以下、添付図面に従って本発明に係る塗布方法及び装置の好ましい実施の形態について説明する。
まず、本発明に係る塗布装置の第1の実施形態について説明する。本実施形態は、塗工用ローラの回転により液受けパンから汲み上げた処理液をブレードで所定塗布量に計量して中間転写体12(基材)に塗布する塗布装置10において、ブレードが当接された塗工用ローラの両端部に形成されるメニスカスを除去する方法の一例である。なお、以下では、塗工用円柱体としてグラビアローラを使用したダイレクトグラビアコーター方式の例で説明する。
図1は、本実施形態における塗布装置10の概略構成の一例を示す概略斜視図である。図2は、図1のグラビアローラ14の周辺構成の一部をY方向からみた正面図である。同図において、処理液を斜線部で示している。
図1に示すように、塗布装置10は、主として、処理液を中間転写体12に転写塗布するためのグラビアローラ14と、該グラビアローラ14の表面に保持された余剰の処理液を掻き落とすためのブレード16と、グラビアローラ14の端面14Bとブレード16の先端部とが交差する位置に形成されるメニスカスに圧縮エアを吹付ける一対のエア吹付けノズル18と、より構成されている。なお、本実施形態では、中間転写体12の搬送方向を矢印Aで示し、グラビアローラ14の回転方向は中間転写体12の搬送方向とは逆である場合について説明するが、これに限定されるものではない。
グラビアローラ14は、その下端周面の一部が液受けパン20内の処理液に浸漬されている。グラビアローラ14の周面には、ピラミッド型や格子型(角錐台型)などに彫られた精密なセルが所定の密度で多数形成される。グラビアローラ14の周面におけるセルの配列形態は特に限定されないが、回転方向に対して直交しない斜め方向の線に沿ってセルが並ぶ形態が好ましい。セルの形状、深さ(深度)、セル容積、密度等は、塗布すべき液量(塗布後の液膜の厚さ)に応じて適宜選択される。
グラビアローラ14の回転駆動手段(図示せず)としては、インバータモータによるダイレクト駆動(軸直結)が好ましい態様であるが、これに限らず、各種モータと減速機(ギア等)との組み合わせや、各種モータとタイミングベルト等の巻き掛け伝動手段との組み合わせ等であってもよい。
ブレード16は薄板状に形成され、図示しない押圧機構(例えば押圧ネジ)により、所定の押圧力でグラビアローラ14側に付勢されている。ブレード16の幅は、グラビアローラ14の周面全幅に保持された処理液を均一に掻き取る上で、グラビアローラ14の幅と略同一又はそれよりも長くすることが好ましい。
このような構成により、液受けパン20内の処理液がグラビアローラ14の周面に汲み上げられ、ブレード16によって余剰の処理液が掻き落とされた後、中間転写体12に転写塗布される。
一対のエア吹付けノズル18は、ブレード16の先端部とグラビアローラ14の端面14Bとの境界に形成されるメニスカスを除去するために設けられている。エア吹付けノズル18は配管22を介してコンプレッサ23と接続されており、圧縮エアを吹き付けられるようになっている。
エア吹付けノズル18は、図2に示すように、エア吹付け口がグラビアローラ14の側面14Bに対して所定の傾斜角度θ1をなして外側を向くように配置される。傾斜角度θ1は、5〜60°とすることが好ましい。これは、傾斜角度θ1が5°よりも小さいと、ブレード16に対して跳ね返った処理液が周面14Aに付着する虞があり、60°を超えると塗布装置10の周囲に処理液を飛散させて周辺部材を汚染する虞があるためである。
エアの吹付け圧力は、メニスカスを十分に除去でき且つグラビアローラ14の周面のセル内に保持された処理液に悪影響を及ぼさない範囲に設定される。具体的には、エア吹付け圧力は、0.2〜0.5MPaの範囲であることが好ましい。これは、エアの吹付け圧力が高すぎると、グラビアローラ14の周面のセル内に保持されている塗布に必要となる処理液まで吹き飛ばされて塗布精度を低下させる虞があるためである。
エアの吹付けは、グラビアローラ14の回転と同期させることが好ましい。
図3は、エアの吹付けのタイミングを説明するタイムチャートである。図3に示すように、グラビアローラ14の回転開始と同時にエアの吹付けを開始し、グラビアローラ14の回転停止と同時にエア吹付けを停止する。
これは、グラビアローラ14の停止時においてもエア吹付けノズル18を常時駆動させた場合、グラビアローラ14の周面の処理液が乾燥・固着してセルを埋める虞がある。この状態で、再度グラビアローラ14を駆動すると、グラビアローラ14の周面のセル内に十分処理液が入らなくなり、塗布精度が低下する原因となるためである。また、中間転写体12とグラビアローラ14との摩擦によって中間転写体12を損傷するのを防止するために、中間転写体12の搬送とグラビアローラ14の回転駆動も同期させることが好ましい。
このような本実施形態によれば、エア吹付けノズル18から圧縮エアを吹き付けることで、グラビアローラ14の端面14Bとブレード16の先端部との境界に生じるメニスカスを除去できる。これにより、グラビアローラ14周面の両端部が液量過多になるのを抑制し、中間転写体12に転写塗布した際に、厚塗りが生じるのを抑制できる。
また、エアをグラビアローラ14の幅方向内側から幅方向外側に向けて吹き付けるため、メニスカス液はグラビアローラ14の幅方向外側へ吹き飛ばされる。これにより、メニスカス液がグラビアローラ14の周面に再付着したり、ブレード16の先端部を通じてグラビアローラ14の幅方向中央側へ流入したりするのを抑制できる。したがって、グラビアローラ14の全幅において塗布精度を向上できる。
さらに、グラビアローラ14の回転とエアの吹付けを同期させることにより、グラビアローラ14の周面の処理液が乾燥・固着するのを防止できる。したがって、塗布精度を低下させることもない。
本実施形態では、メニスカス除去手段としてエア吹付けノズル18を用いた例で説明したが、メニスカスを除去できる手段であれば上記実施形態に限定されることはなく、各種態様を採ることができる。
図4は、本実施形態における塗布装置10の別の態様を示す概略斜視図である。図5は、図4のグラビアローラ14の周辺構成の一部をY方向からみた正面図である。
図4に示すように、メニスカス除去手段として、エア吹付けノズル18の代わりに回転自在に構成された吸水ローラ24と、該吸水ローラ24で吸収した処理液の回収・供給機構26と、を設けた以外は図1と同様に構成されている。
一対の吸水ローラ24は、一部がグラビアローラ14の周面と接するように回転軸28に取り付けられている。吸水ローラ24は、図示しない駆動機構によって回転させてもよいが、グラビアローラ14との摩擦力により従動回転させることが好ましい。これにより、吸水ローラ24の駆動機構を別途設ける必要がなく、設備コストを低減できる。
回転軸28の内部は空洞となっており、上記吸水ローラ24が取付けられる部分の表面には吸い取った処理液を取り込むための通水孔(不図示)が設けられている。回転軸28の端部には回収配管30を介して真空ポンプ等の負圧源32が接続されている。これにより、回転軸28内の空洞は常に負圧に維持されている。
回収配管30は処理液貯留部34と連通しており、吸水ローラ24により回収された処理液が一旦貯留される。処理液貯留部34は、チューブポンプ等の送液ポンプ36及び供給配管38を介して液受けパン20と連通している。
これにより、吸水ローラ24により吸収された処理液は、通水孔(不図示)から回転軸28内部の空洞に取り込まれ、回収配管30を介して処理液貯留部34に回収される。回収された処理液は、送液ポンプ36により供給配管38を通じて液受けパン20に再度供給される。
吸水ローラ24は、図5に示すように、メニスカス液、及びグラビアローラ14の幅方向内側に流入する処理液を確実に吸収させる上で、その略中心部がグラビアローラ14の側面14Bに位置するように配置されることが好ましい。
吸水ローラ24の外径は、φ15mm〜100mmの範囲とすることが好ましい。吸水ローラ24は、グラビアローラ14の端面14Bを中心として幅方向内側、外側ともに3〜10mm程度、即ち吸水ローラ24の幅W1は6〜20mmとすることが好ましい。
吸水ローラ24の材質としては、例えば、スポンジのように表面に多数の微細な孔を有する多孔質材等が使用できる。この場合、処理液の吸収を促進する上で、多孔質材の孔径は5〜50μmとすることが好ましい。
多孔質材としては、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、発泡ポリウレタン、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂等が使用できる。回転軸28の空洞内の圧力(即ち、処理液貯留部34内の圧力)は、少なくとも−10kPaとすることが好ましい。
このような本実施形態によれば、吸水ローラ24がグラビアローラ14に対して従動回転すると共に、グラビアローラ14の端面14Bとブレード16の先端部との境界に生じるメニスカスを吸収及び除去する。これにより、グラビアローラ14周面の両端部が液量過多となるのを抑制し、中間転写体12に転写塗布した際に厚塗りが生じるのを抑制できる。
さらに、本実施形態では、吸水ローラ24から回収した余剰の処理液を塗布に再利用できるので、処理液を効率よく使用できる。また、吸水ローラ24からメニスカス液を吸収除去するのでメニスカス液を外部に飛散させることもない。このため、特に処理液が酸性である場合においても周辺部材を腐食させる虞もない。
