従来、橋梁等の土木構造物において、鋼床版が用いられている。図1は、従来の鋼床版を備えた橋梁の一例を示す図である。なお、図1においては、互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を示している。X方向は橋梁1の長さ方向を示し、Y方向は橋梁1の幅方向を示し、Z方向は鉛直方向を示す。以下の説明では、橋梁1の幅方向を、左右方向ともいう。
図1に示す橋梁1は、鋼床版2を有している。鋼床版2は、デッキプレート3と、複数の主桁4と、複数の横リブ5と、複数の縦リブ6とを有している。デッキプレート3、主桁4、横リブ5および縦リブ6はそれぞれ、鋼材からなる。
デッキプレート3は、平板形状を有する。デッキプレート3の表面3aは、舗装材7によって舗装されている。舗装材7としては、例えば、アスファルトまたはコンクリート等の種々の材料を用いることができる。
主桁4は、Y−Z平面に平行な断面においてI字形状を有し、かつ橋梁1の長さ方向に延びるように設けられている。主桁4の上端部は、例えば、デッキプレート3の裏面3bに溶接されている。
横リブ5は、X−Z平面に平行な断面において略I字形状を有している。具体的には、横リブ5は、上下に延びるウェブと、ウェブの下端部に一体に設けられたフランジとを有している。横リブ5は、橋梁1の幅方向に延びるように設けられている。横リブ5の左右の端部は、例えば、主桁4に溶接されている。
縦リブ6は、上方に向かって開口するように開断面形状(図1の例では、略U字形状)を有している。縦リブ6は、いわゆるトラフリブ(Uリブ)である。以下、縦リブ6を、トラフリブ6という。具体的には、トラフリブ6は、左右方向に延びる底壁部6aと、底壁部6aの左右方向における両端部から上方に延びる一対の側壁部6b,6cとを有する。側壁部6b,6cは、先端側(図1においては上側)にいくほど互いの間隔が広がるように、底壁部6aに対して傾斜している。トラフリブ6は、橋梁1の長さ方向に延びるように、かつ横リブ5を貫通するように設けられている。側壁部6b,6cの上端部は、デッキプレート3の裏面3bに溶接されている。
上記のような構成を有する橋梁1では、例えば、橋梁1上を自動車8が通過することによって、鋼床版2において疲労亀裂が発生する場合がある。この疲労亀裂は、例えば、デッキプレート3とトラフリブ6との接合部9において発生する。以下、接合部9における疲労亀裂の発生態様について説明する。
図2は、デッキプレート3と側壁部6bとの接合部9を示す拡大図である。図2に示すように、側壁部6bをデッキプレート3に溶接する際には、例えば、側壁部6bの先端部のうち外側の部分6dが溶接ビード10によってデッキプレート3に接合される。通常、溶接ビード10の溶け込み量は、トラフリブの厚みの75%が基準とされており、側壁部6bの先端部のうち内側の部分6eは接合されない。このため、デッキプレート3と溶接ビード10と部分6eとの間に、切欠き状の空間11(以下、不溶着部11という。)が形成されている。このような接合部9では、溶接ビード10の近傍において、溶接時の膨張および溶接後の収縮が拘束されることによって、引張りの残留応力が発生している。
ここで、自動車8が橋梁1上を通過すると、デッキプレート3に荷重が加わり、デッキプレート3が撓む。これにより、デッキプレート3と溶接ビード10との境界部および側壁部6bと溶接ビード10との境界部に、曲げ応力や引張圧縮の変動応力が発生する。これらの応力の内、鋼床版の幅方向に生じる引張圧縮の変動応力が上述の残留応力に重畳されることにより、接合部9では大きな引張の変動応力が発生しやすい。そして、複数の自動車8が通過することによって、上記荷重がデッキプレート3に繰り返し加わると、デッキプレート3と溶接ビード10との境界部近傍および側壁部6bと溶接ビード10との境界部近傍において疲労亀裂が発生する場合がある。例えば、溶接ビード10のデッキプレート3側の止端12または側壁部6b側の止端13に疲労亀裂が発生したり、デッキプレート3側のルート部14に疲労亀裂が発生したりする。これにより、鋼床版2の強度が低下するおそれがある。
ところで、鋼床版2では、止端12および止端13は、トラフリブ6の外側に位置する。このため、止端12および止端13において発生した疲労亀裂は、橋梁1の点検時等に、作業者によって発見されやすい。この場合、疲労亀裂が発生した部分を早期に補修することができるので、鋼床版2の強度低下を防止しやすい。
