フッ化カルシウムや、フッ化バリウム等のフッ化金属の単結晶体は、広範囲の波長帯域にわたって高い透過率を有し、低分散で化学的安定性にも優れることから、紫外波長または真空紫外波長のレーザを用いた各種機器、カメラ、CVD装置等のレンズ、窓材等の光学材料として需要が広がってきている。とりわけ、フッ化カルシウム単結晶体は、光リソグラフィー技術において次世代の短波長光源として開発が進められているArFレーザ(193nm)やF2レーザ(157nm)での光源の窓材、光源系レンズ、投影系レンズとして期待が寄せられている。
従来、こうしたフッ化金属の単結晶体は、坩堝降下法(ブリッジマン法)や単結晶引上げ法(チョクラルスキー法)により製造するのが一般的である。ここで、坩堝降下法とは、坩堝中の単結晶製造原料の溶融液を、坩堝ごと徐々に下降させながら冷却することにより、坩堝中に単結晶を育成(成長)させる方法である。一方、単結晶引上げ法とは、坩堝中の単結晶製造原料の溶融液面に、目的とする単結晶からなる種結晶を接触させ、次いで、その種結晶を坩堝の加熱域から徐々に引上げて冷却することにより、該種結晶の下方に単結晶を育成(成長)させる方法である(例えば、特許文献1〜3参照)。
これら坩堝降下法や単結晶引上げ法等により製造されるフッ化金属のアズグロウン単結晶体には、集光照明下で観察を行うと、光を散乱して光っている粒として観測される内部欠陥、所謂、散乱体(Scattering body)が多数存在している問題があった。例えば、坩堝降下法により得られるフッ化金属単結晶体の場合、最大直径が20μm以下の散乱体が1cm3当たり160個以下の光学部材を得るために、そのアズグロウン単結晶体全体から該散乱体の少ない単結晶体下部の一部分を選定して切り出さねばならないことが報告されている(特許文献4参照)。また、係る散乱体は、後述するようにその実態はほとんどが空孔であるため、坩堝中に収容された原料溶融液において、下方の液よりも上方の液が結晶化する過程で形成され易い状況があり、単結晶引上げ法により単結晶体を製造する場合には、上記坩堝降下法よりも、さらに激しく形成され易い傾向があった。
しかも、いずれの方法においても、これら散乱体は、小口径のものよりも大口径の単結晶体を製造する場合において、より顕著に発生していた。
散乱体が単結晶体中に多く存在すると、この単結晶体を光学材料に加工した場合には、光の散乱により透過率が低下したり、コントラストが低下したり、フレアやゴーストが発生する虞がある。したがって、単結晶体中において、該散乱体は極力減らす必要があるが、坩堝降下法や単結晶引上げ法において、該散乱体の形成を、光学材料の切り出しにおいて最も有用な箇所である直胴部や、或いはアズグロウン単結晶体全体にわたって有効に抑制する方法は知られておらず、現状では、その形成量が少ない僅かの部分を選択して切り出すしか手はなかった。よって、大口径の光学材料を切り出すことは難しく、また、小口径のものも、係る切り出し部分以外のアズグロウン単結晶体の大部分は不良品にせざるを得ず、製品の歩留まりが著しく低かった。
こうした背景にあって、本発明者らは、前記したとおり一般的には、散乱体の形成がより激しくなるはずである単結晶引上げ法においても、原料フッ化金属の溶融液の深さを、単結晶体の直胴部直径の0.65倍以下の深さにして引上げを行えば、該散乱体の形成を大きく抑制できることを見出し、先に特許出願した(特願2004−309430)。この方法によれば、散乱体形成の原因になる坩堝中での溶融液の自然対流を大きく弱めることができ、その結果、該散乱体の存在量が少ない大口径のフッ化金属のアズグロウン単結晶体を効率的に製造することができる。
さらに本発明者等は、上記0.65倍以下の深さにするという技術をさらに改良し、単結晶体のショルダー部等の上方部においては未だ十分に散乱体を低減できないという欠点を解消する技術として、外坩堝と該外坩堝内に収納されてなる内坩堝とからなる二重坩堝構造を有するフッ化金属単結晶体引上げ用装置を既に提案した(特願2004−370658)。
一方、坩堝降下法や単結晶引上げ法などにより製造されたフッ化金属のアズグロウン単結晶体は、適切な大きさに切断加工後、アニール処理(熱処理)し、さらにレンズ等の形状に加工して光学材料用途等に用いられる(例えば、特許文献5参照)。
フッ化金属、特にフッ化カルシウムなどのフッ化アルカリ土類金属単結晶は、シリコンなどの単金属の単結晶に比べて非常に脆く、結晶の残留応力や歪みが大きいと、上記切断加工の工程でしばしばクラックが入ったり、欠けたりしてしまう。これを防ぐために、坩堝降下法で製造したアズグロウン単結晶体を切断加工に供するに先立ち、一度簡単な熱処理を行うことがしばしば行われている(例えば、特許文献5参照)。
特開2004−182588号公報
特開2005−029455号公報
特開平11−130594号公報
国際公開第02/077676号パンフレット
特開平10−231194号公報
本発明は、原料フッ化金属の溶融液面に種結晶を接触させ引き上げることによりフッ化金属の単結晶体を成長させる、いわゆる単結晶引上げ法(チョクラルスキー法、CZ法などとも呼ばれる)に係るものであり、該成長(引上げ)を、成長炉内の圧力が0.5〜70kPaとなる減圧下に行うことを除けば、従来公知のフッ化金属の単結晶引上げ法と特に変わるところはない。
