JP2007257965A - 固体高分子型燃料電池及び燃料電池システム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 固体高分子電解質膜の両面に、触媒層及び拡散層からなる電極が接合された膜電極接合体を備え、前記拡散層は、添加剤を含み、該添加剤は、少なくとも、自ら過酸化物又は過酸化物ラジカルと反応することによって、過酸化物を安定化させ若しくは過酸化物ラジカルを消滅させる機能を有する犠牲剤を含む固体高分子型燃料電池及びこれを用いた燃料電池システム。
【選択図】 なし
Description
また、全フッ素系電解質は、耐酸化性に優れるが、一般に極めて高価である。そのため、固体高分子型燃料電池の低コスト化を図るために、炭化水素系電解質(高分子鎖内にC−H結合を含み、C−F結合を含まない電解質)、又は部分フッ素系電解質(高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の双方を含む電解質)の使用も検討されている。
また、液体燃料を用いる燃料電池において、燃料には、一般に、メタノールが使用される。メタノールは、有毒であるので、燃料電池の運転中に燃料漏れが発生すると、環境に対して悪影響を及ぼすおそれがある。
また、電極反応を効率よく進行させるためには、触媒層内に電極触媒、電解質及び反応ガスが共存する三相界面を確保する必要がある。そのため、触媒層内に撥水剤としてポリテトラフルオロエチレンを添加する場合がある。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレンは凝集しやすいので、電極触媒を含む電極用スラリーにポリテトラフルオロエチレンを添加すると、スラリーが餅状になりやすいという問題がある。
さらに、高分子電解質の大きさは、一般に、電極触媒を担持させる触媒担体の一次粒子より大きいので、触媒担体の近傍に高分子電解質を均一に分散させにくいという問題がある。
一方、大環状金属錯体や遷移金属酸化物は、過酸化水素を分解する作用があり、しかも、貴金属に比べて安価であるが、電子伝導性は低い。そのため、MEAの耐久性を向上させるためにこれらの化合物を電極に多量に添加すると、内部抵抗あるいは接触抵抗の上昇を招き、電池性能が低下するという問題がある。
しかしながら、特許文献3には、触媒層にラウリルアルコールを添加した例が記載されているが、長期間の犠牲作用を維持するためには、触媒層にラウリルアルコールを多量に添加する必要がある。一方、多量の添加は、電子伝導性の低下や触媒表面を覆い電池性能の低下を招く。
さらに、電解質として多用されているパーフルオロ系の電解質膜は、メタノール等を含むアルコール溶液と接触すると膨潤が甚だしく、強度が低下しやすい。従って、このような高濃度アルコールを継続的に供給すると、機械的ストレスを受ける箇所で電解質膜が短期間に穴明きに至る場合がある。例えば、キャスト法で作製されたパーフルオロ系膜は、アルコール系溶剤に非常に弱く、犠牲剤としてアルコールを高濃度で供給し続けると、膜強度が大幅に低下し、短期間に穴明きに至り、電池電圧低下も著しい。
また、電極には、三相界面を形成するためにエタノールやプロパノールのアルコール水溶液に電解質を溶解又は分散させたパーフルオロ系の電解液を固化したものが使用されている。しかしながら、アルコールを継続的に供給すると、電池作動中に、徐々に電解質がアルコールにより持ち出され、電池電圧の低下が起きる。
さらに、過酸化物ラジカルは、触媒層及び拡散層に含まれる炭素材料を劣化させる場合がある。しかしながら、炭素材料の劣化を積極的に抑制するための手段が提案された例は、従来にはない。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、過酸化物又は過酸化物ラジカルとの反応に消費されなかった犠牲剤が大気中に放出されることにより生ずる環境負荷を抑制することにある。さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、犠牲剤の腐敗に起因する電池性能の低下や臭気の発生を抑制することにある。
また、本発明に係る燃料電池システムは、本発明に係る固体高分子型燃料電池と、該固体高分子型燃料電池に水及び/若しくは水蒸気を供給し、並びに/又は、前記固体高分子型燃料電池から排出される水及び/若しくは水蒸気を回収するための加湿経路とを備えていることを要旨とする。
さらに、添加剤として、界面活性剤と界面活性剤以外の犠牲剤との混合物を用いると、溶出した犠牲剤及び界面活性剤がミセルを形成し、あるいは、界面活性剤が水の表面張力を下げる。そのため、電極の細孔部分や電解質膜内部まで犠牲剤が容易に浸透し、過酸化物又は過酸化物ラジカルを効率よく消滅させることができる。また、犠牲剤として、ある種の化合物を用いると、環境に対する負荷を軽減することができる。さらに、加湿経路のいずれかに抗菌手段を備えている場合には、添加剤の腐敗に起因する電池性能の低下や臭気の発生を抑制できる。
燃料ガス供給装置30から供給される燃料ガス(例えば、水素ガス)は、吸気マニホールド(図示せず)を介して各MEAの燃料極側に分配され、各燃料極から排出されるガスは、排気マニホールド(図示せず)を介して排出されるようになっている。同様に、酸化剤ガス供給装置50から供給される酸化剤ガス(例えば、空気)は、吸気マニホールド(図示せず)を介して各MEAの空気極側に分配され、各空気極から排出されるガスは、排気マニホールド(図示せず)を介して排出されるようになっている。
さらに、固体高分子型燃料電池20には、その運転状態の監視・制御を行うための各種センサ(例えば、電圧測定装置22、温度測定装置24等)が設けられている。
水素ポンプ40の下流側には、背圧を調整するためのバルブ36bが設けられている。水素ポンプ40及びバルブ36bを介して排出された排ガスは、空気極側の排ガスによって希釈され、大気中に排出されるようになっている。
さらに、水素吸気管34aの圧力調整バルブ34b−水素吸気バルブ34c間と、水素排気管36aの水素ポンプ40−バルブ36b間とは、逆止弁42bを備えた連結管42aで繋がれている。SUS製の逆止弁42bは、排気側からの大気の混入を防止するためのものである。
