図1に、本発明を適用した孔版印刷装置としての印刷装置を示す。
この印刷装置100は、印刷装置本体としての装置本体1と、装置本体1に機械的且つ電気的に接続された紫外線硬化型定着装置としてのUV照射装置51とを有している。
印刷装置100は、印刷に用いる感熱性の孔版原紙としてのマスタとして、本発明を適用した、その両面に穿孔された状態で印刷に使用される両面穿孔マスタと、その片面に穿孔された状態で印刷に使用される、従来用いられている片面穿孔マスタとの何れかを用いることが可能となっている。
以下の説明においては、両面穿孔マスタと従来用いられているマスタとを区別する必要がないときにはマスタ15と記載し、両面穿孔マスタに限る場合には符号16を付してマスタ16と記載し、従来から用いられている片面穿孔マスタについてはマスタ17と記載する。
印刷装置100は、印刷を行う用紙Sとして、光沢性向上等を目的として表面がコーティングされた、いわゆるコート紙と、コート紙以外の普通紙等の非コート紙とを用いることが可能となっている。
印刷装置100は、印刷に用いるインキとして、紫外線硬化型のインキか、非紫外線硬化型のインキの何れかを用いることが可能となっている。なお、コート紙を用いる場合には、インキの吸収率が非コート紙に比べて低いため、通常は、紫外線硬化型のインキを用いて印刷を行いUV照射装置51により定着を行なう。
装置本体1は、印刷部2、製版部3、給紙部4、排版部5、排紙部6、読み取り装置7等を有しているとともに、図2に示す操作パネル30と、図3に示す制御手段としてのコントローラ61とを有している。
装置本体1はまた、印刷に用いられる用紙Sの種類、たとえばコート紙であるか否かを検知する用紙種類検知手段41と、印刷に用いられるインキの種類、例えば紫外線硬化型のインキか否かを検知するインキ種類検知手段42と、印刷に用いられるインキの温度を測定するインキ温度測定手段46とを有している。
図1に示すように、印刷部2は、装置本体1のほぼ中央に配置されており、版胴11と、押圧手段としてのプレスローラ12と、図3に示す揺動手段47とを有している。版胴11は装置本体1に着脱自在かつ回転自在に支持されており、図示しない版胴駆動手段によって回転駆動される。
版胴11はその外周面に対して開閉自在なクランパ13と、同外周面上に配設されクランパ13を回動自在に支持し同外周面に対して開閉自在としたクランパ軸14と、図示しない中空状の回転軸とを有している。印刷時には、版胴11の外周面に、製版部3で製版された製版済みのマスタ15の先端をクランパ13により挟持してマスタ15を巻き付け、巻装する。
版胴11の外周面近傍には、版胴11の位置を検知する図示しないロータリエンコーダが設けられている。ロータリエンコーダによる検知信号は、コントローラ61に入力され、コントローラ61では、版胴11の位相が検出される。本実施形態において、版胴11には最大でA3サイズの用紙に印刷が可能なマスタ15が巻装される。
版胴11は、その外周面から紫外線硬化型若しくは非紫外線硬化型のインキを滲出させ、マスタ15を介して用紙Sに付着させることで印刷を行う。かかるインキは、これを充填された図示しないインキパックを版胴11と一体になるように取り付けることで、印刷装置1に対して供給される。
インキパックから供給されたインキは、版胴11の回転軸から滴下される。
版胴11内の、回転軸の下方には、図示しないインキローラ、ドクタローラが配設されている。これらローラは互いに当接しているとともに、インキローラは版胴11の内周面に当接している。インキローラ、ドクタローラは、その間の楔状の空間において、版胴11の回転軸から滴下されたインキを混練し、混練されたインキをインキローラが版胴11の内周面に供給する。版胴11の周面には、インキを内側から外側に透過する多数の孔が形成されている。
インキパックから供給されたインキが版胴11内周面に供給されるまでのインキの流路中には、インキ種類検知手段42が配設されている。インキ種類検知手段42は、インキの静電容量や抵抗値等からインキの種類を検知し、検知したインキの種類をコントローラ61に送信する。インキ種類検知手段42はインキが紫外線硬化型であるか否か、エマルジョンインキであるか否か、インキの粘度、及びインキの色を検知することが可能となっている。インキ種類検知手段42の配設位置としては、版胴11の回転軸の内部、インキローラ、ドクタローラがインキを混練する楔状の空間等が挙げられる。
インキ種類検知手段42は、インキパックに設けられた、インキパック内のインキの種類を識別するためのプッシュスイッチ、シール、ICタグ等の識別手段からの情報に基づきインキの種類を検知するものであっても良い。
インキパックから供給されたインキが版胴11内周面に供給されるまでの流路中には、インキ温度測定手段46が配設されている。インキ温度測定手段46は、インキの温度を検知し、検知したインキの温度をコントローラ61に送信する。インキ温度測定手段46の配設位置としては、版胴11の回転軸の内部、インキローラ、ドクタローラがインキを混練する楔状の空間等が挙げられるが、インキの温度は、通常、装置本体1内、特に版胴11内か版胴11外部近傍の雰囲気温度に近いか等しいため、同雰囲気温度を測定する位置に配設しても良い。
プレスローラ12は版胴11の下方に配設されている。プレスローラ12は、フッ素樹脂等の撥水性を有する弾性体からなる。プレスローラ12は、図示しないアーム部材にその両端を回転自在に支持されており、図示しないアーム部材は揺動手段47によって揺動自在に支持されている。
プレスローラ12は揺動手段47の作動によってその周面が版胴11上のマスタ15に圧接する図1に示す圧接位置と、その周面が版胴11より離間する離間位置とを選択的に占める。揺動手段47は、プレスローラ12を版胴11に巻装されたマスタ15に押圧する圧力すなわち印圧を調整可能に構成されている。コントローラ61は、揺動手段47を制御し、プレスローラ12によるかかる圧力を調整する圧力制御手段として機能する。
給紙部4は、製版部3の下方に配設されている。給紙部4は、用紙Sを積載する給紙トレイ18、給紙トレイ18上に積載された最上の用紙Sを送り出す給紙ローラ19、給紙ローラ19によって送り出されてきた用紙Sを一枚に分離して送り出す分離ローラ20及び分離パッド21、分離ローラ20及び分離パッド21によって一枚に分離して送り出されてきた用紙Sを印刷部2に向けて送り出すレジストローラ対22、印刷に用いる用紙Sの種類、大きさを検知する図3に示した用紙種類検知手段41等を有する周知の構成である。用紙種類検知手段41は、検知した用紙Sの種類及び大きさをコントローラ61に送信する。