なお、本実施形態では、吸水ローラ24の一部がグラビアローラ14の周面と当接させて、メニスカス液がグラビアローラ14の幅方向内側に流入するのを抑制するようにしたが、これに限定されることはない。
図6は、吸水ローラ24の別態様を説明する正面図である。図7は、図6においてX方向からみた側面図である。なお、図6において、吸水ローラ24を回転支持する回転軸28や処理液の回収・供給機構26については図4と同様のものが使用できるので、その詳細な説明は省略する。
図6に示すように、吸水ローラ24は、その端面24Bの一部とグラビアローラ14の端面14Bの一部とが相互に接し、且つ吸水ローラ24の表面がブレード16の先端部に接触するように配置される。また、吸水ローラ24の回転駆動機構40が設けられる。
回転駆動機構40は、グラビアローラ14の回転速度を測定する測定部42と、該測定部42による結果に基づいて吸水ローラ24を回転速度を制御する制御部44と、を備えている。これにより、制御部44は、グラビアローラ14の回転速度と同速となるように、回転軸28を駆動して吸水ローラ24を回転させ、機械的又は電気的手段によりグラビアローラ14と吸水ローラ24の回転を同期させる。
吸水ローラ24の端面24Bとグラビアローラ14の端面14Bとのオーバーラップ量dは、図7に示すように、3〜10mmの範囲とすることが好ましい。なお、吸水ローラ24の外径や材質は、既述したのと同様とすることができる。
このように構成することで、回転駆動機構40を作動させることにより、吸水ローラ24をグラビアローラ14と同期させて回転させる。そして、吸水ローラ24の端面とグラビアローラ14の端面とが接触し、吸水ローラ24の表面から毛細管現象によりメニスカス液を吸収及び除去することができる。
このとき、吸水ローラ24の表面がグラビアローラ14の周面(処理液がセル内に保持される面)と接触しないため、本来塗布されるべき処理液まで吸収除去することがない。これにより、グラビアローラ14の周面における処理液保持量を精度よく維持しながら、グラビアローラ14の端面14Bとブレード16の先端部との境界に生じるメニスカスのみを除去できる。
なお、図6の形態では、吸水ローラ24とグラビアローラ14の同期制御を電気的に行う例で説明したが、これに限定されず、図8及び図9に示すように機械的に同期制御を行うこともできる。
図8は、吸水ローラ24の同期制御機構の別態様を示す図である。このうち、図8(A)はY方向からみた正面図であり、図8(B)はX方向からみた側面図である。
図9に示すように、回転駆動源13によって回転するグラビアローラ14の回転軸15に駆動歯車43が連結され、該駆動歯車43と接し、且つ駆動歯車43の回転駆動が伝わるように配された従動歯車45が吸水ローラ24の回転軸28と連結されている。
このような構成とすることにより、グラビアローラ14の回転駆動源13によりグラビアローラ14が回転すると、駆動歯車43、及び従動歯車45を介して吸水ローラ24の回転軸28に回転駆動が伝わり、吸水ローラ24がグラビアローラ14と同期回転する。
図9は、吸水ローラ24の同期制御機構の更に別の態様を示す図である。このうち、図9(A)はY方向からみた正面図であり、図9(B)はX方向からみた側面図である。
図9に示すように、グラビアローラ14の回転軸15には駆動歯車47が連結され、吸水ローラ24の回転軸28には従動プーリ49が連結されている。また、回転軸15、28とは独立して設けられた中間軸51には中間歯車53と中間プーリ55とが連結され、駆動歯車47と中間歯車53が接するように設けられている。また、中間プーリ55と従動プーリ49の外周にはタイミングベルト57が巻き掛けられている。
このような構成とすることで、中間歯車53は、駆動歯車47の回転方向とは逆に回転し(矢印参照)、該回転駆動が従動プーリ49に伝達される。これにより、グラビアローラ14の回転駆動が吸水ローラ24の回転軸28に伝わり、吸水ローラ24がグラビアローラ14に同期回転する。
図10は、本実施形態における塗布装置10の更に別の態様を示す概略斜視図である。
図10に示すように、塗布装置10は、回転軸28に取り付けられた吸水ローラ24の代わりに吸引ノズル46を備えた以外は図4と同様に構成されている。
吸引ノズル46は回収配管30と接続されている。なお、処理液の回収・供給機構は、図4と同様とすることができる。
このように構成することで、グラビアローラ14の端面14Bとブレード16の先端部との境界に生じるメニスカスのみを吸引除去できる。
さらに、本実施形態では、吸引ノズル46の開口径は数mm程度でよいため、比較的小さな負圧源(真空ポンプ等)でも十分にメニスカスを吸引除去することができる。これにより、装置の簡略化及び低コスト化できる。また、吸引ノズル46は、吸水ローラ24等とは異なり定期的に交換する必要もないため、メンテナンスを容易にすることができる。
図11は、本実施形態における塗布装置10の更に別の態様を示す概略斜視図である。図12は、図11のグラビアローラ14の周辺構成の一部をX方向からみた側面図である。
図11に示すように、塗布装置10は、従来のブレード16の代わりに抱き込み型ブレード48を備えている。
抱き込み型ブレード48は、グラビアローラ14の端面14Bから周面にかけて抱き込むような薄板状に形成されている。抱き込み型ブレード48は、図12に示すように、グラビアローラ14の端面14Bを抱き込む長さLが3〜30mmの範囲に設定されることが好ましい。これにより、グラビアローラ14の端面14Bと抱き込み型ブレード48の先端部との境界部分において、メニスカスが生じる自由表面を低減することができる。
このように構成することで、抱き込み型ブレード48の先端部とグラビアローラ14の端面14Bの境界に、メニスカスが発生するのを抑制できる。このように、本実施形態では、抱き込みブレード48の形状を従来の直線型からコの字型に変更するだけでよく、低コストでメニスカスの形成を抑制できる。
さらに、抱き込み型ブレード48は、グラビアローラ14の幅方向に渡って一体的に形成されているので、グラビアローラ14の周面との間に微小な隙間を生じることもない。このため、微小な隙間から処理液が漏れてグラビアローラ14の端面14Bとの境界にメニスカスが生じるのを抑制できる。
なお、抱き込み型ブレード48の設置態様は、図11に限定されることはなく、各種態様を採ることができる。
図13は、抱き込み型ブレード48の別の態様を示す概略斜視図である。図14は、図13のグラビアローラ14の周辺構成の一部をX方向からみた側面図である。
図13に示すように、抱き込み型ブレード48の先端部のうち、グラビアローラ14の端面14Bに当接する部分が「くの字型」に曲げられている以外は、図11とほぼ同様に構成されている。抱き込み型ブレード48の「くの字型」の先端部は、図14に示すように、グラビアローラ14の軸心近傍まで延設されている。
このような構成とすることで、グラビアローラ14の端面14Bに溢れた余剰処理液が中間転写体12に付着するのを防止することができる。
すなわち、図14(B)に示すような抱き込み型ブレード48では、掻き取った処理液が抱き込み型ブレード48の両端側から下面を伝ってグラビアローラ14の端面14Bに溢れる。端面14Bに溢れた処理液は、抱き込み型ブレード48によって充分には堰き止められず、遠心力により端面14Bの上部外周側にそのまま押し流され易くなる。この結果、溢れた処理液が中間転写体12に再度付着し易くなってしまう。
これに対して、図14(A)に示すような抱き込み型ブレード48では、グラビアローラ14の端面14Bに溢れた処理液の流れが抱き込み型ブレード48の「くの字」型部分によって堰き止められる。このため、余剰の処理液がグラビアローラ14の回転に伴う遠心力により端面14Bの上部外周側(中間転写体12と接する外周側)に押し流され、中間転写体12に再付着するのを確実に抑制できる。
図15は、抱き込み型ブレード48の更に別の態様を示す概略斜視図である。図16は、図15のグラビアローラ14の周辺構成の一部をX方向からみた側面図である。
図15に示すように、塗布装置10は、グラビアローラ14の端面14Bに同芯円状の液回収溝50が形成され、且つ抱き込み型ブレード48の先端部のうち端面14Bと当接する部分が、液回収溝50をまたぐように形成された以外は図10とほぼ同様に構成されている。
図16に示すように、液回収溝50とグラビアローラ14の外周面との間隔Cは5〜30mmとし、液回収溝50の幅W2は5〜10mmとし、深さは3〜10mmの範囲とすることが好ましい。液回収溝50は、一列に限らず、必要に応じて複数形成してもよい。
このように構成することで、図16に示すように、抱き込み型ブレード48により掻き落とされた余剰の処理液は、グラビアローラ14の端面14Bに形成された液回収溝50に導入される。そして、導入された処理液は液回収溝50に沿って下方に流れ落ち、液受けパン20にて回収される。このため、グラビアローラ14の端面14Bへ溢れ出た処理液が、グラビアローラ14の回転による遠心力によりグラビアローラ14の上側外周面(グラビアローラ14の軸心から遠ざかる方向)に押し流されて、中間転写体12へ付着するのを抑制できる。
さらに、本実施形態では、余剰の処理液を液回収溝50を伝って、直接、液受けパン20に回収できるようにしたので、負圧源や回収・循環用の配管を設ける必要がない。このため、簡単な装置構成で、余剰の処理液を回収及び再利用できる。
