JP2007039780A - 溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板ならびにそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Si:0.1〜3.0mass%を含有する鋼板を下地として、該鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを施すに先立ち、該下地鋼板の表面にヘマタイト含有率:70mass%以下となる酸化皮膜を形成し、ついで還元処理を行った後、溶融亜鉛めっきを施す。
【選択図】図1
Description
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板は、スラブを熱間圧延した後に冷間圧延あるいは熱処理が施された薄鋼板を下地として用い、この下地鋼板の表面を前処理工程にて脱脂および/または酸洗して洗浄するか、あるいは前処理工程を省略して予熱炉内で下地鋼板表面の油分を燃焼除去した後、非酸化性雰囲気中または還元性雰囲気中にて再結晶焼鈍を施し、ついで非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で鋼板をめっきに適した温度まで冷却してから、大気に触れることなく微量Al(0.1〜0.2mass%程度)を添加した溶融亜鉛浴中に浸漬することによって製造される。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき後の鋼板を引き続いて合金化炉内で熱処理することによって製造される。
鋼板の高強度化手段としては、SiやMn,P等の固溶強化元素の添加が行われている。中でもSiは、鋼の延性を損なわずに高強度化できる利点があるため、Si含有鋼板は高強度鋼板として有望視されている。
しかしながら、Si含有高強度鋼板を下地とする溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板には、以下のような問題がある。
また、溶融めっきに先立って硫黄または硫黄化合物をS量として0.1〜1000mg/m2付着させた後、予熱工程を弱酸化性雰囲気で行い、その後水素を含む非酸化性雰囲気中で焼鈍する方法が提案されている(例えば特許文献2)。
さらに、Mn,P,Siを含む高張力鋼板の表面に、Sを含有するアンモニウム塩をS換算で0.1〜1000mg/m2付着させたのち熱処理を施すことで、鋼板の地鉄中にS成分を拡散させ、鋼中のMnと反応したMnS等の硫黄化合物を生成させることで、Mnの表面濃化を抑制すると共に、硫黄濃化層の存在によりSiの鋼板表面への拡散経路を遮断して、Siの表面濃化をも抑制する方法が提案されている(特許文献3)。
その結果、溶融めっき時における不めっきの発生を十分には抑制できず、また合金化する場合には、合金化過程において懸念される合金化の著しい遅延という問題を十分に解決することができない。
また、還元焼鈍時のSi表面濃化抑制が不十分な場合は、Zn−Fe合金化反応の均一性が著しく阻害され、これにより合金化終了後のめっき表面は、不均一合金化によるZn−Fe合金層の凹凸が顕著になり、プレス成形時の摺動性が著しく劣化してしまう。
従って、鋼中Si濃度が高い鋼板の場合、何らかの方法で酸化を促進することが必要となる。
そこで、さらに検討を重ねた結果、十分な量の酸化鉄を形成することもさることながら、その酸化鉄の組成が重要であることを見出した。
具体的には、表面に形成する酸化鉄の組成を、ヘマタイトの含有率を70mass%以下とすることが、不めっきや合金化遅延を回避するために非常に有効であるという知見を得た。そして、ヘマタイトの含有率が70mass%以下である酸化鉄を得るには、酸化処理に先立って特定の成分を鋼板表面に付着させると共に、適正な酸化処理条件を採用することが重要であることを見出した。すなわち、鋼板の表面に、予めS,C,Cl,Na,K,B,P,FおよびNなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を付着させたのち、550℃超の温度で酸化処理を行うことで、所期した目的が達成できることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
(1)Si:0.1〜3.0mass%を含有する鋼板を下地として、該鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを施すに先立ち、該下地鋼板の表面にヘマタイト含有率:70mass%以下となる酸化皮膜を形成し、ついで還元処理を行った後、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
