JP2006312201A - 疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物およびそれらの製造方法 - Google Patents

疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物およびそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 リブの端部の応力集中部から発生する、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品や金属製構造物およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 厚みbの金属製の主板または主管1から、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属製リブ2が突き出ており、該リブの長さ方向の端部にリブの厚み方向に圧縮予ひずみ部3を形成したものであって、該圧縮予ひずみ部3は、板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満であり、リブ面上に占める面積pが0.67t2以上であり、リブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、その重心位置と前記主板または主管1との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さいものであり、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力が働いている。
【選択図】 図1

Description

本発明は、部材の補剛や補強にリブを用いる金属部品や金属製構造物において、リブの長さ方向に繰返し負荷が生じ、疲労き裂の発生や伝播が懸念される、金属部品や金属製構造物(溶接構造物も含む。)とそれらの製造方法に関するものである。
金属部品や金属製構造物には、溶接、接着、鋳造、鍛造や種々の塑性加工など種々の方法によってリブ板が取り付けられている。構造上応力集中部となるリブが取り付けてある部位であって、リブ長さ方向の端部は部品や構造物に作用する繰返し荷重により、疲労き裂の発生や進展が懸念される。特に溶接リブの長さ方向の端部のトウは溶接残留応力と応力集中が重畳するため疲労き裂発生が起こりやすく、部品や構造物寿命に関係する問題となることが多い。
金属部品や金属製構造物の疲労き裂発生防止の従来技術として古くから、疲労き裂の発生する応力集中部に熱処理を施し残留応力を除去する方法や、たとえば特許文献1などに、グラインダーなどの装置を用いた切削処理により溶接トウ部の形状を滑らかにし応力集中を低下させる方法に関する発明が、また、たとえば特許文献2や特許文献3などに、ピーニング処理により溶接トウ部を叩くことにより塑性加工を加え、溶接残留応力の低減とトウ部の形状を改善する方法に関する発明などが開示され、広く用いられて疲労き裂の発生特性を改善させている。
このほかにも、残留応力を解放させるための溶接部近傍に熱を加えながら溶接する方法(特許文献4参照。)や回し溶接継ぎ手の溶接順番を考慮して残留応力を下げたもの(特許文献5、特許文献6参照。)付加溶接や線状加熱によって残留応力分布を変化させるもの(特許文献7、特許文献8参照)や、溶接部の形状に工夫を加えることで応力集中を小さくするもの(特許文献9参照。)などが開示されている。
特開平05−069128号公報 特開2003−001476号公報 特開2003−001477号公報 特開平11−147193号公報 特開平08−019860号公報 特開平08−155635号公報 特開平08−118012号公報 特開平08−112688号公報 特開平08−267234号公報
従来技術の熱処理による方法は大型構造物など現地で施工する場合には、熱処理の設備を施工する場所へ搬送する必要があるが、設備が大型となることが多く搬送困難である場合が多いことや、構造物自体の熱容量が大きく非効率である場合も多く、適用することが難しい。また、切削処理による方法では溶接されていない場合には疲労き裂の発生防止に効果的であるが、溶接部の場合、溶接残留応力の除去ができないため、溶接トウ部に引張の溶接残留応力が残ってしまい、疲労き裂発生の防止効果は限定的である。また、ピーニング処理は応力集中部の極表層だけを叩くため、応力集中部の表層に圧縮の残留応力を発生させることが出来る上に、応力集中部の形状を滑らかにすることができるため、応力集中を小さくすることも可能であり、溶接部のトウ部にも適用でき、疲労き裂の発生特性向上に効果的であるが、圧縮応力の作用する部位は叩いた部位近傍に限られるため、ひとたび疲労き裂が発生してしまうと疲労き裂の進展防止には効果が小さいと考えられる。