一方、ルート部14は、トラフリブ6の外側からは見えない位置にあるので、ルート部14において発生した疲労亀裂を発見することは難しい。また、仮に、ルート部14に疲労亀裂が発生していることを発見できたとしても、ルート部14をトラフリブ6の外側から補修することは難しい。このため、ルート部14に疲労亀裂が発生した場合は、トラフリブ6の内側からルート部14を補修する必要があり、疲労亀裂の補修に時間および労力を要する。
そこで、従来、ルート部14において疲労亀裂が発生することを防止するための技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、ピーニング施工方法が記載されている。特許文献1に記載された方法では、Uリブを用いた鋼床版において、ピーニング工具によってデッキプレートの表面に打撃を与える。特許文献1には、上記のように打撃を与えることによって、Uリブの内側の部分に圧縮残留ひずみを与えることができると記載されている。特許文献1に記載された方法では、上記のようにして圧縮残留応力を与えることによって、Uリブの内側の部分に発生した疲労亀裂の進展を抑制していると考えられる。
(鋼床版の製造方法の説明)
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。図3〜図8は、本発明の一実施形態に係る鋼床版の製造方法を説明するための図である。なお、図8において、(a)は、後述する負荷工程前の、デッキプレート3と側壁部6bとの関係を示す図であり、(b)は、負荷工程時の、デッキプレート3と側壁部6bとの関係を示す図であり、(c)は、負荷工程後の、デッキプレート3と側壁部6bとの関係を示す図である。また、図8(b),(c)においては、負荷工程前の側壁部6bの位置を、破線で示している。
図3を参照して、本実施形態に係る製造方法では、基材20を用いて鋼床版を製造する。したがって、本実施形態に係る製造方法を実施する前に、基材20を準備する。基材20としては、例えば、図1および2で説明した従来の鋼床版2を用いることができる。なお、基材として、橋梁の構成要素として用いられる前の鋼床版を利用してもよく、橋梁の構成要素として用いられている状態の鋼床版を利用してもよい。また、図1および2で説明した鋼床版2は、デッキプレート3と、複数の主桁4と、複数の横リブ5と、複数のトラフリブ6と備えている。しかしながら、本実施形態に係る製造方法において利用できる基材は、少なくともデッキプレートとトラフリブとを備えていればよく、主桁および横リブを備えていなくてもよい。以下においては、主桁および横リブを備えていない基材20を用いる場合について説明するが、本発明は、主桁および横リブを備えた基材を用いて鋼床版を製造する際にも好適に利用できる。
図3を参照して、基材20は、デッキプレート3と、長尺状のトラフリブ6とを備える。デッキプレート3およびトラフリブ6は、上述の従来の鋼床版2のデッキプレート3およびトラフリブ6と同様の構成を有するので、デッキプレート3およびトラフリブ6については簡単に説明する。なお、以下の説明では、トラフリブ6の長さ方向に対して垂直でかつデッキプレート3の裏面3b(トラフリブ6が溶接される面)に平行な方向を、トラフリブ6の幅方向とする。
図3を参照して、デッキプレート3は、平板形状を有し、トラフリブ6は、開断面形状(略U字形状)を有している。トラフリブ6は、底壁部6aと、一対の側壁部6b,6cとを有する。本実施形態では、側壁部6b,6cは、底壁部6aの幅方向における両端部から立ち上がるように設けられている。また、側壁部6b,6cは、先端側(デッキプレート3側)ほど互いの間隔が広がるように、底壁部6aに対して傾斜している。
なお、トラフリブ6としては、例えば、日本鋼構造協会規格で規定されている鋼床版用U形鋼を用いることができる。したがって、トラフリブ6の寸法(図3に示すトラフリブ6の厚みt、高さH、幅A、内面の角部の曲率半径R、および底壁部6aの幅B等)は、例えば、日本鋼構造協会規格の規定に基づいて決定することができる。
側壁部6b,6cの先端部は、デッキプレート3の裏面3bに溶接されている。具体的には、図1および2で説明した従来の鋼床版2と同様に、側壁部6b,6cの先端部のうち外側の部分が溶接ビード10によってデッキプレート3に接合されている。このため、基材20においても、上述の従来の鋼床版2と同様に、デッキプレート3と溶接ビード10と側壁部6b(側壁部6c)との間には、不溶着部11が形成されている。また、上述の従来の鋼床版2と同様に、基材20においても、ルート部14の近傍において、溶接時の膨張および溶接後の収縮によって、引張りの残留応力が発生している。
