JP2007141647A - 燃料電池システム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 固体高分子型燃料電池20と、固体高分子型燃料電池20に水及び/若しくは水蒸気を供給し、並びに/又は、固体高分子型燃料電池20から排出される水及び/若しくは水蒸気を回収するための加湿経路70と、加湿経路70のいずれかに、自ら過酸化物又は過酸化物ラジカルと反応することによって、過酸化物を安定化させ又は過酸化物ラジカルを消滅させる機能を有する少なくとも1種類の犠牲剤と、少なくとも1種類の界面活性剤とを供給する犠牲剤・界面活性剤供給手段とを備えた燃料電池システム10。
【選択図】 図1
Description
また、全フッ素系電解質は、耐酸化性に優れるが、一般に極めて高価である。そのため、固体高分子型燃料電池の低コスト化を図るために、炭化水素系電解質(高分子鎖内にC−H結合を含み、C−F結合を含まない電解質)、又は部分フッ素系電解質(高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の双方を含む電解質)の使用も検討されている。
また、液体燃料を用いる燃料電池において、燃料には、一般に、メタノールが使用される。メタノールは、有毒であるので、燃料電池の運転中に燃料漏れが発生すると、環境に対して悪影響を及ぼすおそれがある。
また、電極反応を効率よく進行させるためには、触媒層内に電極触媒、電解質及び反応ガスが共存する三相界面を確保する必要がある。そのため、触媒層内に撥水剤としてポリテトラフルオロエチレンを添加する場合がある。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレンは凝集しやすいので、電極触媒を含む電極用スラリーにポリテトラフルオロエチレンを添加すると、スラリーが餅状になりやすいという問題がある。
さらに、高分子電解質の大きさは、一般に、電極触媒を担持させる触媒担体の一次粒子より大きいので、触媒担体の近傍に高分子電解質を均一に分散させにくいという問題がある。
一方、大環状金属錯体や遷移金属酸化物は、過酸化水素を分解する作用があり、しかも、貴金属に比べて安価であるが、電子伝導性は低い。そのため、MEAの耐久性を向上させるためにこれらの化合物を電極に多量に添加すると、内部抵抗あるいは接触抵抗の上昇を招き、電池性能が低下するという問題がある。
しかしながら、特許文献3には、触媒層にラウリルアルコールを添加した例が記載されているが、長期間の犠牲作用を維持するためには、触媒層にラウリルアルコールを多量に添加する必要がある。また、多量に添加しても、ラウリルアルコールは低級アルコールより比較的水に難溶ではあるが、電池の作動中に徐々に溶出し、犠牲剤の効果は短寿命である。さらに、多量の添加は、電子伝導性の低下や触媒表面を覆い電池性能の低下を招く。
また、特許文献3には、犠牲剤として燃料ガスにメタノールを添加する例、及び、界面活性剤も犠牲剤として使用可能である点も記載されているが、我々の検討によれば、その効果は不十分なものであった。
さらに、過酸化物ラジカルは、触媒層及び拡散層に含まれる炭素材料を劣化させる場合がある。しかしながら、炭素材料の劣化を積極的に抑制するための手段が提案された例は、従来にはない。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、過酸化物又は過酸化物ラジカルとの反応に消費されなかった犠牲剤が大気中に放出されることにより生ずる環境負荷を抑制することにある。さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、犠牲剤の腐敗に起因する電池性能の低下や臭気の発生を抑制することにある。
この場合、前記犠牲剤及び/又は前記界面活性剤は、ハロゲン元素を含まない有機化合物、非芳香族有機化合物、又は、天然物から採取される有機化合物の混合物若しくはその精製物が好ましい。また、前記加湿経路のいずれかに、前記犠牲剤及び/又は前記界面活性剤の腐敗を抑制する抗菌手段をさらに備えているのが好ましい。
さらに、犠牲剤に加えて界面活性剤を供給すると、犠牲剤を触媒層や拡散層の細孔内部まで浸透させるのが容易となり、過酸化物又は過酸化物ラジカルを効率よく消滅させることができる。また、犠牲剤として、ある種の化合物を用いると、環境に対する負荷を軽減することができる。さらに、加湿経路のいずれかに抗菌手段を備えている場合には、犠牲剤及び/又は界面活性剤の腐敗に起因する電池性能の低下や臭気の発生を抑制できる。
燃料ガス供給装置30から供給される燃料ガス(例えば、水素ガス)は、吸気マニホールド(図示せず)を介して各MEAの燃料極側に分配され、各燃料極から排出されるガスは、排気マニホールド(図示せず)を介して排出されるようになっている。同様に、酸化剤ガス供給装置50から供給される酸化剤ガス(例えば、空気)は、吸気マニホールド(図示せず)を介して各MEAの空気極側に分配され、各空気極から排出されるガスは、排気マニホールド(図示せず)を介して排出されるようになっている。
さらに、固体高分子型燃料電池20には、その運転状態の監視・制御を行うための各種センサ(例えば、電圧測定装置22、温度測定装置24等)が設けられている。
