JP2008293989A - 燃料電池用電解質膜構造、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造、及び燃料電池 - Google Patents

燃料電池用電解質膜構造、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造、及び燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】セパレータ間、およびセパレータと高分子電解質膜との間を確実且つ容易にシールすることができる燃料電池用電解質膜構造、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造、および燃料電池の提供。
【解決手段】高分子電解質膜63を一対の電極層71,71で挟んでなる電解質膜−電極接合体と、前記電解質膜−電極接合体を挟持する、ガス流路35,41を有した一対のセパレータ30,36とを備え、前記電解質膜−電極接合体の周縁部と前記一対のセパレータ30,36との間に、前記高分子電解質膜63と前記一対のセパレータ30,36との間および前記一対のセパレータ30,36間をシールするためのシール構造が設けられている高分子電解質型燃料電池において、前記シール構造が、前記周縁部を覆うようにして挟持する弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下の枠体20と、前記枠体と前記一対のセパレータとの間に配置された弾性率が0MPaより大きく200MPa以下の弾性体50,55とを備えている。
【選択図】図17

Description

本発明は、特に燃料電池用電解質膜の周縁部に配されているシール構造が改良された燃料電池用電解質膜構造、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造、およびその燃料電池用電解質膜−電極接合体構造を備えた燃料電池に関する。
高分子電解質型燃料電池は、高分子電解質膜であるイオン交換膜の一方の面に燃料ガスを、他方の面に空気等の酸化剤ガスをそれぞれ暴露し、イオン交換膜を介した化学反応によって水を合成し、これによって生じる反応エネルギーを電気的に取り出すことを基本原理としている。
このような燃料電池の基本発電素子は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜と、高分子電解質膜の両面に形成され、白金族金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする一対の触媒層(アノード触媒層およびカソード触媒層)と、この一対の触媒層を挟んで位置する通気性および電子伝導性を併せ持つ、主に炭素繊維から成るガス拡散電極とから構成されている。この基本発電素子はMEA(membrane-electrode-assembly:電解質膜−電極接合体)と呼ばれている。電極に供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスが外にリークしたり、二種類のガスが混合したりしないように、電極の周囲には高分子電解質膜を挟んでガスケットが配置される。このガスケットとMEAとは通常熱圧着法により一体化される。
このような燃料電池の基本構造は、燃料ガス流路が設けられたアノードセパレータと空気ガス流路が設けられたカソードセパレータとによって、ガスケットおよびMEAを挟むことにより構成されている。
通常セパレータには、燃料ガスおよび酸化剤ガスならびに冷却水を各セパレータに分岐してその分岐先を直接セパレータ板の溝につなぐための各一対(場合により複数対)の貫通孔(マニフォルド)が設けられている。この構造により、例えば燃料ガスであれば、燃料ガス供給マニフォルドからアノードセパレータの燃料ガス流路に分岐され、その燃料ガス流路を流れる過程でMEAにおける電池反応に伴い消費される。このときの余剰の燃料ガスは燃料ガス排気マニフォルドに廃棄される。これは酸化剤ガスについても同様である。
燃料電池は、発電と同時に発熱するので、電池を良好な温度状態に維持するために、冷却水等で冷却する必要がある。そのため、通常、1〜3セル毎に、セパレータ背面に冷却水流路を設けて冷却部とする。これらのMEA、セパレータ板、および冷却部を交互に重ねて積層し、その積層体を集電板および絶縁板を介して端板で挟み、締結ボルトで両端から固定したことより得られるのが一般的な積層燃料電池の構造である。この積層燃料電池は通常単にスタックと呼ばれている。
図1は従来のスタックの構成を示す斜視図であり、図2は図1のA−A線矢視図である。図1および図2においては、説明の便宜上、スタックの積層構造が一部分解されている。また、図3は従来のスタックが備えるカソードセパレータの空気流路パターンの一例を、図4は同じくアノードセパレータの水素流路パターンの一例をそれぞれ示す平面図である。さらに、図5は図3に示すカソードセパレータおよび図4に示すアノードセパレータに適合するMEAおよびガスケットの構成を示す平面図であり、図6は図5のB−B線矢視図である。
図1および図2に示すように、長方形状のアノードセパレータ1およびカソードセパレータ2の両端部には、水素マニフォルド3、水マニフォルド4、および空気マニフォルド5が形成されている。これらのアノードセパレータ1およびカソードセパレータ2はOリング(水冷面シール部材)8を介して圧接されている。そして、アノードセパレータ1のカソードセパレータ2と接している側、およびカソードセパレータ2のアノードセパレータ1と接している側にはそれぞれ冷却水流路9が形成されている。また、アノードセパレータ1のカソードセパレータ2から離れた側には空気流路10が、カソードセパレータ2のアノードセパレータ1から離れた側には水素流路11がそれぞれ形成されている。なお、これらの空気流路10および水素流路11のパターンの一例が図3および図4にそれぞれ示されている。
図5および図6を併せて参照すると、以上のように構成されたアノードセパレータ1およびカソードセパレータ2から構成される積層体の間には、イオン交換膜12と、そのイオン交換膜12の両面に形成されたアノード触媒層13およびカソード触媒層14と、これらのアノード触媒層13およびカソード触媒層14を挟むようにして設けられたガス拡散電極7とから構成されるMEA15が配置されている。また、ガス拡散電極7に供給される水素および空気が外にリークしたり、これらが混合したりしないように、ガス拡散電極7の周囲にはイオン交換膜12の外縁部を挟んでガスケット6が設けられている。前述したように、このようなMEA15とガスケット6とは熱圧着法により一体化されている。
前述したような燃料電池におけるガスシールにおける重要な問題は、ガスのクロスリーク、すなわち燃料ガスと酸化剤ガスとがシールの不全によって混合する現象が生じることである。このような現象は燃料電池のシール構造と密接な関係が有る。図3および図4に示したように、流路がマニフォルドに直接に接続される形態の場合にそのような関係が認められる(例えば、特許文献1を参照。)。このような場合、その構造から明らかなように、MEAの外縁部に位置するガスケットは、この流路部分では片側のセパレータからしか支持されない。従って、ガスのマニフォルドの近傍においては、ガスケットが導電性セパレータ板の流路側へ垂れ込むことによって、リークパスが2箇所で生じる。1つは、片持ち構造となるガスケットが、セパレータの流路内に撓みこみ、その結果対面のセパレータ板との間に隙間ができることによるリークパスである。他の1つは、通常ガスケットは電解質膜に貼りあわせて形成されるが、通常電解質膜が変性フッ素樹脂であることから、両者の接合強度ははなはだ弱いものであるために、前述したようにガスケットが変形した場合に電解質膜とガスケットとが剥離することによって生じるリークパスである。
このクロスリークは燃料電池の機能上極めて有害である。例えば1セルのマニフォルド近傍において生じた前記リークパスによって、酸化剤ガスマニフォルドに燃料ガスが漏洩した場合を考える。この場合、燃料電池の構造上、ガスマニフォルドは全てのセルで共用されているために、全セルに供給される酸化性ガスが燃料ガスを含むこととなる。その結果として、全セルにおいて電位が大幅に低下することはもとより、本来電池反応によって消費される燃料ガスが、空気極側で酸化剤ガスと触媒燃焼を起こして高分子電解質膜にダメージを与えることになる。その結果、最終的に最も痛みが激しい電解質膜を有するセルにおいて両極ガスが膜を貫通して混合され、電池の破壊に至る事態が生じ得る。
このような事情に鑑み、これまでに種々のクロスリーク防止法が考案されてきたが、これらはもっぱらセパレータ側の形状の工夫によってなされてきた(例えば、特許文献2を参照。)。
図7はそのような工夫がなされた従来例のカソードセパレータの構成の一部を示す平面図であり、図8は図7のZ−Z線矢視図である。図7および図8に示すように、カソードセパレータ2の水素マニフォルド3近傍の水素流路11に別ピースのブリッジ部材11Aを嵌めこむことによりガスケットを支持する工法がもっとも簡便で一般的に用いられている。
これに類する考え方として、例えば図9および図10に示すように、セパレータ水冷面を使って各セルの背面からガス流路を立ち上げ、マニフォルド近傍ではガスケットが全面支持されるような形態、いわゆるサブマリン方式がある(例えば、特許文献3を参照。)。
また、単一の材料によるガスケット封止構造を用いることによってクロスリークを防止するような提案は多くされている(例えば、特許文献4,特許文献5,特許文献6を参照。)。
特許第2711018号公報 特開2002−203578号公報 特開2002−83614号公報 特表平7−501417号公報 特開平8−45517号公報 特表平8−507403号公報
しかしながら、図7及び図8を参照して説明した工法では1セルにつき燃料ガス側および酸化剤ガス側の各二箇所にこの処置が必要となる。したがって、数百セルを積層する必要があるような高分子電解質型燃料電池においては、組立精度の観点、または組立自体の煩雑さから、量産工法としてはとりえない方法である。