また、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、Si含有高強度鋼板を下地しているにもかかわらず、不めっきのない美麗な表面外観を有し、さらにめっき密着性および摺動性にも優れているという利点を有している。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、鋼板に溶融亜鉛めっきを施すに先立ち、鋼板を酸化させてヘマタイト含有率:70mass%以下の酸化皮膜を形成させてから、これを還元することが肝要である。一般に、鋼板を酸化させるとウスタイト(FeO)、マグネタイト(Fe3O4)およびヘマタイト(Fe2O3)からなる酸化皮膜が形成するが、鋼中Si濃度が0.1mass%以上と高い鋼板の場合、酸化皮膜中のヘマタイト含有率が高くなることが知られている(例えば、日新製鋼技報No.77,p.1(1988)参照)。
この酸化皮膜中におけるヘマタイト含有率を70mass%以下に抑制することで溶融亜鉛との濡れ性が改善され、不めっきの発生を完全に防止することができるだけでなく、合金化する場合には、その合金化の促進も達成することができる。これに対し、ヘマタイト含有率が70mass%を超えると、溶融亜鉛との濡れ性が低下し、不めっきの発生を完全に防止することができなくなる。なお、ヘマタイトは抑制することが好ましいことから、ヘマタイトの含有率は0mass%であってもよいことは勿論である。
ここで、特定元素とは、S,C,Cl,Na,K,B,P,FおよびNであり、これらのいずれか1種または2種以上を含有する化合物、あるいはこれらの元素を単体で(単体で付着させることが可能なものに限る)付着させる必要がある。かような特定元素を含有する化合物としては、以下のようなものが挙げられる。
硫酸(H2SO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、硫化ナトリウム(Na2S)、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)、硫化アンモニウム((NH4)2S)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、硫酸水素ナトリウム(NaHSO4)、硫酸水素アンモニウム(NH4HSO4)、硫酸カリウム(K2SO4)、硫酸鉄(FeSO4,Fe2(SO4)3)、硫酸アンモニウム鉄(Fe(NH4)2(SO4)2,FeNH4(SO4)2)、硫酸バリウム(BaSO4)、硫化アンチモン(Sb2S3)、硫化鉄(FeS)、チオ尿素(H2NCSNH2)、二酸化チオ尿素((NH2)2CSO2)、SCH基のチオフェン酸塩類およびSCN基を有するチオシアン酸塩類等のS含有化合物、
塩酸(HCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、塩化アンチモン(SbCl3)、塩化カリウム(KCl)、塩化鉄(FeCl2,FeCl3)、塩化チタン(TiCl4)、塩化銅(CuCl)、塩化バリウム(BaCl2)、塩化モリブデン(MoCl5)および塩素酸ナトリウム(NaClO3)等のCl含有化合物、
水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫化ナトリウム(Na2S)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、塩化ナトリウム(NaCl)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、クエン酸ナトリウム(Na3C6H5O7)、シアン酸ナトリウム(NaCNO)、酢酸ナトリウム(CH3COONa)、リン酸水素ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸ナトリウム (Na3PO4)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、硝酸ナト リウム(NaNO3)、シュウ酸ナトリウム((COONa)2)、四ほう酸ナトリウム(Na2B4O7)および酸化ナトリウム(Na2O)等のNa含有化合物、
水酸化カリウム(KOH)、酢酸カリウム(CH3COOK)、ほう酸カリウム(K2B4O7)、炭酸カリウム(K2CO3)、塩化カリウム(KCl)、シアン酸カリウム(KCNO)、クエン酸水素カリウム(KH2C6H5O7)、フッ化カリウム(KF)、モリブデン酸カリウム(K2MoO4)、硝酸カリウム(KNO3)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、リン酸カリウム(K3PO4)、硫酸カリウム(K2SO4)、チオシアン酸カリウム(KSCN)およびシュウ酸カリウム((COOK)2)等のK含有化合物、
ほう酸(H3BO3)、ほう酸カリウム(K2B4O7)、四ほう酸ナトリウム(Na2B4O7)、ほう酸鉛(Pb(BO2)2)およびほう酸マンガン(MnH4(BO3)2)等のB含有化合物、
リン酸(H3PO4)、リン酸カリウム(K3PO4)、リン酸アンモニウム((NH4)3PO4) 、リン酸ナトリウム(Na3PO4)、リン酸水素ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸鉄(FePO4)、ホスホン酸(H3PO3)およびホスフィン酸(H3PO2)等のP含有化合物、
