JP2008189973A - 強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03〜0.18%、Si:0.01〜0.55%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.005〜0.1%、N:0.005%以下を含む組成の鋼素材を、1000〜1350℃の範囲の温度に加熱したのち、圧延終了温度が表面温度でAr3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上の範囲の温度となる圧延を施し所望板厚の鋼板とする熱間圧延と、空冷超えの冷却速度で、鋼板の平均温度で620℃以下の温度域まで冷却する加速冷却と、誘導加熱装置を用いて、鋼板の板厚中心温度が580℃以下、鋼板表面の最高到達温度が580〜700℃の範囲の温度となるように加熱する焼戻処理とを施す。これにより、生産性の低下および製造コストの高騰を招くことなく、480MPa以上の降伏強さと、vTrsが−80℃以下の優れた低温靭性とを有し、かつTS×Elが30,000MPa%以上の強度−伸びバランスに優れた高張力鋼板を安定して製造できる。
【選択図】なし
Description
耐震性向上の観点からは、従来から、低降伏比し、さらには高一様伸び化して、塑性変形能を高めることが推奨されている。また、ラインパイプなどでは、全伸び(一様伸び+局部伸び)が大きいことが要求される。これは、外部応力により変形が始まってから破壊するまでに変形する量が大きいことを意味しており、鋼材に対する安全性の指標となっている。全伸びに占める一様伸びの比率は、引張試験片の標点距離が長いほど大きくなるが、長標点引張試験片であっても一般的に使用されている引張試験片の範囲内では、局部伸びの割合も40〜50%程度あることが多いため、全伸びを大きくするためには、一様伸びと局部伸びのいずれも大きくする必要がある。
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、生産性の低下および製造コストの高騰を招くことなく、480MPa以上の降伏強さと優れた低温靭性とを有し、かつ強度−伸びバランスに優れた高張力鋼板を安定して製造できる、経済性に優れた、高張力鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
(c)表層のみを優先的に加熱する焼戻処理を施すことにより、伸びが向上すること、
(d)上記した焼戻処理により、鋼板表面硬さが低下し、鋼板内の表面硬さのばらつき、板厚方向の硬さばらつきが軽減すること、
を知見した。また、
(f)表層のみを優先的に加熱する焼戻処理には、誘導加熱装置を利用し、表層に誘導電流を集中させることが有効であること、
に想到した。
(1)質量%で、C:0.03〜0.18%、Si:0.01〜0.55%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.005〜0.1%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材に、該鋼素材を1000〜1350℃の範囲の温度に加熱したのち、圧延終了温度が表面温度でAr3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上の範囲の温度となる圧延を施し所望板厚の鋼板とする熱間圧延を施し、該熱間圧延終了後、空冷超えの冷却速度で、鋼板の平均温度で620℃以下の温度域まで冷却する加速冷却と、該加速冷却終了後、誘導加熱装置を用いて、鋼板の板厚中心温度が580℃以下、鋼板表面の最高到達温度が580〜700℃の範囲の温度となるように、加熱する焼戻処理と、を施すことを特徴とする、降伏強さ:480MPa以上の高強度を有し、かつ強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.025%以下を含有することを特徴とする高靭性高張力鋼板の製造方法。
まず、使用する鋼素材の組成限定理由について説明する。なお、組成における質量%は、単に%で記す。
Cは、鋼板の母材強度を増加させる元素であり、所望の高強度を確保するために、0.03%以上の含有を必要とする。0.03%未満の含有では、Cu、Ni,Cr、Moなどの焼入性向上元素の多量含有を必要とし、製造コストの高騰、溶接性の低下を招くとともに、大入熱溶接が施される場合には、溶接金属へのCの希釈が少なくなり、所望の溶接継手部強度の確保が困難となる。一方、0.18%を超える過剰な含有は、鋼板母材の靭性および耐溶接割れ感受性の低下を招き、また溶接継手部靭性の低下を招く。このため、Cは0.03〜0.18%の範囲に限定した。
Siは、鋼板の母材強度および溶接継手部強度を確保するうえで有効な元素であり、本発明では0.01%以上の含有を必要とする。しかし、0.55%を超える多量の含有は、耐溶接割れ感受性の低下と、溶接継手部靭性の低下を招く。このため、Siは0.01〜0.55%の範囲に限定した。
Mn は、鋼板の母材強度および溶接継手部強度を確保するうえで有効な元素であり、本発明では、0.5%以上の含有を必要とする。しかし、2.0%を超える多量の含有は耐溶接割れ感受性を低下させるとともに、必要以上の焼入性の向上を招き母材靭性および溶接継手部靭性を低下させる。このため、Mnは0.5〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは、1.6%以下である。
