JP3608741B2 - 高分子電解質型燃料電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高分子電解質型燃料電池に関し、特に、電解質膜−電極接合体の周縁部に配されているガスケットと導電性セパレータ板との間のシール構造の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体高分子電解質型燃料電池の最も代表的なものは、周縁部がシール材からなるガスケットで支持された高分子電解質膜、前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード、前記電解質膜の他方の面に接合されたカソードからなる電解質膜−電極接合体(MEA)、前記MEAを挟むアノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板、並びに前記アノードおよびカソードにそれぞれ燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給するガス供給手段から構成される。この種の燃料電池における重要な問題は、ガスのクロスリークである。このガスのクロスリークは、ガスのマニホールド孔近傍において生じる。すなわち、酸化剤ガスのマニホールド孔の近傍においては、ガスケットが導電性セパレータ板の燃料ガスの通路側へ垂れ込むことに起因する。その結果、アノードから酸化剤ガスのマニホールド孔に通じるリークパスが2箇所生じる。1つは、ガスケットとセパレータ板のアノード側との剥離によるリークパスであり、他の1つは、ガスケットの垂れ込みの結果生じる電解質膜とガスケットとの剥離によるリークパスである。同様に、燃料ガスのマニホールド孔の近傍においては、ガスケットが導電性セパレータ板の酸化剤ガスの通路側へ垂れ込むことに起因するガスのリークが生じる。
【0003】
本発明者らは、この問題の解決のため、次のような提案をした。この提案は、国際公開公報WO 02/061869に記載されており、その開示はすべて参考のためここに取り入れる。すなわち、図1に示すように、電解質膜1の周縁部に複数の透孔2の配列を設け、これらの透孔を包含するように、電解質膜の周縁部にガスケットを射出成形によって一体に結合する方法である。この方法によって、ガスケットは、電解質膜の一方の面を被覆する部分と他方の面を被覆する部分とが、電解質膜の端縁を包み込む部分および前記透孔をとおして、相互に連なるから、電解質膜とガスケットとの剥離によるガスのクロスリークをなくすことができる。また、ガスケットには酸化剤ガスのマニホールド孔よりアノード側にリブを設け、このリブを、セパレータ板の対応する位置に設けた溝に嵌合することにより、ガスケットとセパレータ板のアノード側との剥離を防止しようとするものである。同様に、ガスケットに設けたリブをセパレータ板の溝に嵌合することにより、ガスケットとセパレータ板のカソード側との剥離を防止しようとするものである。上述のガスケットのリブは、セパレータ板との嵌合のほか、成形上の樹脂の流れ道としての役割を果たしている。そのため、厚みの薄い射出成形ガスケットにはリブは不可欠な構造である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記のガスケットのリブとセパレータ板の溝との嵌合によるガスリークの防止は十分果たされないことがわかった。
すなわち、射出成形法においては、成形品は必ず成形収縮を伴う。成形収縮の度合いは、成形材料や成形品の形状によって一定ではないから、これを事前に予測することは通常困難である。このため、成形収縮の度合いが予想の範囲に収まらない場合には、ガスケットのリブがセパレータ板の溝に適切に嵌合されないという問題が生じる。このため、上述のようなガスケットのリブとセパレータ板の溝とを嵌合する形態においては、理想的にはガスケットの成形を行った後、その成形収縮量を実測し、その実測値に合うようにセパレータ板の設計を行う必要が生じる。セパレータ板の主材料は、金属ないしカーボンであるため、たとえ成形セパレータ板であったとしても成形収縮は殆どないので、成形されたガスケットにセパレータ板を合わせたほうが合理的である。このとき、ガスケット材料を変更した等の理由で、成形収縮量が変わった場合に、これに対応してセパレータ板の設計を都度行わなければならないという不都合が生じる。
【0005】
次に、上述の構造においては、嵌合部以外のガスケット/セパレータ板間のシール様式が、基本的に面シール様式であることから、セパレータ板およびガスケットの両方に充分な面精度が出ていることが必要である。ところが、射出成形法によっては、必ず成形品の表面に、ゲート跡や付きだしピン跡が生じる。その高さは、金型構造や材料にもよるが、通常数十ミクロン程度である。上述の燃料電池構造において、ガスケットの基準肉厚部あるいはリブ部にゲート跡や付きだしピン跡が残ると、ガスケットの弾性がよほど高い場合を除いて、セパレータ板とガスケットとの間に隙間が生じ、ガスのクロスリークないし外部リークが発生するという問題が生じる。この問題は、特に成形セパレータ板を用いる場合に共通である。セパレータ板は、殆ど全く弾性がないため、この表面段差をすべてガスケット側で補償する必要が生じる。すなわち、ガスケットに弾性の高い材料を用いる必要が生じる。しかし、そのような弾性の高い材料は、通常機械的耐力に乏しく、クリープしやすいという問題がある。
【0006】
さらに、上述の面シールの様式では、ガスケットとセパレータ板の両者に充分な面荷重をかける必要があることから、セルスタックの締結力を必要以上に大きくしなければならないという問題がある。このため、端板、ボルト、バネなどの締結部材が必要以上に大掛かりになり、体積的にもマイナスであるという問題がある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明は、ある観点において、従来のガスケットにあるリブその他の造形は、成形性と機械強度の確保のために残しながら、従来はセパレータ板と面同士で当たっていた部位にシール用の小リブを形成する。ここに機械強度は、曲げ強度、ねじれ強度などであり、特にセパレータ板のガス流路部分へ垂れ込まないような強度が望まれる。前者のリブは、シールに直接寄与しないことから、以下これを便宜的にダミーリブと呼び、後者をシールリブと呼ぶ。
【0008】
本発明は、周縁部がガスケットで被覆された高分子電解質膜、前記電解質膜の一方の面に接合されたアノードおよび前記電解質膜の他方の面に接合されたカソードからなる電解質膜−電極接合体(以下MEAで表す。)、並びにMEAを挟むアノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板からなる単位セルを具備する高分子電解質型燃料電池に関する。
前記ガスケットおよび各セパレータ板は、それぞれ燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷却水用のマニホールド孔を有する。ガスケットは、アノードが位置する側の表面およびカソードが位置する側の表面に後述のシールリブのいずれかを少なくとも部分的に囲むダミーリブを有する。セパレータ板は、前記ダミーリブを遊合する溝を有する。ここに、ダミーリブを遊合する溝とは、幅および深さのいずれもがダミーリブの幅および高さより大きい溝をいい、ダミーリブは溝にはまるが溝に拘束されない。
