JP2006282711A - 透明樹脂成形体 - Google Patents

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Abstract

【課題】
優れた表面硬度、耐擦傷性、耐摩耗性を保有しつつ、皮脂や化粧品など実用上の汚れが付着しにくく、かつ良好に印刷加飾も施すことができるハードコート塗膜が形成された透明樹脂成形体を提供する
【解決手段】
透明樹脂基材上に、多官能オリゴマーと、多官能モノマ−および/または単官能モノマーとからなり平均官能基数3.4以上の紫外線硬化型樹脂からなる塗膜を形成し、該塗膜の表面エネルギーを32〜40mN/mとする。
【選択図】なし

Description

本発明は、透明樹脂基材上にハードコート塗膜が形成された透明樹脂成形体、とくに優れた耐摩耗性、表面硬度が付与され、人が日常的に接触するような用途において実用上の汚れにくさ、および印刷加飾性とを有する透明樹脂成形体に関するものである。
各種プラスチックの透明な材料は、その軽量性、透明性、加工性および割れにくさと割れた場合の安全性の観点から、携帯機器、家庭用電気製品、産業用電子機器、自動車用電子機器などの外装部、特にモニターなど情報表示部の保護カバーとして用いられている。しかしながら、これらプラスチック材料はガラスに比べ耐摩耗性、耐擦傷性に劣り、傷つきやすいという欠点がある。
この欠点を解消するため、従来から種々の表面改質に関する検討が行われてきた。例えば、ポリオルガノシロキサン系、メラミン系等の熱硬化型樹脂や、紫外線硬化型の樹脂を基材表面にコーティングすることが広く実施されている。これらのコーティングにおいては、通常、塗膜を基材表面に均一に塗り広げるためフッ素系や変性シリコーン系の表面調整剤を上記硬化樹脂に添加されることがほとんどであり、これらの表面調整剤により良好な外観に塗布される。
このようにしてフッ素系やシリコーン系の表面調整剤を用いて得られたハードコート塗膜は、撥水性を有し、極性の高い汚れをはじきやすいものの、逆に親油性が高くなる。この状態で、皮脂などの実用上の汚れが接触した場合、油分を含んだ汚れをその表面に微細な球状に保持し、一見、汚れが付着しにくいように考えられるが、微細な球状に保持されたこれら油分を含んだ汚れを、布なのでふき取ろうとした場合、逆に汚れが薄く広がり油膜となり、ハードコート塗膜が形成された透明材料の外観を悪くし、または視認性などの機能を損ねてしまう。また、化粧品など実用上の汚染物質が内部に浸透してしまい、拭き取りなど、表面からの洗浄によりこれらを容易に落とすことができなくなるといった問題が発生していた。
そこで、ハードコート塗膜への皮脂などの付着を防止するため、フッ素系界面活性剤を含有させたハードコート層を形成させる(特開平11−293159)、あるいはフッ素原子、ケイ素原子と活性エネルギー線重合基を有する化合物を硬化させてハードコート層を形成させる(特開2003−335984)といった提案がなされている。しかしながら、これらのように、ハードコート表面の撥水性をさらに高めて脂などの付着防止を図ろうとする手法においては、なるほど皮脂や化粧品の汚れが付着しにくくなるが、ハードコート層に文字、模様など印刷による加飾を施そうとすると、印刷インクをはじいてしまうため、スクリーン印刷やグラビア印刷など汎用的な印刷手法による加飾ができず、本発明の利用分野である、携帯機器、家庭用電気製品、産業用電子機器、自動車用電子機器などの外装部、特にモニターなど情報表示部の保護カバー等の用途において、実用上著しく用途が制限されてしまうという別の問題が発生する。
特開平11−293159 特開2003−335984
本発明は、上記の問題を解決し、優れた表面硬度、耐擦傷性、耐摩耗性を保有しつつ、皮脂や化粧品など実用上の汚れが付着しにくく、かつ良好に印刷加飾も施すことができるハードコート塗膜が形成された透明樹脂成形体を提供することを目的としている。
本発明者らは、多官能オリゴマーと多官能および/または単官能モノマーからなり特定の官能基数をもった紫外線硬化型樹脂よりなり、かつ特定の表面エネルギーの塗膜を透明樹脂基材上に形成することにより、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するにいたった。
すなわち本発明は、透明樹脂基材上に、多官能オリゴマーと、多官能モノマ−および/または単官能モノマーとからなり平均官能基数3.4以上の紫外線硬化型樹脂からなる塗膜が形成された透明樹脂成形体であって、該塗膜の表面エネルギーが32〜40mN/mであることを特徴とする透明樹脂成形体を要旨とする。