水素ポンプ40の下流側には、背圧を調整するためのバルブ36bが設けられている。水素ポンプ40及びバルブ36bを介して排出された排ガスは、空気極側の排ガスによって希釈され、大気中に排出されるようになっている。
さらに、水素吸気管34aの圧力調整バルブ34b−水素吸気バルブ34c間と、水素排気管36aの水素ポンプ40−バルブ36b間とは、逆止弁42bを備えた連結管42aで繋がれている。SUS製の逆止弁42bは、排気側からの大気の混入を防止するためのものである。
酸化剤ガス供給装置50の排気系統は、固体高分子型燃料電池20の空気極側の排気マニホールド(図示せず)に繋がれた空気排気管58と、空気排気管58を介して排出される排ガスに含まれる水分を分離する空気気液分離器60とを備えている。水分が分離された空気極側の排ガスは、希釈水素の排気系に導かれるようになっている。
空気気液分離器60は、回収管62aを介して加湿器54に繋がれている。空気気液分離器60は、排ガスから分離された水を回収管62aに排出する構造になっている。また、回収管62aには、空気気液分離器60の水を加湿器54側又は排水側に切り替えるための三方弁62bと、回収管62aを開閉するための開閉バルブ62cが設けられている。
また、図1に示す燃料電池システム10において、水素吸気管34aのいずれかに、燃料ガスを加湿するための加湿器を設けてもよい。この場合、水素吸気管34a及び燃料極側の加湿器、並びに、水素吸気管34aに設けられた各種バルブは、加湿経路70の構成要素となる。
また、図1に示す燃料電池システム10において、燃料極側から排出される水を回収し、固体高分子型燃料電池20の加湿に用いるための循環経路を設けてもよい。この場合、燃料ガス供給装置30の吸気系統に加えて、排気系統の一部(例えば、水素排気管36a、水素気液分離器38、開閉バルブ40b、水素ポンプ40など)も、加湿経路70の構成要素となる。
さらに、図1に示す燃料電池システム10において、燃料源として水素ボンベ32を用いているが、これに代えて改質器システムを用いても良い。同様に、酸化剤ガスとして、空気を用いているが、これに代えて酸素や酸素+窒素の混合ガスを用いても良い。
本発明において、「犠牲剤」とは、自ら過酸化物又は過酸化物ラジカルと反応することによって、過酸化物を安定化させ又は過酸化物ラジカルを消滅させる作用(犠牲作用)を有する有機化合物であって、界面活性剤以外のものをいう。
また、本発明において、「界面活性剤」とは、分子内に疎水基と親水基を持つ有機化合物をいう。界面活性剤は、いわゆる「界面活性作用」のみを有するものでも良く、あるいは、界面活性作用に加えて、犠牲作用を有するものでも良い。
第1に、犠牲剤及び/又は界面活性剤は、ハロゲン元素を含まない有機化合物が好ましい。ハロゲン元素を含む有機物であっても、犠牲剤又は界面活性剤として機能するものがある。しかしながら、ハロゲン元素を含む有機化合物(例えば、Fを含有するF系界面活性剤や、Clを含むカチオン系界面活性剤など)は、生物分解性が低く、製造・廃棄・リサイクル過程での環境負荷が大きいものが多い。従って、特に過酸化物又は過酸化物ラジカルとの反応に消費されなかった犠牲剤及び/又は界面活性剤をそのまま大気中に放出するタイプ(開放型)の燃料電池システムにおいては、犠牲剤及び/又は界面活性剤として、ハロゲン元素を含まない有機物を用いるのが好ましい。
従って、特に過酸化物又は過酸化物ラジカルとの反応に消費されなかった犠牲剤及び/又は界面活性剤をそのまま大気中に放出するタイプ(開放型)の燃料電池システムにおいては、犠牲剤及び/又は界面活性剤として、非芳香族有機化合物を用いるのが好ましい。
これに対し、C、H、Oのみからなる犠牲剤の場合、酸化分解生成物は、最終的にはCO2とH2Oであるため、燃料電池系外へ放出したとしても、環境負荷は小さい。また、燃料電池の酸化・還元反応も阻害されにくい。この点は、界面活性剤も同様である。
ここで、「天然物」とは、動物、植物又は鉱物をいう。また、「天然物から採取される有機化合物の混合物」とは、例えば、植物から採取される樹液のように、天然物から直接採取されたものであって、精製等の処理を行っていないものをいう。
天然物由来の犠牲剤は、犠牲作用だけでなく、過酸化物ラジカルを消去する作用、活性酸素を除去する作用、酸化防止作用、H2O2分解作用、Feイオンをキレート化して不活性化する作用をさらに有するものが好ましい。
第1に、界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤又はアニオン系界面活性剤の酸体が好ましい。カチオン系の界面活性剤は、官能基の対イオンが一般にCl等のハロゲンであるため環境負荷が大きい。また、加湿水にカチオン系の界面活性剤が溶解すると、加湿水のイオン伝導度が高くなり、腐食性が大きくなる。
一方、アニオン系の界面活性剤は、官能基の対イオンが一般にNa等のアルカリ金属イオンであるため、これを加湿水に溶解させると、加湿水のイオン伝導度が高くなり、腐食性が大きくなる。また、電解質のプロトンが対イオンのアルカリ金属イオンにより除々に置換され、プロトン伝導性が低下し、十分な電池性能が得られ難い欠点がある。
これに対し、ノニオン系界面活性剤は、イオン解離を伴わないため、加湿水の腐食性を増大させたり、あるいは、電解質のプロトン伝導性を低下させることがない。また、アニオン系の界面活性剤であっても、官能基のスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基等がアルカリ金属イオンではなく、プロトンで置換された、いわゆる「酸体」であり、水への溶解度が小さいものは、腐食性が小さく、電解質のプロトン伝導性を低下させないので、使用することができる。
