JPH11172331A - 溶接割れ感受性に優れた低降伏比高張力鋼の製造方法 - Google Patents

溶接割れ感受性に優れた低降伏比高張力鋼の製造方法

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JPH11172331A
JPH11172331A JP14041098A JP14041098A JPH11172331A JP H11172331 A JPH11172331 A JP H11172331A JP 14041098 A JP14041098 A JP 14041098A JP 14041098 A JP14041098 A JP 14041098A JP H11172331 A JPH11172331 A JP H11172331A
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steel
less
rolling
yield ratio
temperature
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JP14041098A
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Inventor
Hisafumi Maeda
尚史 前田
Toshimichi Omori
俊道 大森
Toru Kawanaka
徹 川中
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JFE Engineering Corp
Original Assignee
NKK Corp
Nippon Kokan Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 溶接割れ感受性および低降伏比の両特性に優
れた極厚のHT590鋼を、低コストにて製造する方法
を提供することを課題とする。 【解決手段】 重量%で、C:0.06〜0.11%、
Si:0.01〜0.4%、Mn:0.5〜1.6
%、、Al:0.01〜0.06%、Mo:0.1〜
1.0%、V:0.01〜0.1%を含有し、かつ、P
cm:0.22以下を満たし、残部が鉄および不可避的
不純物よりなる鋼を、1000〜1250℃に加熱し、
950℃以下で20%以上の累積圧下を加え熱間圧延
し、圧延終了後Ar3変態点以上から直接焼入れし、つ
いでAcl点以上Ac3点以下の2相域温度に再加熱後
焼入れし、さらにAc1点以下500℃以上にて焼戻し
処理を行うことを特徴とする製造方法である。更に、前
記熱間圧延が、圧延仕上温度を850℃以上とすると、
音響異方性の小さい極厚の低降伏比HT590鋼を製造
することができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶接割れ感受性に
優れた引張強さ590N/mm2 級の低降伏比高張力鋼
の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、建築構造物の大型化により、引張
強さ590N/mm2 級の高張力鋼(以下「HT590
鋼」という。)の使用が増大している。建築用のHT5
90鋼は、耐震安全性を向上させる観点より、一般に降
伏比(降伏強さ/引張強さ)を80%以下とする低降伏
比鋼が要求される。この低降伏比鋼は、鋼構造物の施工
の合理化の観点から、良好な溶接低温割れ感受性が要求
されるとともに、最近では、音響異方性の小さい鋼板を
要求されることが多々ある。
【0003】高張力鋼で、低降伏比を実現するには、一
般的には、圧延後に通常の焼入れを行い、ついで2相域
からの焼入れ、さらにその後焼戻し処理(以下「Q−Q
´−0 処理」という。)を行って製造される。このQ−
Q´−T処理は、降伏強さを低減するのに極めて効果的
であるものの、目標強度を確保するために、通常の焼入
れ−焼戻し(以下「Q−T処理」という。)型のHT5
90鋼に比較して、合金元素の含有量を高める必要があ
る。特に、超高層建築に使用される建築用鋼では、板厚
が100mm程度の極厚材が要望されており、強度の確
保を難しくしている。
【0004】従って、極厚の低降伏比鋼は、合金成分を
多量に含有するため、溶接硬化性あるいは溶接低温割れ
感受性を表示するパラメータであるCeq値及びPcm
値が必然的に高くなり、溶接性は必ずしも良好であると
は言えない。ここで、Ceq、Pcmは次式で示され