図4を参照して、本実施形態に係る製造方法では、例えば、デッキプレート3が下になりかつトラフリブ6(より具体的には、底壁部6a)が上になるように、作業台15上に基材20を置く。なお、以下に説明する製造方法は一例であり、デッキプレート3が上でトラフリブ6が下になった状態で本発明に係る製造方法を実施して鋼床版を製造してもよい。
次に、底壁部6aの上方に、押圧部材16を配置する。押圧部材16は、トラフリブ6の長さ方向に延びるように設けられている。押圧部材16は、押圧面18を有している。本実施形態では、底壁部6aと押圧面18とが対向するように、底壁部6aの上方に押圧部材16が設けられる。
押圧面18は、突起部18a、曲面部18b,18cおよび平面部18d,18eを有している。押圧部材16の断面(トラフリブ6の長さ方向に垂直な断面)において、突起部18aは、押圧面18の中央部に設けられ、曲面部18b,18cは、押圧面18の両端部に設けられる。平面部18dは、突起部18aと曲面部18bとの間に設けられ、平面部18eは、突起部18aと曲面部18cとの間に設けられている。
平面部18d,18eは、底壁部6aに対して平行に設けられている。押圧部材16の上記断面において、突起部18aは、平面部18d,18eから底壁部6a側に突出している。突起部18aの突出長さdは、例えば、1mm以上に設定される。本実施形態では、押圧部材16の上記断面において、突起部18a、曲面部18bおよび曲面部18cはそれぞれ、円弧状に湾曲している。突起部18aの曲率半径rは、例えば、50mmに設定される。本実施形態では、突起部18a、曲面部18bおよび曲面部18cの曲率半径は、例えば、互いに等しい。
本実施形態では、押圧部材16の上記断面において、平面部18d,18eの幅L(mm)は、底壁部6aの幅B(mm:図3参照)よりも小さい。なお、平面部18d,18eの幅Lとは、曲面部18bと平面部18dとの境界から、平面部18eと曲面部18cとの境界までの長さである。
押圧部材16の上記断面において、押圧面18の幅W(mm)は、例えば、底壁部6aの幅B(mm:図3参照)よりも短い。押圧面18の幅Wは、300×B/213.3未満に設定されることが好ましく、250×B/213.3以下に設定されることがより好ましく、200×B/213.3以下に設定されることがさらに好ましい。また、押圧面18の幅Wは、50×B/213.3以上に設定されることが好ましく、125×B/213.3以上に設定されることがより好ましく、175×B/213.3以上に設定されることがさらに好ましい。
次に、図5を参照して、押圧部材16の押圧面18で、底壁部6aをトラフリブ6の外側からデッキプレート3側に向かって押すことによって、底壁部6aに圧力を加える(負荷工程)。これにより、図5および図8(a),(b)に示すように、側壁部6b,6cがトラフリブ6の幅方向外側に向かって変形する。より具体的には、側壁部6b,6cがトラフリブ6の幅方向外側に向かって膨らむように変形する。本実施形態では、負荷工程において、ルート部14の近傍が塑性変形するように、側壁部6b,6cをトラフリブ6の外側に向かって変形させる。
なお、本実施形態では、図5に示すように、負荷工程において、まず、突起部18aによって底壁部6aの幅方向における中央部が押される。これにより、底壁部6aの中央部がデッキプレート3側へ凹み、側壁部6b,6cがトラフリブ6の外側に向かって撓む。その後、図6に示すように、押圧面18をデッキプレート3側へさらに押し込む。これにより、底壁部6aの幅方向における両端部が曲面部18b,18cによって押される。その結果、側壁部6b,6cをトラフリブ6の外側に向かって円滑に変形させることができる。例えば、日本鋼構造協会規格 JSS II 08-2006で規定されている形状のトラフリブであれば、底壁部をトラフリブの外側からデッキプレート側に向かって押すことによって、側壁部をトラフリブの外側に向かって変形させることができる。
次に、図7を参照して、押圧部材16を底壁部6aから離すことによって、負荷工程において底壁部6aに加えられた圧力を除く(除荷工程)。除荷工程を実行することによって、いわゆるスプリングバックが発生し、図7および図8(c)に示すように、側壁部6b,6cは、負荷工程前の側壁部6b,6cの形状に戻るように変形する。これにより、鋼床版100が完成する。
