JP2009090953A - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動を効果的に抑制することのできる電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】マイコン41は、入力される信号から特定の周波数成分を抽出可能な特定周波数抽出部51を備え、特定周波数抽出部51は、操舵系の状態を示す信号としてのピニオン角θpから、転舵輪に対する逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動に対応する周波数成分を抽出し、その実効値をパワースペクトルSpとして出力する。そして、マイコン41は、この特定周波数抽出部51の出力するパワースペクトルSpが、所定の閾値以上である場合には、逆入力応力の印加に起因する操舵系の振動を抑制すべく、上記トルク慣性償補制御を強化、即ち操舵トルク微分値dτに基づく補償成分であるトルク慣性補償量Iti*を増大させる。
【選択図】図2

Description

本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
従来、車両用のパワーステアリング装置には、モータを駆動源とした電動パワーステアリング装置(EPS)があり、こうしたEPSには、油圧式のパワーステアリング装置と比較して、レイアウト自由度が高く、且つエネルギー消費量が小さいという特徴がある。このため、近年では、小型車両から大型車両までの幅広い車種において、その採用が検討されるようになっている。
さて、このようなEPSにおいて、操舵系の振動は、その操舵フィーリングを損ねる要因の一つとなる。即ち、操舵系の振動、或いは当該振動により生ずる異音を運転者が感じ取ることで、操舵フィーリングは、大きく損なわれることとなる。このため、EPSにおいては、従来、こうした操舵系の振動を抑制すべく、構造上、及び制御上の種々の対策がなされている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
特開2006−27537号公報 特開2006−335228号公報
ところが、操舵系に生ずる振動は、駆動源であるモータにその発生要因があるものに限らない。即ち、不整路面走行時等、転舵輪に逆入力応力が印加された場合、当該逆入力応力は、その減衰までの間、振動として操舵系に残存することになる。そして、その振動が操舵系からステアリングへと伝達されることで、操舵フィーリングが悪化するおそれがある。
尚、上記特許文献2に記載の構成は、モータの制御出力(モータ回転角や電流値)から振動周波数成分を抽出し、当該振動周波数成分を打ち消すための振動抑制制御量を付加するものである。従って、モータと操舵系とが連結されたEPSにおいては、その操舵系に生じた振動についても、ある程度の抑制効果が期待できる。しかしながら、モータの制御出力から抽出される操舵系の振動成分は、やはり間接的なものであり、それに基づく補償制御には位相のずれが生ずることになる。このため、その補償制御の効果もまた限界のあるものとなっており、こうした操舵系の振動を効果的に抑制しうる有効な対策の創出が強く求められていた。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動を効果的に抑制することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与すべく設けられた操舵力補助装置と、前記操舵系の状態を示す信号に基づいて前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、基本アシスト成分に、操舵トルクの微分値に基づく補償成分を重畳することにより、前記操舵力補助装置に発生させるべき目標アシスト力を演算する電動パワーステアリング装置であって、前記操舵系の状態を示す信号から、逆入力応力の印加に基づき前記操舵系に生じた振動に対応する特定の周波数成分を抽出可能な特定周波数抽出手段を備え、前記制御手段は、抽出された前記特定の周波数成分の実効値が所定の閾値以上である場合には、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させること、を要旨とする。
上記構成によれば、逆入力応力の印加に起因する振動が操舵フィーリングの悪化として顕在化する前に、いち早く当該逆入力応力の印加に起因する振動の発生を検知し速やかにその抑制を図ることができる。そして、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大、即ち所謂トルク慣性補償制御の強化によって振動の抑制を図る構成とすることで、上述の従来技術にみられるような位相ずれによる振動抑制効果の低下といった問題も発生しない。更に、その振動抑制のために行う補償制御の強化についても、上記振動の検知に基づいて、限定的に実行することで、当該補償制御の強化により生ずる操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)、或いは制御の不安定化(振動)等といった弊害の発生を回避することができる。加えて、このように逆入力応力の印加に起因する振動対策を切り分けることによって、通常時における当該補償制御の設定を最適化し、更なる操舵フィーリングの改善を図ることができる。
請求項2に記載の発明は、前記制御手段は、前記実効値が大きいほど、前記補償成分を大とすること、を要旨とする。
上記構成のように、発生する振動の強さに応じて補償制御を強化することで、上記弊害の発生を回避しつつ、速やかに振動の抑制を図ることができる。
請求項3に記載の発明は、前記制御手段は、車速が所定の速度領域にある場合においてのみ、前記補償成分を増大させること、を要旨とする。
即ち、操舵系に生ずる振動の振幅は、転舵輪を支承するサスペンションの振動特性に依存し、当該サスペンションに共振が発生する特定の速度領域において増幅される。従って、上記構成のように、操舵系の振動が最も顕著となる速度領域に限定して補償制御の強化を実行することにより、当該補償制御に伴う操舵フィーリングの悪化を効果的に回避することができる。
請求項4に記載の発明は、モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与すべく設けられた操舵力補助装置と、前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、基本アシスト成分に、操舵トルクの微分値に基づく補償成分を重畳することにより、前記操舵力補助装置に発生させるべき目標アシスト力を演算する電動パワーステアリング装置であって、前記制御手段は、車速が所定の速度領域にある場合には、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させること、を要旨とする。