また、前述したサブマリン方式は、クロスリークの根絶という意味では極めて優れた構造であるが、スタックの積層構造上、必ず1セルに付き1枚の水冷面を必要とすることから、体積が大きくなる(体積電力密度の低下をもたらす)という課題がある。また、図示したような小さい貫通孔を有する形状のセパレータが成形技術的に困難であって、安価な成形セパレータが使用できず、コスト低減が困難であるといった課題を抱えている。
従って、最も一般的な形態のセパレータを用いる場合には、ガスケット自体に、撓みを起こさないための剛性およびシール部材としての充分な弾性を兼備する必要がある。しかし、シール性に優れた弾性の高い材料は剛性が乏しく、上述の垂れ込みの問題が解決せず、また機械的耐力に乏しく、クリープしやすいという問題がある。逆に、寸法精度または機械的特性に優れた材料はシール性が殆ど期待できない。すなわち、前述したような単一の材料によるガスケット封止構造は、相反する両特性を満たすための材料的な制約が大きく、その実用的な実施が困難であるという課題があった。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、セパレータ間、およびセパレータと燃料電池用電解質膜との間を確実且つ容易にシールすることができる燃料電池用電解質膜構造、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造、およびその燃料電池用電解質膜−電極接合体構造を備えた燃料電池を提供することにある。
前述した課題を解決するために、本発明に係る燃料電池用高分子電解質膜構造は、燃料電池用電解質膜と、開口部を有し、その内周縁部にて、前記燃料電池用電解質膜の周縁部を覆うようにして挟持するようにして配置される矩形の枠体と、前記枠体の周縁部を覆う熱可塑性エラストマーからなる弾性体とを備え、前記枠体は、弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下であり、前記弾性体は、弾性率が0MPaより大きく200MPa以下であり、前記枠体と前記弾性体とが共通の可塑性成分を有するように構成されている。
前記発明に係る燃料電池要電解質膜構造において、前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、外周縁部であることが望ましい。また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜構造において、前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は内周縁部であることが望ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜構造において、前記枠体にはマニフォルドが形成されており、前記枠体のマニフォルドの周縁部は、前記弾性体に覆われていることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜構造において、前記枠体と前記弾性体とは融着されていることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜構造において、前記弾性体は、前記枠体の表面の全面を覆うようにして配置されていることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜構造において、前記枠体が前記弾性体により投錨されていることが好ましい。
さらに、前記発明に係る燃料電池用電解質構造において、前記枠体には少なくとも一つのアンダーカットが設けられており、当該アンダーカットに前記弾性体が充填されていることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜−電極接合体構造は、燃料電池電解質膜を一対の電極層で挟んでなる燃料電池用電解質膜−電極接合体と、開口部を有し、その内周縁部にて、前記高分子電解質膜の周縁部を挟持するようにして配置される矩形の枠体と、前記枠体の周縁部を覆う熱可塑性エラストマーからなる弾性体とを備え、前記枠体は、弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下であり、前記弾性体は、弾性率が0MPaより大きく200MPa以下であり、前記枠体と前記弾性体とが共通の可塑性成分を有するように構成されている。
前記発明に係る燃料電池用電解質膜−電極接合体構造において、前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、外周縁部であることが好ましい。また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜−電極接合体構造において、前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、内周縁部であることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜−電極接合体構造において、前記枠体にはマニフォルドが形成されており、前記枠体のマニフォルドの周縁部は、前記弾性体に覆われていることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜−電極接合体構造において、前記弾性体と前記枠体とは融着されていることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜−電極接合体構造において、前記枠体の表面の全面を覆うようにして配置されていることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池用電解質膜−電極接合体構造において、前記枠体が前記弾性体により投錨されていることが好ましい。
さらに、前記発明に係る燃料電池用電解質膜−電極接合体構造において、前記枠体には少なくとも一つのアンダーカットが設けられており、当該アンダーカットに前記弾性体が充填されていることが好ましい。
また、本発明に係る燃料電池は、燃料電池用電解質膜を一対の電極層で挟んでなる燃料電池用電解質膜−電極接合体と、前記燃料電池用電解質膜−電極接合体を挟持する、ガス流路を有した一対のセパレータと開口部を有し、その内周縁部にて、前記高分子電解質膜の周縁部を挟持するようにして配置される矩形の枠体と、前記枠体の周縁部を覆う熱可塑性エラストマーからなる弾性体とを備え、前記枠体は、弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下であり、前記弾性体は、弾性率が0MPaより大きく200MPa以下であり、前記枠体と前記弾性体とが共通の可塑性成分を有するように構成されている。
前記発明に係る燃料電池において、前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、外周縁部であることが好ましい。また、前記発明に係る燃料電池において、前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、内周縁部であることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池において、前記枠体にはマニフォルドが形成されており、前記枠体のマニフォルドの周縁部は、前記弾性体に覆われていることが好ましい。
また、前記発明に係る燃料電池において、前記弾性体と前記枠体とは融着されていることが好ましい。また、前記発明に係る燃料電池において、前記弾性体は、前記枠体の表面の全体を覆うようにして配置されていることが好ましい。また、前記発明に係る燃料電池において、前記枠体が前記弾性体により投錨されていることが好ましい。
さらに、前記発明に係る燃料電池において、前記枠体には少なくとも一つのアンダーカットが設けられており、当該アンダーカットに前記弾性体が充填されていることが好ましい。
また、本発明に係る燃料電池は、燃料電池用電解質膜を一対の電極層で挟んでなる燃料電池用電解質膜−電極接合体と、前記燃料電池用電解質膜−電極接合体を挟持する、ガス流路を有した一対のセパレータとを備え、前記燃料電池用電解質膜−電極接合体を挟持する、ガスセパレータとの間に、前記燃料電池用電解質膜と前記一対のセパレータとの間及び前記一対のセパレータ間をシールするためのシール構造が設けられている燃料電池において、前記シール構造は、弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下の第1の枠体及び第2の枠体と、弾性率が0Paより大きく200MPa以下である熱可塑性エラストマーからなる弾性体とを備え、前記枠体と前記弾性体とが共通の可塑性成分を有しており、前記第1の枠体と一方の前記セパレータとの間、前記第2の枠体と他方の前記セパレータとの間、および前記第1の枠体と前記第2の枠体との間に前記弾性体が配置され、前記第1の枠体と前記第2の枠体との間に配置されている弾性体が前記周縁部を覆うようにして挟持している。ここで、前記弾性体は、前記第1の枠体および前記第2の枠体の表面の全面を覆うようにして配置されていることが好ましい。
本発明の燃料電池用電解質膜構造、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造、およびその燃料電池用電解質膜−電極接合体構造を備えた燃料電池は、セパレータ間、およびセパレータと燃料電池用電解質膜との間を確実且つ容易にシールすることができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る高分子電解質型燃料電池は、高分子電解質膜の周縁部に、当該周縁部を継ぎ目無く覆うようにして挟持する高剛性の枠体を形成してこれを電解質膜構造とし、この電解質膜構造を、弾性体を介してセパレータで挟持してシール構造を形成することにより、ガスのクロスリークを防止することができるものである。なお、このような高剛性の枠体を形成する最も簡便な方法は、高分子電解質膜の周縁部を高剛性の樹脂で封着被覆することである。すなわち、高分子電解質膜をインサート部品としたインサート成型を行うことにより、このような枠体を容易に製造することができる。