なお、本実施形態では、上述のように、負荷工程においてルート部14の近傍を塑性変形させている。そのため、除荷工程後の側壁部6b,6cは、負荷工程前の側壁部6b,6cの形状および位置に完全には戻らない。
以下、本実施形態に係る製造方法の作用効果について説明する。図9は、本実施形態に係る製造方法の作用効果を説明するための図である。なお、以下においては、側壁部6bとデッキプレート3との接合部9において生じる現象について説明するが、側壁部6cとデッキプレート3との接合部9においても同様の現象が生じている。
図9を参照して、上述したように、溶接ビード10のルート部14近傍においては、溶接時の膨張および溶接後の収縮が拘束されることによって、引張の残留応力が発生している。この状態で、上述の負荷工程を実行することによって、側壁部6bは、トラフリブ6の外側に向かって移動しようとする。これにより、溶接ビード10がトラフリブ6の外側に向かって引っ張られ、ルート部14近傍の引張応力は一時的に大きくなる。
その後、除荷工程を実行することによって、側壁部6bは、トラフリブ6の内側に向かって移動しようとする。これにより、溶接ビード10がトラフリブ6の内側に向かって押し付けられる。すなわち、ルート部14近傍に、圧縮方向の力が加えられる。その結果、ルート部14近傍の引張残留応力を低減できる、またはルート部14近傍に圧縮残留応力を発生させることができる。
以上のように、本実施形態では、負荷工程および除荷工程を実行することによって、ルート部14近傍の引張残留応力を低減できる、またはルート部14近傍に圧縮残留応力を発生させることができる。このようにして製造された鋼床版100では、荷重が繰り返し加わった場合でも、ルート部14の近傍において大きな引張応力が発生することを抑制することができる。その結果、ルート部14の近傍において疲労亀裂が発生することを抑制することができる。また、ルート部14の近傍に疲労亀裂が既に発生している場合には、その疲労亀裂が進展することを抑制することができる。
なお、上述の負荷工程において、押圧部材16(押圧面18)の押し込み量は、ルート部14近傍に圧縮応力を加えることができるように、基材20の材料、形状および寸法等を考慮して適宜設定される。具体的には、例えば、押圧部材16の押し込み量は、2.0mm以上に設定されることが好ましい。
一方、上述の負加工工程において、押圧部材16の押し込み量が大きすぎると、トラフリブ6において、ルート部14の近傍以外の部分にも塑性変形が生じやすくなる。この場合、除荷工程における側壁部6b,6cのスプリングバック量が減少する。これにより、ルート部14近傍の引張残留応力の低減量が小さくなる。したがって、負荷工程における押圧部材16のデッキプレート3側への押し込み量は、例えば、30mm以下に設定され、好ましくは、20mm以下に設定される。
なお、押圧部材16の押し込み量とは、押圧面18が底壁部6aに接触したときの押圧面18の位置を0として、押圧面18のデッキプレート3側への移動量のことを意味する。
なお、本実施形態では、突起部18aによって底壁部6aが押されることによって、底壁部6aに圧痕を形成することができる。この圧痕を確認することによって、本実施形態に係る製造方法によって製造された鋼床版100であることを確認することができる。
上述の実施形態では、押圧面18の幅Wが、底壁部6aの幅Bよりも小さい場合について説明したが、押圧面18の幅Wが底壁部6aの幅Bよりも大きくてもよい。また、上述の実施形態では、押圧面18に突起部18aが設けられている場合について説明したが、押圧面の形状は上述の例に限定されない。例えば、図10に示すように、上述の押圧部材16(図4参照)において、押圧面18に突起部18a(図4参照)を形成しなくてもよい。また、押圧面の全体が平面状に形成されていてもよい。例えば、図11に示すように、平板形状の押圧部材16aを用いて、本発明に係る製造方法を実施してもよい。また、例えば、図12に示すように、押圧面19の全体が円弧状に形成された押圧部材16bを用いて、本発明に係る製造方法を実施してもよい。
なお、押圧面の平面部の幅(図4では、幅L)が底壁部6aの幅Bよりも長い場合、または押圧部材が平板形状の場合には、底壁部6aの幅B(図3参照)の長さが異なる種々の基材20に対して、同一の押圧部材を用いることができる。また、押圧面に突起部を設けない場合には、押圧部材の加工コストを低減することができる。