また、残留応力を解放させるための溶接部近傍に熱を加えながら溶接する方法では主板に加熱による材質劣化の懸念が生じる。また、回し溶接継ぎ手の溶接順番を考慮して残留応力を下げたものでは最終ビードによる引張残留応力は回避できない。また、付加溶接や線状加熱によって残留応力分布を変化させるものは条件の管理が難しく、予期していない部分からのき裂の発生が懸念される。また溶接部の形状に工夫を加えることで応力集中を小さくするものでは大きな欠陥が溶接部内に残ることになりその寸法を施工後確認するのが難しいなどの欠点があった。
そこで、本発明では、金属部品や金属製構造物の表面であって、金属製リブの長さ方向端部と交わる応力集中部付近を簡易な方法で圧縮応力状態にすることで、該応力集中部からの疲労き裂の発生と進展を抑制し、疲労き裂の発生や進展に対する抵抗を大きくすることのできる、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属製構造物およびそれらの製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 厚みbの金属製の主板または主管1から、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属製リブ2が突き出ており、該リブの長さ方向の端部にリブの厚み方向に圧縮予ひずみ部を形成した金属部品または金属製構造物であって、該圧縮予ひずみ部は、板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満であり、リブ面上に占める面積pが0.67t2以上であり、リブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さいものであり、さらに、該圧縮予ひずみにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力が働いていることを特徴とする、リブ端部から主板または主管への疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物。
(2) 前記リブ2が溶接により前記主板または主管1に接合されており、リブおよび溶接部5の降伏強度が主板または主管1の降伏強度の95%以上であり、リブの引張強度が主板または主管の引張強度より大きく、リブの溶接部5がリブ端部から2h以上の距離に渡ってのど厚が0.5t以上であることを特徴とする、上記(1)に記載の疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物。
(3) 厚みbの金属製の主板または主管1の表面に、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属性リブ2を形成した後、リブの板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満の圧縮予ひずみ部3を、そのリブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、そのリブ面上に占める面積pが0.67t2以上であるような圧痕形状で、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さい位置に形成することを特徴とする、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物の製造方法。
本発明は、金属部品や金属製構造物の表面であって、金属製リブの長さ方向端部と交わる応力集中部に簡易な方法で予め圧縮の残留応力を発生させることにより、該応力集中部からの疲労き裂の発生と進展を抑制することができるため、その産業上の効果は計り知れない。
本発明は、金属部品や金属製構造物の表面であって、金属製リブの長さ方向端部と交わる応力集中部に簡易な方法で予め圧縮の残留応力を発生させることにより、該応力集中部からの疲労き裂の発生と進展を抑制することを特徴とするものである。
具体的には、請求項1に記載の発明は、厚みbの金属製の主板または主管1から、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属製リブ2が突き出ており、該リブの長さ方向の端部にリブ2の厚み方向に圧縮予ひずみ部3を形成した金属部品または金属製構造物であって、該圧縮予ひずみ部3は、板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満であり、リブ面上に占める面積pが0.67t2以上であり、リブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、その重心位置17と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブ2の厚みtより小さいものであり、さらに、該圧縮予ひずみにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力が働いていることを特徴とするものである。