該フッ化金属の単結晶引上げ法について以下に簡単に説明する。
本発明において、単結晶体を得るフッ化金属としては、単結晶引上げ法で単結晶体が得られるフッ化金属であれば特に制限されることはない。当該フッ化金属を具体的に例示すると、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化アルミニウム、フッ化バリウムリチウム、フッ化マグネシウムカリウム、フッ化アルミニウムリチウム、フッ化カルシウムストロンチウム、フッ化カリウムマグネシウム、フッ化ストロンチウムリチウム、フッ化セシウムカルシウム、フッ化リチウムカルシウムアルミニウム、フッ化リチウムストロンチウムアルミニウム、フッ化ランタノイド類等が挙げられる。
上記フッ化金属のなかでも、本発明により得られる効果に対する要求の大きい短波長でのリソグラフィー用光学材料として用いられることが多いフッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム等のフッ化アルカリ土類金属類や、フッ化バリウムリチウム、フッ化リチウムカルシウムアルミニウム等の製造に適用することが好ましく、フッ化アルカリ土類金属類に適用することがより好ましく、なかでもフッ化カルシウムを対象とすると本発明の効果が特に顕著である。
このようなフッ化金属の単結晶体を単結晶引上げ法で製造するには、まず、フッ化亜鉛、フッ化鉛、四フッ化炭素等のスカベンジャー存在下に加熱溶融して酸化物や水分等の不純物の大部分を除去した原料フッ化金属を、単結晶成長炉内の坩堝に投入する。
該単結晶成長炉の構造は公知の従来のフッ化金属単結晶体の製造用に使用されている公知の成長炉の構造を採用できる。さらには、坩堝部分として後述する二重坩堝構造を採用することが特に好ましい。こうした成長炉の代表的な態様を、図1及び図2の概略図に示す。
図1に記載した単結晶成長炉では、チャンバー(1)内において、回転可能な支持軸(2)に支えられた受け台(3)上には、後述するような機能を備えた外坩堝(4)と内坩堝(5)とからなる二重構造坩堝(6)が載置されており、その各々の坩堝の内部には、原料フッ化金属の溶融液(7)が収容される。そして、該外坩堝(5)の周囲には、加熱ヒーター(8)が設けられ、さらに、加熱ヒーター(8)を環囲して断熱材壁(9)が設けられている。断熱材壁(9)は、二重構造坩堝(6)の下方にも設けられている。
ここで、通常、加熱ヒーター(8)の上端の高さは、外坩堝(4)の上端の高さとほぼ同程度か、これを少し上回る程度の高さであるのが好ましい。また、断熱材壁(9)は、外坩堝(4)の下端から上端までを環囲していればよい。引上げられた単結晶体をゆっくり冷却する観点からは、該外坩堝(4)の上方における、フッ化金属単結晶体(10)が引上げられる空間までも環囲しているのが好ましい。
さらに、加熱ヒーター(8)と外坩堝(4)の外端との間には、ヒーターよりの輻射熱を均一化する目的で、隔離壁(18)を周設しても良い。そして、該加熱ヒーター(5)の熱が上方に逃失するのを防止するために、隔離壁(18)の上端を、加熱ヒーター(8)の上端よりも高くし、該上端と断熱材壁(9)との間に、隔離壁(18)と断熱材壁(9)との間隙を閉塞するリッド材(19)を横架し、この間隙を閉塞させるのが好ましい。
また、特開2004−182587号公報に記載されているように、断熱材壁(9)をフッ化金属単結晶体(10)が引上げられる空間までも環囲させ、さらに、厚み方向の放熱能力を特定の範囲に設定した天井板を、該断熱材壁(9)の上部の上端開口部を閉塞するように設けることも好ましい態様である。
一方、内坩堝(5)の中心軸上には、先端に種結晶体(11)の保持具(12)が取り付けられた回転可能な単結晶引上げ棒(13)が吊設されている。この種結晶体(11)は、内坩堝(5)内の原料フッ化金属の溶融液(7)に下端面が接触された後に徐々に引上げられ、下方に単結晶体(10)が成長する。また、上記支持軸(2)の下端は、チャンバー(1)の底壁を貫通してチャンバー外へ伸びており、図示はしていないが冷却器と接した後、坩堝を回転させるための機構に接続されている。チャンバー(1)が気密を保てるように上記支持軸(2)が該チャンバーの底壁を貫通する個所は、Oリング、オイルシール、磁性流体シール等を用いて気密状態を保てるようにする。単結晶引上げ棒など、他の稼動部材や、開閉もしくは取り外し可能な構造を有する部材も同様に気密化する。
いずれも図示しないが、該チャンバーには、ガスの導入孔及び排気孔が設けられており、後述する成長時の減圧に際しては、これらにより内部圧を調整する。また、結晶引上げを行うに先立って炉内を真空ベーキング等する場合も、これらガスの導入孔及び排気孔を利用して行うことができる。ガス排気孔は外部配管を経て排気装置(真空ポンプなど)に接続される。同じくガス導入孔も外部配管を経てガス供給源(ガスボンベなど)に接続される。また、ガス導入孔及び排気孔から成長炉内の所望の場所へのガスの供給や、排出を行えるように内部配管等が接続されていてもよい。これらガス導入孔又は排気孔、及び各種配管等からなるガスの導入又は排出系を、ひとつの成長炉が複数系統有していてもよい。
