JP4044781B2 - 張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フォルステライト(Mg2SiO4)等で構成される無機鉱物質皮膜の生成を意図的に防止して製造したり、あるいは、研削や酸洗等の手段によって除去したり、更には、鏡面光沢を呈するまで表面を平坦化させたりして調製した仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板に対し、張力付与性の絶縁性皮膜を形成させた一方向性珪素鋼板とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一方向性珪素鋼板は磁気鉄芯材料として多用されており、特にエネルギ−ロスを少なくするために鉄損の少ない材料が求められている。鉄損の低減には鋼板に張力を付与することが有効であることから、鋼板に比べ熱膨張係数の小さい材質からなる皮膜を高温で形成することによって鋼板に張力を付与し、鉄損低減が図られてきた。
【0003】
仕上げ焼鈍工程で鋼板表面の酸化物と焼鈍分離剤とが反応して生成するフォルステライト系皮膜は、鋼板に張力を与えることができ、皮膜密着性も優れている。特開昭48−39338号公報で開示されたコロイド状シリカとリン酸塩を主体とするコーティング液を鋼板表面に塗布し、焼き付けることによって絶縁皮膜を形成する方法は、鋼板に対する張力付与の効果が大きく、鉄損低減に有効である。
【0004】
そこで、仕上げ焼鈍工程で生じたフォルステライト系皮膜を残した上でリン酸塩を主体とする絶縁皮膜を形成することが、一般的な一方向性珪素鋼板の製造方法となっている。
【0005】
近年、フォルステライト系皮膜と地鉄の乱れた界面構造が、皮膜張力による鉄損改善効果をある程度減少させていることが明らかになってきた。そこで、例えば、特開昭49−96920号公報に開示されている如く、仕上げ焼鈍工程で生ずるフォルステライト系皮膜を除去したり、更に鏡面化仕上げを行った後、改めて張力皮膜を形成することにより、更なる鉄損低減を試みる技術が開発された。
【0006】
しかしながら、上記絶縁皮膜は、フォルステライトを主体とする皮膜の上に形成された場合は、かなりの密着性を呈するものの、フォルステライト系皮膜を除去したり、あるいは、仕上げ焼鈍工程で意図的にフォルステライト形成を行わなかったものに対しては、皮膜密着性が十分ではない。
【0007】
フォルステライト系皮膜の除去を行った場合には、コ−ティング液を塗布して形成させる張力付与型絶縁皮膜のみで所要の皮膜張力を確保する必要があり、必然的に厚膜化しなければならず、より一層の密着性が必要である。したがって、従来の皮膜形成法では鏡面化の効果を十分に引き出すほどの皮膜張力を達成し、かつ、皮膜密着性をも確保することは困難であり、十分な鉄損低減が図られていなかった。
【0008】
そこで、張力付与性絶縁皮膜の密着性を確保するための技術として、張力付与性絶縁皮膜の形成に先立ち、仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に酸化膜を形成させる方法が、例えば、特開昭60−131976号公報、特開平6−184762号公報、特開平7−278833号公報、特開平8−191010号公報、特開平9−078252号公報、において開示された。
【0009】
特開昭60−131976号公報は、鏡面化した仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板を鏡面化した後、鋼板表面付近を内部酸化させる方法で、この内部酸化層によって張力皮膜の密着性を向上させ、内部酸化、即ち鏡面度減退で生じる鉄損劣化を皮膜密着性向上によってもたらされる付与張力の増大で補おうとする方法である。
【0010】
特開平6−184762号公報は、鏡面化ないしはそれに近い状態に調製した仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板に対し、温度ごとに特定の雰囲気で焼鈍を施すことにより鋼板表面に外部酸化型の酸化膜を形成し、この酸化膜でもって張力付与性絶縁皮膜の皮膜と鋼板との皮膜密着性を確保する方法である。
