図1は、本発明が適用された車両用の自動変速機10の構成を説明する骨子図である。この自動変速機10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース(以下、ケースと表す)12内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置14を主体として構成されている第1変速部16と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置18およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置20を主体として構成されている第2変速部22とを共通の軸心C上に備え、入力軸24の回転を変速して出力軸26から出力する。入力軸24は入力側回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン28によって回転駆動されるトルクコンバータ30のタービン軸である。出力軸26は出力側回転部材に相当するものであり、例えば図4に示すように差動歯車装置(終減速機)34や一対の車軸36等を順次介して左右の駆動輪38を回転駆動する。
尚、上記入力側回転部材は、自動変速機10により変速される前の回転部材であり、入力軸24の他にエンジン28のクランク軸32等が相当する。また、上記出力側回転部材は、自動変速機10により変速された入力側回転部材の回転が伝達される回転部材であり、出力軸26の他に差動歯車装置34や車軸36や駆動輪38等が相当する。また、この自動変速機10は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
第1遊星歯車装置14はダブルピニオン型の遊星歯車装置であり、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリヤCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備え、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1によって3つの回転要素が構成されている。キャリヤCA1は入力軸24に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能にケース12に一体的に固定されている。リングギヤR1は中間出力部材として機能し、入力軸24に対して減速回転させられて、回転を第2変速部22へ伝達する。本実施例では、入力軸24の回転をそのままの速度で第2変速部22へ伝達する経路が、予め定められた一定のギヤ比(=入力軸24の回転速度/出力軸26の回転速度)γ(=1.0)で回転を伝達する第1中間出力経路PA1であり、第1中間出力経路PA1には、入力軸24から第1遊星歯車装置14を経ることなく第2変速部22へ回転を伝達する直結経路PA1aと、入力軸24から第1遊星歯車装置14のキャリヤCA1を経て第2変速部22へ回転を伝達する間接経路PA1bとがある。また、入力軸24からキャリヤCA1、そのキャリヤCA1に配設されたピニオンギヤP1、およびリングギヤR1を経て第2変速部22へ伝達する経路が、第1中間出力経路PA1よりも大きいギヤ比γ(>1.0)で入力軸24の回転を変速(減速)して伝達する第2中間出力経路PA2である。
第2遊星歯車装置18はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリヤCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、第3遊星歯車装置20はダブルピニオン型の遊星歯車装置であり、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するキャリヤCA3、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
第2遊星歯車装置18および第3遊星歯車装置20では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第2遊星歯車装置18のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置18のキャリヤCA2および第3遊星歯車装置のキャリヤCA3が互いに一体的に連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置18のリングギヤR2および第3遊星歯車装置20のリングギヤR3が互いに一体的に連結されて第3回転要素RM3が構成され、第3遊星歯車装置20のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。この第2遊星歯車装置18および第3遊星歯車装置20は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置18のピニオンギヤP2が第3遊星歯車装置20の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置14のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置14のキャリヤCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されている。第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して入力軸24(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されている。第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸26に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されている。尚、第2回転要素RM2とケース12との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸24と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
