JP2009101930A - 電動パワーステアリング制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】車両の運動性能やステアフィールをより向上することが可能な電動パワーステアリング制御装置を提供すること。
【解決手段】補正値算出部70は、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性を考慮した補正値を算出するピニオン軸捩れ角度補正値算出部74及びピニオン軸捩れ角速度補正値算出部75を備えている。このため、トルクセンサ3の検出値によって定められる目標値をその補正値で補正することにより、電動モータ6は、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性による影響を補償した補助操舵トルクを発生することができる。
【選択図】図3

Description

本発明は、ステアリングホイールから操舵系に操舵トルクが印加されたとき、補助操舵トルクを発生するように電動モータを制御する電動パワーステアリング制御装置に関する。
従来の電動パワーステアリング制御装置では、トルクセンサの微分出力を用いて、電動モータの慣性あるいは電動モータの回転を操舵軸に伝達する伝達機構の応答遅れを補償していた。
しかしながら、従来の電動パワーステアリング制御装置では、一般的に、トーションバーの捩れによって回転力を検出するトルクセンサが、ステアリングホイールと電動モータとの間に設けられている。このため、トルクセンサの微分出力のみを用いて電動モータの慣性を補償した場合、ステアリングホイールの操舵速度に応じてステアリングホイールの慣性が増大し、ステアリングホイールのオーバーシュート量が増加する等の悪影響が発生する。
そのため、例えば特許文献1に記載された電動パワーステアリング制御装置では、操舵トルクセンサの出力から電動モータへ供給すべき目標電流を決定するとともに、操舵トルクセンサの出力と電動モータの回転速度とから位相補償値を求め、目標電流を位相補償値によって補正する。具体的には、操舵トルクセンサの出力を電動モータの回転速度により位相補償した値を用いて電動モータを制御している。
特開平8−282519号公報
上述したように、従来の電動パワーステアリング制御装置では、基本的に、トーションバーの捩れによって、ステアリングホイールの回転に対する電動モータの回転に位相遅れが生じるので、その位相遅れを補償するように電動モータを制御していた。
しかしながら、本願発明者の詳細な検討によって、電動モータが発生した補助操舵トルクが、左右前輪タイヤまで当該補助操舵トルクを伝達する伝達系における伝達特性の影響を受けるため、即座に左右前輪タイヤに伝達されるわけではないことが明らかとなった。すなわち、そのような伝達系は、操舵軸、ラック軸、及びタイロッドなどからなり、所定の質量を有するとともに、バネ要素も含む。その質量に基づく慣性やバネ要素によって、補助操舵トルクの伝達に遅れが発生するのである。その結果、電動モータが車両の運転者による操舵操作に応じた補助操舵トルクを発生しても、左右前輪タイヤは、車両の運転者の意図通りに転舵されず、車両の運動性能(旋回性能)やステアフィールに悪影響を及ぼす要因となっていた。
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、車両の運動性能やステアフィールをより向上することが可能な電動パワーステアリング制御装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置は、
ステアリングホイールから操舵系に印加される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
操舵系に連結され、補助操舵トルクを発生する電動モータと、
操舵トルクセンサによって検出される操舵トルクに基づいて、電動モータが発生すべき補助操舵トルクの目標値を演算する目標値演算手段と、
操舵系における、電動モータからタイヤまでの補助操舵トルクの伝達特性に基づいて、補助操舵トルクの補正値を演算する補正値演算手段と、
補助操舵トルクの目標値を補正値によって補正した後の補正目標値に一致するように、電動モータが発生する補助操舵トルクを制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