上述の実施形態では、側壁部6b,6cが湾曲していない基材20を用いて鋼床版100を製造する場合について説明したが、基材の形状は上述の例に限定されない。例えば、負荷工程前の基材において、一対の側壁部が予め外側に膨らむように湾曲していてもよい。この場合には、側壁部がさらに外側に膨らむように、負荷工程が実行される。
(シミュレーションに基づく検討)
以下、コンピュータを用いたFEM解析によるシミュレーション結果とともに、本発明の効果を説明する。図13は、シミュレーションで用いた基材20のFEM解析モデルを説明するための図である。具体的には、図13(a)は、基材20の解析モデルを示す図であり、図13(b)は、解析モデルにおいて接合部9に相当する部分の拡大図である。
本シミュレーションでは、4節点の2次元平面ひずみ要素を用いて、FEM解析モデルとして、対称性を考慮して基材20の2次元の1/2モデルを作成した。図13(a)においては、解析モデルの拘束点を三角形の記号で示している。また、図13(b)に示すように、解析モデルでは、不溶着部11を切欠き状に形成した。解析モデルは、図3に示したトラフリブ6の厚みt、トラフリブ6の高さH、トラフリブ6の幅A、トラフリブ6の内面角部の曲率半径R、および底壁部6aの幅Bを変えて、4種類作成した。トラフリブ6の解析モデルの寸法を下記の表1に示す。
FEM解析では、鋼床版2の材料としてSMB490B(JIS G3106 2008)を用いたと仮定し、その応力−ひずみ線図を用いた。また、ヤング率は、206GPa、ポアソン比は0.3にそれぞれ設定し、等方硬化則に従ってFEM解析を行った。
また、図13には示していないが、このシミュレーションでは、下記の表2に示すように、各部の寸法を変えて、15種類の押圧部材の解析モデルを作成した。なお、下記の表2において、No.2〜No.5の押圧部材の曲率半径rおよび幅Wは、図12に示した押圧部材16bの押圧面19の曲率半径および幅Wをそれぞれ示す。No.6〜No.12、No.14およびNo.15の押圧部材の曲率半径r、幅L、突出長さd、および幅Wは、図4に示した押圧部材16の曲率半径r、幅L、突出長さd、および幅Wをそれぞれ示す。なお、No.6〜No.12、No.14およびNo.15の押圧部材において、曲面部18b,18c(図4参照)の曲率半径は、突起部18a(図4)の曲率半径と等しい。No.13の押圧部材において、曲率半径rは、図10に示した押圧部材16の曲面部18bおよび曲面部18cの曲率半径を示す。
図14に、基材20の解析モデル(トラフリブは、解析モデルa(表1参照))に対して、平板形状の押圧部材の解析モデル∞(表2参照)を用いて、負荷工程および除荷工程を実施した場合の、底壁部6aの変位量とルート部14に生じる応力との関係(解析結果)を示す。なお、図14において、底壁部6aの変位量とは、底壁部6aの中央部の外面の変位量を意味する。また、図14において、正の値の応力は引張応力を示し、負の値の応力は圧縮応力を示す。
図14から分かるように、負荷工程を実行することにより、底壁部6aの変位量が増加し、ルート部14に引張応力が生じる。そして、底壁部6aの変位量がさらに増加し、ルート部14近傍が塑性変形し始めると、ルート部14の引張応力はほとんど増加しなくなる。その後、除荷工程を実行することによってスプリングバックが発生し、底壁部6aの変位量が減少する。底壁部6aの変位量の減少に従って、ルート部14の引張応力も減少する。底壁部6aの変位量がさらに減少することによって、ルート部14には圧縮応力が生じる。
図14に示した結果から、側壁部6bとデッキプレート3との溶接時にルート部14に引張の残留応力が発生していたとしても、本発明の実施の形態に係る製造方の負荷工程および除荷工程を実行することにより、ルート部14に、圧縮方向の力を加えることができることが分かる。これにより、ルート部14に疲労亀裂が発生することを抑制することができる。
図15〜図20は、負荷工程を実施した際の、押圧部材の押し込み量と、基材20の各部の相当塑性ひずみとの関係(解析結果)を示す図である。なお、図15〜図20に示すように、押圧部材のモデルおよびトラフリブのモデルを変えて、解析を行った。また、図15〜図20においては、ルート部14、溶接ビード10の止端13、側壁部6bの中腹部の内面、底壁部6aの中央部の外面、底壁部6aの中央部の内面、トラフリブ6の内面の角部、側壁部6bの中腹部の外面、および底壁部6aの中腹部の外面の塑性ひずみが示されている。なお、側壁部6bの中腹部の内面とは、負荷工程において側壁部6bが外側に膨らむように変形する際に、圧縮応力が最も高くなる部分である。また、側壁部6bの中腹部の外面とは、負荷工程において側壁部6bが外側に膨らむように変形する際に、引張応力が最も高くなる部分である。また、底壁部6aの中腹部の外面とは、負荷工程において底壁部6aが押される際に、圧縮応力が最も高くなる部分である。
