JP2007046195A - 炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法および極細炭素繊維の製造方法 - Google Patents

炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法および極細炭素繊維の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 耐炎化工程の通過性に優れ、かつ炭素化工程での環境負荷が低減でき、さらに炭素化することにより極細炭素繊維の集合体を取り扱い性に優れる長繊維が得られる炭素繊維前駆体繊維、および炭素繊維前駆体繊維の生産性に優れた、環境負荷の少ない製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリアクリロニトリル系共重合体からなり、平均直径が1μm未満のポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体からなる連続糸であって、該連続糸中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率が80重量%以上98重量%未満であり、かつ連続糸の直径が30μm以下である炭素繊維前駆体繊維、ならびにポリアクリロニトリル系共重合体30重量%以下と溶媒可溶性重合体70重量%以上を混合させて紡糸を行い、得られる繊維から溶媒を用いて溶媒可溶性重合体を溶出させる炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリアクリロニトリル系極細繊維集合体からなる炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法および極細炭素繊維の製造方法に関する。
従来から気相成長炭素繊維として直径が100nm前後から1000nm前後のいわゆるカーボンナノファイバーが開発されている。しかし気相法では成長方向の制御ができず、得られる炭素繊維を一方向に配列させることは困難である。このため得られる炭素繊維は短繊維が絡み合った粒子状であり、使用時の取り扱いが困難であるという問題があった。さらに気相法は気相のカーボンを原料として製造する方法であるため、生産性が低いという問題もあった。
この問題に対し、炭素繊維前駆体を紡糸し、これを焼成することでカーボンナノファイバーを連続した繊維として得る、いわゆる紡糸法が提案されている。この方法では得られる炭素繊維のアスペクト比が高く、かつ繊維軸方向に配向しており、さらに連続した繊維として得られるため取り扱い性に優れ、生産性も高いという利点がある。
その手法として、熱分解性ポリマーがマトリックス(海)相、アクリロニトリル系ポリマーが島相となるようブレンドされた前駆体繊維を得て、これを耐炎化・炭素化することでフィラメント状カーボンナノファイバーの集合体を得る手法が開示されている(特許文献1参照)。しかしこの手法では、海相を形成している熱分解性ポリマーを伴ったまま耐炎化を行うため耐炎化温度を上げすぎると熱分解性ポリマーの熱軟化により繊維が溶断し、また温度を下げると耐炎化に膨大な時間を要するという相反する課題があり両者を満足することは非常に困難であった。また熱分解性ポリマーのガス透過性が低いと内部のアクリロニトリル系ポリマーの耐炎化が十分に進行しないという課題があった。さらに炭素化工程で熱分解性ポリマーが消失するため歩留まりが悪く、また環境負荷も大きいという課題があった。
この問題に対し、海成分である水溶性樹脂と島成分である非水溶性樹脂からなる海島型複合繊維から、水溶性樹脂を水抽出によって除去した後、酸化性ガスを含む雰囲気下で不融化処理を行い、次いで炭化処理する手法が開示されている(特許文献2参照)。この手法は易炭化性成分である島成分のみを残して炭化させるという点で優れているが、連続した長繊維で張力をかけて不融化処理を行う場合には島成分のみの集合体では繊維同士が素抜けてしまい、糸切れが発生するという問題があった。
特開2003−336130号公報(第1〜2頁) 特開2005−097792号公報
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決できる炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法を提供すること、さらに極細炭素繊維の製造方法を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討を行った結果、平均直径が1μm未満のポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体からなる連続糸に、ポリアクリロニトリル系極細繊維以外の成分を特定量含ませることにより、上記した課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の構成を要旨とするものである。