上述した構成によれば、補正値演算手段により、操舵系における、電動モータからタイヤまでの補助操舵トルクの伝達特性に基づいて、補助操舵トルクの補正値が演算される。そして、制御手段は、補助操舵トルクの目標値を補正値によって補正した後の補正目標値に一致するように、電動モータが発生する補助操舵トルクを制御する。その結果、電動モータは、電動モータからタイヤまでの補助操舵トルクの伝達特性による影響を補償した補助操舵トルクを発生することができる。そのため、車両の運動性能及びステアフィールの向上を図ることができる。
請求項2に記載したように、補正値演算手段は、電動モータの回転角度とタイヤの転舵角度との関係が、両角度を対比可能な角度に換算した場合に、両角度の差がゼロに近づく補正値を算出することが好ましい。また、請求項3に記載したように、補正値演算手段は、電動モータの回転角速度とタイヤの転舵角速度との関係が、両角速度を対比可能な角速度に換算した場合に、両角速度の差がゼロに近づく補正値を算出するようにしても良い。いずれの場合も、電動モータからタイヤまでの補助操舵トルクの伝達特性による影響を緩和する補正値を算出することができる。
なお、請求項2に記載した両角度の差に応じた補正値と、請求項3に記載した両角速度の差に応じた補正値とをともに求めても良い。この場合、請求項4に記載したように、角度差に応じて算出された第1の補正値と角速度差に応じて算出された第2の補正値とを加算することにより、最終的な補助操舵トルクの補正値とすることができる。
請求項5に記載したように、操舵系は、トーションバーを介して連結された第1及び第2の操舵軸を有し、操舵トルクセンサは、第1及び第2の操舵軸の回転角度差に応じた値を、ステアリングホイールから操舵系に印加される操舵トルクとして検出するものであり、補正値演算手段は、電動モータが発生する補助操舵トルクと、操舵トルクセンサによって検出される第1及び第2の操舵軸の回転角度差に応じた値を入力し、電動モータの回転角度と前記タイヤの転舵角度とを対比可能な角度に換算した場合の換算角度差を推定する状態推定部を備えることが好ましい。このような状態推定部を備えることにより、センサ等によって容易に観測可能な補助操舵トルク及び第1及び第2の操舵軸の回転角度差から、電動モータの回転角度と、タイヤの転舵角度との角度差を推定により求めることができる。
また、請求項6に記載したように、操舵系は、トーションバーを介して連結された第1及び第2の操舵軸を有し、操舵トルクセンサは、第1及び第2の操舵軸の回転角度差に応じた値を、ステアリングホイールから操舵系に印加される操舵トルクとして検出するものであり、補正値演算手段は、電動モータが発生する補助操舵トルクと、操舵トルクセンサによって検出される第1及び第2の操舵軸の回転角度差に応じた値を入力し、電動モータの回転角速度とタイヤの転舵角速度とを対比可能な角速度に換算した場合の換算角速度差を推定する状態推定部を備えるように構成することもできる。これにより、補助操舵トルク及び第1及び第2の操舵軸の回転角度差から、電動モータの回転角速度と、タイヤの転舵角速度との角速度差を推定により求めることができる。
請求項7に記載したように、操舵系は、ステアリングホイールに接続された操舵軸と、当該操舵軸とラック・ピニオン機構を介して結合され、操舵軸の回転により車両の左右方向への直線運動を行うラック軸と、ラック軸の両端と左右のタイヤホイールとをそれぞれ連結する一対のタイロッドとからなり、電動モータは、操舵軸に連結されても良い。また、請求項8に記載したように、操舵系は、ステアリングホイールに接続された操舵軸と、当該操舵軸とラック・ピニオン機構を介して結合され、操舵軸の回転により車両の左右方向への直線運動を行うラック軸と、ラック軸の両端と左右のタイヤホイールとをそれぞれ連結する一対のタイロッドとからなり、電動モータは、ラック軸に連結されても良い。いずれの構成を採用する場合であっても、電動モータからタイヤまで補助操舵トルクを伝達する伝達系が存在するためである。
(第1実施形態)
次に本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態によるモータ制御装置の制御対象となる、電動パワーステアリング装置(EPS)を備えたステアリングシステムの全体構成を示す構成図である。