【0009】
ガスケットは、アノードが位置する側の表面に、燃料ガス用マニホールド孔の一方からアノードを経て他方の燃料ガス用マニホールド孔へ至る燃料ガスの流路部分を囲むシールリブ、並びに、冷却水用マニホールド孔を囲むシールリブを有する。ガスケットは、好ましくは、アノードが位置する側の表面に、酸化剤ガス用マニホールド孔を囲むシールリブをさらに有する。
ガスケットは、さらに、カソードが位置する側の表面に、燃料ガス用マニホールド孔および冷却水用マニホールド孔を囲むシールリブを有する。ガスケットは、好ましくは、カソードが位置する側の表面に、酸化剤ガス用マニホールド孔の一方からカソードを経て他方の酸化剤ガス用マニホールド孔へ至る酸化剤ガスの流路部分を囲むシールリブを有する。
【0010】
前記のシールリブは、セルスタックの締結力により、セパレータ板に圧接されてガスシール部を構成する。
アノード側導電性セパレータ板は、アノードと対向する面側の表面に、一対の燃料ガス用マニホールド孔を連通させる燃料ガスの流路を有し、カソード側導電性セパレータ板は、カソードと対向する面側の表面に、一対の酸化剤ガス用マニホールド孔を連通させる酸化剤ガスの流路を有する。そして、これら燃料ガスおよび酸化剤ガスの流路は、それぞれガスケットの前記燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路に連通する。
【0011】
ガスケットは、基準肉厚部(リブの厚さを算入しない厚さの部分)の両面に、ダミーリブおよびシールリブが設けられる。前述の通り、ダミーリブはガスケットを薄肉に成形する場合の成形性の向上の役割をもつ。従って、前記燃料ガスおよび酸化剤ガスの流路部分を除いて、アノードおよびカソードを囲むシールリブの外側を実質的に囲むように設けるのが好ましい。さらに好ましくは、ダミーリブは、各マニホールド孔を囲み、これらが相互に連結されて、アノードおよびカソードの外側を実質的に囲んでいる。ガスケットを成形する際のゲートポイントは、このダミーリブに接続する形で設けるのが好ましい。すなわち、ピンゲートであれば、ピンポイントゲートをダミーリブ上に設けるのがよい。サイドゲートでは、ダミーリブに接続する形でゲートを設けることにより、ゲートから注入した樹脂がまずダミーリブを優先的に流れ、その後基準肉厚部やシールリブ、その他の造形を形成するように成形がなされる。ダミーリブの幅および高さは、第一義的に、成形樹脂の流動性によって決められる。ダミーリブの形状は、後述する機械強度の観点から微調整されるが、セパレータ板の厚みから勘案し、高さは基準肉厚部から0.3〜0.8mm程度が妥当である。セパレータ板の厚みは、両面にダミーリブの入る溝を切ってなお十分な機械強度を持つよう設計されるのが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の高分子電解質型燃料電池は、
(1)周縁部がシール材からなるガスケットで被覆された高分子電解質膜、前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード、および前記電解質膜の他方の面に接合されたカソードからなる電解質膜−電極接合体、並びに
(2)前記電解質膜−電極接合体を挟むアノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板
からなる単位セルを具備する高分子電解質型燃料電池であって、
(3)前記ガスケット、アノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板は、各一対の燃料ガス用マニホールド孔、酸化剤ガス用マニホールド孔、および冷却水用マニホールド孔を有し、
(4)前記ガスケットは、
(4a)アノードが位置する側の表面に、前記燃料ガス用マニホールド孔の一方からアノードを経て他方の燃料ガス用マニホールド孔へ至る燃料ガスの流路部分を囲むシールリブ、並びに、冷却水用マニホールド孔を囲むシールリブを有し、
(4b)カソードが位置する側の表面に、前記燃料ガス用マニホールド孔および冷却水用マニホールド孔それぞれを囲むシールリブを有し、
(4c)アノードが位置する側の表面およびカソードが位置する側の表面に、前記いずれかのシールリブを少なくとも部分的に囲むダミーリブを有し、
(4d)前記各ダミーリブはその高さが各シールリブのそれより大きく、
(5)前記アノード側導電性セパレータ板は、アノードと対向する面側の表面に、前記ダミーリブを遊合する溝、および前記一対の燃料ガス用マニホールド孔を連通させる燃料ガスの流路を有し、
(6)前記カソード側導電性セパレータ板は、カソードと対向する面側の表面に、前記ダミーリブを遊合する溝、および前記一対の酸化剤ガス用マニホールド孔を連通させる酸化剤ガスの流路を有し、
(7)前記セルを締結する締結圧により前記ガスケットの各シールリブが、前記導電性セパレータ板の表面に圧接されている。
【0015】
前記ガスケットは、さらに、アノードが位置する側の表面に、前記酸化剤ガス用マニホールド孔を囲むシールリブを有し、カソードが位置する側の表面に、前記酸化剤ガス用マニホールド孔の一方からカソードを経て他方の酸化剤ガス用マニホールド孔へ至る酸化剤ガスの流路部分を囲むシールリブを有することが好ましい。
【0016】
本発明の好ましい形態において、前記アノードが位置する側の表面に設けられたダミーリブは、前記燃料ガスの流路部分を囲むシールリブを実質的に囲み、前記カソードが位置する側の表面に設けられたダミーリブは、前記酸化剤ガスの流路部分を囲むシールリブを実質的に囲んでいる。
本発明のさらに好ましい形態において、前記ガスケットは、さらに、アノードが位置する側の表面に、前記酸化剤ガスのマニホールド孔および冷却水のマニホールド孔を囲む各シールリブをそれぞれ囲むダミーリブを有し、カソードが位置する側の表面に、燃料ガスのマニホールド孔および冷却水のマニホールド孔を囲む各シールリブをそれぞれ囲むダミーリブを有する。
【0017】
本発明の別の観点における高分子電解質型燃料電池は、
(1)周縁部がシール材からなるガスケットで被覆された高分子電解質膜、前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード、および前記電解質膜の他方の面に接合されたカソードからなる電解質膜−電極接合体、並びに
(2)前記電解質膜−電極接合体を挟むアノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板からなる単位セルを具備し、
(3)前記ガスケット、アノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板は、各一対の燃料ガス用マニホールド孔、酸化剤ガス用マニホールド孔、および冷却水用マニホールド孔を有し、