上記構成によれば、逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動を効果的に抑制することができる。そして、特定の周波数成分の抽出、及びその実効値の算出を行わないため、その演算負荷が小さいという利点がある。
請求項5に記載の発明は、ステアリング操作の有無を判定する判定手段を備え、前記制御手段は、ステアリング操作時には、前記補償成分の増大を行わないこと、を要旨とする。
即ち、操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させる補償制御の強化は、操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)を伴う場合がある。しかしながら、上記構成のように、ステアリング操作時には実行しない、即ち非ステアリング操作時に限定して行うことで、当該補償制御の強化に伴う操舵フィーリングの悪化を回避することができる。
請求項6に記載の発明は、モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与すべく設けられた操舵力補助装置と、前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、基本アシスト成分に、操舵トルクの微分値に基づく補償成分を重畳することにより、前記操舵力補助装置に発生させるべき目標アシスト力を演算する電動パワーステアリング装置であって、走行路面が不整路であるか否かを判定する不整路判定手段を備え、前記制御手段は、前記不整路であると判定された場合には、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させること、を要旨とする。
請求項7に記載の発明は、前記不整路であるか否かの判定は、車輪速を示す信号についての周波数解析に基づき行われること、を要旨とする。
請求項8に記載の発明は、前記不整路であるか否かの判定は、前記走行路面の画像処理に基づき行われること、を要旨とする。
請求項9に記載の発明は、前記不整路であるか否かの判定は、前記走行路面のレーダ探知に基づき行われること、を要旨とする。
即ち、転舵輪に対して逆入力応力が印加される頻度の高い不整路走行時には、予め操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大、即ち所謂トルク慣性補償制御を強化しておくことで、当該逆入力応力の印加に起因する振動の発生を効果的に抑制することができる。また、その不整路判定については、請求項7〜請求項9の構成により具体化可能である。そして、当該補償制御の強化により生ずる操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)、或いは制御の不安定化(振動)等といった弊害も、元々、操舵フィーリング及び制御性が安定的とはいえない不整路面走行時であれば、それが問題となる可能性も低い。
請求項10に記載の発明は、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分の演算においては、前記微分値の絶対値が所定範囲内にある場合に前記補償成分がゼロとなる不感帯が設定されるものであって、前記制御手段は、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させる制御の実行時には、前記不感帯を廃すること、を要旨とする。
即ち、通常時には、不感帯の設定によって、トルク慣性補償制御の実行に伴う弊害(所謂切り始めの「抜け感」や制御の不安定化(振動)等)を抑えて良好な操舵フィーリングを確保することができるものの、トルク慣性補償制御の強化時においては、不感帯の存在が、当該補償制御の効果をも阻害してしまう可能性がある。しかしながら、上記構成によれば、トルク慣性補償制御の強化時には、通常、その補償成分がゼロとなる範囲、即ち操舵トルクの微分値(絶対値)が比較的小さな範囲においても、当該トルク慣性補償制御の効果を活かすことができる。その結果、より効果的に振動を抑制することができるようになる。
本発明によれば、逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動を効果的に抑制することが可能な電動パワーステアリング装置を提供することができる。
(第1の実施形態)
以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。具体的には、本実施形態のステアリングシャフト3は、自在継手7a,7bを介して、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなり、上記ラックアンドピニオン機構4は、ピニオンシャフト10の一端に形成されたピニオン歯10aとラック軸5側のラック歯5aとを噛合させることにより構成される。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、即ち車両の進行方向が変更されるように構成されている。
本実施形態のEPS1は、モータ21を駆動源としてステアリングシャフト3を回転駆動することにより操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ22と、該EPSアクチュエータ22の作動を制御するECU23とを備えている。
詳述すると、本実施形態のEPSアクチュエータ22は、コラムシャフト8にアシスト力を付与する所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されており、駆動源であるモータ21は、減速機構24を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。本実施形態では、減速機構24は、コラムシャフト8に対して相対回転不能に設けられたリダクションギヤ25と、モータ軸21aに対して相対回転不能に設けられたモータギヤ26とを噛合することにより構成されている。尚、本実施形態では、減速機構24には、所謂ウォーム&ホイールが採用されている。そして、操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ22は、駆動源であるモータ21の回転を減速機構24により減速してコラムシャフト8に伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
一方、制御手段としてのECU23は、EPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21に対して駆動電力を供給する。そして、その駆動電力の供給を通じてモータ21の回転、即ちEPSアクチュエータ22の作動を制御するように構成されている。
