白板紙は、通常3〜9層の多層構造からなる厚紙で、基紙の表面に顔料を塗工した塗工タイプと非塗工タイプとの2種類がある。これらはその用途、要求品質によって使い分けられているが、特に塗工タイプの板紙(以下、塗工板紙という)は、高級包装材料として美粧性に優れる化粧箱や石鹸用箱等の包装箱の他、美術本、絵本、カード、化粧品、医薬品等の厚手印刷物等にも古くから用いられている。
塗工板紙は、一般に表層、中間層及び裏層の少なくとも3層の多層構造からなる。該表層には、白色度の高い化学パルプが単独で、または白色度が高く夾雑物の少ない上質の古紙パルプと併用して用いられ、中間層には、化学パルプが単独で用いられるか、あるいは機械パルプや古紙パルプが用いられる。また裏層には、用途により、表面と同等の白色度が必要な場合は、表層と同様の化学パルプが単独で、または白色度が高く夾雑物の少ない上質の古紙パルプと併用して用いられ、その必要がない場合は、中間層と同様に白色度が同程度に低い機械パルプや古紙パルプが用いられる。
塗工板紙の原料パルプについては、他の板紙と同様に、環境保護、省資源、コストダウン等の観点から、板紙の多層構造を有効に利用しながら古紙パルプの利用が進み、古紙パルプの増配合も、もはや限界に近い状況となっている。
また塗工板紙には、その用途から、外観の美しさ、高い印刷適性、不透明度、包装箱への加工適性等が必要であり、通常基紙表面に顔料塗工が行われている。
塗工板紙に用いられる基紙は、多層構造であるがゆえに単層紙の洋紙に比べ、各層由来の原紙の凹凸により塗工層の被覆性に劣るという問題がある。そこで、該塗工層には、不透明度の高い二酸化チタンや有機顔料と、クレー、炭酸カルシウム、タルク等とを混合した顔料が用いられている。
しかしながら、二酸化チタンや有機顔料は、不透明性には優れるものの、コスト面において非常に高価な顔料であるため、これらに代わる各種提案がなされている。
例えば、特許文献1には、顔料とバインダーとを主成分として含有する2層の塗工層を有し、これら2層の塗工層のうち、下塗り層の顔料として構造化カオリンを含有し、かつ上塗り層の顔料として酸化チタンを含有する2層塗工板紙が、特許文献2には、表層が、特定範囲のカナダ標準濾水度となるように叩解されたパルプからなり、対パルプで10重量%以上の無機顔料を含む白板紙が、また特許文献3には、少なくとも3層からなる原紙の両面に下塗り層を設けて下塗り原紙とし、特定範囲のハイシェアー粘度を有する塗工液を、クロムメッキブレードによるベントブレード方式の塗工装置で、該下塗り原紙の両面に特定範囲の塗工速度条件で塗工する塗工白板紙の製造方法、及び該製造方法で製造される塗工白板紙が提案されている。
しかしながら、前記特許文献1に記載の2層塗工板紙は、2種の顔料を各々別々に含んだ塗工層が2層必要であり、また特許文献2に記載の白板紙は、特定のパルプと顔料とを組み合わせなければならず、さらに特許文献3に記載の塗工白板紙は、特殊な塗工液を特定の条件で塗工しなければならず、いずれの場合も、種々の条件を調整しなければならないため、製造工程での操作が煩雑である等のさらなる課題が生じたり、コスト面でも、従来の問題を改善するどころか、逆に高コスト化を招いてしまう恐れもある。
また、これまで原料パルプについては、環境保護、省資源の観点から古紙パルプの利用が進められてきた。ところが一方で、塗工板紙等に用いられているクレーや炭酸カルシウム、タルク等の顔料は、鉱物から新たに製造されるナチュラルな顔料であることから、近年は製紙工場で発生する製紙スラッジや焼却灰等を製紙用の顔料に利用するための技術開発が進められている。
一方、製紙工場においては、近年の微細繊維の多い古紙パルプの高配合化と用紙の軽量化、抄紙機の高速化に伴うワイヤーパートでの急激なそして強制的な脱水により、微細繊維の歩留まりや灰分の歩留まりが極めて低い状況下になっており、各製紙工程から排出される排水・脱水スラッジ等の製紙スラッジが増加している。
さらに、古紙パルプを使用した再生紙の生産比率の増加と古紙パルプの高配合化により、多くの古紙パルプが必要となり、古紙の使用量が増大している。この新聞古紙や雑誌古紙をはじめとした古紙には、非塗工紙に使用された填料や塗工紙に使用された填料・顔料に由来する無機物が多く含まれているため、古紙処理工程からは、パルプ繊維と分離され、填料・顔料の無機物が多量に含まれた脱墨フロスの発生量が増大している。
これら填料・顔料の無機物を多量に含む古紙処理工程から排出される脱墨フロス、各製紙工程から排出される排水・脱水スラッジ等の製紙スラッジは、従来は燃焼し、減容化を図った上で、多くは埋立処分されてきた。しかしながら、前記背景技術により、環境保護、資源保護、ゴミ減少に貢献できる再生紙の品質を維持、向上しながら継続的に製造するためには、製紙工場にとって、この製紙スラッジの再資源化、有効利用は重大な課題となってきている。
前記製紙スラッジは、多量の無機物を含有するため、燃焼しても多量の燃焼灰(無機物)が残り、減容化の効果が低い。そこで、この燃焼灰をセメント原料や土壌改良材として活用する等の努力もなされているが、これらの方法において、燃焼灰は助剤として使用されており、多量に使用されるわけではないため、結局、大部分の燃焼灰は埋立処分されることになる。
燃焼灰を有効に活用する方法として、例えば紙の塗工用顔料として使用することも考えられるが、燃焼灰は白色度が低いため、そのままの状態では塗工用顔料としての使用に適していない。
そこで、特許文献4には、燃焼灰(焼却灰)を再燃焼し、スラリー化及び湿式分散を行って白色度を向上させ、白色顔料とする方法が提案されている。
しかしながら、前記特許文献4に記載の焼却灰を再燃焼する方法の場合、未燃焼カーボンを完全に燃焼させるためには、再燃焼温度を500〜900℃に設定する必要があり、しかも焼却灰の白色度は50%程度にまでしか向上せず、紙の塗工用顔料としての使用に適したものではないことが知見された。また、再燃焼温度を900℃超に設定すると、燃焼灰(無機物)が焼結、溶融し、極めて硬くなることも知見された。
また、製紙スラッジの利用方法として、特許文献5には、紙繊維からの有機物を含む含水の製紙工場廃棄スラッジを、酸素含有ガスを注入した反応器内に供給し、250〜300℃、3000psig(プサイグ)程度の加温加圧下で0.25〜5時間酸化して、該廃棄スラッジ中の無機物を製紙用の顔料として再生する方法が提案されている。
しかしながら、前記特許文献5に記載の方法は、製紙スラッジの湿式空気酸化処理によるものであることから、有機物除去が充分ではなく、また得られた顔料の白色度が低く、粒子径も不揃いで、紙の塗工用顔料として使用するには不適切であり、しかも反応操作が複雑でコストが高いとう問題がある。
前記の他にも、特許文献6には、製紙スラッジをいぶし焼きしてPS炭とした後、さらにこれをキルンで焼却して製紙用の顔料となる白土を生成させる方法が提案されている。
しかしながら、前記特許文献6に記載の方法では、製紙スラッジをいぶし焼きするため、製紙スラッジからエネルギーを有効に取り出すことができないばかりか、逆に投入エネルギーが必要になるという大きなデメリットがある。さらに、生成した白土も粒子径が不揃いで大きく、紙の塗工用顔料としての使用は困難であるという問題がある。
またさらに、特許文献7には、排水に凝集剤を添加して造粒し、得られる成形汚泥をロータリーキルン内で連続して乾燥、炭化、焼成して製紙用の顔料を製造する方法も提案されている。この方法において、焼成に先立って造粒、成形するのは、焼成を均一に行うためである。
ところが、前記特許文献7に記載のように、例えば固形分濃度が40〜60%(換言すれば水分率が60〜40%)の成形汚泥をロータリーキルン内で連続して乾燥、炭化、焼成した場合、乾燥状態、炭化状態の如何にかかわらず、キルンの回転によって汚泥粒子の処理は強制的に進行する。したがって、乾燥が不充分であると粒子内部に未燃分が多く残留し、その結果、焼成が不完全となって白色度の低下が生じる。逆に過乾燥になると、焼成は完全であるが過焼成を招き、得られる再生粒子の硬度が高くなる。この再生粒子を使用すると、抄紙機でのワイヤー摩耗や紙を断裁する場合のカッター刃摩耗が生じ易くなるという問題を引き起こす。
特許文献8には、有機物と白色無機粒子を含む混合物を貧酸素状況下で炭化処理し、得られた炭化物を脱炭素し、さらにその白色度が70%以上となるように白化処理した白色無機粒子が記載されている。そしてこの白色無機粒子は、ペーパースラッジを処理して得られ、製紙用の顔料として使用可能であり、炭酸カルシウムとカオリンとを主要な構成材料とすることも特許文献8に記載されている。
また特許文献9には、例えばパルプ化工程での洗浄過程で発生したものや抄紙時にワイヤーを通過して白水に流出した有機物と白色無機粒子を含む混合物を、貧酸素状況下で炭化処理し、得られた炭化物を白化処理した再生顔料と、接着剤とを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙が記載されている。
しかしながら、特許文献8に記載の白色無機粒子及び特許文献9に記載の再生顔料は、各製造工程から発生した各種排水スラッジを集合させて処理した工場排水スラッジや微生物処理における余剰スラッジ(汚泥)といった、有機成分の含有量が多く品質変動が多い、単なる製紙スラッジを原料として得られるものであり、さらに特許文献8及び特許文献9に記載の方法では、有機物と白色無機粒子を含む混合物を貧酸素状況下で炭化処理するため、製紙スラッジからエネルギーを有効に取り出すことができないばかりか、逆に投入エネルギーが必要になるという大きなデメリットがある。さらに、生成物も粒子径が不揃いで大きく、安定した塗工層が得にくいため、紙の塗工用顔料に適していないという問題もある。
また特許文献10には、製紙スラッジを成形した成形物を炭化し、得られた炭化物を燃焼した後、燃焼灰を粉砕して得られた顔料を紙に塗工する技術が記載されている。
しかしながら、特許文献10に記載の顔料もやはり、各製造工程から発生した各種排水スラッジを集合させて処理した工場排水スラッジや微生物処理における余剰スラッジ(汚泥)といった、有機成分の含有量が多く品質変動が多い、単なる製紙スラッジを原料として得られるものであり、生成物も粒子径が不揃いで大きく、紙の塗工用顔料に適していない。
