JP5630321B2 - 靭性に優れる高張力鋼板とその製造方法 - Google Patents

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本発明は、船舶や海洋構造物、圧力容器、ペンストックなどの鋼構造物に用いられる高張力鋼板とその製造方法に関し、特に板厚が30mm以上、降伏強度が630MPa以上で、母材の強度・靭性に優れるだけでなく、溶接熱影響部の靭性にも優れる高張力鋼板とその製造方法に関するものである。本発明において、降伏強度とは、降伏点(YP)もしくは0.2%耐力(YS)を指す。
船舶や海洋構造物、圧力容器などの各種鋼構造物は、板厚が厚い鋼板等の鋼材を溶接して接合し、所望の形状や構造に仕上げるのが普通である。そのため、これらに用いられる鋼材には、安全性を確保する観点から、母材の靭性に優れるだけでなく、溶接熱影響部の靭性にも優れていることが必要とされる。
しかし、例えば板厚が30mm以上の厚鋼板は、一般に入熱量が80kJ/cm以下の多層溶接で施工されるが、この溶接熱影響部は、加熱と冷却を繰り返す複雑な熱履歴を受けるため、局所的に脆化域が発生しやすく、特に、熱影響部の中でもフェライトとオーステナイトの2相域に加熱されるボンド部(フュージョンライン(FL)ともいう。)近傍では、著しい脆化が起こることが知られている。その原因は、上記のような領域では、複数回の加熱・冷却を受ける際に何度も変態が起こり、組織が細粒化するため焼入性が低下し、靭性を低下させる島状マルテンサイトが形成される上部ベイナイト組織になるためであるといわれている。
上記問題に対する対策としては、鋼中にTiNを均一に微細分散させることによって、オーステナイトの粗大化を抑制すると共に、フェライトの変態核としても利用する技術が実用化されている。また、特許文献1には、Ti酸化物等を鋼中に微細分散させて、溶接熱影響部におけるオーステナイト粒の粗大化を防止し、フェライト粒を微細化することで、溶接熱影響部の靭性を向上させる技術が開示されている。しかし、これらの技術は、フェライトを母相とする比較的低強度の鋼材を対象としているため、溶接熱影響部がフェライトを含まない組織となる高強度の鋼板には、このフェライト粒微細化による溶接熱影響部の靭性向上効果を望むことはできない。
また、2相域加熱部、つまり最初の溶接時に融点近傍まで加熱された領域が、後続する溶接の再加熱によってフェライトとオーステナイトの2相域になる領域が最も脆化する理由は、後続の溶接による再加熱によって、オーステナイト領域にCが濃化し、この部分が冷却時に島状マルテンサイト生成を伴う上部ベイナイト組織を形成するためである。また、この領域は、粗大な島状マルテンサイトが容易に形成されるため、脆性破壊の起点となり易い。
このC濃化による溶接熱影響部の靭性低下に対しては、例えば、特許文献2には、鋼を低C化および低Si化し、島状マルテンサイトの生成を抑制した上で、さらにCuを添加することで、母材強度を確保する技術が開示されている。また、特許文献3には、低C化して溶接熱影響部の靭性を向上した上で、Cu添加により強度を高める技術が開示されている。しかし、これらの技術は、時効処理によるCuの析出強化を利用して強度を高めるものであるが、多量のCu添加を必要とするため、熱間加工時に脆性を起こし易く、製造性や品質面で問題が多い。
特開2001−323336号公報 特開平05−186823号公報 特開2001−335884号公報
さらに、上記従来技術には、以下のような解決すべき課題が残されている。
例えば、TiNを利用する技術では、TiNが溶解する温度域まで加熱される溶接ボンド部近傍では、オーステナイトの粗大化を抑制する作用が無くなるだけでなく、溶解によってTiおよびNが母材中に固溶し、靭性を著しく低下させるという問題がある。また、Ti酸化物等を利用する技術では、酸化物等を鋼中に均一に微細分散させることが難しいという問題がある。さらに、近年では、構造物が大型化するのに伴い、使用される鋼材の高強度化や厚肉化が要求されており、それらの要求に応えるためには、従来技術以上に合金元素を添加することが必要となる。しかし、合金元素の過度の添加は、溶接熱影響部の靭性を低下させるため、好ましくないという問題もある。