上記の通り、特定樹脂組成物からなる紫外線硬化型樹脂の塗膜を透明樹脂基材表面に形成し、その塗膜の表面エネルギーを特定範囲とすることにより、得られる透明樹脂成形体は、優れた表面硬度、耐擦傷性、耐摩耗性を保有しつつ、皮脂や化粧品など実用上の汚れが付着しにくく、かつ良好に印刷加飾も施すことができる。
本発明の透明樹脂基材としては、一般の透明プラスチックが使用可能ではあるが、本発明の用途として想定する、携帯機器、家庭用電気製品、産業用電子機器、自動車用電子機器などの外装部、特にモニターなど情報表示部の保護カバーとしては、ポリカーボネート樹脂を基材とすることが、その軽量性、透明性、加工性および割れにくさと割れた場合の安全性の観点から最も好ましい。その他の、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の一般的な透明樹脂も好適に使用可能である。
<多官能オリゴマー>
本発明で用いられる多官能オリゴマーとしては、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートやポリエステルアクリレートなどが使用可能である。
エポキシアクリレートオリゴマーとしては、例えば、低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラックエポキシ樹脂のオキシラン環とアクリル酸とのエステル化反応により得ることができる。また、ポリエステルアクリレートオリゴマーとしては、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる、両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。または、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。
本発明の多官能オリゴマーとしては、ウレタンアクリレートオリゴマーを用いるのが最も好ましい。ハードコートとして必要な硬度とともに、より優れた耐摩耗性や耐擦傷性を得ることができるからである。ウレタンアクリレートオリゴマーは、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物であり、ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。
ウレタンアクリレートオリゴマーの中でも、特に6官能以上のものを使用することは非常に好ましい。これは、6官能以上のウレタンアクリレートを使用することで、硬度や耐摩耗性といったハードコート塗膜としての性能を実現しながら、高架橋度を達成し、かつ高架橋時に発生してしまう硬化収縮が他の多官能オリゴマーと比較的し少ないからである。
ウレタンアクリレートオリゴマーの作製に用いられるポリエステルポリオールの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を採用し得る。例えば、ジオールとジカルボン酸もしくはジカルボン酸クロライドとを重縮合反応させても、ジオールまたはジカルボン酸をエステル化して、エステル交換反応させてもよい。ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等。ジオールとしてはエチレングリコール、1、4−ブタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール等が用いられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合で、数平均分子量が600未満のものが望ましい。600以上では、硬化物の柔軟すぎてハードコート性能が得られない可能性があるからである。
ポリカーボネートジオールとしては、1、4−ブタンジオール、1、6−へキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−エチル−1、3−ヘキサンジオール、1、5−ペンタンジオール、3−メチル−1、5−ペンタンジオール、1、4−シクロヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコール等が用いられ、1種でも2種以上を併用しても良い。