酸化剤ガス供給装置50の排気系統は、固体高分子型燃料電池20の空気極側の排気マニホールド(図示せず)に繋がれた空気排気管58と、空気排気管58を介して排出される排ガスに含まれる水分を分離する空気気液分離器60とを備えている。水分が分離された空気極側の排ガスは、希釈水素の排気系に導かれるようになっている。
空気気液分離器60は、回収管62aを介して加湿器54に繋がれている。空気気液分離器60は、排ガスから分離された水を回収管62aに排出する構造になっている。また、回収管62aには、空気気液分離器60の水を加湿器54側又は排水側に切り替えるための三方弁62bと、回収管62aを開閉するための開閉バルブ62cが設けられている。
また、図1に示す燃料電池システム10において、水素吸気管34aのいずれかに、燃料ガスを加湿するための加湿器を設けてもよい。この場合、水素吸気管34a及び燃料極側の加湿器、並びに、水素吸気管34aに設けられた各種バルブは、加湿経路70の構成要素となる。
また、図1に示す燃料電池システム10において、燃料極側から排出される水を回収し、固体高分子型燃料電池20の加湿に用いるための循環経路を設けてもよい。この場合、燃料ガス供給装置30の吸気系統に加えて、排気系統の一部(例えば、水素排気管36a、水素気液分離器38、開閉バルブ40b、水素ポンプ40など)も、加湿経路70の構成要素となる。
さらに、図1に示す燃料電池システム10において、燃料源として水素ボンベ32を用いているが、これに代えて改質器システムを用いても良い。同様に、酸化剤ガスとして、空気を用いているが、これに代えて酸素や酸素+窒素の混合ガスを用いても良い。
例えば、過酸化物は、主として、空気極側で発生すると考えられているので、空気極側の拡散層に犠牲剤を添加すると、効率よく過酸化物又は過酸化物ラジカルを消滅させることができる。また、過酸化物は、酸素が燃料極側にクロスオーバーすることによって燃料極側においても発生すると考えられているので、空気極側の拡散層に代えて又はこれに加えて、燃料極側の拡散層に犠牲剤を添加しても良い。但し、燃料極側の拡散層に犠牲剤を固定する場合、触媒層上での燃料の酸化反応を阻害することがある。そのような場合には、その添加量は、空気極の場合に比べて少なくするのが好ましい。
さらに、固体高分子型燃料電池20は、一般に、複数個のMEAを備えているが、MEAが曝される環境は、場所によって異なる場合がある。そのため、最も過酷な環境に曝されるMEAの拡散層にのみ、添加剤を添加しても良い。
また、添加剤の固定方法としては、例えば、
(1)撥水性粒子(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末)と、導電性微粒子(例えば、炭素粒子)と、添加剤と、溶媒とを加えてペースト状にし、拡散層表面にペーストを塗布(例えば、スプレー塗布、ドクターブレード等の塗工機による印刷など)し、溶媒を除去する方法、
(2)導電性微粒子と添加剤とを溶媒に分散させた処理液に拡散層を浸漬し、乾燥させる方法、
(3)添加剤を溶媒に分散させた溶液に、さらにポリアクリル酸やヒドロキシセルロース等の界面活性剤をバインダー(接着剤)として加えた処理液に拡散層を浸漬し、拡散層内に添加剤を固定した後、表裏面の添加剤のみを溶剤で除去する方法、
(4)これらの組み合わせ、
などがある。
また、本発明において、「犠牲剤」とは、自ら過酸化物又は過酸化物ラジカルと反応することによって、過酸化物を安定化させ又は過酸化物ラジカルを消滅させる作用(犠牲作用)を有する有機化合物をいう。
また、本発明において、「界面活性剤」とは、分子内に疎水基と親水基を持つ有機化合物をいう。界面活性剤は、いわゆる「界面活性作用」のみを有するものでも良く、あるいは、界面活性作用に加えて、犠牲作用を有するものでも良い。
また、本発明において、「抗菌剤」とは、添加剤の腐敗を抑制する作用(抗菌作用)を有する有機化合物を言う。抗菌剤は、抗菌作用のみを有するものでも良く、あるいは、抗菌作用に加えて、犠牲作用を有するものでも良い。
さらに、本発明において、単に「犠牲剤」というときは、特に断らない限り、広義の犠牲剤(すなわち、犠牲作用のみを有する犠牲剤、犠牲作用を有する抗菌剤、及び、犠牲作用を有する界面活性剤を含む概念)をいう。
第1に、添加剤は、ハロゲン元素を含まない有機化合物が好ましい。ハロゲン元素を含む有機物であっても、犠牲剤、界面活性剤又は抗菌剤として機能するものがある。しかしながら、ハロゲン元素を含む有機化合物(例えば、Fを含有するF系界面活性剤や、Clを含むカチオン系界面活性剤など)は、生物分解性が低く、製造・廃棄・リサイクル過程での環境負荷が大きいものが多い。従って、特に過酸化物又は過酸化物ラジカルとの反応に消費されなかった添加剤をそのまま放出するタイプ(開放型)の燃料電池システムにおいては、添加剤として、ハロゲン元素を含まない有機物を用いるのが好ましい。
従って、特に過酸化物又は過酸化物ラジカルとの反応に消費されなかった添加剤をそのまま放出するタイプ(開放型)の燃料電池システムにおいては、添加剤として、非芳香族有機化合物を用いるのが好ましい。
これに対し、C、H、Oのみからなる添加剤の場合、酸化分解生成物は、最終的にはCO2とH2Oであるため、燃料電池系外へ放出したとしても、環境負荷は小さい。また、燃料電池の酸化・還元反応も阻害されにくい。
ここで、「天然物」とは、動物、植物又は鉱物をいう。また、「天然物から採取される有機化合物の混合物」とは、例えば、植物から採取される樹液のように、天然物から直接採取されたものであって、精製等の処理を行っていないものをいう。また、天然物には、酵母等の微生物を利用した発酵技術により製造されるものも含まれる。
天然物由来の犠牲剤は、犠牲作用だけでなく、過酸化物ラジカルを消去する作用、活性酸素を除去する作用、酸化防止作用、H2O2分解作用、Feイオンをキレート化して不活性化する作用をさらに有するものが好ましい。
すなわち、犠牲剤は、犠牲作用に加えて、犠牲剤の腐敗を抑制する抗菌作用を有するものが好ましい。