図2は、自動変速機10の複数のギヤ段(変速段)を成立させる際の係合装置(係合要素)の作動の組み合わせおよびギヤ比γを説明する作動図表(係合作動表)であり、「○」はクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態が係合状態を表し、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を表し、空欄は解放状態をそれぞれ表している。自動変速機10においては、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2を選択的に係合することによりギヤ比γが異なる複数のギヤ段例えば前進8段の多段変速が達成される。また、特に、第2ブレーキB2と並列に一方向クラッチF1が設けられていることから、第1ギヤ段(1st)を成立させる際に、第2ブレーキB2はエンジンブレーキ時には係合させられる一方、駆動時には解放させられる。
また、各ギヤ段毎に異なるギヤ比は、第1遊星歯車装置14、第2遊星歯車装置18、第3遊星歯車装置20の各ギヤ比ρ1〜ρ3によって適宜定められ、例えばρ1=0.463、ρ2=0.463、ρ3=0.415とすれば、ギヤ比ステップ(各ギヤ段間のギヤ比の比)の値が略適切であるとともにトータルのギヤ比幅(=4.495/0.683)も6.581程度と大きく、後進ギヤ段「Rev1」、「Rev2」のギヤ比も適当で、全体として適切なギヤ比特性が得られる。また、図2から明らかなように、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチ変速により各ギヤ段の変速が行われており、変速制御が容易で変速ショックの発生が抑制される。
また、クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBと表す)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置(以下、係合装置という)であり、油圧制御回路40(図4参照)内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
図3は、第1変速部16および第2変速部22の各回転要素の回転速度を直線で表すことができる共線図であり、下の横線が回転速度「0」を示し、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸24と同じ回転速度を示している。また、第1変速部16の各縦線は、左側から順番にサンギヤS1、リングギヤR1、キャリヤCA1を表しており、それ等の間隔は第1遊星歯車装置14のギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1に応じて定められる。図3は、例えばギヤ比ρ1=0.463の場合である。第2変速部22の4本の縦線は、左側から順番に第1回転要素RM1(サンギヤS2)、第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびキャリヤCA3)、第3回転要素RM3(リングギヤR2およびリングギヤR3)、第4回転要素RM4(サンギヤS3)を表しており、それ等の間隔は第2遊星歯車装置18のギヤ比ρ2および第3遊星歯車装置20のギヤ比ρ3に応じて定められる。図3は、例えばギヤ比ρ2=0.463、ρ3=0.415の場合である。
そして、この共線図から明らかなように、第1クラッチC1および一方向クラッチF1(或いはエンジンブレーキ時は第2ブレーキB2)が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部16を介して入力軸24に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられると、出力軸26に連結された第3回転要素RM3は「1st」で示す回転速度で回転させられ、最も大きいギヤ比(変速比)γ1の第1速ギヤ段(第1変速段)「1st」が成立させられる。
第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部16を介して入力軸24に対して減速回転させられるとともに、第1回転要素RM1が回転停止させられると、第3回転要素RM3は「2nd」で示す回転速度で回転させられ、第1速ギヤ段「1st」よりもギヤ比γ2が小さい第2速ギヤ段「2nd」が成立させられる。
第1クラッチC1および第3クラッチC3が係合させられて、第4回転要素RM4および第1回転要素RM1が第1変速部16を介して入力軸24に対して減速回転させられて第2変速部22が一体回転させられると、第3回転要素RM3は「3rd」で示す回転速度で回転させられ、第2速ギヤ段「2nd」よりもギヤ比γ3が小さい第3速ギヤ段「3rd」が成立させられる。
第1クラッチC1および第4クラッチC4が係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部16を介して入力軸24に対して減速回転させられるとともに、第1回転要素RM1が入力軸24と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「4th」で示す回転速度で回転させられ、第3速ギヤ段「3rd」よりもギヤ比γ4が小さい第4速ギヤ段「4th」が成立させられる。
第1クラッチC1および第2クラッチC2係合させられて、第4回転要素RM4が第1変速部16を介して入力軸24に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が入力軸24と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「5th」で示す回転速度で回転させられ、第4速ギヤ段「4th」よりもギヤ比γ5が小さい第5速ギヤ段「5th」が成立させられる。
