JP4300604B2 - 超低鉄損一方向性珪素鋼板およびその製造方法 - Google Patents

超低鉄損一方向性珪素鋼板およびその製造方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超低鉄損一方向性珪素鋼板およびその製造方法に関し、特に仕上焼鈍済みの珪素鋼板の表面または線状の凹領域をそなえる仕上焼鈍済みの珪素鋼板の表面に、極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成し、その上に重ねて張力絶縁被膜を被成することにより、鉄損特性の一層の向上を磁歪の圧縮応力特性の改善と共に、低コストの下で実現しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
一方向性珪素鋼板は、主として変圧器その他の電機機器の鉄心として利用され、磁化特性として磁束密度(B8 値で代表される)が高く、鉄損(W17/50 で代表される)が低いことが要求される。
【0003】
一方向性珪素鋼板の磁気特性を向上させるためには、第一に鋼板中の2次再結晶粒の〈001〉軸を圧延方向に高度に揃える必要があり、第二には最終製品中に残存する不純物や析出物をできるだけ少なくする必要がある。
【0004】
このため、N.P.Gossによって一方向性珪素鋼板の2段冷延による基本的な製造技術が提案されて以来、その製造技術に数多くの改良が重ねられ、一方向性珪素鋼板の磁束密度および鉄損値は年を追って改善されてきた。
その中で特に代表的なものは、SbとMnSeまたはMnSとをインヒビターとして利用する特公昭51-13469号公報に記載の方法、もう一つはAlNとMnSをインヒビターとして利用する特公昭33−4710号公報、特公昭40-15644号公報および特公昭46-23820号公報等に記載の方法であり、これらの方法によればB8 が1.88Tを超える高磁束密度を有する製品が得られるようになった。
【0005】
さらに高磁束密度の製品を得るために、特公昭57-14737号公報では素材中にMoを複合添加したり、また特公昭62-42968号公報では素材中にMoを複合添加させたのち、最終冷延直前の中間焼鈍後に急冷処理を施すなどの改良を加えて、B8 が1.90T以上の高磁束密度で、かつ鉄損W17/50 が 1.05 W/kg(製品板厚:0.30mm) 以下の低鉄損が得られることが、開示提案されているが、なお十分な低鉄損化については改善すべき余地が残されていた。
【0006】
とくに、十数年前のエネルギー危機を境として電力損失を極力低減することへの要請が著しく強まり、それに伴って鉄心材料の用途でもより一層の改善が望まれている。そのため、渦電流損をできる限り小さくすることを目的として、製品板厚を薄くした0.23mm厚(9mil)以下のものが数多く使用されるようになってきた。
【0007】
上記した技術はいずれも、主に冶金学的な手法であるが、これらの方法とは別に、特公昭57−2252号公報に提案されているような、仕上焼鈍後の鋼板の表面にレーザー照射やプラズマ照射(B.Fukuda, K.Sato, T.Sugiyama, A.Honda and Y.Ito : Proc. of ASM Con. of Hard and Soft Magnetic Materials, 8710-008, (USA), (1987) )を行い、人為的に 180°磁区幅を減少させて鉄損を低減する方法(磁区細分化技術)が開発された。この技術の開発により、一方向性珪素鋼板の鉄損は、大幅に低減された。
しかしながら、この技術は、高温での焼鈍に耐え得ないという欠点があり、用途が歪取焼鈍を必要としない積鉄心変圧器に限定されるという問題があった。
【0008】
この点、歪取焼鈍に耐え得る磁区細分化技術として、一方向性珪素鋼板の仕上焼鈍後の鋼板表面に、線状の溝を導入し、溝による反磁界効果を応用して磁区の細分化を図る方法が工業化された(H.Kobayashi, E.Sasaki, M.Iwasaki and N. Takahashi : Proc. SMM-8., (1987), P.402 )。
また、これとは別に、一方向性珪素鋼板の最終冷延板に局所的な電解エッチングを施すことによって溝を形成し、磁区を細分化する方法(特公平8−6140号公報)も開発され、工業化されている。
【0009】
さらに、上記した珪素鋼板の製造方法とは別に、特公昭55-19976号公報、特開昭56−127749号公報および特開平2−3213号公報に開示されているように、非晶質合金が通常の電力用トランスや高周波トランス等の材料として注目されている。
しかしながら、このような非晶質材料では、通常の一方向性珪素鋼板に比較して非常に優れた鉄損特性が得られる反面、熱的安定性に欠ける、占積率が悪い、切断が容易でない、あまりにも薄く脆いためトランスの組み立て工数のコストアップが大きい等実用上の不利が多いことから、現状では大量に使用されるまでには至っていない。
【0010】
その他にも、特公昭52-24499号公報において、珪素鋼板の仕上焼鈍後に形成されるフォルステライト下地被膜を除去し、鋼板表面を研磨した後、この鋼板表面に金属メッキを施すことからなる方法が提案されている。
しかしながら、この方法は、低温では低鉄損が得られるものの、高温処理を施すと金属が珪素鋼板中に拡散するため、かえって鉄損が劣化するという欠点があった。
【0011】
この点、発明者らは先に、上記の不利を解消するものとして、特公昭63-54767号公報等において、研磨により平滑化した一方向性珪素鋼板上にCVDやイオンプレーティング, イオンインプランテーション等のドライプレーティング(PVD)により、Si, Mn, Cr, Ni, Mo, W,V,Ti, Nb, Ta, Hf, Al,Cu, ZrおよびBの窒化物、炭化物のうちから選んだ1種または2種以上の張力被膜を被成させることによって超低鉄損が得られることを開示した。
この製造法により、電力用トランスや高周波トランス等の材料として非常に優れた鉄損特性が得られるようになったが、それでもなお、最近の低鉄損化に対する要求に対しては十分に応えているとはいい難かった。
【0012】
そこで、発明者らは、従来に比べて鉄損の一層の低減を図るべく、あらゆる観点から根本的な再検討を加えた。
すなわち、発明者は、安定した工程で平滑化した一方向性珪素鋼板表面上に種々の窒化物、炭化物のうちから選んだ1種または2種以上の張力被膜を被成させて超低鉄損の製品を得るためには、一方向性珪素鋼板の素材成分から最終の処理工程に至るまでの根本的な再検討が必要であるとの認識に立って、珪素鋼板の集合組織の追跡から、鋼板表面の平滑度や最終のCVDやPVD処理工程に至るまで鋭意検討を重ねた。
その結果、以下に述べる知見を得た。
【0013】
(1) 珪素鋼板に被覆したセラミック (代表例として TiN膜を使用) の薄膜は、 1.5 μm 以上の厚みに被成しても、鉄損向上の度合いは少なくなる。すなわち 1.5 μm 以上の厚みのTiN 膜は、鉄損については僅かの向上しか期待できず、むしろ占積率および磁束密度の劣化を招く。
(2) この場合の TiNの役割は、セラミック特有の張力付加に加えて、珪素鋼板との密着性の役割の方がより重要である。すなわち TiN横断面の透過電子顕微鏡観察 (井口征夫:日本金属学会誌, 60 (1996), P.781〜786 参照) では、10nmの横縞が観察され、これは珪素鋼板の〔011〕方向のFe−Fe原子の5原子層に相当する。
(3) TiN 被覆領域および化学研磨領域のX線による二層の集合組織の同時測定( Y.Inokuti:ISIJ International, 36 (1996), P.347〜352 参照) では、研磨領域のFeの{200}ピーク形状は円形である。しかし TiN被覆領域でのFeの{200}ピーク形状は楕円形であり、珪素鋼板の〔100〕si-steel方向 に強力に張力付加された状況になっている。