(4a)前記ガスケットは、アノードが位置する側の表面に、前記各マニホールド孔をそれぞれ囲むダミーリブ、前記各ダミーリブの内側において各マニホールド孔を囲むシールリブ、前記燃料ガスを囲むダミーリブのアノードに向き合う側に設けられた切欠部を含む燃料ガスの通路、アノードを囲むシールリブ、および前記燃料ガスの通路の両側にあって前記燃料ガス用マニホールド孔を囲むシールリブとアノードを囲むシールリブとを連結するシールリブを有し、
(4b)前記ガスケットは、カソードが位置する側の表面に、前記各マニホールド孔をそれぞれ囲むダミーリブ、前記各ダミーリブの内側において各マニホールド孔を囲むシールリブ、前記カソードを囲むダミーリブのカソードに向き合う側に設けられた切欠部を含む酸化剤ガスの通路、カソードを囲むシールリブ、および前記酸化剤ガスの通路の両側にあって前記酸化剤ガス用マニホールド孔を囲むシールリブとカソードを囲むシールリブとを連結するシールリブを有し、
(4c)前記各ダミーリブはその高さが各シールリブのそれより大きく、
(5)前記アノード側導電性セパレータ板は、アノードと対向する面側の表面に、前記ダミーリブを遊合する溝、および前記一対の燃料ガス用マニホールド孔を連通させる燃料ガスの流路を有し、
(6)前記カソード側導電性セパレータ板は、カソードと対向する面側の表面に、前記ダミーリブを遊合する溝、および前記一対の酸化剤ガス用マニホールド孔を連通させる酸化剤ガスの流路を有し、
(7)前記ガスケットの燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路が、それぞれアノード側導電性セパレータ板のガス流路およびカソード側導電性セパレータ板のガス流路に連通し、
(8)前記セルを締結する締結力により前記ガスケットの各シールリブが、前記燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路を除いて、前記導電性セパレータ板の表面に圧接されている。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態において、ガスケットのカソードが位置する側の表面において前記各マニホールド孔を囲む各シールリブは、アノードが位置する側の表面において各マニホールド孔を囲む各シールリブと対応する位置にあり、前記カソードを囲むシールリブは、前記アノードを囲むシールリブと対応する位置にあり、さらに、アノードが位置する側の表面には、前記酸化剤ガス用マニホールド孔を囲むシールリブとカソードを囲むシールリブとを連結するシールリブと対応する位置にシールリブを、カソードが位置する側の表面には、前記燃料ガス用マニホールド孔を囲むシールリブとアノードを囲むシールリブとを連結するシールリブと対応する位置にシールリブを、それぞれ有する。
本発明の他の好ましい実施の形態において、前記アノードが位置する側の表面において前記各マニホールド孔をそれぞれ囲むダミーリブが連なり、前記カソードが位置する側の表面において前記各マニホールド孔をそれぞれ囲むダミーリブが連なっている。
【0019】
本発明の他の好ましい実施の形態において、前記ガスケットは、前記燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路内にそれぞれ複数の補強リブを有し、前記アノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板は、それらのガス流路の出入り口近傍に前記補強リブを受け入れる凹部を有し、前記凹部で前記補強リブの頂部を支持し、前記燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路の前後にあるシールリブはセパレータ板のガス流路に対応しない部分においてセパレータ板に圧接されている。
本発明のさらに他の好ましい実施の形態において、前記シールリブの少なくとも1つが、複数条のシールリブからなる。
【0020】
本発明のガスケットに設けられるシールリブの幅、高さおよび形状は、セルスタックの締結力と必要なシール圧を勘案して決定される。シールリブの高さは、セパレータ板およびガスケットの両者のゲート跡等の高さを基準に、少なくともそれ以上の高さに決定される。シールリブの幅および断面形状は、金型加工用刃物によって決まる。例えば、ガスケット及びセパレータ板の表面に0.1mm程度のゲート跡が残る場合を想定すると、直径0.3mmのボールエンドミルを用いて、0.3mm深さの溝を金型に切った場合には、成形品には高さ0.3mm、幅0.3mmの断面が半円形のリブ(かまぼこ状リブ)が形成され、この場合の締め代は0.2mm確保される。通常、シールリブの高さは0.1〜0.5mm、幅は1mm以下であり、断面形状は矩形、半円形、三角形いずれの形状もとりうる。
【0021】
上記ガスケットに適合するセパレータ板は、幅、深さともダミーリブが完全に入る大きさの溝をもつ。溝の位置はガスケットの予想成形収縮を勘案して決定される。溝の深さは、ダミーリブ上に残るゲート跡、付きだしピン跡などを考慮して、ガスケットのダミーリブの高さより大きくし、幅はガスケットの成形収縮バラツキ(主に材料の成形収縮率の差異による)によるリブ位置のズレを吸収できる程度に大きいことが望ましい。具体的には、ダミーリブに対し、溝の深さは0.1mm程度、溝の幅は0.3mm程度大きくする。
セルを組み立てたときのガスケットのダミーリブとセパレータ板の溝との関係は、例えば、図13および図14に示されている。これより明らかなように、ガスケットの基準肉厚部およびダミーリブはセパレータ板とは接触せず、締結力は全てシールリブで受ける構造となる。このため、低いスタック締結力で高いシール圧を発生させることができるので、耐リーク特性は向上する。
【0022】
ガスケットの基準肉厚は成形性の観点から、ある程度以上薄くできないため、シールリブを設けることによって、ガスケットの実質的厚みがMEAのガス拡散層の厚みに比して大きくなる場合がある。このときには、セパレータ板のシールリブに当たる面を一段薄くすることによって対応することができる。このことは電池特性の向上のため、通常成形可能なガスケットの基準肉厚より薄いガス拡散層を使用しなければならない場合にも同様である。このように、ガスケットに対応するセパレータ板の形状と合わせて構造を工夫することにより、電極にかかる力とシールリブにかかる力は適宜補償される。
【0023】
以下に本発明の好ましい実施の形態を詳しく説明する。図2〜4に示すMEAと図9〜12に示すセパレータ板とは、大きさが異なるように表されているが、実際は同じ大きさである。
【0024】
実施の形態1
本実施の形態のMEAのアノード側の正面図を図2に、カソード側の正面図を図3にそれぞれ示す。このMEA10は、図1に示す高分子電解質膜1、その周縁部を被覆するガスケット11、高分子電解質膜1の一方の面に接合されたアノード12、および高分子電解質膜1の他方の面に接合されたカソード13から構成されている。高分子電解質膜1は、周縁部に透孔2の配列を有する。ガスケット11は、高分子電解質膜1の透孔2の部分を含む周縁部を被覆するように、射出成形によって形成したもので、膜1の一方の面を被覆する部分と他方の面を被覆する部分とは、電解質膜の端縁を包み込んでいる部分および透孔2の部分で相互に連なっていて、膜1を強固に支持している。