さらに詳述すると、ECU23には、コラムシャフト8に設けられたトルクセンサ31が接続されている。本実施形態では、コラムシャフト8は、ステアリング2側の第1シャフト8aとインターミディエイトシャフト9(ピニオンシャフト10)側の第2シャフト8bとを、トーションバー33を介して連結することにより形成されている。そして、トルクセンサ31は、トーションバー33、及び同トーションバー33の両端(第1シャフト8aの端部及び第2シャフト8bの端部)に設けられた一対の角度センサ34a,34b(レゾルバ)により構成されている。
即ち、本実施形態のトルクセンサ31は、ツインレゾルバ型のトルクセンサとして構成されており、ECU23は、第1の角度センサ34aにより第1シャフト8aの回転角(操舵角θs)を検出するとともに、第2の角度センサ34bにより第2シャフト8bの回転角(ピニオン角θp)を検出する。そして、これら両角度センサ34a,34bにより検出された両回転角の差分、即ちトーションバー33の捻れ角に基づいて、操舵トルクτを検出する。
また、本実施形態では、ECU23には、車速センサ35により検出された車速Vが入力される。そして、ECU23は、これらの各センサにより検出される車両状態量に基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト力を決定し、当該目標アシスト力をEPSアクチュエータ22に発生させるべく、モータ21に対する駆動電力の供給を実行する。
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2に示すように、ECU23は、モータ制御信号を出力するマイコン41と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21に駆動電力を供給する駆動回路42とを備えて構成されている。
本実施形態では、ECU23には、モータ21に通電される実電流値Iを検出するための電流センサ43、及びモータ回転角θmを検出するための回転角センサ44(図1参照)が接続されている。そして、マイコン41は、上記各車両状態量、並びにこれら電流センサ43及び回転角センサ44の出力信号に基づき検出されたモータ21の実電流値I及びモータ回転角θmに基づいて、駆動回路42に出力するモータ制御信号を生成する。
詳述すると、マイコン41は、操舵系に付与するアシスト力の目標値、すなわち目標アシスト力に対応した電流指令値Iq*を演算する電流指令値演算部45と、電流指令値演算部45により算出された電流指令値Iq*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部46とを備えている。
本実施形態の電流指令値演算部45は、目標アシスト力の基礎的制御成分である基本アシスト制御量Ias*を演算する基本アシスト制御部47と、その補償成分として、操舵トルクτの微分値(操舵トルク微分値dτ)に基づくトルク慣性補償量Iti*を演算するトルク慣性補償制御部48とを備えている。
本実施形態では、基本アシスト制御部47には、操舵トルクτ及び車速Vが入力されるようになっている。そして、該基本アシスト制御部47は、これら操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、その操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな基本アシスト制御量Ias*を演算する。
一方、本実施形態のトルク慣性補償制御部48には、操舵トルク微分値dτに加え、車速Vが入力される。そして、トルク慣性補償制御部48は、これらの各状態量に基づいてトルク慣性補償制御を実行する。尚、「トルク慣性補償制御」は、モータやアクチュエータ等、EPSの慣性による影響を補償する制御、即ちステアリング操作における「切り始め」時の「引っ掛かり感(追従遅れ)」、及び「切り終わり」時の「流れ感(オーバーシュート)」を抑制するための制御である。そして、このトルク慣性補償制御には、転舵輪12に対する逆入力応力の印加により操舵系に生じた振動を抑制する効果がある。
具体的には、図3に示すように、本実施形態のトルク慣性補償制御部48は、操舵トルク微分値dτと基礎補償量εtiとが関連付けられたマップ48a、及び車速Vと補間係数Aとが関連付けられたマップ48bを備えている。マップ48aにおいて、基礎補償量εtiは、入力される操舵トルク微分値dτの絶対値が大きいほど、基本アシスト制御部47において演算された基本アシスト制御量Ias*(の絶対値)をより増加させる値となるように設定されている。また、マップ48bにおいて、補間係数Aは、低車速領域では車速Vが大きくなるほど大きな値となるように、高車速領域では、車速が大きくなるほど小さな値となるように設定されている。そして、トルク慣性補償制御部48は、これらの各マップ48a,48bを参照することにより求められた基礎補償量εti及び補間係数Aを乗ずることによりトルク慣性補償量Iti*を演算する。
図2に示すように、基本アシスト制御部47において演算された基本アシスト制御量Ias*、及びトルク慣性補償制御部48において演算されたトルク慣性補償量Iti*(Iti**)は、加算器49に入力される。そして、電流指令値演算部45は、この加算器49において基本アシスト制御量Ias*にトルク慣性補償量Iti*を重畳することにより、目標アシスト力としての電流指令値Iq*を演算する。
電流指令値演算部45が出力する電流指令値Iq*は、電流センサ43により検出された実電流値I、及び回転角センサ44により検出されたモータ回転角θmとともに、モータ制御信号出力部46に入力される。そして、モータ制御信号出力部46は、この目標アシスト力に対応する電流指令値Iq*に実電流値Iを追従させるべくフィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を演算する。
具体的には、本実施形態では、モータ21には、三相(U,V,W)の駆動電力の供給により回転するブラシレスモータが用いられている。そして、モータ制御信号出力部46は、実電流値Iとして検出されたモータ21の相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q座標系のd,q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
即ち、電流指令値Iq*は、q軸電流指令値としてモータ制御信号出力部46に入力され、モータ制御信号出力部46は、回転角センサ44により検出されたモータ回転角θmに基づいて相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q変換する。また、モータ制御信号出力部46は、そのd,q軸電流値及びq軸電流指令値に基づいてd,q軸電圧指令値を演算する。そして、そのd,q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を演算し、当該相電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成する。