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、板厚30mm以上、降伏強度が630MPa以上で、母材の強度・靭性に優れるとともに、溶接熱影響部の靭性にも優れる高張力鋼板とその有利な製造方法を提案することにある。
発明者らは、厚肉かつ高強度が求められる鋼板の母材強度・靭性を向上するだけでなく、溶接熱影響部の靭性をも改善する方法について、鋭意検討を重ねた。その結果、溶接熱影響部のボンド部近傍における靭性低下は、多層溶接時に2相域に加熱される部分に形成される島状マルテンサイトを含む脆化組織の生成に起因するものであることを確認するとともに、上記島状マルテンサイトに対する対策が、従来技術ではまだ不十分であることを知見した。
そこで、発明者らは、上記脆化組織を改善する方法についてさらに検討した結果、従来技術のように単にCを低減するだけでは不十分であり、さらに、生成する島状マルテンサイトの大きさ(面積)を小さくすると共に、島状マルテンサイトの硬さを低減してマトリックス組織との硬度差を小さくしてやる必要があること、そして、その達成手段としては、母材成分中のMn,NiおよびCrを適正量添加し、Cを低減してやることが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、C:0.013〜0.135mass%、Si:0.3mass%以下、Mn:0.7〜5mass%、P:0.015mass%以下、S:0.005mass%以下、Cr:3mass%以下、Ni:5mass%以下、Al:0.010〜0.08mass%、N:0.007mass%以下、B:0.0003〜0.003mass%を含有し、かつ、Mn,Ni,CrおよびCが下記(1)式;
Mn+Ni+Cr−12.5×C≧2.6(mass%) ・・・(1)
ここで、上記式中の各元素記号は、その元素の含有量(mass%)を示す。
を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、入熱量が80kJ/cm以下の多層溶接を施したときの溶接熱影響部に形成される島状マルテンサイトの平均面積が3μm以下である板厚が30mm以上の高張力鋼板である。
本発明の高張力鋼板は、上記成分組成に加えてさらに、Cu:0.5mass%以下、Mo:1mass%以下、V:0.2mass%以下Nb:0.010mass%以下およびTi:0.007mass%未満のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
また、本発明の高張力鋼板は、上記成分組成に加えてさらに、Ca:0.0005〜0.003mass%およびREM:0.0003〜0.003mass%のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする。
また、本発明は、上記いずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を、Ac変態点〜1200℃の温度に加熱後、累積圧下率50%以上の熱間加工を施し、次いで、そのままAr変態点以上の温度から板厚中心部の温度が350℃以下になるまで1℃/s以上で冷却して鋼板全体を焼き入れし、あるいは、放冷してからAc変態点〜1050℃の温度に再加熱した後に板厚中心部の温度が350℃以下になるまで1℃/s以上で冷却して鋼板全体を焼き入れし、その後、450〜650℃の温度で焼戻処理を施す高張力鋼板の製造方法を提案する。
本発明によれば、板厚が30mm以上で、降伏強度が630MPa以上の高強度を有し、母材の靭性にも優れると共に、多層溶接した熱影響部の靭性にも優れる高張力鋼板を安定して製造することが可能となる。
本発明の(1)式左辺(Mn+Ni+Cr−12.5×C)の値と、溶接部靭性vE−60との関係を示すグラフである。
