自動車用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば特許文献1等の多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。又、変速比の変動幅を大きくすべく、トロイダル型無段変速機と差動ユニットである遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献2〜7に記載される等により、従来から広く知られている。図13〜14は、このうちの特許文献6〜7に記載された、入力軸を一方向に回転させたまま出力軸を停止させられる、所謂ギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えた無段変速装置を示している。このうちの図13は無段変速装置のブロック図を、図14は、この無段変速装置を制御する油圧回路を、それぞれ示している。
エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6、即ち、図14の低速用、高速用各クラッチ7、8を介して、出力軸9に取り出される。又、上記トロイダル型無段変速機4は、それぞれが第一、第二のディスクである入力側、出力側各ディスク10、11と、複数個のパワーローラ12と、それぞれが支持部材である複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図14)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。又、上記各パワーローラ12は、互いに対向する上記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。又、上記各トラニオンは、上記各パワーローラ12を回転自在に支持している。
又、上記アクチュエータ13は、油圧式のもので、上記各パワーローラ12を支持した上記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、上記押圧装置14は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のものであり、上記入力側ディスク10と上記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、上記変速比制御ユニット15は、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、上記変速比制御ユニット15は、制御器16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ17と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、電磁弁19と、シフト用電磁弁20と、これら各部材17〜20により作動状態を切り換えられる制御弁装置21とにより構成している。尚、この制御弁装置21は、変速比制御弁22と、差圧シリンダ23と、補正用制御弁24a、24bと、高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26(図14)とを合わせたものである。このうちの変速比制御弁22は、上記アクチュエータ13への油圧の給排を制御するものである。又、上記差圧シリンダ23は、前記トロイダル型無段変速機4を通過する力(通過トルク)に応じて、このトロイダル型無段変速機4の変速比を補正すべく、上記変速比制御弁22の切換状態を調節する為のものである。又、上記補正用制御弁24a、24bは、上記差圧シリンダ23への圧油の給排を制御するものである。更に、上記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26は、前記低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の導入状態を切り換えるものである。
又、前記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ27(図14の27a、27b)から吐出した圧油は、上記制御弁装置21や上記押圧装置14等に送り込まれる。即ち、油溜28(図14)から吸引されて上記オイルポンプ27a、27bにより吐出された圧油は、押圧力調整弁29、及び、低圧側調整弁30(図14)により所定圧に調整自在としている。これら両調整弁29、30のうち、上記押圧装置14並びに手動油圧切換弁31側に送る油圧を調整する為の上記押圧力調整弁29は、例えば特許文献8等にも詳しく記載されている様に、リリーフ弁としての機能を備えたもので、第一〜第三のパイロット部32〜34を備える。このうちの第一、第二のパイロット部32、33は、前記トロイダル型無段変速機4を通過する力(通過トルク)の大きさに応じて、この押圧力調整弁29の開弁圧を調節する為のものである。この為に、前記パワーローラ12を支持する支持部材(トラニオン)を枢軸の軸方向に変位させる為のアクチュエータ13にピストン35を挟んで設けた、1対の油圧室36a、36b同士の間に存在する油圧の差(差圧)を、差圧取り出し弁37を介して、上記第一、第二のパイロット部32、33に導入している。
これに対して、第三のパイロット部34は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比、このトロイダル型無段変速機4の内部に存在する潤滑油(トラクションオイル)の温度、駆動源であるエンジン1の回転速度等、上記通過トルク以外の運転条件に応じて、上記押圧力調整弁29の開弁圧を、この通過トルク(差圧)の大きさに応じて調節される(第一、第二のパイロット部32、33により調節される)値から、上記押圧装置14に発生させるべき最適な押圧力に対応する目標値に調節(減圧)する為のものである。この為に、前記制御器16からの指令により制御されるライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉(デューティー比制御)に基づき、上記第三のパイロット部34に所定圧の圧油を導入している。そして、上記第一〜第三のパイロット部32〜34に導入する油圧を適切に調節する事により{第一、第二のパイロット部32、33に通過トルク(差圧)の大きさに応じた油圧を導入すると共に、第三のパイロット部34に制御器16の指令に基づいて調節された油圧を導入する事により}、上記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては、上記押圧装置14が発生する押圧力を、上記トロイダル型無段変速機4の運転状況に応じて、適正に規制している。
例えば、図15は、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開度(単位時間当たりの開いている時間の割合)と減圧量(押圧力調整弁29の開弁圧の低下量)との関係の1例を示している。上記制御器16は、この様な関係を基に、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を調節(デューティー比制御)し、上記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては上記押圧装置14に導入する油圧を上記目標値に調節する事で、この押圧装置14が発生する押圧力を適正に規制している。尚、図示の例の場合は、上記押圧力調整弁29と、差圧取り出し弁37と、制御器16と、ライン圧制御用電磁開閉弁18とが、特許請求の範囲に記載した油圧調整手段に相当する。
又、上記押圧力調整弁29により調整された圧油は、前記手動油圧切換弁31と、前記高速クラッチ用切換弁25又は低速クラッチ用切換弁26とを介して、前記低速用クラッチ7又は高速用クラッチ8の油圧室内に送り込み自在としている。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8のうちの低速用クラッチ7は、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態)を含む}低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、上記高速用クラッチ8は、上記低速モードを実現する際に接続を断たれると共に高速モードを実現する際に接続される。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の給排状態は、前記シフト用電磁弁20の切り換えに応じて切り換えられる。
又、特許文献9には、トロイダル型無段変速機を通過するトルク(通過トルク)が急変動した際に、油圧式の押圧装置が発生する押圧力が一時的に低下するのを防止する発明が記載されている。即ち、この特許文献9に記載された構造の場合は、上記トルクが急増する際に、上記押圧装置の油圧室内に導入する油圧を高める信号を、この油圧室内に導入する圧油を制御する為の制御ユニットに送る。この為、上記トルクが急変動する際にも、上記押圧装置が発生する押圧力を適正値に維持する事ができ、伝達効率及び耐久性の確保を図れる。又、特許文献10には、トロイダル型無段変速機の変速比(パワーローラの傾転角)と、このトロイダル型無段変速機を通過するトルク(通過トルク)とに応じて、押圧装置の油圧室内に導入する油圧、延いては、この押圧装置の発生する押圧力を適正に調節する技術が記載されている。