第2クラッチC2および第4クラッチC4が係合させられて、第2変速部22が入力軸24と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「6th」で示す回転速度すなわち入力軸24と同じ回転速度で回転させられ、第5速ギヤ段「5th」よりもギヤ比γ6が小さい第6速ギヤ段「6th」が成立させられる。この第6速ギヤ段「6th」のギヤ比γ6は1である。
第2クラッチC2および第3クラッチC3が係合させられて、第1回転要素RM1が第1変速部16を介して入力軸24に対して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が入力軸24と一体回転させられると、第3回転要素RM3は「7th」で示す回転速度で回転させられ、第6速ギヤ段「6th」よりもギヤ比γ7が小さい第7速ギヤ段「7th」が成立させられる。
第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合させられて、第2回転要素RM2が入力軸24と一体回転させられるとともに、第1回転要素RM1が回転停止させられると、第3回転要素RM3は「8th」で示す回転速度で回転させられ、第7速ギヤ段「7th」よりもギヤ比γ8が小さい第8速ギヤ段「8th」が成立させられる。
また、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が係合させられると、第1回転要素RM1が第1変速部16を介して減速回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられて、第3回転要素RM3は「Rev1」で示す回転速度で逆回転させられ、逆回転方向でギヤ比γR1が最も大きい第1後進ギヤ段「Rev1」が成立させられる。第4クラッチC4および第2ブレーキB2が係合させられると、第1回転要素RM1が入力軸24と一体回転させられるとともに、第2回転要素RM2が回転停止させられ、第3回転要素RM3は「Rev2」で示す回転速度で逆回転させられ、第1後進ギヤ段「Rev1」よりもギヤ比γR2が小さい第2後進ギヤ段「Rev2」が成立させられる。第1後進ギヤ段「Rev1」、第2後進ギヤ段「Rev2」は、それぞれ逆回転方向の第1速ギヤ段、第2速ギヤ段に相当する。
図4は、図1の自動変速機10などを含むエンジン28から駆動輪28までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、その自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置110は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、基本的にはエンジン28の出力制御や自動変速機10ギヤ段を自動的に切り換える変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用やリニアソレノイドバルブSL1〜SL6を制御する変速制御用等に分けて構成される。
図4において、車両に設けられたセンサやスイッチなどから、例えばクランク角度(位置)ACR(°)およびエンジン28の回転速度NEに対応するクランクポジションを検出するクランクポジションセンサ42、トルクコンバータ30のタービン軸の回転速度NTすなわち自動変速機10の入力軸24の回転速度を検出する入力側回転速度センサとしての入力回転速度センサ44、車速Vに対応する出力軸26の回転速度NOUTを検出する出力側回転速度センサとしての出力回転速度センサ46、自動変速機10内の中間回転部材としての第3クラッチC3を構成するC3クラッチドラムすなわち第1回転要素RM1(サンギヤS2)の回転速度NC3を検出する中間回転速度センサ48、車両の加速度(減速度)Gを検出するための加速度センサ50、油圧制御回路40内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ52、エンジン28の吸入空気量QAIRを検出する吸入空気量センサ54、吸気配管56に設けられた電子スロットル弁58の開き角すなわちスロットル弁開度θTHを検出するスロットルポジションセンサ60、運転者の要求する車両駆動力(加速要求量)に応じて踏み込み操作される出力操作部材に相当するアクセルペダル62の操作量であるアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ64、常用ブレーキであるフットブレーキ66の操作の有無を表すブレーキ操作信号BONを検出するブレーキスイッチ68、手動変速操作装置としてのシフトレバー70のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するシフトポジションセンサ72等から、クランク角度(位置)ACR(°)およびエンジン回転速度NE、入力回転速度(タービン回転速度)NT、出力回転速度NOUT、車速V、中間回転速度NC3、加速度(減速度)G、AT油温TOIL、吸入空気量QAIR、スロットル弁開度θTH、アクセル開度Acc、ブレーキ操作信号BON、レバーポジションPSHなどを表す信号が電子制御装置110に供給される。
また、電子制御装置110からは、エンジン28の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えばアクセル開度Accに応じて電子スロットル弁58の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ74への駆動信号や燃料噴射装置76から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号やイグナイタ78によるエンジン28の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力されている。また、自動変速機10の変速制御の為の変速制御指令信号SP、例えば自動変速機10のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路40内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁などを制御するためのバルブ指令信号やライン油圧PLを制御するためのリニアソレノイドバルブSLTへの駆動信号などが出力されている。