ここで、実用的な締結荷重でスタックを組立てるために、弾性体の弾性率は200MPa以下であることが望ましい。これは、高分子電解質形燃料電池の場合、その平面的な構造上各セルを封止するシールラインの総長が長くなるためである。例えば、家庭定置形用(電極面積200cm2内外)のセルの場合、シールラインの総長は概ね2m程度となり、車載用(電極面積1000cm2内外)の場合では形状にもよるが10m以上になることがある。このようにシールラインの総長が長い場合に、電極に加えられる荷重を含む数トン以下の締結荷重でスタックを組み立てるためには、シールラインに許容される線荷重が概ね10N/mm以下となる必要がある。そして、この程度の線荷重の場合においてセパレータその他の構成部材の厚みばらつきを吸収する締め代(概ね0.2〜0.3mm)を与えるには、シール部の形状を工夫しても弾性率が200MPaより大きい材料を弾性体として採用したのではスタックを組み立てることができない。そのため、前述したように、本実施の形態で用いられる弾性体の弾性率は0MPaより大きく200MPa以下であることが望ましい。
なお、弾性率200MPaはゴム硬度のデュロメータ硬度Dスケール50程度に相当する。そのため、一般にゴムまたはエラストマーとして流通しているデュロメータ硬度Aスケールの材料は当然この制約を満たしている。一方、例えばシール材料として一般的に用いられているPTFEの場合、弾性率が500MPa程度であるため、本実施の形態で用いられる弾性体としては不適当である。
本実施の形態においては、弾性体、枠体、およびセパレータがそれぞれ別部材であるため、弾性体の製造プロセスに制約は無く、しかも弾性体はゴムシート、Oリング、その他適宜適切な形状を取りうる。しかし、弾性体の弾性率が高ければ高いほどシールラインの幅を狭く取る必要が生じるため、形状的制約が厳しくなる。
以上のような弾性体と接する枠体の材料としては次のようなものが望ましい。この枠体は、反応場である高分子電解質膜に接するため、吸水により寸法変化および化学的な劣化の起こりにくい化学的安定性を備える必要がある。これに加えて、枠体は、流路部での垂れ込みが生じないように、弾性率が大きく、荷重たわみ温度が高いことが必要である。また、通常の燃料電池用セパレータの流路幅が1〜2mm程度であり、枠体に許容される厚みが概ね1mm以下程度であることを前提とした場合、前述した線荷重(10N/mm)を受けたときに、撓み変位量を前述した締め代の10%以内に抑えることが望ましい。このような観点から、枠体の材料の弾性率は少なくとも2000MPa以上であることが望ましい。
また、電池の運転温度が通常90℃までであることを考慮した場合、枠体の撓み荷重温度は120℃以上であることが好ましい。より具体的には、樹脂材料としては、化学的安定性の観点から非晶性樹脂ではなく結晶性樹脂が好ましく、その中でも機械的強度が大きく耐熱性が高い、いわゆるスーパーエンプラグレードのものが好適である。したがって、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)等は数千から数万MPaの弾性率と、150度以上の撓み荷重温度を有しており、好適な材料である。また、汎用樹脂でも、例えばグラスフィラーが充填されたポリプロピレン(GFPP)などは、非充填のPP(弾性率1000〜1500MPa)の数倍の弾性率を有し、しかも150度近い高い撓み荷重温度を有しており、好適な材料となる。
また、後述するように樹脂に比して弾性率が大きい金属その他をインサートして枠体を製造する方法は好ましいものであり、金属のなかでも最も弾性率の高い鋼鉄のそれは2000000MPa程度である。
以上より、枠体の材料の弾性率としては2000MPa以上2000000MPa以下であることが望ましい。
以下、本実施の形態に即した実施例について説明する。
[実施例1]
図11は、本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のアノード側の面の構成を示す平面図である。また図12は、同じく枠体のカソード側の面の構成を示す平面図である。
図11および図12に示すように、枠体20の中央部には矩形状の開口部26が設けられている。この開口部26よりも所定値だけ大きい矩形状のMEA25が後述するようにして枠体20に挟持されている。また、枠体20の周縁部には空気マニフォルド21、水素マニフォルド22、水マニフォルド23、およびボルト孔24が適宜形成されている。
この枠体20は、トムソン型により140mm角の形状に打ち抜かれた高分子電解質膜(Dupont社のNaphion117、50μm厚)をインサート部品として、180トン高速射出成形機によって、外形の寸法が200mm×180mmとなり、開口部26の寸法が124mm角となるように成形されている。また、この枠体20は、0.8mmの基準肉厚部の両面に高さ0.2mmで頂点角60度の二条の後述するビード(シールリブ)を有するように成形されている。
本実施例において枠体20のインサート成形は二重成形法によった。すなわち、図19(a)に示すように、まず枠体の半分(第1成形部61)のみを成形し、その後図19(b)に示すように高分子電解質膜63をインサートする。そして、図19(c)に示すように同じ樹脂で残り半分(第2成形部62)を成形する。図19(a)に示すように、第1成形部61において、インサート部品(高分子電解質膜63)と接する領域の全周に高さ0.2mm、幅0.5mm、ピッチ1mmの凹部64を設けておく。この場合、第2成形部62を重層したときに、インサート部品である高分子電解質膜63の周縁部が樹脂で融着封止され、かつ射出厚によってその高分子電解質膜63は第1成形部61の凹部64に沿って変形する。これにより、高分子電解質膜63が、枠体の内周部に滑って抜けることがなく、強固に枠体に支持されることになる。ただし、この図19以外の図面においては、便宜上、高分子電解質膜63の周縁部が凹凸を有している点を省略し、簡略化した記載としている。
以上のように、本実施例では第1成形部61を作製した後にこの第1成形部61を別の金型に入れてインサート成形を行ったが、量産の観点から、スライド金型または回転金型を用いることにより、一つの金型内で連続して成形を行うことも可能である。なお、枠体20の材料としてガラスフィラー添加PPS(大日本インキ株式会社DIC-PPS FZ1140-B2)を用い、成形条件として射出温度を310度、金型温度を135度、射出圧力を140MPa、射出速度を560mmとすることにより、充填不足なく良好に成形することができた。
なお、本明細書および特許請求の範囲では、このようにして得られた高分子電解質膜63と枠体20とを備える構造を高分子電解質膜構造と呼び、その高分子電解質膜構造を構成する高分子電解質膜63の両面に後述するようにして電極層が形成された構造を高分子電解質膜−電極接合体構造と呼ぶ。
図11および図12に示した枠体20の両面にはセパレータがそれぞれ配置される。図13は、本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のアノード側の面に圧接されるアノードセパレータの構成を示す平面図である。また図14は、同じく枠体のカソード側の面に圧接されるカソードセパレータの構成を示す平面図である。
図13に示すように、アノードセパレータ30の中央部には、所定のパターンで形成された水素流路35が形成されている。また、アノードセパレータ30の周縁部には、図11に示した枠体20に形成された空気マニフォルド21、水素マニフォルド22、水マニフォルド23、およびボルト孔24と対応した位置に、空気マニフォルド31、水素マニフォルド32、水マニフォルド33、およびボルト孔34がそれぞれ形成されている。
一方、図14に示すように、カソードセパレータ36の中央部には、所定のパターンで形成された空気流路41が形成されている。また、カソードセパレータ36の周縁部には、図12に示した枠体20に形成された空気マニフォルド21、水素マニフォルド22、水マニフォルド23、およびボルト孔24と対応した位置に、空気マニフォルド37、水素マニフォルド38、水マニフォルド39、およびボルト孔40がそれぞれ形成されている。
これらのアノードセパレータ30およびカソードセパレータ36は、東海カーボン株式会社製グラッシーカーボン(t=3mm)を材料として用い、切削機械加工により作製した。なお、後述するゴムシートを受け入れるために、アノードセパレータ30およびカソードセパレータ36のゴムシートと接する領域には0.7mmのザグリ加工が施されている。
前述した枠体20と、アノードセパレータ30およびカソードセパレータ36とは、弾性体であるゴムシートを介してそれぞれ圧接される。図15は、本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体とアノードセパレータとの間に配置されるゴムシートの構成を示す平面図である。また図16は、同じく枠体とカソードセパレータとの間に配置されるゴムシートの構成を示す平面図である。
図15に示すように、アノード側のゴムシート50の中央部には、図11に示す枠体20に形成された矩形状の開口部26および水素マニフォルド22に対応した領域に開口部52が形成されている。また、ゴムシート50の周縁部には、図11に示した枠体20に形成された空気マニフォルド21、水マニフォルド23、およびボルト孔24と対応した位置に、空気マニフォルド51、水マニフォルド53、およびボルト孔54がそれぞれ形成されている。
一方、図16に示すように、カソード側のゴムシート55の中央部には、図12に示す枠体20に形成された矩形状の開口部26および空気マニフォルド21に対応した領域に開口部56が形成されている。また、ゴムシート55の周縁部には、図12に示した枠体20に形成された水素マニフォルド22、水マニフォルド23、およびボルト孔24と対応した位置に、水素マニフォルド57、水マニフォルド58、およびボルト孔59がそれぞれ形成されている。