排紙部6は、図1における印刷部2の左方に配設されている。排紙部6は、版胴11上に巻装されたマスタ15から用紙Sを剥離する揺動自在な剥離爪23、剥離爪23によって剥離された用紙Sを吸着して搬送するベルト吸引搬送部24等を有する周知の構成である。ベルト吸引搬送部24によって搬送された用紙Sは、装置本体1からUV照射装置51に送り込まれる。
読み取り装置7は、装置本体1の上部に配設されている。読み取り装置7は、それぞれ図示してはいないが、原稿を載置するコンタクトガラス、コンタクトガラスに対して接離自在に設けられた圧板、原稿画像を走査して読み取る反射ミラー及び蛍光灯、走査された画像を集束するレンズ、集束された画像を処理する画像センサ、自動原稿送り装置等を有する周知の構成である。
排版部5は、図1における印刷部2の左上方に配設されている。排版部5は、使用済みのマスタ15を版胴11から剥ぎ取って収容する周知の構成であり、ここでの説明を省略する。
製版部3は、図1における印刷部2の右上方に配設されている。製版部3は、マスタ15をロール状に巻成したマスタロール25を、マスタ15を繰り出す方向に回転可能に保持した図示しないマスタ保持部材、プラテンローラ71、サーマルヘッド72、マスタ切断手段26、マスタ搬送ローラ対27を有している。
製版部3はまた、サーマルヘッド72を駆動して発熱させる、図3に示す、サーマルヘッド駆動手段75、その他、マスタ15の種類、例えばマスタ16であるかマスタ17であるかを検知するマスタ種類検知手段43、サーマルヘッド72の温度を測定するヘッド温度測定手段44等を有している。
なお、製版部3は、実際には、マスタロール25からマスタ15を引き出したり、マスタ15を搬送したりするローラ、これを駆動するためのモータ等を備えているが、ここでの説明は省略している。製版部3は、マスタストック部、吸引ダクト、テンションローラ対等を有し、マスタ15を吸引ダクトによりマスタストック部に貯容してから版胴11に送り出す構成となっていても良い。
サーマルヘッド72は、印刷すべき画像に対応した領域に対して穿孔を行うようになっている。このような穿孔を行なうためのサーマルヘッド72の制御は、コントローラ61がサーマルヘッド駆動手段75の駆動を制御することよって行われる。
マスタ種類検知手段43は、マスタロール25の図示しない芯材に設けられた、マスタ15の種類を識別するためのプッシュスイッチ、シール、ICタグ等の識別手段からの情報に基づきマスタ15の種類を検知し、検知したマスタ15の種類をコントローラ61に送信する。
ヘッド温度測定手段44は、サーマルヘッド72と一体となるように配設されたサーミスタであって、サーマルヘッド72の温度を測定し、測定した温度をコントローラ61に送信するようになっている。
なお、ヘッド温度測定手段44は、サーマルヘッド72に備えられた発熱抵抗体近傍の温度を測定することが望ましいが、これがサーマルヘッド72の構造上難しい場合には、サーマルヘッド72に具備されている基板上に、ヘッド温度測定手段44を設けても良い。
その他、製版部3の詳細、特にサーマルヘッド72の構成及び動作については、後述のマスタ16の説明以降において述べる。
UV照射装置51は、装置本体1の排紙側に位置しており、装置本体1から搬送されてきた、インキが付着した用紙Sをさらに搬送するベルト吸引搬送部52と、このベルト吸引搬送部52により搬送されてきた用紙Sがその上面を移動する金属製の案内板53とを有している。
UV照射装置51はまた、案内板53の上方において案内板53に対向するように配設され、用紙Sに付着しているインキが紫外線硬化型のインキである場合に、ベルト吸引搬送部52により搬送されてきて案内板53上を移動している用紙Sに対して紫外線を照射し、用紙Sに付着した紫外線硬化型のインキを用紙Sに定着させる紫外線照射手段としての紫外線照射部54を有している。
UV照射装置51はまた、案内板53を通過した用紙Sを搬送する用紙搬送手段としての上下一対の排出ローラ対55と、排出ローラ対55を通過した用紙Sの先端を揃えるためのエンドフェンス56を備えた排紙台としての排紙トレイ57とを有している。
UV照射装置51はまた、ベルト吸引搬送部52、排出ローラ対55を駆動するための図示しないモータ等の図示しない駆動手段、紫外線照射部54の作動時に紫外線照射部54において発生するオゾンを排出する図示しない吸引ファン、ダクト等を備えたオゾン排出手段等を有している。
紫外線照射部54は、一対のUVランプ58と、UVランプ58を上方から覆い、案内板53に向けて開口したランプハウジング59とを有している。
UV照射装置51は、本形態においては装置本体1に電気的に接続されているため、操作パネル30にその接続状況、UVランプ58の動作状況、排紙のジャム等の表示を行っても良いし、装置本体1側においてかかる表示の代わりに警告音、音声等で報知するようにすることもできる。UV照射装置51は装置本体1に電気的に接続せず、かかる表示や報知をUV照射装置51自体で行うようにしても良い。
その他、UV照射装置51の構成は周知であるのでここでの説明を省略するが、紫外線照射部54等、UV照射装置51の各構成は、装置本体1に備えられていても良い。
図2に示すように、操作パネル30には、製版スタートキー31、印刷スタートキー32、ストップキー33、テンキー34、読取スタートキー35、7セグメント表示部36、LCDを備えた液晶タッチパネル39、用紙種類入力手段としての用紙種類設定キー91、インキ種類入力手段としてのインキ種類設定キー92、マスタ種類入力手段としてのマスタ種類設定キー93、画像モード入力手段としての画像モード設定キー94が配設されている。
テンキー34は印刷部数などの入力に用いる。
読取スタートキー35は、製版を伴わずに読み取り装置7によって原稿画像の読み取りを行い、読み取った原稿画像の画像データの記憶を行うために用いる。