ところで、前述の図13〜15に示した従来構造の場合は、押圧装置14の発生する押圧力を、トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)に応じて調節する為に、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36b同士の間の油圧の差(差圧)に対応する油圧を、(差圧取り出し弁37を介して)押圧力調整弁29(の第一、第二のパイロット室32、33)に導入している。一方、この様な押圧力調整弁29に差圧を直接導入する構造に代えて、上記各油圧室36a、36bに設けた1対の油圧センサ38a、38b(図13の38)により上記差圧を検出し、この差圧(乃至はこの差圧から求められる通過トルク)に基づいて、上記押圧装置14の発生する押圧力を調節する事もできる。尚、この様な構成を採用した場合には、後述する実施の形態の第1例の図2に示す様に、アクチュエータ13を構成する各油圧室36a、36bと押圧力調整弁29とを連通する為の油圧回路{差圧取り出し弁37(図14)や油圧配管等}を省略できる。又、この場合には、上記押圧力調整弁29と、上記制御器16と、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18とが、特許請求の範囲に記載した油圧調整手段に相当する。
何れにしても、上述の様な構成を採用した場合は、制御器16により、上記差圧(通過トルク)と、上記トロイダル型無段変速機4の変速比と、必要に応じてこのトロイダル型無段変速機4内を循環する油温等の他の状態量とに応じて、上記押圧装置14の油圧室に導入すべき油圧の目標値を設定(算出)する。この場合に、上記変速比は、入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度を検出する為の入力側、出力側各回転速度センサ39、40により(両ディスク10、11の回転速度の比として)検出できる。又、上記油温は、上記トロイダル型無段変速機4のケーシング内に設けた油温センサ41により検出できる。
又、上記目標値は、例えば上記差圧(通過トルク)や変速比、油温等の値と、これらの値に対応する上記目標値との相関関係として、予め実験や計算により求めておき、上記制御器16のメモリにマップ(MAP)や計算式として記憶させておく。そして、この様なマップや計算式を用いて、上記制御器16により、その時点での上記差圧(通過トルク)、変速比、油温等に対応する、上記目標値を設定する(算出する、求める)と共に、この目標値に調節すべく、ライン圧制御用電磁開閉弁19の開閉を調節(デューティー比制御)する。そして、この開閉調節に基づき、上記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては上記押圧装置14の油圧室に導入する油圧を上記目標値に調節し、上記押圧装置14が発生する押圧力を適正に規制する。
ところが、この様な構成を採用した場合、そのままでは、押圧装置14の油圧室に導入される油圧が、その時点でのトロイダル型無段変速機4の運転状況(通過トルクや変速比の変化)に応じた目標値に調節されるまでに、或る程度の時間を要し、この目標値に達するまでの時間的遅れ(応答遅れ)を生じる可能性がある。この理由に就いて、以下に説明する。
(1)トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)の検出に関して
トロイダル型無段変速機4を通過するトルクが変化してから、このトルクの変化がアクチュエータ13を構成する各油圧室36a、36bの油圧の変化として現れるまでに、或る程度の時間を要し、その分、遅れを生じる可能性がある。
(2)トロイダル型無段変速機4の変速比の検出に関して
入力側、出力側各回転センサ39、40の検出性能に応じた不可避的な検出遅れを生じる可能性がある他、検出された回転速度に基づいて変速比が算出されるまでに、或る程度の時間を要し、その分、遅れを生じる可能性がある。
(3)押圧装置14の油圧の調節に関して
検出されたトルク(差圧)と変速比とに基づき制御器16により目標値が設定(算出)された後、この目標値に調節すべくライン圧制御用電磁開閉弁18に制御信号が送られてから、このライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づき押圧力調整弁29に導入する油圧が変化し、更に、この油圧の変化に基づきこの押圧力調整弁29の開弁圧、延いては、押圧装置14に導入される油圧が変化するまでに、或る程度の時間を要し、その分、遅れを生じる可能性がある。
上述の様な検出や油圧調節に伴う遅れ(応答遅れ)は、定速運転時等の、上記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)の変化が緩やかな場合には、問題にならない。但し、例えば急加速時(アクセルペダルを急に踏み込んだ際)等の、上記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)が急激に変化する場合には、上記遅れ(目標値に達するまでの遅れ)に伴い、押圧装置14の発生する押圧力が不足する可能性がある。即ち、入力側、出力側各ディスク10、11の側面と各パワーローラ12の周面とのトラクション部(転がり接触部)に、上記トルクの急変動に応じた押し付け力を十分に付与できなくなる可能性がある。そして、この様に押し付け力を十分に付与できなくなる(押圧力が不足する)と、著しい場合には、上記トラクション部(転がり接触部)でグロススリップと呼ばれる有害な滑りを生じる可能性があり、好ましくない。
特開2001−317601号公報
特開平1−169169号公報
特開平10−196759号公報
特開2003−307266号公報
特開2000−220719号公報
特開2004−225888号公報
特開2004−211836号公報
特開2004−76940号公報
特開2004−169719号公報
特開2001−108047号公報
本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置は、上述の様な事情に鑑みて、例えば急加速時(アクセルペダルを急に踏み込んだ際)等の動力の急変動時にも、この動力を伝達するトラクション部(転がり接触部)で適切な押し付け力を付与できる構造を実現すべく発明したものである。
本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置のうち、請求項1〜12に記載したトロイダル型無段変速機は、第一、第二のディスクと、複数のパワーローラと、複数個の支持部材と、アクチュエータと、押圧装置とを備える。
このうちの第一、第二のディスクは、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。
又、上記各パワーローラは、互いに対向する上記第一、第二のディスクの内側面同士の間に挟持されて、これら第一、第二のディスク同士の間で動力(力、トルク)を伝達する。
又、上記各支持部材は、上記各パワーローラを回転自在に支持する。
又、上記アクチュエータは、油圧式のもので、上記各支持部材を、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間の変速比を変える。
又、上記押圧装置は、油圧の導入に伴ってこの油圧に比例した押圧力を発生させる油圧式のもので、上記第一のディスクと上記第二のディスクとを互いに近付く方向に押圧するものである。
そして、本発明のトロイダル型無段変速機のうち、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機の場合には、上記押圧装置に導入する油圧を調整する為の油圧調整手段は、この押圧装置の油圧室に導入する油圧を、少なくとも、その時点での上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力(動力、トルク)の大きさに応じて設定される、上記押圧装置に発生させるべき押圧力に対応する目標値に調節するものである。
尚、上記「少なくとも」とは、この目標値の設定に当たり、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力でだけでなく、この伝達する力の他、トロイダル型無段変速機の変速比(第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比)や、このトロイダル型無段変速機内を循環する潤滑油(トラクションオイル)の油温等の他の状態量を、上記伝達する力と共に用いる事を排除しない事を意味する。例えば、上記目標値の設定を、上記伝達する力( 後述する第一の機能により求められる力、又は、第二の機能により求められる力) と上記変速比と(必要に応じて油温と)に基づいて行なう事が、より好ましい。
特に、請求項1に記載した本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、上記油圧調整手段は、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力の大きさを求める為に、2つの機能(第一、第二各機能)を備えている。
このうちの第一の機能は、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力の大きさを、その時点での、上記アクチュエータに設けた1対の油圧室同士の間の油圧の差(差圧)に基づいて求める(推定する)ものである。
又、第二の機能は、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力の大きさを、その時点での、上記トロイダル型無段変速機と接続した駆動源(例えばエンジン、電動モータ等)の出力を調節する為のアクセル装置の操作量(アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)と、この駆動源の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて求める(推定する)ものである。