また特許文献11には、有機物と白色無機粒子の混合物を炭化処理した炭化物を脱炭素し、得られた再生粒子をさらにカチオン化高分子凝集剤により架橋吸着させた凝集物を紙に用いる技術が記載されている。
しかしながら、特許文献11に記載されているような架橋吸着による凝集物は、凝集させない場合に比較して歩留まりの向上にある程度寄与するとしても、その凝集構造が壊れ易く、所望の紙特性を担保することが困難と考えられる。
例えば前記特許文献4〜11に記載の、製紙スラッジを原料として製造した、従来の製紙用の顔料の最も大きな問題点は、原料とする製紙スラッジには、抄紙工程でワイヤーを通過して流出したもの、パルプ化工程での洗浄過程で発生した固形分を含む排水から回収したもの、排水処理工程において、沈殿あるいは浮上等を利用した固形分分離装置によりその固形分を分離、回収したもの、古紙処理工程での混入異物除去したもの等の各種スラッジが混在している点である。
前記各種スラッジのうち、例えば抄紙工程でワイヤーを通過して流出したスラッジには、紙力剤等が混入しており、また抄紙工程における抄造物の変更によってスラッジの品質に変動が生じる。
また排水から回収したスラッジには、凝集剤が混入しており、さらに工場全体の抄造物、生産量の変動や生産設備の工程内洗浄等により、スラッジの品質に大きな変動が生じる。
パルプ化工程での洗浄過程から生じるスラッジには、製紙用の顔料に適さない物質が混入していたり、チップ水分やパルプ製造条件の変動により品質に変動が生じてしまう。
したがって、種々の製紙スラッジを無選別に用いて紙の塗工用顔料を得ようとすると、その品質は低いものとなり、しかも品質の変動が極めて大きく、不安定なものとなる。
このように、従来の製紙スラッジを利用した方法は、いずれも単なる製紙用粒子の回収に終始しており、これらの方法で得られる製紙スラッジからの再生粒子は、特に成分が不安定なために紙の塗工用顔料としては品質が適さず、品質安定性に欠け、安定した塗工層が得難く、美粧性、印刷適性、製函時の罫線割れ等の問題を有するものである。
特開平6−166991号公報
特開平6−41896号公報
特開2001−271296号公報
特開平11−310732号公報
特公昭56−27638号公報
特開昭54−14367号公報
特開2004−176208号公報
特開2002−308619号公報
特開2003−119695号公報
特開2002−275785号公報
特開2003−119692号公報
本発明の塗工板紙は、前記したように、表層、中間層及び裏層の少なくとも3層からなる多層抄き板紙を基紙として、該基紙の少なくとも片面に、顔料とバインダーとを含む塗工剤により塗工層が形成されたており、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料とし、該主原料を脱水工程、乾燥工程、焼成工程及び粉砕工程を経て得られ、焼成工程において、粒子中にカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分が含有されるように凝集させた特定の再生粒子凝集体が、該塗工剤用の顔料として少なくとも含有されている。
まず、本発明に用いる基紙について説明する。本発明において、基紙は、表層、中間層及び裏層の少なくとも3層からなる多層抄き板紙である。本実施形態では、表層と、裏層と、これら表裏層間に配置される3層の中間層(中間層1、中間層2、中間層3)との5層の紙層により構成されている多層抄き板紙の場合を例に、詳細に説明する。なお、本発明に用いる基紙は、勿論このような構成に限定されるものではなく、本発明の目的を阻害しない範囲で、その構成を適宜変更することが可能である。
本発明の塗工板紙は、例えば美術本、絵本、カード、化粧品、医薬品等の厚手印刷物の他、特に高級包装材料として美粧性に優れる化粧箱や石鹸用箱等の包装箱に用いられることが多い。そのため、塗工板紙を構成する基紙の表層は、
(1)加工・製函・貼合適性に優れ、塗工板紙を容器等への加工する際の罫線割れを防止する
(2)中間層の着色を隠蔽する
(3)高い表面強度を有し、内容物を保管、保護する
(4)特定の再生粒子凝集体を少なくとも含有した顔料とバインダーとを含む塗工剤に対する塗工適性を有し、印刷適性に優れる塗工面を確保する
等の役目を担う層である。
表層を構成する原料パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等の古紙パルプ;ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の、公知の種々のパルプがあげられ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
これらの原料パルプの中でも特に、塗工板紙の表層の役割、塗工板紙としての各種品質特性等がバランスよく、効率的に達成されるように、LBKP、NBKP、上白古紙やケント古紙から製造された古紙パルプ、又は漂白脱墨古紙パルプを用いることが好ましい。
また、表層の原料パルプには、針葉樹クラフトパルプ(NKP)が全量の5〜70質量%含有されることが好ましい。さらにNKPの含有量が原料パルプ全量の25〜70質量%であると、得られる塗工板紙の破裂強度がより向上するとともに、加工・製函・貼合適性をさらに向上させることができ、罫線割れの発生をより効果的に防止することができるので特に好ましい。
なお、表層の原料パルプ全量におけるNKPの含有量が5質量%未満であると、繊維長が長く、繊維が太いNKPの含有割合が少なくなるため、破裂強度の低下や、製函加工時に罫線割れが発生し易くなる。一方、NKPの含有量が70質量%を超えると、地合ムラによる強度のバラツキ、見栄えの低下を招く恐れがある。
表層の付け量は、20〜80g/m2であることが好ましく、25〜75g/m2であることがより好ましい。かかる表層の付け量が20g/m2未満であると、表層の強度が低下するため、製函加工時に罫線割れ、角割れ等が発生し易くなる。一方、表層の付け量が80g/m2を超えると、中間層と比べて表層には高価な原料パルプが使用されているため、製造コストが増加する恐れがある。
なお、本明細書において「付け量(g/m2)」とは、以下のように層剥離を行い、各層の坪量をJIS P 8124に記載の「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した値である。
層剥離は以下の手順で行う。まず、各試料から得た各サンプルを室温の水に約1時間浸漬する。水に浸漬した各サンプルを、角を起点として10mmΦ程度の丸棒に巻き付けた後、丸棒を転がして各サンプルをしごく。この操作を各サンプルの四隅全ての角を起点に繰り返し、各方向からサンプルにしごきの力を加える。これにより、各サンプルの層間の一部が剥離してくるので、これを利用して、各層に分離して層剥離を行う。層剥離を行った後、各サンプルの各層を熱風乾燥機等で充分に乾燥し、試験に使用する。
さらに、表層の原料パルプのカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)は、280〜530ccとすることが好ましく、320〜430ccとすることがより好ましい。かかる表層の原料パルプのCSFが280cc未満であると、原料パルプの繊維長が短くなるため、塗工板紙の破裂強度が低下したり、加工・製函・貼合適性が低下し、製函加工時に罫線割れ、角割れが発生し易くなる。一方、CSFが530ccを超えると、繊維長が長く、顔料とバインダとを含む塗工剤が過剰に表層に浸透してしまい、効率的に断熱性、保温性を有する塗工層を形成することが困難となる恐れがある。
なお、本明細書において「カナディアンスタンダードフリーネス」とは、JIS P 8220に記載の「パルプ−離解方法」に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS P 8121に記載の「パルプのろ水度試験方法」に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
次に、本発明に用いる基紙の中間層及び裏層について説明する。該中間層及び裏層を構成する原料パルプとしては、前記表層と同様に公知の種々のパルプを使用することができる。これらの中でも特に、中間層及び裏層各々の役割、各種品質特性等がバランスよく、効率的に達成されるように、LBKP、NBKP、LUKP、NUKP、LSBKP、NSBKP、又は茶古紙やクラフト古紙から製造された古紙パルプを用いることが好ましい。
また、中間層及び裏層の原料パルプには、NKPが全量の5〜30質量%含有されることが好ましい。さらにNKPの含有量が全量の10〜80質量%であると、得られる塗工板紙の破裂強度がより向上するとともに、塗工板紙を容器等に加工する際の罫線割れ、角割れを効果的に防止することができる。一方、エネルギー原単位や環境に与える負荷の軽減を考慮すると、これら中間層及び裏層には、原料パルプとして古紙パルプを多く配合することが好ましい。
中間層及び裏層の付け量は、各々30〜70g/m2であることが好ましく、40〜65g/m2であることがより好ましい。かかる中間層及び裏層の付け量が30g/m2未満であると、本発明の塗工板紙を使用した包装箱における美粧性のほか、印刷適性、紙質強度、不透明度(中間層原料の隠蔽性)等を確保するためには、10層以上の多層構造とする必要があり、生産性、効率面で好ましくない。一方、中間層及び裏層の付け量が70g/m2を超えると、1層あたりの付け量が大きくなるため、抄紙機での脱水性が悪くなり、生産スピードの低下、断紙トラブルなどを招きやすい。
さらに、中間層及び裏層の原料パルプのCSFは、塗工板紙を容器等に加工する際の破裂、罫線割れ、角割れ等を効果的に防止するには、130〜400ccとすることが好ましく、さらに引張強度の低下防止には、180〜380ccとすることがより好ましい。
