JP2007217758A - 方向性電磁鋼板とその絶縁被膜処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】方向性電磁鋼板のクロム酸を含有しない電気絶縁被膜の被膜張力を従来より高張力化し、電磁鋼板の磁気特性を向上させることを目的とする。
【解決手段】表面に、りん酸金属塩とコロイド状シリカを主成分とし、該りん酸金属塩の結晶化度が60%以下の範囲であるクロムを含有しない高張力絶縁被膜を有することを特徴とする方向性電磁鋼板。
【選択図】図1

Description

本発明は、クロム酸塩を含有しない高張力絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板、及び、その絶縁被膜処理方法に関するものである。
通常、方向性電磁鋼板の表面被膜は、高温仕上げ焼鈍中に形成される1次被膜と称されるフォルステライト層と、りん酸塩などを主成分とする処理液を塗布し鋼板のヒートフラットニング時に焼き付け形成されるりん酸塩被膜層の2層から形成されている。りん酸塩被膜は、方向性電磁鋼板に電気絶縁性を付与し、渦電流損を低減して鉄損を改善するために必要とされるが、絶縁性以外にも、耐蝕性、耐熱性、すべり性、密着性といった種々の被膜特性が要求されている。
すなわち、方向性電磁鋼板を加工してトランスなどの鉄芯とするには、各種の製造工程を経るものであるが、この鉄芯製造の際に、耐熱性、すべり性、密着性が劣っていると、歪み取り焼鈍時に被膜が剥離したりして、本来の性能が発揮できなかったり、スムーズに鋼板を積層できず作業性が悪化したりする。
さらに、方向性電磁鋼板の絶縁被膜の重要な特性のひとつは、鋼板に張力を付与し方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させる効果を奏することである。これは、方向性電磁鋼板に張力を付与することにより磁壁移動を容易にして、方向性電磁鋼板の鉄損を改善するもので、方向性電磁鋼板を鉄芯に用いて製造されたトランスの騒音の主原因のひとつである磁気ひずみの低減にも効果があることが知られている。
特許文献1には、仕上げ焼鈍後に鋼板表面に形成されたフォルステライト被膜の上に、特定組成のりん酸塩、クロム酸塩、コロイド状シリカを主成分とする絶縁被膜処理液を塗布し、焼き付けることにより、高い張力を有する絶縁被膜を鋼板表面に形成し、方向性電磁鋼板の鉄損と磁気ひずみを低減する方法が開示されている。
また、特許文献2には、粒径が8μm以下の超微粒子コロイド状シリカと第一りん酸塩、クロム酸塩を特定割合で含有する処理液を塗布し、焼き付けることにより、絶縁被膜の高張力を保持し、さらに、被膜の潤滑性を向上する方法が開示されている。
さらに、特許文献3には、りん酸塩とクロム酸塩とガラス転移点が950〜1200℃のコロイド状シリカを主成分とする絶縁被膜を特定付着量とする高張力絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板に関する技術が開示されている。
上記特許文献に開示された技術により、各種被膜特性が格段に優れ、被膜張力も従来より向上したものの、いずれも、クロム化合物であるクロム酸塩が配合されているところ、近年では、環境問題がクローズアップされており、鉛、クロム、カドミウムといった化合物の使用を禁止・制限することが求められている。
クロム化合物を含有しない技術として、特許文献4に、コロイド状シリカをSiO2で20重量部、りん酸アルミを10〜120重量部、ほう酸2〜10重量部とMg、Al、Fe、Co、Ni、Znのそれぞれの硫酸塩の内から選ばれる1種又は2種の合計を4〜40重量部とを含有する処理液を300℃以上で焼付処理する絶縁被膜処理方法が開示されている。
また、特許文献5には、ホウ酸、アルミナゾルの混合物と水と相溶性を持つ有機溶媒を含む方向性電磁鋼板被膜形成用塗布剤に関する技術が開示されている。