フッ化アンチモン(SbF3)、フッ化アンモニウム(NH4F)、フッ化カリウム(KF)、フッ化水素アンモニウム(NH4FHF)、フッ化水素酸(HF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化バリウム(BaF)およびフッ化コバルト(CoF3)等のF含有化合物、
シュウ酸およびシュウ酸塩類、クエン酸およびクエン酸塩類、そして硝酸および硝酸塩類をはじめとする、CおよびN含有化合物
等を用いることができる。
前記化合物を付着させる前に、必要に応じて電解脱脂や酸洗等の従来から用いられている前処理を施すことも可能である。また、前記化合物を付着させた後に、必要に応じて電解脱脂や酸洗等の従来から用いられている前処理を施したとしても、前記化合物が鋼板上に付着していれば本発明の効果を得ることができる。さらに、前記化合物を含む圧延油を用いて圧延時に付着させる方法を用いてもよい。
いずれにしても、鋼板を酸化させる際に前記特定元素を含む化合物が鋼板表面に付着していれば良いのである。
すなわち、鋼中Si濃度の高い鋼板の場合、従来技術による酸化手段では鋼中のSiは酸化鉄と下地鋼板との界面に濃化して層状で緻密なSiの酸化膜を形成する。この層状のSiの酸化膜は下地からのFe拡散を阻害するため、酸化鉄の成長が著しく抑制されると共に、金属イオン過剰型(n型)の酸化物であるヘマタイト(Fe2O3)含有率の高い酸化鉄となる。一方、特定元素を含有する化合物を鋼板表面に付着させると、前記酸化鉄と下地鋼板との界面のSi酸化膜の生成が阻害されるため、下地からのFe拡散が容易になる。その結果、金属イオン不足型(p型)の酸化物であるマグネタイト(Fe3O4)やウスタイト(FeO)の含有率の高い酸化鉄となり、結果としてヘマタイト含有率を低減することが可能になるのである。
加熱手段としては、バーナー加熱,誘導加熱,放射加熱および通電加熱など、従来から使用されている加熱方式でよく、特に限定するものではない。例えば、バーナー加熱方式としては、従来用いられている酸化炉や無酸化炉等の加熱炉を使用することができる。無酸化炉の場合、例えば直火バーナーの空燃比を1.0超えとすることで容易に鋼板を酸化することができる。
なお、上記は代表的な例を示したのであって、いずれにしても鋼板を酸化させることができれば良く、その手段は特に限定するものではない。
なお、製品の用途によっては、めっき温度やめっき浴組成等のめっき条件を変更する場合があるが、めっき条件の違いは本発明の効果に何ら影響を与えるものではなく、特に限定されるものではない。例えば、めっき浴中にAl以外に、Pb,Sb,Fe,Mg,Mn,Ni,Ca,Ti,V,Cr,Co,Sn等の元素が混入していても本発明の効果は何ら変わらない。
前述したように、高張力鋼板に対してを溶融亜鉛めっきを施す場合、一般的に知られているように焼鈍前の鉄の酸化は有効ではあるが、Si含有鋼をめっきする場合には先に述べたようにSi含有鋼自体に十分な量の酸化膜を付与することが困難で、これが原因となって良好なめっき性および密着性を有する溶融亜鉛めっき層を得ることが困難になっている。
本発明では、特定元素を焼鈍前、つまり鋼板の酸化の前に鋼板に付与することにより、Si含有鋼であっても、ヘマタイト含有率が70%以下でかつ十分な量の鉄の酸化膜を形成することができ、続いて行われる焼鈍時にSiの表面濃化を効果的に抑制して、良好なめっき層を得ることができる。これにより、不めっきのない表面外観が良好な溶融亜鉛めっき層が得られるだけでなく、合金化溶融亜鉛めっきの場合には合金化温度の低減が可能となり、密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提供が可能となる。
また、上述の特定元素を付着させて酸化処理を行うと、酸化処理時の鉄酸化物の形成量が大きくなる一方で、Siの酸化物が鉄酸化物と地鉄との界面および地鉄側内部に形成される。そして、後続する還元処理により鉄酸化物が還元されるため、Siの酸化物は地鉄内部に残存することになり、めっき後にはめっき層直下にSiを含有する酸化物が存在することになる。このSiを含有する酸化物の存在は、後述するように溶融亜鉛めっき鋼板あるいは合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性および摺動性の向上にも寄与する。
ここに、Siを含有する酸化物としては、SiO2,FeSiO3,Fe2SiO4,MnSiO3等 が挙げられるが、本発明ではその種類は限定されない。
本発明では、下地鋼板中のSi含有量を0.1〜3.0mass%の範囲に限定した。この理由は、Si含有鋼を下地鋼板とした場合に従来問題となっていためっき密着性や摺動性を問題としていること、および前述したSiを含有する酸化物が得るためには下地中にSiが含有されている必要があることによる。
鋼中のSi含有量が0.1mass%未満では、めっき層直下に前述したSiを含有する酸化物を十分に形成させることができず、本発明の効果が得られない。
C:0.5mass%以下