本発明の第1の発明は、カルボン酸系モノマー、アクリルアミド系モノマーの少なくとも1種以上のモノマーを共重合させたポリアクリロニトリル系共重合体からなり、平均直径が1μm未満のポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体からなる連続糸であって、該連続糸中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率が80重量%以上98重量%未満であり、かつ連続糸の直径が30μm以下であることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維である。
本発明の第2の発明は、カルボン酸系モノマー、アクリルアミド系モノマーの少なくとも1種以上のモノマーを共重合させたポリアクリロニトリル系共重合体30重量%以下と溶媒可溶性重合体70重量%以上を混合させて紡糸を行い、得られる繊維から溶媒を用いて溶媒可溶性重合体を溶出させることにより上記した炭素繊維前駆体繊維を得る製造方法である。
本発明の第3の発明は上記した炭素繊維前駆体繊維を酸化性雰囲気中で耐炎化処理を行った後、不活性ガス雰囲気中で炭素化処理を行うことを特徴とする極細炭素繊維の製造方法である。
本発明の炭素繊維前駆体繊維は耐炎化工程の通過性に優れ、かつ炭素化工程での環境負荷が低減でき、さらに炭素化することにより極細炭素繊維を取り扱い性に優れる連続糸として得ることができる。
また本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法により、そのような繊維を生産性に優れ、環境負荷の少ない方法で得ることができる。
さらに本発明の極細炭素繊維の製造方法により、極細炭素繊維を安定して生産性に優れた方法で得ることができる。
以下、本発明の炭素繊維前駆体繊維について詳細に説明する。
本発明の前駆体繊維に用いるポリアクリロニトリル系共重合体はアクリロニトリルモノマーと、カルボン酸系モノマー、アクリルアミド系モノマーの少なくとも1種以上のモノマーとを共重合させたものである。このような共重合ポリマーを用いることで耐炎化工程での環化が進行しやすくとなる。
カルボン酸系モノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などの他、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの代表されるメタクリル酸エステル類が上げられる。
またアクリルアミド系モノマーとしてはアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドが上げられる。なお、本発明においてはカルボン酸系モノマーとアクリルアミド系モノマーの両者を併用しても構わない。
カルボン酸系モノマー、アクリルアミド系モノマーの共重合比は0.1〜10mol%が適度な環化を促進するという目的で好ましい。
また、これら以外にもスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどの不飽和モノマー類、さらにp−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩などを含んでも構わない。
ポリアクリロニトリル系共重合体の重量平均分子量は1万〜40万であることが得られる繊維の配向制御および耐炎化・炭素化工程の通過性向上の観点から好ましく、10万〜20万が可紡性の観点からより好ましい。なお、ここで言う重量平均分子量とは実施例記載の手法により求めた重量平均分子量を指す。
本発明の炭素繊維前駆体繊維を構成するポリアクリロニトリル系極細繊維の直径は1μm未満であり、好ましくは500nm未満、さらに好ましくは300nm未満である。1μm未満とすることで耐炎化および炭素化工程の後に極細炭素繊維やカーボンナノファイバーの集合体繊維を得ることができる。なお直径の計測は以下の手法で行う。連続糸を包埋して繊維軸に対し垂直に切り、切片をサンプリングした後、市販の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、繊維断面積の1/10以上の面積が入ったTEM写真の画像処理から円相当径を算出するか、もしくは写真からの読み取りから極細繊維の任意の50本の直径を測定し平均する。繊維直径の変動係数の百分率(以下CV%)は特に規定されるものではないが、100%以下が好ましく、より好ましくは50%以下である。なお本発明のポリアクリロニトリル系極細繊維はアスペクト比が100以上と大きいため、切削場所による直径計測の誤差は無視できる。
本発明の炭素繊維前駆体繊維はポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体からなる連続糸である。連続糸は極細繊維同士の絡み合いや凝集力、およびわずかな固着により一体化しており、さらに連続糸中にポリアクリロニトリル系極細繊維以外の成分が特定量存在することにより軽度の張力であれば切断することがなく、実質的に1本の連続した繊維として取り扱うことができる。