図1に示す成長炉では、10〜100μm程度の散乱体を少なくするために、坩堝が外坩堝(4)と内坩堝(5)とからなる二重構造(6)であり、しかも、該二重構造坩堝(6)が、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを連続的に変化させることができる。
この二重構造坩堝(6)は、その代表的態様における、この部分の拡大図である図2(図1の単結晶体引上げ用装置とは、該二重構造坩堝の内坩堝が別の態様のもの)に示すように、内坩堝(5)の壁部に少なくとも一個の連通孔(14)が設けられる等して、外坩堝(4)と内坩堝(5)の両内空部が一部連通させてある。このため、上記構造の坩堝では、単結晶体の成長に伴って内坩堝(5)内に収容された原料フッ化金属の溶融液(7)が減少すると、その減少量に応じて、外坩堝(5)に対する内坩堝(4)の収納深さを深くして、該外坩堝(5)から内坩堝(4)内に溶融液(7)を補給することができる。その結果、この成長炉では、単結晶を成長させるための引上げの開始から終了までを、原料フッ化金属の溶融液(7)の深さを内坩堝(5)内において、一定に保ちながら行うことができ、該結晶成長の全期間を、溶融液(7)の深さを、前記散乱体の形成を高度に抑制可能な浅い状態に保てる。
ここで、二重構造坩堝(6)において、内坩堝(4)内に収容する原料フッ化金属の溶融液(7)の深さは、引上げるアズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.65倍以下の深さにするのが好ましい。そして、引上げの開始から終了までの可能な限りの多くの期間、好適には全期間中、上記深さが保たれるように、外坩堝(5)から内坩堝(4)への溶融液(7)の補給を行えばよい。
従来のフッ化金属単結晶体製造用に使用されている成長炉の坩堝の深さは、通常、アズグロウン単結晶体の直胴部直径の3〜5倍程度であり、該坩堝に十分な量の原料フッ化金属の溶融液(7)を収容させると、溶融液の深さは該直胴部直径に対して浅くても2倍程度の値になり、この値は引上げの終了時においても該直胴部直径の0.75倍は越える液量が残存しているのが普通である。しかして、このように溶融液の深さが深い状態で単結晶の引上げを行うと、溶融液の流動における自然対流の影響が大きくなり、単結晶体や坩堝の回転による強制対流と相まって流動も複雑化し、単結晶の成長界面近傍における温度分布が不安定になる。結晶成長界面近傍における温度分布が不安定な状態では単結晶体の成長の際に散乱体の原因になる空孔が単結晶体中に多数形成される。これに対して、上記の如くに、溶融液の深さを、アズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.65倍以下の深さに浅くすると、このような空孔の原因になる自然対流は大きく弱まり、引上げられた単結晶体中に存在する散乱体の数を著しく減少させることが可能になる。
上記二重構造坩堝(6)において、外坩堝(4)は、引上げる単結晶体の大きさに応じた口径と、引上げに必要な原料フッ化金属の溶融液(7)を収容するのに十分な深さを有するものが使用される。外坩堝(4)の深さは、内坩堝(5)内への該溶融液(7)の補給の円滑性を考慮すると、内坩堝(5)の深さの1.3〜3倍であるのが好ましい。また、外坩堝(4)の口径は、前記したように散乱体の形成は、大口径の単結晶体を製造する場合において顕著に発生するため、こうした大口径の単結晶体も引上げ可能なように内直径が少なくとも80mm、より好適には180mmはあるのが好ましい。
一方、内坩堝(4)は、外坩堝(5)内に収容可能なように、該外坩堝(5)よりも小口径で底が浅いものが使用される。内坩堝(4)の具体的深さは、外坩堝直径の1/2倍以下の深さにするのが、前記した溶融液の浅い状態での引上げを実現するのに好都合である。さらに、前記した収容する原料フッ化金属の溶融液(7)の深さの好適な下限値(引上げるアズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.1倍以上の深さ)以上にするのが好ましい。あまり深すぎても、引上げの操作性が低下するため、内坩堝(4)内に収容する原料フッ化金属の溶融液(7)の深さの好適な上下値(引上げるアズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.65倍以下の深さ)を若干上回る深さであるのが好ましい。また、内坩堝(5)の口径は、後述する原料フッ化金属の溶融液(7)に含有される固体不純物の除去効果を勘案すると、上部開口面において、該内坩堝(4)の側壁外面と外坩堝(5)の側壁内面とにより形成される空間の間隙が、外坩堝(5)の内直径の1/10〜1/3の距離、より好適には1/8〜1/4の距離であるのが望ましい。
内坩堝(5)において、底壁(15)面の形状は特に制限されるものではなく、図1の単結晶体製造用引上げ装置に設けられている内坩堝のように水平面であっても良いが、縦断面の形状がV字状、U字状等をしたすり鉢状や逆円錐台状等の下凸形状であっても良い。図2の二重構造坩堝(6)の拡大図は、底壁(15)面が、縦断面の形状がV字状をしたものである。