さらに、特許文献6には、Ca、Mn、Fe、Zn、Co、Ni、Cu、B及びAlから選ばれる有機酸塩として、蟻酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩及びサリチル酸塩から選ばれる有機酸塩の1種又は2種以上を添加することを特徴とする方向性電磁鋼板用表面処理剤に関する技術が開示されている。
しかしながら、特許文献4に開示の技術には、硫酸塩中の硫酸イオンによる耐蝕性低下の問題があり、特許文献5に開示の技術には、耐蝕性や焼付温度が高すぎるため鋼板に疵が付き易い問題があり、また、特許文献6に開示の技術には、有機酸塩中の有機酸による変色及び液安定性に問題が有り、いずれにしても、更なる改善が必要であった。
特許文献7には、「PH2O/PH2が10-2未満の雰囲気で焼付けた場合、被膜の一部が結晶化し微小なクラックが入る。」との開示がある。しかし、特許文献7に開示の技術においては、結晶化を制御する意図は無く、クラックの発生を防止するためだけに結晶化しない乾燥雰囲気を規定するもので、結晶化は不十分であった。
特公昭53−28375号公報 特開昭61−41778号公報 特開平11−071683号公報 特公昭57−9631号公報 特開平7−278828号公報 特開2000−178760号公報 特開平9−78253号公報
本発明は、方向性電磁鋼板製造の最終工程で鋼板に塗布し焼き付けることにより表面に形成する絶縁被膜の性状を改善し、密着性などの各種被膜特性が良好で、かつ、従来よりも格段に優れた“クロム化合物を含有しない高張力被膜”を有する方向性電磁鋼板を得ることを目的とする。
本発明の要旨は、以下のとうりである。
(1)表面に、りん酸金属塩とコロイド状シリカを主成分とし、該りん酸金属塩の結晶化度が60%以下のクロムを含有しない高張力絶縁被膜を有することを特徴とする方向性電磁鋼板。
(2)前記りん酸金属塩が、Ni、Co、Mn、Zn、Fe、Al、Mg、Baの中から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする(1)記載の方向性電磁鋼板。
(3)前記コロイド状シリカの平均粒径が5〜35nmであることを特徴とする(1)又は(2)記載の方向性電磁鋼板。
(4)前記方向性電磁鋼板が、Cを0.005%以下、Siを2.5〜7.0%含有し、平均結晶粒径が1〜10mmであり、結晶方位が、(110)[001]の理想方位に対し、平均値で圧延方向に8°以下の方位のズレを有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
(5)方向性電磁鋼板の表面に、りん酸金属塩とコロイド状シリカを主成分とする処理液を塗布し高張力被膜を形成する際に、絶縁被膜処理剤として、平均粒径が5〜35nmのコロイド状シリカを固形分換算で100重量部、及び、該100重量部に対し、Ni、Co、Mn、Zn、Fe、Al、Mg、Baのりん酸塩の1種又は2種以上を固形分で155〜250重量部含有する処理液を塗布し、以下の(1)〜(6)の条件式を満たす昇温速度V(℃/秒)、焼付均熱温度C(℃)、均熱保持時間S(秒)で、クロムを含有しない高張力絶縁被膜を形成することを特徴とする方向性電磁鋼板の絶縁被膜処理方法。
30≦V …(1)
10≦S …(2)
800≦C≦1000 …(3)
S≦2V−40 …(4)
C≦5/3V+900 …(5)
S≦−4/5C+820 …(6)
(6)前記方向性電磁鋼板が、Cを0.005%以下、Siを2.5〜7.0%含有し、平均結晶粒径が1〜10mmであり、結晶方位が(110)[001]の理想方位に対して、平均値で圧延方向に8°以下の方位のズレを有することを特徴とする(5)に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜処理方法。
本発明によれば、鋼板の表面に付与される被膜張力が大きく、トランス製造における鉄芯材料の密着性が良好で、磁気特性も良好な方向性電磁鋼板を得ることができる。
以下、本発明について、詳細に説明する。