これらのゴムシート50,55は、厚み0.6mmのバイトンゴムシート(ゴム硬度55度、藤倉ゴム株式会社製)を用い、枠体20のカソード側およびアノード側のそれぞれの面に形成されたビード部と圧接するように、図15および図16を参照して前述したような形状に打ちぬいたものを使用した。
このように本実施例では、ゴムシートを介して枠体とセパレータとが固定されているが、ゴムシート以外の弾性体を用いても構わない。この弾性体としては、特に成形セパレータの低い面精度を補償する観点から、上記の線荷重(10N/mm)で0.2mm程度以上変位可能であることが要求され、弾性率は0MPaより大きく200MPa以下程度であることが必要である。
また、この弾性体は高分子電解質膜には接しないが、常に通常70℃以上90℃以下の加湿ガスに暴露されることになるため、耐熱水性は必須である。また、電池触媒に悪影響のある溶出物、特に硫黄、ハロゲン等触媒毒となる物質が出ないことが必須であって、加硫ゴムの場合には、その加硫方法に特に注意を要する。したがって、好ましい材料としてはEPDM、フッ素ゴム等の耐熱水性の高いゴム材料であって、かつ硫黄架橋ではなく、上記のような物質を含有しない過酸化物架橋、または電子線架橋タイプのものが好適である。また、上記材料をソフトセグメントとして熱可塑性樹脂材料をハードセグメントとしたポリオレフィン系エラストマー(TPO)、フッ素系エラストマー等のTPE(THERMO-PLASTIC-ELASTOMER)が適用可能である。
図17は本発明の実施例1の高分子電解質型燃料電池の水マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図であり、図18は同じく空気マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。これらの図17および図18はそれぞれ、図12のZ−Z線、Y−Y線に相当する部位のスタックの断面図となる。なお、図17および図18においては、説明の便宜上、アノードセパレータ30およびカソードセパレータ36に設けられている冷却水流路および冷却水面のシール構造については省略する。しかしながら、これらの冷却水流路および冷却水面のシール構造は従来技術と同様に形成されている。
次に、MEAの構成について説明する。図17および図18に示すように、高分子電解質膜63の両面には触媒層70が形成されている。この触媒層70は次のようにして形成されている。まず、比表面積800m2/g、DBP吸油量360ml/100gのケッチェンブラックEC(ケッチェンブラック・インターナショナル社製ファーネスブラック)に、白金を重量比1:1の割合で担持させた。次に、この触媒粉末10gに、水35gおよび水素イオン伝導性高分子電解質のアルコール分散液(旭硝子株式会社製、9%FSS)59gを混合し、超音波攪拌機を用いて分散させて、触媒層インクを作製した。そして、この触媒層インクを、ポリプロピレンフィルム(東レ株式会社製トレファン50−2500)に塗工し、乾燥させることにより触媒層70を形成した。得られた触媒層70を120mm×120mmに切断し、前述した成形品の高分子電解質膜63の露出部分、すなわち枠体20と接していない部分の両面に、温度135℃、圧力32kgf/cm2の条件で転写した。
以上のようにして触媒層70を高分子電解質膜63の両面に形成した後、それらの触媒層70上に、123mm角のガス拡散電極71(ジャパンゴアテックス製カーベルCF400、厚み400ミクロン)を配置する。
図17および図18に示すように高分子電解質膜63の周縁部を挟持している枠体20は、ゴムシート50,55を介してアノードセパレータ30,カソードセパレータ36で挟持される。以上のようにして作製された12個のセルが締結治具を介して締結力850kgfで締結されることにより12セルスタックが組立てられる。
以上のようにして組み立てられた12セルスタックを、以下の特性評価試験に供した。
(1)常用クロスリーク試験
前述した12セルスタックの水素マニフォルドに、コージェネレーション用燃料電池の常用圧力の3倍である圧力30kPaの窒素ガス供給源を接続し、カソード側から漏れ出てくるガス量を計測するクロスリーク試験。
(2)限界クロスリーク試験
前述した上記12セルスタックの水素マニフォルドへの供給ガス圧を漸次増大させ、カソード側から漏れ出てきた時点での供給元圧を測定するクロスリーク試験。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は610kPaであった。
このように、常用リーク試験ではリークは観測されず、また電池開放電圧(OCV)が0.99V程度であり、良好な特性を示した。また、限界クロスリーク試験の結果は、ガス供給系統の突発的な動作、例えばバルブ開閉に対するセルの挙動を知るためのものである。前述した試験結果は、当該セルスタックが供給ガス圧の高い用途(車載用の供給元圧は180kPa程度。ただし、両極間の差圧は最大でもこの数分の一である)に適合するものとなることを示している。
本実施例では、セパレータと枠体との間に設ける弾性体をシート状としているが、特にシート状に限られるわけではなく、例えば複数本のOリング、角リング等の線状のものでもよい。またセパレータに設ける弾性体を受け入れる領域も、例えばOリングを用いるような場合にはこれに適合する溝というように、その形状は適宜のものを採用し得る。弾性体としてOリングを用いる場合の要部断面構造を図35に示す。図35に示す例では、アノードセパレータ30およびカソードセパレータ36に溝101が設けられ、その溝101にOリング102が配置されている。
なお、例えば弾性体にゴムシートを用いるような場合には、枠体またはセパレータ表面にビード(シールリブ)を設けるなど(本実例では枠体に設けてある)、適宜シール性の確保または締結力低減のための構造が設けられることが望ましい。
(実施の形態2)
実施の形態1では枠体とセパレータとの間に弾性体を配置した。これに対し、実施の形態2は、弾性のあるセパレータを用いることによって実施の形態1におけるゴムシートのような弾性体が不要である高分子電解質型燃料電池である。具体的には、膨張黒鉛などに樹脂を配合してプレス成形したような成形セパレータ(弾性率は150MPa程度)を用いることにより、セパレータ自身に弾性を持たせる。この場合、枠体に高強度(望ましくは弾性率10000MPa以上)の材料を用い、例えば枠体にビード(3角リブ)を設けてセパレータに食い込むような構造とすることにより、スタック組み立て時の締結力を低減しながら必要な変位量を確保することができるなどの、材料的、形状的な工夫を施すことが好ましい。
以下、本実施の形態に即した実施例について説明する。
[実施例2]
図20は本発明の実施例2に係る高分子電解質型燃料電池の水マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図であり、図21は同じく空気マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。なお、図20および図21はそれぞれ、実施の形態1における図17および図18に示す場合と同様の部位のスタックの断面図である。また、図20では、図17と同様に、説明の便宜上、アノードセパレータ30およびカソードセパレータ36に設けられている冷却水流路および冷却水面のシール構造については省略されている。
図20および図21に示すように高分子電解質膜63の周縁部を挟持している枠体20は、膨張黒鉛からなるアノードセパレータ30,カソードセパレータ36で挟持されている。例えば、このようなアノードセパレータ30およびカソードセパレータ36としては、膨張黒鉛に樹脂を配合してプレス成形した膨張黒鉛成形セパレータ(日立化成株式会社製)などを利用することができる。
図20および図21に示すように、実施例1の場合と同様に、枠体20の両面にはビード(3 角リブ)65が設けられており、これにより弾性のあるアノードセパレータ30,カソードセパレータ36に食い込むような構造となっている。これにより、比較的小さい締結力により締結されたとしても、十分なシール効果を実現することができる。また、この場合、枠体20は比較的高強度(望ましくは弾性率10000MPa以上)の材質からなることが好ましい。
このようにして作製された12個のセルが締結治具を介して締結力1400kgfで締結されることにより12セルスタックが組み立てられる。
以上のようにして組み立てられた12セルスタックについて、本発明者等は、実施例1の場合と同様に常用クロスリーク試験および限界クロスリーク試験を実施した。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は465kPaであった。
以上の試験の結果より明らかなように、セパレータ自体が弾性体である場合には、特に枠体とセパレータとの間に弾性体を挟む必要なく、実使用上充分なシール性を得ることが可能であり、構造の簡素化および組立の簡易化が図られた。
(実施の形態3)
実施の形態3は、実施の形態1で述べたセパレータと弾性体とをインサート成型によって一体化することにより得られる高分子電解質型燃料電池である。
なお、カーボンを主成分とするセパレータは、フッ素樹脂、EPDM等のエラストマーとは基本的に接着しない。このため、成型後に生じた収縮によりセパレータと弾性体とが剥離されることを防止するため、後述するような留め溝を設ける等の形状的工夫が必要となる。
以下、本実施の形態に即した実施例について説明する。
[実施例3]
図36は、本発明の実施例3に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のカソード側の面に圧接されるカソードセパレータの要部の構成を示す平面図である。また、図37は、実施の形態1における図17に示す場合と同様の部位の構成を示す部分断面図である。この図37は、図36のZ−Z線に想到する部位のスタックの断面図となる。なお、図37では、図17と同様に、説明の便宜上、アノードセパレータ30およびカソードセパレータ36に設けられている冷却水流路および冷却水面のシール構造については省略されている。