底壁(15)面の、水平面に対する下方向への傾斜角度が5〜45度、好適には8〜35度である下に凸形状が、散乱体の抑制効果のより優れたものになるために好ましい。逆円錐台状をしている場合、央部の水平面の直径は、内坩堝(4)の内直径の1/5以下であるのが好ましい。なお、このように内坩堝(5)の底壁(15)面の形状が下凸形状である場合、該坩堝に収容した原料フッ化金属の溶融液(7)の深さとは、溶融液の液面から、該坩堝内空部の底壁(15)面における最も深い部分までの深さをいう。
内坩堝(5)の壁部に設ける連通孔(14)は、底壁部(15)および側壁部(16)の如何なる箇所に設けても良い。好適には、該連通孔(14)は、内坩堝(5)のできるだけ下方の壁部に設けるのが内坩堝(5)に収容される溶融液面の安定性の面から効果的である。特に、内坩堝(5)の下端から、その上方に該内坩堝(5)の内直径の1/4以下の距離、特に好適には同内直径の1/7以下の距離までの高さの範囲に設けるのが効果的である。また、連通孔(14)の開口面積は、あまりに小さいと外坩堝(5)からの溶融液(7)の内坩堝(4)への補充が円滑に行えなくなり、他方、あまりに大きいと内坩堝(5)に収容される溶融液面の安定性が低下する虞があるため、内坩堝(5)の上端開口面積に対して0.05〜0.8%であるのが好ましい。さらに、この開口面積は、一個の大口径の孔として設けるよりも、複数の小孔、好適には直径2〜8mmの小孔を4〜100個の数で設けるのが、前記内坩堝(5)に収容される溶融液面の安定性から好ましい。このように複数の小孔として連通孔(14)を設ける場合は、それぞれの孔はできるだけ偏在しないように設けるのが好ましく、内坩堝(5)の中心から対称的に設けるのが特に好ましい。
なお、連通孔(14)の穴形状は、特に制限されるものではないが通常は、円筒状であるの一般的である。その孔の軸方向は、形成される壁部が、水平な底壁である場合は垂直方向であり、側壁である場合は水平方向であるのが一般的であるが、それぞれ多少傾斜させて設けても良い。形成する壁部が、下に凸形状の底壁部における傾斜壁である場合には、該孔の軸方向は、垂直方向から水平方向まで適宜の角度から採択すればよい。
上記二重構造坩堝(6)において、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを連続的に変化させる方法は、外坩堝(4)および内坩堝(5)のいずれか一方の坩堝をチャンバー(1)に対して位置固定し、他方の坩堝を連続的に上下動させることが可能な構造とすればよい。外坩堝(4)をチャンバーに対して位置固定し、内坩堝(5)をチャンバー内を連続的に上下動させることが可能な構造とした場合、前記した原料フッ化金属の溶融液(7)の深さを一定範囲に保ちながら単結晶の引上げを行おうとすると、その溶融液からの単結晶の引上げ界面が経時的に低下していくことになり、加熱ヒーター(8)からの加熱環境が微妙に変化する虞がある。したがって、安定的に単結晶の成長を行わせるという観点からは、内坩堝(5)をチャンバー(1)に対して位置固定し、外坩堝(4)をチャンバー内を連続的に上下動させる構造とするのが好ましい。
具体的には、支持軸(2)を連続的に上下動可能にすることにより、その上に載置される外坩堝(4)も従動して上下動可能にし、さらに、該内坩堝(5)は、一端がチャンバー(1)またはその内部部材に固定された連結部材(17)に接合して、該チャンバー内において位置固定する構造が好ましい。この時、連結部材(17)は、チャンバー(1)内の上方部材から懸架させても良いし、チャンバー(1)内の側方部材から横架させても良い。後者の場合、連結部材(17)は、外坩堝(4)の上下動の妨げにならないように、その上方では十分な高さで設けることが求められる。図1の引上げ装置の場合、連結部材(17)は、リッド材(19)に接合して固定されている。
支持軸(2)の上下動の機構は、公知の方法により行われ、単結晶体の成長に伴う内坩堝(5)内に収容された溶融液(7)の減少に対応して、同量の溶融液(7)が外坩堝(4)から該内坩堝(5)内に補充されるように、精密な上昇が行われる。
さらに以上のような二重構造坩堝においては、これら外坩堝の側壁内面と内坩堝の側壁外面とにより形成される間隙空間の開口部(20)に、開口部遮蔽部材(21)が設けることが好ましい。前述した通り、外坩堝の側壁内面と内坩堝の側壁外面とにより形成される空間の間隙を、外坩堝(5)の内直径の1/10〜1/3とすることが好ましいが、一方で、該間隙からフッ化金属が揮発し、さまざまな問題を生じる可能性があるため、上記のような開口部遮蔽部材(21)を設ける。
このような成長炉内に前記したような不純物を除去したフッ化金属原料を投入する場合、該投入に先立って、成長炉自体の不純物(特に水分)を低減しておくことも、真空紫外領域における透過率の良好な単結晶体を得る上で好適である。該不純物除去の方法としては、代表的には炉内を1×10−2Pa以下の圧力まで真空ポンプなどで減圧排気しながら、1000〜1700℃まで加熱する方法が挙げられる。さらに該減圧に先立って、フッ化亜鉛、フッ化鉛、四フッ化炭素等のスカベンジャーの存在下にほぼ常圧で1000〜1700℃まで加熱し、その後に上記の減圧排気を行うとより一層効果的である。このようにして不純物を低減した成長炉に前記フッ化物原料を投入する場合には、炉内が外気等により再汚染してしまわないように行う。