第2に、界面活性剤は、少量の添加で水の表面張力を低下させ、高温までそれを維持できる化学的に安定な曇点の高いものが好ましい。
第3に、界面活性剤は、あわ立ち性(いわゆる、気泡性)の低いものが好ましい。あわ立ち性の低いものは、配管内部の圧力損失を大きくしないので好ましい。
第1に、犠牲剤は、水に不溶性又は難溶性であることが好ましい。ここで、「水に不溶性又は難溶性」とは、室温における溶解度が1g/L以下のものをいう。水に易溶性の犠牲剤は、触媒層や拡散層の細孔内部まで浸透させるのが容易であるが、水に易溶であるために、加湿水や生成水によって燃料電池外に排出されやすい。これに対し、水に不溶性又は難溶性の犠牲剤は、一端、触媒層や拡散層の細孔内部まで浸透すると、加湿水や生成水によって排出されにくくなるので、犠牲作用を長期間維持することができる。
一方、水に不溶性又は難溶性である犠牲剤は、逆に、触媒層や拡散層の細孔内部に浸透させるのが困難である。しかしながら、本発明においては、犠牲剤と同時に界面活性剤が添加されるので、例えば、犠牲剤が撥水的な液滴であっても、界面活性剤により水中油滴型(O/W)エマルジョンを形成し、加湿系にミストとして供給することができる。その結果、過酸化物ラジカル発生部に犠牲剤が一様に行き渡り、耐久性が著しく向上する。
なお、犠牲剤が水に易溶性である時であっても、界面活性剤を加えることにより、水の表面張力が下がるので、犠牲剤を触媒層や拡散層の細孔内部まで浸透させる作用が認められる。但し、得られる相乗的な寿命延長効果は、犠牲剤が水に不溶性又は難溶性であるほど、大きくなる。
上述したハロゲン及び/又は芳香環を含まない有機化合物は、生物分解性が大きいために、環境負荷が小さいという利点がある。しかしながら、生物分解性が大きいと言うことは、腐敗しやすいことを意味しており、燃料電池においては、これが欠点となる場合がある。すなわち、例えば、燃料電池が長期間未使用で室温まで冷却され、燃料電池セルの拡散層や触媒層、配管部、凝縮系(配水系)が犠牲剤又は界面活性剤と共に結露した場合には、混入した微生物や細菌の食物となり、異臭を発生させたり、あるいは、目詰まりを引き起こして電池性能が低下しやすい。これは、犠牲作用が強いものの、腐敗しやすい犠牲剤(例えば、天然物由来のアミノ酸やタンパク質など)を用いた場合に特に生じやすい。
そこでこのような場合には、犠牲剤として、さらに抗菌作用を有するものを用いるのが好ましい。
[1. ノニオン系界面活性剤]
(1) エーテル型:
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルなど。
脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノ脂肪酸グリセリン、トリ脂肪酸グリセリン、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステルなど。
(3) エーテル・エステル型:
モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコールポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、イソステアリン酸ポリエチレングリコール、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシエチレンセチルエーテル、ステアリン酸ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ステアリン酸ポリオキシエチレンラウリルエーテル、イソステアリン酸ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エチル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット・ソルビタン脂肪酸エステルなど。
トリイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ジステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリオレイン酸ポリオキシエチレングリセリルなど。
(5) ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステル:
イソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など。
(6) ポリオキシエチレントリメチロールプロパン脂肪酸エステル:
ポリオキシエチレントリステアリン酸トリメチロールプロパン、ポリオキシエチレントリミリスチン酸トリメチロールプロパン、ポリオキシエチレンジステアリン酸トリメチロールプロパン、ポリオキシエチレントリイソステアリン酸トリメチロールプロパンなど。
N−アシルグルタミン酸エステル、N−アシル中性アミノ酸エステル、ピログルタミン酸エステルなど。
(8) ポリグリセリン脂肪酸エステル:
ステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、オレイン酸ポリグリセリルなど。
