JP2004232155A - 軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びその製造方法 - Google Patents

軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びその製造方法 Download PDF

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Hiroyuki Sato
弘幸 佐藤
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Abstract

【課題】従来の汎用炭素繊維と同等の性能(強度、弾性率)を有し、かつ軽量な低比重のポリアクリロニトリル系軽量化炭素繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ストランド強度が3900〜5000MPa、弾性率が225〜235GPa、比重が1.63以上1.69未満の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維、並びにアクリロニトリルを94質量%以上含有する単量体を重合した共重合体を紡糸して得られた糸を、油剤としてアミノ変性シリコーン及びジアルキルスルホサクシネートを含むエマルジョン水溶液を特定量付着させた後、特定の条件で乾燥緻密化、湿熱延伸処理して炭素繊維用前駆体繊維を得、得られた前駆体繊維を、特定条件で熱処理して耐炎化繊維を得、得られた耐炎化繊維を、不活性雰囲気中特定条件で炭素化し、更に不活性雰囲気中で炭素化する軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びその製造方法に関する
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維の製造方法としてポリアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維を使用し、耐炎化処理及び炭素化処理を経て炭素繊維が得られることは広く知られており、このようにして得られた炭素繊維は、高い比強度、比弾性率の特性を有している。
【0003】
近年、炭素繊維を利用した複合材料の工業的な用途は、多目的に広がりつつあり、特にスポーツ・レジャー分野、航空宇宙分野、自動車分野においては、より高性能化(高強度化、高弾性化)、軽量化(繊維軽量化及び繊維含有量低減)に向けた要求が強まっている。炭素繊維と樹脂との複合化において高性能化を追求する為には、樹脂が有する特性も重要であるが、炭素繊維そのもの自体の特性を向上させることが必要不可欠である。その中で、軽量化については、複合材料を作製する際に、より高性能な(高強度、高弾性)炭素繊維に置き換えて樹脂と複合することにより、複合材料中の炭素繊維含有量を低減することにより軽量化が試みられている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、この方法では、複合材料を作製する際に、汎用の炭素繊維から高性能炭素繊維に置き換える必要があり、高性能な炭素繊維は、汎用品と比較してかなりの割高で、使用量は少なくなるものの、複合材料としてコストが同等もしくは高くなる。最近では炭素繊維及び複合材料の高性能化のみでなく、低コスト化もユーザーから強く要望されており、高性能を有する炭素繊維及び複合材料を安価に効率よく生産することが望まれている。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−51268号公報(特許請求の範囲)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記問題点を解決すること、即ち低比重のポリアクリロニトリル系軽量化炭素繊維を提供することである。
【0007】
【課題を解決する手段】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0008】
[1] ストランド強度が3900〜5000MPa、弾性率が225〜235GPa、比重が1.63以上1.69未満の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維。
【0009】
[2] 炭素繊維ストランドの単繊維径平均が6〜8μmであり、炭素繊維ストランドの電気抵抗値が24〜27Ω・g/mの範囲にある、[1]に記載の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
【0010】
[3] アクリロニトリルを94質量%以上含有する単量体を重合した共重合体を紡糸して得られた糸を、油剤としてアミノ変性シリコーン及びジアルキルスルホサクシネートを含むエマルジョン水溶液を乾燥質量で0.3〜0.5%付着させた後、70〜150℃の乾燥機で乾燥緻密化後、温度100〜130℃、延伸比4.0〜6.0の条件で湿熱延伸処理して炭素繊維用前駆体繊維を得、得られた前駆体繊維を、そのまま加熱空気中230〜270℃、延伸比0.84〜0.93で熱処理して耐炎化繊維を得、得られた耐炎化繊維を、不活性雰囲気中300〜750℃、延伸比1.01〜1.05で炭素化し、更に不活性雰囲気中300〜1500℃で炭素化する[1]又は[2]に記載の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