該坩堝内に投入したフッ化金属原料は、溶融させるに先立って減圧下での加熱処理を施してさらに吸着水分等を除去することが好ましい。十分に加熱を行って吸着水分を除去した後、フッ化金属原料を溶融させ、該溶融液から単結晶を引上げる。
また水分除去の効果を高め、さらにフッ化金属原料等に含まれる酸化物を除去するために、フッ化金属原料と共にフッ化亜鉛、フッ化鉛、ポリ四フッ化エチレンなどの固体スカベンジャーを投入したり、四フッ化炭素、三フッ化炭素、六フッ化エタンなどフッ素系ガス等の気体スカベンジャーをチャンバー内に雰囲気として導入したりすることが好ましい。多結晶化を防止しやすい点で固体スカベンジャーを使用することが好ましく、その使用量は、フッ化金属原料100質量部に対して0.005〜5質量部が好適である。
投入する該フッ化金属原料の量は、単結晶体内部での前記散乱体の形成を抑制する効果をより顕著に発揮させる観点から、内坩堝(5)内における溶融液(7)の深さが、アズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.55倍以下、さらに好ましくは0.50倍以下の深さとなるようにするのが好ましい。一般には、この原料フッ化金属の溶融液の深さは、15cm以下、より好適には12cm以下であるのが好ましい。また、後述する結晶引上げ工程における、単結晶体と坩堝、あるいは単結晶体と坩堝の底で固化した原料の一部との接触の防止の観点からは、坩堝中に収容される原料フッ化金属の溶融液の深さは、アズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.1倍以上の深さ、一般には3cm以上の深さに保持するのがより好ましい。
坩堝内に投入、水分除去を行ったフッ化金属原料は、引き続いて加熱溶融し、この溶融液に種結晶を接触させ、単結晶体の引上げ(成長)を行う。本発明の最大の特徴はこの成長に際して、成長炉内の圧力が0.5〜70kPaとなる減圧下に行う点にある。理由は明らかではないが、単結晶の成長をある程度の減圧下に行うことにより、得られた単結晶体を高温状態からゆっくりと降温させても、微細ボイドの発生が少なくなる。しかしながら、あまりに減圧度を高く(より低圧に)しすぎると、結晶体中に100μm〜数cmにもおよぶ巨大な気泡が入りこんでしまったり、成長(引上げ)中の結晶が途中で切れてしまったりするなど様々な問題が生じやすいため、0.5kPa以上の圧力で行わなければならない。好ましくは成長炉内の圧力が5〜50kPaとなる減圧下であり、より好ましくは成長炉内の圧力が10〜30kPaとなる減圧下である。
本発明においては、種結晶の溶融液への接触による引上げ(成長)開始から、引上げ終了までの全期間に渡って上記範囲の圧力(減圧度)を保ってもよいし、所望の一部の期間のみ、例えば、有用性の特に高い直胴部の成長期間中は上記減圧度を保ち、種結晶の接触からショルダー部の成長期間中まではより高い圧力下で行うことなども可能であるが、操作の簡便性や大きな圧力変化に伴う結晶成長環境の変化(トラブルの原因となりやすい)等を防止するために、成長の全期間に渡って上記範囲の減圧下で行うことが好ましい。ここで、種結晶の溶融液への接触による結晶成長開始と同時に成長炉内の減圧度を上記範囲とすることは極めて困難であるため、該接触に先立ち、成長炉内の圧力を0.5〜70kPaとなる減圧下にしておくことがより好ましい。
同様に上記圧力範囲内で結晶成長中に圧力を変動させることも可能であるが、結晶成長環境の変化を抑制するという点から、成長中の圧力変化は少ないほうが好ましい。一方で、全く変化なく同一の圧力を維持することも困難を伴う。従って、結晶成長中は成長炉内の圧力を、設定圧力±20%の範囲内で収まるように行うことが好ましく、±10%の範囲内収まるように行うことがより好ましい。
成長期間中に上記減圧度を保つ方法は特に限定されず、公知の減圧手法を適宜採用すればよい。例えば、真空ポンプ等で成長炉から排気し、必要に応じて少量のアルゴンガス等の不活性ガスやフッ素系ガスを導入して上記圧力範囲(減圧度)を維持する方法、成長炉内を所定の圧力となるまで減圧した後、該成長炉を密閉、気密化して減圧状態を維持する方法などが挙げられる。炉内の結晶成長環境の変化を最小限にできる点で、減圧後に密閉、気密化する方法が好ましい。該方法の特に好ましい実施態様を詳しく説明すると以下の通りである。
前述したように成長炉内にフッ化金属原料(及び固体スカベンジャー)を投入後、真空ポンプ等を用いて排気しつつ加熱する。このときの圧力を0.5kPaよりも大幅に低く、好ましくは1×10−1〜1×10−4Pa程度にする。これのように高い減圧度になるまで排気するのは、フッ化金属原料に含まれている不純物等などの系外への排出を効率よく行うためである。該排気を続けながら500℃乃至フッ化金属の融点未満の温度になるまで加熱して排出可能な不純物をできる限り排出する。ついで、成長炉内の圧力が前記成長中に保つ所望の圧力(設定圧力)よりも若干低い圧力になる程度まで、高純度アルゴン等の不活性ガスやフッ素系ガスを成長炉内に導入して復圧した後、ガス導入系や排気系を閉じて成長炉を密閉する。ここで、該圧力を成長を行わせる際の設定圧力よりも低めにするのは、加熱することにより膨張して圧力上昇を起こし、自ずと設定圧力に到達するからである。また、多量のフッ化金属が揮発・拡散したり、フッ化金属原料中の低沸点不純物などが爆発的に揮発したりする懸念があるため、復圧するタイミングとしてはフッ化金属の融点よりも低い温度とすることが好ましい。