なお、本実施形態では、液回収溝50を設けるようにしたが、例えば、グラビアローラ14の端面14Bに同芯円状の親水性領域を設けて、処理液を液受けパン20に誘導するようにしてもよい。
図17は、本実施形態における塗布装置10の更に別の態様を示す概略斜視図である。図18は、図17のグラビアローラ14の周辺構成の一部をY方向からみた正面図である。
図17に示すように、ブレード16の先端部のうち、グラビアローラ14の端面14Bと接する近傍に撥水部52が形成されている。
図18に示すように、撥水部52の幅W3(X方向)は、メニスカスが形成される位置、及びメニスカス液がグラビアローラ14の幅方向内側に流入する位置を含む範囲に設定される。具体的には、撥水部52は、グラビアローラ14の端面14Bから各3〜10mmの範囲(即ち撥水部52の幅W3が6〜20mm)となるように設けられることが好ましい。
ブレード16の両端部に撥水部52を付与する方法としては、例えば、ブレード16の表面に、フッ素コーティング等の化学処理を部分的に施す方法、親水性樹脂(親水性ポリウレタン等)と撥水性樹脂(フッ素樹脂やシリコン樹脂等)の2色成型することにより、異種部材を一体形成したブレードを用いる方法、親水性樹脂で成型した部材と撥水性樹脂で成型した部材を接着させて一体化したブレード等、を採用することができる。また、ブレード16の一部を粗面化して撥水性を付与してもよい。
このように、ブレード16の両端に撥水部52を設けることで、グラビアローラ14の端面14Bとの境界付近にメニスカスを生じ難くすることができる。
さらに、ブレード16の両端部のみを撥水部52とし、その間を親水部とすることにより、掻き落とした余剰の処理液を親水部に集め易くする。そして、掻き取った処理液を、親水部を伝って速やかに下方に回収する。これにより、グラビアローラ14の周面に接するブレード16の先端部に、余剰処理液による液溜りが形成されるのを抑制すると共に、掻き取り性能を向上させることができる。
図19は、本実施形態における塗布装置10の更に別の態様を示す概略斜視図である。図20は、図19におけるブレード16の先端部の変形例を示す部分斜視図である。
図19に示すように、ブレード16の先端部が鋭利に面取りされている。ブレード16の先端部の強度を確保する上で、面取りの角度θ2は30〜60°とすることが好ましく、ブレード16の先端部のR(曲率半径)は10〜100μmの範囲とすることが好ましい。
このように、ブレード16の先端部の表面積を極小さくすることで、グラビアローラ14の端面14Bとブレード16の先端部との境界における自由表面を少なくすることができる。これにより、処理液の表面張力による効果を生じ難くし、メニスカスが形成されるのを抑制できる。また、本実施形態は、従来の直線型ブレードの先端部を面取り加工するだけでよいので、既存の装置にも適用しやすいというメリットがある。
なお、面取りの態様としては、図19に限定されず、例えば図20に示すように、ブレード16の先端部にRが形成されたものでもよい。要は、グラビアローラ14の周面と当接するブレード16の先端部の表面積が小さくなる形状であればよい。
次に、本発明に係る塗布装置の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、塗工用ローラの回転により液受けパンから汲み上げた処理液をブレードで所定塗布量に計量して中間転写体12に塗布する塗布装置10において、ブレードが当接された塗工用ローラの両端部に形成されるメニスカスに起因する液スジを除去する方法の一例である。
図21は、本実施形態における塗布装置10の概略構成を示す概略斜視図である。図22は、図21をY方向からみた正面図である。
図21に示すように、塗布装置10は、主として、処理液を中間転写体12に転写塗布するためのグラビアローラ14と、該グラビアローラ14の表面に保持された余剰の処理液を掻き落とすためのブレード16と、該ブレード16よりもグラビアローラ14の回転方向下流側において、グラビアローラ14の両端部に当接するように設けられた一対の部分ブレード56と、より構成されている。なお、同図においては、第1の実施形態と同一又は同様の機能を持つ部材には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
部分ブレード56は、図22に示すように、グラビアローラ14の端面14Bを中心としてそれぞれ3〜10mmの範囲(部分ブレード56のX方向の幅W4が6〜20mm)となるように設けられる。
このように、部分ブレード56の一部がグラビアローラ14の端面14Bよりも幅方向外側に出っ張るように構成することで、グラビアローラ14の周面の両端部に生じた液スジ(液量過多)を端面14Bへ回収することができる。したがって、ブレード16の先端部とグラビアローラ14の端面14Bとの境界に生じるメニスカスにより形成される液スジを、部分ブレード56によって掻き落とすことにより除去できる。これにより、グラビアローラ14の周面において、両端部が液量過多となるのを防止できる。
また、本実施形態では、既存の装置に部分ブレードを追加するだけでよいため、導入コストを低減できる。
図23は、部分ブレード56の別の態様を示す部分斜視図である。図24(A)は図23をZ方向からみた上面図であり、図24(B)はY方向からみた正面図であり、図24(C)はX方向からみた側面図である。なお、図23及び図24において、一対の部分ブレード56のうち一方のみで説明する。
図23及び図24に示すように、一対の部分ブレード56は、X方向の水平面に対して傾斜角度θ3だけ傾斜するように配設されている。傾斜角度θ3は10〜60°とすることが好ましい。
また、グラビアローラ14の周面と部分ブレード56の先端部とが隙間なく接触するように、部分ブレード56の先端部にR(符号56A)が形成されることが好ましい。なお、傾斜角度θ3が小さい場合であって、グラビアローラ14の周面と部分ブレード56の先端部との隙間が無視できるときは、部分ブレード56の先端部に必ずしもRを設けなくてもよい。
このような構成とすることで、部分ブレード56で掻き取られた余剰の処理液は、部分ブレード56の傾斜に沿って、グラビアローラ14の幅方向外側に向かって流れ出る。これにより、部分ブレード56の液溢れを防止し、液スジの再発を抑制できる。
すなわち、処理液の表面張力が高い等により、ブレード16の先端部とグラビアローラ14の端面14Bとの境界に比較的大きなメニスカスが生じると、部分ブレード56において掻き取られる液量が増加する。これにより、部分ブレード56の端部から処理液が溢れ易くなり、部分ブレード56の端部において再び液スジが生じることがある。
また、部分ブレード56の先端部にRを設けたので、特に傾斜角度θ3を大きくする場合でも、グラビアローラ14の周面と部分ブレード56の先端部との間に隙間が生じるのを抑制できる。これにより、液スジの除去不良が生じるのを回避できる。
なお、図21〜図24の態様では、液スジ除去手段として一対の部分ブレードを設ける例を示したが、上述した図4〜図7に示すような吸水部材を液スジ発生箇所に設けるようにしてもよい。
次に、本発明に係る塗布装置の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、塗工用ローラの回転により液受けパンから汲み上げた処理液をブレードで所定塗布量に計量して中間転写体12に塗布する塗布装置10において、ブレードが当接された塗工用ローラの両端部に形成されるメニスカスに起因する液スジを排除して転写塗布する方法の一例である。
図25は、本実施形態における塗布装置10の一部を示す上面図である。同図は、グラビアローラ14の周辺をZ方向からみた場合である。
図25に示すように、塗布装置10は、主として、処理液を中間転写体12に転写塗布するための、両端部にRが形成されたグラビアローラ60と、該グラビアローラ60の表面に保持された余剰の処理液を掻き落とすためのブレード62と、より構成されている。なお、同図においては、第1の実施形態と同一又は同様の機能を持つ部材には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図25に示すように、グラビアローラ60の両端部には、所定のR(符号61)が形成されている。グラビアローラ60の両端部のRは半径3〜30mmの範囲に設定されることが好ましい。
ブレード62は、図示しない押圧機構(例えば押圧ネジ)を備えたブレードブラケットに保持されている。これにより、ブレード62をグラビアローラ60側に付勢している。ブレード62の押し込み量は、グラビアローラ60のラップ量(中間転写体12への押し込み量)よりも大きくなるように設定される。ブレード62の押し込み量は、上記押圧機構によって調整できる。
ブレード62としては、従来と同様の直線型ブレードを使用できるが、グラビアローラ14のR部分との間に隙間が生じないような形状に加工されたブレードを使用することが好ましい。なお、本実施形態に使用されるブレード16としては、予めブレード62の先端の両端部がR加工されたものに限らず、従来の直線型ブレードを使用し、R付きグラビアローラ60との間で磨耗させることにより上記R形状を形成したものも含まれる。また、アニロックス処理が施される領域は、上記のR付きグラビアローラ60の周面のうちR部分を含む全域、或いはR部分を含まない平坦部のみ、のいずれであってもよい。