本発明に用いる基紙の製造方法には特に限定がないが、例えば次のような方法を採用することができる。まず、表層、中間層(中間層1、中間層2、中間層3)及び裏層各々について、原料パルプの種類及び量を適宜調整して配合した後、離解フリーネスを調整し、これに硫酸バンド、サイズ剤等の通常の添加剤を配合して原料スラリーを調製する。得られた各原料スラリーの付け量を各々調整して5層の紙層を抄き合わせ、プレス、乾燥処理等を施し、多層抄き板紙である基紙を製造する。
かくして得られる基紙の坪量には特に限定がないが、紙質強度の確保や軽量化を考慮すると、JIS P 8124に記載の「坪量測定方法」に準拠して測定して、150〜580g/m2程度であることが好ましい。
また基紙の吸水度にも特に限定がないが、JIS P 8140に記載の「紙及び板紙−吸水度試験方法−コッブ法」に準拠して測定して、30〜70g/m2、さらには35〜60g/m2であることが好ましい。かかる吸水度が30g/m2よりも低い場合には、塗工剤が付着し難くなる恐れがあり、一方70g/m2よりも高い場合には、塗工剤が選択吸収され、所定の白色度や光沢度、印刷適性を得るためには、塗工量を増加しなければ達成できない恐れがある。さらに、何れの場合でもストリークやスクラッチが発生し易くなる恐れもある。
本発明の塗工板紙は、前記基紙の少なくとも片面に塗工層が形成されており、該塗工層は、顔料とバインダーとを含む塗工剤によって形成される。以下に、該塗工層を形成するための塗工剤について詳細に説明する。
本発明において、塗工剤用の顔料には、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料とし、該主原料を脱水工程、乾燥工程、焼成工程及び粉砕工程を経て得られ、焼成工程において、粒子中にカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分が含有されるように凝集させた再生粒子凝集体が、少なくとも含有されている。塗工剤により形成される塗工層の表面には、印刷適性、製函適性等が求められることから、本発明においては、このように、特定の再生粒子凝集体が少なくとも顔料として配合される。
なお、前記再生粒子凝集体を調製する際には、後述するように、脱墨フロスの造粒工程、各工程間に設けられる分級工程等を経てもよい。また再生粒子凝集体の製造設備には、各種センサーを設け、被処理物や設備の状態、処理速度のコントロール等を行うことが望ましい。以下の具体的説明で示す移送流路、給送流路、排送流路、循環流路、返送流路等の各種流路は、例えば管、ダクト等で構成することができる。
前記再生粒子凝集体の主原料は、古紙から古紙パルプを製造する脱墨処理工程で発生する脱墨フロスである。特に古紙のリサイクル工程で排出される脱墨フロスが、製紙原料由来の材料からなり、鉄分やその他重金属等の不純物の混入が少ないので、好適である。そして、古紙再生工程では、あらかじめ古紙自体の選別を行うので、脱墨フロスは、その無機物の組成が経時的に安定したものであり、得られる再生粒子凝集体の組成も安定したものとなる。これら脱墨フロスには、無機物として例えば炭酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン、シリカ、アルミナ等が含有される。なお、本発明においては、かかる脱墨フロスを再生粒子凝集体の主原料とする。全原料における脱墨フロスの割合は固形分として50質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上とすることがより好ましい。
通常脱墨フロスは、水分率が95〜98質量%程度であり、凝集剤を加えてフロックを形成させ、脱水処理を行う。かかる脱水処理は、1段であっても複数段であっても実施可能ではあるが、フロックを固化させると、後の焼成工程において焼成ムラが生じる原因になるため、スクリュープレス等の脱水手段にて水分率を40〜70質量%まで脱水することが好ましい。水分率が40質量%未満では、脱水エネルギーコストが大きくなり、逆に70質量%を超えると、次の乾燥工程での乾燥エネルギーコストが大きくなったり、乾燥後の粒度にバラツキが生じる原因となり、結果として均一な焼成が困難になる恐れがある。さらには水分率を45〜60質量%に調整することが好ましい。
得られた脱水脱墨フロス(脱水物)は、あらかじめ乾燥される。乾燥手段としては、熱風乾燥等の公知の手段が使用可能であるが、脱墨フロスを乾燥させながらほぐすことが可能であり、さらに比重分級も可能な熱風乾燥手段を最も好適に使用することができる。
好適に使用することが可能な熱風乾燥手段を具体的に例示すると、脱水物を、インペラ等のほぐし設備にて、250〜3000μm、好適には355〜2000μm程度の体積平均粒子径となるようにほぐしながら、インペラ設備下方に設けた熱風吹出し手段にて熱風を吹き込み、熱風乾燥を行う。ほぐされ、乾燥された脱墨フロスのうち、比重の軽い脱墨フロスを、熱風乾燥手段の上部に設けた取出し口から排出させることで、乾燥と分級とを行うことができる。なお、乾燥脱墨フロスの分級には、好適な手段として、サイクロンによる分級手段を採用することもできる。
また乾燥・文級された脱墨フロス(乾燥物)の粒揃えは、粒子径が355〜2000μmのものが70質量%以上となるように調整することが好ましく、72質量%以上となるように調整することがより好ましく、80質量%以上となるように調整することが特に好ましい。このように、乾燥物を、粒子径が355〜2000μmのものが70質量%以上となるように製造すると、すなわち小径な粒子の乾燥物を除去すると、部分的な過焼が防止され、焼成がより均一になる。したがって、得られる再生粒子凝集体の品質を均一にするという観点における実用化の可能性高めることができる。さらに、このように乾燥後に分級すると、小径な粒子の乾燥物を確実に除去することができ、処理効率も向上する。
前記熱風乾燥手段を採用する際の熱風の温度は、乾燥工程に供する脱水物の水分率や、目的とする乾燥物の水分率を考慮して適宜調整することが好ましいが、例えば100〜200℃程度とすることが好ましい。
かくして乾燥工程を経た乾燥物の水分率は、2〜20質量%程度、さらには5〜15質量%程度に調整されていることが好ましい。乾燥物の水分率が2質量%よりも低いと、次の焼成工程で過焼する恐れがあり、逆に20質量%よりも高いと、乾燥不足により、焼成を確実に行うことが困難となる恐れがある。
次に、乾燥・分級された脱墨フロスは、焼成工程に送られる。焼成は、例えばロータリーキルン、流動床炉、浮遊炉、ストーカ炉等、通常用いられている焼却炉を用いて行うことができ、中でも、熱風炉や電気炉による間接加熱による方法が、焼成温度コントロール、焼成度合いの微調整が容易であるという点から特に好適である。例えばロータリーキルンを用いた焼成においては、直接加熱による焼成や間接加熱による燃焼を、単独で、又は組み合わせて行うことができる。例えば、一次焼成炉による一次焼成を直接加熱キルン炉で、二次焼成炉による二次焼成を間接加熱キルン炉、特に焼成温度の調整が容易に可能な外熱電気炉で、各々行う方法を採用することができる。
焼成工程は、一段階焼成とすることもできるが、少なくとも二段階焼成とすることが好ましく、連続する設備により少なくとも二段階焼成とすることがより好ましい。焼成工程が少なくとも二段階であると、有機物の燃焼による焼成において焼成ムラが生じにくく、満遍なく焼成を進めることが可能になる。特に焼成工程における物理的手段を相違させることで、偏った焼成を避け、焼成速度の向上を図ることが可能である。
焼成温度は、脱墨フロス中のカーボンブラック等のインク顔料や、繊維、ポリマー等の有機系化合物を燃焼し、その粒子中に、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分が含有されるように、かかる焼成工程において凝集された再生粒子凝集体が形成されるのに充分かつ安定した温度であればよく、特に限定されるものではない。
脱墨フロス中にシリカが含まれる場合には、シリカがカルシウム及びアルミニウムと反応し、硬度の高いケイ酸アルミニウムカルシウム等が生成する恐れがある。このような硬度の高い物質の生成を防止するために、例えば、500℃以下の温度で焼成することが検討されるが、このような条件では、有機化合物を完全燃焼させることが難しく、紙の塗工剤用として有用なレベルの白色度を有する再生粒子凝集体を得ることが困難となる恐れがある。
一方、焼成温度が1000℃を超えると、脱墨フロス中に含まれる炭酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン、シリカ、アルミナ等の無機物の分解及び焼結が進み、高硬度化するため、得られた再生粒子凝集体を所望の粒子径にまで粉砕するのに多大のエネルギーや時間を要する恐れがある。
このように、焼成温度は、製造される再生粒子凝集体の白色度、硬度に大きな影響力を有するので、焼成条件としては、一次焼成が510〜750℃で、二次焼成が500〜700℃で行われることが好ましく、一次焼成が520〜650℃で、二次焼成が500〜600℃で行われることがより好ましい。一次焼成温度が510℃未満である場合には、未燃物の残量が多く、再生粒子の凝集体形成が不充分であり、例えば得られる再生粒子凝集体の白色度が70%程度以上に達しない恐れがある。逆に一次焼成温度が750℃を超える場合には、脱墨フロスに含まれる炭酸カルシウムの多くが熱分解し、再資源としての使用が難しい、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム等の高pH化要因物質が多く生じる恐れがあり、また得られる再生粒子凝集体に熱溶融が生じ、極めて硬くワイヤー摩耗性が低下する恐れがある。一方、二次焼成温度が500℃未満である場合には、有機物の燃焼が不充分になったり、焼成ムラが生じ、得られる再生粒子凝集体の白色度が向上しない恐れがある。逆に二次焼成温度が700℃を超える場合には、焼成されて凝集した再生粒子凝集体の表面が高温に晒され、溶融が生じて極めて硬い溶融物を形成する恐れや、再生粒子の表面の高温化による燃焼のため、酸素が再生粒子芯部にまで行き届き難く、焼成ムラや未焼成部位の発生が懸念されることがある。また、二次焼成温度を一次焼成温度よりも10〜50℃低くすることで、再生粒子凝集体の表面の過焼を防止しながら、未燃物を燃焼させることができる。