成長炉を密閉、気密状態とした後、さらに加熱してフッ化金属原料を溶融させて溶融液とし、種結晶を該溶融液に接触、結晶の引上げ(成長)を開始する。該引上げの際の温度は、対象となるフッ化金属に応じて決定され、例えば、坩堝底部の測定温度において、フッ化カルシウムの場合は、1440℃以上、好適には1440〜1520℃の温度で実施することが好ましく、フッ化バリウムの場合は、1350〜1450℃の温度で実施することが好ましい。
前記フッ化金属原料を減圧下に加熱して不純物を除去する際の昇温速度、及び上記結晶成長の際の温度への昇温速度は必要に応じて適宜設定すればよく、一般的には1〜500℃/時間である。
種結晶は、フッ化金属の単結晶体であり、種結晶体の接触面は、製造するアズグロウン単結晶体の結晶の主成長面に応じて、〔111〕面、〔100〕面等から適宜に採択すればよい。単結晶の成長中において、これら種結晶は、引き上げ軸を中心として回転させることが好ましく、回転速度は2〜20回/分であることが好ましい。また、上記種結晶の回転に併せて坩堝も、上記種結晶の回転方向と反対方向に同様の回転速度で回転させてもよい。また引上げ速度は、0.1〜10mm/hr程度である。
該単結晶引上げに際しては、前記したように溶融液の深さを制御しつつ行うことが好ましい。単結晶体(10)の成長に伴う内坩堝(5)内に収容された原料フッ化金属の溶融液(7)の減少に応じて、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを深くしていき、内坩堝(5)内の原料フッ化金属の溶融液(7)の液量が一定範囲、好適には、内坩堝(5)内の原料フッ化金属の溶融液の液量が、その深さが、3cm以上で且つ単結晶体(10)の直胴部直径の0.65倍以下の範囲に維持されるように、外坩堝(4)内に収容された原料フッ化金属の溶融液(7)を内坩堝(5)内に補給する方法により実施するのが好ましい。
特に上記成長時の溶融液の深さの範囲内にあっても、結晶成長界面をより安定させる観点からは、できるだけ溶融液の深さの変動幅は小さくするのが好ましく、実質的に所定の値に固定して引上げを実施するのが望ましい。少なくとも前記有用性の高い直胴部の引上げ期間は、溶融液の深さは所定値に実質的に固定して実施するのが特に好ましい。このために、二重構造坩堝を採用して、内坩堝の位置は固定し、結晶の成長に伴って減少する溶融液を補う分だけ、外坩堝を上昇させるのが好適である。
また前記したように、上記のようにして外坩堝(4)を上下動させる場合には、開口部遮蔽部材(21)は内坩堝(5)の側壁外面に、該開口部遮蔽部材(21)の下面が溶融液(7)にできるだけ近い位置になるよう固定しておくことが好ましい。単結晶体引上げの進行に伴い外坩堝(4)を上昇させて該外坩堝(4)内に収容された原料フッ化金属の溶融液(7)を内坩堝(5)内に補給する際、内坩堝に対する溶融液(7)の液面(=結晶成長界面)位置はほとんど変化しない。よって、内坩堝に固定された開口部遮蔽部材(21)の溶融液面に対する相対位置の変化も少ない。従って、開口部遮蔽部材(21)と溶融液(7)により形成される空隙を常に小さく保つことができ、フッ化金属等の揮発を非常に少なく抑えることが容易となる。
このようにして所望の大きさの単結晶体を引上げた後、炉内から取り出せる程度の温度まで降温する。降温速度としては、0.1〜3℃/分、特に0.1〜0.5℃/分が好ましい。
該降温に際しては、前記結晶成長中の減圧度を保ったまま行ってもよいし、常圧に戻した状態で行っても良いし、逆により減圧度を上げた状態で行っても良いし、これらを組み合わせて行っても良い。得られた単結晶体に熱衝撃を与えないという観点からは、少なくとも1000℃以下、好ましくは500℃以下になるまでは常圧には戻さずに降温することが好ましく、さらに微小ボイドの発生をより一層低減しやすいという観点から、フッ化金属の融点未満の温度から少なくとも1000℃以下、好ましくは500℃以下になるまでの間は、より低い圧力下(1×10−1〜1×10−4Pa程度)で降温することが好ましい。
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
単結晶は、得られたアズグロウン単結晶体の直胴部の中央から厚さ50mmのディスクを取り出し、#2000で研磨した後、以下の評価に供した。
(1)濁り及び曇りの程度(強さ);
所定の形状に整えたディスクについて、蛍光灯照明(約1000ルクス)の下で目視により観察し、ディスク面内に濁りや曇りが認められるか否かを判定した。蛍光灯照明の下では濁りや曇りが観察されないものについては、さらに暗室内において、ハロゲン光源(SCHOTT社製MegaLight100:ランプ12V100W最大出力)をディスク表面に密着させ、各方向から照射して目視観察を行った。評価基準は以下の通りである。