前記入力回転速度センサ44、出力回転速度センサ46、および中間回転速度センサ48には、例えば電磁ピックアップセンサが用いられ、各回転速度センサによって各回転速度に対応して周波数が変化する交流電圧が発生させられて電子制御装置110に供給される。この供給された交流電圧から変換されたパルス信号の周波数に基づいて、つまり一定時間内のパルス信号の数に基づいて各回転速度が検出される。
図5は、クラッチCおよびブレーキBの各油圧アクチュエータ80、82、84、86、88、90の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL6等に関する回路図であって、油圧制御回路40の要部を示す回路図である。
図5において、クラッチC1、C2、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)80、82、88、90には、油圧供給装置92から出力されたDレンジ圧(前進レンジ圧、前進油圧)PDがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL5、SL6により調圧されて供給され、クラッチC3およびC4の各油圧アクチュエータ84、86には、油圧供給装置92から出力された第1ライン油圧PL1がそれぞれリニアソレノイドバルブSL3、SL4により調圧されて供給されるようになっている。尚、ブレーキB2の油圧アクチュエータ90には、リニアソレノイドバルブSL6の出力油圧およびリバース圧(後進レンジ圧、後進油圧)PRのうち何れか供給された油圧がシャトル弁94を介して供給される。
油圧供給装置92は、エンジン28によって回転駆動される機械式のオイルポンプ96から発生する油圧を元圧として第1第1ライン油圧PL1を調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1調圧弁)98、第1ライン油圧PL1の調圧のために第1調圧弁98から排出される油圧を元圧として第2ライン油圧PL2を調圧するセカンダリレギュレータバルブ(第2調圧弁)100、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じた第1ライン油圧PL1、第2ライン油圧PL2に調圧されるために第1調圧弁98および第2調圧弁100へ信号圧PSLTを供給するリニアソレノイドバルブSLT、第1ライン油圧PL1を元圧として一定圧のモジュレータ油圧PMを調圧するモジュレータバルブ102、およびケーブルやリンクなどを介して機械的に連結されるシフトレバー70の操作に伴い機械的に作動させられて油路が切り換えられることにより入力された第1ライン油圧PL1をシフトレバー70が「D」ポジション或いは「S」ポジションへ操作されたときにはDレンジ圧PDとして出力し或いは「R」ポジションへ操作されたときにはリバース圧PRとして出力するマニュアルバルブ104等を備えており、第1ライン油圧PL1、第2ライン油圧PL2、モジュレータ油圧PM、Dレンジ圧PD、およびリバース圧PRを供給する。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL6は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置110により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ80〜90の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の係合圧が制御される。そして、自動変速機10は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各ギヤ段が成立させられる。また、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように1速→2速のアップシフトでは、ブレーキB2が解放されると共にブレーキB1が係合され、変速ショックを抑制するようにブレーキB2の解放過渡油圧とブレーキB1の係合過渡油圧とが適切に制御される。このように、自動変速機10の係合装置(クラッチC、ブレーキB)がリニアソレノイドバルブSL1〜SL6により各々制御されるので、係合装置の作動の応答性が向上される。或いはまた、その係合装置の係合/解放作動の為の油圧回路が簡素化される。
前記シフトレバー70は例えば運転席の近傍に配設され、図6に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機10内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸26の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機10の出力軸26の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機10の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第8ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち変速可能な高速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。この「S」ポジションにおいては、シフトレバー70の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「+」ポジション、シフトレバー70の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「−」ポジションが備えられている。
