JP5082500B2 - 強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
耐震性の観点からは、従来から、低降伏比化し、さらに高一様伸び化して、塑性変形能を高めることが推奨されている。また、ラインパイプなどでは、全伸び(一様伸び+局部伸び)が大きいことが要求される。これは、外部応力により変形が始まってから破壊するまでに変形する量が大きいことを意味しており、鋼材に対する安全性の指標となっている。全伸びに占める一様伸びの比率は、引張試験片の標点距離が長いほど大きくなるが、長標点引張試験片であっても一般的に使用されている引張試験片の範囲内では、局部伸びの割合も40〜50%程度あることが多いため、全伸びを大きくするためには、一様伸びと局部伸びのいずれも大きくする必要がある。
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、生産性の低下および製造コストの高騰を招くことなく、480MPa以上の降伏強さと優れた低温靭性とを有し、かつ強度−伸びバランスに優れた高張力鋼板を安定して製造できる、経済性に優れた、高張力鋼板の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記した特性に加えて、板厚方向の硬さバラツキが少ない高張力鋼板の製造をも目的とする。
(b)熱間圧延で表層に導入された加工フェライトが伸びの向上を阻害していること、
(c)表層のみを優先的に加熱する焼戻処理を施すことにより、伸びが向上すること、
(d)熱間圧延後に行う冷却を、途中に加速冷却の一時停止を含む加速冷却とすることにより、鋼板表面硬さが低下し、鋼板板厚方向の硬さばらつきが低減すること
を知見した。また、
(e)上記した焼戻処理により、鋼板表面硬さが低下し、鋼板板厚方向の硬さのばらつきが軽減すること
を知見した。また、
(f)表層のみを優先的に加熱する焼戻処理には、誘導加熱装置を利用し、表層に誘導電流を集中させることが有効であること、
に想到した。
(1)鋼素材に、熱延工程と、加速冷却工程と、焼戻工程とを順次施す高張力鋼板の製造方法であって、前記鋼素材が、質量%で、C:0.03〜0.18%、Si:0.01〜0.55%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.005〜0.1%、N:0.005%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材であり、前記熱延工程が、前記鋼素材を、1000〜1350℃の範囲の温度に加熱したのち、圧延終了温度が、表面温度でAr3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上となる熱間圧延を施し所望板厚の鋼板とする工程であり、前記加速冷却工程が、前記熱延工程終了後、前記鋼板に空冷超えの冷却速度で冷却する加速冷却を、該加速冷却の途中で鋼板の表面温度が300℃以上の温度範囲にあるときに、前記加速冷却を一時停止する非加速冷却を少なくとも1回、かつ非加速冷却時間の合計が1.5〜15sの範囲内となるように設ける加速冷却とし、該加速冷却を鋼板の平均温度で620℃以下の温度域の冷却停止温度で停止する工程であり、前記焼戻工程が、前記加速冷却工程終了後、誘導加熱装置を用いて、板厚中心温度が580℃以下で、かつ鋼板表面の最高到達温度が580〜700℃の範囲の温度となるように、加熱する焼戻処理を施す工程であることを特徴とする降伏強さ:480MPa以上の高強度を有し、板厚方向の硬さバラツキが少なく、かつ強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.025%以下を含有することを特徴とする高靭性高張力鋼板の製造方法。
C:0.03〜0.18%
Cは、鋼板の母材強度を増加させる元素であり、所望の高強度を確保するために、0.03%以上の含有を必要とする。0.03%未満の含有では、Cu、Ni、Cr、Moなどの焼入性向上元素の多量含有を必要とし、製造コストの高騰、溶接性の低下を招くとともに、大入熱溶接が施される場合には、溶接金属へのCの希釈が少なくなり、所望の溶接継手部強度の確保が困難となる。一方、0.18%を超える過剰な含有は、鋼板母材の靭性および耐溶接割れ感受性の低下を招き、また溶接継手部靭性の低下を招く。このため、Cは0.03〜0.18%の範囲に限定した。
Siは、鋼板の母材強度および溶接継手部強度を確保するうえで有効な元素であり、本発明では0.01%以上の含有を必要とする。しかし、0.55%を超える多量の含有は、耐溶接割れ感受性の低下と、溶接継手部靭性の低下を招く。このため、Siは0.01〜0.55%の範囲に限定した。
Mn は、鋼板の母材強度および溶接継手部強度を確保するうえで有効な元素であり、本発明では、0.5%以上の含有を必要とする。しかし、2.0%を超える多量の含有は耐溶接割れ感受性を低下させるとともに、必要以上の焼入性の向上を招き母材靭性および溶接継手部靭性を低下させる。このため、Mnは0.5〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは、1.6%以下である。
Alは、鋼の脱酸剤として作用するとともに、Nと結合し結晶粒を微細化し、母材靭性の向上に寄与する元素であり、脱酸剤としての効果を確保するためには0.005%以上の含有を必要とする。また、結晶粒の微細化のためには0.01%程度以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、母材靭性を低下させる。このため、Alは0.005〜0.1%の範囲に限定した。
