする。
Nb:0.01〜0.08%
Nbは熱間圧延中のオーステナイト未再結晶域を拡大し、鋼の焼入れ性向上元素としても作用する。また、Mnと同様に未変態オーステナイト領域へのC濃化を大きくするので、MAの生成量を増加させる。後述するようにミクロ組織において、MAの面積率を5%以上とするためには、少なくとも0.01%以上の添加が必要である。一方、0.08%を超えて添加するとNbCが析出しやすくなり、析出硬化でYRが上昇しやすくなることから、上限を0.08%とする。
Ti:0.005〜0.025%
Tiは窒化物を形成し、靭性に悪影響を与える、鋼中の固溶N量の低減に有効であるほか、析出したTiNがピンニング効果でオーステナイト粒の粗大化を抑制して、ミクロ組織の粗大化を抑制する。そのような効果を得るため、0.005%以上添加する。
一方、0.025%を超えて添加するとTiCを形成するようになり、その析出硬化でYRが上昇しやすくなることから、上限を0.025%とする。
さらに、本発明では、母材の強度として引張強度550MPa以上を確保し、溶接熱影響部の強度上昇を目的として、Cu、Ni、Mo、Cr、V、Bの1種または2種以上を含有させることができる。
Cu:0.1〜2.0%
Cuは0.1%以上含有することによって焼入性向上元素として作用し、多量のMn添加の代替とすることができる。しかし、2.0%を超えて含有すると、Cuが析出し、その析出硬化でYRが上昇しやすくなることから、含有する場合には上限を2.0%とすることが好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
Ni:0.1〜3.0%
Niは、焼入性向上元素として作用し、添加しても靱性劣化を起こさないため、本発明において有用な元素である。この効果を得るために、0.1%以上含有することが必要であるが、3.0%を超えて含有しても焼入性向上効果が飽和するため、含有する場合には上限を3.0%とすることが好ましく、0.7%以下であることがさらに好ましい。
Mo:0.1〜1.0%
Moは母材あるいは溶接熱影響部の強度を向上させるため含有させることができる。0.1%以上含有することによって焼入性向上元素として作用し、多量のMn添加の代替とすることができる。しかし、高価な元素であり、かつ1.0%を超えて含有しても強度上昇は飽和するため、含有する場合は、上限を1.0%とすることが好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
Cr:0.1〜1.0%
Crは母材あるいは溶接熱影響部の強度を向上させるため含有させることができる。0.1%以上含有することによって焼入性向上元素として作用し、多量のMn添加の代替とすることができる。しかし、1.0%を超えて含有するとHAZ靱性が著しく劣化するため、含有する場合は、上限を1.0%とすることが好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
V:0.003〜0.10%
Vは母材あるいは溶接熱影響部の強度を向上させるため添加することができる。0.003%以上含有することによって、鋼中で炭化物を形成して析出強化により鋼の強度を高めることができる。一方、0.10%を超えて含有すると析出強化が著しく、YRが上昇しやすくなることから、含有する場合には上限を0.10%とすることが好ましく、0.06%以下であることがさらに好ましい。
B:0.0005〜0.0030%
Bは母材あるいは溶接熱影響部の強度を向上させるため含有させることができる。Bはオーステナイト粒界に偏析してフェライト変態を抑制して、母相(第1相と言うこともある。)組織をベイナイト主体として、引張強度700MPa以上の高強度化を可能とする。フェライト変態抑制効果を得るためには、0.0005%以上含有することが必要であるが、0.0030%を超えて含有しても効果が飽和するため、含有する場合には上限を0.0030%とすることが好ましい。
以上が本発明鋼の基本成分組成であるが、一様伸び特性をさらに向上させる場合、Ca、REM、Zr、Mgの一種または二種以上を含有させることができる。Ca、REM、Zr、Mgは鋼中の非金属介在物であるMnSの形態制御、あるいは酸化物あるいは窒化物を形成し、清浄度を向上させて一様伸びを向上させる。
Ca:0.0005〜0.01%