また、グラビアローラ60の両端にR加工を施す代わりに面取り加工を施してもよい。ただし、面取り部分の頂点においてブレード62の先端部との間に隙間が生じ易くなる。このため、メニスカス液がグラビアローラ60の周面に再付着するのを確実に回避する上で、R加工を採用することが好ましい。
このように、両端部がR加工されたグラビアローラ60を用いて、グラビアローラ60のR形状にならうようにブレード62を当接させる。これにより、グラビアローラ60の両端のR部分にメニスカスが生じる。
また、中間転写体12とグラビアローラ60とのラップ量よりも、グラビアローラ60に対するブレード62の押し込み量を大きくする。これにより、グラビアローラ60の周面からメニスカスに起因する液スジを排除した状態で中間転写体12に転写塗布できる。したがって、中間転写体12において厚塗りが生じるのを抑制できる。
また、ブレード62がグラビアローラ60に付勢されている限り、ブレード62の先端部はグラビアローラ60のR形状に沿って磨耗する。このとき、メニスカスの位置は、グラビアローラ60の幅方向外側へと移動するため、上記メニスカスにより形成されるグラビアローラ60の両端部の液スジと中間転写体12との隙間は更に大きくなる。このため、液スジが中間転写体12に転写塗布されることがない。
さらに、本実施形態のように中間転写体12よりも幅の狭いグラビアローラ60を用いた場合、従来のグラビアローラではその端部が中間転写体12に接触するため、ラップ量によっては中間転写体12を損傷する虞があった。これに対して、本実施形態では、端部にRを形成したグラビアローラ60を採用するので、グラビアローラ60の端部が中間転写体12に接触することもなく、中間転写体12を損傷するのを抑制できる。
このように、上記各実施形態によれば、特に基材よりも幅の狭いローラの全幅で塗布液を転写塗布する際に、塗布部の両端に厚塗りが生じるのを抑制し、均一且つ高い塗布精度を得ることができる。
また、メニスカスの程度によっては、メニスカス液がローラの接触するブレードの先端に沿って、ローラの幅方向中央側に向かって流入する。グラビア塗布方式では、グラビアローラの周面のセルから溢れた塗布液をブレードにより確実に掻き取ることが、塗布厚精度を向上する上で極めて重要である。これに対して、ブレードの先端とグラビアローラの接触部の下流側に余剰塗布液があると、高い膜厚精度を得ることができない。
これに対して、本発明のように、メニスカスを除去、或いはメニスカスの形成を防止することで、基材に転写塗布した際に塗布部の両端の厚塗りを防止するだけでなく、塗布部中央付近の塗膜精度を向上させることもできる。
以上、本発明に係る塗布方法及び装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
たとえば、本実施の形態では、中間転写体12に処理液を転写塗布する例で説明したが、これに限定されず、紙等の記録媒体に直接、処理液を塗布する場合にも適用できる。また、塗布液も用途に応じて各種の塗布液を使用できる。
また、本実施の形態では、インクジェット記録における処理液の塗布方法の例で説明したが、これに限定されるものではない。たとえば、上述したグラビア塗布方式のような塗布装置を用いて帯状基材上に塗布液を塗布する技術全般(例えば、液晶表示装置等に使用される各種機能性塗布液を基材上に塗布する技術等を含む)にも適用できる。
本発明に使用される基材としては、上記の中間転写体や紙等の記録媒体に限らず、各種機能性フィルムに使用されるプラスチックフィルムや金属フィルム等であってもよい。
本発明に使用される塗布液としては、上記の処理液に限らず、各種機能性フィルムの塗布に使用される各種塗布液を使用でき、例えば、光学フィルムの場合は、液晶性化合物を含む塗布液等を使用できる。
次に、本発明に係る塗布装置の応用例について説明する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図26はインクジェット記録装置の一例を示す概略構成図である。
図26に示すように、インクジェット記録装置110は、非浸透媒体たる中間転写体112(基材)上に画像(一次画像)を記録した後に、普通紙等の記録媒体114に転写を行って本画像(二次画像)を形成する転写方式が適用された記録装置である。
インクジェット記録装置110は、主として、中間転写体112に対して凝集処理剤(以後、本例において、単に「処理液」という場合もある)を付与する処理液塗布部116(本発明による「塗布装置」が適用される部分に相当)と、中間転写体112上に付与された処理液の乾燥及び冷却を行うための加熱部118及び冷却器120と、中間転写体112に対して複数色のインクを付与する印字部(インク打滴部)122と、インク打滴後に中間転写体112上の液体溶媒(余剰溶媒)を除去する溶媒除去部124と、中間転写体112上に形成されたインク画像を記録媒体114に対して転写を行う転写部126と、転写部126に対して記録媒体114を供給する給紙部128と、転写後の中間転写体112を清掃するクリーニング部(第1クリーニング部130、第2クリーニング部132)とを備えて構成される。
本例に用いる処理液及びインクの組成については後で詳説するが、処理液はインクに含有される着色材を凝集させる作用を有する酸性液である。インクはシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各色の着色材(顔料)を含有する着色インクである。
中間転写体112には無端状ベルトが適用される。この中間転写体(無端状ベルト)12は複数のローラ(図26では3つの張架ローラ134A〜134Cと転写ローラ136を図示したが、ベルトの巻き掛け形態は本例に限定されない)に巻き掛けられた構造を有し、張架ローラ134A〜134C及び転写ローラ136の少なくとも1つにモータの動力が伝達されることにより、中間転写体112は、図26において反時計回り方向(矢印Aで示す方向)に駆動される。なお、符号134Cで示した張架ローラは、ベルトの蛇行補正と張力付与を行うテンショナーである。
中間転写体112は、印字部122と対向する表面(画像形成面)12Aの少なくとも一次画像が形成される画像形成領域(不図示)について、樹脂、金属やゴムなどのインク液滴が浸透しない非浸透性を有している。また、中間転写体112の少なくとも画像形成領域は、所定の平坦性を有する水平面(フラット面)をなすように構成されている。
中間転写体112の画像形成面112Aを含む表面層に用いられる好ましい材料としては、例えば、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂等の公知の材料が挙げられる。
また、中間転写体112の表面層の表面張力は10mN/m以上40mN/m以下とする態様が好ましい。中間転写体112の表面層の表面張力を40mN/m以上とすると、一次画像が転写される記録媒体114との表面張力差がなくなり(または、極めて小さくなり)、インク凝集体の転写性が悪化する。更に、中間転写体112の表面層の表面張力が10mN/m以下であると、処理液のぬれ性を考慮した場合に、処理液の表面張力を中間転写体112の表面層の表面張力よりも小さくする必要があり、処理液の表面張力を10mN/m以下とすることが困難となり、中間転写体112及び処理液の設計自由度(選択範囲)が狭くなる。
本例における中間転写体112としては、耐久性と普通紙転写性の観点からポリイミドなどの基材に表面エネルギー15〜30mN/m(=mJ/m2)程度の弾性材料を30〜150μm程度の厚みで付与したものが望ましく、シリコンゴムやフッ素ゴム、フッ素系エラストマーなどのコーティングが好適である。
処理液塗布部116は、第1クリーニング部130によるクリーニング工程後の中間転写体112に下塗液となる処理液(凝集処理剤)を付与するものであり、本発明に係る塗布装置が設けられる。
本例の処理液塗布部116は、処理液を付着させたグラビアローラ14(塗工用円柱体に相当)を中間転写体112に接触させながら、中間転写体112の搬送方向と逆方向にグラビアローラ14を回転させることにより、処理液を中間転写体112の画像形成面112Aに塗布するものである。
また、処理液にはインク打滴時の色材固定性と転写性の向上を目的に1〜5重量%のポリマー樹脂(微粒子)を含有しておく態様が好ましい。また、処理液には、フッ素系の界面活性剤を数%の割合で含有させることも好ましい。
処理液塗布部116の下流側かつ印字部122よりも上流側に加熱部118が配置される。本例の加熱部118は、50〜100℃の範囲で温度制御されるヒータが用いられている。処理液塗布部116によって中間転写体112上に付与された処理液は、この加熱部118を通過することで加熱され、溶媒成分が蒸発し、乾燥する。これにより、中間転写体112の表面に固体状または半固溶状の凝集処理剤層(処理液が乾燥した薄膜層)が形成される。
ここでいう「固体状または半固溶状の凝集処理剤層」とは、以下に定義する含水率が0〜70%の範囲のものを言うものとする。
加熱部118の中間転写体搬送方向下流側かつ印字部122よりも上流側には、冷却器120が配設されている。この冷却器120は中間転写体112の裏面側に配置されている。冷却器120は、所定の温度範囲に制御可能であり、本例では例えば、40℃に制御される。加熱部118の加熱乾燥により凝集処理剤層が形成された中間転写体112を冷却器120にて40℃程度に低温化することで、中間転写体112からの輻射熱を低減し、印字部122におけるヘッドのノズル内インクの乾燥を抑制する。