(4) TiN 薄膜の張力 (井口征夫、鈴木一弘、小林康宏:日本金属学会誌、60 (19 96), P.674〜678 参照) は8〜10 MPaで、これにより 0.014〜0.016 T程度の磁束密度の向上が期待できる。(これは約1°のGoss方位集積度を向上させたことに相当する。)
【0014】
以上が、セラミック被覆についての新規知見であるが、さらにセラミック膜と鋼板の表面状態に関し、以下に述べる知見を得た。
(5) 珪素鋼板の最終冷延板に局所的な電解エッチングを施すことによって溝を形成し、さらに2次再結晶処理後の鋼板表面を研磨により平滑化した後、 TiNセラミック膜を被覆した場合には、導入した溝に起因した反磁界効果による磁区細分化に加えて、さらにセラミック被膜による張力付加により、効果的に鉄損が低減する。
(6) セラミック被覆前に、鋼板表面上に凹状の溝を形成した場合の引張りによる鉄損の低減効果は、通常の研磨により平滑化した珪素鋼板の場合よりも大きい(特公平3-32889号公報参照)。
すなわち、溝を導入した場合には珪素鋼板表面上に異張力が作用し、引張り張力による鉄損の低減度合いが増大する。
(7) 凹状の溝を形成した珪素鋼板上にセラミック膜を被覆した場合は、通常の研磨により平滑化しセラミック膜を被覆した場合よりも、鉄損の低減効果がより効果的である。
すなわち、線状の溝を導入し、溝による反磁界効果を応用して磁区を細分化したのち、セラミック張力被膜を被成して、さらに 180°主磁区を細分化する方が一層効果的で、超低鉄損が得られる。
(8) 珪素鋼板の最終冷延板に局所的な電解エッチングを施すことによって溝を形成した場合は、2次再結晶処理を施した後の鋼板表面を研磨により平滑化しない表面状態で TiNセラミック膜を被成した場合であっても、かなりの鉄損低減効果が発揮される。すなわち、研磨により平滑化しない状態、例えば酸洗処理等により表面に小さな凹凸が存在する状態であっても、熱膨張係数の小さなセラミック膜を被覆することによって、珪素鋼板の表面に強力な張力を付加することが可能であり、これによって鉄損を有利に低減することができる。
【0015】
そこで、発明者は、上記の新規知見を基に、所期した目的を達成すべく数多くの実験と検討を重ねた結果、表面を平滑化した珪素鋼板および線状の溝を導入した珪素鋼板いずれであっても、該珪素鋼板の表面に被成するセラミック張力被膜を複数種とし、しかもこのセラミック張力被膜について、その熱膨張係数が外側にいくほど小さくすることが、鉄損の低減に極めて有効であることの知見を得、これに基づき極めて鉄損の低い一方向性珪素鋼板を新たに開発した(特願平9−328042号明細書)。
【0016】
かくして得られた一方向性珪素鋼板は、極めて薄く、かつ密着性に優れたセラミック膜の張力被膜をそなえ、超低鉄損の達成が可能なだけでなく、絶縁性を具備し、しかも占積率にも優れているため、まさに理想的な珪素鋼板といえる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような緻密なセラミック膜を被成するには、真空中で高プラズマ雰囲気下での処理が不可欠であり、かような方法ではセラミック膜の高速成膜ができず、生産性が低いため、工業化に際して、コストアップになるというところに問題を残していた。
【0018】
なお、これとは別に、最近、特許第 2662482号および 2664326号各公報において、平滑化した鋼板の表面に酸化Al−酸化B系の複合膜を形成させることによって、被膜密着性と鉄損を改善した低鉄損一方向性珪素鋼板が提案された。
しかしながら、この方法による珪素鋼板の鉄損値W17/50 は、0.2 mm板厚の製品で0.77〜0.83 W/kg 程度にすぎず、製品板厚が薄いにもかかわらずこの程度の到達鉄損値では、やはり改良すべき余地が残されているといわざるを得ない。
【0019】
【課題を解決するための手段】
そこで、発明者らは、上記の新規知見を基に、再度、珪素鋼板の表面状態、さらにはその表面に被成する張力絶縁被膜について検討を行った。
また、その際、磁歪の圧縮応力特性の改善についても併せて検討した。
ここに、珪素鋼板の磁歪とは、鋼板を磁化した時に鋼板が伸縮振動する現象で、変圧器騒音の最も大きな原因となるものである。
【0020】
この磁歪挙動は、鋼板の磁化過程が90°磁壁移動および回転磁化を含むことに起因し、鋼板にかかる圧縮応力に応じて磁歪は増大する。変圧器の組み立て時には、不可避的に鋼板の圧縮応力が加わることから、予め鋼板に張力を与えておけば、磁歪の圧縮応力特性の面では有利である。勿論、鋼板に張力が付与されることは、方向性珪素鋼板の鉄損の改善にも有効に寄与する。
従来、方向性珪素鋼板は、2次再結晶前の脱炭・1次再結晶焼鈍時に鋼板表面に形成されるサブスケール(SiO2)と、MgO を主成分とする焼鈍分離剤との仕上げ焼鈍の際における高温反応によって形成されるフォルステライト質下地被膜とその上に重ねて被成されるリン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする張力絶縁被膜とによって張力が加えられ、磁歪特性の改善が図られていたのであるが、このような従来法では十分満足いくほどの磁歪特性の改善は望み得なかったのである。
【0021】
さて、上記の検討の結果、珪素鋼板の表面に、Siを活性状態で付着させ、引き続き含N非酸化性雰囲気で熱処理を施して、該鋼板の表面に極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成しておけば、その後は張力被膜として通常のリン酸塩系張力絶縁被膜を被成するだけで、鉄損を格段に低減させ得るだけでなく、磁歪の圧縮応力特性を効果的に向上させることができ、併せて生産能率の向上およびコストの低減も達成されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0022】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.板厚が0.05〜0.5 mmの仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、極薄のSiを含む窒化・酸化物層を有し、かつその上に重ねて張力絶縁被膜を有することを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板。
【0023】
2.上記1において、鋼板の地鉄表面に、圧延方向と交差する向きに2〜10mmの間隔で、幅:50〜500 μm 、深さ:0.1 〜50μm の線状の凹領域をそなえることを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板。
【0024】
3.上記1または2において、仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面が、平滑化処理を施した表面である超低鉄損一方向性珪素鋼板。
【0025】
4.上記1または2において、仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面が、平滑化処理を施さない、酸洗処理ままの表面である超低鉄損一方向性珪素鋼板。
【0026】
5.板厚が0.05〜0.5 mmの仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、Si化合物を含む溶液を塗布することによって微量のSiを活性状態で付着させたのち、常法に従って張力絶縁被膜を被成することにより、該張力絶縁被膜の形成と同時に、その下地被膜として極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成することを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。
【0027】