Caは鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、0.0005%以上含有することで延性に有害なMnSの生成を抑制する。一方、0.01%を超えて含有すると、CaO−CaSのクラスターを形成し、かえって延性を劣化させるので、含有する場合は、上限を0.01%とすることが好ましい。
REM:0.0005〜0.02%
REMは鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、0.0005%以上含有することで延性に有害なMnSの生成を抑制する。一方、高価な元素であり、かつ0.02%を超えて含有しても効果が飽和するため、含有する場合は、上限を0.02%とすることが好ましい。
Zr:0.0005〜0.01%
Zrは鋼中で炭窒化物を形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには、0.0005%以上含有することが必要であるが、0.01%を超えて含有すると、鋼中の清浄度が著しく低下し、かえって延性の低下につながるため、含有する場合は、上限を0.01%とすることが好ましい。
Mg:0.0005〜0.01%
Mgは製鋼過程で酸化物を微細化する効果があり、延性低下の原因となる粗大酸化物の抑制に有効である。十分な、酸化物の微細化効果を得るためには0.0005%以上含有することが必要であるが、0.01%を超えて含有しても効果が飽和することから、含有する場合には、上限を0.01%とすることが好ましい。
本発明の鋼材において、上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記以外の成分を含有することができる。なお、本発明においてPおよびSは不可避的不純物で、過度のP含有は鋳造時に中心偏析して鋼の延性を低下させるため、また、過度のS含有は延性に有害なMnSの生成を助長するため、いずれも、経済性を考慮して可能な範囲で低減することが好ましく、P量は0.01%以下、S量は0.003%以下であることが好ましい。
[ミクロ組織]
本発明では、ミクロ組織を、フェライト主体あるいはベイナイト主体の母相と、前記母相中に分散して存在する第2相とを有し、該第2相は平均アスペクト比が2.0以下の島状マルテンサイトであり、前記第2相の島状マルテンサイトの面積率が5〜20%であり、さらに、前記島状マルテンサイトの90%以上は、母相がフェライト主体である場合にはフェライト粒界に、あるいは、母相がベイナイト主体である場合には旧オーステナイト粒界に存在している組織に規定する。
ミクロ組織において母相は所望する強度に応じて、引張強度が550MPa〜700MPaまではフェライト主体、引張強度700MPa超えとする場合はベイナイト主体とすることが望ましい。
低降伏比を得るためにMAを第2相として、面積率で5〜20%分散させる。面積率5%未満では、YRが80%以下の低YRとならず、一方、面積率が20%を超えた場合、後述するMAの平均アスペクト比が規定を満足していても、一様伸び低下が著しくなることから上限を20%とする。
MAの面積率は倍率1000〜3000倍程度で鋼の断面SEM写真を4視野以上撮影し、それぞれの視野中で観察されるMA粒子の個々の面積を画像解析によって測定して、積算した後、測定視野面積で除することによって算出する。
MAの平均アスペクト比は2.0以下とする。母相がベイナイト主体組織の場合は、MAが細長い形状となるほど母相との界面から微視的なクラックが生じて、一様伸びが低下する。また、母相がフェライト主体組織の場合であっても、MA内にクラックが発生しやすくなるため、平均アスペクト比を2.0以下とする。
MAの平均アスペクト比は、1000〜3000倍程度の倍率で鋼の断面SEM写真を4視野以上撮影し、撮影した全視野について、個々のMA粒子のアスペクト比の平均値を求めて平均アスペクト比とする。アスペクト比は長径および短径を画像解析により計測して求める。
面積率5〜20%のMAのうち、母相がベイナイト主体組織の場合は、旧オーステナイト粒界に、母相がフェライト主体組織の場合は、フェライト粒界に存在するものを90%以上とする。
MAが旧オーステナイト粒内あるいはフェライト粒内に存在する場合、低YRは得られるものの、強度が上昇したときの一様伸びの低下が著しいため、MAが旧オーステナイト粒界あるいはフェライト粒界など母相の結晶粒界面に存在することが必要で、旧オーステナイト粒界あるいはフェライト粒界上に存在するMAを、全MAの90%以上とする。本発明では母相がベイナイト主体組織の場合は、旧オーステナイト粒界に、母相がフェライト主体組織の場合はフェライト粒界に存在するMAを全MAの90%以上とする。