ジイソシアネートとしては、直鎖式あるいは環式の脂肪族ジイソシアネートが用いられる。芳香族ジイソシアネートももちろん使用可能であり、より容易に硬さや耐擦傷性といった優れたハードコート性を得ることができる半面、ハードコートの骨格を形成する主成分で多官能オリゴマーにこれら芳香族系の成分を用いた場合、耐光性が低下し、光への暴露により黄変しやすいため、実用面において透明ハードコートとしての機能を損なうからである。直鎖式あるいは環式の脂肪族ジイソシアネートの代表的なものとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートが挙げられる。
水酸基を有するアクリレートモノマーの例として、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレートが挙げられる。
<多官能モノマー>
本発明に使用できる多官能アクリレートモノマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートをあげることができる。
これら多官能モノマーのうち、環状構造を有する2官能アクリレートを使用することが好ましい。硬度や耐摩耗性、耐擦傷性などの優れたハードコート性能を維持したまま、優れた基材への密着性を得ることができるからである。この環状構造を有する2官能アクリレートとしては、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化水添ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化シクロヘサンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートをあげることができる。
<単官能モノマー>
単官能モノマーとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、アクリロイルモルフォリン、Nビニルピロリドン、Nビニルホルムアミド、イソボロニルアクリレートなどが挙げられる。
本発明の紫外線硬化型樹脂は、上記多官能オリゴマー、多官能および/または単官能モノマーよりなり、平均官能基数が3.4以上である必要がある。平均官能基数が3.4未満では、ハードコートとして優れた硬度が得られないばかりか、皮脂や化粧品など実用上の汚染物質が内部に浸透してしまい、拭き取りなど、表面からの洗浄によりこれらを容易に落とすことができなくなるといった問題が生じる。
本発明の透明樹脂成形体は、上記樹脂成分を透明樹脂基材に塗布し、紫外線を照射することにより塗膜を形成することにより得られるが、この際樹脂成分に光重合開始剤、有機溶剤の希釈液などが添加される。
光重合開始剤は、光重合性化合物が紫外線によって硬化する際の重合開始剤としての機能を有しており、公知のものを単独でもしくは組み合わせで使用することができ、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン又はベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸等の芳香族ケトン類、ベンジル等のアルファ−ジカルボニル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、アセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパノン−1等のアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン類、2、4−ジメチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2、4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のフォスヒンオキサイド類、1−フェニル−1、2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等のアルファ−アシルオキシム類、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン類等を使用することができる。
また、外観の優れた塗膜を得るために、フッ素系や変性シリコーン系の表面調整剤が塗料中に添加される。フッ素系や変性シリコーン系の表面調整剤としてはポリエーテル系、アルキル系、ポリエステル系のものが使用可能だが、特にポリエーテル系が好ましい。また、これらを組み合わせて使用することも可能である。
