以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。最初に、図1〜図3に示す第1の実施形態について説明する。
図1は、この発明に係るマスタシリンダ1の縦断面図を示すものであり、同図中2は、このマスタシリンダ1の上部に取付けられたリザーバである。この実施形態のマスタシリンダ1は車両のブレーキ装置に用いられ、運転席のブレーキ操作に連動してブレーキ回路にブレーキ液を供給するようになっている。また、ブレーキ回路には図示せぬトラクションコントロール用の制御ポンプ(液圧機器)が設けられ、車両の運転状況に応じて、運転者のブレーキ操作とは別にマスタシリンダ1から制御ポンプにブレーキ液が吸引されるようになっている。
このマスタシリンダ1は、有底円筒状のシリンダ本体3内にプライマリピストン4とセカンダリピストン5が直列に配置されたタンデム型のマスタシリンダである。
プライマリピストン4は、シリンダ本体3の開口側(図1中の右側)に摺動可能に収容され、その開口側の端部が図示しないブースタを介してブレーキペダルの操作ロッドに連結されている。セカンダリピストン5は、シリンダ本体3の底部側(図1中の左側)に摺動可能に収容され、プライマリピストン4との間に第1の圧力室6を形成するとともに、シリンダ本体3の底部との間に第2の圧力室7を形成している。各圧力室6,7内には、プライマリピストン4とセタンダリピストン5に戻り方向の反力を付与するリターンスプリング8a,8bが設けられている。各リターンスプリング8a,8bは、スプリングリテーナ9a,9bに一体に組み付けられ、スプリングユニットとして各圧力室6,7内に配置されている。
シリンダ本体3内の第1の圧力室6と第2の圧力室7に臨む部位には第1の給排孔10a(第1の吐出路)と第2の給排孔10b(第2の吐出路)がそれぞれ形成され、第1の圧力室6と第2の圧力室7がこれらの給排孔10a,10bを介して車両の異なるブレーキ配管系(例えば、前輪側のブレーキ配管系と後輪側のブレーキ配管系)に接続されている。
また、シリンダ本体3の上面には、リザーバ2を取付けるためのボス部11a,11bが設けられ、このボス部11a,11bに形成された接続凹部20a,20bにリザーバ2の円筒状の接続口が接続されている。
シリンダ本体3の内周面の軸方向に離間した二位置には環状溝14a,14bが夫々形成され、この各環状溝14a,14bと前記接続凹部20a,20bが連通孔13a,13bによって接続されている。各環状溝14a,14bは、夫々プライマリピストン4とセカンダリピストン5の外周面に臨む位置に形成され、後述する導通溝18a,18bと戻し孔17を通して対応する圧力室6,7と連通可能となっている。なお、この実施形態の場合、環状溝14a,連通孔13aおよび接続凹部20aが第1の圧力室6とリザーバ2を接続する第1の補給路50aを構成し、環状溝14b,連通孔13bおよび接続凹部20bが第2の圧力室7とリザーバ2を接続する第2の補給路50bを構成している。
また、シリンダ本体3の内周面の各環状溝14a,14bの軸方向の前後位置には、環状の周溝51a,52aと51b,52bがそれぞれ形成され、各環状溝14a,14bの前方側(図1中左側)の周溝51a,51bには、プライマリピストン4とセカンダリピストン5にそれぞれ摺動自在に密接して、第1の補給路50aと第1の圧力室6、第2の補給路50bと第2の圧力室7の各間を密封する断面略コ字状の環状の第1のピストンシール15aと第2のピストンシール15bがそれぞれ収容されている。そして、各環状溝14a,14bの後方側(図1中右側)の周溝52a,52bには、プライマリピストン4とセカンダリピストン5にそれぞれ摺動自在に密接して、第1の補給路50aとシリンダ本体3の開口、第2の補給路50bと第1の圧力室6の各間を密封する環状の第1の区画シール16aと第2の区画シール16b(区画シール)がそれぞれ収容されている。
ところで、シリンダ本体3の内周面は、周溝51a,52aの形成される前後の領域がプライマリピストン4を摺動自在にガイドする第1の摺動部53aとされ、周溝51b,52bの形成される前後の領域がセカンダリピストン5を摺動自在にガイドする第2の摺動部53b(摺動部)とされている。そして、シリンダ本体3の内周面のうちの第1の圧力室6と第2の圧力室7を形成する領域には、第1,第2の摺動部53a,53bの内周面に対して径方向外側に窪む環状の第1の大径溝54a(大径溝)と第2の大径溝54bが形成されている。これらの第1,第2大径溝54a,54bは、シリンダ本体3内の溝加工等を容易にするために予め形成する部分であり、シリンダ本体3の一般部(第1,第2の摺動部53a,53b)の内周面と同心の円形をなすように形成されている。
シリンダ本体3の内周面のうちの、環状溝14a,14bの前方側の周溝51a,51bと第1,第2の大径溝54a,54bの各間には、第1,第2の圧力室6,7と周溝51a,51b内の第1,第2のピストンシール15a,15bの前面領域とを連通させるための導通溝18a,18bが軸方向に沿って形成されている。なお、周溝51a,51b内の第1,第2のピストンシール15a,15bの後面領域と環状溝14a,14bの間は対応するピストン5,6との隙間を通して相互に連通可能とされている。
各周溝51a,51b内の第1,第2のピストンシール15a,15bは、略コ字状の断面の開口側がシリンダ本体3内の前方側(図1中左側)に向くように配置され、内周壁がプライマリピストン4とセカンダリピストン5の外周面に摺動自在に密接するようになっている。第1,第2のピストンシール15a,15bの略コ字状の断面は、厳密には、外周壁側が外側(径方向外側)に開くテーパ形状とされている。そして、第1,第2のピストンシール15a,15bは、各前方側の第1,第2の圧力室6,7の圧力が後方側の環状溝14a,14bの圧力よりも低くなった場合に、外周壁が撓み変形することによって各圧力室6,7と環状溝14a,14bとをそれぞれ連通し、環状溝14a,14b(リザーバ2)から対応する圧力室6,7へのブレーキ液の補給を許容する。また、逆に第1,第2の圧力室6,7側の圧力が環状溝14a,14b側の圧力よりも高い間は、各圧力室6,7の内の圧力によって第1,第2のピストンシール15a,15bの外周壁が周溝51a,51bの底面に押し付けられ、シリンダ本体3と各ピストン4,5の間が密封される。