旧オーステナイト粒界あるいはフェライト粒界上に存在するMAの分率は、上述の面積率測定で計測した全てのMA粒子についてSEM写真で粒界との位置関係を確認し、粒界上に存在している粒子数を、全てのMA粒子数で除して算出する。
なお、フェライト粒界は例えばナイタール腐食によって、また、旧オーステナイト粒界は例えばピクリン酸腐食によって、それぞれ現出することができるので、観察されたMAがこれらの粒界上にあるかないかを確認することが可能である。
本発明においては、母相の主体であるフェライトあるいはベイナイト、および第2相である島状マルテンサイト(MA)以外のミクロ組織の面積率は小さいほどよい。しかし、フェライトまたはベイナイト、および島状マルテンサイト(MAとも言う)以外のミクロ組織の面積率が小さい場合には、その影響が小さいため、トータルの面積率で5%以下の他の金属組織、すなわち、パーライトやセメンタイトなどを1種または2種以上を含有してもよい。なお、フェライトまたはベイナイト、および島状マルテンサイト(MA)以外のミクロ組織として、残留オーステナイトが存在する場合、加工誘起変態に伴う伸び向上効果が期待できるものの、一旦塑性加工した後は硬質なマルテンサイト化して、むしろ延性低下の原因になることから、その面積率は2%未満であることが好ましく、1%未満であることがさらに好ましい。
以下、上記成分組成と上記ミクロ組織を備えた鋼の、好適な製造方法について述べる。
本発明において規定される鋼の温度条件は、鋼片あるいは鋼板板厚方向平均温度を指すものとする。
鋼片加熱温度:Ac以上
熱間圧延の素材であるスラブやインゴットなどの鋼片をオーステナイト化するため、Ac以上、好ましくは1000℃以上に加熱する。鋼片加熱温度がAc未満の場合、未変態フェライト等が残存し、熱間圧延・冷却・再加熱後に所定のミクロ組織が得られない。鋼片加熱温度の上限は、母材靱性の観点からは1200℃以下とすることが好ましい。Ac温度は式(1)で求めることができる。なお、溶鋼から鋼片製造までは常法による。
Ac=961.6−311.9C+49.5Si−36.4Mn+12.7Al−51Cu−29Ni−8.7Cr+13.5Mo+308.1Nb−140V+318.9Ti+611.2B・・・(1)ただし、各元素記号は含有量(質量%)とする。
熱間圧延
鋼片加熱後、所定の板厚・板幅に成形するため、仕上げ圧延温度:Ar以上の熱間圧延を行う。仕上げ圧延温度がAr未満まで低下した場合、圧延中に変態生成したフェライトが加工を受けた、加工フェライトが形成される。
加工フェライト量の増加に伴い、降伏強度が上昇して、YRが高くなるため、仕上げ圧延温度をAr以上、好ましくは、800℃以上とする。Ar温度は式(2)で求めることができる。
Ar=910−273C−74Mn−56Ni−16Cr−9Mo−5Cu・・・(2)
ただし、各元素記号は含有量(質量%)とする。
熱間圧延後の冷却条件
熱間圧延後、空冷または加速冷却を実施する。引張強度を700MPa以下とする場合は、ミクロ組織における母相をフェライトとするために空冷を実施する。一方、700MPaを超える引張強度とする場合は、ミクロ組織における母相をベイナイトとするため、加速冷却を実施する。
加速冷却は、フェライトの生成を抑制するため、冷却開始温度をAr以上とすることが好ましい。また、冷却速度は、加速冷却の途中でフェライトが生成することを避けるため、10℃/s以上とすることが好ましい。加速冷却の冷却停止温度はベイナイト変態を完了させるため500℃未満とする。冷却停止温度が500℃以上でベイナイト変態が完了していない場合、ベイナイト中に残る未変態γがその後の再加熱処理を経てMAとなるが、アスペクト比が大きい細長いMAとなりやすく、かつ旧オーステナイト粒内に存在するため、一様伸びが低下する。
冷却後の再加熱処理
空冷または加速冷却後、ただちに、開始温度を500℃未満、最高加熱温度をAc〜Acとする再加熱処理を行う。再加熱処理の開始温度はミクロ組織の母相(第1相)を空冷の場合はフェライト主体組織、加速冷却の場合はベイナイト主体組織とするため、500℃を超えないこととする。ここで、空冷または加速冷却後、ただちに、再加熱処理を実施するとは、空冷あるいは加速冷却により鋼板温度が500℃を下回ってから2分以内に後述の再加熱処理を実施することを指すものとする。