【0011】
[4] 耐炎化繊維のX線回折測定で得られるAI値が0.65〜0.70の範囲であり、耐炎化繊維のX線光電子分光法により測定される表面Si量(Si)に対する表面酸素量(O)が、O/Si≧1.0であり、かつ、耐炎化繊維の比重が1.360〜1.385の範囲である[3]に記載の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
【0012】
[5] 炭素繊維用前駆体繊維のアルキメデス法による比重が1.160〜1.175の範囲であり、炭素繊維用前駆体繊維の水分率が20〜60質量%である[3]に記載の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下は、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0014】
[軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維]
本発明の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維(以下、『炭素繊維』と略記することがある)は、ストランド強度が3900〜5000MPa、弾性率が225〜235GPa、比重が1.63以上1.69未満であることを必要とする。
【0015】
本発明の炭素繊維は、従来の汎用タイプの炭素繊維に比較して、ストランドの強度、弾性率、伸度が同等の性能を有しかつ比重が従来の汎用タイプが1.75〜1.85と比較して、1.69未満と軽量化されている。
【0016】
炭素繊維内部の高次構造から見ると、グラファイト構造の成長度合いを比較する手法としてX線回折による結晶子サイズがあるが、従来の汎用タイプとは変わらない。このことから、炭素繊維内部のグラファイト構造は、比重が低下しても大きくは変わらないことを示しており、汎用タイプと同等な強度や弾性率を有することが可能となる。
【0017】
更に説明すると、炭素繊維の比重が低くなっていても、汎用炭素繊維が有する繊維特性を有することは、炭素繊維内部の構造において疎の部分が存在しているものの、疎と密の部分が均一に分散して存在していると考えられる。一方、炭素繊維の表層部に、より疎になった部分が存在していると繊維特性の低下を招くため好ましくない。
【0018】
炭素繊維の表層部構造の均一性を簡便に評価する手法として、1m当りの電気抵抗値の値で代用することができる。炭素繊維は繊維内部にグラファイト構造を有しているため、電気伝導性を示す。この内部のグラファイト構造が発達するにつれて、電気伝導性が高くなっていく。特に電子は炭素繊維のより表面付近に流れ易いため、炭素繊維表面付近のグラファイト構造の成長を示す指標として、電気抵抗値を用いることがある。この電気抵抗値は、より高温で焼成された炭素繊維ほど、表面付近のグラファイト構造が成長し、電子が移動しやすいために、電気抵抗値が低い値を示す関係にある。
【0019】
従って、炭素繊維の比重は、従来の汎用タイプより低いものの電気抵抗値は同等レベルであるので、汎用炭素繊維が有する繊維特性(特に強度、弾性率)を有することができる。
【0020】
[炭素繊維の製造方法]
上記本発明の炭素繊維は、アクリロニトリルを94質量%以上含有する単量体を重合した共重合体を紡糸して得られた糸を、油剤としてアミノ変性シリコーン及びジアルキルスルホサクシネート−エマルジョン水溶液を乾燥質量で0.3〜0.5%付着させた後、70〜150℃の乾燥機で乾燥緻密化後、温度100〜130℃、延伸比4.0〜6.0の条件で湿熱延伸処理して炭素繊維用前駆体繊維を得、得られた前駆体繊維を、そのまま加熱空気中230〜270℃、延伸比0.84〜0.93で熱処理して耐炎化繊維を得、得られた耐炎化繊維を、不活性雰囲気中300〜750℃、延伸比1.01〜1.05で炭素化し、更に不活性雰囲気中300〜1500℃で炭素化する炭素繊維の製造方法により得ることができる。
【0021】
従来、高性能や高付加価値の炭素繊維の製造においては、炭素繊維前駆体繊維の特性が目的物である炭素繊維の性能に直接影響するため、炭素繊維前駆体繊維の性能や品質改善、即ち、分子の配向性、緻密性の向上や欠陥の抑制等することが有効であり、さまざまな提案がなされてきた。
【0022】
その中で、炭素繊維前駆体繊維の緻密性の向上については、紡糸原液中のポリマー濃度を高くする手法、凝固浴温度をより低温にする手法、乾燥による緻密化で温度を制御する手法、湿熱延伸での温度変更等がある。
【0023】
本発明の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維を得るためには、炭素繊維製造過程で耐炎化を行った際に、従来の汎用炭素繊維と比較して、耐炎化糸の比重は同程度でありながら、PANの分子内環化の進行度合いが同等以下でかつ酸素付加率が高い繊維を作る必要がある。
