図1に、本発明を適用した印刷装置としての感熱デジタル製版一体型の孔版印刷装置の概略を示す。この孔版印刷装置100は、装置本体67の上部に、原稿画像を読取るためのイメージスキャナ61を備えている。このイメージスキャナ61は、コンタクトガラス62上にセットされた原稿を照明するためのランプ63や複数のミラー64、結像レンズ65及び1次元アレイ状のCCD66等により構成されている。
孔版印刷装置100は、イメージスキャナ61の下部に、回転自在に支持された版胴68を中心とする印刷部69と、感熱孔版原紙からなるマスタ70をロール状としたマスタロール70aと、マスタロール70aから引き出されたマスタ70を穿孔し製版済みのマスタ70を版胴68に供給する製版装置71とを備えている。
孔版印刷装置100はまた、版胴68の外周に、給紙される用紙としてのシートである印刷用紙Pを版胴68に押圧する押圧装置22と、版胴68から印刷用紙Pを剥離する進退自在な剥離爪75と、印刷工程の前に版胴68に巻き付けられた使用済みのマスタ70を剥離する排版装置76とを備えている。
孔版印刷装置100はまた、印刷部69に向けて印刷用紙Pを供給する給紙装置52と、剥離爪75によって版胴68から剥離された印刷用紙Pを搬送する用紙搬送装置84と、用紙搬送装置84によって搬送されてきた印刷済みの印刷用紙Pを積載する排紙トレイとしての排紙台85とを備えている。
孔版印刷装置100はまた、図2に示すように、孔版印刷装置100の使用環境を検知するための印刷環境検知手段47と、ユーザ等のオペレータすなわち操作者が孔版印刷装置100の操作を行うための操作パネル91と、孔版印刷装置100の動作等の全般を制御する制御手段としての制御部90とを備えている。
版胴68は、その内部に配設されたインキローラ72を含む図示しないインキ供給機構と、その外周の一部に配設された、製版済みのマスタ70の端部を把持する開閉自在のクランプ73と、図示しない開口部と非開口部とを備えた図示しない多孔性支持円筒体と、この多孔性支持円筒体の外周を覆う図4に示すメッシュスクリーン86とを有している。開口部は、インキ供給機構によって供給されるインキを透過させるための小さな孔が多数形成された部分であり、透過したインキが、メッシュスクリーン86から滲み出るように構成されている。
版胴68は、複数の印刷速度に対応してその回転速度を変えることが可能なように版胴駆動手段としての図2に示すメインモータ42を含む版胴68の図示しない駆動系を介して図1における時計回り方向である方向Aに回転駆動される。メインモータ42の駆動は制御部90によって制御される。
図1に示すように、給紙装置52は、昇降自在に設けられた印刷用紙Pを積載する給紙台81と、給紙台81の上方に配設された給紙ローラ82と、版胴68の回転運動に同期して駆動され、給紙ローラ82により繰り出された印刷用紙Pを印刷部69に給送するレジストローラ対83と、給紙ローラ82により繰り出された印刷用紙Pをレジストローラ対83に案内するとともに、レジストローラ対83から印刷部69に向けて給送された印刷用紙Pを印刷部69に案内するガイド板40、41と、給紙台81上の印刷用紙Pのサイズを検知する周知の構成の図2に示す用紙サイズ検知手段43とを有している。
給紙ローラ82は、給紙台81上に積載された印刷用紙Pのうち最上位の印刷用紙Pを繰り出すものであって、定位置において回転されるようになっている。給紙台81は、最上位の印刷用紙Pが給紙ローラ82に当接するよう、印刷用紙Pの枚数、厚さに応じて上昇、下降が制御される。用紙サイズ検知手段43は、印刷用紙Pのサイズに関する信号を制御部90に送信し、制御部90において用紙サイズが判別される。
用紙搬送装置84は、駆動ローラ55及び従動ローラ56と、駆動ローラ55及び従動ローラ56に巻き掛けられた排紙ベルトとしての搬送ベルト57と、搬送ベルト57に印刷用紙Pを吸着させるための吸着ファン58とを有している。