まず、方向性電磁鋼板の絶縁被膜が鋼板に対して張力を付与するためには、鋼板と絶縁被膜の熱膨張率に差があることが必要である。絶縁被膜の熱膨張係数が鋼板よりも小さい場合、絶縁被膜が焼き付けられる際に、鋼板の収縮が絶縁被膜より大きいことから、鋼板は引張応力を受け、被膜には圧縮応力が付与されることになる。従って、絶縁被膜の熱膨張率を小さくすることにより、鋼板に付与される引張応力は、さらに大きくすることが可能である。
また、方向性電磁鋼板の絶縁被膜には、このような鋼板に張力を付与しても剥離したりしないために、優れた密着性が必要である。このような絶縁被膜を形成するものとして、りん酸塩とコロイド状シリカ、及び、クロム酸塩の混合物が一般に使用されている。
本発明者等は、クロム酸を含有しない、いわゆる環境問題に対応し、さらに、方向性電磁鋼板に必要な高張力を保持する絶縁被膜を得るべく鋭意研究した。その結果、りん酸塩、コロイド状シリカを主成分とする絶縁被膜において、りん酸塩の結晶化度が絶縁被膜の熱膨張係数に大きく関与しており、りん酸塩の結晶化度を60%以下に制御することにより、被膜張力を格段に大きくすることが可能であることを見出した。
通常、りん酸塩とコロイド状シリカを主成分とする組成でクロム酸塩を除去した場合には、絶縁被膜がポーラスな構造となり、被膜張力が低く、さらには密着性、耐蝕性、吸湿性も劣位で、そのままの状態では使用できない。このようなポーラス構造となるのは、りん酸塩の結晶と結晶の間に隙間が多く発生するからであり、それ故、結晶化を制御することで、ポーラス化を防止し、緻密な被膜を形成する。
絶縁被膜が結晶構造を有することは、絶縁被膜を持つ方向性電磁鋼板をX線構造解析装置にて分析することにより簡便に知ることが可能である。X線回折法による結晶化度の算出には、プロファイルフィッティング手法や定量分析手法などが知られている。特に限定するものではないが、ピーク分離によるプロファイルフィッティングが簡便である。
しかし、プロファイルフィッティングの場合には、本発明のような絶縁被膜においては、コロイダルシリカとりん酸金属塩の混合状態となっているから、結晶化度の算出においては、あらかじめコロイダルシリカなどを単独で加熱処理を行い、その回折パターンを測定して除外するという注意が必要である。
図1に、代表的なX線回折の測定チャートを例示する(Cu線源を使用)。図1の場合、りん酸Niを225重量部と粒径12nmのコロイダルシリカを100重量部配合した処理液を60℃/秒の昇温速度で900℃まで昇温し、25秒間900℃で保持したサンプルを用いてX線回折チャートを測定した。非晶質成分は、2θ=20°付近に、非晶質ハローとして現れており、りん酸Niは、30°付近に、メインピークとして現れている。
これらのピークから、バックグランドを分離して散乱強度を求め、次式により結晶化度Xを算出する。
X=C/(C+A)×100
ここで、C:結晶性散乱強度、A:非晶質散乱強度
なお、コロイダルシリカも非晶質成分を含むため、りん酸塩の結晶化度を算出する際には、予めコロイダルシリカを同一条件で加熱処理し、非晶質ハローの除去を行った。
また、コロイダルシリカの含有量から非晶質ハローの寄与分を算出し、りん酸金属塩の非晶質成分を計算する方法によっても、簡便で迅速に、結晶化度を求めることが可能である。
さらに、精度は劣るものの、絶縁被膜の付着量やりん酸金属塩の含有量及び金属の種類が特定できれば、方向性電磁鋼板の表面に形成されているフォルステライト被膜のピークと比較して、りん酸金属塩のピークが十分小さければ、りん酸金属塩の非晶質成分を含有すると推定することが可能である。
次に、本発明の限定理由について述べる。まず、本発明の特徴は、りん酸金属塩とコロイド状シリカによって絶縁被膜が形成され、りん酸金属塩の結晶化度が60%以下であることである。結晶化度が60%超の場合には、緻密な被膜を形成することができず、被膜張力が低下したり、耐蝕性が劣化する。好ましくは2〜40%の範囲で、さらに好ましくは5〜20%の範囲である。