図7は、電子制御装置110による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、エンジン出力制御手段112は、例えばスロットルアクチュエータ74により電子スロットル弁58を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置76を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ78を制御するエンジン出力制御指令信号SEを出力する。例えば、電子スロットル弁58の開閉制御は、図8に示すようなスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルク推定値TE0との予め実験的に求められて記憶された関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEに基づいて目標エンジントルクTE *が得られるスロットル弁開度θTHとなるようにスロットルアクチュエータ74により電子スロットル弁58を開閉制御する。上記目標エンジントルクTE *は、例えば電子制御装置110によりアクセル開度Accに基づいて求められる。
変速制御手段114は、例えば図9に示すような車速Vおよびアクセル開度Accを変数として予め記憶された関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行い、自動変速機10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速機10の変速すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する。このとき、変速制御手段114は、例えば図2に示す係合表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機10の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる変速制御指令信号SP(変速出力指令、油圧指令)を油圧制御回路40へ出力する。
その指令SPに従って、自動変速機10の変速が実行されるように油圧制御回路40内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6が駆動させられて、その変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ80〜90が作動させられる。
図9の変速線図において、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。また、この図9の変速線図における変速線は、実際のアクセル開度Acc(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、この値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。尚、図9の変速線図は自動変速機10で変速が実行される第1速ギヤ段乃至第8速ギヤ段のうちで第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段における変速線が例示されている。
例えば、変速制御手段114は、実際の車速Vが1速→2速アップシフトを実行すべき1速→2速アップシフト線を横切ったと判断した場合には、すなわち変速点車速V1−2を越えたと判断した場合には、ブレーキB2を解放させると共にブレーキB1を係合させる指令を油圧制御回路40に出力する、すなわち非励磁によってブレーキB2の係合油圧を排油(ドレン)させる指令をリニアソレノイドバルブSL6に出力すると共に、励磁によってブレーキB1の係合油圧を供給させる指令をリニアソレノイドバルブSL5に出力する。
このように、変速制御手段114は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、リニアソレノイドバルブSL1〜SL6にそれぞれ対応するクラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2の係合、解放状態を切り換えて第1ギヤ段「1st」〜第8ギヤ段「8th」の何れかの前進ギヤ段を成立させる。
また、変速制御手段114は、変速ショックの抑制と変速応答性の向上とが両立するように、入力回転速度NTおよび出力回転速度NOUTに基づいて変速過程における係合油圧(解放過渡油圧および/または係合過渡油圧)をフィードバック制御したり或いは学習制御したりすることによりクラッチツウクラッチ変速を行う。
ところで、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内で少なくとも一方の回転速度センサに故障(フェール)が生じると上記クラッチツウクラッチ変速が適切に実行されない。そこで、本実施例では、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内の正常な回転速度センサと中間回転速度センサ48とを用いて、故障が生じた回転速度センサのバックアップ(代替)を行う。つまり、正常な回転速度センサおよび中間回転速度センサ44により検出される各回転速度(以下、検出回転速度という)を用いて、故障が生じた回転速度センサによる正常時の検出回転速度の推定値を算出する。以下、その推定値の算出に関して詳細に説明する。
センサ故障判定手段116は、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内でいずれか一方の回転速度センサのみが故障したか否かを判定する。例えば、センサ故障判定手段116は、走行中に、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46から供給された各交流電圧に基づいて断線やショートやセンサ自体のフェール等の故障を判断することにより、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内でいずれか一方の回転速度センサのみが故障したか否かを判定する。