上述したように、発明者らは、厚肉かつ高強度が求められる鋼板(母材)の強度・靭性を向上するとともに、溶接熱影響部の靭性をも改善する方法について、検討を重ねた結果、溶接熱影響部のボンド部近傍における靭性低下は、多層溶接時の2相域加熱部に形成される島状マルテンサイトを含む脆化組織の生成に起因することを確認した。そして、上記島状マルテンサイトによる溶接熱影響部のボンド部近傍の靭性低下を改善するには、従来技術のように単にCを低減するだけでは不十分であり、さらに、生成する島状マルテンサイトの大きさを、平均面積で3μm以下に小さくすると共に、島状マルテンサイトの硬さを低減してマトリックス組織との硬度差を小さくしてやる必要があること、そして、その達成手段としては、所定の成分組成を満足した上で、母材成分中のC,Mn,NiおよびCrを下記(1)式;
Mn+Ni+Cr−12.5×C≧2.6(mass%) ・・・(1)
(上記式中の各元素記号は、その元素の含有量(mass%)を示す。)
を満たして含有させる必要があることを見出した。
ここで、上記(1)式の意味するところは、以下のとおりである。
MnおよびNiは、オーステナイト安定化元素であるため、これらの元素の含有量を高めることによって、オーステナイト中に固溶するCの濃度上昇を抑制することができる。さらに、炭化物安定化元素であるCrを添加し、析出した炭化物の再溶解を抑制することによっても、オーステナイト中に固溶するC濃度をより低減させることができる。これらの固溶C濃度の低下効果によって、溶接熱影響部に生成する島状マルテンサイトの一つ一つを微細化し、平均面積で3μm以下とすることができると共に、島状マルテンサイトの硬さを低下し、マトリックス組織との硬度差を小さくすることができる。その結果、島状マルテンサイトが破壊の起点になり難くなり、溶接部の靭性を顕著に向上することが可能となる。
参考として、図1に、後述する本発明の成分組成を満たす鋼において、上記(1)式の左辺(Mn+Ni+Cr−12.5×C)の値が、溶接部靭性に及ぼす影響を調査した結果を示した。なお、溶接部靭性の評価方法は、後述する実施例に記載の方法と同様とした。図1から、(1)式の条件を満たすことによって、溶接部の靭性を改善することができることがわかる。
なお、本発明における溶接熱影響部に形成される島状マルテンサイトの平均面積とは、溶接熱影響部の断面において観察される個々の島状マルテンサイトの面積の平均値のことを意味する。また、その測定方法としては、例えば、溶接熱影響部の断面を2段エッチングして島状マルテンサイトを現出させた後、2相域に加熱されるボンド部近傍を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3000倍で10視野撮影し、画像解析して個々の島状マルテンサイトの面積を測定し、それを平均することで求めることができる。
次に、本発明の鋼板が有すべき成分組成について具体的に説明する。
C:0.005〜0.2mass%
Cは、構造用鋼としての本発明の鋼板に求められる強度(降伏強度≧630MPa)を確保するために必要不可欠の元素である。Cが0.005mass%未満では、上記必要な強度を確保することができなかったり、他の合金元素の多量添加が必要となったりするため原料コストの上昇を招く。一方、0.2mass%を超えて添加すると、溶接熱影響部に生成する島状マルテンサイトの生成量が増加し、個々の島状マルテンサイトが粗大化しやすくなり、さらに、島状マルテンサイト中のC濃度も高くなって硬さが上昇するため、溶接熱影響部の靭性が大きく低下してしまう。よって、Cは0.005〜0.2mass%の範囲とする。好ましくは0.01〜0.15mass%の範囲である。
Si:0.3mass%以下
Siは、鋼の脱酸材として、また、鋼の強度を高めるために添加される元素である。しかし、0.3mass%を超えて添加すると、島状マルテンサイトの生成を助長し、溶接熱影響部の靭性を低下させる。よって、Siは0.3mass%以下とする。
Mn:0.5〜5mass%
Mnは、脱酸材として、また、母材強度を確保する観点から0.5mass%以上添加する必要がある。一方、5mass%を超えて添加すると、焼入性が過剰に高まり、溶接熱影響部の靭性を低下させる。よって、Mnは、0.5〜5mass%の範囲とする。好ましくは、0.5〜2mass%の範囲である。