上述したハロゲン及び/又は芳香環を含まない有機化合物は、生物分解性が大きいために、環境負荷が小さいという利点がある。しかしながら、生物分解性が大きいと言うことは、腐敗しやすいことを意味しており、燃料電池においては、これが欠点となる場合がある。すなわち、例えば、燃料電池が長期間未使用で室温まで冷却され、燃料電池セルの拡散層や触媒層、配管部、凝縮系(配水系)が添加剤と共に結露した場合には、混入した微生物や細菌の食物となり、異臭を発生させたり、あるいは、目詰まりを引き起こして電池性能が低下しやすい。これは、犠牲作用が強いものの、腐敗しやすい犠牲剤(例えば、天然物由来のアミノ酸やタンパク質など)を用いた場合に特に生じやすい。
そこでこのような場合には、犠牲剤として、さらに抗菌作用を有するものを用いるのが好ましい。また、犠牲剤と抗菌剤とを組み合わせて用いても良い。
第1に、界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤又はアニオン系界面活性剤の酸体が好ましい。カチオン系の界面活性剤は、官能基の対イオンが一般にCl等のハロゲンであるため環境負荷が大きい。また、加湿水にカチオン系の界面活性剤が溶解すると、加湿水のイオン伝導度が高くなり、腐食性が大きくなる。
一方、アニオン系の界面活性剤は、官能基の対イオンが一般にNa等のアルカリ金属イオンであるため、これを加湿水に溶解させると、加湿水のイオン伝導度が高くなり、腐食性が大きくなる。また、電解質のプロトンが対イオンのアルカリ金属イオンにより除々に置換され、プロトン伝導性が低下し、十分な電池性能が得られ難い欠点がある。
これに対し、ノニオン系界面活性剤は、イオン解離を伴わないため、加湿水の腐食性を増大させたり、あるいは、電解質のプロトン伝導性を低下させることがない。また、アニオン系の界面活性剤であっても、官能基のスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基等がアルカリ金属イオンではなく、プロトンで置換された、いわゆる「酸体」であり、水への溶解度が小さいものは、腐食性が小さく、電解質のプロトン伝導性を低下させないので、使用することができる。
第3に、界面活性剤は、あわ立ち性(いわゆる、気泡性)の低いものが好ましい。あわ立ち性の低いものは、配管内部の圧力損失を大きくしないので好ましい。
[1. 非芳香族化合物であり、かつ、ハロゲン元素を含まない犠牲剤]
脂肪族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、炭酸エステル、脂肪族ケトン、テルペン類、脂肪族カルボン酸、ポリカルボン酸、L−アスコルビン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、タンパク質、アミノポリカルボン酸(EDTA等のキレート剤)、アミノスルホン酸、尿素及びその誘導体、糖類、スルファイド類、ジスルファイド類、メラニン及びその誘導体、キノン類、ポリフェノール類など。
(1) キノン類: ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、ユビキノン及びこれらの還元体(例えば、ベンゾキノンについてはハイドロキノン)など。また、コチニール色素やアカネ色素のようなキノン系の誘導体であっても良い。
(2) タンパク質: 牛乳由来のラクトフェリン、家畜血液由来のヘモグロビン或いはカタラーゼ、ペオキシターゼの様な酵素及びこららの加水分解生成物ペプトンあるいはメラニン、ケラチン、リゾチームなど。特に、イカ墨色素は、主成分をメラニンとする優れた犠牲剤である。
(3) テルペン類: ミント、ミルセン、R−リモネン、β−イオノン、テルピネン−4−オール、パラシメン、α−テルピネン、γ−テルピネン、α−テルピネオール、1−メントール、ヒノキチオールなど。
(4) ポリフェノール類: フェニルカルボン酸系の没食子酸、タンニン酸、リグナン系のセサミン、セサモリン、クルクミン系、クマリン系、フラボノイド系として大豆由来のイソフラボン、ルチン、アントシアニン、カテキン、フミン酸など。
また、上記犠牲剤の分解生成物から生成するアルコールやエステル、カルボニル化合物(ケトン、アルデヒド、カルボン酸)も電極反応で生成する過酸化水素由来の・OHラジカルのスカベンジャーとして作用し、過酸化水素による電解質の分解劣化や炭素材料の撥水性の低下(親水化)を防止する。この事は、少量の犠牲剤でも安定的に電極に供給することが可能ならば、長期間の電池保護作用が期待できることを意味する。
天然物由来の犠牲剤であって、犠牲作用に加えて、・OHラジカル消去作用、活性酸素除去作用、酸化防止作用、H2O2分解作用、又は、Feイオンをキレート化して不活性作用を有するものには、以下のようなものがある。
(1) 食品添加物として用いられる蔗糖、果糖などの糖類。
(2) マンニトール、エリスリトール、ソルビトールなどの生物発酵技術で得られた多価アルコール類。
(3) 牛乳由来のラクトフェリンや家畜血液由来のヘモグロビン、リゾチーム、グルタチオンやカタラーゼ、ペルオキシターゼ等の酵素を含むタンパク質及びその加水分解生成物であるペプトンや、アミノ酸(L−リジン、L−アルギニン、L−アラニン、L−プロリン、L−オルニチン等)など。
(4) お茶、ぶどう、コーヒー豆、植物由来のリグニン、タンニン酸、加水分解性タンニン、縮合型タンニン、大豆由来のルチン等のポリフェノール、腐植成分の不純物であるフミン酸など。
(5) R−リモネン、β−イオノン等のテルペン類を含む果実や植物由来の天然香料。
(6) ローズマリーやシソ等由来のハーブ油、オリーブやツバキ油の様なβ−ピネン、ノルボーネン等のテルペン類を含む植物由来の精油、抽出物。
(7) 天然色素:
カロテノイド系のクチナシ黄色素、パーム油カロテン、トウガラシ色素、アナトー色素、カルコン系のベニバナ黄色素、ベニバナ赤色素、ウコン色素、ベニコウジ色素、モナスカス、クチナシ赤色素、コチニール色素、ラック色素、アカネ色素、アントシアニン系のシソ色素、赤キャベツ色素、アカダイコン色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ブドウ果皮色素、ブルーベリー色素、エルダーベリー色素、ビートレット、クチナシ青色素、ベニバナ黄色素、ベニコウジ黄色素、クロロフィル、スピルリナ色素、フラボン系のカカオ色素、カキ色素、タマリンド色素、コウリャン色素、植物炭末色素、イカスミ色素、リボフラビン(ビタミンB2)等の天然色素など。これらの中でも、キノン系のアカネ色素、コチニール色素及びメラミン系のイカ墨色素、フラビン色素のリボフラビンは、特に・OHラジカルとの反応性が高いので、犠牲剤として好適である。
ハロゲン元素を含まず、かつ、毒性が低い抗菌剤には、以下のようなものがある。
(1) 含窒素複素環系:
2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール(TBZ)、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル(BCM)、2−メチルカルボニルアミノベンツイミダゾール、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンツチアゾール(TCMTB)、2,2−ジチオビスピリジン−1−オキシド、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジンなど。
(2) ジスルファイド系: テトラメチルチウラムジスルフィドなど。
(3) エステル系: 脂肪酸モノグリセド、ショ糖脂肪酸エステルなど。
(4) 天然有機系: ヒノキチオール系、キトサン系、カラシ抽出物系、ユーカリ抽出物系、唐辛子由来のカプトサイシン系など。
(5) 食品添加物として許容されているL−ソルビン酸、D−マンニトール、白子蛋白抽出物、ε−ポリリジンなど。
(6) 抗菌タンパク質: ラクトフェリン、リゾチームなど。
テルペン類は、・OHラジカルとの反応性が高く、犠牲作用と殺菌作用とを合わせ持つ。また、その構成元素は、C、H、Oのみからなり、NやSを含まず、電極作用を妨害する作用が小さい。これらは、単独物質で加えても良いし、天然物から精製したこれらテルペン類を含む混合組成物である精油のまま用いても良い。また、これらの精油をそのまま拡散層に添加すると水で除去されやすい場合は、精油をカネマイト等の層状シリケート、シリカゲルやゼオライト、セピオライト、活性アルミナ等のセラミックス(担体)に吸着させて拡散層に添加し、ここから徐々に溶かし出すようにすると、長期間これらの物質が電極に作用するので好ましい。
精油としては、具体的には、テレピン油、ジダー油、クロロフィル油、チョウジ油、ウイキョウ油、ラベンダー油、オレンジ油、レモン油、オリガヌム油などがある。
メソポーラスシリカ多孔体の作製方法は限定されないが、好ましい例として、無機材料、例えばカネマイト等の層状シリケートを、テンプレート物質である界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム等の陽イオン性界面活性剤、アルキルスルホン酸塩等の陰イオン性界面活性剤、ポリエチレングリコール等の非イオン性界面活性剤を使用)と混合反応させ、界面活性剤のミセルの周囲に無機の骨格が形成された界面活性剤/無機複合体を形成させた後、例えば400〜600℃での焼成や有機溶媒抽出等により界面活性剤を除去し、界面活性剤のミセルと同じ形状のメソポア細孔を無機骨格中に形成する、という方法を挙げることができる。
カネマイト等の層状シリケートを用いて構造ユニットを形成する場合、その細孔表面は疎水性となり、アニオン性表面は、表面にアミノ基等のカチオンを有するアミノカルボン酸、タンパク質(酵素)の固定化のため好ましい。前記のように、構造ユニットは、酵素サイズとほぼ合致した大きさであることが好ましいが、メソポーラスシリカ多孔体におけるこのような構造ユニットのサイズ(即ち、細孔)の調整は、界面活性剤のアルキル鎖の長さを変えることによりミセルの径を調整することで可能となる。
上述した各種有機物の中でも含酸素有機化合物、中でも、エステル類、有機炭酸エステル類、ラクトン類、ケトン類及び尿素類似化合物は、中性分子であり、分子内にCO結合を含み、電極上で速やかに分解されてCO2を生成するため、炭素材料の消耗を防ぐ観点から、犠牲剤として好適である。
(1) 鎖状炭酸エステル:
DMC(ジメチルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)、DPC(ジプロピルカーボネート)、DBC(ジブチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)、VC(ビニレンカーボネート)、炭酸ビニルエチレンなど。
(2) 環状炭酸エステル:
MC(メチルカーボネート)、EC(エチルカーボネート)、PC(プロピレンカーボネート)など。
(3) ラクトン類:
γ−ブチルラクトン(BL)、γ−デカラクトン(DL)、δ−ヘプタラクトン(HL)など。
(4) 尿素類似化合物:
尿素、チオ尿素、メチル尿素、ヒドロキシ尿素など及びこれらの誘導体。
[1. ノニオン系界面活性剤]
(1) エーテル型:
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルなど。
脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノ脂肪酸グリセリン、トリ脂肪酸グリセリン、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステルなど。
(3) エーテル・エステル型:
モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコールポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、イソステアリン酸ポリエチレングリコール、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシエチレンセチルエーテル、ステアリン酸ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ステアリン酸ポリオキシエチレンラウリルエーテル、イソステアリン酸ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エチル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット・ソルビタン脂肪酸エステルなど。
トリイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ジステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリオレイン酸ポリオキシエチレングリセリルなど。
(5) ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステル:
イソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など。
(6) ポリオキシエチレントリメチロールプロパン脂肪酸エステル:
ポリオキシエチレントリステアリン酸トリメチロールプロパン、ポリオキシエチレントリミリスチン酸トリメチロールプロパン、ポリオキシエチレンジステアリン酸トリメチロールプロパン、ポリオキシエチレントリイソステアリン酸トリメチロールプロパンなど。
N−アシルグルタミン酸エステル、N−アシル中性アミノ酸エステル、ピログルタミン酸エステルなど。
(8) ポリグリセリン脂肪酸エステル:
ステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、オレイン酸ポリグリセリルなど。
(9) 脂肪酸アルカノールアミド:
ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン(2)ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドなど。
(10) その他:
水素添加大豆リン脂質、ラノリンなど。
カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸系界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンなど。
以下の天然物由来の界面活性剤の内、ショ糖エステルやポリグリセリンエステルは、安全性が高く、食品添加物としても認可されている。
(1) ショ糖エステル:
ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルなど。
(2) ポリグリセリンエステル:
デカグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンミリスチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンベヘニン酸エステル、デカグリセリンエルカ酸エステルなど。
(3) その他:
(a)ヒドロキシエチルセルロース及び皮膚に低刺激性であることが確認されているアミノ酸系エステル、
(b)天然ヤシ油やヒマシ油等の植物、あるいは、牛脂、鯨油を原料とした脂肪酸エステル、
(c)サトウキビ、キャッサバ、サツマイモ等のデンプンを発酵させて得た天然アルコールを原料とした高級アルコールエステル、など。
また、界面活性剤と界面活性剤以外の犠牲剤(犠牲作用を有する抗菌剤を含む)とを組み合わせて用いると、拡散層から溶出した犠牲剤と界面活性剤がミセルを形成し、・OHラジカル発生部に一様に行き渡る。そのため、耐久性向上の観点から非常に効果的である。また、界面活性剤が水の表面張力を下げるので、触媒層の細孔部分や電解質膜内部まで犠牲剤が浸透しやすくなり、過酸化水素及び・OHラジカルを安定的に除去することができる。さらに、添加剤として、抗菌剤を使用すると、犠牲剤や界面活性剤の腐敗に起因する拡散層や触媒層の細孔の閉塞、腐敗臭の発生を抑制することができる。
一般に、添加量の総量が少ない場合、十分な犠牲作用が得られず、あるいは、犠牲作用を長期間に渡って維持するのが困難となる。一方、多量の添加剤を電極に供給することは、非経済的であるばかりでなく、後の分解・吸着除去工程を複雑大規模にしたり、TOC(全有機物炭素濃度)を大きくし、有機物排出量の増大による環境負荷が大きくなり好ましくない。燃料電池システムから排出されるTOC濃度は、好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは飲料水基準値である10ppm以下とすべきである。
これらの事より、犠牲剤(及び抗菌剤)、並びに、界面活性剤の必要な有機物濃度は、排水濃度で10ppm以下とすべきである。また、これを超える供給とならないように、添加剤の種類の選定と拡散層への添加量の最適化を図るのが好ましい。添加剤の総量は、具体的には、拡散層面積に対して0.1〜10mg/cm2が好ましい。
このような機能を有する抗菌処理部としては、具体的には、
(1) 殺菌・抗菌作用を有する金属(例えば、Cu、Agなど。)被膜でその内面がメッキされた犠牲剤タンク、配管類等、
(2) 加湿経路や空気吸入直下部に設けられたセラミックフィルター、セラミックボール、不織布等であって、その表面に、殺菌・抗菌作用を有する金属又はその化合物を担持させたもの、
(3) その内部に殺菌・抗菌作用を有する金属元素が固定された触媒層、拡散層、電解質膜等、などがある。
(1) Cu等の元素を含み、かつ、難溶性の酸化物、リン酸塩、タングステン酸塩等からなる微粒子を触媒層内部、拡散層内部、あるいは、電解質膜内部に分散させる方法、
(2) Cu等の硝酸塩、硫酸塩等と電解質膜又は触媒層内電解質とを反応させ、イオン交換基のプロトンの一部(0.1〜10%)を金属イオンでイオン交換する方法、
(3) Cu等の硝酸塩、硫酸塩等で添加剤に含まれる官能基のプロトンの一部(0.1〜10%)を金属イオンでイオン交換する方法、
(4) 電解質膜、触媒層又は拡散層の表面に、Cu等の金属又はその酸化物の薄膜をスパッタ、レーザーアブレーション等により形成する方法、