樹脂成分は、必要に応じて有機溶剤によって希釈、溶解して塗料液としたうえで基材に塗布される。有機溶剤は市販のものを使用することができ、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、メチルエチルケトン、2−ぺンタノン、イソホロンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシプロピルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、メトキシブタノールなどのグリコール系溶剤を単独又は混合して使用できる。塗料液は、その粘度、樹脂分濃度などを状況、目的、塗布方法に応じて適宜選択することができる。
本発明の透明樹脂成形体は、樹脂成分の混合〜希釈〜透明樹脂基材への塗布〜乾燥〜硬化の工程にて得ることが出来る。樹脂基材への塗布は、ロールーコーター、フローコーター、スプレーコーター、カーテンフローコーター、ディップコーター、スリットダイコーターなど公知の方法を用い、樹脂基材の片面または両面に塗布することができる。両面の塗布方法としては同時または逐次の手法を用いることができる。
塗膜の厚みは、特に限定されないが、ハードコートとして実用的な性能を得るためには1μm程度以上必要である。また、膜厚が極端に厚く、たとえば50μm以上の場合、紫外線によって内部まで均一に硬化させることが難しく密着性などに不具合が生じたり、また、塗膜の硬化収縮によるクラックなどの不具合も見られることから、50μm未満が望ましいと考えられる。
上記のように透明樹脂基材へ塗布した後、基材および雰囲気の温度を上げ、充分に希釈溶剤を蒸発させしかる後に紫外線を照射し塗膜を硬化させる。紫外線照射には、一般の有電極型や無電極型の高圧水銀灯やメタルハライドランプが使用可能である。また、100keV程度の低電圧の電子線照射装置も当然ながら使用可能である。電子線を硬化手段とする場合は、先に例示したような重合開始剤は不要となる。
このようにして得られた塗膜の表面エネルギーが、32〜40mN/mの範囲である必要がある。表面エネルギーが32mN/m未満では、撥水性を有し、極性の高い汚れをはじきやすいものの、逆に親油性が高くなり、皮脂などの実用上の汚れが接触した場合、油分を含んだ汚れがその表面に微細な球状に保持され、布なのでふき取ろうとすると汚れが薄く広がり油膜となり、ハードコート塗膜が形成された透明基材の外観を悪くし、または視認性などの機能を損ねてしまう。また、印刷による加飾を施そうとすると、印刷インクをはじいてしまうため、スクリーン印刷やグラビア印刷など汎用的な印刷手法による加飾ができない。
一方、表面エネルギーが、40mN/mを超えると、皮脂などの実用上の汚れ成分の表面エネルギーの方が相対的に低エネルギーとなり、逆に濡れ広がり易さが強くなることで汚れやすく、また拭き取りにくくなってしまう。なお、表面エネルギーを意図的に高め、例えば70mN/m以上の高エネルギー表面とすることにより親水性を高め、汚れを水で洗い流してしまうことは産業上広く利用されることであるが、本発明の透明樹脂成形体が主に利用される、携帯機器、家庭用電気製品、産業用電子機器、自動車用電子機器などの外装部、特にモニターなど情報表示部の保護カバーなどにおいては、水洗いすることは一般的でなく実用的な手法ではない。
塗膜の表面エネルギーを上記の範囲にする手法としては特に限定する必要はないが、たとえば以下の方法により達成が可能である。
第一に、紫外線硬化型樹脂のうち、多官能オリゴマーとして、エトキシ基などの極性基を適正量含有させたものを用いる方法である。この多官能オリゴマーとしては、特に好ましいものとしてウレタンアクリレートオリゴマーをあげている。このオリゴマーは、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマーとの反応生成物であり、ポリオールとして、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合などのポリエーテルポリオールのうち、数平均分子量が200〜600のものを用いることで目的とする多官能オリゴマーを得ることができる。上記分子量が600を超えると、硬化物が柔軟すぎてハードコートとしての性能が得られない可能性があり、200未満では、表面エネルギーを適正な範囲とできないからである。