排紙台85は、印刷部69で印刷後の印刷用紙Pが排出され、この印刷用紙Pを積層保持するものである。
排版装置76は、版胴68からマスタ70を剥ぎ取って搬送するマスタ剥離装置53と、マスタ剥離装置53によって版胴68から剥ぎ取られ搬送されてきた使用済みのマスタ70を収納する排版ボックス54とを有している。
製版装置71は、プラテンローラ77及びこれに接離自在に対向配置された製版ヘッドとしてのサーマルヘッド78と、マスタロール70aからマスタ70を引き出してプラテンローラ77及びサーマルヘッド78に向けて搬送するローラ対74と、サーマルヘッド78によって穿孔され作成された製版済みのマスタ70を版胴68に向けて搬送するローラ対79と、製版マスタ20を所定長さに切断するカッタ80とを有している。
サーマルヘッド78は、マスタ70の幅方向である図1における紙面に垂直な方向に多数の発熱素子を並設されている。各発熱素子を発熱させるか否かの制御は制御部90によって行われる。
押圧装置22は、印刷用紙Pを版胴68上のマスタ70に押圧する押圧体としてのプレスローラ20と、プレスローラ20を版胴68に接離する方向に駆動する接離駆動手段を兼ね、プレスローラ20が印刷用紙Pを版胴68上のマスタ70に押圧する押圧力を調整することが可能となっている図2、図3、図4に示す押圧力調整手段21とを有している。なお、図3は押圧力調整手段21の正面図であり、図4(a)は押圧力調整手段21の一部の右側断面図であり、同図(b)は押圧力調整手段21の一部の底面図である。図4(b)において、符号Yは、版胴68の回転方向に垂直な、マスタ70の幅方向を示している。
図3又は図4に示すように、押圧力調整手段21は、プレスローラ20の支持手段23と、プレスローラ20の下方に当接しておりプレスローラ20を版胴68上のマスタ70に接離する方向Xにおいて押し上げ押圧する押圧部材としての押し上げコロ24と、押し上げコロ24を方向Xに変位させる押圧部材変位手段25とを有している。
支持手段23は、プレスローラ20の回転中心をなす軸26と、軸26を方向Xに変位自在に支持した軸受け27とを有している。
押圧部材変位手段25は、押し上げコロ24の回転中心をなす軸28と、軸28をその一端で回転自在に支持したアーム29と、アーム29の他端に回転自在に支持された軸30と、軸30を回転中心とする従動コロ31と、装置本体67に固設され軸28と軸30との間でアーム29を回転自在に支持した軸32とを有している。
押圧部材変位手段25はまた、一端を装置本体67に固設されているとともに、他端をアーム29において軸30と軸32との間に固定されており、アーム29を図3において軸32を中心に反時計方向に付勢し押し上げコロ24を上方に付勢する付勢手段としての引っ張りバネ33と、従動コロ31に下方から当接し引っ張りバネ33の付勢力に抗してアーム29を図3において軸32を中心に時計方向に駆動し押し上げコロ24を下方に変位させるためのカム34と、カム34の回転中心をなす軸35と、軸35を回転駆動するステッピングモータである押圧部材駆動手段36とを有している。
押圧部材駆動手段36は制御部90によって駆動され、これによりカム34が回転駆動され、カム34の大径部が従動コロ31に当接し従動コロ31を押し上げると、引っ張りバネ33の付勢力に抗して押し上げコロ24が下方に変位してプレスローラ20は版胴68から離間した位置に係止される。
一方、制御部90の制御によって押圧部材駆動手段36が駆動され、カム34が回転駆動されて、カム34の小径部が従動コロ31に当接すると、引っ張りバネ33の付勢力により従動コロ31が下方に変位し、押し上げコロ24が上方に変位してプレスローラ20を上方に押し上げ、プレスローラ20は版胴68に向けて移動し、印刷用紙Pを版胴68上に巻装されたマスタ70に押圧する。
押圧装置22は、押圧部材変位手段25が押し上げコロ24を上方に変位させ、プレスローラ20が上方に変位したときに、プレスローラ20と版胴68との対向部であるニップ部Nにおいて、プレスローラ20による押圧により、版胴68内部からメッシュスクリーン86を介しマスタ70の穿孔部分から滲出したインキを印刷用紙Pに付着させ、印刷を行う。