実施例3では、図36に示すようなシールライン溝に複数の留め溝111が形成された形態の、カーボン粉とフェノール系熱硬化性樹脂を主成分とする熱間プレス成型セパレータ(日清紡績株式会社試作品)を用いた。この成型品に対し、フッ素エラストマー(バイトンGDL 硬度55度、DuPont-Dow Elastomer製)を主成分とし、微量の界面活性物質および架橋剤を含有するエラストマーブレンドを、熱間トランスファ成型により両面に成型した。この場合の成型条件は、一次加硫180℃×5分、二次加硫195℃×8時間とした。
この熱処理により、エラストマー(図36における符号112)は架橋がなされて弾性を有するようになるが、それと共に体積が縮小する。そのため、留め溝が形成されていない場合には、体積の縮小によりエラストマー(弾性体)がセパレータから剥離し、満足な成型品を得ることが出来ない。これに対し、実施例3の場合のように留め溝111を形成することにより上記の温度条件でもエラストマー(弾性体)112がセパレータから剥離することを防止することができるので、歩留まりよく良好な成型品を得ることが可能になる。
このようにして作製された12個のセルが締結治具を介して締結力1400kgfで締結されることにより12セルスタックが組み立てられる。
以上のようにして組み立てられた12セルスタックについて、本発明者等は、実施例1の場合と同様に常用クロスリーク試験および限界クロスリーク試験を実施した。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は428kPaであった。
(実施の形態4)
実施の形態4に係る高分子電解質型燃料電池は、実施の形態1で述べた枠体と弾性体とを一体化することにより得られる。すなわち、実施の形態1で述べた電解質膜をインサート部品とした枠体のインサート成型の後工程として、電解質膜がインサートされた枠体をインサート部品として、弾性体をインサート成型する。
なお、実施の形態4から実施の形態6までは、弾性体が熱可塑性エラストマーであることを前提としている。電解質膜および熱可塑性を有する枠体の耐熱性の観点から、二次加硫が必要な熱架橋形エラストマーの適用が困難であるからである。
その反面、実施の形態4では剥離防止による信頼性および歩留まりの向上という点でも、接着性がない物質を接着させるための界面活性剤を使用しないために化学的清浄性が高いという点でも、またタクトが短く生産性が優れると言う観点からも、最も好ましい形態をとることが可能である。本実施の形態の場合、インサート部品である枠体と熱可塑性エラストマーとが共通の可塑性成分を有している。そして、成型時に枠体の界面が熱により溶融して熱可塑性エラストマーと融合し、冷却された後に両者が融着接合することになる。この工法は、狭義の二色成型工法である。例えば、GFPPを枠体の材料とした場合では、ハードセグメントにポリプロピレンを含むTPOを用いることで理想的な二色成形が可能となる。また、同様にGFPA(ガラスフィラー添加ポリアミド)を枠体材料とした場合には、ポリアミド系エラストマーが適合する。
以下、本実施の形態に即した実施例について説明する。
[実施例4]
図22は、本発明の実施例4に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のアノード側の面の構成を示す平面図である。また図23は、同じく枠体のカソード側の面の構成を示す平面図である。なお、実施例4においても、各マニフォルド、ボルト孔などが実施の形態1の場合と同様に設けられているため、同一符号を付して説明を省略する。
枠体20には、空気マニフォルド21、水素マニフォルド22、水マニフォルド23、ボルト孔24、および開口部26に沿って溝82が形成されている。図22および図23に示すように、この溝82にはシール部として機能する弾性体81が嵌め込まれている。なお、図中の符号83はこの弾性体81を溝82に流し込む際に利用されるゲートを示している。
図24は本発明の実施例4の高分子電解質型燃料電池の水マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図であり、図25は同じく空気マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。これらの図24および図25はそれぞれ、図23のZ−Z線、Y−Y線に相当する部位のスタックの断面図となる。なお、図24および図25においては、説明の便宜上、アノードセパレータ30およびカソードセパレータ36に設けられている冷却水流路および冷却水面のシール構造については省略する。しかしながら、これらの冷却水流路および冷却水面のシール構造は従来技術と同様である。
図24および図25に示すように、枠体20の両面の適宜の位置には溝82が形成されている。また、アノードセパレータ30およびカソードセパレータ36の枠体20に接している面の溝82と対応する位置には、溝82よりも幅が広い溝84が形成されている。これらの溝82と溝84との間に形成された領域内に弾性体81が配置される。
次に、以上のように構成されている本実施例の燃料電池の製造方法について説明する。なお、電池の平面的なサイズ、高分子電解質膜の材料、サイズ、使用成形機およびインサート工法の概要、触媒層の塗工方法、セパレータ材質、ならびに加工法などの基本的なプロセスは実施例1の場合と同様であるので説明を省略する。
実施例1の場合と同様の加工を高分子電解質膜63に対して施した後、グラスファイバー添加ポリプロピレン(出光石油化学株式会社製,R250G)を用いて、その両面に幅2.0mm、深さ0.3mmの二色成形用流動溝である溝82が形成された基準肉厚1.4mmの枠体20を形成した。引き続いて、これを金型から出した後、別の成形機に移し、片側肉厚0.6mmの線状のポリオレフィンエラストマーからなる弾性体(材料はサントプレーンジャパン株式会社製サントプレーン8101-55)81を成形した。なお、この場合、マニフォルド、ボルト孔を利用することにより片側から両面への成形を行うことが可能である。
このとき弾性体81の成形収縮率は15/1000であったが、一色目(枠体)と二色目(弾性体)とは強固に融着しており、二色目の成形収縮による剥離その他の不具合は観察されなかった。
不要の二色成形部分をトムソン型で切除し、実施例1と同様に12セルスタックを組み立てた。
以上のようにして組み立てられた12セルスタックについて、本発明者等は、実施例1の場合と同様に常用クロスリーク試験および限界クロスリーク試験を実施した。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は380kPaであった。
[実施例5]
実施例5は、実施例4の場合とは異なる二色成形工法により得られる高分子電解質型燃料電池である。
図26は、本発明の実施例5の高分子電解質型燃料電池が備える枠体の構成を示す部分断面図である。図26に示すように、高分子電解質膜63の周縁部を挟持している枠体20には、厚み方向の中央位置に向かって広がるようなテーパー状の溝86が形成されている。換言すれば、枠体20には、アンダーカットである溝86が形成されている。また、図26には図示されていないが、実施例4において図24を参照して前述した場合と同様に、各セパレータの枠体20に接している面の溝86と対応する位置には、溝86よりも幅が広い溝が形成されており、この溝と溝86との間に形成された領域に弾性体85が配置される。すなわち、アンダーカットである溝86に弾性体が充填されていることになる。
なお、図26においては、便宜上、MEAのうち高分子電解質膜63のみを示しており、触媒層およびガス拡散電極は省略されている。
次に、以上のように構成されている本実施例の高分子電解質型燃料電池の製造方法について説明する。なお、電池の平面的なサイズ、高分子電解質膜の材料、サイズ、使用成形機およびインサート工法の概要、触媒層の塗工方法、セパレータ材質、ならびに加工法などの基本的なプロセスは実施例1の場合と同様であるので説明を省略する。
実施例1の場合と同様の加工を高分子電解質膜63に対して施した後、EPDM添加PPS(大日本インキ株式会社、DIC-PPS-Z230)を用いて、その両面に幅2.0mm、深さ0.3mm、抜き勾配がマイナス3.5度(逆テーパー)の二色成形用流動溝である溝86が形成された基準肉厚1.4mmの枠体20を形成した。この材料にはわずかながら弾性があるため、上記抜き勾配で問題なく離型が可能であった。引き続いて、この枠体20を金型から出した後、別の成形機に移し、片側肉厚0.6mmの線状のポリオレフィンエラストマーからなる弾性体(材料はサントプレーンジャパン株式会社製サントプレーン8121-64-W233)85を成形した。この材料は通常、コーナーモールドグレードと呼ばれるTPEで、自動車の窓枠シール材などに用いられ、とくにEPDMとの接着性がよいグレードである。PPSからなる枠体20はラミネーションによってその表層にEPDMが出る傾向があるために、上記抜き勾配も相俟って、本来接着性が期待できないPPSおよびTPEにおいても実用上支障ない剥離強度を有していた。
枠体に若干の弾性があるアロイを用いることは、特に前述したように一色目の成形品を別の金型に移して二色目を成形する工程においても利点があった。一色目成形品を型締めする際の型クリアランス(インサートクリアランス)は、成形品を数10ミクロン程度型で圧縮する程度が好ましいが、剛性の高い成形品の場合には材料的にはもろいため、一色目成形品の出来厚みおよび二色目金型のクリアランスに特に厳密な管理が要求される。しかしながら枠体にアロイを用いた場合、この条件が若干緩和され管理が容易になるため、歩留まりの向上が図られた。
(実施の形態5)
実施の形態4においては、基本的に枠体と弾性体とが共通成分を有しており、成形によって両者が融着することを前提としている。しかしながら、特に電池の大面積化に伴い、枠体および弾性体に相当の流動性が必要な場合、化学的安定性その他の要請をも考慮に入れると、上記のような理想的な材料選定が不可能なことがある。実施の形態5は、そのような場合にも枠体と弾性体とが剥離する等の不具合が起きないように工夫されたものである。