第二の手段として挙げられるものは、紫外線硬化型樹脂に、この樹脂の塗膜の形成を阻害せず、塗膜の外観、性能を低下させない範囲で、極性基を有し表面エネルギーが30mN/m以上で分子量200〜1500程度の比較的低分子量の有機化合物を添加する方法である。極性基を有するこのような化合物を塗膜の表面付近に持続的に存在させることにより、塗膜の表面エネルギー値を所定の範囲とすることができる。この有機化合物は、実用時において、表面から徐々に失われてしまうが、内部に分散した残りの化合物が徐々に表面に移行するため、比較的長期間効果を持続させることができる。この際、その持続性や効果の程度は有機化合物の構造と、添加量に依存するため、ある程度自由に調整できる。有機化合物の分子量が200未満では、分子が小さ過ぎるため、表面への移行性が大きすぎてしまい、短期間に効果が失われたり、硬化時に不具合が生じやすい。分子量が1500以上になると、移行性が低くなりすぎ、表面への移行が間に合わずに効果の持続性に問題が生じやすくなる。
上記有機化合物としては、特に限定はされず、市販される汎用的な物質でよいが、本発明の多官能オリゴマーと多官能および/または単官能モノマーとの混合物に対し、溶液状態において十分に分散し、乾燥時に揮発せず、硬化後の塗膜中にとどまり、かつある程度の表面移行性があるものである必要がある。また、これら化合物には、紫外線硬化時に樹脂と結合する官能基を有する場合と、結合する官能基を有しない場合があるが、結合する官能基を有する場合は、硬化時点においてこれらが表面に移行している必要がある。
上記有機化合物としては、硬化樹脂との結合基を有するものとして、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アクリロイルモルフォリン、Nビニルホルムアミド、Nビニルピロリドンなどの親水性モノマーや、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンアクリレートなどがあり、結合基を持たないものとしては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアマイド、パーフルオロアルキルアルキルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
第三の手段として挙げられるものは、紫外線硬化型樹脂に、この樹脂の塗膜の形成を阻害せず、塗膜の外観、性能を低下させない範囲において、数平均分子量1万〜5万程度の極性高分子を添加することである。この方法によれば、高分子を添加するために、紫外線硬化型樹脂によるハードコート性能に対する悪影響がすくなく、極性基を有する高分子の存在により表面エネルギーを高め、所定の範囲の表面エネルギーを得ることが可能となる。これら高分子として、例えばセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エチレンビニルアルコールなどが挙げられる。
第四の手段としては、紫外線硬化型樹脂を硬化させた後で、得られた塗膜上に物理化学的な処理を施すことである。つまり、紫外線照射、コロナ放電、プラズマ放電などにより、塗膜のごく表面のみに極性基を発生させて表面エネルギー値を調整する方法である。この物理化学的処理による表面エネルギーは、処理直後に高く、時間経過とともに低下する傾向にあるので、処理直後の表面エネルギーの目安としては、40〜50mN/m程度とし、実際に製品が使用される時点で表面エネルギー値が所定の範囲となるようにすることが肝要である。装置としては市販のものでよい。バッチ式の処理では、大面積への対応のための装置の大型化や、処理の均一性といった問題があるため、コンベアが付属しているライン式の装置がより好ましい。この場合は、紫外線硬化型樹脂を表面に塗布硬化させた基材をコンベアにのせ、所定の表面エネルギーが得られる速度にて、紫外線、コロナ放電またはプラズマ雰囲気のなかを通過させることで処理が可能である。
上記に例示した第一から第四の手段は、これらを単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
市販されている原材料から以下のものを準備した。
<多官能オリゴマー>
(I)脂肪族系6官能ウレタンアクリレート(商品名:EB1290、ダイセルユーシービー社製)
(II)2官能のビスフェノールAエポキシアクリレート(商品名EB3700 ダイセルユーシービー社製)
<多官能モノマー>
(I)4官能のペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名:PETA-K ダイセルユーシービー社製)
(II)2官能のエトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(商品名:A−BPE−4 新中村化学工業社製)
(III)2官能のノナンジオールジアクリレート(商品名:A−NOD 新中村化学工業社製)
<単官能モノマー>
