JP2007290880A - 炭化珪素単結晶インゴット及びその製造方法 - Google Patents

炭化珪素単結晶インゴット及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】割れのない炭化珪素単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】昇華再結晶法を用いて作製した円筒状の炭化珪素単結晶に、結晶成長終了後に単結晶外周部分の周方向に−3.5MPa以上35MPa以下の圧縮応力を付与することで、結晶成長後や、結晶を電子材料用の基板に加工する際に単結晶に割れが発生しないようにする。
【選択図】図1

Description

本発明は、電子材料の基板に利用される炭化珪素単結晶基板を作製するのに最適な炭化珪素単結晶インゴット及びその製造方法に関する。
高熱伝導率を持ち、バンドギャップの大きい炭化珪素単結晶は、高温で用いられる電子材料や、高耐圧の求められる電子材料の基板として有用な材料である。炭化珪素単結晶の作製法の一つに昇華再結晶法(レーリー法)がある(非特許文献1)。昇華再結晶法では、原料部分の温度を炭化珪素が昇華する温度以上に加熱し、一方で、結晶成長を行う部分では昇華ガスが再結晶をする程度に原料部分よりも低温にして、結晶表面で再結晶を起こしながら単結晶の成長を行う。一般に、原料と結晶の温度差を適切に保つことで、炭化珪素結晶の成長が行われている。得られた炭化珪素単結晶は基板としての規格の形状にするために、研削、切断、研磨と言った加工が施され、電子材料の基板として利用される。
結晶成長を行う際には、成長面が適度な凸形状となるようにすると単一のポリタイプからなる結晶が得られ易いと言う知見が得られている(非特許文献2)。昇華再結晶法を用いた結晶成長では、成長面の形状は近似的に、等温面で与えられる。つまり、もし、成長面上に温度が低い領域がある場合には、その部分で再結晶化が促進され、成長面上の温度が一定となるように成長面の形状が変化する。結晶成長面の中心部の温度を外周部に比べて低くすることで、中心部の成長を外周部に比べて促進し、中央部が盛り上がった凸形状の成長面とすることができる。
成長面が凸形状となるようにするために中心部の温度を外周部に比べて低くして作製した円筒状の炭化珪素単結晶インゴットが均一な温度になった場合には、外周部には引張残留応力が発生し、中心部には圧縮残留応力が発生する。外周部に残留した引張応力のために、結晶成長後にインゴットの外周部から中心部に向かって割れが発生したり、成長後に割れが無かったとしても、インゴットを基板に加工する際に結晶の外周部に外部から力を加えると外周部に残留した引張応力と加工応力が加算的に働き、インゴットの外周部から中心部に向かって割れが発生したりすることがある。結晶に割れがある場合には、基板として利用することができないと言う問題がある。
Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov, Journal of Crystal Growth, 52 (1981) 146. Z. G. Herro, B. M. Epelbaum, M. Bickermann, P. Masri, A. Winnacker, J. Cry. Growth, 262 (2004) 105. I. Yonenaga, Physica B, 308-310 (2001) 1150. A. V. Samant, P. Pirouz, International Journal of Refractory Metals & Hard Materials, 16 (1998) 277.