P:0.015mass%以下
Pは、靭性を低下させる有害な元素である。特に、0.015mass%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性を低下させる。よって、本発明では、Pは0.015mass%以下に制限する。
S:0.005mass%以下
Sも、靭性を低下させる有害な元素である。特に、0.005mass%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性が低下する。よって、本発明では、Sは0.005mass%以下に制限する。
Cr:3mass%以下
Crは、鋼(母材)の高強度化に有効な元素であるが、過剰に添加すると却って靭性が低下するので、本発明では上限を3mass%とする。好ましくは0.1〜2.7mass%、より好ましくは0.4〜2.5mass%の範囲である。
Ni:5mass%以下
Niは、鋼(母材)の強度および溶接熱影響部の靭性を向上するのに有効な元素である。しかし、Niは高価な元素であるため、上限を5mass%とする。好ましくは0.5〜5mass%、より好ましくは0.7〜3mass%の範囲である。
Al:0.010〜0.08mass%
Alは、鋼の脱酸のために含有させる元素であるが、鋼中で窒化物を形成して固溶窒素量を低減し、BNの析出を抑制するので、焼き入れに必要なBを確保するのに有効な元素でもある。よって、本発明では、Alを0.010mass%以上含有させる。一方、0.08mass%を超えて含有させると、母材中の固溶Alが増加し、靭性が低下するため、上限は0.08mass%とする。
N:0.007mass%以下
Nは、鋼(母材)中に過剰に固溶すると、母材の靭性を低下させる。また、過剰なNの含有は、溶接熱影響部においても、粗大な窒化物や炭窒化物を形成して靭性を低下させる。よって、本発明では、Nを0.007mass%以下に制限する。
B:0.0003〜0.003mass%
Bは、オーステナイト粒界に偏析して粒界からのフェライト変態を抑制し、ベイナイト変態やマルテンサイト変態を促進する効果があるので、高強度化、高靱性化には有効な元素である。この効果を得るためには0.0003mass%以上の含有が必要である。しかし、0.003mass%を超えて添加すると、炭窒化物となって析出し、焼入性を低下させたり、靭性を低下させたりするようになる。よって、本発明では、Bは0.0003〜0.003mass%の範囲とする。好ましくは0.0005〜0.0020mass%の範囲である。
本発明の高張力鋼板は、上記必須成分に加えてさらに、強度・靭性を高める目的で、Cu,Mo,VおよびNbの中から選ばれる1種または2種以上を下記の範囲で含有させることができる。
Cu:0.5mass%以下
Cuは、低温靭性を損なうことなく鋼の強度を高めることができる元素である。しかし、0.5mass%を超えて含有させると、熱間加工時に鋼板表面に割れを生じるようになるので、含有させる場合には上限を0.5mass%とするのが好ましい。
Mo:1mass%以下
Moは、母材を高強度化するのに有効な元素である。しかし、1mass%を超える多量の含有は、炭化物の析出により硬度が上昇し、靭性を低下させる。よって、Moを含有させる場合には1mass%以下とするのが好ましい。
V:0.2mass%以下
Vは、母材の強度・靭性の向上に有効な元素であり、また、VNとして析出し、固溶Nを低減するのにも有効な元素である。しかし、0.2mass%を超えて含有させると、硬質なVCの析出により靭性が低下するようになるので、Vを含有させる場合には上限は0.2mass%とするのが好ましい。より好ましくは0.1mass%以下である。
Nb:0.1mass%以下
Nbは、鋼の強度を高めるのに有効な元素である。しかし、0.1mass%を超えて含有させると、溶接熱影響部の靭性を低下させるので、Nbを含有させる場合には上限を0.1mass%とするのが好ましい。さらに好ましくは、0.010〜0.020%である。