6.板厚が0.05〜0.5 mmの仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、Si化合物を含む溶液を塗布することによって微量のSiを活性状態で付着させたのち、含N非酸化性雰囲気中に曝すことにより、該鋼板の表面に極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成し、しかるのち常法に従って張力絶縁被膜を被成することを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。
【0028】
7.板厚が0.05〜0.5 mmの仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、Si化合物を含む溶液を塗布することによって微量のSiを活性状態で付着させたのち、含N非酸化性雰囲気中で短時間の熱処理を施して、該鋼板の表面に極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成し、ついで常法に従って張力絶縁被膜を被成することを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。
【0029】
8.上記5,6または7において、鋼板の地鉄表面に、圧延方向と交差する向きに2〜10mmの間隔で、幅:50〜500 μm 、深さ:0.1 〜50μm の線状の凹領域を設けたことを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明による成功が導かれるに至った経過について説明する。
実験1
C:0.068 wt%、Si:3.33wt%、Mn:0.067 wt%、Se:0.020 wt%、Sb:0.025 wt%、Al:0.020 wt%、N:0.0076wt%およびMo:0.013 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1350℃、4時間の加熱処理後、熱間圧延を施して板厚:2.0 mmの熱延板とした。この熱延板に 970℃、3分間の均一化焼鈍を施した後、1050℃の中間焼鈍を挟む2回の圧延を施して板厚:0.23mmの最終冷延板とした。
【0031】
その後、最終冷延板は次のように処理した。
▲1▼ この最終冷延板の表面に、アルキド系樹脂を主成分とするエッチングレジストインキをグラビアオフセット印刷により、非塗布部が圧延方向にほぼ直角に幅:200 μm 、間隔:4mmで線状に残存するように塗布したのち、200 ℃で3分間焼き付けた。このときのレジスト厚は2μm であった。このようにしてエッチングレジストを塗布した鋼板に、電解エッチングを施すことにより、幅: 200 μm 、深さ:20μm の線状の溝を形成し、ついで有機溶剤中に浸漬してレジストを除去した。このときの電解エッチングは、NaCl電解液中で電流密度: 10 A/dm2、処理時間:20秒の条件で行った。
▲2▼ 比較のため、▲1▼の処理を行わない最終冷延板も同時に用意した。
【0032】
その後、これら▲1▼および▲2▼の鋼板は、 840℃の湿H2中で脱炭・1 次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面に MgO(20%), Al2O3(75%), CaSiO3(5%) の組成になる焼鈍分離剤をスラリ−塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、 850℃から10℃/hの速度で1150℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1200℃の乾H2中で純化処理した。
【0033】
かくして得られた製品の表面被膜を除去し、ついで化学研磨により珪素鋼板の表面を平滑化したのち、以下に述べる3つの処理を施した。
(A) 珪素鋼板表面上に、マグネトロン・スパッタ法(PVD法の一手法)用いて約0.02μm 厚の極薄Si被膜を被成したのち、1000℃で10分間、N2(50%)+H2(50%)混合ガス中で処理した。その後、鋼板表面にコロイダルシリカとリン酸塩を主成分とする張力絶縁被膜(約2μm 厚)を被成し、 800℃で焼き付けた。
(B) 珪素鋼板の表面を、 950℃で10分間 SiCl4+N2+H2の混合ガス(CVD法)中で処理した。その後、鋼板表面にコロイダルシリカとリン酸塩を主成分とする張力絶縁被膜 (約2μm 厚) 被成し、 800℃で焼き付けた。
(C) 珪素鋼板を、SiCl4(0.5 mol/l)の水溶液中に80℃で10秒間浸漬した後、 900℃で10分間、N2(50%)+H2(50%)混合ガス中で処理した。その後、鋼板表面にコロイダルシリカとリン酸塩を主成分とする張力絶縁被膜 (約2μm 厚)を被成し、 800℃で焼き付けた。
【0034】
得られた各製品の磁気特性および密着性、さらにはX線光電子顕微鏡分光装置(X-ray Photoelectron Spectroscopy, XPS法) を用いて測定した絶縁被膜被成前における珪素鋼板表面のSi, O, N元素の分析値を、を表1に示す。
また、表1には、比較例として、▲1▼および▲2▼の方法で2次再結晶処理した後、製品の表面被膜を除去し、ついで化学研磨により一方向性珪素鋼板の表面を平滑化してから、鋼板表面にコロイダルシリカとリン酸塩を主成分とする張力絶縁被膜 (約2μm 厚) 被成し、 800℃で焼き付けた時の結果も、併せて示す。
【0035】
【表1】
Figure 0004300604
【0036】
表1に示した結果から明らかなように、珪素鋼板上に極薄のSiを被成した後、非酸化性雰囲気中で焼鈍処理を行って、珪素鋼板表面にSiを含む窒化・酸化物層(XPSの測定では、Si,N,Oが増加しているのが特徴で、非酸化性雰囲気で処理したにもかかわらずOの量も多く観察され、Siは酸素とも結合し易いことを示している) を形成し、ついでその上に張力絶縁被膜を被成した場合には、磁気特性および密着性ともに優れた超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造が可能であることを示している。
【0037】
上述したように、珪素鋼板の表面にSi膜を被成する方法として、(A) のPVD法、(B) のCVD法を採用した場合は、工業生産においてはコストアップの原因となるが、被膜厚は極薄くで済むのでその分従来よりもコストを低減することができる。
そして、ここで注目すべきは(C) の方法である。
すなわち、 (C)の方法は、SiCl4(0.5mol/l) の水溶液中に80℃で10秒間浸漬した後、 900℃で10分間、N2(50%)+H2(50%)混合ガス中で処理するだけで済むので、極めて安価に、しかも効率良く処理できる利点がある。
【0038】
なお、この種の従来技術として、特開昭60−131976号、特開平6−184762号および特開平9-78252号各公報において、研磨した珪素鋼板表面上に外部酸化型のSiO2膜の酸化層を形成させる方法が提案されている。
しかしながら、これらの手法の骨子は、珪素鋼板の有害なCを除去するために行われる脱炭・1次再結晶焼鈍時の湿H2中での処理によるSiO2を主成分とするサブスケ−ルの形成と類似の方法である。特に、このような鋼板の酸化処理を使用することによるSiO2を利用する手法は、珪素鋼板の鏡面化による鉄損低減効果が激殺されることが既に指摘されている。
【0039】
また、特開平5−279747号公報には、方向性電磁鋼板の表面に、コロイド状シリカと燐酸塩を主とする絶縁コーティングを施すに先立ち、下地皮膜として珪酸リチウム(Li2O・nSiO2)や珪酸ナトリウム(Na2O・nSiO2)等の水溶液(水ガラス)を塗布、焼き付けることからなる絶縁皮膜形成方法が提案されている。
しかしながら、この方法では、下地皮膜材料として用いられるSi化合物がSiO2のような酸化物形態であるため、鋼板表面との密着性、換言すると鋼板表面に対するバインダー効果が十分とはいい難く、そのため本発明ほど良好な被膜密着性ひいては鉄損改善効果を得ることができない。