【0025】
ガスケット11は、各一対の燃料ガス用マニホールド孔14、酸化剤ガス用マニホールド孔15、冷却水用マニホールド孔16、およびセルを締結するボルトを貫通させるための4個の孔17を有する。
ガスケット11は、アノード12が位置する側の表面に、燃料ガス用マニホールド孔14、酸化剤用マニホールド孔15、および冷却水用マニホールド孔16をそれぞれ囲むダミーリブ21、22および23、並びに前記のダミーリブを相互に連結するダミーリブ24を有する。燃料ガス用マニホールド孔14を囲むダミーリブ21には、アノードに向き合う側に、切欠部が設けられ、この切欠部を含む燃料ガスの通路25が設けられている。この通路25には、補強リブ26が2個設けられている。ガスケット11は、酸化剤ガス用マニホールド孔15を囲むダミーリブ22の内側において酸化剤用マニホールド孔を囲むシールリブ42、冷却水用マニホールド孔16を囲むダミーリブ23の内側において冷却水用マニホールド孔を囲むシールリブ43を有する。
【0026】
ガスケット11は、さらに、アノード12が位置する側の表面に、燃料ガス用マニホールド孔14、燃料ガスの通路25、およびアノード12を含む領域を囲む燃料ガス用シールリブを有している。この燃料ガス用シールリブは、燃料ガス用マニホールド孔14を囲むシールリブ41、アノード12を囲むシールリブ44、および燃料ガスの通路25の両側に配されて前記シールリブ41と44を連結するシールリブ45によって構成されている。シールリブ41および44の通路25内に位置する部分41aおよび44aについては、後述する。
ガスケット11は、カソード13が位置する側の表面に、燃料ガス用マニホールド孔14、酸化剤用マニホールド孔15、および冷却水用マニホールド孔16をそれぞれ囲むダミーリブ31、32および33、並びに前記のダミーリブを相互に連結するダミーリブ34を有する。酸化剤ガス用マニホールド孔15を囲むダミーリブ32には、カソード13に向き合う側に、切欠部が設けられ、この切欠部を含む酸化剤ガスの通路35が設けられている。この通路35には、補強リブ36が4個設けられている。ガスケット11は、燃料ガス用マニホールド孔14を囲むダミーリブ31の内側において燃料用マニホールド孔を囲むシールリブ51、冷却水用マニホールド孔16を囲むダミーリブ33の内側において冷却水用マニホールド孔を囲むシールリブ53を有する。
【0027】
ガスケット11は、さらに、カソード13が位置する側の表面に、酸化剤ガス用マニホールド孔15、酸化剤ガスの通路35、およびカソード13を含む領域を囲む酸化剤ガス用シールリブを有している。この酸化剤ガス用シールリブは、酸化剤ガス用マニホールド孔15を囲むシールリブ52、カソード13を囲むシールリブ54、および酸化剤ガスの通路35の両側に配されて前記シールリブ52と54を連結するシールリブ55によって構成されている。シールリブ52および54の通路35内に位置する部分52aおよび54aについては、後述する。
【0028】
図面は、最も好ましい形態を示している。すなわち、アノードが位置する側において各マニホールド孔14、15および16をそれぞれ囲むダミーリブ21、22および23は、ダミーリブ24によって一体につながっている。また、カソードが位置する側において各マニホールド孔14、15および16をそれぞれ囲むダミーリブ31、32および33は、ダミーリブ34によって一体につながっている。さらに、アノードが位置する側のダミーリブ21、22、23および24は、それぞれにカソードが位置する側のダミーリブ31、32、33および34と対応する位置にある。これによって、ガスケットの基準厚みを薄くした場合にも十分な強度を保持することができる。
【0029】
アノードが位置する側において各マニホールド孔14、15および16をそれぞれ囲むシールリブ41、42および43は、それぞれにカソードが位置する側のシールリブ51、52および53と対応する位置にある。さらに、アノードが位置する側において燃料ガスの通路25の両側に配されたシールリブ45に対応させて、カソードが位置する側にシールリブ56を設け、カソードが位置する側において酸化剤ガスの通路35の両側に配されたシールリブ55に対応させて、アノードが位置する側にシールリブ46を設けている。なお、シールリブ46および56を設ける位置がダミーリブに重なるところでは、ダミーリブの方が高いので、シールリブはない。このようにアノードが位置する側のシールリブとカソードが位置する側のシールリブとをそれぞれ対応する位置に設けることにより、シールリブによるシール効果を高めることができる。
【0030】
次に、上記のMEAに組み合わせる導電性セパレータ板を説明する。
図9および図10にアノード側導電性セパレータ板60を示し、図11および図12にカソード側導電性セパレータ板80を示す。
アノード側導電性セパレータ板60は、各一対の燃料ガス用マニホールド孔64、酸化剤ガス用マニホールド孔65、冷却水用マニホールド孔66、およびセルを締結するボルトを貫通させるための4個の孔67を有する。セパレータ板60は、アノードと対向する面に、一対の燃料ガス用マニホールド孔64を連絡するように、燃料ガスの流路68を形成する溝を有する。この例では、ガス流路68は、並行する3本の溝で形成されている。そして、3本の溝は、マニホールド孔64の近傍において、相互に連結されている。この連結部分は69で示されている。前記の連結部分69には、ガスケット11のガス通路25内の補強リブ26の頂部が接する。連結部分69は、前記溝を連結する必要はなく、リブ26を受け入れ、それを支持できる凹部であればよい。
【0031】
セパレータ板60は、マニホールド孔64の周囲に、前記のガス流路部分を除いて、溝71を有しており、この溝にはガスケット11のダミーリブ21が遊合する。セパレータ板60は、アノードと対向する面に、さらに、酸化剤ガス用マニホールド孔65を囲む溝72、冷却水用マニホールド孔66を囲む溝73、および溝71、72、および73を連結する溝74を有し、それらの溝72、73、74はそれぞれガスケット11のアノードが位置する側の表面に設けたダミーリブ22、23および24を遊合する。
セパレータ板60は、背面に、一対の冷却水用マニホールド孔66を連絡する冷却水の流路76を形成する溝を有する。
【0032】
カソード側導電性セパレータ板80は、各一対の燃料ガス用マニホールド孔84、酸化剤ガス用マニホールド孔85、冷却水用マニホールド孔86、およびセルを締結するボルトを貫通させるための4個の孔87を有する。セパレータ板80は、カソードと対向する面に、一対の酸化剤ガス用マニホールド孔85を連絡するように、酸化剤ガスの流路88を形成する溝を有する。この例では、ガス流路88は、並行する5本の溝で形成されている。そして、5本の溝は、マニホールド孔85の近傍において、相互に連結されている。この連結部分は89で示されている。前記の連結部分89には、ガスケット11のガス通路35内の補強リブ36の頂部が接している。89は、前記溝を連結する必要はなく、リブ36を受け入れ、それを支持できる凹部であればよい。