A:高輝度ハロゲンランプ照明によっても観察されない。
B:高輝度ハロゲンランプ照明によってはじめて観察される。
C:蛍光灯照明下(約1000ルクス)で観察される。
(2)濁り及び曇りの範囲
濁り及び曇りの程度の評価結果がB又はCであったものについて、同じくハロゲン光源を密着させた状態で観察される濁り及び曇りの範囲が、該ディスクの面積に対して何%の範囲に存在するかを評価した。評価基準は以下の通りである。なお濁り及び曇りの程度の評価結果がAであったものについては、この評価結果はSとした。
S:全く観測されない(程度評価でA)
A:ディスク面積の5%以下の範囲において観察される。
B:ディスク面積の5〜20%の範囲において観察される。
C:ディスク面の20%以上の範囲において観察される。
(2)気泡;
蛍光灯の下で目視により明らかに気泡として観察されるものを数えた。
(3)複屈折;
単結晶体の複屈折(SBR)は、ディスク状の単結晶を自動複屈折分布測定装置(Hinds instruments, Inc.製 EXICOR 450AT; 光源633nm)に設置し、測定された複屈折の最小自乗平均として算出した。
実施例1
二重構造坩堝(6)が図2に示したものある以外は、図1に示された構造である単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。
この単結晶体製造用引上げ装置において、チャンバー(1)内に設置された高純度グラファイト製の外坩堝(4)は、内直径38cm(外直径40cm)であり、高さ30cmのものであった。この外坩堝(4)内に、連結部材(17)によりチャンバーのリッド材(19)に固定された状態で収納される内坩堝(5)は、内直径25cm(外直径26cm)であり、高さ14cmのものであった。
内坩堝(5)の底壁は、水平面に対して下方向への傾斜角度が15度で傾斜する縦断面の形状がV字状(すり鉢状)の形状であった。その下端部に一個と、その上方に25mmの高さの位置の円周上に均等間隔で8個、口径が4mmの円筒状の連通孔(14)が各形成されていた(これらの連通孔の総開口面積は、内坩堝の上端開口面積に対して0.2%であった)。断熱材壁(6)は、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力は9W/m2・Kのものであり、他方、天井板(14)は、グラファイト製であり、厚み方向の放熱能力は5000W/m2・Kのものであった。
上記外坩堝(4)および内坩堝(5)内に、十分な精製処理及び水分除去処理を施した原料フッ化カルシウム塊を計40kg投入し、さらに、内坩堝(5)内にスカベンジャーとして高純度フッ化亜鉛4gを投入し、チャンバー(1)内に設置した。そして、チャンバー(1)内を真空引き(6.7×10−3Pa以下)し、加熱ヒーター(5)に通電し原料の過熱を開始し、250℃まで昇温し、この温度に2時間保持した。上記保持後、再び昇温を開始し、1200℃に達した時点で、真空排気ラインを遮断し、高純度アルゴンをチャンバー(1)内に供給し、内圧(炉内雰囲気圧力)を19kPaに保った。この後、引上げが終了し、さらに室温付近に降温するまで排気およびガス導入は行わなかった。なお、以下の昇温により内圧は約20kPaまで上昇し、引上げ中の内圧はこの圧力に維持されていた。
原料が完全に溶融し、外坩堝(4)および内坩堝(5)内に、原料フッ化カルシウムの溶融液(7)が収容された状態で、1480℃で40分間保持した後、ヒーター出力を低下させて1440℃で120分間保持した。覗き窓(20)より、内坩堝(5)内に収容された溶融液(7)の表面状態を観察したところ、固体不純物の浮遊が確認されたので、支持軸(2)を下降させて、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを浅くして、内坩堝(5)内に収容された単結晶原料の溶融液(7)の全量を外坩堝(5)内に流出させ、その後再度、支持軸(2)を上昇させて、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを深くして、上記外坩堝(4)内の原料フッ化カルシウムの溶融液(7)を該内坩堝(5)内に供給する操作を実施した。上記操作の後において、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さは、該内坩堝(5)内において、原料フッ化カルシウムの溶融液(7)の深さが6cmになる深さであった。また、覗き窓(20)より、内坩堝(5)内に収容された溶融液(7)の表面状態を再度観察したが、このときには固体不純物は確認できなかった。
次いで、単結晶引上げ棒(9)を垂下させて、種結晶(7)の結晶面が(100)である下端面(単結晶成長面)を原料フッ化カルシウムの溶融液(10)の表面に接触させ、単結晶の引上げを開始した。種結晶(7)は、6回/分で回転させ、他方、外坩堝(4)も、これと逆方向に2回/分で回転させた状態で引上げを行った。引上げ速度は、4mm/hrとした。上記引上げ中において、支持軸(2)を、内坩堝(5)内の溶融液(7)の深さが前記6cmに維持されるように、連続的に上昇させた。引上げ終了後、冷却速度15℃/Hrにて常温まで降温した。