再加熱開始温度が500℃を超えるとミクロ組織の母相として十分なフェライトあるいはベイナイト組織が得られず、未変態のオーステナイト相が残ったまま加熱されて、形成する粗大な硬質相により一様伸びが低下する。
なお、500℃未満におけるなるべく高い温度域から再加熱を開始することにより、加熱コスト低減が可能となるので、空冷後または加速冷却後、オンラインで再加熱する設備を用いて、300℃以上の温度から再加熱を開始することが望ましい。
最高加熱温度は、ミクロ組織の母相(空冷の場合はフェライト主体組織、加速冷却の場合はベイナイト主体組織)中にMAを分散析出させるため、Ac〜Ac(Ac以上Ac以下)とする。
Ac〜Acの温度域に加熱することにより、母相の一部をオーステナイトに逆変態させる。逆変態オーステナイトはフェライト粒界3重点、あるいはベイナイトの旧γ粒界3重点よりまず生成し、かつ、拡散的に変態することから、後の冷却過程でさらに変態生成するMAはこれら粒界3重点に生成することとなり、MAがフェライト粒内あるいはベイナイト粒内に生成することが抑制される。また、逆変態オーステナイトからはアスペクト比が小さい、一様伸び劣化が少ない形状のMAを生成させることができる。
再加熱温度がAc未満の場合、オーステナイトに逆変態しないため硬質第2相としてのMAを生成させることができない。一方、再加熱温度がAcを超えると、全面的にオーステナイトに逆変態してしまい、硬質相を所定の面積率で分散させた状態を得ることが極めて困難となる。このため、再加熱温度をAc〜Acの温度域とする。
再加熱温度を780℃以上820℃以下とすると、上述した範囲のMA面積率を達成するために好ましい。再加熱時の逆変態オーステナイトをミクロ組織の母相(空冷の場合はフェライト主体組織、加速冷却の場合はベイナイト主体組織)の粒内から生成することを抑制するために、再加熱時の昇温速度を2℃/s以上とすることが好ましい。なお、Ac温度は式(3)で求めることができる。
Ac=751−26.6C+17.6Si−11.6Mn−169Al−23Cu−23Ni+24.1Cr+22.5Mo+233Nb−39.7V−5.7Ti−895B・・・(3) ただし、各元素記号は含有量(質量%)とする。
再加熱時に、最高到達温度にて必ずしも保持する必要はないが、この温度域において過剰に保持した場合には、逆変態していない母相の焼き戻し効果が著しく、降伏強度が過度に低下する可能性がある。
再加熱後の冷却条件は本発明では特に規定せず、空冷でも水冷でもかまわない。なお、再加熱後に10℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで水冷すると、硬質相であるMAの硬さが高くなるので、より安定的に低降伏比を達成することが可能となる。
本発明によれば、高強度ラインパイプ用鋼板として要求される550MPa以上の引張強度と、製管後に地震等の地盤変動に伴う曲げ変形を受けた際の座屈限界を著しく改善するために必要な、80%以下の降伏比を確保した鋼を得ることができる。さらに、本発明に係る鋼は、パイプが限界を超えた変形を受けて座屈した場合においても、座屈部の延性破壊を防止するために必要な延性として、7%以上の一様伸びを有する。一般に、高強度化と高一様伸び化とは相反する特性であるところ、本発明においては、引張強度と一様伸びとの積が7500MPa・%以上と大きな強度と一様伸びとが高位に両立した鋼を得ることができるので、高強度ラインパイプ用として好適である。
次に、本発明に係る鋼を用いた溶接鋼管について説明する。溶接鋼管は一般的な製造方法を適用して製造可能である。冷間加工法によって筒状に成形するが、成形方法はUOE法、ロールベンド法等のいずれでもかまわない。筒状に成形し、端部を溶接した後、拡管あるいは縮径工程を経て所定の外径に調整する。
端部の溶接(シーム溶接と言う場合がある)はサブマージアーク溶接、ガスメタルアーク溶接、レーザー溶接およびレーザー・アークハイブリッド溶接のいずれであってもよく、限定されるものではない。
溶接材料、溶接条件は、オーバーマッチングの溶接部(溶接金属の降伏強度および引張強度が、それぞれ、母材部の降伏強度および引張強度の1.1倍以上)となるように選定し、以下に説明する溶接金属部が得られることが望ましい。
[溶接金属成分組成]
以下の説明において%は質量%とする。
C:0.06〜0.10%