【0040】
実験2
C:0.076 wt%、Si:3.42wt%、Mn:0.075 wt%、Se:0.020 wt%、Sb:0.023 wt%、Al:0.020 wt%、N:0.0075wt%およびMo:0.012 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1350℃、4時間の加熱処理後、熱間圧延を施して板厚:2.0 mmの熱延板とした。この熱延板に1000℃、3分間の均一化焼鈍を施した後、1020℃の中間焼鈍を挟む2回の圧延を施して板厚:0.23mmの最終冷延板とした。
【0041】
その後、最終冷延板は次のように処理した。
▲1▼ この最終冷延板の表面に、アルキド系樹脂を主成分とするエッチングレジストインキをグラビアオフセット印刷により、非塗布部が圧延方向にほぼ直角に幅:200 μm 、間隔:4mmで線状に残存するように塗布したのち、200 ℃で3分間焼き付けた。このときのレジスト厚は2μm であった。このようにしてエッチングレジストを塗布した鋼板に、電解エッチングを施すことにより、幅: 200 μm 、深さ:20μm の線状の溝を形成し、ついで有機溶剤中に浸漬してレジストを除去した。このときの電解エッチングは、NaCl電解液中で電流密度: 10 A/dm2、処理時間:20秒の条件で行った。
▲2▼ 比較のため、▲1▼の処理を行わない最終冷延板も同時に用意した。
【0042】
ついで、これらの鋼板に 840℃の湿H2中で脱炭・1 次再結晶焼鈍を施した後、▲1▼の鋼板については、鋼板表面に MgO(15%), Al2O3(75%), CaSiO3(10%) の組成になる焼鈍分離剤を、一方▲2▼の鋼板については、鋼板表面に MgOを主成分とする焼鈍分離剤をそれぞれスラリ−塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、850 ℃から12℃/hの速度で1150℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1220℃の乾H2中で純化処理した。
【0043】
その後、得られた各鋼板について、以下の処理を施した。
(a) ▲1▼の条件で処理した珪素鋼板表面の酸化被膜をHCl(10%)とH3PO4(8%)の混合酸洗液中で処理したのち、SiCl4(0.02 mol/l)の水溶液中に85℃で30秒間浸漬し、ついで鋼板表面にリン酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とする張力絶縁被膜 (約1.5 μm 厚)を被成(800 ℃)した。
(b) ▲1▼の条件で処理した珪素鋼板表面の酸化被膜をHCl(10%)で除去後、3%フッ酸と過酸化水素で化学研磨したのち、SiCl4(0.02mol/l)の水溶液中に85℃で30秒間浸漬し、ついで鋼板表面にリン酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とする張力絶縁被膜 (約1.5 μm 厚)を被成(800 ℃)した。
(c) ▲2▼の条件で処理したフォルステライト被膜付き珪素鋼板の表面に、リン酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とする張力絶縁被膜 (約1.5 μm 厚)を被成(800 ℃)した。
【0044】
かくして得られた珪素鋼板に 800℃で2時間の歪取り焼鈍を施して製品板とした。
各製品板の磁気特性について調査したところ、(a) B8 =1.91T,W17/50 =0.66 W/kg 、(b) B8 =1.91T,W17/50 =0.65 W/kg であり、従来材である(c) B8 =1.91T,W17/50 =0.73 W/kg に比べると、極めて良好な特性値が得られた。
【0045】
また、各製品板の磁歪の圧縮応力特性について調べた結果を、図1に示す。
同図に示したとおり、発明例(a), (b)では圧縮応力が 0.7 kg/mm2 まで増加しても磁気ひずみλPPの増加はほとんど見られなかったのに対し、従来材(c) では圧縮応力が 0.35 kg/mm2以上になると磁気ひずみλPPが急激に増加し、圧縮応力が 0.50 kg/mm2では磁気ひずみλPPは 3.2×10-6にも達する大きな値を呈するようになった。
【0046】
本発明に従い、張力絶縁被膜の被成に先立ち、極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成することによって磁歪の圧縮応力特性が改善される理由は次のとおりと考えられる。
すなわち、現行のフォルステライト質下地被膜を有する珪素鋼板は、図2(a) に示すとおり、鋼板の表面直下(約2〜3μm)に硫化物や窒化物からなる無数のアンカーが存在するため、磁壁の移動が阻害される。ゴス方位の2次再結晶焼鈍中に MgOと珪素鋼板表面状のサブスケール(SiO2)との固相反応によってフォルステライト質下地被膜を形成させた珪素鋼板は、上記したような無数のアンカーを存在させることによって地鉄との密着性を確保している。このため、圧縮応力を加えるほど珪素鋼板の磁気ひずみλPPは増大する。
【0047】
これに対し、本発明に従い、地鉄表面に極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成して強力なバインダー効果を付与した上で、絶縁被膜を強固に密着させた珪素鋼板は、磁壁の移動が容易なだけでなく、鋼板に直接張力を付与することができるので、磁歪の圧縮応力特性が効果的に改善されるのである。
なお、このような珪素鋼板に付与する引っ張り応力は、磁歪だけでなく、鉄損の改善にも有効であるのは言うまでもなく、特にゴス方位に強く集積した高磁束密度一方向性珪素鋼板の場合において、その効果は顕著である。
【0048】
【作用】
本発明の素材である含珪素鋼としては、従来公知の成分組成いずれもが適合するが、代表組成を掲げると次のとおりである。
C:0.01〜0.08wt%
Cは、0.01wt%より少ないと熱延集合組織抑制が不十分となって大きな伸長粒が形成されるため磁気特性が劣化し、一方0.08wt%より多いと脱炭工程で脱炭に時間がかかり経済的でないので、0.01〜0.08wt%程度とするのが好ましい。
【0049】
Si:2.0 〜4.0wt %
Siは、 2.0wt%より少ないと十分な電気抵抗が得られないため渦電流損失が増大して鉄損の劣化を招き、一方 4.0wt%より多いと冷延の際に脆性割れが生じ易くなるので、 2.0〜4.0 wt%程度の範囲とすることが好ましい。
【0050】
Mn:0.01〜0.2 wt%
Mnは、一方向性珪素鋼板の2次再結晶を左右する分散析出相としてのMnSあるいはMnSeを決定する重要な成分である。Mn量が0.01wt%を下回ると2 次再結晶を生じさせるのに必要なMnS等の絶対量が不足し、不完全2次再結晶を起こすと同時に、ブリスタ−と呼ばれる表面欠陥が増大する。一方、 0.2wt%を超えると、スラブ加熱等においてMnS等の解離固溶が行われたとしても、熱延時に析出する分散析出相が粗大化し易く、抑制剤として望まれる最適サイズ分布が損なわれて磁気特性が劣化するので、Mnは0.01〜0.2 wt%程度とすることが好ましい。
【0051】
S:0.008 〜0.1 wt%、Se:0.003 〜0.1 wt%
SおよびSeはいずれも、 0.1wt%以下、中でもSは 0.008〜0.1 wt%、またSeは 0.003〜0.1 wt%の範囲とすることが好ましい。というのは、これらが 0.1wt%を超えると熱間および冷間加工性が劣化し、一方それぞれ下限値に満たないとMnS、MnSeとしての1 次粒成長抑制機能に格別の効果を生じないからである。
その他、インヒビタ−として従来公知のAl, Sb, Cu, SnおよびB 等を複合添加しても、本発明の効果を妨げるものではない。