なお、勿論、二次焼成温度を一次焼成温度と同温度とすることもできる。二次焼成温度を一次焼成温度と同温度とする場合は、例えば520〜600℃とすると、緩慢に焼成が進行し、未燃物を減少させることができ、白色度が70%以上、好適には80%を超える再生粒子凝集体を得ることができる。なお、本実施形態において、一次焼成温度と二次焼成温度との温度差は、焼成炉内上端部の温度を基準とする。
焼成工程は、この工程内に空気を送風する手段及びこの工程内から空気を排気する手段の少なくともいずれか一方によって、焼成工程内酸素濃度が0.05%以上に、さらには0.1%以上に調節されることが好ましく、また20%以下に調節されることが好ましい。特に、この焼成工程内酸素濃度は、一次焼成炉内上端部で0.05〜20%に、さらに好ましくは0.1〜20%に、より好ましくは5〜15%に、特に好ましくは7〜13%に調節されることが望ましく、二次焼成炉のバーナー近傍で10〜20%に、より好ましくは12〜18%に調節されることが望ましい。一次焼成炉内上端部での酸素濃度が0.05%未満であると、焼成が進まず、ムラのある焼成が進むだけでなく、焼成に膨大な時間とエネルギーコストとが必要になる恐れがある。他方、二次焼成炉のバーナー近傍での酸素濃度が20%を超えると、過焼しやすく、過焼ムラにより再生粒子凝集体が黄変化するととともに、再生粒子凝集体の溶融が多発して分解や酸化が進み、塗工剤用の顔料としての活用が困難になる場合がある。また、本実施形態においては、焼成工程に供給される、乾燥・分級された脱墨フロス(乾燥物)の水分率が、好ましくは2〜20質量%程度、より好ましくは5〜15質量%程度に調整されているため、焼成工程内酸素濃度を0.05〜20%とすると、極めて効率よく焼成を進行させることができ、焼成を90分間以内で行うことが可能になり、極めて高い生産性を得ることができる。例えば、乾燥物の水分率を10質量%とすることで、焼成を約60分間で行うことができる。
なお、焼成工程内の酸素は、焼成させるためのバーナー等によって消費され、焼成工程内酸素濃度が低下するが、空気等の酸素含有ガスを送風し、あるいは排気することで、酸素濃度を維持、調節することが可能であり、さらに酸素含有ガスを送風し、あるいは排気することで、焼成工程内の温度を細かく調節することが可能になり、再生粒子凝集体をムラなく万遍に焼成することができる。
一次焼成炉での焼成は、未燃率が5〜30質量%、さらには8〜25質量%、特に10〜20質量%となるように行うことが好ましい。一次焼成後の未燃率が5質量%未満では、焼成における粒子表面の過焼が生じ、表面が硬くなるとともに、内部の酸素不足が生じ、再生粒子凝集体の白色度が低下する恐れがある。他方、一次焼成後の未燃率が30質量%を超えると、後の燃焼焼成後においても未燃分が残ったり、未燃分の自燃による過焼成により粒子が硬化したり、未燃分が残るのを防止するために粒子表面が過焼するまで燃焼焼成してしまい、再生粒子凝集体表面が硬くなる恐れがある。
前記焼成後の粒子は、粉砕工程にて適宜必要な粒径に微細粒化し、該粉砕工程後に微細粒子を凝集させることなく、顔料として使用可能な再生粒子凝集体とすることができる。
例えば、焼成して得られた粒子を、ジェットミルや高速回転式ミル等の乾式粉砕機、又はアトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機を用いて粉砕し、目的とする再生粒子凝集体とすることができる。顔料としては、粒径が均一化、微細化されていることが好ましく、粒子径が1〜30μmである粒子割合が、80質量%以上であること、粒子径が40μm以上である粒子の割合が0.4質量%以下であることが好ましい。
再生粒子凝集体について、さらなる品質の安定化を求める場合には、再生粒子凝集体の粒度を各工程で均一に揃えるための分級を行うことが好ましく、粗大粒子や微小粒子を前工程にフィードバックすることが望ましい。
また、乾燥工程の前段階において、脱水処理を行った脱墨フロスを造粒することが好ましく、さらには造粒物の粒度を均一に揃えるための分級を行うことがより好ましく、粗大造粒粒子や微小造粒粒子を前工程にフィードバックすることで、より品質の安定化を図ることができる。なお造粒には、通常の造粒設備を使用することができ、例えば回転式、攪拌式、押出式等の設備が好適である。
さらに、再生粒子凝集体以外の異物を除去することが好ましく、例えば古紙パルプの製造工程において、脱墨工程の前段階のパルパーやスクリーン、クリーナー等で、砂、プラスチック異物、金属等を除去することが、除去効率の面で好ましい。特に鉄分は、酸化することによって再生粒子凝集体の白色度を低下させる恐れがあるので、鉄分の混入を避け、選択的に取り除くことが好ましい。各工程における設備を鉄以外の素材で設計又はライニングし、磨滅等により鉄分が系内に混入することを防止すると共に、乾燥・分級設備内等に磁石等の高磁性体を設置し選択的に鉄分を除去することが好ましい。
なお、前記乾燥工程や焼成工程、及び必要に応じて分級工程において、粉砕工程前にあらかじめ、粒子径が40μm以下の粒子が80質量%以上、さらには90質量%以上となるように処理しておくことが好ましい。これにより、通常行われている乾式粉砕による粗大粒子の粉砕及び湿式粉砕による微粒子化といった複数段の粉砕処理を行うことなく、湿式粉砕による一段粉砕処理も可能となる。またこれにより、レーザー粒径分布測定装置(レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2200型、標準屈折率(1)にて測定、(株)島津製作所製)による粒度分布の微分曲線における平均粒子径のピーク高さを30%以上とすることができる。さらには主原料である脱墨フロス中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムを、あらかじめ、例えば後述する質量割合に調整することで、再生粒子凝集体の細孔容積を0.15〜0.60mL/g、細孔表面積を10〜25m2/g、細孔半径を30〜100nmとすることもでき、再生粒子凝集体の分散性や基紙表面の被覆性を向上させることができる。
さらに本発明においては、塗工剤用の顔料である再生粒子凝集体として、前記のごとき工程を経て得られた再生粒子凝集体の表面をシリカで被覆した、シリカ被覆再生粒子凝集体を特に好適に用いることができる。
前記再生粒子凝集体の表面にさらにシリカを析出させ、シリカ被覆再生粒子凝集体とすることで、循環使用における古紙処理工程において、水酸化ナトリウムと反応させて緩衝剤や漂白助剤として製紙用原料、無機粒子の循環使用にも寄与させることができる。またかかるシリカ被覆再生粒子凝集体を顔料とした塗工剤を基紙に塗工した場合には、シリカで被覆していない再生粒子凝集体を用いた場合よりもさらに、不透明度、隠蔽性、嵩高性、印刷適性といった各効果を向上させることができる。
なお、本実施形態に用いられる古紙処理工程にて生じる脱墨フロスは、近年の中性抄紙化に伴い、炭酸カルシウムの含有量が増加傾向にあり、得られる再生粒子凝集体中のカルシウムの割合も高くなる傾向がある。このようにカルシウムの割合が高い再生粒子凝集体を含有した塗工剤を用いると、不透明度がやや低下する場合があるが、表面にシリカを析出させたシリカ被覆再生粒子凝集体は、製紙用途の再生粒子としての機能が非常に高く、該シリカ被覆再生粒子凝集体を含有した塗工剤を用いた塗工板紙の不透明度は、充分に向上する。
再生粒子凝集体の表面を被覆するシリカについては、天然に産出するシリカではなく、何らかの化学反応による合成シリカであれば特に制限なく使用することが可能である。具体的には、例えばコロイダルシリカ、シリカゲル、無水シリカ等があげられる。これらの合成シリカは、高比表面積、ガス吸着能の高さ、微細性、細孔への浸透力や吸着力の大きさ、付着性の高さ、高吸油性等の優れた特性を活かして、幅広い分野で利用されているものである。これらのうち、コロイダルシリカは、ケイ酸化合物から不純分を除去して無水ケイ酸ゾルとし、pH及び濃度を調整してゾルを安定化させた、球状、連鎖状、不定形等の形状を有する非晶質シリカである。シリカゲルは、ケイ酸ナトリウムを無機酸で分解することによって得られる含水ケイ酸である。また無水シリカは、四塩化ケイ素の加水分解によって得られるものである。
再生粒子凝集体の表面にシリカを析出させ、シリカ被覆再生粒子凝集体を得る方法には特に限定がないが、例えば以下の方法を好適に採用することができる。
まず、再生粒子凝集体をケイ酸アルカリ溶液に添加、分散させ、スラリーを調製した後に加熱攪拌しながら、液温を70〜100℃程度、より好ましくは密閉容器内で所定の圧力に保持して酸を添加し、シリカゾルを生成させる。次いで最終反応液のpHを8〜13の範囲に調整することにより、再生粒子凝集体の表面にシリカを析出させることができる。このようにして再生粒子凝集体の表面に析出されるシリカは、ケイ酸アルカリ(例えばケイ酸ナトリウム:水ガラス)を原料として、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸の希釈液と高温下で反応し、加水分解反応とケイ酸の重合化により得られる、粒子径が10〜20nm程度のシリカゾル粒子である。
また、ケイ酸ナトリウム溶液等のケイ酸アルカリ溶液に希硫酸等の酸を添加することによって生成する、粒子径が数nm程度のシリカゾル微粒子を、再生粒子凝集体の多孔性を有する表面全体を被覆するように付着させ、該シリカゾル微粒子の結晶成長に伴う、無機微粒子表面上のシリカゾル微粒子と再生粒子凝集体に包含されるケイ素やカルシウム、アルミニウムとの間で生じる結合により、再生粒子の表面にシリカを析出させることもできる。この場合、ケイ酸アルカリ溶液に酸を添加する際のpHは、中性〜弱アルカリ性の範囲とし、好ましくはpHを8〜11の範囲に調整する。これは、pHが7未満の酸性条件になるまで酸を添加してしまうと、シリカゾル粒子ではなくホワイトカーボンが生成する恐れが生じるからである。