(9) 脂肪酸アルカノールアミド:
ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン(2)ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドなど。
(10) その他:
水素添加大豆リン脂質、ラノリンなど。
カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸型界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンなど。
以下の天然物由来の界面活性剤の内、ショ糖エステルやポリグリセリンエステルは、安全性が高く、食品添加物としても認可されている。
(1) ショ糖エステル:
ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルなど。
(2) ポリグリセリンエステル:
デカグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンミリスチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンベヘニン酸エステル、デカグリセリンエルカ酸エステルなど。
(3) その他:
(a)ヒドロキシエチルセルロース及び皮膚に低刺激性であることが確認されているアミノ酸系エステル、
(b)天然ヤシ油やヒマシ油等の植物、あるいは、牛脂、鯨油を原料とした脂肪酸エステル、
(c)サトウキビ、キャッサバ、サツマイモ等のデンプンを発酵させて得た天然アルコールを原料とした高級アルコールエステル、など。
[1. 非芳香族化合物であり、かつ、ハロゲン元素を含まない犠牲剤]
脂肪族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、脂肪族ケトン、テルペン類、脂肪族カルボン酸、ポリカルボン酸、L−アスコルビン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、アミノポリカルボン酸、アミノスルホン酸、タンパク質及びその加水分解生成物(ペプトン)、尿素及びその誘導体、糖類、スルファイド類、ジスルファイド類など。
天然物由来の犠牲剤であって、犠牲作用に加えて、・OHラジカル消去作用、活性酸素除去作用、酸化防止作用、H2O2分解作用、又は、Feイオンをキレート化して不活性作用を有するものには、以下のようなものがある。
(1) 食品添加物として用いられる蔗糖、果糖、トレハロースなどの糖類。
(2) マンニトール、エリスリトール、ソルビトールなどの生物発酵技術で得られた多価アルコール類。
(3) ペプトン、牛乳由来のラクトフェリン、ヘモグロビン、大豆由来のルチン等のタンパク質。
(4) タンパク質を分解したペプトン、天然アミノ酸(L−リジン、L−アルギニン、L−アラニン、L−プロリン、L−オルニチン等)など。
(5) お茶、ぶどう、コーヒー豆、植物由来のリグニン、タンニン酸等のポリフェノール。
(6) R−リモネン、β−イオノン等のテルペン類を含む果実や植物由来の天然香料。
(7) ローズマリーやシソ等由来のハーブ油、オリーブやツバキ油の様なβ−ピネン、ノルボーネン等のテルペン類を含む植物由来の精油、抽出物。
(8) 天然色素:
カロテノイド系のクチナシ黄色素、パーム油カロテン、トウガラシ色素、アナトー色素、カルコン系のベニバナ黄色素、ベニバナ赤色素、ウコン色素、ベニコウジ色素、モナスカス、クチナシ赤色素、コチニール色素、ラック色素、アカネ色素、アントシアニン系のシソ色素、赤キャベツ色素、アカダイコン色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ブドウ果皮色素、ブルーベリー色素、エルダーベリー色素、ビートレット、クチナシ青色素、ベニバナ黄色素、ベニコウジ黄色素、クロロフィル、スピルリナ色素、フラボン系のカカオ色素、カキ色素、タマリンド色素、コウリャン色素、植物炭末色素、イカスミ色素など。
(9) その他:
合成β−カロテン、ビタミンEなど。これらは、・OHラジカル消去作用が大きく、特に効果的である。
ハロゲン元素を含まず、かつ、毒性が低い抗菌剤には、以下のようなものがある。
(1) 含窒素複素環系:
2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール(TBZ)、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル(BCM)、2−メチルカルボニルアミノベンツイミダゾール、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンツチアゾール(TCMTB)、2,2−ジチオビスピリジン−1−オキシド、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジンなど。
(2) ジスルファイド系: テトラメチルチウラムジスルフィドなど。
(3) アルコール系: エタノール、プロパノールなど。
(4) カルボン酸系: 酢酸、プロピオン酸など。
(5) エステル系: 脂肪酸モノグリセド、ショ糖脂肪酸エステルなど。
(6) 天然有機系: ヒノキチオール系、キトサン系、カラシ抽出物系、ユーカリ抽出物系、唐辛子由来のカプトサイシン系など。