押圧力調整手段21のその余の詳細については後述する。
印刷環境検知手段47は、孔版印刷装置100の使用環境の温度を検知する温度検知手段としての温度検知センサ48と、同使用環境の湿度を検知する湿度検知手段としての湿度検知センサ49とを有している。温度検知センサ48、湿度検知センサ49によって測定する環境温度、環境湿度は、本形態では、巻き上がりに関係するインキの粘度に影響を与えやすい装置本体67内部のものである。環境温度、環境湿度は、巻き上がりに対するパラメータとして測定するものであり、必要に応じて装置本外67外部のものを測定してもよい。
操作パネル91は、孔版印刷装置100による印刷に際して必要な操作を行うための操作キー87と、孔版印刷装置100の状態などを操作者に報知するための表示を行う表示部96とを備えている。
表示部96は、タッチパネル式の液晶表示パネルであって、孔版印刷装置100の状態などを操作者に報知するための表示を行うようになっているとともに、その他、操作キー87のように、孔版印刷装置100に対する所定の操作を行うことができるようにもなっている。
操作キー87は、製版装置71における製版を開始させる製版開始命令信号を入力する製版スタートキー92と、印刷枚数等の数字を入力するテンキー93と、印刷速度を設定する印刷速度設定手段としての印刷速度設定キー94と、製版装置71における製版モードすなわち画像が文字であるか写真であるか、また濃く印刷するか薄く印刷するかなどを設定する製版モードキー88と、印刷用紙Pが普通紙であるか厚紙であるかなど紙種に関する情報を入力する紙種入力キー89とを含んでいる。
制御部90は、CPU97と、孔版印刷装置100の動作プログラム及びこの動作プログラムの動作に必要な各種データを記憶した第1の記憶手段としてのROM98と、孔版印刷装置100の動作に必要なデータを記憶する第2の記憶手段としてのRAM99等を備えた構成となっている。
CPU97は、イメージスキャナ61にて読み取った画像情報又は孔版印刷装置100に接続されたパーソナルコンピュータ等の外部入力装置から入力された画像情報に基づき、サーマルヘッド78の各発熱素子を発熱させるか否かの画像情報を生成する。
イメージスキャナ61にて読み取った画像情報、孔版印刷装置100に接続されたパーソナルコンピュータ等の外部入力装置から入力された画像情報は、一般に8ビットなどの多階調データであって、そのままでは、発熱するか否かのいずれかのみで制御されるサーマルヘッド78の発熱素子によってマスタ70を穿孔し所望の印刷画像を得ることができないためである。
そのため、CPU97は、かかる多階調データに基づき、サーマルヘッド78の各発熱素子を発熱させるか否かの1ビットの2値化された画像情報を生成する。この画像情報は、擬似濃淡画像を形成するものである。
RAM99には、上述の多階調データが格納され記憶される。画像情報はCPU97によって読み出され、上述の2値化された画像情報が生成される。RAM99には、かかる2値化された画像情報も格納され記憶されるが、多階調データは、2値化のためにCPU97によって読み出された後はRAM99から消去しても良い。RAM99は、多階調データとしての画像情報、2値化された画像情報を記憶する画像情報記憶手段として機能する。
RAM99にはまた、印刷速度設定キー94によって設定された印刷速度、製版モードキー88によって設定された製版モード、紙種入力キー89によって入力された紙種、用紙サイズ検知手段43からの信号によって判別した印刷用紙Pのサイズ、温度検知センサ48によって検知された温度、湿度検知センサ49によって検知された湿度などの各種印刷条件、具体的には巻き上がりに影響を与えるパラメータとなる印刷条件が格納され記憶される。ここに、RAM99は、かかる印刷条件を記憶する印刷条件記憶手段として機能する。