センサ故障時回転速度算出手段118は、前記センサ故障判定手段116により入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内でいずれか一方の回転速度センサのみが故障したと判定された場合には、他方の回転速度センサすなわち入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内で正常に作動している回転速度センサと中間回転速度センサ48とによる各検出回転速度および自動変速機10のギヤ比γに基づいて、故障した一方の回転速度センサによる検出回転速度の推定値(以下、推定回転速度)NBUを算出する。
図10および図11は、各ギヤ段および各ギヤ段間の変速過程毎における推定回転速度NBUを算出する際に用いられる換算式を示している。図10は出力回転速度センサ46故障時の出力回転速度NOUTの推定回転速度NBUを算出する換算式であり、図11は入力回転速度センサ44故障時の入力回転速度NTの推定回転速度NBUを算出する換算式である。これらセンサ故障時の換算式は、本実施例の自動変速機10に適用されるものであって、自動変速機10のギヤ比γの元になる遊星歯車装置14、18、20の各ギヤ比ρ1〜ρ3に基づいて予め求められて記憶されている。尚、図10における入力回転速度NTおよび中間回転速度NC3の各ギヤ段毎の値は、自動変速機10のギヤ比γや遊星歯車装置のギヤ比ρに基づいて算出した出力回転速度NOUTとの関係を示す参考値である。また、図11における出力回転速度NOUTおよび中間回転速度NC3の各ギヤ段毎の値は、自動変速機10のギヤ比γや遊星歯車装置のギヤ比ρに基づいて算出した入力回転速度NTとの関係を示す参考値である。但し、第2速ギヤ段および第8速ギヤ段においては、第1ブレーキB1の係合により中間回転速度NC3は零とされる。
前記センサ故障時回転速度算出手段118は、ギヤ段が形成されているときはもちろんのこと1−2シフト等の変速過程においても、図10や図11に示す換算式から入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内で正常に作動している回転速度センサと中間回転速度センサ48とによる各検出回転速度に基づいて推定回転速度NBUを算出することが可能である。但し、センサ故障時回転速度算出手段118による推定回転速度NBUの算出は、すなわちセンサ故障時回転速度算出手段118による正常に作動している回転速度センサを用いた故障している回転速度センサのバックアップの実行開始は、いずれかのギヤ段が形成されていることが前提条件とされる。
つまり、変速途中に回転速度センサの故障が発生してその変速途中にて回転速度センサのバックアップを開始する場合には実際の変速過渡状態と推定する変速過渡状態とを整合させる必要があり、精度良く推定回転速度NBUを算出することが困難であることから、センサ故障時回転速度算出手段118による上記バックアップは変速中でないときに実行開始される。従って、変速途中に回転速度センサの故障が発生した場合には、その変速が一旦終了させられた後の次回の変速の際にバックアップが実行される。
変速中判定手段120は、自動変速機10が現在変速中であるか否かを、例えば前記変速制御手段114により油圧制御回路40へ変速制御指令信号SPが出力されているか否かに基づいて判定する。
推定値算出可否判定手段122は、前記センサ故障時回転速度算出手段118による推定回転速度NBUの算出が可能であるか否かを判定する。前述したようにいずれかのギヤ段が形成されていることが推定回転速度NBUの算出の前提条件とされているため変速中である場合はもちろんのこと、走行中にシフトレバー70が「N」ポジション(レンジ)へ操作されたとき等のいずれのギヤ段も形成されない場合や、入力回転速度センサ44、出力回転速度センサ46、および中間回転速度センサ48の内で2つ以上の回転速度センサが故障した場合には、推定回転速度NBUの算出ができなくなる。
このようなことから、前記推定値算出可否判定手段122は、前記変速中判定手段120により自動変速機10が現在変速中でないと判定されたときに、例えば走行中にシフトレバー70が「N」ポジションへ操作されていないか否か、或いは入力回転速度センサ44、出力回転速度センサ46、および中間回転速度センサ48の内で2つ以上の回転速度センサが故障していないか否かに基づいて、前記センサ故障時回転速度算出手段118による推定回転速度NBUの算出が可能であるか否かを判定する。
前記変速制御手段114は、前記推定値算出可否判定手段122により推定回転速度NBUの算出が不可能であると判定された際には、クラッチツウクラッチ変速を精度良く実行することが困難であることから想定外の変速が生じないように、現在のギヤ段を保持するか、或いは推定回転速度NBUの算出不可能時に良好な走行を確保することが可能なギヤ段として予め設定された所定のギヤ段に固定する算出不可能時変速制御手段として機能する。尚、実際に車両が停止していても推定回転速度NBUの算出が不可能であることから、変速制御手段114は現在のギヤ段を保持する。
一方で、前記推定値算出可否判定手段122により推定回転速度NBUの算出が可能であると判定された際には、前記センサ故障時回転速度算出手段118により推定回転速度NBUが算出され、前記変速制御手段114により入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内で正常に作動している回転速度センサによる検出回転速度と上記推定回転速度NBUとに基づいてクラッチツウクラッチ変速が実行される。