そして、所定の条件を満たす場合に、上記第二の機能に基づき、上記目標値を設定し、この目標値に油圧を調節する。
要するに、上記油圧調整手段は、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達する力の大きさを、その時点での差圧に基づいて求める(推定する)第一の機能に加え、その時点でのアクセル装置の操作量と駆動源の回転速度とに基づいて求める(推定する)第二の機能を備えたものとしている。そして、所定の条件を満たす場合に、このうちの第二の機能に基づき、上記目標値を設定し、この目標値に油圧を調節する。
尚、以下の説明は、上記第一のディスクと上記第二のディスクとの間で伝達される力(動力、トルク)のうち、上記第一の機能に基づいて求められる(推定される)当該力を、「トロイダル型無段変速機を通過する力(実通過トルク)」とする。この「実通過トルク」は、前述の[背景技術]の欄でも説明した様に、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36b(図14参照)同士の間の差圧に基づいて求められる通過トルクに対応するものである。これに対して、上記第二の機能により求められる(推定される)当該力は、アクセル装置の操作量(アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)と駆動源の回転速度(エンジン回転速度)とから求められる(推定される)もの、即ち、この駆動源から出力される(乃至は出力されると予測される)力(動力、トルク、出力トルク、エンジントルク)に対応するものである。そこで、上記第二の機能により求められる(推定される)当該力は、「駆動源から出力される力(実出力トルク、又は、エンジントルク)」とする。
上述の様な請求項1に記載した本発明のトロイダル型無段変速機を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、アクセル装置の操作状況が所定の条件を満たす場合に、上記第二の機能に基づいて目標値を設定し、この目標値に油圧を調節する。
より具体的には、請求項3に記載した様に、上記アクセル装置が所定の速度以上で操作されてから(例えば、アクセルペダルが所定の速度以上で踏み増されてから、アクセル開度が所定の速度以上で増大してから)所定時間経過するまで、上記第二の機能に基づいて目標値を設定し、この目標値に油圧を調節する。又、請求項4に記載した様に、上記アクセル装置が所定量以上操作されてから(例えば、アクセルペダルが所定量以上踏み増されてから、アクセル開度が所定量以上増大してから)所定時間経過するまで、第二の機能に基づいて目標値を設定し、この目標値に油圧を調節する事もできる。
又、前述の様な請求項1に記載した本発明のトロイダル型無段変速機を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、前記第一の機能に基づいて設定される目標値(第一の目標値)と、前記第二の機能に基づいて設定される目標値(第二の目標値)とを比較し、このうちの大きい値の目標値を実際の目標値(実目標値)として設定し、この目標値(実目標値)に油圧を調節する。即ち、実通過トルク{アクチュエータに設けた1対の油圧室同士の間の油圧の差(差圧)}に基づいて設定される目標値(第一の目標値)と、実出力トルク{駆動源の出力を調節する為のアクセル装置の操作量(アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)とこの駆動源の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)と}に基づいて設定される目標値(第二の目標値)とを比較し、大きい値の目標値を実際の目標値(実目標値)として設定する。尚、「大きい値の目標値に設定する」とは、第一の目標値よりも第二の目標値が大きい場合は、この第二の目標値を実際の目標値(実目標値)に設定し、この第二の目標値よりも上記第一の目標値が大きい場合は、この第一の目標値を実際の目標値に設定する事を意味する。又、これら第一の目標値と第二の目標値とが同じ場合は、何れでも良い(第一の目標値を設定しても良いし、第二の目標値を設定しても良い)。
この様な構成を採用する場合には、請求項6に記載した様に、上記駆動源の出力を調節する為のアクセル装置が所定量以上操作された事(例えば、アクセルペダルが所定量以上踏み増された事、アクセル開度が所定量大きくなった事)と、上記トロイダル型無段変速機を組み込んだ車両の速度(車速)が所定値以上である事と、この車両に制動力を付与する為の制動装置(ブレーキ装置、サービスブレーキ、パーキングブレーキ)が操作されていない(ブレーキペダルが踏み込まれていない)事とのうちの、少なくとも何れかの条件を満たす場合に、上記第一の目標値と上記第二の目標値とを比較し、大きい値の目標値を実際の目標値(実目標値)として設定すると共に、この目標値に油圧を調節する。
又、上述の様な請求項1〜6に記載した本発明のトロイダル型無段変速機を実施する場合に好ましくは、請求項7に記載した様に、上記駆動源の出力を調節する為のアクセル装置が所定量以上操作されておらず(例えば、アクセルペダルが所定量以上踏み込まれておらず、アクセル開度が所定量未満であり)、上記トロイダル型無段変速機を組み込んだ車両の速度(車速)が所定値未満であり、この車両に制動力を付与する為の制動装置が操作されている(ブレーキペダルが踏み込まれている)場合に、第二の機能に基づいて目標値を設定し、この目標値に油圧を調節する。
尚、本発明のトロイダル型無段変速機を実施する場合、必要に応じて、請求項8に記載した様に、目標値を、トロイダル型無段変速機内を循環する潤滑油(トラクションオイル)の温度(油温)に応じて補正する。
又、本発明のトロイダル型無段変速機のうち、請求項9に記載したトロイダル型無段変速機の場合には、前記押圧装置に導入する油圧を調整する為の油圧調整手段は、この押圧装置に導入する油圧を、その時点での運転状況を表す状態量{例えば、第一のディスクと第二のディスクとの間で伝達する力の大きさ(上述した第一の機能又は第二の機能により求められる実通過トルク又は実出力トルク)、第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比、トロイダル型無段変速機内を循環する潤滑油(トラクションオイル)の温度等のうちの少なくとも何れか}に応じて設定される、上記押圧装置に発生させるべき押圧力に対応する目標値に調節するものである。尚、請求項9に記載したトロイダル型無段変速機の場合には、第一のディスクと第二のディスクとの間の変速比を変える為のアクチュエータは、油圧式のものに限定されない。
特に、請求項9に記載したトロイダル型無段変速機に於いては、上記油圧調整手段は、上記トロイダル型無段変速機と接続した駆動源の出力を調節する為のアクセル装置の操作状況が所定の条件を満たす場合に、上記目標値に調節する為に行なわれる油圧の減圧調節を、所定時間停止する機能を備えたものである。
より具体的には、請求項10に記載した様に、上記アクセル装置が所定量以上操作された(例えば、アクセルペダルが所定量以上踏み増された、アクセル開度の増大量が所定量以上になった)場合に、上記油圧の減圧調節を所定時間停止する。
又、請求項11に記載した様に、上記アクセル装置が所定の速度以上で操作された(例えば、アクセルペダルが所定の速度以上で踏み増された、アクセル開度が所定の速度以上で増大した)場合に、上記油圧の減圧調節を所定時間停止する。
更には、請求項12に記載した様に、上記アクセル装置が所定量以上、且つ、所定の速度以上で操作された(例えば、アクセルペダルが所定量以上、且つ、所定の速度以上で踏み増され、又は、アクセル開度が所定量以上、且つ、所定の速度以上で増大した)場合に、上記油圧の減圧調節を所定時間停止する。
尚、これら請求項9〜12に記載した発明、即ち、アクセル装置の操作状況が所定の条件を満たす場合に減圧調節を所定時間停止すると言った構成は、前述した請求項1〜9に記載した発明と組み合わせて実施する事もできる。
又、請求項13に記載した無段変速装置は、トロイダル型無段変速機と、複数の歯車を組み合わせて成る歯車式の差動ユニットとを備える。
このうちの差動ユニットは、上記トロイダル型無段変速機を構成する第一のディスクと共に入力軸により回転駆動される第一の入力部と、同じく第二のディスクに接続される第二の入力部とを有し、これら第一、第二の入力部同士の間の速度差に応じた回転を取り出して出力軸に伝達するものである。
特に、本発明の無段変速装置に於いては、上記トロイダル型無段変速機を、上述した様な本発明のトロイダル型無段変速機としている。
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機及び無段変速装置によれば、第一、第二のディスク同士の間で伝達する動力(トルク、力)の急変動時にも、この動力を伝達するトラクション部(転がり接触部)で適切な押し付け力を付与できる。
先ず、請求項1〜8に記載した発明の場合には、必要に応じて(例えば急加速時等に)、押圧装置に導入する油圧の目標値の設定を、第二の機能、即ち、アクセル装置の操作量(例えば、アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)と駆動源(例えばエンジン、電動モータ等)の駆動軸(回転軸)の回転速度(エンジン回転速度)とに対応する、実出力トルク(駆動源から出力される力)に基づいて行なう。この様な第二の機能に基づく目標値の設定は、第一の機能、即ち、アクチュエータの油圧室同士の間の油圧の差(差圧)に対応する、実通過トルク(トロイダル型無段変速機を通過する力)に、上記急変動に対応する変化が現れる前の段階で行なえる。即ち、この実通過トルク(差圧)が変化する前の段階である、上記実出力トルクが変化し始める時点、即ち、上記アクセル装置の操作量や上記駆動源の回転速度が変化し始めた時点(例えば、運転者がアクセルペダルの踏み増しを開始した時点)での、この実出力トルクの変化に基づいて、上記目標値を設定できる。そして、この様に設定される目標値に上記油圧を調節する為、その分(前段階である分)この油圧を、実際の運転状況に応じた値(実際に必要とされる値)に迅速に調節できる。要するに、この油圧の調節を、実通過トルク(差圧)に変化が現れてから行なうフィードバック制御ではなく、この変化が現れる前に行なうフィードフォワード制御により行なう為、その分、上記油圧、延いては、上記トラクション部(転がり接触部)の押し付け力が不足する事を防止できる。