このような孔版印刷装置100全体の一連の印刷動作について説明する。この説明の後に、押圧力調整手段45を中心に押圧装置22の動作等をさらに具体的に説明する。
操作者が、イメージスキャナ61に原稿をセットし、製版スタートキー92を押下すること等により、製版開始命令信号が発せられると、イメージスキャナ61で原稿の読み取りが開始されるとともに、メインモータ42によって版胴68が方向Aに回転駆動され、この過程で図示しない使用済みのマスタが排版装置76によって版胴68から剥離され、廃棄される。
版胴68はさらに回転駆動され、その後クランプ73が図1における略右端位置を占めたところで停止する。版胴68が停止するとクランプ73が解放され、給版待機状態となる。
一方イメージスキャナ61で読み取った画像情報に応じて製版装置71にてマスタ70への製版が行われる。マスタ70の製版は、外部装置から入力された画像情報に応じて行うこともある。
マスタ70の製版は、プラテンローラ77及びローラ対74、79が回転しマスタ70を副走査方向に1ライン分搬送する度に、画像情報に基づいて生成された2値化データに応じてサーマルヘッド78の特定の発熱素子に電圧がパルス状に印加され、マスタ70を構成する熱可塑性樹脂フィルムを加熱穿孔し、主走査方向へのドット形成による製版を行うことによって実行される。
このようにして製版された製版済みのマスタ70は、ローラ対79により版胴68に向けて送り出され、その先端がクランプ73に進入すると、クランプ73が閉じられて、マスタ70の先端が挟持される。
クランプ73を閉じると版胴68の回転駆動を再開する。版胴68の回転速度はマスタ70の搬送速度と同速である。版胴68の回転により、製版済みのマスタ70が版胴68に備えられた多孔性支持円筒体の開口部を覆うようにして版胴68の外周面に巻き付けられていく。
製版が終了すると、カッタ80が作動してマスタ70を切断し、プラテンローラ79及びローラ対74、79の回転駆動が停止され、切断されたマスタ70は版胴68の回転に伴って版胴68に引き出され、版胴68への巻着が完了する。
この後に印刷処理が実行される。給紙台81の最上位の印刷用紙Pを給紙ローラ82により給紙し、印刷用紙Pの先端が停止状態のレジストローラ対83のニップ部に当接してその先端縁が揃えられる。
版胴68の回転に同期させてレジストローラ対83を駆動し、印刷用紙Pの先端がニップ部Nの近傍に至ったときに、押圧装置22においてプレスローラ20が上方に変位され、このプレスローラ20で版胴68上のマスタ70に印刷用紙Pを連続的に押し付けることにより、版胴68内のインキがマスタ70の穿孔部分から滲み出し、版胴68に巻着されたマスタ70が版胴68に密着するとともに印刷用紙Pに転写され、印刷が行われる。
印刷後の印刷用紙Pは、剥離爪75により版胴68から剥離され、版胴68の回転にともなって用紙搬送装置84に案内され、用紙搬送装置84より排紙台85に排紙され、積載される。印刷処理は、テンキー93で設定された印刷枚数の印刷が終了するまで繰り返される。版胴68の回転速度は、印刷速度設定キー94によって設定された印刷速度に対応するものであり、CPU97がメインモータ42を制御することによって調整されている。
このような印刷工程において、プレスローラ20によって版胴68上のマスタ70に押圧された印刷用紙Pが、マスタ70から印刷用紙Pに向けて滲出するインキによって、版胴68上のマスタ70に貼りつき、マスタ70からの印刷用紙Pの剥離が行われず、印刷用紙Pが装置本体67外に排出されなくなってしまう巻き上がりという問題を防止するため、孔版印刷装置100には、剥離爪75が設けられているが、剥離爪75を用いても巻き上がりが生じ得るため、孔版印刷装置100にはさらに、プレスローラ20が印刷用紙Pを版胴68上のマスタ70に押圧する押圧力を調整する押圧力調整手段21が備えられている。