なお、前記ケイ酸アルカリ溶液の種類には特に限定がないが、入手が容易である点からケイ酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)が特に望ましい。かかるケイ酸アルカリ溶液の濃度としては、再生粒子凝集体中のシリカ成分が低下し、再生粒子凝集体の表面にシリカが析出し難くならないようにするには、溶液中のケイ酸分(SiO2換算)が3質量%以上であることが好ましく、再生粒子凝集体の表面に析出されるシリカが、シリカゾルの形態からホワイトカーボンになり、再生粒子凝集体の多孔性が阻害され、不透明度や印刷適性の向上効果が不充分になる恐れをなくすには、かかるケイ酸分が10質量%以下であることが好ましい。
このように、本発明に用いられる再生粒子凝集体は、その粒子中に、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分を含有している。塗工層表面のX線マイクロアナライザー(型番:E−MAX・S−2150、(株)日立製作所/(株)堀場製作所製)による元素分析において、該再生粒子凝集体の粒子構成成分には、酸化物換算で、カルシウムとケイ素とアルミニウムとが、20〜82:10〜40:8〜40の質量割合で含まれていることが好ましく、該質量割合は、さらには40〜82:10〜30:8〜30、特に60〜82:10〜20:8〜20であることが好ましい。
また、特に再生粒子凝集体がシリカ被覆再生粒子凝集体である場合には、塗工層表面の前記X線マイクロアナライザーによる元素分析において、該シリカ被覆再生粒子凝集体の粒子構成成分には、酸化物換算で、カルシウムとケイ素とアルミニウムとが、10〜80:10〜80:5〜29の質量割合で含まれていることが好ましく、該質量割合は、15〜80:15〜80:5〜25であることがさらに好ましい。
また、前記再生粒子凝集体(以下、シリカ被覆再生粒子凝集体を含む概念として記載する)において、酸化物換算のカルシウムとケイ素とアルミニウムとの合計含有割合は、再生粒子凝集体の粒子構成成分中の85質量%以上、さらには90質量%以上であることが好ましい。
本発明に用いられる再生粒子凝集体は、ケイ素を含むところ、ケイ素からなるシリカの粒子は微細なので、光学的屈折率が高い。したがって、例えばケイ素が酸化物換算で前記質量割合以上含有されている再生粒子凝集体を顔料とし、かかる顔料を含有した塗工剤を基紙に塗工した塗工板紙は、不透明度が特に高い。
また、例えばカルシウムが酸化物換算で前記質量割合以上含有された再生粒子凝集体を顔料とし、かかる顔料を含有した塗工剤を基紙に塗工した場合には、特に得られる塗工板紙の白色度を向上させることができる。
再生粒子凝集体の粒子構成成分中のカルシウムとケイ素とアルミニウムとの質量割合を、酸化物換算で前記範囲内に調整するには、本来、脱墨フロスにおける原料構成を調整することが好ましいが、乾燥工程や焼成工程、さらには必要に応じて分級工程において、由来が明確な塗工フロスや調整工程フロスをスプレー等で含有させる方法や、焼却炉スクラバー石灰を含有させる方法を採用することも可能である。
例えば、再生粒子凝集体中のカルシウムの調整には中性抄紙系の排水スラッジや、塗工紙製造工程の排水スラッジを、ケイ素の調整には不透明度向上剤として多量添加されている塗工紙製造系の排水スラッジを、アルミニウムの調整には酸性抄紙系等の硫酸バンドが使用された抄紙系の排水スラッジや、クレーの使用量が多い上質紙抄造工程の排水スラッジを適宜用いることができる。
また再生粒子凝集体において、カルシウムとケイ素とアルミニウムとの合計含有割合を酸化物換算で85質量%以上に調整するには、例えば排水スラッジの凝集処理に鉄分を含有しない凝集剤を使用する手段、製造設備工程を鉄以外の素材で設計又はライニングし、摩滅等により鉄分が系内に混入するのを防止したり、さらには乾燥・分級設備内に磁石等の高い磁性体を設置して鉄分を除去する手段等を採用することが可能である。特に鉄分は、酸化により白色度を低下させる起因物質になるため、選択的に除去することが好ましい。
ところで、炭酸カルシウムには、六方結晶系のカルサイト結晶(方解石)や、斜方結晶系のアラゴナイト結晶(あられ石)等の同質異像が存在する。天然に産する石灰石はその殆どがカルサイト結晶であり、貝殻類にはカルサイト結晶のほか、アラゴナイト結晶も存在する。さらに炭酸カルシウムには、天然ではないが、バテライト結晶も存在する。前記脱墨フロスから得られるカルシウムは多種多様であるが、焼成凝集化することでほぼ均一の炭酸カルシウム性状となる。したがって、かかるカルシウムは再生粒子凝集体そのものの品質安定性に寄与し、該再生粒子凝集体は、カルシウム、ケイ素、アルミニウムといった異なる成分で構成される凝集体でありながら、安定した性状を示す。
また再生粒子凝集体にはケイ素が含まれるが、該ケイ素からなるシリカの1次粒子は微細であるので、光学的屈折率が高い。したがって、例えばケイ素が酸化物換算で前記質量割合以上含有された再生粒子凝集体を顔料とし、かかる顔料を含有した塗工剤を基紙に塗工した場合には、特に得られる塗工板紙の不透明度を向上させることができる。
さらに本発明に用いられる再生粒子凝集体は、柔軟かつポーラスな性状を有するので、嵩高な紙層形成に寄与することができる。
本発明に用いられる再生粒子凝集体の粒子径は、該再生粒子凝集体を含有する塗工剤の塗工適性の維持という点から、そのメタノール分散溶液をレーザー粒径分布測定装置(レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2200型、標準屈折率(1)にて測定、(株)島津製作所製)にて測定して、平均粒子径が0.05μm以上、さらには0.3μm以上であることが好ましく、また印刷適性の維持と搬送性という点から、平均粒子径が16μm以下、さらには10μm以下であることが好ましい。
また、粒子径の体積分布において0.05〜10μmである凝集体の割合を80質量%以上に、かつ該粒子径の体積分布において20μm以上である凝集体の割合を0.5質量%以下に調整することがより好ましい。
再生粒子凝集体は、印刷適性、特に印刷光沢やインク乾燥性が向上し、罫線割れ抑制に対する適性にも優れることから、顔料全量中に5〜100質量部、さらには10〜90質量部の割合で含有されることが好ましく、20〜80質量部含有されることが最も好適である。
本発明に用いられる塗工剤用の顔料としては、前記特定の再生粒子凝集体の他にも、例えば、カオリンクレー、デラミネーテッドクレー等の高アスペクトクレーといった、例えばアスペクト比が20以上の高アスペクト顔料、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、ケイ酸アルミニウム、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成非晶質シリカ(ホワイトカーボン)、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、多孔性合成非晶質シリカ、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナ等の無機顔料;スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料といった、一般に塗工剤に配合される顔料の中から、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
なお、前記特定の再生粒子凝集体と共に他の顔料を塗工剤用の顔料として用い、塗工層を形成する場合には、該塗工層中の再生粒子凝集体の平均粒子径は、前記したように、0.05〜16μmの範囲内に設定されていることが好ましい。さらに、塗工層中の再生粒子凝集体の平均粒子径が、該塗工層中の他の顔料の平均粒子径よりも小さくなるように設定されている場合には、比較的柔軟な再生粒子凝集体が塗工層中の他の顔料の形状と平坦に組み合わされ、顔料に由来する塗工層表面の凹凸やうねりが小さくなり、塗工層表面が充分に平坦化されるという利点がある。
さらに本発明においては、前記顔料と共に、バインダーが塗工剤に配合される。
本発明に用いられるバインダーとしては、特に前記再生粒子凝集体との接着性が良好であるという点から、アニオン性バインダー、両性バインダー又はノニオン性バインダーが好ましく、例えばスチレン・ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス;アクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系共重合体ラテックス;エチレン・酢酸ビニル重合体等のビニル系重合体ラテックス;これら各種重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ溶解性、アルカリ膨潤性又はアルカリ非溶解性の重合体ラテックスといったラテックス類があげられるが、これらの中でもスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスを特に好適に用いることができる。
本発明において、バインダーとしてスチレン・ブタジエンラテックスが特に好ましい理由は、次のとおりである。本発明の塗工板紙が包装容器等に加工される際には、罫線部(折り曲げ部)に強い折り曲げの力が加わるが、このように強い折り曲げの力が加わった場合であっても、塗工層が割れないこと、すなわち罫線割れが発生しないことが要求される。すなわち、詳細な理由は定かではないが、罫線割れ抑制に対する適性の評価において、各種バインダーの中でもスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスは、再生粒子凝集体との接着性が良好であり、また折り曲げ時の伸びに優れる柔らかい性状(以下、折り曲げ適性ともいう)に基づいて、本発明の塗工板紙を包装容器等に加工する際の罫線割れの問題が特に発生し難いものである。