Cは鋼中に含有される元素であり、0.0001〜0.5mass%の範囲で含有される。本発明においても下地鋼板中にこの範囲でCが含有されていよい。また、Cは、高強度化に対して有用なだけでなく、強度−延性バランスを向上させるために残留オーステナイトを生成させる等、組織制御を行う場合に有用な元素である。これらの作用を発現させるには、0.05mass%以上含有されていることが好ましい。しかしながら、含有量が0.25mass%を超えると、溶接性が劣化するため、0.25mass%を上限とすることが好ましい。
Mnは、鋼の高強度化に有用な元素であり、5mass%以下の範囲で鋼中に含有される元素であり、本発明においても下地鋼板中にこの範囲でMnが含有されていてよい。特に、0.1mass%以上、好ましくは0.5mass%以上含有させることによってその効果を発揮することができる。しかしながら、Mnも、Siと同様に、焼鈍時に酸化膜を形成する元素であり、その含有量が3.0mass%を超えて 多量に含有されると上述したようにめっき層直下に特定元素の濃化層およびSiを含有する酸化物を形成させたとしても、めっき密着性が劣化する傾向がある。また、溶接性や強度−延性バランスの確保にも悪影響を及ぼす。このため、Mn含有量は3.0mass%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.5〜3.0mass%の範囲である。
Alは、Siと補完的に添加される元素であり、0.01%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Al量が5.0mass%を超えると上述したようにめっき層直下に特定元素の濃化層およびSiを含有する酸化物を形成させたとしても、めっき密着性が劣化する傾向がある。また、溶接性や強度−延性バランスの確保にも悪影響を及ぼす。従って、Alは5.0mass%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01〜3.0mass%の範囲である。
なお、上記の元素を複合して使用する場合、合計量が5mass以下の範囲とすることが好ましい。残部はFeおよび不可避的不純物である。
すなわち、溶融亜鉛めっき鋼板において、下地鋼板の表面に本発明に従う特定成分の濃化層を生成させた場合は、溶融めっき時に、めっき層/鋼板界面に生成されるFe−Al金属間化合物と素地鋼板との整合性が密着性に有利なように変化するためと考えられる。
また、下地鋼板の表面に本発明に従う特定成分の濃化層を生成させた場合、かかる特定成分は、溶融亜鉛めっき時に不可避的に溶出して、めっき層中に取り込まれ、一部めっき表層に存在するようになる。これにより、かような濃化層を有しない通常の溶融亜鉛めっき鋼板に比べて摺動性が向上するものと考えられる。
一般的に、合金化処理を施した場合、めっき層/鋼板界面に鋼板よりも硬度の高いΓ相が生成し、このΓ相と鋼板の硬度差に起因してめっき密着性の劣化が避けられなかったのであるが、本発明に従いめっき層の直下に特定成分の濃化層を生成させた場合には、めっき層/鋼板界面近傍の鋼板の機械的特性とくに硬度がΓ相のそれに近い値となるため、鋼板変形時にめっき/鋼板界面に付与される歪が効果的に減少する。その結果、めっき密着性が向上するものと考えられる。
なお、本発明に従い、鋼板表面に本発明に従う特定成分の濃化層を生成させた場合、焼鈍時のSiの表面濃化が抑制されるため、比較的低温で合金化が可能となり、その結果、密着性に不利なΓ相の生成が抑制されという利点もある。
しかしながら、先の密着性の場合と同様、めっき層の直下に特定成分の濃化層を生成させた場合には、通常の場合に比べて焼鈍時のSi表面濃化が抑制され、合金化が促進されるために、Zn−Fe反応も均一であり、めっき層は平滑となる。また、結晶粒も微細となり、先述の通常の製法で製造したSi含有鋼に比べて良好な摺動性を示すことになる。
すなわち、濃化層中にSiを含有する酸化物を生成させることにより、めっき/鋼板界面の形状が凹凸になり、このアンカー効果により密着性は改善される。その結果、加工時における摺動性も向上する。なお、この効果は、溶融亜鉛めっき鋼板の場合も、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合も同じである。
このように、めっき層直下に、特定元素の濃化層を形成し、かつこの濃化層中にSiを含有する酸化物を存在させると、両者の相乗効果により、密着性は飛躍的に向上し、また摺動性も向上するのである。
なお、かような濃化層は、実施例でも示すように、GDSを用いてめっき鋼板の表面から深さ方向の濃化成分のDepth Profileを求めるか、あるいはめっ き鋼板の断面をEPMAを用いて線分析を行うことにより得られるDepth Profile で、界面近傍に現れるピーク強度が、地鉄の強度よりも10%以上高くなった領域として示される。
ここに、濃化層を、特定成分の界面近傍におけるピーク強度が、地鉄の強度よりも10%以上高い領域と規定した理由は、この増分が10%未満では還元焼鈍時におけるSiの表面濃化を十分に抑制することができないからである。