また、プライマリピストン4とセカンダリピストン5には夫々前方側(図1中左側)の第1の圧力室6と第2の圧力室7に臨む円筒壁4a,5aが設けられ、各円筒壁4a,5aには径方向に貫通する戻し孔17が形成されている。この各戻し孔17は、プライマリピストン4とセカンダリピストン5が最大に後退した初期位置にあるとき、第1,第2の圧力室6,7と各対応する環状溝14a,14bとを導通させ、それによって各圧力室6,7とブレーキ配管系をリザーバ2と同圧の大気圧に維持するようになっている。
したがって、プライマリピストン4とセカンダリピストン5が初期位置にあるときには、リザーバ2と第1,第2の圧力室6,7が通路孔13a,13b、環状溝14a,14b、および、ピストン4,5の戻し孔17を通して導通しており、トラクションコントロール等の作動により第1,第2の圧力室6,7のブレーキ液量が不足したときにリザーバ2からブレーキ液が補給される。また、上記の初期位置の状態からプライマリピストン4とセカンダリピストン5が前方側に移動して戻し孔17が環状溝14a,14bに臨む位置から前方側にずれると、戻し孔17が第1,第2のピストンシール15a,15bによって実質的に閉塞され、リザーバ2と第1,第2の圧力室6,7との導通が遮断される。
このとき、プライマリピストン4とセカンダリピストン5の前進作動に応じて第1,第2の圧力室6,7内の圧力が高まり、ブレーキ液が給排孔10a,10bを通して対応するブレーキ配管系に供給される。このブレーキ液の供給時には、各圧力室6,7内の圧力が高まることによって、第1,第2のピストンシール15a,15bが導通溝18a,18bを閉塞する力が大きくなる。
また、この状態からプライマリピストン4とセカンダリピストン5がリターンスプリング8a,8bの力を受けて後退すると、各ブレーキ配管系のブレーキ液が給排孔10a,10bを通して第1の圧力室6と第2の圧力室7に戻される。そして、このとき第1,第2の圧力室6,7の圧力が一時的にリザーバ2の内圧よりも低くなると、前述のように第1,第2のシールリング15a,15bの外周壁が撓み、各圧力室6,7内での不足分のブレーキ液が導通溝18a,18bを通ってリザーバ2から補給される。
図2は、シリンダ本体3の単品の縦断面図を示すものであり、図3は、図2のA−A断面に対応する断面図を示すものである。
図2において、Lは、シリンダ本体3における第2の摺動部53bの軸方向の長さを示している。この第2の摺動部53bは、第2の区画シール16bの配置される周溝52bに近接する位置から設定長さL1分だけプライマリピストン4側に拡張され、それによってセカンダリピストン5に対する充分な軸方向のガイド長Lが確保されている。この第2の摺動部53bの軸方向の拡張長さL1は、第2の摺動部53bの直径をDとしたときに、第2の摺動部53bの直径Dと軸方向長さLの比率L/Dが1以上になるように設定することが望ましい。また、第1の圧力室6からブレーキ液を吐出するための第1の給排孔10aは、セカンダリピストン5がいずれの操作位置にあるときも常に第1の圧力室6との導通状態が維持される必要があるため、以下のようにしてその導通が確保されている。
すなわち、シリンダ本体3の第2の摺動部53bは内周面の円周方向の一部に、第1の大径溝54aの前端部から前方側の周溝52bに近接した位置に達するように円弧状の溝55が軸方向に沿って形成されている。ここで、本実施形態において、溝55は、周溝52bと第1の大径溝54aとが連通しない範囲に形成されているが、周溝52bと第1の大径溝54aとを連通させても良い。また、溝55は、その溝55の円弧の中心が第2の摺動部53bの中心とオフセットするように、第2の摺動部53bの内周面の鉛直上方位置にリセス加工によって形成されている。そして、第1の給排孔10aは、溝55内の周溝51b側の端部の近傍位置に、シリンダ本体3の軸方向と直交する略水平方向から開口している。
以上の構成において、ブレーキペブルの踏み込みによってプライマリピストン4が前進操作されると、リターンスプリング8aを介してセカンダリピストン5も連動して前進し、このとき第1の圧力室6と第2の圧力室7のブレーキ液がそれぞれ第1,第2の給排孔10a,10bを介して対応する各ブレーキ配管系に供給される。また、ブレーキペダルが踏み戻されることによってプライマリピストン4とセカンダリピストン5が後退作動すると、各ブレーキ配管系のブレーキ液が第1,第2の給排孔10a,10bを介して第1の圧力室6と第2の圧力室7に戻される。
セカンダリピストン5は、このようにシリンダ本体3内を作動する間は、周溝52bに近接する位置から後方側に設定長さL1だけ拡張されている充分な軸方向長さの第2の摺動部53bによってガイドされ、第1の圧力室6と第1の給排孔10aの間のブレーキ液の流通は、シリンダ本体3の第2の摺動部53bに形成された円弧状の溝55を介して行われる。
以上のように、このマスタシリンダ1は、シリンダ本体3の内周面の第1の圧力室6と第2の圧力室7を形成する領域に、第1の摺動部53aや第2の摺動部53bよりも外径の大きい第1の大径溝54aと第2の大径溝54bを予め形成しておく場合には、シリンダ本体3の内部に溝加工、例えば、導通溝18a,18bを形成するための加工を容易に行うことができる。また、第1の大径溝54aと第2の大径溝54bよりも第1の摺動部53aや第2の摺動部53bを先に予め形成しておく場合には、摺動部53a,53bにおけるバリの発生を抑えることができ、仕上げ加工が容易になる。