図1において、ステアリングホイール1に接続されたステアリングシャフト2には、トルクセンサ3が設けられている。このトルクセンサ3は、トーションバーを備え、このトーションバーの捩れ角を、ステアリングホイール1に加えられた力である操舵トルクとして検出する。つまり、トーションバーを挟んで上下のステアリングシャフト2には回転角度差が生じる。この回転角度差に応じた値を、ステアリングホイール1からステアリングシャフト2に印加された操舵トルクとして検出するのである。さらに、トーションバーの下側のステアリングシャフト2には、運転者の操舵操作を補助する補助操舵トルクを与える電動パワーステアリング装置4が取り付けられている。
ステアリングシャフト2の先端は、ピニオン軸7に連結されている。このピニオン軸7は、ラックアンドピニオン式のギア機構を介してラック軸8に連結されている。ラック軸8の両端には、タイロッド等を介して左右操舵輪としての一対のタイヤ(ホイール)9がそれぞれ連結されている。従って、ピニオン軸7の回転運動が、ラック軸8の直線運動に変換されると、そのラック軸8の直線運動変位に応じた角度だけ、左右の操舵輪9が転舵される。
電動パワーステアリング装置4は、補助操舵トルクを発生する電動モータ6、及び電動モータ6の回転を減速してステアリングシャフト2に伝達する減速機5を備える。これにより、電動パワーステアリング装置4は、電動モータ6の駆動によって、ステアリングホイール1の操舵方向及び操舵トルクに応じた補助操舵トルクをステアリングシャフト2に伝達することができる。
電動モータ6の駆動は、電子コントロールユニット(ECU)10によって制御される。ECU10は、トルクセンサ3によって検出される操舵トルクと、車速センサ11によって検出される車速とに基づいて、電動モータ6が発生すべき補助操舵トルクの目標値を定める。さらに、ECU10は、詳しくは後述するように、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性に基づいて、補助操舵トルクの補正値を演算する。そして、ECU10は、補助操舵トルクの目標値を補正値によって補正した後の補正目標値に一致するように、電動モータ6が発生する補助操舵トルクを制御する。
以下、本実施形態の特徴部分に係る補助操舵トルクの補正値の演算方法について説明する。本実施形態では、図2に示すモデルに基づいて、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性を考慮した補正値を算出する。このようなモデルを用いることにより、トルクセンサ3による検出値及び電動モータ6が発生する補助操舵トルクから、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性に相当する、電動モータ6の回転角度とラックストロークをそれぞれステアリングシャフトの回転角度に換算した場合の角度差や、それらの角速度差が演算により推定できるためである。
まず、図2に示すモデルについて説明する。図2において、ステアリングホイール1は、慣性質量Ih[kgm2]及び減衰定数Ch[Nm・s/rad]を有する。さらに、運転者によってステアリングホイール1が操舵されたとき、ステアリングホイール1に操舵トルクTh[Nm]がかかり、かつ、操舵角度θh[rad]だけ回転される。
20は、トルクセンサ3におけるトーションバーに相当するものである。ステアリングホイール1が操舵されると、トーションバー20が捻られる。このとき、トーションバー20は、捩れバネ定数Kt[Nm/rad]に従って、捻られていない状態に戻そうとするバネ力を発生する。
30は、電動モータ6及びステアリングシャフト2を仮想的に一体化したものに相当する。この電動モータ6及びステアリングシャフト2の仮想一体物30は、慣性質量Ic[kgm2]及び減衰定数Cc[Nm・s/rad]を有する。なお、その際、電動モータ6分の慣性質量は、ステアリングシャフト2における慣性質量に換算して算出される。また、電動モータ6及びステアリングシャフト2の仮想一体物30は、電動モータ6を含むため、ステアリングシャフト2に対してトルクTM[Nm]を作用させる。なお、この電動モータ6が発生するトルクTM[Nm]も、ステアリングシャフト2におけるトルクに換算されている。また、θcは、ステアリングシャフト2の回転角度に換算した電動モータ6の回転角度である。
ピニオン軸7も、トーションバー20と同じく、多少ではあるが、回転方向に弾性要素として捩れる。このため、図2では、ピニオン軸7の捩れバネ定数をKin[Nm/rad]として示している。50は、ピニオン軸7が連結されるラック軸8から操舵輪9までを仮想的に一体化したものに相当する。このラック軸8から操舵輪9までの仮想一体物50は、慣性質量IL[kgm2]及び減衰定数CL[Nm・s/rad]を有する。なお、その際、仮想一体物50の慣性質量ILは、ステアリングシャフト2における慣性質量に換算して算出されている。また、TL[Nm]は、ラック軸8を直線運動させ、ひいては操舵輪9を転舵させる横力を、ステアリングシャフト2の回転トルクに換算したものである。さらに、ラック軸8のストロークは、ステアリングシャフト2の回転角に換算され、θL[rad]として表されている。