本発明では、種結晶を用いた改良型レーリー法を用いて成長した、割れが発生し難い炭化珪素単結晶インゴットとその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、前記課題を解決するために、インゴット外周部分の周方向への残留応力が-3.5MPa以上35MPa以下の圧縮応力である炭化珪素単結晶インゴットとすることにより、成長後に昇華再結晶温度から常温まで冷却した後に割れが発生し難い炭化珪素単結晶インゴットを得る。また、このように、インゴット外周部分の残留応力を制御した炭化珪素単結晶インゴットを用いることにより、インゴットを基板に加工する際に、インゴットの外周部にかかる加工応力と残留応力を加え合わせた応力の値を破壊応力に比べて小さくすることで、割れが発生し難い炭化珪素単結晶インゴットとなる。
また、前記圧縮応力が0MPa超35MPa以下である炭化珪素単結晶インゴットとすることがより好ましい。
また、前記炭化珪素単結晶インゴットの口径が40〜310mmであることが好ましい。
上記インゴットを切断、研磨することで割れの無い炭化珪素単結晶基板が得られる。
また、上記のようなインゴットを得るためには、坩堝内に炭化珪素原料と炭化珪素種結晶を装填して炭化珪素原料を加熱する昇華再結晶法により炭化珪素単結晶インゴットを製造する方法であって、単結晶成長後の冷却過程で、前記インゴットの中心軸に垂直な面上にある中心部の温度が、同一面上の外周部に比べて-5℃以上50℃以下高い温度であることを特徴とする製造方法とする。
そして、前記冷却過程におけるインゴット外周部の温度が昇華再結晶温度から転位移動可能温度までの温度域、具体的には、2400〜1100℃の温度域となるようにするのが好ましい。なお、本発明において単結晶成長後の冷却過程とは、結晶成長を行うために加熱を行っている誘導加熱電流を減少させ始めた後から、単結晶が常温に冷却されるまでの間のいずれかを指すものとする。
さらに、前記中心部の温度は外周部に比べて0℃超50℃以下高いことがより好ましい。
また、前記インゴットの冷却速度を6〜20℃/分とすることで、インゴットの中心部と外周部の温度差を設けることが好ましい。
この発明によれば、種結晶を用いた改良型レーリー法を用いて、ポリタイプの安定した成長を行うと同時に、炭化珪素単結晶の外周部分の周方向に残留する応力を制御し、好ましくは圧縮応力とすることで、単結晶インゴットが割れることを防ぐことができ、特に大口径のインゴットの製造歩留まり及びこのインゴットから得られる炭化珪素単結晶基板の製造歩留まりを大幅に改善することができる。
昇華再結晶法は、2000℃を超える高温において炭化珪素粉末を昇華させ、その昇華ガスを低温部に再結晶化させることにより、炭化珪素結晶を製造する方法である。炭化珪素単結晶からなる種結晶を用いて、炭化珪素単結晶を製造する方法は、特に改良レーリー法と呼ばれ(非特許文献1)、バルク状の炭化珪素単結晶の製造に利用されている。改良レーリー法では、種結晶を用いているため結晶の核形成過程が制御でき、また、不活性ガスにより雰囲気圧力を10Paから15kPa程度に制御することにより、結晶の成長速度等を再現性良くコントロールできる。
改良レーリー法の原理を図1を用いて説明する。種結晶となる炭化珪素単結晶と原料となる炭化珪素結晶粉末(通常、アチソン(Acheson)法で作製された研磨材を洗浄・前処理したものが使用される)は、坩堝(通常黒鉛)の中に収納され、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中(13.3Pa〜13.3kPa)で、原料を昇華させるために2000℃以上に加熱される。この際、原料粉末に比べ、種結晶がやや低温になるように温度勾配が設定される。原料は、昇華後、濃度勾配(温度勾配により形成される)により種結晶方向へ拡散、輸送される。単結晶成長は、種結晶に到着した原料ガスが種結晶上で再結晶化することにより実現される。
炭化珪素単結晶の成長は2000℃を越す高温で行われており、成長中や成長後の結晶内部の温度を直接測ることが難しいために、数値計算を用いて結晶内部の温度分布を調べた。具体的には、高周波誘導加熱装置を利用して黒鉛坩堝を加熱した際の黒鉛坩堝内部の温度分布を有限要素法を用いて数値計算した。誘導加熱のための周波数は7kHzとし、適切な一定の加熱電力を用いた場合のジュール熱による発熱を計算し、この発熱量を基に熱伝導方程式から黒鉛坩堝内部の温度分布を計算した。計算を行った系を図2に示す。