しかし、押圧力調整手段21がかかる押圧力を調整するものであっても、かりに押圧力が印刷用紙Pの全面に対して常に一定であるとすれば、インキの滲出が少ない部分では押圧力不足で印刷画像にかすれが生じる可能性があり、また、インキの滲出が多い部分では押圧力が過剰となって剥離が不十分になる可能性がある。版胴68上のマスタ70への印刷用紙Pの付着力は、インキの滲出が多い部分では大きく、インキの滲出が少ない部分では小さいといったように、部分的に異なるためである。
そこで、押圧力調整手段21は、マスタ70における複数の領域ごとの、版胴68上のマスタ70に対する印刷用紙Pの付着力に応じて、かかる複数の領域ごとに、押圧力を調整するようになっている。
かかる複数の領域は、マスタ70を、版胴68の移動方向すなわち回転方向に沿った方向Aと、これに垂直な方向であるマスタ70の幅方向Yとに沿って複数に分割することによって得られるものである。
本形態においては、CPU97により、図5、図6に示すように、各方向A、Yにおいて3分割して仮想的に9つの領域D(D1ないしD9)を形成し、それぞれの領域DについてCPU97で付着力を算出し、算出した付着力に応じて押圧力を調整する。ここに、CPU97は、付着力算出手段として機能する。付着力の算出については後述する。
かかる分割及び押圧力の調整は、版胴68の回転方向Aに沿った方向のみならず、マスタ70の幅方向Yにおいても行うため、押圧力調整手段21は、方向Yにおいて押圧力を調整可能な構成となっている。
そのため、図4に示すように、押圧力調整手段21は、押し上げコロ24と押圧部材変位手段25との組を、方向Yにおいて、かかる3分割に対応して3組備えている。押し上げコロ24は、方向Yにおいて等間隔で並設されている。
押圧部材変位手段25において、図3に示したカム34は、方向Yにおいて3つ備えられており、同じく3つ設けられた押圧部材駆動手段36によりそれぞれ独立して駆動されるようになっている。なお押圧部材駆動手段36は1つのみ設け、押圧部材駆動手段36の駆動力を独立してそれぞれのカム34に伝達するようにしてもよい。
プレスローラ20は、方向Yにおける押圧力が同方向におけるそれぞれの領域Dにおいて異なることが可能なように、方向Xを含む、方向Yに垂直な方向に撓むことが可能な弾性体としての発泡ゴムによって構成されている。プレスローラ20を構成する弾性体としては、他にスポンジ等が挙げられる。
プレスローラ20が方向Yにおいて部分的に方向Xに撓むことを容易にするために、軸26は、方向Yにおいて2箇所に節点である切れ目を有し、3つに分割された構成となっている。なおこの分割の数は、プレスローラ20の意図しない撓みが防止ないし抑制される範囲で、4つ以上であっても良い。軸26は完全に分割せず、局所的にその径を細くしたものであっても良い。
またプレスローラ20が方向Yにおいて不均一に方向Xに撓んだり、方向Xに傾いたりすることを許容するために、軸受け27は、軸26を嵌入される、方向Xに長いスリット37を有しており、軸26を方向Xに摺動自在言い換えるとスライド自在に支持しており、スライド軸受けとなっている。
軸26と軸受け27がこのような構成となっていることにより、支持手段23は、プレスローラ20を、方向Yにおいて分割された領域Dのそれぞれに対応して、方向Xに変位可能に支持している。
カム34が独立して駆動され各カム34の位相が独立して調整されることにより、各押し上げコロ24がプレスローラ20を押し上げる押圧力は、それぞれ独立して調整可能となっていることから、押し上げコロ24は、プレスローラ20を、方向Yに沿った各領域Dのそれぞれに対応した圧力で方向Xに押圧することが可能となっており、プレスローラ20による押圧力は、方向Yにおいて、方向Yに沿った各領域にそれぞれに対応して調整可能となっている。
なお、押し上げコロ24は、上述の構成の支持手段23によって撓んだり傾いたりしやすくなっているプレスローラ20を下方から支持し、姿勢を安定させる機能も有している。
