JP7207358B2 - 低降伏比高張力厚鋼板の製造方法 - Google Patents
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(1)熱間圧延後の厚鋼板に対して、二段階の冷却工程を施すに際し、冷却開始時の鋼板表面温度や鋼板の先端と尾端の温度差を制御することにより、鋼板の先端と尾端での組織差が生じるのを抑制し、その結果、鋼板長手方向における材質バラつきを抑制することができる。
(2)第一段冷却を行った後、ただちに第二段冷却を行うことで、熱処理や冷却工程時の複雑な温度あるいは時間制御を行うことがないため、厚鋼板の製造における複雑な制御を必要としない。また、多量な合金元素の含有を行うことなく製造することが可能である。
[1]質量%で、C:0.05~0.16%、Si:0.05~0.50%、Mn:1.0~2.0%、P:0.030%以下、S:0.005%以下、Nb:0.005~0.040%、Ti:0.005~0.020%、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Al:0.05%以下、N:0.0060%以下を含有し、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが、0.36~0.42%であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を、
1050~1250℃に加熱し、圧延終了温度が鋼板表面温度で920℃以下Ar3変態点以上となるように熱間圧延した後に、
鋼板尾端の鋼板表面温度が(Ar3変態点-10℃)以上で、かつ鋼板先尾端の鋼板表面温度差が50℃以下の時点から冷却を開始し、鋼板表面温度が420℃以上となる第一冷却停止温度まで、10.0℃/s以下の平均冷却速度で加速冷却する第一段冷却を施し、
次いで、第一段冷却停止温度から20.0℃/s以上の平均冷却速度で加速冷却する第二段冷却を施し、第二段冷却を停止した後の復熱が完了した時点で、鋼板先尾端の鋼板表面温度がそれぞれ(Bs点-70℃)以下400℃以上であり、かつ鋼板先尾端の鋼板表面温度差が100℃未満である
ことを特徴とする、引張強さ550MPa以上、降伏比80.0%以下である低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
なお、Ar3変態点およびBs点は、下記(2)式および(3)式を用いて算出した値を用いる。
Ceq(%)=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14・・・(1)
Ar3変態点(℃)=910-310C-80Mn-20Cu-15Cr-55Ni-80Mo・・・(2)
Bs点(℃)=830-270C-90Mn-37Ni-70Cr-83Mo ・・・(3)
ただし、(1)~(3)式の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合はゼロとする。
[2]前記成分組成に加えて、さらに質量%で、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする、[1]に記載の引張強さ550MPa以上、降伏比80.0%以下である低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
[3]前記成分組成に加えて、さらに質量%で、Ca:0.0005~0.0050%を含有することを特徴とする、[1]または[2]に記載の引張強さ550MPa以上、降伏比80.0%以下である低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
Cは、鋼の強度を増加させ、構造用鋼材として必要な強度を確保するのに有用な元素である。この効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.16%を超える含有は、溶接性と靭性を顕著に低下させる。このため、Cは0.05~0.16%とする。好ましくは、0.10~0.15%である。
Siは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中に固溶し鋼材の強度を増加させる。このような効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.50%を超える含有は、母材の靭性を低下させるとともに、溶接熱影響部(HAZ)の靭性を顕著に低下させる。このため、Siは0.05~0.50%とする。なお、好ましくは、0.05~0.40%である。
Mnは、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、高価な他の合金元素の含有を最小限に抑える本発明では、所望の高強度(引張強さ:550MPa)を確保するために、1.0%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、母材靭性およびHAZ靭性を著しく低下させる。このため、Mnは1.0~2.0%とする。なお、好ましくは、1.2~1.6%である。
Pは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素である。しかしながら、靭性、特に溶接部の靭性を低下させる元素であるため、本発明ではできるだけ低減させることが望ましく、0.030%までは許容できる。なお、好ましくは0.015%以下である。
Sは、鋼中ではMnS等の硫化物系介在物として存在し、母材及び溶接部の靭性を劣化させやすくするとともに、鋳片中央偏析部などに多量に偏析して、鋳片等における欠陥を発生しやすくするため、Sは0.005%以下とする。
Nbは、微量の含有でも、固溶強化および析出強化により、鋼の強度を顕著に向上する元素である。このような効果を得るためには、0.005%以上含有することが必要となる。一方、0.040%を超える含有は、母材やHAZの靭性を低下させる。このため、Nbは0.005~0.040%とする。