この計算では、次の仮定をして計算の簡単化を図った。(1)昇華再結晶過程については考慮していない。つまり、原料の炭化珪素粉末が昇華する際の吸熱、炭化珪素単結晶上で再結晶する際の発熱は無視した。(2)計算に用いた物性値は軸対称性を仮定しており、結晶の異方性は考慮していない。(3)結晶成長に伴う物性値の変化を無視した。つまり、成長中に原料の炭化珪素が炭化したり、断熱材が劣化したりすることに伴う、熱伝導率等の物性値の変化を考慮していない。(4)成長した炭化珪素単結晶の形状を円柱とした。つまり、実際の成長で生じる、成長面の凹凸は無視した。
今回の計算では、炭化珪素単結晶内部の温度分布の変化の傾向を調べることが目的であるため、これらの仮定をおいても本発明に関する十分な考察が行える。計算に用いた物性値を表1に示す。


Figure 2007290880
結晶成長終了時の黒鉛坩堝内部の温度分布を求めるために、高周波加熱電流をI(A)として、坩堝の中に高さ35mmの円筒状の結晶がある場合の定常状態の温度分布を計算した。次に、結晶成長終了時以降の冷却中の温度分布を調べるために、この定常状態から、高周波加熱電流を時間に比例して減少させた場合の黒鉛坩堝内部の温度分布の変化の様子を計算した。ここでは、高周波加熱電流をI(A)から0(A)まで減少させる時間を0、1、4、8時間とした場合について計算した。
計算結果の例として、黒鉛坩堝内部の温度の等高線図を図2に示す。図2では、軸対称性を利用して、中心軸から片側部分の坩堝内部の等温線図を示した。
結晶成長を行う際には成長結晶表面の中心部の温度を低くし、成長面が凸形状を持つようにすると単一のポリタイプからなる結晶が得られ易いと言う知見がある(非特許文献2)。結晶の中心部が低温で、外周部分が高温の結晶が均一な温度に冷却された場合、外周部分が中心部分に比べて収縮し、外周部分の周方向に残留引張応力が発現する。この引張応力に起因して、単結晶が成長後に割れたり、結晶を基板に加工する際に、結晶の外周部から中心部に向かって割れが発生したりすることがあると言う問題がある。
本発明では、結晶の中心部と外周部の温度差をΔT(温度差)= TE(外周部)−TC(中心部)として、冷却中にΔTが正の場合には冷却後に外周部分の周方向に引張応力が、冷却中にΔTが負の場合には冷却後に外周部の周方向に圧縮応力が、ΔTの大きさに比例して発生すると考え、ΔTを外周部分の周方向に残留する応力を見積もる指標とした。また、負の圧縮応力は引張応力に対応し、0の圧縮応力は無応力の状態である。
図2から分かるように、結晶内部の温度は場所により異なるが、本発明では、C点とE点の温度を中心部と外周部の代表的な温度と考え、計算から得られたそれぞれの温度を用いてΔTを計算した。C点は、結晶の中心軸上にあり、成長した炭化珪素単結晶の高さの中点である。E点は、結晶の外周上にあり、成長した炭化珪素単結晶の高さの中点である。
炭化珪素の塑性変形が可能な温度は1100℃以上と見積もられている(非特許文献3)。温度が高い方が、塑性変形を引き起こす転位の移動は起こり易い。このことから、結晶の温度が高い状態でΔTを負とすることが、熱歪分布を変化させ、常温に冷却後の残留応力分布を変化させるためには有効である。
炭化珪素の破壊応力は、結晶系や温度、引張り速度による違いはあるものの、1100℃で100〜150MPaと見積もられており、その値は温度が低くなるにつれて大きくなる(非特許文献4)。このことから、結晶成長終了後の高温から冷却してくるプロセスにおいて、残留引張応力が100〜150MPaより大きいと冷却中に割れが発生すると考えられる。
一般に、温度差があるときに無応力の等方的な円筒が、均一な温度になった場合に生じる円筒最外周部の円周方向の圧縮応力は、中心と外周の温度差がΔTでその変化が動径方向に線形である場合には、下記式(1)のように書ける。
圧縮応力= -α×E×ΔT/3 (α:熱線膨張係数、E:縦弾性係数) ・・・(1)
最外周から内側に入るに従って、円周方向の圧縮応力は線形に減少し、半径の半分の位置で0となる。さらに半径の半分の内側に入るに従って、円周方向の引張応力が線形に増加し、中心部において引張応力の絶対値は最大となる。その絶対値は最外周部分での圧縮応力の絶対値と等しくなる。