上述したモデルにおいて、ステアリングホイール1、電動モータ6及びステアリングシャフト2の仮想一体物30、及びラック軸8から操舵輪9までの仮想一体物50に関しての運動方程式を数式1に示す。
Figure 2009101930
ここで、トーションバー20における捩れ角度を(θh−θc)=θtとし、ピニオン軸7による捩れ角度を(θc−θL)=θpとすると、数式1は以下の数式2のように変形できる。
Figure 2009101930
上記の数式2をまとめると、以下の数式3に示す状態方程式が得られる。
Figure 2009101930
数式3の状態方程式は、数式4のように簡略化して表記される。
Figure 2009101930
ここで、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性に相当する、電動モータ6の回転角度とラックストロークをそれぞれステアリングシャフト2の回転角度に換算した場合の角度差、つまり、ピニオン軸7の捩れ角度θpをゼロに近づけることができれば、電動モータ6の回転角と、操舵輪9の転舵角度との差を小さくすることができる。この結果、電動モータ6が車両の運転者による操舵操作に応じた補助操舵トルクを発生して回転すれば、それにほぼ同期して操舵輪9が転舵される。従って、操舵輪9の転舵角度は、車両の運転者の意図通りのものとなり、車両の運動性能(旋回性能)やステアフィールを向上することができる。
上記状態方程式において、ピニオン軸7の捩れ角度θpをゼロに近づけるためには、最適レギュレータを用いて、以下の数式5に示す評価関数Jを最小にする制御入力uを求めれば良い。
Figure 2009101930
数式5を、数式6に示す2次形式で表現すると、数式6における行列Q,Rは数式7に示すようになる。
Figure 2009101930
Figure 2009101930
なお、数式7において、s>>rとすれば、Th,TLに対するゲインを無視できるほど小さくできる。そして、数式7に示す行列Q,Rから、以下の数式8に示すRiccati方程式の解Pを求め、その解Pを用いて、数式9に示すように制御入力uを定めることにより、評価関数Jを最小にする制御入力u、すなわち状態フィードバックゲインKを求めることができる。
Figure 2009101930
Figure 2009101930
他の状態量に対しても、行列Qでの重みqの位置を変えて上記計算を行うことで、評価関数Jを最小にする制御入力uを求めることが可能である。例えば、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性に相当するパラメータとしては、電動モータ6の回転角速度とラックストローク速度をそれぞれステアリングシャフト2の回転角速度に換算した場合の角速度差、つまり、ピニオン軸7の捩れ角度θpの一次微分である捩れ角速度がある。この角速度をゼロに近づけるためには、行列Qの(5,5)成分を重みqとすれば良い。
ここで、状態量xに対してフィードバックゲインKを乗じて求めた制御入力uによって状態フィードバック制御を行うためには、状態量xが全て求められている必要がある。しかしながら、状態量xの内、上述した構成におけるセンサ等によって全ての状態量が検出できるわけではない。そのため、本実施形態では、全次元オブザーバを利用して、残りの状態量を推定する。
例えば、トーションバーの捩れ角度θtだけが検出可能である場合に、このθtを用いて残りの状態量を推定するには、まず出力方程式を数式10のように定義する。
Figure 2009101930
さらに、数式10の出力方程式と数式4の状態方程式を用いて、状態量xの推定値x_estを、以下の数式11に示すように定義する。
Figure 2009101930
このように定義すると、状態量xと推定値x_estとの差eは、以下の数式12のように表すことができる。
Figure 2009101930
従って、Lを適切に定めることにより、状態量xと推定値x_estとの差eがゼロ、すなわち、状態量xと推定値x_estとが等しくなり、センサ等によって検出できない状態量の推定が可能になる。