【0024】
この耐炎化工程では、前駆体繊維成分PANの分子内環化及び酸化反応、及び糸の物理的な収縮が生ずる。まず、PANの分子内環化については、将来得られる炭素繊維の内部構造の基礎を形成するのに必要であり、従来の汎用炭素繊維と同等に近い構造が必要である。しかし、環化が進み過ぎると、将来グラファイト化が進行する際に生じる窒素の脱離反応が起こり易くなり、グラファイト化が進行し過ぎて、繊維がより脆性化して炭素繊維の特性として好ましくない(強度や伸度の低下を招く)。一方、酸化反応については、より酸化が促進されれば、将来グラファイト化が進行する際に将来得られる炭素繊維の内部構造が疎になりやすく、軽量化炭素繊維が得られやすい構造となる。但し、著しく酸化が進むと、繊維としての物性を保てなくなり(強度、弾性率の低下)、炭素繊維としての収率も低下して好ましくない。
【0025】
また、炭素繊維前駆体繊維の製造過程で、工程安定性や、後の焼成時、特に耐炎化工程での工程安定性や膠着発生を抑制する目的で種々の油剤を付与し、繊維表面に皮膜を形成させる。この油剤の付与による皮膜の形成は、耐炎化時における、繊維内部への酸素透過性に影響を与える。また、繊維内部から発生する分解ガスの放出にも影響を与える。したがって、耐炎化糸の構造に大きな影響を与えるので、付与する油剤の種類(構造)や付着量を制御する必要がある。
【0026】
一般的に、炭素繊維の製造法では、耐炎化時に、より空気中高温で熱処理すると、耐炎化糸の比重が増加するに伴い、分子内環化は進み、酸素の付加率も高くなっていく。しかし、本発明では、炭素繊維前駆体繊維内部の構造、特に緻密性の範囲を特定し、その構造範囲にある炭素繊維前駆体繊維を用いて、特定の耐炎化条件で耐炎化し、その後第一炭素化炉での初期炭素化の際の温度を制御することにより、低比重でかつ従来の汎用炭素繊維が有する繊維特性を有することができる。
【0027】
本発明の炭素繊維の原料であるPAN系炭素繊維の炭素繊維用前駆体繊維としては、アクリロニトリルと、このアクリロニトリルと共重合可能なオレフィン構造を有するコモノマーとの共重合体を用いることができる。
【0028】
この共重合体中のアクリロニトリル含有量は94質量%以上が好ましく、95質量%以上が更に好ましい。また、共重合体中のコモノマー含有量は6質量%以下が好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0029】
コモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらのアンモニウム塩及びアルキルエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド及びそれらの誘導体等を挙げることができ、それらを2種類以上組み合わせることもできる。
【0030】
特に低コスト化を進める上で、コモノマーとして不飽和カルボン酸を用いることは、耐炎化反応を促進させる意味で好ましいものである。不飽和カルボン酸の共重合体中の含有量は、0.1〜3質量%であることが好ましく、特に0.5〜2質量%がより好ましい。
【0031】
不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等をあげることができる。
【0032】
なお、高強度の炭素繊維を得る為には、炭素繊維用前駆体繊維の分子配向性を高くする必要性がある。そのため、炭素繊維用前駆体繊維製造工程で、高延伸しやすくする為に、炭素繊維用前駆体繊維中の分子自由度を高くする目的で、不飽和カルボン酸エステルを共重合することが好ましい。不飽和カルボン酸エステルの共重合体中の含有量は、0.1〜6質量%が好ましく、2〜5質量%が更に好ましい。
【0033】
不飽和カルボン酸エステルの例としては、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキルがある。好ましいアルキル基の長さは、炭素数(C)が1〜4であり、特に好ましいアルキル基の長さは、Cが1〜2である。
【0034】
上記モノマーとコモノマーとの重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等を用いることができるが、そのまま紡糸できることにより溶液重合が最も好ましい。
【0035】
紡糸する際の液(紡糸原液)は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等の有機溶媒や、硝酸、塩化亜鉛水溶液、ロダン塩水溶液等の無機溶媒を溶媒として用い、上記モノマーとコモノマーとを重合させたポリマー溶液を、紡糸原液とすることが好ましい。その中でも、高分子量ポリマーを溶解させるのに優位性がある塩化亜鉛水溶液を溶媒に用いるのがより好ましい。
【0036】
紡糸原液の濃度は、炭素繊維前駆体繊維の比重に影響を与えるので、溶媒として塩化亜鉛水溶液を用いた場合、5質量%以上10質量%以下が好ましい。更に好ましくは7質量%以上9質量%以下がさらに好ましい。紡糸原液の濃度が低すぎる場合は、得られる炭素繊維前駆体繊維の比重が低くなり、低比重の炭素繊維が得られなくなる。一方、濃度が高すぎる場合は、ポリマーの溶媒に対する溶解度には限界があるため、紡糸原液が不均一な溶液になり好ましくない。