本発明では、インゴットの中心部と最外周部分の温度を基に温度差を計算し、最外周部分での応力を求めている。また、中心部と外周部の温度差が線形に変化していることを仮定しているが、実際の坩堝の中においてもそれから大きくずれることはない。本発明では、成長したインゴットの加工に通常必要となる外周部分である、中心から半径の80%より外側の領域をインゴットの外周部分とし、その領域での応力の様子を表す指標として、最外周部分の応力の値を用いた。
以下、数値計算から得られた坩堝内部の温度分布を基に作成した図3、図4の説明を行いながら、本発明の詳細について述べる。
図3では、横軸をTC(結晶中心部の温度)、縦軸をΔTとして、誘導加熱電流を0(A)にするまでの時間を変化させた場合の、TCとΔTをグラフに描いた。結晶成長終了後に加熱電流を下げると、TCが低下する。つまり、横軸の負の方向に向かってTCが低下する。図3(a)は誘導加熱コイルに流す電流を0(A)にするまでの時間が0時間、図3(b)は1時間、図3(c)は4時間、図3(d)は8時間とした場合である。
図3(c)の場合には、TCが1250℃程度に低下するまではΔTが正であり、Tcが1250℃より低い温度ではΔTが負となりながらTCが低下していく。加熱電流が0(A)となるときにはTCは550℃程度で、ΔTが負の方向に最も大きくなる。その後、結晶は自然冷却され、ΔTは0℃に近づいていく。図3から、誘導加熱コイルに流す電流を0(A)にするまでの時間を短くした方が、冷却中のΔTの大きさが負の方向に大きくなることが分かる。
図3(a)〜(d)にあるように、結晶成長終了時にはΔTが正である。これは、成長面を凸形状とするために、黒鉛坩堝の周囲を誘導加熱により加熱すると同時に黒鉛坩堝の上部に断熱材の無い領域を形成して、黒鉛坩堝の上部から放熱することで、成長を行う単結晶の中心部分の温度が外周に比べて低くするような温度分布としているためである。
図3の結果から、冷却時間を短くした場合には、誘導加熱による黒鉛坩堝での発熱量が急速に小さくなり、黒鉛坩堝が坩堝内部の単結晶に比べて先に冷却されるため、単結晶外周部の温度が下がり、ΔTが負の方向に変化すると考えられる。図3から、冷却方法を変えることで、冷却時のΔTを変えることができることが分かる。
炭化珪素単結晶を等方的な材料と仮定し、中心から外周に向かって温度が線形に変化していると仮定して、図3(b)の結果から、ΔTを-20℃と見積もった場合、結晶が等温になった場合に、外周部にかかる圧縮応力の値を前述の式(1)に基づいて見積もると、14MPaとなる。この計算では、炭化珪素の縦弾性係数を450GPa、熱線膨張係数を4.6×10-6/℃とした。結晶内部全体では応力が釣り合っているため、結晶の中心部では同じ大きさ(14MPa)の引張応力が発生しているが、この値は破壊応力である100MPa程度(非特許文献4)に比べて小さく、このΔTにより結晶が割れることは無い。
以上の結果から、結晶成長時はΔTを正とし、冷却時には転位が移動可能な温度領域において、ΔTを正の小さい値もしくは負の状態として、常温まで結晶を低下させる方法の一つとして、冷却速度を制御する方法を見出した。
本発明では、この方法により、インゴット外周部に残留する応力を制御し、冷却後に割れが発生し難いものとし、また、インゴット外周部分の残留応力を制御した炭化珪素単結晶インゴットを用いることにより、インゴットを基板に加工する際に、インゴットの外周部にかかる引張成分を持つ実質的な応力である、加工応力と残留応力を加え合わせた応力を破壊応力に比べて小さくし、割れが発生し難いものとする結晶の作製方法とした。
本発明者は、数値計算と様々な冷却条件で実験を行った結果から、単結晶成長後の冷却時のΔTが-50℃未満になると結晶が割れ易くなることを、また、ΔTが5℃より大きいと、外周部に残留する応力と、加工時に加える引張成分を持つ加工応力と加算的な効果を示し、結晶に割れが発生し易いことを見出した。これらのことから、ΔTの好適値は-50℃≦ΔT≦5℃であることを見出した。
以上から、ΔTに基づき外周部に残留する応力を見積もったところ、周方向への残留応力が-3.5MPa以上35MPa以下の圧縮応力であることが好適であることを見出した。
ヤング(Young)率を基に、この35MPaの圧縮応力を格子歪として見積もると、格子間距離をd、圧縮応力による格子間距離の変化量をΔdとして(Δd)/dが7.8×10-5程度の変化に対応しており、この格子歪はX線回折等の解析技術を用いて測定できる。
中心から側面にかけて温度が線形に変化していると仮定した場合には、ΔTが-50℃のときに中心部に働く引張応力は、前述の式(1)に基づき35MPaと見積もることができる。この引張応力は破壊応力に比べると小さく、このΔTが結晶に割れを引き起こすことはない。