冷却器120の後段に配置された印字部122は、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、黒(K)の各インク色に対応したインクジェット方式の液体吐出ヘッド(以下「ヘッド」という。)122Y、122M、122C、122Kを備える。
冷却器120を通過した中間転写体112上の凝集処理剤層に対し、印字部122の各ヘッド122Y、122M、122C、122Kから画像信号に応じて各色(CMYK)の顔料インクを吐出して凝集処理剤層の上に打滴を行う。本例の場合、各ヘッド122Y、122M、122C、122Kによるインク吐出体積は約2plであり、記録密度は主走査方向(中間転写体112の幅方向)及び副走査方向(中間転写体112の搬送方向)ともに1200dpiで記録される。インクには成膜性を有するポリマー樹脂(微粒子)を含有しておくことも可能であり、かかる態様の場合、転写工程や定着工程により、耐擦性や保存安定性が向上する。
凝集処理剤層上にインク液滴を着弾させると、飛翔エネルギーと表面エネルギーとのバランスにより、インクと凝集処理剤層との接触面が所定の面積にて着弾する。インクが凝集処理剤上に着弾した直後に凝集反応が始まるが、凝集反応はインクと凝集処理剤層との接触面から始まる。凝集反応は接触面近傍のみで起こり、インク着弾時における所定の接触面積で付着力を得た状態でインク内の色材が凝集されるため、色材移動が抑止される。
このインク液滴に隣接して他のインク液滴が着弾しても先に着弾したインクの色材は既に凝集化しているので後から着弾するインクとの間で色材同士が混合せず、ブリードが抑止される。なお、色材の凝集後には、分離されたインク溶媒が広がり、凝集処理剤が溶解した液体層が中間転写体112上に形成される。
上記のように、凝集処理剤層上に着弾したインクは凝集反応により、顔料の凝集体が形成され、溶媒と分離する。分離した溶媒(残溶媒)成分は、印字部122の後段に配置されている溶媒除去部124の溶媒除去ローラ142によって中間転写体112上から除去される。
ここで用いる溶媒除去ローラ142は、塗布用のグラビアローラと同様の原理で表面の溝(セル)に液体をトラップするものが好適である。溶媒除去ローラ142に捕獲された液はエア噴射や液体噴射等によって溶媒除去ローラ142から除去される。
このように、溶媒除去ローラ142によって中間転写体112の画像形成面112A上の溶媒を除去する態様では、中間転写体112上の溶媒が好適に除去されるため、転写部126で記録媒体114に多量の溶媒(分散媒)が転写されることはない。したがって、記録媒体114として普通紙等の紙類が用いられるような場合でも、カール、カックルといった水系溶媒に特徴的な問題が防止できる。
また、溶媒除去部124により、インク凝集体から余分な溶媒を除去することによって、インク凝集体を濃縮し、より内部凝集力を高めることができる。これによりインク凝集体に含まれる樹脂粒子の融着が効果的に促進され、転写部126による転写工程までにより強い内部凝集力をインク凝集体に付与することができる。更に、溶媒除去によるインク凝集体の効果的な濃縮により、記録媒体114に画像を転写した後も良好な定着性や光沢性を画像に付与することができる。
この溶媒除去部124によって、中間転写体112上の溶媒すべてを除去する必要は必ずしもない。余剰に除去しすぎてインク凝集体を濃縮しすぎるとインク凝集体の転写体への付着力が強くなりすぎて、転写に過大な圧力を必要とするため好ましくない。むしろ転写性に好適な粘弾性を保つためには、少量残留させることが好ましい。
中間転写体112上の溶媒を少量残留させることで得られる効果として、次のことが挙げられる。即ち、インク凝集体は疎水性であり、揮発しにくい溶媒成分(主にグリセリンなどの有機溶剤)は親水性であるので、インク凝集体と残留溶媒成分は溶媒除去実施後に分離し、残留溶媒成分からなる薄い液層がインク凝集体と中間転写体との間に形成される。したがって、インク凝集体の中間転写体112への付着力は弱くなり、転写性向上に有利である。
なお、画像内容によって中間転写体112上に打滴されるインク量がばらつくため、白地の多い画像(インク量が少ない画像)に対しては、それを補うためにミスト噴射ノズル143からミスト噴射を行い、中間転写体112上の水分量を所定の許容範囲内で安定化させるようになっている。
溶媒除去部124の中間転写体搬送方向下流側、かつ転写部126の手前には、中間転写体112の汚れを検出するための汚れ検出センサ144と、予備加熱手段としてのプレヒータ146が配置されている。本例のプレヒータ146は、中間転写体112の裏面112B側に配設されており、一次画像が形成された中間転写体112を裏面112B側から加熱する構成となっている。
プレヒータ146の加熱温度範囲は90〜130℃であり、転写部126における転写時の加熱温度(本例では90℃)以上に設定されている。中間転写体112の画像形成領域を予備加熱してから、転写部126にて中間転写体112から記録媒体114上に形成画像を転写することにより、予備加熱を行わない場合に比べて転写部126の加熱温度を低く設定することが可能となり、更に、転写部126の転写時間を短くすることができる。
転写部126は、ヒータ(図26中不図示)を有した転写ローラ136と、これに対向して配置される加熱加圧ニップ用の加圧ローラ148とを含んで構成される。これら転写ローラ136と加圧ローラ148の間に中間転写体112と記録媒体114とを挟み込み、所定の温度に加熱しながら、所定の圧力(ニップ圧)で加圧することにより、中間転写体112上に形成された一次画像を記録媒体114に転写する構成となっている。
転写部126における転写時のニップ圧を調整するための手段としては、例えば、転写ローラ136又は加圧ローラ148、若しくはその両方を図26の上下方向に移動させる機構(駆動手段)が挙げられる。
転写時の好ましいニップ圧力は1.5〜2.0MPaであり、好ましい加熱温度(ローラ温度)は80〜120℃である。本例では、転写ローラ136及び加圧ローラ148はともに90℃に設定される。なお、転写ローラ転写時の加熱温度を高くしすぎると、中間転写体112の変形等の問題があり、その一方、加熱温度が低すぎると転写性が悪化するという問題がある。
また、転写前に予め記録媒体114を給紙部128にて70〜100℃に予備(プレ)加熱しておくと転写性が一層向上して好適である。本例の場合、記録媒体114の予備加熱手段として、給紙部128にヒータ150を備えている。ヒータ150によって予備加熱された記録媒体114は、粘着ローラ152、153の対からなる給紙ローラによってニップ搬送され、転写部126へと送られる。
給紙部128の構成としては、ロール紙(連続用紙)のマガジンを備える態様、或いは、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給する態様がある。ロール紙を使用する装置構成の場合、裁断用のカッターが設けられており、該カッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンやカセットを併設してもよい。
複数種類の記録媒体を利用可能な構成にした場合、メディアの種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
本例に適用される記録媒体114の具体例を挙げると、普通紙(上質紙、再生紙を含む)、インクジェット専用紙などの浸透性媒体、コート紙などの非浸透性又は低浸透性の媒体、裏面に粘着剤と剥離ラベルの付いたシール用紙、OHPシートなどの樹脂フィルム、金属シート、布、木など様々な媒体がある。
転写部126に送られた記録媒体114は、転写ローラ136と加圧ローラ148によって所定の温度及び所定のニップ圧で加熱加圧され、中間転写体112上の一次画像が記録媒体114上に転写される。転写部126を通過した記録媒体114(印刷物)は、剥離爪156によって中間転写体112から分離され、図示せぬ搬送手段によって機外へと排出される。図26には示さないが、印刷物の排出部には、プリントオーダー別に印刷物を集積するソーターが設けられる。
なお、中間転写体112から剥離した記録媒体114(印刷物)は機外排出前に図示せぬ定着工程を通してもよい。定着部は、例えば、温度及び加圧力の調整可能な加熱ローラ対を含んで構成される。このような定着工程を付加することにより、インクに含有されるポリマー微粒子を造膜させる(画像の最表面にポリマー微粒子が溶解した薄膜が形成される)ことで、耐擦性や保管性が一段と向上する。定着工程における加熱温度は100〜130℃、加圧力は2.5〜3.0MPaが好ましく、添加したポリマー樹脂の温度特性(成膜温度:MFT)などに応じて最適化される。もちろん、転写部126における転写工程において、転写性と造膜化が両立することができれば、定着部を省略する態様も可能である。
転写部126による転写工程後、剥離爪156による剥離部を通過した中間転写体112は、第1クリーニング部130に到達する。