(5) アルコキシドやブトキシド、アセチルアセトン錯体等のCu等を含む有機金属錯体を触媒層や拡散層上で加水分解させ、Cu等を含む酸化物を形成する方法(ゾルゲルプロセス)、などがある。
なお、これらの抗菌手段は、いずれか1つを用いても良く、あるいは、2以上を組み合わせて用いても良い。
「分解・除去手段」とは、拡散層から溶出した過剰の添加剤、及び/又は、これらの反応生成物を分解又は除去する手段をいう。添加剤の未反応物及びこれらと過酸化水素又は・OHラジカルとの反応生成物は、CO2とH2Oを除き、たとえ微量であっても外界に放出することは好ましくない。これらの有機物は、極微量であっても著しい臭気を有するものもあり、臭気を感ずる濃度以上に外界に出さないことが好ましい。そのため、燃料電池の加湿経路(特に、固体高分子型燃料電池から排ガス又は水を排出する排出経路)のいずれかに、これらを分解又は除去する分解・除去手段を設けるのが好ましい。
分解・除去手段の第1の具体例は、排出経路のいずれかに設けられたフィルタである。フィルタには、活性炭フィルタや、活性アルミナ、マグネシア、ケイ酸、酸化セリウム等の酸化物フィルタを用いるのが好ましい。また、フィルタ表面には、CeO2やCeO2−ZrO2等の酸化物担体表面に微量のPt等の貴金属を担持させた触媒を担持させるのが好ましい。フィルタ表面に触媒を担持させると、有機物の吸着除去に加えて、酸化雰囲気では比較的低温から低濃度の有機物をCO2とH2Oまで迅速に分解できるので、臭気を効果的に除去することができる。
(1) 天然物由来の精油を備えた分解除去装置を排出経路のいずれかに配置し、排出され有機物を分解させる方法(この装置は、気化した精油成分が犠牲剤、界面活性剤、抗菌剤及びこれらの反応生成物と反応し分解を促し、さらにこれら有機物の凝集を促すことにより、セラミックフィルターでトラップして除去する装置であり、ディーゼルエンジンからの排気微粒子を除去する装置として検討されている)、
(2) オゾン放電管を備えた反応器を有する分解装置を排出経路のいずれかに配置し、反応器内で有機物を分解させる方法、
(3) TiO2触媒を担持した触媒層及びこれに紫外線を照射するための紫外線ランプを備えた分解装置を排出経路のいずれかに配置し、触媒層に排ガス及び/又は排出水を通過させ、有機物を分解させる方法、などがある。
なお、上述した分解・除去手段は、それぞれ、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
燃料電池において、過酸化水素は、燃料極側から空気極側に水素が透過(クロスオーバー)し、空気極側において、酸素が2電子還元されることにより生成すると考えられている。すなわち、燃料極側から空気極側へ水素が透過すると、透過水素は、(1)式に示すように、空気極の触媒上において酸化され、プロトンと電子を生成する。
H2 → 2H++2e− ・・・(1)
また、空気極側の酸素は、次の(2)式に示すように、(1)式のプロトン及び電子を受け取り、過酸化水素となる。すなわち、酸素が2電子還元されることにより、過酸化水素が生成する。
O2+2H++2e− → H2O2 ・・・(2)
さらに、生成した過酸化水素は、価数が変わる遷移金属イオン(Mn+/M(n+1)+)の存在下において、過酸化物ラジカルに分解する。この反応は、次の(3)式及び(4)式で表される。
HOOH+M(n+1)+ → HOO・+H++Mn+ ・・・(3)
HOOH+Mn+ → HO・+OH−+M(n+1)+ ・・・(4)
(3)式及び(4)式より、次の(5)式が得られる。
2HOOH → HOO・+HO・+H2O ・・・(5)
(5)式より、過酸化水素1モルから過酸化物ラジカル(HOO・、HO・)1モルが生成する事がわかる。
例えば、X=Fのフルオロポリマ(RX)と、・OHラジカルとが反応すると、次の(6)式のように分解してFイオン(HX)を放出する。分解により生成したアルコキシラジカル・ROは、互いに結合して安定な化合物(例えば、ROOR)になるか、あるいは、さらに安定な化合物(例えば、H2O、CO2など)へと変化する。
RX+・OH → ・RO+HX ・・・(6)
例えば、電解質膜の水素透過速度を低下させるために、電解質のすべて又は一部を水素透過速度の小さい炭化水素系電解質とし、比較的水素透過速度の大きなフルオロポリマと複合化することも考えられる。しかしながら、炭化水素系電解質は、過酸化水素に対し極めて脆弱であるため、単独の炭化水素系電解質はもちろんの事、過酸化水素を分解する作用を有する触媒を大量に加えて炭化水素系電解質とフルオロポリマとを複合化させても、十分な耐久性が得られないのが現状である。
すなわち、ある種の有機物(QH)は、過酸化物又は過酸化物ラジカルと反応し、これらを消滅させる作用がある。例えば、有機物(QH)と、過酸化物ラジカルの一種である・OHとの反応は、次の(7)式のように表せる。
QH+HO・ → Q・+H2O ・・・(7)
反応により生成したQ・ラジカルは、それ自身が不安定であるため、互いに結合して安定な化合物(例えば、QQ)になるか、あるいは、さらに安定な化合物(例えば、アルコール、カルボン酸、CO2、H2Oなど)に分解する。
過酸化物(例えば、H2O2)や他の過酸化物ラジカル(・OOH)の場合も同様であり、ある種の有機物(QH)と反応させると、過酸化物や過酸化物ラジカルが消滅する。また、反応生物は、安定な化合物となる。
これに対し、拡散層は、多孔質であるため、犠牲剤(並びに、界面活性剤及び抗菌剤)を十分量保持でき、そこから長期間に渡って電極に犠牲剤を供給することができる。例えば、触媒層の厚さは通常5〜20μm、電解質膜の厚さは20〜50μmであるのに対し、拡散層は100μm以上の厚さがある。一般に、触媒層又は電解質膜への犠牲剤の固定量は0.1mg/cm2未満であるのに対し、拡散層へは1mg/cm2以上もの添加が可能である。また、相対的に多量の犠牲剤を拡散層に添加しても、電極反応を阻害するおそれが少ない。そのため、触媒層や電解質膜に添加する場合に比べて、高い電池性能を長期間に渡って維持することができる。さらに、拡散層にこれらを添加すると、犠牲剤を加湿水に溶かして別途供給したり、タンクを用意して犠牲剤を含んだミストを反応ガスに噴霧する必要もない。