(7) 食品添加物として許容されているL−ソルビン酸、D−マンニトール、白子蛋白抽出物、ε−ポリリジンなど。
(8) テルペン類:
植物原料由来の殺菌作用物(フィトンチッド)として知られる精油成分のミント、ミルセン、リモネン、ピネン、テルピンネン−4−オール、パラシメン、α−テルピネン、γ−テルピネン、α−テルピネオールなど。テルペン類は、・OHラジカルとの反応性が高く、犠牲作用あるいは酸化防止作用と、殺菌作用とを合わせ持つため、特に好適である。
(9) 天然物から精製したテルペン類を含む混合組成物である精油:
テレピン油、ジダー油、クロロフィル油、チョウジ油、ウイキョウ油、ラベンダー油、オレンジ油、レモン油、オリガヌム油など。これらは、そのまま用いても良い。
上述した各種有機物の中でも含酸素有機化合物、中でも、エステル類(特に、炭酸エステル類、ラクトン類)、ケトン類、及び、尿素類は、中性分子であり、分子内にCO結合を含み、電極上で速やかに分解されてCO2を生成するため、加湿系に添加する犠牲剤として好適である。なお、CO結合を含むカルボン酸(ギ酸、酢酸)は、CO2を供給するソースとしては、臭気、腐食性、毒性の観点から有機炭酸エステル、ラクトン類及びケトン類に比べて使用に難がある。
(1) 鎖状エステル:
DMC(ジメチルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)、DPC(ジプロピルカーボネート)、DBC(ジブチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)、VC(ビニレンカーボネート)、炭酸ビニルエチレンなど。
(2) 環状エステル:
MC(メチルカーボネート)、EC(エチルカーボネート)、PC(プロピレンカーボネート)など。
(3) ラクトン類:
γ−ブチルラクトン(BL)、γ−デカラクトン(DL)、δ−ヘプタラクトン(HL)など。
(4) 低級アルキルケトン:
アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジブチルケトンなど。
(5) 尿素類似化合物:
尿素、チオ尿素、メチル尿素、ヒドロキシ尿素など及びこれらの誘導体。
さらに、上述した各種犠牲剤の中でも、天然物由来の有機化合物(例えば、ユーカリ油、グリシン、イカ墨色素、グレープスキン色素、カタラーゼなど)は、生物分解性が高いことに加えて、単独で用いた場合であっても、極めて高い犠牲作用を有するものが多いので、犠牲剤として特に好適である。
一方、60℃未満の低温で作動する燃料電池内部では、これよりやや高濃度の過酸化水素が生成する場合がある。しかしながら、60℃未満においては、電解質や炭素材料への攻撃性が小さいため、高温で作動する燃料電池ほどには、副生する過酸化水素についての迅速処理は、不要と考えられる。
さらに、1分子のH2O2又は過酸化物ラジカルを消滅させるために必要な犠牲剤の量は、その種類にもよるが、多くの場合、H2O21分子に対して、犠牲剤1分子以下で十分である。また、強力な抗酸化剤や活性酸素除去剤と呼ばれている有機物の中には、H2O2の1/10以下の分子数の添加でよいものもある。
従って、過酸化水素由来の過酸化物ラジカルを処理するのに必要な犠牲剤の添加量は、ごく僅かでよい。但し、犠牲剤の供給量が少なすぎる場合には、実用上十分な耐久性は得られない。従って、犠牲剤及び界面活性剤の添加量は、0.1ppm以上が好ましい。
さらに、犠牲剤の分子内にCO結合が含まれる場合において、過剰の犠牲剤を添加すると、加湿経路のシール部、パッキング等に使われる高分子材料の劣化や、触媒層に使用されている高分子電解質や電解質膜にダメージを与えることがあるので好ましくない。
従って、犠牲剤及び界面活性剤の添加量は、2000ppm以下が好ましい。
一方、過剰の界面活性剤の添加は、非経済的であり、電池性能を低下させ、あるいは、環境負荷を増大させる。従って、界面活性剤の最適な添加量は、界面活性剤及び犠牲剤の種類、燃料電池の運転条件等に応じて、最適な量を選択するのが好ましい。
また、犠牲剤・界面活性剤供給手段は、開回路(発電休止)状態で、しかも作動温度が60℃以上の空気極のみに犠牲剤及び界面活性剤を供給するものが好ましい。開回路状態で、かつ、作動温度が60℃以上である場合、過酸化水素の発生量が相対的に多くなり、かつ、発生した過酸化水素又は過酸化物ラジカルによる電解質や炭素材料への攻撃が激しい。そのため、このような条件下においてのみ犠牲剤及び界面活性剤を供給すれば、これらの供給量を必要最小限にすることができる。また、これによって、軽量コンパクトなシステムとすることができる。
また、燃料ガス供給装置30は、水素ボンベ32、水素吸気管34a、圧力調整バルブ34b及び水素吸気バルブ34cを備えている。燃料ガスに犠牲剤及び界面活性剤を供給する場合、犠牲剤・界面活性剤供給手段は、水素吸気管34aに設けるのが好ましい。
犠牲剤・界面活性剤供給手段として蒸気発生器を用いる場合、犠牲剤及び界面活性剤の供給量は、蒸気発生器と吸気系統の間に設けられたバルブの開度や、犠牲剤及び/又は界面活性剤の加熱温度を調節することにより行う。
一方、犠牲剤・界面活性剤供給手段としてミスト発生器を用いる場合、犠牲剤及び界面活性剤の供給量は、ミスト発生源の駆動エネルギ(例えば、超音波タイプの場合は、超音波振動子に印加する電圧、電圧印加時間等。ノズルタイプの場合は、ノズルに供給する液体の圧力、噴霧時間等。)を調節することにより行う。