又、請求項2〜4に記載した発明の場合は、上記アクセル装置の操作状況(例えば、アクセル開度の増大状況、アクセルペダルの踏み増し量の変化状況)が所定の条件を満たす場合、即ち、このアクセル装置の操作が急な場合(例えば急加速時)に、上記第二の機能(実出力トルク、アクセル装置の操作量と駆動源の回転速度)に基づいて、上記目標値の設定を行なう。この為、急加速に伴い動力が急変動する場合にも、トラクション部(転がり接触部)に、この急変動に応じた十分な押し付け力を付与する事ができ、グロススリップと呼ばれる有害な滑りを確実に防止できる。尚、上記アクセル装置の操作状況が所定の条件を満たさない場合には、第一の機能に基づいて目標値を設定する。この理由は、次の通りである。即ち、例えば減速時等では、アクセル装置の操作(アクセルペダルの踏み込み)が行なわれない状態で、第一、第二のディスク同士の間で伝達する動力が増大する場合がある。この様な場合に、上記第二の機能に基づいて目標値を設定すると、上記油圧、延いては、上記トラクション部(転がり接触部)の押し付け力が不足する可能性がある。これに対して、上記第一の機能に基づいて目標値の設定を行なえば、上記減速時等の、上記アクセル装置の操作が伴わない場合の動力変動時にも、この動力変動に応じた油圧に調節できる。そこで、上述の様なアクセル装置の操作状況が所定の条件を満たさない場合には、上記第一の機能に基づいて目標値を設定する。
又、請求項5〜6に記載した発明の場合は、上記第一の機能(実通過トルク、差圧)に基づいて設定される目標値(第一の目標値)と、上記第二の機能(実出力トルク、アクセル装置の操作量と駆動源の回転速度)に基づいて設定される目標値(第二の目標値)とを比較し、値が大きい目標値を実際の目標値として設定する。この様な構成を採用した場合には、常に大きい目標値が実目標値として設定される為、急加速時は勿論、この様な急加速時以外の動力の急変動時にも、トラクション部(転がり接触部)に十分な押し付け力を付与する事ができる。この為、運転状況に拘わらず(何れの運転状況でも、例えばアクセルペダルを一定の踏み込み量で維持した状態から踏み込み量を急に大きく変化させた場合でも)、グロススリップと呼ばれる有害な滑りを確実に防止できる。しかも、本発明の場合には、前述した請求項2〜4に記載した発明で必要であった、アクセル操作の操作状況(操作速度や操作量)の判定が不要になる分(第一の目標値と第二の目標値との比較だけで済む分)、上記目標値の設定手順を簡素に構成できる。又、上記第一の機能と上記第二の機能とが切り換わる(第一の目標値と第二の目標値とが切り換わる)際の、この目標値の変化を滑らかに行なえる(アクセル操作の操作状況が所定の条件を満たすからと言って、第一の目標値と第二の目標値との差が大きいにも拘わらず、これらの間で目標値が切り換わってしまう事を防止できる)。
又、請求項7に記載した発明の場合は、車両の停止時(入力軸を一方向に回転させたまま出力軸を停止させるギヤードニュートラル状態)乃至は低速走行時(ギヤードニュートラル近傍の状態)に、目標値の設定を、第二の機能(実出力トルク、アクセル装置の操作量と駆動源の回転速度)に基づいて行なう様にしている。即ち、ギヤードニュートラル状態乃至はその近傍では、出力軸から駆動力(クリープ力)を出力させる事に伴い、トロイダル型無段変速機を通過する力(実通過トルク)が、駆動源から出力される力(実出力トルク)に比べて大きくなる。この様な状態で、例えば上記第一の機能(実通過トルク)に基づいて設定される上記第一の目標値が、上記第二の機能(実出力トルク)に基づいて設定される上記第二の目標値よりも大きいからと言って、そのまま上記第一の目標値を実目標値として設定すると、この目標値が過大になる可能性がある。そして、この様な場合に、押圧装置に導入される押圧力が過大になる他、上記出力軸から出力される駆動力(クリープ力)が不安定になる可能性もある(クリープ制御が不安定になり、滑らかな発進、停止、低速走行を行なえなくなる可能性がある)。これに対して、上述の様に車両の停止時乃至は低速走行時に、上記目標値の設定を第二の機能(実出力トルク)に基づいて行なう為、この目標値が過大になる事を防止して、上述の様な不都合を防止できる{押圧力が過大になる事を防止できると共に、駆動力(クリープ力)を安定させられる。クリープ制御を安定させる事ができ、滑らかな発進、停止、低速走行を行なえる}。
又、請求項9〜12に記載した発明の場合には、アクセル装置の操作状況が所定の条件を満たす場合、即ち、急加速時等のアクセル操作が急な場合に、押圧装置に導入する油圧の減圧調節を所定時間停止する。この為、急加速に伴う動力の急変動時にも、減圧調節が所定時間停止される事で、上記押圧装置に導入される油圧、延いては、トラクション部の押し付け力が低下する事を防止できる。しかも、前述した請求項1〜8に記載した発明と組み合わせて実施した場合には、アクセル装置の操作状況や検出状況が不安定な場合でも、油圧の減圧調節が所定時間停止される事で、この様な不安定状態に拘わらず、上記押圧装置に導入される油圧、延いては、トラクション部の押し付け力が低下する事を防止できる。即ち、前述した請求項1〜8に記載した発明を採用した場合は、アクセル装置の操作状況に基づいて目標値の設定(第二の機能に基づく目標値の設定)を行なう。
この様な場合に、例えば路面の凹凸の乗り越え等に伴って、アクセルペダルが運転者の意図とは異なる変化をしたり、或は、このアクセルペダルの変化を検出する為のセンサの検出信号にノイズが含まれた場合には、アクセル装置の操作量乃至はその検出値が不安定になる。そして、この様な場合に、そのままその値に基づいて上記目標値を設定すると、その値によっては、上記目標値が必要以上に小さくなり、上記押圧装置に導入される油圧、延いては、トラクション部の押し付け力が不足する可能性がある。これに対して、上述の様に、アクセル装置の操作状況が所定の条件を満たす場合に、押圧装置に導入する油圧の減圧調節を所定時間停止すれば、上述の様な不安定状態に伴う油圧の低下を防止できる。即ち、上記アクセル操作の操作量乃至はその検出値が不安定になっても、不必要な油圧の低下、延いては、トラクション部の押し付け力の低下を防止でき、グロススリップと呼ばれる有害な滑りを生じる事を確実に防止できる。
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、請求項1〜4、8、13に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、運転状況に拘わらず(急加速時でも)、動力を伝達するトラクション部(転がり接触部)に適切な押し付け力を付与すべく、押圧装置14に導入する油圧を目標値に調節する部分(油圧調整手段)の構造、並びに、この目標値の設定手順を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図13〜14に示した従来構造と同様であるから、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
尚、本例の図2、3にそれぞれ示した油圧回路の構成は、差圧取り出し弁37(図3参照)が設けられているか否かの点で互いに異なる。即ち、図3の油圧回路の場合は、前述の図14に示した油圧回路の場合と同様の差圧取り出し弁37を設けているのに対して、図2の油圧回路の場合には、この様な差圧取り出し弁37を設けていない(省略している)。但し、図3の油圧回路の場合は、上記差圧取り出し弁37のパイロット室44を油溜28に通じさせると共に、この差圧取り出し弁37と押圧力調整弁29との間の油路45a 、45bを盲栓で塞ぐ等、この差圧取り出し弁37が機能しない様に(差圧に対応する油圧が押圧力調整弁29に導入されない様に)している。即ち、この図3の油圧回路は、差圧取り出し弁37を省略した図2の油圧回路と実質的に同じものである。従って、以下の説明は、図2の構造と図3の構造とを区別せずに行なう(以下の説明は、図2と図3との両方の構造に対応する)。
又、前述の図13〜14に示した従来構造の場合は、低速用、高速用各クラッチ7、8の接続状態の切り換え(低速モードと高速モードとの切り換え)を、1個のシフト用電磁弁20(図13〜14)により行なうのに対して、本例の場合は、低速クラッチ用、高速クラッチ用各電磁弁42、43により行なう。又、本例の場合は、トロイダル型無段変速機4の変速比の補正を行なう為の電磁弁19、並びに、差圧シリンダ23、補正用制御弁24a、24b、前後進切り換え弁46(図14参照)を省略している。更に、本例の場合は、前述の図13〜14に示した従来構造の様な、押圧装置14に導入する油圧を調整する為の押圧力調整弁29に、アクチュエータ13を構成する1対の油圧室36a、36b同士の間の油圧の差(差圧)を直接導入すると言った構成は、採用していない。即ち、本例の場合は、上記各油圧室36a、36bに設けた1対の油圧センサ38a、38b(図1の38)により上記差圧を検出し、この検出された差圧に基づいて、上記押圧装置14の発生する押圧力を調節する様にしている。