る。 Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+ V/14 ・・・・・(1) Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/30+Cr/20 +Mo/15+V/10+5B・・・・・(2)
【0005】こうした観点から、溶接割れ感受性に優れ
た低降伏比のHT590鋼を実現する試みが、特公平5
−81644号公報、特公平5−81645号公報、特
公平6−6740号公報、特開平3−162518号公
報、特開平7−90365号公報、特開平7−1267
43号公報、特開平8−92639号公報、特開平8−
143950号公報、特開平8−209294号公報等
に開示されているように数多くなされている。
【0006】これらの開示された技術は、第1に、Q−
Q´−T処理において合金成分を最適化する方法と、第
2に、熱処理鋼の強化手段として近年脚光を浴びている
直接焼入れを活用し、その後2相域からの焼入れ−後焼
戻し処理(以下「DQ−Q’−T処理」という。)を行
う方法とに、大別できる。
【0007】これらの先行技術は、溶接割れ感受性に優
れた低降伏比のHT590鋼として効果は認められる。
しかし、最近の建築用HT590鋼に対する材質要求を
考慮すると、以下に述べるように、性能改善の余地がま
だ残されているといえる。
【0008】まず、Q−Q´−T処理を前提とした、従
来技術について述べる。特開平7−90365号公報に
は、Bを含有しない低降伏比HT590鋼が開示されて
いる。これは、熱処理鋼によく使用される微量のBは、
溶接熱影響部の硬さを著しく高め溶接性に悪影響を及ぼ
すことによる。しかし、板厚が60mm以上の場合は、
C、Mn、Cu等を増量するため、Pcm値が増加し、
その結果、実施例ではy型溶接割れ試験の割れ防止予熱
温度は50℃にとどまっており、溶接割れ感受性は十分
とは言えない。
【0009】また、当該発明は、目標強度を確保するた
め、Cuの析出強化を積極的に活用している。析出強化
は、一般に降伏比を高めるため、Q−Q´−T処理の各
温度を最適化して低降伏比化を図っているが、最適な製
造条件の範囲が狭く、製造安定性の点で懸念される。ま
た、溶接入熱により析出効果が減少し、溶接継手強度が
低下すること、熱間圧延時にCu疵が発生しやすいこ
と、さらに、Q−Q´−T処理は再加熱の熱処理を3回
も行うため製造コストの点では有利とはいえないこと等
の欠点がある。
【0010】特開平7−126743号公報では、上記
と同様の鋼を用い、Q−Q´−T処理のQ処理を省略し
た熱処理により、低降伏比HT590鋼を製造する方法
が開示されている。しかしながら、実施例に示された板
厚50mm以上の鋼板では、溶接割れ防止予熱温度は5
0℃であり、溶接割れ感受性に優れるとは言えない。ま
た、Cuを多量に含有するため、上記と同様の危惧があ
る。
【0011】特開平8−143950号公報では、Bを
含有せず、Vの析出強化を利用したQ−Q´−T型の厚
物の低降伏比HT590鋼が開示されている。上述の2
つの例と同様に、板厚60mm以上の鋼板では、溶接割
れ防止予熱温度は50℃である。また、Vを0.10〜
0.15%と多量に含有する鋼であり、溶接継手部の靭
性低下が懸念されるが、当該発明はこの点に触れていな
い。さらに、経済性の観点からも、Vの多量含有及びQ
−Q´−T処理は有利とはいえない。
【0012】特開平3−162518号公報では、C
u、Ni、Cr、V、Nb、Bの1種以上を含む、Pc
mが0.16〜0.21%の鋼を、熱間圧延後DQ−Q
´−T処理、あるいはQ−Q´−T処理により、低降伏
比のHT590鋼を製造する方法が開示されている。実
施例では、溶接割れ防止予熱温度が25℃以下と溶接割
れ感受性に優れる鋼板が明示されている。しかし、実施
例で示された鋼板の最大厚さは80mmにとどまる。ま
た、合金元素としてNbを使用した場合は、降伏比が7
8%にも達し、目標の80%に対しての余裕が極めて少
なく、実製造における安定性の点で懸念される。
【0013】一方、DQ−Q´−T処理を前提とした低
降伏比の鋼材の製造方法に関しては以下の技術が開示さ
れている。特公平5−81644号公報に所定の化学成
分を有する鋼材を熱間圧延後250℃以下まで急冷し、
次いでAc1+20℃〜Ac1+80℃に再加熱し、ひ
きつづき水冷した後200〜600℃の温度範囲で焼も
どしする発明が、また特公平5−81645号公報に所
定の化学成分を有する鋼材の熱間圧延において、900
℃〜Ar3間で30%以上70%以下の累積圧下を加