【0011】
特開平7−278833号公報は、張力付与性の絶縁皮膜が結晶質である場合において、無機鉱物質皮膜のない仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に非晶質の酸化物の下地皮膜を形成させることで、結晶質の張力付与性絶縁皮膜が形成される際に起こる鋼板酸化、即ち、鏡面度減退を防止する技術である。
【0012】
特開平8−191010号公報は、非金属物質を除去した仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に結晶性のファイヤライトを形成させることでファイヤライト結晶による張力付与効果と張力付与性の絶縁皮膜との密着性向上効果により鉄損低減を図る方法である。
【0013】
特開平9−078252号公報は、無機鉱物質皮膜のない仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に形成させる下地シリカ層の量を100mg/m2以下にすることで張力皮膜の密着性確保だけでなく、良好な鉄損値をも実現しようとする方法である。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
上述の技術を適用し、無機鉱物質のない一方向性珪素鋼板の表面に酸化膜を形成させることで、皮膜密着性の改善効果や鉄損値の低減効果が得られることはそれなりに認められる。しかしながら、張力付与性絶縁皮膜の皮膜密着性は必ずしも完全ではなかった。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述の問題点を解決し、無機鉱物質皮膜のない仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板に対し、十分な皮膜密着性を得ることができるよう張力付与型の絶縁性皮膜を形成した張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板とその製造方法である。
【0016】
本発明の要旨は次のとおりである。
【0017】
(1)フォルステライト等の無機鉱物質皮膜を酸洗等の手段により除去したりあるいはその生成を意図的に防止して製造した後、張力付与性絶縁皮膜を形成した一方向性珪素鋼板であって、張力付与性絶縁皮膜と鋼板との界面に、膜厚が2nm以上500nm以下のシリカ主体の外部酸化型酸化膜を有し、かつ、該酸化膜の張力付与性絶縁皮膜との界面部分の密度低下層の平均厚さが該酸化膜全厚の30%以下であることを特徴とする張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板。
【0018】
(2)前記張力付与性絶縁皮膜が、リン酸塩とコロイド状シリカを主体とする塗布液を焼き付けることによって形成した張力付与性絶縁皮膜であることを特徴とする前記(1)記載の張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板。
【0019】
(3)前記張力付与性絶縁皮膜が、アルミナゾルとほう酸を主体とする塗布液を焼き付けることによって形成した張力付与性絶縁皮膜であることを特徴とする前記(1)記載の張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板。
【0020】
(4)フォルステライト等の無機鉱物質皮膜を酸洗等の手段により除去したりあるいはその生成を意図的に防止して製造した仕上げ焼鈍済み一方向性珪素鋼板に対し、張力付与性絶縁皮膜と鋼板との密着性を確保するため、張力付与性絶縁皮膜の形成に先立ち、シリカを主体とする外部酸化型酸化膜を形成させた後、張力付与性絶縁皮膜形成用の塗布液を塗布し、焼き付けることによって張力付与性絶縁皮膜を形成して一方向性珪素鋼板を製造する方法において、張力付与性絶縁皮膜形成用塗布液とシリカ主体の外部酸化型酸化膜を形成させた鋼板とが100℃以下の温度域で接触している時間を20秒以下にして、張力付与性絶縁皮膜を形成するとともに、上記酸化膜の張力付与絶縁皮膜との界面部分における密度低下層の平均厚さを該酸化膜全厚の30%以下とすることを特徴とする張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板の製造方法。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、発明の詳細について説明する。