【0037】
紡糸は、低温に冷却した凝固液(紡糸する際の溶媒−水混合液)を入れた凝固浴中に直接紡出する湿式紡糸が好ましい。また、空気中にまず吐出させた後、3〜5mm程度の空間を有して凝固浴に投入し凝固させる乾湿式紡糸法でもよい。
【0038】
紡出糸は、濃度勾配をかけた凝固浴で徐々に凝固させ、同時に溶媒を除去しながら、水洗して直接浴中延伸する。浴中延伸では、数種の水洗〜熱水浴中で、延伸比2.0〜6.0、特に延伸比4.0〜6.0で紡出糸を延伸するのが好ましい。
【0039】
浴中延伸の条件については、上記凝固浴温度と、水洗温度又は熱水浴温度との温度勾配は最大で98℃にするのが好ましい。
【0040】
その後、乾燥緻密化に先立って、耐熱性向上や紡糸安定性を目的として、親水基を持つ浸透性油剤とシリコーン系油剤を組み合わせた炭素繊維用前駆体繊維油剤を付与することが、軽量化炭素繊維を品位よく得る点から好ましい。
【0041】
浸透性油剤は官能基として、スルフィン酸、スルホン酸、燐酸、カルボン酸やそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、その誘導体を有するものが好ましい。これらの浸透性油剤のうちでも、浸透しやすいジアルキルスルホサクシネート若しくはその誘導体を用いるのが特に好ましい。
【0042】
シリコーン系油剤は、未変性あるいは変性されたもののいずれでもよいが、中でもエポキシ変性シリコーン、エチレンオキサイド変性シリコーン、ポリシロキサン、アミノ変性シリコーンが好ましく、特に好ましくはアミノ変性シリコーンである。
【0043】
乾燥緻密化においては、温度勾配をかけた幾層にも連なる部屋を有する熱風乾燥機で乾燥することが好ましい。乾燥温度については、より緻密性が向上するように、70〜150℃で適宜調節して行うことが好ましく、80〜140℃で適宜調節して行うことが更に好ましい。乾燥時間については、1〜10分間が好ましい。
【0044】
また、高温での延伸を行うことによって、作製される炭素繊維用前駆体繊維の繊度や分子配向を整えることができる。特に加圧スチーム中での熱延伸は有効であり、温度100〜130℃、延伸比4.0〜6.0の条件で湿熱延伸処理することが特に好ましい。この熱延伸の条件は、炭素繊維用前駆体繊維の緻密性に大きな影響を与える。軽量化炭素繊維を得る為には、緻密性の高い炭素繊維用前駆体繊維を作製することが好ましい。
【0045】
緻密性を評価する手段として、アルキメデス法による見かけ比重の評価、L値の測定等がある。L値の測定では、標準白板に対する試料の明度をハンター色差計によって測定し、基準炭素繊維用前駆体繊維に対する明度を算出する。この値は、繊維中のボイドが多い場合に高い値を示し、緻密性が高くなると基準炭素繊維用前駆体繊維の値に近くなる。
【0046】
炭素繊維用前駆体繊維は約5cmに切断してハンドカードにて綿上に開繊し2gをとる。油圧プレス機でプレスしてアニソール中に浸漬し、脱泡して、ハンター色差計にかけL値〔L値=測定値−標準値(5)〕を測定する。このL値が、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下になるように、乾燥緻密化及び熱延伸条件を変更する。
【0047】
アルキメデス法による比重の測定は、炭素繊維用前駆体繊維を約2g採取し、直径3cm以内の円状にまとめ、形状が崩れないようにする。測定溶剤には、水、若しくは親水性溶媒が好ましい。なお、炭素繊維用前駆体繊維に付与させた油剤の影響等で脱泡時に泡が取れ難い場合がある。この場合は、エタノール若しくはアセトンを用いるのが最も好ましい。
【0048】
次に、上記円状のサンプルを溶媒中に浸漬し、減圧下で脱泡する。常温下で、溶媒中の質量を測定し、更にサンプルを加熱乾燥して乾燥質量を求め、炭素繊維用前駆体繊維の見かけ比重を求める。この比重は、PANの比重1.18より低くなるが、好ましくは1.160〜1.175、より好ましくは1.163〜1.174、更に好ましくは1.165〜1.173になるように、L値と同様に乾燥緻密化及び熱延伸条件を変更する。
【0049】
本発明において、炭素繊維用前駆体繊維の単繊維繊度は、強度向上の観点から、耐炎化工程での酸化斑(むら)が生じ難いように、細い方が好ましい。具体的には、1.2d以下が好ましく、0.8〜1.2dがより好ましく、0.9〜1.1dが更に好ましい。
【0050】
得られた炭素繊維用前駆体繊維は、分子配向の緩和が生じ難いように、糸(前駆体繊維)の乾燥を防ぐ必要がある。そのため、前駆体繊維の水分率は、好ましくは20〜60質量%、特に好ましくは30〜50質量%に保つ必要がある。炭素繊維用前駆体繊維の水分率が低くなりすぎると、集束性が低下することによって取扱性が悪くなり、また、水分率が高すぎると水の表面張力により、耐炎化工程中のローラーに巻き付きやすくなりトラブルの原因になる。
【0051】