え、圧延後水冷を開始し250℃以下まで急冷し、次い
で次いでAc1+20℃〜Ac1+80℃まで再加熱
し、ひきつづき水冷した後200〜600℃の温度範囲
で焼もどしする発明が、開示されている。
【0014】さらに、特公平6−6740号公報には、
適切な条件により熱間圧延した鋼材を、圧延終了後10
〜80秒間空冷した後、空冷を超える冷却速度で500
℃以下まで冷却し、次いで740〜860℃の温度域に
加熱した後、空冷を超える冷却速度で500℃以下まで
冷却し、その後400〜Ac1の温度域で焼戻処理する
低降伏比高張力鋼の製造方法が開示されている。
【0015】しかしながら、これらの発明は、いずれも
鋼材の降伏比を低減することに主眼が置かれ、当該発明
により製造された低降伏比の高張力鋼の溶接性や音響異
方性については言及がなされていない。
【0016】低温割れ感受性に優れた低降伏比高張力鋼
の製造方法に関する研究としては、例えば、特開平8−
209294号公報には、微細なNb炭窒化物を体積分
率にて0.01〜0.6%およびフェライト分率を2%
以上含有し、Pcm値が0.22%以下である、低降伏
比HT590鋼の製造方法が開示されている。この発明
は、加速冷却−Q´−T処理するか又はDQ−Q´−T
処理で製造するものであるが、板厚が50mm以上の厚
物材では、強度確保のためにBを含有している。B含有
鋼は、化学成分や製造条件の変動により、母材特性が不
安定となる欠点があるとともに、Pcmで評価される以
上に溶接熱影響部の硬化が著しく、溶接継手靭性の劣化
も懸念される。
【0017】また、特開平8−92639号公報では、
Nb、V、Tiを同時に含有し、微量元素の固溶による
焼入れ性向上効果と析出強化を活用した鋼を、熱間圧延
後にDQ−Q´−T処理することにより、板厚50〜1
00mmの低降伏比HT590鋼が開示されている。し
かし、実施例からは、板厚70mm以上の鋼板では、溶
接割れ防止予熱温度は50℃にとどまり、また、降伏比
も80%近くに達し、製造における安定性の点で懸念さ
れる。
【0018】こうした溶接低温割れ感受性の課題に加
え、最近ではさらに、鋼構造物の施工の合理化の観点か
ら、音響異方性の小さい鋼板を要求されることが多々あ
る。これは、溶接構造物の安全性確保のため、溶接欠陥
を、斜角による超音波探傷により検出することに由来す
る。すなわち超音波探傷においては、鋼板の最終圧延方
向(L方向)とその方向に直交する方向(C方向)で結
晶粒の方向性、すなわち圧延集合組織に差がある場合、
超音波を入射する方向によって音速に差が生じ、欠陥の
正確な検出が困難となる。
【0019】また、L方向、C方向の検査を区別して評
価判定することは技術的にも限界がある。従って、溶接
欠陥と疑われるエコーが発見された場合、その箇所はす
べて補修しなければならならず、必要以上の欠陥補修を
余儀なくされ、施工費が莫大なものとなる。
【0020】音響異方性に関しては、例えば特開昭63
−235431号公報に開示されるように、熱間圧延の
圧下率と圧延温度、圧延後の冷却速度を制御することに
より実現を図ることができる。しかし、この方法は、引
張強さ490N/mm2 級鋼において実現できるもので
あり、HT590鋼のように、合金含有量が多い鋼で、
強度、靭性、溶接性等の厳しい要求を全て満足させる必
要がある場合には、音響異方性を小さくするのは容易で
はない。
【0021】以上述べたように、溶接割れ感受性を改善
した低降伏比のHT590鋼の製造方法に関して、多く
の先行技術が開示されている。しかし、上述のようにこ
れらの技術では、建築用HT590鋼として要求される
特性を、厚物の鋼板において、安定して達成し得るとは
いえないのが現状である。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる事情
に鑑みてなされたものであり、良好な溶接割れ感受性更
には小さな音響異方性を備えた低降伏比の極厚のHT5
90鋼を、低コストにて製造する方法を提供することを
目的とする。特に溶接割れ感受性については、溶接施工
時の溶接予熱温度のみならず、現場施工において頻繁に
行われる点付けや、ショートビード等の小入熱において
も低温割れを発生させない鋼材を目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、溶接割れ
感受性に配慮し、かつ、降伏比を上昇させるNb及び溶
接性に好ましくないBの含有量を規制した化学成分を有
する鋼を、熱間圧延において制御圧延(CR)を施した
後、DQ−Q´−T処理を前提に鋭意検討した結果、下