Alは、鋼の脱酸剤として作用するとともに、Nと結合し結晶粒を微細化し、母材靭性の向上に寄与する元素であり、脱酸剤としての効果を確保するためには0.005%以上、また、結晶粒の微細化のためには0.01%程度以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、母材靭性を低下させる。このため、Alは0.005〜0.1%の範囲に限定した。
Nは、Al、Nb等と反応し析出物を形成し、結晶粒を微細化し、母材靭性を向上させるとともに、鋼板の母材強度向上に寄与する。このような効果は、N:0.0005%以上の含有で顕著となるが、0.005%を超える含有は、母材靭性および大入熱溶接継手部靭性を低下させる。このため、Nは0.005%以下、好ましくは0.0005%以上に限定した。
Cu:0.8%以下、Ni:2%以下、Cr:1%以下、Mo:0.8%以下、Nb:0.05%以下、V:0.1%以下、B:0.002%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Bは、いずれも、鋼板強度の増加に寄与する作用を有する元素であり、更なる高強度が要求される場合など、必要に応じて1種または2種以上を含有できる。
Niは、焼入れ性向上を介して、上記した鋼板強度の増加に寄与するとともに、耐候性、靭性を向上させる作用を有する。このような効果を確保するためには、0.05%以上含有することが望ましいが、2%を超える含有は、材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Niは2%以下に限定することが好ましい。
Moは、焼入れ性の向上、さらに析出物の形成を介して上記した鋼板強度の増加に寄与する元素であり、必要に応じて添加できるが、一方、0.8%を超える含有は必要以上の焼入れ性の増加を招くとともに、溶接性を低下させる。このため、含有する場合には、Moは0.8%以下に限定することが好ましい。
Bは、ごく微量の添加で焼入性を高め、焼入性向上を介して上記した鋼板強度の増加に有効に寄与する元素であり、このような効果を得るためには0.0005%以上含有することが好ましい。一方、0.002%を超える含有は、BNの形成が顕著となり、焼入性が低下するとともに、溶接熱影響部の硬化が著しくなる。このため、含有する場合には、Bは0.002%以下に限定することが好ましい。
Tiは、析出物を形成し、組織を微細化させる作用を有するとともに、TiNを形成し、BがNと結合するのを防止して、焼入性に有効なB量の確保に有効に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには0.005%以上含有することが好ましいが、0.025%を超える含有は、鋼板靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Tiは0.025%以下に限定することが好ましい。
Caは、MnS等の、靭性に悪影響を及ぼす硫化物の形態を、靭性向上に有利な球状に近い形態に制御する作用を有する元素であり、必要に応じて含有することができる。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが好ましいが、0.005%を超える含有は、鋼の清浄性を低下させる。このため、含有する場合には、Caは0.005%以下に限定することが好ましい。
上記した組成の鋼素材の製造方法は、本発明ではとくに限定する必要はなく、通常公知の方法がいずれも適用できる。上記した組成の溶鋼を、転炉等の公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊圧延法等の公知の方法でスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
熱間圧延の加熱温度:1000〜1350℃
鋼素材の加熱温度は、1000〜1350℃とする。加熱温度が1000℃未満では、鋼素材中の合金元素を均一化し、Mo、Nb、V等の析出物強化元素を固溶させることが不十分となり、所望の強度、靭性を確保できなくなる。一方、加熱温度が1350℃を超えると、結晶粒が粗大化し母材の靭性低下を招く恐れがある。このため、鋼素材の加熱温度は1000〜1350℃の範囲の温度に限定した。なお、好ましくは1250℃以下である。
本発明では、オーステナイト(γ)粒の微細化のために、熱間圧延の圧延終了温度を、表面温度で、Ar3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上の範囲に限定する。圧延終了温度が、表面温度で、Ar3変態点以上では、γ粒が粗大化し靭性が低下する。一方、圧延終了温度が(Ar3変態点−80℃)未満と低温となると、板厚中心部近傍まで加工されたフェライトが形成され、伸びが低下する。このようなことから、熱間圧延の圧延終了温度はAr3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上に限定した。
Ar3(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo ……(1)