ここで、水に易溶性の犠牲剤は、触媒層の細孔内部や電解質膜内部まで浸透させるのが容易である。しかしながら、水に易溶であるために、加湿水や生成水によって燃料電池外に排出されやすい。また、犠牲剤が水に易溶性であっても、水の表面張力が大きい場合には、細孔内部への浸透が困難になることがある。
一方、水に不溶性又は難溶性の添加剤は、拡散層から溶出しにくく、かつ、一旦、触媒層の細孔内部や電解質膜内部まで浸透すると、加湿水や生成水によって排出されにくくなるので、犠牲作用を長期間維持することができる。しかしながら、犠牲剤が水に難溶性あるいは不溶性である場合には、細孔内部や電解質膜内部への犠牲剤の浸透が困難になる。
一方、生物分解性の高い有機物を用いると、有機物が細菌によって汚染され、繁殖物で拡散層や触媒層内の細孔が塞がれ、電池性能が低下したり、あるいは、臭気を発生させるおそれがある。しかしながら、加湿経路のいずれかに抗菌手段を設けると、有機物の腐敗や細菌の繁殖に起因する性能劣化を抑制することができる。
(1) 炭素材料は、本来、高温の高電位状態では安定ではなく、COやCO2ガスとなって消耗する、
(2) 副生成する過酸化水素が炭素材料をアタックして、表面にC=OやC−OH、COOH等の親水性の官能基を生成し、撥水性を低下させる、
ためと考えられる。
C+2H2O → CO2+4H++4e− ・・・(8)
ここで、25℃における(8)式の熱力学的な平衡電位E25℃は、プールベダイアグラム(Pourbaix diagram)より、次の(9)式で表される。
E25℃=0.207−0.0591pH+0.0148logP(CO2)
・・・(9)
すなわち、CO2の分圧が10倍になることで、Cの酸化電位は約15mV上昇する(酸化されにくくなる)。
さらに、加湿経路のいずれかに、過剰の有機物又はその分解生成物を分解及び/又は除去する分解・除去手段をさらに設けると、環境負荷をさらに軽減することができる。
拡散層には、厚さ360μmのカーボン製クロス(大きさ7.2×7.2cm)を用いた。これに、炭素粉末(平均粒径0.03μm、電気化学工業(株)製デンカブラック(登録商標))45%、PTFE粉末45wt%、各種犠牲剤、界面活性剤、抗菌剤を合計で10wt%(添加剤合計を100部とする)添加した撥水層を形成した。拡散層への撥水層の目付量は、15±5mg/cm2であった。PTFE内筒の容器に1wt%のH2O2水溶液200mlを入れ、パーフルオロ系電解質(厚さ45μm、大きさ7.2×7.2cm)1枚と、上記拡散層1枚を入れ、さらにFe2+イオンを10ppm(FeCl2・6H2Oで加えた)添加した。容器を100℃×8hr放置後、オリオンリサーチ社製のフッ化物イオン選択性電極で膜から溶出したF濃度を計測し、F排出速度を計算した。
(1)拡散層に犠牲剤(犠牲作用を有する界面活性剤及び抗菌剤を含む)を添加することによりF排出速度が抑制されること、及び、
(2)犠牲剤と界面活性剤を併用すると、F排出速度がさらに抑制されること、
がわかる。
また、試験後の溶液中の過酸化水素残存率を定電位酸化法(1.2V vs NHEにおけるPt板上の10分後の酸化電流値で比較)によって求めると、比較例1が8.9%であるのに対し、実施例1〜40では、いずれも5.0%以下であった。特に、実施例1〜4、11〜14、27では、0.5%以下となった。これらの事より、実施例1〜40の添加剤は、犠牲作用(過酸化水素を分解除去する作用)が大きいことが示された。
60wt%Pt/C触媒0.5gを触媒重量比0.5wt%相当、蒸留水2.0g、エタノール2.5g、プロピレングリコール1.0g、22wt%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)0.9gをこの順で加え、超音波ホモジナイザーで分散させて触媒インクを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗布、乾燥してカソード転写電極(触媒層)を得た。Pt使用量は、0.5〜0.6mg/cm2の範囲で一定とした。アノードには、30wt%Pt/Cを用い、Pt使用量は0.2mg/cm2とした。これらの触媒層を36mm角に切り出し、厚さ45μmのパーフルオロ系電解質膜の両面に熱圧着(120℃、50kgf/cm2(4.9MPa))し、さらにこの両面に拡散層を機械的に圧着させて、MEAを得た。さらに、MEAの両面を焼成カーボンからなるセパレータで挟持して、燃料電池セルとした。
また、実施例41〜43の場合、カソード側拡散層及び/又はアノード側拡散層の撥水層には、炭素粉末(平均粒径0.03μm、電気化学工業(株)製デンカブラック(登録商標))45%、PTFE粉末45wt%、イカ墨色素10wt%からなるものを用い、イカ墨色素の被覆量は、それぞれ、1.0mg/cm2とした。
また、実施例44、45の場合、カソード側拡散層の撥水層にのみイカ墨色素を添加し、その被覆量は、それぞれ、0.1mg/cm2、0.06mg/cm2とした。
一方、比較例2の場合、撥水層には、アノード側及びカソード側ともに、炭素粉末50wt%、PTFE粉末50wt%からなるものを用いた。さらに、比較例3、4の場合、拡散層に代えて触媒層にイカ墨色素を添加し、その添加量は、それぞれ、1.0mg/cm2、0.06mg/cm2とした。
(1) アノードガス:H2(100ml/min)、カソードガス:空気(100ml/min)、セル温度:90℃、加湿器温度:90℃(アノード側、カソード側ともに)で24時間の開回路耐久試験とした。回収された水に溶出したF−イオン濃度を(株)島津製作所製イオンクロマト装置PIA−1000で求め、単位時間単位面積当たりのF排出速度(μg/cm2/hr)を算出した。
(2) (1)の試験後、開回路3分及び0.1A/cm2の発電3分を1サイクルとする80℃での耐久試験を100hr行い、試験前後での0.8A/cm2の発電における電圧低下割合(%)を求めた。試験条件は、アノードガス:H2(100ml/min)、カソードガス:空気(100ml/min)、加湿器温度:80℃(アノード側、カソード側ともに)とした。