図15〜図20に示した結果から、トラフリブ6の寸法に応じて、適切な形状の押圧部材を用いることによって、ルート部14の塑性変形が早期に開始することが分かる。なお、ルート部14を他の部分よりも早期に塑性変形させることによって、スプリングバック量を十分に確保することができると考えられる。
下記の表3に、解析モデルに対して負荷工程および除荷工程を実施した際の解析結果を示す。また、表3には、解析No.1〜No.17で使用した各解析モデルの押圧部材およびトラフリブの種別を符号(表1,2参照)で示している。表3において、ルート部降伏時の荷重(単位長さ当たりの荷重)とは、ルート部14が降伏点に達したときに、押圧部材からトラフリブ6の底壁部6aに作用している荷重を示す。ルート部降伏後の押し込み量とは、ルート部14が降伏点に達した後の、押圧部材(押圧面)のデッキプレート3側への移動量を意味する。除荷後のルート部応力とは、除荷工程を実施した後に、ルート部14に生じている応力を示す。表3においては、正の値の応力は引張応力を示し、負の値の応力は圧縮応力を示す。各解析モデルにおいて、負荷工程前には、ルート部14に、350MPaの引張応力が発生していた。なお、解析No.16およびNo.17では、ルート部14が降伏点に達した後のデータおよび除荷工程後のデータは取得していない。
表3に示した解析No.1〜No.15の結果から、本発明の実施の形態に係る製造方法によれば、基材20のルート部14に生じていた引張残留応力(350MPa程度)を十分に低減できる、またはルート部14に圧縮応力を発生させることができることが分かる。
図21は、表3に示した解析No.1〜No.17のルート部降伏時の荷重と押圧部材の押圧面の幅(表2の幅W)との関係を示した図である。図21に示した関係から、ルート部14を塑性変形させるために必要な荷重を小さくするためには、押圧面の幅を300mm未満にすることが好ましく、250mm以下にすることがより好ましく、213.3mm未満にすることがさらに好ましく、200mm以下にすることが十分に好ましいことが分かる。ルート部14を塑性変形させるために必要な荷重が小さい場合、大きな荷重で底壁部6aを押す必要がないので、押圧部材を押し込むための装置を小型化できる。また、押圧部材の押し込み荷重を小さくすることによって、ルート部14以外の部分が塑性変形することを抑制できる。これにより、ルート部14以外の部分が塑性変形することによって生じるスプリングバック量の減少を抑制できる。
なお、解析No.1〜No.17の解析モデルにおいて、トラフリブ6の底壁部6aの幅Bは、213.3mmであった。このことから、ルート部14を塑性変形させるために必要な荷重を小さくするためには、押圧面の幅(mm)を、300×B/213.3未満に設定することが好ましく、250×B/213.3以下に設定することがより好ましく、底壁部6aの幅B未満に設定することがさらに好ましく、200×B/213.3以下に設定することが十分に好ましいことが分かる。
図22は、表3に示した解析No.1〜No.15の除荷工程後のルート部応力と押圧部材の押圧面の幅(表2の幅W)との関係を示した図である。図22に示した関係から、押圧面の幅を50mm以上にすることによって、除荷工程前にルート部14に生じていた引張残留応力(350MPa程度)を、除荷工程後に十分に低減できたことが分かる。また、除荷工程後のルート部14に圧縮応力を生じさせるためには、押圧面の幅を50mmよりも大きくすることが好ましく、125mm以上にすることがより好ましく、175mm以上にすることがさらに好ましいことが分かる。
なお、上述のように、解析No.1〜No.15の解析モデルにおいて、トラフリブ6の底壁部6aの幅Bは、213.3mmであった。このことから、ルート部14に生じている引張応力を十分に低減するためには、押圧面の幅(mm)を、50×B/213.3以上に設定することが好ましいことが分かる。また、ルート部14に圧縮応力を生じさせるためには、押圧面の幅(mm)を、50×B/213.3よりも大きく設定することが好ましく、125×B/213.3以上に設定することがより好ましく、175×B/213.3以上に設定することがさらに好ましいことが分かる。