図5、図6を参照して、マスタ70を製版するための画像情報に基づいて行う付着力の算出について後述する。図5は、上述の多階調データによって構成された画像情報に基づいて付着力の算出を行う例を示しており、図6は、かかる多階調データを2値化した2値化データによって構成された画像情報に基づいて付着力の算出を行う例を示している。
図5に示すように、多階調データによって構成された画像情報に基づいて付着力の算出を行う場合には、付着力算出手段たるCPU97において、同図(a)に示す、多階調データによって構成された画像情報を、同図(b)に示すように、方向A、方向Yのそれぞれにおいて3分割して計9つの仮想の領域D1ないしD9を生成し、同図(c)に示すように、それぞれの領域Dごとに、画像の特徴量を算出する。
図6に示すように、2値化データによって構成された画像情報に基づいて付着力の算出を行う場合には、付着力算出手段たるCPU97において、同図(a)に示す、多階調データによって構成された画像情報を、同図(b)に示すように、発熱素子を発熱させるための製版データである2値化データに置き換えたうえで、同図(c)に示すように、方向A、方向Yのそれぞれにおいて3分割して計9つの仮想の領域Dを生成し、同図(d)に示すように、それぞれの領域Dごとに、画像の特徴量を算出する。同図(b)、(c)に示した画像は、1ビットのデータによって構成された擬似濃淡画像である。
このように、付着力算出手段としてのCPU97は、かかる領域Dを生成する領域分割部として機能するとともに、かかる特徴量を算出する特徴判別部として機能する。特徴量は、図5に示した場合では、輝度値、光学濃度の平均値、標準偏差等の種々の方法によって算出されるものであり、図6に示した場合では、発熱素子の発熱位置の密度言い換えるとマスタ70上に穿孔を行うことで形成される黒画素の密度等によって算出される。
図6に示した場合の特徴量の算出について、図7を参照してより詳細に説明する。同図(a)には、白抜きの丸で示した非穿孔部分を意味するドットの数と、黒丸で示した穿孔部分である黒画素の部分を意味するドットの数とが同数であって、単純密度が50%ずつとなった、マスタ70の一部の穿孔状態の拡大図が左右に並べて示されている。なお図示されている穿孔状態の周囲の不図示部分は非穿孔状態となっているものとする。
このような穿孔状態においては、左方の穿孔状態の方が、穿孔部分が集中しているため、インキが滲出して印刷用紙Pに付着したときに付着力が大きくなる。この現象によって生じる付着力の差は比較的大きいものであって、巻き上がりの発生に与える影響は大きい。そのため、左方の穿孔状態のほうが、付着力が大きいと判別する必要がある。しかしながら、単純密度で比較すれば、左右の穿孔状態でそれぞれ50%となっているため、付着力の大小を判別することができない。
そこで、図7に示した例では、単純密度とは異なる、平均集中度を、付着力の指標として用いている。平均集中度の計算は、左右の各穿孔状態を構成する各ドットについて、同図(b)に示すように、ドットを中心とする3×3の領域内において穿孔状態となっているドットの数の2乗を集中度とし、集中度の総和を、ドット数で除するという手法で行う。
この手法によれば、同図(a)に示されているように、左方の穿孔状態の平均集中度の方が大きくなり、平均集中度の大小が、付着力に等しい特徴量の大小に一致し、付着力の差が明確に区別されている。よって特徴量として平均集中度を求めれば、付着力が分かる。なお、同図(a)に示した各穿孔状態は、各領域Dの一部を拡大して示したものである。
多階調データによって構成された画像情報に基づいて特徴量、付着力の算出を行う場合はすでに述べたように輝度値、光学濃度の平均値、標準偏差等を用いるのであり、その具体的な手法は、図7を参照して説明した手法を見れば推察され得るものでありまたその手法には種々のものがあるためここでの説明は省略する。