図3に、補助操舵トルクの補正値を算出するための制御ブロック図を示す。図3において、状態量推定部60は、全次元オブザーバにより構成され、トーションバーの上下のステアリングシャフト2の捩れ角θt及び電動モータ6が発生するトルクTMを入力として、状態量xの推定値x_estを算出するものである。
なお、状態量推定部60には、モータ発生トルクTMの他、ステアリングホイール1の操舵トルクTh及びラック横力TLが入力されても良い。ただし、上述したように、行列Rの重みを適宜設定することで、Th,TLに対するゲインを無視できるほど小さくできるので、Th及びTLはゼロとみなしても良い。Th及びTLを入力する場合には、Th及びTLをセンサ等によって検出しても良いし、オブザーバなどによって推定しても良い。
また、モータ発生トルクTMは、電動モータ6に通電される電流値を電流センサによって検出し、その検出値から算出することができる。その他にも、電動モータ6への電流指令値から推定することも可能であるし、トルクセンサを用いて実際に電動モータ6が発生するトルクを検出しても良い。
補正量算出部70は、状態量xの各パラメータに、上述した最適レギュレータを用いてそれぞれ求めた状態フィードバックゲインKを乗算することにより、最適な制御入力u、すなわち補助操舵トルクの補正値を算出する。すなわち、補正量算出部70は、図3に示すように、トーションバーの捩れ角度に応じた補正値を算出するトーションバー捩れ角度補正値算出部71、トーションバーの捩れ角速度に応じた補正値を算出するトーションバー捩れ角速度補正値算出部72、電動モータ6の回転速度に応じた補正値を算出するモータ回転速度補正値算出部73、ピニオン軸7の捩れ角度に応じた補正値を算出するピニオン軸捩れ角度補正値算出部74、及びピニオン軸7の捩れ角速度に応じた補正値を算出するピニオン軸捩れ角速度補正値算出部75を有する。これらの補正値算出部71〜75でそれぞれ算出された補正値は、加算部80で加算され、最終的な補助操舵トルクの補正値として出力される。
本実施形態では、このような補正値算出部70を備え、特に、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性を考慮した補正値を算出するピニオン軸捩れ角度補正値算出部74及びピニオン軸捩れ角速度補正値算出部75を備えているので、電動モータ6は、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性による影響を補償した補助操舵トルクを発生することができる。
図4は、モータ発生トルクTMの変化が生じたときに、ピニオン捩れ角度θpが変化する際の周波数特性を示すグラフである。図4に示すように、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性を考慮しない従来例に比較して、本実施形態では、周波数に対するゲインの大きさ及び位相がいずれも滑らかに変化していることがわかる。これにより、電動モータ6から操舵輪9までのトルクの伝達機構が持つ共振特性による影響を緩和し、運転者が意図した通りに操舵輪9が転舵されやすくなるので、車両の運動性能やステアフィールを飛躍的に向上することができる。
なお、上述した実施形態では、補正値算出部70が、ピニオン軸捩れ角度補正値算出部74及びピニオン軸捩れ角速度補正値算出部75をともに備える例について説明したが、いずれか一方の補正値算出部を備えるものであっても良い。いずれかの補正値算出部を備えていれば、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性による影響を補償するための補正値を算出することができるためである。
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。上述した第1実施形態では、電動パワーステアリング制御装置の制御対象として、補助操舵トルクを発生する電動モータ6がステアリングシャフト2に連結された、いわゆるコラム式の電動パワーステアリング装置を用いた例について説明した。しかしながら、本発明による電動パワーステアリング制御装置は、電動モータがラック軸に連結された、いわゆるラック式の電動パワーステアリング装置にも適用可能である。
そこで、第2実施形態として、本発明の電動パワーステアリング制御装置が、ラック式電動パワーステアリング装置に適用された場合の、補助操舵トルクの補正値を算出する基礎となるモデルの構成等について説明する。