同様にして、中心から側面にかけて温度が線形に変化していると仮定した場合には、ΔTが5℃のときに外周部に働く引張応力は、前述の式(1)に基づき3.5MPaと見積もることができる。この引張応力は破壊応力に比べると小さく、このΔTが結晶に割れを引き起こすことはない。
図3から加熱電流を0にするまでに1時間以上かけた場合(図3(b))、ΔTは-50℃以上となるが、これ以上急速に加熱電流を減少させた場合(図3(a))、冷却中のΔTが-50℃未満となり、結晶に割れが発生し易くなる。このことから、加熱電流を0にするまでに1時間以上かけることが好ましい。
図3から、誘導加熱電流を8時間かけて0にした場合(図3(d))には、転位が移動し易い1100℃以上の高温の領域でΔTが5℃より大きく、結晶外周部に引張残留応力が発生し、インゴットの状態、もしくは、インゴットを基板に加工する際に割れが発生し易いが、4時間の場合(図3(c))には、転位が移動し易い1100℃以上の高温の領域でΔTを上記の好適な範囲である5℃以下にして冷却できる。このことから、本発明の効果を得るためには、4時間以下で加熱電流を0にすることが好ましい。
以上のことから、結晶成長終了後、誘導加熱電流を0にするまでの時間は、1時間以上4時間以下とすることが好ましい。
図4では、誘導加熱コイルに流す電流を0(A)にするまでの時間を変化させた場合のインゴット中心部の温度(Tc)の変化の様子を示した。図4(a)は誘導加熱コイルに流す電流を0(A)にするまでの時間が0時間、図4(b)は1時間、図4(c)は4時間、図4(d)は8時間とした場合である。このグラフの傾きが冷却速度であり、このグラフの中では、8時間かけて冷却した場合に冷却速度は最も小さくなる。なお、グラフの横軸は結晶成長を終了させてからの時間(冷却時間)を表す。
図4から、加熱電流を1時間かけて0にする場合には、冷却速度は約20℃/分であり、加熱電流を4時間かけて0(A)にする場合には冷却速度は約6℃/分であることが分かる。上述したように、誘導加熱電流を0(A)にするまでの時間は1時間以上4時間以下が好ましく、冷却速度としては、6〜20℃/分が好ましい。
結晶成長時に成長面を凸形状にするために、動径方向の温度勾配を一定にした条件で、単結晶インゴットの口径を40mmから310mmへと増大すると、外周部と中心部の温度差は大きくなる。これに伴い、成長終了時の温度分布に基づく、単結晶外周部の引張応力は増大するが、本発明を用いれば、結晶成長終了後の冷却過程において、結晶外周部が中心部に比べて低温となるような温度分布を形成できる。この効果により、口径の大きい単結晶外周部においても、好ましい圧縮応力を有するインゴットを作製できる。
本発明は、常温まで冷却した後に再度、高温にして、外周部が中心部に比べて低温となるような温度分布を形成し、残留応力の分布を変化させるような再熱処理を含むが、常温まで冷却する際に、適切な冷却速度を用いない場合には、外周部に残留する引張応力に起因して、再熱処理を施す前に得られた単結晶に割れが発生することがある。本発明は、成長後に常温までに冷却する過程で、結晶内部の温度分布を変えることで、歪分布を変化させ、割れのない状態で常温まで単結晶を冷却できることも特徴の1つである。
以下に、本発明の実施例について述べる。
まず、実施例で用いる単結晶成長装置について、図5を用いて簡単に説明する。結晶成長は、炭化珪素結晶粉末2を昇華させ、種結晶として用いた炭化珪素単結晶1上で再結晶化させることにより行われる。種結晶の炭化珪素単結晶1は、高純度黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けられる。原料の炭化珪素結晶粉末2は、高純度黒鉛製坩堝3の内部に充填されている。このような黒鉛製坩堝3は、二重石英管5の内部に、黒鉛の支持棒6により設置される。黒鉛製坩堝3の周囲には、熱シールドのための黒鉛製フェルト7が設置されている。二重石英管5は、真空排気装置11により高真空排気(10-3Pa以下)することができ、かつ高純度Arガス配管9と高純度Arガス用マスフローコントローラ10を用いて内部雰囲気をArガスにより圧力制御することができる。また、二重石英管5の外周には、ワークコイル8が設置されており、高周波電流を流すことにより黒鉛製坩堝3を加熱し、原料及び種結晶を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、坩堝上下部を覆うフェルトの中央部に直径2〜4mmの光路を設け、坩堝上部及び下部からの光を取り出し、二色温度計を用いて行う。坩堝下部の温度を原料温度、坩堝上部の温度を種温度とする。