そして、本実施形態のECU23は、上記のように生成されたモータ制御信号をマイコン41が駆動回路42に出力し、該駆動回路42がその当該モータ制御信号に基づく三相の駆動電力をモータ21に供給することにより、EPSアクチュエータ22の作動を制御する構成となっている。
[逆入力応力に起因する振動の抑制制御]
次に、本実施形態における逆入力応力に起因する振動の抑制制御について説明する。
図2に示すように、本実施形態では、ECU23を構成するマイコン41には、入力される信号から特定の周波数成分を抽出可能な特定周波数抽出手段としての特定周波数抽出部51が設けられている。本実施形態では、この特定周波数抽出部51には、操舵系の状態を示す信号として、該操舵系を構成するピニオンシャフト10の回転角を示すピニオン角θpが入力されるようになっており、該特定周波数抽出部51は、入力されるピニオン角θpから、操舵系に生じた振動に対応する特定の周波数成分を抽出する。
具体的には、特定周波数抽出部51は、入力されるピニオン角θpから、転舵輪12に対する逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動に対応する周波数成分を抽出し、その実効値をパワースペクトルSpとして出力する。
そして、本実施形態のマイコン41は、この特定周波数抽出部51の出力するパワースペクトルSpが、所定の閾値以上である場合には、逆入力応力の印加に起因する操舵系の振動を抑制すべく、上記トルク慣性補償制御を強化、即ち操舵トルク微分値dτに基づく補償成分であるトルク慣性補償量Iti*を増大させる。
上述のように、トルク慣性補償制御には、操舵系に生じた振動を抑制する効果があり、当該トルク慣性補償制御を強化することで、上記逆入力応力の印加に起因する操舵系の振動を効果的に抑制することができる。しかしながら、このようなトルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)には、アシストトルクの立ち上がりが過大となりやすいという特徴があり、その濫用は、通常時における操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)、或いは制御の不安定化(振動)等といった弊害を引き起こすおそれがある。
この点を踏まえ、本実施形態のEPS1では、上記のように逆入力応力の印加に起因する操舵系の振動に対応する周波数成分を抽出することで、いち早く当該逆入力応力の印加に起因する振動の発生を検知する。そして、該振動の検知に基づいて、トルク慣性補償制御の強化を実行することにより、当該トルク慣性補償制御の強化に伴う弊害の発生を回避しつつ、速やかに当該逆入力応力の印加に起因する振動の抑制を図る構成となっている。
詳述すると、図4のフローチャートに示すように、特定周波数抽出部51は、入力されるピニオン角θp(ステップ101)について、先ず、バンドパスフィルタ処理を実行し、上記逆入力応力の印加に起因する操舵系の振動に対応する特定の周波数成分として14〜16Hzの周波数成分を抽出する(ステップ102)。次に、特定周波数抽出部51は、RMS(Root Means square:平均自乗平方根)演算により、上記ステップ102において抽出された周波数成分の実効値を求める(ステップ103)。そして、ローパスフィルタ処理を実行し(ステップ104)、当該ローパスフィルタ処理した後の値をパワースペクトルSpとして出力する(ステップ105)。
また、本実施形態のマイコン41では、電流指令値演算部45には、トルク慣性補償制御を強化、即ちトルク慣性補償量Iti*を増大させるための強化ゲインKを演算する強化ゲイン演算部52が設けられており、特定周波数抽出部51が出力するパワースペクトルSpは、この強化ゲイン演算部52に入力される。
図5に示すように、本実施形態の強化ゲイン演算部52は、パワースペクトルSpと強化ゲインKとが関連付けられたマップ52aを有しており、同マップ52aにおいて、強化ゲインKは、パワースペクトルSpが第1の閾値Sth1以上の領域において、該パワースペクトルSpが大きいほど大となるように設定されている。具体的には、強化ゲインKは、上記第1の閾値Sth1以上、第2の閾値Sth2以下の領域(Sth1≦Sp≦Sth2)において、パワースペクトルSpが大となるに従って、その値が「0」から「1」まで変化するとともに、第2の閾値Sth2を超える領域においては、その値が「1」となるように設定されている。そして、強化ゲイン演算部52は、入力されるパワースペクトルSpを、このマップ52aに参照することにより、該パワースペクトルSpの値が所定の閾値以上である場合には、その値が大きいほど大となる強化ゲインKを演算するように構成されている。
本実施形態では、強化ゲイン演算部52により演算された強化ゲインKは、加算器53に入力される。そして、同加算器53において当該強化ゲインKに「1」が加算されることにより、少なくとも「1」以上の値を有する強化ゲインK´となる。更に、この強化ゲインK´は、乗算器54に入力され、同乗算器54においてトルク慣性補償量Iti*に乗算される。そして、これにより、その補正後のトルク慣性補償量Iti**が増大、即ちトルク慣性補償制御の強化が実行される構成となっている。
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)マイコン41は、入力される信号から特定の周波数成分を抽出可能な特定周波数抽出部51を備え、特定周波数抽出部51は、操舵系の状態を示す信号としてのピニオン角θpから、転舵輪12に対する逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動に対応する周波数成分を抽出し、その実効値をパワースペクトルSpとして出力する。そして、マイコン41は、この特定周波数抽出部51の出力するパワースペクトルSpが、所定の閾値以上である場合には、逆入力応力の印加に起因する操舵系の振動を抑制すべく、上記トルク慣性補償制御を強化、即ち操舵トルク微分値dτに基づく補償成分であるトルク慣性補償量Iti*を増大させる。
上記構成によれば、逆入力応力の印加に起因する振動が操舵フィーリングの悪化として顕在化する前に、いち早く当該逆入力応力の印加に起因する振動の発生を検知し速やかにその抑制を図ることができる。そして、トルク慣性補償制御の強化により当該振動を抑制する構成とすることで、上述の従来技術にみられるような位相ずれによる振動抑制効果の低下といった問題も発生しない。更に、その振動抑制のためのトルク慣性補償制御の強化についても、上記振動の検知に基づいて、限定的に実行することで、当該補償制御の強化により生ずる操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)、或いは制御の不安定化(振動)等といった弊害の発生を回避することができる。加えて、このように逆入力応力の印加に起因する振動対策を切り分けることによって、通常時におけるトルク慣性補償制御の設定を最適化し、更なる操舵フィーリングの改善を図ることができる。