アニオン性バインダーとしては、例えば日本エイアンドエル(株)製、JSR(株)製、旭化成ケミカルズ(株)製の代表的なスチレン・ブタジエン共重合体ラテックス等があげられる。また両性バインダーとしては、例えば三井サイアナミド(株)製のアコスターC122(商品名)、日本ゼオン(株)製のNipol LX407BP(商品名)等があげられる。またノニオン性バインダーとしては、例えばクラリアント社製のモビニール730(商品名)、第一工業製薬(株)製のスーパーフレックスE−4500やスーパーフレックスR−5000(いずれも商品名)等があげられる。
また、バインダーとして近年利用が進んでいる澱粉やカゼインが有する機能をラテックスに持たせ、ラテックス単独バインダー系としたソールバインダーラテックスも好適に使用することができる。
さらに、バインダーのガラス転移温度(以下、Tgともいう)が好ましくは−50〜30℃、さらに好ましくは−30〜20℃である場合には、塗工時の塗工剤の粘度が低く、また折り曲げ適性にも優れ、しかも乾燥後は塗工板紙の表面強度の向上効果を得ることができるとともに、塗工板紙の加工・製函・貼合適性がさらに優れたものとなるといった利点がある。
また各種スチレン・ブタジエンラテックスの中でも、単量体成分としてのアクリロニトリルを含んでいないか、含んでいたとしても30質量%以下に設定されたラテックスであって、Tgが−30〜0℃、平均粒子径が70〜170nmで、かつゲル含有量が80〜90%であるものが特に好ましい。
スチレン・ブタジエンラテックスの、単量体成分としてのアクリロニトリルについては、次のことがいえる。アクリロニトリルを単量体成分として多く含むラテックスは、表面処理工程において黄変しやすく、また経時においても黄変しやすいことから、耐候性に難点があり、最終製品である塗工板紙において色調ばらつきを発生させてしまう傾向があるため、アクリロニトリルが含まれていないか、その含有量が少ないラテックスが好ましい。ただし、ラテックスに単量体成分としてのアクリロニトリルが含まれている場合には、塗工剤中のラテックス配合量を低減しつつ、例えば包装箱や厚手印刷物に使用する塗工板紙に必要な表面硬度を付与することができ、しかも印刷光沢度がさらに向上するという利点があることから、例えば30質量%以下の少量で含まれていてもよい。これらを考慮すると、アクリロニトリル含有量が1〜30質量%、さらには3〜25質量%に設定されているラテックスが特に好適に用いられる。なお、このような所定のラテックスは、ブタジエン、アクリロニトリル、スチレン、アクリル酸、ブチルアクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリル酸、酢酸ビニル等の単量体成分を適宜配合して重合させることにより製造することができる。
また、スチレン・ブタジエンラテックスのTgが−30〜0℃の範囲内であることが好適な理由は、次のとおりである。すなわち、ラテックスのTgが0℃を超えると、耐べたつき性が悪化し、操業性が低下してしまう傾向がある。より詳しく説明すると、単量体成分としてのアクリロニトリル含有量が多い場合には、Tgが高く設定されていても耐べたつき性の悪化を抑制することが可能であるが、前記したように、アクリロニトリル非含有又はアクリロニトリル少量含有のラテックスが好ましく、このようなラテックスでは、Tgを低く設定しなければ耐べたつき性の悪化を抑制することが困難である。一方、ラテックスのTgを−30℃よりも低くしたとしても、−30℃の場合と比較して耐べたつき性の向上効果には殆ど差異がみられない。なおラテックスのTgは、温度20℃、相対湿度65%の条件下でラテックスフィルムを作製し、その20mgを、示差走査熱量測定装置(DSC)で昇温速度5℃/分、測定温度0〜100℃で得られる特性曲線から求めることができる。
また、スチレン・ブタジエンラテックスの平均粒子径が70〜170nmの範囲内であることが好適な理由は、次のとおりである。すなわち、平均粒子径が70nm未満であると、塗工性が低下して被覆性が悪化する傾向があり、逆に平均粒子径が170nmを超えると、充分な接着強度や表面強度が得られず、耐べたつき性が悪化してしまう傾向がある。換言すれば、平均粒子径が上記範囲内であるラテックスを用いた場合には、例えば包装箱や厚手印刷物に使用する塗工板紙に必要な接着強度及び表面強度が得られると共に、良好な塗工性を確保することができるという利点がある。なお、ラテックスの平均粒子径は、濃度が0.05〜0.2質量%となるように希釈した試料の、波長525nmにおける吸光度を測定し、あらかじめ作成しておいた検量線を用いて測定することができる。
さらに、スチレン・ブタジエンラテックスのゲル含有量が80〜90%の範囲内であることが好適な理由は、次のとおりである。すなわち、ゲル含有量が80%未満であると、表面強度不足で操業性の悪化を招来する傾向があり、一方、ゲル含有量を90%よりも高くしても、90%の場合と比較して耐べたつき性の向上効果に殆ど差異がみられない。そして、該ゲル含有量は接着強度の指標であり、80〜90%という高い範囲内に設定することによって、表面強度を付与する効果があるアクリロニトリルが、前記のごとく非含有あるいは少量含有であっても、例えば包装箱や厚手印刷物に使用する塗工板紙に必要な表面強度を確保することが可能になる。なお、ゲル含有量は、下記の数式(1)にて算出される値である。
ゲル含有量(%)=(乾燥フィルム重量−トルエン可溶分重量)×100
/乾燥フィルム重量 ・・・(1)
乾燥フィルム重量:ラテックス約0.3gをスライドグラス上に薄く広げ、50℃の乾燥
機でフィルムとなるまで乾燥させて得た乾燥フィルムの重量
トルエン可溶分重量:得られた乾燥フィルムを約50mlのトルエン中に一昼夜浸漬し、
ガラスフィルターでろ過し、ろ物とろ液とに分離した後、このろ液
を105℃の乾燥機で乾燥し、トルエン可溶分の重量を測定した値
塗工剤における顔料とバインダーとの配合割合は、顔料100質量部に対してバインダーが5質量部以上、さらには8質量部以上となるように設定されていることが好ましく、また20質量部以下、さらには18質量部以下となるように設定されていることが好ましい。バインダーの配合量が少なすぎる場合には、基紙に対する塗工剤の付着性が不充分となる傾向や、例えば包装箱や厚手印刷物に使用する塗工板紙に必要とされる接着強度や表面強度が不充分となる傾向がある。逆にバインダーの配合量が多すぎる場合には、顔料として前記特定の再生粒子凝集体を用いた効果が充分に発現され難くなる傾向や、塗工剤中のアクリロニトリルの絶対量が多くなって、耐候性が悪化したり、製造コストが上昇する傾向がある。換言すれば、顔料に対するバインダーの配合割合を前記範囲内に設定することにより、基紙と塗工層との接着性が良好であり、必要最小限の接着強度及び表面強度を確保しつつ、耐候性に優れる他、優れた不透明度や紙力が付与され、印刷適性及び製函時の罫線割れにも優れた塗工板紙を得ることができる。
さらに本発明においては、例えば酸化澱粉、変性澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、カルバミン酸澱粉等のエステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;ポリビニルアルコール等の合成樹脂接着剤;カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白類といった水溶性接着剤等の接着剤や、澱粉類、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の高分子材料を成分とする表面処理剤や、消泡剤、耐水化剤、表面サイズ剤、防腐剤等の各種助剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で塗工剤に適宜配合することができる。
塗工剤を調製する方法には特に限定がなく、顔料及びバインダーや、必要に応じて接着剤、表面処理剤、各種助剤等の配合割合を適宜調整し、適切な温度にて均一な組成となるように撹拌混合すればよい。また塗工剤の固形分濃度は特に限定されるものではなく、塗工装置や塗工量に応じて、例えば50〜80質量%程度に調整することが好ましい。
前記塗工剤を多層抄き板紙である基紙の少なくとも片面に、好ましくは両面に塗工して塗工層を形成する。塗工に用いられる塗工装置には特に限定がなく、例えば2ロールサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、エアーナイフコーター等を適宜使用することができる。これらのなかでは、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードコーター及びバーコーターを特に好適に用いることができる。また、塗工剤を塗工する前工程で、基紙にカレンダー処理を施すことが好ましい。これにより、基紙表面が緻密になり、塗工剤を基紙表面に効率よく留めることができるので、目的とする塗工板紙に、より優れた美粧性を付与することができる。
また塗工剤を基紙に塗工する塗工速度は、基紙の少なくとも片面に所望の塗工層が形成される限り特に限定がなく、通常の塗工板紙を製造する際の抄紙速度程度であればよい。
本発明において、例えば前記塗工装置を用い、基紙の少なくとも片面に塗工剤を塗工した後、乾燥させて塗工層を形成させるが、必要に応じて、その表面に平坦化処理を施して製品仕上げを行うことができる。
前記平坦化処理の際には、通常カレンダーが使用されるが、該カレンダーとしては、通常の金属ロール/金属ロールの組み合わせによるマシンカレンダーよりも、金属ロール/樹脂ロールの組み合わせによるソフトカレンダーを使用するほうが、紙層を強く加圧せずに平滑化することができ、さらに紙層強度の低下を充分に抑制することができるのでより好ましい。
平坦化処理は、例えば得られる塗工板紙の印刷光沢がさらに向上するという点から、JAPAN TAPPI No.5−1に記載の「紙及び板紙−平滑度及び透気度試験方法−第1部:スムースター法」に準拠して測定した塗工層の表面平滑度(スムースター平滑度)が、5〜80kPaとなるように施されることが好ましい。かかる塗工層の表面平滑度が5kPa未満であると、印刷適性の低下により、画像の鮮明さが低下する恐れがあり、逆に80kPaを超えると、塗工層の柔軟性が低下し、折り曲げ時に割れを生じ易くなる傾向がある。印刷適性と折り曲げ時の割れが生じ難い両者の品質バランスを維持する点で、表面平滑度が6〜70kPaとなるように平坦化処理が施されることが特に好ましい。