上記のようにして作製され、適宜調節された水分率を有する炭素繊維用前駆体繊維は、密閉容器中に一時保存することが可能である。保存容器としては、円筒形の容器が好ましく、ビニール袋も好ましい。但し、保存する際は、内部の水分が保持できるものでなければいけない。
【0052】
なお、本発明で用いられる炭素繊維用前駆体繊維は、乾熱ローラー等の熱処理を施しておらず、湿熱延伸後の糸を用いているため、そのままの状態で保存すると、繊維の配向緩和が生じ、炭素繊維の強度低下を招いてしまう。
【0053】
この炭素繊維用前駆体繊維の配向緩和を防ぐ方法としては、以下に示す、従来既存の技術が応用できる。
【0054】
即ち、炭素繊維用前駆体繊維の製造後の後工程(耐炎化工程、炭素化工程)において、繊維内部の分子配向性を向上させるための方法として、湿熱延伸して前駆体繊維の糸を製造した後における、純水等で濡れたままの状態の糸を、収納容器に蓄える方法が利用できる。
【0055】
この濡れたまま糸を収納容器に蓄える方法によれば、繊維が乾燥することによって生ずる配向緩和や空気による酸化、空気中の異物の付加等が防止でき、高強度の炭素繊維を製造する事ができる。
【0056】
次いで、上記前工程で製造した炭素繊維用前駆体繊維を、耐炎化工程で耐炎化処理する。この耐炎化処理は、例えば加熱空気中2室以上に分かれた横型炉で、多段ローラー群を介して、230〜270℃、延伸比0.84〜0.93、好ましくは0.85〜0.92で熱処理して行うことができる。
【0057】
耐炎化の延伸比が低いと、分子配向が緩和されてしまう為好ましくない。また、通常耐炎化が進むにつれて繊維が脆弱化するので、延伸比が高すぎると、単糸切れによる毛羽が発生し、後に得られる炭素繊維の品位を著しく低下させるので好ましくない。
【0058】
従って、耐炎化時の延伸比については、0.84〜0.93で熱処理することが好ましく、0.85〜0.92で熱処理することが更に好ましい。
【0059】
耐炎化反応については、初期にニトリル基への酸化によって反応が開始され、環化反応が生じ、さらに環への酸素の付加により、耐炎化構造となる。従って、環化の度合いと酸化の度合いを規定することにより、軽量化炭素繊維を製造するのに好ましい耐炎化糸の構造を特定することが可能である。
【0060】
従って、耐炎化の度合いは、大きな3つの指標にて評価することができる。環化率、酸化度、緻密性である。3つの指標を同時に簡便に評価する方法としては、耐炎化処理をした糸(耐炎化繊維)の比重を測定することで可能である。比重の測定は、炭素繊維用前駆体繊維と同様にアルキメデス法を用いることができる。
【0061】
耐炎化繊維の比重は、好ましくは1.360〜1.385、より好ましくは1.363〜1.383、更に好ましくは1.365〜1.380がよい。
【0062】
なお、耐炎化糸の構造を規定するのに重要な環化率及び酸化度については、以下に示す方法で行うことができる。環化率については、X線回折測定から得られるAI(芳香族化係数)値で示すことができる。AI値が、0.65〜0.70の範囲にあることが好ましい。
【0063】
酸化度については、耐炎化糸の表面を、X線光電子分光法により評価することができる。このX線光電子分光法により得られる表面Si量に対する表面酸素量が、O/Si≧1、であることが好ましい。耐炎化糸の表面付近では、炭素繊維用前駆体繊維に付与した油剤の影響によるSiの酸化物、ポリアクリロニトリルの酸化によるアミド形成、その環化物への酸化等により、さまざまな酸化物の構造を有しているが、表面付近の元素割合として酸素と珪素の比が1以上の際に好ましい構造となる。
【0064】
軽量化炭素繊維を製造するのに好ましい耐炎化糸の構造は、従来の耐炎化糸と比較して、環化率は同等未満でかつ酸化率が同等より高いものが良い。
【0065】
上記耐炎化繊維は、従来の公知の方法を採用して炭素化することができる。例えば、窒素雰囲気下300〜750℃で3室以上に分けた焼成炉(第一炭素化炉)で徐々に温度勾配をかけ、耐炎化繊維の張力を制御して緊張下で1段目の炭素化(予備炭素化)をする。
【0066】
この予備炭素化の度合いは、予備炭素化処理後の繊維のX線回折によるLcを測定することにより評価できる。Lcの測定は、炭素繊維と同様に求めることができる。
【0067】
予備炭素化処理後の繊維のX線回折測定によるLc(nm)は、好ましくは1.55〜1.56である。
【0068】
より炭素化を進め且つグラファイト化(炭素の高結晶化)を進める為に、窒素等の不活性ガス雰囲気下で昇温し、2室以上に分けた焼成炉(第二炭素化炉)で徐々に温度勾配をかけ、糸(予備炭素化繊維)の張力を制御して弛緩条件で焼成する。弛緩条件については、収縮比(弛緩後の長さ/弛緩前の長さ)が好ましくは0.9〜1.0の範囲、より好ましくは0.92〜0.99の範囲、更に好ましくは0.95〜0.98の範囲がよい。
【0069】
焼成温度については、第二炭素化炉で温度勾配をかけていき、最高温度領域で、好ましくは1300℃から1500℃、より好ましくは1350℃から1450℃がよい。
【0070】