液晶タッチパネル39には、用紙種類検知手段41で検知した用紙Sの種類、インキ種類検知手段42で検知したインキの種類及び色、マスタ種類検知手段43で検知したマスタ15の種類、画像モード設定キー94で設定した画像モードがそれぞれ、用紙種類表示枠95、インキ種類表示枠96、マスタ種類表示枠97、画像モード表示枠98の内部に表示される。
用紙種類表示枠95は用紙Sの種類がコート紙であるか非コート紙であるかを表示する。インキ種類表示枠96はインキの種類が紫外線硬化型であるか非紫外線硬化型であるかとインキの色とを並べて表示する。マスタ種類表示枠97は、マスタ15の種類がマスタ16すなわち両面穿孔であるかマスタ17すなわち片面穿孔であるかを表示する。画像モード表示枠98は画像モードが文字モードであるか写真モードであるかを表示する。
画像モードは、印刷画像が主に文字であるか、写真であるか等、印刷画像の種類に応じて選択されたモードに適した製版を行なう製版条件として用いるもので、少なくとも文字モードと写真モードとを含む。
用紙種類設定キー91、インキ種類設定キー92、マスタ種類設定キー93による設定はそれぞれ、用紙種類検知手段41で検知した用紙Sの種類、インキ種類検知手段42で検出したインキの種類及び色、マスタ種類検知手段43で検知したマスタ15の種類に優先する。
用紙種類設定キー91を押下すると、押下のたびに、用紙Sの種類がコート紙であるか非コート紙であるか等が切り換えられて設定され、設定された用紙Sの種類が用紙種類表示枠95に表示される。インキ種類設定キー92を押下すると、押下のたびに、インキの種類が紫外線硬化型であるか非紫外線硬化型であるかとインキの色とが切り換えられて設定され、設定されたインキの種類及びインキの色がインキ種類表示枠96に並べて表示される。マスタ種類設定キー93を押下すると、押下のたびに、マスタ15の種類が両面穿孔であるか片面穿孔であるかが切り換えられて設定され、設定されたマスタの種類がマスタ種類表示枠97に表示される。画像モード設定キー94を押下すると、押下のたびに、画像モードが文字モードであるか写真モードであるか等が切り換えられて設定され、設定された画像モードが画像モード表示枠98に表示される。
用紙種類設定キー91の押下、インキ種類設定キー92の押下、マスタ種類設定キー93の押下、画像モード設定キー94の押下の代わりに、それぞれ、用紙種類表示枠95、インキ種類表示枠96、マスタ種類表示枠97、画像モード表示枠98に触れても同様の動作が行われる。用紙種類表示枠95、インキ種類表示枠96、マスタ種類表示枠97、画像モード表示枠98はそれぞれ、用紙種類入力手段、インキ種類入力手段、マスタ種類入力手段、画像モード入力手段として機能する。
このように、操作パネル30は、用紙種類入力手段、インキ種類入力手段、マスタ種類入力手段、画像モード入力手段として機能し、これらによる設定内容は、コントローラ61に送信される。
操作パネル30の構成はこれに限らず、例えば液晶タッチパネル39は単に、設定された内容を表示するLCD、LEDであっても良く、また設定された内容は7セグメント表示部36にコード表示しても良い。その他、設定された内容は、警告音、音声等の音によって報知されても良い。
コントローラ61は、印刷装置100の動作全般の制御、すなわち、印刷部2、製版部3、給紙部4、排版部5、排紙部6、読み取り装置7、操作パネル30、UV照射装置51といった各構成の制御を行うものである。
図3に示すように、コントローラ61は、かかる制御を行うための各種プログラム及び各種データを記憶しているROM62と、ROM62に記憶されたかかるプログラム及びデータの読み出し並びにこれらにしたがって上述の各構成に対する動作の指示を行なうCPU63と、CPU63の作業用メモリであるRAM64とを備えている。コントローラ61には、図示しない各種カウンタ、I/Oポート等も備えられている。
RAM64は、例えば、用紙種類検知手段41から送信された用紙Sの種類すなわち紙種情報、インキ種類検知手段42から送信されたインキの種類すなわちインキ種類情報、マスタ種類検知手段43から送信されたマスタ15の種類すなわちマスタ種類情報、ヘッド温度測定手段44から送信されたサーマルヘッド72の温度すなわちサーマルヘッド温度情報、インキ温度測定手段46から送信されたインキ温度すなわちインキ温度情報、画像モード設定キー94又は画像モード表示枠98によって設定された画像モードすなわち画像モード情報の操作パネル30による設定内容等を記憶する。
ここに、RAM64は、紙種情報を記憶する用紙種類記憶手段、インキ種類情報を記憶するインキ種類記憶手段、マスタ種類記憶情報を記憶するマスタ種類記憶手段、サーマルヘッド温度情報を記憶するヘッド温度記憶手段、インキ温度情報を記憶するインキ温度記憶手段、画像モード情報を記憶する画像モード記憶手段として機能する。
用紙種類検知手段41、インキ種類検知手段42、マスタ種類検知手段43、インキ温度測定手段46は少なくとも、製版スタート時、印刷スタート時に作動し、RAM64に記憶されている紙種情報、インキ種類情報、マスタ種類情報、サーマルヘッド温度情報、インキ温度情報は、CPU63の指示により、少なくとも、製版スタート時、印刷スタート時を含む随時上書きされ、最新の紙種情報、インキ種類情報、マスタ種類情報が液晶表示パネル39に表示される。
また、操作パネル30によって、紙種情報、インキ種類情報、マスタ種類情報、画像モード情報が入力されたときには、CPU63の指示により、RAM64に記憶されている紙種情報、インキ種類情報、マスタ種類情報、画像モード情報が上書きされ、入力に応じ、最新の紙種情報、インキ種類情報、マスタ種類情報、画像モード情報が液晶表示パネル39に表示される。
ROM62が記憶しているプログラムとしては、例えば、マスタ15がマスタ16であるかマスタ17であるかをRAM64に記憶されたマスタ種類情報から判断し、マスタ15がマスタ16であると判断したときに、CPU63による制御のもと、サーマルヘッド駆動手段75を駆動して、後述するようにマスタ16の両面が穿孔された状態とする穿孔ステップを含む印刷プログラムがある。かかる判断は、コントローラ61によって行なわれる。ここに、コントローラ61は、マスタ種類判断手段として機能する。