記の発明をするに至った。
【0024】すなわち、第1の発明は、重量%で、C:
0.06〜0.11%、Si:0.01〜0.4%、M
n:0.5〜1.6%、、Al:0.01〜0.06
%、Mo:0.1〜1.0%、V:0.01〜0.1%
を含有し、かつ、Pcm:0.22以下を満たし、残部
が鉄および不可避的不純物よりなる鋼を、1000〜1
250℃に加熱し、950℃以下で20%以上の累積圧
下を加え熱間圧延し、圧延終了後Ar3変態点以上から
直接焼入れし、ついでAcl点以上Ac3点以下の2相
域温度に再加熱後焼入れし、さらにAc1点以下500
℃以上にて焼戻し処理を行うことを特徴とする、溶接割
れ感受性に優れた低降伏比高張力鋼の製造方法である。
本発明により、溶接施工時に実質的に溶接予熱を不要と
するとともに施工に際してショートビードを避ける等の
溶接施工管理の制限を緩和する割れ感受性に優れた極厚
の低降伏比HT590鋼を、安定して製造することがで
きる。
【0025】第2の発明は、前記鋼が、更に、重量%
で、Cu:0.5%以下、Ni:1.5%以下、Cr:
0.5%以下のうち1種もしくは2種以上を含有するこ
とを特徴とする、溶接割れ感受性に優れた低降伏比高張
力鋼の製造方法である。本発明により、上述の溶接割れ
感受性の更なる向上が可能となる。
【0026】第3の発明は、前記熱間圧延が、更に、圧
延仕上温度が850℃以上であることを特徴とする、溶
接割れ感受性に優れた低降伏比高張力鋼の製造方法であ
る。この発明により、音響異方性の小さい、溶接割れ感
受性に優れた極厚の低降伏比HT590鋼を製造するこ
とができる。
【0027】
【発明の実施の形態】本発明の基本的な考え方を以下に
述べる。 (1)溶接割れ感受性を改善するためには、Pcm値の
低減が前提となる。この点、Bの含有はPcmを低減す
るのに効果的であるが、微量のBは溶接熱影響部の硬度
を著しく上昇させ、それによる継手靭性の劣化を引き起
こす。従ってBを含有しない鋼を前提とする。このた
め、Bの効果を発揮させるため、Nの固定の役割を果た
すTiも、母材性能を不安定にさせることもあり、含有
しない鋼とする。
【0028】(2)Ti、Bを含有せずに低降伏比のH
T590鋼を得るためには、Q−Q´−T処理では板厚
範囲に制約を生じるため、直接焼入れを活用するDQ−
Q´−T処理を前提とする。
【0029】(3)Nbの含有は、先行技術に見られる
ように、DQプロセスにおいて、加熱圧延時の固溶Nb
による焼入れ性向上、さらにはその後2相域に再加熱す
る際に炭窒化物形成による析出強化が期待できる。しか
し、Nb炭窒化物による析出強化は、図1に示すよう
に、Nbを含有しない鋼に比べて、降伏比を上昇させて
しまう。
【0030】ここで、図1は、DQ−Q´−T処理で製
造した板厚75mmのNb含有鋼、Nb非含有鋼の引張
強さと降伏比の関係を示した図である。Nb含有鋼は、
Nb非含有鋼に比較して、降伏比が平均して数%高く、
目標とする降伏比80%以下を安定して得るのが難し
い。従って、低降伏比化を確保する観点から、Nbを含
有しない鋼とする。
【0031】(4)熱間圧延において、制御圧延(C
R)はオーステナイト組織を展伸させる働きをし、これ
により、DQ時の焼入れ性は幾分減少するものの、低降
伏比化に有効なフェライトの生成が促進する。このフェ
ライトは、その後のQ´−T処理後も残存し低降伏比化
に寄与する。従ってCR−DQプロセスは、Q−Q´−
T処理では実現できない、2相域加熱前の組織制御を可
能とし、これを通じてその後のQ´−T処理後も低降伏
比化が達成される。
【0032】(5)CR−DQプロセスにより展伸した
組織は、その後の2相域再加熱時に、α→γの逆変態オ
ーステナイトの生成サイトを増加させるため、Q´後に
硬い焼入れ組織が増加し、高強度化が達成される。ま
た、CRの実施により硬質相自体の硬さも上昇する。従
って、CR−DQ−Q´−Tプロセスは引張強さを高め
るが、それに伴う降伏比の上昇は小さい。図2、3はこ
れらの結果を示した図である。
【0033】図2、3は、いずれも板厚60mmにおい
て、950℃以下の累積圧下率で示すCRの程度と引張
強さ、降伏比の関係を示すが、CRの程度を強めるに従
い、引張強さが上昇する。HT590鋼を安定して得る
には、950℃以下で20%以上の累積圧下を加える必
要がある。一方、降伏比については、CRの強化により
上昇するものの、上記(4)の効果により、低降伏比鋼
として十分な水準にとどまっている。
【0034】(6)一方、CRの程度が大きくなり、圧