本発明の対象を厚みbの金属製の主板または主管1から長さl、高さh、厚みtの板状の金属性リブ2が突き出た金属部品または金属製構造物とするのは、金属製の主板または主管と突き出たリブとが接する部位であって、該リブの長さ方向の端部4は部品や構造物に荷重が作用した際に応力集中部となり、繰返し荷重下では疲労き裂の発生源となるからである。
また、該リブの長さ方向の端部にリブの厚み方向に0.5%以上25%未満の圧縮予ひずみ部3を形成させるのは、該リブと金属主板または主管1の接する部位であって、該リブの長さ方向の端部に圧縮の残留応力を発生させるためであり、0.5%より小さい圧縮ひずみでは十分な残留応力を発生させることは出来ず、25%より大きなひずみでは効果が頭打ちとなる上に板厚の減少や部材の巨視的な変形が顕著となり部品や構造物としての形状精度が損なわれるためである。
また、リブ2の厚みtを1mm以上としたのはtが1mmより小さい場合には予ひずみ量の管理が困難であるためであり、1mmより小さい場合でも本発明を精度よく適用できれば効力を発揮できる。
また、リブの長さ方向の寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下の領域に圧縮予ひずみを与えるのは、kが0.5tより小さい場合、疲労き裂の発生が懸念される応力集中部に圧縮残留応力が十分に発生しないためであり、kが3(t・b)0.5超では主板の変形が顕著になることや疲労き裂の発生が懸念される応力集中部の圧縮残留応力が頭打ちもしくは減少するからである。
また、圧縮予ひずみ部のリブ高さ方向寸法dを0.5t以上0.5h以下とするのは、dが大きいほど疲労き裂の発生が懸念される応力集中部4の圧縮残留応力が大きくなるからである。リブ面上に占める面積pが0.67t2以上の領域に圧縮予ひずみを付与するのは、面積pが0.67t2より小さい場合には疲労き裂の発生が懸念される圧縮予ひずみ部3から離れた応力集中部4に疲労き裂発生を阻止できるための十分な圧縮応力を発生させられないためである。
また、圧縮ひずみ部3の重心位置17と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下、およびリブの端部から圧痕までの距離eがリブの厚みtより小さくする理由は、圧縮ひずみ部がリブの長さ方向の端部から離れると疲労き裂の発生が懸念される応力集中部4の圧縮残留応力が低下し、本発明の効果である疲労き裂発生抵抗が低下してしまうからである。
図1は、請求項1に記載の本発明の一実施例を示す図である。図1において、1は金属板、2は金属製リブ板、3は圧縮予ひずみ部、4は応力集中部を示す。図1のaは、圧縮予ひずみ部の重心17から疲労き裂の発生が懸念される金属板までの最短距離を示す。図1のeは、圧縮ひずみ部3の端部とリブ2の長さ方向の端部の最短距離を示す。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の疲労き裂発生・進展抑止特性が優れた金部I部品または金属製構造物であって、前記リブが溶接により前記主板または主管1に接合されており、リブおよび溶接部5の降伏強度が主板または主管の降伏強度の95%以上であり、リブの引張強度が主板または主管の引張強度より大きく、リブの溶接部5がリブ端部から2h以上距離に渡って、のど厚cが0.5t以上であることを特徴とするのは、リブに付与する圧縮予ひずみと該リブとリブを溶接により取り付けた主板または主管との間に生じる溶接残留応力によって溶接部を破壊することなしに、該リブに付与する圧縮予ひずみにより生じた応力を、該溶接部を介してリブ板の2接する主板または主管1に伝達させるために十分なのど厚が必要である。また、リブおよび溶接部5の降伏強度を主板または主管1の降伏強度の95%以上とし、リブの引張強度を主板または主管の引張強度より大きくするのは、圧縮予ひずみにより生じた応力を主板または主管1に十分伝達させるためであり、リブと溶接部の強度は高いほど本厚命の効果は高くなる。
図2は、請求項2に記載の本発明の一実施例を示す図である。図2において、5は隅肉溶接部を示す。図3は、図2の溶接構造をリブ板2の板厚中央に対応する面で切った場合の断面を示す。図3のcは、隅肉溶接部5ののど厚である。
請求項3に記載の発明は、厚みbの金属製の主板または主管1表面に、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属性リブ2を形成した後、リブの板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満の圧縮予ひずみ部3を、そのリブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向の寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、そのリブ面上に占める面積pが0.67t2以上であるような圧痕形状で、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さい位置に形成することを特徴とする、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物の製造方法とするのは、圧縮予ひずみを金属製リブ形成後に与えることにより該リブと該主板または主管の間にせん断応力を生じさせ、該リブの長さ方向端部であって、該主板または主管と交差する部分4に圧縮残留応力を生じさせるためである。