(実施例1)
次に、この結晶成長装置を用いた炭化珪素単結晶の製造について実施例を説明する。まず、種結晶1として、口径102mmの(0001)面を有した4Hポリタイプの炭化珪素単結晶ウェハを用意した。次に、この種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の内部には、CVD法により得られた高純度炭化珪素結晶粉末2を充填した。次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、蓋4で閉じて黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し原料温度を2000℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である2400℃まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには30分かけて減圧し、その後、結晶成長を開始した。
結晶成長中に蓋4の外側の温度を測定した。結晶成長終了時の温度は1600℃であり、対応する数値計算の結果から、中心部と外周部の温度差(ΔT)は16℃と見積もられた。結晶成長を始めてから45時間後に、石英管内の圧力を30分かけて約80kPaになるように与圧して、結晶成長を終了させた。その後、ワークコイルに流す電流を4時間かけて線形に0(A)まで減少させた。対応する計算から、得られたインゴットが結晶成長終了時から1100℃まで冷却される間に、中心部と外周部の温度差(ΔT)は最小で1℃まで下がり、この値を基に考えると、外周部には0.7MPa程度の引張応力(-0.7MPa程度の圧縮応力)が働いていた。中心部と外周部の温度差が1℃であった時間には、中心部と外周部の温度はほぼ等しいと考えられ、中心部、外周部ともに1100℃以上の転位移動可能温度域にあった。また、この引張応力の値は、X線を用いた格子定数の変化量の測定結果から得られる応力の値と良い一致を示した。
得られた結晶の口径は104mm程度で、高さは40mm程度であった。成長速度は約0.9mm/時であった。こうして得られた炭化珪素単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、4Hの単一のポリタイプからなる欠陥の少ない高品質の炭化珪素単結晶インゴットが成長したことを確認できた。この炭化珪素単結晶インゴットを研削、切断、研磨して炭化珪素単結晶基板を作製したところ、加工中に結晶が割れことは発生せずに、4Hの単一ポリタイプからなる欠陥の少ない高品質の炭化珪素単結晶の基板が作製できた。炭化珪素単結晶基板上に電子デバイスを作製する場合、基板に存在する欠陥が電子デバイスの特性に影響を与えるため、本発明により得られた欠陥の少ない高品質の炭化珪素単結晶基板は、電子デバイスを作製するための基板として有用である。
(実施例2)
実施例1と同様にして、まず、種結晶1として、口径77mmの(0001)面を有した6Hポリタイプの炭化珪素単結晶ウェハを用意した。次に、この種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の内部には、アチソン法により作製された炭化珪素結晶原料粉末2を充填した。次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、蓋4で閉じて黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し原料温度を2000℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である2400℃まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには30分かけて減圧し、その後、結晶成長を開始した。