【0022】
発明者らは、皮膜密着性が必ずしも完全ではない原因として外部酸化型酸化膜を形成させた後、張力付与性絶縁皮膜を形成させる工程に問題があるのではないかと考えた。中でも、張力付与性絶縁皮膜形成用の塗布液を鋼板に塗布し焼き付ける時の、塗布液と鋼板とが低温温度域において接触している時間が影響しているのではないかと推定した。
【0023】
つまり、鋼板と塗布液との接触時間によって外部酸化型酸化膜と張力付与性絶縁皮膜との界面構造、特に、外部酸化型酸化膜側に差異が生じ、そのため張力付与性の絶縁皮膜の密着性が変動するのではないかと考えた。
【0024】
そこで、次に述べるような実験を行い、皮膜密着性に対する塗布液と外部酸化型酸化膜付き鋼板との接触時間と外部酸化型酸化膜構造の関係を調べた。なお、ここでの外部酸化型酸化膜とは、鋼板上に形成された酸化物であって、その酸化物が鋼板表面の70%以上を被覆している場合に、その酸化物のことをいう。
【0025】
実験用素材として、板厚0.225mmの脱炭焼鈍板に対し、アルミナを主体とする焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍を行い、二次再結晶させ、鏡面光沢を有する一方向性珪素鋼板を準備した。この鋼板に対し、窒素20%、水素80%、露点+2℃の雰囲気において均熱時間8秒で、かつ、種々の温度で熱処理を施し、シリカを主体とする外部酸化型酸化膜を形成させた。
【0026】
ついで、張力付与性の絶縁皮膜を形成するため、リン酸アルミニウム、クロム酸、コロイダルシリカを主体とする塗布液を塗布し、窒素雰囲気中で835℃で30秒間焼き付けた。この時、塗布液が100℃以下の温度で鋼板と接触している時間を変えて張力付与性絶縁皮膜を形成させた。このようにして作製した鋼板の皮膜密着性を調べた。
【0027】
皮膜密着性は直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時、鋼板から剥離せず、鋼板と皮膜が密着したままであった部分の面積率(以後、皮膜残存面積率と称する)で評価した。密着性が不良で皮膜が完全に剥離した場合は0%、皮膜密着性が良好で皮膜が全く剥離しなかった場合を100%と判定した。評価は皮膜残存面積率が90%以下の場合を×、90%超95%以下のものを○、95%超100%以下のものを◎とした。
【0028】
また、外部酸化型酸化膜を含む張力付与性絶縁皮膜と鋼板との界面構造を調べるため、集束イオンビ−ム法(以下、FIB法と称する)によって試料を作製し、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと称する)で断面構造を観察した。また、シリカを主体とする外部酸化型酸化膜の膜厚方向の密度分布を電子エネルギ−損失分光法(以下、EELS法と称する)によって調べた。
【0029】
FIB法とは、鋼板上に形成した厚さ数μmの皮膜を断面方向から観察できるよう、皮膜付き鋼板試料の所望の位置から厚さ数μmの薄片状試料を作製・採取する手法である。
【0030】
EELS法とは、FIB法等で作製した薄片状試料に対し、厚さ方向に電子線を照射した時、散乱されてくる電子線強度を損失エネルギ−に対して計測する方法で、弾性散乱強度と非弾性散乱強度の比率が膜を構成する物質の密度に比例することを利用し、両者の強度比でもって密度を算出する手法である。
【0031】
FIB法で薄膜試料を作製し、TEM−EELS法でシリカ主体の外部酸化型酸化膜中の密度を調べたところ、密度分布が観察された。特に、シリカ主体の外部酸化型酸化膜と張力付与性絶縁皮膜との界面近傍において、外部酸化型酸化膜の密度が、該酸化膜中心部や鋼板側界面部と比較し、低くなっていることが観測された。