すなわち、濃化成分と下地鋼中成分との化合物が島状に分散した存在形態の場合、EPMAによる断面の線分析では、化合物が存在しない部分を分析することも有り得る。そのため、EMPAによる線分析を用いる場合には、鋼板断面において任意の場所5箇所について測定を行い、濃化元素の強度が地鉄の強度よりも10%以上高い領域の厚さを求め、5回の測定についての厚さの平均値を求めることで濃化層厚さを測定するものとする。
なお、かような酸化物を特定するに当たり、酸化物中にがSiを含有していることはTEM レプリカ法で調整したサンプルのEDX分析により確認できる。
なお、化合物の同定、分散状況や個数の判定は、めっき鋼板の断面のSEM観察もしくは TEM観察に加え、必要に応じてEDSや電子線回折(TED)等を利用することにより行うことができる。
表1に示す22種類の冷延鋼板および2種類の熱延鋼板を供試材として、5mass%NaOH溶液で電解脱脂(80℃×5秒、5A/dm2)を行い、(a)リン酸(100g/l)、(b)塩酸(1g/l)、(c)フッ化ナトリウム(2g/l)、(d)チオ硫酸ナトリウム(20g/l)および(e)水酸化カリウム(100g/l) 、(f)チオシアン酸アンモニウム(50g/l)、(g)硫酸(50g/l)、(h)硫酸アンモニウム(30g/l)、(i)チオ尿素(20g/l)、(j)硫酸ナトリウム(50g/l)、(k)硫酸鉄(20g/l)、(l)硫酸(10g/l)、(m)硫酸アンモニウム(5g/l)、(n)チオ尿素(1g/l)、(o)硫酸アンモニウム(150g/l)をそれぞれ含有する水溶液を、バーコーターにより表2に示すように付着量を変えて鋼板表面に塗布した後、乾燥機で乾燥させた。
また、比較として加熱処理を行わずに焼鈍してめっきすることも実施した。
加熱条件は、大気中で鋼板の最高到達温度を変化させた。なお、最高到達温度での保持時間は1秒とし、その後窒素ガスにて急冷した。
焼鈍条件は、10vol%水素+窒素雰囲気中(露点:−35℃)で板温:830℃,保持時間:45秒の条件で行った。
めっき条件は、Alを0.14mass%含む(Fe飽和)460℃の亜鉛めっき浴を用い、侵入板温:460℃および浸漬時間:1秒であり、めっき後の表面外観を評価した。めっき後、窒素ガスワイパーで付着量を片面:45g/m2に調整 した。
得られた溶融亜鉛めっき鋼板について、後述する手法に従い、特定元素濃化層厚みおよび濃化度の測定、めっき層下のSiを含有する酸化物の定量を行うと共に、さらに後述する評価基準に従ってめっき外観およびめっき密着性の評価を行った。
これらの評価結果を、表2に併記する。
<特定元素濃化層厚みおよび濃化度測定>
得られた溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して、断面についてのEPMAによる線分析および/またはGDS測定を以下の条件で行い、得られたDepth Profile(例えば図1または図2)から、めっき/鋼板界面より地鉄側において、界面近傍に現れる濃化元素のピーク強度が、地鉄部分における同元素の強度よりも10%以上高くなっている領域の厚さを濃化層厚さとした。また、地鉄における強度Bに対するピーク強度Aの増分として濃化度を測定した(濃化度[%]=(強度A−強度B)/強度B×100[%])。ここで、濃化度が10%未満である場合については、濃化層厚さは、Depth Profileについて地鉄における濃化元素の強度Bよりも若干高くなっている領域の厚さを表中に記載した。また、EPMAによる線分析については、鋼板断面において任意の場所5箇所について測定を行い、濃化元素の強度が地鉄の強度よりも10%以上高い領域の厚さを求め、5回の測定についての厚さの平均値、ピーク強度Aの平均値を求めることで濃化層厚さおよび濃化度とした。GDSによる測定においてスパッタ時間から濃化層厚への換算は以下のGDS条件での鉄のスパッタ速度:0.04μm/sec.から換算した。
(EPMA測定条件)
加速電圧:20 kV
ビーム電流:0.05 μA
(GDS測定条件)
管電流:30mA
アルゴンガス流量:400ml
得られた溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して、めっき層を以下に示すアルカリ溶液にて溶解除去し、この鋼板と鋼板両面を100μm 機械的に研削した鋼板との酸素分析値の差から求めた。また、この酸化物中にSiが含有されていることは、TEMレプリカ法で調整したサンプルのEDX分析により確認されている。
(アルカリ溶液)
NaOH:8.2%
トリエタノールアミン:2.1%
H2O2:1.2%
得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、目視および10倍のルーペにて外観観察を行い、不めっきが全くない場合を不めっきなしとし、10倍のルーペにて観察可能な微小の不めっきがある場合を微小不めっき有りとし、目視にて不めっきが観察できる場合を不めっき有りとした。
○:不めっきなし
△:微小不めっき有り
×:不めっき有り