ところで、中間回転速度センサ48により中間回転速度NC3が検出される第1回転要素RM1は、ギヤ段によっては回転が停止する場合がある。本実施例の自動変速機10では、図3の共線図からも明らかなように第2速ギヤ段と第8速ギヤ段とにおいてブレーキB1の係合に伴って第1回転要素RM1の回転が停止させられる、すなわち中間回転速度NC3が零とされる。この中間回転速度センサ48は、回転速度が極めて零に近い場合には電磁ピックアップセンサの特性上一定時間内のパルス信号の数にばらつきが生じる。そのため、センサの精度等を考慮してパルス信号の周波数が一定基準以下となり一定時間内のパルス信号の数が零となる可能性がある第1回転要素RM1の回転停止間際では、回転停止時と同様に中間回転速度NC3が零とされる。そうすると、実際には第1回転要素RM1が回転していても中間回転速度NC3が零とされることもあり、第1回転要素RM1の回転停止間際では前記センサ故障時回転速度算出手段118による推定回転速度NBUの演算精度が低下して、推定回転速度NBUに基づいて実行されるクラッチツウクラッチ変速の制御精度が低下する可能性がある。
そこで、前記センサ故障時回転速度算出手段118によるバックアップが実行開始されて前記変速制御手段114により推定回転速度NBUに基づいてクラッチツウクラッチ変速が実行される際には、中間回転速度NC3が零になるギヤ段への変速を禁止する。尚、中間回転速度NC3が零になるギヤ段から他のギヤ段への変速は変速後のギヤ段において演算精度の低下が生じ難いので禁止されない。
より具体的には、中間回転停止ギヤ段判定手段124は、前記センサ故障時回転速度算出手段118によるバックアップが実行開始された際には、現在のギヤ段すなわちクラッチツウクラッチ変速前のギヤ段が中間回転速度NC3が零になるギヤ段であるか否かを、例えば現在のギヤ段が第2速ギヤ段或いは第8速ギヤ段であるか否かに基づいて判定する。
回転停止ギヤ段変速禁止手段126は、前記中間回転停止ギヤ段判定手段124により現在のギヤ段が中間回転速度NC3が零になるギヤ段でないと判定された場合は、現在のギヤ段から中間回転速度NC3が零になるギヤ段への変速が実行されないように中間回転速度NC3が零になるギヤ段への変速例えば第2速ギヤ段および第8速ギヤ段への変速を禁止する変速禁止指令を変速制御手段114へ出力する。
上記のように、正常なセンサによるバックアップが実行開始されてクラッチツウクラッチ変速が実行される際に、中間回転速度NC3が零になるギヤ段への変速を禁止することとは別に、運転者に回転センサが故障していることを認識させるために、飛び変速を行うことは可能であるが敢えてその飛び変速を禁止して順番変速としてもよい。
上記飛び変速は、5→3ダウンシフトのようなアクセルペダル62の急踏込みに伴うパワーオンダウンシフトや、3→5アップシフトのようなアクセルオフに伴うパワーオフアップシフトが想定される。また、上記順番変速は、前記回転停止ギヤ段変速禁止手段126により禁止された中間回転速度NC3が零になるギヤ段への変速を除いて順に変速される。
より具体的には、飛び変速禁止手段128は、前記センサ故障時回転速度算出手段118によるバックアップが実行開始された際には、飛び変速を禁止して順番変速のみ許可する順番変速指令を変速制御手段114へ出力する。但し、前記回転停止ギヤ段変速禁止手段126による変速禁止指令がこの順番変速指令よりも優先される。
尚、中間回転速度センサ48の故障時には、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46により検出された入力回転速度NTおよび出力回転速度NOUTに基づいて、ギヤ段を成立させる2つの係合装置を共に解放、係合する4→7変速や7→4変速のような特殊な飛び変速を除き、第1速ギヤ段〜第8速ギヤ段のクラッチツウクラッチ変速を行うことが可能であるが、このような中間回転速度センサ48の故障時にクラッチツウクラッチ変速を行う際にも上述した順番変速を行っても良い。こうすることで、中間回転速度センサ48をバックアップするためのセンサや機能を追加する必要がない。例えば、図10、図11に示すような、入力回転速度NTおよび出力回転速度NOUTに基づいて中間回転速度NC3の推定値を算出するための中間回転速度センサ48のバックアップロジックを省くことができる。
図12は、電子制御装置110の制御作動の要部すなわち入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46のいずれか一方が故障した際にドライバビリティが低下してしまうことを抑制するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
図12において、前記センサ故障判定手段116に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内でいずれか一方の回転速度センサのみが故障したか否かが判定される。
前記S1の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記変速中判定手段120に対応するS2において、自動変速機10が現在変速中であるか否かが、例えば油圧制御回路40へ変速制御指令信号SPが出力されているか否かに基づいて判定される。
前記S2の判断が肯定される場合は本ルーチンが終了させられるが、否定される場合は前記推定値算出可否判定手段122に対応するS3において、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内で正常に作動している回転速度センサと中間回転速度センサ48とによる各検出回転速度および自動変速機10のギヤ比γに基づく推定回転速度NBUの算出が可能であるか否かが、例えば走行中にシフトレバー70が「N」ポジションへ操作されていないか否か、或いは入力回転速度センサ44、出力回転速度センサ46、および中間回転速度センサ48の内で2つ以上の回転速度センサが故障していないか否かに基づいて判定される。
前記S3にて走行中にシフトレバー70が「N」ポジションへ操作されているか、或いは入力回転速度センサ44、出力回転速度センサ46、および中間回転速度センサ48の内で2つ以上の回転速度センサが故障しており、推定回転速度NBUの算出が可能でないと判定されてそのS3の判断が否定される場合は前記変速制御手段114に対応するS4において、現在のギヤ段が保持されるか、或いは予め設定された所定のギヤ段に固定される。
前記S3にて推定回転速度NBUの算出が可能であると判定されてそのS3の判断が肯定される場合は前記センサ故障時回転速度算出手段118に対応するS5において、推定回転速度NBUが算出開始される、すなわち正常に作動している回転速度センサを用いた故障している回転速度センサのバックアップが実行開始される。