(ここで、C、Mn、Cu、Cr、Ni、Mo:各元素の含有量(質量%))
により、含有する合金元素量から算出することもできる。なお、上記した(1)式においては、含まれない元素については、式中の当該元素の含有量を零として計算するものとする。
加速冷却は、熱間圧延終了後、直ちに(好ましくは180s以内に)、空冷超えの冷却速度で冷却を開始し、鋼板の平均温度で620℃以下の温度域まで冷却する処理とする。このような加速冷却を施すことにより、生成したフェライト粒の成長を抑制しフェライト粒の微細化を図るとともに、未変態γのベイナイトへの変態(ベイナイト変態)が促進される。これにより、所望の鋼板強度と優れた母材靭性が確保できる。
本発明における焼戻処理では、鋼板の表層のみを優先的に加熱する処理とする。表層のみを優先的に加熱することにより、熱間圧延で表層近傍に多量に導入された加工フェライト中の転位が消滅して加工フェライトが回復し、鋼板の伸びが向上する。また、表層の加工フェライトとベイナイトが焼戻され軟質化されることにより、鋼板表層の硬さが低下し、鋼板板厚方向の硬さ分布が均一化される。また、鋼板表面のスケール性状等の相違による加速冷却時の冷却速度ばらつきに起因し、同一鋼板内でも表面の硬さにばらつきが存在するが、鋼板の表層のみを優先的に加熱することにより、鋼板内の表面硬さのばらつきが軽減される。本発明では、このような鋼板の表層のみを優先的に加熱する焼戻処理を、例えば、図1に示すような、誘導加熱装置10を利用して行うことができる。誘導加熱装置を利用することにより、表層に誘導電流を集中させ急速加熱することができ、鋼板中心部に比べて表層の温度が高くなる温度分布を与え、表層のみを優先的に加熱することができる。
本発明の焼戻処理においては、目標特性に応じて、鋼板の板厚中心温度が580℃以下、鋼板表面の最高到達温度が580〜700℃の範囲内の温度となるように、加熱温度を設定して、加熱する。このような加熱の制御は、誘導加熱装置の投入電力、周波数等の制御により行うことができる。
(1)引張試験
得られた各鋼板の板厚1/2t部から、引張試験片(JIS5号全厚試験片)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、降伏強さYS、引張強さTS、伸びElを求めた。さらに、得られた引張強さTS、伸びElから、TS×Elを算出し、強度−伸びバランスを評価した。
得られた各鋼板の板厚1/2tの位置を中心として、シャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片)を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrsを求め、低温靭性を評価した。
(3)硬さ試験
得られた厚鋼板の幅方向中央部で、長さ方向中央部から、硬さ試験片(t×15mm×20mm)を採取し、圧延方向に直交する板厚方向断面を研磨し、ビッカース硬度計(試験力:98N)で板厚方向に1mmピッチでビッカース硬さHV10を測定し、板厚方向硬さ分布を求め、最高硬さと最低硬さとの差、ΔHVを算出した。ΔHVが45HV以上である場合を硬さ分布が不均一であるとして評価した。
10 誘導加熱装置
30 テーブルローラ
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.03〜0.18%、 Si:0.01〜0.55%、
Mn:0.5〜2.0%、 Al:0.005〜0.1%、
N:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材に、該鋼素材を1000〜1350℃の範囲の温度に加熱したのち、圧延終了温度が表面温度でAr3変態点未満(Ar3変態点−80℃)以上の範囲の温度となる圧延を施し所望板厚の鋼板とする熱間圧延を施し、該熱間圧延終了後、空冷超えの冷却速度で、鋼板の平均温度で620℃以下の温度域まで冷却する加速冷却と、該加速冷却終了後、誘導加熱装置を用いて、鋼板の板厚中心温度が580℃以下、鋼板表面の最高到達温度が580〜700℃の範囲の温度となるように、加熱する焼戻処理と、を施すことを特徴とする、降伏強さ:480MPa以上の高強度を有し、かつ強度−伸びバランスに優れた高靭性高張力鋼板の製造方法。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.8%以下、Ni:2%以下、Cr:1%以下、Mo:0.8%以下、Nb:0.05%以下、V:0.1%以下、B:0.002%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高靭性高張力鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.025%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高靭性高張力鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.005%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高靭性高張力鋼板の製造方法。
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