この為に、本例の場合は、制御器16からの指令により制御されるライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づく圧油を、押圧力調整弁29の第二のパイロット部33に導入する様にしている。又、これと共に、上記制御器16に、上記差圧から求められる(推定される、算出される)、トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(実通過トルク)の大きさと、このトロイダル型無段変速機4の変速比とに基づいて、上記押圧装置14に発生させるべき押圧力に対応する目標値を設定(算出)する機能を持たせている。尚、上記トロイダル型無段変速機4の変速比は、入力側、出力側各回転速度センサ39、40により(入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度の比として)検出できる他、各パワーローラ12を支持する支持部材(トラニオン)の傾斜角(枢軸を中心とする回転角)を計測する事により求める事もできる。
又、上記油圧の目標値は、例えばこの目標値と上記差圧(実通過トルク)並びに上記変速比との相関関係として、予め実験や計算により求めておき、上記制御器16のメモリに、マップや計算式として記憶させておく。例えば、計算式であれば、下記の(1)式を用いる事ができる。
尚、上記(1)式中、P
LOADERは目標値(目標ローディング圧)を、S
P はアクチュエータ13の油圧室36a、36bを仕切るピストン35の有効面積を、S
LOADERは上記押圧装置14のピストン(入力側、出力側両ディスク10、11を互いに近付ける方向に押圧する為のピストン)の有効面積を、φは各パワーローラ12の傾転角(トロイダル型無段変速機4の変速比に対応する角度)を、μ
t はトラクション係数を、d
P は上記各油圧室36a、36b同士の間の差圧(∝トロイダル型無段変速機4を通過するトルク)を、それぞれ表している。
上記制御器16は、上述の様な(1)式に基づいて、その時点での差圧(通過トルク)と変速比(傾転角)とに対応する、上記目標値PLOADERを設定すると共に、この目標値PLOADERに調節すべく、上記制御器16により前記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を調節(デューティー比制御)する。そして、この開閉調節に基づき、前記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては上記押圧装置14の油圧室に導入する油圧を上記目標値PLOADERに調節し、上記押圧装置14が発生する押圧力を適正に規制する。但し、この様に差圧のみに基づいて目標値PLOADERを設定するだけでは、前述した様に、急加速時(アクセルペダルを急に踏み込んだ際)等の動力の急変動時に、応答遅れに伴い、上記押圧装置14の発生する押圧力が不足する可能性がある。そこで、本例の場合には、上記目標値を、上記差圧の他、上記トロイダル型無段変速機4と接続したエンジン1の出力を調節する為のアクセル装置の操作量(アクセル開度、アクセルペダルの踏み込み量)と、このエンジン1の駆動軸(クランク軸)の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて求められる様にしている。
即ち、本例の油圧調節手段を構成する上記制御器16は、上記目標値を設定する為に必要な、入力側、出力側両ディスク10、11同士の間で伝達される力の大きさを、上記差圧に基づいて求める第一の機能だけでなく、上記アクセル装置の操作量(アクセル開度)とエンジン1の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて求める第二の機能も備えている。そして、上記急加速時等の、上記アクセル装置の操作状況(操作速度や操作量)が所定の条件を満たす場合に、上記第二の機能に基づき、上記目標値を設定する様にしている。尚、上記アクセル装置の操作速度、操作量は、アクセルペダルの操作量(踏み増し量、開放量)を検出する為のアクセルセンサ47により検出できる。又、上記エンジン1の回転速度は、例えばこのエンジン1の駆動軸(クランク軸)の回転速度を検出する為の図示しない回転速度センサにより検出できる(入力側回転速度センサ39を用いる事も可能である)。
何れにしても、上記制御器16は、上記アクセル装置の操作量(アクセル開度)とエンジン1の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)とに基づいて、このエンジン1から出力される(乃至は出力されると予測される)力(実出力トルク、エンジントルク)の大きさを算出(推定)自在としている。この為に、上記制御器16のメモリには、車両に搭載されるエンジン1のエンジン特性、即ち、図6に示す様な、アクセル開度[%]とエンジン回転速度[min-1 ]とに応じたエンジントルク[Nm]の特性を、予め記憶させておく(プログラムしておく)。尚、この様なエンジン特性は、例えばこの図6の線図に対応する計算式として記憶させる事ができる他、下記の表1に示す様なMAP(マップ)として記憶させる事もできる。尚、これら表1と図6の線図は、同じエンジン1のエンジン特性を示している。
上記制御器16は、上述の様なエンジン特性に基づいて、その時点でのアクセル開度とエンジン回転速度とに対応する、上記エンジントルクを算出(推定)する。尚、上記エンジン1を制御する為のエンジンコントローラ48と上記制御器16との間で、例えばCAN(Controller Area Network )等を用いて通信ができる場合には、このエンジンコントローラ48からアクセル開度に応じたエンジントルクデータを入手する事もできる。但し、通信の際に時間的遅れを生じる可能性がある他、通信ができない(又は通信手段がない)車両の場合には、この様な手段を採用できない。この為、上述の様な、アクセル開度とエンジン回転速度とからMAPを用いてエンジントルクを算出(推定)する事が好ましい。
上述の様に実出力トルク(エンジントルク)を求めたならば、上記制御器16により、この実出力トルク(エンジントルク)と、前記トロイダル型無段変速機4の変速比とに基づいて、上記押圧装置14に発生させるべき押圧力に対応する目標値を設定(算出)する。尚、この様に実出力トルク(エンジントルク)と変速比とに基づいて目標値を設定する場合にも、この目標値と上記実出力トルク(エンジントルク)並びに上記変速比との相関関係を、上記制御器16のメモリに、MAPや計算式として記憶させておき、この様なMAPや計算式を用いて設定(算出)する事ができる。例えば、低速用クラッチ7が接続された低速モードで走行中の場合には、図7に示す線図(に対応する計算式)、又は、下記の表2のMAPを用いて、上記目標値を設定できる。尚、これら表2と図7の線図は、同じ相関関係を示している。
又、例えば、高速用クラッチ7が接続された高速モードで走行中の場合には、図8に示す線図(に対応する計算式)、又は、下記の表3のMAPを用いて、上記目標値を設定できる。尚、これら表3と図8の線図とは、同じ相関関係を示している。
尚、上述した各線図や各MAPに表されたエンジントルクは、トロイダル型無段変速機4に入力されるトルクに対応させて算出する(作成する)。この場合に、上記エンジントルクからトロイダル型無段変速機4に入力されるトルクを算出するには、エンジン1とこのトロイダル型無段変速機4との間に設けられた部材(トルクが通過する歯車等)の効率を考慮する必要がある。この効率は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比や走行モード(低速モード/高速モード)に応じて異なる為、厳密に算出する事は難しい。この為、上述の様な各線図並びに各MAPは、例えば実験により求める(実験値を用いて作成する)。尚、上記エンジン1と上記トロイダル型無段変速機4との間の効率を求める事が可能であれば、上述の様なMAPに代えて、この効率を用いた計算式を使用する事もできる。
上述の様な線図(に対応する計算式)やMAPを用いて、その時点での実出力トルク(エンジントルク)と変速比とに対応する、上記目標値を設定したならば、上記制御器16は、この目標値に調節すべく、前記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉を調節(デューティー比制御)する。そして、この開閉調節に基づいて、前記押圧力調整弁29の開弁圧、延いては上記押圧装置14の油圧室に導入する油圧を調節し、上記押圧装置14が発生する押圧力を規制する。尚、本例の場合は、上記目標値、延いては、上記押圧装置14の油圧室に実際に導入される油圧を、その時点での油温{トロイダル型無段変速機4内を循環する潤滑油(トラクションオイル)の温度}に応じて補正する為に、図9に示す線図、又は、下記の表4に示す相関関係に基づいて、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉調節を行なう様にしている。尚、上記図9に示す線図と下記の表4とは、同じ相関関係を示している。
本例の場合は、上記油温に応じてそれぞれ異なる(例えば80℃、50℃、100℃に対応する)、上記目標値と上記ライン圧制御用電磁開閉弁19の開閉量(制御Duty[%])との関係を用いて、その時点の油温に応じた開閉量に調節(補正)する。この様な本例の場合は、上記押圧装置14の油圧室に実際に導入される油圧を、その時点でのトラクション係数や各部品の温度特性(例えば弾性変形量や摩擦係数など)に応じた値(より最適な値)に規制できる。尚、前述した第一の機能(差圧)に基づいて目標値を設定する場合にも、上記図9の線図や表4を用いて、その時点での油温に対応した、上記ライン圧制御用電磁開閉弁19の開閉量の調節(補正)を行なう事ができる。