次いで、前記中間回転停止ギヤ段判定手段124に対応するS6において、現在のギヤ段すなわちクラッチツウクラッチ変速前のギヤ段が中間回転速度NC3が零になるギヤ段であるか否かが、例えば現在のギヤ段が第2速ギヤ段或いは第8速ギヤ段であるか否かに基づいて判定される。
前記S6の判断が否定される場合は前記回転停止ギヤ段変速禁止手段126に対応するS7において、現在のギヤ段から第1回転要素RM1の回転が停止するギヤ段への変速すなわち中間回転速度NC3が零になるギヤ段への変速が実行されないように、中間回転速度NC3が零になるギヤ段への変速例えば第2速ギヤ段および第8速ギヤ段への変速を禁止する変速禁止指令が出力される。つまり、中間回転速度NC3が零とされるギヤ段への変速を実行する変速制御指令信号SPの出力が禁止される。
前記S6の判断が肯定されるか、前記S7に続いて前記飛び変速禁止手段128に対応するS8において、飛び変速を禁止して順番変速のみ許可する順番変速指令が出力され、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内で正常に作動している回転速度センサによる検出回転速度と前記S5にて算出される推定回転速度NBUとに基づいてクラッチツウクラッチ変速が実行される。但し、前記S7における変速禁止指令がこの順番変速指令よりも優先される。
上述のように、本実施例によれば、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内でいずれか一方の回転速度センサのみが故障した際には、他方の正常な回転速度センサと中間回転速度センサ48とによる各検出回転速度および自動変速機10のギヤ比γに基づいて、センサ故障時回転速度算出手段118により故障した一方の回転速度センサによる検出回転速度の推定回転速度NBUが算出されるので、クラッチツウクラッチ変速の進行状態においても、ギヤ比γの変化を反映した中間回転速度NC3を用いて推定回転速度NBUが精度良く算出される。よって、入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の何れかの回転センサの故障時であっても、クラッチツウクラッチ変速を行うことが可能となり、ドライバビリティが低下してしまうことが抑制される。
また、本実施例によれば、推定値算出可否判定手段122によりセンサ故障時回転速度算出手段118による推定回転速度NBUの算出が不可能であると判定された際には、変速制御手段114により現在のギヤ段が保持されるか、或いは所定のギヤ段に固定されるので、推定回転速度NBUが算出されずクラッチツウクラッチ変速を精度良く実行することが困難であるときに、想定外の変速が起きることが防止される。
また、本実施例によれば、センサ故障時回転速度算出手段118によるバックアップが実行開始された際には、回転停止ギヤ段変速禁止手段126により第1回転要素RM1の回転が停止するギヤ段への変速が禁止されるので、センサ故障時回転速度算出手段118による推定回転速度NBUの演算精度が低下すると考えられる第1回転要素RM1の回転が停止するギヤ段への変速が禁止されて、クラッチツウクラッチ変速の制御精度が低下することが防止される。
また、本実施例によれば、入力回転速度センサ44、出力回転速度センサ46、および中間回転速度センサ48の内でいずれか1つの回転速度センサのみが故障した際には、飛び変速禁止手段128により飛び変速が禁止されて順番変速のみ許可されるので、運転者に故障を認識させたり、また、中間回転速度センサ48のバックアップロジックを省くことができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、センサ故障時回転速度算出手段118によるバックアップが実行開始されて変速制御手段114により推定回転速度NBUに基づいてクラッチツウクラッチ変速が実行される際に、中間回転速度NC3が零になるギヤ段から他のギヤ段への変速は変速後のギヤ段において演算精度の低下が生じ難いので禁止されなかったが、変速前のギヤ段においては依然としてセンサ故障時回転速度算出手段118による推定回転速度NBUの演算精度が低下することから、第1回転要素RM1の回転が停止するギヤ段における入力回転速度センサ44および出力回転速度センサ46の内で少なくとも一方の回転速度センサの故障時には、推定値算出可否判定手段122は推定回転速度NBUの算出が不可能であると判定し、変速制御手段114は現在のギヤ段を保持するようにしても良い。このようにすれば、中間回転速度NC3が零になるギヤ段において想定外の変速が起きることが防止される。
また、前述の実施例において、図10や図11に示したセンサ故障時の換算式は自動変速機10の構成や遊星歯車装置のギヤ比ρに基づいて求められた自動変速機10独自のものであり、他の自動変速機においては、自動変速機10と同様に、その自動変速機の構成や遊星歯車装置のギヤ比等に適合するようにセンサ故障時の換算式が求められてその自動変速機に適用される。
また、前述の実施例では、自動変速機10内の中間回転部材は第3クラッチC3を構成するC3クラッチドラム(第1回転要素RM1)であったが、入力軸24と出力軸26との間の動力伝達経路における回転部材であれば良い。
また、前述の実施例では、シフトレバー70が「S」ポジションへ操作されることにより複数種類の変速レンジが切り換えられたが、複数種類の変速レンジに替えてギヤ段が切り換え可能に構成されてもよい。すなわち、各変速レンジの最高速側ギヤ段が各ギヤ段として設定されシフトレバー70の操作毎に切り換え可能に構成されてもよい。例えば、シフトレバー70が「S」ポジションにおけるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、例えば第1速ギヤ段乃至第8速ギヤ段の何れかがシフトレバー70の操作に応じて切換えられる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。