結晶化度が低い場合には、表面が平滑で被膜張力が高く、耐食性に優れた被膜が得られるが、結晶化度が2%未満の場合、りん酸金属塩の種類によっては、絶縁被膜形成後にも縮重合反応が進行し、その結果、余剰のりん酸が生成することにより吸湿したり、耐食性が劣化する場合がある。
また、本発明者等が検討した結果、りん酸金属塩の種類によって晶系は様々であるが、高温で加熱した場合、りん酸Alでは主に六方晶や正方晶、単斜晶系になり易く、りん酸Niでは単斜晶、斜方晶になり易い。りん酸Co、りん酸Mnも単斜晶系、斜方晶系になり易く、特に限定するものではないが、りん酸金属塩の結晶系としては、単斜晶系や斜方晶系といった対称性の低い晶系の方が好ましい。
好ましい理由としては、晶系の対称性が低い場合、非晶質状態との連続性が良好で凹凸が形成され難く、滑らかな表面状態が得られやすいと推定され、りん酸Niやりん酸Mgでは、良好な表面外観が得られるためである。
また、本発明で、例えば、りん酸Caが使用できない理由の詳細は明らかではないが、本発明者等が検討したところでは、りん酸Caは球晶を生じ易く、昇温するにしたがって体積が大きく変化し、ひび割れなどの被膜欠陥が発生するためである。このような物性を有するりん酸金属塩は、使用することができない。
次に、りん酸金属塩の種類については、Ni、Co、Mn、Zn、Fe、Al、Mg、Baのりん酸塩の1種又は2種以上の混合物に限定される。さらに好ましくはNi、Zn、Al、Mgの1種又は2種以上の混合物で、これらのりん酸金属塩を用いたときに、本発明で開示するメカニズムが発現する。なお、りん酸Ba、Ni、Co等のりん酸塩の溶解度が低い金属塩の場合には、酸性溶液とするか、あるいはコロイド状溶液、もしくは分散液としてもよい。
なお、上記以外のりん酸金属塩、例えば、Ca塩は、アパタイト系の含水鉱物を生成しやすく、Na塩、K塩等のアルカリ金属塩と同様に被膜の耐蝕性が劣り、Sr塩、Ba塩等は、溶解度が非常に低く、また、コロイド液の安定性も悪いため、均一な被膜を形成できない。
さらに、処理液には、ホウ酸、ホウ化ナトリウム、及び、酸化チタン、酸化モリブテン等の各種酸化物、顔料、チタン酸バリウム等の無機化合物を添加してもよい。特に、顔料等の無機化合物は、着色だけでなく被膜硬度を高め、絶縁被膜に疵が付きにくくする効果を奏する。
次に、製品の絶縁被膜量は2〜7g/m2が適当である。絶縁被膜量が2g/m2未満では、高張力を得るのが困難であり、また、絶縁性、耐蝕性等も低下し、一方、7g/m2を超えると、占積率が低下してトランス特性が劣化する。
次に、本発明の製造方法に係る限定理由について述べる。まず、本発明で用いるコロイド状シリカとりん酸塩との配合は、固形分換算で、コロイド状シリカ100重量部に対し、Ni、Co、Mn、Zn、Fe、Al、Mg、Baのりん酸塩155〜250重量部を配合する。りん酸塩が155重量部未満では、コロイダルシリカによる発粉を生じるため、下限は155重量部に制限される。一方、250重量部超では、コロイド状シリカによる張力効果が十分に発揮できない。好ましくは175〜235重量部であり、この範囲で、表面外観の美麗な絶縁被膜が得られる。
本発明で使用するコロイド状シリカは、平均粒径が5〜35nmのものが好ましい。平均粒径が5nm未満では液の安定性が悪く、一方、35nm超では反応性に乏しく、りん酸塩の固定能力が十分ではないため吸湿性が劣る。
さらに、好ましくは12〜25nmのコロイド状シリカで、かつ、表面に、アルミニウムで化学的処理を施したものがよい。また、造膜性の観点から、真球状のものではなく、不定形もしくはビーズ状にシリカが連なったものが好ましい。
次に、本発明における絶縁被膜形成方法について述べる。本発明を適用するに際しては、仕上げ焼鈍後の方向性電磁鋼板として、通常のフォルステライト被膜を有する鋼板、又は、フォルステライト被膜を有しない鋼板のどちらでもよい。いずれの鋼板を用いる場合でも、余剰の焼鈍分離剤を水洗除去した後、硫酸浴などによる酸洗処理、水洗処理を行い、表面洗浄と表面の活性化を行った後、絶縁被膜組成液を塗布する。