本発明の図4に示す構造モデルと該構造モデルと同形状であって圧縮予ひずみを与えない構造モデルの有限要素解析を行い、本発明の構造物における圧縮予ひずみが疲労き裂の発生しやすい応力集中部の応力状況に及ぼす影響を説明する。
前記構造モデルは、例として、主板とリブ板共に降伏応力330MPaであり、引張強度が490MPaである鋼材で構成されているものと仮定し、図4の矢印方向に引張荷重が作用することを想定してモデル化した。構造モデルは表1に各部の寸法と併せて示したように記号AからYまでの25種類であり、これらすべてについて有限要素解析を行った。構造モデルの主板の厚みbは8〜16mm、リブ板の厚みtは8〜24mmとした。また、圧縮予ひずみ部の形状は、リブ板2の長さ方向の寸法kを10〜80mm、リブ板2の高さ方向の寸法dを8〜24mmの矩形の面を持ち、主板1と圧縮予ひずみ部3までの距離a−d/2を8〜16mm、リブの長さ方向端部からの距離eを5〜10mmとした。予ひずみ部となる面に変位制御で圧縮および除荷によって行い、リブ板2に厚み方向の残留ひずみとして約2.5%の塑性歪を与えた。
例として、モデルDの場合について、予ひずみ付与の後の予ひずみ部近傍の残留応力分布の例を図5に示す。構造モデルの矢印方向に引張荷重が作用した際に応力集中部となる部位4の応力は圧縮となっている。図5の等高線につけた数字はリブの材軸方向の引張応力をMPaの単位で示したものである。なお、図5において6はリブ板2の板厚中央で半分にした場合の断面を示している。
次に、有限要素法解析により求めた、前記構造モデルで前記予ひずみ付与後に、構造モデルDの矢印方向に降伏応力の半分(165MPa)の引張負荷を与えた場合についての引張方向応力分布を図6に、また、予ひずみを与えずに構造モデルDと同様に矢印方向に降伏応力の半分の引張負荷を与えたモデルD’の場合についての引張方向応力分布を図7に示す。図6、図7の等高線につけた数字はリブの材軸方向の引張応力をMPaの単位で示したものである。構造モデルDの部位4の応力は構造モデルD’の部位4の応力に対して著しく低くなっている。
一般に、繰り返し負荷を受ける金属製部品や金属製構造物は応力集中を除いた部位で使用時の応力は降伏応力の半分程度以下となるように設計されているが、構造モデルD’で示したような応力集中部4では局所的に降伏する程度の応力が繰り返し作用することもあり、疲労き裂の発生が懸念されるが、本発明の構造モデルDの応力集中部4では端部に降伏応力の半分の引張負荷を与えても生じる引張応力が極めて小さくなるため、疲労き裂の発生が抑制される効果がある。
本発明を適用した構造モデルの端部に引張負荷を与えた場合の応力集中部4に生じる応力は、予ひずみを与えて除荷した時点での圧縮残留応力が大きいほど疲労き裂発生に対する抵抗が大きいと考えられる。該圧縮残留応力は特にリブ板の厚みtや高さhや圧縮予ひずみ部の位置や大きさ、また、溶接によりリブ板が取り付けられた場合には溶接部の形状の影響を受けるため、それぞれの因子の影響について有限要素解析を用いて検討した。
該有限要素解析の結果を用いて作成した本発明の構造モデルの応力集中部に生じる圧縮残留応力の表1に基づいて請求項1に記載の発明について説明する。
Figure 2006312201
表1の結果から以下のことが読み取れる。すなわち、モデルK、L、Mの結果から、主板に対してリブ板2は厚い方が応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きくなっており、本発明に用いられる圧縮予ひずみ部3の寸法についてはリブ板の厚みtを基準に規定することが妥当であると判断した。
モデルK、X、Y、の結果から、リブ板の背hは高い方が応力集中部4に生じる圧縮残留応力が大きい。これは、圧縮予ひずみを受けた部分の周りの弾性領域が大きい方が応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きくなることを表しており、圧縮予ひずみを受けた部分の周りの弾性領域が十分確保できるようh≧2dとした。
モデルKとOの比較、モデルB、C、Dの比較の結果、また、モデルH、I、Jの比較の結果から、圧縮予ひずみ部3の寸法dは大きい方が応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きく、圧縮応力が顕著に表れるが、dが大きくなりhに近づくと効果が頭打ちになるため、dは0.5t以上0.5h以下とした。