そして、このマスタシリンダ1は、このようにシリンダ本体3の内周面に第1の大径溝54aと第2の大径溝54bを形成することによって加工の容易化を図りつつも、第2の摺動部53bが周溝52bに近接する位置から後方側に設定長さL1だけ拡張されていることから、第2の摺動部53bによってセカンダリピストン5を充分な軸方向長さLで安定的にガイドすることができる。したがって、小型化しても、セカンダリピストン5の作動時の振れを防止し、シリンダ本体3の内部のブレーキ液の漏れの抑制や、内部の各種部品の耐久性の向上を図ることができる。
さらに、このマスタシリンダ1においては、第2の摺動部53bの設定長さL1だけ拡張した領域に、第1の大径溝54aの端部と第1の給排孔10aを導通する円弧状の溝55が形成されているため、前述したセカンダリピストン5に対するガイド性能を維持しつつ、第1の圧力室6と第1の給排孔10aの確実な導通を確保することができる。
また、この実施形態の場合、溝55は、その円弧の中心が第2の摺動部53bの中心からオフセットするようにリセス加工を施すだけで容易に形成できるため、加工の容易化によって製造コストの低減も図ることができる。
次に、図4,図5に示すこの発明の第2の実施形態について説明する。なお、上述した第1の実施形態と同一部分には同一符号を付し、重複する部分については一部説明を省略するものとする。
図4は、この発明にかかるマスタシリンダ101の縦断面図を示すものであり、図5は、図4のB−B断面に対応する同マスタシリンダ101の断面図を示すものである。このマスタシリンダ101は、第1の実施形態と同様に車両のブレーキ装置に用いられるタンデム型のものであり、有底円筒状のシリンダ本体103の内部にプライマリピストン4(ピストン)とセカンダリピストン5が摺動可能に収容されている。プライマリピストン4とセカンダリピストン5の間には第1の圧力室6(圧力室)が形成され、シリンダ本体103の底部とプライマリピストン4の間には図示しない第2の圧力室が形成されており、これらの圧力室6は、シリンダ本体103に形成された補給路50a,50bと給排孔10a(第2の圧力室側の給排孔は図示せず。)を介してリザーバ2と各対応するブレーキ配管系にそれぞれ連通している。
シリンダ本体103内のプライマリピストン4が嵌合される部位には、連通孔13aを介してリザーバ2に接続される環状溝14aが形成され、この環状溝14aの前後には周溝51a,52aが形成されている。前方の周溝51aには、プライマリピストン4の外周面に当接して環状溝14aと第1の圧力室6の間を密封するピストンシール15aが収容され、後方の周溝52aには、プライマリピストン4の外周面に当接して環状溝14aとシリンダ本体103の開口の間を密封する区画シール16aが収容されている。プライマリピストン4の摺動をガイドするシリンダ本体103内の第1の摺動部53aは、周溝51a,52aの前後の領域によって形成されている。ただし、摺動部53aは前方側の周溝51aに近接する部位からシリンダ本体103の前方側に設定長さL1だけ軸方向に拡張されている。
また、シリンダ本体103内の第1の圧力室6を形成する領域には、摺動部53aの内周面に対して径方向外側に窪む環状の大径溝54a(大径溝)が形成されている。この大径溝54aは第1の実施形態と同様にシリンダ本体103内の加工の容易化のために形成されている。
ところで、シリンダ本体103のボス部11aよりも若干前方側の外側側面には、弁収容ブロック30が一体に形成されている。この弁収容ブロック30はシリンダ本体103の側方から膨出し、鉛直下方(車体組付け状態における鉛直下方)に向かって略円柱状に延出している。弁収容ブロック30には、図5に示すように、底面とその底面を取り囲む側壁とを備え、かつ下方に向かって開口する断面略円形状の凹部31が形成されている。
凹部31の開口端は蓋部材32によって閉塞され、凹部31と蓋部材32の間には弁室33が形成されている。この弁室33内には後述する逆止弁34が配置されている。
弁室33の上部(凹部31の底面)には、弁室33から斜め上方側に延出して弁室33と接続凹部20a(リザーバ2)とを接続するリザーバ通路35が形成され、弁室33の側壁には、弁室33とシリンダ本体103内の第1の圧力室6とを接続する圧力室通路36が形成されている。
ここで説明したリザーバ通路35,弁室33,圧力室通路36は、第1の補給通路50aをバイパスしてリザーバ2と第1の圧力室6を連通するバイパス通路37を構成している。
逆止弁34は、一端が開口した有底円筒状のバルブケース38と、バルブケース38の開口側を閉塞する蓋部材32によってカートリッジ39が形成され、そのカートリッジ39の内部に、弁座40に離着座する弁体41と、弁体41を弁座40方向に付勢する付勢スプリング42とが収容されている。なお、カートリッジ39を構成する蓋部材32は、カートリッジ39が凹部31に装着された状態において、凹部31の開口を閉塞する蓋としても機能する。
カートリッジ39を構成するバルブケース38は、軸心部に上下に貫通する弁孔43を備えた頭部壁44と、頭部壁44から下方に延出する筒状壁45と、を備え、筒状壁45の内周側の空間に臨む頭部壁44の裏面が弁座40とされている。頭部壁44の上面にはリザーバ側フィルタ部材47が嵌合固定されている。また、筒状壁45には、筒状壁45を径方向に貫通する複数の径方向孔48が形成され、筒状壁45の外周面には圧力室側フィルタ部材49が取り付けられている。そして、カートリッジ39のリザーバ側フィルタ部材47はリザーバ通路35に臨み、圧力室側フィルタ部材49は圧力室通路36に臨んでいる。
逆止弁34は、リザーバ2の圧力(大気圧)と第1の圧力室6の圧力の差が設定圧に達するまで弁体41が付勢スプリング42に付勢されて弁座40に着座しており、第1の圧力室6の圧力がリザーバ2の圧力に対して設定圧以上に低下すると、弁体41が弁座40から離間してバイパス通路37を開く。