Nビニルホルムアミド(商品名:ビームセット770 荒川化学社製)
<変性シリコーン系表面調整剤>
ポリエーテル変性ジメチルシロキサン(商品名:BYK307、ビックケミー社製)
<多官能オリゴマー(III)の調整>
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口、空気導入口及び還流冷却器を備えた1リットルの四つ口フラスコにトリレンジイソシアネート(TDI)150部と平均分子量400のポリオキシエチレンジオール350部を仕込み、窒素雰囲気下80℃で5時間反応させた。その後、40℃迄冷却し、次に2−ヒドロキシエチルアクリレートを150部加え、空気雰囲気下80℃で4時間反応させ、2官能のウレタンアクリレートオリゴマーを得た。
<実施例1〜2、比較例1〜2>
表1〜2に示す通りに多官能オリゴマーなどを配合し、不揮発分の濃度が溶液中20重量%となるように、イソプロピルアルコールと酢酸ブチルの50:50混合希釈溶剤で希釈した。この際、予めイソプロピルアルコールに溶解させた光重合開始剤(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、商品名:イルガキュア184、チバ・スペシャルティケミカルズ社製)を不揮発分比5重量%となるように希釈溶剤の一部として添加した。さらに、不揮発分に対し0.01重量%のシリコーン系表面調整剤を添加した。組成物は充分に攪拌混合した後、密閉容器に保存した。
透明樹脂基材として板厚1.5mmのポリカーボネートシート(筒中プラスチック工業株式会社製「ポリカエース」)を準備し、金属製バーコーターを用いて、乾燥膜厚が10μmとなるように組成物を塗布した。つぎに、塗布したポリカーボネートシートを60℃の熱風循環型オーブンに入れ乾燥した。10分間乾燥した後、160W/cmメタルハライドランプ(ウシオ電機株式会社製)を用い、距離15cmとし速度1.5m/分のコンベアにて、塗布乾燥したポリカーボネートシートに紫外線を照射し、組成物を硬化させた。このようにして得られたハードコート塗膜が形成された透明樹脂成形体について次の評価を行い、その結果を表1に示す。
<表面エネルギー>
JISK6768に従い、市販の表面エネルギー測定用の試薬(商品名:ぬれ試験用試薬、和光純薬工業社製)を用いて塗膜の表面エネルギーを測定。
<汚れにくさI>
化粧品などを想定した実使用上の汚れにくさとして、マジックペン(商品名:マッキー ゼブラ社製)を使用し、塗膜表面に直径2cmほどの円を描き、30秒後、描かれた円またはマジックインキがはじかれて破線状にのこった跡を、イソプロパノールを含ませたティッシュペーパーで拭き取り、外観を目視により観察し、以下の通り評価した。
○:マジックペンにより描かれた円や破線となって残った跡が、簡単に拭き取れ、元通りの外観に戻ることができたもの/実用上優れるもの
△:マジックペンにより描かれた円や破線となって残った跡が、簡単に拭き取れず、うっすらと跡が残ったもの/実用上問題があるもの
×: マジックペンにより描かれた円や破線となって残った跡が、ほとんど拭き取れず、跡が残ったもの/実用上劣るもの
<汚れにくさII>
実使用上の皮脂などの油汚れの付着性および拭き取り性の評価として、綿棒を食用オリーブオイルに浸し、表面に直径1cmほどに薄く塗り拡げ、30秒後に、乾いたガーゼを用い拭き取り、拭き取り後の試料表面を目視により、観察し以下の通りに評価した。
○:拭き取り3往復後、表面に油膜がなく、完全に拭き取れたもの/実用上優れる
△:拭き取り3往復後、表面にうっすらと油膜が残るもの/実用上問題がある
×:拭き取り3往復後、表面に油が塗り拡げられ、完全な油膜となるもの/実用上劣るもの
<印刷性>
市販の2液型インク(商品名:HAC、セイコーアドバンス社製)を用い、T−270スクリーンメッシュを用いたスクリーン印刷法により、塗膜表面に2cm X 5cmのべた印刷を行い、80℃の熱風循環オーブン中で30分間乾燥させた後、25升目の碁盤目テープ法(JIS K5400に準拠)を行い次の通りに評価した。
○:1升目も剥離せずに印刷が密着しており、その後、爪でこすっても剥離が発生しないもの/実用上印刷可能である
×:1升目以上の剥離が生じるか、剥離が生じない場合でも、その後に爪でこすることで剥離が生じるもの/実用上印刷性が劣る
<鉛筆硬度>
ASTM D3363に準じて、各種硬度の鉛筆(商品名:ユニ 三菱鉛筆社製)を用い試験を行い硬度を判定した。
<耐摩耗性>
ASTM D1044に準じて、テーバー式摩耗試験(CS10F摩耗輪、荷重500g、100回転)を行い、発生したヘーズにより次のように評価した。