かくして得られる塗工板紙の坪量は、例えばかかる塗工板紙を使用した包装箱における美粧性のほか、印刷適性、紙質強度の確保、不透明度(中間層原料の隠蔽性)の確保という点から、JIS P 8124に記載の「坪量測定方法」に準拠して測定して、160g/m2以上、さらには270g/m2以上であることが好ましく、600g/m2以下、さらには420g/m2以下であることが好ましい。160g/m2未満の坪量では、例えば包装箱における美粧性、印刷適性を確保しながら、包装箱における紙質強度を確保することが困難であり、600g/m2を超える坪量では、近年の軽量化、省資源に逆行することとなる。
例えば坪量が前記のごとき160〜600g/m2程度の塗工板紙においては、塗工層を形成する際の塗工剤の塗工量は、塗工層に充分な印刷適性、罫線割れ抑制に対する適性及び表面強度を付与するためには、基紙の片面あたりで、固形分で5g/m2以上、さらには7g/m2以上とすることが好ましい。さらに、包装箱として必要な圧縮強度や破裂強度が充分に付与され、また塗工板紙製造時の乾燥性、塗工適性等においてトラブルが生じないようにするためには、塗工剤の塗工量は、基紙の片面あたりで、固形分で50g/m2以下、さらには40g/m2以下とすることが好ましい。
塗工板紙の密度は、JIS P 8118に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定して、0.65〜1.00g/cm3であることが好ましい。かかる密度が0.65g/cm3未満であると、繊維間強度が低くなり、印刷工程や製函工程で、塗工板紙の剥離が生じ易くなり、逆に1.00g/cm3を超えると、塗工板紙の柔軟性が低下し、折り曲げ時に割れが生じ易くなる。例えば坪量が200g/m2を超える塗工板紙においては、割れを充分に防止するうえで、密度は0.70〜0.90g/cm3であることが好ましい。
塗工板紙の白紙光沢度は、JIS P 8142に記載の「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」に準拠して測定して、15〜80%であることが好ましい。かかる白紙光沢度が15%未満であると、印刷画像の見栄えの低下により、包装箱等としての価値が低下する恐れがあり、逆に80%を超えると、印刷部に対する格差が形成され難くなり、印刷画像が目立たなくなる恐れがある。印刷画像の見栄えと印刷部に対する格差の形成との品質バランスを保持するうえで、白紙光沢度は30〜50%であることが好ましい。
塗工板紙の白色度は、その用途に応じて異なるが、印刷物としての外観を考慮すると、JIS P 8123に記載の「紙及びパルプのハンター白色度試験方法」に準拠して測定して、70〜90%であることが好ましく、さらには75〜85%であることが好ましい。
塗工板紙の表面強度は、やはり印刷適性や包装箱としての必要な表面強度を考慮すると、後述するRIテスター((株)明製作所製)による測定において、最低限度グレード3以上であることが好ましい。
さらに本発明の塗工板紙は、JIS P 8133に記載の「紙、板紙及びパルプ−水抽出液pHの試験方法」に準拠して測定した熱水抽出pHが、6.0以上、さらには6.1以上であることが好ましく、また9.5以下、さらには9.0以下であることが好ましい。熱水抽出pHがこのような範囲の場合には、顔料としての再生粒子凝集体に内在する炭酸カルシウムの溶出が防止されて再生粒子凝集体の形状が安定し、また水酸化カルシウムの生成が防止され、資源循環を図ることができ、また塗工板紙の劣化が充分に抑制され、インク乾燥性が向上し、インク吸収ムラが少なくなり、保存性や助剤の定着性がさらに向上する。
本発明の塗工板紙は、多層抄き板紙である基紙の少なくとも片面に、古紙処理工程からの資源である脱墨フロスを再利用して低コストで製造された特定の再生粒子凝集体を含有した顔料と、バインダーとを含む塗工剤を塗工し、塗工層を形成させたものである。したがって、本発明の塗工板紙は、適度な嵩高性、光沢度、白色度、表面強度等を有し、さらには印刷適性に優れ、製函時の罫線割れが殆どない。そして、このような優れた特性を具備した塗工板紙は、本発明の製造方法により、再資源化が実現されながら、低コストで容易に製造され得る。
次に、本発明の塗工板紙及びその製造方法を、以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
製造例1a〜20a及び比較製造例1a〜5a(再生粒子凝集体又は再生粒子の製造)
原料として、表1〜2に示すように、脱墨フロス(古紙パルプを製造する古紙処理工程から排出された脱墨フロス)及び/又は製紙スラッジ(主に製紙工程から排出された排水・脱水スラッジ)を用い、表1〜2に示す条件にて脱水工程、乾燥工程及び焼成工程を順次行い、焼成工程にて粒子を凝集させた後(製造例1a〜20a)、湿式粉砕処理を施し、該湿式粉砕処理後に粒子の凝集工程を行うことなく、再生粒子凝集体(製造例1a〜20a)又は再生粒子(比較製造例1a〜5a)を得た。
なお、製造例3a、5a、19a及び20aにおいては、再生粒子凝集体をケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス)に添加、分散させてスラリーを調製した後、加熱攪拌しながら、以下に示す液温に保持して希硫酸を添加し、シリカゾルを生成させた。次いで最終反応液を以下に示すpHに調整し、再生粒子凝集体の表面にシリカを析出させてシリカ被覆再生粒子凝集体を得た。
製造例 : 3a 5a 19a 20a
液温(℃) : 70 100 93 90
最終反応液(pH):13.0 8.0 8.5 8.3
得られた再生粒子凝集体(及びシリカ被覆再生粒子凝集体)又は再生粒子について、その粒子構成成分中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの含有量(酸化物換算)、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの合計含有割合(酸化物換算)、平均粒子径、粒子径の体積分布において0.05〜10μmである凝集体又は粒子の割合、粒子径の体積分布において20μm以上である凝集体又は粒子の割合、外観、ワイヤー摩耗度、生産性及び品質安定性について調べた。これらの結果を表3〜5に示す。
また、以下の4種の顔料を比較製造例6a〜9aとし、前記再生粒子凝集体と同様にして物性を測定した。これらの結果も併せて表5に示す。
比較製造例6a:市販の水和ケイ酸
比較製造例7a:市販の重質炭酸カルシウム
比較製造例8a:市販のクレー
比較製造例9a:市販のホワイトカーボン、クレー及び炭酸カルシウムをカチオン凝集
剤にてあらかじめ凝集させた凝集物
なお、表1〜5に示す各種測定値は、以下の方法にて測定した。
(ア)脱水物及び乾燥物の水分率
試料を採取し、JIS P 8127に記載の「紙及び板紙−水分試験方法−乾燥器による方法」に準拠して測定した。
(イ)焼成工程入口での乾燥物の体積平均粒子径
X線マイクロアナライザー(型番:EMAX2770、(株)日立製作所/(株)堀場製作所製)を加速電圧15kVで用い、白黒ポラロイドフィルム(ポラロイド社製、8.5cm×10.8cm)にて、X線マイクロアナライザーディスプレーのX線像を20枚撮影して実測した。
(ウ)一次焼成炉内上端部及び二次焼成炉のバーナー近傍での酸素濃度
ガス分析装置(型番:PG250型、(株)堀場製作所製)にて測定した。
(エ)一次焼成後の未燃率
電気マッフル炉をあらかじめ600℃に昇温後、ルツボに試料を入れて約3時間で完全燃焼させ、燃焼前後の重量変化から未燃分を算出した。
(オ)再生粒子凝集体又は再生粒子中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの含有量(酸化物換算)
後述するようにして基紙に塗工剤を塗工して塗工層を形成させ、X線マイクロアナライザー(型番:E−MAX・S−2150、(株)日立製作所/(株)堀場製作所製)にて塗工層表面の元素分析を行った。また、これらカルシウム、ケイ素及びアルミニウム各々の含有量から、再生粒子凝集体又は再生粒子の粒子構成成分中の、カルシウムとケイ素とアルミニウムとの合計含有割合(酸化物換算)を算出した。
(カ)再生粒子凝集体又は再生粒子の平均粒子径並びに体積分布
再生粒子凝集体又は再生粒子のサンプル10mgをメタノール溶液8mLに添加し、超音波分散機(出力:80W)で3分間分散させた。この溶液を用い、レーザー粒径分布測定装置(レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2200型、標準屈折率(1)にて測定、(株)島津製作所製)にて、平均粒子径、並びに粒子径の体積分布において0.05〜10μmである凝集体又は粒子の割合、及び20μm以上である凝集体又は粒子の割合を測定した。
(キ)外観(粒子白色度測定値及び目視)
(i)粒子白色度測定
米国TAPPI標準法T−646os75に準拠し、白色度計(型番:KR−III型、熊谷理機工業(株)製)にて測定した。
(ii)目視
目視にて再生粒子凝集体又は再生粒子の色を観察し、白色と灰色とに区分した。
(ク)ワイヤー摩耗度
摩耗度試験装置(日本フィルコン(株)製)を用い、スラリー濃度2質量%にて3時間、プラスチックワイヤー摩耗度を測定した。
(ケ)生産性
原料の脱水効率、生産性及び粉砕に必要な電力を各々5段階評価し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:いずれも高い評価でバランスが最もよかった。
○:平均してよい評価であった。
△:脱水効率、生産性及び粉砕に必要な電力のいずれかに問題があった。
×:実操業が困難であった。
(コ)品質安定性
白色度、粒子径、一定時間間隔における生産量の各項目について、変動程度を測定し、変動が少ない順にランク付けを行い、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:上位10位まで