Nは、Al、Nb等と反応し析出物を形成し、結晶粒を微細化し、母材靭性を向上させるとともに、鋼板の母材強度向上に寄与する。このような効果は、N:0.0005%以上の含有で顕著となるが、0.005%を超える含有は、母材靭性および大入熱溶接継手部靭性を低下させる。このため、Nは0.005%以下に限定した。
Cu:0.8%以下、Ni:2%以下、Cr:1%以下、Mo:0.8%以下、Nb:0.05%以下、V:0.1%以下、B:0.002%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Bは、いずれも、鋼板強度の増加に寄与する作用を有する元素であり、更なる高強度が要求される場合など、必要に応じて1種または2種以上を含有できる。
Niは、焼入れ性向上を介して、上記した鋼板強度の増加に寄与するとともに、耐候性、靭性を向上させる作用を有する。このような効果を確保するためには、0.05%以上含有することが望ましいが、2%を超える含有は、材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Niは2%以下に限定することが好ましい。
Moは、焼入れ性の向上、さらに析出物の形成を介して上記した作用を有する元素であり、0.8%を超える含有は必要以上の焼入れ性の増加を招くとともに、溶接性を低下させる。このため、含有する場合には、Moは0.8%以下に限定することが好ましい。
Bは、ごく微量の添加で焼入性を高め、焼入性向上を介して上記した鋼板強度の増加に有効に寄与する元素であり、このような効果を得るためには0.0005%以上含有することが好ましいが、0.002%を超える含有は、BNの形成が顕著となり、焼入性が低下するとともに、溶接熱影響部の硬化が著しくなる。このため、含有する場合には、Bは0.002%以下に限定することが好ましい。
Tiは、析出物を形成し、組織を微細化させる作用を有する。また、Tiは、TiNを形成し、BがNと結合するのを防止して、焼入性に有効なB量の確保に有効に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには0.005%以上含有することが好ましいが、0.025%を超える含有は、鋼板靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Tiは0.025%以下に限定することが好ましい。
Caは、MnS等の靭性に悪影響を及ぼす硫化物の形態を、靭性向上に有利な球状に近い形態に制御する作用を有する元素であり、必要に応じて含有することができる。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが好ましいが、0.005%を超える含有は、鋼の清浄性を低下させる。このため、含有する場合には、Caは0.005%以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、P:0.015%以下、S:0.015%以下が許容できる。
本発明では、上記した組成の鋼素材を出発素材として、熱延工程と、加速冷却工程と、焼戻工程と、を順次施す。
熱間圧延の加熱温度:1000〜1350℃
鋼素材の加熱温度は、1000〜1350℃の範囲の温度に限定する。加熱温度が1000℃未満では、鋼素材中の合金元素を均一化し、Mo、Nb、V等の析出物強化元素を固溶させることが不十分となり、所望の強度、靭性を確保できなくなる。一方、加熱温度が1350℃を超えると、結晶粒が粗大化し母材の靭性低下を招く恐れがある。このため、鋼素材の加熱温度は1000〜1350℃の範囲の温度に限定した。なお、好ましくは1250℃以下である。
本発明では、オーステナイト(γ)粒の微細化のために、熱間圧延の圧延終了温度を、表面温度で、Ar3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上に限定する。圧延終了温度が、表面温度で、Ar3変態点以上では、γ粒が粗大化し、靭性が低下する。一方、圧延終了温度が(Ar3変態点−80℃)未満と低温となると、板厚中心部近傍まで加工されたフェライトが形成され、伸びが低下する。このようなことから、熱間圧延の圧延終了温度はAr3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上に限定した。
Ar3(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo ……(1)
(ここで、C、Mn、Cu、Cr、Ni、Mo:各元素の含有量(質量%))
により、含有する合金元素量から算出することもできる。なお、上記した(1)式においては、含有されない元素については、式中の当該元素の含有量を零として計算するものとする。
本発明における加速冷却工程では、熱間圧延終了後、直ちに(好ましくは180s以内に)、鋼板に空冷超えの冷却速度で、鋼板の平均温度で400〜620℃の温度域の冷却停止温度で冷却を停止する加速冷却を施す。なお、本発明では、鋼板板厚方向の硬さばらつきを少なくするという観点から加速冷却を施す。
冷却停止温度が620℃を超えると、ベイナイト変態が十分進行しないため、所望の高強度を確保することが困難となる。このようなことから、加速冷却の冷却停止温度は620℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下の温度域の温度に限定した。冷却停止温度が低く、例えば、400℃未満では、冷却後の表面の復熱が小さく、表面が硬化し、その後の焼戻しによる軟化の効果が小さい。なお、加速冷却は、空冷超えの冷却速度とする。冷却速度が空冷以下では、所望の鋼板強度を確保できなくなる。加速冷却の冷却速度は、好ましくは冷却開始から冷却停止までの平均で5℃/s以上である。
非加速冷却を行う温度域は、加速冷却途中で、復熱効果が期待できる、鋼板の表面温度が300℃以上である温度域とする。鋼板の表面温度が300℃未満と低い場合には、表裏層の復熱が小さく、期待される効果が十分に得られない。