ここで、前述したシリンダ本体103の第1の摺動部53aのうちの、周溝51に近接する部位から前方側に設定長さL1だけ拡張した領域には、大径溝54aの端部から軸方向に沿って円弧状の溝155が形成されている。この円弧状の溝155は、その溝155の円弧の中心が第1の摺動部53aの中心とオフセットするようにしてリセス加工によって形成されている。バイパス通路37のうのち圧力室通路36の端部は円弧状の溝155の内部に開口している。したがって、圧力室通路36と第1の圧力室6とは溝155を介して常時連通している。
以上の構成において、車両の走行中にトラクションコントロールが作動してブレーキ回路内の制御ポンプがマスタシリンダ101側からブレーキ液を吸い上げ、マスタシリンダ101内の第1の圧力室6の圧力がリザーバ2内の圧力よりも設定圧以上に低下すると、弁収容ブロック30内の逆止弁34がバイパス通路37を開き、リザーバ2内のブレーキ液が補給路50aとバイパス通路37を通って第1の圧力室6内に補給されるようになる。したがって、これにより充分な量のブレーキ液が第1の圧力室6から制御ポンプに迅速に供給されるようになり、所望のトラクションコントロールが安定して得られるようになるとともに、マスタシリンダ101内での負圧の発生も抑制されるようになる。
以上のように、このマスタシリンダ101の場合も、シリンダ本体103の内周面の第1の圧力室を形成する領域に径方向外側に環状に窪む大径溝54aが予め形成されるため、シリンダ本体103の内部の加工を容易に行なうことができる。
そして、このマスタシリンダ101においては、プライマリピストン4をガイドする第1の摺動部53aが周溝51aに近接する位置から前方側に設定長さL1だけ拡張されているため、充分な軸方向長さLをもつ第1の摺動部53aによってプライマリピストン4を安定的にガイドすることができる。したがって、小型化しても、プライマリピストン4の作動時の振れを防止して、摺動隙間からのブレーキ液の漏れや内部の各種部品の耐久性の低下を抑制することができる。
また、このマスタシリンダ101にあっては、第1の摺動部53aのうちの前方側に設定長さL1だけ拡張した領域に、大径溝54aの端部と圧力室通路36(バイパス通路37)を導通する円弧状の溝155が形成されているため、第1の摺動部53aの充分な軸長によってプライマリピストン4の摺動性の向上を図りつつ、第1の圧力室6と圧力室通路36の確実な導通を確保することができる。
次に、図6〜図8に示すこの発明の第3の実施形態について説明する。
図6は、この発明にかかるマスタシリンダの縦断面図を示すものであり、図7は、シリンダボディの図6とは反対側の縦断面図を示すものであり、図8は、図6のC−C断面図を示すものである。
図6に示すマスタシリンダ210は、いわゆるプランジャ型のマスタシリンダであり、図示は略すがブレーキペダルの操作等によって移動するブースタの出力軸で押圧されることでディスクブレーキ等のブレーキ装置に導入するブレーキ液圧を発生させるものである。
マスタシリンダ210は、底部212と筒部213とを有する有底筒状をなすとともにその口部214側において図示略のブースタに取り付けられるシリンダボディ(段付シリンダ)215と、このシリンダボディ215のボア216内の口部214側に、筒部213の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に沿って摺動可能となるように挿入されるプライマリピストン(段付ピストン)218と、シリンダボディ215のボア216内のプライマリピストン218よりも底部212側に、シリンダ軸方向に沿って摺動可能となるように挿入されるセカンダリピストン220とを有するタンデムタイプのものである。なお、第3実施形態においては、シリンダ軸は水平に配置されるものとしている。
筒部213の内径側は、底部212側に第1小径摺動内径部222が形成されており、中間に第2小径摺動内径部223が形成されていて、口部214側に第1小径摺動内径部222および第2小径摺動内径部223よりも大径の大径摺動内径部224が形成されている。そして、セカンダリピストン220は常に第1小径摺動内径部222で摺動が案内されることになり、プライマリピストン218は、常に大径摺動内径部224及び第2小径摺動内径部223で摺動が案内されることになる。
シリンダボディ215には、これと一体に、筒部213から筒部213の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)における外側、具体的には、上側に突出する二カ所の取付台部225,226が、シリンダ軸方向に離間して筒部213の円周方向(以下、シリンダ円周方向と称す)における同位置に形成されており、これら取付台部225,226それぞれに形成された取付穴225a,226aにリザーバ227が取り付けられる。
シリンダボディ215の第1小径摺動内径部222には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝228およびシール周溝229が底部212側から順に形成されている。底部212側のシール周溝228には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング230が底部212側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部214側のシール周溝229には、C字状断面を有するカップシールからなるシールリング231が口部214側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