(2)強化ゲイン演算部52は、パワースペクトルSpが大きいほど大きな強化ゲインKを演算する。このように、発生する振動の強さに応じて、トルク慣性補償制御を強化することで、上記弊害の発生を回避しつつ、速やかに振動の抑制を図ることができる。
(第2の実施形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。
尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、逆入力応力に起因する振動の抑制制御の態様のみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
図6に示すように、本実施形態のマイコン41には、運転者によるステアリング操作の有無を判定、即ち操舵状態判定を実行する判定手段としての操舵状態判定部61が設けられている。そして、本実施形態のマイコン41は、該操舵状態判定部61においてステアリング操舵があると判定された場合、つまりステアリング操作時には、トルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)を実行しない。
詳述すると、本実施形態の操舵状態判定部61には、操舵トルクτ、操舵角θs、操舵速度ωs、及び車両のヨーレイトγが入力されるようになっている。そして、操舵状態判定部61は、入力されるこれらの各状態量に基づいて、ステアリング操作の有無を判定し、その判定結果を判定信号Sdとして出力する。
具体的には、図7のフローチャートに示すように、本実施形態の操舵状態判定部61は、入力される上記各状態量の値(絶対値)と該各状態量に対応する所定の閾値との比較に基づいてステアリング操作の有無を判定する(ステップ201〜ステップ204)。即ち、操舵状態判定部61は、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θ0以下であるか(ステップ201)、操舵速度ωsの絶対値が所定の閾値ω0以下であるか(ステップ202)、操舵トルクτの絶対値が所定の閾値τ0以下であるか(ステップ203)、及びヨーレイトγの絶対値が所定の閾値γ0以下であるか(ステップ204)について判定する。そして、これら入力される各状態量の全てが、その対応する閾値以下である場合(|θs|≦θ0、且つ|ωs|≦ω0、且つ|τ|≦τ0、且つ|γ|≦γ0、即ちステップ201〜ステップ204:全てYES)には、ステアリング操作が行われていないものと判定する(ステップ205)。
そして、本実施形態の操舵状態判定部61は、入力される各状態量の少なくとも何れか一つが、その対応する閾値を超える場合(|θs|>θ0、|ωs|>ω0、|τ|>τ0、又は|γ|>γ0、ステップ201〜ステップ204:何れかがNO)には、ステアリング操作があるものと判定する(ステップ206)。
図6に示すように、本実施形態では、電流指令値演算部45には、切替制御部62が設けられており、強化ゲイン演算部52の出力する強化ゲインK(及び「0」)は、この切替制御部62を介して、上記加算器53に出力されるようになっている。また、上記操舵状態判定部61の出力する判定信号Sdは、車速Vとともに、切替制御部62に入力される。そして、切替制御部62は、入力される判定信号Sd及び車速Vに基づいて、その上記加算器53(図2参照)に対する出力を、強化ゲインKと「0」との間で切り替える切替制御を実行する。
具体的には、図8のフローチャートに示すように、切替制御部62は、先ず入力される車速Vが所定の速度領域(V1≦V≦V2)にあるか否かを判定し(ステップ301)、当該速度領域にある場合(ステップ301:YES)には、入力される判定信号Sdが、ステアリング操作がある旨を示すものであるか否かを判定する(ステップ302)。そして、判定信号Sdが、ステアリング操作は無い旨を示すものである場合(ステップ302:NO)には、加算器53に対して強化ゲインKを出力する(ステップ303)。一方、上記ステップ201において、車速Vが所定の速度領域にはないと判定した場合(V<V1,又はV>V2、ステップ201:NO)、又はステップ202において、判定信号Sdが、ステアリング操作がある旨を示すものである場合(ステップ302:YES)には、強化ゲインKを出力せず、その出力を「0」とする(ステップ304)。
そして、これにより、本実施形態のマイコン41では、車速Vが上記所定の速度領域(V1≦V≦V2)にある場合においてのみ、トルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)が実行され、且つステアリング操作時には、当該トルク慣性補償制御の強化は実行されないように構成されている。
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)マイコン41は、運転者によるステアリング操作の有無を判定する判定手段としての操舵状態判定部61を備える。そして、マイコン41は、ステアリング操作時には、トルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)を実行しない。
即ち、トルク慣性補償制御の強化は、操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)を伴う場合がある。しかしながら、上記構成のように、ステアリング操作時には実行しない、即ち非ステアリング操作時に限定して行うことで、当該トルク慣性補償制御の強化に伴う操舵フィーリングの悪化を回避することができる。
(2)マイコン41は、車速Vが上記所定の速度領域(V1≦V≦V2)にある場合においてのみ、トルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)を実行する。
即ち、操舵系に生ずる振動の振幅は、転舵輪12を支承するサスペンションの振動特性に依存し、当該サスペンションに共振が発生する特定の速度領域(V1≦V≦V2)において増幅される。従って、操舵系の振動が最も顕著となる速度領域に限定してトルク慣性補償制御の強化を実行することにより、当該補償制御に伴う操舵フィーリングの悪化を効果的に回避することができる。
(第3の実施形態)
以下、本発明を具体化した第3の実施形態を図面に従って説明する。
尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、逆入力応力に起因する振動の抑制制御の態様のみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