Tiは、鋼の強度を向上するとともに、HAZ部の靭性を改善する作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.005%以上含有することが必要である。一方、0.020%を超える含有は、材料コストの高騰を招く。このため、Tiは0.005~0.020%とする。
Cuは、固溶して鋼の強度を向上するとともに、耐候性を向上させる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましく、0.1%以上含有することがより望ましい。一方、1.0%を超える含有は、溶接性を損なうとともに鋼材製造時に疵が発生しやすくなる。したがって、Cu含有量は1.0%以下とする。なお、好ましくは0.5%以下である。
Niは、鋼の強度を向上するとともに、低温靭性の向上に寄与する。また、NiはCuとともに含有させることにより、Cuによる熱間脆性を防止することができる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましく、0.1%以上含有することがより望ましい。一方、1.0%を超える含有は、製造コストの高騰に繋がる。したがって、Ni含有量は1.0%以下とする。なお、好ましくは0.3%以下である。
Crは、鋼の強度を向上する元素であり、このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましく、0.2%以上含有することがより望ましい。一方、1.0%を超える含有は、溶接性および靭性を低下させる。したがって、Cr含有量は1.0%以下とする。なお、好ましくは0.5%以下である。
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合して結晶粒微細化に寄与する元素であり、必要に応じ含有できる。このような効果は、0.01%以上の含有で認められるが、0.05%を超える含有は、鋼の清浄度を低下させる。このため、Alは、0.05%以下とする。
Nは、鋼中に固溶している場合には、冷間加工後に歪時効を起こし靭性を劣化させるため、本発明ではできるだけ低減することが望ましい。0.0060%を超えて含有すると、靭性の劣化が著しくなる。このため、Nは0.0060%以下とする。なお、好ましくは0.0040%以下である。
MoおよびVは、いずれも鋼の強度を向上する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種を含有できる。
Moは、鋼の強度を向上する元素であり、このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが望ましい。一方、0.5%を超える含有は、溶接性および靭性を低下させる。したがって、含有する場合は、0.5%以下とする。なお、より好ましくは0.3%以下である。
Vは、析出強化を介して母材の強度を増加させる元素であり、厚鋼板の高強度化のために有用な元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが好ましい。一方、0.1%を超える含有は、母材やHAZの靭性を低下させる。したがって、含有する場合は、0.1%以下とする。
Caは、硫化物の形態制御を介して母材の靭性および延性工場に寄与する。また、微細な硫化物粒子を鋼中に分散させた場合には、フェライト変態核として作用することによってHAZ靭性の向上にも寄与する。これらの効果を得るためには、0.0005%以上含有することが好ましいが、0.0050%を超えて含有すると、過剰な介在物が生成し、逆に靭性が低下する場合がある。したがって、含有する場合は、0.0005~0.0050%とする。
Ceq(%)=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14・・・(1)
ただし、上記(1)式において、元素記号であるC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Vは各元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合はゼロとして計算する。
加熱温度が1050℃未満では、変形抵抗が増大し、鋼板形状の確保が困難になるとともに、Nb等の析出強化に寄与する元素の固溶が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えて高温となると、結晶粒の粗大化が著しく、また加熱による酸化スケールが鋼素材表面に多量に生成し、スケールロスが多くなるとともに、表面品質が低下する。
圧延終了温度が鋼板表面温度で920℃を超えると、組織が粗大化し、焼入れ性が増加しすぎて靭性が低下する。一方、圧延終了温度が鋼板表面温度でAr3変態点未満では、圧延中あるいは圧延直後にフェライトが生成し、粗大化して、所望の強度を確保することが難しくなる。好ましくは780~900℃である。
Ar3変態点(℃)=910-310C-80Mn-20Cu-15Cr-55Ni-80Mo・・・(2)
ただし、上記(2)式において、元素記号であるC、Mn、Cu、Cr、Ni、Moは各元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合はゼロとして計算する。
第一段冷却の冷却開始温度が、鋼板尾端の表面温度が(Ar3変態点-10℃)未満では、加速冷却前にフェライトが生成し、粗大化するため、表層部のフェライト粒の微細化が達成できず、所望の降伏比を得ることができない。
冷却開始時の鋼板先尾端の表面温度差が50℃を超えると、鋼板長手方向で材質ばらつきが生じる。
鋼板表面温度で420℃未満となると、冷却中にベイナイト、マルテンサイト変態が生じて、表層部が硬質化し、その結果、降伏比が過大となる。また、鋼板表面温度で420℃未満の場合、鋼板上での冷却水の沸騰挙動が、膜沸騰と核沸騰とが混在する遷移沸騰が生じやすくなることで鋼板内に温度むらが発生し、形状不良や鋼板内での強度のばらつきが発生する。よって、第一段の冷却停止温度は420℃以上とする。なお、第一段冷却の冷却停止温度は700℃以下であることが好ましい。