また、加速冷却の冷却停止温度、冷却速度は、鋼板板厚方向の平均温度で規定した。平均温度は、鋼板の全体的な材質と最も関連深い温度であり、本発明では加速冷却の条件を規定する基準とした。なお、鋼板板厚方向の平均温度は、板厚、表面温度および冷却条件等が与えられた場合に、シミュレーション計算等により求められることができる。例えば、差分法を用いて、板厚方向の温度分布を平均化することにより得られた温度を、平均温度とすることができる。
加速冷却工程を、上記した非加速冷却を設けた加速冷却とすることにより、従来に比べ表層硬さは低下するが、鋼板表面のスケール性状による加速冷却時の冷却速度ばらつきなどに起因し、同一鋼板内でも表面硬さにばらつきが存在する場合がある。
そこで、本発明の焼戻工程における焼戻処理は、鋼板の表層のみを優先的に加熱する処理とする。表層のみを優先的に加熱することにより、熱間圧延で表層近傍に多量に導入された加工フェライト中の転位が消滅して加工フェライトが回復し、鋼板の伸びが向上する。また、表層のベイナイトが焼戻され、軟質化されることにより、鋼板表層の硬さが低下し、鋼板板厚方向の硬さ分布が均一化される。また、鋼板の表層のみを優先的に加熱することにより、鋼板表面のスケール性状等の相違による加速冷却時の冷却速度ばらつきに起因して存在していた同一鋼板内の表面硬さのばらつきも軽減される。
焼戻処理における、鋼板の板厚中心温度が580℃以上となると、鋼板内部の強度低下が著しくなり、所望の鋼板強度を確保することができなくなる。このため、焼戻処理においては、鋼板の板厚中心温度は580℃未満に限定した。なお、好ましくは560℃以下である。ここで、鋼板の板厚中心温度とは、誘導装置による加熱を行った後に、鋼板内部の温度分布がほぼ均一になった時の最高到達温度を指す。
(1)引張試験
得られた各鋼板から、JIS Z 2201の規定に準拠して引張試験片(JIS5号全厚試験片)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、降伏強さYS、引張強さTS、伸びElを求めた。さらに、得られた引張強さTS、伸びElから、TS×Elを算出し、強度−伸びバランスを評価した。
得られた各鋼板の板厚1/2t位置を中心として、シャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片)を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrsを求め、低温靭性を評価した。
(3)硬さ試験
得られた各鋼板の幅方向中央部で、長さ方向中央部から、硬さ試験片(t×15mm×20mm)を採取し、板厚方向断面を研磨し、ビッカース硬度計(試験力:98N)で板厚方向に1mmピッチでビッカース硬さHVを測定し、板厚方向硬さ分布を求め、最高硬さと最低硬さとの差、ΔHVを算出した。ΔHVが20HV以上である場合を硬さ分布が不均一であるとして評価した。
得られた結果を表3に示す。
10 誘導加熱装置
30 テーブルロール
Claims (4)
- 鋼素材に、熱延工程と、加速冷却工程と、焼戻工程とを順次施す高張力鋼板の製造方法であって、前記鋼素材が、質量%で、
C:0.03〜0.18%、 Si:0.01〜0.55%、
Mn:0.5〜2.0%、 Al:0.005〜0.1%、
N:0.005%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材であり、
前記熱延工程が、前記鋼素材を、1000〜1350℃の範囲の温度に加熱したのち、圧延終了温度が、表面温度でAr3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上となる熱間圧延を施し所望板厚の鋼板とする工程であり、
前記加速冷却工程が、前記熱延工程終了後、前記鋼板に空冷超えの冷却速度で冷却する加速冷却を、該加速冷却の途中で鋼板の表面温度が300℃以上の温度範囲にあるときに、前記加速冷却を0.3s間以上一時停止する非加速冷却を少なくとも1回、かつ非加速冷却時間の合計が1.5〜15sの範囲内となるように設ける加速冷却として施し、該加速冷却を鋼板の平均温度で620℃以下の温度域の冷却停止温度で停止する工程であり、
前記焼戻工程が、前記加速冷却工程終了後、誘導加熱装置を用いて、板厚中心温度が580℃以下で、かつ鋼板表面の最高到達温度が580〜700℃の範囲の温度となるように、加熱する焼戻処理を施す工程である
ことを特徴とする降伏強さ:480MPa以上の高強度を有し、板厚方向の硬さバラツキが少なく、かつ強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法。 - 前記鋼素材が、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.8%以下、Ni:2%以下、Cr:1%以下、Mo:0.8%以下、Nb:0.05%以下、V:0.1%以下、B:0.002%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する鋼素材であることを特徴とする請求項1に記載の高靭性高張力鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.025%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高靭性高張力鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.005%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高靭性高張力鋼板の製造方法。
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