具体的に、実施の形態5では、まず高分子電解質膜を枠体材料でインサート成形し、その後この枠体―電解質膜複合体を弾性体材料で被覆成形する。これにより、枠体材料および弾性体材料に融着可能な共通成分がなくとも両者が剥離されることを回避することができる。
例えば図27および図28を参照して後述するように、枠体の表面の全面を弾性体で被覆するような構造は二色目樹脂の成形収縮によって枠体全体が締めつけられて保持されるため、剥離の恐れがない。また、剥離の防止と言う意味では、図38に示すように枠体のシールラインに相当する部分に貫通穴121を設け、二色目である弾性体90の表裏面がこの貫通穴121を介して接続する形態(投錨)が有効である。
または実施例5において図26を参照して前述した場合と同様にして、溝部に逆勾配(アンダーカット。抜き勾配がマイナス。)131を設けてその溝内に二色目を流し込むことにより、二色目の剥離を防止する方法なども取りうる(図39を参照)。
枠体20の最内周部の電解質膜63を保持している部分には前述したような投錨が不可能であるため、この部分の剥離防止にはこのようなアンダーカット131を設けることが望ましい。図39に示したようなアンダーカット131の場合、アンギュラーピンを用いて容易に形成することが可能である。
以上に説明したような被覆、投錨、アンダーカットを適宜組み合わせて成型品および金型を設計することにより、融着しない材料同士を形状効果によって剥離することなく二色成型することが可能となる。
以下、本実施の形態に即した実施例について説明する。
[実施例6]
図27は本発明の実施例6に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体および弾性体の構成を示す平面図である。また、図28は、図27のZ−Z線矢視図である。なお、実施例6においても、枠体および弾性体には各マニフォルド、ボルト孔などが実施例1の場合と同様に設けられているため、同一符号を付して説明を省略する(便宜上枠体に形成されている各マニフォルド、ボルト孔の符号のみを付してある)。
図27および図28に示すように、高分子電解質膜63の周縁部を挟持している枠体20の全面を覆うように弾性体90が設けられている。この弾性体90には、実施例1の場合に枠体に形成されていたビードと同様のビード91が形成されている。なお、図28においては、便宜上、MEA25のうち高分子電解質膜63のみを示しており、触媒層およびガス拡散電極は省略している。
本実施例において、枠体20となる一色目の材料にはガラスフィラー添加PPS(大日本インキ株式会社製、DIC-PPS FZ1140-B2)を用い、弾性体90となる二色目の材料にはポリオレフィンエラストマー(サントプレーンジャパン株式会社製、サントプレーン8101-55)を用いた。ここで、枠体20の肉厚を0.75mmとし、弾性体90の基準肉厚を0.25mmとした。また、弾性体90の両面に設けられているビード91の高さを0.2mmとした。
成形時は、実施例2と同様の手法で、各マニフォルドの中心からサブランナーを用いて、マニフォルド端面を基点として両面に流動させる手法を取った。図27および図28に示されているのは不要部切除後のものである。
PPSとポリオレフィンとは融着不能な材料である。したがって、例えば実施例2で枠体に通常のPPSを用いた場合には二色目の剥離が避けられない。しかしながら、本実施例の場合では枠体が弾性体によって被覆されている構成であるため、枠体と弾性体との剥離その他の不具合は観測されなかった。
本実施例においても、実施例1と同様にして12セルスタックを組み立てた。そして、その12セルスタックについて、本発明者等は、実施例1の場合と同様に常用クロスリーク試験および限界クロスリーク試験を実施した。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は475kPaであった。このように、本実施例においても高いシール効果が確認された。
(実施の形態6)
実施の形態6は、実施の形態4、5の場合と異なり、別ピースの枠体一対に高分子電解質膜を挟持したものをインサート部品とし、一括して弾性体材料でインサート成形することにより得られるものである。この工法は、枠体として適用可能な樹脂材料に二重成形性が乏しい場合、または、必要な金型温度が高分子電解質膜のインサート成形(通常金型温度130度以下で行われる)の許容範囲を超え、枠体材料による高分子電解質膜のインサート成形が困難な場合などに有効である。すなわち、例えば特に薄肉成形のために型温度を上げたい場合、または後収縮を起こしやすい材料(通常、金型温度が高いほどこの度合いは小さい)を適用したい場合などに有効である。この工法を用いることにより材料の選定範囲が広がるため好ましい。また、この工法では枠体材料は樹脂材料に限定されることはなく、金属板、セラミック板等が適用可能となる。従って、電池の大型化に伴って枠体が大面積化したことにより薄肉成型が困難となるような場合等であってもこの工法を用いることにより本発明を実施することが可能となる。
以下、本実施の形態に即した実施例について説明する。
[実施例7]
図29は本発明の実施例7に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体および弾性体の構成を示す平面図である。また、図30は、図29のZ−Z線矢視図である。なお、実施例7においても、枠体および弾性体には各マニフォルド、ボルト孔などが実施例1の場合と同様に設けられているため、同一符号を付して説明を省略する(便宜上枠体に形成されている各マニフォルド、ボルト孔の符号のみを付してある)。
図29および図30に示すように、枠体20は、枠体20aとその枠体20aの下面に圧接されている枠体20bとから構成されている。そして、この枠体20aと枠体20bとによって高分子電解質膜63の周縁部が挟持されている。
図30に示すように、枠体20aの内周部、すなわち高分子電解質膜63の周縁部を挟持している側の端部には、上方に向かって所定の角度(図30では30°)広がるような傾斜部92aが設けられている。同様にして、枠体20bの内周部、すなわち高分子電解質膜63の周縁部を挟持している側の端部には、下方に向かって所定の角度(図30では30°)広がるような傾斜部92bが設けられている。
実施例6の場合と同様に、枠体20の全面を覆うように弾性体90が設けられており、この弾性体90にはビード91が形成されている。なお、図30においては、便宜上、MEA25のうち高分子電解質膜63のみを示しており、触媒層およびガス拡散電極は省略している。
本実施例において、枠体20(枠体20aおよび20b)となる一色目の材料にはガラスフィラー添加液晶ポリマー(ポリプラスチックス株式会社製、VECTRA A130、弾性率15000MPa)を用い、弾性体90となる二色目の材料にはポリオレフィンエラストマー(サントプレーンジャパン株式会社製、サントプレーン8101-55)を用いた。ここで、枠体20aおよび20bの肉厚を0.25mm(すなわち枠体20の肉厚は0.5mm)とし、弾性体90の基準肉厚を0.25mmとした。また、弾性体90の両面に設けられているビードの高さを0.2mmとした。
前述したように、枠体20aおよび20bには傾斜部92aおよび92bがそれぞれ設けられており、このアンダーカットによって二色成形時の弾性体90と枠体20との剥離が完全に防止された。
なお、成形時は、実施例2と同様の手法で、各マニフォルドの中心からサブランナーを用いて、マニフォルド端面を基点として両面に流動させる手法を取った。図29および図30に示されているのは不要部切除後のものである。
本実施例においても、実施例1と同様にして12セルスタックを組み立てた。そして、その12セルスタックについて、本発明者等は、実施例1の場合と同様に常用クロスリーク試験および限界クロスリーク試験を実施した。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は322kPaであった。このように、本実施例においても高いシール効果が確認された。
[実施例8]
実施例7では、前述したように、枠体20となる一色目の材料としてガラスフィラー添加液晶ポリマーを採用したが、他のものを採用することも可能である。そこで、実施例8として、液晶ポリマーに換えて、プレス打ちぬきした後フッ素コート処理を行った厚み0.25mmのSUS316金属板を用いた場合についても、常用クロスリーク試験および限界クロスリーク試験を実施した。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は785kPaであった。このように、本実施例においても高いシール効果が確認された。
(実施の形態7)
実施例7および実施例8において、弾性体の成形においても、選定材料の成形に必要な金型温度が、高分子電解質膜にダメージを与えるおそれがある温度域である場合がある。実施の形態7では、このような場合を考慮している。具体的には、別ピース型の枠体の表裏にわたるよう、部分的に貫通または表面の全面を被覆する等の様式で弾性体を成形し、この一対の弾性体で高分子電解質膜の周縁部を挟持して、セル締結力により高分子電解質膜の周囲およびセパレータ/ガスケット間のシールを行う。したがって、一の枠体とセパレータとの間、他の枠体とセパレータとの間、および一の枠体と他の枠体との間のそれぞれに弾性体が配置されることになる。本実施の形態の構成を必要とする場合としては、例えば車載用に比して長期運転が必要なコージェネレーション用スタックを製作する場合であって、シール材の長期的安定性の観点からフッ素系エラストマー(その好ましい金型温度は一般的に150度超)を選定したいとき等がある。この場合、弾性体の垂れ込み防止の観点から枠体材料は極力機械的強度(特に弾性率)が高いことが必要で、GF(ガラスフィラー入り)のスーパーエンプラ等が好ましい。
以下、本実施の形態に即した実施例について説明する。
[実施例9]