溶接金属においてCは溶接金属高温割れを防止するために0.06%以上必要である。一方、0.10%を超えると、溶接金属のミクロ組織がマルテンサイト主体となり靱性が著しく低下するため、上限を0.10%とする。
Si:0.2〜0.5%
Siは溶接金属中では脱酸元素として働き、溶接金属中の酸素量を制御するために必要な元素である。溶接金属中のSiが0.2%未満の場合、脱酸が不十分となり溶接金属中の酸素量が増加し靱性の低下をもたらすため0.2%以上必要である。一方、0.5%を超えると溶接金属靱性にとっては有害なMAの生成が著しくなるため、上限を0.5%とする。
Mn:1.6〜2.0%
Mnは溶接金属においても焼入性向上元素として作用する。溶接金属の引張強度を母材部と同等かそれ以上(700MPa以上)とするためにはアシキュラフェライトとベイナイトの混合組織にする必要があり、1.6%以上のMnが必要である。一方、2.0%を超えると溶接金属のミクロ組織がマルテンサイト主体となり、靱性が著しく低下するため、上限を2.0%とする。
Al:0.03%以下
Alは母材部からの希釈で不可避的不純物として溶接金属中に存在するが、0.03%を超えると後述するTiOの生成を阻害し、溶接金属のアシキュラフェライトの微細化が抑制され優れた低温靱性を得ることができないため、上限を0.03%とする。
B:0.001〜0.003%
Bは溶接金属のオーステナイト粒界からのポリゴナルフェライト生成を抑制し、アシキュラフェライト主体組織とする効果がある。粒界からのポリゴナルフェライト生成を完全に抑制するためには少なくとも0.001%以上必要であるが、0.003%を超えても効果が飽和するため、上限を0.003%とする。
Nb:0.005〜0.020%
Nbは溶接金属中の固溶NをBより先に窒化物形成することにより、オーステナイト粒界に固溶Bとして存在させるため、少なくとも0.005%以上必要である。一方、0.020%を超えると炭化物を形成し、溶接金属を析出硬化させ靱性の低下をもたらすため、上限を0.020%とする。
Ti:0.015〜0.040%
Tiは溶接金属中の酸素と反応してTiOを形成し、溶接金属オーステナイト粒内からのアシキュラフェライト変態核として機能する。微細なアシキュラフェライト組織とするためには多数のTiOの生成が必要であり、Tiは少なくとも0.015%以上必要である。一方、0.040%を超えると溶接金属中のTiOが凝集・粗大化してシャルピー衝撃値の低下をもたらすため、上限を0.040%とする。
O:0.015〜0.04%
Oは上述のTiと反応してTiOを形成し、溶接金属オーステナイト粒内からのアシキュラフェライト変態核として機能する。微細なアシキュラフェライト組織とするためには多数のTiOの生成が必要であり、Oは0.015%以上必要である。一方、0.04%を超えると溶接金属中のTiOが凝集・粗大化してシャルピー衝撃値の低下をもたらすため、上限を0.04%とする。
N:0.01%以下
溶接金属中のNは不可避的不純物として存在するが、0.01%を超えて含む場合、固溶して溶接金属靱性を著しく劣化させるため、上限を0.01%とする。
溶接金属の強度を上昇させる場合、更に、Cu、Ni、Mo、Cr、Vの1種または2種以上を含有させることができる。
Cu:0.1〜0.3%
Cuは0.1%以上含有することによって焼入性向上元素として作用し、Mn添加の代替とすることができる。しかし、0.3%を超えるとCu液化割れが著しく溶接欠陥の原因となるため、含有させる場合には上限を0.3%とすることが好ましい。
Ni:0.1〜3.5%
Niは、焼入性向上元素として作用し、添加しても靱性劣化を起こさないため、溶接金属においても有用な元素である。この効果を得るために、0.1%以上含有することが好ましいが、3.5%を超えると溶接金属の高温割れ感受性が高まり溶接欠陥の原因となるため、含有させる場合には上限を3.5%とすることが好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
Mo:0.05〜1.5%
Moは0.05%以上含有することによって焼入性向上元素として作用し、Mn添加の代替とすることができる。しかし、1.5%を超えて添加すると溶接金属ミクロ組織がマルテンサイト主体となり、著しく靱性が低下するため、含有させる場合には上限を1.5%とすることが好ましく、0.6%以下であることがさらに好ましい。
Cr:0.1〜0.4%