モデルD、E、F、G、Hの比較の結果およびモデルO、P、Q、R、S、T、Uの比較の結果から、圧縮予ひずみ部3の寸法kは大きくなると応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きくなるが、ある程度以上大きくなると圧縮残留応力が低下する。これはkが大きく、リブ板2が厚くなると主板1に曲げが生じやすくなることや主板側にも塑性ひずみが生じやすくなるためであり、0.5t<k<3(t・b)0.5とした。
モデルO、Nの比較の結果などから、リブ2の端部からの圧縮予ひずみ部3までの距離eは小さい方が応力集中部4に生じる圧縮残留応力が大きく、e<tとした。
モデルA、Dの比較の結果などから、主板1から圧縮予ひずみ部3までの距離a−d/2は小さい方が応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きく、a<3tとした。
モデルU、V、Wの比較の結果から、両面にリブ板を付けて本発明で行う圧縮予ひずみを与えた場合、片面リブ板の場合よりも、応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きく、片側リブよりは両側リブの方が効果が高い。
前記圧縮予ひずみを与える方法としては、図8に示すように円形や矩形の平面の断面を持つ押しポンチ7をプレス装置等を用いてリブ板2に押し当てる方法が考えられるが、同様の圧縮負荷を与えられる装置であれば他の装置でも可能である。なお、押しポンチ7で圧縮予ひずみを与えた場合、押しポンチ7の角部がリブ板2に段差を作ることになるが、この段差は応力集中を発生させるため、できるだけ滑らかになるよう、面取りや曲面加工しておくことが望ましい。
ポンチの断面形状については矩形以外にも円形の他、種々の形状が適用可能であり、効果には大きな差は出ないと考えられるため、自由にデザインできるが、ポンチの寿命を延ばし、圧縮荷重をできるだけ低くするためには外に凸の中実断面が合理的である。
ポンチの大きさについては鋼材の内部にまで十分に塑性歪を与えることが重要であるためポンチの寸法はリブ板厚tと比例させる必要がある。また、所定の圧縮ひずみをリブ板に付与するためには圧縮面積に比例して大きな圧縮荷重が必要となり、負荷が困難となることがあるため注意が必要である。圧縮予ひずみ付与面積pは板厚tに対して0.67t2以上と定めたが、大きくなりすぎると、予ひずみを付与するために必要な荷重が面積に比例して大きくなるため実施する設備が大きくなるため困難となる場合があることや、予ひずみによる残留応力で主板の平面性が失われる可能性があることに注意し、適切な圧縮予ひずみ付与装置を準備し、各寸法は本発明の効果の期待できる範囲となるよう設定するのが望ましい。
圧縮負荷の回数は所定のひずみの範囲になるまで複数回押してよく、ポンチの大きさとリブ板2の強度の関係から圧縮負荷装置の負荷荷重が十分に取れない場合には、ポンチの位置をずらしながら、面積が0.67t2以上の領域を面積が0.5t2以上のポンチを用いて複数回圧縮負荷を与えることにより、0.5%以上かつ25%未満のひずみを圧縮負荷により与えることで同様の効果が得られる。
また、本発明では圧縮予ひずみ部をリブ取り付け後に設けなければ、主板表面であって、リブ板と接する部分のリブ板の長手方向端部4に圧縮予ひずみによる圧縮応力が発生せず、疲労き裂発生阻止の効果は得られない。そこで、本発明を適用しているかどうかについて疑わしい場合については、磁歪法やX線を用いた方法等によって圧縮予ひずみ部付近の残留応力分布を確認することで、容易に本発明を適用していることが確認できる。
また、本発明は既存の構造物に対して適用することも可能であり、既存構造物の疲労き裂発生防止方法としても有効である。
図9のリブ板付き鋼板の疲労き裂発生試験を行った。使用した鋼板は主板8が板厚24mmで降伏応力が400MPaの溶接構造用鋼板であり、リブ板9が板厚10mmで降伏応力が380MPaの溶接構造用鋼板である。リブ板9の取り付け溶接10は490MPa級の強度を持つ材料を用いてCO2溶接によりおこなった。試験片F1〜試験片F5は本発明を適用した試験体であり、圧縮負荷部の寸法を表2に示した。また、圧縮予ひずみ量は2.5%とした。試験片F0は本発明を適用していない試験片である。どの試験片についても、リブ板は同じ条件で隅肉溶接を行い、脚長を5mmとし、溶接部断面を調査した所、のど厚3.5mmを確保した。
Figure 2006312201
負荷した荷重は、部材の降伏荷重の1/4を中心に主板端部での応力振幅が降伏応力の1/4となる繰り返し荷重を1周期が1秒間に10回となるようあたえ、溶接トウ部11に生じる疲労き裂長さが10mmとなった場合の繰り返し負荷の周期数を実験的にもとめた。
実験の結果、試験片F0は1×106回程度の繰り返し負荷周期で所定の疲労き裂が生じた。それに対し、本発明の試験体においては、試験片F1は5×106回、試験片F5は7X106回で所定のき裂が見られたものの、試験片F2,F3,F4では1.5×107回でも疲労き裂が発生しなかった。このことから、疲労き裂の発生に対しては5倍程度以上の性能が得られるものと考えられる。