【0052】
次に、本発明に従う超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造工程について説明する。まず素材を溶製するには、LD転炉、電気炉、平炉、その他公知の製鋼炉を使用できるのは言うまでもなく、真空溶解やRH脱ガス処理を併用することもできる。
【0053】
本発明に従い、素材中に含有されるS、Seあるいはその他の1 次粒成長抑制剤を溶鋼中に微量添加する方法としては、従来公知の何れの方法を用いても良く、例えばLD転炉、RH脱ガス終了時あるいは造塊時の溶鋼中に添加することができる。
また、スラブ製造は、コスト低減、さらにはスラブ長手方向における成分あるいは品質の均一性等の経済的・技術的利点のため連続鋳造法の採用が有利ではあるが、従来の造塊スラブの使用を妨げるものではない。
【0054】
連続鋳造スラブは、スラブ中のインヒビタ−を解離・固溶させるために、1300℃以上の温度に加熱される。その後、このスラブは熱間粗圧延ついで熱間仕上圧延が施されて、通常厚み 1.3〜3.3 mm程度の熱延板とされる。
【0055】
次に熱延板は、必要に応じ 850〜1100℃の温度範囲の中間焼鈍を挟み2回の冷間圧延を実施して最終板厚とするが、高磁束密度で低鉄損の特性を有する製品を得るには最終冷延率(通常55〜90%)に注意を払う必要がある。
このとき、珪素鋼板の渦電流損をできるかぎり小さくする観点から、製品厚の上限は0.5 mmに、またヒステリシス損の弊害を避けるために板厚の下限は0.05mmに限定した。
【0056】
鋼板表面に線状の溝を形成する場合には、この最終冷延を終え製品板厚となった鋼板に対して行うのがとりわけ有利である。
すなわち、最終冷延板または2次再結晶前後の鋼板の表面に、圧延方向と交差する向きに2〜10mmの間隔で、幅:50〜500 μm 、深さ:0.1 〜50μm の線状の凹領域を形成させるのである。
ここに、線状凹領域の間隔を2〜10mmの範囲に限定したのは、2mmに満たないと鋼板凹凸があまりにも顕著で磁束密度が低下し経済的でなくなり、一方10mmを超えると磁区細分化効果が小さくなるからである。
また、凹領域の幅が50μm に満たないと反磁界効果を利用することが困難となり、一方 500μm を超えると磁束密度が低下し経済的でなくなるので、凹領域の幅は50〜500 μm の範囲に限定した。
さらに、凹領域の深さが 0.1μm に満たないと反磁界効果を効果的に利用することができず、一方50μm を超えると磁束密度が低下し経済的でなくなるので、凹領域の深さは 0.1〜50μm の範囲に限定した。
なお、線状凹領域の形成方向は、圧延方向と直角方向すなわち板幅方向とするのが最適であるが、板幅方向に対し±30°以内であればほぼ同様の効果を得ることができる。
【0057】
さらに、線状凹領域の形成方法としては、最終冷延板の表面に、印刷によりエッチングレジストを塗布、焼き付けた後、エッチング処理を施し、しかるのち該レジストを除去する方法が、従来のナイフの刃先やレーザー等を用いる方法に比較して、工業的に安定して実施できる点、および引張り張力により一層効果的に鉄損を低減できる点で有利である。
【0058】
以下、上記のエッチングによる線状溝形成技術の典型例について具体的に説明する。
最終冷延板の表面に、アルキド系樹脂を主成分とするエッチングレジストインキをグラビアオフセット印刷により、非塗布部が圧延方向にほぼ直角に幅:200 μm 、間隔:4mmで線状に残存するように塗布したのち、 200℃で約20秒間焼き付ける。このとき、レジスト厚は2μm 程度とする。このようにしてエッチングレジストを塗布した鋼板に、電解エッチングまたは化学エッチングを施すことにより、幅:200 μm 、深さ:20μm の線状の溝を形成し、ついで有機溶剤中に浸漬してレジストを除去する。この時の電解エッチング条件は、NaCl電解液中で電流密度:10 A/dm2、処理時間:20秒程度、また化学エッチング条件は、HNO3液中で浸漬時間:10秒間程度とすれば良い。
【0059】
ついで、鋼板には脱炭焼鈍が施される。この焼鈍は、冷延組織を1次再結晶組織にすると同時に、最終焼鈍(仕上焼鈍とも呼ばれる)で{110}〈001〉方位の2次再結晶粒を発達させる場合に有害なCを除去することを目的とし、例えば 750〜880 ℃の湿水素中で行う。
【0060】
最終焼鈍は、{110}〈001〉方位の2次再結晶粒を十分発達させるために施されるもので、通常箱焼鈍によって直ちに1000℃以上に昇温し、その温度に保持することによって行われる。この最終焼鈍は通常、マグネシア等の焼鈍分離剤を塗布して行い、表面にフォルステライトと呼ばれる下地被膜も同時に形成する。
しかしながら、この発明では、フォルステライト下地被膜を形成させたとしても、次工程でこの下地被膜を除去するため、かようなフォルステライト下地被膜を形成させないような焼鈍分離剤の方が有利である。すなわち、フォルステライト下地被膜を形成させる MgOの含有比率を低減し(50%以下)、代わってかかる被膜を形成させない Al2O3, CaSiO3, PbCl3 等の含有比率を高く(50%以上)した焼鈍分離剤が有利である。
【0061】
この発明において{110}〈001〉方位に高度に集積した2次再結晶組織を発達させるためには、 820℃から900 ℃の低温で保定焼鈍する方が有利であるが、その他、例えば 0.5〜15℃/h程度の昇温速度の徐熱焼鈍でも良い。
【0062】
この純化焼鈍後に、鋼板表面のフォルステライト下地被膜や酸化物被膜は、公知の酸洗などの化学的方法や切削、研磨などの機械的方法またはそれらの組み合わせにより除去して、鋼板表面を平滑化する。
すなわち、鋼板表面の種々の被膜を除去した後、化学研磨、電解研磨等の化学研磨やバフ研磨等の機械的研磨あるいはそれらの組み合わせなど従来の手法により、中心線平均粗さRaで 0.4μm 以下程度まで鋼板表面を平滑化する。
【0063】
なお、本発明では、珪素鋼板の表面を必ずしも平滑化する必要はない。従ってこの場合には、コストアップを伴う平滑化処理を行わなくても、酸洗処理のみで十分な鉄損低減効果を発揮できるという利点がある。とはいえ、やはり平滑化処理を施すことが有利であることに変わりはない。
また、この段階で鋼板表面に凹形状の溝を導入することもできる。溝の導入方法は、最終冷延板または2次再結晶前後の鋼板の表面に施す場合と同じ方法を用いれば良い。
【0064】
上記の処理後、鋼板表面に、極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成する。
かような極薄のSiを含む窒化・酸化物層の形成方法として最適なのが、鋼板表面にSi化合物を含む溶液たとえば SiCl4を含む希薄水溶液を塗布して、微量のSiを活性状態で付着させたのち、非酸化性雰囲気中で短時間の熱処理を施す方法である。
この方法によれば、真空中、高プラズマ雰囲気下での処理のような高コストで長時間の処理を必要としないので、極めて安価かつ短時間のうちに所望の被膜を得ることができる。
【0065】
ここに、上記したSiの窒化・酸化層を形成するための短時間の熱処理における雰囲気としては、窒化の促進を図るために含N非酸化性雰囲気とする必要がある。特に好適には(N2+H2)混合ガス雰囲気である。
また、処理温度は80〜1200℃程度(好ましくは 500〜1100℃程度)、処理時間は1〜100 分間程度(好ましくは3〜30分間程度)とすることが好ましい。
【0066】
次に好適なのが、鋼板を、Si化合物を含む溶液中に浸漬し、その表面に微量のSiを活性状態で付着させた後、含N非酸化性雰囲気中に暴露する方法である。
かような浸漬処理は、通常90℃前後の浴温度で実施されることから、浸漬後、含N非酸化性雰囲気中に曝すだけでも、鋼板表面には、極薄のSiを含む窒化・酸化物層が形成されるのである。
【0067】