本発明の高張力鋼板は、上記成分に加えてさらに、機械的特性を改善する目的で、CaおよびREMのうちから選ばれる1種または2種を、Ca:0.0005〜0.003mass%、REM:0.0005〜0.003mass%の範囲で含有させることができる。
CaおよびREMは、有害なOおよびNを酸化物および硫化物として固定し、鋼の機械的特性を改善する効果があるため、それぞれ0.0005mass%以上含有させることができる。しかし、いずれも0.003mass%を超えて含有させても、その効果が飽和するため、上限は0.003mass%とするのが好ましい。なお、上記REM(レア・アース・メタル)とは、La,Ceをはじめとする希土類元素のことをいう。
本発明の高張力鋼板は、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。ただし、本発明の作用効果を害しない範囲であれば、他の成分を含有していてもよい。
なお、本発明においては、母材靭性を確保する観点から、Tiは含有しないことが望ましく、不可避的に含有する場合でも0.007mass%未満に制限するのが好ましい。
次に、本発明の高張力鋼板の製造方法について説明する。
鋼素材
本発明の高張力鋼板の素材となる鋼素材(スラブ、ビレット等)は、上記した成分組成の鋼を、例えば、転炉、電気炉、真空溶解炉等の通常の製錬プロセスで溶製した後、連続鋳造法あるいは造塊−分塊圧延法等、通常公知の方法を用いて製造することができ、特に制限はない。
熱間加工(熱間圧延および/または熱間鍛造)
次いで、本発明では、上記鋼素材をAc変態点〜1200℃の温度に加熱した後、累積圧下率が50%以上の熱間加工し、高張力鋼板とする。ここで、上記の熱間加工とは、熱間圧延、熱間鍛造あるいは熱間鍛造と熱間圧延の組み合せのいずれかの加工方法を意味する。
上記鋼素材の加熱温度を、Ac変態点以上とする理由は、Ac変態点未満の温度では、オーステナイト単相域にならないため、鋼組織の均一性が悪く、製造安定性が著しく低下するからである。また、1200℃以下とする理由は、1200℃を超えて加熱しても、熱エネルギーのロスとなるだけだからである。ここで、上記加熱温度とは、鋼素材の厚さ中心部の温度を指すものとする。厚さ中心部の温度は、鋼素材の厚さ、表面温度および冷却条件などから、シミュレーション計算などで求めることができる。例えば、差分法を用いて厚さ方向の温度分布を計算することにより、厚さ中心部の温度を求めることができる。また、熱間加工における累積圧下率を50%以上とする理由は、鋼素材の板厚中心部まで十分な加工を加えて、鋼組織を微細化するためである。
ここで、上記Ac変態点は、実測して求めることができるが、下記(2)式から算出してもよい。

Ac変態点(℃)=937.2−476.5×C+56×Si−19.7×Mn−16.3×Cu−26.6×Ni−4.9×Cr+38.1×Mo+124.8×V+136.3×Ti−19.1×Nb+198.4×Al+3315×B ・・・(2)
(上記式中の各元素記号は、その元素の含有量(mass%)を示す。)
なお、熱間加工の終了温度は、鋼板組織の均一性を確保する観点から、Ar変態点以上とするのが好ましい。
熱間加工後の冷却、あるいは、熱間加工後の再加熱とその後の冷却
上記のように熱間加工(熱間圧延および/または熱間鍛造)した鋼板は、次いで、そのままAr変態点以上の温度から板厚中心部が350℃以下になるまで急冷するか、あるいは、放冷してからAc変態点〜1050℃の温度に再加熱した後に板厚中心部が350℃以下になるまで急冷する、のいずれかの方法で焼入れする。
ここで、熱間加工後にそのまま急冷する場合に、急冷開始温度をAr変態点以上とする理由は、冷却開始前の組織をオーステナイト単相組織とするためである。なお、この急冷開始温度は、鋼板表面温度とする。