○:11〜20位
△:21〜23位
×:24位以下
表5に示された結果から、製造例1a〜20aの再生粒子凝集体は、いずれも白色度が高く、ワイヤー摩耗度が低く、生産性及び品質安定性にも優れたものであることがわかる。これに対して比較製造例1a〜5aの再生粒子は、いずれもワイヤー摩耗度が高く、生産性及び品質安定性にも劣るものであることがわかる。
製造例1b(基紙の作製)
表層及び裏層と、これら表裏層間に3層の中間層(中間層1、中間層2、中間層3)を配置した5層の紙層で構成される多層抄き板紙(基紙)を作製した。
(i)表層
LBKP60質量%、NBKP20質量%及び上白古紙パルプ20質量%の割合で配合した後、離解CSFを380ccに調整した原料パルプに、硫酸バンド4質量%及びサイズ剤(型番:R50、近代化学工業(株)製)0.3質量%を添加し、表層用の原料スラリーを調製した。
(ii)中間層1、中間層2、中間層3及び裏層
地券古紙パルプ100質量%からなる、離解CSFを230ccに調整した原料パルプに、硫酸バンド4質量%及び前記と同様のサイズ剤0.3質量%を添加し、中間層1、中間層2、中間層3及び裏層用の原料スラリーを調製した。
なお、前記離解CSFは、各試料を裁断して大きさが約3cm2、重さが約25gの試験片とし、この試験片を1リットルの水に24時間浸漬した後、JIS P 8220に記載の方法に準拠して標準離解機で15分間離解処理し、試験片が完全に離解していることを目視で確認した後、JIS P 8121に記載の方法に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて測定した濾水度である。
(iii)基紙
前記各原料スラリーを用い、表層の付け量を70g/m2、中間層1、中間層2、中間層3及び裏層の付け量を各々60g/m2として5層の紙層を抄き合わせ、プレス及び乾燥処理を行い、坪量が310g/m2となるように調整して基紙を作製した。
なお、前記坪量は、JIS P 8124に記載の方法に準拠して測定したものである。また、JIS P 8140に記載の方法に準拠して測定時間2分で測定した吸水度は、40g/m2であった。
調製例1〜20及び比較調製例1〜9(塗工剤の調製)
表6に示す顔料100質量部に対して、バインダーとしてスチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(JSR(株)製、アニオン性バインダー、アクリロニトリル含有量:23質量%、Tg:−10℃、平均粒子径:88nm、ゲル含有量:85%)15質量部と、酸化澱粉4質量部とを均一な組成となるまで室温にて撹拌混合し、精製水にて希釈して固形分濃度が約60〜70質量%の塗工剤1〜20及び比較塗工剤1〜9を調製した。
実施例1〜20及び比較例1〜9(塗工板紙の作製)
製造例1bで得られた基紙の片面に、表7に示す塗工剤1〜20及び比較塗工剤1〜9を、片面あたりの塗工量が表7に示す量となるようにオンマシンロッドメタリングサイズプレスにて塗工し、乾燥後、塗工層の表面平滑度(スムースター平滑度)が表7に示す値となるように、ソフトカレンダーにて平坦化処理を施して塗工板紙を作製した。また、塗工剤の顔料として炭酸カルシウム及びクレーを用いた市販の塗工板紙1、2を準備し、塗工層の表面平滑度(スムースター平滑度)を測定した。この結果を、比較例10〜11として併せて表7に示す。
得られた塗工板紙について、各種物性を調べた。これらの結果を表8〜9に示す。また、前記市販の塗工板紙1、2についても、実施例1〜20及び比較例1〜9の塗工板紙と同様に各種物性を調べた。この結果を、比較例10〜11として併せて表9に示す。
なお、表7〜9に示す各種測定値は、以下の方法にて測定した。
(a)塗工層の表面平滑度(スムースター平滑度)
JAPAN TAPPI No.5−1に記載の方法に準拠してスムースター平滑度試験器(東英電子工業(株)製)にて測定した。
(b)坪量
JIS P 8124に記載の方法に準拠して測定した。
(c)密度
JIS P 8118に記載の方法に準拠して測定した。
(d)白紙光沢度
JIS P 8142に記載の方法に準拠し、村上式光沢度計にて入反射角75°で測定した。
(e)白色度
JIS P 8123に記載の方法に準拠して測定した。
(f)表面強度
試料の表面に、RIテスター((株)明製作所製)で、インキタック6(東洋インキ製造(株)製)を用いて印刷した。10cm2あたりの繊維が剥がれた状態を目視にて観察し、以下の評価基準(グレード)に基づいて評価した。
(評価基準)
5:繊維の剥がれ殆どなし。
4:繊維の剥がれ僅かあり。
3:繊維の剥がれややあり。
2:繊維の剥がれあり。
1:繊維の剥がれかなりあり。
なお実用上は、最低限度グレード3である。
(g)熱水抽出pH
JIS P 8133に記載の方法に準拠して測定した。
次に、実施例1〜20及び比較例1〜11の塗工板紙について、以下の試験例1〜3に基づいて各特性を調べた。その結果を表10に示す。
試験例1(インク吸収ムラ)
試料の表面に、RIテスター((株)明製作所製)で、インキタック6(東洋インキ製造(株)製)を用いて印刷した。印刷部分のインク吸収ムラを目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:インク吸収ムラが全く認められず、均一で鮮明な画像である。
○:インク吸収ムラが殆ど認められず、均一な画像である。
△:インク吸収ムラが認められ、やや不均一な画像である。
×:インク吸収ムラが明らかであり、不均一な画像である。
試験例2(インク乾燥性)
RI印刷適性評価機((株)明製作所製)を用い、オフセット枚葉印刷用墨インク0.5mLを展色して印刷し、印刷60秒後に上質紙を印刷面に一定圧力で接着した。上質紙へのインク転移(セットオフ)状況を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、本試験例2においては、比較例10の市販の塗工板紙1を評価○とし、標準レベルに設定して評価基準を設けた。
(評価基準)
◎:市販の塗工板紙1よりもインクセットが速く、裏移りの問題がなく優れる。
○:市販の塗工板紙1と同等レベルである。
△:市販の塗工板紙1よりもインクセットがやや遅い。
×:市販の塗工板紙1と比べてインクセットが非常に遅く、使用不可能なレベルである。
試験例3(罫線割れ)
1.試験片
(1)1枚の全幅試料から、抄紙機幅方向に対して両端側と中央側の3箇所からサンプルを採取した。
(2)それぞれのサンプルを、抄紙機幅方向に10cm、抄紙機流れ方向に25cmの大きさに裁断して短冊状の試験片を得た。
2.試験機
図1の概略斜視図に示す構成の試験機を用いた。試験機1は、天板3と底板5とを、両者の側縁11において蝶番(図示せず)で接合したものである。天板3の上面には取っ手7が設けられ、天板3の開閉動作を容易にしている。底板5の端縁13には、分度器9が取り付けられており、天板3と底板5との角度を目測することができる。
前記試験機1の材質、天板3、底板5のサイズ等は以下の通りである。
材質 :ステンレス鋼
天板 :横25cm、奥行き15cm、厚さ1cm
天板重量:3.0〜3.5kg(取っ手を含む)
底板 :横25cm、奥行き15cm、厚さ2cm
3.試験操作
(1)あらかじめ試験機1の天板3を開いた状態とし、底板5にクラフトテープが付着している場合は、エタノールを浸した脱脂綿で除去した。巾5cmのクラフトテープを長さ20cm程度に切って準備した。
(2)試験片を160℃の熱風乾燥機に10秒間入れて乾燥させた。
(3)試験片を熱風乾燥機から取り出した直後、試験片長辺の両端が試験機1の側縁11に対して直角にかつ上に載るように、試験片の表層側を下にして載置した。
(4)試験機1の側縁11から手前方向に1cm離して、側縁11と平行になるように試験片を底板5上にクラフトテープで貼り付けた。
(5)天板3を横の分度器9を見ながら底板5に対して60度まで倒し、そこから手を離して天板3を底板5上に落下させた。
(6)すぐに天板3を開いて試験片を剥がし、その折れ目に生じた割れの長さと数を測定し、割れの状態を以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:3mm未満の割れが1〜2個しかない。
○:3mm以上、5mm未満の割れが1〜2個ある。
△:3mm以上、5mm未満の割れが3〜4個ある。
×:5mm以上の割れが多い。
実施例1〜20の塗工板紙は、古紙処理工程から排出される脱墨フロスが主原料で、特定の工程を経て得られた、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分を含有した再生粒子凝集体を顔料として用い、該再生粒子凝集体を含む顔料と共にバインダーを含む塗工剤にて塗工層を形成させたものである。したがって、実施例1〜20の塗工板紙は、資源を再利用して低コストで得られるだけでなく、適度の坪量、密度、白紙光沢度、白色度、表面強度及び熱水抽出pHを有し、またインク吸収ムラが殆どなく、インク乾燥性が高く、優れた印刷適性を有し、しかも製函時のように力を加えても折れ目に罫線割れが殆ど生じず、例えば包装箱、厚手印刷物等に好適な優れた特性を具備していることがわかる。
これに対して比較例1〜5の塗工板紙は、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料としない再生粒子を顔料として配合した塗工剤を、基紙の片面に塗工したものである。したがって、比較例1〜5の塗工板紙は、省資源化や低コスト化が図られず、しかもインク吸収ムラ、インク乾燥性及び罫線割れの殆どが悪い結果であり、包装箱、厚手印刷物等に適した、優れた特性を具備していないことがわかる。
また比較例6〜11の、市販の顔料のみを配合した塗工剤を用いた塗工板紙や、市販の塗工板紙も、比較例1〜5と同様に、インク吸収ムラ、インク乾燥性及び罫線割れの殆どが悪い結果であり、包装箱、厚手印刷物等に適した、優れた特性を具備していないことがわかる。