図3に、仕上焼鈍後、化学研磨によって表面を平滑化した化学研磨材およびその後 SiCl4溶液(90℃)中に浸漬したのちN雰囲気中に曝した SiCl4処理材について、SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)により、表層部のN濃度を測定した結果を比較して示す。
同図から明らかなように、鋼板を SiCl4溶液中に浸漬し、その後にN雰囲気中に曝すだけでも、鋼板表面には、化学研磨材に比べると格段に高いN濃化層が形成されている。
【0068】
次に、図4に、上記の方法によって形成されたSiを含む窒化・酸化物層における酸化物組成を、 XPS法で測定した結果を示す。
同図から明らかなように、この方法によって形成される酸化物は、主にFeSiO3(Clinoferrosilite)とFe2SiO4(Fayalite)からなっていることが注目される(なお、厳密には、FeSiO3の生成量の方がFe2SiO4 よりも多い)。
ここに、上記のような酸化物は、次式
SiCl4 + 2H2O + 2FeO → Fe2SiO4+ 4HCl
のような反応によって形成されるものと考えられる。
【0069】
このように、上記の方法によれば、Si酸化物を60〜100 ℃程度の低温で生成させることが可能であることが注目される。
そして、上記したような酸化物は、従来からのSiO2のサブスケールとは異なり、極めて緻密であり、かような緻密な酸化物が微細な窒化物と共に生成するために、従来に比べると格段に密着性が向上するものと考えられる。
【0070】
さらに、本発明では、上記したような短時間の熱処理や含N非酸化性雰囲気中での暴露処理は必ずしも必要とはしない。
というのは、このような短時間の熱処理を施さなくても、その後の絶縁被膜形成時の熱処理によって、鋼板表面に上記したようなSiを含む窒化・酸化物層が優先的に形成されるからである。
【0071】
ここに、Siを含む窒化・酸化物層の厚みは、 0.001〜0.1 μm 程度とするのが好ましい。というのは、膜厚が 0.001μm に満たないと十分な密着性ひいては鉄損低減効果が得られず、一方 0.1μm を超えるとSi量が多くなりすぎるため、満足のいくSiの窒化・酸化物層を作製することが困難となり、その結果磁気特性のみならず被膜密着性の向上が望めなくなるからである。
また、上記の膜厚にするには、鋼板表面に対するSi化合物を含む溶液の塗布量は、その濃度に影響されるけれども、だいたい 0.001〜2.0 g/m2程度とするのが好ましい。より望ましくは0.01〜1.0 g/m2の範囲である。
塗布方法としては、通常のロールコーター等による塗布の他、鋼板そのものを溶液中に漬ける浸漬方法、さらには電解処理法など公知の方法いずれもが使用できる。処理温度は、常温でもかまわないが、より有効に付着させるためには50〜100 ℃程度の温溶液中で処理する方が好ましい。
【0072】
さらに、Si化合物としては、Siを活性状態で付着できるものならいずれもが有利に適合し、特に好適な化合物は SiCl4である。
このように、本発明においては、Siを活性状態で鋼板の表面に付着させる必要があることから、用いるSi化合物としては、すでに活性を失っている酸化物や窒化物形態のものは除外される。
【0073】
その他、PVDやCVDを用いてSiを薄く被成したのち(Si量:0.001 〜0.2 g/m2程度)、同じく非酸化性雰囲気中で短時間の熱処理を施しても良い。
この場合は、コストの上昇が避けられないが、被膜厚は極薄くで済むのでその分従来よりもコストを低減することができる。
ここに、PVDとしては、前述したマグネトロン・スパッタ法の他、蒸着法やイオンプレーティング法なども有利に適合する。また、その際、Si膜は結晶質であっても非晶質であってもどちらでも良く、要は、NやOと結合可能な活性状態になっていれば良い。
【0074】
その後、珪素鋼板の表面に、常法に従いリン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする張力絶縁被膜用コーティング液を塗布した後、 500〜1000℃で焼き付けて、張力絶縁被膜(膜厚:0.5 〜5μm 厚)を被成する。
ここに、リン酸塩とコロイダルシリカを主成分とする張力絶縁被膜用コーティング液としては、例えば特公昭53-28375号公報に開示のような、コロイド状シリカ:4〜16wt%、リン酸アルミニウム:3〜24wt%、無水クロム酸および/またはクロム酸塩:0.2 〜4.5 wt%を添加したコ−ティング液や、特公昭56-52117号公報に開示のような、コロイド状シリカ:7〜24wt%、リン酸マグネシウム:5〜30wt%(ただし、リン酸マグネシウムとコロイド状シリカとのモル比:20/80〜30/70)、さらに必要に応じて無水クロム酸、クロム酸塩および/または重クロム酸塩:0.01〜5wt%を添加したコ−ティング液が有利に適合する。
【0075】
【実施例】
実施例1
C:0.078 wt%, Si:3.45wt%, Mn:0.076 wt%, Se:0.021 wt%, Sb:0.025 wt%, Al:0.024 wt%, N:0.0073wt%およびMo:0.012 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1350℃で4時間の加熱処理後、熱間圧延を施して厚み:2.2 mmの熱延板とした。ついで1000℃の均一化焼鈍を施した後、1050℃の中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して0.23mm厚の最終冷延板とした。
ついで、 850℃の湿H2中で脱炭・1次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面にMgO (20%), Al2O3(70%), CaSiO3(10%)の組成になる焼鈍分離剤をスラリ−塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、 850℃から12℃/hの速度で1180℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1220℃の乾H2中で純化処理を施した。
【0076】
かくして得られた珪素鋼板の表面の酸化物被膜を除去した後、▲1▼化学研磨による平滑化処理、▲2▼10%HClによる酸洗処理を施した。
ついで、珪素鋼板を、SiCl4(0.3 mol/l)の水溶液(80℃)中に10分間浸漬した後、 950℃で10分間、N2(50%)+H2(50%) 混合ガス中で処理した。その後、鋼板表面にコロイダルシリカとリン酸マグネシウムを主成分とする張力絶縁被膜 (約2μm 厚) を被成し、 800℃で焼き付け処理を行った。
【0077】
かくして得られた製品の磁気特性、密着性および磁歪の圧縮応力特性は次のとおりであった。
▲1▼平滑化処理を施した場合
Figure 0004300604
▲2▼酸洗処理を施した場合
Figure 0004300604
【0078】
なお、比較のため、 850℃の湿H2中で脱炭・1次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面にMgO を主成分とする焼鈍分離剤をスラリ−塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、 850℃から10℃/hの速度で1180℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させたのち、1200℃の乾H2中で純化処理を施し、その後さらにフォルステライト質下地被膜の上にコロイダルシリカとリン酸マグネシウムを主成分とする張力絶縁被膜 (約2μm 厚) を被成し、 800℃で焼き付け処理を施して得た方向性珪素鋼板の磁気特性、密着性および磁歪の圧縮応力特性について調べた結果は、次のとおりであった。
Figure 0004300604