上述の様に、本例の場合は、上記押圧装置14に導入する油圧の調節を、第一の機能(差圧)の他、第二の機能{アクセル装置の操作量(アクセル開度)とエンジン1の駆動軸の回転速度(エンジン回転速度)と}に基づいて行なえる様にしている。そして、上記制御器16に、運転状況に応じて、何れの値で油圧の調節を行なうかを選択する為の機能を持たせている。この様な制御器16が備える機能(ローディング圧制御、アクセル開度感応制御)に就いて、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、運転席に設けたシフトレバーの選択位置が走行状態(D、L、Rレンジ)であるか否かを判定する。この様な判定は、このシフトレバーの位置を出力するポジションスイッチ49やこのシフトレバーの位置を検出する為のシフトレバー位置検出センサ(図示省略)等の出力信号に応じて判定する。このステップ1で、上記シフトレバーの選択位置が走行状態でない、即ち、このシフトレバーの選択位置が非走行状態(P、Nレンジ)であると判定された場合には、入力側ディスク10と出力側ディスク11との間で力(動力、トルク、伝達トルク、通過トルク)が伝達されない為、本例の制御は行なわず終了する(終了を介してステップ1に戻る)。一方、上記ステップ1で、上記シフトレバーの選択位置が走行状態(D、L、Rレンジ)であると判定された場合には、ステップ2に進み、アクセルペダルが開放されているか否か(アクセル装置の操作状況)を判定する。この判定は、前記アクセルセンサ47からの信号により行なえる。
この様なステップ2で、アクセルペダルが開放されている(アクセル装置が操作されていない)と判定された場合には、アクセルペダルの急な踏み込みによる動力の急変動は生じないと判断できる為、第一の機能(差圧)に基づく目標値の設定、並びに、油圧の調節を行なう。即ち、ステップ3に進み、アクチュエータ13の差圧を検出すると共に、ステップ4で、この検出値からトロイダル型無段変速機4を通過するトルク(実通過トルク)を算出し、続くステップ5で、入力側、出力側各ディスク10、11の回転速度を検出し、ステップ6で、この検出値から上記トロイダル型無段変速機4の変速比を算出する。次いで、ステップ7に進み、前述の(1)式を用いて目標値を算出(設定)すると共に、続くステップ8で、この目標値に油圧を調節する。尚、これらステップ3〜8の処理に就いては、前述した第一の機能(差圧)に基づく目標値の設定並びに油圧の調節と同様である。
又、この様な第一の機能(差圧、実通過トルク)に基づく目標値の設定は、上記(1)式を用いる他、この様な計算式に代えて線図やMAP(例えば前述の図7、8に示した様な線図や表3、4に示した様なMAP)を用いる事もできる。この場合には、上記差圧に対応する相関関係{差圧(実通過トルク)と変速比と目標値との関係}を予め求めておき、この相関関係に対応する上記線図やMAPを、上記制御器16のメモリに記憶させておく。又、上記ステップ8で、目標値に油圧を調節する際には、予め求めた、ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉量と押圧装置14に導入される油圧との相関関係(ライン圧制御用電磁開閉弁18の特性)に基づいて行なう。この場合に、前述の図9に示す線図や表4のMAPを用いる事により、油温に応じて上記目標値、延いては、上記押圧装置14に導入される油圧を調節(補正)する事もできる。何れにしても、このステップ8で油圧を調節したならば、終了する(終了を介してステップ1に戻る)。
一方、前記ステップ2で、アクセルペダルが踏み込まれている(アクセル装置が操作されている)と判定された場合には、ステップ9に進み、アクセルペダルの踏み込み条件が成立しているか否かを判定する。このアクセルペダルの踏み込み条件とは、アクセルペダルが踏み込まれている場合に、油圧の調節を、第一の機能(差圧)に基づいて行なうか、第二の機能(エンジン回転速度、アクセル開度)に基づいて行なうかを判定する為のものである。具体的には、以下の(a)、(b)の少なくとも何れかの条件が成立するか否かを判定する。
(a)アクセル装置が所定の速度以上で操作されてから(アクセルペダルが所定の速度以上で踏み増されてから)所定時間経過していない。
例えば、アクセルペダルの踏み増し速度は20ms間の変化量とする。即ち、このアクセルペダルの現在の踏み込み量が1%であり、20ms後の踏み込み量が5%であれば、上記踏み増し速度は4[%/20ms]となる。この場合に、上記所定の速度は、例えば5[%/20ms]に設定できる。又、上記所定時間は、例えば1秒に設定できる。
(b)アクセル装置が所定量以上操作されてから(アクセルペダルが所定量以上踏み増されてから)所定時間経過していない。
例えば、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)は50%に設定できる。又、上記所定時間は、例えば2秒にできる。
尚、上記所定速度、所定量、所定時間は、何れもチューニング値であり、エンジン1の特性や、アクセル装置の操作量と目標値との関係、必要とされる押圧装置14の押圧力との関係、車両状況、使用センサ、制御器16の演算速度等を勘案して、所望の性能を得られる様に(油圧、延いては、押圧力が不足しない様に)調整する。
何れにしても、上述の様なステップ9で、上記(a)、(b)の何れの条件も成立していないと判断された場合には、ステップ3に進む。即ち、上記条件が成立していない場合には、アクセルペダルの変化量や変化速度が大きい乃至は急ではない、又は、大きい乃至は急な変化から所定時間経過していると判定できる{第一の機能(差圧)により目標値を設定しても問題がないと判定できる}為、上記ステップ3に進み、前述した様な、第一の機能(差圧)に基づく目標値の設定並びに油圧の調節(ステップ3〜8)を行なう。一方、上記(a)、(b)の何れかの条件が成立している場合には、ステップ10に進む。即ち、アクセルペダルの変化量や変化速度が大きい乃至は急であり、且つ、この様な変化から所定時間経過していないと判定できる{第一の機能(差圧)により目標値を設定した場合に不都合を生じる可能性があると判定できる}為、上記ステップ10に進むと共に、前述した様な、第二の機能に基づく目標値の設定、並びに、油圧の調節を行なう。即ち、ステップ10で、エンジン回転速度を検出すると共に、続くステップ11で、このエンジン回転速度と、上記ステップ9で検出したアクセル開度とに基づいて、実出力トルク(エンジントルク)を算出する。これらのステップ10〜11、並びに、以降のステップ5〜8で行なう油圧制御は、前述した通りである為、説明は省略する。
上述の様な本例によれば、入力側、出力側両ディスク10、11同士の間で伝達する動力(トルク、力)の急変動時にも、この動力を伝達するトラクション部(転がり接触部)で適切な押し付け力を付与できる。
即ち、本例の場合は、急加速時等のアクセル操作の操作量が所定の条件を満たす場合に、押圧装置14に導入する油圧の目標値の設定を、第二の機能、即ち、アクセル開度とエンジン回転速度とに対応する実出力トルク(エンジントルク)に基づいて行なう。この様な第二の機能に基づく目標値の設定は、第一の機能、即ち、差圧に対応する実通過トルクに、上記急変動に対応する変化が現れる前の段階で行なえる。即ち、この実通過トルク(差圧)が変化する前の段階である、上記実出力トルクが変化し始める時点、即ち、上記アクセル装置の操作量(アクセル開度)やエンジン1の回転速度(エンジン回転速度)が変化し始めた時点(運転者がアクセルペダルの踏み込みを開始した時点)での、この実出力トルクの変化に基づいて、上記目標値を設定できる。そして、この様に設定される目標値に、上記油圧を調節する為、その分(前段階である分)この油圧を、実際の運転状況に応じた値(実際に必要とされる値)に迅速に調節できる。
上述の様な本例の効果に就いて、図5を用いて説明する。先ず、アクセルペダルが、実線αに示す様に、全閉から全開に瞬間的に操作された場合を考える。この場合に、押圧装置14に導入される油圧(ローディング圧)を第一の機能(差圧)に基づいて調節する場合は、上記油圧(ローディング圧)は、鎖線βに示す様に立ち上がる。即ち、この油圧が立ち上がるまでに、図5の「イ」〜「ニ」に示す遅れ分の時間が必要になる。このうちの「イ」は、エンジンコントローラ48がアクセル装置の操作を検出するまでの遅れに対応する。又、「ロ」は、エンジントルクがエンジン1の慣性により吸収される事に伴うトルク発生遅れに対応する。又、「ハ」は、上記エンジントルクの立ち上がりから、このトルクの変化が上記差圧に現れ、更に、この差圧に基づき目標値を設定すると共に、この目標値に応じた制御信号がライン圧制御用電磁開閉弁18に送られるまでの遅れに対応する。又、「ニ」は、このライン圧制御用電磁開閉弁18の応答遅れに対応する。これら「イ」〜「ニ」の遅れの後に油圧が立ち上がる場合には、エンジントルクが点Aの時点で立ち上がり切っているのに対して、上記油圧は点Bに示す様に、未だ立ち上がり切っていない。この為、上記押圧装置14の発生する押圧力が不足し、トラクション部(転がり接触部)に十分な押し付け力を付与できない可能性がある。
これに対して、上記押圧装置14に導入される油圧(ローディング圧)を第二の機能(アクセル開度とエンジン回転速度と)に基づいて調節する場合には、上記油圧(ローディング圧)は、実線γに示す様に立ち上がる。即ち、この油圧が立ち上がるまでに必要な時間は、図5の「ホ」に示す遅れのみとなる。尚、この「ホ」は、アクセル操作の検出遅れとライン圧制御用電磁開閉弁18の応答遅れ(ホ≒イ+ニ)とに対応する。この様な本例の場合には、上記エンジントルクが立ち上がり切った時点(点A)で、上記油圧は既に立ち上がり切っている(点D)。従って、上述の様なアクセル操作に拘わらず、押圧装置14の発生する押圧力を確保して、トラクション部(転がり接触部)に十分な押し付け力を付与できる。尚、本例の場合は、アクセルペダルの操作が、例えば図5の斜格子内で行なわれる場合に、上記第二の機能(アクセル開度とエンジン回転速度と)に基づいて、上記押圧装置14に導入される油圧(ローディング圧)を調節する様にする。この様な第二の機能に基づいて油圧の調節を行なうか、或は、第一の機能に基づいて油圧の調節を行なうかを決定する閾値(アクセル装置の操作速度や操作量)は、前述した様に、エンジン1の特性や、アクセル装置の操作量と目標値との関係や必要とされる押圧装置14の押圧力との関係、車両状況、使用センサ、制御器16の演算速度等を勘案して、所望の性能を得られる様に(油圧、延いては押圧力が不足しない様に)調整する。