セパレータ板80は、マニホールド孔85の周囲に、前記のガス流路部分を除いて、溝92を有しており、この溝にはガスケット11のダミーリブ32が遊合する。セパレータ板80は、カソードと対向する面に、さらに、燃料ガス用マニホールド孔84を囲む溝91、冷却水用マニホールド孔86を囲む溝93、および溝91、92、および93を連結する溝94を有し、それらの溝91、93、94はそれぞれガスケット11のカソードが位置する側の表面に設けたダミーリブ31、33および34を遊合する。
セパレータ板80は、背面に、一対の冷却水用マニホールド孔86を連絡する冷却水の流路96を形成する溝を有する。
【0033】
以上のMEA10、そのアノード側に接合するアノード側導電性セパレータ板60、およびMEAのカソード側に接合するカソード側導電性セパレータ板80により単位セルが構成される。この単位セルの複数個を積層したセルスタックを、その両側にそれぞれ集電板および絶縁板を介して端板を接合し、ボルトで締結することにより燃料電池装置が組み立てられる。
図13および図14は、そのセルスタックを図3のVII−VII’線およびVIII−VIII’線に相当するところで切った断面図をそれぞれ表している。
ガスケット11、セパレータ板60および80の各酸化剤ガス用マニホールド孔15、65および85は相互に連通する。ガスケット11の酸化剤ガスの通路35は、セパレータ板80における酸化剤ガスの流路88のマニホールド孔近傍の部分に対応する。すなわち、図15に示すように、セパレータ板80の各ガス流路88の入り口部がガスケット11のガス通路35におけるリブ36の間に形成される空隙部35a(図5)に対応する。ガス通路35内のリブ36は、セパレータ板80のガス流路の連結部89内に位置する。従って、酸化剤ガスは、マニホールド孔からセパレータ板80のガス流路88の入り口部および前記空隙部35aをとおして、カソード13を囲むシールリブ54の内側におけるガス流路88に流れ、カソード13に供給され、反対側のマニホールド孔へ排出される。前記のガス通路35において、リブ36の間の空隙部35aに対応する部分を除いて、シールリブ52aおよび54aがセパレータ板80の基準厚みの部分に圧接されていることが図14に示されている。
【0034】
ガスケット11の燃料ガスの通路25の部分とセパレータ板60のガス流路との関係も、リブ26が2個であることを除いて、前記の酸化剤ガスについて説明したものと同様な構成となっている。
図14でさらに注目すべきところは、ガスケット11の酸化剤ガス用マニホールド孔15を囲むシールリブ42と52とが、ガスケットの基準肉厚部を挟んで対応する位置にあることである。セルスタックの締結力により、ガスケット11のアノード側のシールリブ42がアノード側導電性セパレータ板60に、またカソード側のシールリブ52がカソード側導電性セパレータ板80にそれぞれ圧接される位置がガスケット11の表裏で同じ位置にあるから、ガスケットの両面において良好なシール効果が得られる。ガスケットの両面におけるシールリブの位置が大きくずれていると、ガスケットの基準肉厚が薄い場合、シールリブのところでガスケットがたわみ、良好なシール効果が得られなくなる。ここでは、シールリブ42と52について説明したが、図示の例では、カソード側のシールリブ54および55がそれぞれアノード側のシールリブ44および46と対応する位置に設けられている。アノード側のシールリブ45とカソード側のシールリブ56が対応する位置にある。さらに、燃料ガス用マニホールド孔を囲むシールリブおよび冷却水用マニホールド孔を囲むシールリブもそれぞれアノード側とカソード側とで対応する位置にある。
【0035】
次に、酸化剤ガス用マニホールド孔15からカソード13へのガス通路のあるところでは、図13からわかるように、ガスケット11は、片側のセパレータ板、すなわちアノード側導電性セパレータ板60からしか支持されていないため、カソード側導電性セパレータ板80のガス流路88内へ垂れ込むおそれがある。この部位は、図5に示すとおり、基準肉厚部に対して、カソード側の補強リブ36とアノード側のダミーリブ22が直交する構造となっている。このため、単に平板状である従来のガスケットに比して、折り曲げ強度が格段に強いので、実際には垂れ込みは殆ど発生しない。このため、背面のシールリブがセパレータ板に圧接され、ガスのクロスリークを生じさせない。アノード側の補強リブ26の部分もカソード側の補強リブ36と同様の働きをしている。燃料ガス用マニホールド孔からアノードへのガス通路のある部位においても同様の措置がとられている。これらの部位の変形例は、以下の実施の形態で説明する。
【0036】
本実施の形態では、各セル間に冷却水をとおす冷却部を配する構造としたが、2〜3セル毎に冷却部を配する構造とすることもできる。その場合は、前記のアノード側導電性セパレータ板とカソード側導電性セパレータ板の組み合わせの代わりに、一方の面に燃料ガスの流路を有し、他方の面に酸化剤ガスの流路を有するアノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板を兼ねる1つのセパレータ板を部分的に使用する。
本実施の形態においては、最も好ましい形態を示した。しかしながら、当業者なら本発明の精神を逸脱することなくこれに修正ないし変更を加えることは容易であろう。例えば、本実施の形態においては、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却水のマニホールド孔、並びに、燃料ガスおよび酸化剤ガスの流路に対して、それらを囲むシールリブを設けた。しかし、酸化剤ガスに空気を用いる場合は、酸化剤ガスのマニホールド孔および流路を囲むシールリブを省略することもできる。これに応じてセパレータ板の構造も変更される。そのような変更については、当業者であれば容易に理解できるであろう。
【0037】
実施の形態2
図16は、シールリブを2条にした例を示している。ここでは、ガスケット11のカソード側におけるマニホールド孔15を囲むシールリブ52、カソードを囲むシールリブ54、マニホールド孔14を囲むシールリブ51、ガス通路35の両側のシールリブ55をすべて2条にしている。これらに対応してアノード側に設けるシールリブをそれぞれ2条にすることもできる。また、アノード側のシールリブは1条とし、カソード側の2条のシールリブの中央と対応する部分に設けても良い。ここに示すように、シールリブを複数条にすることによっても、シール効果を高めることができる。
【0038】
実施の形態3
次に、ガスケット11の酸化剤用マニホールド孔15とカソードとを連絡する部分の他の実施の形態を説明する。
上記の例では、ガスケット11の酸化剤ガスの通路35には、補強リブ36がほぼ等間隔で4個設けられ、これの反対側、すなわちアノード側では連続する帯状のダミーリブ22が設けられている。これらリブ22およびこれに直交するように設けた補強リブ36により、ガス通路35部分を補強している。
図17は、ガス通路35側は上記と同じであるが、リブ22のこれに対応する部分では、筒体を連結した形のリブ22aとして、より強度が大きくなるようにした例を示している。