【0079】
実施例2
C:0.066 wt%, Si:3.49wt%, Mn:0.072 wt%, Se:0.020 wt%, Sb:0.025 wt%, Al:0.022 wt%, N:0.0068wt%およびMo:0.012 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1340℃で5時間の加熱処理後、熱間圧延を施してて厚み:2.0 mmの熱延板とした。ついで 950℃の均一化焼鈍を施した後、1050℃の中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して0.23mm厚の最終冷延板とした。
ついで、最終冷延板の表面に、アルキド系樹脂を主成分とするエッチングレジストインキをグラビアオフセット印刷により、非塗布部が圧延方向とほぼ直角な方向に幅:200 μm 、圧延方向の間隔:4mmで線状に残存するように塗布したのち、200 ℃で約20秒間焼付けた。このときのレジスト厚は2μm であった。このようにしてエッチングレジストを塗布した鋼板に、電解エッチングを施すことにより、幅:200 μm 、深さ:20μm の線状の溝を形成し、ついで有機溶剤中に浸漬してレジストを除去した。この時の電解エッチングは、NaCl電解液中で電流密度:10 A/dm2、処理時間:20秒間の条件で行った。
【0080】
その後、 840℃の湿H2中で脱炭・1次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面にMgO (25%), Al2O3(70%), CaSiO3(5%) の組成になる焼鈍分離剤をスラリ−塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、 850℃から10℃/hの速度で1150℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1200℃の乾H2中で純化処理を施した。
かくして得られた珪素鋼板の表面の酸化物被膜を除去した後、化学研磨により一方向性珪素鋼板の表面を平滑化した。
ついで、珪素鋼板を、SiCl4(0.5 mol/l)の水溶液(80℃)中に10秒間浸漬した後、 900℃で10分間、N2(50%)+H2(50%) 混合ガス中で処理した。その後、鋼板表面にコロイダルシリカとリン酸塩を主成分とする張力絶縁被膜 (約2μm 厚) を被成し、 800℃で焼き付け処理を行った。
【0081】
かくして得られた製品の磁気特性および密着性は次のとおりであった。
磁気特性 B8 : 1.91 T
17/50 : 0.59 W/kg
密着性 直径:20mmの丸棒上での 180°曲げを行っても剥離が無く、良好であった。
【0082】
また、化学研磨をせず、酸洗処理ままの鋼板の表面に、上記と同様にして、極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成したのち、リン酸塩系の張力絶縁被膜を被成して得た製品の磁気特性および密着性は次のとおりであった。
磁気特性 B8 : 1.92 T
17/50 : 0.64 W/kg
密着性 直径:20mmの丸棒上での 180°曲げを行っても剥離が無く、良好であった。
【0083】
実施例3
C:0.044 wt%, Si:3.39wt%, Mn:0.073 wt%, Se:0.020 wt%, Sb:0.025 wt%およびMo:0.012 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1340℃で3時間加熱処理後、熱間圧延を施して厚み:2.4 mmの熱延板とした。ついで、 900℃の均一化焼鈍後、 950℃の中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して0.23mm厚の最終冷延板とした。
その後、最終冷延板の表面に、アルキド系樹脂を主成分とするエッチングレジストインキをグラビアオフセット印刷により、非塗布部が圧延方向とほぼ直角な方向に幅:200 μm 、圧延方向の間隔:4mmで線状に残存するように塗布したのち、200 ℃で約20秒間焼付けた。このときのレジスト厚は2μm であった。このようにしてエッチングレジストを塗布した鋼板に、電解エッチングを施すことにより、幅:200 μm 、深さ:20μm の線状の溝を形成し、ついで有機溶剤中に浸漬してレジストを除去した。この時の電解エッチングは、NaCl電解液中で電流密度:10 A/dm2、処理時間:20秒間の条件で行った。
【0084】
ついで、840 ℃の湿H2中で脱炭・1次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面にMgO (25%), Al2O3(70%), CaSiO3(5%) の焼鈍分離剤をスラリ−塗布し、ついで 850℃で50時間の保定焼鈍によりゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1200℃の乾H2中で純化処理を施した。
かくして得られた珪素鋼板の表面の酸化物被膜を除去した後、化学研磨により一方向性珪素鋼板の表面を平滑化した。さらにその後マグネトロンスパッタ法を用いて、Siを0.05μm 厚被成し、1000℃で15分間、H2(50%)+N2(50%) 混合雰囲気中で処理した後、鋼板表面上にコロイダルシリカとリン酸塩を主成分とする張力絶縁被膜 (約2μm 厚) 被成し、 800℃で焼き付け処理を行った。
【0085】
かくして得られた製品の磁気特性および密着性は次のとおりであった。
磁気特性 B8 : 1.88 T
17/50 : 0.66 W/kg
密着性 直径:20mmの丸棒上での 180°曲げを行っても剥離が無く、良好であった。
【0086】
また、化学研磨をせず、酸洗処理ままの鋼板の表面に、上記と同様にして、極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成したのち、リン酸塩系の張力絶縁被膜を被成して得た製品の磁気特性および密着性は次のとおりであった。
磁気特性 B8 : 1.88 T
17/50 : 0.68 W/kg
密着性 直径:20mmの丸棒上での 180°曲げを行っても剥離が無く、良好であった。
【0087】
実施例4
C:0.073 wt%, Si:3.38wt%, Mn:0.078 wt%, Se:0.020 wt%, Sb:0.025 wt%, Al:0.020 wt%, N:0.0077wt%およびMo:0.012 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1340℃で5時間の加熱処理後、熱間圧延を施して厚み:2.3 mmの熱延板とした。ついで1000℃の均一化焼鈍を施した後、1050℃の中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して0.23mm厚の最終冷延板とした。
ついで、 840℃の湿H2中で脱炭・1次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面にMgO (20%), Al2O3(50%), CaSiO3(10%), PbCl2(20%)の組成になる焼鈍分離剤をスラリ−塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、 850℃から12℃/hの速度で1180℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1220℃の乾H2中で純化処理を施した。
【0088】
かくして得られた珪素鋼板の表面の酸化物被膜を除去した後、▲1▼化学研磨による平滑化処理、▲2▼10%HClによる酸洗処理を施した。