延仕上温度が低下しすぎると、音響異方性が大きくな
る。音響異方性は、オーステナイトの未再結晶域の圧
下、すなわち組織の展伸の度合いと相関があるため、音
響異方性の要求を満たす場合には、圧延仕上温度は、再
結晶域で完了するのが望ましい。未再結晶となる温度
は、厳密には、合金元素の含有量、特にNb含有量に依
存するが、本発明では再結晶抑制効果を有するNbを含
有しないため、ほぼ一定と考えられる。
【0035】図4は、板厚60mmの鋼板の圧延仕上温
度と音響異方性の関係を示した図であるが、圧延仕上温
度の低下とともに音響異方性が拡大する。超音波探傷に
おいて問題を生じさせない音響異方性は、経験的には
1.02以下であることが知られており、これを満たす
ためには、圧延仕上温度は850℃以上とする必要があ
る。
【0036】本発明は、上記知見にもとづいて、鋼の化
学成分、熱間圧延時のスラブ加熱温度、圧延仕上温度、
圧延後の熱処理条件を総合的に組み合せ、完成したもの
である。以下に本発明での化学成分、製造条件の限定理
由について説明する。
【0037】C:0.06〜0.11%とする。 Cは、母材強度の点で必須の合金成分であるが、その量
が0.06%未満の場合は、他の焼入れ性向上元素の含
有を多く必要とするため、コスト上昇、溶接割れ感受性
の劣化を招くおそれがある。また、本発明鋼に大入熱溶
接を施す場合に、C含有量が0.06%未満では溶接金
属中へのCの希釈が少なく、一般の溶接材料では継手強
度を確保することが困難となる。一方、C量が0.11
%を超えると、溶接割れ感受性の確保が困難となる。
【0038】Si:0.01〜0.4%とする。 Siは、脱酸剤として必要であり、また母材強度と溶接
継手強度を確保する上で有効に働くので0.01%以上
含有する。しかし、0.4%を超える含有は、溶接割れ
感受性と溶接継手靭性を劣化させる。
【0039】Mn:0.5〜1.6%とする。 Mnは、母材強度と溶接継手強度を確保する上で有効に
働くので0.5%以上含有する。しかし、1.6%を超
える含有は溶接割れ感受性を劣化させるとともに、必要
以上に鋼の焼入れ性を高めるため、母材靭性、継手靭性
を劣化させる。
【0040】P、S:いずれも0.015%以下とす
る。 P、Sは、いずれも不純物元素であり、健全な母材およ
び溶接継手を得るために、完全に除去するのが望ましい
が、実際の鋼製造プロセスでの経済性を考えて、0.0
15%以下、好ましくは0.01%以下に規制すること
が望ましい。
【0041】Al:0.01〜0.06%とする。 Alは、鋼の脱酸のため及びミクロ組織の微細化による
母材靭性の確保のために0.01%以上含有する。しか
し、過剰なAlの含有は、鋼の清浄性を損ない、連続鋳
造スラブの疵発生の原因ともなるため、その上限を0.
06%、好ましくは0.04%とする。
【0042】Mo:0.1〜1.0%とする。 Moは、溶接割れ感受性、母材強度および溶接継手強度
を確保する上で有効に作用するので0.1%以上含有す
る。ただし、必要以上の含有は溶接割れ感受性を高め、
溶接継手靭性を劣化させるために、その上限を1.0%
とする。
【0043】V:0.01〜0.1%とする。 Vは、母材強度と溶接継手強度を確保する上で有効に働
くので、0.01%以上含有する。しかし必要以上の含
有は、溶接継手靭性に悪影響を及ぼすので、その上限を
0.1%をとする。
【0044】Nb:0.005%未満とする。 Nbは、図1に示したように降伏比を著しく上昇させる
ため、含有しない。しかし、スクラップ等からNbが混
入する場合もあるため、本発明鋼の特性に影響を与えな
い範囲として、混入量を0.005%未満に規制する。
【0045】Ti:0.005%未満とする。 本発明では、Tiは含有しない。しかし、スクラップ等
からTiが混入する場合もあるため、本発明鋼の特性、
特に母材性能の不安定さ等に影響を与えない範囲とし
て、混入量を0.005%未満に規制する。
【0046】B:0.0003%未満とする。 本発明では、溶接熱影響部の硬さ低減のためBは含有し
ない。しかし、Bは原料の鉄鉱石から混入する場合もあ
るため、本発明鋼の特性、特に溶接熱影響部の硬さにつ
いて影響を与えない範囲として、混入量を0.0003
%未満に規制する。
【0047】N:0.008%以下とする。 Nは、Al等と反応し析出物を形成することでミクロ組
織を微細化し、母材靭性を向上させるため、また、本発
明ではVを必須の合金元素としその析出効果を導き出す
ためにも、必要的な不純物元素である。しかし、過剰な
含有は母材および溶接継手の靭性を損なうため、その上