図18は、ガス通路35内のリブ36aを径の細いものとして、数を増やした例を示している。アノード側のリブ22は帯状のままである。
このように、ガスの流通を犠牲にせずに、ガス通路部が必ず背面から支持できる構造とするなどにより、マニホールド孔近傍のガス通路部におけるクロスリークを防止するためのさまざまな構造が可能である。
【0039】
実施の形態4
本実施の形態のMEAのアノード側の正面図を図19に、カソード側の正面図を図20にそれぞれ示す。このMEA10は、そのガスケットの構造が実施の形態1に示したものと若干異なる。ここに用いるガスケット11Aは、ダミーリブおよびシールリブが実施の形態1のものと異なっている。
ダミーリブに関しては、アノードが位置する側において各マニホールド孔14、15および16を囲むダミーリブ21、22および23、並びにカソードが位置する側において各マニホールド孔14、15および16を囲むダミーリブ31、32および33が各々独立していて、これらを相互に連結するダミーリブを有しない点が実施の形態1のガスケット11と異なる。
【0040】
アノードが位置する側におけるシールリブに関しては、燃料ガスのマニホールド孔14を囲むシールリブ41Bが、アノードにつながる燃料ガスの通路25を横断する部分(実施の形態1における41a)をなくしたこと、およびアノードを囲むシールリブ44Bが、燃料ガスの通路25を横断する部分(実施の形態1における44a)をなくしたことが実施の形態1のものと異なっている。
かくして、燃料ガス用マニホールド孔14の一方からアノード12を経て他方の燃料ガス用マニホールド孔へ至る燃料ガスの流路部分は、シールリブ41B、45および44Bによって囲まれる。
【0041】
カソードが位置する側におけるシールリブに関しては、酸化剤ガスのマニホールド孔15を囲むシールリブ52Bが、カソードにつながる酸化剤ガスの通路35を横断する部分(実施の形態1における52a)をなくしたこと、およびカソードを囲むシールリブ54Bが、酸化剤ガスの通路35を横断する部分(実施の形態1における54a)をなくしたことが実施の形態1のものと異なっている。かくして、酸化剤ガス用マニホールド孔15の一方からカソード13を経て他方の酸化剤ガス用マニホールド孔へ至る酸化剤ガスの流路部分は、シールリブ52B、55および54Bによって囲まれる。
【0042】
上記の変更に伴い、実施の形態1におけるシールリブ46および56が省かれている。
上記のダミーリブの変更により、MEAに組み合わせるセパレータ板のダミーリブを遊合する溝の構造も当然変更される。そのような変更は、当業者にはよく理解できることであろう。
本実施の形態においては、各マニホールド孔を囲むダミーリブが、アノードまたはカソードを囲むシールリブの外側の大部分を囲んでいる。このような構造によって、ガスケットの機械的強度を保持することができる。隣接する2個または3個のダミーリブを相互に連結することもできる。
【0043】
下、本発明の実施例を説明する。
【0044】
《実施例1》
高分子電解質膜(Dupont社のNafion 117、50μm厚)を、トムソン型により、図1のように、周縁部に透孔の配列をもった、68mm角の形状に打ち抜いた。透孔は、幅1.5mm、長さ6mmで、ピッチ8mmで設けられている。この高分子電解質膜に、縦型射出成形機によって、外形寸法120mm角、内寸60mm角の、図2〜4に示す形状のガスケットを形成した。このガスケットは、基準肉厚部0.7mmで、基準肉厚部の両面には、幅2.0mm、高さ0.6mmのダミーリブと、幅0.6mm、高さ0.5mmで、断面が半径0.3mmの半円形のシールリブを有する。酸化剤ガスのマニホールド孔15の近傍のガス通路35における補強リブ36は、幅2.0mmを有し、4.0mmのピッチで設けられ、これに対応するアノード側では、補強リブ36に直交するようにリブ22が設けられていて、構造的に折り曲げ強度の高い構造となっている。
【0045】
ガスケット材料にはポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ−デュポン(株)製のハイトレルM7240)を用いた。成形条件は、射出温度235℃、金型温度50℃、射出速度240mm/秒であった。また、ゲートポイントは、上記ダミーリブ上に直径0.9mmのピンポイントゲートを8個設けて成形を行ったが、前記の条件でショートショットなく成形が可能であった。
次に、比表面積800m/g、DBP吸油量360ml/100gのケッチェンブラックEC(ケッチェンブラック・インターナショナル社製ファーネスブラック)に、白金を重量比1:1の割合で担持させた。この触媒粉末10gに、水35gおよび水素イオン伝導性高分子電解質のアルコール分散液(旭硝子(株)製、9%FSS)59gを混合し、超音波攪拌機を用いて分散させて、触媒層インクを作製した。この触媒インクを、ポリプロピレンフィルム(東レ(株)製トレファン50−2500)に塗工し、乾燥して触媒層を形成した。得られた触媒層を59mm×59mmに切断し、上記成形品の高分子電解質膜の露出部分の両面に、温度135℃、圧力32kgf/cmの条件で転写した。続いて、炭素繊維からなるガス拡散層(東レ(株)製TGPH120)の一方の面に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粉末(ダイキン工業(株)製)とアセチレンブラック(電気化学工業(株)製)を重量比1:4の比率となるように含む水分散液を塗布し、350℃で20分間焼成して、電極の単位面積当たり2.0mg/cmの密度の撥水層を形成した。
【0046】
上記の触媒層を転写した電解質膜に、前記の撥水層を形成したガス拡散層を、その撥水層が触媒層に接するように温度130℃、圧力1.5MPaでホットプレスにより接合してMEAを作製し、以下の特性評価試験に供した。
続いて、図9〜10に示す形状のアノード側導電性セパレータ板および図11〜12に示すカソード側導電性セパレータ板の2種のカーボン製セパレータ板を以下の要領で作製した。外寸120mm×120mm、厚み3.0mmの樹脂含浸黒鉛板(東海カーボン(株)製グラッシ−カーボン)に、フライス加工により、マニホルード孔、燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水の流路、並びにガスケットのダミーリブを遊合する溝を形成した。これら2種のセパレータ板をシリコーン系シーラントで貼り合わせて、内部に冷却水路を持ち、片側がアノード側導電性セパレータ板、他方側がカソード側導電性セパレータ板のセパレータユニットを製作した。
【0047】
このセパレータユニットに上記MEAを組み込み、3セルが直列に接続されたセルスタックを構成した。ガスケットのダミーリブに対して、セパレータ板の溝の幅は0.3mm広く、深さは0.1mm深いため、ダミーリブはセパレータ板の溝の内壁に接触することなく位置し、ガスケットの成形収縮によるセパレータ板/ガスケット間の寸法差、およびダミーリブのゲート跡(高さ50ミクロン程度)によるシール不具合は認められなかった。