この場合、界面活性剤及び犠牲剤を、それぞれ、別個の加湿水に溶解させ、これらを別個に反応ガスに添加しても良く、あるいは、界面活性剤及び犠牲剤を同一の加湿水に溶解させ、これを反応ガスに添加しても良い。
なお、蒸気又はミストを発生させる手段として、公知の蒸気発生器及び/又はミスト発生器をそのまま用いることができる点は、第1の具体例と同様である。
図1に示す燃料電池システム10において、空気極から排出された酸化剤ガスは、そのまま系外に排出されるが、空気極側から排出された水は、空気気液分離器60により分離され、加湿器54に戻される。このような加湿水を循環させるタイプの燃料電池システムにおいては、空気極で生成した過酸化物又は過酸化物ラジカルが加湿水に濃縮されやすい。このような場合には、排気系統のいずれか(例えば、空気排気管58、空気気液分離器60、空気回収管62aなど)に犠牲剤・界面活性剤供給手段を設けても良い。
なお、犠牲剤及び界面活性剤の供給方法として、蒸気発生器、ミスト発生器等、種々の方法を用いることができる点、並びに、犠牲剤及び界面活性剤の供給量は、バルブ開度等を用いて調整することができる点は、第1の具体例と同様である。
このような機能を有する抗菌処理部としては、具体的には、
(1) 殺菌・抗菌作用を有する金属(例えば、Cu、Agなど。)被膜でその内面がメッキされた犠牲剤タンク、配管類等、
(2) 加湿経路や空気吸入直下部に設けられ、かつ、その表面に、殺菌・抗菌作用を有する金属又はその化合物を担持させたセラミックフィルター、セラミックボール等、
(3) その内部に殺菌・抗菌作用を有する金属元素が固定された触媒層、電解質膜等、
などがある。
(1) Cu等の元素を含み、かつ、難溶性の酸化物、リン酸塩、タングステン酸塩等からなる微粒子を触媒層内部や電解質膜内部に分散させる方法、
(2) Cu等の硝酸塩、硫酸塩等と電解質とを反応させ、イオン交換基のプロトンの一部(0.1〜10%)を、金属イオンでイオン交換する方法、
(3) 電解質膜、触媒層又は拡散層の表面に、Cu等の金属又はその酸化物の薄膜をスパッタ、レーザーアブレーション等の方法で形成する方法、
(4) アルコキシドやブトキシド、アセチルアセトン錯体等のCu等を含む有機金属錯体を触媒層や拡散層上で加水分解させ、Cu等を含む酸化物を形成する方法(ゾルゲルプロセス)、などがある。
なお、これらの抗菌手段は、いずれか1つを用いても良く、あるいは、2以上を組み合わせて用いても良い。
犠牲剤及び界面活性剤の未反応物、並びに、これらの反応生成物は、CO2とH2Oを除き、たとえ微量であっても外界に放出することは好ましくない。これらの有機物は、極微量であっても著しい臭気を有するものもあり、臭気を感ずる濃度以上に外界に出さないことが好ましい。そのため、燃料電池の加湿経路(特に、固体高分子型燃料電池から排ガス又は水を排出する排出経路)のいずれかに、これらを分解又は除去する分解・除去手段を設けるのが好ましい。
分解・除去手段の第1の具体例は、排出経路のいずれかに設けられたフィルタである。フィルタには、活性炭フィルタや、活性アルミナ、マグネシア、ケイ酸、酸化セリウム等の酸化物フィルタを用いるのが好ましい。また、フィルタ表面には、CeO2やCeO2−ZrO2等の酸化物担体表面に微量のPt等の貴金属を担持させた触媒を担持させるのが好ましい。フィルタ表面に触媒を担持させると、有機物の吸着除去に加えて、酸化雰囲気では比較的低温から低濃度の有機物をCO2とH2Oまで迅速に分解できるので、臭気を効果的に除去することができる。
分解・除去手段の第2の具体例は、燃料電池の電極(特に、空気極)に、CeO2やCeO2−ZrO2等の酸化物微粒子を添加することである。CeO2やCeO2−ZrO2等の酸化物微粒子は、過酸化物分解触媒として機能するが、特に、空気極上では、H2O2の分解と同時に有機物を分解させる作用がある。そのため、電極にこれらの酸化物微粒子を添加すると、後の排出経路で有機物を分解するための負荷を軽減できる。
(1) 天然物由来の精油を備えた分解除去装置を排出経路のいずれかに配置し、排出され有機物を分解させる方法(この装置は、気化した精油成分が犠牲剤、界面活性剤、抗菌剤及びこれらの反応生成物と反応し分解を促し、さらにこれら有機物の凝集を促すことにより、セラミックフィルターでトラップして除去する装置であり、ディーゼルエンジンからの排気微粒子を除去する装置として検討されている)、
(2) オゾン放電管を備えた反応器を有する分解装置を排出経路のいずれかに配置し、反応器内で有機物を分解させる方法、
(3) TiO2触媒を担持した触媒層及びこれに紫外線を照射するための紫外線ランプを備えた分解装置を排出経路のいずれかに配置し、触媒層に排ガス及び/又は排出水を通過させ、有機物を分解させる方法、などがある。
なお、上述した分解・除去手段は、それぞれ、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
燃料電池において、過酸化水素は、燃料極側から空気極側に水素が透過(クロスオーバー)し、空気極側において、酸素が2電子還元されることにより生成すると考えられている。すなわち、燃料極側から空気極側へ水素が透過すると、透過水素は、(1)式に示すように、空気極の触媒上において酸化され、プロトンと電子を生成する。
H2 → 2H++2e− ・・・(1)