図31は本発明の実施例9に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体および弾性体の構成を示す平面図である。また、図32は、図31のZ−Z線矢視図であって、(a)、(b)は当該構成を作製する手順を示す断面図である。なお、実施例9においても、枠体および弾性体には各マニフォルド、ボルト孔などが実施例1の場合と同様に設けられているため、同一符号を付して説明を省略する(便宜上枠体に形成されている各マニフォルド、ボルト孔の符号のみを付してある)。
図32(a)および(b)に示すように、本実施例の枠体および弾性体は二層構造になっている。すなわち、枠体20aおよびその枠体20aの全面を覆うようにして設けられている弾性体90aと、枠体20bおよびその枠体20bの全面を覆うようにして設けられている弾性体90bとが積層されることにより構成されている。これらの弾性体90aおよび90bには、実施の形態1の場合に枠体に形成されていたビードと同様のビード91aおよび91bがそれぞれ形成されている。そして、弾性体90aおよび90bによって高分子電解質膜63の周縁部が挟持されている。なお、図32(a)および(b)においては、便宜上、MEA25のうち高分子電解質膜63のみを示しており、触媒層およびガス拡散電極は省略されている。
本実施例において、枠体20aおよび20bとなる一色目の材料にはガラスフィラー添加液晶ポリマー(ポリプラスチックス株式会社製、VECTRA B130、弾性率20000MPa)を用いて熱化塑性樹脂用の射出成形機で製作した。そして、この枠体20aおよび20bをインサート部品として、二色目(弾性体90aおよび90b)であるフッ素エラストマー(デュポンダウエラストマージャパン株式会社製、バイトンAP、ゴム硬度55度)を熱硬化性樹脂用成形機で成形した。ここで枠体20aおよび20bの肉厚を0.25mmとし、弾性体90aおよび90bの基準肉厚を0.25mm(すなわち、弾性体90の基準肉厚を0.5mm)とした。また、弾性体90aおよび90bのそれぞれに設けられているビード91aおよび91bの高さを0.2mmとした。
ここで、二色目の一次加硫時の条件は、温度が170℃、時間が4分であり、二次加硫は温度180℃で8時間としたが、この温度条件下で枠体20aおよび20bには熱に起因する形状の変化が認められなかった。
このようにして作製されたシール部材で、ホットプレス済みMEA(ジャパンゴアテックス プライメア)を挟持し、これを締結して実施例1と同様にして12セルスタックを組み立てた。そして、その12セルスタックについて、本発明者等は、実施例1の場合と同様に常用クロスリーク試験および限界クロスリーク試験を実施した。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は268kPaであった。このように、本実施の形態においても高いシール効果が確認された。
[実施例10]
本実施の形態に係るシール構造としては、図33および図34に示すものも考えられる。図33は本発明の実施例10に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体および弾性体の変形例の構成を示す平面図である。また、図34は、図33のZ−Z線矢視図であって、(a)、(b)は当該構成を作製する手順を示す断面図である。
図33および図34に示すように、枠体20aおよび20bによって、弾性体90aおよび90bが覆われている。そして、弾性体90aには枠体20aを貫通して上方へ突出したリブ93aが形成されており、そのリブ93aにはビード91aが形成されている。同様にして、弾性体90bには枠体20bを貫通して下方へ突出したリブ93bが形成されており、そのリブ93bにはビード91bが形成されている。
この変形例において、枠体20aおよび20bとなる一色目の材料にはガラスフィラー添加液晶ポリマー(ポリプラスチックス株式会社製、VECTRA B130、弾性率20000MPa)を用い、弾性体90aおよび90bとなる二色目の材料にはフッ素エラストマー(デュポンダウエラストマージャパン株式会社、バイトンAP、ゴム硬度55度)を用いた。ここで枠体20aおよび20bの肉厚を0.25mmとし、弾性体90aおよび90bの高分子電解質膜63に接する側の肉厚を0.25mmとした。また、リブ93aおよび93bの幅を2.0mm、高さを0.15mmとし、ビード91aおよび91bの高さを0.2mmとした。
ここで、二色目の一次加硫時の条件は、温度は170度、時間は4分であり、二次加硫は温度180度で8時間とした。このようにして作製されたシール部材で、ホットプレス済みMEA(ジャパンゴアテックス株式会社製、プライメア)を挟持し、これを締結して実施例1と同様にして12セルスタックを組み立てた。そして、その12セルスタックについて、本発明者等は、実施例1の場合と同様に常用クロスリーク試験および限界クロスリーク試験を実施した。
常用クロスリーク試験の結果、カソード側から漏れ出てくるガス量は0ccmであった。また、限界クロスリーク試験の結果、カソード側からガスが漏れ出てきた時点での供給元圧は332kPaであった。このように、本実施の形態においても高いシール効果が確認された。
本実施例では、実施例9に比して、高価なフッ素エラストマーの使用量がほぼ半減されており、低コスト化が達成された。
前述した各実施の形態で説明した高分子電解質型燃料電池は、製作する電池のサイズ、樹脂の流動性や成形収縮率、トータルのプロセスコスト、電池の運転条件(特に流路圧力損失と両極間の差圧)、許容されるセルピッチと可能な成形品厚み等に応じて、適宜選択される。
なお、以上の各実施の形態においては、高分子電解質型燃料電池について記述されているが、本発明はこのような高分子電解質型燃料電池に限定されるわけではない。現在、例えばガラス、セラミック等の高分子以外の材料を電解質として動作する低温(100℃以下)燃料電池が開発されている。基本的に上記温度以下であれば、熱可塑性である枠体、および高温で圧縮歪が大きくなる弾性体の両者とも適切な選択肢がある。したがって、このような低温燃料電池に本発明を適用することが可能である。
本発明の燃料電池用電解質膜構造、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造、およびその燃料電池用電解質膜−電極接合体構造を備えた燃料電池は、セパレータ間、およびセパレータと燃料電池用電解質膜との間を確実且つ容易にシールすることができ、高精度な高分子電解質型燃料電池などに有用である。
従来のスタックの構成を示す斜視図である。 図1のA−A線矢視図である。 従来のスタックが備えるカソードセパレータの空気流路パターンの一例を示す平面図である。 従来のスタックが備えるアノードセパレータの水素流路パターンの一例を示す平面図である。 図3に示すカソードセパレータおよび図4に示すアノードセパレータに適合するMEAおよびガスケットの構成を示す平面図である。 図5のB−B線矢視図である。 従来例のカソードセパレータの構成の一部を示す平面図である。 図7のZ−Z線矢視図である。 従来例のカソードセパレータの構成の一部を示す平面図である。 図9のZ−Z線矢視図である。 本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のアノード側の面の構成を示す平面図である。 本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のカソード側の面の構成を示す平面図である。 本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のアノード側の面に圧接されるアノードセパレータの構成を示す平面図である。 本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のカソード側の面に圧接されるカソードセパレータの構成を示す平面図である。 本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体とアノードセパレータとの間に配置されるゴムシートの構成を示す平面図である。 本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体とカソードセパレータとの間に配置されるゴムシートの構成を示す平面図である。 本発明の実施例1の高分子電解質型燃料電池の水マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施例1の高分子電解質型燃料電池の空気マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施例1の高分子電解質型燃料電池が備える枠体の作製手順を示す断面図である。 本発明の実施例2に係る高分子電解質型燃料電池の水マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施例2に係る高分子電解質型燃料電池の空気マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施例4に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のアノード側の面の構成を示す平面図である。 本発明の実施例4に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のカソード側の面の構成を示す平面図である。 本発明の実施例4の高分子電解質型燃料電池の水マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施例4の高分子電解質型燃料電池の空気マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施例5の高分子電解質型燃料電池が備える枠体の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施例6に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体および弾性体の構成を示す平面図である。 図27のZ−Z線矢視図である。 