○:ヘーズの増分が10%未満/実用上優れる
△:ヘーズの増分が以上10%以上15%未満/実用上十分だが、用途が制限される
×:ヘーズの増分が15%超/実用上劣る
<耐擦傷性>
スチールウール#000を用い、直径30mmの保持具に取り付け、一定加重500gにて100往復した後、試料表面の傷の有無を目視により観察し、以下の通り評価した。
○:まったく傷がつかない/実用上優れる
△:数本の傷が発生した/実用上十分だが、用途が制限される
×:全体に傷が発生した/実用上劣るもの
<実施例3〜4>
表1に示す通りに多官能オリゴマー、多官能モノマーを配合し、さらに分子量1万で、1分子中に水酸基を平均4つ含有する、セルロースアセテートプロピオネート(商品名:CAP504 イーストマン社製)を不揮発分に対し5重量%添加した以外は実施例1と同様にしてハードコート塗膜が形成された透明樹脂成形体を得、同様の評価を行いその結果を表1に示す。
<実施例5>
表1に示す通りに多官能オリゴマー、多官能モノマーを配合し、実施例1と同様にしてハードコート塗膜が形成された透明樹脂成形体を得た。この塗膜にコロナ放電処理し、処理直後の表面エネルギー値が48mN/mとなった。その後1ヶ月間室内に放置し、放置後に再度表面エネルギー値を測定したところ35mN/mとなった。さらに3ヶ月経過後測定したところ、34mN/mとなっており、安定した状態となった。この成形体について、実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。
<比較例3>
表2に示す通りに多官能オリゴマー、多官能モノマーを配合し、実施例1と同様にして透明樹脂成形体を得、同様の評価を行いその結果を表1に示す。
<実施例6〜7>
表1の通りに、多官能オリゴマー等を配合し、さらに数平均分子量600のポリエチレングリコール(商品名:ポリエチレングリコール600、関東化学社製)を不揮発分に対し1重量%添加した以外は、実施例1と同様に透明樹脂成形体を得、同様の評価を行った。
<比較例4〜5>
実施例6あるいは実施例7と同様にして(ただし、ポリエチレングリコールは添加せず)透明樹脂成形体を得た。
Figure 2006282711

Figure 2006282711
表1〜2にみられる通り、上記第一の方法で表面エネルギーを調整した実施例1、実施例2においては、優れた外観を有し、汚れにくさの評価においても優れた結果であり、かつ印刷性や、硬度、耐摩耗性、耐擦傷性にも優れたものであった。これに対し、表面エネルギーは技術範囲にあるが平均官能基数が本発明の技術範囲外である比較例1、比較例2においては、マジックインクによる汚れが落ちにくく、また耐摩耗性、耐擦傷性にも劣ることがわかる。
実施例3あるいは実施例4においては、極性高分子であるセルロースプロピオネートを添加したことにより、また実施例5においてはコロナ放電を施すことにより、塗膜の表面エネルギーが本発明の技術範囲となり優れた外観を有し、汚れにくさの評価においても優れた結果であり、かつ印刷性や、硬度、耐摩耗性、耐擦傷性にも優れたものであった。一方、組成的には実施例5同じであるが、塗膜の表面エネルギー値を何らコントロールすることをせず、その値が技術範囲にない比較例3においては、オイルによる汚れが落ちにくく、また印刷性に劣る。
極性基を有する比較的低分子量の有機化合物であるポリエチレングリコールを添加した実施例6あるいは実施例7においては、優れた外観を有し、汚れにくさの評価においても優れた結果であり、かつ印刷性や、硬度、耐摩耗性、耐擦傷性にも優れたものであった。これに対し、ポリエチレングリコールが添加されていない比較例4あるいは比較例5においては、塗膜の表面エネルギー値が本発明の技術範囲内になく、オイルによる汚れが落ちにくく、また印刷性に問題があることがわかる。

Claims (3)

  1. 透明樹脂基材上に、多官能オリゴマーと、多官能モノマ−および/または単官能モノマーとからなり平均官能基数3.4以上の紫外線硬化型樹脂からなる塗膜が形成された透明樹脂成形体であって、該塗膜の表面エネルギーが32〜40mN/mであることを特徴とする透明樹脂成形体。
  2. 多官能オリゴマーの少なくとも1種が、6官能以上のウレタンアクリレートである請求項1に記載の透明樹脂成形体。
  3. 多官能モノマーの少なくとも1種が、環状構造を有する2官能アクリレートである請求項1または請求項2に記載の透明樹脂成形体。
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