本発明の連続糸の直径は30μm以下である。30μm以下とすることで耐炎化、炭素化の工程で内部まで均一に処理することが可能となる。連続糸の直径は構成するポリアクリロニトリル系極細繊維が一体化して連続糸を形成する必要があるため1μm以上が好ましい。なお本発明の連続糸は極細繊維の集合体であるため、通常の炭素繊維前駆体繊維よりもやや太い直径でも内部まで均一に処理することが可能である。本発明で言う連続糸の直径は連続糸側面の射影の幅であり、例えば光学顕微鏡を用いて測定することができる。
本発明における連続糸中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率は80重量%以上98重量%未満である。連続糸中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量比をこの範囲に保ち、ポリアクリロニトリル系極細繊維以外の成分を含むことで、耐炎化工程において張力をかけながら連続糸を走行させることが出来る。なお炭素繊維としての純度を高めるためにはポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率は85重量%以上が好ましく、90重量%以上98重量%未満がより好ましい。なおここで言う連続糸中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率とは実施例記載の方法により求められる重量分率を指す。
連続糸に含まれるポリアクリロニトリル系極細繊維以外の成分としては連続糸としての強度を高めるための樹脂などがあり、例えばポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニル類、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸及びそのエステル化物などのポリアクリル類、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリアルキレングリコールなどのポリエーテル類、ポリアミド類の他、それぞれの共重合体を用いることができる。また耐炎化、炭素化工程での融着を防ぐ目的で油剤を含んでも構わない。油剤の組成は公知のものが使用でき、例えばアミノ変成シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーン、ポリアルキレングリコールおよびその混合物などがある。さらに発明の主旨を損ねない範囲でエポキシ化合物などの架橋剤や滑剤、制電剤などを含んでも構わない。
本発明の炭素繊維前駆体繊維は連続糸であり、連続していることで公知の炭素繊維前駆体繊維と同様に適度な張力を保ちつつ、走行させながらの連続処理が可能となる。なお本発明の連続糸は1本で用いても、公知の炭素繊維前駆体繊維と同様に複数本の連続糸が集合したマルチフィラメントとして用いても構わない。
次に、本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法について詳細に説明する。
本発明で用いるポリアクリロニトリル系共重合体はアクリロニトリルモノマーと、カルボン酸系モノマー、アクリルアミド系モノマーの少なくとも1種以上のモノマーとを共重合させたものであり、共重合するモノマー、好ましい分子量範囲などは前記した前駆体繊維に用いるポリアクリロニトリル系共重合体と同様である。
本発明で用いる溶媒可溶性重合体は溶媒に可溶であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。その例としてはポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニル類、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸及びそのエステル化物などのポリアクリル類、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリアルキレングリコールなどのポリエーテル類、ポリアミド類の他、それぞれの共重合体があり、中でも後述する溶出工程の環境負荷を低減させる点から、高温熱水で溶出可能であるポリビニルアルコールやポリアルキレングリコールおよびその共重合体が最も好ましい。
ポリアクリロニトリル系共重合体と溶媒可溶性重合体を混合させて紡糸する方法は特に限定されず溶融紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸法などが適用できるが、ポリアクリロニトリル系共重合体の製糸性という点から湿式および乾湿式紡糸が特に好ましい。湿式および乾湿式紡糸での溶媒はポリアクリロニトリル系共重合体と溶媒可溶性重合体に共通の溶媒が好ましく、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドが挙げられる。湿式および乾湿式紡糸を行う際の紡糸原液の濃度は5〜50重量%とすることにより優れた製糸性が得られる。
混合方法は特に限定されず、海島型などの複合紡糸や2液のブレンド紡糸などが適用できる。ブレンド手法も均一に混合できれば特に制限はなく、例えば紡糸原液の混合攪拌、エクストルーダーなどによる混練、あるいは紡糸口金直前での静的混練子による混合などを単独あるいは併用して用いることができる。