本実施形態のマイコン41は、現在、車両が走行中の路面(走行路面)が不整路であるか否かを判定する不整路判定手段としての機能を有している。そして、不整路であると判定された場合には、上記第1の実施形態と同様に、その操舵トルク微分値dτに基づく補償成分であるトルク慣性補償量Iti*を増大する。
即ち、不整路走行時には、転舵輪12に逆入力応力が印加される頻度が高く、それに伴う操舵系の振動が生ずる蓋然性も極めて高いものとなる。この点を踏まえ、本実施形態では、このような場合、予め上記トルク慣性補償制御を強化する。そして、これにより、当該逆入力応力の印加に起因する振動の発生を効果的に抑制する構成となっている。
詳述すると、本実施形態のマイコン41では、車輪速V_w(を示す信号)が入力されるようになっている。そして、上記走行路面が不整路であるか否かの判定は、その車輪速V_wについての周波数解析に基づいて行われる。
具体的には、本実施形態の特定周波数抽出部51には、上記第1の実施形態における操舵系の状態を示す信号としてのピニオン角θpに代えて、車輪速V_wが入力される。そして、特定周波数抽出部51は、その車輪速V_wから、不整路面走行時に増大する特定の周波数成分(高周波成分)を抽出し、その実効値であるパワースペクトルSpを強化ゲイン演算部52へと出力する(図2参照)。
即ち、図9のフローチャートに示すように、本実施形態の特定周波数抽出部51は、入力される車輪速V_w(ステップ401)について、ハイパスフィルタ処理を実行し、不整路面走行時に対応する高周波数成分を抽出する(ステップ402)。次に、特定周波数抽出部51は、RMS(Root Means square:平均自乗平方根)演算により、上記ステップ402において抽出された周波数成分の実効値を求める(ステップ403)。そして、ローパスフィルタ処理を実行し(ステップ404)、当該ローパスフィルタ処理した後の値をパワースペクトルSpとして出力する(ステップ405)。
そして、そのパワースペクトルSpに基づいて強化ゲインKが演算される、つまり、不整路走行時であることを示す周波数成分の実効値が大きいほど、より大きな強化ゲインKが演算されることにより(図5参照)、トルク慣性補償量Iti*の増大、即ち、そのトルク慣性補償制御の強化が行われる構成となっている。尚、この場合において、図5中の各閾値Sth1,閾値Sth2については、その判定対象の変更に対応した最適化がなされるべきことはいうまでもない。
(第4の実施形態)
以下、本発明を具体化した第4の実施形態を図面に従って説明する。
尚、本実施形態と上記第3の実施形態との主たる相違点は、不整路判定の態様のみである。このため、説明の便宜上、第4の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
本実施形態のマイコン41は、走行路面について画像処理を実行することにより、当該走行路表面の起伏を検知する。そして、その起伏の状態に基づいて、当該走行路面が不整路であるか否かを判定し、不整路であると判定した場合には、上記第3の実施形態と同様、そのトルク慣性補償制御を強化することにより、上記逆入力応力の印加により生ずる振動の抑制を図る構成となっている。
詳述すると、図10に示すように、本実施形態のマイコン41は、画像処理演算部71を備えており、車載カメラ70により撮影された路面画像は、この画像処理演算部71に入力される。そして、画像処理演算部71は、その路面画像を画像処理することにより、走行路表面の起伏を検知し、その不整度合いを示す路面起伏係数αを強化ゲイン演算部72に出力する。尚、本実施形態では、走行路の不整度合いが高い、即ち起伏が大きく、より荒れた路面である場合ほど、より大きな値を有する路面起伏係数αが出力されるようになっている。
図11に示すように、本実施形態の強化ゲイン演算部72は、路面起伏係数αと強化ゲインKとが関連付けられたマップ72aを有しており、同マップ72aにおいて、強化ゲインKは、該路面起伏係数αが大きいほど大となるように設定されている。そして、強化ゲイン演算部72は、入力される路面起伏係数αを、このマップ72aに参照することにより、当該路面起伏係数αの値が大きいほどより大きな値を有する強化ゲインKを演算する。即ち、これにより、補正後のトルク慣性補償量Iti**を大とし、トルク慣性補償制御の強化を図る構成となっている。
(第5の実施形態)
以下、本発明を具体化した第5の実施形態を図面に従って説明する。
尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、逆入力応力に起因する振動の抑制制御の態様のみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
さて、上述のように、トルク慣性補償制御には、振動抑制機能がある反面、操舵フィーリングの悪化(所謂切り始めの「抜け感」)、或いは制御の不安定化(振動)等といった弊害がある。そして、その傾向は、アシストトルクの立ち上がりが過大となりやすい操舵トルク微分値dτの絶対値が比較的小さな領域において、より顕著なものとなる。そのため、こうしたトルク慣性補償制御を行うEPSでは、その操舵トルク微分値dτに基づく補償成分、即ちトルク慣性補償量Iti*の演算において、操舵トルク微分値dτの絶対値が所定範囲内にある場合には、当該トルク慣性補償量Iti*が「ゼロ」となる所謂不感帯が設定されたものがある。
しかしながら、上記第1の実施形態において詳述したトルク慣性補償制御の強化時においては、その不感帯の存在が、当該補償制御の効果をも阻害してしまう可能性がある。即ち操舵トルク微分値dτが不感帯に相当する値にある場合には、強化ゲインKの如何に関わらず、トルク慣性補償量Iti*はゼロである。従って、このような場合には、当該補償制御の効果が発揮されず、十分な振動抑制が図られないおそれがある(例えば、ステアリングに細かな振動が伝わるような状態となる等)。
この点を踏まえ、本実施形態では、通常時におけるトルク慣性補償量Iti*の演算では不感帯が設定される。そして、上記のようなトルク慣性補償制御の強化時においては、その不感帯を廃した状態でトルク慣性補償量Iti*を演算する。
詳述すると、図12に示すように、本実施形態のトルク慣性補償制御部65は(図2参照、電流指令値演算部45内)、操舵トルク微分値dτと基礎補償量εti(εti´)とが関連付けられた二種類のマップ66,67を備えており、マップ66には、操舵トルク微分値dτの絶対値が「τ1」以下の範囲(−τ1≦τ≦τ1)に不感帯が設定されている。そして、本実施形態のトルク慣性補償制御部65は、トルク慣性補償制御の強化の有無により、これら二つのマップ66,67を切り替えて、そのトルク慣性補償量Iti*の演算に用いる構成となっている。