第1クリーニング部130は、蒸留水や精製水などの水や前記溶媒除去部124で回収した溶媒、又はこれら液体に海面活性剤などを添加した洗浄液を用いて中間転写体112の洗浄を行う手段であり、洗浄液を噴射する洗浄液噴射部160、中間転写体112の画像形成面112Aに当接して中間転写体搬送方向に対して逆回転する回転ブラシ162、及び中間転写体112面を摺動払拭するブレード164を含んで構成される。また、第1クリーニング部130における中間転写体112の裏面側にはヒータ165が配設されている。この第1クリーニング部130は、主に、記録媒体114への画像転写終了後の中間転写体112をクリーニングする手段として機能する。
第1クリーニング部130で実施される洗浄液による液体クリーニング工程は、高速連続処理に好適だが、僅かな残留物が中間転写体112上に残留しやすく、中間転写体112のエッジ部分を安定にクリーニングするのも限界がある。このため長時間の稼動による残留物の堆積で転写性や質感の低下、装置の汚染や動作不良などの不具合を生じる場合がある。
或いはまた、機内冷却用の外気の取り込みや機内発塵、メンテナンス作業などで中間転写体に砂塵などの硬質の塵埃が付着すると第1クリーニング部130での液体クリーニング時に拭払部材(回転ブラシ162やブレード164)との間に挟まり、中間転写体112に擦り傷などの損傷を生じる場合がある。
このような問題に対処する観点から、本例では、粘着部材(塵埃除去用の粘着ローラ166,168)を利用する第2クリーニング部132を備えている。第2クリーニング部132は、中間転写体112の表面(12A)に対して接触及び離間の移動制御が可能な粘着ローラ166,168と、これら粘着ローラ166,168が接触し得るクリーニングウエブ(又は粘着ベルト)170を含んで構成される。この第2クリーニング部132は、図示のように、張架ローラ134Aと対向する位置に配置される。なお、図26中、符号172,173は押さえローラである。
待機中などの非画像形成時、或いは、画像形成時の液体クリーニング前に、粘着ローラ166,168を中間転写体112に接触させて回転させることにより、中間転写体112上の異物を粘着ローラ166,168に付着させて、中間転写体上から異物(塵埃)を除去し、中間転写体表面を清掃する。
粘着ローラ166,168の表面に付着した異物は、粘着ローラ166,168を中間転写体112から離間させた際に、粘着ローラ166,168をクリーニングウエブ(又は粘着ベルト)170に接触させて回転させることにより、粘着ローラ166,168上の異物をクリーニングウエブ(又は粘着ベルト)170に移動させることができる。これにより、粘着ローラ166,168の表面をクリーニングできる。
次に、インクジェット記録装置110の要部の構成について更に詳説する。
〔印字部の構成〕
図26に示したように、印字部122は、中間転写体搬送方向に沿って上流側から、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、黒(K)の順に、各色に対応したヘッド122Y、122M、122C、122Kが並んで設けられている。
インク貯蔵/装填部174は、各ヘッド122Y、122M、122C、122Kにそれぞれ供給するインク液を各々貯蔵するインクタンクを含んで構成される。各インクタンクは所要の流路を介してそれぞれ対応するヘッドと連通されており、各ヘッドに対してそれぞれ対応するインク液を供給する。インク貯蔵/装填部174は、タンク内の液体残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、液体間の誤装填を防止するための機構を有している。
インク貯蔵/装填部174の各インクタンクから各ヘッド122Y、122M、122C、122Kにインクが供給され、各ヘッド122Y、122M、122C、122Kから中間転写体112の画像形成面112Aに対してそれぞれ対応する色インクが打滴される。
図27は、印字部122の平面図である。同図に示すように、各ヘッド122Y、122M、122C、122Kは、それぞれ中間転写体112における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有し、そのインク吐出面には画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズル(図26中不図示、図28に符号81で図示)が複数配列されたノズル列を有するフルライン型のヘッドとなっている。各ヘッド122Y、122M、122C、122Kは、中間転写体搬送方向と直交する方向に延在するように固定設置される。
中間転写体112の幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッドを吐出液別に設ける構成によれば、中間転写体112の搬送方向(副走査方向)について、中間転写体112と印字部122を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち1回の副走査で)、中間転写体112の画像形成領域に画像(一次画像)を形成することができる。これにより、中間転写体搬送方向と直交する方向(主走査方向;図27参照)に往復動作するシリアル(シャトル)型ヘッドが適用される場合に比べて高速印字が可能であり、プリント生産性を向上させることができる。
本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本例に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
〔ヘッドの構造〕
次に、各ヘッドの構造について説明する。色別のヘッド122Y、122M、122C、122Kの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号180によってヘッドを示すものとする。
図28(a)はヘッド180の構造例を示す平面透視図であり、図28(b)はその一部の拡大図である。記録媒体114上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド180におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド180は、図28(a)、(b)に示したように、インク吐出口であるノズル181と、各ノズル181に対応する圧力室182等からなる複数のインク室ユニット(記録素子単位としての液滴吐出素子)183を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(中間転写体112の搬送方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
中間転写体112の搬送方向(図28中矢印S)と略直交する方向(図28中矢印M)に中間転写体112の画像形成領域の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は図示の例に限定されない。例えば、図28(a)の構成に代えて、図29に示すように、複数のノズル181が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール180’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで長尺化することにより、全体として中間転写体112の画像形成領域の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
各ノズル181に対応して設けられている圧力室182は、その平面形状が概略正方形となっており(図28(a)、(b)参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル181への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)184が設けられている。なお、圧力室182の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
図30は、ヘッド180における記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル181に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図28(a)中の5−5線に沿う断面図)である。
図30に示したように、各圧力室182は供給口184を介して共通流路185と連通されている。共通流路185はインク供給源たるインクタンク(図30中不図示;図26の符号174と等価なもの)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路185を介して各圧力室182に供給される。
圧力室182の一部の面(図28において天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)186には個別電極187を備えたアクチュエータ188が接合されている。個別電極187と共通電極間に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ188が変形して圧力室182の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル181からインクが吐出される。なお、アクチュエータ188には、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムなどの圧電体を用いた圧電素子が好適に用いられる。インク吐出後、アクチュエータ188の変位が元に戻る際に、共通流路185から供給口184を通って新しいインクが圧力室182に再充填される。