得られた溶融亜鉛めっき鋼板について、ボールインパクト試験を行い、テープ剥離した際のめっき剥離状態を評価した。試験条件は、直径1/2インチの半球状突起の上に載せた溶融亜鉛めっき鋼板上に、2.8kgの重りを1mの高さから 落下させた後、凸側でテープ剥離を実施した。
○:めっき剥離なし
×:めっき剥離あり
○:合金化温度:500℃以下で合金化完了
×:合金化温度:500℃超で合金化完了
合金化溶融亜鉛めっき鋼板から幅:25mm、長さ:40mmの試験片を切出し、セロハンテープ(ニチバン製、幅:24mm)を長さ:20mmの位置に貼り、テープ面を90°内側に曲げた後、曲げ戻しを行ってセロハンテープを剥がした時に付着したZn量を蛍光X線によりカウント数として測定した。測定したZnカウント数を試験片幅:単位長さ(1m)当りのカウント数に補正して、下記の基準に応じて評価した。
○:良好(カウント数:0〜5000)
×:不良(カウント数:5000超)
摺動性については、以下の条件で、以下に示す形状の工具を用いた摺動性試験を行い、引き抜き力Fと押え荷重Pとの比から摩擦係数μを次式から求め、以下の基準で評価した。
μ=2P/F
面圧:9.8 MPa、摺動距離:100 mm、摺動速度:10 mm/s、試料幅:20mm
金型:平面工具(肩R5、#1200 研磨) 試料との接触面積:10×20mm
塗油条件 ノックスラスト550KH:1.0 g/m2塗油
○:良好(μ:0.12未満)
×:不良(μ:0.12以上)
化合物として、(p)塩化カリウム(50g/l)、(q)シュウ酸アンモニウム(100g/l)、(r)硫酸(50g/l)、(s)水酸化ナトリウム(30g/l)および(t)四ほう酸ナトリウム(3g/l)を表3に示す付着量で適用し、加熱処理条件として0.1vol%酸素+窒素雰囲気で処理した以外は、実施例1と同様の条件にて溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製し、同様に評価した。
かくして得られためっき鋼板の評価結果を、表3に併記する。
化合物として、(u)塩化アンチモン(20g/l)、(v)硫酸アンモニウム(30g/l)、(w)塩化鉛(1g/l)、(x)チオ尿素(20g/l)および(y)塩化ナトリウム(25g/l)を表4に示す付着量で適用し、加熱処理条件として空燃比:1.15の直火バーナーを使用して加熱処理した以外は、実施例1と同様の条件にて溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製し、同様に評価した。
かくして得られためっき鋼板の評価結果を、表4に併記する。
化合物として、(イ)硫酸(50g/l)、(ロ)硫酸アンモニウム(30g/l)および(ハ)チオ尿素(20g/l)を表5に示す付着量で適用する以外は、実施例1と同様の条件にて溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。評価方法も実施例1とほぼ同様であるが、耐パウダリング性については、より細かな差を評価するため、
◎:優秀(カウント数:4000未満)
○:良好(カウント数:4000〜5000)
×:不良(カウント数:5000超)
とした。
さらに、それぞれの供試材について、めっき界面近傍の濃化物質の同定および分布状況の確認を、SEMおよびTEMを利用して行った。解析用のサンプルは、供試材を集束イオンビーム(FIB)による断面加工により作製した。SEM観察により、生成した濃化物質の化合物の大きさや個数を判断し、TEM-EDS及び電子線回折により化合物の同定を行った。化合物の個数の評価は、SEMによる断面 観察視野のうち、めっき/地鉄界面平行方向幅:20μm の領域における界面近傍に存在する粒径:50nm以上の化合物の個数について、任意に選ばれる5箇所の平均を評価指標とした。
得られた結果を表5に示す。
Claims (16)
- Si:0.1〜3.0mass%を含有する鋼板を下地として、該鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを施すに先立ち、該下地鋼板の表面にヘマタイト含有率:70mass%以下となる酸化皮膜を形成し、ついで還元処理を行った後、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記下地鋼板の表面に、S,C,Cl,Na,K,B,P,FおよびNなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を付着させたのち、上記の酸化皮膜を形成することを特徴とする請求項1記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- Si:0.1〜3.0mass%を含有する鋼板を下地として、該鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを施すに先立ち、該下地鋼板の表面に、S,C,Cl,Na,K,B,P,FおよびNなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を付着させたのち、500℃超の酸化性雰囲気中で加熱処理を行い、ついで還元処理を行った後、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- Si:0.1〜3.0mass%を含有する鋼板を下地とする溶融亜鉛めっき鋼板であって、溶融亜鉛めっき層の直下に、厚さが0.01〜100μm