[実施の形態の第2例]
図10は、請求項1、5〜8、13に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合は、第一の機能に基づいて設定される第一の目標値Xと、第二の機能に基づいて設定される第二の目標値Yとを比較し、このうちの大きい値の目標値を、実際の目標値(実目標値)として設定すると共に、この目標値に油圧を調節する。この様な油圧の調節を行なう為に、本例の制御器16(図1参照)が備える機能(ローディング圧制御)に就いて、図10のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、本例の場合も、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、運転席に設けたシフトレバーの選択位置が走行状態(D、L、Rレンジ)であるか否かの判定を行なう。又、ステップ2で、アクセルペダルが開放されているか否か(アクセル装置の操作状況)を判定する。これらステップ1、2に就いては、前述の第1例のステップ1、2と同様である。本例の場合、上記ステップ2で、アクセルペダルが開放されていない(アクセルペダルの踏み込み量が5%以上である)と判定された場合には、ステップ3に進む。又、上記ステップ2で、アクセルペダルが開放されている(アクセルペダルの踏み込み量が5%未満である)と判定され、ステップ4に進んでも、このステップ4で、車両の走行速度が5km以上と判定された場合には、上記ステップ3に進む。又、このステップ4で、車両の走行速度が5km未満と判定され、ステップ5に進んでも、このステップ5で、ブレーキペダルが踏み込まれていないと判定された場合には、上記ステップ3に進む。
即ち、本例の場合は、上記ステップ2、4、5により、アクセルペダルの踏み込み量が5%以上である事と、車両の走行速度が5km以上である事と、ブレーキペダルが踏み込まれていない事とを判定し、少なくとも何れかの条件が満たされる場合に、上記ステップ3に進む様にしている。尚、上記ステップ4の車速の判定は、例えば出力軸9の回転速度を検出する為の出力軸回転センサ50(図1参照)の検出値を用いる事ができる。又、上記ステップ5のブレーキペダルの踏み込み判定は、例えばこのブレーキペダルの踏み込みを検出する為のブレーキスイッチ51(図1参照)の検出信号を用いる事ができる。
上述の様なステップ2、4、5を介して上記ステップ3に進んだならば、このステップ3で、第一の機能に基づき第一の目標値Xを算出する。即ち、前述した実施の形態の第1例で説明したのと同様に、差圧に対応する実通過トルクに基づいて、押圧装置14(図1、2参照)に導入すべき油圧の目標値(第一の目標値X)を算出する。この様なステップ3で第一の目標値Xを求めたならば、続くステップ6で、前記第二の機能に基づき第二の目標値Yを算出する。即ち、前述した実施の形態の第1例で説明したのと同様に、アクセル装置の操作量(アクセル開度)とエンジン1(図1参照)の回転速度(エンジン回転速度)とに対応する実出力トルクに基づいて、上記押圧装置14に導入すべき油圧の目標値(第二の目標値Y)を算出する。そして、続くステップ7で、上記第一の目標値Xと第二の目標値Yとを比較する。具体的には、第一の目標値Xが、第二の目標値Yよりも大きいか否かを判定する。
この様なステップ7で、上記第一の目標値Xが第二の目標値Yよりも大きいと判定された場合には、このうちの第一の目標値Xを実目標値に設定すると共に、ステップ8に進み、この第一の目標値Xに油圧を調節すべく、ライン圧制御用電磁開閉弁18(図1参照)の開閉状態を調節する。この様な第一の目標値Xへの油圧の調節も、前述の第1例で説明した、第一の機能に基づく油圧の調節の場合と同様である。これに対して、上記第一の目標値Xが第二の目標値Y以下(逆に言えば、第二の目標値Yが第一の目標値X以上)と判定された場合には、このうちの第二の目標値Yを実目標値に設定すると共に、ステップ9に進み、この第二の目標値Yに油圧を調節すべく、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉状態を調節する。この様な第二の目標値Yへの油圧の調節も、前述の第1例で説明した、第二の機能に基づく油圧の調節の場合と同様である。
一方、前述のステップ2、4、5で何れの条件も満たさない、即ち、アクセルペダルの踏み込み量が5%未満であり、車両の走行速度が5km未満であり、ブレーキペダルが踏み込まれている判定された場合には、ステップ10に進む。このステップ10では、前述のステップ6と同様に、第二の機能に基づき第二の目標値Yを算出する。そして、この第二の目標値Yを実目標値に設定すると共に、続くステップ9に進み、この第二の目標値Yに油圧を調節すべく、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉状態を調節する。即ち、上記ステップ2、4、5で、何れの条件も満たさないと判定された場合には、前述した様な第一の目標値Xと第二の目標値Yとの比較を行なう事なく、このうちの第二の目標値Yに基づいて油圧の調節を行なう。
上述の様に、本例の場合は、第一の目標値Xと第二の目標値Yとを比較し、このうちの大きい値を実目標値として設定し、この実目標値に油圧を調節する為、急加速時は勿論、この様な急加速時以外の動力の急変動時にも、トラクション部(転がり接触部)に十分な押し付け力を付与する事ができる。この為、運転状況に拘わらず(何れの運転状況でも、例えばアクセルペダルを一定の踏み込み量で維持した状態から踏み込み量を急変動させる操作を行なった場合でも)、グロススリップと呼ばれる有害な滑りを確実に防止できる。しかも、本例の場合には、前述の実施の形態の第1例で必要であった、アクセル操作の操作状況(操作速度や操作量)の判定が不要になる。この為、その分(第一の目標値Xと第二の目標値Yとの比較だけで済む分)、上記目標値の設定手順を簡素に構成できる。又、上記第一の機能と上記第二の機能とが切り換わる(第一の目標値Xと第二の目標値Yとが切り換わる)際の、この目標値の変化を滑らかに行なえる(アクセル操作の操作状況が所定の条件を満たすからと言って、第一の目標値Xと第二の目標値Yとの差が大きいにも拘わらず、これらの間で目標値が切り換わってしまう事を防止できる)。
更に、本例の場合は、アクセルペダルの踏み込み量が5%未満であり、車両の走行速度が5km未満であり、ブレーキペダルが踏み込まれていると判定された場合には、ステップ10、9に進む。即ち、車両が停止中{入力軸3を一方向に回転させたまま出力軸9(図1参照)を停止させるギヤードニュートラル状態}乃至は低速走行中(ギヤードニュートラル近傍の状態)であると判定できる場合には、上記第二の目標値Yに基づいて油圧の調節を行なう様にしている。この為、上記第一の目標値Xが過大になり易い、上記車両の停止時乃至は低速走行時に、この第一の目標値Xが実目標値として設定される事を防止できる。この結果、この実目標値、延いては、前記押圧装置14が発生する押圧力が過大になる事を防止でき、車両の停止時乃至は低速走行時に出力軸9から出力される駆動力(クリープ力)を安定させる事ができる(クリープ制御を安定させる事ができ、滑らかな発進、停止、低速走行を行なえる)。
その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
[実施の形態の第3例]
図11〜12は、請求項9〜13に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、エンジン1(図1参照)の出力を調節する為のアクセル装置の操作状況が所定の条件を満たす場合に、目標値に調節する為に行なわれる油圧の減圧調節を、所定時間停止する(減圧停止制御を行なう)様にしている。この様な油圧の調節を行なう為に、本例の制御器16(図1参照)が備える機能(ローディング圧制御)に就いて、図11〜12のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、本例の場合も、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、図11のステップ1で、運転席に設けたシフトレバーの選択位置が走行状態(D、L、Rレンジ)であるか否かの判定を行なう。又、ステップ2で、アクセルペダルが開放されているか否か(アクセル装置の操作状況)を判定する。これらステップ1、2に就いては、前述の第1、2例のステップ1、2と同様である。本例の場合、上記ステップ2で、アクセルペダルが開放されている{アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)がA(例えば5%)未満である}と判定された場合は、終了する(終了を介してステップ1に戻る)。尚、上記踏み込み量(アクセル開度)Aはチューニング値であり、上記エンジン1の特性や、アクセル装置の操作量と目標値との関係等を勘案し、本例の特徴である減圧停止制御を行なうべきか否かの閾値として有効に機能する様に調整(設定)する。