この印刷プログラムは、インキの種類が紫外線硬化型であるか非紫外線硬化型であるかをRAM64に記憶されたインキ種類情報から判断し、インキの種類が紫外線硬化型であると判断したときに、CPU63による制御のもと、UVランプ58、オゾン排出手段を作動させ、紫外線硬化型のインキを用紙Sに定着させる紫外線硬化型インキ定着ステップを含む。
その他にも、この印刷プログラムは、コントローラ61を、圧力制御手段、後述する印加エネルギー制御手段として機能させるステップ、その他後述する構成のサーマルヘッド72を後述するように様々に動作させるステップ、このステップを含んだ種々の動作を製版部3に行わせるステップなど、印刷装置100において印刷を行う上で必要な全てのステップを含む。
ここに、ROM62は、かかる印刷プログラムを記憶した印刷プログラム記憶手段として機能する。またROM62は、かかる印刷プログラムをコンピュータによって読み取り可能に記録した記録媒体を構成している。
印刷装置100は、上述の各ステップを含む印刷プログラムの実行によって動作する。印刷プログラムは、コンピュータであるコントローラ61によって読み取り可能に記録されている外部の記録媒体から、記録媒体としてのROM62に導入され記憶されているものである。印刷プログラムの実行に必要な各種データも同様である。
印刷プログラム及び各種データをROM62に導入するためにこれらを記録された記録媒体は、CD−ROM、DVD−ROM、FD、USBメモリのように持ち運び可能なメディアの他、LAN、インターネット等のネットワークを介して接続された他のコンピュータに内蔵ないし接続されたHD等の記憶装置など、かかる印刷プログラム及び各種データを必要な期間記憶して保持しておくことが可能なものであればどのようなものでも良い。印刷プログラム及び各種データはROM62でなくRAM64等の他の媒体に記憶されていてもよく、この場合にはその媒体が記録媒体となる。
図4にマスタ16の断面図を示す。同図に示すように、マスタ16は、表層81と、裏層82と、表層81と裏層82との間に位置する中層83とを有している。表層81と裏層82と中層83とは、互いに略同面積のシート状をなし一体となってマスタ16を構成している。
表層81は、インキを用紙Sに付着させ担持させるために、マスタ16が版胴11に巻装された状態でプレスローラ12によって用紙Sに押圧されるときに用紙Sに当接する側の表面をなしている。
裏層82は、マスタ16を版胴11に巻装したときに版胴11に当接する側の、マスタ16の表面をなしている。裏層82は、マスタ16を版胴11に巻装したときにマスタ16が版胴11に密着するために、マスタ16を版胴11に巻装したときに版胴11に当接する側の面を平滑性の高い平滑面82aとされている。
中層83は、表層81側に位置し表層81に接した多孔性樹脂層84と、裏層82側に位置し裏層82及び多孔性樹脂層84に接した多孔性支持層85とを有している。
マスタ16は、マスタロール25において、表層81がその内側に位置するとともに裏層82がその外側に位置するように巻成されている。
表層81、裏層82はそれぞれ厚さが1.8μmの熱可塑性樹脂フィルムである。表層81は、製版部3において製版を行なわれる際に、サーマルヘッド72の発熱によって穿孔が行なわれるようになっている。裏層82には、マスタロール25を巻成するときにはすでに多数の孔99が形成されており、マスタ16は、かかる孔99を有する状態で巻成されマスタロール25とされる。なお、平滑面82aは孔99を除く部分によって構成されている。
マスタ16は、版胴11に巻装される際に表層81、裏層82の両面が穿孔された状態あるいは孔99を形成された状態となっているため、両面穿孔マスタということとしたものである。これに対し、マスタ17は、版胴11に巻装される際に片面が穿孔された状態となっているため、片面穿孔マスタということとした。
表層81は、印刷すべき画像に対応した領域に対して穿孔を行われ製版されるので、穿孔の感度という観点から、その厚さは3.0μmより小さくされる。この厚さを3.0μm以上とすると、穿孔不良を生じうるためである。これに対し、裏層82は、版胴11との密着性向上の観点から、その厚さは表層81の厚さ以上としても良い。
マスタ16は、表層81と裏層82と中層83とが一体となって全体で厚さ約35μmとなっている。マスタ16の厚さは、印刷装置100の構成、性能等に応じて適宜最適化されるものであるが、おおよそ20〜80μmの範囲内が最適である。
表層81、裏層82を構成する熱可塑性樹脂フィルムの材料、多孔性樹脂層84を構成する多孔性樹脂の材料、多孔性支持層85を構成する多孔性支持体の材料は、従来知られているものである。表層81、裏層82を構成する熱可塑性樹脂フィルムの材料は互いに同じであっても、異なっていても良い。
裏層82は、熱可塑性樹脂フィルムで構成されていることにより、マスタ16の巻装時に版胴11に当接する側の面が版胴11との密着性の高い平滑面82aとなっているが、平滑面82aの平滑性が高く版胴11との密着性の高いシートであれば、熱可塑性樹脂フィルムに限らず、孔99を形成することができ且つマスタ16を形成するのに支障のない材料、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の他の材料で構成しても良い。
マスタ16は、表層81を構成する熱可塑性樹脂フィルムに、多孔性樹脂層84を形成するための塗布液を塗布して乾燥し、多孔性樹脂層84を形成してから、多孔性支持層85を加熱圧着して積層し、裏層82を構成する熱可塑性樹脂フィルムを接着剤で貼り合わせ、図示しないサーマルヘッド等で穿孔して孔99を形成することで製造する。多孔性支持層85は、裏層82を構成する熱可塑性樹脂フィルムを接着剤で貼り合わせてから、多孔性樹脂層84に加熱圧着して積層しても良い。
多孔性支持層85の貼り合わせのタイミングが何れの場合でも、裏層82に孔99を形成するタイミングは、多孔性支持層85に貼り合わせる前とすることができる。孔99は、裏層82が熱可塑性樹脂フィルムであってもサーマルヘッド以外の手段による穿孔で形成しても良いし、熱を用いる方法でなく、裏層81の材料に応じて化学的な方法など他の方法で形成しても良い。
マスタ16は、中層83として、少なくとも多孔性樹脂層84を備えていれば良く、多孔性支持層85は必須でない。中層83を、多孔性樹脂層84のみで構成すると低廉化、薄層化等の利点があり、一方、多孔性支持層85を設けると、インキ供給性の向上、多孔性樹脂84と裏層82との接着性の向上等の利点がある。