第1小径摺動内径部222には、シール周溝228とシール周溝229との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝233が形成されている。この開口溝233は、底部212側の取付穴225aに開口することでリザーバ227に常時連通状態とされる連通路234に連通されている。なお、シリンダボディ215のシール周溝228よりも底部212側には、第1小径摺動内径部222よりも若干大径の底部側大径内径部235が形成されている。
シリンダボディ215の第1小径摺動内径部222と第2小径摺動内径部223との間には、これらよりも若干大径の中間大径内径部238が形成されている。
第2小径摺動内径部223には、シリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝240が形成されており、このシール周溝240には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング241が、底部212側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
第2小径摺動内径部223には、シール周溝240と中間大径内径部238とをつなぐ図7に示す偏心溝242がシリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この偏心溝242は第2小径摺動内径部223よりも小径であって第2小径摺動内径部223と平行な軸を中心とした円弧状をなしている。
図6に示すように、シリンダボディ215の第2小径摺動内径部223と大径摺動内径部224との間には、これらよりも大径で、底部側大径内径部235および中間大径内径部238よりも大径の口部側大径内径部244が形成されている。
シリンダボディ215の大径摺動内径部224には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝246およびシール周溝247が底部212側から順に形成されている。底部212側のシール周溝246には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング248が底部212側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部214側のシール周溝247には、C字状断面を有するカップシールからなるシールリング249が底部212側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
大径摺動内径部224には、シール周溝246とシール周溝247との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝251が形成されている。この開口溝251は、口部214側の取付穴226aに開口することでリザーバ227に常時連通状態とされる連通路252に連通されている。この連通路252は、シリンダボディ15の口部14の外側から取付穴226aまでシリンダ軸方向に穿設される通路穴252aと、シリンダボディ215の開口溝251と通路穴252aの中間位置とを連通させる偏心溝252bとからなり、通路穴252aの外部開口端はボール252cで閉塞されている。
シリンダボディ215の筒部213の側部には、ブレーキ液を図示せぬブレーキキャリパに供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるセカンダリ吐出路253およびプライマリ吐出路254が形成されている。
ここで、シリンダボディ215は、底部側大径内径部235と第1小径摺動内径部222と中間大径内径部238と第2小径摺動内径部223とが小径シリンダ部(小径部)255を構成しており、口部側大径内径部244と大径摺動内径部224とが、小径シリンダ部255よりも全体として大径の大径シリンダ部(大径部)256を構成している。
シリンダボディ215の底部212側に嵌合されるセカンダリピストン220は、円筒部257と、円筒部257の軸線方向における一側に形成された底部258とを有する有底円筒状をなしており、その円筒部257を底部212側に配置した状態でシリンダボディ215の第1小径摺動内径部222に摺動可能に嵌合されている。円筒部257の底部258に対し反対側の端部には、シリンダ径方向に貫通するポート259が複数放射状に形成されている。
ここで、シリンダボディ215の底部212および筒部213の底部212側とセカンダリピストン220とで囲まれてシールリング230でシールされる部分が、セカンダリ吐出路253に液圧を供給するセカンダリ液圧室260となっており、このセカンダリ液圧室260は、セカンダリピストン220がポート259を開口溝233に開口させる位置にあるとき、リザーバ227に連通する。
シリンダボディ215の底部212側のシール周溝228に設けられたシールリング230は、内周がセカンダリピストン220の外周側に摺接することになり、セカンダリピストン220がポート259をシールリング230よりも底部212側に位置させた状態では、セカンダリ液圧室260とリザーバ227との連通を遮断可能となっており、これらに圧力差が生じた場合にリザーバ227側からセカンダリ液圧室260側へのブレーキ液の流れのみを許容する。また、シリンダボディ215のシール周溝229に設けられたシールリング231は、内周がセカンダリピストン220の外周側に摺接することになり、リザーバ227に連通する開口溝233と後述するプライマリ液圧室261との連通を遮断する。
セカンダリピストン220の底部258とシリンダボディ215の底部212との間には、ブースタ側から入力がない待機状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング262を含む間隔調整部263が設けられている。