まず、図5に基づいて、ラック式電動パワーステアリング装置について簡単に説明する。図5に示すように、ラック式電動パワーステアリング装置を有する操舵機構は、電動モータ6の連結位値を除き、コラム式電動パワーステアリング装置を有する操舵機構と同様の構成を備えている。すなわち、ラック式電動パワーステアリング装置を有する操舵機構も、ステアリングホイール1、ステアリングシャフト2、トルクセンサ3、ピニオン軸7、ラック軸8、タイロッド12等を備えている。
ただし、電動モータ6は、減速機5を介してラック軸8に連結されている。このとき、電動モータ6の出力軸に取り付けられたギアは、ラック軸8の長手方向と直交する方向に切られたギア溝と噛み合わされている。このギア溝は、ラック軸8の長手方向に沿って複数形成されているので、電動モータ6が回転することにより、ラック軸8が車両の左右方向に直線的に移動する。
図6は、ラック式電動パワーステアリング装置を制御対象とする場合の、補助操舵トルクの補正値を算出する基礎となるモデルを説明するためのものである。この図6において、ステアリングホイール1及びトーションバー20に関しては、コラム式電動パワーステアリング装置の場合と同様である。
30aは、電動モータ6及びラック軸8を仮想的に一体化したものに相当する。この電動モータ6及びラック軸8の仮想一体物30aは、慣性質量Ic[kgm2]及び減衰定数Cc[Nm・s/rad]を有する。なお、その際、電動モータ6及びラック軸8の慣性質量Icは、ステアリングシャフト2における慣性質量に換算して算出される。また、電動モータ6及びラック軸8の仮想一体物30aは、電動モータ6を含むため、トルクTM[Nm]を発生する。なお、この電動モータ6が発生するトルクTM[Nm]も、ステアリングシャフト2におけるトルクに換算されている。
40は、ラック軸8と操舵輪(ホイール)9間のタイロッド12や、その間に設けられるブッシュなど、ラック・操舵輪連結部に相当する。このラック・操舵輪連結部40も弾性を有するため、そのバネ定数をKin[Nm/rad]として定めている。50aは、操舵輪9のホイールやタイヤに相当するものである。操舵輪9のホイールやタイヤに相当する部分50aは、慣性質量IL[kgm2]及び減衰定数CL[Nm・s/rad]を有する。その際、部分50aの慣性質量ILは、ステアリングシャフト2における慣性質量に換算して算出されている。また、TL[Nm]は、操舵輪9を転舵させるべくホイールにかかる横力を、ステアリングシャフト2の回転トルクに換算したものである。さらに、操舵輪9の転舵角度は、ステアリングシャフト2の回転角に換算され、θL[rad]として表されている。
上述したようにモデルを構成し、ステアリングホイール1、電動モータ6及びラック軸8の仮想一体物30a、及び操舵輪9のホイール及びタイヤに相当する部分50aに関しての運動方程式を立てると、それは、上記した数式1に示す運動方程式と全く同一となる。従って、ラック式電動パワーステアリング装置を制御対象とする場合であっても、第1実施形態において説明した手法と全く同じ方法で、電動モータ6から操舵輪9までの補助操舵トルクの伝達特性を考慮した補正値を算出することができる。
(第3実施形態)
上述した第1実施形態及び第2実施形態では、ステアリングホイール1から操舵輪9までのステアリングシステム全体を1つのモデルによって表現していた。しかしながら、第3実施形態では、ステアリングシステム全体を1つのモデルで表現するのではなく、図7に示すように、電動モータ6を基準としてステアリングシステムを分離し、ステアリングホイール1から電動モータ6までの上側モデルと、電動モータ6から操舵輪9までの下側モデルとによって表現する。このように上側モデルと下側モデルとに分離された分離モデルを用いることにより、例えば上側モデルにおける電動モータの挙動に対する要求と、下側モデルにおける電動モータの挙動に対する要求が異なる場合でも、それぞれの要求に応じた補正値を独立して算出することができる。このように、分離モデルを用いることによって、電動モータが発生する補助操舵トルクの制御の自由度が向上するので、より適切な制御を行うことができる。なお、以下に、電動モータ6がステアリングシャフト2に連結されたコラム式の場合について説明するが、ラック式の場合でも同様であることは言うまでも無い。
上側モデルにおける、ステアリングホイール1、及び電動モータ6とステアリングシャフト2の仮想一体物30に関しての運動方程式を、以下の数式13に示す。
Figure 2009101930