中層83を、多孔性樹脂層84のみで構成する場合には、表層81、裏層82を構成する熱可塑性樹脂フィルムの何れか一方に、多孔性樹脂層84を形成するための塗布液を塗布して乾燥し、多孔性樹脂層84を形成してから、表層81、裏層82を構成する熱可塑性樹脂フィルムの何れか他方を、接着剤あるいは加熱圧着により積層し、一体化する。
ただし、裏層82に予め孔99を形成している場合には、孔99がかかる塗布液の塗布によって閉塞されることを防止するために、表層81側に塗布液を塗布することが好ましい。多孔性支持層85の有無にかかわらず、マスタ16の製造方法としては、孔99が閉塞されてしまうことのない方法が採用される。
表層81、多孔性樹脂層84、多孔性支持層85、裏層82は、適宜、その少なくとも一方の面を、これに接する他の面との密着性、接着性等を向上すること等を目的としたコーティング、表面処理等を施されていても良いし、その材料中に添加剤の添加等を施されていても良い。裏層82は、版胴11との密着性を向上する処理を行って平滑面82を形成しても良い。ただしこの場合も、マスタ16が版胴11に巻装される状態において孔99が閉塞された状態とならないように構成される。
このように、マスタ16は、熱可塑性樹脂フィルムによる表層81と、複数の孔99を形成された裏層82と、これらに挟まれた中層83を有している。よって、用紙Sがコート紙等の、熱可塑性樹脂フィルムが貼り付き易いものであっても、版胴11に当接する裏層82言い換えると平滑面82aが版胴11に対する密着性の高いシートによって構成されているので、平滑面82aの版胴11表面からの浮きが防止ないし抑制され、マスタ16及び印刷画像の乱れや用紙Sのシワが防止ないし抑制される。また裏層82に孔99を形成するための構成を印刷装置100に必要とせず、かかる構成を搭載することによって生じる印刷装置100の高コスト化、大型化が問題となることもない。
またマスタ16は、中層83に、表層81に接した多孔性樹脂層84を有していることにより、表層81の平滑度が向上し、製版時の穿孔不良を低減でき、印刷画質が向上するとともに、用紙Sとの密着性が高くなり、インキを用紙Sに均一に付着させ、印刷画質が向上している。
多孔性樹脂層84により表層81の平滑度が高くなることで、印刷画質が向上する一方、この平滑度が高くなることでコート紙等の用紙Sが張り付きやすくなるが、版胴11との密着性の高い裏層82言い換えると平滑面82aを設けているので、マスタ16の浮きやシワは防止される。
印刷画質の向上の度合いは、マスタ16のシワが防止されることとの相乗作用により、極めて高い。
このように、マスタ16は、裏層82に孔99を形成するための構成を印刷装置100に搭載することによって生じる印刷装置100の高コスト化、大型化を防止しつつ、画質向上のために多孔性樹脂層84を表層81に接するように配すると用紙Sとの密着性が高まり版胴11からの浮きが生じて不具合を生じることを、裏層82によって防止ないし抑制する点において従来のマスタにない特異性を有する。またマスタ16は、印刷画質が極めて高い点においても従来のマスタにない特異性を有する。
一方、これに対し、例えば上記〔特許文献1〕に記載のマスタは、裏移りやダブリ画像の防止、インキの消費量低減という目的のために裏層に熱可塑性樹脂フィルムを積層したものとなっているため、表層に穿孔するためのサーマルヘッドのみならず裏層に穿孔するためのサーマルヘッドを備えており、本来的に回避すべき装置の高コスト化、大型化を生じている。
また同文献には、裏移りやダブリ画像の防止、インキの消費量低減という目的のために、かかる構成のマスタのほかに、版胴にマスタを2重に巻き付けた構成が記載されている。マスタを2重に巻き付けた構成では、版胴とマスタとの間及びマスタ相互間において浮きが生じるため、かかる不具合が相乗的に発生し得る。このように、同文献では、マスタの浮きやこれによる不具合に関する考慮はされていない。これに対し、マスタ16は、用紙Sとの密着性向上による画質向上と、版胴11からの浮きに起因する不具合の防止ないしは抑制とを同時に達成するものであり、従来のマスタからは予期し得ない特異性を有する。
また例えば同文献に記載されているように、表層と裏層とを熱可塑性樹脂フィルムとし、これらによって挟まれる中層を多孔性支持体によって形成したマスタや、上記〔特許文献2〕に記載されているように、熱可塑性樹脂フィルムの表層に多孔性樹脂層を積層したマスタが知られているが、画質が向上とすることが分かっていても、版胴からの浮きを考慮すると、多孔性樹脂層を表層に接するように配するということは通常考え難い。しかし、マスタ16は、裏層82との組み合わせにより、従来のマスタからは予期し得ない特異性を有するものとなっている。
図5を参照して、裏層82に対する孔99の形成態様について説明する。同図は、マスタ16を版胴11側から見た状態である。なお図5においては、マスタ16の構造の理解の容易のため、裏層82及び中層83の一部を表層81から剥がした状態を示しているが、実際には表層81、中層83、裏層82は全面にわたって一体となっている。
図5において、黒塗りの領域は、印刷装置100によって用紙Sに対して印刷可能な印刷可能領域86を示している。印刷装置100は最大でA3サイズの用紙Sに印刷可能であり、印刷可能領域86は、かかるサイズに対応した位置、大きさを占めている。
同図に示したのは、印刷可能領域86内の白抜きの「TR」の文字部については用紙Sにインキを付着させず、それ以外の印刷可能領域86には全面にインキを付着させいわゆるベタの状態でインキを付着させる場合である。
同図(a)に示したように、裏層82には、印刷可能領域86以上の範囲に対応した領域87に対して孔99を形成している。領域87は、副走査方向については印刷可能領域86とは無関係に、途切れることなく連続して延在する範囲となっているとともに、主走査方向については印刷可能領域86の外縁に沿うように印刷可能領域86を縁取った範囲となっている。これにより、領域87は、印刷可能領域86全体を含んだ範囲となっており、いわゆるベタの穿孔を行なった状態となっている。
表層81に対する穿孔の態様について説明する。表層81に対する穿孔はサーマルヘッド72によって行なうため、サーマルヘッド72の構成及び動作についても併せて説明する。