シリンダボディ215の口部214側に嵌合されるプライマリピストン218は、軸線方向一側が、小径ピストン部265とされ、軸線方向他側がこれより大径の大径ピストン部266とされた段付きの外形形状をなしており、軸方向両端側が円筒状をなしている。大径ピストン部266の小径ピストン部265側には環状溝267が形成されており、この環状溝267よりも小径ピストン部265側には軸線方向に沿って延在する連通溝268が複数形成されている。そして、プライマリピストン218は、その小径ピストン部265がシリンダボディ215内における小径シリンダ部255の第2小径摺動内径部223に摺動可能に挿入されるとともに大径ピストン部266がシリンダボディ215内における大径シリンダ部256の大径摺動内径部224に摺動可能に挿入されている。
プライマリピストン218の小径ピストン部265の大径ピストン部266に対し反対側の端部の円筒状部分には、径方向に貫通するポート269が複数放射状に形成されている。
ここで、シリンダボディ215の第1小径摺動内径部222と第2小径摺動内径部223との間とプライマリピストン218とセカンダリピストン220とで囲まれ、シールリング231およびシールリング241でシールされる部分が、小径ピストン部265側にあってプライマリ吐出路254を介してホイールシリンダに液圧を供給するプライマリ液圧室(小径圧力室)261となっている。また、シリンダボディ215の第2小径摺動内径部223と大径摺動内径部224との間とプライマリピストン218とで囲まれ、シールリング241およびシールリング248でシールされる部分が、大径ピストン部266側にあってプライマリ液圧室261より大径の大径与圧室270となっている。言い換えれば、プライマリピストン218はシリンダボディ215に挿入されることでシリンダボディ215内に大径与圧室270とプライマリ液圧室261とを形成する。プライマリ液圧室261は、プライマリピストン218がポート269を大径与圧室270に開口させる位置にあるとき、大径与圧室270に連通する。
シリンダボディ215の第2小径摺動内径部223に設けられたシールリング241は、内周がプライマリピストン218の外周側に摺接することになり、プライマリピストン218がポート269をシールリング241よりも底部212側に位置させた状態では、プライマリ液圧室261と大径与圧室270との連通を遮断可能となっている。また、シールリング241は、カップシールであることから、シリンダボディ215内を大径ピストン部266側の大径与圧室270と小径ピストン部265側のプライマリ液圧室261とに区画するとともに、これらの間に圧力差が生じた場合に大径与圧室270側からプライマリ液圧室261側へのブレーキ液の流れのみを許容する。
シール周溝246に設けられたシールリング248は、内周がプライマリピストン218の大径ピストン部266の外周側に摺接することになり、プライマリピストン218が連通溝268および環状溝267をシールリング248よりも底部212側に位置させた状態では、大径与圧室270と連通路252つまりリザーバ227との連通を遮断可能となっている。このシールリング248も、カップシールであることから、大径与圧室270とリザーバ227との間に圧力差が生じた場合に開口溝251および連通路252を介してリザーバ227側から大径与圧室270側へのブレーキ液の流れのみを許容する。
また、口部214側のシール周溝247に設けられたシールリング249は、プライマリピストン218の大径ピストン部266に摺接することにより、シリンダボディ215の内周側とプライマリピストン218の外周側との隙間を介しての連通路252つまりリザーバ227と外気との連通を遮断する。
セカンダリピストン220とプライマリピストン218との間には、図示略のブレーキペダル側から入力がない待機状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング272を含む間隔調整部273が設けられている。
なお、シリンダボディ215は、底部212と筒部213と取付台部225,226とが、金属、例えばアルミニウム鋳造品からなる一体成形の素材から加工されて形成されている。
セカンダリピストン220は、図示略のブレーキペダル側から入力がない初期状態(このときの各部の位置を初期位置と以下称す)で、間隔調整部263のセカンダリピストンスプリング262の付勢力で最も底部212から離れた初期位置にある。このとき、セカンダリピストン220は、ポート259を開口溝233に開口させており、その結果、セカンダリ液圧室260を連通路234を介してリザーバ227に連通させている。
この状態からセカンダリピストン220がブレーキペダルの入力で底部212側に移動すると、セカンダリピストン220はそのポート259がシールリング230で閉塞され、その結果、セカンダリ液圧室260とリザーバ227との連通が遮断されることになり、これにより、さらにセカンダリピストン220が底部212側に移動することでセカンダリ液圧室260からセカンダリ吐出路253を介してブレーキ装置にブレーキ液を供給する。なお、ポート259を閉塞させた状態であってもリザーバ227側の液圧(大気圧)よりもセカンダリ液圧室260の液圧が低くなると、シールリング230が開いてリザーバ227のブレーキ液がセカンダリ液圧室260に流れるようになっている。
また、プライマリピストン218は、間隔調整部263のセカンダリピストンスプリング262の付勢力と間隔調整部273のプライマリピストンスプリング272の付勢力とによって最も口部214側の初期位置に配置された状態にあるとき、プライマリ液圧室261に連通するポート269を開いてプライマリ液圧室261と大径与圧室270とを連通させている。