なお、上側モデルにおける電動モータ6の回転角度はθcuと表されている。また、下側モデルから上側モデルに入力されるトルクをTinとして表している。
θh−θcu=θtとすると、数式13の運動方程式から数式14に示す状態方程式が得られる。
Figure 2009101930
同様にして、下側モデルに関する運動方程式を数式15に示し、状態方程式を数式16に示す。なお、下側モデルにおける電動モータ6の回転角度はθclと表される。また、上側モデルから下側モデルに入力されるトルクをTtとして表す。
Figure 2009101930
Figure 2009101930
そして、上述した状態方程式に基づいて、上側モデル及び下側モデルに関して、第1実施形態と同様の手法を用いて状態フィードバックゲインKを求める。
図8に、本実施形態における、補助操舵トルクの補正値を算出するための制御ブロック図を示す。図8において、状態量推定部60Aは、上側モデル推定部61と下側モデル推定部62とからなる。上側モデル推定部61は、トーションバーの捩れ角度θtを観測可能であるため、全次元オブザーバを利用している。一方、下側モデル推定部62の場合、観測可能な状態量がないので、制御入力uのみモデルに与えることで、全ての状態量の推定値を演算している。
なお、上述したように、上側モデル推定部61から下側モデル推定部62にトルクTtを入力すべく、上側モデル推定部61が出力する状態量xの内、トーションバーの捩れ角度θtに所定のゲインKtを乗じてトルクTtを求めて、下側モデル推定部62に与えている。逆に、下側モデル推定部62から上側モデル推定部61にトルクTinを入力すべく、下側モデル推定部62が出力する状態量xのうち、ピニオン軸7の捩れ角度θpに所定のゲイン−Kinを乗じてトルクTinを求め、上側モデル推定部61に与えている。
補正量算出部70Aは、上側モデル推定部61及び下側モデル推定部62からそれぞれ出力された状態量xの各パラメータに、状態フィードバックゲインKを乗算することにより、補助操舵トルクの補正値を算出する。この補正量算出部70Aの構成は、ほぼ、第1実施形態における補正量算出部70と同様であるが、上側モデル推定部61から出力される電動モータの回転速度に応じて補正値を算出するモータ回転速度補正値算出部73Aと、下側モデル推定部62から出力される電動モータ6の回転速度に応じて補正値を算出するモータ回転速度補正値算出部73Bとを備える点で異なる。
このように、電動モータ6の回転速度に応じて補正値を算出する算出部を、上側モデル及び下側モデルに対応して2箇所に設けたので、上側モデルにおける要求と下側モデルにおける要求をそれぞれ満足するように補正値を独立して設定することができる。
第1実施形態による電動パワーステアリング制御装置の制御対象となる、電動パワーステアリング装置(EPS)を備えたステアリングシステムの全体構成を示す構成図である。 図1に示すステアリングシステムのモデル図である。 第1実施形態の電動パワーステアリング制御装置における、補助操舵トルクの補正値を算出するための制御ブロック図である。 モータ発生トルクTMの変化が生じたときに、ピニオン捩れ角度θpが変化する際の周波数特性を示すグラフである。 第2実施形態による電動パワーステアリング制御装置の制御対象となる、ラック式電動パワーステアリング装置について説明するための説明図である。 ラック式電動パワーステアリング装置を制御対象とする場合の、補助操舵トルクの補正値を算出する基礎となるモデルを示すモデル図である。 第3実施形態において、電動モータを基準として、ステアリングシステムを上側モデルと下側モデルとに分離したモデル図である。 第3実施形態の電動パワーステアリング制御装置における、補助操舵トルクの補正値を算出するための制御ブロック図である。
符号の説明
1…ステアリングホイール、2…ステアリングシャフト、3…トルクセンサ、4…電動パワーステアリング装置、5…減速機、6…電動モータ、7…ピニオン軸、8…ラック軸、9…操舵輪、10…ECU、11…車速センサ、60…状態量推定部、70…補正量算出部

Claims (8)

  1. ステアリングホイールから操舵系に印加される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
    前記操舵系に連結され、補助操舵トルクを発生する電動モータと、
    前記操舵トルクセンサによって検出される操舵トルクに基づいて、前記電動モータが発生すべき補助操舵トルクの目標値を演算する目標値演算手段と、