上記の本実施例によるセルスタックと比較例1の特性の比較を表1に示す。比較例1は、本実施例におけるガスケットのシールリブをなくし、ダミーリブがセパレータ板の溝に嵌合し、その嵌合部でシールを期待する構成としたほかは実施例と同じである。
評価項目は以下のとおりである。
【0048】
(1)常用クロスリーク試験
上記3セルスタック(セパレータ面積:12×12=144cm)を1440kgf(締結圧1MPa)で締結し、アノード側に窒素ガス供給源を接続し、その圧力を50kPaに保ったとき、カソード側から漏れ出てくるガス量を計測する形でのクロスリーク試験。
(2)常用外部リーク試験
上記3セルスタックを1440kgf(締結圧1MPa)で締結し、アノードおよびカソードにそれぞれ圧力50kPaの窒素ガス供給源を接続し、流入するガス量(=流出するガス量、すなわち外部リーク量に等しい)を計測する形での外部リーク試験
(3)最低締結力試験
上記3セルスタックのアノードおよびカソードに窒素ガス供給源を接続し、その圧力を50kPaに保ち、流入するガス量(=流出するガス量、すなわち外部リーク量に等しい)が0.01ml/min以下になるのに必要であったセルスタックの締結力を調べる。
【0049】
これらの試験の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
Figure 0003608741
【0051】
表1の結果から明らかなように、本発明のガスケット/セパレータ板のスタック構造では、従来に比して大幅に低い締結力でクロスリーク及び外部リークを防止することが可能である。これは、シールリブの高さがガスケットの基準肉厚部の表面凸凹より高いこと、および形状的にシールリブ部のみに局部的な圧力がかかるためと解される。このことからガスケットの薄肉化という要件がなければ、ダミーリブがなくともシールリブのみで低い締結力で十分なシール効果を得ることが可能である。
【0052】
《実施例2〜4》
実施例1と同様の手法により、マニホルード孔近傍が図18(実施例2)、図16(実施例3)、および図17(実施例4)の構造を持つ各ガスケットを成形し、これを実施例1同様の手法でMEAとした。そして、実施例1同様の手法でセパレータ板を設計、製作し、それぞれの3セルスタックを組み立てた。
これに対し、以下の項目の特性評価試験を行った。
【0053】
(1)常用クロスリーク試験
上記3セルスタック(セパレータ面積:12×12=144cm)を1440kgf(締結圧1MPa)で締結し、アノード側に圧力50kPaの窒素ガス供給源を接続し、カソード側から漏れ出てくるガス量を計測する形でのクロスリーク試験。
(2)限界クロスリーク試験
上記3セルスタックを1440kgf(締結圧1MPa)で締結し、アノードの供給ガス圧を漸次増大させ、カソード側から漏れ出てきた時点での供給元圧を測定する形式でのクロスリーク試験。
【0054】
これらの試験の結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
Figure 0003608741
【0056】
表2のように、常用圧力(通常アノード、カソードとも供給ガス圧は50kPa)では、いずれの実施例でもクロスリークは観測されず、またいずれの場合も電池開放電圧(OCV)が0.99V程度であり、実使用上問題はない。限界クロスリーク試験は、ガス供給系統の突発的な動作、例えばバルブ開閉、に対するセルの挙動を知るためのものである。ここにおける試験結果は、実施例2〜4のように、シールリブを多重化したり、ガスケット流路部の背面(基準肉厚部を挟んで反対側)の形状を工夫することによって、この数値が上昇し、供給ガス圧の高い用途(車載用の供給元圧は180kPa程度。ただし、両極間の差圧は最大でもこの数分の一である)に適合するものとなることを示している。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、低い締結力で、高いガスシール性をもつ燃料電池を製作することが可能であり、もって燃料電池の信頼性向上に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の高分子電解質膜の正面図である。
【図2】本発明の一実施例におけるMEAのアノード側の正面図である。
【図3】同MEAのカソード側の正面図である。
【図4】同MEAの左側面図である。
【図5】同MEAの要部の拡大した正面図である。
【図6】図5のVI−VI’線断面図である。
【図7】図3のVII−VII’線断面図である。
【図8】図3のVIII−VIII’線断面図である。
【図9】本発明の一実施例におけるアノード側導電性セパレータ板の正面図である。
【図10】同セパレータ板の背面図である。
【図11】本発明の一実施例におけるカソード側導電性セパレータ板の正面図である。
【図12】同セパレータ板の背面図である。
【図13】本発明の一実施例における燃料電池を図3のVII−VII’線で切った断面図である。
【図14】同燃料電池を図3のVIII−VIII’線で切った断面図である。
【図15】カソード側導電性セパレータ板の酸化剤ガスの流路の入り口付近の拡大した正面図である。
【図16】他の実施例におけるガスケットの要部の拡大した正面図である。
【図17】さらに他の実施例におけるガスケットの要部を拡大した正面図である。
【図18】さらに他の実施例におけるガスケットの要部を拡大した正面図である。
【図19】本発明の他の実施例におけるMEAのアノード側の正面図である。
【図20】同MEAのカソード側の正面図である。
【符号の説明】
1 高分子電解質膜
10 MEA
11 ガスケット
12 アノード
13 カソード
14、64、84 燃料ガス用マニホールド孔
15、65、85 酸化剤ガス用マニホールド孔
16、66、86 冷却水用マニホールド孔
17、67、87 ボルト用孔
21、22、23、24、31、32、33、34 ダミーリブ
25、35 ガス通路
26、36 補強リブ
41、41B、42、43、44、44B、45、46、51、52、52B、53、54、54B、55、56 シールリブ
60 アノード側導電性セパレータ板
68、88 ガス流路
71、72、73、74、91、92、93、94 溝
76、96 冷却水の流路
80 カソード側導電性セパレータ板

Claims (9)

  1. (1)周縁部がシール材からなるガスケットで被覆された高分子電解質膜、前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード、および前記電解質膜の他方の面に接合されたカソードからなる電解質膜−電極接合体、並びに (2)前記電解質膜−電極接合体を挟むアノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板
    からなる単位セルを具備する高分子電解質型燃料電池であって、
    (3)前記ガスケット、アノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板は、各一対の燃料ガス用マニホールド孔、酸化剤ガス用マニホールド孔、および冷却水用マニホールド孔を有し、
    (4)前記ガスケットは、