一方、上記ステップ2で、上記アクセルペダルが開放されていない{アクセルペダルの踏み込み量がA(例えば5%)以上である}と判定された場合には、ステップ3に進み、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)がB(例えば30%)以上であるか否かを判定する。このステップ3は、上記アクセルペダルの踏み込み量から車両の加速状況を判定し、減圧停止制御を開始乃至は継続すべきか否かを判断する為のものである。この様な判定を行なう為の上記踏み込み量(アクセル開度)Bも、チューニング値であり、上記エンジン1の特性や、アクセル装置の操作量と目標値との関係等を勘案し、本例の特徴である減圧停止制御を開始乃至は継続すべきか否かの閾値として有効に機能する様に調整する。又、上記ステップ3の判定は、上記アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)に代えて、例えばこのアクセルペダルの踏み込み速度を用いる事もできる。又、これら踏み込み量と踏み込み速度との両方を用いる(両方の閾値を設定する)事もできる。
何れにしても、上述の様なステップ3で、上記アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)がB(例えば30%)以上であると判定された場合には、ステップ4に進み、既に減圧停止制御を開始しているか否か(減圧停止制御中であるか否か)を判定する。この判定は、減圧停止制御中である事を意味するフラグF_fullacc が立ち上がっている(F_fullacc =1)か否(F_fullacc =0)かにより判定する。この様なステップ4で、上記フラグF_fullacc が立ち上がっていない(F_fullacc =0)と判定された場合、即ち、減圧停止制御が開始されていない(減圧停止制御中ではない)と判定された場合には、続くステップ5で、上記フラグF_fullacc を立ち上げる(F_fullacc =1にセットする)。そして、ステップ6に進み、減圧停止制御を行なう時間を規制する為のタイマーPL_TMRのカウントを0(PL_TMR=0)にし、ステップ7の減圧停止制御に進む。尚、上記ステップ4で、上記フラグF_fullacc が立ちあがっている(F_fullacc =1)と判定された場合、即ち、減圧停止制御を行なっている(減圧停止制御中である)と判定された場合には、このステップ4から、上記ステップ5、6を介する事なく、上記ステップ7の減圧停止制御に進む。
このステップ7の減圧停止制御は、図12に示すフローチャートに基づいて行なう。この減圧停止制御では、先ず、図12のステップ1で、上記タイマーPL_TMRが所定時間T(例えば0.2秒)以下であるか否か{減圧停止制御の開始から未だ所定時間T内か否か}を判定する。尚、上記所定時間Tもチューニング値であり、上記エンジン1の特性や、アクセル装置の操作量と目標値との関係等を勘案し、減圧禁止制御を継続する時間の閾値として有効に機能する様に調整(設定)する。この様なステップ1で、上記タイマーPL_TMRが所定時間T(例えば0.2秒)以下である、即ち、減圧停止制御を行なうべき時間内であると判定された場合には、ステップ2に進み、その時点での押圧装置14に導入されている実際の油圧の値(RL圧)と目標値(TL圧)とを比較する。具体的には、この目標値(TL圧)が実際の油圧の値(RL圧)よりも小さいか否かを判定する。尚、この目標値(TL圧)は、その時点での実際に油圧調節に用いている目標値に対応する。即ち、その時点での油圧調節を、例えば第一の機能(差圧)に基づく第一の目標値で行なっている場合には、この第一の目標値に対応する。又、その時点での油圧調節を、第二の機能(エンジン回転速度とアクセル開度)に基づく第二の目標値で行なっている場合には、この第二の目標値に対応する。
上述の様なステップ2で、その時点での目標値(TL圧)が実際の油圧の値(RL圧)よりも小さいと判定された場合には、ステップ3に進み、その時点での実際の油圧(RL圧)をそのまま維持する(減圧調節を停止する)為に、この実際の油圧(RL圧)の値を実目標値として設定する{実際の油圧(RL圧)よりも小さい目標値(TL圧)はキャンセルする}。そして、ステップ4に進み、タイマーPL_TMRをカウント(+0.02秒、20ms)する(PL_TMR=PL_TMR+0.02秒)と共に、続くステップ5で、上記ステップ3で設定した実目標値に調節すべく{現在の油圧(RL圧)を維持すべく}、ライン圧制御用電磁開閉弁18(図1参照)の開閉状態を調節する。一方、上記ステップ2で、その時点での目標値(TL圧)が実際の油圧(RL圧)以上であると判定された場合には、この目標値(TL圧)に増圧すべく、ステップ6に進み、この目標値(TL圧)を実目標値として設定し、ステップ5で、この実目標値に調節すべく、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉状態を調節する。そして、図12の「終了」、並びに、図11の「終了」を介して、この図11のステップ1に戻る。
尚、上記図12のステップ1で、上記タイマーPL_TMRが所定時間T(例えば0.2秒)を超えている(経過している)と判定された場合には、減圧を停止する必要はない為、上記ステップ2を介する事なく、上記ステップ6に進む。即ち、上記目標値(TL圧)が実際の油圧(RL圧)よりも小さくても{その目標値(TL圧)に設定した場合に減圧調節が行なわれるとしても}、上記ステップ6に進み、この目標値(TL圧)を実目標値に設定すると共に、上記ステップ5で、この実目標値に調節すべく、上記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉状態を調節する。この場合も、図12の「終了」、並びに、図11の「終了」を介して、この図11のステップ1に戻る。
又、前記図11のステップ3で、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)がB(例えば30%)未満であると判定された場合には、図11のステップ8に進み、このアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)が減少している(アクセルペダルが戻されている)か否かを判定する。即ち、このアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)がC(例えば10%)未満であるか否かを判定する。このステップ8で、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)がC(例えば10%)未満であると判定された場合は、ステップ9に進み、前記フラグF_fullacc を下ろす(F_fullacc =0にする)。そして、この様にフラグF_fullacc を下ろした状態で、前記ステップ7の減圧停止制御に進む。一方、上記ステップ8で、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)がC(例えば10%)以上であると判定された場合には、このアクセルペダルの踏み込みが十分戻っていない為、上記ステップ9を介する事なく(フラグF_fullacc を下ろす事なく)、上記ステップ7の減圧停止制御に進む。尚、上記踏み込み量(アクセル開度)Cも、チューニング値であり、上記エンジン1の特性や、アクセル装置の操作量と目標値との関係等を勘案し、本例の特徴である減圧停止制御を継続乃至は終了すべきか否かの閾値として有効に機能する様に調整する。又、上記ステップ8の判定は、上記アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)に代えて、例えばこのアクセルペダルの踏み込み速度を用いる事もできる。又、これら踏み込み量と踏み込み速度との両方を用いる(両方の閾値を設定する)事もできる。
上述の様に本例の場合には、アクセル装置の操作状況が所定の条件を満たす場合、即ち急加速時等のアクセル操作が急な場合(アクセル開度が30%以上の場合)に、押圧装置14に導入する油圧の減圧調節を所定時間(タイマーPL_TMRが0.2秒になるまで)停止する。この為、急加速に伴う動力の急変動時にも、上記押圧装置14に導入される油圧、延いては、トラクション部の押し付け力が低下する事を防止できる。しかも、前述した実施の形態の第1例又は第2例の構成と組み合わせて実施した場合には、アクセル装置の操作状況や検出状況が不安定な場合でも、油圧の減圧調節が所定時間停止される事で、この様な不安定状態に拘わらず、上記押圧装置14に導入される油圧、延いては、トラクション部の押し付け力が低下する事を防止できる。即ち、前述の第1例又は第2例の構成を採用した場合は、アクセル装置の操作状況に基づいて目標値の設定(第二の機能に基づく目標値の設定)が行なわれる。
この様な場合に、例えば路面の凹凸の乗り越え等に伴って、アクセルペダルが運転者の意図とは異なる変化をしたり、或は、このアクセルペダルの変化を検出する為のセンサの検出信号にノイズが含まれた場合には、アクセル装置の操作量乃至はその検出値が不安定になる。そして、この様な場合に、そのままその値に基づいて上記目標値を設定すると、その値によっては、上記目標値が必要以上に小さくなり、上記押圧装置14に導入される油圧、延いては、トラクション部の押し付け力が不足する可能性がある。これに対して、上述の様に、アクセル装置の操作状況が所定の条件を満たす場合に、上記押圧装置14に導入する油圧の減圧調節を所定時間停止すれば、上述の様な不安定状態に伴う油圧の低下を防止できる。即ち、上記アクセル操作の操作量乃至はその検出値が不安定になっても、不必要な油圧の低下、延いては、トラクション部の押し付け力の低下を防止でき、グロススリップと呼ばれる有害な滑りを生じる事を確実に防止できる。
その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1、2例と同様であるから、重複する説明は省略する。