以上により、直胴部の直径が約170mm、且つ該直胴部の長さが約200mmであるフッ化カルシウムの(100)アズグロウン単結晶体17.5kgが得られた。
このフッ化カルシウムのアズグロウン単結晶体の直胴部を切り出し、円筒研削を行い直径160mm、長さ200mmの円筒状の単結晶体を得た。さらに該円筒状単結晶の中央部から、厚さ50mmのディスク状単結晶を切り出した。なお、この切り出し加工の際の割れや欠けは全く生じなかった。このディスクについて、濁りや曇りを観察したが、いずれも全く存在しなかった。また大きな気泡の存在も認められなかった。さらにこのディスク状に加工した単結晶の複屈折は、6.5nm/cmであった。
上記のディスクをさらに、アルゴンガス雰囲気中、最高温度1000℃、降温速度を700℃までは1℃/hrで、その後は5℃/hrでアニールを行った。このアニール後の単結晶ディスクについて同様に濁り及び曇りの評価を行ったが、これらは全く観察されなかった。アニール後の複屈折は、0.48nm/cmであった。
比較例1
実施例1において、原料フッ化カルシウム塊の投入後、1200℃にて真空排気ラインを遮断する代りに、高純度アルゴンガスを導入して大気圧(約100kPa)に戻し、この状態で引上げを行った以外は、実施例1と同様にして単結晶体を引上げ、ほぼ同形状のアズグロウン単結晶体を得た。
実施例1と同様にして、このアズグロウン単結晶体から直径160mm、厚さ50mmのディスクを取り、濁りと曇り、気泡数及び複屈折を評価した。結果を表1に示す。
さらにこのディスクを実施例1と同じ条件でアニールした後、濁りと曇り、及び複屈折を評価した。この結果も表1に併せて示す。
比較例2
引上げ終了後、常温まで降温する際の速度を40℃/hrとした以外は比較例1と同様にして単結晶体の引上げを行い、ほぼ同形状のアズグロウン単結晶体を得た。
実施例1と同様にして、このアズグロウン単結晶体から直径160mm、厚さ50mmのディスクを取り、濁りと曇り、気泡数及び複屈折を評価した。結果を表1に示す。なお、歪み(複屈折)が大きいためか、該加工時には、割れや欠けがかなり起きやすかった。
比較例3
実施例1において、1200℃に達した時点で保つ内圧を0.2kPaとした以外は、実施例1と同様にして引上げを行った。得られたアズグロウン単結晶を目視で観察したところ、1cmを超えるような気泡が多数存在していた。
実施例1と同様にして、このアズグロウン単結晶体から直径160mm、厚さ50mmのディスクを取り、濁りと曇り、気泡数及び複屈折を評価した。結果を表1に示す。
さらにこのディスクを実施例1と同じ条件でアニールした後、濁りと曇り、及び複屈折を評価した。この結果も表1に併せて示す。
上記実施例1と比較例1とを比較すれば理解できるように、減圧下で結晶を成長させることにより、濁りや曇りの観察されない単結晶体を得ることができる。しかしながら比較例3に示すように、減圧度が高すぎると結晶引上げ時に気泡の混入が多くなり、大型の光学材料としては不適なものになってしまう。また、比較例2に示すように、非減圧で結晶の引上げを行っても、結晶成長終了後の降温速度を速くすれば、アズグロウン単結晶の状態では濁りや曇りは生じないが、アニールすることにより新たに濁りや曇りが生じてしまう。
実施例2〜4
実施例1において、1200℃に達した時点で保つ内圧を表2に示す圧力とした以外は、実施例1と同様にして引上げを行った。評価結果を表2に併せて示す。
実施例5
引上げ終了後、常温まで降温する際の速度を40℃/hrとした以外は実施例1と同様にして単結晶体の引上げを行い、ほぼ同形状のアズグロウン単結晶体を得た。ついで実施例1と同様にして、このアズグロウン単結晶体から直径160mm、厚さ50mmのディスクを取り、濁りと曇り、気泡数及び複屈折を評価した。結果を表1に示す。なお、歪み(複屈折)が大きいためか、該加工時には、割れや欠けがかなり起きやすかった。
実施例6
スカベンジャーとしてフッ化亜鉛に代えて、フッ化鉛を用いた以外は実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶を引上げた。この単結晶体についての評価結果を併せて表2に示す。
実施例7
単結晶の引上げ速度を2.5mm/hrとした以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた単結晶体は、直径210mm、直胴部の長さ110mm、重さ約15.8kgであった。このアズグロウン単結晶体から実施例1と同様にして、直径200mm、厚さ50mmのディクスを得、各種評価を行った。結果を表2に併せて示す。
実施例8
アニール処理の際の最高温度を1150℃とした以外は実施例1と同様にしてアズグロウン単結晶体を得、その後アニール処理を行った。評価結果を表2に示す。
実施例9
単結晶成長面が(111)である種結晶を用いた以外は、実施例1と同様にして(111)アズグロウン単結晶体を得、その後アニール処理を行った。評価結果を表2に示す。