【0032】
外部酸化型酸化膜の鋼板との界面近傍部分の密度をDiとしたときに、測定した外部酸化型酸化膜の密度Dsが0.8Di以下となる部分を密度低下部分とし、この密度低下部分が外部酸化型酸化膜中で占める平均膜厚を求め、外部酸化型酸化膜の全厚に対する比率とし、これを密度低下層比率とした。
【0033】
なお、全厚とは外部酸化型酸化膜全体の厚さを意味し、TEMによる断面観察像において外部酸化型酸化膜と鋼板との界面から、上記外部酸化型酸化膜と張力付与性絶縁皮膜との界面までの距離を指す。
【0034】
このようにして調べた結果を表1および表2(表1のつづき)にまとめた。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表1および表2から、張力付与性絶縁皮膜の密着性を確保できる条件を求めると次のようになる。
【0038】
まず、シリカ主体の外部酸化型酸化膜付きの鋼板と塗布液との接触時間の長短に関わらず、外部酸化型酸化膜の膜厚が2nm未満の試料番号1から試料番号5の熱処理温度500℃の条件では、皮膜密着性が確保できない。一方、外部酸化型酸化膜の膜厚が2nm以上の試料番号6から試料番号40の熱処理温度が600℃から1150℃の条件においては、概ね、皮膜密着性が確保できるようになる。
【0039】
特に、試料番号26から試料番号40の外部酸化型酸化膜の膜厚が40nm以上の熱処理温度が1000℃以上の条件では皮膜密着性が格段に良好である。
【0040】
但し、シリカ主体の外部酸化型酸化膜付きの鋼板と塗布液との接触時間が20秒以下で、外部酸化型酸化膜中の密度低下層の比率が30%以下の条件では、皮膜密着性が良好であるが、接触時間30秒で密度低下層比率が30%よりも大きい条件では外部酸化型酸化膜の膜厚が厚くとも、皮膜密着性が必ずしも完全とは言えず、皮膜残存面積率で90%となった。
【0041】
表1および表2から張力付与性絶縁皮膜の皮膜密着性を確保するためには外部酸化型酸化膜の膜厚が2nm以上で、かつ、外部酸化型酸化膜における密度低下層比率が30%以下であることが必須であり、こうした外部酸化型酸化膜を形成させるためには、外部酸化型酸化膜を形成するための熱処理工程において、熱処理温度を600℃以上、特に好ましくは1000℃以上で行ない、かつ、張力付与性絶縁皮膜を形成させる工程において、外部酸化型酸化膜付き鋼板と張力付与性絶縁皮膜形成用塗布液との接触時間を20秒以下にする必要があることがわかる。
【0042】
また、表1および表2には記載されていないが、外部酸化型酸化膜の膜厚が500nm以上になると、張力付与性絶縁皮膜による張力が外部酸化型酸化膜によって著しく緩和されて鋼板に十分な張力が付与されないため、たとえ張力付与性絶縁皮膜密着性が優れていたとしても商品特性としては好ましくない。従って、外部酸化型酸化膜の膜厚の上限は500nmとした。
【0043】
外部酸化型酸化膜付き鋼板と張力付与性絶縁皮膜形成用塗布液との接触時間の下限については現在のところ明らかではないが、0.1秒よりも短いと鋼板と塗布液の両者がなじむ時間がなく、いわゆる塗布ムラを生じ易くなる可能性が考えられるので、鋼板と塗布液との100℃以下での接触時間は0.1秒以上がよい。
【0044】
このように皮膜密着性について外部酸化型酸化膜の膜厚や密度低下層比率が大きく影響していることについて、発明者らはその機構を次のように考えている。
【0045】
まず、外部酸化型酸化膜の膜厚依存性について述べる。
【0046】
鋼板と張力付与性絶縁皮膜との密着性は、両者の界面に形成させた外部酸化型酸化膜によって決まる。一般に外部酸化型酸化膜は金属原子が鋼中から表面に拡散し、表面で酸化性ガスと反応することで成長すると言われている。そのため、酸化膜の成長速度は原子の拡散速度によって決まる。原子の拡散は熱エネルギ−によって高められる。したがって、温度が高いほど原子の拡散が促進され、外部酸化型酸化膜はより成長する。
【0047】