温度勾配については、好ましくは、400℃/分以上の昇温、より好ましくは400〜1000℃/分の昇温、更に好ましくは、500〜900℃/分の昇温である。生産性やコスト面から炉長があまり長すぎるのは好ましくなく、また、炉内の高温部での滞留時間が長くなると、グラファイト化が進み過ぎ、脆性化した炭素繊維が得られることになるので好ましくない。また、温度勾配が緩く、滞留時間が長くなると、炭素繊維内部の構造において、緻密化が進んでしまうため、低比重の炭素繊維が得られなくなる。上記範囲の温度勾配、最高温度領域で、滞留時間を設定することにより、炭素繊維内部の構造において疎の部分が存在しているものの、疎と密の部分が均一に分散して存在していることにより、低比重でかつ従来の汎用炭素繊維が有する繊維特性を有することができる。
【0071】
得られた炭素繊維は、酸若しくはアルカリ水溶液を用いた電解層中で電解酸化処理して、表面処理する。炭素繊維を樹脂と複合化させて材料として使用する場合は、炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性を向上させる目的で行う必要がある。
【0072】
電解処理の電解液としては、酸性若しくはアルカリ性のものが使用できる。酸性のものとして、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸、それらのアンモニウム塩、硫酸水素アンモニウム等がある。
【0073】
これらの電解液のうちでも、好ましくは、弱酸性を示す硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム等のアンモニウム塩がよい。
【0074】
なお、アルカリ性のものは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等が挙げられるが、アルカリ金属を含む電解液を用いると炭素繊維の耐熱酸化性が低下し、また、樹脂の硬化を妨げる働きがあるため、あまり好ましくない。
【0075】
電解酸化する際の電気量は、炭素繊維外層部のグラファイト化の度合いに伴い調整する必要がある。樹脂との複合化をすることを踏まえると、親和性を向上する炭素繊維1g当り6c以上が好ましい。なお、電気量が多すぎると炭素繊維表面の小規模欠陥を取り除く以上に表面が酸化され、欠陥を新たに生じさせる場合があり、多くとも30c以下が好ましい。
【0076】
また、電解酸化による表面処理を施した後は、電解液やその副生成物等が炭素繊維に付着しているので、よく水洗し、乾燥する必要がある。さらに、炭素繊維の後加工をしやすくし、取扱性を向上させる目的で、サイジング処理する。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、均一付着させた後に、乾燥する。付着量は、好ましくは、0.1〜2.0質量%、より好ましくは、0.5〜1.5質量%である。
【0077】
なお、X線回折測定での002面に対する結晶子サイズについては、次のようにして求めることができる。
【0078】
炭素繊維もしくは予備炭素化繊維ストランドを、単繊維約24000本(例えば単繊維12000本の炭素繊維束を2束)で構成させ、アセトンを用いて収束して繊維軸方向に繊維を引揃える。
【0079】
直径1cmの穴をあけた台紙に、穴の部分が繊維の中央に来るように、繊維を引揃えた長さ3cmの炭素繊維ストランドを貼付ける。繊維軸と治具の軸が平行になるように、台紙に貼った炭素繊維ストランドを試料調整用治具に、緊張させた状態で固定する。
【0080】
更に、この治具を透過法による広角X線回折測定試料台に固定する。X線源として、CuのKα線を使用し、試料に照射すると、2θが26度付近に002面の回折パターンが現れる。
【0081】
この回折パターンから、結晶子サイズLc(nm)を下式
Lc=λ/(βcosθ)
〔式中、λはX線の波長0.15418nm、βは半値幅、θは回折角である。〕
によって求めることができる。
【0082】
配向度π002(%)については、上記の測定によって得た回折パターンのピーク(2θ)の位置で、測定試料台を0〜360度回転させ円周方向にスキャンして、半値幅Hを求め、下式
π002={(180−H)/180}×100
によって求めることができる。
【0083】
炭素繊維前駆体繊維の配向度については、2θが17度付近に回折パターンのピークが現れるので、上記と同様に円周方向にスキャンして得られた半値幅Hから求めることができる。
【0084】
一方、耐炎化糸のAI値については、上記の炭素繊維のLc測定と同様に測定用サンプルを作成し、2θが10〜40度の範囲で測定し、2つの回折パターンが現れる。
【0085】
次に、2θが10〜40度の範囲で空気散乱を測定し、2θが17度付近と26度付近のピーク強度から空気散乱の強度を引いた値を用い、下式からAI値(芳香族環化係数)を計算する。
【0086】
X=26度付近のピーク強度−同角度での空気散乱の強度
Y=17度付近のピーク強度−同角度での空気散乱の強度
AI値=X/(X+Y)
耐炎化糸の表面珪素に対する表面酸素の濃度O/Siは、次の手順に従ってXPS(ESCA)によって求めた。
【0087】