限を0.008%望ましくは0.005%とする。
【0048】本発明では、上記の合金元素の他に、さら
にCu、Ni、Crの各合金元素の一種以上を、Cu:
0.5%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.5%以
下の範囲内で含有しても好ましい結果が得られる。
【0049】Cuは母材強度および溶接継手強度向上の
ために、Niは母材強度、靭性および継手強度をともに
向上させるために、またCrは母材強度、靭性および大
入熱溶接継手強度を向上させるために含有させても差し
支えない。特に、Mnの一部をこれらの元素に置き換え
ることで、靭性の向上や鋳造段階のミクロ偏析の低減な
どが達成でさる。ただし、過剰の含有は必要以上に焼入
れ性を向上させ、溶接割れ感受性を損なうため、上記範
囲を上限とする。
【0050】Pcm:0.22%以下とする。 Pcmは溶接割れ感受性を表すパラメータであり、わが
国で一般的に行われる溶接環境において、溶接施工時の
予熱をしないでも、低温割れを発生させないためには、
0.22%以下とする必要がある。
【0051】次に、本発明における製造条件の限定理由
について述べる。 熱間圧延前のスラブ加熱温度:1000℃以上1250
℃以下とする。 スラブ加熱温度は、合金元素の均質化を図るため、10
00℃以上とする必要がある。しかし、加熱温度の上昇
と共に、加熱時のオーステナイト結晶粒の粗大化により
母材靭性の劣化が懸念されるので、その上限を1250
℃、好ましくは1150℃とする。
【0052】熱間圧延条件:950℃以下で20%以上
の累積圧下を施す。 スラブ加熱後所定の板厚まで熱間圧延する工程は、本発
明においては特に強度の点で重要な役割を果たす。上述
の図2、3から明らかなように、950℃以下での累積
圧下率を増加させると母材強度が向上し、一方、降伏比
も増加するが、その程度は小さい。従って、950℃以
下で20%以上の累積圧下を加えると、低降伏比を維持
しつつ、目標とする強度を安定して達成できる。
【0053】圧延仕上温度:850℃以上とする。 強度の点からは、950℃以下での累積圧下率を大きく
とることが好ましいが、累積圧下率を大きくすると必然
的に圧延仕上温度も低下し、音響異方性が増大する。従
って、音響異方性の要求がある場合には、図4に示した
ように、圧延仕上温度を一定温度以上、すなわち850
℃以上とする必要がある。
【0054】直接焼入れ温度:Ar3変態点以上とす
る。 熱間圧延終了後の直接焼入れ温度が低温、例えばAr3
変態点近傍になると、圧延した鋼板内位置による母材性
能の変動が大きくなる。これを防ぐためには、少なくと
もAr3変態点を上回る温度から、鋼板を強制冷却する
直接焼入れ処理を施すことが必要である。
【0055】なお、Ar3変態点は、例えば、Tran
s.ISIJ、22(1982)、P214(C.Ou
chi、T.Sampei、and I.Kozas
u)に記載されるように、板厚をt(mm)として、化
学成分の関数として、(3)式にて表せる。 Ar3=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni− 80Mo+0.35(t−8) (℃)・・・・・(3) 本発明の適用板厚、例えば板厚100mm、において
は、Ar3変態点は800℃と計算されるため、熱間圧
延後の直接焼入れは、800℃以上にて実施すればAr
3変態点を上回ることが可能となる。
【0056】二相域焼入れ温度:Ac1変態点以上Ac
3変態点以下とする。 直接焼入れ処理後、降伏比の低減を図るべく、Ac1変
態点以上Ac3変態点以下の2相域温度範囲に再加熱
し、焼入れ処理を施す。これは、上述のように、鋼の組
織を部分的にオーステナイト変態させることにより、ミ
クロ組織が硬質相と軟質相(フェライト)の2相に分離
し、降伏比の低減が図られるからである。
【0057】焼戻し温度:Ac1変態点以下500℃以
上とする。 焼戻しはAcl変態点以下の温度範囲にて実施される
が、必要以上に低温で焼戻しを行うと硬質相の焼戻しが
不十分となるため、その下限を500℃とする。
【0058】
【実施例】以下に、本発明の実施例を比較例と対比して
示す。図5として示す表1に供試鋼の化学成分を示す。
ここで、鋼A〜Gは本発明の範囲の化学成分を有する鋼
である。一方鋼H〜Lは比較鋼であり、鋼H及び鋼Jは
Nb含有鋼、鋼IはNbとBを含有する鋼、鋼KはPc
mが、鋼LはCとPcmが本発明の範囲外の鋼である。
【0059】表1に示す化学成分を有する鋼を溶製し、
鋼塊とした後、図6、図7として示す表2−1、表2−