また、空気極側の酸素は、次の(2)式に示すように、(1)式のプロトン及び電子を受け取り、過酸化水素となる。すなわち、酸素が2電子還元されることにより、過酸化水素が生成する。
O2+2H+++2e− → H2O2 ・・・(2)
さらに、生成した過酸化水素は、価数が変わる遷移金属イオン(Mn+/M(n+1)+)の存在下において、過酸化物ラジカルに分解する。この反応は、次の(3)式及び(4)式で表される。
HOOH+M(n+1)+ → HOO・+H++Mn+ ・・・(3)
HOOH+Mn+ → HO・+OH−+M(n+1)+ ・・・(4)
(3)式及び(4)式より、次の(5)式が得られる。
2HOOH → HOO・+HO・+H2O ・・・(5)
(5)式より、過酸化水素1モルから過酸化物ラジカル(HOO・、HO・)1モルが生成する事がわかる。
例えば、X=Fのフルオロポリマ(RX)と、・OHラジカルとが反応すると、次の(6)式のように分解してFイオン(HX)を放出する。分解により生成したアルコキシラジカル・ROは、互いに結合して安定な化合物(例えば、ROOR)になるか、あるいは、さらに安定な化合物(例えば、H2O、CO2など)へと変化する。
RX+・OH → ・RO+HX ・・・(6)
例えば、電解質膜の水素透過速度を低下させるために、電解質のすべて又は一部を水素透過速度の小さい炭化水素系電解質とし、比較的水素透過速度の大きなフルオロポリマと複合化することも考えられる。しかしながら、炭化水素系電解質は、過酸化水素に対し極めて脆弱であるため、単独の炭化水素系電解質はもちろんの事、過酸化水素を分解する作用を有する触媒を大量に加えて炭化水素系電解質とフルオロポリマとを複合化させても、十分な耐久性が得られないのが現状である。
すなわち、ある種の有機物(QH)は、過酸化物又は過酸化物ラジカルと反応し、これらを消滅させる作用がある。例えば、有機物(QH)と、過酸化物ラジカルの一種である・OHとの反応は、次の(7)式のように表せる。
QH+HO・ → Q・+H2O ・・・(7)
反応により生成したQ・ラジカルは、それ自身が不安定であるため、互いに結合して安定な化合物(例えば、QQ)になるか、あるいは、さらに安定な化合物(例えば、アルコール、カルボン酸、CO2、H2Oなど)に分解する。
過酸化物(例えば、H2O2)や他の過酸化物ラジカル(・OOH)の場合も同様であり、ある種の有機物(QH)と反応させると、過酸化物や過酸化物ラジカルが消滅する。また、反応生物は、安定な化合物となる。
さらに、犠牲剤が水に難溶性又は不溶性であると、犠牲剤が細孔内で滞留する時間が相対的に長くなるので、過酸化物ラジカルを効率よく消滅させることができる。
一方、生物分解性の高い有機物を用いると、有機物が細菌によって汚染され、繁殖物で拡散層や触媒層内の細孔が塞がれ、電池性能が低下したり、あるいは、臭気を発生させるおそれがある。しかしながら、加湿経路のいずれかに抗菌手段を設けると、有機物の腐敗や細菌の繁殖に起因する性能劣化を抑制することができる。
(1) 炭素材料は、本来、高温の高電位状態では安定ではなく、COやCO2ガスとなって消耗する、
(2) 副生成する過酸化水素が炭素材料をアタックして、表面にC=OやC−OH、COOH等の親水性の官能基を生成し、撥水性を低下させる、
ためと考えられる。
C+2H2O → CO2+4H++4e− ・・・(8)
ここで、25℃における(8)式の熱力学的な平衡電位E25℃は、プールベダイアグラム(Pourbaix diagram)より、次の(9)式で表される。
E25℃=0.207−0.0591pH+0.0148logP(CO2)
・・・(9)
すなわち、CO2の分圧が10倍になることで、Cの酸化電位は約15mV上昇する(酸化されにくくなる)。
また、少なくとも高温の開回路状態の空気極にのみこのような機能を有する犠牲剤を供給すると、電解質及び炭素材料の劣化を抑制すると同時に、燃料電池システムを軽量コンパクト化でき、環境に対する負荷も軽減できる。
さらに、加湿経路のいずれかに、過剰の有機物又はその分解生成物を分解及び/又は除去する分解・除去手段をさらに設けると、環境負荷をさらに軽減することができる。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)内筒の容器に1wt%のH2O2水溶液200mlを入れ、これにさらに各種界面活性剤0.1wt%及び各種犠牲剤0.1wt%(実施例1〜4)を添加した。また、比較として、犠牲剤0.2wt%のみ(比較例1)、界面活性剤0.2wt%のみ(比較例2)、及び、界面活性剤及び犠牲剤のいずれも無添加(比較例3)の水溶液も作製した。
これらの水溶液に、厚さ45μm、大きさ7.2×7.2μmのパーフルオロ電解質膜1枚を入れ、100℃×8hr放置する浸漬試験を行った。試験終了後、電解質膜の重量減少(wt%)を調べた。また、水溶液中に溶出したFイオンの濃度(ppm)をオリオンリサーチ社製のフッ化物イオン選択性電極で測定した。表1に、その結果を示す。
表1より、犠牲剤単独あるいは界面活性剤単独でも、重量減少及びFイオン溶出量を抑制する効果はあるが、両者を併用すると、さらに重量減少及びFイオン溶出量が抑制されることがわかる。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)内筒の容器に1wt%のH2O2水溶液200mlを入れ、これにさらに各種界面活性剤0.1wt%及び各種犠牲剤0.1wt%(実施例5〜15)を添加した。なお、本実施例においては、界面活性剤及び犠牲剤の少なくとも一方に、天然物又は天然物由来の有機物を用いた。また、比較として、犠牲剤0.2wt%のみ(比較例4〜14)を添加した水溶液も作製した。