本発明では、非晶質構造と結晶質構造の混合状態とするため、昇温速度V(℃/秒)、焼付均熱温度C(℃)、均熱保持時間S(秒)、及び、これらの関係が非常に重要である。本発明者等が鋭意検討した結果、以下の条件式(1)〜(6)をすべて満たす場合にのみ、上記りん酸金属塩の結晶化度を達成できることが判明した。
30≦V …(1)
10≦S …(2)
800≦C≦1000 …(3)
S≦2V−40 …(4)
C≦5/3V+900 …(5)
S≦−4/5C+820 …(6)
まず、昇温速度V(℃/秒)は30℃/秒以上、好ましくは50℃/秒以上、さらに好ましくは70℃/秒以上で、50℃/秒以上であれば、容易に結晶化度を制御することが可能であり、70℃/秒では非常に美麗な外観が得られ、30℃/秒未満では結晶化の進行が進み、十分な非晶質構造が得られない。
次に、焼付均熱温度C(℃)とは到達板温のことで、800℃以上1000℃以下の範囲が必要であり、800℃未満では十分な張力が発揮されず、また、1000℃を超えると被膜に亀裂が生じ、被膜張力が低下したり絶縁性などが低下する。
また、均熱保持時間S(秒)は10秒以上が必要で、10秒未満では焼き付きが不足して吸湿性が劣化しがちであり、望ましくは20秒以上である。
さらに、本発明では、結晶化度を制御するために、昇温速度、均熱温度、及び、均熱時間は、
S≦2V−40、C≦5/3V+900、S≦−4/5C+820
の各条件式を満たす必要がある。
これは、昇温速度が大きいと非晶質化しやすく、均熱温度は高いほど、均熱時間は長いほど結晶化しやすくなるため、それぞれが関連しているためであり、上記関係式を満たさない場合、結晶化が進行し、結晶化度が大きくなり過ぎる。
なお、上記絶縁被膜処理を、特開平7−268567号公報に開示されている技術を用いて製造した方向性電磁鋼板、即ち、Cを0.005%以下、Siを2.5〜7.0%含有し、平均結晶粒径が1〜10mmであり、結晶方位が(110)[001]の理想方位に対して、平均値で圧延方向に8°以下の方位のズレを有する方向性電磁鋼板に施すことにより、さらに鉄損を低減する効果が得られた。
次に、実施例について述べる。
(実施例1)厚さ0.23mmの方向性電磁鋼板の最終仕上げ焼鈍後の同一コイルから幅7cm×長さ30cmの試料を切り出し、表面に残存している焼鈍分離剤を水洗と軽酸洗で除去し、グラス被膜を残した後、歪取り焼鈍を行った。次に、表1に示す配合割合で絶縁被膜処理液を調製した後、塗布量が4.5g/m2になるよう、表2の条件で鋼板に塗布し焼き付けし、その後、被膜特性と磁気特性を評価した。結果を表3に示す。
比較例1では、結晶化度が大きく、りん酸塩にCa塩を用いたため、被膜にワレが発生して密着性が劣化し、比較例2では、結晶化度が大きく、コロイダルシリカの粒径が小さ過ぎたため隙間の大きなポーラスな被膜となってやはり密着性が低下した。比較例3では、結晶化度が大きく、粒径の大きすぎるコロイダルシリカを用いたため、やはり被膜に亀裂が発生して密着性が低下した。比較例4では、りん酸配合割合が低すぎたため結晶化が進み密着性が低下した。
比較例5では、結晶化度が大きく、昇温速度が低過ぎたため被膜に膨れが発生し、比較例6では、均熱温度が低過ぎたため膨れが発生して被膜張力が劣化した。比較例7では、結晶化度が大きく、均熱温度が高すぎたため隙間の多いポーラスな被膜となって密着性が劣化した。比較例8は、均熱保持時間と昇温速度、比較例9は昇温速度と均熱保持温度の関係が合致しないため結晶化が進み、ポーラスな被膜となって密着性が劣化した。
Figure 2007217758
Figure 2007217758
Figure 2007217758
(実施例2)特開平7−268567号公報に開示されている技術を用いて、Siを3.25%含有する溶鋼を鋳造し、スラブ加熱後、熱間圧延を行い、1100℃で5分間熱延板を焼鈍し、その後、冷間圧延により0.22mm厚にした。この鋼板を加熱速度を400℃/秒で850℃まで昇温した後、脱炭焼鈍し、焼鈍分離剤を塗布し、1200℃×20時間の仕上げ焼鈍を行った。