耐炎化糸をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10−6Paの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせる。Si1sピーク面積は、92〜116eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。表面珪素に対する表面酸素の濃度O/Siは、上記C1sピーク面積とSi1sピーク面積の比で計算して求めた。
【0088】
電気抵抗値の測定に関しては、JIS−R−7601に規定する体積抵抗率のストランドの試験A法を参考に行うことができる。ただし、JIS−R−7601では、電気抵抗値に、炭素繊維の比重を掛け合わせた体積抵抗率を求めており、電気抵抗値〔X(Ω・g/m)〕を求めるには、下式を用いて行った。
X = Rb×t/L
Rb:試験片長Lのときの電気抵抗(Ω)、t:試験片の繊度(tex)、L:抵抗測定時の試験片長(m)
尚、抵抗測定時の試験片長については、1m程度で測定することが好ましい。
【0089】
【実施例】
本発明について、実施例を挙げて更に詳しく説明する。特に指定しない限り「%」、「部」は質量基準である。
【0090】
[実施例1]
塩化亜鉛水溶液を溶媒とする溶液重合法により、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル4質量%、イタコン酸1質量%とからなる重合度が1.6、ポリマー濃度7.5質量%のポリマー原液を得た。
【0091】
このポリマー原液を、12000フィラメント用の口金を通して、5℃の25質量%塩化亜鉛水溶液中に吐出して凝固させ、凝固糸を得た。
【0092】
この凝固糸を水洗し、90℃で熱延伸し、アミノ変性シリコーン系油剤とジアルキルスルホサクシネートの混合物を0.4質量%付着させ、熱風乾燥機を用いて70〜140℃で乾燥緻密化、110〜120℃で延伸比4.6にて湿熱延伸し、水分率を40質量%に調整して、単繊維繊度が0.95dの炭素繊維用前駆体繊維を得た。繊維比重は、1.166、L値は17、X線回折による配向度は、89.4%であった。
【0093】
得られた炭素繊維用前駆体繊維を空気中250℃から270℃の温度分布を持った雰囲気下で、延伸比0.88で耐炎化させた。耐炎化糸の比重は1.375であった。
【0094】
この耐炎化糸を、不活性雰囲気中300〜720℃の温度分布を持った第一炭素化炉において、延伸比1.03で炭素化させ、更に、不活性雰囲気中で最高温度が1400℃になるように設定(雰囲気中の温度分布:300〜1400℃)した第二炭素化炉で炭素化させた。
【0095】
次に、10質量%硫酸アンモニウム水溶液を電解液として、炭素繊維1g当り15cの電解酸化処理をした後、水洗し、更にサイジング処理してサイジング剤−水エマルジョン溶液(濃度3質量%)を付着させ、これを150℃で乾燥した。サイジング剤の付着量は1.3質量%であった。このようにして得られた製造工程での中間体繊維(炭素繊維用前駆体繊維及び耐炎化糸)の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0096】
[実施例2]
塩化亜鉛水溶液を溶媒とする溶液重合法により、ポリマー原液の濃度を7.8質量%に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0097】
[実施例3]
塩化亜鉛水溶液を溶媒とする溶液重合法により、ポリマー原液の濃度を8.1質量%に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0098】
[実施例4]
耐炎化糸を第一炭素化炉で焼成する際の温度範囲を300〜680℃に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0099】
[実施例5]
耐炎化の際に、延伸比を0.85に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0100】
[実施例6]
耐炎化の際に、延伸比を0.92に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0101】
[比較例1]
塩化亜鉛水溶液を溶媒とする溶液重合法により、ポリマー原液の濃度を7.2質量%に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0102】
[比較例2]
塩化亜鉛水溶液を溶媒とする溶液重合法により、ポリマー原液の濃度を6.8質量%に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0103】
[比較例3]
塩化亜鉛水溶液を溶媒とする溶液重合法により、ポリマー原液の濃度を8.5質量%に変更した以外は、実施例1と同様に行った。しかし、紡糸工程でトラブルが多発し、満足の行く炭素繊維前駆体繊維を得ることができなかった。
【0104】
[比較例4]
耐炎化糸を第一炭素化炉で焼成する際の温度範囲を300〜790℃に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0105】
[比較例5]