この状態から、プライマリピストン218がブレーキペダルの入力で底部212側に移動すると、プライマリピストン218は、そのポート269がシールリング241で閉塞され、プライマリ液圧室261と大径与圧室270側とのポート269を介しての連通を遮断することになり、この状態からさらに底部212側に移動すると、プライマリ液圧室261からプライマリ吐出路254を介してブレーキ装置にブレーキ液を供給する。なお、ポート269を閉塞させた状態であっても大径与圧室270の液圧がプライマリ液圧室261の液圧より大きくなると、シールリング241を開いて大径与圧室270のブレーキ液がプライマリ液圧室261に流れるようになっている。
つまり、プライマリピストン218は、初期位置にあるとき、連通溝268と環状溝267と開口溝251と連通路252とで大径与圧室270とリザーバ227とを連通させている。この状態からプライマリピストン218が、底部212側に摺動すると、連通溝268および環状溝267がシールリング248で閉塞されて、大径与圧室270とリザーバ227との連通を遮断することになり、さらに摺動すると、大径ピストン部266が大径与圧室270の体積を減少させることで、大径与圧室270の液圧を高め、大径与圧室270とプライマリ液圧室261との間に設けられたシールリング241を開いて、大径与圧室270側からプライマリ液圧室261へ液補給を行うことになり、プライマリ液圧室261に液圧が発生する。ブレーキ装置に対してブレーキ液を供給する際、このように作動初期に大容量のブレーキ液を供給する、いわゆるファストフィルを行うことで、ストローク初期の無効液量分を補い、ペダルストロークを短縮する。
そして、第3実施形態に係るマスタシリンダ210では、上記したファストフィル時に、プライマリ液圧室261への液補給の進行に伴って大径与圧室270の液圧を徐々に解除する必要がある。このため、上記した大径与圧室270、プライマリ液圧室261およびリザーバ227に接続されるとともに、大径与圧室270またはプライマリ液圧室261が所定の液圧に達したときに、大径与圧室270の液圧をプライマリ液圧室261の所定の液圧上昇に応じて徐々に低下させるようにリザーバ227側に逃がすための減圧機構275が、シリンダボディ215に組み込まれて設けられている。この減圧機構275は、大径与圧室270またはプライマリ液圧室261の液圧によって所定の開弁圧で開弁して大径与圧室270をリザーバ227に連通して液圧の上昇に伴い大径与圧室270の液圧を徐々に減圧する。
つまり、まずシリンダボディ215に、筒部213のシリンダ軸方向の中間位置、具体的には口部214側の取付台部226の位置であって円周方向の側部位置から、図8に示すように、シリンダ径方向に沿って下方に略円筒状をなして突出する突出部280が形成されている。突出部280は、ボア216の中心軸線に対して、直交する方向に平行をなしてシリンダ径方向にオフセットしている。この突出部280も、シリンダボディ215の鋳造時に底部212、筒部213および取付台部225,226と一体成形される。
突出部280の内側には、段付き形状の弁収容穴282が形成されている。弁収容穴282は、筒部213側の小径穴部284と、小径穴部284の筒部213とは反対側に隣り合うこの小径穴部284よりも大径の大径穴部285とで構成されている。大径穴部285には、小径穴部284側にメネジ部287が形成されている。
図7に示すように、シリンダボディ215には、その内周面のうち、大径シリンダ部256の口部側大径内径部244に、シリンダボディ215の周方向の一部において径方向外側に窪む円弧状の偏心溝(溝)288が形成されている。この偏心溝288は、図8に示すように、シリンダボディ215の円周方向における突出部280のオフセット方向である側部位置に側方に凹むように形成されている。
そして、シリンダボディ215には、一端が偏心溝288の最も凹む位置に開口し、他端が小径穴部284の底部の中央に開口して、小径穴部284を大径与圧室270に連通させる与圧室連通路(減圧バルブ通路)290が、弁収容穴282と同軸をなして形成されている。
また、突出部280と筒部213と取付台部226とには、一端が小径穴部284の側壁部の底部側の端部に開口し、他端が取付台部226の取付穴226aの底部に開口して、小径穴部284をリザーバ227に連通させるリザーバ連通路292が形成されている。このリザーバ連通路292は、与圧室連通路290と平行に穿設される通路穴292aと、取付穴226aから通路穴292aまで穿設される通路穴292bとからなり、通路穴292aの外部開口端はボール292cで閉塞されている。なお、一端部が大径穴部285の側壁部の底部側の端部に開口し、他端部がプライマリ液圧室261を形成する偏心溝242に図7に示すように開口して液圧室連通路293が形成されている。
図8に示すように、上記した弁収容穴282は、その開口部が、蓋体295で閉塞されている。この蓋体295は、筒部296と、この筒部296の一端側を閉塞する蓋部299とを有しており、筒部296の蓋部299とは反対の外周部にオネジ部300が形成されている。そして、蓋体295は、筒部296がオネジ部300において突出部280の大径穴部285のメネジ部287に螺合され、これにより弁収容穴282を閉塞する。筒部296と弁収容穴282との間にはこれらの隙間をシールするOリング302が嵌合されている。
そして、減圧機構275は、筒部213と突出部280と蓋体295とで弁収容穴282内に形成されたバルブ室303に、減圧バルブ305と、これを筒部213側に付勢する弁スプリング306とを有している。
減圧バルブ305は、第1軸部310と、第1軸部310と隣り合うこの第1軸部310と同軸でこれより大径の第2軸部311と、第2軸部311の第1軸部310とは反対側に隣り合うこの第2軸部311と同軸でこれより若干大径の第3軸部312とを有するアルミニウム等の金属製のピストン本体315を有している。