制御部90は、このようにして求めた付着力に基づき、図5、図6に示した例において説明すると、付着力が大きい領域D9については押圧力を小さくし、付着力が小さい領域D3、D7については押圧力を大きくするといったように、各押圧部材駆動手段36を駆動する。
各押圧部材駆動手段36をどのように駆動すれば良いか、言い換えると、かかる押圧力に対応した各カム34の位相は、ROM98に記憶された、かかる特徴量言い換えると押圧力に対応するルックアップテーブルに基づいて、付着力算出手段たるCPU97によって判断される。
CPU97はかかるルックアップテーブルをROM98から読み出し、ルックアップテーブルを参照して、算出した押圧力に対応する各カム34の位相を選択する。
このように、ROM98はCPU97が算出した押圧力に対応する各カム34の位相を記憶した押圧力記憶手段として機能している。
制御部90は、選択された各カム34の位相にしたがって、各押圧部材駆動手段36を駆動する。このような制御により、制御部90は、方向Aに沿った複数の領域D例えば領域D1、D4、D7ごとの付着力に応じて、領域D1、D4、D7ごとに、押圧力を調整する。この場合には、領域D1、D4、D7に対応するカム34の位相を、版胴68の回転に同期させて変化させる。
したがって、例えば、方向Yに沿った各領域Dの付着力が互いに同じであるとともに方向Xに沿った各領域Dの付着力が互いに異なると判別されたときには、各カム34の位相は互いに同じとなるように制御されるとともに、各カム34の位相が版胴68の回転に同期して変化するように制御される。
また制御部90は、方向Yに沿った複数の領域D例えば領域D1、D2、D3ごとの付着力に応じて、領域D1、D2、D3ごとに、押圧力を調整する。この場合には、各カム34の位相を、領域D1、D2、D3の付着力に応じて変化させる。
したがって、例えば、方向Aに沿った各領域Dの付着力が互いに同じであるとともに方向Yに沿った各領域Dの付着力が互いに異なると判別されたときには、各カム34の位相は互いに異なるように制御されるとともに、各カム34の位相が版胴68の回転よらず一定に保たれる。
また、図5、図6に示したように、各領域Dの付着力が方向Aにおいても方向Yにおいても互いに異なる場合には、各カム34の位相は互いに異なるように制御されるとともに、各カム34の位相は版胴68の回転に同期して変化するように制御される。
このように、押圧力の調整は、マスタ70上において2次元的に行われる。
複数の領域Dの付着力は、以上述べたように、画像情報のみに基づいて算出されたものであっても良いが、画像情報に加え、巻き上がりに影響する印刷条件に基づいて算出されたものであることがより好ましく、本形態では印刷条件も付着力の決定に用いている。
印刷条件も加味するため、ROM98に記憶されているルックアップテーブルは、上述の特徴量に加えて、印刷条件もパラメータとしている。本形態では、印刷条件として、RAM99に記憶される、印刷速度設定キー94によって設定された印刷速度、製版モードキー88によって設定された製版モード、紙種入力キー89によって入力された紙種、用紙サイズ検知手段43からの信号によって判別した印刷用紙Pのサイズ、温度検知センサ48によって検知された温度、湿度検知センサ49によって検知された湿度などの各種印刷条件をすべて用いる。
CPU97は、特徴量を算出するとともに、RAM98に記憶されている各パラメータを読み出し、また、ROM98からかかるルックアップテーブルを読み出し、ルックアップテーブルを参照して、特徴量及び各パラメータによって決まる押圧力に対応する各カム34の位相を選択する。
制御部90は、選択された各カム34の位相にしたがって、各押圧部材駆動手段36を駆動し、すでに述べたのと同様の制御を行う。このような制御を行うシート押圧プログラムはROM98に記憶されている。このように、ROM98は、シート押圧プログラム記憶手段として機能するものである。
このような構成、制御により、画像の一部にベタ部が集中した場合にも、各領域Dにおいて押圧力が適切に調整され、巻き上がりが生じることがなく、またベタの少ない文字部や写真部で画像にかすれが生じることもない。