入力画像からデジタルハーフトーニング処理によって生成されるドットデータに応じて各ノズル181に対応したアクチュエータ188の駆動を制御することにより、ノズル181からインク滴を吐出させることができる。中間転写体112を一定の速度で副走査方向に搬送しながら、その搬送速度に合わせて各ノズル181のインク吐出タイミングを制御することによって、中間転写体112上に所望の画像(ここでは、転写前の一次画像)を記録することができる。
上述した構造を有するインク室ユニット183を図31に示す如く主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット183を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影(正射影)されたノズルのピッチPはd×cosθとなり、主走査方向については、各ノズル181が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影される実質的なノズル列の高密度化を実現することが可能になる。
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、中間転写体112の幅方向(中間転写体112の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図30に示すようなマトリクス状に配置されたノズル181を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。即ち、ノズル181-11、181-12、181-13、181-14、181-15、181-16を1つのブロックとし(他にはノズル181-21、…、181-26を1つのブロック、ノズル181-31、…、181-36を1つのブロック、…として)、中間転写体112の搬送速度に応じてノズル181-11、181-12、…、181-16を順次駆動することで中間転写体112の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと中間転写体112とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
そして、上述の主走査によって記録される1ライン(或いは帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向といい、上述の副走査を行う方向を副走査方向という。即ち、本例では、中間転写体112の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。
また、本例では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ188の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
〔凝集処理剤の調整〕
(処理液の例1)
[表1]に示す組成にて処理液(例1)を調整した。この調整により得られた処理液(例1)の物性値を測定した結果、pH3.6、表面張力28.0mN/m、粘度3.1mPa・sであった。
(処理液の例2)
更に[表2]に示す組成にて界面活性剤を添加した処理液(例2)を調整した。この調整により得られた処理液(例2)の物性値を測定した結果、pH3.5、表面張力18.0mN/m、粘度10.1mPa・sであった。
[表2]で用いたフッ素系界面活性剤1の化学式を[化1]に示す。
〔インクの調整〕
本例で用いるインクの調整例を以下に示す。
(ポリマー分散)シアンインクの調液
反応容器に、スチレン6質量部、ステアリルメタクリレート11質量部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)4質量部、プレンマーPP−500(日本油脂製)5質量部、メタクリル酸5質量部、2−メルカプトエタノール0.05質量部、メチルエチルケトン24質量部を調液した。
一方、滴下ロートにスチレン14質量部、ステアリルメタクリレート24質量部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)9質量部、プレンマーPP−500(日本油脂製)9質量部、メタクリル酸10質量部、2−メルカプトエタノール0.13質量部、メチルエチルケトン56重量部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2 重量部を入れ、混合溶液を調整した。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2 重量部をメチルエチルケトン12重量部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤溶液を得た。
得られたポリマー分散剤溶液の一部を、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1質量%に希釈し、高速GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)HLC-8220GPCにて、TSKgel SuperHZM-H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ2000を3本直列につなぎ測定し、ポリスチレン換算で質量平均分子量25,000であった。
得られたポリマー分散剤を固形分換算で5.0g、シアン顔料Pigment Blue 15:3(大日精化製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L水酸化ナトリウム8.0g、イオン交換水82.0g、0.1mmジルコニアビーズ300gをベッセルに添加し、レディーミル分散機(アイメックス製)で1000rpm6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが十分留去できるまで減圧濃縮し、顔料濃度が10%になるまで濃縮した。得られたシアン分散液の顔料粒径は77nmであった。
シアン分散を用いて[表3]に示す組成になるようにインクを調液し、調液後5μmフィルターで粗大粒子を除去し、シアンインク(C1−1)を調整した。得られたシアンインクC1−1の物性値を測定した結果、pH9.0、表面張力32.9mN/m、粘度3.9mPa・sであった。
上記と同様にして、マゼンタ、イエロー、ブラックのインクも調液した。
〔添加ポリマーについて〕
前述した処理液(凝集処理剤)やインクには、適宜ポリマー樹脂などの粒子が添加される。処理液には色材固定や転写改善用として粒径1〜5μm、融点60〜120℃の粒子を入れるのが望ましく、インクには画像定着用として粒径1μm以下、ガラス点移転点40〜60℃の粒子を1〜5%入れるのが好ましい。[表4]に例を示す。
〔処理液塗布部の構成〕
本例において、処理液塗布部116としては、例えば、上記した各実施形態の塗布装置10を使用できる。
図26に示すように、処理液塗布部116としては、中間転写体112を挟んでグラビアローラ138の反対側であってグラビアローラ14の上流側と下流側には、押さえローラ117,119が配置されている。2本の押さえローラ117,119は、中間転写体112の搬送方向に所定の間隔で平行に並んで配置されており、グラビアローラ14は、中間転写体112搬送方向に関して2本の押さえローラ117,119の略中間に位置する。
そして、塗布時には図示のように、グラビアローラ14を中間転写体112に押し当て、押さえローラ117,119の間に中間転写体112を押し上げる。押さえローラ117,119とグラビアローラ14の間に挟まれた中間転写体112はグラビアローラ14の上部周面に沿って湾曲し、グラビアローラ14との密着性が高まり、接触面積も確保される。中間転写体112に対するグラビアローラ14の押し付け量を制御することにより、グラビアローラ14に対する中間転写体112の巻き付け角(ラップ角)を調整できる。
このニップ状態で中間転写体112を一定速度で搬送し、かつ中間転写体搬送方向に対してグラビアローラ14を逆回転させることにより、被塗布部材たる中間転写体112の画像形成面112Aに均質な膜厚による薄膜塗布が可能である。なお、このとき、押さえローラ117,119は中間転写体112の搬送に伴い、搬送方向に追従した回転方向に回転する。
本例の塗布装置10において、特に、グラビアローラ14のセルの密度を100〜250線/インチ(より好ましくは150〜200線/インチ)とし、深度を45〜70μmの範囲に形成することが好ましい。これにより、塗布パターンの視認性が低く、塗布厚も1〜25μmの均質な薄膜塗布が可能である。更に、セルの密度を150〜165線/インチにすれば1〜10μm(より好ましくは1〜5μm、特に好ましくは1〜3μm)の均質な液膜が形成でき、中間転写体上での液流れを生じず、インク打滴時の色材固定性も良好となる点で一層好ましい。