結晶成長中に蓋4の外側の温度を測定した。結晶成長終了時の温度は1650℃であり、対応する数値計算の結果から、中心部と外周部の温度差(ΔT)は12℃と見積もられた。結晶成長を始めてから40時間後に、石英管内の圧力を30分かけて約80kPaになるように与圧して、結晶成長を終了させた。その後、ワークコイルに流す電流を1時間かけて線形に0(A)まで減少させた。対応する計算から、得られたインゴットが結晶成長終了時から1100℃まで冷却される間に、中心部と外周部の温度差(ΔT)は最小で-20℃まで下がり、この値を基に考えると、外周部には14MPa程度の圧縮応力が働いていた。冷却中のΔTの変化は図3と同様の挙動をしており、ΔTが-20℃の際の中心部、外周部の温度は1100℃以上の転位が移動可能な温度であった。また、この圧縮応力の値は、X線を用いた格子定数の変化量の測定結果から得られる応力の値と良い一致を示した。
得られた結晶の口径は78mm程度で、高さは35mm程度であった。成長速度は約0.9mm/時であった。こうして得られた炭化珪素単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、6Hの単一のポリタイプからなる欠陥の少ない高品質の炭化珪素単結晶インゴットが成長したことを確認できた。この炭化珪素単結晶インゴットを研削、切断、研磨して炭化珪素単結晶基板を作製したところ、加工中に結晶が割れことは発生せずに、6Hの単一ポリタイプからなる欠陥の少ない高品質の炭化珪素単結晶の基板が作製できた。炭化珪素単結晶基板上に電子デバイスを作製する場合、基板に存在する欠陥が電子デバイスの特性に影響を与えるため、本発明により得られた欠陥の少ない高品質の炭化珪素単結晶基板は、電子デバイスを作製するための基板として有用である。
(比較例1)
実施例1と同様にして、まず、種結晶1として、口径102mmの(0001)面を有した4Hポリタイプの炭化珪素単結晶ウェハを用意した。次に、この種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の内部には、CVD法により得られた高純度炭化珪素結晶粉末2を充填した。次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、蓋4で閉じて黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し、原料温度を2000℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である2400℃まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには30分かけて減圧し、その後、結晶成長を開始した。
結晶成長中には蓋4の外側の温度を成長装置の外側から2色温度計で測定した。結晶成長終了時の温度は1600℃であり、対応する数値計算の結果から、中心部と外周部の温度差(ΔT)は16℃と見積もられた。結晶成長を始めてから45時間後に、石英管内の圧力を30分かけて約80kPaになるように与圧して、結晶成長を終了させた。その後、ワークコイルに流す電流を8時間かけて線形に0(A)まで減少させた。このとき、対応する数値計算からは、得られたインゴットが結晶成長終了時から1100℃まで冷却される間で、中心部と外周部の温度差(ΔT)は少なくとも5℃より大きく、外周部には4MPa以上の引張応力(-4MPa以上の圧縮応力)が残留していた。また、この引張応力の値は、X線を用いた格子定数の変化量の測定結果から得られる応力の値と良い一致を示した。
得られた結晶の口径は104mm程度で、高さは40mm程度であったが、成長速度は約0.9mm/時であった。こうして得られた結晶をラマン散乱により分析したところ、4Hの単一のポリタイプからなる炭化珪素であった。この炭化珪素単結晶インゴットを研削、切断、研磨して、炭化珪素単結晶基板を作製しようとしたところ、インゴットの外周部に残留した引張応力に起因して、加工中に結晶に割れが発生して、電子デバイス作製用の基板に加工することができなかった。
(比較例2)
実施例2と同様にして、まず、種結晶1として、口径77mmの(0001)面を有した6Hポリタイプの炭化珪素単結晶ウェハを用意した。次に、この種結晶1を黒鉛製坩堝3の蓋4の内面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の内部には、アチソン法により得られた高純度炭化珪素結晶粉末2を充填した。次いで、原料を充填した黒鉛製坩堝3を、蓋4で閉じて黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し原料温度を2000℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である2400℃まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには30分かけて減圧し、その後、結晶成長を開始した。結晶成長を始めてから40時間後に、石英管内の圧力を30分かけて約80kPaになるように与圧して、結晶成長を終了させた。