表2に、その結果を示す。
これに対し、カソード側拡散層の撥水層にのみ0.06mg/cm2のイカ墨色素を添加した実施例45の場合、F排出速度及び電圧低下率は、無添加の場合(比較例2)とほぼ同等であった。しかしながら、イカ墨色素の添加量を0.1mg/cm2(実施例44)とすると、比較例2に比べて、F排出速度及び電圧低下率が低下した。さらに、イカ墨色素の添加量を1.0mg/cm2(実施例41〜43)とすると、F排出速度及び電圧低下率はさらに低下した。特に、カソード側拡散層及びアノード側拡散層の双方の撥水層にイカ墨色素を添加すると、F排出速度及び電圧低下率が著しく低下した。
表2より、拡散層に犠牲剤を添加すると、電池性能を損なうことなく、長期間に渡ってFイオンの排出及び電圧低下を抑制できることがわかる。
犠牲剤の溶解度とF排出速度の関係を調べるために、以下の試験を行った。
[1. 拡散層の作製]
以下の2種類の拡散層を作製した。
(1) 拡散層A:
拡散層(厚さ360μm、大きさ7.2×7.2cmのカーボン製クロス)の表面に、炭素粉末(平均粒径:0.03μm、電気化学工業(株)製デンカブラック(登録商標))45wt%、PTFE粉末45wt%、及び、溶解度の異なる各種アルコールからなる犠牲剤10wt%を含むペーストを塗布し、撥水層を形成した。拡散層への撥水層の目付量は、15±5mg/cm2とした。
(2) 拡散層B:
撥水層が形成された拡散層Aを1000mlの純水に入れ、60℃×1hrの温水洗浄を行った。洗浄後、拡散層を取り出し、さらに純水で洗浄し、乾燥させた。
PTFE内筒の容器に1wt%のH2O2水溶液200mlを入れ、パーフルオロ系電解質膜(厚さ45μm、大きさ7.2×7.2cm)1枚と、上記拡散層A又は拡散層B1枚を入れ、さらにFe2+イオンを10ppm(FeCl2・6H2Oで加えて)添加した。容器を100℃×8hr放置後、オリオンリサーチ社製のフッ化物イオン選択性電極で膜から溶出したF濃度を計測し、F排出速度を計算した。図1に、室温における各種アルコールの溶解度とF排出速度との関係を示す。
以上の結果から、相対的に高い犠牲作用を長期間にわたって維持するためには、適度な溶解度を有する犠牲剤を拡散層に添加するか、あるいは、相対的に溶解度の小さな犠牲剤と界面活性剤とを組み合わせて用いることが有効であることがわかる。
20 固体高分子型燃料電池
70 加湿経路
Claims (16)
- 固体高分子電解質膜の両面に、触媒層及び拡散層からなる電極が接合された膜電極接合体を備え、
前記拡散層は、添加剤を含み、
該添加剤は、少なくとも、自ら過酸化物又は過酸化物ラジカルと反応することによって、過酸化物を安定化させ若しくは過酸化物ラジカルを消滅させる機能を有する犠牲剤を含む固体高分子型燃料電池。 - 前記添加剤は、前記拡散層の前記触媒層側表面に形成される撥水層に含まれる請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記添加剤は、少なくとも1種類の界面活性剤と、少なくとも1種類の前記界面活性剤以外の犠牲剤との混合物を含む請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、又は、アニオン系界面活性剤の酸体である請求項3に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記添加剤の腐敗を抑制する抗菌手段をさらに備えている請求項1から4までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記抗菌手段は、前記拡散層に固定された、抗菌作用を有する無機物である請求項5に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記抗菌手段は、前記添加剤として、該添加剤の腐敗を抑制する作用を有する有機化合物を用いることである請求項5又は6に記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記添加剤は、ハロゲン元素を含まない有機化合物である請求項1から7までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記添加剤は、非芳香族有機化合物である請求項1から8までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記添加剤は、天然物から採取される有機化合物の混合物、又は、その精製物である請求項1から9までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記添加剤は、室温における水への溶解度が10g/L以下である請求項1から10までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記添加剤の添加量は、前記拡散層の面積に対して0.1〜10mg/cm2である請求項1から11までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池。
- 前記犠牲剤は、キノン類、テルペン類、タンパク質及びポリフェノール類から選ばれるいずれか1以上を含む請求項1から12までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池。
- 請求項1から13までのいずれかに記載の固体高分子型燃料電池と、
該固体高分子型燃料電池に水及び/若しくは水蒸気を供給し、並びに/又は、前記固体高分子型燃料電池から排出される水及び/若しくは水蒸気を回収するための加湿経路と、
を備えた燃料電池システム。 - 前記固体高分子型燃料電池から排出される排水及び/又は排ガス中に含まれる前記添加剤、又は、これらの反応生成物を分解又は除去する分解・除去手段をさらに備えた請求項14に記載の燃料電池システム。
- 前記加湿経路のいずれかに、前記添加剤の腐敗を抑制する抗菌手段をさらに備えている請求項14又は15に記載の燃料電池システム。
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