Crもまた0.1%以上含有することによって焼入性向上元素として作用し、Mn添加の代替とすることができる。しかし、高価な元素であり、かつ0.4%を超えて添加しても強度上昇の効果が飽和するため、含有させる場合には上限を0.4%とすることが好ましい。
V:0.025〜0.1%
Vもまた0.025%以上含有することによって焼入性向上元素として作用し、Mn添加の代替とすることができる。しかし、0.1%を超えて添加すると析出硬化を生じ溶接金属の靱性が低下するため、含有させる場合には上限を0.1%とする。
上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物とすることが好ましい。
なお、上記溶接金属中の成分組成を上記範囲に制御するには、鋼材(母材)の成分組成および溶接条件に応じて、溶接に用いる溶接材料(溶接ワイヤ)を適宜選択するのが好ましい。例えば、各元素について、溶接金属中の成分元素の目標組成を母材希釈率で割り戻して求めた組成を有する溶接ワイヤを作製し、これを用いて溶接する方法である。
表1に示す成分組成の鋼片(鋼種A〜I)から、表2に示す種々の製造条件で、板厚12〜30mmの鋼板を作製し、ミクロ組織観察、引張試験を行った。なお、表1に表示していないが、不可避的不純物であるPおよびSの含有量は、いずれも、P量:0.01%以下、S量:0.003%以下、であった。
得られた鋼板の板幅中央部よりミクロ組織観察用サンプルを採取し、圧延長手方向と平行な板厚断面を鏡面研磨したあと、2段エッチング法を用いてMAを現出させた。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い2000倍の倍率で無作為に選んだ5視野のミクロ組織写真を撮影し、写真中のMAの面積率、平均アスペクト比、および旧オーステナイト粒界あるいはフェライト粒界に属するMAの割合を画像解析によって計測・算出した。
次に、それぞれの鋼板よりJIS Z2201に従って14A号引張試験片を採取し、引張試験を行った。引張試験はJIS Z2241に従い、降伏強度、引張強度、一様伸びを計測した。
鋼板母材のミクロ組織の画像解析結果および引張特性調査結果をまとめて表3に示す。なお、引張強度が550MPa以上を、一様伸び特性は7%以上を、降伏比は80%以下を、また、引張強度と一様伸びとの積が7500MPa・%以上を、それぞれ、本発明の引張特性の目標範囲とする。
表3の中で、鋼板No.1〜7は鋼板化学組成およびミクロ組織も本発明範囲内となる発明例で、いずれも550MPaを超える鋼板母材引張強度、80%以下の低降伏比、および引張強度と一様伸びとの積が7500MPa・%を超える値を示した。
比較例No.8は、鋼のC量が本発明範囲外でMAの面積率が本発明範囲を下回り、目標とする低YRが得られなかった。比較例No.9は、鋼のC量が本発明範囲を上回り、セメンタイトが多量に生成したため、一様伸びが低く、引張強度と一様伸びとの積が目標とする7500MPa・%を下回った。
比較例No.10は、鋼のMn量が本発明範囲を上回り、母相がマルテンサイト主体となったため、第2相のMAとの強度差が小さく、目標とする低降伏比が得られなかった。
比較例No.11は、鋼のNb量が本発明範囲を上回ったため、NbCの析出が著しく、降伏強度が高く、目標とする低降伏比が得られなかった。
比較例No.12は、化学組成は発明範囲内であるが、鋼片加熱温度が本発明範囲よりも低く、MAのアスペクト比が本発明範囲よりも高かったため、引張強度と一様伸びとの積が目標とする7500MPa・%を下回った。
比較例No.13は、化学組成は発明範囲内であるが、圧延仕上温度が本発明範囲を下回り、加工フェライトが生成し、かつMAのアスペクト比が本発明範囲外で高くなり、目標とする低YRが得られず、引張強度と一様伸びとの積も目標とする7500を下回った。
比較例No.14は、化学組成は発明範囲内であるが、加速冷却停止温度およびそれに続く再加熱の開始温度がいずれも本発明範囲よりも高かったため、再加熱開始温度がMAの面積率は本発明範囲内であったにも関わらず、粒界上に存在するMAの割合が本発明範囲の下限を下回り、引張強度と一様伸びとの積が目標とする7500MPa・%を下回った。
比較例No.15および16は、化学組成は発明範囲内であるが、再加熱温度がそれぞれ本発明範囲より低かったり高かったりしたため、MAの面積率が本発明範囲よりも低く、目標とする低降伏比が得られなかった。