このピストン本体315は、弁収容穴282の小径穴部284に第2軸部311において摺動可能に嵌合し、蓋体295の内周面に第3軸部312において摺動可能に嵌合する。このピストン本体315には、第1軸部310の先端中央にシール凹部317が、第2軸部311の外径側にシール溝318が、第3軸部312の外径側にシール溝319がそれぞれ形成されている。また、ピストン本体315の中央には、第3軸部312側から中間位置まで大径軸穴321が形成されており、大径軸穴321からささらに第1軸部310まで大径軸穴321よりも小径の小径軸穴322が形成されていて、小径軸穴322と直交するように軸直交穴323が形成されている。この軸直交穴323は、第1軸部310の外周面に開口している。
そして、減圧バルブ305は、ピストン本体315のシール凹部317に嵌合されるゴム製の弁シール327を有している。この弁シール327は、小径穴部284の弁座328としての底面に与圧室連通路290を全周にわたって囲むように当接することにより、与圧室連通路290を閉じることになる。
また、減圧バルブ305は、第2軸部311のシール溝318に嵌合されるシールリング330と、第4軸部313のシール溝319に嵌合されるOリング331とを有している。シールリング330は、C字状断面を有するカップシールからなり、第3軸部312側にリップ側を配置した状態でシール溝318に嵌合されている。シールリング330は、第2軸部311と小径穴部284との隙間をシールすることになり、Oリング331は、第3軸部312と蓋体295の内周面との隙間をシールすることになる。
減圧バルブ305を構成するピストン本体315、シールリング330によって、リザーバ227に常時連通するとともに弁シール327および弁座328で与圧室連通路290との連通および連通遮断が切り換えられる開閉室333が、バルブ室303の軸線方向の一端側に形成されることになる。また、ピストン本体315、シールリング330およびOリング302,331によって、バルブ室303の軸線方向の中間位置に制御圧力室334が形成されることになる。さらに、ピストン本体315およびOリング331によってバルブ室303の軸線方向の他端側に室335が画成される。
ここで、制御圧力室334は、図7に示す一端部が偏心溝242の位置に開口する液圧室連通路293の図示略の他端部に常時連通し、また、開閉室333と室335とは減圧バルブ305内の軸直交穴323、小径軸穴322および大径軸穴321を介して常時連通している。なお、制御圧力室334は、開閉室333および室335とは基本的に区画されている。
減圧バルブ305は、弁座328に当接した閉弁状態で大径与圧室270の液圧を与圧室連通路290を介して開弁方向に受けることになる。また、開閉室333および室335はリザーバ227に連通されて基本的に大気圧となっている。そして、減圧バルブ305は、制御圧力室334に導入されるプライマリ液圧室261の液圧を受けるシールリング330およびOリング331の受圧面積差によって、プライマリ液圧室261の液圧に応じた大きさの付勢力が開弁方向に作用する。
コイルスプリングからなる弁スプリング306は、減圧バルブ305の大径軸穴321内に配置されており、減圧バルブ305の大径軸穴321の底面と蓋体295の蓋部299との間に介装されている。弁スプリング306は、減圧バルブ305をその弁シール327が弁座328に当接する方向、つまり与圧室連通路290を閉弁する方向に付勢する。
減圧機構275は、その制御圧力室334が、液圧室連通路293を介して常時プライマリ液圧室261に連通している。その結果、減圧バルブ305には、プライマリ液圧室261の液圧とシールリング330およびOリング331の受圧面積差とで弁スプリング306の付勢力に抗する方向の推力つまり開弁方向の推力が生じる。この推力により、減圧バルブ305が弁スプリング306の付勢力に抗して移動すると、与圧室連通路290が開放され、大径与圧室270の液圧を与圧室連通路290、開閉室333およびリザーバ連通路292を介してリザーバ227側に逃がすことになる。ここで、制御圧力室334に導入されるプライマリ液圧室261の液圧に応じて減圧バルブ305に生じる推力が変わることになり、その結果、減圧バルブ305は、大径与圧室270の液圧を、プライマリ液圧室261の液圧上昇に応じて徐々に低下させるようにリザーバ227側に逃がすことになる。
つまり、上記したファストフィル時に、図6に示すシールリング241を押し開いて大径与圧室270からプライマリ液圧室261にブレーキ液が送り込まれ、ストローク初期の無効液量分(主にキャリパロールバック分)を補うことになるが、その後、プライマリ液圧室261の小径化に伴う液量不足を補うため、大径与圧室270からプライマリ液圧室261にブレーキ液が送り込まれながら、大径与圧室270とプライマリ液圧室261とが同圧で与圧室解除液圧まで上昇する。そして、与圧室解除液圧まで上昇すると、それまで閉状態にあった減圧機構275が大径与圧室270の液圧を解除する。このとき、減圧機構275は、上記したようにプライマリ液圧室261の液圧の上昇に応じて徐々に大径与圧室270の液圧が下がるように、大径与圧室270の液圧をリザーバ227側に逃がすことになる。
以上に述べた第3実施形態によれば、シリンダボディ215の内周面のうちの大径シリンダ部256には、シリンダボディ215の周方向の一部に径方向外側に窪む偏心溝288が形成されており、この偏心溝288に、減圧バルブ305が設けられるバルブ室303と大径与圧室270とを連通する与圧室連通路290が開口しているため、大径与圧室270との間の肉厚を確保しつつバルブ室303を口部側大径内径部244と上下方向に重なる位置まで上下方向に近づけることができ、減圧機構275のボア216の中心からの突出量Lを抑えることができる。したがって、小型化可能となる。
また、シリンダ軸方向に直交する方向に沿って減圧機構275が設けられるため、減圧機構275の組み付け性等を向上できる。
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。