表層81には、サーマルヘッド72を用い、図5(b)に示したように、用紙Sにインキを付着させて印刷すべき画像の範囲すなわち印刷可能領域86内の「TR」の白抜きの文字部以外の範囲に対応した領域88に対して穿孔を行ない、多数の孔89を形成している。
領域87と領域88との関係について説明する。領域87は、表層81における穿孔領域である領域88を含むように形成されている。よって、版胴11から滲出したインキが、領域87、中層83を介して、領域88の範囲に供給され、領域88内の孔89を通過して用紙Sに付着し、所望の印刷画像を得る印刷が行われる。
主走査方向において、領域87の、領域86に対してはみ出す範囲の大きさは、領域88が印刷可能領域86の縁部に位置する場合にも孔89から用紙Sに向けて滲出し用紙Sに付着するインキの量が不足することのないように定められる。1つの孔の大きさ、孔相互間の間隔にもよるが、はみ出した範囲の幅は、1つの孔を1ドットというとき、10ドット以下とされる。版胴11は主走査方向において少なくとも領域87に対してインキを滲出するように構成されている。
これにより、領域88が印刷可能領域86のどの部分を占める場合であっても、領域88において領域88の全体にわたり均一な量のインキが用紙Sに向けて滲出するため、印刷画像の縁部においてインキ量が不足することがなく、よって印刷画像のボケが生じることがなく、良好な印刷が行われる。
なお、版胴11から剥がされたマスタ16に残存して印刷に使用されることのないインキの量を低減するという観点からは、領域87の、印刷可能領域86に対してはみ出した範囲は、1ドット以下とし、例えば、最も外側の孔が印刷可能領域86の内外に延在した状態とすることが望ましい。版胴11の副走査方向においてインキを滲出する範囲は、これらを考慮して、副走査方向において領域88の各端部からはみ出す範囲の大きさが、10ドット以下、ないし1ドット以下とされる。
図5に示したように、領域87、領域88においてそれぞれ、複数の孔99、89は、所定の間隔で一様に形成されている。孔99相互間の間隔は、マスタ16が版胴11から浮くことを防止する範囲内となっている。かかる所定の間隔は、かかる浮き防止の観点から、主走査方向と副走査方向とで互いに同じとなっている。
孔99の形成態様が領域87の全域にわたって一様となっていることは、浮きを発生させようとする応力を均一に分散させることとなり、領域87の全域にわたって穿孔がランダムに行われる場合に比べ、浮きの発生が抑制されるという利点を有する。
また領域87、88において穿孔状態が一様であることより、領域88に形成された孔89から領域88の全体にわたり均一な量のインキが用紙Sに向けて滲出するため、穿孔がランダムに行われる場合に比べ、一様で画像ムラを防止ないしは抑制した、良好な印刷が行われる。
領域88について、最適な穿孔を行なって良好な印刷画像品質を担保するため、サーマルヘッド72に対する穿孔のための印加エネルギーは、サーマルヘッド駆動手段75、コントローラ61によって、適宜調整されるようになっている。
印刷画像品質を測る1つの基準として、印刷画像の濃度がある。印刷画像品質を担保するためには、同濃度の低下は避ける必要がある。しかし、例えば、用紙Sがコート紙の場合には、穿孔の小面積化による画像濃度の低下が顕著に現れやすい。これは、コート紙はその表面加工によりインキが浸透しにくく、印刷状態をミクロ的に観察すると、ベタ部でも、単独印刷ドットの状態すなわち各孔89から吐出されたインキがそれぞれ分離した状態でコート紙に付着している状態となりやすく、その結果、インキ全体での付着量が同じであっても、見かけ上、印刷画像の濃度としては低下するためである。
そこで、コントローラ61は、表層81を最適な状態で穿孔して製版を行なうために、サーマルヘッド駆動手段75によってサーマルヘッド72に対して印加する印加エネルギーを制御するようになっている。ここに、コントローラ61は、印加エネルギー制御手段として機能する。
また、単独印刷ドットの状態を防止ないし緩和して印刷画像の濃度を増加させ印刷画像品質を担保するには、版胴11、マスタ16、用紙Sに対するプレスローラ12の圧力すなわち印圧を調節して、各孔89から吐出され用紙Sに付着したインキが互いにくっつき合うようにすることが有効である。よって、用紙Sがコート紙の場合には特に、印加エネルギーに加えて、印圧を大きくする必要がある。印圧を制御するために、コントローラ61は、圧力制御手段として機能するようになっている。
その他、インキの吐出量、用紙Sへのインキの付着量、マスタ15の浮き等に依存する印刷画像品質は、インキの種類、マスタ15の種類、サーマルヘッド72の温度、インキの温度に左右されるため、これらに対しても印加エネルギー、印圧を調整する必要がある。
そこで、印刷装置100においては、コントローラ61は、印加エネルギー制御手段として機能するとき、RAM64に記憶されている紙種情報、インキ種類情報、マスタ種類情報、サーマルヘッド温度情報、インキ温度情報に基づき、これらをパラメータとして、表層81に対して穿孔するための、サーマルヘッド72に対する印加エネルギーを、サーマルヘッド駆動手段75により制御するようになっている。
またコントローラ61は、圧力制御手段として機能するとき、RAM64に記憶されている紙種情報、インキ種類情報、マスタ種類情報、サーマルヘッド温度情報、インキ温度情報に基づき、これらをパラメータとして、プレスローラ12によってインキを用紙Sに付着させ担持させるために用紙Sを版胴11に巻装されたマスタ16に押圧する圧力すなわち印圧を、揺動手段47により、制御するようになっている。
印加エネルギー、印圧は、具体的には、次の表1に示すように制御する。
表1に示されているように、印加エネルギー、印圧はともに、用紙種類がコート紙である場合と非コート紙である場合とではコート紙である場合の方が大きくされ、インキ種類において粘度が高い場合と低い場合とでは高いほど大きくされ、マスタ15の種類がマスタ16である場合とマスタ17である場合とではマスタ16である場合の方が大きくされ、サーマルヘッド72の温度が低い場合と高い場合とでは低いほど大きくされ、インキ温度が低い場合と高い場合とでは低いほど大きくされる。