2の製造条件にて所定の板厚に熱間圧延後、直接焼入れ
し、さらに2相域に再加熱後焼入れし、その後焼戻し処
理を施し供試鋼板を得た。なお、Ar3変態点以上から
の直接焼入れを確保するため、圧延仕上温度はいずれも
800℃以上とした。また、焼戻し温度は500〜63
0℃の範囲とした。また、鋼L(鋼番27)は加熱圧延
後に、一旦空冷し、その後2相域に再加熱後焼入れ、焼
戻しを行ったものである。
【0060】供試鋼板の板厚中央部より、引張試験およ
びシヤルピー衝撃試験を圧延方向の直角の方向から採取
し、HT590鋼としての母材の機械的性質を評価し
た。また、音響異方性は、JIS Z 3060に規定
された超音波試験に準拠して評価し、音速比が1.02
0以下を基準に良否を判断した。これらの試験結果を、
表2−1、表2−2に併せて示す。
【0061】溶接割れ感受性は、JIS Z 3158
に準拠した斜めy型溶接割れ試験による評価に加え、J
IS Z 3101に準拠した溶接熱影響部の最高硬さ
試験及びJIS Z 3115に準拠した溶接熱影響部
のテーパ硬さ試験におけるショートビード硬さ、アーク
ストライク硬さを評価した。溶接割れ感受性の評価に際
しては、いずれもHT590鋼用の極低水素系の溶接材
料を用いて、雰囲気温度20℃、湿度60%、試験片初
期温度25℃の条件で行った。試験結果を、図8として
示す表3に示す。
【0062】まず溶接割れ試験に関しては、比較鋼の一
部(鋼I、鋼K、鋼L)を除いて予熱温度:25℃の条
件で、溶接低温割れは認められなかった。従って、本発
名鋼の割れ防止予熱温度は25℃以下である。一方、鋼
IはPcmは0.21%であるがBを含有するため、ま
た鋼K、LはPcmが高いため、いずれも溶接割れ感受
性が高く、予熱温度25℃で5〜20%の低温割れが発
生している。
【0063】更に、本発名鋼は、HAZの最高硬さ試験
に加え、テーパ硬さ試験におけるショートビード硬さ、
アークストライク硬さが比較鋼に比して著しく小さい。
このことは、本発明鋼が鋼構造物の現場施工において多
用される小入熱の点付け溶接や仮付け溶接等の溶接に課
せられる種々の制限を緩和できることを意味する。
【0064】鋼番1〜6及び鋼番7〜10は、鋼A及び
鋼Bを用いて、熱間圧延条件を変化させた場合の結果で
ある。靭性は、直接焼入れ後に2相域焼入れ−焼戻しを
実施しているため、いずれも十分なレベルにある。強度
は、950℃以下の累積圧下を加えない鋼番1あるいは
鋼番7はHT590鋼として不十分であるが、950℃
以下で20%以上の累積圧下を加えた他の鋼板は、HT
590鋼としての強度水準を満足する。
【0065】制御圧延によるこの強度の上昇は、上述し
たように、2相域に再加熱した際のオーステナイト変態
サイトが増加し硬質相の面積率が上昇することに加え、
その後の焼入れで生じる硬質相自体の硬さの上昇にあ
る。すなわち硬質相自体の硬さは、950℃以下の累積
圧下を加えない場合(鋼番1)は254Hvであるのに
対し、累積圧下を20%、50%と増加すると(鋼番
3、鋼番6)、271Hv、290Hvと上昇すること
が確認された。
【0066】一方、CRを大きくとり、圧延仕上温度が
低下しすぎると、オーステナイトの未再結晶域での圧下
が加わり音響異方性が大きくなる。すなわち、950℃
以下で50%ないし55%の圧下を加えて圧延仕上温度
が800℃となった鋼番6、鋼番10では、音響異方性
が認められる。しかし、圧延仕上温度が850℃以上に
ある鋼番1〜5、鋼番7〜9は音響異方性が小さい。
【0067】鋼番11〜13は鋼Cにおける板厚75m
m材、鋼番14、15及び鋼番16〜18は鋼D及び鋼
Eにおける板厚100mm材の結果である。950℃以
下で20%以上の累積圧下を施し、圧延仕上温度が85
0℃以上の場合には、HT590鋼の強度と良好な音響
異方性を有している。同様の結果は、本発明の範囲内で
合金成分を変化させた鋼F〜G(鋼番19〜21)にお
いても認められる。
【0068】これに対して、鋼番22〜27は、合金成
分が本発明の範囲外にある鋼H〜Lを用い、本発明の範
囲内の製造条件にて、鋼板を製造した結果である。鋼番
22及び鋼番24(鋼H及び鋼J)は、強度、靭性、溶
接性、音響異方性はいずれも良好であるが、Nb含有鋼
であるため降伏比が高い。
【0069】鋼番23(鋼I)は、Nb、Bをいずれも
含有するため、極めて高い強度、良好な靭性、音響異方
性を有するが、降伏比が80%を超え、また、25℃の
予熱条件で溶接低温割れが発生している。さらに、鋼番