混合紡糸におけるポリアクリロニトリル系共重合体と溶媒可溶性重合体の混合比率はポリアクリロニトリル系共重合体30重量%以下と溶媒可溶性重合体70重量%以上であり、好ましくはポリアクリロニトリル系共重合体の混合比率20重量%未満である。ポリアクリロニトリル系共重合体を30重量%以下とすることで直径が1μm以下であり均一なポリアクリロニトリル系極細繊維が得られ、ポリアクリロニトリル系共重合体の混合比率を下げることでさらに細く、均一な極細繊維が得られる。
なお、湿式および乾湿式紡糸を行う際には、ポリアクリロニトリル系共重合体を溶解させた紡糸原液と溶媒可溶性重合体を溶解させた紡糸原液を混合して用いることがあるが、この場合、ポリアクリロニトリル系共重合体と溶媒可溶性重合体の混合比率とは、混合した原液中のポリアクリロニトリル系共重合体と溶媒可溶性重合体の全重量に対する、それぞれの重量の比率を指す。
湿式および乾湿式紡糸を行う際の凝固浴はポリアクリロニトリル系共重合体と溶媒可溶性重合体の混合原液が凝固すれば特に制限されないが、設備及び環境負荷の観点からは水および無機塩の水溶液からなる凝固浴が好ましい。また湿式および乾湿式紡糸をおこなう際の凝固浴を出た後の最初の引取ロールの速度は1〜50m/minとすることが製糸安定性の点から好ましい。
なお、溶媒可溶性重合体として熱水可溶であるポリアルキレングリコールやポリビニルアルコールを用いる場合であっても、溶媒可溶性重合体の分子量を1000以上、ポリアクリロニトリル系共重合体と溶媒可溶性重合体合計の混合原液に対する濃度を15重量%以上とし、さらに原液温度を40℃以上、凝固浴温度を20℃以下とすることで水および無機塩の水溶液を凝固浴として用いることができる。
このように得られた混合紡糸繊維は、溶媒可溶性重合体の溶出後に得られるポリアクリロニトリル系極細繊維および連続糸の直径を減少させ、かつポリアクリロニトリル系極細繊維の配向を高めるために延伸することが好ましい。延伸は加熱ロールや加熱プレートを用いて行っても良く、湿式および乾湿式紡糸においては浴延伸を行うことが好ましい。なお延伸は多段で行うことが好ましく、総延伸倍率は目的に応じ適宜調整することができるが約2〜30倍程度が好ましい。また工程の途中で適宜、乾燥、給油、洗浄を行っても良い。
本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法では得られた混合繊維から溶媒を用いて溶媒可溶性重合体を溶出させる。溶媒可溶性重合体の溶出に使用する溶媒はアクリロニトリル系重合体に対して難溶性であれば溶媒可溶性重合体に応じて適宜選定できるが、環境負荷が低いものが好ましく、水系が最も好ましい。
溶出は得られた繊維を走行させながら連続処理しても良いし、かせ状やパッケージで処理しても構わない。連続処理は、紡糸後に一旦巻き取った繊維を解舒して行っても良いし、紡糸工程中や耐炎化の前工程として連続して行っても構わない。なお、本発明の製造方法では溶媒で溶出させた溶媒可溶性重合体は回収、再利用することができるため、高い歩留まりと省資源化に貢献できる。
溶媒可溶性重合体を溶出させた後の繊維は実質的にポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体となるため、その後の工程での毛羽発生や糸切れ、あるいは融着が生じないよう、油剤を付着させることが好ましい。油剤の組成は公知のものが使用でき、例えばアミノ変成シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーン、ポリアルキレングリコールおよびその混合物などがある。
なお、本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法では得られる連続糸中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率が80重量%以上98重量%未満であるが、重量分率をこの範囲に制御する手法としては、溶媒可溶性重合体を溶出させた後の繊維に樹脂や油剤を含浸させるなどがあり、さらに溶媒可溶性重合体を完全に溶出させずにわずかに残留させることは工程簡略化の観点から好ましい手法である。
このような製造方法によって、ポリアクリロニトリル系共重合体からなり、平均直径が1μm未満のポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体からなる連続糸であって、該連続糸中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率が80重量%以上98重量%未満であり、かつ連続糸の直径が30μm以下である炭素繊維前駆体繊維が得られる。得られる連続糸は炭素繊維の原料として好適に用いることができる。
次に、本発明の極細炭素繊維の製造方法について詳細に説明する。
本発明で用いる炭素繊維前駆体繊維は連続糸であって、ポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率が80重量%以上98重量%未満であり実質的にポリアクリロニトリル系極細繊維のみで構成され、連続糸の直径が30μm以下であるため、公知のポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維と同様に耐炎化、炭素化を行うことができる。