Figure 0005834534
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板厚18〜25mmの鋼板を表4に示す成分組成の鋼片(鋼種J〜M)から、表5に示す種々の製造条件で作製し、圧延長手方向が鋼管長手方向となるようUプレス、Oプレスを経て筒状に成形した後、内外面各1層サブマージアーク溶接を実施し、最後に拡管率が1.1%の拡管を行い外径914.4mmの溶接鋼管を作製した。なお、表4に表示していないが、不可避的不純物であるPおよびSの含有量は、いずれも、P量:0.01%以下、S量:0.003%以下であった。
得られた鋼管の、溶接部から180°位置の鋼管板厚中央部よりミクロ組織観察用サンプルを採取し、鋼管長手方向と平行な管厚断面を鏡面研磨したあと、2段エッチング法を用いてMAを現出させた。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い2000倍の倍率で無作為に選んだ5視野のミクロ組織写真を撮影し、写真中のMAの面積率、平均アスペクト比、および旧オーステナイト粒界あるいはフェライト粒界に属するMAの割合を画像解析によって計測・算出した。
各鋼管の溶接部から180°位置よりAPI5Lに従って鋼管長手方向に全厚引張試験片を採取し、引張試験を行った。引張試験はAPI5Lに従い、降伏強度、引張強度、一様伸びを計測した。
各鋼管の溶接部から溶接金属の化学成分分析試料を採取し、溶接金属の化学成分を分析した。表6に測定結果を示す。また、溶接部から鋼管長手方向にJIS Z2201に従って14A号引張試験片を採取し、溶接金属の引張試験を行った。引張試験はJIS Z2241に従い、降伏強度、引張強度を計測した。
鋼管の母材部ミクロ組織解析結果および引張試験結果、ならびに溶接金属の引張試験結果を表7にまとめて示す。鋼管母材部引張強度が550MPa以上、一様伸び特性は7%以上、降伏比は80%以下、また、引張強度と一様伸びとの積が7500MPa・%以上を、それぞれ、本発明の引張特性の目標範囲とした。
また、溶接金属部については降伏強度、引張強度とも母材部の実降伏強度、引張強度のそれぞれ1.10倍以上のオーバーマッチングとなっていることを目標とした。
表7の中で、鋼管No.1〜4は鋼管母材化学組成およびミクロ組織、および溶接金属化学組成が本発明範囲内となる発明例で、いずれも550MPaを超える鋼管母材引張強度、80%以下の低降伏比、および引張強度と一様伸びとの積が7500MPa・%を超える値を示し、かつ、溶接金属の降伏強度および引張強度いずれも母材部に較べて1.10倍以上のオーバーマッチングを達成した。
一方、比較例5、6、7、8はいずれも鋼管母材化学組成、ミクロ組織は本発明範囲に適合しているが、溶接金属化学組成が本発明範囲外のため、溶接金属の降伏強度あるいは引張強度が母材部に較べ十分に大きな値とはならず、鋼管溶接部におけるオーバーマッチングが達成されなかった。
比較例9は、鋼管母材化学組成、溶接金属化学組成は本発明範囲に適合しているが、鋼板製造時の加速冷却停止温度が高すぎたことから、鋼管母材部のミクロ組織において、粒界上に存在するMAの割合が本発明範囲の下限を下回ったため、引張強度と一様伸びとの積が目標とする7500MPa・%を下回った。
比較例10は、鋼管母材化学組成、溶接金属化学組成は本発明範囲に適合しているが、鋼板製造時の圧延終了温度が低すぎたことから、鋼管母材部のミクロ組織において、MAのアスペクト比が本発明範囲外で高くなり、引張強度と一様伸びとの積が目標とする7500MPa・%を下回った。
比較例11は、鋼管母材化学組成、溶接金属化学組成は本発明範囲に適合しているが、鋼板製造時の加速冷却後の再加熱温度が低すぎたことから、逆変態オーステナイトが生成せず、硬質第2相としてのMAを生成させることができなかったため、鋼管母材部のミクロ組織において、MAの面積率が本発明範囲よりも低く、目標とする低降伏比が得られなかった。
Figure 0005834534
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Claims (5)

  1. 鋼組成が、質量%で、
    C:0.03%超、0.14%以下、
    Si:0.01〜0.5%、
    Mn:1.0〜4.0%、
    Al:0.003〜0.08%、
    Nb:0.01〜0.08%、
    Ti:0.005〜0.025%