印加エネルギー、印圧を実際にどのような値にするかは、印刷装置100の構成等によって調整されるものであるためここには示さないが、上述の各パラメータに沿って印加エネルギー、印圧をそれぞれ決定するための印加エネルギー決定テーブル、圧力決定テーブルがROM62に記憶されており、印刷を行う場合には、これらのテーブルがROM62から読み出され、上述の各パラメータに応じて印加エネルギー、印圧が決定され、決定された値に応じて印刷が行われる。ここに、ROM62は、印加エネルギー決定テーブル記憶手段、印圧決定テーブル記憶手段として機能する。
なお、インキの粘度は、インキがエマルジョンインキであるか否かなどインキの種類そのものによっても異なるが、インキ温度とも相関しているため、インキの粘度の高低を定めるにあたっては、インキ温度情報も参照するようにしても良い。
表1には示していないが、印加エネルギー決定テーブル、印圧決定テーブルではそれぞれ、画像モード情報も、印加エネルギー、印圧を決定するのに用いるパラメータとして使用される。具体的には、画像モードにおいて文字モードが選択されたときであって用紙種類がコート紙である場合には、印加エネルギー、印圧をそれぞれ、画像モードにおいて写真モードが選択されたときや用紙種類が非コート紙であるときよりも大きくするようになっている。これは、コート紙に文字を印刷するときには、インキの浸透性が低い上に画像面積率が低いため単独印刷ドットの状態が特に生じやすく、印刷画像の濃度が低下しやすいため、印加エネルギー、印圧を特に大きくすることでかかる状態を解消することを狙ったものである。
印加エネルギーの決定、印圧の決定は、何れもコントローラ61で行なわれる。ここにコントローラは、印加エネルギー決定手段、印圧決定手段として機能する。
ここで、表層81、裏層82の解像度の関係について説明する。裏層82の解像度は、サーマルヘッド72の穿孔の解像度より低くすることが可能である。これは、裏層82に形成されている孔99は、中層83、表層81に対するインキ供給性を満たせばよいものであるため、画像に対応して表層81に対する穿孔を行なうサーマルヘッド72よりも、孔99の形成精度に対する要求が低いためである。
ただし、領域87における穿孔の面積すなわち各孔99の面積の総和は、かかる解像度、孔99相互間の間隔、印刷画像の濃度等を考慮したうえで、裏層82と版胴11との密着性を確保し、マスタ16が版胴11から浮くことを防止するための範囲内とされる。
すなわち、かかる面積が大きいと、版胴11に当接する面積が少なくなり、マスタ16の浮きが生じやすい。逆に、裏面82に対する穿孔の面積が小さいと、版胴11に当接する面積が大きくなり、マスタ16の浮きが生じにくくなるが、孔99の面積を小さくし過ぎると、孔99からのインキの透過量が少なくなり、印刷画像の濃度が低下してしまう。印刷画像の濃度は、上述のように印刷画像品質を測る1つの基準であるため、同濃度の低下は避ける必要がある。
そのため、かかる面積は、かかる解像度、孔99相互間の間隔等を考慮したうえで、マスタ16の浮きを防止ないし抑制しつつ、印刷画像の濃度を担保するように決定される。
また、かかるサーマルヘッド72の構成及び動作、コントローラ61による制御によって、裏層82に対する孔99の形成態様と表層81に対する穿孔態様とが互いに異なるように、表層81に対する穿孔が行われ得るようになっている。よって、領域88については印刷すべき画像に応じた最適な穿孔が行なわれるようになっている。
上述の構成に基づき、印刷装置100の動作を、マスタ16を用いる場合について説明する。
読み取り装置7に原稿がセットされ、オペレータにより製版スタートキー31が押下されると、これがCPU63に認識され印刷プログラムがROM62から呼び出され、読み取り装置7において原稿画像の読み取り動作が行われる。読み取り装置7で原稿画像の読取動作が行われると、排版部5が作動して、版胴11の外周面から使用済みのマスタ15が剥離される排版動作が行われる。
マスタ15の排版が終了すると、製版部3が作動することにより新たなマスタ16が製版される製版動作が行われ、製版されたマスタ16が版胴11に巻装される巻装動作が行われる。
製版動作においては、サーマルヘッド72により表層81に対して穿孔が行なわれるが、、穿孔のための印加エネルギーは上述のようにコントローラ61により適切に設定されている。
巻装動作が完了して印刷装置100が印刷待機状態となった後、オペレータによって印刷スタートキー32が押下されると、印刷動作が行われ、印刷処理が行われる。
すなわち、版胴11が回転駆動されると共に給紙部4より用紙Sが1枚分離給送され、給送された用紙Sはレジストローラ対22で一時停止された後、所定のタイミングで版胴11とプレスローラ12との間に向けて送られる。
版胴11が所定の角度まで回転すると、プレスローラ12が圧接位置を占めることにより用紙Sが版胴11上のマスタ16に圧接され、その表面に画像を転写される。このときプレスローラ12を揺動させる揺動手段47の印圧は、上述のようにコントローラ61により適切に設定されている。
インキを担持した用紙Sは、版胴11の回転により排紙部6に移動し、剥離爪23の先端によって版胴11の外周面に巻装されているマスタ16から剥離される。このとき、印加エネルギー、印圧が上述のようにコントローラ61により適切に設定されているため、どのような用紙種類、インキの種類、サーマルヘッド72の温度、インキの温度、画像モードであっても、表層81の平滑度が高く良好な印刷画像が得られるとともに、マスタ16は版胴11から浮くことが防止ないしは抑制され、用紙Sをマスタ16から剥離する過程でマスタ16が用紙Sに引き寄せられてマスタ16にシワが生じることが防止ないし抑制されて、印刷画像に乱れが生じることが防止ないし抑制され、またその後の印刷においてもマスタのシワに起因して印刷画像に乱れが生じたり用紙にシワが生じたりすることが防止ないし抑制される。
これはコート紙に対して印刷する場合にも変わることがなく、多孔性樹脂層84により表層81の平滑度が高く良好な印刷画像が得られるうえに、表層81の平滑度が高くコート紙のインキ吸収性が低い故にコート紙に密着し易く浮きが生じやすくとも、裏層82が版胴11に密着しているため浮きは防止ないし抑制される。