インクジェット記録装置110の高速印字に対応して、塗布装置10での処理液の塗布も高速化する必要があり、中間転写体112の搬送速度としては500〜660mm/秒(30〜40m/分)の範囲で搬送されることが好ましい。また、高速塗布における塗布安定性のためには、中間転写体112の搬送速度に対するグラビアローラ14の回転周速度を大きくすることが好ましく、相対速度比で1.2〜1.6倍の範囲にすることが好ましい。従って、中間転写体112の搬送速度を500mm/秒とした場合には、グラビアローラ14の回転周速度を600〜830mm/秒(36〜50m/分)の範囲にすることが好ましい。このときのグラビアローラ14の回転数は、塗工部の径を30mmとした場合、380〜530rpmになる。
また、中間転写体112の幅とグラビアローラ14の塗工部の幅との関係は、中間転写体112の幅が塗工部の幅よりも広いことが好ましい。これにより、中間転写体112に塗布された処理液が中間転写体幅方向に濡れ広がったときに、処理液が中間転写体112の裏面に裏回りするのを防止できる。
〔制御系の説明〕
図32は、インクジェット記録装置110のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置110は、通信インターフェース270、システムコントローラ272、メモリ274、モータドライバ276、ヒータドライバ278、冷却器制御部279、プリント制御部280、画像バッファメモリ282、インクヘッドドライバ284等を備えている。
通信インターフェース270は、ホストコンピュータ286から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース270にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ286から送出された画像データは通信インターフェース270を介してインクジェット記録装置110に取り込まれ、一旦メモリ274に記憶される。
メモリ274は、通信インターフェース270を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ272を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ274は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ272は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置110の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ272は、通信インターフェース270、メモリ274、モータドライバ276、ヒータドライバ278、冷却器制御部279等の各部を制御し、ホストコンピュータ286との間の通信制御、メモリ274の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ288やヒータ289を制御する制御信号を生成する。
ROM275には、システムコントローラ272のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、ROM275は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ274は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ276は、システムコントローラ272からの指示にしたがってモータ288を駆動するドライバである。図32には、装置内の各部に配置されるモータを代表して符号288で図示されている。例えば、図32に示すモータ288には、図26の張架ローラ34A〜34Cの中の駆動ローラを駆動するモータや、溶媒除去ローラ142の移動機構のモータ、転写ローラ136や加圧ローラ148の移動機構のモータなどが含まれている。
図32に示したヒータドライバ278は、システムコントローラ272からの指示にしたがって、ヒータ289を駆動するドライバである。図32には、インクジェット記録装置1110に備えられる複数のヒータを代表して符号289で図示されている。例えば、図32に示すヒータ289には、図26に示す加熱部118のヒータや、プレヒータ146などが含まれている。
図32の冷却器制御部279は、システムコントローラ272からの指示にしたがって冷却器120(図26参照)の温度制御を行う制御部である。
プリント制御部280は、システムコントローラ272の制御にしたがい、メモリ274内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ284に供給する制御部である。プリント制御部280において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ284を介してヘッド180のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部280には画像バッファメモリ282が備えられており、プリント制御部280における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ282に一時的に格納される。なお、図32において画像バッファメモリ282はプリント制御部280に付随する態様で示されているが、メモリ274と兼用することも可能である。また、プリント制御部280とシステムコントローラ272とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース270を介して外部から入力され、メモリ274に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの画像データがメモリ274に記憶される。
インクジェット記録装置110では、インク(色材)による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、メモリ274に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ272を介してプリント制御部280に送られ、該プリント制御部280において閾値マトリクスや誤差拡散法などを用いたハーフトーニング処理によってインク色ごとのドットデータに変換される。
即ち、プリント制御部280は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして、プリント制御部280で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ282に蓄えられる。なお、中間転写体112上に形成される一次画像は、転写の際に反転することを考慮して、最終的に記録媒体114に形成される二次画像の鏡面画像としなければならない。即ち、ヘッド122Y、122M、122C、122Kに供給される駆動信号は鏡面画像に対応した駆動信号であり、プリント制御部280にて入力画像に対して反転処理を施す必要がある。
ヘッドドライバ284は、プリント制御部280から与えられる印字データ(即ち、画像バッファメモリ282に記憶されたドットデータ)に基づき、ヘッド180の各ノズル181に対応するアクチュエータ188を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ284にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
ヘッドドライバ284から出力された駆動信号がヘッド180に加えられることによって、該当するノズル181からインクが吐出される。中間転写体112を所定の速度で搬送しながらヘッド180からのインク吐出を制御することにより、中間転写体112上に画像(一次画像)が形成される。
また、システムコントローラ272は、転写制御部292、処理液塗布制御部294を制御するともに、図26で説明した溶媒除去部24、第1クリーニング部130及び第2クリーニング部132の動作を制御する。
図32に示した転写制御部292は、転写部126の転写ローラ136及び加圧ローラ148(図26参照)の温度制御やニップ圧制御を行う。記録媒体114の種類やインクの種類ごとに、ニップ圧や転写温度の最適値(制御目標値)が予め求められ、データテーブル化されて所定のメモリ(例えば、ROM275)に記憶されている。システムコントローラ272は、使用する記録媒体114の情報や使用インクの情報をオペレータによる入力、又は所定のセンサからの自動読取等により取得すると、当該データテーブルを参照して転写ローラ136及び加圧ローラ148の温度及びニップ圧を制御する。
図32に示した処理液塗布制御部294は、システムコントローラ272からの指示にしたがい処理液塗布部116の動作を制御する。
本例では、凝集処理剤(処理液)を塗布した後に、これを乾燥させて固体状又は半固溶状の凝集処理剤層を形成し、この上にインクを打滴する例を示したが、インク打滴後に凝集処理剤を付与する態様も可能である。
10…塗布装置、12、112…中間転写体、14、60…グラビアローラ、14B…グラビアローラの端面、16、62…ブレード、18…エア吹付けノズル、20…液受けパン、24…吸水ローラ、26…(処理液の)回収・供給機構、28…回転軸、46…吸引ノズル、48…抱き込み型ブレード、50…液回収溝、52…撥水部、56、58…部分ブレード、110…インクジェット記録装置、114…記録媒体、116…処理液塗布部、122…印字部(インク打滴部)、126…転写部