耐炎化糸を第一炭素化炉で焼成する際の温度範囲を300〜630℃に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0106】
[比較例6]
耐炎化の際に、延伸比を0.80に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0107】
[比較例7]
耐炎化の際に、延伸比を0.96に変更した以外は、実施例1と同様に行った。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0108】
[比較例8]
実施例1と同様にポリマー原液を作製し、12000フィラメント用の口金を通して、8℃の25質量%塩化亜鉛水溶液中に吐出して凝固させ、凝固糸を得た。その後、熱風乾燥機を用いて70〜135℃で乾燥緻密化、115〜125℃で延伸比4.6にて湿熱延伸し、水分率を40質量%に調整して、単繊維繊度が0.95dの炭素繊維用前駆体繊維を得た。繊維比重は、1.147、L値は21、X線回折による配向度は、89.2%であった。この炭素繊維前駆体繊維を用いて実施例1と同様に焼成した。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0109】
[比較例9]
実施例1と同様にポリマー原液を作製し、12000フィラメント用の口金を通して、2℃の25質量%塩化亜鉛水溶液中に吐出して凝固させ、凝固糸を得た。その後、熱風乾燥機を用いて70〜140℃で乾燥緻密化、108〜118℃で延伸比4.7にて湿熱延伸し、水分率を40質量%に調整して、単繊維繊度が0.94dの炭素繊維用前駆体繊維を得た。繊維比重は、1.180、L値は13、X線回折による配向度は、89.7%であった。この炭素繊維前駆体繊維を用いて実施例1と同様に焼成した。このようにして得られた製造工程での中間体繊維の特性を表1に、炭素繊維の物性を表2に示す。
【0110】
【表1】
Figure 2004232155
【0111】
【表2】
Figure 2004232155
【0112】
表1及び表2に示した結果から明らかなように、本発明の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、比重が低く、ストランド強度及び弾性率が良好であり、且つ、電抵特性に優れたものであった。
【0113】
また、本発明の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法によれば、上記の特性に優れた軽量化ポリアクリロニトリル系を得ることができる。
【0114】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の汎用炭素繊維と同等の性能(強度、弾性率)を有し、かつ軽量な低比重のポリアクリロニトリル系軽量化炭素繊維及びその製造方法を提供することができる。

Claims (5)

  1. ストランド強度が3900〜5000MPa、弾性率が225〜235GPa、比重が1.63以上1.69未満の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維。
  2. 炭素繊維ストランドの単繊維径平均が6〜8μmであり、炭素繊維ストランドの電気抵抗値が24〜27Ω・g/mの範囲にある請求項1に記載の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
  3. アクリロニトリルを94質量%以上含有する単量体を重合した共重合体を紡糸して得られた糸を、油剤としてアミノ変性シリコーン及びジアルキルスルホサクシネートを含むエマルジョン水溶液を乾燥質量で0.3〜0.5%付着させた後、70〜150℃の乾燥機で乾燥緻密化後、温度100〜130℃、延伸比4.0〜6.0の条件で湿熱延伸処理して炭素繊維用前駆体繊維を得、得られた前駆体繊維を、そのまま加熱空気中230〜270℃、延伸比0.84〜0.93で熱処理して耐炎化繊維を得、得られた耐炎化繊維を、不活性雰囲気中300〜750℃、延伸比1.01〜1.05で炭素化し、更に不活性雰囲気中300〜1500℃で炭素化する請求項1又は2に記載の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
  4. 耐炎化繊維のX線回折測定で得られるAI値が0.65〜0.70の範囲であり、耐炎化繊維のX線光電子分光法により測定される表面Si量(Si)に対する表面酸素量(O)が、O/Si≧1.0であり、かつ、耐炎化繊維の比重が1.360〜1.385の範囲である請求項3に記載の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
  5. 炭素繊維用前駆体繊維のアルキメデス法による比重が1.160〜1.175の範囲であり、炭素繊維用前駆体繊維の水分率が20〜60質量%である請求項3に記載の軽量化ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
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