の、S,C ,Cl,Na,K,B,P,FおよびNなる群から選ばれた少なくとも1種を濃化成分とした濃化層を有し、かつ該濃化層中にSiを含有する酸化物を併せて有することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記濃化層における濃化成分の濃度が、鋼板地鉄中の濃度より10%以上高いことを特徴とする請求項4記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記濃化層中に含まれるSiを含有する酸化物の量が、酸素量換算で0.01〜1g/m2であることを特徴とする請求項4または5記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記濃化層が、濃化成分と下地鋼中成分との化合物が島状に分散した存在形態からなることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記濃化成分がSであり、前記化合物として粒径:50nm以上の粒状のMnSが、任意の鋼板断面において、めっき層と地鉄との界面に平行な方向に20μm 当たり5個以上存在することを特徴とする請求項7記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
- Si:0.1〜3.0mass%を含有する鋼板を下地として、該鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを施すに先立ち、該下地鋼板の表面にヘマタイト含有率:70mass%以下となる酸化皮膜を形成し、ついで還元処理を行った後、溶融亜鉛めっきを施し、さらに該溶融亜鉛めっきの合金化処理を施すことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記下地鋼板の表面に、S,C,Cl,Na,K,B,P,FおよびNなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を付着させたのち、上記の酸化皮膜を形成することを特徴とする請求項9記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- Si:0.1〜3.0mass%を含有する鋼板を下地として、該鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを施すに先立ち、該下地鋼板の表面に、S,C,Cl,Na,K,B,P,FおよびNなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を付着させたのち、500℃超の酸化性雰囲気中で加熱処理を行い、ついで還元処理を行った後、溶融亜鉛めっきを施し、さらに該溶融亜鉛めっきの合金化処理を施すことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- Si:0.1〜3.0mass%を含有する鋼板を下地とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、合金化溶融亜鉛めっき層の直下に、厚さが0.01〜100μm の、S,C ,Cl,Na,K,B,P,FおよびNなる群から選ばれた少なくとも1種を濃化成分とした濃化層を有し、かつ該濃化層中にSiを含有する酸化物を併せて有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記濃化層における濃化成分の濃度が、鋼板地鉄中の濃度より10%以上高いことを特徴とする請求項12記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記濃化層中に含まれるSiを含有する酸化物の量が、酸素量換算で0.01〜1g/m2であることを特徴とする請求項12または13記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記濃化層が、濃化成分と下地鋼中成分との化合物が島状に分散した存在形態からなることを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記濃化成分がSであり、前記化合物として粒径:50nm以上の粒状のMnSが、任意の鋼板断面において、めっき層と地鉄との界面に平行な方向に20μm 当たり5個以上存在することを特徴とする請求項15記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
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