ついで、珪素鋼板を、SiCl4(0.2 mol/l)の水溶液(85℃)中に 0.5分間浸漬した後、リン酸塩とクロム酸を主成分とする絶縁コーティング処理液、ついでコロイダルシリカとリン酸塩を主成分とする張力絶縁コーティング処理液を塗布し、800 ℃で焼き付けることによって、合計厚み:約 2.0μm (0.5μm +1.5 μm)の二層張力絶縁被膜を被成した。
【0089】
かくして得られた製品の磁気特性および密着性は次のとおりであった。
▲1▼平滑化処理を施した場合
磁気特性 B8 : 1.94 T
17/50 : 0.71 W/kg
密着性 直径:20mmの丸棒上での 180°曲げを行っても剥離が無く、良好であった。
▲2▼酸洗処理を施した場合
磁気特性 B8 : 1.94 T
17/50 : 0.73 W/kg
密着性 直径:20mmの丸棒上での 180°曲げを行っても剥離が無く、良好であった。
【0090】
実施例5
C:0.076 wt%, Si:3.41wt%, Mn:0.078 wt%, Se:0.020 wt%, Sb:0.025 wt%, Al:0.020 wt%, N:0.0072wt%およびMo:0.012 wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1340℃で5時間の加熱処理後、熱間圧延を施してて厚み:2.0 mmの熱延板とした。ついで 950℃の均一化焼鈍を施した後、1050℃の中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して0.23mm厚の最終冷延板とした。
ついで、最終冷延板の表面に、アルキド系樹脂を主成分とするエッチングレジストインキをグラビアオフセット印刷により、非塗布部が圧延方向とほぼ直角な方向に幅:200 μm 、圧延方向の間隔:4mmで線状に残存するように塗布したのち、200 ℃で約20秒間焼付けた。このときのレジスト厚は2μm であった。このようにしてエッチングレジストを塗布した鋼板に、電解エッチングを施すことにより、幅:200 μm 、深さ:20μm の線状の溝を形成し、ついで有機溶剤中に浸漬してレジストを除去した。この時の電解エッチングは、NaCl電解液中で電流密度:10 A/dm2、処理時間:20秒間の条件で行った。
【0091】
その後、 840℃の湿H2中で脱炭・1次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面にMgO (25%), Al2O3(70%), CaSiO3(5%) の組成になる焼鈍分離剤をスラリ−塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、 850℃から10℃/hの速度で1150℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1200℃の乾H2中で純化処理を施した。
かくして得られた珪素鋼板の表面の酸化物被膜を除去した後、化学研磨により一方向性珪素鋼板の表面を平滑化した。
ついで、真空グロ−ボックスを用いて、このボックス中にN2 ガスを流入しながら、珪素鋼板を、SiCl4(0.8 mol/l)の水溶液(90℃)中に10秒間浸漬した後、窒素雰囲気中で5秒間暴露処理した。この方法を3回連続して処理した後、鋼板表面にコロイダルシリカとリン酸塩を主成分とする張力絶縁被膜 (約2μm 厚) を被成し、 820℃で焼き付け処理を行った。
【0092】
かくして得られた製品の磁気特性および密着性は次のとおりであった。
磁気特性 B8 : 1.91 T
17/50 : 0.58 W/kg
密着性 直径:20mmの丸棒上での 180°曲げを行っても剥離が無く、良好であった。
【0093】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、従来材に比較して鉄損が格段に優れ、かつ磁歪特性にも優れた超低鉄損一方向性珪素鋼板を、極めて安価にしかも高生産性の下で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】珪素鋼板の磁歪特性を発明例と従来例とで比較して示したグラフである。
【図2】 (a) は現行の一方向性珪素鋼板、(b) は本発明に従い極薄のSiを含む窒化・酸化物の上に張力絶縁被膜を被成した一方向性珪素鋼板の表面近傍の断面を比較して示した模式図である。
【図3】化学研磨材と SiCl4処理材の表面N濃度を比較して示したグラフである。
【図4】 Siを含む窒化・酸化物層中の酸化物組成を示す、 XPS測定結果を示した図である。

Claims (8)

  1. 板厚が0.05〜0.5 mmの仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、極薄のSiを含む窒化・酸化物層を有し、かつその上に重ねて張力絶縁被膜を有することを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板。
  2. 請求項1において、鋼板の地鉄表面に、圧延方向と交差する向きに2〜10mmの間隔で、幅:50〜500 μm、深さ:0.1〜50μm の線状の凹領域をそなえることを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板。
  3. 請求項1または2において、仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面が、平滑化処理を施した表面である超低鉄損一方向性珪素鋼板。
  4. 請求項1または2において、仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面が、平滑化処理を施さない、酸洗処理ままの表面である超低鉄損一方向性珪素鋼板。
  5. 板厚が0.05〜0.5 mmの仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、Si化合物を含む溶液を塗布することによって微量のSiを活性状態で付着させたのち、常法に従って張力絶縁被膜を被成することにより、該張力絶縁被膜の形成と同時に、その下地被膜として極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成することを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。
  6. 板厚が0.05〜0.5 mmの仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、Si化合物を含む溶液を塗布することによって微量のSiを活性状態で付着させたのち、含N非酸化性雰囲気中に曝すことにより、該鋼板の表面に極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成し、しかるのち常法に従って張力絶縁被膜を被成することを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。
  7. 板厚が0.05〜0.5 mmの仕上焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、Si化合物を含む溶液を塗布することによって微量のSiを活性状態で付着させたのち、含N非酸化性雰囲気中で短時間の熱処理を施して、該鋼板の表面に極薄のSiを含む窒化・酸化物層を形成し、ついで常法に従って張力絶縁被膜を被成することを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。
  8. 請求項5,6または7において、鋼板の地鉄表面に、圧延方向と交差する向きに2〜10mmの間隔で、幅:50〜500 μm、深さ:0.1〜50μm の線状の凹領域を設けたことを特徴とする超低鉄損一方向性珪素鋼板の製造方法。
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