本発明の実施例7に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体および弾性体の構成を示す平面図である。 図29のZ−Z線矢視図である。 本発明の実施例9に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体および弾性体の構成を示す平面図である。 図31のZ−Z線矢視図であって、(a)、(b)は当該構成を作製する手順を示す断面図である。 本発明の実施例10に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体および弾性体の変形例の構成を示す平面図である。 図33のZ−Z線矢視図であって、(a)、(b)は当該構成を作製する手順を示す断面図である。 本発明の実施例1の高分子電解質型燃料電池の水マニフォルド近傍の構成の変形例を示す部分断面図である。 本発明の実施例3に係る高分子電解質型燃料電池が備える枠体のカソード側の面に圧接されるカソードセパレータの要部の構成を示す平面図である。 本発明の実施例3の高分子電解質型燃料電池の水マニフォルド近傍の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施の形態5の高分子電解質型燃料電池が備える枠体の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施の形態5の高分子電解質型燃料電池が備える枠体の構成を示す部分断面図である。
符号の説明
20 枠体
20a,20b 枠体
21 空気マニフォルド
22 水素マニフォルド
23 水マニフォルド
24 ボルト孔
25 MEA
26 開口部
30 アノードセパレータ
31 空気マニフォルド
32 水素マニフォルド
33 水マニフォルド
34 ボルト孔
35 水素流路
36 カソードセパレータ
37 空気マニフォルド
38 水素マニフォルド
39 水マニフォルド
40 ボルト孔
41 空気流路
50 ゴムシート
51 空気マニフォルド
52 開口部
53 水マニフォルド
54 ボルト孔
55 ゴムシート
56 開口部
57 水素マニフォルド
58 水マニフォルド
59 ボルト孔
61 第1成形部
62 第2成形部
63 高分子電解質膜
64 凹部
70 触媒層
71 ガス拡散電極
81 弾性体
82 溝
84 溝
85 弾性体
86 溝
90 弾性体
90a,90b 弾性体
91 ビード
91a,91b ビード
92a,92b 傾斜部
93a,93b リブ

Claims (26)

  1. 燃料電池用電解質膜と、
    開口部を有し、その内周縁部にて、前記燃料電池用電解質膜の周縁部を挟持するようにして配置される矩形の枠体と、
    前記枠体の周縁部を覆う熱可塑性エラストマーからなる弾性体とを備え、
    前記枠体は、弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下であり、
    前記弾性体は、弾性率が0MPaより大きく200MPa以下であり、
    前記枠体と前記弾性体とが共通の可塑性成分を有している、燃料電池用高分子電解質膜構造。
  2. 前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、外周縁部である、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜構造。
  3. 前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、内周縁部である、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜構造。
  4. 前記枠体にはマニフォルドが形成されており、前記枠体のマニフォルドの周縁部は、前記弾性体に覆われている、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜構造。
  5. 前記枠体と前記弾性体とは融着されている、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜構造。
  6. 前記弾性体は、前記枠体の表面の全面を覆うようにして配置されている、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜構造。
  7. 前記枠体が前記弾性体により投錨されている、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜構造。
  8. 前記枠体には少なくとも一つのアンダーカットが設けられており、当該アンダーカットに前記弾性体が充填されている、請求項1に記載の燃料電池用電解質膜構造。
  9. 燃料電池用電解質膜を一対の電極層で挟んでなる燃料電池用電解質膜−電極接合体と、
    開口部を有し、その内周縁部にて、前記高分子電解質膜の周縁部を挟持するようにして配置される矩形の枠体と、
    前記枠体の周縁部を覆う熱可塑性エラストマーからなる弾性体とを備え、
    前記枠体は、弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下であり、
    前記弾性体は、弾性率が0MPaより大きく200MPa以下であり、
    前記枠体と前記弾性体とが共通の可塑性成分を有している、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造。
  10. 前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、外周縁部である、請求項9に記載の燃料電池用電解質膜−電極接合体構造。
  11. 前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、内周縁部である、請求項9に記載の燃料電池用電解質膜−電極接合体構造。
  12. 前記枠体にはマニフォルドが形成されており、前記枠体のマニフォルドの周縁部は、前記弾性体に覆われている、請求項9に記載の燃料電池用電解質膜−電極接合体構造。
  13. 前記枠体と前記弾性体とは融着されている、請求項9に記載の燃料電池用電解質膜−電極接合体構造。
  14. 前記弾性体は、前記枠体の表面の全面を覆うようにして配置されている、請求項9に記載の燃料電池用電解質膜−電極接合体構造。
  15. 前記枠体が前記弾性体により投錨されている、請求項9に記載の燃料電池用電解質膜−電極接合体構造。
  16. 前記枠体には少なくとも一つのアンダーカットが設けられており、当該アンダーカットに前記弾性体が充填されている、請求項9に記載の燃料電池用電解質膜−電極接合体構造。
  17. 燃料電池用電解質膜を一対の電極層で挟んでなる燃料電池用電解質膜−電極接合体と、
    前記燃料電池用電解質膜−電極接合体を挟持する、ガス流路を有した一対のセパレータと
    開口部を有し、その内周縁部にて、前記高分子電解質膜の周縁部を挟持するようにして配置される矩形の枠体と、
    前記枠体の周縁部を覆う熱可塑性エラストマーからなる弾性体とを備え、
    前記枠体は、弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下であり、
    前記弾性体は、弾性率が0MPaより大きく200MPa以下であり、
    前記枠体と前記弾性体とが共通の可塑性成分を有している、燃料電池。
  18. 前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、外周縁部である、請求項17に記載の燃料電池。
  19. 前記弾性体で覆われている前記枠体の周縁部は、内周縁部である、請求項17に記載の燃料電池。
  20. 前記枠体にはマニフォルドが形成されており、前記枠体のマニフォルドの周縁部は、前記弾性体に覆われている、請求項17に記載の燃料電池。
  21. 前記弾性体と前記枠体とは融着されている、請求項17に記載の燃料電池。
  22. 前記弾性体は、前記枠体の表面の全面を覆うようにして配置されている、請求項17に記載の燃料電池。
  23. 前記枠体が前記弾性体により投錨されている、請求項17に記載の燃料電池。
  24. 前記枠体には少なくとも一つのアンダーカットが設けられており、当該アンダーカットに前記弾性体が充填されている、請求項17に記載の燃料電池。
  25. 燃料電池用電解質膜を一対の電極層で挟んでなる燃料電池用電解質膜−電極接合体と、前記燃料電池用電解質膜−電極接合体を挟持する、ガス流路を有した一対のセパレータとを備え、前記燃料電池用電解質膜の周縁部と前記一対のセパレータとの間に、前記燃料電池用電解質膜と前記一対のセパレータとの間および前記一対のセパレータ間をシールするためのシール構造が設けられている燃料電池において、
    前記シール構造は、弾性率が2000MPa以上2000000MPa以下の第1の枠体および第2の枠体と、
    弾性率が0MPaより大きく200MPa以下である熱可塑性エラストマーからなる弾性体とを備え、
    前記枠体と前記弾性体とが共通の可塑性成分を有しており、
    前記第1の枠体と一方の前記セパレータとの間、前記第2の枠体と他方の前記セパレータとの間、および前記第1の枠体と前記第2の枠体との間に前記弾性体が配置され、
    前記第1の枠体と前記第2の枠体との間に配置されている弾性体が前記周縁部を覆うようにして挟持していることを特徴とする燃料電池。
  26. 前記弾性体は、前記第1の枠体および前記第2の枠体の表面の全面を覆うようにして配置されている、請求項25に記載の燃料電池。
JP2008195740A 2003-04-02 2008-07-30 燃料電池用電解質膜構造、燃料電池用電解質膜−電極接合体構造、及び燃料電池 Expired - Fee Related JP5086200B2 (ja)

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