耐炎化、炭素化の条件は特に限定されるものではなく、例えば温度200〜400℃にある空気などの酸化性雰囲気下で焼成して耐炎化繊維へ転換する耐炎化工程を経た後、温度1000℃以上の不活性雰囲気下で焼成する炭素化工程を経て、炭素繊維とされる。必要に応じて、耐炎化工程と炭素化工程の間に、温度400〜800℃の範囲にある不活性雰囲気下で焼成する前炭素化工程や、炭素化工程以降に、温度1800〜4000℃の範囲にある不活性雰囲気下で焼成する黒鉛化工程を付加しても良い。各工程での延伸倍率は走行状態や要求特性により適当な値とすることが可能であり、例えば0.80〜1.20の範囲で設定できる。
本発明の炭素繊維前駆体繊維を耐炎化、炭素化することにより極細炭素繊維さらにはカーボンナノファイバー集合体繊維を得ることができる。この炭素繊維は長繊維のまま補強用途、放熱材料、制電・導電材料として用いることができる。また得られる炭素繊維を粉砕処理することにより、フィラメント状カーボンナノファイバーを得ることができ、この粉砕処理を液体中で行うことによりカーボンナノファイバーの分散液を得ることもできる。このような分散液の分散液調製時又は調整後にその分散液に樹脂を分散・溶解することによりフィラメント状カーボンナノファイバーを含有する樹脂コーティング液を得ることができる。なお、この粉砕処理を行う前に連続的に酸化処理または/および電解処理することができ、これによりカーボンナノファイバーの表層部分が化学変化し各種溶媒への分散性向上、各種薬剤および各種樹脂材料に対する親和性向上を図ることができる。また同様の分散液を抄紙することによりフィラメント状カーボンナノファイバーからなる抄紙物を得ることができる。さらに粉砕処理を樹脂との混合状態で行うことによりフィラメント状カーボンナノファイバーが分散された樹脂混合物を得ることもできる。
本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法において最も好適な例は、ポリアクリロニトリル系共重合体としてイタコン酸を0.5〜5mol%共重合したポリアクリロニトリルを用い、溶媒可溶性重合体としてポリビニルアルコールまたはその共重合体を用い、溶媒にジメチルスルホキシドを用い、各重合体を溶解させ5〜50重量%の紡糸原液とし、ポリアクリロニトリル系共重合体の混合比率が重合体全量に対して10〜30重量%となるよう、紡糸原液を混合して混合原液を調整し、原液温度30〜100℃にて、孔径 0.01〜5mmで孔数1〜1,000,000の紡糸口金か原液を吐出させ乾湿式紡糸を行い、アルコール系または20℃以下の冷水の凝固浴で凝固させ、30〜100℃の加熱浴中で多段延伸させた後に熱水浴に浸漬させポリビニルアルコールまたはその共重合体を溶出させ、さらに油剤を適当量含浸させることで連続糸中のアクリロニトリル重量分率を90〜97重量%とする手法である。さらにポリビニルアルコールまたはその共重合体とポリアクリロニトリル系共重合体の重合度は、各々をジメチルスルホキシドの同濃度溶液とし同じ温度で測定した溶液粘度が粘度比1:3〜3:1となる程度がより好ましい。この理由は定かではないが、イタコン酸が持つカルボキシル基とポリビニルアルコールの持つヒドロキシル基が相互作用することおよびそれぞれのポリマーの粘度バランスが好適となることによりポリアクリロニトリル系重合体の分散が非常に細かくなり、直径が細く、かつ均一なポリアクリロニトリル系極細繊維が得られるためと推測される。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めたが、本発明はこれらに限定されるものではない。
A.ポリアクリロニトリル系共重合体の重量平均分子量
ポリアクリロニトリル系共重合体の極限粘度[η](単位:100ml/g)を、雑誌Journal of Polymer Science(A−1)、第6巻、第147〜159ペ−ジ(1968年)に記載されているT.Shibukawaら著の論文に準じた方法により、ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒に使用し、オストワルド型粘度計を用いて30℃で測定した値として求め、これを上記T.Shibukawaらの論文に記載されている次式を用いて計算して求めた。
[η]=3.35×10−40.72
M:重量平均分子量
B.炭素繊維前駆体繊維中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率(WPAN