こうした機構のため熱処理温度が500℃と低い条件では、外部酸化型の酸化膜の成長が十分ではないため、皮膜密着性が十分ではなく、一方、熱処理温度が600℃以上では、十分に外部酸化型酸化膜が成長するので皮膜密着性は良好で、更に1000℃以上では更に酸化膜が成長し易くなるので、皮膜密着性が極めて良好となるものと考えられる。
【0048】
こうした推測が妥当であることがTEMを使った外部酸化型酸化膜の膜厚測定の結果からわかる。即ち、膜厚が1nmで、外部酸化型酸化膜の成長が十分でない熱処理温度500℃の条件では、張力付与性絶縁皮膜の密着性が不良であるのに対し、膜厚2nm以上で、外部酸化型酸化膜が成長した熱処理温度600℃以上の条件では、皮膜密着性は良好である。
【0049】
次に張力付与性絶縁皮膜の密着性と外部酸化型酸化膜に存在する密度低下層比率との関係について述べる。
【0050】
外部酸化型酸化膜中にの密度低下層が形成される機構については、その詳細が未だ不明であるが、現在のところ、発明者らは次のように考えている。
【0051】
発明者らは、外部酸化型酸化膜付きの鋼板に張力付与性絶縁皮膜形成用塗布液を塗布した際、外部酸化型酸化膜において、一種の膨潤反応が起こり、外部酸化型酸化膜の構造緩和が生じるのではないかと考えている。このような構造緩和は塗布液に含まる水分などによって引き起こされるものと推測している。
【0052】
そのため、外部酸化型酸化膜の中でも断面方向から見て、塗布液と接している界面側で起こるものと推測される。実際、FIB法で試料を作製し、TEM−EELS法で断面の密度分布を測定した場合、外部酸化型酸化膜が張力付与性絶縁皮膜と接している部分で密度低下が観測された。
【0053】
次に、こうした密度低下層の酸化膜全膜厚に対する比率と塗布液との接触時間の関係について述べる。
【0054】
まず、鋼板と塗布液との100℃以下での接触時間が短い場合、塗布液中に含まれる水分等による外部酸化型酸化膜の膨潤様反応が起こりにくいため、密度低下層比率は低い。一方、鋼板と塗布液との100℃以下での接触時間が長い場合、塗布液中に含まれる水分等による外部酸化型酸化膜の膨潤様反応が起こり易いため、密度低下層比率が高くなる。
【0055】
次に張力付与性絶縁皮膜の鋼板密着性と外部酸化型酸化膜における密度低下層比率との関係を述べる。
【0056】
張力付与性絶縁皮膜による鋼板への張力付与は張力付与性絶縁皮膜と鋼板との熱膨張係数の差によってもたらされる。この時、張力付与性絶縁皮膜と鋼板との界面には多大な応力が発生する。この応力に耐え、鋼板と張力付与性絶縁皮膜の密着性を確保するのが外部酸化型酸化膜である。
【0057】
発明者らは、こうした応力耐性に関し、一種の欠陥部分である密度低下層が影響しているのではないかと推測している。つまり、外部酸化型酸化膜における密度低下層が少なく、酸化膜全膜厚に対する比率にして30%以下の場合、応力に耐えうるが、密度低下層比率が多く、比率にして30%よりも多い場合、外部酸化型酸化膜が、張力付与性絶縁皮膜によって押しかかる応力に耐えることができず、外部酸化型酸化膜が破壊されてしまうのではないかと考えている。
【0058】
【実施例】
(実施例1)
板厚0.225mm、Si濃度3.30%の一方向性珪素鋼板製造用の冷延板に脱炭焼鈍を施した後、表面酸化層を弗化アンモニウムと硫酸の混合溶液中で酸洗し溶解除去した。
【0059】
ついで、アルミナ粉末を静電塗布法で塗布し、乾燥水素雰囲気中、1200℃、20時間の仕上げ焼鈍を行なった。こうして調製した二次再結晶の完了した一方向性珪素鋼板の表面には無機鉱物質がなく、かつ、鏡面光沢を有する。
【0060】
この鋼板に対し、窒素25%、水素75%、露点−3℃の雰囲気中、温度900℃で熱処理を行なうことで外部酸化型酸化膜を形成させた。ついで、調製した鋼板に対し、濃度50%のリン酸マグネシウム/アルミニウム水溶液50ml、濃度30%のコロイダルシリカ水分散液66ml、無水クロム酸5gからなる混合液を塗布し、850℃で30秒間焼き付け、張力付与性の絶縁皮膜を形成させた。
【0061】
この時、鋼板と塗布液との100℃以下における接触時間を3秒(実施例1)と35秒(比較例1)で行なった。