    前記操舵系における、前記電動モータからタイヤまでの補助操舵トルクの伝達特性に基づいて、前記補助操舵トルクの補正値を演算する補正値演算手段と、
    前記補助操舵トルクの目標値を前記補正値によって補正した後の補正目標値に一致するように、前記電動モータが発生する補助操舵トルクを制御する制御手段と、を備えることを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
  2. 前記補正値演算手段は、前記電動モータの回転角度と前記タイヤの転舵角度との関係が、両角度を対比可能な角度に換算した場合に、両角度の差がゼロに近づく補正値を算出することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置。
  3. 前記補正値演算手段は、前記電動モータの回転角速度と前記タイヤの転舵角速度との関係が、両角速度を対比可能な角速度に換算した場合に、両角速度の差がゼロに近づく補正値を算出することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置。
  4. 前記補正値演算手段は、
    前記電動モータの回転角度と前記タイヤの転舵角度との関係が、両角度を対比可能な角度に換算した場合に、両角度の差がゼロに近づく第1の補正値を算出し、
    前記電動モータの回転角速度と前記タイヤの転舵角速度との関係が、両角速度を対比可能な角速度に換算した場合に、両角速度の差がゼロに近づく第2の補正値を算出して、
    前記第1の補正値と前記第2の補正値を加算して前記補助操舵トルクの補正値を演算することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置
  5. 前記操舵系は、トーションバーを介して連結された第1及び第2の操舵軸を有し、
    前記操舵トルクセンサは、前記第1及び第2の操舵軸の回転角度差に応じた値を、前記ステアリングホイールから操舵系に印加される操舵トルクとして検出するものであり、
    前記補正値演算手段は、前記電動モータが発生する補助操舵トルクと、前記操舵トルクセンサによって検出される前記第1及び第2の操舵軸の回転角度差に応じた値を入力し、前記電動モータの回転角度と前記タイヤの転舵角度とを対比可能な角度に換算した場合の換算角度差を推定する状態推定部を備えることを特徴とする請求項2又は請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置。
  6. 前記操舵系は、トーションバーを介して連結された第1及び第2の操舵軸を有し、
    前記操舵トルクセンサは、前記第1及び第2の操舵軸の回転角度差に応じた値を、前記ステアリングホイールから操舵系に印加される操舵トルクとして検出するものであり、
    前記補正値演算手段は、前記電動モータが発生する補助操舵トルクと、前記操舵トルクセンサによって検出される前記第1及び第2の操舵軸の回転角度差に応じた値を入力し、前記電動モータの回転角速度と前記タイヤの転舵角速度とを対比可能な角速度に換算した場合の換算角速度差を推定する状態推定部を備えることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置。
  7. 前記操舵系は、前記ステアリングホイールに接続された操舵軸と、当該操舵軸とラック・ピニオン機構を介して結合され、前記操舵軸の回転により車両の左右方向への直線運動を行うラック軸と、前記ラック軸の両端と左右のタイヤホイールとをそれぞれ連結する一対のタイロッドとからなり、
    前記電動モータは、前記操舵軸に連結されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電動パワーステアリング制御装置。
  8. 前記操舵系は、前記ステアリングホイールに接続された操舵軸と、当該操舵軸とラック・ピニオン機構を介して結合され、前記操舵軸の回転により車両の左右方向への直線運動を行うラック軸と、前記ラック軸の両端と左右のタイヤホイールとをそれぞれ連結する一対のタイロッドとからなり、
    前記電動モータは、前記ラック軸に連結されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電動パワーステアリング制御装置。
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