これらの水溶液を用いて、実施例1と同一条件下で浸漬試験を行い、重量減少及びFイオン濃度を測定した。表2に、その結果を示す。なお、表2には、比較例3(無添加)の結果も併せて示した。
表2より、犠牲剤単独でも重量減少及びFイオン溶出量を抑制する効果はあるが、両者を併用すると、さらに重量減少及びFイオン溶出量が抑制されることがわかる。
60wt%Pt/C触媒0.5gにCeO2を電極重量比5wt%になるように加え、これに蒸留水2.0g、エタノール2.5g、プロピレングリコール1.0g、22wt%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)0.9gをこの順で加え、超音波ホモジナイザーで分散させて触媒インクを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗布、乾燥して転写電極を得た。Pt使用量は、カソード側が0.5〜0.6mg/cm2、アノードが0.3〜0.4mg/cm2の範囲で一定とした。これらの電極を36mm角に切り出し、フッ素系電解質膜の両面に熱圧着(120℃、50kgf/cm2(4.9MPa))して、膜電極接合体(MEA)を作製した。
フッ素系電解質膜は、予め電解質のプロトン交換容量の一部(約10%)をAg+イオンで置換したものを用いた。Ag+イオン置換は、膜を200mlのAgNO3水溶液に室温で一晩浸漬した後、イオン交換水で水洗し、乾燥することにより行った。乾燥後、NaOHによる滴定で、ほぼ狙い通りのAg+イオン置換がなされていることを確認した。
また、実施例17の場合、界面活性剤としてヤシ油由来の高級アルコールエステル系ノニオン界面活性剤(30ppm)を用い、犠牲剤としてn−ブチルアルコール(30ppm)を用いた以外は、実施例16と同一条件下で耐久試験を行った。
また、比較例として、空気極及び燃料極双方の加湿水としてイオン交換水を用いた場合(比較例15)、空気極側にβ−ピネンのみを60ppm添加した場合(比較例16)、及び、空気極側にショ糖エステルのみを60ppm添加した場合(比較例17)について、それぞれ、実施例16と同一条件下で耐久試験を行った。表3に、その結果を示す。
20 固体高分子型燃料電池
70 加湿経路
Claims (13)
- 固体高分子型燃料電池と、
該固体高分子型燃料電池に水及び/若しくは水蒸気を供給し、並びに/又は、前記固体高分子型燃料電池から排出される水及び/若しくは水蒸気を回収するための加湿経路と、
該加湿経路のいずれかに、自ら過酸化物又は過酸化物ラジカルと反応することによって、過酸化物を安定化させ又は過酸化物ラジカルを消滅させる機能を有する少なくとも1種類の犠牲剤と、少なくとも1種類の界面活性剤とを供給する犠牲剤・界面活性剤供給手段を備えた燃料電池システム。 - 前記犠牲剤及び/又は前記界面活性剤は、ハロゲン元素を含まない有機化合物である請求項1に記載の燃料電池システム。
- 前記犠牲剤及び/又は前記界面活性剤は、非芳香族有機化合物である請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
- 前記犠牲剤及び/又は前記界面活性剤は、天然物から採取される有機化合物の混合物、又は、その精製物である請求項1から3までのいずれかに記載の燃料電池システム。
- 前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、又は、アニオン系界面活性剤の酸体である請求項1から4までのいずれかに記載の燃料電池システム。
- 前記犠牲剤は、水に不溶性又は難溶性である請求項1から5までのいずれかに記載の燃料電池システム。
- 前記加湿経路のいずれかに、前記犠牲剤及び/又は前記界面活性剤の腐敗を抑制する抗菌手段をさらに備えている請求項1から6までのいずれかに記載の燃料電池システム。
- 前記抗菌手段は、前記犠牲剤として、さらに前記犠牲剤及び/又は前記界面活性剤の腐敗を抑制する作用を有するものを用いることである請求項7に記載の燃料電池システム。
- 前記抗菌手段は、前記加湿経路のいずれかに設けられた、抗菌作用を有する無機物が固定された抗菌処理部である請求項7又は8に記載の燃料電池システム。
- 前記犠牲剤及び前記界面活性剤の添加量の総量が、0.1ppm以上2000ppm以下である請求項1から9までのいずれかに記載の燃料電池システム。
- 前記界面活性剤の添加量が、0.1ppm以上である請求項1から10までのいずれかに記載の燃料電池システム。
- 前記犠牲剤・界面活性剤供給手段は、開回路(発電休止)状態で、しかも作動温度が60℃以上の空気極のみに前記犠牲剤及び前記界面活性剤を供給するものである請求項1から11までのいずれかに記載の燃料電池システム。
- 過剰に供給された前記犠牲剤及び/若しくは前記界面活性剤、並びに/又は、これらの反応生成物を分解又は除去する分解・除去手段をさらに備えた請求項1から12までのいずれかに記載の燃料電池システム。
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