【0062】
こうして調製した絶縁皮膜付き一方向性珪素鋼板について、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時の張力付与性絶縁皮膜残存面積率で皮膜密着性を評価した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3から、接触時間35秒、密度低下層比率40%で張力付与性絶縁皮膜残存面積率90%である比較例1に比べ、接触時間3秒、密度低下層比率5%で張力付与性絶縁皮膜残存面積率100%である実施例1のほうが皮膜密着性が良好で優れていることが解る。
【0065】
(実施例2)
板厚0.225mm、Si濃度3.35%の一方向性珪素鋼板製造用の冷延板に脱炭焼鈍を施し、表面にマグネシアと塩化ビスマスを主体とする焼鈍分離剤の水スラリ−を塗布し、乾燥した。ついで、乾燥水素雰囲気中、1200℃、20時間の仕上げ焼鈍を行ない、表面に無機鉱物質のほとんどない二次再結晶の完了した一方向性珪素鋼板を得た。
【0066】
この鋼板に対し、窒素25%、水素75%、露点−15℃の雰囲気中、温度1150℃で熱処理を行なうことでシリカを主体とする外部酸化型酸化膜を形成させた。ついで、調製した鋼板に対し、濃度50%のリン酸マグネシム水溶液50ml、濃度20%のコロイダルシリカ水分散液100ml、無水クロム酸5gからなる混合液を塗布し、850℃で30秒間焼き付け、張力付与性の絶縁皮膜を形成させた。この時、鋼板と塗布液との100℃以下における接触時間を10秒(実施例2)と25秒(比較例2)で行なった。
【0067】
こうして調製した絶縁皮膜付き一方向性珪素鋼板について、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時の張力付与性絶縁皮膜残存面積率で絶縁皮膜の密着性を評価した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
表4から、接触時間25秒、密度低下層比率35%で張力付与性絶縁皮膜残存面積率90%である比較例2に比べ、接触時間10秒、密度低下層比率10%で張力付与性絶縁皮膜残存面積率100%である実施例2のほうが皮膜密着性が良好で優れていることが解る。
【0070】
(実施例3)
板厚0.225mm、Si濃度3.25%の一方向性珪素鋼板製造用の冷延板に脱炭焼鈍を施し、表面にアルミナを主体とする焼鈍分離剤の水スラリ−を塗布し、乾燥した。ついで、乾燥水素雰囲気中、1200℃、20時間の仕上げ焼鈍を行ない、表面に無機鉱物質がほとんどなく、鏡面光沢を有する二次再結晶の完了した一方向性珪素鋼板を得た。
【0071】
この鋼板に対し、窒素30%、水素70%、露点−10℃の雰囲気中、温度800℃で熱処理を行なう事で外部酸化型酸化膜を形成させた。ついで、調製した鋼板に対し、濃度50%のリン酸アルミニウム水溶液50ml、濃度20%のコロイダルシリカ水分散液100ml、無水クロム酸5gからなる混合液を塗布し、850℃で30秒間焼き付け、張力付与性の絶縁皮膜を形成させた。
【0072】
この時、鋼板と塗布液との100℃以下における接触時間を1秒(実施例3)と40秒(比較例3)で行なった。
【0073】
こうして調製した絶縁皮膜付き一方向性珪素鋼板について、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時の張力付与性絶縁皮膜残存面積率で皮膜密着性を評価した。結果を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
表5から、接触時間40秒、密度低下層比率35%で張力付与性絶縁皮膜残存面積率90%である比較例3に比べ、接触時間1秒、密度低下層比率5%で張力付与性絶縁皮膜残存面積率100%である実施例3のほうが皮膜密着性が良好で優れていることが解る。
【0076】
(実施例4)