このようにして得られた、平均粒径が9.5mmで、結晶方位が(110)[001]の理想方位より平均で4.4°の方位のズレを有する同一コイルから実施例1と同様の操作を行い、表4に示す溶液を用いて、表5に示す条件で、塗布量4.5g/m2になるよう鋼板に塗布し焼き付けし、その後、被膜特性と磁気特性を評価した。結果を表6に示す。
比較例10では、結晶化度が大きく、りん酸塩にCa塩を配合したため、被膜にワレが発生して密着性が劣化し、比較例11では、結晶化度が大きく、コロイダルシリカの粒径が小さ過ぎたため隙間の大きなポーラスな被膜となってやはり密着性が低下した。比較例12では、結晶化度が大きく、粒径の大きすぎるコロイダルシリカを用いたため、やはり被膜に亀裂が発生して密着性が低下した。
比較例13では、均熱温度が高すぎたため結晶化が進み密着性が低下した。比較例14、15では、昇温速度、均熱保持温度、均熱保持時間の関係が悪く、結晶化が進み密着性が劣化した。
Figure 2007217758
Figure 2007217758
Figure 2007217758
この試験の結果、特定りん酸金属塩を用い、結晶化度を60%以下に制御した絶縁被膜は、比較例と比較して高張力で密着性に優れ、磁気特性の改善効果が良好であった。
本発明によれば、鋼板の表面に付与される被膜張力が大きく、トランス製造における鉄芯材料の密着性が良好で、磁気特性も良好な方向性電磁鋼板を得ることができる。よって、本発明は、電磁鋼板を利用する産業において、利用可能性の高いものである。
代表的なX線回折チャート(Cu線源を使用)を示す図である。

Claims (6)

  1. 表面に、りん酸金属塩とコロイド状シリカを主成分とし、該りん酸金属塩の結晶化度が60%以下のクロムを含有しない高張力絶縁被膜を有することを特徴とする方向性電磁鋼板。
  2. 前記りん酸金属塩が、Ni、Co、Mn、Zn、Fe、Al、Mg、Baの中から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板。
  3. 前記コロイド状シリカの平均粒径が5〜35nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の方向性電磁鋼板。
  4. 前記方向性電磁鋼板が、Cを0.005%以下、Siを2.5〜7.0%含有し、平均結晶粒径が1〜10mmであり、結晶方位が、(110)[001]の理想方位に対し、平均値で圧延方向に8°以下の方位のズレを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
  5. 方向性電磁鋼板の表面に、りん酸金属塩とコロイド状シリカを主成分とする処理液を塗布し高張力被膜を形成する際に、絶縁被膜処理剤として、平均粒径が5〜35nmのコロイド状シリカを固形分換算で100重量部、及び、該100重量部に対し、Ni、Co、Mn、Zn、Fe、Al、Mg、Baのりん酸塩の1種又は2種以上を固形分で155〜250重量部含有する処理液を塗布し、以下の(1)〜(6)の条件式を満たす昇温速度V(℃/秒)、焼付均熱温度C(℃)、均熱保持時間S(秒)で、クロムを含有しない高張力絶縁被膜を形成することを特徴とする方向性電磁鋼板の絶縁被膜処理方法。
    30≦V …(1)
    10≦S …(2)
    800≦C≦1000 …(3)
    S≦2V−40 …(4)
    C≦5/3V+900 …(5)
    S≦−4/5C+820 …(6)
  6. 前記方向性電磁鋼板が、Cを0.005%以下、Siを2.5〜7.0%含有し、平均結晶粒径が1〜10mmであり、結晶方位が、(110)[001]の理想方位に対し、平均値で圧延方向に8°以下の方位のズレを有することを特徴とする請求項5に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜処理方法。
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