具体的には、本実施形態では、上記のような不感帯が設定されたマップ66に基づき演算された基礎補償量εti、及び不感帯が設定されていないマップ67に基づき演算された基礎補償量εti´は、ともに切替制御部68に入力される。また、この切替制御部68には、強化ゲイン演算部52の出力する強化ゲインK(図2参照)が入力されるようになっており、同切替制御部68は、その強化ゲインKの値が「0」である場合には、マップ66に基づき演算された基礎補償量εtiを出力し、その値が「0以外」である場合には、マップ67に基づき演算された基礎補償量εti´を出力する。即ち、通常時には、不感帯が設定されたマップ66に基づき演算された基礎補償量εtiが出力され、トルク慣性補償制御の強化時には、不感帯が設定されていないマップ67に基づき演算された基礎補償量εti´が出力される。そして、本実施形態のトルク慣性補償制御部65は、その切替制御部68が出力する基礎補償量εti又はεtiに、マップ69に基づき演算された補間係数Aを乗ずることにより、トルク慣性補償量Iti*を演算する構成となっている。
以上、本実施形態によれば、トルク慣性補償制御の強化時には、通常、その補償成分であるトルク慣性補償量Iti*がゼロとなる範囲、即ち操舵トルク微分値dτ(の絶対値)が小さな範囲においても、当該トルク慣性補償制御の効果を活かすことができる。その結果、より効果的に振動を抑制することができるようになる。
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、ラック軸5にアシスト力を付与する所謂ラック型、或いはピニオンシャフト10にアシスト力を付与する所謂ピニオン型のEPSに適用してもよい。
・上記各実施形態では、逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動に対応する周波数成分の実効値であるパワースペクトルSpに応じた強化ゲインK(K´)を演算し、当該強化ゲインK´をトルク慣性補償量Iti*に乗算することにより、トルク慣性補償制御を強化することとした。しかし、これに限らず、例えば、より直接的に、パワースペクトルSpが所定の閾値以上である否かを判定する構成としてもよく、トルク慣性補償量Iti*についても、例えば、よりステップ的に(ラジカルに)変化させる構成としてもよい。
・上記第4の実施形態では、走行路面について画像処理を実行することにより、当該走行路表面の起伏を検知する構成とした。しかし、これに限らず、図13に示すように、マイコン41にレーダ探知演算部74を設け、車載レーダ73により検出された路面情報についてレーダ探知を行うことにより、走行路表面の起伏を検知する。そして、上記第4の実施形態同様、そのレーダ探知により検知された路面状態に基づき判定される不整度合いを路面起伏係数αとして強化ゲイン演算部72に出力することにより、トルク慣性補償制御の強化を図る構成としてもよい。このような構成としても上記第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
・上記第2の実施形態では、判定手段としての操舵状態判定部61は、操舵トルクτ、操舵角θs、操舵速度ωs、及び車両のヨーレイトγに基づいて、ステアリング操作の有無を判定することとした(図7参照)。しかし、ステアリング操作の有無に関する判定方法は、これに限るものではなく、操舵トルクτ、操舵角θs、操舵速度ωs、及びヨーレイトγの組み合わせは任意に変更してもよく、また、その他の状態量を用いて行うこととしてもよい。
・上記第2の実施形態では、車速Vが所定の速度領域(V1≦V≦V2)にある場合、且つ非ステアリング操作時にのみトルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)が実行されることとした(図8参照)。しかし、これに限らず、車速に関する制限(ステップ301)、又は操舵状態に関する制限(ステップ302)の何れかを廃した構成としてもよい。
・更に、上記第1及び第2の実施形態では、逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動に対応する周波数成分の実効値であるパワースペクトルSpを算出し、当該パワースペクトルSpが所定の閾値以上である場合に、トルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)を実行することとした。しかし、これに限らず、例えば、図14のフローチャートに示すように、各状態量の取得後(ステップ501)、車速Vが所定の速度領域(V1≦V≦V2)にあるか否かを判定する(ステップ502)。尚、この場合における所定の速度領域は、上述のように車両のサスペンションに共振が発生し操舵系の振動が増幅される速度領域に設定される。そして、当該速度領域にある場合(ステップ502:YES)には、トルク慣性補償制御の強化(トルク慣性補償量Iti*の増大)を実行し(ステップ503)、当該速度領域にない場合(ステップ502:NO)には、通常制御とする(ステップ504)構成としてもよい。このような構成としても、逆入力応力の印加により生ずる操舵系の振動を抑制することができる。そして、特定の周波数成分の抽出、及びその実効値の算出を行わないため、その演算負荷が小さいという利点がある。
・更に、図15のフローチャートに示すように、上記第2の実施形態と同様の操舵状態に関する制限(ステップ603)を付加した構成としてもよい。このような構成とすることで、より効果的に、トルク慣性補償制御の強化に伴う操舵フィーリングの悪化を回避することができるようになる。
尚、図15のフローチャートにおけるステップ601,ステップ602の処理は、図14のフローチャートにおけるステップ501,ステップ502の処理と同一であり、ステップ604,ステップ605の処理は、ステップ503,ステップ504の処理と同一である。このため、説明の便宜上、その説明は省略する。
・上記第1及び第2の実施形態では、操舵系の状態を示す信号として、当該操舵系を構成するピニオンシャフト10の回転角を示すピニオン角θpを用いたが、これに限らず、ステアリング2側の回転角である操舵角θs(ハンドル角)や、トルクセンサ31により検出される操舵トルクτを用いてもよい。尚、周波数解析におけるピニオン角θp、操舵角θs、操舵トルクτの位置づけは、瞬間値ではなく、連続信号としての位置付けであることはいうまでもない。また、これは、上記第3の実施形態における車輪速V_wについても同様である。
・上記第5の実施形態は、上記第1の実施形態の構成を基礎として具体化したが、これに限らず、上記第2〜第4の実施形態、及び上記各別例に示されるようなトルク慣性補償制御の強化により振動抑制を図る構成であれば、どのようなものに適用してもよい。