板厚0.23mm、Si濃度3.30%の一方向性珪素鋼板製造用の冷延板に脱炭焼鈍を施し、表面にマグネシアを主体とする焼鈍分離剤の水スラリ−を塗布し、乾燥した後、乾燥水素雰囲気中、1200℃、20時間の仕上げ焼鈍を行なった。こうして調製した二次再結晶の完了した一方向性珪素鋼板の表面にはフォルステライトを主体とする皮膜が生成している。
【0077】
ついで、ふっ化アンモニムと硫酸の混合溶液中で酸洗し、表面皮膜を溶解除去した後、ふっ酸と過酸化水素水の混合溶液中で化学研磨し、鋼板表面に無機鉱物質がなく、かつ鏡面光沢をもつ鋼板を得た。この鋼板に対し、窒素50%、水素50%、露点−10℃の雰囲気中、温度1050℃で熱処理を行なう事で外部酸化型酸化膜を形成させた。
【0078】
ついで、調製した鋼板に対し、10%濃度のコロイダルアルミナ水分散液100ml、不定形アルミナ粉末10g、ホウ酸5g、水200mlからなる混合液を塗布し、900℃で30秒間焼き付け、張力付与性の絶縁皮膜を形成させた。この時塗布液との接触時間を0.5秒(実施例4)と50秒(比較例4)の条件で行なった。
【0079】
こうして調製した絶縁皮膜付き一方向性珪素鋼板について、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時の張力付与性絶縁皮膜残存面積率で皮膜密着性を評価した。結果を表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6から、接触時間50秒、密度低下層比率35%で張力付与性絶縁皮膜残存面積率90%である比較例4に比べ、接触時間0.5秒、密度低下層比率1%で張力付与性絶縁皮膜残存面積率100%である実施例4のほうが皮膜密着性が良好で優れていることが解る。
【0082】
【発明の効果】
本発明により、張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板を製造し、エネルギーロスの少ない磁気鉄芯材料を提供することができる。
Claims (4)
- フォルステライト等の無機鉱物質皮膜を酸洗等の手段により除去したりあるいはその生成を意図的に防止して製造した後、張力付与性絶縁皮膜を形成した一方向性珪素鋼板であって、張力付与性絶縁皮膜と鋼板との界面に、膜厚が2nm以上500nm以下のシリカ主体の外部酸化型酸化膜を有し、かつ、該酸化膜の張力付与性絶縁皮膜との界面部分の密度低下層の平均厚さが該酸化膜全厚の30%以下であることを特徴とする張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板。
- 前記張力付与性絶縁皮膜が、リン酸塩とコロイド状シリカを主体とする塗布液を焼き付けることによって形成した張力付与性絶縁皮膜であることを特徴とする請求項1記載の張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板。
- 前記張力付与性絶縁皮膜が、アルミナゾルとほう酸を主体とする塗布液を焼き付けることによって形成した張力付与性絶縁皮膜であることを特徴とする請求項1記載の張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板。
- フォルステライト等の無機鉱物質皮膜を酸洗等の手段により除去したりあるいはその生成を意図的に防止して製造した仕上げ焼鈍済み一方向性珪素鋼板に対し、張力付与性絶縁皮膜と鋼板との密着性を確保するため、張力付与性絶縁皮膜の形成に先立ち、シリカを主体とする外部酸化型酸化膜を形成させた後、張力付与性絶縁皮膜形成用の塗布液を塗布し、焼き付けることによって張力付与性絶縁皮膜を形成して一方向性珪素鋼板を製造する方法において、張力付与性絶縁皮膜形成用塗布液とシリカ主体の外部酸化型酸化膜を形成させた鋼板とが100℃以下の温度域で接触している時間を20秒以下にして、張力付与性絶縁皮膜を形成するとともに、上記酸化膜の張力付与絶縁皮膜との界面部分における密度低下層の平均厚さを該酸化膜全厚の30%以下とすることを特徴とする張力付与性絶縁皮膜密着性に優れる一方向性珪素鋼板の製造方法。
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