局所的な巻き上がりが低減ないし防止されるので、印刷用紙Pの剥離、搬送が良好に行われ、スキューが生じることが抑制ないし防止される。これにより、ジャムが抑制ないし防止されるとともに、排紙台85上における印刷用紙Pの揃えが向上する。
図8、図9に、押圧力調整手段21の変形例を示す。
図8に示す変形例は、支持手段23の構成、具体的には軸26の構成が上述のものと異なっており、図9に示す変形例は、支持手段23の構成、具体的には軸26の構成が異なっているとともに、コロ24と押圧部材変位手段25との組の数が異なっている。
図8に示す変形例では、軸26が接点を有しておらず、1本の部材となっている。ただし、プレスローラ20が方向Yにおいて部分的に方向Xに撓むことを容易にするために、軸26は、径が小さく撓みやすい、屈曲性の良好な部材によって構成されている。よって、上述と同様に制御すれば、巻き上がりが防止ないし抑制される。軸26が節点を有していないため、プレスローラ20が局所的に屈曲したり撓んだりすることがなく、印刷画像の濃度に不連続な部分が生じることがない。
図9に示す変形例では、軸26が接点を有しておらず、1本の部材となっており、また屈曲性の低い、比較的大きな均一な径を有するものとなっている。ただし、この場合にも押圧力を方向Yにおいて部分的に調整可能とするため、コロ24と押圧部材変位手段25との組が2組となっているとともに、それぞれの組がプレスローラ20の両端部分に位置するように配設されている。この場合には、方向Yに沿った領域Dは2つに限定されるが、上述と同様に制御することで巻き上がりが防止ないし抑制される。構造及び制御が簡易となる利点がある。
図10に、以上説明した押圧力調整手段21によって各コロ24による押上げ力が独立して制御され押圧力が方向Yにおいて分布を持つように調整される様子の一例を示す。同図では、押圧力が、同図における右側のほうが大きくなるように制御される場合を示している。
同図に示されているように、押圧力は、方向Yにおいて滑らかに変化し、押圧力の不連続な部分が生じていない。これは、プレスローラ20を弾性体によって構成したためである。よって、印刷画像の濃度に不連続な部分が生じることがなく、高画質の印刷物が得られる。なお、同図では、軸26が分割された構成の場合を示しているが、軸26が図8に示した構成の場合にも、押圧力は同様の分布を示す。ただし、図9に示した構成にあっては、押圧力は直線的に変化するが、この場合にも押圧力の不連続な部分が生じることはない。
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、複数の領域Dは、方向Aのみ、あるいは方向Yのみへの分割によって形成したものでも良い。分割は、上述の形態のように均等に行っても良いが、不均等に行っても良い。たとえば、プレスローラ20の自重による撓みが方向Yの中央部において生じやすいことを考慮して、方向Yの中央部における領域Dの幅を小さくするように、分割を不均等に行うことが可能である。この場合には、コロ24の配置は、領域Dの分布に合わせて行う。
本発明を適用する印刷装置は、上述の形態では孔版印刷装置としたが、他の構成の印刷装置であっても良いし、版胴は複数備られていても良く、また例えば複数の版胴を用いてカラー印刷を行うものであっても良い。押圧体はプレスローラでなく圧胴であっても良い。そのほか、シートを反転させる機構を備えることなどにより両面印刷を行うものであっても良い。
押圧装置の制御は、上述の形態では印刷装置本体側の制御手段を用いて行っているが、押圧装置の制御を行う制御手段を押圧装置に配設しても良い。
印刷に用いるシートとしては、一般にコピー等に用いられる普通紙の他、カード、ハガキ等の厚紙や、封筒等の記録媒体、印刷媒体を用いることができる。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。