25、26(鋼K)は、強度、降伏比、靭性、音響異方
性はいずれも良好であるが、Pcmが高いため、25℃
の予熱条件で溶接低温割れが発生している。鋼番27
(鋼L)は、機械的性質は本発明鋼と同程度の水準にあ
るが、溶接割れ感受性が高い。すなわち、直接焼入れを
用いない従来の方法では、機械的性質を満たすことがで
きる鋼成分では、溶接割れ感受性に問題が生じ、溶接割
れ感受性を改善した鋼成分では機械的性質が不十分とな
ることを示唆している。
【0070】
【発明の効果】以上述べたように、本発明は、溶接割れ
感受性に優れ、かつ音響異方性にも優れる、低降伏比の
590N/mm2 級の高張力鋼の製造方法を提供するも
のである。このことは、HT590鋼を必要とする、種
々の建築構造物に適用できることを示唆し、同時にそれ
らの施工において、施工コストの低減に大きく寄与する
ものである。更に、本発明により製造される鋼材は、小
入熱溶接における割れ感受性にも優れるため、例えば、
建築構造物の施工に際しての点付け溶接の禁止やショー
トビードの最低長さの規制等の種々の制限を緩和するこ
とが可能となる。また、本発明は、鋼板を対象とするも
のであるが、本発明の思想は、他の鋼材製造プロセス、
例えば形鋼の製造に応用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】DQ−Q´−T処理で製造した板厚75mmの
Nb含有鋼、Nb非含有鋼の引張強さと降伏比の関係を
示した図である。
【図2】板厚60mm材の、950℃以下の累積圧下率
と引張強さ関係を示す図である。
【図3】板厚60mm材の、950℃以下の累積圧下率
と降伏比の関係を示す図である。
【図4】板厚60mm材の鋼板の圧延仕上温度と音響異
方性の関係を示す図である。
【図5】供試鋼の化学成分を表1として示す図である。
【図6】供試鋼板の製造条件及び機械的性質、音響異方
性の結果を表2−1として示す図である。
【図7】供試鋼板の製造条件及び機械的性質、音響異方
性の結果を表2−2として示す図である。
【図8】供試鋼板の溶接割れ感受性試験の結果を表3と
して示す図である。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.06〜0.11%、
    Si:0.01〜0.4%、Mn:0.5〜1.6
    %、、Al:0.01〜0.06%、Mo:0.1〜
    1.0%、V:0.01〜0.1%を含有し、かつ、P
    cm:0.22以下を満たし、残部が鉄および不可避的
    不純物よりなる鋼を、1000〜1250℃に加熱し、
    950℃以下で20%以上の累積圧下を加え熱間圧延
    し、圧延終了後Ar3変態点以上から直接焼入れし、つ
    いでAcl点以上Ac3点以下の2相域温度に再加熱後
    焼入れし、さらにAc1点以下500℃以上にて焼戻し
    処理を行うことを特徴とする、溶接割れ感受性に優れた
    低降伏比高張力鋼の製造方法。
  2. 【請求項2】 前記鋼が、更に、重量%で、Cu:0.
    5%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.5%以下の
    うち1種もしくは2種以上を含有することを特徴とす
    る、請求項1に記載の溶接割れ感受性に優れた低降伏比
    高張力鋼の製造方法。
  3. 【請求項3】 前記熱間圧延の圧延仕上温度が850℃
    以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の
    溶接割れ感受性に優れた低降伏比高張力鋼の製造方法。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002060839A (ja) * 2000-08-23 2002-02-28 Nkk Corp 溶接割れ感受性に優れた低降伏比780N/mm2級高張力鋼の製造方法
JP2008189973A (ja) * 2007-02-02 2008-08-21 Jfe Steel Kk 強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法
JP2008208439A (ja) * 2007-02-27 2008-09-11 Jfe Steel Kk 強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法

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