    (4a)アノードが位置する側の表面に、前記燃料ガス用マニホールド孔の一方からアノードを経て他方の燃料ガス用マニホールド孔へ至る燃料ガスの流路部分を囲むシールリブ、並びに、冷却水用マニホールド孔を囲むシールリブを有し、
    (4b)カソードが位置する側の表面に、前記燃料ガス用マニホールド孔および冷却水用マニホールド孔を囲むシールリブを有し、
    (4c)アノードが位置する側の表面およびカソードが位置する側の表面に、前記いずれかのシールリブを少なくとも部分的に囲むダミーリブを有し、
    (4d)前記各ダミーリブはその高さが各シールリブのそれより大きく、
    (5)前記アノード側導電性セパレータ板は、アノードと対向する面側の表面に、前記ダミーリブを遊合する溝、および前記一対の燃料ガス用マニホールド孔を連通させる燃料ガスの流路を有し、
    (6)前記カソード側導電性セパレータ板は、カソードと対向する面側の表面に、前記ダミーリブを遊合する溝、および前記一対の酸化剤ガス用マニホールド孔を連通させる酸化剤ガスの流路を有し、
    (7)前記セルを締結する締結圧により前記ガスケットの各シールリブが、前記導電性セパレータ板の表面に圧接されていることを特徴とする高分子電解質型燃料電池。
  2. 前記ガスケットは、さらに、アノードが位置する側の表面に、前記酸化剤ガス用マニホールド孔を囲むシールリブを有し、カソードが位置する側の表面に、前記酸化剤ガス用マニホールド孔の一方からカソードを経て他方の酸化剤ガス用マニホールド孔へ至る酸化剤ガスの流路部分を囲むシールリブを有する請求項記載の高分子電解質型燃料電池。
  3. 前記アノードが位置する側の表面に設けられたダミーリブは、前記燃料ガスの流路部分を囲むシールリブを実質的に囲み、前記カソードが位置する側の表面に設けられたダミーリブは、前記酸化剤ガスの流路部分を囲むシールリブを実質的に囲んでいる請求項記載の高分子電解質型燃料電池。
  4. 前記ガスケットは、さらに、アノードが位置する側の表面に、前記酸化剤ガスのマニホールド孔および冷却水のマニホールド孔を囲む各シールリブをそれぞれ囲むダミーリブを有し、カソードが位置する側の表面に、燃料ガスのマニホールド孔および冷却水のマニホールド孔を囲む各シールリブをそれぞれ囲むダミーリブを有する請求項記載の高分子電解質型燃料電池。
  5. (1)周縁部がシール材からなるガスケットで被覆された高分子電解質膜、前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード、および前記電解質膜の他方の面に接合されたカソードからなる電解質膜−電極接合体、並びに
    (2)前記電解質膜−電極接合体を挟むアノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板
    からなる単位セルを具備する高分子電解質型燃料電池であって、
    (3)前記ガスケット、アノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板は、各一対の燃料ガス用マニホールド孔、酸化剤ガス用マニホールド孔、および冷却水用マニホールド孔を有し、
    (4a)前記ガスケットは、アノードが位置する側の表面に、前記各マニホールド孔をそれぞれ囲むダミーリブ、前記各ダミーリブの内側において各マニホールド孔を囲むシールリブ、前記燃料ガス用マニホールド孔を囲むダミーリブのアノードに向き合う側に設けられた切欠部を含む燃料ガスの通路、アノードを囲むシールリブ、および前記燃料ガスの通路の両側にあって前記燃料ガス用マニホールド孔を囲むシールリブとアノードを囲むシールリブとを連結するシールリブを有し、
    (4b)前記ガスケットは、カソードが位置する側の表面に、前記各マニホールド孔をそれぞれ囲むダミーリブ、前記各ダミーリブの内側において各マニホールド孔を囲むシールリブ、前記酸化剤ガス用マニホールド孔を囲むダミーリブのカソードに向き合う側に設けられた切欠部を含む酸化剤ガスの通路、カソードを囲むシールリブ、および前記酸化剤ガスの通路の両側にあって前記酸化剤ガス用マニホールド孔を囲むシールリブとカソードを囲むシールリブとを連結するシールリブを有し、
    (4c)前記各ダミーリブはその高さが各シールリブのそれより大きく、
    (5)前記アノード側導電性セパレータ板は、アノードと対向する面側の表面に、前記ダミーリブを遊合する溝、および前記一対の燃料ガス用マニホールド孔を連通させる燃料ガスの流路を有し、
    (6)前記カソード側導電性セパレータ板は、カソードと対向する面側の表面に、前記ダミーリブを遊合する溝、および前記一対の酸化剤ガス用マニホールド孔を連通させる酸化剤ガスの流路を有し、
    (7)前記ガスケットの燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路が、それぞれアノード側導電性セパレータ板のガス流路およびカソード側導電性セパレータ板のガス流路に連通し、
    (8)前記セルを締結する締結力により前記ガスケットの各シールリブが、前記燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路を除いて、前記導電性セパレータ板の表面に圧接されていることを特徴とする高分子電解質型燃料電池。
  6. ガスケットのカソードが位置する側の表面において前記各マニホールド孔を囲む各シールリブは、アノードが位置する側の表面において各マニホールド孔を囲む各シールリブと対応する位置にあり、前記カソードを囲むシールリブは、前記アノードを囲むシールリブと対応する位置にあり、さらに、アノードが位置する側の表面には、前記酸化剤ガス用マニホールド孔を囲むシールリブとカソードを囲むシールリブとを連結するシールリブと対応する位置にシールリブを、カソードが位置する側の表面には、前記燃料ガス用マニホールド孔を囲むシールリブとアノードを囲むシールリブとを連結するシールリブと対応する位置にシールリブを、それぞれ有する請求項記載の高分子電解質型燃料電池。
  7. 前記アノードが位置する側の表面において前記各マニホールド孔をそれぞれ囲むダミーリブおよび前記カソードが位置する側の表面において前記各マニホールド孔をそれぞれ囲むダミーリブはそれぞれ連なっている請求項記載の高分子電解質型燃料電池。
  8. 前記ガスケットは、前記燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路内にそれぞれ複数の補強リブを有し、前記アノード側導電性セパレータ板およびカソード側導電性セパレータ板は、それらのガス流路の出入り口近傍に前記補強リブを受け入れる凹部を有し、前記凹部で前記補強リブの頂部を支持し、前記燃料ガスの通路および酸化剤ガスの通路の前後にあるシールリブはセパレータ板のガス流路に対応しない部分においてセパレータ板に圧接されている請求項記載の高分子電解質型燃料電池。
  9. 前記シールリブの少なくとも1つが、複数条のシールリブからなる請求項記載の高分子電解質型燃料電池。
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