一方、熱間加工した鋼板を再加熱した後に急冷する場合に、再加熱温度を1050℃以下とする理由は、これを超える温度ではオーステナイト粒が粗大化し、母材の靭性が低下するためである。また、再加熱温度をAc変態点以上の温度とする理由は、焼入れ前の鋼板をオーステナイト単相組織とすることにより、焼入れ後、および、焼戻し後の鋼板組織・材質を均質化するためである。これにより、所望の強度・靱性を達成することができる。ここで、上記再加熱温度とは、鋼板の板厚中心部の温度を指すものとする。板厚中心部の温度は、板厚、表面温度および冷却条件などから、シミュレーション計算などで求めることができる。たとえば、差分法を用い、板厚方向の温度分布を計算することにより、板厚中心部の温度を求めることができる。
なお、上記Ar変態点は、実測してもよいが、下記(3)式から求めてもよい。

Ar変態点(℃)=910−273×C−74×Mn−16×Cr−9×Mo−5×Cu ・・・(3)
(上記式中の各元素記号は、その元素の含有量(mass%)を示す。)
また、Ar変態点以上の温度から急冷するときの冷却停止温度を、板厚中心部で350℃以下とするのは、鋼板全体を焼入れするためである。これにより、板厚全体にわたってベイナイトまたはマルテンサイト変態が確実に開始するので、後述する焼戻し処理まで完了した時点において、板厚全体にわたって、焼戻しベイナイト組織または/およびマルテンサイト組織とすることができる。
したがって、Ar変態点以上の温度からの冷却速度も、連続冷却変態図(CCT曲線)のFs点(フェライト変態開始温度)を通過せずに、Bs点(ベイナイト変態開始温度)またはMs点(マルテンサイト変態開始温度)を通過できる速度であればよく、特に限定されないが、概ね1℃/秒以上とするのが好ましい。また、上記急冷する方法は水冷を採用することができるが、上記冷却速度が確保できる方法であれば水冷に限定されるものではなく、ガス冷却でもよい。
上記焼入後の鋼板は、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織となる。
なお、工業的には、鋼の強靭化を目的として、焼入れを繰り返すことがあり、本発明においても、繰り返し焼入れしてもよい。ただし、最終焼入れの際には、上記冷却条件を満たすことが必要である。
焼戻処理
熱間加工後、上記のいずれかの方法で急冷し、焼入れした鋼板は、その後、再加熱し、450〜650℃の温度で焼戻処理を施す必要がある。焼戻温度が450℃未満では、焼入れに伴う残留応力の除去効果が十分ではなく、一方、650℃を超えると、鋼中に種々の炭窒化物が析出するとともに、変態で得られた微細組織が消失し、強度・靭性が大幅に低下してしまうためである。上記焼戻処理により、鋼板組織は、焼戻しベイナイト組織および/または焼戻しマルテンサイト組織となる。なお、その他に、フェライト組織、パーライト組織、残留オーステナイト組織等が存在することもあるが、それらの合計が面積率で5%以下であれば、本発明の作用効果に影響はない。上記のように、本発明の高張力鋼板は、焼入れ後、焼戻処理を施すことが重要であり、これらの熱処理を施すことによって、母材の強度および靭性に優れる鋼板を製造することができる。
表1に示したNo.1〜35の鋼を溶製し、鋼素材(スラブ)とした後、表2に示した条件で、加熱し、累積圧下率が50〜90%の熱間圧延を施して板厚が50〜150mmの鋼板とし、その後、その厚鋼板をそのまま急冷して焼入れし、あるいは放冷した後に再加熱してから急冷して焼入れし、その後、焼戻処理を施して、鋼板No.1〜40の製品鋼板を製造した。斯くして得られた鋼板を下記の試験に供した。
<引張試験>
各鋼板の板厚1/4の位置から、圧延方向を引張方向とするJIS4号引張試験片を採取し、引張試験を実施して降伏強度および引張強さ(TS)を測定した。
<衝撃試験>
各鋼板の板厚1/4の位置から、圧延方向を長手方向とするVノッチシャルピー衝撃試験片を3本ずつ採取し、各試験片について−60℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE−60)を測定し、それらの平均値を求めた。
<溶接後衝撃試験>
各鋼板から採取した2枚の溶接用試験片に、X開先(開先角度45°)加工を施した後、入熱50kJ/cmのサブマージアーク溶接を行い、多層溶接継手を作製した。次いで、この継手の溶接部の板厚1/4の位置から、ボンド部をVノッチ位置とするシャルピー衝撃試験片を各3本ずつ採取し、−60℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE−60)を測定し、それらの平均値を求めた。