道路の照明などに用いられる鋼管ポールは風による繰り返し曲げ荷重を受ける。また、鋼管ポールの基部は補強のためリブ板が取り付けられていることがあり、リブの端部は溶接による残留応力と風による繰り返し荷重とが重畳することにより、リブ板によるポール側の応力集中部に疲労き裂が発生することがある。そこで、図10に示す直径17cmm、管厚bは6mmの鋼管ポール13の実大モデルを作製した。前記モデルの基部はベースプレート12にリブ板15を用いて、溶接で取り付け、リブ板15の円柱ポール13側に本発明を適用した。リブ板15の厚みtは6mmであり、8枚を完全とけ込み溶接で取り付けた。
本発明を適用した鋼管ポールモデルとリブ板溶接ままの通常の鋼管ポールモデルを作製し、両振りの繰り返し曲げ試験を行い、疲労き裂の発生特性を比較した。
圧縮予ひずみ部14の寸法は図1に示した各部の寸法で示すと、aが6mm、dが12mm、eが2mm、kが12mm、hが25mmである。
載荷条件は基部の応力振幅が160MPaとなるよう両振り試験を行った。
実験の結果、通常の鋼管ポールモデルでは7×105回で応力集中部16から実施例1で用いた疲労き裂評価基準である疲労き裂長さ10mmに達したものの、本発明を適用したモデルでは疲労き裂が確認できなかった。本発明を適用したモデルではさらに1×107回まで繰り返し載荷を行ったところで、疲労き裂が10mmに達し、本発明の有効であることが確認できた。
請求項1に記載の溶接構造物を一部切り出した斜視図を模式的に示す図である。 請求項2に記載の溶接構造物を一部切り出した斜視図を模式的に示す図である。 溶接部ののど厚を溶接部の断面図で模式的に示す図である。 圧縮予ひずみ部の位置と寸法を決定するため解析を行った構造モデルを斜視図で模式的に示す図である。 モデル解析により得られた圧縮予ひずみ後の応力分布を斜視図で示す図である。 モデル解析により得られた圧縮予ひずみを与えずに荷重を作用させた場合の応力分布を斜視図で示す図である。 モデル解析により得られた圧縮予ひずみ付与後に荷重を作用させた場合の応力分布を斜視図で示す図である。 圧縮予ひずみ付与方法の例を斜視図で模式的に示す図である。 実施例1の試験片形状と試験方法を斜視図で模式的に示す図である。 実施例2の試験体形状と試験方法を斜視図で模式的に示す図である。
符号の説明
1 主板または主管
2 リブ板
3 圧縮予ひずみ部
4 応力集中部
5 溶接部
6 構造モデル中央断面
7 ポンチ
8 鋼板
9 リブ板
10 溶接部
11 溶接トウ部
12 ベースプレート
13 鋼管ポール
14 応力集中部
15 リブ板
16 圧縮予ひずみ部
17 圧縮予ひずみ部の重心

Claims (3)

  1. 厚みbの金属製の主板または主管1から、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属製リブ2が突き出ており、該リブの長さ方向の端部にリブの厚み方向に圧縮予ひずみ部を形成した金属部品または金属製構造物であって、該圧縮予ひずみ部3は、板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満であり、リブ面上に占める面積pが0.67t2以上であり、リブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さいものであり、さらに、該圧縮予ひずみにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力が働いていることを特徴とする、リブ端部から主板または主管への疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物。
  2. 前記リブ2が溶接により前記主板または主管1に接合されており、リブおよび溶接部5の降伏強度が主板または主管1の降伏強度の95%以上であり、リブの引張強度が主板または主管の引張強度より大きく、リブの溶接部5がリブ端部から2h以上の距離に渡ってのど厚が0.5t以上であることを特徴とする、請求項1に記載の疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物。
  3. 厚みbの金属製の主板または主管1の表面に、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属性リブ2を形成した後、リブの板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満の圧縮予ひずみ部3を、そのリブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、そのリブ面上に占める面積pが0.67t2以上であるような圧痕形状で、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さい位置に形成することを特徴とする、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物の製造方法。
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