    を含有し、さらに
    Cu:0.1〜2.0%、
    Ni:0.1〜3.0%、
    Mo:0.1〜1.0%、
    Cr:0.1〜1.0%、
    V:0.003〜0.10%、
    B:0.0005〜0.0030%
    の1種または2種以上を含有し、
    残部Feおよび不可避的不純物からなり、ミクロ組織が、フェライト主体あるいはベイナイト主体の母相と、前記母相中に分散して存在する第2相とを有し、該第2相は平均アスペクト比が2.0以下の島状マルテンサイトであり、前記第2相の島状マルテンサイトの面積率が5〜20%であり、さらに、前記島状マルテンサイトの90%以上は、母相がフェライト主体である場合にはフェライト粒界に、あるいは、母相がベイナイト主体である場合には旧オーステナイト粒界に存在していることを特徴とする、高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼。
  2. 鋼組成が、
    さらに、質量%で、
    Ca:0.0005〜0.01%、
    REM:0.0005〜0.02%、
    Zr:0.0005〜0.01%、
    Mg:0.0005〜0.01%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼。
  3. 鋼組成が、
    質量%で、
    C:0.03%超、0.14%以下、
    Si:0.01〜0.5%、
    Mn:1.0〜4.0%、
    Al:0.003〜0.08%、
    Nb:0.01〜0.08%、
    Ti:0.005〜0.025%
    を含有し、さらに
    Cu:0.1〜2.0%、
    Ni:0.1〜3.0%、
    Mo:0.1〜1.0%、
    Cr:0.1〜1.0%、
    V:0.003〜0.10%、
    B:0.0005〜0.0030%
    の1種または2種以上を含有し、
    残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼片を、
    Ac以上の温度に加熱し、仕上げ圧延温度Ar以上の熱間圧延を行った後、冷却停止温度500℃未満の空冷あるいは加速冷却を行い、その後、鋼板温度が500℃を下回ってから2分以内にAc以上Ac以下の温度に再加熱することを特徴とする、ミクロ組織が、フェライト主体あるいはベイナイト主体の母相と、前記母相中に分散して存在する第2相とを有し、該第2相は平均アスペクト比が2.0以下の島状マルテンサイトであり、前記第2相の島状マルテンサイトの面積率が5〜20%であり、さらに、前記島状マルテンサイトの90%以上は、母相がフェライト主体である場合にはフェライト粒界に、あるいは、母相がベイナイト主体である場合には旧オーステナイト粒界に存在している、高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼の製造方法。
  4. 鋼組成が、
    さらに、質量%で、
    Ca:0.0005〜0.01%、
    REM:0.0005〜0.02%、
    Zr:0.0005〜0.01%、
    Mg:0.0005〜0.01%、
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3記載の高一様伸び特性を備えた高強度低降伏比鋼の製造方法。
  5. 請求項1または2記載の鋼が母材部で、溶接金属部の組成が
    質量%で、
    C:0.06〜0.10%、
    Si:0.2〜0.5%、
    Mn:1.6〜2.0%、
    Al:0.03%以下、
    B:0.001〜0.003%、
    Nb:0.005〜0.020%、
    Ti:0.015〜0.040%、
    O:0.015〜0.04%、
    N:0.01%以下、
    を含有し、さらに
    Cu:0.1〜0.3%、
    Ni:0.1〜3.5%、
    Mo:0.05〜1.5%、
    Cr:0.1〜0.4%、
    V:0.025〜0.1%、
    の1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度低降伏比溶接鋼管。
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