20℃、65%RHに24時間以上調温湿した炭素繊維前駆体繊維を10.0g採取する。この試料を100mLのメタノール中で60℃、180分加熱処理を行い、試料を取り出しメタノールで洗浄後、風乾し、続いて1000mL以上の98℃熱水中で180分加熱処理を行い、風乾後、20℃、65%RHに24時間以上調温湿し、試料重量W(g)計測する。次にこの試料を60重量%の塩化亜鉛水溶液100mLに投入し、50℃にて60分加熱処理を行う。この溶液をあらかじめ秤量してある濾紙(重量W(g))を用いて吸引濾過し、さらに50℃に保った60重量%塩化亜鉛水溶液300mLを流し込んですすいだ後、50℃の純水400mLを流し込んで塩化亜鉛をすすぐ。この濾紙を20℃、65%RHに24時間以上調温湿した後、重量W(g)を計測する。これらから、以下の式を用いて炭素繊維前駆体繊維中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率(WPAN)を求める。
PAN(重量%)=10×(W+W−W
C.ポリアクリロニトリル系極細繊維の平均直径
試料となる繊維をエポキシ樹脂に含浸した後にミクロトームを用いて繊維軸に垂直な面の超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所、H−7100FA)により繊維外周付近を4万倍の倍率で観察を行い、得られた画像を画像処理ソフト(三谷商事(株)製、Winroof)で円形図形分離を行い、それぞれの面積から円換算径を算出し、50以上のデータ点数を用いて平均直径、およびCV%を求めた。
実施例1
ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により、アクリロニトリル99mol%とイタコン酸1mol%のポリアクリロニトリル系共重合の溶液を得て、重合後アンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込み、濃度21重量%の紡糸原液(A)を得た。得られたポリアクリロニトリル系重合体の重量平均分子量は14.0万であった。
重合度1700の完全鹸化ポリビニルアルコール(鹸化度99mol%)をジメチルスルホキシドに溶解させ濃度21重量%の紡糸原液(B)を得た。なお、両者の紡糸原液の45℃での粘度比は(A):(B)=1:1.4であった。
紡糸原液(A)10重量部と(B)90重量部をフラスコに投入し90℃のウォーターバス中で30分攪拌し、混合紡糸原液(C)を得た。この紡糸原液(C)を60℃に保温しつつ、直径2mmのシリンジを用い、吐出量0.5mL/minで一旦空気中に吐出し、約8mmの空間を通過させた後、約5℃の冷水からなる凝固浴に導入して乾湿式紡糸法により凝固させ、12m/minで引取、引き続き4倍に延伸した後、水洗を行いポリアクリロニトリル系共重合体とポリビニルアルコールのブレンド糸を得た。
このブレンド糸を積算の滞在時間が20分となるように90℃熱水浴を通過させ、ポリビニルアルコールを溶出した。その後、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンおよびアルキレンオキサイド変性シリコーンを含む水エマルジョン系(油剤濃度5.0重量%)の油剤浴を通過させ、180℃の加熱ローラーを用いて乾燥処理を行い、ポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維を得た。
この炭素繊維前駆体繊維中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率は92重量%であり、ポリアクリロニトリル系極細繊維の直径は140nm、CV%は45%であった。また炭素繊維前駆体繊維の直径は19μmであった。
この炭素繊維前駆体繊維を200℃の空気中で、処理時間60分、延伸比0.95として耐炎化処理を行った。工程通過性は良好であり、発火、糸切れを生ずることなくポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体である耐炎化繊維が得られた。
さらに得られた耐炎化繊維を800℃の不活性雰囲気中で5分間予備炭化した後、最高温度1500℃で炭素化処理した。工程通過性は良好であり、糸切れを生ずることなく極細炭素繊維の集合体である連続糸が得られた。
実施例2
実施例1で用いた紡糸原液(A)、(B)を用い、混合比を紡糸原液(A)28重量部と(B)72重量部とすること以外は実施例1と同様の方法で混合紡糸原液(C)を調整し、吐出量を0.25mL/minとし、凝固浴を15℃の1−プロパノールとすること以外は実施例1と同様の手法で乾湿式紡糸を行いポリアクリロニトリル系共重合体とポリビニルアルコールのブレンド糸を得た。
このブレンド糸を積算の滞在時間が10分となること以外は実施例1同様の手法でポリビニルアルコールの溶出、および油剤付与を行いポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維を得た。
この炭素繊維前駆体繊維中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率は85重量%であり、ポリアクリロニトリル系極細繊維の直径は280nm、CV%は94%であった。また炭素繊維前駆体繊維の直径は29μmであった。
この炭素繊維前駆体繊維を実施例1と同様の手法で耐炎化処理を行ったところ、工程通過性は良好であり、発火、糸切れを生ずることなくポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体である耐炎化繊維が得られた。