電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。 第1の実施形態におけるEPSの制御ブロック図。 トルク慣性補償制御部の制御ブロック図。 特定周波数抽出の処理手順を示すフローチャート。 強化ゲイン演算部の概略構成図。 第2の実施形態におけるEPSの制御ブロック図。 操舵状態判定の処理手順を示すフローチャート。 強化ゲインの出力に関する切替制御の処理手順を示すフローチャート。 第3の実施形態における特定周波数抽出の処理手順を示すフローチャート。 第4の実施形態におけるEPSの制御ブロック図。 第4の実施形態における強化ゲイン演算部の概略構成図。 第5の実施形態におけるトルク慣性補償制御部の制御ブロック図。 別例のEPSの制御ブロック図。 別例の振動抑制制御の態様を示すフローチャート。 別例の振動抑制制御の態様を示すフローチャート。
符号の説明
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、8…コラムシャフト、9…インターミディエイトシャフト、10…ピニオンシャフト、12…転舵輪、21…モータ、22…EPSアクチュエータ、23…ECU、31…トルクセンサ、35…車速センサ、41…マイコン、42…駆動回路、45…電流指令値演算部、46…モータ制御信号出力部、47…基本アシスト制御部、48…トルク慣性補償制御部、51…特定周波数抽出部、52,72…強化ゲイン演算部、61…操舵状態判定部、62…切替制御部、70…車載カメラ、71…画像処理演算部、73…車載レーダ、74…レーダ探知演算部、Iq*…電流指令値、Ias*…基本アシスト制御量、Iti*,Iti**…トルク慣性補償量、θp…ピニオン角、Sp…パワースペクトル、Sth1,Sth2…閾値、K,K´…強化ゲイン、τ…操舵トルク、τ0…閾値、dτ…操舵トルク微分値、θs…操舵角、θ0…閾値、γ…ヨーレイト、γ0…閾値、ωs…操舵角、ω0…閾値、V…車速、Sd…判定信号、V_w…車輪速、α…路面起伏係数。

Claims (10)

  1. モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与すべく設けられた操舵力補助装置と、前記操舵系の状態を示す信号に基づいて前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、基本アシスト成分に、操舵トルクの微分値に基づく補償成分を重畳することにより、前記操舵力補助装置に発生させるべき目標アシスト力を演算する電動パワーステアリング装置であって、
    前記操舵系の状態を示す信号から、逆入力応力の印加に基づき前記操舵系に生じた振動に対応する特定の周波数成分を抽出可能な特定周波数抽出手段を備え、
    前記制御手段は、抽出された前記特定の周波数成分の実効値が所定の閾値以上である場合には、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させること、
    を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記制御手段は、前記実効値が大きいほど、前記補償成分を大とすること、
    を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記制御手段は、車速が所定の速度領域にある場合においてのみ、前記補償成分を増大させること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  4. モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与すべく設けられた操舵力補助装置と、前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、基本アシスト成分に、操舵トルクの微分値に基づく補償成分を重畳することにより、前記操舵力補助装置に発生させるべき目標アシスト力を演算する電動パワーステアリング装置であって、
    前記制御手段は、車速が所定の速度領域にある場合には、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  5. 請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
    ステアリング操作の有無を判定する判定手段を備え、
    前記制御手段は、ステアリング操作時には、前記補償成分の増大を行わないこと、
    を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  6. モータを駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与すべく設けられた操舵力補助装置と、前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、基本アシスト成分に、操舵トルクの微分値に基づく補償成分を重畳することにより、前記操舵力補助装置に発生させるべき目標アシスト力を演算する電動パワーステアリング装置であって、
    走行路面が不整路であるか否かを判定する不整路判定手段を備え、
    前記制御手段は、前記不整路であると判定された場合には、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  7. 請求項6に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記不整路であるか否かの判定は、車輪速を示す信号についての周波数解析に基づき行われること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  8. 請求項6に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記不整路であるか否かの判定は、前記走行路面の画像処理に基づき行われること、
    を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  9. 請求項6に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記不整路であるか否かの判定は、前記走行路面のレーダ探知に基づき行われること、
    を特徴とする電動パワーステアリング装置。
  10. 請求項1〜請求項9の何れか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分の演算においては、前記微分値の絶対値が所定範囲内にある場合に前記補償成分がゼロとなる不感帯が設定されるものであって、
    前記制御手段は、前記操舵トルクの微分値に基づく補償成分を増大させる制御の実行時には、前記不感帯を廃すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
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