なお、ここで、一般的な傾向を示すものとして、多孔性樹脂層の有無によるマスタの平滑性の相違、及び、コート紙であるか否かによる印刷用紙の平滑性の相違を示しておく。測定値は、旭精工社製王研式平滑度専用機(型番:KB−65)による測定で得たものである。これらマスタに裏層は形成されていない。また上質紙は非コート紙の用紙のうち平滑度の高いものである。
<マスタ>
・多孔性樹脂層有り(リコー製TypeIマスタ):約30000(秒)
・多孔性樹脂層無し(リコー製VT−IIマスタ) : 約3000(秒)
<印刷用紙>
・コート紙(三菱製紙製パールコート紙68k):約7400(秒)
・上質紙 (王子製紙製OKプリンス55k) : 約60(秒)
このように、マスタは、多孔性樹脂層が有るものの方が、多孔性樹脂層が無いものに比べ、表面の平滑度が極めて高く、印刷用紙は、コート紙のほうが、非コート紙に比べ、表面の平滑度が極めて高くなっている。このことから、多孔性樹脂層が有るマスタによりコート紙に印刷を行う場合のこれらの密着性が、多孔性樹脂層が無いマスタにより非コート紙に印刷を行う場合のこれらの密着性よりも、極めて高くなることが分かる。マスタ16は、多孔性樹脂層84によって表層81の平滑性を極めて大きくして印刷画質を良好にしているとともに、裏層82により版胴11に対する密着性を極めて大きくしている。
剥離された用紙Sはベルト吸引搬送部24によって吸着された状態で搬送され、UV照射装置51に搬送される。用紙Sは、UV照射装置51においてベルト吸引搬送部52によって搬送され案内板53上を通過する。
このとき、インキが紫外線硬化型のインキであるとRAM64に記憶されている場合には、コントローラ61の制御により、UVランプ58が発光し、用紙Sに紫外線硬化型のインキを定着するとともに、オゾン排出手段が作動し、UVランプ58の発光により生じたオゾンを機外へと排出する。
インキが非紫外線硬化型のインキであるとRAM64に記憶されている場合には、コントローラ61は、UVランプ58、オゾン排出手段を非動作のまま維持する。なお、用紙Sがコート紙の場合には、インキの吸収性が低いため、通常、紫外線硬化型のインキが用いられ、UVランプ58、オゾン排出手段が作動することとなる。用紙Sが非コート紙の場合であるなど、エマルジョンインキを用いる場合にはインキは用紙に浸透し乾燥され、このときはマスタ15は従来のマスタ17であっても良好に印刷が行われる。
案内板53上を通過した用紙Sは、排出ローラ対55によって機外に排出され、エンドフェンス56によって先端を揃えられた状態で排紙トレイ57に積載される。このときインキは定着ないし乾燥しているため、いわゆる裏移り等が生じることはない。
以下、上述の動作が設定された印刷枚数を消化するまで繰り返され、設定された枚数の印刷動作が完了すると各部位の作動が停止する。
<実施例>
リコー製サテリオA650を改造して作成した孔版印刷装置100により、紫外線硬化型のインキを用いて、いわゆるベタの画像が得られるように穿孔製版を行ない、コート紙に印刷し、UV照射装置51によりインキを完全定着させた。
印刷の条件は次の通りである。
・環境 :25℃ 52%Rh
・製版解像度:600dpi
・使用マスタ:マスタ16(試作品)
・使用インキ:紫外線硬化型インキ(試作品)
・印刷用紙 :三菱製紙製パールコート紙68k
<比較例1>
一般的な孔版印刷装置により、エマルジョンインキを用いて、いわゆるベタの画像が得られるように穿孔製版を行ない、普通紙に印刷し、浸透乾燥させた。
印刷の条件は次の通りである。
・環境 :25℃ 52%Rh(実施例に同じ)
・製版解像度:600dpi (実施例に同じ)
・使用マスタ:リコー製TypeIマスタ(熱可塑性樹脂フィルム+多孔性樹脂層)
・使用インキ:リコー製TypeIエマルジョンインキ
・印刷用紙 :リコー製Type6200普通紙
<比較例2>
一般的な孔版印刷装置により、紫外線硬化型のインキを用いて、いわゆるベタの画像が得られるように穿孔製版を行ない、コート紙に印刷し、UV照射装置51によりインキを完全定着させた。
印刷の条件は次の通りである。
・環境 :25℃ 52%Rh(実施例に同じ)
・製版解像度:600dpi (実施例に同じ)
・使用マスタ:リコー製TypeIマスタ(比較例1に同じ)
・使用インキ:紫外線硬化型インキ(実施例に同じ)
・印刷用紙 :三菱製紙製パールコート紙68k(実施例に同じ)
図6に、これらの条件によって得られた印刷画像を示す。同図(a)、(b)、(c)はそれぞれ、実施例、比較例1、比較例2によって得られた印刷画像を示している。
同図から明らかなように、実施例、比較例1では所望のベタの画像が得られているが、比較例2では横方向である主走査方向に白スジ状の白抜けを生じた画像となっている。
これは実施例、比較例1ではマスタにシワが生じていないのに対し、比較例2ではマスタにシワが生じたことを示している。
実施例では、マスタの裏層が版胴に密着するため、マスタに密着し易いコート紙を用い且つ凝集力の高い紫外線硬化型のインキを使用して印刷を行ってもマスタが版胴から浮くことが防止されたことによって、マスタにシワが生じていない。
また、比較例1では、普通紙と凝集力が比較的低いエマルジョンインキを用いているため、用紙がマスタに密着しにくく、マスタが版胴に密着した状態が保たれることによって、マスタにシワが生じていない。
これに対し、比較例2では、マスタの版胴に対する密着力が弱く、マスタに密着し易いコート紙を用い且つ凝集力の高い紫外線硬化型のインキを使用して印刷を行ったためマスタが版胴から浮いてしまったことによって、マスタにシワが生じている。
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
たとえば、マスタが版胴から浮くことによるしわを低減するように、印加エネルギー、印圧を決定するにあたって用いる情報は、紙種情報、インキ種類情報、マスタ種類情報、サーマルヘッドの温度情報、インキ温度情報の少なくとも1つを用いれば良く、適宜これらを組み合わせて用いても良い。
版胴に巻き付けられたマスタに用紙を押圧する押圧手段として、本形態のようにプレスローラを用いるのでなく、圧胴を用いても良い。印刷装置は、版胴を複数備えているものであっても良く、また例えば複数の版胴を用いてカラー印刷を行うものであっても良い。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。