その後、ワークコイルに流す電流を即座に0(A)まで減少させて冷却した。対応する計算から、得られたインゴットが結晶成長終了時から1100℃まで冷却される間に、中心部と外周部の温度差(ΔT)は最小で-70℃まで下がり、インゴット中心部で50MPa程度の引張応力(-50MPa程度の圧縮応力)が残留していた。この引張応力の値は、X線を用いて測定した格子定数の変化量から得られる応力の値に比べると大きかった。これは、結晶に割れが発生したために応力の緩和が起こり、結晶に残留する引張応力の値が小さくなったためと考えられ、割れが発生する前の冷却過程においては、計算から推定される大きな引張応力が発生していたと考えられる。
得られた結晶の口径は78mm程度で、高さは35mm程度であったが、前述のように大きな引張応力に起因して、結晶には割れが発生していた。成長速度は約0.9mm/時であった。こうして得られた炭化珪素単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、6Hの単一のポリタイプからなる欠陥の少ない高品質の炭化珪素単結晶インゴットが成長したことを確認できた。結晶に割れがあるために、電子材料用の基板として利用することはできなかった。
改良レーリー法の原理を説明する図 有限要素法を用いて数値的に求めた坩堝内部の温度の等高線を示す図(図中の数字は温度(℃)) 加熱電流を0Aとするまでの時間を変化させた場合の中心部と外周部の温度差の変化の様子 加熱電流を0Aとするまでの時間を変化させた場合の中心部の温度の時間変化の様子 本実施例の単結晶成長装置を説明する図
符号の説明
1 種結晶(炭化珪素単結晶)
2 炭化珪素結晶粉末原料
3 黒鉛製坩堝
4 黒鉛製坩堝蓋
5 二重石英管
6 支持棒
7 黒鉛製フェルト(断熱材)
8 ワークコイル
9 高純度Arガス配管
10 高純度Arガス用マスフローコントローラ
11 真空排気装置

Claims (9)

  1. 炭化珪素単結晶インゴットの外周部分の周方向への残留応力が-3.5MPa以上35MPa以下の圧縮応力であることを特徴とする炭化珪素単結晶インゴット。
  2. 前記圧縮応力が0MPa超35MPa以下である請求項1記載の炭化珪素単結晶インゴット。
  3. 前記炭化珪素単結晶インゴットの口径が40〜310mmである請求項1又は2に記載の炭化珪素単結晶インゴット。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットを切断、研磨してなる炭化珪素単結晶基板。
  5. 坩堝内に炭化珪素原料と炭化珪素種結晶を装填して炭化珪素原料を加熱する昇華再結晶法により炭化珪素単結晶インゴットを製造する方法であって、単結晶成長後の冷却過程で、前記インゴットの中心軸に垂直な面上にある中心部の温度が、同一面上の外周部に比べて-5℃以上50℃以下高い温度であることを特徴とする炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
  6. 前記インゴット外周部の温度が昇華再結晶温度から転位移動可能温度までの温度域である請求項5記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
  7. 前記温度域が2400〜1100℃である請求項5又は6に記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
  8. 前記中心部の温度が外周部に比べて0℃超50℃以下高い請求項5記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
  9. 前記インゴットの冷却速度を6〜20℃/分とすることで、前記インゴットの中心部と外周部の温度差を設ける請求項5〜8のいずれかに記載の炭化珪素単結晶インゴットの製造方法。
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