さらに実施例1と同様の手法で炭素化処理を行ったところ、工程通過性は良好であり、糸切れを生ずることなく極細炭素繊維集合体である連続糸が得られた。
比較例1
実施例2と同様の手法でポリアクリロニトリル系共重合体とポリビニルアルコールのブレンド糸を得た。これを、ポリビニルアルコールを溶出することなく、実施例1と同様の耐炎化処理を行ったところ、糸切れが発生した。糸切れ発生箇所以外でも繊維同士の融着が見られ、熱軟化のため繊維が融着、溶断していることが推測された。
比較例2
実施例2と同様の方法で混合紡糸原液(C)を調整し、吐出量を1.0mL/minとすること以外は実施例1と同様の手法で乾湿式紡糸を行いポリアクリロニトリル系共重合体とポリビニルアルコールのブレンド糸を得た。
このブレンド糸を積算の滞在時間が15分となること以外は実施例1同様の手法でポリビニルアルコールの溶出、および油剤付与を行いポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素繊維前駆体繊維を得た。
この炭素繊維前駆体繊維中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率は83重量%であり、ポリアクリロニトリル系極細繊維の直径は300nm、CV%は99%であった。また炭素繊維前駆体繊維の直径は57μmであった。
この炭素繊維前駆体繊維を実施例1と同様の手法で耐炎化および炭素化処理を行ったところ、炭化工程で糸切れが生じた。破断箇所を走査型電子顕微鏡で観察したところ、極細繊維集合体の表面は一体化しており、また内部には空孔が発生しており、内部まで十分な耐炎化、炭素化が進行しなかったことが推測された。
比較例3
実施例2と同様の方法で紡糸を行いポリアクリロニトリル系共重合体とポリビニルアルコールのブレンド糸を得た。
このブレンド糸を積算の滞在時間が120分となるように90℃の熱水浴を通過させ、180℃の加熱ローラーを用いて乾燥処理を行ったところ乾燥から巻取の工程間で糸切れが頻発した。少量得られた炭素繊維前駆体繊維中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率は99重量%であった。この炭素繊維前駆体繊維を用いて、実施例1と同様の手法での耐炎化処理を試みたが、糸切れが発生した。糸切れ箇所も含めて毛羽が多発しており、ポリアクリロニトリル系極細繊維が破断もしくは抜け落ちたため糸切れが発生したことが推測された。
比較例4
実施例1で用いた紡糸原液(A)、(B)を用い、混合比を紡糸原液(A)50重量部と(B)50重量部とすること以外は実施例1と同様の方法で混合紡糸原液(C)を調整し、吐出量を0.25mL/minとすること以外は実施例2と同様の手法で乾湿式紡糸を行いポリアクリロニトリル系共重合体とポリビニルアルコールのブレンド糸を得た。
このブレンド糸を実施例1同様の手法でポリビニルアルコールの溶出、および油剤付与を行いポリアクリロニトリル系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維を得た。
この炭素繊維前駆体繊維の繊維軸と直行方向の超薄切片のTEM観察を行ったところ、ポリアクリロニトリル系極細繊維が散見される他に、数μmに渡って一体化している部分もあるため、視野内に50点のデータはなく、計測できる範囲で平均直径を算出しても2.1μmであり、ポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体とは言えない状態であった。
本発明の炭素繊維前駆体繊維は極細炭素繊維やカーボンナノファイバー集合体繊維の前駆体として使用することができ、耐炎化工程の通過性に優れ、かつ炭素化工程での環境負荷が低減でき、長繊維として得られるため取り扱い性に優れる。

Claims (3)

  1. カルボン酸系モノマー、アクリルアミド系モノマーの少なくとも1種以上のモノマーを共重合させたポリアクリロニトリル系共重合体からなり、平均直径が1μm未満のポリアクリロニトリル系極細繊維の集合体からなる連続糸であって、該連続糸中のポリアクリロニトリル系極細繊維の重量分率が80重量%以上98重量%未満であり、かつ連続糸の直径が30μm以下であることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維。
  2. カルボン酸系モノマー、アクリルアミド系モノマーの少なくとも1種以上のモノマーを共重合させたポリアクリロニトリル系共重合体30重量%以下と、溶媒可溶性重合体70重量%以上を混合させて紡糸を行い、得られる繊維から溶媒を用いて溶媒可溶性重合体を溶出させることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  3. 請求項1記載の炭素繊維前駆体繊維を酸化性雰囲気中で耐炎化処理を行った後、不活性ガス雰囲気中で炭素化処理を行うことを特徴とする極細炭素繊維の製造方法。
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