10.0℃/sを超えると、ベイナイト、マルテンサイト変態が生じて、強度が高くなり、所望の強度、降伏比を得ることができないので10.0℃/s以下とする。好ましくは、7.5℃/s以下である。なお、平均冷却速度とは、板厚1/4t位置(tは板厚)における冷却速度で定義される値である。具体的には、第一段冷却開始時の板厚1/4t位置における温度から第一段冷却停止時の板厚1/4t位置における温度を差し引いた差を、第一段冷却開始時から第一段冷却停止時までの所要時間で除した値である。
平均冷却速度が20.0℃/s未満では、未変態部分の硬質相への変態量が低下し、所望の強度、降伏比を得ることができない。また、加速冷却における冷却速度は、鋼板を均一に冷却する観点からは速いほうが好ましく、条切キャンバー発生低減の観点からも、平均冷却速度は20.0℃/s以上とする。本発明において、第二段冷却の平均冷却速度とは、第二段冷却開始時の板厚1/4t位置(tは板厚)における温度から第二段冷却停止時の板厚1/4t位置における温度を差し引いた差を、第二段冷却開始時から第二段冷却停止時までの所要時間で除した値である。
本発明においては、加速冷却によって変態強化組織を得るための冷却停止温度の目標値として、冷却停止後に復熱が完了した時点の温度を採用する。その理由は、復熱が完了した時点では板厚方向の温度分布は極めて小さいので、加速冷却によって変態強化組織を得る材質設計の指標として適切だからである。なお、本発明において、復熱が完了した時点とは、いったん下降していた鋼板表面温度が復熱により上昇に転じて極大となった時点のことを指す。本発明の第二段冷却においては、上述のように第二段冷却の停止後に復熱が完了した時点の温度を制御することが重要であり、冷却停止後に復熱が完了した時点で、所定の温度条件を満足するように第二段冷却を停止すればよい。第二段冷却を停止する条件は、予備実験や過去の製造実績などの経験値をもとに導いてもよいし、伝熱計算によるシミュレーションで求めてもよく、その両方を組み合わせることによって求めてもよい。
Bs点(℃)=830-270C-90Mn-37Ni-70Cr-83Mo・・・(3)
ただし、上記(3)式において、元素記号であるC、Mn、Ni、Cr、Moは各元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合はゼロとして計算する。
第二段冷却を停止した後の復熱が完了した時点における、鋼板先尾端の鋼板表面温度差とは、鋼板の先端および尾端のそれぞれについて、復熱が完了した時点での鋼板表面温度の差を指す。第二段冷却を停止した後の復熱が完了した時点における鋼板先尾端の鋼板表面温度差が100℃以上となると、鋼板長手方向で材質ばらつきが生じるので、100℃未満とする。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.05~0.16%、Si:0.05~0.50%、Mn:1.0~2.0%、P:0.030%以下、S:0.005%以下、Nb:0.005~0.040%、Ti:0.005~0.020%、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Al:0.05%以下、N:0.0060%以下を含有し、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが、0.36~0.42%であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を、
1050~1250℃に加熱し、圧延終了温度が鋼板表面温度で920℃以下Ar3変態点以上となるように熱間圧延した後に、
鋼板尾端の鋼板表面温度が(Ar3変態点-10℃)以上で、かつ鋼板先尾端の鋼板表面温度差が50℃以下の時点から冷却を開始し、鋼板表面温度が700℃以下420℃以上となる第一冷却停止温度まで、1.6℃/s以上10.0℃/s以下の平均冷却速度で水冷により加速冷却する第一段冷却を施し、次いで前記第一段冷却後ただちに、第一段冷却停止温度から20.0℃/s以上の平均冷却速度で水冷により加速冷却する第二段冷却を施し、第二段冷却を停止した後の復熱が完了した時点で、鋼板先尾端の鋼板表面温度がそれぞれ(Bs点-70℃)以下400℃以上であり、かつ鋼板先尾端の鋼板表面温度差が100℃未満である
ことを特徴とする、引張強さ550MPa以上、降伏比80.0%以下である低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
なお、Ar3変態点およびBs点は、下記(2)式および(3)式を用いて算出した値を用いる。
Ceq(%)=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14・・・(1)
Ar3変態点(℃)=910-310C-80Mn-20Cu-15Cr-55Ni-80Mo・・・(2)
Bs点(℃)=830-270C-90Mn-37Ni-70Cr-83Mo ・・・(3)
ただし、(1)~(3)式の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合はゼロとする。 - 前記成分組成に加えて、さらに質量%で、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の引張強さ550MPa以上、降伏比80.0%以下である低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
- 前記成分組成に加えて、さらに質量%で、Ca:0.0005~0.0050%を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の引張強さ550MPa以上、降伏比80.0%以下である低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
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