<島状マルテンサイトの面積測定>
溶接熱影響部の断面を2段エッチングして島状マルテンサイトを現出させた後、2相域に加熱されるボンド部近傍を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3000倍で10視野撮影し、画像解析して、島状マルテンサイトの平均面積を測定した。
Figure 0005630321
Figure 0005630321
Figure 0005630321
上記の試験結果を表3に示した。この結果から、鋼の成分組成が本発明に適合する発明例の鋼板(鋼板No.1〜25(ただし、No.1,4,5,15および22〜25は参考例))は、いずれも降伏強度が630MPa以上、引張強さが720MPa以上、母材のvE−60が120J以上であり、母材の強度・靭性に優れていることがわかる。さらに、溶接部vE−60は70J以上の靭性を有しており、溶接部の靭性にも優れていることがわかる。
これに対して、本発明の成分組成を外れる比較例の鋼板(鋼板No.31〜40)は、母材の降伏強度が630MPa未満、引張強さが720MPa未満、靭性vE−60が120J未満もしくは溶接部の靭性vE−60が70J未満のいずれか1以上であり、母材の強度・靭性および溶接部の靭性のいずれか1以上の特性が劣っている。
また、表3の鋼板No.26〜30に示すように、鋼の成分組成が本発明に適合する鋼板でも、焼入条件や焼戻条件が本発明に適合していない場合には、母材の強度・靭性のいずれか1以上の特性が劣っていることが認められる。
Figure 0005630321

Claims (4)

  1. C:0.013〜0.135mass%、Si:0.3mass%以下、Mn:0.7〜5mass%、P:0.015mass%以下、S:0.005mass%以下、Cr:3mass%以下、Ni:5mass%以下、Al:0.010〜0.08mass%、N:0.007mass%以下、B:0.0003〜0.003mass%を含有し、かつ、Mn,Ni,CrおよびCが下記(1)式を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、入熱量が80kJ/cm以下の多層溶接を施したときの溶接熱影響部に形成される島状マルテンサイトの平均面積が3μm以下である板厚が30mm以上の高張力鋼板。

    Mn+Ni+Cr−12.5×C≧2.6(mass%) ・・・(1)
    ここで、上記式中の各元素記号は、その元素の含有量(mass%)を示す。
  2. 上記成分組成に加えてさらに、Cu:0.5mass%以下、Mo:1mass%以下、V:0.2mass%以下Nb:0.010mass%以下およびTi:0.007mass%未満のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高張力鋼板。
  3. 上記成分組成に加えてさらに、Ca:0.0005〜0.003mass%およびREM:0.0003〜0.003mass%のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高張力鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼素材を、Ac変態点〜1200℃の温度に加熱後、累積圧下率50%以上の熱間加工を施し、次いで、そのままAr変態点以上の温度から板厚中心部の温度が350℃以下になるまで1℃/s以上で冷却して鋼板全体を焼き入れし、あるいは、放冷してからAc変態点〜1050℃の温度に再加熱した後に板厚中心部の温度が350℃以下になるまで1℃/s以上で冷却して鋼板全体を焼き入れし、その後、450〜650℃の温度で焼戻処理を施す高張力鋼板の製造方法。
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